説明

リンゴピューレの製造方法

【課題】リンゴ特有の食感を呈するリンゴピューレの簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】リンゴ果実を破砕してリンゴピューレを得る際に、所定量のカルシウムを添加してから破砕を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食感の改善されたリンゴピューレに関し、より詳細には、リンゴ特有の食感を呈するリンゴピューレの製造方法に関する。また本発明は、前記リンゴピューレを含有する飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果実を破砕し必要に応じて裏ごししてクリーム状にした果実ピューレは、果汁飲料、ゼリー、ジャムといった2次加工食品の原料として多用されている。特に、果実ピューレを含有する果汁飲料は、果実感が高められた飲料として好まれており、多数開発されている。
【0003】
果実としてリンゴを選択した場合、リンゴ特有のシャリシャリとした繊維感に似た独特の食感を呈するものが所望されるが、リンゴピューレはリンゴ果実が細かく粉砕され過ぎている等の理由により、リンゴ独特の食感を呈するものが少ない。そこで、リンゴ特有の食感を呈するリンゴピューレの製造方法が提案されている。例えば、リンゴの皮及び芯を除去してから粉砕したリンゴ粉砕物に、褐変防止処理としての加熱処理を施した後、リンゴ粉砕物を目開き3mm以上のスクリーンによって裏ごししてすりおろし状のリンゴピューレとし、次いでリンゴピューレに加熱殺菌処理を施すことを特徴とするリンゴピューレの製造方法(特許文献1)がある。
【0004】
また、果実感を高めたリンゴ飲料として、リンゴ果肉片を含有させた飲料やリンゴパルプを含有させた飲料等も知られている。例えば、リンゴ等の食用固形物の大きさが7.5mm〜15mmであり、該飲料に、カルシウムが約0.001〜0.04重量%含有されることを特徴とする飲料で、飲料でありながら食用固形物の食感を充分に楽しめるデザート感を有する飲料(特許文献2)や、果汁飲料中に粒度が150〜7メッシュのりんごパルプを加え、必要に応じて増粘剤を併用することからなる繊維入り飲料で、りんごをおろし金ですりおろした様なすりりんごそのものの自然な食感と喉ごしを与える繊維入り飲料で(特許文献3)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−80172号公報
【特許文献2】特開2005−348652号公報
【特許文献3】特開平6−335371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、リンゴ特有の食感を呈するリンゴピューレの簡便な製造方法を提供すること、及びリンゴ特有の食感を呈するリンゴピューレ含有飲料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、リンゴ果実を破砕してリンゴピューレを得る際に、所定量のカルシウムを添加してから破砕を行うことで、驚くべきことにリンゴ特有のシャリシャリとした食感が維持されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下に限定されるものではないが、次の発明を包含する。
(1)リンゴ果実を破砕してリンゴピューレを製造する方法において、リンゴ果実に0.001〜0.1重量%のカルシウムを添加してからリンゴ果実を破砕することを特徴とする、前記リンゴピューレの製造方法。
(2)カルシウムが水溶液の形態で添加される、(1)に記載の製造方法。
(3)(1)又は(2)に記載の方法で得られるリンゴピューレを、飲料全体に対して0.001〜0.1重量%のカルシウムを含有する飲料に添加することを特徴とする、リンゴピューレ含有飲料の製造方法。
(4)リンゴピューレの添加量が5〜20重量%である、(3)記載の製造方法。
(5)(1)または(2)記載の方法により得られるリンゴピューレ。
(6)(3)または(4)記載の方法により得られるリンゴピューレ含有飲料。
【発明の効果】
【0009】
所定量のカルシウムを添加してから破砕するという簡便な方法で、リンゴピューレの食感を改善することができ、リンゴ特有の食感を呈するリンゴピューレを製造することができる。本発明は、リンゴそのものの食感を楽しむことができる果汁飲料、ゼリー、ジャムなどの2次加工品の原料として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(リンゴピューレの製造方法)
リンゴピューレは、一般に以下の方法で製造されている。
(1)リンゴ果実の洗浄→(2)剥皮除芯→(3)破砕→(4)ピューレ→(5)殺菌→(6)冷却→(7)製品
本発明のリンゴピューレの製造方法では、リンゴ果実を破砕する工程(上記(3))の前に所定量のカルシウムを添加することを特徴とする。本発明に使用されるカルシウムとしては、食品に許容されるものであれば特に限定されない。具体的には、クエン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、塩化カルシウム等のカルシウム強化剤を用いることができ、これらより一種又は二種以上を選択して使用することができる。中でも乳酸カルシウム、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウムが、風味、効果の観点から好適に用いられる。
【0011】
リンゴ果実に添加されるカルシウム含量は、破砕するリンゴ果実の総量に対して0.001〜0.1重量%、好ましくは0.002〜0.06重量%程度である(本明細書中、単にカルシウムというときは、カルシウムイオンを表すものとする)。カルシウムは、前記カルシウム剤を含有する水溶液の形態でリンゴ果実に添加するのが好ましい。カルシウム水溶液中のカルシウム濃度は、用いるカルシウムの種類の溶解度を考慮して適宜設定すればよいが、通常、1.0〜5.0重量%程度である。
【0012】
本発明は、リンゴ果実にカルシウムを添加してから破砕することにより、リンゴ果実を微細化してもリンゴ特有の食感が維持される。リンゴ果実には、ペクチンを主体とする水溶性難消化性糖類と、セルロース、ヘミセルロースを主体とする水不溶性多糖類等の成分が多く含まれている。リンゴ果実にカルシウムを添加した場合、ペクチンのガラツクロン酸のカルボキシル基にカルシウムイオンが結合してゲル化しようとする。この状態で、破砕処理を行うことで、微細化されたリンゴ果実がペクチンゲル膜で包まれた粒子状となると考えられる。ペクチンゲルは熱耐性や機械耐性に優れる。ペクチンゲル膜で包まれた粒子状の微細化されたリンゴ果実では、リンゴピューレの加熱殺菌や保存時における水溶性難消化性多糖類や水不溶性多糖類等のリンゴ果実からの溶出又は流出が抑制されるので、微細化されてもリンゴそのものの自然な食感、すなわちリンゴ特有のシャキシャキとした繊維感を持つ食感を呈すると考えられる。
【0013】
カルシウムを添加したリンゴ果実は、果実の大きさが、平均で0.2〜3.5mm、好ましくは0.5〜2.5mmとなるように破砕する。破砕する手段は特に制限されないが、リンゴ果実をカッターで5.0〜10.0mm程度に細断し、これをハンマークラッシャー、チョッパー、パルパー・フィニッシャーなどの裏ごし機等により微細化することで、容易に行うことができる。微細化された果実の大きさは、微細化された原料を水に懸濁してメッシュを通す方法や粒度測定装置を用いた方法で測定することができる。
【0014】
リンゴ破砕物中にL−アスコルビン酸等の酸化防止剤が存在すると、リンゴ果実の褐変防止を施すことができる。そのため、カルシウムに加えて、L−アスコルビン酸等の酸化防止剤も破砕工程で添加することが好ましい。
【0015】
リンゴ果実の破砕により得られたリンゴピューレは、通常、加熱殺菌される。加熱殺菌の条件は、リンゴ果実に含まれる酵素が失活する条件、微生物的観点から保存可能な条件を適宜設定すればよい。一例として、105℃、1.0分の殺菌が挙げられる。
(リンゴピューレ含有飲料の製造方法)
従来のリンゴパルプを加えた飲料では、喉越しのよい飲料に対して、パルプの口溶けの悪さから、飲用時にざらざら悪い舌触り感を受けることがあった。一方、本発明の飲料に用いられるリンゴピューレは、上記のとおり、微細化されたリンゴ果実がペクチンゲル膜で包まれた粒子状となっており、シャキシャキとしたリンゴ特有の食感を呈しながらも、その舌触りは滑らかという非常にユニークな性質を有する飲料となる。この相反する性質;滑らかな舌触りとシャキシャキとした食感をより確実に実現させるため、本発明のリンゴピューレ含有飲料は、上記のリンゴピューレを所定量のカルシウムを含有する飲料に添加して製造する。
【0016】
リンゴピューレを添加する「カルシウムを含有する飲料」とは、飲料全体に対するカルシウム濃度が0.001〜0.1重量%、好ましくは0.01〜0.05重量%である飲料を意味する。カルシウム濃度が0.1重量%を超えると、リンゴ果汁、リンゴピューレ等の褐色変化が著しくなったり、風味を損なったり、またリンゴピューレの舌触りや食感が逆に悪くなったりする。
【0017】
飲料中のカルシウム濃度は、上記のカルシウム強化剤(好ましくは乳酸カルシウム、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウムなど)を用いて調整することができる。あるいは果汁や乳成分に含まれるカルシウム分も利用できる。例えば、飲料中にリンゴ果汁を5.0〜20.0重量%程度配合し、カルシウム剤として乳酸カルシウムを用いた場合、乳酸カルシウムとして0.001〜0.05重量%程度のカルシウムが飲料に添加される。
【0018】
カルシウムを含有する飲料中に添加するリンゴピューレの割合は、所望する飲料の風味によって適宜選択すればよいが、通常、5.0〜20.0重量%程度である。
本発明のリンゴピューレ含有飲料は、加熱殺菌して、缶、瓶、PETボトル等の通常の飲料容器に収容することができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1.リンゴピューレ及びリンゴピューレ含有飲料の製造(1)
リンゴをフードカッター(パナソニック社製、MK-K48P-W)で破砕して、リンゴ果肉が0.5〜2.5mm程度に均一になるように、リンゴピューレを製造した。リンゴ果実の総量に対して0.2重量%のL−アスコルビン酸と、所定量(0,0.5重量%,1.0重量%)の乳酸カルシウム(水溶液)を添加した(比較例、本発明品1,2)後に破砕処理した。このようにして得られた3種類のリンゴピューレを75℃で7分間、又は65℃で15分間加熱した後、冷却して殺菌済みリンゴピューレとした。
【0020】
次いで、殺菌済みリンゴピューレを倍量の水で希釈し、85℃の湯浴にて10分間浸漬してリンゴピューレ含有飲料の加熱殺菌を行い、得られたリンゴピューレ含有飲料の食感を専門パネラーで評価した。
【0021】
表1に結果を示す。表中の乳酸カルシウム及びカルシウムイオン濃度はリンゴピューレ中の濃度を表す。また、表中の+印は、リンゴ特有の食感の知覚強度を表し、+の数が多いほど、リンゴ果実(生果)を想起させるシャキシャキとした食感を呈することを意味する。表1より明らかとおり、リンゴピューレの破砕工程においてカルシウムを存在させることで、リンゴピューレの食感が改善され、リンゴ特有の食感を呈するリンゴピューレが製造できることがわかった。
【0022】
【表1】

【0023】
実施例2.リンゴピューレ及びリンゴピューレ含有飲料の製造(2)
カルシウムの添加量、種類を表2に示すものに変え、殺菌時間を65℃12分とする以外は、実施例1と同様にして殺菌済みリンゴピューレを製造した。次いで、実施例1と同様に倍量の水で希釈して加熱殺菌し、リンゴピューレ含有飲料を製造した。
【0024】
得られた7種類のリンゴピューレ含有飲料について、専門パネラーによる官能評価を行った。本発明品3〜8はいずれも比較例2よりもリンゴ特有の食感を知覚でき、好ましい食感を呈する飲料であった。特に、カルシウム濃度が0.06重量%以下の飲料が、風味・食感の観点から好ましかった。
【0025】
【表2】

【0026】
実施例3.リンゴピューレ及びリンゴピューレ含有飲料の製造(3)
カルシウムの添加量を表3に示すものに変える以外は、実施例2と同様にして殺菌済みリンゴピューレを製造した。次いで、表4に示す配合割合でカルシウムを含有する飲料に殺菌済みリンゴピューレを添加し、ブリックス11.0、pH3.6のリンゴピューレ含有飲料を製造した。得られた4種類の飲料について、専門パネラーによる官能評価を行った。本発明品9〜11はいずれも比較例3よりもリンゴ特有の食感を知覚でき、好ましい食感を呈する飲料であった。リンゴピューレ破砕工程におけるカルシウムイオン濃度は、0.002〜0.02重量%程度であれば、飲料の風味に影響を及ぼすことなくリンゴ特有の良好な食感が得られることが示唆された。また、カルシウムを含有する飲料に本発明のリンゴピューレ(本発明品9〜11)を添加して得られる本発明のリンゴピューレ含有飲料は、シャキシャキとしたリンゴ特有の食感を呈しながらも、その舌触りは滑らかであり、パネラーが好ましいと評価する飲料であった。
【0027】
【表3】

【0028】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンゴ果実を破砕してリンゴピューレを製造する方法において、リンゴ果実に0.001〜0.1重量%のカルシウムを添加してからリンゴ果実を破砕することを特徴とする、前記リンゴピューレの製造方法。
【請求項2】
カルシウムが水溶液の形態で添加される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法で得られるリンゴピューレを、飲料全体に対して0.001〜0.1重量%のカルシウムを含有する飲料に添加することを特徴とする、リンゴピューレ含有飲料の製造方法。
【請求項4】
リンゴピューレの添加量が5〜20重量%である、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2記載の方法により得られるリンゴピューレ。
【請求項6】
請求項3または4記載の方法により得られるリンゴピューレ含有飲料。

【公開番号】特開2012−223108(P2012−223108A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91568(P2011−91568)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】