説明

リン含有ジアミン化合物および難燃性ポリイミド

【課題】優れた難燃特性を発揮するポリイミドおよびその前駆体であるポリアミド酸の提供。
【解決手段】下記一般式(I):


(式中、ベンゼン環上の水素原子は、各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよい)で表わされるリン含有ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物を重合させることにより前駆体であるポリアミド酸を得る。さらに脱水イミド化することにより優れた難燃特性を発揮するポリイミドを合成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン含有ジアミン化合物、リン含有ジニトロ化合物、ならびにそれらを使用して製造される難燃性のポリイミド、およびその前駆体であるポリアミド酸に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にポリイミドは、難燃性、耐熱性、機械特性、電気特性等に優れている為、フレキシブルプリント配線板の基板材料、配線や半導体素子の保護膜、耐熱性接着剤、層間絶縁材料等として広く使用されている。
【0003】
近年、電気・電子機器等の軽薄短小化のニーズに応えるべく、電気・電子機器等に使用されるポリイミドの薄膜化が望まれている。しかしながら、ポリイミドの薄膜化に伴ってポリイミドの難燃性は低下する傾向がある。また、近年電子機器内の使用部品および素子、CPUの高性能化に伴って、その発熱量が著しく増加し、機器内の平均温度も上昇する傾向にあり、より高度な難燃技術が望まれている。一方、環境問題の観点から電気・電子製品に要求される難燃性を付与する際にも、自然環境や人体に対する安全性を考慮した、より安全性の高い手段が求められている。
【0004】
ポリイミドに難燃性を付与する技術としては、シロキサン変性されたポリイミドに水酸化マグネシウムなどの金属水和物を混合する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながらこの方法では、別途水酸化マグネシウムにリン酸系界面活性剤による表面処理を施さなければならず、工程が煩雑になる。加えてこの方法では、ベースポリマーに使用するジアミン成分として、分子内に水酸基を2個以上有するジアミンが推奨されているが、このようなジアミンは容易に入手できるとは言えないものもある。
【0005】
また、シリコンユニットを含有する特定のポリイミド樹脂とリン元素を含有する特定のエポキシ樹脂とを使用することで難燃性を発現させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この方法では、リン化合物とエポキシ樹脂とを反応させ、目的とするリン含有エポキシ樹脂が得られるが、エポキシ樹脂としての機能を有するためには、好ましくは2つのエポキシ基が残るように反応を行わなければならず、リン含有率の上限値は5重量%に過ぎない。シリコンユニットを導入したポリイミド樹脂は燃え易い性質を持つために、この方法で得られるポリイミド樹脂組成物に十分な難燃性を付与するためには、リン含有するとはいえ、元来耐熱性の低いエポキシ樹脂を多く混合しなければならない。
【0006】
さらには、樹脂組成物に難燃性を付与する方法としては、樹脂組成物にリン系難燃剤を添加し、ポリマーと物理的に混合する方法が知られている(例えば、非特許文献1)。しかしながら、かかる技術で難燃性を発現させるためには、リン化合物を大量に添加する必要があるが、そのように大量に添加されたリン化合物は、ポリマーの機械的特性を低下させたり、環境へのリーキングが懸念されたりとの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−63459号公報
【特許文献2】特開2009−29982号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ノンハロゲン系難燃材料による難燃化技術(エヌ・ティー・エス)、p.28(2001年発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、リン含有ジアミン化合物、ならびにそれらを原料として製造され、優れた難燃特性を発揮するポリイミドおよびその前駆体であるポリアミド酸を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、特定の構造を有するリン含有ジアミン化合物を合成し、それを用いて製造されるポリイミドが、従来のポリイミドの性質を損なうことなくさらに優れた難燃性を有することを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記一般式(I):
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、ベンゼン環上の水素原子は、各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよい)
で表わされるリン含有ジアミン化合物および下記一般式(II):
【0013】
【化2】


(式中、ベンゼン環上の水素原子は、各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよい)
で表わされるリン含有ジニトロ化合物に関する。
【0014】
さらに本発明は、これらのリン含有ジアミン化合物を用いて製造される下記一般式(III):
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、ベンゼン環上の水素原子は、各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよく、そしてAは、四価の芳香族基、脂環式基または脂肪族基である)
で表わされる反復単位を有するリン含有ポリイミドに関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のリン含有ジアミン化合物は、難燃性のポリイミドの原料として有用である。またこのリン含有ジアミン化合物を用いて製造された難燃性ポリイミドは、難燃性を有する耐熱性接着剤、難燃性を有する電子回路基板の絶縁材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1で得られた化合物の1H−NMRチャートを示す。
【図2】実施例1で得られた化合物のFT−IRチャートを示す。
【図3】実施例2で得られた化合物の1H−NMRチャートを示す。
【図4】実施例2で得られた化合物のFT−IRチャートを示す。
【図5】実施例3で得られた化合物の1H−NMRチャートを示す。
【図6】実施例3で得られた化合物のFT−IRチャートを示す。
【図7】実施例4で得られた化合物の1H−NMRチャートを示す。
【図8】実施例4で得られた化合物のFT−IRチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
「リン含有ジニトロ化合物とその製造方法」
本発明のリン含有ジニトロ化合物は、一般式(II):
【化4】


(式中、ベンゼン環上の水素原子は、各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよい)
で表される化合物である。一般式(II)のリン含有ジニトロ化合物は、これを用いて得られるポリイミドの難燃性の観点から、そのベンゼン環上の水素原子が置換されていないもの、あるいは1〜4個のメチル基またはメトキシ基で置換されているものが好適である。
【0021】
本発明のリン含有ジニトロ化合物の製法は特に限定されず、公知のいずれかの方法で製造することができる。好ましくは、下記一般式(1):
【0022】
【化5】

【0023】
(式中、ベンゼン環上の水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよい)
で表されるニトロ安息香酸と、下記一般式(2):
【0024】
【化6】


(式中、ベンゼン環上の水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよい)
で表されるリン含有ジオールとをエステル化反応に付すことにより、下記一般式(II):
【化7】


(式中、ベンゼン環上の水素原子は、各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよい)
で表されるリン含有ジニトロ化合物を製造することができる。
【0025】
上記エステル化反応の際適用できる方法として、例えば、一般式(1)のニトロ安息香酸のカルボキシル基と一般式(2)のリン含有ジオールのヒドロキシ基とを高温で直接脱水縮合させるか、ジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水試薬を用いて脱水縮合させる方法;あるいは一般式(2)のリン含有ジオールをジアセテート誘導体とし、これを一般式(1)のニトロ安息香酸と高温で反応させ、脱酢酸してエステル化する方法(エステル交換法);または一般式(1)のニトロ安息香酸をハロゲン化誘導体とし、これを一般式(2)のリン含有ジオールと塩基の存在下で反応させる方法(酸ハライド法)などが挙げられる。上述の方法の中でもエステル交換法や酸ハライド法が経済性、反応性の点で好適である。
【0026】
例えば、本発明のリン含有ジニトロ化合物は、下記一般式(1a):
【0027】
【化8】

【0028】
(式中、Xは、ClまたはBrであり、ベンゼン環上の水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよい)
で表わされるニトロ安息香酸ハライドと下記一般式(2):
【0029】
【化9】

【0030】
(式中、ベンゼン環上の水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよい)
で表わされるリン含有ジオールとを、溶媒中、塩基の存在下で反応させることにより得ることができる。
【0031】
上記反応は、−20〜150℃、好ましくは−10〜80℃、より好ましくは0〜50℃の温度で、1分〜24時間、好ましくは5分〜20時間、より好ましくは10分〜16時間反応することによって行うことができる。
【0032】
上記反応には、溶媒を使用してもよい。使用する溶媒は、反応に不活性な溶媒であれば特に限定されず、所望する反応温度に応じて適宜選択される。単独で、又は2種類以上の溶媒を任意の割合で混合して用いてもよい。例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、アニソール、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンのような芳香族炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン(THF)、ジグリム、トリグリムのようなエーテル系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)のような非プロトン性極性溶媒などが使用できる。テトラヒドロフラン、アセトニトリル、モノクロロベンゼン、トルエンおよびN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)の使用が好ましい。溶媒の使用量は、一般式(2)のリン含有ジオールに対して50〜1000重量%、好ましくは100〜500重量%である。
【0033】
上記反応には、塩基を使用してもよい。使用する塩基は、所望する反応温度に応じて適宜選択される。単独で、又は2種類以上の塩基を任意の割合で混合して用いてもよい。例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジンのような三級アミンが使用できる。塩基の使用量は、一般式(2)のリン含有ジオールに対して50〜1000モル%、好ましくは75〜500モル%、さらに好ましくは100〜300モル%である。
【0034】
上記反応の終了後、析出した固体を濾別することによって、一般式(II)のリン含有ジニトロ化合物の粗生成物を得ることができる。
【0035】
得られた粗生成物は、精製してもよい。精製方法は特に限定されないが、再結晶法により行うのが好ましい。例えば、酢酸のような極性溶媒、または極性溶媒と水の任意の割合の混合溶媒を、粗生成物に対して50〜1000重量%、好ましくは100〜500重量%使用し、20〜115℃、好ましくは50〜100℃の温度に加熱することにより、一般式(II)のリン含有ジニトロ化合物を一旦溶解させ、次いで、これを温度降下させることにより、また必要であれば、貧溶媒を添加することにより、結晶を析出させる。この結晶を濾別し、減圧下又は常圧下にて40〜200℃、好ましくは80〜150℃の温度で乾燥させることにより、本発明のリン含有ジニトロ化合物を得ることができる。
【0036】
上記のリン含有ジニトロ化合物の製造方法をはじめとする、本明細書に記載の各製造方法において使用する原料、試薬、溶媒等は、市販されているか、または市販されているものから公知の方法に従い容易に調製することができる。例えば、式(1a)のニトロ安息香酸ハライド(o−ニトロ安息香酸クロリド、m−ニトロ安息香酸クロリド、p−ニトロ安息香酸クロリドなど)は、和光純薬工業(株)などの供給業者から入手することができる。あるいは、一般式(1a)のニトロ安息香酸ハライドは、同様に供給業者から入手することができる一般式(1)のニトロ安息香酸(o−ニトロ安息香酸、m−ニトロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、2−メチル−4−ニトロ安息香酸、3−メチル−4−ニトロ安息香酸、2,6−ジメチル−4−ニトロ安息香酸、3−メトキシ−4−ニトロ安息香酸、4,5−ジメトキシ−2−ニトロ安息香酸など)の遊離のカルボン酸を、公知の方法(例えば、塩化チオニル、塩化スルフリルのようなハロゲン化試薬を用いる方法)に従ってハロゲン化することにより得てもよい。
【0037】
同様に、一般式(2)のリン含有ジオール(2−(ジフェニルホスフィニル)ヒドロキノンなど)は、北興化学工業(株)などの供給業者から入手することができる。あるいは、一般式(2)のリン含有ジオールは、公知の方法(例えば、特開平5−214070号公報参照)に従って調製することもできる。
【0038】
「リン含有ジアミン化合物およびその製造方法」
本発明のリン含有ジアミン化合物は、一般式(I):
【0039】
【化10】

【0040】
(式中、ベンゼン環上の水素原子は、各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシル基で置換されていてもよい)
で表される化合物である。一般式(I)のリン含有ジアミンは、これを用いて得られるポリイミドの難燃性の観点から、そのベンゼン環上の水素原子が置換されていないもの、あるいは1〜4個のメチル基またはメトキシ基で置換されているものが好適である。
【0041】
本発明のリン含有ジアミン化合物の製法は特に限定されず、公知のいずれかの方法で製造することができる。好ましくは、一般式(II):
【化11】


(式中、ベンゼン環上の水素原子は、各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよい)
で表わされるリン含有ジニトロ化合物を還元することにより製造することができる。
【0042】
本発明の一般式(II)のリン含有ジニトロ化合物の還元は、適切な還元剤および/または還元触媒を添加して実施すればよい。適切な還元剤および/または還元触媒は、例えば、水素;水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ジイソブチルアルミニウムなどの金属ヒドリド試薬;鉄、スズ、亜鉛などの金属末またはそれらの塩;ヒドラジン、ギ酸、L−アスコルビン酸などの有機物;白金、パラジウム、ロジウム、ニッケル、銅などの遷移金属などである。パラジウム、鉄、亜鉛およびスズからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属試薬を用いるのが好ましい。そのような還元の具体的態様としては、遷移金属触媒および水素(もしくは水素源)の存在下に還元を行う接触水素化法や、酸性溶液中で鉄、スズ、亜鉛などの金属末を用いることにより還元を行う方法を挙げることができる。以下に、接触水素化法による還元について説明する。
【0043】
本発明のリン含有ジニトロ化合物の接触水素化法による還元で用いる遷移金属触媒としては、白金、パラジウム、ロジウム、ニッケル、銅などの遷移金属を、炭素(活性炭)、アルミナ、シリカ、炭酸カルシウムなどの担体に担持させたもの、具体的には、パラジウムが5〜20%程度担持されたパラジウム炭を挙げることができる。
【0044】
本発明のリン含有ジニトロ化合物の接触水素化法による還元は、20〜200℃、好ましくは30〜150℃、より好ましくは40〜100℃の温度で、1分〜24時間、好ましくは5分〜20時間、より好ましくは10分〜16時間反応することによって行うことができる。
【0045】
本発明のリン含有ジニトロ化合物の接触水素化法による還元には、溶媒を使用してもよい。使用する溶媒は、反応に不活性な溶媒であれば特に限定されず、所望する反応温度に応じて適宜選択される。単独で、又は2種類以上の溶媒を任意の割合で混合して用いてもよい。例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、アニソール、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンのような芳香族炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン(THF)、ジグリム、トリグリムのようなエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)のような非プロトン性極性溶媒などが使用できる。溶媒の使用量は、リン含有ジニトロ化合物に対して50〜1000重量%、好ましくは100〜500重量%である。
【0046】
「リン含有ポリアミド酸およびその製造方法」
本発明のリン含有ポリイミド前駆体(すなわち、リン含有ポリアミド酸)は、下記一般式(IV):
【0047】
【化12】

【0048】
(式中、ベンゼン環上の水素原子は、各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよく、そしてAは、四価の芳香族基、脂環式基または脂肪族基である)
で表わされる反復単位を有するものである。
【0049】
本発明のリン含有ポリアミド酸の製造は、上記の方法で得られた一般式(I)のリン含有ジアミン化合物を含むジアミン成分と、下記一般式(3):
【0050】
【化13】

【0051】
(式中、Aは、四価の芳香族基、脂環式基または脂肪族基である)で表わされるテトラカルボン酸二無水物成分とを公知の方法で重合することによって製造できる。通常、重合反応は溶媒中で5〜80重量%、好ましくは10〜50重量%の溶質濃度で行われる。反応終了後、反応溶液は、そのままリン含有ポリアミド酸溶液(ワニス)として、続くイミド化反応で使用することができる。また、反応溶液からリン含有ポリアミド酸を単離し、次いで適切な溶媒に再溶解し、リン含有ポリアミド酸溶液を調製してもよい。
【0052】
一般式(3)のテトラカルボン酸二無水物成分は、芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂肪族テトラカルボン酸二無水物又は脂環式テトラカルボン酸二無水物であってよく、したがってAの四価の芳香族基、脂環式基または脂肪族基の例としては、炭素数6〜14の単環式若しくは縮合多環式芳香族化合物(例えば、ベンゼン、インデン、ナフタレン、フルオレン)の四価の基、炭素数2〜12の脂肪族化合物(例えば、炭素数2〜12のアルカン、アルケン又はアルキン)の四価の基又は炭素数3〜10の脂環式化合物(例えば、炭素数3〜10のシクロアルカン又はシクロアルケン)の四価の基、あるいは同一であっても異なっていてもよい、2つ以上の前記縮合多環式芳香族化合物、脂肪族化合物又は脂環式化合物が、直接もしくは架橋員(ここで架橋員とは、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO−、−S−、−CH−、−C(CH−、−C(CF−、−Si(CH−、−Si(C−および−PO−からなる群から選択される)により相互に連結されたものの四価の基(例えば、ビフェニル−3,3’,4,4’−テトライル、ジフェニルエーテル−3,3’,4,4’−テトライル、ジフェニルエーテル−2,3’,3,4’−テトライル、ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトライル)を挙げることができる。これらの芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂肪族テトラカルボン酸二無水物又は脂環式テトラカルボン酸二無水物は、炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基若しくはアルコキシル基、またはハロゲン原子から選択される1つ以上の置換基を有していてもよい。
【0053】
ここで用いられる芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8,−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(フタル酸)二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルメタン二無水物等を挙げることができる。またこれらの芳香族環上の水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基若しくはアルコキシル基、またはハロゲン原子から選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0054】
脂肪族または脂環式テトラカルボン酸二無水物の例としては、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。
【0055】
入手の容易さを考慮に入れると、具体的にピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、4,4’−ビス(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(フタル酸)二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物などの使用が好ましい。
【0056】
さらに、リンの含有量を増加させる目的で、公知のリン含有テトラカルボン酸二無水物を使用してもよい。具体的には、特開2009−221309号公報記載の化合物(例えば、後述の実施例7参照)が挙げられる。または本出願人による特願2009−276066に記載の化合物を使用することもできる。
【0057】
本発明のリン含有ポリアミド酸、およびリン含有ポリイミドとは、一般式(IV)で表される反復単位のみからなるリン含有ポリアミド酸、および一般式(III)で表される反復単位のみからなるリン含有ポリイミドのみを意味するものではなく、それぞれかかる繰り返し単位を主要構成単位とするが、それ以外の任意の構成単位を含むものであってもよいことを意味する。したがって、本発明のリン含有ポリイミドの目的や、その前駆体であるリン含有ポリアミド酸の反応性を損なわない範囲で、リン含有ポリアミド酸の製造の際に、ジアミン成分として、一般式(I)のリン含有ジアミン化合物以外の任意のジアミン化合物を、部分的に使用することができる。
【0058】
任意のジアミン化合物は、式:HN−B−NH(式中、Bは、2価の芳香族基または脂肪族基である)で表わされる芳香族または脂肪族ジアミン化合物であればよく、特に制限は無い。上記のようなテトラカルボン酸二無水物を単独又は2種類以上混合して使用してもよい。
【0059】
2価の芳香族基または脂肪族基の例としては、炭素数6〜14の単環式もしくは縮合多環式芳香族化合物の2価の基(フェニレン、インデニレン、ナフチレン、フルオレニレン等)、炭素数2〜12の鎖式化合物の2価の基(アルキレン、アルケニレンもしくはアルキニレン基等)、または炭素数4〜10の脂環式化合物の2価の基(シクロアルキレン、シクロアルケニレン、ビシクロアルキレン、ビシクロアルケニレンもしくはトリシクロアルキレン等)、あるいは同一であっても異なっていてもよい、2つ以上の前記2価の基が、直接もしくは架橋員(ここで架橋員は、前記と同義である)により相互に連結されたものを挙げることができる。これらの芳香族基または脂肪族基は、炭素数1〜4のアルキル、ハロアルキル、アルケニル、アルキニルもしくはアルコキシ基、またはヒドロキシ基から選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0060】
そのようなジアミン成分としては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、1,6−ジアミノヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン等が挙げられる。本発明の目的である、優れた難燃特性を有するリン含有ポリイミドを提供するためには、本発明のリン含有ポリアミド酸の製造に用いるジアミン成分中、一般式(I)のリン含有ジアミン化合物を30モル%以上使用することが好ましく、50モル%以上使用することがより好ましい。
【0061】
さらに下記一般式(4):
【0062】
【化14】

【0063】
(式中、nは0〜20の整数の混合値であり、Rはメチル、イソプロピル、フェニル、ビニル基を示し、Rは、炭素数1〜7の炭化水素の二価の基、例えばトリメチレン、テトラメチレン、フェニレンなどを示す)で表されるシロキサンジアミンを、ジアミン成分の1〜50モル%の範囲で用いて共重合させてもよい。
【0064】
さらに分子量を調整する目的でモノアミン化合物やジカルボン酸無水物を添加してもよい。使用されるモノアミン化合物として、アニリン、4−アミノフェノール、3−アミノフェノール、4−アミノビフェニル、4−フェノキシアニリン、3−アミノフェニルアセチレン、4−アミノフェニルアセチレンなどであり、ジカルボン酸無水物として、マレイン酸無水物、無水フタル酸、4−フェニルエチニル無水フタル酸、4−エチニル無水フタル酸、トリメリト酸などである。モノアミン化合物やジカルボン酸無水物の添加量は、目的とするリン含有ポリイミドの分子量によって異なるが、通常は使用するすべての酸二無水物とジアミン化合物とのモル数の差の1.0〜数倍のモル数であり、好ましくは1.5〜4.0倍である。酸二無水物が多い場合にはモノアミン化合物、ジアミン化合物が多い場合にはジカルボン酸無水物を加える。
【0065】
本発明のリン含有ポリアミド酸の製造に使用される溶媒は、反応に不活性な溶媒なら特に限定されず、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラメチルウレア、テトラヒドロフランなどを単独又は混合形態で使用することができる。特に好ましいのは、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンである。またこれらの溶媒にトルエン、キシレン、エチルベンゼン、アニソール、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジグリム、トリグリム等の溶媒を任意の割合で混合して用いてもよい。これらの溶媒はまた、単離したリン含有ポリアミド酸の再溶解によりリン含有ポリアミド酸溶液を調製する際に使用してもよい。
【0066】
「リン含有ポリイミドおよびその製造方法」
本発明のリン含有ポリイミドは、一般式(III):
【0067】
【化15】

【0068】
(式中、ベンゼン環上の水素原子は、各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよく、そしてAは、四価の芳香族基、脂環式基または脂肪族基である)
で表わされる反復単位を有するものである。
【0069】
本発明のリン含有ポリイミドの製造は、上記のようにして得られた本発明のリン含有ポリアミド酸を公知の方法によって脱水することによって製造される。例えば、リン含有ポリアミド酸溶液を、ガラス板、銅、アルミ、またはステンレス等の金属箔、あるいはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド、シリコン樹脂、またフッ素樹脂等の樹脂フィルムなどの基材上に、乾燥後の厚みが0.1〜250μm、より好ましくは1.0〜100μmになるように塗布し、40〜500℃、より好ましくは70〜350℃で1分〜5時間、より好ましくは3分〜3時間乾燥させることによって、リン含有ポリイミドを得ることができる。得られたポリイミドは、基材から剥がしてフィルム形態として、またはそのまま積層体として使用することができる。
【0070】
また、リン含有ポリアミド酸溶液に、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンのような水と共沸する溶媒を加え、100〜300℃、より好ましくは150〜250℃で加熱を行い、イミド化に伴い発生する水を系外に排出し熱イミド化を行うことにより、リン含有ポリイミドを得ることもできる。この時、ピリジン、ピコリン、イミダゾールのような含窒素複素環化合物やトリエチルアミンのようなトリ低級アルキルアミンなどを用いてもよい。あるいは、無水酢酸、トリフルオロ無水酢酸、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミドのような脱水剤とピリジン、ピコリン、イミダゾールのような含窒素複素環化合物やトリエチルアミンのようなトリ低級アルキルアミンなどとを加え、0〜200℃で1〜24時間脱水することによって化学イミド化を行うことにより、リン含有ポリイミドを得てもよい。上記のように熱的あるいは化学的にイミド化が終了した溶液を、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、トルエン、キシレンのような単独溶媒あるいはこれらの混合溶液に注入し、結晶を析出させ濾別し、乾燥、粉砕して粉状の形態として得ることができる。得られたポリイミドは、そのまま射出成型や圧縮成型に用いることができる。また別途、溶媒に溶解させ、ワニスとして使用することもでき、それを前述の基材上に塗布し、乾燥させフィルム形態として得ることもできる。
【実施例】
【0071】
以下に本発明の様態を明らかにするために、実施例と比較例とを示すが、本発明はここに示す実施例のみに限定されるわけではない。
【0072】
実施例で得られた化合物の溶液粘度、純度、融点またはガラス転移温度、NMRおよび赤外線吸収スペクトルの測定方法は以下の通りである。
【0073】
溶液粘度:B型粘度計(東京計器(株)製)を用いて、25℃の温度で測定した。
【0074】
純度:HPLC((株)島津製作所製)およびカラム(東ソー(株)製 TSKgel ODS-80TM)を用いて測定を行った。サンプル溶液は、アセトニトリル/水の混合液に試料を溶解もしくは分散させた後、溶液を60℃で15分間加熱することで調製した。溶離液は、アセトニトリル/水/リン酸系を用い、純度は面積百分率により算出した。
【0075】
融点またはガラス転移温度:示差走査熱量計((株)島津製作所製 DSC−60)にて、毎分10℃で40〜400℃まで昇温し、測定を行った。解析ソフトによりDSC曲線の外挿点から融点またはガラス転移温度を算出した。
【0076】
NMR:化合物と重DMSO(Cambrige Isotope Laboratories, Inc.製 DMSO-d6 0.05%TMS含有)とを混合した溶液を調製し、NMR(日本電子(株)製 JNM−AL400)にて、H−NMR測定を行った。
【0077】
赤外線吸収スペクトル:IR測定装置((株)パーキンエルマー製Spectrum 100 FT-IR Spectrometer)を用い、KBr法にて赤外吸収スペクトルを測定した。
【0078】
難燃性の評価:フィルムを200mm×50mmの大きさに切り、試験片とした。試験片を円筒状に巻き、クランプに垂直に固定し、サンプル下部にバーナーで3秒間接炎を2回行い、燃焼時間が10秒以内のものを○、10秒以上のものを×とした。
【0079】
実施例1
式(5):
【化16】


で表わされるリン含有ジニトロ化合物の合成
攪拌機、温度計、窒素導入管および冷却管を備えた四つ口フラスコに、2−(ジフェニルホスフィニル)ヒドロキノン(北興化学工業(株)製)14.0g(0.045mol)、THF100gおよびトリエチルアミン(和光純薬工業(株)製)9.6g(0.100mol)を仕込み、窒素気流下、攪拌しながら5℃まで冷却した。フラスコ内の温度を10℃以下に保ちながら、あらかじめ調整しておいたp−ニトロ安息香酸クロリド/THF溶液(50.4wt%)52.0g(0.095mol)を滴下した。滴下終了後、室温で3時間攪拌した。反応終了後、析出している固体を濾別し、THFで洗浄することで、目的物を純度98.1%で得た。さらに酢酸から再結晶することで、精製物25.6gを収率93.5%、純度99.6%、融点222℃で得た。精製物のH−NMRを図1に、FT−IRチャートを図2に示す。
【0080】
実施例2
式(6):
【化17】


で表わされるリン含有ジアミン化合物の合成
攪拌機、温度計、気体導入管を備えたオートクレーブ(耐圧硝子工業(株)製)に、実施例1で合成したリン含有ジニトロ化合物20.8g(0.034mol)と、パラジウム/カーボン粉末(エヌ・イー ケムキャット(株)製:AER−Type)2.78gおよびDMF260gを加え、0.4MPaの水素加圧下、50℃で5時間攪拌した。反応終了後、パラジウム/カーボン粉末を濾別し、母液を水1L中に滴下した。析出した固体を濾別し、水で洗浄することで、目的物15.5gを収率83.1%、純度98.6%、融点285℃で得た。目的物のH−NMRを図3に、FT−IRチャートを図4に示す。
【0081】
実施例3
式(7):
【化18】


で表わされるリン含有ジニトロ化合物の合成
攪拌機、温度計、窒素導入管および冷却管を備えた四つ口フラスコに、2−(ジフェニルホスフィニル)ヒドロキノン(北興化学工業(株)製)14.0g(0.045mol)、THF67.4gおよびトリエチルアミン(和光純薬工業(株)製)15.0g(0.148mol)を仕込み、窒素気流下、攪拌しながら5℃まで冷却した。フラスコ内の温度を10℃以下に保ちながら、あらかじめ調整しておいたm−ニトロ安息香酸クロリド/THF溶液(55.2wt%)33.5g(0.095mol)を滴下した。滴下終了後、室温で16時間攪拌した。反応終了後、析出している固体を濾別し、THFで洗浄することで、目的物を純度98.8%で得た。さらに酢酸/水混合溶媒で加熱洗浄することで、精製物18.6gを収率67.9%、純度99.5%、融点188℃で得た。精製物のH−NMRを図5に、FT−IRチャートを図6に示す。
【0082】
実施例4
式(8):
【化19】


で表わされるリン含有ジアミン化合物の合成
攪拌機、温度計、気体導入管を備えたオートクレーブ(耐圧硝子工業(株)製)に、実施例3で合成したリン含有ジニトロ化合物18.3g(0.030mol)と、パラジウム/カーボン粉末(エヌ・イー ケムキャット(株)製:AER−Type)1.83gおよびDMF110gを加え、0.4MPaの水素加圧下、50℃で18時間攪拌した。反応終了後、固体を濾別し、母液を水1L中に滴下した。析出した固体を濾別し、水で洗浄することで、目的物14.7gを収率89.4%、純度98.5%、融点115.7℃(分解)で得た。目的物のH−NMRを図7に、FT−IRチャートを図8に示す。
【0083】
実施例5
式(9):
【化20】


で表わされる繰り返し単位を有するリン含有ポリイミドの合成
温度計、窒素導入管を備えた四つ口フラスコに、ピロメリット酸二無水物(PMDA)(ダイセル化学工業(株)製)2.1812g(0.01mol)、実施例2で合成したリン含有ジアミン化合物5.4853g(0.01mol)、NMP31.2gを仕込み、窒素気流下、室温で12時間撹拌を行い、リン含有ポリアミド酸を合成した。反応溶液(溶質濃度20%、粘度(B型粘度計:東京計器(株)製)3,000mPa・s)をそのまま、ポリアミド酸溶液として使用した。得られたリン含有ポリアミド酸溶液をガラス板上に、乾燥後の厚みが25μmになるように塗布を行い、90℃、130℃、180℃各温度10分間乾燥を行い、含リンポリイミド/PETフィルム積層体を得た。得られたフィルムをPETフィルムから剥がし、金属枠に固定し200℃、250℃の各温度で60分間熱処理を行い、リン含有ポリイミドフィルムを得た。
【0084】
実施例6
式(10):
【化21】


で表わされる繰り返し単位を有するリン含有ポリイミドの合成
テトラカルボン酸二無水物を4,4’−オキシジフタル酸無水物(4−ODPA;マナック(株)製)3.1021g(0.01mol)に変更する以外は実施例5と同様の操作を行い、リン含有ポリイミドフィルムを得た。
【0085】
実施例7
式(11):
【化22】


で表わされる繰り返し単位を有するリン含有ポリイミドの合成
テトラカルボン酸二無水物を式(12):
【化23】


で表わされるリン含有テトラカルボン酸二無水物(TAPQ:マナック(株)製;特開2009−221309号公報の実施例1参照)6.7249g(0.01mol)に変更する以外は実施例5と同様の操作を行い、リン含有ポリイミドフィルムを得た。
【0086】
比較例1
式(13):
【化24】


で表わされる繰り返し単位を有するポリイミドの合成
テトラカルボン酸二無水物を4,4’−オキシジフタル酸無水物(4−ODPA)3.1021g(0.01mol)に変更し、ジアミンを4,4’−オキシジアニリン(4−ODA)(和歌山精化工業(株)製)2.0024g(0.01mol)に変更する以外は実施例5と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを得た。
【0087】
難燃性評価
実施例5、6および7、ならびに比較例1で得られたポリイミドの評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のリン含有ジアミン化合物を用いて製造したリン含有ポリイミドは、従来のポリイミドと同等の物性と共に、優れた難燃特性を示し、薄膜になっても良好な耐熱性を示すので、電気・電子機器等の軽薄短小化のニーズに応えることが可能である。また、本発明の難燃性のリン含有ポリイミドの使用は、更なる難燃剤の添加を回避または減量することができるため、自然環境や人体により安全性の高い難燃化技術である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化25】


(式中、ベンゼン環上の水素原子は、各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよい)
で表わされるリン含有ジアミン化合物。
【請求項2】
下記一般式(II):
【化26】


(式中、ベンゼン環上の水素原子は、各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよい)
で表わされるリン含有ジニトロ化合物。
【請求項3】
下記一般式(I):
【化27】


(式中、ベンゼン環上の水素原子は、各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよい)
で表わされるリン含有ジアミン化合物の製造方法であって、下記一般式(II):
【化28】


(式中、ベンゼン環上の水素原子は、各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよい)
で表わされるリン含有ジニトロ化合物を還元反応に付すことを特徴とする方法。
【請求項4】
還元反応が、パラジウム、鉄、亜鉛およびスズからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属試薬の存在下に行われることを特徴とする、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
下記一般式(II):
【化29】


(式中、ベンゼン環上の水素原子は、各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよい)
で表わされるリン含有ジニトロ化合物の製造方法であって、下記一般式(1a):
【化30】


(式中、Xは、ClまたはBrであり、ベンゼン環上の水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよい)
で表わされるニトロ安息香酸ハライドと、下記一般式(2):
【化31】


(式中、ベンゼン環上の水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよい)
で表わされるリン含有ジオールとを、溶媒中、塩基の存在下で反応させることを特徴とする方法。
【請求項6】
前記塩基が、トリメチルアミン、トリエチルアミンおよびピリジンからなる群より選ばれる少なくとも一種の塩基である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒が、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、モノクロロベンゼン、トルエンおよびN,N−ジメチルホルムアミドからなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒である、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
下記一般式(III):
【化32】


(式中、ベンゼン環上の水素原子は、各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよく、そしてAは、四価の芳香族基、脂環式基または脂肪族基である)
で表わされる反復単位を有するリン含有ポリイミド。
【請求項9】
下記一般式(III):
【化33】


(式中、ベンゼン環上の水素原子は、各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよく、そしてAは、四価の芳香族基、脂環式基または脂肪族基である)
で表わされる反復単位を有するリン含有ポリイミドの製造方法であって、下記一般式(I):
【化34】


(式中、ベンゼン環上の水素原子は、各々独立して、炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシル基で置換されていてもよい)
で表わされるリン含有ジアミン化合物を含むジアミン成分と、下記一般式(3):
【化35】


(式中、Aは、四価の芳香族基、脂環式基または脂肪族基である)で表されるテトラカルボン酸二無水物成分とを反応させることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−173806(P2011−173806A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37320(P2010−37320)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000113780)マナック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】