説明

リン含有フェノールノボラック樹脂及びその製造方法

【課題】難燃剤のブリードアウト等を防止でき、さらに難燃性、電気特性及び耐吸水性に優れたエポキシ樹脂の硬化剤として使用することができるフェノールノボラック樹脂を提供すること。
【解決手段】樹脂架橋基にビス(メチルフェニル)ホスフィン系架橋基を含む、リン含有フェノールノボラック樹脂及びその製造方法。該樹脂は例えば難燃性エポキシ樹脂の硬化剤に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビス(メチルフェニル)ホスフィン系架橋基を有するリン含有フェノールノボラック樹脂に関する。本発明のリン含有フェノールノボラック樹脂は、特に、電気及び電子産業用、電子部品の封止用、積層板用のエポキシ樹脂の硬化剤として好適に用いられ、難燃性に優れた性質を持つフェノールノボラック樹脂として有用である。
【背景技術】
【0002】
電子材料用の樹脂にはエポキシ樹脂が多く用いられ、そのエポキシ樹脂の硬化剤として各種のフェノールノボラック樹脂、アミン類、酸無水物が使用されている。特に半導体封止用エポキシ樹脂の硬化剤としては耐熱性、信頼性の面からフェノールノボラック樹脂が主に用いられる。近年、半導体封止用エポキシ樹脂の硬化剤として使用されるフェノールノボラック樹脂には、高温による火災防止を目的とした安全上の観点から難燃性が要求されてきている。
【0003】
一般に、樹脂の難燃化には様々な方法が知られている。樹脂の難燃化の方法として、樹脂にハロゲン系化合物を添加する方法が特に挙げられるが、ダイオキシン類の発生の可能性があると言われており、難燃剤として非ハロゲン系難燃剤が望まれている。非ハロゲン系難燃剤による樹脂の難燃化の方法において、有機リン系化合物の添加に高い効果が認められており、精力的に検討されている。しかし、難燃剤を単に樹脂に添加しただけでは、ブリード現象を起こしやすいという問題がある。
この問題のために、特許文献1には、リン酸エステル系難燃剤を骨格に組み込んだオリゴマーが開示されている。しかし、特許文献1に開示されたオリゴマーは耐加水分解性に弱く、また吸水性が高いという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−343382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、難燃剤のブリードアウト等を防止でき、さらに難燃性、電気特性及び耐吸水性に優れたエポキシ樹脂の硬化剤として使用することができるフェノールノボラック樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上述の問題を解決するために検討を重ねた結果、ビス(メチルフェニル)ホスフィン系架橋基を有する新規なリン含有フェノールノボラック樹脂を見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、一般式(1):
【化1】


(式中、
は、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数2〜4のアルケニル基、炭素原子数6〜20のアリール基又は炭素原子数1〜4のアルキル基で置換された炭素原子数6〜20のアリール基であり、
は、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基又は炭素原子数2〜4のアルケニル基であり、
nは、1〜9であり、
mは、0又は1であり、
Aは、酸素原子又は硫黄原子である)
で示されるリン含有フェノールノボラック樹脂に関する。
【0008】
本発明は、一般式(2):
【化2】


(式中、R、R、m及びAは、一般式(1)で定義されたとおりである)
で表される繰り返し単位と、一般式(3):
【化3】


(式中、Rは、一般式(1)で定義されたとおりである)
で表される繰り返し単位とからなり、両末端にフェノール残基を有する、リン含有フェノールノボラック樹脂に関する。
【0009】
本発明は、Rがフェニル基である、前記に記載のリン含有フェノールノボラック樹脂に関する。
【0010】
本発明は、前記に記載の一般式(1)で示されるリン含有フェノールノボラック樹脂の製造方法であって、一般式(4):
【化4】


(式中、Rは、一般式(1)で定義されたとおりである)
で示されるフェノール類化合物と、一般式(5):
【化5】


(式中、
、m及びAは、一般式(1)で定義されたとおりであり、
は、互いに独立に、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、メタンスルホニルオキシ基又はトルエンスルホニルオキシ基である)
で示される2官能性リン含有化合物とを反応させる工程を含む、方法に関する。
【0011】
本発明は、前記に記載の一般式(2)で表される繰り返し単位と、一般式(3)で表される繰り返し単位とからなり、両末端にフェノール残基を有するリン含有フェノールノボラック樹脂の製造方法であって、一般式(4):
【化6】


(式中、Rは、前記で定義されたとおりである)
で示されるフェノール類化合物と、ホルムアルデヒドと、一般式(5):
【化7】


(式中、R、X、m及びAは、前記で定義されたとおりである)
で示される2官能性リン含有化合物とを反応させる工程を含む、方法に関する。
【0012】
本発明は、一般式(4)で示されるフェノール類化合物と、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物とを反応させる工程が、一般式(4)で示されるフェノール類化合物と、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物とのモル比を、1.2:1〜10:1で反応させる工程である、前記に記載の一般式(1)で示されるリン含有フェノールノボラック樹脂の製造方法に関する。
【0013】
本発明は、一般式(4)で示されるフェノール類化合物と、ホルムアルデヒドと、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物とを反応させる工程が、一般式(4)で示されるフェノール類化合物と、ホルムアルデヒドと、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物とのモル比を、1.2:0.1:1〜30:5:1で反応させる工程である、前記に記載の一般式(2)で表される繰り返し単位と、一般式(3)で表される繰り返し単位とからなり、両末端にフェノール残基を有するリン含有フェノールノボラック樹脂の製造方法に関する。
【0014】
本発明は、前記に記載のフェノールノボラック樹脂をエポキシ化したエポキシ化リン含有ノボラック樹脂に関する。
【0015】
本発明は、前記に記載のエポキシ化リン含有ノボラック樹脂と、硬化剤とを含有するエポキシ樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、エポキシ樹脂の硬化剤として使用することができる難燃性、電気特性及び耐吸水性に優れたフェノールノボラック樹脂を提供することができる。また、本発明のリン含有フェノールノボラック樹脂は、フェノールノボラック樹脂の骨格構造自体が難燃性を有するため、難燃剤の添加量を少なくすることができ、これにより難燃剤のブリードアウト等を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】難燃性試験例1で測定した熱重量分析(TGA)測定のチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のリン含有フェノールノボラック樹脂は、前記の一般式(1)で示される。一般式(1)において、Rは、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数2〜4のアルケニル基、炭素原子数6〜20のアリール基又は炭素原子数1〜4のアルキルで置換された炭素原子数6〜20のアリール基である。
【0019】
における、炭素原子数1〜4のアルキル基は、直鎖状又は分岐状であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、及びt−ブチル基が挙げられる。好ましくは直鎖状の1〜4のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。
【0020】
における、炭素原子数2〜4のアルケニル基は、直鎖状又は分岐状であり、例えば、ビニル基、アリル基、1−メチルビニル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル、及び1−メチルプロペニル基が挙げられる。好ましくは、直鎖状の2〜4のアルケニル基であり、より好ましくはアリル基である。
【0021】
における、炭素原子数6〜20のアリール基は、単環又は多環の芳香族炭化水素又は芳香族炭化水素が単結合で連結された芳香族炭化水素であり、例えば、フェニル基、ナフチル基、及びビフェニルイル基が挙げられる。好ましくは炭素原子数6〜8の単環の芳香族基であり、より好ましくはフェニル基である。
【0022】
における、炭素原子数1〜4のアルキル基で置換された炭素原子数6〜20のアリール基は、1以上の炭素原子数1〜4のアルキル基で置換された炭素原子数6〜20のアリール基である。炭素原子数1〜4のアルキル基及び炭素原子数6〜20のアリール基は、前記で定義された基が挙げられる。炭素原子数1〜4のアルキル基で置換された炭素原子数6〜20のアリール基は、例えば、置換位置が特定されないトルイル基(2−トルイル基、3−トルイル基又は4−トルイル基)、エチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ブチルフェニル基、及びt−ブチルフェニルが挙げられ、好ましくは4−トルイル基、及び3,4−ジメチルフェニル基である。
【0023】
一般式(1)において、Rは、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基又は炭素原子数2〜4のアルケニル基である。炭素原子数1〜4のアルキル基及び炭素原子数2〜4のアルケニル基は、Rにおいて定義された基が挙げられる。Rとして、水素原子、炭素原子数1〜4の直鎖状のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基)、及びアリル基が好ましく、水素原子がより好ましい。フェノール性水酸基に対するRの置換位置は、オルト位、メタ位、パラ位のいずれでもよい。
【0024】
一般式(1)において、mは、0又は1である。本発明の一般式(1)で示されるリン含有フェノールノボラック樹脂におけるリン原子数は、3価又は5価のいずれであってもよい。一般式(1)において、Aは、硫黄原子又は酸素原子である。安定性が優れることから、mが1であって、Aは酸素原子であるのが好ましい。
【0025】
一般式(1)において、nは1〜9である。本発明の一般式(1)で示されるリン含有フェノールノボラック樹脂の流動性を担保するため、nは1〜6であるのが好ましい。本発明において、nは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)測定により測定された重量平均分子量に基づいて算出される。
【0026】
以上より、一般式(1)で示されるリン含有フェノールノボラック樹脂は、好ましくは、Rがフェニルであり、Rが水素であり、mが1であり、Aが酸素原子であり、nが1〜6である。
【0027】
本発明において、一般式(1)で示されるリン含有フェノールノボラック樹脂の構造に、さらなるフェノールノボラック骨格を組み込むことができる。これにより、リン含有フェノールノボラック樹脂の溶融粘度を低くすることができる。
【0028】
このようなリン含有フェノールノボラック構造と、さらなるフェノールノボラック構造とを含むリン含有フェノールノボラック樹脂は、一般式(2):
【化8】


(式中、R、R、m及びAは、前記で定義されたとおりである)
で表される繰り返し単位と、一般式(3):
【化9】


(式中、Rは、前記で定義されたとおりである)
で表される繰り返し単位とからなり、両末端にフェノール残基を有するフェノールノボラック樹脂である。
【0029】
本発明において、一般式(2)で表される繰り返し単位と、一般式(3)で表される繰り返し単位とからなり、両末端にフェノール残基を有するフェノールノボラック樹脂において、フェノール残基は、一般式(2)及び一般式(3)で表される繰り返し単位におけるフェノール部分であり、一般式(6):
【化10】


(式中、Rは、前記で定義されたとおりである)
で示される。
【0030】
本発明において、一般式(2)で表される繰り返し単位における、R、R、m及びAは、好ましいものを含めて一般式(1)で定義されたとおりである。また、一般式(3)で表される繰り返し単位及び一般式(6)で示されるフェノール残基における、Rは、好ましいものを含めて一般式(1)で定義されたとおりである。
【0031】
本発明において、一般式(2)で表される繰り返し単位と、一般式(3)で表される繰り返し単位とからなり、両末端にフェノール残基を有するフェノールノボラック樹脂は、一般式(2)で示される繰り返し単位が約10〜90%、一般式(3)で示される繰り返し単位が約10〜90%存在し、樹脂の流動性及び優れた難燃性を得るために、一般式(2)で示される繰り返し単位が50〜90%であり、一般式(3)で示される繰り返し単位が10〜50%であるのが好ましい。
【0032】
本発明において、一般式(2)で表される繰り返し単位と、一般式(3)で表される繰り返し単位とからなり、両末端にフェノール残基を有するフェノールノボラック樹脂は、より具体的には、一般式(7):
【化11】


(式中、
、R、m及びAは前記で定義されたとおりであり、
n’、r及びqは、互いに独立に、1〜9である)
で示される。
【0033】
本発明において、一般式(7)で示されるフェノールノボラック樹脂における、R、R、m及びAは、好ましいものを含めて一般式(1)で定義されたとおりである。一般式(7)において、qは、1〜9である。添え字qで定義される各繰り返し単位におけるn’及びrは同一であることもできるし、異なることもできる。すなわち、本発明において一般式(2)で表される繰り返し単位と、一般式(3)で表される繰り返し単位とが、ランダムに存在する構造であることもできるし、一般式(2)で表される繰り返し単位と、一般式(3)で表される繰り返し単位とが、ブロック状に存在する構造であることもできる。
【0034】
一般式(7)において、一般式(2)で表される繰り返し単位の総数、即ちn’とqとの積は、1〜10が好ましく、1〜6がより好ましい。また、一般式(3)で表される繰り返し単位の総数、即ちrとqとの積は、1〜10が好ましく、1〜3がより好ましい。本発明において、n’、r及びqは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)測定により測定された重量平均分子量に基づいて算出される。
【0035】
本発明において、一般式(2)で表される繰り返し単位と、一般式(3)で表される繰り返し単位とからなり、両末端が一般式(6)で示されるフェノール残基を有するフェノールノボラック樹脂は、好ましくは、一般式(7a):
【化12】


(式中、R、n’、r及びqは、前記で定義されたとおりである)
で示される、リン含有フェノールノボラック樹脂である。
本発明において、一般式(7a)で示されるリン含有フェノールノボラック樹脂における、Rは、好ましいものを含めて一般式(1)で定義されたとおりであり、n’、r及びqは、好ましいものを含めて一般式(7)で定義されたとおりである。
【0036】
本発明のリン含有フェノールノボラック樹脂の製造方法について説明する。本発明において、一般式(1)で示されるリン含有フェノールノボラック樹脂は、フェノール類化合物と、ビス(メチルフェニル)ホスフィン類構造を有する化合物とを反応させることにより得られる。
【0037】
すなわち、本発明において、一般式(1)で示されるリン含有フェノールノボラック樹脂は、一般式(4):
【化13】


(式中、Rは、前記で示されたとおりである)
で示されるフェノール類化合物と、一般式(5):
【化14】


(式中、
、m及びAは、一般式(1)で定義されたとおりであり、
は、互いに独立に、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、メタンスルホニルオキシ基又はトルエンスルホニルオキシ基である)
で示される2官能性リン含有化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0038】
本発明において、一般式(4)で示されるフェノール類化合物は、フェノール性水酸基を1個有するフェノール又はその誘導体である。このような一般式(4)で示されるフェノール類化合物として、フェノール、クレゾール、アリルフェノール、ビニルフェノールが挙げられ、好ましくは、フェノールである。このような化合物は一般に市販されている。
【0039】
一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物は、本発明のリン含有フェノールノボラック樹脂に、難燃性を付与するビス(メチルフェニル)ホスフィン系架橋基の構造を導入する原料化合物である。
【0040】
一般式(5)において、Xは、互いに独立に、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、メタンスルホニルオキシ基又はトルエンスルホニルオキシ基である。
【0041】
におけるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が挙げられ、反応性が高いという観点から、好ましくは塩素原子又は臭素原子である。
【0042】
における炭素原子数1〜4のアルコキシ基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、及びブトキシ基が挙げられ、反応性が高いという観点から、メトキシ基が好ましい。
【0043】
一般式(5)において、Xは好ましくは、同一であり、ハロゲン原子又は炭素原子数1〜4のアルコキシ基である。
よって、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物として、好ましくはフェニルビス(4−ブロモメチルフェニル)ホスフィンオキシド、及びフェニルビス(4−メトキシメチルフェニル)ホスフィンである。
【0044】
一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物は、ジクロロホスフィン系化合物とグリニア試薬とのグリニア反応、又はジクロロホスフィン系化合物とトルエンとのフリーデルクラフツ反応による、リンと芳香族炭素原子との結合形成を利用した製造方法により得ることができる。
(I)グリニア反応を用いた一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物の製造方法
本発明のグリニア反応を用いた一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物の製造方法は、下記工程(1A)〜(1B):
(1A)Xが炭素原子数1〜4のアルコキシ基である、前記に記載の一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物に相当する一般式(5a):
【化15】


(式中、
、m及びAは、前記で定義されたとおりであり、
は、炭素原子数1〜4のアルコキシ基である)
で示される、ビス(アルコキシメチルフェニル)ホスフィン類化合物を得る工程であって、一般式(8):
【化16】


(式中、R、m及Aびは、前記で定義されたとおりである)
で示されるジクロロホスフィン類化合物と、一般式(9):
【化17】


(式中、
は、前記で定義されたとおりであり、
Bは、ハロゲン原子である)
で示される、グリニア試薬とを反応させて、一般式(5a)で示されるビス(アルコキシメチルフェニル)ホスフィン類化合物を得る工程と、
(1B)さらに、一般式(5a)で示されるビス(アルコキシメチルフェニル)ホスフィン類化合物のXを、Xが炭素原子数1〜4のアルコキシ基以外の基に置換して、一般式(5b):
【化18】


(式中、
、m及びAは、前記で定義されたとおりであり、
は、互いに独立に、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、メタンスルホニルオキシ基又はトルエンスルホニルオキシ基である)
で示される、2官能性リン含有化合物を得る工程と、
を含む方法により得られる。
【0045】
(I−1)工程(1A)
が炭素原子数1〜4のアルコキシ基である、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物に相当する一般式(5a)で示されるビス(アルコキシメチルフェニル)ホスフィン類化合物は、一般式(8)で示されるジクロロホスフィン系化合物及び一般式(9)で示されるグリニア試薬から得られる。工程(1A)において、リンと芳香族炭素原子との間に結合が形成される。
【0046】
一般式(8)で示されるジクロロホスフィン類化合物は、原料化合物であり、mが0である、ジクロロホスフィン化合物、mが1であり、Aが硫黄原子である、ジクロロホスフィンスルフィド化合物、mが1であり、Aが酸素原子である、ジクロロホスフィンオキシド化合物が挙げられる。
【0047】
ジクロロホスフィン化合物としては、ジクロロフェニルホスフィン、ジクロロメチルホスフィン、ジクロロエチルホスフィン、ジクロロプロピルホスフィン、ジクロロイソプロピルホスフィン、ジクロロ−t−ブチルホスフィンが挙げられる。
【0048】
ジクロロホスフィンスルフィド化合物としては、ジクロロメチルホスフィンスルフィド、ジクロロフェニルホスフィンスルフィド、ジクロロエチルホスフィンスルフィド、ジクロロプロピルホスフィンスルフィド、ジクロロイソプロピルホスフィンスルフィド、ジクロロ−t−ブチルホスフィンスルフィドが挙げられる。ジクロロホスフィンスルフィド化合物は、ジクロロホスフィン化合物と硫黄とを反応させることにより得ることができる。
【0049】
ジクロロホスフィンオキシド化合物としては、ジクロロメチルホスフィンオキシド、ジクロロフェニルホスフィンオキシド、ジクロロエチルホスフィンオキシド、ジクロロプロピルホスフィンオキシド、ジクロロイソプロピルホスフィンオキシド、ジクロロ−t−ブチルホスフィンオキシドが挙げられる。
【0050】
このような一般式(2)で示されるジクロロホスフィン類化合物は市販されている。
【0051】
本発明のグリニア反応を用いた一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物を得るための方法において、一般式(8a):
【化19】


(式中、Rは、前記で定義されたとおりである)
で示される、ジクロロホスフィン化合物が好ましい。
【0052】
一般式(9)で示されるグリニア試薬は、原料化合物である。
【0053】
一般式(9)におけるBはハロゲン原子であり、例えば塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられ、好ましくは臭素原子である。
【0054】
一般式(9)におけるXは、炭素原子数1〜4のアルコキシ基である。Xにおける炭素原子数1〜4のアルコキシ基は、Xにおいて定義されたものと同様の基が挙げられる。
【0055】
一般式(9)で示されるグリニア試薬は、公知の方法により製造することができ、例えば削り状マグネシウムと、対応するハロゲン置換芳香族化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0056】
一般式(9)で示されるグリニア試薬の使用量は、一般式(8)で示されるジクロロホスフィン系化合物1モルに対して、好ましくは、1.0〜4.0モルであり、より好ましくは、2.0〜3.0モルである。
【0057】
本発明において、グリニア反応を利用した一般式(5a)で示されるビス(アルコキシメチルフェニル)ホスフィン化合物を得るための反応は、無溶媒で行うことができ、また、有機溶媒中にて行うこともできる。使用可能な有機溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、及びシクロヘキサン等の直鎖状又は環状脂肪族炭化水素類を挙げることができる。なお、これらの溶媒は単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。また、有機溶媒の使用量は、一般式(8)で示されるジクロロホスフィン類化合物1モルに対して、好ましくは0〜30モルであり、より好ましくは0〜10モルである。
【0058】
工程(1A)により得られた一般式(5a)で示される化合物が、mが0である、ビス(アルコキシメチルフェニル)ホスフィン化合物である場合、本発明の方法は、工程(1A)の後に、リンと硫黄原子の結合又はリンと酸素原子との結合を形成する工程を有していてもよい。また、工程(1A)により得られた一般式(5a)で示される化合物が、mが1であり、Aが硫黄原子であるビス(アルコキシメチルフェニル)ホスフィンスルフィド化合物である場合、本発明の方法は、工程(1A)の後に、リンと酸素原子との結合を形成する工程を有していてもよい。
【0059】
本発明において、mが0である、一般式(5a)で示されるビス(アルコキシメチルフェニル)ホスフィン化合物と、硫黄とを反応させることにより、リンと硫黄原子との結合を形成することができる。これにより、一般式(5a)で示される化合物であって、mが1であり、Aが硫黄原子である、ビス(アルコキシメチルフェニル)ホスフィンスルフィド化合物が得られる。
【0060】
硫黄の添加量は、mが0である、一般式(5a)で示されるビス(アルコキシメチルフェニル)ホスフィン化合物1モルに対して、好ましくは0.5〜2モルであり、更に好ましくは1.0〜1.5モルである。
【0061】
本発明において、mが1であり、Aが硫黄原子である、一般式(5a)で示されるビス(アルコキシメチルフェニル)ホスフィンスルフィド化合物と、酸化剤とを反応させることにより、リンと酸素原子との結合を形成することができる。
【0062】
酸化剤としては、種々の酸化剤を使用することができ、具体的には塩素ガス、臭素等のハロゲン分子、塩化チオニル、塩化スルフリル、三塩化リン、及び三臭化リン等のハロゲン化剤、過酸化水素水、m−クロロ過安息香酸、及び過酢酸等の過酸化物、酸化マンガン、並びに過マンガン酸カリウムが挙げられる。酸化剤として、好ましくは、塩化スルフリル、及び過酸化水素水である。
【0063】
酸化剤の添加量は、mが1であり、Aが硫黄原子である、一般式(5a)で示されるビス(アルコキシメチルフェニル)ホスフィンスルフィド化合物1モルに対して、好ましくは0.5〜2モルであり、更に好ましくは1.0〜1.5モルである。
【0064】
(I−2)工程(1B)
工程(1B)において、Xが炭素原子数1〜4のアルコキシ基以外の基である一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物に相当する一般式(5b)で示される2官能性リン含有化合物が得られる。
【0065】
工程(1B)における原料化合物である、一般式(5a)で示される化合物として、mが0である、ビス(アルコキシメチルフェニル)ホスフィン化合物、mが1であり、Aが硫黄原子である、ビス(アルコキシメチルフェニル)ホスフィンスルフィド化合物、及びmが1であり、Aが酸素原子である、ビス(アルコキシメチルフェニル)ホスフィンオキシド化合物が挙げられる。
【0066】
これらの化合物は、工程(1A)により得られた化合物をそのまま用いてもよく、また、工程(1A)の後に、リンと硫黄原子又は酸素原子との結合を形成する工程を含む方法により得られる化合物を用いてもよい。
【0067】
を、Xが炭素原子数1〜4のアルコキシ基以外の基に相当するXへ置換する方法は、例えば下記の方法が挙げられる。
【0068】
一般式(5a)で示されるビス(アルコキシメチルフェニル)ホスフィン類化合物とハロゲン化剤、例えば塩化チオニルとを反応させることにより、炭素原子数1〜4のアルコキシ基をハロゲン原子に置換することができる。
【0069】
がハロゲン原子である一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物と、炭素原子数1〜4のアルカリ金属アルコキシド、例えばナトリウムメトキシドとを反応させることにより、ハロゲン原子を炭素原子数1〜4のアルコキシ基に置換することができる。
【0070】
がハロゲン原子である一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物と、アルキルカルボン酸アルカリ金属塩、例えば酢酸カリウムと反応させることにより、ハロゲン原子をアシルオキシ基に置換し、次いで、水酸化ナトリウム、又は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物とを反応させて、該アシルオキシ基をヒドロキシ基に置換することにより、ハロゲン原子をヒドロキシ基に置換することができる。
【0071】
がヒドロキシ基である一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物と、p−トルエンスルホニルクロリドとを反応させることにより、ヒドロキシ基をp−トルエンスルホニルオキシ基に置換することができ、また、メタンスルホニルクロリドとを反応させることにより、ヒドロキシ基をメタンスルホニルオキシ基に置換することができる。
【0072】
本発明において、工程(1B)で得られる一般式(5b)で示される化合物が、mが0である、ビス(メチルフェニル)ホスフィン化合物である場合、工程(1B)の後に、リンと硫黄原子又は酸素原子との結合を形成する工程を有していてもよい。また、工程(1B)で得られる一般式(5b)で示される化合物が、mが1であり、Aが硫黄原子である、ビス(メチルフェニル)ホスフィンスルフィド化合物である場合、工程(1B)の後に、リンと酸素原子との結合を形成する工程を有していてもよい。このような工程として、前記工程(1A)において例示したものが挙げられる。
【0073】
(II)フリーデルクラフツ型反応を用いた一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物の製造方法
本発明において、フリーデルクラフツ型反応を利用した一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物は、下記工程(2A)〜(2C):
(2A)一般式(8):
【化20】


(式中、R、m及びAは、前記で定義されたとおりである)
で示されるジクロロホスフィン類化合物と、トルエンとを反応させて、一般式(10):
【化21】


(式中、R、m及びAは、前記で定義されたとおりである)
で示されるビス(メチルフェニル)ホスフィン類化合物を得る工程と、
(2B)一般式(10)で示されるビス(メチルフェニル)ホスフィン類化合物と、Xを含むハロゲン化剤とを反応させることにより、一般式(5f):
【化22】


(式中、
、m及びAは、前記で定義されたとおりであり、
は、ハロゲン原子である)
で示される、ビス(ハロゲノメチルフェニル)ホスフィン類化合物を得る工程と、
(2C)さらに、一般式(5f)で示されるビス(ハロゲノメチルフェニル)ホスフィン類化合物のXを、ハロゲン原子以外であるXに相当するXに置換して、Xがハロゲン原子以外である、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物に相当する、一般式(5g):
【化23】


(式中、
、m及びAは、前記で定義されたとおりであり、
は、互いに独立に、ヒドロキシ基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、メタンスルホニルオキシ基又はトルエンスルホニルオキシ基である)
で示される、2官能性リン含有化合物を得る工程と、
を含む方法により得られる。
【0074】
(II−1)工程(2A)
本発明の一般式(10)で示されるビス(メチルフェニル)ホスフィン類化合物は、一般式(8)で示されるジクロロホスフィン類化合物及びトルエンから得られる。工程(2A)において、リンと芳香族炭素原子との間に結合が形成される。
【0075】
本発明において、工程(2A)で用いられる一般式(8)で示されるジクロロホスフィン類化合物は、グリニア反応において用いることができる化合物と同様の化合物が挙げられる。フリーデルクラフツ反応のために触媒を用いた場合、少ない触媒の量で反応が進行することから、一般式(8a)で示されるジクロロホスフィン類化合物、又はジクロロホスフィンスルフィド類化合物が好ましく、工程数を少なくすることができるためジクロロホスフィンスルフィド類化合物がより好ましい。
【0076】
工程(2A)において、原料であるトルエンの使用量は、一般式(8)で示されるジクロロホスフィン類化合物1モルに対して、2〜30モルが好ましく、2〜10モルがより好ましい。
【0077】
工程(2A)において、反応を促進するために触媒を使用することができる。触媒としては、炭素―炭素結合形成のフリーデルクラフツ反応で用いられるルイス酸触媒を挙げることができ、具体的には塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化鉄(III)、塩化すず(II)、四塩化チタン、塩化ビスマス、ビスマストリフラート、及びイットリビウムトリフラート等を挙げることができる。前記触媒の使用量は原料である一般式(8)で示されるジクロロホスフィン類化合物1モルに対して、0.1〜3モルが好ましく、0.5〜2モルがより好ましい。
【0078】
工程(2A)により得られた式(10)で示される化合物が、mが0である、ビス(メチルフェニル)ホスフィン化合物である場合、本発明の方法は、工程(2A)の後に、リンと硫黄原子との結合又はリンと酸素原子との結合を形成する工程を有していてもよい。また、工程(2A)により得られた式(10)で示される化合物が、mが1であり、Aが硫黄原子であるビス(メチルフェニル)ホスフィンスルフィド化合物である場合、本発明の方法は、工程(2A)の後に、リンと酸素原子との結合を形成する工程を有していてもよい。このような工程として、前記工程(1A)において例示したものが挙げられる。また、一般式(8a)で示されるジクロロホスフィン化合物を原料とした場合、一工程でリンと硫黄原子との結合及びリンとトルエンとの結合を導入することができるため、工程(2A)として、一般式(8a)で示されるジクロロホスフィン化合物と、トルエンと、硫黄とを反応させることにより、mが1であり、Aが硫黄原子である、一般式(10)で示されるビス(メチルフェニル)ホスフィンスルフィド化合物を得る工程が好ましい。
【0079】
(II−2)工程(2B)
工程(2B)において、本発明の一般式(5f)で示されるビス(ハロゲノメチルフェニル)ホスフィン類化合物は、一般式(10)で示されるビス(メチルフェニル)ホスフィン類化合物及びXを含むハロゲン化剤から得られる。
【0080】
一般式(10)で示されるビス(メチルフェニル)ホスフィン類化合物として、mが0である、ビス(メチルフェニル)ホスフィン化合物、mが1であり、Aが硫黄原子である、ビス(メチルフェニル)ホスフィンスルフィド化合物、及びmが1であり、Aが酸素原子である、ビス(メチルフェニル)ホスフィンオキシド化合物が挙げられる。
【0081】
一般式(10)で示される化合物として、工程(2A)において得られた化合物をそのまま用いてもよく、また、工程(2A)の後に、リンと硫黄原子又は酸素原子との結合を形成する工程を含む方法により得られる化合物を用いてもよい。好ましくは、工程(2A)において、一般式(8a)で示されるジクロロホスフィン化合物と、トルエンと、硫黄とを反応させることにより得られる、mが1であり、Aが硫黄原子である、一般式(10)で示されるビス(メチルフェニル)ホスフィンスルフィド化合物である。
【0082】
工程(2B)において用いられるXを含むハロゲン化剤としては特に限定されず、N−クロロコハク酸イミド、N−ブロモコハク酸イミド、塩化チオニル、塩化スルフリル、三塩化リン、三臭化リン、オキシ塩化リン、塩素、臭素、次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜臭素酸アルカリ金属塩、塩化シアヌル等が挙げられる。本発明において、ハロゲン分子、塩化チオニル、塩化スルフリル、三塩化リン、三臭化リン等のハロゲン化剤は、酸化剤としても使用することができる。酸化剤として使用することができるハロゲン化剤を用いる場合は、酸化反応とハロゲン化の両方を行うことができるが、酸化反応が優先的に起こる。
【0083】
よって、ハロゲン化剤の使用量は、一般式(10)で示されるビス(メチルフェニル)ホスフィン化合物1モルに対して、好ましくは2.0〜10.0モルであり、より好ましくは、2.0〜5.0モルである。また、酸化剤としても用いることができるハロゲン化剤は、ハロゲン化及び酸化反応の両方を目的とする場合、mが1であり、Aが硫黄原子である、一般式(10)で示されるビス(メチルフェニル)ホスフィンスルフィド化合物1モルに対して、好ましくは3.0〜10.0モルであり、より好ましくは3.0〜5.0モルである。このような使用量であれば、ハロゲン化及びリンと酸素原子との結合の形成を一工程で行うことができる。
【0084】
工程(2A)〜(2B)を含む、一般式(5f)で示されるビス(ハロゲノメチルフェニル)ホスフィン類化合物の製造方法のための反応は、無溶媒で行うことができ、また、有機溶媒中にて行うこともできる。有機溶媒としては、反応に関与しない有機溶媒であればいずれも使用することができ、具体的には例えばジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、及び1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;テトラヒドロフラン、及びジオキサン等のエーテル類、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、及びシクロヘキサン等の鎖状あるいは環状脂肪族炭化水素類;並びにニトロメタン、ニトロエタン、及びニトロベンゼン等のニトロ化化合物類;などの有機溶媒を挙げることができる。なお、これらの有機溶媒は単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。また、有機溶媒の使用量は原料である、一般式(8)で示されるジクロロホスフィン類化合物1モルに対し、好ましくは0〜30モルであり、より好ましくは0〜10モルである。
【0085】
(II−3)工程(2C)
工程(2C)において、Xが、ハロゲン原子以外である、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物に相当する一般式(5g)で示される化合物は、一般式(5f)で示されるビス(ハロゲノメチルフェニル)ホスフィン類化合物のX基を、Xが、ハロゲン原子以外であるX基に置換する工程を含む方法により得られる。
【0086】
一般式(5f)で示されるビス(ハロゲノメチルフェニル)ホスフィン類化合物のXを、Xがハロゲン原子以外である基に相当するXに置換する方法としては、工程(1B)で例示された方法が挙げられる。
【0087】
以上より、フリーデルクラフツ型反応を利用した一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物の製造方法において、Xがハロゲンであり、mが1であり、Aが酸素である、一般式(5)で示される2官能性ホスフィンオキシド化合物に相当する一般式(5i):
【化24】


(式中、
及びXは、前記で定義されたとおりである)
で示されるビス(ハロゲノメチルフェニル)ホスフィンオキシド化合物は、好ましくは、工程(3A)〜(3C):
(3A)一般式(8a):
【化25】


(式中、Rは、前記で定義されたとおりである)
で示されるジクロロホスフィン化合物と、トルエンとを、硫黄存在下で反応させて、一般式(10a):
【化26】


(式中、Rは、前記で定義されたとおりである)
で示されるビス(メチルフェニル)ホスフィンスルフィド化合物を得る工程と、
(3B)工程(3A)で得られるビス(メチルフェニル)ホスフィンスルフィド化合物と、酸化剤とを反応させて、一般式(10b):
【化27】


(式中、Rは、前記で定義されたとおりである)
で示されるビス(メチルフェニル)ホスフィンオキシド化合物を得る工程と、
(3C)工程(3B)で得られる、ビス(メチルフェニル)ホスフィンオキシド化合物と、ハロゲン化剤とを反応させて、一般式(5i)で示されるビス(ハロゲノメチルフェニル)ホスフィンオキシド化合物を得る工程と、
を含む方法により得られる。
【0088】
また、本発明において、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物は、好ましくは、工程(2A)〜(2B)を含む方法により得られる一般式(5f)で示されるビス(ハロゲノメチルフェニル)ホスフィン類化合物、又は工程(3A)〜(3C)を含む方法により得られる一般式(5i)で示されるビス(ハロゲノメチルフェニル)ホスフィンオキシド化合物のXを、Xがハロゲン原子以外の基に相当するXに置換する工程を含む、フリーデルクラフツ型反応を利用した方法により得られる。
【0089】
本発明において、一般式(4)で示されるフェノール類化合物と、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物とを反応させることにより、一般式(4)で示されるフェノール類化合物の芳香族炭素原子とビス(メチルフェニル)ホスフィン系架橋基との間に、結合が形成される。
【0090】
本発明において、一般式(4)で示されるフェノール類化合物と、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物とのモル比は、1.2:1〜30:1であるのが好ましく、1.2:1〜10:1がより好ましく、5:1〜10:1であるのが特に好ましい。
【0091】
本発明において、一般式(4)で示されるフェノール類化合物と、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物との反応における反応温度は、好ましくは50〜180℃であり、更に好ましくは100〜150℃である。反応時間は反応温度により影響されるが、通常は24時間以内である。
【0092】
本発明において、一般式(4)で示されるフェノール類化合物と、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物とを反応させる際に、反応を円滑に進行させるために酸触媒を使用してもよい。
【0093】
使用する酸触媒としては、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸、塩酸、硫酸等を挙げることができるが、好ましくはシュウ酸及び塩酸である。前記酸触媒の使用量は、原料化合物である一般式(4)で示されるフェノール類化合物に対し、0〜0.01モルが好ましい。
【0094】
また、本発明において、一般式(2)で表される繰り返し単位と、一般式(3)で表される繰り返し単位とからなり、両末端にフェノール残基を有するリン含有フェノールノボラック樹脂は、一般式(4)で示されるフェノール類化合物と、ホルムアルデヒドと、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物とを反応させることにより得ることができる。これにより、一般式(2)で示されるリン含有フェノールノボラック樹脂の骨格に、さらに一般式(3)で示されるフェノールノボラック骨格の繰り返し単位を導入することができる。
【0095】
本発明において、一般式(2)で表される繰り返し単位と、一般式(3)で表される繰り返し単位とからなり、両末端にフェノール残基を有するリン含有フェノールノボラック樹脂を得る反応において、一般式(4)で示されるフェノール類化合物と、ホルムアルデヒドと、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物とのモル比は、1.2:0.1:1〜30:10:1であるのが好ましく、1.2:0.1:1〜10:4:1であるのがより好ましい。このようなモル比とすることで、難燃性に優れたフェノールノボラック樹脂が得られる。
【0096】
本発明において、一般式(4)で示されるフェノール類化合物と、ホルムアルデヒドと、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物との反応における反応温度は、好ましくは50〜180℃であり、更に好ましくは100〜150℃である。反応時間は反応温度により影響されるが、通常は24時間以内である。
【0097】
本発明において、一般式(4)で示されるフェノール類化合物と、ホルムアルデヒドと、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物との反応を円滑に進行させるために酸触媒を使用してもよい。酸触媒としては、前記一般式(4)で示されるフェノール類化合物と、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物との反応のために使用する酸触媒として例示された酸が挙げられる。前記酸触媒の使用量は、原料化合物である一般式(4)で示されるフェノール類化合物1モルに対し、0〜0.01モルが好ましい。
【0098】
本発明の一般式(1)で示されるリン含有フェノールノボラック樹脂、及び一般式(2)で示される繰り返し単位と、一般式(3)で示される繰り返し単位とからなり、両末端にフェノール残基を有するリン含有フェノールノボラック樹脂は、フェノール性水酸基を有するため、エポキシ樹脂の硬化剤として用いることができる。
【0099】
本発明のリン含有フェノールノボラック樹脂を硬化剤として含むエポキシ樹脂組成物は、本発明のリン含有フェノールノボラック樹脂、エポキシ樹脂及び硬化促進剤を含む。
本発明のエポキシ樹脂組成物における、エポキシ樹脂は、特に限定されず、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、3,3’,5,5’−テトラメチル−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジオールジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類;フタル酸グリシジル、ヘキサヒドロフタル酸グリシジル等のグリシジルエステル類;1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等の脂肪族グリシジルエーテル類;3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビニルシクロヘキセンジオキシド、リモネンジオキシド、アリルシクロヘキセンジオキシド、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)エーテル等の脂環式エポキシ化合物類;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化ポリイソプレン等のジエン構造を有する化合物をエポキシ化することにより得られるエポキシ化ポリジエン類化合物を挙げることができる。これらエポキシ樹脂は単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0100】
本発明のエポキシ樹脂において、硬化促進剤は、例えば有機ホスフィン化合物およびそのボロン塩、第3級アミン、第4級アンモニウム塩、イミダゾール類及びそのテトラフェニルボロン塩などを挙げることができる。
【0101】
本発明のリン含有フェノールノボラック樹脂を硬化剤として含むエポキシ樹脂組成物は、本発明のリン含有フェノールノボラック樹脂の水酸基とエポキシ樹脂のエポキシ基との比がおおむね等量になるように混合し、さらに硬化促進剤を添加することにより得られる。
本発明のリン含有フェノールノボラック樹脂を硬化剤として含むエポキシ樹脂組成物を硬化する方法は、前記に定義された各成分を含むエポキシ樹脂組成物を、100〜250℃の温度で熱処理する工程を含む。これにより、本発明のリン含有フェノールノボラック樹脂を硬化剤として含むエポキシ樹脂組成物の硬化物が得られる。
【0102】
本発明のリン含有フェノールノボラック樹脂のエポキシ化樹脂の原料としての用途について説明する。本発明のリン含有フェノールノボラック樹脂は、フェノール性水酸基を有しているため、エポキシ化することによりエポキシ化リン含有ノボラック樹脂とすることができる。これにより、本発明の一般式(1)で示されるリン含有フェノールノボラック樹脂をエポキシ化したエポキシ化フェノールノボラック樹脂、及び般式(2)で表される繰り返し単位と、一般式(3)で表される繰り返し単位とを含み、両末端がフェノール残基である、リン含有フェノールノボラック樹脂をエポキシ化することにより得られる、エポキシ化リン含有ノボラック樹脂が得られる。
【0103】
一般式(1)で示されるリン含有フェノールノボラック樹脂をエポキシ化することにより得られるエポキシ化リン含有ノボラック樹脂は、一般式(11):
【化28】


(式中、R、R、A、m及びnは、前記で定義されたとおりである)
で示される。
【0104】
本発明において、一般式(11)で示されるエポキシ化ノボラック樹脂における、R、R、A、m及びnは、好ましいものを含めて一般式(1)で定義されたとおりである。
【0105】
また、本発明において、一般式(2)で表される繰り返し単位と、一般式(3)で表される繰り返し単位とを含み、両末端がフェノール残基である、リン含有フェノールノボラック樹脂をエポキシ化することにより得られる、エポキシ化リン含有ノボラック樹脂は、一般式(12):
【化29】


(式中、R、R、A及びmは、前記で定義されたとおりである)
で示される繰り返し単位と、一般式(13):
【化30】


(式中、Rは、前記で定義されたとおりである)
で示される繰り返し単位とからなり、両末端が、一般式(14):
【化31】


(式中、Rは、前記で定義されたとおりである)
で示されるエポキシ化フェノール残基である、エポキシ化リン含有ノボラック樹脂である。
【0106】
本発明において、一般式(12)で示される繰り返し単位における、R、R、A及びmは、好ましいものを含めて一般式(1)で定義されたとおりである。また、本発明において、一般式(13)で示される繰り返し単位及び一般式(14)で示されるエポキシ化フェノール残基における、Rは、好ましいものを含めて一般式(1)で定義されたとおりである。
【0107】
本発明において、一般式(12)で示される繰り返し単位と、一般式(13)で示される繰り返し単位とからなり、両末端が一般式(14)で示されるエポキシ化フェノール残基である、エポキシ化リン含有ノボラック樹脂は、具体的には下記式(15):
【化32】


(式中、
、R、A、m、n’、r及びqは、前記で定義されたとおりである)
で示される。
【0108】
また、本発明の一般式(12)で示される繰り返し単位と、一般式(13)で示される繰り返し単位とからなり、両末端が一般式(14)で示されるエポキシ化フェノール残基である、エポキシ化リン含有ノボラック樹脂として、好ましくは、一般式(15a):
【化33】


(式中、R、n’、r及びqは、前記で定義されたとおりである)
で示されるものがより好ましい。
【0109】
本発明において、一般式(15)で示されるエポキシ化リン含有ノボラック樹脂における、R、R、A及びmは、好ましいものを含めて一般式(1)で定義されたとおりであり、n’、r及びqは、好ましいものを含めて一般式(7)で定義されたとおりである。また、本発明において、一般式(15a)で示されるエポキシ化リン含有ノボラック樹脂における、Rは、好ましいものを含めて一般式(1)で定義されたとおりであり、n’、r及びqは、好ましいものを含めて一般式(7)で定義されたとおりである。
【0110】
本発明において、一般式(15)で示されるエポキシ化リン含有ノボラック樹脂は、一般式(7)で示される、リン含有フェノールノボラックをエポキシ化することによって得られる。また、一般式(15a)で示されるエポキシ化リン含有ノボラック樹脂は、一般式(7a)で示されるリン含有フェノールノボラック樹脂をエポキシ化することにより得られる。
【0111】
本発明において、一般式(11)で示されるエポキシ化リン含有ノボラック樹脂、及び一般式(12)で示される繰り返し単位と、一般式(13)で示される繰り返し単位とからなり、両末端が一般式(14)で示されるエポキシ化フェノール残基である、エポキシ化リン含有ノボラック樹脂は、本発明のリン含有フェノールノボラック樹脂をエポキシ化する方法により得られる。
【0112】
本発明のフェノールノボラック樹脂をエピクロルヒドリンと反応させてエポキシ樹脂とする方法については、例えば、前記フェノールノボラック樹脂に過剰のエピクロルヒドリンを加え、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の存在下に50〜150℃、好ましくは60〜120℃の範囲で1〜10時間程度反応させる方法が挙げられる。この場合、エピクロルヒドリンの使用量は、該フェノールノボラック樹脂の水酸基当量に対して2〜15倍モル、好ましくは2〜10倍モルである。また、使用するアルカリ金属水酸化物の使用量は、該フェノールノボラック樹脂の水酸基当量に対して0.8〜1.2倍モル、好ましくは0.9〜1.1倍モルである。
【0113】
本発明において、反応後の後処理については、反応終了後、過剰のエピハロヒドリンを蒸留除去し、残留物をメチルイソブチルケトン等の有機溶剤に溶解し、ろ過し水洗して無機塩を除去し、次いで有機溶剤を留去することにより、目的とするエポキシ樹脂を得ることができる。
【0114】
本発明のエポキシ化リン含有ノボラック樹脂は、エポキシ樹脂として用いることができる。本発明のエポキシ化リン含有ノボラック樹脂を含む硬化性樹脂組成物は、本発明のエポキシ化ノボラック樹脂及び硬化剤を含む。
【0115】
本発明のエポキシ化リン含有ノボラック樹脂を含む硬化性組成物のための硬化剤としては、各種のアミン、多価カルボン酸およびその無水物、本発明のリン含有フェノールノボラック樹脂を含むフェノールノボラック樹脂、尿素樹脂及びメラミン樹脂が挙げられ、本発明のリン含有フェノールノボラック樹脂が好ましい。
【0116】
本発明のエポキシ化リン含有ノボラック樹脂を含む硬化性組成物を硬化するための方法は、前記のリン含有フェノールノボラック樹脂を硬化剤として含む、エポキシ樹脂組成物の硬化方法と同様の方法が挙げられる。
【0117】
本発明のリン含有フェノールノボラック樹脂は、ビス(メチルフェニル)ホスフィン系架橋構造を有するため、耐加水分解性に優れたフェノールノボラック樹脂である。よって、本発明のフェノールノボラック樹脂は、特にエポキシ樹脂の硬化剤として有用である。また、本発明のエポキシ化リン含有ノボラック樹脂は、前記のリン含有フェノールノボラック樹脂と同様にビス(メチルフェニル)ホスフィン系架橋構造を有するため、難燃性に優れる硬化物を与えるエポキシ樹脂として有用である。
【実施例】
【0118】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0119】
(実施例1)
(1−1)フェニルビス(4−ブロモメチルフェニル)ホスフィンオキシドの合成
トルエン150gを三つ口フラスコに取り、無水アルミニウム40gと硫黄粉末9.6gを加え、その懸濁液に40℃以下を保ちつつフェニルジクロロホスフィン53.7gを徐々に滴下した。滴下後2時間かけて内温を110℃まで昇温し、温度を保って5時間攪拌を行った。反応液を室温まで冷却し、氷300g中へ激しく攪拌しながら一気に投入した。析出物をろ別し、ろ液を分液後、水150mLで2回洗浄した。無水硫酸ナトリウム30gを加えて乾燥させ、有機層を減圧下濃縮し、フェニルビス(4−トルイル)ホスフィンスルフィドの粗結晶87gを得た。前記粗結晶をメタノール300gで再結晶させ、白色結晶65gを得た。
【0120】
前記フェニルビス(4−トルイル)ホスフィンスルフィド77gをクロロベンゼン200mLに溶解し、水冷にて20℃以下を保ちながら塩化スルフリル33gを徐々に滴下した。滴下後室温にて1時間攪拌した。再び水冷し、水100gを徐々に加えた。黄色粘上物質を除去後、分液し、有機層を取得した。5%炭酸水素ナトリウム水溶液150mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウム30gを加えて乾燥させた。有機層を減圧下で濃縮し、フェニルビス(4−トルイル)ホスフィンオキシドの白色結晶65gを得た。
【0121】
前記フェニルビス(4−トルイル)ホスフィンオキシド65gをクロロベンゼン300mLに溶解し、N−ブロモコハク酸イミド77g、ベンゾイルパーオキシド0.5gを順に添加して80℃で4時間攪拌した。室温まで冷却後、反応液を10%チオ硫酸ナトリウム水溶液150mL、5%炭酸水素ナトリウム水溶液150mLで順に洗浄後、無水硫酸ナトリウム30gを加えて乾燥させた。ろ過後、減圧下で濃縮し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(充填剤;ワコーゲルC−200(和光純薬社製)、展開溶媒;トルエン/酢酸エチル=4/1〜1/1(容量比))で精製して、フェニルビス(4−ブロモメチルフェニル)ホスフィンオキシドを微褐色粘状液体として62g得た。
【0122】
(1−2)フェノールノボラック樹脂の合成
フェノール19.2g、前記フェニルビス(4−ブロモメチルフェニル)ホスフィンオキシド9.5gを三つ口フラスコに入れ、120℃で5時間反応させた後、90℃まで冷却し、水10gで2回洗浄した。有機層から減圧下で未反応のフェノールを除去した。得られたフェノール樹脂の融点は116−125℃であった。nは、1.3であった。
【0123】
(実施例2)フェノールノボラック樹脂の合成
フェノール8.1g、実施例(1−1)で得られたフェニルビス(4−ブロモメチルフェニル)ホスフィンオキシド10.0gを三つ口フラスコに入れ、160℃で5時間反応させた後、90℃まで冷却し、水10gで2回洗浄して、できるだけ酸根を除いた。有機層から減圧下で未反応のフェノールを除去した。得られたフェノール樹脂の融点は120−130℃であった。nは、2.5であった。
【0124】
(実施例3)
(3−1)フェニルビス(4−メトキシメチルフェニル)ホスフィンの合成
削り状マグネシウム3.75gと4−(メトキシメチル)ブロモベンゼン30.0gとから最終的には乾燥テトラヒドロフラン120mLを使用してグリニア試薬を生成させた。そこへフェニルジクロロホスフィン13.35gをテトラヒドロフラン70mLに溶解させた溶液を、10℃以下を保持しつつ滴下した。滴下後室温で1時間攪拌した。反応溶液を氷冷した0.5%硫酸水溶液200mLによく攪拌しながら一気に加え、さらにトルエン150mLを加えて分液後、有機層に無水硫酸ナトリウム20gを加えて乾燥させた。ろ過後、減圧下で濃縮し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(充填剤;ワコーゲルC−200(和光純薬社製)、展開溶媒;トルエン)で精製して、淡黄色液体としてフェニルビス(4−メトキシメチルフェニル)ホスフィン10.2gを得た。
【0125】
(3−2)フェノールノボラック樹脂の合成
フェノール15.05g(0.16mol)、前記フェニルビス(4−メトキシメチルフェニル)ホスフィン10.0g(0.022mol)、42%ホルムアルデヒド水溶液3.62g(0.015mol)、50%硫酸水溶液0.8gを三ツ口フラスコに入れ、100℃で3時間反応させた。
【0126】
その後、生成する水とメタノールとを抜き出しながら、125℃で2時間、次いで165℃で3時間反応させた。反応溶液を冷却し、水洗を3回行った。油層を分離し、減圧蒸留により未反応フェノールを留去することにより、フェノールノボラック樹脂を得た。1H-NMR(300MHz,d6-DMSO溶媒)で測定したところ、一般式(2)で示される繰り返し単位は、75%であり、一般式(3)で示される繰り返し単位は、25%であった。
【0127】
(実施例4)
(4−1)フェニルビス(4−クロロメチルフェニル)ホスフィンオキシドの合成
トルエン150gを三つ口フラスコに取り、無水アルミニウム40gと硫黄粉末9.6gを加え、その懸濁液に40℃以下を保ちつつフェニルジクロロホスフィン53.7gを徐々に滴下した。滴下後2時間かけて内温を110℃まで昇温し、温度を保って5時間攪拌を行った。反応液を室温まで冷却し、氷300g中へ激しく攪拌しながら一気に投入した。析出物をろ別し、ろ液を分液後、水150mLで2回洗浄した。無水硫酸ナトリウム30gを加えて乾燥させ、有機層を減圧下で濃縮し、フェニルビス(4−トルイル)ホスフィンスルフィドの粗結晶87gを得た。前記粗結晶をメタノール300gで再結晶させ、白色結晶65gを得た。
【0128】
前記フェニルビス(4−トルイル)ホスフィンスルフィド77gをクロロベンゼン200mLに溶解し、水冷にて20℃以下を保ちながら塩化スルフリル33gを徐々に滴下した。滴下後室温にて1時間攪拌した。再び水冷し、水100gを徐々に加えた。黄色粘上物質を除去後、分液し、有機層を取得した。5%炭酸水素ナトリウム水溶液150mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウム30gを加えて乾燥させた。有機総を減圧下で濃縮し、フェニルビス(4−トルイル)ホスフィンオキシドの白色結晶65gを得た。
【0129】
前記フェニルビス(4−トルイル)ホスフィンオキシド65gをクロロベンゼン300mLに溶解し、N−クロロコハク酸イミド104.5g、ベンゾイルパーオキシド0.5gを順に添加して80℃で4時間攪拌した。室温まで冷却後、反応液を10%チオ硫酸ナトリウム水溶液150mL、5%炭酸水素ナトリウム水溶液150mLで順に洗浄後、無水硫酸ナトリウム30gを加えて乾燥させた。ろ過後、減圧下で濃縮し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(充填剤;ワコーゲルC−200(和光純薬社製)、展開溶媒;トルエン/酢酸エチル=4/1〜1/1(容量比))で精製して、フェニルビス(4−クロロメチルフェニル)ホスフィンオキシドを微褐色粘状液体として64g得た。
【0130】
(4−2)フェノールノボラック樹脂の合成
フェノール17.9g(0.19mol)、前記フェニルビス(4−クロロメチルフェニル)ホスフィンオキシド10.0g(0.027mol)を三ツ口フラスコに入れ、生成する塩酸を留去しながら、100℃で3時間反応させ、その後42%ホルムアルデヒド水溶液43.4g(0.18mol)を添加し、その後100℃で3時間反応させた。
【0131】
その後、反応溶液を冷却し、水洗を3回行った。油層を分離し、減圧蒸留により未反応フェノールを留去することにより、フェノールノボラック樹脂を得た。1H-NMR(300MHz,d6-DMSO溶媒)で測定したところ、一般式(2)で示される繰り返し単位は、20%であり、一般式(3)で示される繰り返し単位は、80%であった。
【0132】
難燃性試験例1
実施例1で得られたフェノール樹脂を約10mgとり、正確に秤量して、TG/DTA320(セイコー電子工業製)を用いて熱重量分析(TGA)測定を行った。また、フェノールノボラック樹脂(フェノールとホルムアルデヒドとから得られるフェノールノボラック樹脂、明和化成製「HF−1」:軟化点84℃、水酸基当量106)についても、同様の測定を行った。
【0133】
結果を図1に示す。300℃から800℃における質量残存量は、ビス(メチルフェニル)ホスフィン系架橋基を骨格中に含んだ実施例1で得られたリン含有フェノールノボラック樹脂では31.4%であり、フェノール樹脂(HF−1)では27.5%であった。すなわち、実施例1のリン含有フェノールノボラック樹脂の質量残存量は、フェノール樹脂(HF−1)の質量残存量を上回っており、チャー(炭化物)の形成量が多く、より難燃性に優れることが示される。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本願発明のフェノールノボラック樹脂は、難燃性、電気特性及び耐吸水性に優れたフェノールノボラック樹脂として利用可能である。特に、難燃剤のブリードアウトを防止することができ、電気及び電子産業用、電子部品の封止用、積層板用のエポキシ樹脂の硬化剤として用いられ、難燃性に優れた性質を有するフェノールノボラック樹脂として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化34】


(式中、
は、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数2〜4のアルケニル基、炭素原子数6〜20のアリール基又は炭素原子数1〜4のアルキル基で置換された炭素原子数6〜20のアリール基であり、
は、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基又は炭素原子数2〜4のアルケニル基であり、
nは、1〜9であり、
mは、0又は1であり、
Aは、硫黄原子又は酸素原子である)
で示されるリン含有フェノールノボラック樹脂。
【請求項2】
一般式(2):
【化35】


(式中、R、R、m及びAは、請求項1で定義されたとおりである)
で表される繰り返し単位と、一般式(3):
【化36】


(式中、Rは、請求項1で定義されたとおりである)
で表される繰り返し単位とからなり、両末端にフェノール残基を有する、リン含有フェノールノボラック樹脂。
【請求項3】
がフェニル基である、請求項1又は2に記載のリン含有フェノールノボラック樹脂。
【請求項4】
請求項1に記載の一般式(1)で示されるリン含有フェノールノボラック樹脂の製造方法であって、一般式(4):
【化37】


(式中、Rは、請求項1で定義されたとおりである)
で示されるフェノール類化合物と、一般式(5):
【化38】


(式中、
、m及びAは、請求項1で定義されたとおりであり、
は、互いに独立に、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、メタンスルホニルオキシ基又はトルエンスルホニルオキシ基である)
で示される2官能性リン含有化合物とを反応させる工程を含む、方法。
【請求項5】
請求項2記載のリン含有フェノールノボラック樹脂の製造方法であって、一般式(4):
【化39】


(式中、Rは、請求項1で定義されたとおりである)
で示されるフェノール類化合物と、ホルムアルデヒドと、一般式(5):
【化40】


(式中、
、m及びAは、請求項1で定義されたとおりであり、
は、請求項4で定義されたとおりである)
で示される2官能性リン含有化合物とを反応させる工程を含む、方法。
【請求項6】
一般式(4)で示されるフェノール類化合物と、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物とを反応させる工程が、一般式(4)で示されるフェノール類化合物と、一般式(5)で示されるリン含有2官能性化合物とのモル比を、1.2:1〜10:1で反応させる工程である、請求項4記載のリン含有フェノールノボラック樹脂の製造方法。
【請求項7】
一般式(4)で示されるフェノール類化合物と、ホルムアルデヒドと、一般式(5)で示される2官能性リン含有化合物とを反応させる工程が、一般式(4)で示されるフェノール類化合物と、ホルムアルデヒドと、一般式(5)で示されるリン含有2官能性化合物とのモル比を、1.2:0.1:1〜30:5:1で反応させる工程である、請求項5記載のリン含有フェノールノボラック樹脂の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のフェノールノボラック樹脂をエポキシ化することにより得られる、エポキシ化リン含有ノボラック樹脂。
【請求項9】
請求項8に記載のエポキシ化リン含有ノボラック樹脂と、硬化剤とを含有するエポキシ樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−213830(P2011−213830A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82275(P2010−82275)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】