説明

リン酸カルシウム成形体の製造方法

【課題】焼成時の変形および脆化を最小限に抑え、焼成後の機械加工等を不要なリン酸カルシウム成形体を製造する。
【解決手段】リン酸カルシウム粒子と、溶媒と、ゲル化剤とを混合してゲル状のセラミックス複合体を生成するゲル複合体生成ステップS1と、該ゲル複合体生成ステップS1において生成されたゲル状のセラミックス複合体を成形する成形ステップS2と、該成形ステップにおいて成形されたセラミックス複合体を焼成する焼成ステップS3とを含むリン酸カルシウム成形体の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸カルシウム成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リン酸カルシウム粉末と水と分散剤とを混合してなるスラリーを乾燥して得られたグリーン体を焼成することにより、リン酸カルシウム成形体を製造する製造方法が一般に知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−176371号公報
【特許文献2】特開2004−41356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの特許文献1,2に開示されている製造方法では、スラリーを乾燥させ焼成する際に発生する収縮が大きいため、焼成前に製品形状を成形することは困難であり、焼成後に機械加工等によって成形しなければならないという不都合がある。また、収縮が大きいため、最終的に得られるリン酸カルシウム成形体の脆性が大きくなってしまうという不都合もある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、焼成時の変形および脆化を最小限に抑え、焼成後の機械加工等が不要なリン酸カルシウム成形体を製造することができるリン酸カルシウム成形体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、リン酸カルシウム粒子と、溶媒と、ゲル化剤とを混合してゲル状のセラミックス複合体を生成するゲル複合体生成ステップと、該ゲル複合体生成ステップにおいて生成されたゲル状のセラミックス複合体を成形する成形ステップと、該成形ステップにおいて成形されたセラミックス複合体を焼成する焼成ステップとを含むリン酸カルシウム成形体の製造方法を提供する。
【0007】
本発明によれば、ゲル複合体生成ステップによりゲル状のセラミックス複合体が生成され、成形ステップにおいて、ゲル状のセラミックス複合体が成形される。その後、成形されたセラミックス複合体が焼成ステップにおいて焼成されることにより、リン酸カルシウム成形体が製造される。この場合に、セラミックス複合体を構成しているリン酸カルシウム粒子は、溶媒とゲル化剤とにより構成されたゲル状物質によって、相互に固定されたまま焼成され、最終的にゲル状物質が消失してリン酸カルシウム成形体が製造される。したがって、焼成の早期において消失する水によってリン酸カルシウム粒子を固定していた従来の方法と比較して、焼成時における収縮および脆化を抑えることができ、焼成後の機械加工が不要で、強度の高いリン酸カルシウム成形体を製造することができる。
【0008】
上記発明においては、前記リン酸カルシウム粒子が、ハイドロキシアパタイト、βリン酸三カルシウム、第1リン酸カルシウム、第2リン酸カルシウム、第3リン酸カルシウム、第8リン酸カルシウムおよびそれらの混合物のいずれかからなることとしてもよい。
【0009】
また、上記発明においては、前記ゲル化剤が、アルギン酸ナトリウム、ポリガラクツロン酸、ペクチン、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチン、カラギーナン、寒天、メタクリル酸エステルポリマー、アクリル酸エステルポリマー、ポリビニルアルコール、ジイソシアネート、ジアミン、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸およびそれらの共重合体、ポリエチレングリコールおよびその共重合体、およびこれらの混合物のいずれかからなることとしてもよい。
【0010】
また、上記発明においては、前記成形ステップが、前記ゲル複合体生成ステップにおいて生成されたゲル状のセラミックス複合体を、カルシウムイオンを含む溶液内に滴下することにより、球状のハイドロゲルからなるセラミックス複合体に成形することとしてもよい。
【0011】
また、上記発明においては、前記成形ステップが、前記ゲル状のセラミックス複合体に含有されている溶媒を乾燥させる乾燥ステップを含むこととしてもよい。
また、上記発明においては、前記ゲル状のセラミックス複合体におけるリン酸カルシウム粒子とゲル化剤との重量比が、リン酸カルシウム:ゲル化剤=95:5〜33:67の範囲であることとしてもよい。
【0012】
また、上記発明においては、前記ゲル状のセラミックス複合体における溶媒の比率が、重量比で10〜99%であることとしてもよい。
また、上記発明においては、前記リン酸カルシウム粒子が、メカノケミカル法により生成されたβリン酸三カルシウム粉末であることとしてもよい。
【0013】
また、上記発明においては、前記リン酸カルシウム粒子が、カルシウム:リン=3:2となるカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトを700〜950℃で仮焼することにより得られたβリン酸三カルシウムであることとしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る骨補填材によれば、焼成時の変形および脆化を最小限に抑え、焼成後の機械加工等が不要なリン酸カルシウム成形体を製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係るリン酸カルシウム成形体の製造方法について、図1を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るリン酸カルシウム成形体の製造方法は、図1に示されるように、リン酸カルシウム粒子と、ゲル化剤と、溶媒とを混合してゲル状のセラミックス複合体を生成するゲル複合体制生成ステップS1と、該ゲル複合体生成ステップS1において生成されたゲル状のセラミックス複合体を成形する成形ステップS2と、該成形ステップS2において成形されたセラミックス複合体を焼成する焼成ステップS3とを含んでいる。
【0016】
リン酸カルシウム粒子としては、例えば、ハイドロキシアパタイト、βリン酸三カルシウム、第1リン酸カルシウム、第2リン酸カルシウム、第3リン酸カルシウム、第8リン酸カルシウムおよびそれらの混合物のいずれかを採用することができる。あるいは、メカノケミカル法により生成されたβリン酸三カルシウム粉末を採用することにしてもよい。
【0017】
また、ゲル化剤としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、ポリガラクツロン酸、ペクチン、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチン、カラギーナン、寒天、メタクリル酸エステルポリマー、アクリル酸エステルポリマー、ポリビニルアルコール、ジイソシアネート、ジアミン、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸およびそれらの共重合体、ポリエチレングリコールおよびその共重合体、およびこれらの混合物のいずれかを採用することができる。
また、溶媒としては、例えば、純水あるいは蒸留水を採用することができる。
【0018】
前記ゲル複合体制生成ステップS1においては、リン酸カルシウム粒子と、ゲル化剤と、溶媒とが混合されることにより、リン酸カルシウム粒子が、ゲル化剤と溶媒との混合により生成されたゲル状物質によって相互に固定された状態のゲル状のセラミックス複合体が生成される。
【0019】
前記成形ステップS2は、ゲル状のセラミックス複合体を塩化カルシウム水溶液内に滴下することにより行われる。液滴の大きさは、ほぼ最終的なリン酸カルシウム成形体の大きさに設定することができる。塩化カルシウム水溶液内に滴下されたゲル状のセラミックス複合体は、略球状のハイドロゲルを構成するようになっている。
【0020】
前記焼成ステップS3は、成形されたハイドロゲルからなる略球状のセラミックス複合体に含有されている溶媒を乾燥させる乾燥ステップS31と、該乾燥ステップS31により溶媒を乾燥させたセラミックス複合体を焼結する焼結ステップS32とを含んでいる。
【0021】
このように構成された本実施形態に係るリン酸カルシウム成形体の製造方法によれば、ゲル複合体生成ステップS1によりゲル状のセラミックス複合体が生成され、成形ステップS2において、ハイドロゲルからなる略球状のセラミックス複合体が成形される。その後、成形されたセラミックス複合体が焼成ステップS3において焼成されることにより、略球状のリン酸カルシウム成形体が製造される。
【0022】
この場合に、ゲル複合体生成ステップS1において生成されたゲル状のセラミックス複合体に含まれるリン酸カルシウム粒子は、溶媒とゲル化剤とにより構成されたゲル状物質によって、相互に固定される。成形ステップS2においては、リン酸カルシウム粒子どうしがゲル状物質によって相互に固定された状態のままで、最終的なリン酸カルシウム成形体の形状である略球形状に整えられる。
【0023】
そして、焼成ステップS3においては、リン酸カルシウム粒子どうしがハイドロゲルによって相互に固定された状態のままで、乾燥および焼結される。このとき、乾燥ステップS31において、ハイドロゲルに含まれる水分が蒸発させられるが、乾燥したハイドロゲルがリン酸カルシウム粒子どうしを相互に固定した状態に維持するので、収縮が防止され、ひび割れないように保持される。
【0024】
また、焼結ステップS32においても、最終的にハイドロゲルは焼失することとなるが、隣接するリン酸カルシウムどうしが焼結して一体化するまで固定状態に維持するので、収縮が防止され、形状が維持される。
すなわち、本実施形態に係るリン酸カルシウム成形体の製造方法によれば、乾燥および焼成時における収縮および脆化を抑えることができて、焼成前のセラミックス複合体の寸法を維持することができるので、焼成後の機械加工が不要で、強度の高いリン酸カルシウム成形体を製造することができるという利点がある。
【0025】
ここで、本実施形態に係るリン酸カルシウム成形体の製造方法の実施例を説明する。
まず、750℃で仮焼されたβリン酸三カルシウム粉末10gとアルギン酸ナトリウム1gとを混合し、次いで、混合物に蒸留水22gを加えて混練した。そして、得られた混練物を、0.1mol/Lの塩化カルシウム水溶液中に滴下することにより、略球状のβリン酸三カルシウムハイドロゲルを成形した。このようにして得られたハイドロゲルを、常圧、室温で24時間乾燥させた後、1050℃で1時間焼成し、略球状のβリン酸三カルシウム多孔体からなるリン酸カルシウム成形体を得た。
【0026】
このようにして本実施形態に係る製造方法により製造されたリン酸カルシウム成形体は、略球形に形成されているので、高い充填効率で、骨欠損部等に充填することができ、その結果、細胞を付着させるための広い表面積を確保して、生体組織の修復を促進することができるという利点がある。
【0027】
なお、本実施形態においては、ゲル状のセラミックス複合体を塩化ナトリウム水溶液に滴下して略球状のハイドロゲルからなるセラミックス複合体に成形したが、これに代えて、ハイドロゲルを構成することなく、ゲル状のセラミックス複合体を任意の容器に流し込んで成形することにしてもよい。
【0028】
また、リン酸カルシウムとゲル化剤との質量比は、リン酸カルシウム:ゲル化剤=95:5〜33:67の範囲に設定することができる。
また、ゲル状のセラミックス複合体に含有される溶媒の重量比を10〜99%の範囲に設定することとしてもよい。
【0029】
また、リン酸カルシウム粒子として、メカノケミカル法で作成されたβリン酸三カルシウム粉末を採用してもよい。
また、リン酸カルシウム粒子として、Ca:P=3:2となるカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトを700〜950℃で仮焼して得られたβリン酸三カルシウム粉末を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係るリン酸カルシウム成形体の製造方法を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0031】
S1 ゲル複合体生成ステップ
S2 成形ステップ
S3 焼成ステップ
S31 乾燥ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸カルシウム粒子と、溶媒と、ゲル化剤とを混合してゲル状のセラミックス複合体を生成するゲル複合体生成ステップと、
該ゲル複合体生成ステップにおいて生成されたゲル状のセラミックス複合体を成形する成形ステップと、
該成形ステップにおいて成形されたセラミックス複合体を焼成する焼成ステップとを含むリン酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項2】
前記リン酸カルシウム粒子が、ハイドロキシアパタイト、βリン酸三カルシウム、第1リン酸カルシウム、第2リン酸カルシウム、第3リン酸カルシウム、第8リン酸カルシウムおよびそれらの混合物のいずれかからなる請求項1に記載のリン酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項3】
前記ゲル化剤が、アルギン酸ナトリウム、ポリガラクツロン酸、ペクチン、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチン、カラギーナン、寒天、メタクリル酸エステルポリマー、アクリル酸エステルポリマー、ポリビニルアルコール、ジイソシアネート、ジアミン、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸およびそれらの共重合体、ポリエチレングリコールおよびその共重合体、およびこれらの混合物のいずれかからなる請求項1または請求項2に記載のリン酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項4】
前記成形ステップが、前記ゲル複合体生成ステップにおいて生成されたゲル状のセラミックス複合体を、カルシウムイオンを含む溶液内に滴下することにより、球状のハイドロゲルからなるセラミックス複合体に成形する請求項1から請求項3のいずれかに記載のリン酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項5】
前記成形ステップが、前記セラミックス複合体に含有されている溶媒を乾燥させる乾燥ステップを含む請求項1から請求項4のいずれかに記載のリン酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項6】
前記ゲル状のセラミックス複合体におけるリン酸カルシウム粒子とゲル化剤との重量比が、リン酸カルシウム:ゲル化剤=95:5〜33:67の範囲である請求項1から請求項5のいずれかに記載のリン酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項7】
前記ゲル状のセラミックス複合体における溶媒の比率が、重量比で10〜99%である請求項1から請求項6のいずれかに記載のリン酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項8】
前記リン酸カルシウム粒子が、メカノケミカル法により生成されたβリン酸三カルシウム粉末である請求項1に記載のリン酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項9】
前記リン酸カルシウム粒子が、カルシウム:リン=3:2となるカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトを700〜950℃で仮焼することにより得られたβリン酸三カルシウムである請求項1に記載のリン酸カルシウム成形体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−279008(P2008−279008A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124842(P2007−124842)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(304050912)オリンパステルモバイオマテリアル株式会社 (99)
【Fターム(参考)】