説明

リン酸化糖とその製造方法

【課題】従来のリン酸化糖よりも機能が高く、少ない添加率で効果があり、生体内での効果がより期待できる高いカルシウム可溶能を有するリン酸化糖を工業的に得る方法を提供する。
【解決手段】 結合リン0.1〜5質量%のリン酸化澱粉の懸濁液に澱粉分解酵素を添加してリン酸化澱粉を酵素分解により低分子化して酵素分解液を得た後、該酵素分解液をイオン交換樹脂処理及び/又は膜処理による精製工程で精製して平均重合度15〜100で、1分子当たりの平均結合リン数が3個以上のリン酸化糖画分を得ることを特徴とする、平均重合度15〜100で、1分子当たりの平均結合リン数が3個以上のリン酸化糖の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉をリン酸化して得られるリン酸化澱粉から高い機能を有するリン酸化デキストリン(11個以上のぶどう糖がα結合したデキストリンにリン酸が結合したリン酸化糖)を効率よく生産する方法に関するものである。本発明で得られるリン酸化糖は、食品、医薬、飼料、肥料、工業用化学品など広範囲で利用される機能性素材である。
【背景技術】
【0002】
リン酸化糖は、糖にリン酸がエステル結合したものであり、これまでにカルシウムの沈澱抑制効果、歯の再石灰化、脱灰抑制効果、免疫賦活効果など多くの機能が報告されている。
【0003】
特許文献1では、天然の馬鈴薯澱粉を酵素分解することで重合度2から8で分子内の結合リンが1から2個のリン酸化オリゴ糖を作製している。
【0004】
これまで知られてきたリン酸化糖は、低分子でかつ1分子の結合リン数が2個以下のものが多いため、目標の機能を得るためにより多くの添加量が必要であった。またそれらは生体内では小腸粘膜上のアルカリフォスファターゼ等より分解されやすく、1分子の結合リン数が1個になるとカルシウム等の金属をキレート効果で溶解する能力が著しく弱まるため、機能が十分に期待できなくなる可能性がある。
【0005】
特許文献2には、高い機能をもつリン酸化糖が開示されており、特許文献2でいうCa可溶化係数で50程度とかなり高い能力のものが例示されている。しかしながら、これはテーブル試験で作製したものであり、実際の食品グレードの製品を生産するためには工業的精製を行わなくてはならず、その間に高機能成分が一部除去されてしまうためか、工業的に生産されたリン酸化糖製品の可溶化係数は高くても20前後になっていた。
【0006】
【特許文献1】特開平8−104696号公報
【特許文献2】特開平11−255803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来のリン酸化糖よりも機能が高く、少ない添加率で効果があり、生体内での効果がより期待できるリン酸化糖を工業的に得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、リン酸化澱粉の酵素処理液を精製して得られる平均重合度が15〜100で、1分子辺りの平均結合リン数が3個以上のリン酸化糖が従来のリン酸化糖と比べてはるかに高いCa可溶化機能を始めとする複数機能を有することを見いだした。
【0009】
本発明で得られるリン酸化糖の中には、1つの分子に10個以上のリン酸基が結合しているものもあり、それらが数種の機能を高いレベルで発揮することはこれまで知られていなかった。本発明者らは、in vitroの試験により、1つの分子にリン酸基が多く結合しているリン酸化糖が、1分子内の結合リンが少ないものよりもフォスファターゼで分解されにくいという知見を得、リン酸化澱粉の酵素分解液からこれらの結合リンが多いリン酸化糖を含む画分を効率よく取り出すための研究を重ねた結果、イオン交換処理法や膜処理法を駆使して精製することで、この高機能のリン酸化糖のみを効率的に得ることができる方法を見いだし、本発明を完成させた。本発明は以下の各発明を包含する。
【0010】
(1)結合リン0.1〜5質量%のリン酸化澱粉の懸濁液に澱粉分解酵素を添加してリン酸化澱粉を酵素分解により低分子化して酵素分解液を得た後、該酵素分解液をイオン交換樹脂処理及び/又は膜処理による精製工程で精製して平均重合度15〜100で、1分子当たりの平均結合リン数が3個以上のリン酸化糖画分を得ることを特徴とする、平均重合度15〜100で、1分子当たりの平均結合リン数が3個以上のリン酸化糖の製造方法。
【0011】
(2)前記イオン交換樹脂処理による精製工程が、前記酵素分解液を強酸性イオン交換樹脂層に通液し、引き続き弱塩基性アニオン交換樹脂層あるいは強塩基性アニオン交換樹脂層に通液し、次いで該アニオン交換樹脂層を水洗して結合しなかった糖を除去した後、リン酸化糖が結合した該アニオン交換樹脂層に0.01〜0.2Mの無機塩溶液又は有機酸塩溶液を通液し、さらに、0.15〜2Mの無機塩溶液又は有機酸塩溶液を該アニオン交換樹脂層に通液して溶出される平均重合度15〜100で、1分子当たりの平均結合リン数が3個以上のリン酸化糖の画分を得る分画工程であることを特徴とする、(1)項記載のリン酸化糖の製造方法。
【0012】
(3)前記0.15〜2Mの無機塩溶液又は有機酸塩溶液を前記アニオン交換樹脂層に通液して溶出される平均重合度15〜100で、1分子当たりの平均結合リン数が3個以上のリン酸化糖の画分を得る工程は、前記アニオン交換樹脂層に前記0.15〜2Mの無機塩溶液又は有機酸塩溶液から選ばれる少なくとも2種類以上の濃度の異なる無機塩溶液又は有機酸塩溶液を順次通液してリン酸化糖の回収を行う工程であることを特徴とする(2)項記載のリン酸化糖の製造方法。
【0013】
(4)前記膜処理による精製工程が、分画分子量2000以上の膜でリン酸化澱粉の澱粉分解酵素による酵素分解液を膜処理し、濃縮側の試料として平均重合度15〜100で、1分子当たりの平均結合リン数が3個以上のリン酸化糖を得る分画工程であることを特徴とする、(1)項記載のリン酸化糖の製造方法。
【0014】
(5)前記膜処理による精製工程が、分画分子量分画分子量2000から20000の膜でリン酸化澱粉の澱粉分解酵素による酵素分解液を膜処理する工程であることを特徴とする(4)項記載のリン酸化糖の製造方法。
【0015】
(6)前記(1)項〜(5)項のいずれか1項に記載の製造方法で得られる平均重合度15〜100で、1分子当たりの平均結合リン数が3個以上のリン酸化糖を有効成分として含有する機能性リン酸化糖組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法で得られるリン酸化糖を用いることで、より低い添加量で従来のリン酸化糖以上の機能を付与することができ、食品のみならず、医薬やその他の分野での利用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の方法における処理対象原料物質であるリン酸化澱粉は、澱粉にリン酸基が結合した酸性多糖であり、食品添加物に規定されている「でんぷんリン酸エステルナトリウム」もその一種であるが、これに限定されるものではなく、食品添加物の規定に含まれない結合リン含量の多いリン酸化澱粉や、カリウム塩などの塩の形態の異なるリン酸化澱粉も本発明の方法における処理対象原料に含まれるものである。
食品添加物としてのでんぷんリン酸エステルナトリウムは、リン酸がエステル型で澱粉に結合しており、結合リン含量が0.2〜3.0質量%、無機リン比率が20%以下と規定されている。無機リン比率とは、全リン(結合リン+無機リン)に対する遊離の無機リンの比率を指す。
【0018】
リン酸化澱粉の製造方法は公知の方法から任意に選択できるが、澱粉にリン酸塩を混合し、加熱反応させることが一般的に行われる。本発明の方法で処理される原料リン酸化澱粉は、澱粉にリン酸がエステル結合したものであれば特にその製造方法に制限はない。また、リン酸化澱粉の原料である澱粉についても、コーン、馬鈴薯、甘藷、タピオカなど、いかなる起源の澱粉も使用できる。
【0019】
リン酸化澱粉のもう一方の原料であるリン酸塩に関しては、例えば、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、又はトリポリリン酸ナトリウムなどの食品添加物だけでなく、広くリン酸化剤が使用できる。
【0020】
本発明の方法は、上記の方法で得られたリン酸化澱粉を澱粉分解酵素処理で低分子化し、さらにイオン交換樹脂や膜を用いてより高い機能を有するリン酸化糖を得るための方法である。
リン酸化澱粉を澱粉分解酵素で低分子化するには、100℃以下の熱水にリン酸澱粉を分散させ、非加圧下で攪拌しながら酵素反応させる方法も可能であるが、例えば、特開2007−20567公報に示される二段酵素処理が収率や濾過性の向上の点から非常に有効である。リン酸化澱粉は、酸での低分子化も可能であるが、マイルドな条件で行わないと結合リンの分解を伴うので、酵素を使用して分解する方が好ましい。
【0021】
リン酸化澱粉の酵素処理後の液は、MF膜、例えばポアサイズ0.2μm程度のセラミックフィルターなどで濾過して前処理しておくと詰まりなどの問題が解消されて以降の精製工程が容易になる。酵素処理液は、必要に応じて活性炭処理して脱色・脱臭してもよい。
引き続き、リン酸化澱粉の酵素分解液をイオン交換樹脂や膜による処理によりさらに精製する。
【0022】
イオン交換樹脂で精製する場合は、酵素分解処理液をカチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂の順に10から50℃の温度で容積速度(SV)1〜5で通液を行う。カチオン交換樹脂は強酸性のものであればよく、アニオン交換樹脂は弱塩基性、強塩基性のいずれでも使用可能であるが、強塩基性のものは特に新品の状態では着色や分解が起こりやすいため、弱塩基性の方が好ましい。試料通液終了後、アニオン交換樹脂出口の糖濃度が0%付近になるまで純水などで洗浄してリンの結合していない中性糖を除去する。
【0023】
引き続き、アニオン交換樹脂塔に少なくとも2種類以上の濃度の異なる無機塩又は有機酸塩溶液を順次通液してリン酸化糖の回収を行う。リン酸化糖の回収に際しては、最初に、0.01〜0.2Mの無機塩溶液又は有機酸塩溶液を10〜50℃、好ましくは20〜40℃で、SV=1.5〜4で通液する。使用する無機塩や有機酸塩については特に限定しないが、無機塩に関してはNaCl、KCl、CaCl、MgClなどの溶解度の高い金属塩化物が好ましい。
【0024】
最初の塩溶液の通液終了後は、純水を通液して樹脂塔を洗浄する。その後、イオン交換樹脂塔に先ほどより濃い、0.15〜2Mの無機塩溶液又は有機酸塩溶液を10〜50℃、好ましくは20〜40℃で、SV=1〜5で通液して溶出画分を得る。この場合、無機塩や有機酸塩の溶液を、例えば0.01M→0.05M→0.1M→0.5M→1.0Mというように異なる濃度で数段階に分けて順次溶出、分画を行っても良い。溶出液のpHが7よりも高い場合はカチオン交換樹脂でpHを6〜7に調整する。
【0025】
さらに溶出液の塩濃度が高い場合や無機リンなどの不純物が存在する場合は、必要に応じて分画分子量1000以下の膜、例えばNTR−7450(日東電工社製)等で脱塩する。また、着色がひどい場合などは、必要に応じて再度活性炭処理を行っても良い。
0.15M〜2Mの濃度の塩溶液による溶出液画分には平均重合度15以上、1分子当りの結合リンが3以上のリン酸化糖が主成分として存在し、これらのリン酸化糖は、これまで報告されているリン酸化糖と比べより高い機能を示すことが判明した。
【0026】
膜処理で精製して、目的のリン酸化糖を得るには、分画分子量2000から10000程度の膜、例えば、OSMONICS社製 G−10、G−20、G−50や、日東電工社製 NTR−7410などを用いて酵素処理液を膜処理し、濃縮側に残ったものを得る。さらに精製度を上げるため、濃縮側の液に再度純水を添加、希釈し、再度濃縮してもよい。またイオン交換膜での脱塩も有効である。
なお、膜処理だけの精製では、リン酸化澱粉の酵素分解で生じたリン結合していない中性糖を完全に除去することができないため、最終的に得られるのはリン酸化糖と中性糖の混合組成となることが多いが、少なくとも、有効成分である平均重合度が15〜100で、1分子当たりの平均結合リン数が3個以上のリン酸化糖が含まれていればよい。
【0027】
イオン交換や膜処理で精製したリン酸化糖やリン酸化糖組成物を水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、あるいはカチオン交換樹脂でpHを6〜7に調整後、除菌フィルター(ポアサイズ0.2〜0.45μm)で濾過し、スプレードライや凍結乾燥で乾燥することにより目的とする高機能のリン酸化糖又はリン酸化糖組成物が得られる。また、必要に応じて、デキストリン等の他の成分と混合してから乾燥させてリン酸化糖組成物としてもよい。
なお、食品添加物のでんぷんリン酸エステルナトリウムの規格に適合した、結合リン3質量%未満、無機リン比率20%未満のリン酸化糖を得るためには、原料のリン酸澱粉の選定や精製操作が必要となる場合がある。
【0028】
本発明の方法で得られる平均重合度15以上で、かつ分子当り平均結合リンが3個以上のリン酸化糖、及び/又はリン酸化糖組成物は、リン酸カルシウムの沈澱形成阻害作用(カルシウム可溶化作用)、歯の脱灰抑制作用、免疫増強作用など産業上有用な機能を有していることが知られており、食品、飲料、調味料、味質改善剤、口腔衛生剤、洗剤、入浴剤、医薬品、化粧品、金属補給剤、金属吸収促進剤、糊剤、混和剤、塗料、顔料、飼料又は肥料の成分として用いられる。
さらに、本発明の方法で得られる平均重合度15以上で、かつ分子当り平均結合リンが3個以上のリン酸化糖、及び/又はリン酸化糖組成物は、食品、飲料、調味料、味質改善剤、口腔衛生剤、洗剤、入浴剤、医薬品、化粧品、金属補給剤、金属吸収促進剤、糊剤、混和剤、塗料、顔料、飼料又は肥料などへの添加物として利用することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0030】
<測定法>
リンの測定は、Fiske−Subbarow法(澱粉・関連糖質実験法、学会出版センター発行)で行った。試料を湿式分解処理してから測定したものを全リン、分解処理しないで試料中の遊離のリンを測定したものを無機リンとし、次式で結合リンを算出した。測定値は乾燥質量に対する質量%で表示した。
結合リン(質量%)=全リン(質量%)−無機リン(質量%)
【0031】
平均重合度は、グルコースを標準としてソモギー・ネルソン法で還元糖を、フェノール硫酸法で全糖を測定し(還元糖の定量法、学会出版センター発行)、次式により算出した。
平均重合度=全糖(質量%)÷還元糖(質量%)
【0032】
一分子当りの平均結合リン数は、次式により、まず結合リン1個当りのぶどう糖数を算出し、次に平均重合度を結合リン1個当りのぶどう糖数で除すことで求めた。
結合リン1個当りのぶどう糖
=(全糖(質量%)÷180)÷(結合リン(質量%)÷31)
一分子当りの平均結合リン数=平均重合度÷結合リン1個当りのぶどう糖数
【0033】
Ca可溶化、つまり沈澱抑制能の評価は特許文献2に示される以下の方法で行い、Ca可溶化係数として表した。
30℃に保温した15mMリン酸緩衝液(pH7.4)2.5mlをバイアル瓶に添加し、0.01〜0.1%まで数段階に希釈した試料溶液を0.5ml加えて混合する。ついで、30℃に保温した12.5mMの塩化カルシウム溶液2.0mlを添加し、よく混合後、30℃で1時間保持した。1時間後、反応液1mlを採取して15000rpmで1分間遠心分離し、上清のCa濃度をCa測定キット(和光純薬製)で測定した。
【0034】
その際、同時に、希釈試料の代わりに蒸留水を加えて反応したものを加え、対照1液とする。また希釈試料とリン酸緩衝液の代わりに蒸留水を加えたものを、対照2液とする。次に、各希釈試料液のCa可溶化率を次式で求める。

Ca可溶化率=〔(試料液上清のCa濃度−対照1液のCa濃度)/(対照2液のCa 濃度−対照1液のCa濃度)〕×100

【0035】
測定液の試料濃度を横軸にとり、Ca可溶化率を縦軸にとってグラフを作成し、Ca可溶化率が50%となる試料濃度を求める。この試料濃度(%)の逆数をCa可溶化係数とする。例えば、試料濃度0.05%でCa可溶化率が50%であればCa可溶化係数は20となる。なお、Ca可溶化係数は50%の点を挟むCa可溶化率20〜80%以内に収まる試料濃度2点を結んだ直線とCa可溶化率50%の交点から算出し、小数点1位以下を四捨五入して整数として表す。
【0036】
<実施例1>
70℃の温水71Lに塩化カルシウム二水和物34gを溶解した後、攪拌しながらリン酸化澱粉(Na塩、結合リン2.7%、王子コーンスターチ社製)8kgを徐々に添加しながら溶解した。水酸化ナトリウムでpH6.0とした後、耐熱性α-アミラーゼのターマミル クラシック(ノボザイムズ社製)を対澱粉0.05質量%添加し、5分間保持した。粘度が下がり始めると同じリン酸化澱粉4.5kgを徐々に追加添加した。水酸化ナトリウムでpH6.0に再調整後、追加した澱粉に対してターマミル クラシックを0.05質量%添加して10分保持した。次に、調製したリン酸化澱粉分散液をジェットクッカーにて入口温度110℃、滞留時間5分の条件で処理した。この操作を4回繰り返して50kgのリン酸化澱粉を処理した。ジェットクッカー処理した液をタンクに集め、60℃まで冷却後、ターマミル クラッシックを対澱粉0.05質量%追加添加し、60℃、3時間攪拌しながら反応させた。酵素反応は塩酸でpH3.5に調整し、終了させた。
【0037】
得られた酵素分解液に粉末活性炭PM−KIとPM−SX(ともに三倉化成社製)の等量混合物を対固形分10質量%添加し、60℃、2時間攪拌保持した。その後、セラミック濾過機(0.2μm、トライテック社製)で残渣と活性炭を除去した。濾過供給液が減少したら純水を添加して透過液のBrixが1以下になるまで濾過を行った。引き続きセラミックフィルターの濾過液をUF膜のG−20(OSMONICS社製)を用いて脱塩・濃縮処理した。さらに、10質量%の水酸化ナトリウムでpH6.3(1質量%溶液で測定)に調整した。0.45μmのポリスルフォンのメンブレンフィルター(ロキテクノ社製)で濾過後、スプレードライヤー(ニロ社製)で乾燥粉末化して23.5kgのリン酸化糖組成物(水分6質量%、結合リン2.9質量%、平均重合度20)を得た。 収率は45%で、一分子当りの平均結合リン数は3.7であった。
【0038】
<実施例2>
実施例1で使用したリン酸化澱粉50kgを、実施例1と同様にして酵素分解し、得られた酵素分解液を同様にして活性炭処理、濾過した。濾過液を膜(NTR−7410、日東電工社製)を用いて脱塩・濃縮処理した。この液を10質量%の水酸化ナトリウムでpH6.4(1質量%溶液で測定)に調整し、前述の0.45μmのメンブレンフィルターで濾過後、スプレードライヤーで乾燥粉末化して26.6kgのリン酸化糖組成物(水分6質量%、結合リン2.7質量%、平均重合度15)を得た。 収率は51%で一分子当りの平均結合リン数は3.2であった。
【0039】
<実施例3>
リン酸化澱粉(Na塩、結合リン4.0%、王子コーンスターチ社製)50kgを実施例1と同様にして酵素分解した。得られた酵素分解液を実施例1のようにして活性炭処理と濾過を行った。濾過液をUF膜のG−50(OSMONICS社製)を用いて脱塩・濃縮処理した。この液を10質量%の水酸化ナトリウムでpH6.5(1質量%溶液で測定)に調整し、前述の0.45μmのメンブレンフィルターで濾過後、スプレードライヤーで乾燥粉末化して11.7kgのリン酸化糖組成物(水分8質量%、結合リン3.2質量%、平均重合度39)を得た。 収率は22%で一分子当りの平均結合リン数は8.0であった。
【0040】
<実施例4>
実施例1で使用したリン酸化澱粉50kgを、実施例1と同様にして酵素分解し、得られた酵素分解液を同様にして活性炭処理、濾過した。濾過液の1/4量を強酸性カチオン交換樹脂PK218(三菱化学製)100Lの入った樹脂塔、ついで弱塩基性アニオン交換樹脂WA30(三菱化学製)100Lの入った樹脂塔に液温30℃でSV=2で通液した。その後、純水を樹脂塔に通液してアニオン交換樹脂塔出口の糖濃度が0%になるまで水洗し、リン酸基の結合していない中性糖を除去した。アニオン交換樹脂に0.1Mの食塩水250Lを液温30℃でSV=2で通液し、その後、さらに純水130Lを通液してぶどう糖に対するリン酸の割合の低いリン酸化糖を溶出させた。引き続きアニオン交換樹脂に0.5Mの食塩水250Lを液温30℃でSV=2で通液し、その後、さらに純水130Lを通液してぶどう糖に対するリン酸の割合がより高いリン酸化糖を溶出させた。0.5Mの食塩水で溶出させた液をカチオン交換樹脂でpH6.5に調整後、NF膜(NTR−7450、日東電工社製)を用いて脱塩・濃縮処理した。この液を0.45μmのメンブレンフィルターで濾過後、スプレードライヤーで乾燥粉末化して2.4kgのリン酸化糖 (水分8質量%、結合リン5.0質量%、平均重合度31)を得た。 収率は18%で一分子当りの平均結合リン数は11.2であった。
【0041】
<実施例5>
実施例4で作製したリン酸化澱粉酵素分解物の活性炭処理・濾過液の1/4量を実施例4と同様にして、カチオン交換樹脂PK218 100Lとアニオン交換樹脂WA30 100Lに通液後、樹脂を純水にて洗浄した。アニオン交換樹脂に0.2Mの食塩水250Lを液温30℃でSV=2で通液し、その後、さらに純水130Lを通液してぶどう糖に対するリン酸の割合の低いリン酸化糖を溶出させた。引き続きアニオン交換樹脂に1.0Mの食塩水250Lを液温30℃でSV=2で通液し、その後さらに純水130Lを通液してぶどう糖に対するリン酸の割合がより高いリン酸化糖を溶出させた。1.0Mの食塩水で溶出させた液をカチオン交換樹脂でpH6.5に調整後、NF膜(NTR−7450、日東電工社製)を用いて脱塩・濃縮処理した。この液を0.45μmのメンブレンフィルターで濾過後、スプレードライヤーで乾燥粉末化して1.3kgのリン酸化糖 (水分9質量%、結合リン6.2質量%、平均重合度36)を得た。 収率は10%で1分子当りの平均結合リン数は15.0であった。
【0042】
<実施例6>
リン酸化澱粉(K塩、結合リン0.5%、王子コーンスターチ社製)50kgを実施例1と同様にして酵素分解した。得られた酵素分解液を実施例1のようにして活性炭処理と濾過を行った。濾過液の全量を実施例4と同様にして、カチオン交換樹脂PK218 100Lとアニオン交換樹脂WA30 100Lに通液後、樹脂を純水にて洗浄した。アニオン交換樹脂に0.1Mの塩化カリウム溶液250Lを液温30℃でSV=2で通液し、その後、さらに純水130Lを通液してぶどう糖に対するリン酸の割合の低いリン酸化糖を溶出させた。引き続きアニオン交換樹脂に0.5Mの塩化カリウム溶液250Lを液温30℃でSV=2で通液し、その後さらに純水130Lを通液してぶどう糖に対するリン酸の割合がより高いリン酸化糖を溶出させた。0.5Mの塩化カリウム溶液で溶出させた液を同様にpH調整後、精製、除菌操作を行い、スプレードライヤーで乾燥粉末化して1.1kgのリン酸化糖 (水分8質量%、結合リン5.8質量%、平均重合度32)を得た。 収率は2%で一分子当りの平均結合リン数は13.7であった。
【0043】
実施例で作製したリン酸化糖を用いてCa可溶化試験を行った。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
今日まで、いろいろな機能が知られているリン酸化糖のうち、機能が高い部分を高純度で生産可能な製造法を提供することにより、食品、医薬、飼料、肥料、工業用化学品など広い分野での利用をさらに拡大させるものである












【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合リン0.1〜5質量%のリン酸化澱粉の懸濁液に澱粉分解酵素を添加してリン酸化澱粉を酵素分解により低分子化して酵素分解液を得た後、該酵素分解液をイオン交換樹脂処理及び/又は膜処理による精製工程で精製して平均重合度15〜100で、1分子当たりの平均結合リン数が3個以上のリン酸化糖画分を得ることを特徴とする、平均重合度15〜100で、1分子当たりの平均結合リン数が3個以上のリン酸化糖の製造方法。
【請求項2】
前記イオン交換樹脂処理による精製工程が、前記酵素分解液を強酸性イオン交換樹脂層に通液し、引き続き弱塩基性アニオン交換樹脂層あるいは強塩基性アニオン交換樹脂層に通液し、次いで該アニオン交換樹脂層を水洗して結合しなかった糖を除去した後、リン酸化糖が結合した該アニオン交換樹脂層に0.01〜0.2Mの無機塩溶液又は有機酸塩溶液を通液し、さらに、0.15〜2Mの無機塩溶液又は有機酸塩溶液を該アニオン交換樹脂層に通液して溶出される平均重合度15〜100で、1分子当たりの平均結合リン数が3個以上のリン酸化糖の画分を得る分画工程であることを特徴とする、請求項1記載のリン酸化糖の製造方法。
【請求項3】
前記0.15〜2Mの無機塩溶液又は有機酸塩溶液を前記アニオン交換樹脂層に通液して溶出される平均重合度15〜100で、1分子当たりの平均結合リン数が3個以上のリン酸化糖の画分を得る工程は、前記アニオン交換樹脂層に前記0.15〜2Mの無機塩溶液又は有機酸塩溶液から選ばれる少なくとも2種類以上の濃度の異なる無機塩溶液又は有機酸塩溶液を順次通液してリン酸化糖の回収を行う工程であることを特徴とする、請求項2記載のリン酸化糖の製造方法。
【請求項4】
前記膜処理による精製工程が、分画分子量2000以上の膜でリン酸化澱粉の澱粉分解酵素による酵素分解液を膜処理し、濃縮側の試料として平均重合度15〜100で、1分子当たりの平均結合リン数が3個以上のリン酸化糖を得る分画工程であることを特徴とする、請求項1記載のリン酸化糖の製造方法。
【請求項5】
前記膜処理による精製工程が、分画分子量2000から20000の膜でリン酸化澱粉の澱粉分解酵素による酵素分解液を膜処理する工程であることを特徴とする、請求項4記載のリン酸化糖の製造方法。





【公開番号】特開2009−240236(P2009−240236A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91351(P2008−91351)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】