説明

リン酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラスからなるガラスセラミックス、およびそれらの製造方法

【課題】成形時に失透が生じにくいリン酸塩系ガラスを安定して得ること、並びに、結晶化後も割れがなく、リチウムイオン伝導度が優れたリン酸塩系ガラスを安定して得ることを目的とする。
【解決手段】酸化物基準でLiO成分を含有し、水酸基に起因する吸光度βOHが1.5mm−1未満であることを特徴とするリン酸塩系ガラス、該リン酸塩系ガラスを結晶化してなる結晶化ガラス、および酸化物基準でLiO成分を含有する調合原料を溶融して溶融ガラスとし、前記溶融ガラスに乾燥ガスを接触させる工程を含むリン酸塩系ガラスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリン酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラスを結晶化してなるガラスセラミックスおよびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定組成のガラスを加熱することにより結晶を析出させる(結晶化)することによって得られるガラスセラミックスは固体電解質としての用途が提案されている。その中でも、Li置換NASICON型結晶を有するリン酸塩系ガラスセラミックスは高いリチウムイオン伝導性を有し、化学的に安定な優れた特性を持つ材料である。このリン酸塩系ガラスセラミックスは、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−97811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このリン酸塩系ガラスセラミックスは、化学組成が同一になるように調合しても、溶融する原料バッチ等の水分量や溶融雰囲気に水分が多く存在することにより、結晶化前のガラス(母ガラス)の失透が生成されやすく、その母ガラスに生じた失透が原因となり、その後の結晶化の過程でガラスセラミックスの割れが生じやすいという問題があった。またリン酸塩系ガラスセラミックスは表面が内部に比べガラスリッチ層となり、表面のガラスリッチ層が原因となって、ガラスセラミックス全体のイオン伝導度が低下するという問題があった。このような問題によって、リン酸塩系ガラスセラミックスは優れた特性を持つガラスセラミックスを安定して取得するのが困難であった。
【0005】
本発明の目的は、上記の問題を解決し、成形時に失透が生じにくいリン酸塩系ガラスを安定して得ること、並びに、結晶化後も割れがなく、リチウムイオン伝導度が優れたリン酸塩系ガラスセラミックスを安定して得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスは、リン酸塩系ガラスを結晶化して作製される。本発明者は、リン酸塩系ガラスは、珪酸系ガラスに比べ多量の水が含有されており、この水の濃度が、製造条件の違いで変化するために、ガラス内部の均一性や成形性、結晶化後のイオン伝導に影響することを突き止め、ガラス中の水の濃度を特定の範囲に制御することによって、優れた特性を持つガラスセラミックスを得ることができることを見出した。
リン酸塩系ガラスの水の濃度は、厚さt(mm)の板における、波長2000nmの赤外光の透過率をA、波長2900nmの赤外光の透過率をBとするとき、
βOH=−{ln(B/A)}/t・・・式(1)
で表される水酸基に起因する吸光度により評価できる。
【0007】
具体的には本発明は以下の様なものを提供する。
(構成1)
酸化物基準でLiO成分を含有し、水酸基に起因する吸光度βOHが1.5mm−1未満であることを特徴とするリン酸塩系ガラス。
ただし、水酸基に起因する吸光度βOHは、厚さt(単位:mm)の板における波長2000nmの赤外光の透過率をA、波長2900nmの赤外光の透過率をBとするとき、次式(1)で表わされる。
βOH=−{ln(B/A)}/t・・・式(1)
(構成2)
酸化物基準でLiO成分を10mol%〜25mol%含有する構成1に記載のリン酸塩系ガラス。
(構成3)
酸化物基準でP成分を26mol%〜40mol%含有する構成1または2に記載のリン酸塩系ガラス。
(構成4)
酸化物基準のmol%で、
Alおよび/またはGa 0.5%〜15%、および
TiOおよび/またはGeO 25%〜50%、および
SiO 0%〜15%、および
ZrO 0%〜10%
の組成の各成分を含有する構成1から3のいずれかに記載のリン酸塩系ガラス。
(構成5)
構成1から4のいずれかに記載のリン酸塩系ガラスを結晶化してなるガラスセラミックス。
(構成6)
Li1+x+z(Ge1−yTi2−xSi3−z12
(但し、0≦x≦0.8、0≦y≦1.0、0≦z≦0.6、但しM=Al,Gaの中から選ばれる1種または2種)の結晶を含有する構成5に記載のガラスセラミックス。
(構成7)
前記結晶はイオン伝導を阻害する空孔または結晶粒界を含まない結晶であることを特徴とする構成6に記載のガラスセラミックス。
(構成8)
25℃において10−4Scm−1以上のリチウムイオン伝導度を有する構成5から7のいずれかに記載のガラスセラミックス。
(構成9)
ガラスが酸化物基準でLiO成分を含有するように、調合原料を溶融して溶融ガラスとし、前記溶融ガラスに乾燥ガスを接触させる工程を含むリン酸塩系ガラスの製造方法。
(構成10)
ガラスが酸化物基準でLiO成分を含有するように、調合原料を溶融して溶融ガラスとし、前記溶融ガラス中に乾燥ガスをバブリングする工程を含む構成9に記載のリン酸塩系ガラスの製造方法。
(構成11)
ガラスが酸化物基準でLiO成分を含有するように、調合原料を乾燥ガス中で溶融する工程を含む構成9または10に記載のリン酸塩系ガラスの製造方法。
(構成12)
前記乾燥ガスの露点が−30℃以下である構成9または11のいずれかに記載のリン酸塩系ガラスの製造方法。
(構成13)
前記乾燥ガスがドライエアー、酸化性ガスまたは不活性ガスである構成9から12のいずれかに記載のリン酸塩系ガラスの製造方法。
(構成14)
前記調合原料は、ガラスが酸化物基準でLiO成分を10mol%〜25mol%含有するように調合されたことを特徴とする構成9から13のいずれかに記載のリン酸塩系ガラスの製造方法。
(構成15)
前記調合原料は、ガラスが酸化物基準でP成分を26mol%〜40mol%含有するように調合されたことを特徴とする構成9から14のいずれかに記載のリン酸塩系ガラスの製造方法。
(構成16)
前記調合原料は、ガラスが酸化物基準のmol%で、
Alおよび/またはGa 0.5%〜15%、および
TiOおよび/またはGeO 25%〜50%、および
SiO 0%〜15%、および
ZrO2 0%〜10%
の組成の各成分を含有するように調合されたことを特徴とする構成9から15のいずれかに記載のリン酸塩系ガラスの製造方法。
(構成17)
ガラスが酸化物基準でLiO成分を含有するように、調合原料を溶融して溶融ガラスとし、前記溶融ガラスに乾燥ガスを接触させる工程と、
溶融ガラスをキャストして母ガラスを成形する工程と、
母ガラスを熱処理し結晶化する工程を含むガラスセラミックスの製造方法。
(構成18)
ガラスが酸化物基準でLiO成分を含有するように、調合原料を溶融して溶融ガラスとし、前記溶融ガラス中に乾燥ガスをバブリングする工程と、
溶融ガラスをキャストして母ガラスを成形する工程と、
母ガラスを熱処理し結晶化する工程を含む構成17に記載のガラスセラミックスの製造方法。
(構成19)
ガラスが酸化物基準でLiO成分を含有するように、調合原料を乾燥ガス中で溶融する工程と、
溶融ガラスをキャストして母ガラスを成形する工程と、
母ガラスを熱処理し結晶化する工程を含む構成17または18に記載のガラスセラミックスの製造方法。
(構成20)
前記乾燥ガスの露点が−30℃以下である構成17から19のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法。
(構成21)
前記乾燥ガスがドライエアー、酸化性ガスまたは不活性ガスである構成17から20のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法。
(構成22)
前記調合原料は、ガラスが酸化物基準でLiO成分を10mol%〜25mol%含有するように調合されたことを特徴とする構成17から21のいずれかに記載のリン酸塩系ガラスの製造方法。
(構成23)
前記調合原料は、ガラスが酸化物基準でP成分を26mol%〜40mol%含有するように調合されたことを特徴とする構成17から22のいずれかに記載のリン酸塩系ガラスの製造方法。
(構成24)
前記調合原料は、ガラスが酸化物基準のmol%で、
Alおよび/またはGa 0.5%〜15%、および
TiOおよび/またはGeO 25%〜50%、および
SiO 0%〜15%、および
ZrO2 0%〜10%
の組成の各成分を含有するように調合されたことを特徴とする構成17から23のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によればガラス成形時に失透が生成されにくいリン酸塩系ガラスを安定して得ることができる。
さらに、本発明のリン酸塩系ガラスを母ガラスとすることにより、結晶化工程での割れが起こりにくく、かつ、イオン伝導度が優れた結晶化ガラスを安定して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のリン酸塩系ガラスは酸化物基準でLiO成分を含有し、水酸基に起因する吸光度βOHが1.5mm−1未満であることを特徴とする。
ここで、水酸基に起因する吸光度βOHは、厚さt(単位:mm)の板における波長2000nmの赤外光の透過率をA、波長2900nmの赤外光の透過率をBとするとき、次式(1)で表わされるものである。
βOH=−{ln(B/A)}/t・・・式(1)
赤外光の透過率は、それぞれの波長の透過スペクトルを測定することによって得られる。波長2000nmの透過スペクトルは、日立製作所製U4100分光光度計を用いて、波長2900nmの透過スペクトルは日立製作所製270−30形赤外分光光度計を用いて測定することができる。
【0010】
本発明のリン酸塩系ガラスは、酸化物基準でLiO成分を含有することによって、その後の結晶化過程でリチウムイオン伝導性を有する結晶相を析出することが可能となる。
ここで、「酸化物基準のmol%」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩等が溶融時にすべて分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、この生成酸化物のmol数の総和を100mol%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0011】
本発明のリン酸塩系ガラスは水酸基(OH基)の量が特定量未満であることによって本発明の課題を解決することができ、前記水酸基の量を水酸基に起因する吸光度βOHの値によって評価する。βOHの値が1.5mm−1未満の場合は、ガラス成形時における失透が生成し難く、その後の結晶化過程でのガラスセラミックスの割れが起こりにくく、ガラスセラミックスを安定に取得する事ができ、失透が原因となってイオン伝導を担う所望の結晶が析出しにくくなるということがなく、結晶化後の結晶化ガラスのイオン伝導度が低下しやすくなるということがない。また、結晶化工程において結晶相が均一に析出するため、表面にガラスリッチ層が生成されることがなく、高いイオン伝導度を発現させることができる。上記の効果をより得やすくするためには、βOHの値が1.2mm−1以下であることがより好ましく、0.8mm−1以下であることが最も好ましい。
【0012】
ガラス中のOH基の量を特定量未満に制御する方法としては、ガラス溶融温度、溶融時間の制御による方法がある。この溶融温度、溶融時間を制御する方法は、溶融温度が高く、溶融時間を長くするほどガラス中のOH基が低減する。
しかし、この方法では、OH基の低減とともにリン酸成分、リチウム成分の揮発も生じてしまい、所望の組成を維持しつつ上記βOHの値が1.5mm−1未満のガラスを得るのは難しい。
本発明者は、酸化物基準でLiO成分を含有する調合原料を溶融して溶融ガラスとし、前記溶融ガラスに乾燥ガスを接触させることによって、ガラス中のリン酸成分、リチウム成分の濃度を低減させることなくガラス中のOH基の量を特定量未満に再現性よく制御できることを見出したのである。
【0013】
上記の溶融ガラスに乾燥ガスを接触させるためには種々の方法を適用することができるが、溶融ガラス中に乾燥ガスをバブリングする、前記調合原料を乾燥ガス中で溶融する、などの方法が、設備コストが安価となるため好ましい。とくに乾燥ガスをバブリングする方法はOH基を特定量未満に再現性よく制御する効果が高いためより好ましい。また、乾燥ガスをバブリングする方法と前記調合原料を乾燥ガス中で溶融する方法を併用してもよい。
【0014】
乾燥ガス雰囲気での溶融、乾燥ガスのバブリングに用いる乾燥ガスの種類としては、ドライエアー等の酸化性ガス、窒素やAr等の不活性ガスが適しているが、その他のガス、それらの混合ガスを用いても構わない。
OH基を特定量未満に再現性よく制御しやすくするためには、これら乾燥ガスの露点は−30℃以下が好ましく、より好ましくは−40℃以下、もっとも好ましくは−50℃以下である。
【0015】
本発明のリン酸塩系ガラスは、結晶化させることでリチウムイオン伝導性のガラスセラミックスが得られる。このガラスセラミックスのイオン伝導度を高める為に析出させるリチウムイオン伝導性の結晶としては、リチウムイオン伝導度が高く、化学的に安定しているため扱いが容易であることから、Li1+x+z(Ge1−yTi2−xSi3−z12
(但し、0≦x≦0.8、0≦y≦1.0、0≦z≦0.6、但しM=Al,Gaの中から選ばれる1種または2種)が好ましい。
【0016】
リチウムイオン伝導性の結晶は、イオン伝導を阻害する結晶粒界を含まない結晶であるとイオン伝導の点で有利である。特にガラスセラミックスは、イオン伝導を妨げる空孔やイオン伝導を妨げる結晶粒界をほとんど有しないため、イオン伝導性が高くかつ化学的な安定性に優れるため、より好ましい。 また、ガラスセラミックス以外で、イオン伝導を妨げる空孔や結晶粒界をほとんど有しない材料として、上記結晶の単結晶が挙げられるが、これは製造が難しくコストが高い。製造の容易性やコストの観点でもリチウムイオン伝導性のガラスセラミックスは有利である。ここで、イオン伝導を妨げる空孔やイオン伝導を妨げる結晶粒界とは、リチウムイオン伝導性の結晶を含む無機固体電解質全体のイオン伝導度を該無機固体電解質中のリチウムイオン伝導性結晶そのものの伝導度に対し、1/10以下へ減少させる空孔や結晶粒界等のイオン伝導性阻害物質をさす。
【0017】
次に本発明のリン酸塩系ガラスの好ましい組成について酸化物基準のmol%で説明する。
【0018】
LiO成分はLiイオンキャリアを提供し、リチウムイオン伝導性をもたらすのに有用な成分であり、前記結晶相の構成成分である。良好なイオン伝導率をより容易に得るためには含有量の下限は10%であることが好ましく、13%であることがより好ましく、14%であることが最も好ましい。また、LiO成分が多すぎるとガラスの熱的な安定性が悪くなり易く、結晶化して得られるガラスセラミックスの伝導率も低下し易いため、含有量の上限は25%であることが好ましく、17%であることがより好ましく、16%であることが最も好ましい。
【0019】
Al成分は、ガラスの熱的な安定を高めることができると同時に、前記結晶相の構成成分であり、リチウムイオン伝導率向上にも効果がある。この効果をより容易に得るためには、含有量の下限が0.5%であることが好ましく、5.5%であることがより好ましく、6%であることが最も好ましい。
しかし含有量が15%を超えると、かえってガラスの熱的な安定性が悪くなり易く、得られるガラスセラミックスの伝導率も低下し易いため、含有量の上限は15%とするのが好ましい。尚、前記効果をより得やすくするためにより好ましい含有量の上限は9.5%であり、最も好ましい含有量の上限は9%である。
また、上記の組成範囲内で、Al成分をGa成分に一部または全部置換することも可能である。
【0020】
TiO成分はガラスの形成に寄与し,また前記結晶相の構成成分でもあり,ガラスにおいても前記結晶においても有用な成分である。ガラス化するため、及び結晶化した際に前記の結晶相が主相としてガラスから析出し、高いイオン伝導率をより容易に得るためには、含有量の下限が25%であることが好ましく、36%であることがより好ましく、37%であることが最も好ましい。また、TiO成分が多すぎるとガラスの熱的な安定性が悪くなり易く、ガラスセラミックスの伝導率も低下し易いため、含有量の上限は50%であることが好ましく、43%であることがより好ましく、42%であることが最も好ましい。
また、上記の組成範囲内で、TiO成分をGeO成分に一部または全部置換することも可能である
【0021】
SiO成分は、ガラスの溶融性および熱的な安定性を高めることができると同時に、前記結晶相の構成成分となる場合があり、リチウムイオン伝導率の向上にも寄与する成分で、任意に含有できるが、この効果をより十分に得るためには含有量の下限は1%であることがより好ましく、2%であることが最も好ましい。しかしその含有量が10%を超えると、かえって伝導率が低下し易くなってしまうため、含有量の上限は15%とすることが好ましく、8%とすることがより好ましく、7%とすることが最も好ましい。
【0022】
成分はガラスの形成に有用な成分であり,また結晶化した際の前記結晶相の構成成分でもある。含有量が26%未満であるとガラス化しにくくなるので、含有量の下限は26%であることが好ましく、32%であることがより好ましく、33%であることが最も好ましい。また含有量が40%を越えると前記結晶相がガラスから析出しにくく、所望の特性が得られにくくなるため、含有量の上限は40%とすることが好ましく、39%とすることがより好ましく、38%とすることが最も好ましい。
【0023】
ZrO成分は、本発明の所望の結晶相の生成を促進する効果があり任意で添加できる成分である。しかし、その量が10%を超えるとガラスの耐失透性が著しく低下しやすくなり、均一なガラスの作製が困難になりやすくなる上、伝導率も急激に低下しやすくなるため、含有量の上限は10%以下にすることが好ましい。尚、上記の効果をより得やすくするためにはZrO成分の好ましい範囲は8%以下であり、特に好ましい範囲は5%以下である。また、前記結晶相を得やすくするためにはZrO成分を0.3%以上含有することがより好ましい。
【0024】
上記成分の他にX23成分(但し、XはIn,Fe,Cr,Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luの中から選ばれる1種または2種以上)を添加することも可能である。これらの各成分を加えることにより、ガラスの溶融性および熱的な安定性が向上しやすくなり、結晶化後のガラスセラミックスのリチウムイオン伝導率が向上しやすくなる場合がある。しかし、過度に多い添加はガラスの溶融性および熱的安定性がかえって低下しやすくなるため、X23成分の添加量の上限は10%以下が好ましく、8%がより好ましく、6%以下が最も好ましい。
【0025】
上述の組成の場合、溶融ガラスをキャストして容易にガラスを得ることができ、このガラスを結晶化して得られた上記結晶相をもつガラスセラミックスは25℃において1×10−4Scm−1〜1×10−3Scm−1の高いリチウムイオン伝導性を有する。
【0026】
前記の組成には、LiO以外のNaOやKOなどのアルカリ金属は、出来る限り含まないことが望ましい。これら成分がガラスセラミックス中に存在するとアルカリイオンの混合効果により、リチウムイオンの伝導を阻害して伝導度を下げることになる。
また、硫黄を添加すると、リチウムイオン伝導性は少し向上するが、化学的耐久性や安定性が悪くなるため、出来る限り含有しない方が望ましい。
本発明のガラスには、環境や人体に対して害を与える可能性のあるPb、As、Cd、Hgなどの成分もできる限り含有しないほうが望ましい。
【実施例】
【0027】
[実施例1]
酸化物基準のmol%で、LiO成分14.0%、P成分38.0%、Al成分8.0%、TiO成分17.0%、GeO成分20.0%、SiO成分2.0%、ZrO成分1.0%、となるように原料を調合し、Pt製ポットを用いて、電気炉内において1500℃で溶融することによりガラス融液を得た。次にPt製のパイプをPt製ポット内のガラス融液に挿入し、1500℃に保ったまま、酸素ガスを200mL/minの流量で120分間バブリングした。このとき使用した酸素ガスの露点は−70℃以下であった。その後、Pt製パイプをPt製ポットから抜き30分間静置して脱泡後、鉄板上にキャストしてガラスを成形した。成形したガラスを500℃でアニールしてガラスを作製した。
【0028】
このガラスを切断し、表面を研磨して1mm厚の板状に加工した。そのガラスの赤外光による透過スペクトルを測定し、式(1)によりβOHの値を求めた。得られた値を表1に示す。波長2000nmの透過スペクトルは、日立製作所製U4100分光光度計を用いて、波長2900nmの透過スペクトルは日立製作所製270−30形赤外分光光度計を用いて測定した。
【0029】
さらに、1mm厚に切断、表面を研磨したガラスを、900℃の温度で熱処理することにより結晶化してガラスセラミックスを得た。結晶化によるガラスセラミックスの割れは観察されなかった。このガラスセラミックスのイオン伝導度を、交流インピーダンス法により抵抗値を測定して求めた。得られた値を表1に示す。
交流インピーダンスは、板状のガラスセラミックス表面に、スパッタリングにてφ11の金電極を形成し、Solartron1260を用いて室温(25℃)にて測定した。得られた結果を表1に記す。
【0030】
[実施例2]
実施例1と同様な手段で得たガラス融液中にPt製のパイプをPt製ポット内に挿入し、1500℃に保ったままArガスを200mL/minの流量で120分間バブリングした。このとき使用したArガスの露点は−65℃以下であった。その後、Pt製パイプをPt製パイプから抜き30分間静地して脱泡後、鉄板上にキャストしてガラスを成形した。成形したガラスを500℃でアニールしてガラスを作製した。
このガラスのβOHの値を実施例1と同様な手段で求めた。また、実施例1と同様な手段でガラスセラミックスを作製し、イオン伝導度を求めた。結晶化によるガラスセラミックスの割れは観察されなかった。結果を表1に示す。
【0031】
[実施例3]
電気炉内にPt製パイプを挿入し、酸素ガスを200mL/minの流量で流しながら、酸素ガスを溶融ガラスに接触させ、バブリングを実施したこと以外は実施例1と同様な手段でガラスを溶融し、キャストして成形した。このとき使用した酸素ガスの露点は70℃以下であった。
成形したガラスを500℃でアニールしてガラスを作製した。
得られたガラスのβOHの値を実施例1と同様の手段で測定した。また、実施例1と同様な手段でガラスセラミックスを作製し、イオン伝導度を求めた。結晶化によるガラスセラミックスの割れは観察されなかった。結果を表1に示す。
【0032】
[比較例]
乾燥ガスを溶融ガラスに接触させることなく、電気炉をガス炉に換え、それ以外の条件は実施例1と同様な手段で得たガラス融液を鉄板上にキャストしてガラスを成形して、500℃にてアニールすることによりガラスを作製した。ガラスの表面には失透が観察された。βOHの値とイオン伝導度を実施例1と同様の手段を用いて求めた。また、このガラスを結晶化させてガラスセラミックスを作製した。このガラスセラミックスは割れる部分があり、また、ガラスセラミックス表面のXRD回折パターンは実施例1〜3のガラスセラミックスより回折強度が弱く、表面層がガラスリッチであると考えられ、またリチウムイオン伝導度も低かった。







































【0033】
【表1】

【0034】
以上のように比較例のガラスはβOHの値が1.66mm−1と1.5mm−1以上であり、成形時に失透を生じ、その後の結晶化においても割れが生じることとなった。一方、実施例1から3のガラスはいずれもβOHの値が1.5mm−1未満であり、成形時に失透を生じることなく、その後の結晶化においても割れが生じることがなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準でLiO成分を含有し、水酸基に起因する吸光度βOHが1.5mm−1未満であることを特徴とするリン酸塩系ガラス。
ただし、水酸基に起因する吸光度βOHは、厚さt(単位:mm)の板における波長2000nmの赤外光の透過率をA、波長2900nmの赤外光の透過率をBとするとき、次式(1)で表わされる。
βOH=−{ln(B/A)}/t・・・式(1)
【請求項2】
酸化物基準でLiO成分を10mol%〜25mol%含有する請求項1に記載のリン酸塩系ガラス。
【請求項3】
酸化物基準でP成分を26mol%〜40mol%含有する請求項1または2に記載のリン酸塩系ガラス。
【請求項4】
酸化物基準のmol%で、
Alおよび/またはGa 0.5%〜15%、および
TiOおよび/またはGeO 25%〜50%、および
SiO 0%〜15%、および
ZrO 0%〜10%
の組成の各成分を含有する請求項1から3のいずれかに記載のリン酸塩系ガラス。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のリン酸塩系ガラスを結晶化してなるガラスセラミックス。
【請求項6】
Li1+x+z(Ge1−yTi2−xSi3−z12
(但し、0≦x≦0.8、0≦y≦1.0、0≦z≦0.6、但しM=Al,Gaの中から選ばれる1種または2種)の結晶を含有する請求項5に記載のガラスセラミックス。
【請求項7】
前記結晶はイオン伝導を阻害する空孔または結晶粒界を含まない結晶であることを特徴とする請求項6に記載のガラスセラミックス。
【請求項8】
25℃において10−4Scm−1以上のリチウムイオン伝導度を有する請求項5から7のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項9】
ガラスが酸化物基準でLiO成分を含有するように、調合原料を溶融して溶融ガラスとし、前記溶融ガラスに乾燥ガスを接触させる工程を含むリン酸塩系ガラスの製造方法。
【請求項10】
ガラスが酸化物基準でLiO成分を含有するように、調合原料を溶融して溶融ガラスとし、前記溶融ガラス中に乾燥ガスをバブリングする工程を含む請求項9に記載のリン酸塩系ガラスの製造方法。
【請求項11】
ガラスが酸化物基準でLiO成分を含有するように、調合原料を乾燥ガス中で溶融する工程を含む請求項9または10に記載のリン酸塩系ガラスの製造方法。
【請求項12】
前記乾燥ガスの露点が−30℃以下である請求項9または11に記載のリン酸塩系ガラスの製造方法。
【請求項13】
前記乾燥ガスがドライエアー、酸化性ガスまたは不活性ガスである請求項9から12のいずれかに記載のリン酸塩系ガラスの製造方法。
【請求項14】
前記調合原料は、ガラスが酸化物基準でLiO成分を10mol%〜25mol%含有するように調合されたことを特徴とする請求項9から13のいずれかに記載のリン酸塩系ガラスの製造方法。
【請求項15】
前記調合原料は、ガラスが酸化物基準でP成分を26mol%〜40mol%含有するように調合されたことを特徴とする請求項9から14のいずれかに記載のリン酸塩系ガラスの製造方法。
【請求項16】
前記調合原料は、ガラスが酸化物基準のmol%で、
Alおよび/またはGa 0.5%〜15%、および
TiOおよび/またはGeO 25%〜50%、および
SiO 0%〜15%、および
ZrO2 0%〜10%
の組成の各成分を含有するように調合されたことを特徴とする請求項9から15のいずれかに記載のリン酸塩系ガラスの製造方法。
【請求項17】
ガラスが酸化物基準でLiO成分を含有するように、調合原料を溶融して溶融ガラスとし、前記溶融ガラスに乾燥ガスを接触させる工程と、
溶融ガラスをキャストして母ガラスを成形する工程と、
母ガラスを熱処理し結晶化する工程を含むガラスセラミックスの製造方法。
【請求項18】
ガラスが酸化物基準でLiO成分を含有するように、調合原料を溶融して溶融ガラスとし、前記溶融ガラス中に乾燥ガスをバブリングする工程と、
溶融ガラスをキャストして母ガラスを成形する工程と、
母ガラスを熱処理し結晶化する工程を含む請求項17に記載のガラスセラミックスの製造方法。
【請求項19】
ガラスが酸化物基準でLiO成分を含有するように、調合原料を乾燥ガス中で溶融する工程と、
溶融ガラスをキャストして母ガラスを成形する工程と、
母ガラスを熱処理し結晶化する工程を含む請求項17または18に記載のガラスセラミックスの製造方法。
【請求項20】
前記乾燥ガスの露点が−30℃以下である請求項17から19のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法。
【請求項21】
前記乾燥ガスがドライエアー、酸化性ガスまたは不活性ガスである請求項17から20のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法。
【請求項22】
前記調合原料は、ガラスが酸化物基準でLiO成分を10mol%〜25mol%含有するように調合されたことを特徴とする請求項17から21のいずれかに記載のリン酸塩系ガラスの製造方法。
【請求項23】
前記調合原料は、ガラスが酸化物基準でP成分を26mol%〜40mol%含有するように調合されたことを特徴とする請求項17から22のいずれかに記載のリン酸塩系ガラスの製造方法。
【請求項24】
前記調合原料は、ガラスが酸化物基準のmol%で、
Alおよび/またはGa 0.5%〜15%、および
TiOおよび/またはGeO 25%〜50%、および
SiO 0%〜15%、および
ZrO2 0%〜10%
の組成の各成分を含有するように調合されたことを特徴とする請求項17から23のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法。

【公開番号】特開2008−273791(P2008−273791A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120111(P2007−120111)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】