説明

リーク測定方法及びリーク測定システム

【課題】樹脂製の消火剤貯蔵容器を備えた蓄圧式消火器内のガスのリーク測定方法を提供する。
【解決手段】樹脂を用いて継ぎ目なく成形されるとともに開口部と深さ方向に進むにしたがって外径が大きくなる肩部とを有する消火剤貯蔵容器10の開口部を閉塞する閉塞工程と、アルゴンガスと窒素ガスからなる群から選択される少なくとも1つの不活性ガス及びヘリウムガスと水素ガスとからなる群から選択される少なくとも1つの軽元素ガスが、その貫通経路を通じて消火剤貯蔵容器10内に封入される封入工程と、封入工程の後、開口部を下に向けた状態で肩部の一部の外周をシールすることにより、蓋体31及び開口部が収容される密閉空間が形成された後、密閉空間を排気する排気工程と、排気工程の後、密閉空間内の軽元素ガスの量を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リーク測定方法及びリーク測定システムに関し、特に、樹脂製の消火剤貯蔵容器を備えた蓄圧式消火器内のガスのリーク測定方法及びリーク測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、消火器に使用される消火剤貯蔵容器は、鉄、ステンレス、アルミニウムなどの金属から製造されている。その中でも鉄製の消火剤貯蔵容器は、頑丈で破損しにくく、製造コストが安価であるため、市場に出される消火器数の約9割に対して鉄が使用されているのが現状である。
【0003】
他方、樹脂製の消火剤貯蔵容器を備えた消火器の例が開示されている。1つの文献には、樹脂製の消火剤貯蔵容器の弱点であった低い耐圧性能であっても保持されるように、充填圧力が可能なかぎり低下された消火器が開示されている(特許文献1)。また、他の1つの文献には、清涼飲料水やアルコール飲料などに用いられる薄肉のポリエチレンテレフタレート(PET)の廃品を利用した消火器が開示されている(特許文献2)。また、本願出願人も、樹脂製の消火剤貯蔵容器を備えた初期的な消火器を開示しているが(特許文献3)、個別の技術課題に対する具体的な提案は未だ開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭56−160560号公報
【特許文献2】特開平9−313634号公報
【特許文献3】国際公開第2008/133176号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、一般的に広く利用されている鉄製の消火剤貯蔵容器を備えた消火器は非常に重いため、特に女性や子供、あるいは年配者にとって、持ち運びの不便さや操作性の悪さの問題を生じさせていた。
【0006】
鉄に代表される金属であるがための上述の技術的課題は、一見すると、樹脂製の消火剤貯蔵容器を採用することによって解決されるように思える。しかしながら、現実には、一般的に採用されている金属製の消火器のように、耐用年数として数年(例えば、8年)以上が要求される消火剤貯蔵容器を、容器全体としての軽量さを維持しつつ、樹脂のみによって形成することは容易ではない。
【0007】
ところで、消火器には加圧式消火器と蓄圧式消火器とが存在する。加圧式消火器は、使用時に消火剤貯蔵容器内で急激な加圧が生じるために、その急激な加圧に対する反動が特に女性や子供、あるいは年配者にとっての取扱いの不便さを生じさせている。一方で、蓄圧式消火器は、あらかじめ一定の圧力(例えば、約1MPa)が消火剤貯蔵容器内で保持されている。したがって、使用時においても急激な加圧を回避することができるため、反動が殆どなく、前述のような不便さが生じない。
【0008】
しかしながら、蓄圧式消火器は、上述の通り、消火剤を放出するためのガスを高い圧力で、しかも長期間保持しなければ、その本来の機能を発揮することができない。したがって、消火剤貯蔵容器の開口部やその他の部品との接続部における密閉性の確保が、製品の信頼性及び安全性の観点で特に重要となる。そのため、従来の金属製の消火剤貯蔵容器が採用される場合であっても、より高い精度での製造プロセスが求められてきた。これが、少なくとも日本国において、これまで各消火器製造メーカーが加圧式消火器を中心に製造してきた主たる理由の1つであるといえる。
【0009】
そこで、樹脂製の消火剤貯蔵用器を備えた蓄圧式消火器を製造する場合であっても、常にガス漏れの可能性を考慮することが必要となる。すなわち、蓄圧式消火器の各部品間の不十分な密閉性に伴うガス漏れの態様を考慮する必要がある。このガス漏れの態様を、便宜上「部品間漏れ」とも呼ぶ。したがって、この「部品間漏れ」の存在を如何に確度高く測定するかが、信頼性の高い樹脂製の消火剤貯蔵用器を備えた蓄圧式消火器の実現性を左右することになる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の技術課題を解決することにより、樹脂製の消火剤貯蔵容器を備えていても、消火剤を放出するためのガスを長期間保持することができる蓄圧式消火器の実現を促進するための測定技術の向上に貢献するものである。
【0011】
本願発明者らは、樹脂製の消火剤貯蔵容器を備えた蓄圧式消火器を実現することが、消火器の操作性および安全性の視点から重要であると判断し、その開発に向けて鋭意検討を行った。上述のとおり、樹脂製の消火剤貯蔵容器を備えた蓄圧式消火器の場合であっても、「部品間漏れ」が存在する。そこで、本願発明者らは、「部品間漏れ」を精度良く測定するための手段を入念に調査、分析した。その結果、「部品間漏れ」を確度高く迅速に測定するためには、特定のガスを消火剤貯蔵容器内に封入しておくとともに、可能な限り測定領域を限定することが非常に有益であることを発明者らは知見した。本発明は、そのような視点に基づいて創出された。
【0012】
本発明の1つのリーク測定方法は、閉塞工程と、封入工程と、排気工程と、測定工程とを含む。具体的には、閉塞工程は、起動レバーが係合し、貫通経路が形成されるとともにその貫通経路を開閉自在にする弁棒を備える蓋体によって、樹脂を用いて継ぎ目なく成形されるとともに開口部と深さ方向に進むにしたがって外径が大きくなる肩部とを有する消火剤貯蔵容器の前述の開口部を閉塞する。また、封入工程では、アルゴンガスと窒素ガスからなる群から選択される少なくとも1つの不活性ガス及びヘリウムガスと水素ガスとからなる群から選択される少なくとも1つの軽元素ガスが、前述の貫通経路を通じて前述の消火剤貯蔵容器内に封入される。また、排気工程は、前述の封入工程の後、前述の開口部を下に向けた状態で前述の肩部の一部の外周をシールすることにより、前述の蓋体及びその開口部が収容される密閉空間が形成された後、その密閉空間を排気する。また、測定工程は、前述の排気工程の後、前述の密閉空間内の前述の軽元素ガスの量を測定する。
【0013】
このリーク測定方法によれば、樹脂製の蓄圧式消火器の各部品間の不十分な密閉性に伴う「部品間漏れ」を精度良く測定することができる。従って、樹脂製の消火剤貯蔵容器を用いても、長期間(例えば、耐用年数まで)消火剤を放出するためのガスを高い圧力で保持した蓄圧式消火器の実現性が飛躍的に高められる。
【0014】
また、本発明の1つのリーク測定システムは、第1チャンバーと、第1ポンプと、測定器とを備えている。具体的には、第1チャンバーは、起動レバーが係合し、貫通経路が形成されるとともにその貫通経路を開閉自在にする弁棒を備える蓋体によって閉塞された開口部と、深さ方向に進むにしたがって外径が大きくなる肩部とを備え、その貫通経路を通じて、アルゴンガスと窒素ガスからなる群から選択される少なくとも1つの不活性ガス及びヘリウムガスと水素ガスとからなる群から選択される少なくとも1つの軽元素ガスが封入されている、樹脂を用いて継ぎ目なく成形される消火剤貯蔵容器の前述の開口部を下に向けた状態で前述の肩部の一部の外周がシールされることにより、その蓋体及びその開口部が収容される密閉空間となるものである。また、第1ポンプは、前述の密閉空間を排気する。また、測定器は、前述の密閉空間内の前述の軽元素ガスの量を測定する。
【0015】
このリーク測定システムによれば、樹脂製の蓄圧式消火器の各部品間の不十分な密閉性に伴う「部品間漏れ」を精度良く測定することができる。従って、樹脂製の消火剤貯蔵容器を用いても、長期間(例えば、耐用年数まで)消火剤を放出するためのガスを高い圧力で保持した蓄圧式消火器の実現性が飛躍的に高められる。
【0016】
ところで、本出願において、「耐用年数」とは、蓄圧式消火器を製造後、不活性ガスを再度封入する必要がなく、その蓄圧式消火器が本来の機能を維持することができる任意の期間をいう。代表的な消火器の耐用年数は、8年間である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の1つのリーク測定方法又は本発明の1つのリーク測定システムは、、樹脂製の蓄圧式消火器の各部品間の不十分な密閉性に伴う「部品間漏れ」を精度良く測定することができる。従って、樹脂製の消火剤貯蔵容器を用いても、長期間(例えば、耐用年数まで)消火剤を放出するためのガスを高い圧力で保持した蓄圧式消火器の実現性が飛躍的に高められる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるリーク測定システムの一部断面側面図を含む構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態におけるリーク測定システムによって測定される、起動レバーが係合した蓋体によって開口部が閉塞された消火剤貯蔵容器の側面図である。
【図3A】本発明の第1の実施形態における消火剤貯蔵容器の正面図である。
【図3B】本発明の第1の実施形態における消火剤貯蔵容器の正面断面図である。
【図4A】本発明の第1の実施形態における起動レバーが係合した蓋体31の拡大側面図である。
【図4B】本発明の第1の実施形態における起動レバーが係合していない蓋体31を便宜的に説明する拡大側面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態における起動レバーを示す斜視図である。
【図6】安全栓の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしも互いの縮尺を保って記載されるものではない。さらに、各図面を見やすくするために、一部の符号を省略する。
【0020】
<第1の実施形態>
図1は、本実施形態のリーク測定システム100の構成を示す一部断面側面図である。また、図2は、リーク測定システム100によって測定される、起動レバー33が係合した蓋体31によって開口部13が閉塞された消火剤貯蔵容器10の側面図である。また、図3Aは消火剤貯蔵容器10の正面図であり、図3Bは消火剤貯蔵容器10の正面断面図である。加えて、図4Aは、起動レバー33が係合した蓋体31の拡大側面図であり、図4Bは、起動レバー33が係合していない蓋体31を便宜的に説明する拡大側面図である。
【0021】
最初に、リーク測定システム100について説明する。図1に示すように、本実施形態のリーク測定システム100は、主として、シール部102(例えば、テフロン(登録商標)製Oリング)に消火剤貯蔵容器10の肩部の一部の外周が密接することにより密閉空間が形成されるチャンバー101と、第1排気ポンプ104と、リーク量の測定部106と、第2排気ポンプ107と、制御部108とを有している。ここで、本実施形態のリーク測定システム100の測定対象は、蓋体31と開口部13との不十分な閉塞状態、換言すれば、不十分な密閉性に伴う消火剤貯蔵容器10内に収容されたガスのリーク(すなわち、「部品間漏れ」)の有無及びその量である。また、本実施形態の測定部106は、公知の測定器(ヤマハファインテック株式会社製、型式YLD−200A)が用いられた。
【0022】
ここで、第1排気ポンプ104は、上述のとおり密閉空間が形成された後にチャンバー102内のガスを排気するために用いられ、第2排気ポンプ107は、測定部106の空間内を排気するために用いられる。また、測定が行われているときは、チャンバー102と測定部106とは、開状態のバルブ105を介して連通している。他方、測定が行われていないときは、バルブ105は閉状態となっているため、チャンバー102と測定部106とは隔絶されている。また、本実施形態のリーク測定システム100においては、制御部108が、チャンバー102内の軽元素ガスの量(具体的には、「部品間漏れ」となるガスのリーク量)を測定するために、排気プロセス及び測定プロセスを監視し、又は統合的に制御する。具体的な測定方法は、後で詳述する。
【0023】
次に、消火剤貯蔵容器10の構造及び製造方法について説明する。図2、図3A、及び図3Bに示すように、本実施形態の消火剤貯蔵容器10は、開口部13を備える一方、金属製の消火剤貯蔵容器のような継ぎ目が形成されていない。また、消火剤貯蔵容器10は、消火剤貯蔵部11と、消火剤貯蔵部11の上部に位置する開口部13に形成される雄ネジ部12とで構成される。この雄ネジ部12と蓋体31とが螺合することにより、消火剤貯蔵容器10内の空間が理想的には密閉状態となる。なお、図3Aにおいて、便宜上、消火剤貯蔵容器の部位を説明するための破線と実線とを設けている。また、消火剤貯蔵容器10と蓋体31との固定手段は、前述の螺合に限られず、公知の接合手段が適用され得る。さらに、本実施形態の消火剤貯蔵容器10は、樹脂(ポリエチレンナフタレート(PEN))製であり、後述するように底部が略球面であるため、その底部と嵌合する支持台50によって立設可能に支持される。
【0024】
また、図3Bにおいて、便宜上、消火剤貯蔵容器10の肉厚を示すための矢印と、口部91の肉厚を表示するために、口部91の断面形状を延長するための破線とを設けている。本実施形態の消火剤貯蔵容器10の口部91の肉厚(T)は、2mm以上8mm以下である。また、消火剤貯蔵容器10の深さ方向に進むにしたがって外径が大きくなる(本実施形態では曲面となる)肩部92の肉厚(T)は、1.2mm以上12mm以下である。また、円筒状の胴部93の肉厚(T)は、1.2mm以上1.9mm以下であり、曲面を持つ底部94の肉厚(T)は、1.2mm以上12mm以下である。
【0025】
ここで、本実施形態の消火剤貯蔵容器10の胴部93の肉厚は、0.9mm以上5mm以下であることが好ましい。これは、樹脂の厚さが0.9mmよりも薄いと、消火剤の貯蔵容器として求められる強度(例えば、2.6MPa)を達成できなくなるおそれが高まる一方、5mmよりも厚ければ、経済的に好ましくないとともに内容物たる消火剤を視認し得る樹脂性消火剤貯蔵容器の利点の達成が困難になるおそれが高まるためである。上述の観点によれば、胴部93の肉厚は、0.9mm以上3mmであることがより好ましく、1mm以上3mm以下であることが更に好ましい。
【0026】
また、本実施形態の蓄圧式消火器100の軽量化を確認すると、従来の鉄製の消火剤貯蔵容器を備える消火器と比べて、全体として重量を約70%に減少させることができた。消火器としての最軽量化を実現することで、火災時において老若男女を問わず誰もが最も使い易い消火器となり消火活動がし易い状況を提供することができる。
【0027】
ところで、本実施形態の消火剤貯蔵容器10は、延伸ブロー成形、溶融成形などの従来公知の樹脂成形方法により製造することができるが、この中でも、開口部13を除いて、継ぎ目がなく、成形状態が良好で、かつ適度な肉厚の容器が得られる点で、延伸ブロー成形が好ましい。
【0028】
次に、蓋体31の構造、機能、及び製造方法について説明する。本実施形態の蓋体31は、樹脂(具体的には、6−ナイロン)を用いて公知の手法により一体成型されている。また、蓋体31の内側には雌ネジ部(図示しない)が形成されている。上述のとおり、この雌ネジ部が消火剤貯蔵容器10に形成される雄ネジ部12と螺合することにより、蓋体31が消火剤貯蔵容器10に取り付けられる。また、図4A及び図4Bに示すように、蓋体31と固定レバー31fとは、一体化されて形成されている。また、蓋体31は、起動レバー33と係合させるための起動レバー係合部31aと、起倒杆34と係合させるための起倒杆係合部31bとを備えている。加えて、蓋体31は、サイホン管70の先端を固定するためのサイホン管固定部31dと、消火剤ホースの先端を固定するための消火剤ホース固定部31cとを備えている。尚、サイホン管固定部31dから消火剤ホース固定部31cに至る流路31e内の一部には、消火剤貯蔵容器10に貯蔵される予定の消火剤60を消火剤ホースへ流通可能にするための金属(具体的には、SUS304)製の弁棒(バルブ)32がバネを用いて開閉自在に配置されている。
【0029】
図5は、本実施形態の起動レバー33を示す斜視図である。また、図6は、安全栓の一例を示す斜視図である。本実施形態の起動レバー33は、樹脂(具体的には、6−ナイロン)を用いて公知の手法により一体成型されている。起動レバー33は、レバー部33aと、薄肉部33bと、蓋体係合部33cとから構成されている。この起動レバー33は、蓋体係合部33cと蓋体31の起動レバー係合部31aとが係合することにより、蓋体31と接続している。また、レバー部33aは、将来的に後述する安全栓の嵌入棒35cが嵌入する第1開口部33dと、安全栓35の係合突起35a及び突起35bが貫通する第2開口部33eを備えている。薄肉部33bは、押圧力の付与により屈曲可能な程度に薄肉に形成されている。起動レバー33のレバー部33aに押圧力が加えられると、この押圧力に耐えきれずに薄肉部33bが屈曲する。このように薄肉部33bが屈曲すると、起動レバー33は薄肉部33bを中心として蓋体31に対して回動する。
【0030】
なお、安全栓35が取り付けられた図面は示さないが、嵌入棒35cは、起動レバー33が備える第1開口部33d及び起倒杆34が備える開口部(図示しない)に嵌入され得る長さを有している。また、係合突起35aは、起動レバー33が備える第2開口部33eを貫通し、起倒杆34に係合され得る形状を有している。この安全栓35の嵌入棒35cが、起動レバー33及び起倒杆34に嵌入するとともに、係合突起35aが起倒杆34に係合すると、起倒杆34及び起動レバー33が回動不可能な状態となる。一方、安全栓35が、起動レバー33及び起倒杆34から取り外されると、起倒杆34及び起動レバー33が回動可能な状態となる。
【0031】
また、本実施形態では、起倒杆34も、起動レバー33と同様に、樹脂(具体的には、6−ナイロン)を用いて公知の手法により一体成型されている。また、起倒杆34は、薄肉部34aと安全栓係合部34bとを備えるとともに、安全栓35の嵌入棒35cが嵌入される開口部(図示しない)を備えている。この起倒杆34は、その下端部が蓋体31の起倒杆係合部31bと係合することにより、蓋体31と接続している。薄肉部34aは、押圧力の付与により屈曲可能な程度に薄肉に形成されている。起動レバー33のレバー部33aに押圧力が加えられると起動レバー33が回動し、起倒杆34が起動レバー33により押圧力が加えられる。起倒杆34が起動レバー33に押圧力が加えられると、この押圧力に耐えきれずに薄肉部34aが屈曲する。このように薄肉部34aが屈曲すると、起倒杆34は、薄肉部34aを中心として蓋体31に対して回動する。
【0032】
ところで、本実施形態のリーク測定システム100では、その検出対象ガスが、軽元素ガスである水素(H)やヘリウム(He)ガスに限られる。これは、検出が比較的容易な前述の軽元素ガスを封入するガスに含めることによって、迅速な測定が可能となるからである。そうすると、ガスの適切な封入の確認、換言すれば蓄圧性の確認を行うためには、少なくともリーク測定システム100によって検出可能な量の軽元素ガスを消火剤貯蔵容器10内に封入する必要がある。
【0033】
そこで、発明者らは、コストがかかるが、測定には必要となる軽元素ガスとしてのヘリウム(He)ガスを消火剤貯蔵容器10内に封入することとした上で、軽元素ガス以外のガスとの混合比率を次のとおり定めた。
【0034】
本実施形態では、消火剤貯蔵容器10内に窒素(N)ガスとヘリウム(He)ガスとの混合ガスが封入される。ここで、本実施形態の消火剤貯蔵容器10の容積から将来的に収容される消火剤の体積を減じた値(以下、「エアスペース1」という。)は、2033cmである。また、本実施形態では、不活性ガスとしての窒素(N)ガスのモル数と軽元素ガスとしてのヘリウム(He)ガスのモル数とを合算した全モル数に対するヘリウム(He)ガスのモル数の比率が10%である。
【0035】
次に、本実施形態のリーク測定システム100を用いた測定方法について説明する。本実施形態では、まず、蓋体31と消火剤が収容されていない消火剤貯蔵容器10の雄ネジ部12とが螺合されることによって、消火剤貯蔵容器10の開口部13が閉塞される。その閉塞の後、弁棒32を一時的に開状態とすることにより、窒素(N)ガスとヘリウム(He)ガスが、蓋体31における消火剤ホースのための消火剤ホース固定部31c及び流路31eを介して消火剤貯蔵容器10内に封入された。
【0036】
封入工程が完了すると、起動レバー33が係合した蓋体31と閉塞された消火剤貯蔵容器10の開口部13とが、リーク測定システム100のチャンバー101内に開口部13を下に向けた状態で入れられる。本実施形態のチャンバー101は、消火剤貯蔵容器10の肩部92の一部の外周にシール部102が密接するような開口が設けられている。なお、本実施形態では、起動レバー33の正射影が消火剤貯蔵容器10における肩部92のシールされている部分の正射影の外縁よりも外側に形成される。従って、消火剤貯蔵容器10の直進運動のみにより起動レバー33を含めた蓋体31をチャンバー101内に送り込むことはできないが、回転運動と直進運動を併せることにより、図1に示すような状態に設置することは可能である。
【0037】
消火剤貯蔵容器10の肩部92がシール部102によってシールされると、密閉空間となったチャンバー101のガスは、第1排気ポンプ104により排気される。なお、本実施形態の第1排気ポンプ104は、ロータリーポンプであり、約7秒でチャンバー501内の圧力が2.0×10Paに到達する。
【0038】
ここで、本実施形態では、測定が行われていないときはバルブ105が閉状態であるため、遅くとも第1排気ポンプ104によってチャンバー101内のガスが排気される前に、測定部106の空間内が第2排気ポンプ107により排気される。本実施形態の第2排気ポンプ107は、メカニカルブースターが付属したロータリーポンプであり、約7秒で測定部106の空間内の圧力が2.0×10Paに到達する。なお、第1排気ポンプ104による排気の前に第2排気ポンプ107による排気が行われる理由は、本実施形態のリーク測定において、測定部106の排気時間を可能な限り削減するためである。本実施形態のリーク測定システム100のノイズ(N)レベルは8.0×10−9Pa・m/sであるため、シグナル(S)レベルはその3.0倍程度になることが好ましい。従って、微量のリーク量を確度高く検出するには測定部106の空間が十分に排気されていることが要求されるため、第1排気ポンプ104による排気の前に第2排気ポンプ107による排気が行われることは好ましい。
【0039】
第1排気ポンプ104による排気の後、制御部108によりバルブ105が開状態に変更されるとともに、測定部106による軽元素ガスの有無及びその量の測定が開始される。その結果、「部品間漏れ」の有無を精度良く測定することができる。
【0040】
<その他の実施形態>
ところで、上述の各実施形態では、「部品間漏れ」の検出に資するため、軽元素ガスとしてヘリウム(He)ガスが消火剤貯蔵容器10内に封入されているが、ヘリウム(He)ガスに代えて水素(H)ガスが封入された場合であっても、本実施形態の効果の少なくとも一部の効果が奏され得る。しかしながら、使用時に消火剤貯蔵容器10に保持されているガスは消火剤とともに消火対象に向けて放出される場合があるため、水素(H)ガスのように非常に燃えやすい性質を持つガスが含まれることは望ましくない。そのため、上述の各実施形態のようにヘリウム(He)ガスを採用することが好ましい。
【0041】
また、上述の各実施形態では、不活性ガスとして窒素(N)ガスが採用されているが、不活性ガスは窒素(N)ガスに限定されない。例えば、窒素(N)ガスの一部又は全部がアルゴン(Ar)ガスに変更されても良い。但し、製造コストを低減する観点から言えば、不活性ガスとして窒素(N)ガスのみが採用されることが好ましい。
【0042】
加えて、上述の各実施形態の消火器の消火剤貯蔵容器の外周表面上に公知の被膜フィルムや公知の顔料を含むフォルムが配置されていてもよい。例えば、消火器の製造メーカー名や消火器の性能を示すための記述や装飾が施されたフィルムは広く一般的に利用されているが、それらの使用は上述の各実施形態の効果を妨げない。
【0043】
さらに、上述の各実施形態の効果が損なわれない添加剤であれば、消火剤貯蔵容器を構成する樹脂は、変色の防止や耐候性の向上のために、光安定剤、紫外線吸収剤、又は老化防止剤などの公知の添加剤が適宜配合され得る。
【0044】
なお、上述の各実施形態の開示は、それらの実施形態の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のリーク測定方法及びリーク測定システムは、樹脂製の消火剤貯蔵容器内に高いガス圧力を長期間保持し得ることができるか否かを迅速かつ適切に測定し得るため、現在及び将来の消火器産業において極めて有用である。
【符号の説明】
【0046】
10 消火剤貯蔵容器
11 消火剤貯蔵部
12 雄ネジ部
13 開口部
31 蓋体
31a 起動レバー係合部
31b 起倒杆係合部
31c 消火剤ホース固定部
31d サイホン管固定部
31e 流路
31f 固定レバー
32 弁棒(バルブ)
33 起動レバー
33a レバー部
33b 薄肉部
33c 蓋体係合部
33d 第1開口部
33e 第2開口部
34 起倒杆
34a 薄肉部
34b 安全栓係合部
35 安全栓
35a 係合突起
35b 突起
35c 嵌入棒
50 支持台
70 サイホン管
91 口部
92 肩部
93 胴部
94 底部
100 リーク測定システム
101 チャンバー
102 シール部
104 第1排気ポンプ
106 測定部
107 第2排気ポンプ
108 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
起動レバーが係合し、貫通経路が形成されるとともに前記貫通経路を開閉自在にする弁棒を備える蓋体によって、樹脂を用いて継ぎ目なく成形されるとともに開口部と深さ方向に進むにしたがって外径が大きくなる肩部とを有する消火剤貯蔵容器の前記開口部を閉塞する閉塞工程と、
アルゴンガスと窒素ガスからなる群から選択される少なくとも1つの不活性ガス及びヘリウムガスと水素ガスとからなる群から選択される少なくとも1つの軽元素ガスが、前記貫通経路を通じて前記消火剤貯蔵容器内に封入される封入工程と、
前記封入工程の後、前記開口部を下に向けた状態で前記肩部の一部の外周をシールすることにより、前記蓋体及び前記開口部が収容される密閉空間が形成された後、前記密閉空間を排気する排気工程と、
前記排気工程の後、前記密閉空間内の前記軽元素ガスの量を測定する測定工程とを含む
リーク測定方法。
【請求項2】
前記排気工程の前に、前記密閉空間と弁を介して連通する、前記軽元素ガスを測定する測定器を有する測定空間を排気する工程をさらに含む
請求項1に記載のリーク測定方法。
【請求項3】
起動レバーが係合し、貫通経路が形成されるとともに前記貫通経路を開閉自在にする弁棒を備える蓋体によって閉塞された開口部と、深さ方向に進むにしたがって外径が大きくなる肩部とを備え、前記貫通経路を通じて、アルゴンガスと窒素ガスからなる群から選択される少なくとも1つの不活性ガス及びヘリウムガスと水素ガスとからなる群から選択される少なくとも1つの軽元素ガスが封入されている、樹脂を用いて継ぎ目なく成形される消火剤貯蔵容器の前記開口部を下に向けた状態で前記肩部の一部の外周がシールされることにより、前記蓋体及び前記開口部が収容される密閉空間となる第1チャンバーと、
前記密閉空間を排気する第1ポンプと、
前記密閉空間内の前記軽元素ガスの量を測定する測定器とを備える
リーク測定システム。
【請求項4】
前記密閉空間と弁を介して連通する、前記軽元素ガスを測定する測定器を有する第2チャンバーと、
前記密閉空間を排気する前に前記第2チャンバーを排気する第2ポンプとをさらに備える
請求項3に記載のリーク測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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