説明

リーダ装置及びICタグ並びにこれらを用いたICタグシステム、ICタグシステムの通信方法

【課題】汎用性に優れ、認識精度の高いICタグシステムを提供する。
【解決手段】ICタグを読み取る電圧信号を発生して出力する電圧信号出力手段と、この電圧信号を検出可能なICタグから当該電圧信号に対して返送される応答信号を検出するICタグ信号受信手段と、電圧信号の出力動作と応答信号の受信動作とを制御する制御手段と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICタグシステムにかかり、特に、電界の変化を利用してデータの送受信を行うICタグシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、RFIDタグといったICタグの技術が向上し、種々の用途に利用されつつある。例えば、物流業界にて貨物にICタグを貼り付けてこれを認識することによって貨物の配送管理を行ったり、店舗などで販売する商品にICタグを貼り付けてレジにて認識することによって商品の精算を行う、というシステムへの利用も検討されている。
【0003】
しかし、従来例におけるICタグシステムでは、リーダ部分とICタグ部分との間におけるデータ信号の送受信は、無線電波を介して行う方法が一般的であったため、ICタグが電波吸収体に隣接している場合には、リーダ側から送信されたデータ信号を受信できないなどの問題が生じ、ICタグシステムの利用範囲や方法が限られていた。
【0004】
具体的に、従来の無線電波を利用したICタグが有する問題点は、金属や水分を多く含む果物などの電波吸収体を含む貨物の梱包箱にICタグが取り付けられた場合は、データ信号を認識できない、あるいは、認識率が低下する、ということである。また、貨物の梱包箱が多く積み重ねられた状態でデータ信号を一括認識する場合や、段ボール箱などが湿っている場合には、認識率が低いという問題も生じる。さらには、冷凍食品などに取り付けられた状態で中身が動くとデータ信号を認識しにくい、という問題も生じる。また、無線電波を用いることから、使用する周波数帯域が限られている、という問題もあった。以上のように、従来例における無線電波を用いたICタグシステムでは、上述した不都合があり実用面で問題があった。
【0005】
これに対し、下記の特許文献1では、PVDFフィルムなどの圧電超音波トランスデューサをリーダ側とタグ側で用いて、超音波データの送受信を行う技術が開示されている。このように、データの送受信に超音波振動を利用することで、空気、水及び固体を介して超音波振動をデータ信号として伝達できるため、従来のICタグシステムでは困難であった積み重ねられた貨物、金属や飲料などの電波吸収体、水分が多い果物などに取り付けられたICタグも、一括認識することが可能となる。また、電波照射により障害を起こす可能性がある精密電子機器や電子デバイスの貨物認識にも使用可能となる。
【0006】
【特許文献1】特表2005−522921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、超音波振動は、その伝播距離が短いため、リーダ側とICタグ側との距離が長いと確実な通信を行うことが困難である、という問題が生じる。例えば、40〜125kHzの超音波振動は、空中であると1m先でそのパワー(強度)が約100分の1にまで減衰してしまうため、上述したような貨物などに取り付けて認識に利用することが困難である。
【0008】
一方で、超音波振動のパワー(強度)を上げることも考えられるが、そのパワーの値によっては動植物細胞に影響を与える、という問題が生じる。例えば、ICタグを貼り付けた貨物や商品が生鮮食料品である場合には、これらの品質に悪影響を与える可能性があり、また、周囲にいる人物に対しても人体に悪影響を与えてしまう可能性が生じる。
【0009】
さらに、超音波は物体に照射されると反射する性質があるため、ICタグを検出するために発信される超音波振動によって、リーダの受信部が影響を受けてしまい、高精度な送受信を行うことが困難となってしまう、という問題が生じる。
【0010】
このため、本発明では、上記従来例の有する不都合を改善し、特に、汎用性に優れ、認識精度の高いICタグシステムを提供する、ことをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明の一形態であるリーダ装置は、
ICタグを読み取る電圧信号を発生して出力する電圧信号出力手段と、この電圧信号を検出可能なICタグから当該電圧信号に対して返送される応答信号を検出するICタグ信号受信手段と、電圧信号の出力動作と応答信号の受信動作とを制御する制御手段と、
を備えたことを特徴としている。
【0012】
上記発明によると、まず、リーダ装置から、ICタグに対する読取信号が、電界の変化によって表された電圧信号にて出力される。そして、ICタグにて、上記電界の変化による読取信号が検出されると、これに応答する応答信号が返送される。そして、この応答信号をリーダ装置が受信することで、ICタグが取り付けられた物体の存在を検出することができる。
【0013】
従って、上記構成では、ICタグに対して電圧信号にて読取信号を出力しているため、読取信号に従来から使用されている電波を用いることがなく、当該読取信号を電波吸収体の影響を受けず出力することができ、ICタグとの高精度な通信を行うことができる。また、超音波も用いていないため、通信距離を長くすることができ、動植物細胞に悪影響を与えることも抑制できる。その結果、ICタグが貼り付けられた物体の損傷を抑制することができると共に、人体への影響も抑制でき、汎用性の高いICタグシステムを提供することができる。
【0014】
そして、上記電圧信号出力手段を、一対の電極にて形成した、ことを特徴としている。このとき、一対の電極を、ICタグが付された物体が位置する箇所の近辺に設けた、ことを特徴としている。さらには、一対の電極を、ICタグが付された物体が位置する箇所を挟むよう設けた、ことを特徴としている。
【0015】
これにより、電圧信号出力手段を簡易な構成にて形成することができ、装置の低コスト化を図ることができる。そして、一対の電極を、ICタグが付された物体が位置する箇所の近辺に、また、位置する箇所を挟むように設けることで、ICタグにてより精度よく検出されるよう読取信号を出力することができる。
【0016】
また、電圧信号出力手段にて電圧信号が出力されると共にICタグが付された物体が位置する箇所となる空間を囲い、少なくとも外部からの電磁波を遮蔽する遮蔽手段を備えた、ことを特徴としている。このとき、遮蔽手段は、外部からの超音波を遮蔽する機能をも有する、ことを特徴としている。また、ICタグ信号受信手段を、ICタグが付された物体が位置する箇所側となる遮蔽手段の内側に配置した、ことを特徴としている。さらに、上述した一対の電極の一方を、上記遮蔽手段にて形成した、ことを特徴としている。
【0017】
これにより、ICタグを検出する空間に、周囲から電磁波や超音波が進入することを抑制でき、読取信号や応答信号の送受信をより高精度に実現できる。このとき、遮蔽手段を読取信号を出力する一方の電極として利用することで、リーダ装置を効率よく構成することができる。
【0018】
そして、本発明では、特に、ICタグ信号受信手段は、多孔性圧電フィルムであると望ましい。これにより、ICタグが多孔性圧電フィルムである場合に、その応答信号として電圧信号や超音波信号が出力された場合であっても、かかる応答信号をより精度よく受信することができる。
【0019】
また、本発明の他の形態であるICタグは、
リーダ装置から出力されるICタグを読み取るための電圧信号を検出する電圧信号検出手段と、この電圧信号に対する応答信号を出力する応答信号出力手段と、電圧信号の検出動作と応答信号の出力動作を制御する制御手段と、を備えたことを特徴としている。例えば、電圧信号検出手段は、多孔性圧電フィルムである。そして、応答信号出力手段は、応答信号を電圧信号にて出力する、ことを特徴としており、このとき、電圧信号検出手段と応答信号出力手段とは、1つの多孔性圧電フィルムにて構成するとよい。
【0020】
これにより、リーダ装置から出力された読取信号である電圧信号による電界の変化を、多孔性圧電フィルムといった電圧信号検出手段にてより高精度に検出することができる。そして、電圧信号検出手段と応答信号出力手段とを、1つの多孔性圧電フィルムで構成することができるため、ICタグの小型化かつ低コスト化を図ることができる。
【0021】
また、本発明では、上述したリーダ装置及びICタグを備えたICタグシステムを提供している。
【0022】
さらに、本発明の他の形態であるICタグシステムの通信方法は、
リーダ装置が読取信号を出力し、この読取信号をICタグが検出する第一の工程と、
ICタグが検出した読取信号に応じて応答信号を出力し、この応答信号をリーダ装置が受信する第二の工程と、
を有するICタグシステムの通信方法であって、
第一の工程は、リーダ装置が読取信号を電圧信号にて出力し、この電圧信号による読取信号をICタグが検出する、
ことを特徴としている。
【0023】
また、上記第二の工程は、ICタグが応答信号を電圧信号にて出力し、この電圧信号による応答信号を前記リーダ装置が受信する、ことを特徴としている。
【0024】
上述したICタグシステム及びその通信方法の発明であっても、上記リーダ装置あるいはICタグと同様に作用するため、上述した本発明の目的を達成することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、以上のように構成され機能するので、これによると、ICタグに対して電圧信号にて読取信号を出力しているため、読取信号に従来から使用されている電波を用いることがなく、当該読取信号を電波吸収体の影響を受けず出力することができ、ICタグとの高精度な通信を行うことができる。さらに、超音波も用いていないことから、通信距離を長くすることができ、動植物細胞に悪影響を与えることも抑制できるため、ICタグが貼り付けられた物体の損傷を抑制することができると共に、人体への影響も抑制でき、汎用性の向上を図ることができる、という従来にない優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明におけるICタグシステムは、電圧信号を介してデータの送受信を行うことに特徴を有する。以下、具体的な構成及び動作を、実施例を参照して説明する。
【実施例1】
【0027】
本発明の第1の実施例を、図1乃至図7を参照して説明する。図1乃至図4は、ICタグの構成や特性を示す図である。図5乃至図6は、リーダ装置とICタグから成るICタグシステムの構成を示す図である。図7は、通信に用いられる信号を示す図である。
【0028】
[構成]
本発明であるICタグシステムは、貨物などの物体40に取り付けられるICタグ20と、当該ICタグ20と通信するリーダ装置10と、を備えている。そして、リーダ装置10にて、ICタグ20の存在を検知する、というシステムである。例えば、リーダ装置10は、スーパーマーケットのレジに設置され、ICタグ20は、スーパーマーケットにて販売される商品に取り付けられ、利用される。以下、各構成について詳述する。
【0029】
<ICタグ>
ICタグ20は、例えば、図5に示すように、スーパーマーケットなどで販売されている商品といった貨物に付される付け札であり、薄板状に形成されている。具体的には、図1(a)の上面図、及び、図1(b)の側面図に示すように、物体40に取り付けられる薄板状の基材フィルム21上に、制御部となるICタグチップ23と、アンテナとなる多孔性FEP23と、が設けられて構成されている。例えば、幅15mm、長さ30mm、厚さ1〜4mmにて構成することが可能である。
【0030】
ここで、多孔性FEP23について、図2を参照して詳述する。この多孔性FEP23は、多孔性の圧電フィルムであり、その構成は、図2(a)の断面図に示すように、蒸着電極23bに挟まれた、分極処理された発泡FEP23aを備えて構成されている。そして、この多孔性FEP23は、空間電荷分極により、圧電効果が高められている点に特徴を有する。ここで、同様なものとして多孔質PPがあるが、最高使用温度が、多孔質PPはプラス50℃程度であるのに対して、本実施例で用いる発泡FEPはプラス80℃程度と高いという特徴を有する。なお、上記特許文献1に挙げられているPVDFにて蒸着電極に挟まれているポリフッ化ビニリデンは多孔性ではなく、かかる点で、本発明は従来技術とは異なる。ちなみに、「FEP」は、「テトラフロロエチレン−ヘキサフロロプロピレン共重合体」である。
【0031】
この多孔性FEP23の性質としては、図2(b)に示すように、電気から圧力(振動)への変換定数(d33)や、その逆の圧電縦効果における圧力(振動)から電気への変換定数(g33)が、PZTやPVDFよりも格段に優れている。
【0032】
また、多孔性FEP23は、電界の変化に敏感に反応する性質を有する。この性質について、図3乃至図4を参照して説明する。図3は、上記性質を計測するための装置を示す図であり、この図に示すように、ピエゾドライバに接続された+電極101から電圧信号、つまり、電界Eを出力し、これをオシロスコープにて、プローブ102に接続された多孔性FEP103を検出センサとして、検出するという計測を行う。そして、そのときの計測結果を図4に示す。なお、計測結果の表では、多孔性FEP103の+電極101からの距離を、高さとして示している。すると、多孔性FEP23は、電界の変化を高精度に検出することが可能であることがわかり、電圧信号を検出する手段として機能する。
【0033】
以上より、多孔性FEP23をICタグ20のセンサ(アンテナ)として用いることで、後述するようにリーダ装置10から出力される読取信号としての電圧信号を、精度よく検出することができる。
【0034】
なお、ICタグ20にて多孔性FEP23が載置される基板フィルム21は、例えば、プラスチックシートやプリント基板である。
【0035】
そして、ICタグ20のICタグチップ22(制御手段)は、図6に示すように、フィルタ及び増幅回路22a、電源回路22b、符号化回路22c、制御回路22d、メモリ22e、符号化回路22f、駆動回路22f、などを備えている。そして、これら各回路は、図6の矢印Y1に示すようにリーダ装置10から出力された読取信号である電圧信号を検出し、多孔性FEP23を駆動して、読取信号に対する応答信号、例えば、自身のメモリ22eに記憶されている識別情報を含めた応答信号を、多孔性FEP23にて返送するよう機能する。
【0036】
このとき、多孔性FEP23は、駆動回路22gから電圧が印加されることで、圧電効果により振動し、超音波を発信する。つまり、リーダ装置10に対する応答信号を、超音波にて出力し、応答信号出力手段にて機能する。このとき、駆動回路22gによる駆動制御によって、多孔性FEP23は電圧信号をも発しており、電圧信号によっても応答信号が出力されている。ここで、応答信号は、図7(b)に示すように、超音波や電圧信号の強弱の変化によって「0,1」の二値を表す信号であり、例えば、「私のIDは・・・です」という信号を出力する。
【0037】
このように、多孔性FEP23は、リーダ装置10からの電圧信号による読取信号を検出するよう作動する(電圧信号検出手段)と共に、これに対する応答信号を出力するよう作動もする(応答信号出力手段)。
【0038】
ここで、上述したICタグチップ22を構成する各回路は、従来のICタグシステムとほぼ同様に、受信した読取信号に対して応答信号を出力するよう機能するため、その詳細な説明は省略する。
【0039】
なお、上記では、リーダ装置10からの電圧信号による読取信号を検出する手段として、多孔性FEPを用いた場合を例示したが、他の電圧信号を検出することが可能な素子(電圧信号検出手段)を用いてもよい。また、上記では、多孔性FEP23を、応答信号を電圧信号や超音波にて出力する素子としても利用しているが、応答信号を出力する素子を同様の機能を有する別の素子(応答信号出力手段)にて構成してもよい。
【0040】
<リーダ装置>
次に、リーダ装置10について説明する。図5に示すように、リーダ装置10は、ICタグ20が付された物体が搬送される箇所に設置され当該ICタグ20に対する読取信号となる電圧信号を発する電圧信号発生器11(電圧信号出力手段)と、ICタグ20の読取箇所となり電圧信号が発信される箇所の周囲を囲う磁気・超音波を遮蔽するシールド14(遮蔽手段)と、このシールド14の内面側に装備されたICタグ20からの応答信号を受信するセンサ12(ICタグ信号受信手段)と、リーダ装置20自体の動作を制御する制御回路13(制御手段)と、を備えている。
【0041】
そして、図5に示すように、リーダ装置10の電圧信号発生器11は、一対の電極にて構成されている。そして、この電極間に、制御回路13の駆動回路13cからの駆動信号に基づいて電圧が印加されると、シールド14にて囲まれた空間に、電界の変化による電圧信号が出力されることとなる。このとき、出力される電圧信号は、図7(a)に示すように、電界の強弱の変化による「0,1」の二値を表す電圧信号であり、例えば、「ICタグが存在するか」と呼びかける信号と、その呼びかけの終了信号と、を送出する。なお、図5に示すように、電圧信号発生器11上にICタグ20が付された物体が搬送され通過することとなるが、このように、ICタグ20付きの物体が位置する箇所の近辺に電圧信号発生器11を設けることで、より高精度にICタグ20と通信を行うことができる。
【0042】
ここで、シールド14は、例えば、銅やアルミニウムにてトンネル状に形成されており、その内部では、外部からの電波や超音波が遮蔽された状態にある。そして、そのトンネル内部には、ICタグ20が付された物体が通過されるようコンベアなどが装備されており、底面には、上述した電圧信号発生器11である一対の電極が装備されている。従って、このシールド14に囲まれたトンネル内には、電圧信号発生器11から出力された電圧信号による読取信号、及び、ICタグ20から出力された超音波や電圧信号による応答信号、のみが存在することとなる。
【0043】
また、上記センサ12としての多孔性FEPは、上述したICタグ20に用いられるものと同様の構成であり、超音波や電圧信号を検出することが可能である。従って、上述したように、ICタグ20の多孔性FEP23から出力される図7(b)に示すような応答信号としての超音波や電圧信号を検出することができ、この検出した信号を、制御回路13aを介してホストコンピュータに通知する。
【0044】
また、リーダ装置10の制御回路13は、図6に示すように、ホストコンピュータと接続される制御回路13aと、符号化回路13bと、駆動回路13cと、電源回路13fと、を備え、これらの動作によって上述したように電圧信号発生器11から読取信号としての電圧信号が出力される。また、リーダ装置10の制御回路13は、フィルタ及び増幅回路13dと、符号化回路13eと、を備え、多孔性FEP12にてICタグ20から送信された超音波信号や電圧信号を検出して、制御回路13aを介してホストコンピュータに通知する。
【0045】
[動作]
次に、上述したICタグシステムの動作を説明する。なお、利用場面としては、スーパーマーケットのレジを想定し、かかるレジに上述したリーダ装置10が装備されている。そして、商品にはそれぞれICタグ20が付されており、買い物客が、商品が入った買い物籠をリーダ装置10内を通過させることとする。
【0046】
まず、リーダ装置10は、駆動回路13cにより、ICタグ20を読み取るための読取信号を表す電圧信号を発生し(図6の矢印Y1参照)、シールド14内に出力する。ここに、買い物籠に入れられた商品が搬送されてくると、読取信号がICタグ20の多孔性FEP23にて検出される(第一の工程)。このとき、シールド14内では、外部からの電波や超音波が遮蔽されているため、ICタグ20の多孔性FEP23は、より高精度に、リーダ装置10からの読取信号のみに反応しうる。そして、リーダ装置10から出力された読取信号は電圧信号であるため、電波吸収体の存在の有無に関わらず長距離に伝播し、複数の商品に付された各ICタグ20にて漏れなく検出される。
【0047】
そして、ICタグ20では、上記検出した読取信号に応じて、メモリ22e内に記憶された固有のIDを、駆動回路22gへ伝達して多孔性FEP23を駆動し、応答信号となる超音波振動や電圧信号を発生させ、シールド14内に出力する(図6の矢印Y2参照)。すると、シールド14内では、外部からの電波や超音波が遮蔽されているため、シールド14の内壁に取り付けられたリーダ装置10のセンサ12にて、応答信号が高精度に検出される。これにより、リーダ装置10は、存在するICタグ20を一括して認識することができる(第二の工程)。その後、リーダ装置10にて受信された応答信号は、制御回路13aを介してホストコンピュータに通知され、会計処理される。
【0048】
以上のように、本実施例におけるICタグシステムは、まず、リーダ装置10から出力される読取信号に電圧信号を用いているため、電波吸収体の存在に関わらずあらゆる場面にて利用することができる。つまり、電波に敏感な装置や電子デバイスなどの貨物にも適用でき、さらには、食料品などの商品にもICタグを取り付けて利用することができる。また、超音波をも利用していないことから、人体への影響をも抑制でき、伝播距離も延ばすことができる。その結果、ICタグ20が付された物体の一括認識が可能となり、例えば、物流業界、流通業界などでICタグ20を貨物に取り付けたり、スーパーマーケットで商品に取り付けて利用することができ、物流貨物の管理やレジでの精算処理の効率の向上を図ることができる。
【実施例2】
【0049】
次に、本発明の第2の実施例について、図8を参照して説明する。本実施例におけるICタグ120は、上述したICタグ20とほぼ同様の構成を採っているが、図8に示すように、基材フィルムに換えて、ICタグ120をアクティブ型として機能させるための薄型のフィルム電池121が設けられている。このフィルム電池121は、ICタグチップ122に給電し、これにより、読取信号の検出処理時の駆動電源として用いられたり、あるいは、応答信号発信時の駆動電源として用いられる。
【0050】
このように、フィルム電池121上に多孔性FEP123を載置して構成することで、多孔性FEP23による読取信号の感度が高くなる、つまり、電圧信号である読取信号を検出したときの起電力が大きくなる、ことが実験にて確認されている。
【実施例3】
【0051】
次に、本発明の第3の実施例を、図9を参照して説明する。本実施例におけるリーダ装置110は、上述したリーダ装置10とほぼ同様の構成であるが、電圧信号発生器11の構成が異なる。この異なる構成について詳述する。
【0052】
図9に示すように、本実施例におけるリーダ装置110は、まず、上記実施例同様に、トンネル状のシールド114と、その内壁に取り付けられたセンサ112と、制御回路113と、を備えている。そして、さらに、電圧信号発生器111は、シールド114の底面に位置する+電極側となる電圧可変電極111aと、シールド114自体から成るアース側電極111bと、により構成されている。これにより、両電極111a,111b間にてICタグ20が付された物体が通過する位置が挟まれた状態になり、底面からシールド114に向かって、つまり、下方から上方に向かって、読取信号となる電圧信号(電界の変化)を発生させることができる。なお、+側電極とアース側電極とを入れ替えて構成してもよい。
【0053】
以上より、ICタグ20が通過する箇所を挟むように一対の電極が設けられているため、ICタグ20にてより精度よく検出されるよう読取信号を出力することができる。その結果、ICタグ20を高精度に一括認識することができる。
【実施例4】
【0054】
次に、本発明の第4の実施例を、図10を参照して説明する。本実施例におけるリーダ装置210は、装置全体を保持する筐体210aと、この筐体210aに取り付けられ読取対象となるICタグ220が付された貨物240に対して超音波振動による読取信号を出力する圧電アクチュエータ211(読取信号出力手段)と、読取信号に対するICタグ220からの応答信号を受信するセンサ212(応答信号受信手段)と、貨物240を囲い電波や超音波を遮蔽するシールド214(遮蔽手段)と、を備えている。
【0055】
圧電アクチュエータ211は、例えば、ランジュバン型圧電セラミック振動子であり、板211aを介して貨物240に当接している。そして、圧電アクチュエータ211は、超音波振動にて、図7(a)に示すような読取信号を出力しており、貨物240に対して超音波振動が直接伝達するよう出力する。このとき、本実施例における貨物240は、全てが接触して積まれているため、全ての貨物240に対して超音波による読取信号がより確実に伝達される。すると、各貨物240に付されているICタグ220にも、読取信号が伝達されることとなる。
【0056】
そして、貨物240に取り付けられているICタグ220には、センサとして上述した多孔性FEPが設けられており、この多孔性FEPによって、超音波振動である読取信号が検出され、電気信号に変換される。また、ICタグ220には、上述同様に、読取信号の検出処理とこれに対する応答信号の出力処理を行うICタグチップが設けられている。このICタグチップにて、検出された読取信号に対する応答信号が生成され、この応答信号を出力するようセンサとして用いた多孔性FEPに電圧信号を印加して駆動する。これにより、ICタグ220上の多孔性FEPは、超音波振動や電圧信号による応答信号を出力することができる。
【0057】
上記ICタ220から出力された応答信号は、シールド214に設けられたリーダ装置210の一部であるセンサ212にて受信される。このセンサ212は多孔性FEPにて構成されており、上述したように、超音波や電圧信号による応答信号を検出することが可能である。これにより、ICタグ220を検知することができる。
【0058】
ここで、上述したICタグ220は、ほぼ図1に示すものとほぼ同様の構成を採っているが、基材フィルム21の代わりに横波フィルタを用い、その上に、多孔性FEPとICタグチップとを搭載して構成してもよい。これにより、ICタグ220が貼り付けられる物体と多孔性FEPとの間に、横波フィルタが位置することとなる。なお、横波フィルタは、例えば、水などの液体、具体的には、プラスチックの袋に水を入れたものや、ゲル状体が考えられる。
【0059】
これにより、ICタグが物体に取り付けられている場合であっても、かかる物体を透過中の他の信号に混在する横波を除去することができ、より高精度の検出を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のICタグシステムによると、積み重ねられた貨物や買い物カゴの商品データ信号を一括認識することが可能となるため、物流業界、流通業界、スーパーマーケットのレジなどで利用することができ、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1におけるICタグの構成を示す図である。
【図2】ICタグに用いられる多孔性FEPの構成及び特性を示す図である。
【図3】多孔性FEPの特性を調べる実験の様子を示す図である。
【図4】多孔性FEPの特性を示す図である。
【図5】実施例1におけるリーダ装置の構成を示す図である。
【図6】実施例1におけるICタグシステムの構成を示すブロック図である。
【図7】ICタグシステムにて送受信される信号の様子を示す図である。
【図8】実施例2におけるICタグの構成を示す図である。
【図9】実施例3におけるリーダ装置の構成を示す図である。
【図10】実施例4におけるICタグシステムの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
10 リーダ装置
11 電圧信号発生器
12 センサ(多孔性FEP)
13 制御回路
14 シールド
20 ICタグ
21 基材フィルム
22 ICタグチップ
23 多孔性FEP
23a 発泡FEP
23b 蒸着電極
40 物体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICタグを読み取る電圧信号を発生して出力する電圧信号出力手段と、この電圧信号を検出可能なICタグから当該電圧信号に対して返送される応答信号を検出するICタグ信号受信手段と、前記電圧信号の出力動作と前記応答信号の受信動作とを制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とするリーダ装置。
【請求項2】
前記電圧信号出力手段を、一対の電極にて形成した、ことを特徴とする請求項1記載のリーダ装置。
【請求項3】
前記一対の電極を、前記ICタグが付された物体が位置する箇所の近辺に設けた、ことを特徴とする請求項2記載のリーダ装置。
【請求項4】
前記一対の電極を、前記ICタグが付された物体が位置する箇所を挟むよう設けた、ことを特徴とする請求項2又は3記載のリーダ装置。
【請求項5】
前記電圧信号出力手段にて電圧信号が出力されると共に前記ICタグが付された物体が位置する箇所となる空間を囲い、少なくとも外部からの電磁波を遮蔽する遮蔽手段を備えた、ことを特徴とする請求項1,2,3又は4記載のリーダ装置。
【請求項6】
前記遮蔽手段は、外部からの超音波を遮蔽する機能をも有する、ことを特徴とする請求項5記載のリーダ装置。
【請求項7】
前記ICタグ信号受信手段を、前記ICタグが付された物体が位置する箇所側となる前記遮蔽手段の内側に配置した、ことを特徴とする請求項5又は6記載のリーダ装置。
【請求項8】
請求項4記載の一対の電極の一方を、前記遮蔽手段にて形成した、ことを特徴とする請求項5,6又は7記載のリーダ装置。
【請求項9】
前記ICタグ信号受信手段は、多孔性圧電フィルムである、ことを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6,7又は8記載のリーダ装置。
【請求項10】
リーダ装置から出力されるICタグを読み取るための電圧信号を検出する電圧信号検出手段と、この電圧信号に対する応答信号を出力する応答信号出力手段と、前記電圧信号の検出動作と前記応答信号の出力動作とを制御する制御手段と、を備えたことを特徴とするICタグ。
【請求項11】
前記電圧信号検出手段は、多孔性圧電フィルムである、ことを特徴とする請求項10記載のICタグ。
【請求項12】
前記応答信号出力手段は、前記応答信号を電圧信号にて出力する、ことを特徴とする請求項11記載のICタグ。
【請求項13】
前記電圧信号検出手段と前記応答信号出力手段とは、1つの前記多孔性圧電フィルムにて構成されている、ことを特徴とする請求項12記載のICタグ。
【請求項14】
請求項1乃至9記載の前記リーダ装置と、請求項10乃至13記載の前記ICタグと、を備えたことを特徴とするICタグシステム。
【請求項15】
リーダ装置が読取信号を出力し、この読取信号をICタグが検出する第一の工程と、
前記ICタグが検出した読取信号に応じて応答信号を出力し、この応答信号を前記リーダ装置が受信する第二の工程と、
を有するICタグシステムの通信方法であって、
前記第一の工程は、前記リーダ装置が前記読取信号を電圧信号にて出力し、この電圧信号による読取信号を前記ICタグが検出する、
ことを特徴とするICタグシステムの通信方法。
【請求項16】
前記第一の工程は、前記リーダ装置から電圧信号にて出力された前記読取信号を、前記ICタグが多孔性圧電フィルムにて検出する、
ことを特徴とする請求項15記載のICタグシステムの通信方法。
【請求項17】
前記第二の工程は、前記ICタグが前記応答信号を電圧信号にて出力し、この電圧信号による応答信号を前記リーダ装置が受信する、
ことを特徴とする請求項15又は16記載のICタグシステムの通信方法。
【請求項18】
前記第二の工程は、前記ICタグから電圧信号にて出力された前記応答信号を、前記リーダ装置が多孔性圧電フィルムにて受信する、
ことを特徴とする請求項17記載のICタグシステムの通信方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−41008(P2008−41008A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217746(P2006−217746)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(390002060)NECロジスティクス株式会社 (4)
【Fターム(参考)】