ルイスY抗原に関連した疾患の予防または治療用の医薬組成物、ならびにルイスY抗原検出用のキット
【課題】ルイスY抗原過剰発現から生じる疾患の予防または治療用の医薬組成物、ならびに被検者からの試料においてルイスY抗原を過剰発現する、癌細胞、グラム陰性バクテリアまたはLPSを検出する方法の提供。
【解決手段】トロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン(TMD1)またはこの類似体を含む医薬組物。トロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメインまたはこの標識された類似体を含むキット。
【解決手段】トロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン(TMD1)またはこの類似体を含む医薬組物。トロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメインまたはこの標識された類似体を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン、ならびにルイスY抗原に関連した疾患または障害の予防および/または治療のためのこの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
感染性生物体によって誘発される過剰な宿主免疫応答から生じる敗血性ショック症候群は、入院患者の主要な死因である。敗血症における病態生理学的変化は、免疫細胞、特に単球およびマクロファージからの、一酸化窒素、腫瘍壊死因子(TNF)、およびインターロイキン(ILs)を含む前炎症性メディエイタの、病原体に誘発された制御不能な放出に関係がある。グラム陰性バクテリアの感染は、グラム陰性バクテリア外膜のリポポリサッカライド(LPS)成分による、全身性のバクテリア性敗血症の主要な要因の1つである。LPSは、前炎症性メディエイタの急速な増加を誘発し、致死性の全身性の組織損傷および多臓器不全をもたらし、これは敗血性症候群の炎症性応答によく似ている。
【0003】
哺乳動物において、膜結合CD14およびToll様レセプタ4(TLR4)−MD−2は、LPSの細胞認識に関与する。TLR4レセプタへのLPSの結合は、p38、p42/p44細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)およびc−JunN末端キナーゼ(JNK)を含むミトゲン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)経路の要素の、活性化を誘発する。休止において、刺激されていない細胞、核因子(NF)−кB、50−および65−kDa(p50/p65)タンパク質サブユニットから成るヘテロ二量化複合体は、細胞質中で抑制性кBα(IкBα)に結合された不活性複合体として維持される。細胞がLPSによる前炎症性の刺激下にある間に、IкBαのリン酸化および分解は、NF−кBα核転座を可能にし、誘導性一酸化窒素シンターゼ(iNOS)、TNF−αおよびその他を含む炎症性遺伝子の発現を促進する。
【0004】
トロンボモジュリン(TM)は、6個の表皮成長因子(EGF)様構造(D2)、O−グリコシル化部位に富むドメイン(D3)、膜内外ドメイン(D4)、および細胞質尾ドメイン(D5)が付随するNH2末端レクチン様ドメイン(D1)を含む、557アミノ酸Iタイプグリコシル化膜内外タンパク質である。(Weiler,H.等、J.Thromb.Haemost2003Jul.;1(7):1515−24)。D2 EGF様構造は、トロンビンの基質特異性の変化を介して、TMの抗血液凝固活性を担っている。TMドメイン2(TMD2)−トロンビン複合体は、抗血液凝固タンパク質C(APC)を活性化し、これはまた前血液凝固(プロコアギュラント)補助因子VaおよびVIIIaを不活性化する。一方、TM発現は、ケラチノサイト、多形核好中球(PMNs)、単球および内皮細胞を含む細胞タイプにおいて生じ、TMは、抗凝固に加えて、生物学的機能を有する可能性があることを示唆している。また、TMの異なる生物学的機能も存在し得る。TMドメインは、タンパク質Cに依存した機構および自律的な機構によって、脈管形成因子および抗炎症薬剤として機能する。最近、TMドメイン1(TMD1)の抗炎症活性が示唆された。というのは欠失TMレクチン様ドメインを有する複数マウスは、NFкBおよびMAPKシグナル伝達経路を介した癒着分子発現の抑止によって、LPSを伴う攻撃を受け易くなるからである(Conway,E.M.等、J.Exp.Med.2002 Sep.2;196(5):567−77;米国特許第73419912号)。さらに、TMD1は、進行したグリケーション最終生成物(RAGE)に対するレセプタへの、HMGB1の結合を妨害することによって、高可動性群B1(HMGB1)タンパク質、致死性内毒症および致死性敗血症の後発生サイトカインメディエイタを封鎖することが示された(Abeyama,等、J.Cli.Ivest.2005May;115(5)1267−74.Epub.2005Apr.14)。また、TMD1は補体活性化を妨げ、関節炎を防ぐ。
【0005】
TMD1は、Ca2+依存炭水化物レセプタドメインから一般に構成される、哺乳動物のCタイプレクチンに対して、構造的に相同性である。異なるCタイプレクチンは、細胞癒着、エンドサイトーシスおよび病原体中和を含む種々の生物学的機能に寄与し、先天性免疫系において重要な役割を果たす。
【0006】
上皮由来の腫瘍の70%に過剰発現されるルイスY抗原は、血液タイプに関連したジフコシル化オリゴサッカライドのファミリーの一員である(Kuemmel,A.等、Tumor Biol.2007;28:340−349)。上皮由来に由来した腫瘍には、乳房、膵臓、卵巣、結腸、胃または肺の癌が含まれる。ルイスY発現腫瘍の高い頻度、腫瘍細胞表面のこの高い密度および変性された発現、ならびに原発性および転移性病変におけるこの比較的相同な発現は、乳癌を含んだ上皮腫瘍の範囲に対する抗原的標的としての、腫瘍の選別につながっている。(Westwood,J.A.等、PANAS,2005;102(52):19051−19056;
Schlimok,G.等、Eur.J.Cancer,31A:1799−1803,1995;Tolcher,A.W.等、J.Clin.Oncol.,17:478−484,1999)。ルイスY抗原を認識する抗体は、Leyを発現する癌腫を除去すると予想される(Kerrie Clarke等、Clinical Cancer Research 6,3621−3628,2000;Erwin R.Boghaert等、Clinical Cancer Research 10,4538−4549,2004)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第73419912号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Conway,E.M.等、J.Exp.Med.2002 Sep.2;196(5):567−77.
【非特許文献2】Abeyama,等、J.Cli.Ivest.2005May;115(5)1267−74.Epub.2005Apr.14.
【非特許文献3】Kuemmel,A.等、Tumor Biol.2007;28:340−349.
【非特許文献4】Westwood,J.A.等、PANAS,2005;102(52):19051−19056.
【非特許文献5】Schlimok,G.等、Eur.J.Cancer,31A:1799−1803,1995.
【非特許文献6】Tolcher,A.W.等、J.Clin.Oncol.,17:478−484,1999.
【非特許文献7】Kerrie Clarke等、Clinical Cancer Research 6,3621−3628,2000.
【非特許文献8】Erwin R.Boghaert等、Clinical Cancer Research 10,4538−4549,2004.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、配列番号1の、トロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン(TMD1)またはこの類似体を含む、ルイスY抗原過剰発現から生じる疾患の予防または治療用の医薬組成物を提供する。
【0010】
また、本発明は、腫瘍細胞、グラム陰性バクテリアまたはLPSおいて過剰発現されたルイスY抗原を検出するための、トロンボモジュリンの標識されたN末端レクチン様ドメインまたはこの標識された類似体を含むキットを提供する。
【0011】
さらに、本発明は、被検者からの試料において、ルイスY抗原を過剰発現する腫瘍細胞、グラム陰性バクテリアまたはLPSを検出する方法も提供し、前記方法は、試料を、標識されたトロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン(TMD1)またはこの標識された類似体を含む組成物と接触させるステップを含む。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、配列番号1の、トロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン(TMD1)またはこの類似体を含む、ルイスY抗原過剰発現から生じる疾患の治療用の医薬組成物を提供する。提示されたルイスY抗原は、腫瘍細胞、グラム陰性バクテリアまたはLPSにおいて発現される。この実施形態において、腫瘍細胞は、乳房、膵臓、卵巣、結腸、胃および肺癌から選択された、上皮由来の腫瘍である。また、この組成物は、ルイスY抗原を過剰発現する腫瘍を予防および治療する。
【0013】
本発明において、TMD1はLPSに結合し、凝固作用を誘発し、ならびにマクロファージによるバクテリア食菌作用を増強することが発見されている。TMD1は、グラム陰性バクテリアによって誘発される敗血症の全身性炎症の早期における抗炎症性因子として機能することが実証される。さらに、TMD1は、肺炎桿菌(K.pneumoniae)などのスムースタイプ(smooth−type)LPSを運搬するバクテリア、重要なグラム陰性病原体と特異的に相互作用すること、および、LPSへの結合、下流シグナル形質導入を遮断することによって、LPSおよび肺炎桿菌誘発炎症性応答および死亡率を減衰させることが示される。したがって、TMD1は、LPSの中和における重要な保護機能を有することができ、敗血性ショック症候群および他の炎症性疾患状態の治療において治療的に有用である。また、マクロファージにおけるTMの生物学的機能も提示される。
【0014】
本発明は、TMがグラム陰性バクテリア媒介敗血症を保護することを示す。トロンボモジュリンN末端レクチン様ドメイン(TMD1)は、ルイスY抗原およびLPSに結合し、LPS誘発炎症性応答を抑制する。さらに、TMD1は、大腸菌および肺炎桿菌を凝固させ、これらのグラム陰性バクテリアの食菌作用を増強する。TMD1の投与は、LPSおよびグラム陰性バクテリアによって誘発された敗血症における、炎症性応答を抑制することにより宿主を保護する。それ故、組換えタイプTMD1は、敗血症の過激な炎症の治療において、とりわけグラム陰性バクテリアによって生じる感染において有用であり得る。
【0015】
好ましい実施形態において、炎症性応答は、LPSまたはグラム陰性バクテリアによって誘発された敗血症である。さらに好ましい実施形態において、グラム陰性バクテリアは、大腸菌または肺炎桿菌である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】LPS誘発炎症性メディエイタ産生およびLPS誘発シグナル伝達に関する組換えタイプMTD(rTMD)タンパク質の効果を示す図。
【図1B】LPS誘発炎症性メディエイタ産生およびLPS誘発シグナル伝達に関する組換えタイプMTD(rTMD)タンパク質の効果を示す図。
【図1C】LPS誘発炎症性メディエイタ産生およびLPS誘発シグナル伝達に関する組換えタイプMTD(rTMD)タンパク質の効果を示す図。
【図1D】LPS誘発炎症性メディエイタ産生およびLPS誘発シグナル伝達に関する組換えタイプMTD(rTMD)タンパク質の効果を示す図。
【図1E】LPS誘発炎症性メディエイタ産生およびLPS誘発シグナル伝達に関する組換えタイプMTD(rTMD)タンパク質の効果を示す図。
【図1F】LPS誘発炎症性メディエイタ産生およびLPS誘発シグナル伝達に関する組換えタイプMTD(rTMD)タンパク質の効果を示す図。
【図1G】LPS誘発炎症性メディエイタ産生およびLPS誘発シグナル伝達に関する組換えタイプMTD(rTMD)タンパク質の効果を示す図。
【図2A】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図2B】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図2C】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図2D】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図2E】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図2F】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図2G】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図2H】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図2I】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図2J】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図3A】rTMD1は、肺炎桿菌で誘発された炎症性応答および死亡率を低下させ、およびバクテリアのクリアランスを増強させることを示す図である。
【図3B】rTMD1は、肺炎桿菌で誘発された炎症性応答および死亡率を低下させ、およびバクテリアのクリアランスを増強させることを示す図である。
【図3C】rTMD1は、肺炎桿菌で誘発された炎症性応答および死亡率を低下させ、およびバクテリアのクリアランスを増強させることを示す図である。
【図3D】rTMD1は、肺炎桿菌で誘発された炎症性応答および死亡率を低下させ、およびバクテリアのクリアランスを増強させることを示す図である。
【図3E】rTMD1は、肺炎桿菌で誘発された炎症性応答および死亡率を低下させ、およびバクテリアのクリアランスを増強させることを示す図である。
【図3F】rTMD1は、肺炎桿菌で誘発された炎症性応答および死亡率を低下させ、およびバクテリアのクリアランスを増強させることを示す図である。
【図4A】rTMDタンパク質の肺炎桿菌およびLPSとの結合、およびLPSへのCD14の結合に関するrTMD1の遮断効果を示す図である。
【図4B】rTMDタンパク質の肺炎桿菌およびLPSとの結合、およびLPSへのCD14の結合に関するrTMD1の遮断効果を示す図である。
【図4C】rTMDタンパク質の肺炎桿菌およびLPSとの結合、およびLPSへのCD14の結合に関するrTMD1の遮断効果を示す図である。
【図4D】rTMDタンパク質の肺炎桿菌およびLPSとの結合、およびLPSへのCD14の結合に関するrTMD1の遮断効果を示す図である。
【図5A】THP−1細胞による、バクテリアを凝固する作用およびバクテリアを食菌する作用に関するrTMD1の効果を示す図である。
【図5B】THP−1細胞による、バクテリアを凝固する作用およびバクテリアを食菌する作用に関するrTMD1の効果を示す図である。
【図5C】THP−1細胞による、バクテリアを凝固する作用およびバクテリアを食菌する作用に関するrTMD1の効果を示す図である。
【図6A】アルファスクリーン法(AlphaScreen)によるrTMD1リガンドの分析、LPSとのrTMD1の結合に関するLey抗原の抑制効果、および大腸菌LPSO111:B4におけるルイス抗原の分析を示す図である。
【図6B】アルファスクリーン法(AlphaScreen)によるrTMD1リガンドの分析、LPSとのrTMD1の結合に関するLey抗原の抑制効果、および大腸菌LPSO111:B4におけるルイス抗原の分析を示す図である。
【図6C】アルファスクリーン法(AlphaScreen)によるrTMD1リガンドの分析、LPSとのrTMD1の結合に関するLey抗原の抑制効果、および大腸菌LPSO111:B4におけるルイス抗原の分析を示す図である。
【図6D】アルファスクリーン法(AlphaScreen)によるrTMD1リガンドの分析、LPSとのrTMD1の結合に関するLey抗原の抑制効果、および大腸菌LPSO111:B4におけるルイス抗原の分析を示す図である。
【0017】
図1はLPS誘発炎症性メディエイタ産生およびLPS誘発シグナル伝達に関する組換えタイプMTD(rTMD)タンパク質の効果を示す図である。(AおよびB)ピキア(Pichia)からのrTMDタンパク質および哺乳動物のタンパク質を、RAW264.7細胞に添加する前に前培養させた。6時間培養の後に、培地を(A)TNF−αおよび(B)NOの測定のために収集した。mTMD1は、哺乳動物タンパク質発現系からのrTMD1を表す。数値は、平均値±SD(n=3)である。LPS処理培養と比較して、AおよびB、**P<0.01および***P<0.001。PBS群と比較して###P<0.001。(C)LPSの種々の量を、RAW264.7細胞においてTNF−α産生を誘発させるために使用し、rTMD1の効果を測定した。数値は、平均値±SD(n=4)である。LPS処理群と比較して、*P<0.05、**P<0.01、および***P<0.001。IкBα(D)、核分画における、LPSで誘発されたIкBαのリン酸化および分解(D)、NF−кBp50およびp65の核転座(E)、ERK1/2およびp38リン酸化(F)、およびiNOS発現(G)をアッセイするためにウエスタンブロッティングを使用した。全ての結果は、少なくとも3つの独立した実験で得られた結果をよく表している。
【0018】
図2は、rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。(AおよびB)rTMD1は,LPSのi.p.注射(20mg/kg)の前にi.v.投与された。(A)TNF−αおよび(B)NO産生のアッセイのために、LPS投与の6時間後に血清を集めた。数値は、平均値±SD(n=10)である。LPS処理群と比較して、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001;PBS処理群と比較して、###P<0.001。(C)ヘマトキシリンおよびエオシンで染色された肺の切開面の代表的な顕微鏡像を示す。(D)それぞれの肺胞において、浸潤したPMNの数を光学顕微鏡によって観察した(倍率630×)。それぞれの実験マウスについて、スライドガラス1枚当り4つの任意の区域からPMNの数を数え、PMNの数をそれぞれのスライドガラス上の肺胞数の区域に基準化した。数値は、平均値±SD(n=10)である。LPS処理群と比較して、***P<0.001;PBS処理群と比較して、###P<0.001。これらのグラフは、3つの独立した実験からの結果を表す。(E,F,およびG)複数マウス中へのLPS(20mg/kg)i.p.注射の前に、rTMD1(5および25mg/kg)を、i.v.投与した。12時間後に、複数マウスを犠牲にし、腎臓組織を取り出した。腎臓切開面を、組織学的ヘマトキシレンおよびエオシン染色によって観察した。代表的な顕微鏡像を示す。(E)腎性障害のrTMD1抑制。矢印先端は、糸球体の部位を示す(スケールバーは50μm)。rTMD1は、複数マウス血清中の腎性障害マーカBUN(F)およびクレアチニン(G)のレベルを低下させた。それぞれの実験群に対して、n=4;LPSで処理されていない対照複数マウスと比較して###P<0.001。LPS処理対照複数マウスと比較して**P<0.01、***P<0.001。これらのグラフは、3つの独立した実験からの結果を示す。(H)複数マウスは、LPS(40mg/kg)およびrTMD1(LPS注射の、0、6、12および24時間後に2mg/kgの4回の投与量)を受けた。生存数を求めた。それぞれの実験群に対して、n=20。LPS処理群と比較して、***P(I)<0.001。(I)循環におけるrTMD1のクリアランス。それぞれ、循環におけるrTMD1の半減期はrTMD1(10mg/kg)の注射によって求め、また血清中のrTMD1のレベルは、捕捉および検出抗体として抗−c−MyeおよびTM−H300を使用して、サンドイッチELISAによって測定した。数値は、平均値±SD(n=5)。(J)rTMD1処理を伴わないか、または伴った循環におけるLPSのクリアランス。LPS(20mg/kg)を、雄FVB複数マウスに、rTMD1(10mg/kg)を伴わないか、または伴ってi.p.投与し、血清試料を、種々の時間間隔において収集し、LPSの量をリムルス(Limulus)アメーバ様細胞溶解産物試験によって求めた。数値は、平均値±SD。それぞれの時間間隔群に対して、n=5;LPS処理複数マウスと比較して、*P<0.05および***P<0.001。
【0019】
図3はrTMD1は、肺炎桿菌で誘発された炎症性応答および死亡率を低下させ、およびバクテリアのクリアランスを増強させることを示す図である。(AおよびB)rTMD1を、複数マウスへの肺炎桿菌(5х102CFU/マウス)の注射の前に投与した。血清を、(A)TNF−αおよび(B)NO産生のアッセイのために肺炎桿菌の投与12時間後に収集した。肺炎桿菌処理群と比較して、**P<0.01および***P<0.001;PBS処理群と比較して、###P<0.001。(C)rTMD1(10mg/kg)を、複数マウスへの肺炎桿菌(5×103CFU/マウス)の注射の前に投与した。生存率を求めた。それぞれの実験群に対して、n=20。肺炎桿菌処理群と比較した***P<0.001。これらのグラフは、3つの独立した実験からの結果を表す。(D)循環においてrTMD1は、肺炎桿菌クリアランスを増強した。FVB複数マウスに、rTMD1(10mg/kg;i.v.)を伴わないか、または伴って肺炎桿菌(5×102CFU/マウス)をi.p.注射した。それぞれの群からの血液試料を種々の時間間隔において収集し、生存可能なバクテリアをCFU計数するためにアッセイした。数値は、平均値±SD。それぞれの時間間隔群に対して、n=5;肺炎桿菌処理複数マウスと比較して、*P<0.05。(E)(F)rTMD1(10mg/kg)を、複数マウスに肺炎桿菌(5х102FU/マウス)を注射した30または60分後に、直ちに投与した。TNF−αの血清レベルおよび肺炎桿菌クリアランス(F)を求めた。数値は、平均値±SD。それぞれの時間間隔群に対して、n=8−10;それぞれの時間間隔群の肺炎桿菌処理複数と比較して、*P<0.005および***P<0.001。PBS処理群と比較して、###P<0.001。同様の結果が2つの独立した実験において得られた。
【0020】
図4はrTMDタンパク質の肺炎桿菌およびLPSとの結合、およびLPSへのCD14の結合に関するrTMD1の遮断効果を示す図である。(A)肺炎桿菌またはBSA。
(B)大腸菌(E.coli)O111:B4 LPSまたはBSA。(AおよびB)肺炎桿菌、LPSまたはBSAをウエル上にコートした。rTMDタンパク質の等モル量をそれぞれのウエルに添加した。rTMDタンパク質の結合を検出した。数値は、平均値±SD(n=6)。rTMD23添加群およびBSAコート群と比較して、***P<0.001。(C)LPSをウエル上にコートし、0.2Mマンノースまたは5mM EDTAの、不存在下および存在下において、CaCl2を含む結合バッファー中でrTMD(50μg/mL)と共にインキュベートした。結果は、結合バッファー群(100%)で基準化した相対吸光度の百分率として表す。数値は、平均値±SD(n=6)。この結合バッファー群と比較して、***P<0.001。示された結果は、少なくとも3つの独立した実験において得られた結果の典型的なものである。(D)LPSに対するCD14の結合のrTMD1封鎖。LPSをウエル上にコートし、rTMD1およびCD14の指示された濃度でインキュベートした。LPSに対するCD14の結合を、CD14抗体(M−305、Santa Cruz Biotechnology)を使用して検出した。数値は、平均値±SD(n=4)、CD14だけを受けた群と比較して、**P<0.01および***P<0.001。同様の結果が、3つの独立した実験において得られた。
【0021】
図5はTHP−1細胞による、バクテリアを凝固する作用およびバクテリアを食菌する作用に関するrTMD1の効果を示す図である。(A)FITC標識肺炎桿菌およびFITC標識FITC標識大腸菌DH5αを、5mMCaCl2を含む結合バッファー中で、ならびに0.2Mマンノースおよび5mMEDTAを含まないか、または含んで、rTMD1の不存在下または存在下でインキュベートした。蛍光的に標識されたバクテリアを、蛍光顕微鏡を使用して観察して、バクテリアの凝集作用を評価した。非標識rTMD1をエンテロキナーゼによるrTMD1のインキュベーションによって調製し、Document S1に記載されている通りに精製した。また、哺乳動物発現rTMD1および標識rTMD23を有する内部対照も包含されていた。顕微鏡写真は、これらの3つの独立した実験の代表的なものである。(B)代表的顕微鏡写真は、バクテリアの食菌作用に関するrTMD1の効果を示している。分化したTHP−1細胞を、rTMD1前処理されたFITC標識肺炎桿菌によりインキュベートした。左のパネルは明るいドメイン像を示し、右のパネルは蛍光顕微鏡写真(スケールバーは200μmを表す)を示す。(C)(B)からの試料のFACS分析。このグラフは、FITC蛍光(x軸)のレベルに対して相対的細胞数(y軸)を描いたものである。これらのグラフは、3つの独立した実験からの結果を表す。
【0022】
図6はアルファスクリーン法(AlphaScreen)によるrTMD1リガンドの分析、LPSとのrTMD1の結合に関するLey抗原の抑制効果、および大腸菌LPSO111:B4におけるルイス抗原の分析を示す図である。(A)AlphaScreenアッセイ結果。数値は、平均値±SD(n=4)。哺乳動物発現rTMD1の糖結合特異性は、相対強度によって示される(最高の吸光度に関連して)。糖識別は、表に挙げた番号によって示される。ブランクに比較して***P<0.001。結果は、4つの独立したアッセイの平均から得られた。同様の結果が、ピキア発現rTMD1を使用して得られた。(B)LPSとのrTMD1の結合に関するLey抗原の効果。LPSをウエル上にコートし、種々の濃度のLeyおよびrTMD1をそれぞれのウエルに添加した。rTMD1の結合は、平均値±SD(n=4)として発現され、rTMD1単独群と比較して、*P<0.05、**P<0.01、および***P<0.001。同様の結果が、2つの独立した実験において得られた。(C)大腸菌LPSO111:B4におけるルイス抗原の分析。LPS(5μg/ウエル)を高結合マイクロタイタープレートのウエルの上にコートした。Lea、Leb、Lex、およびLey抗体(5μg/mL)を結合バッファー中のそれぞれのウエルに添加し、37℃で2時間インキュベートしてから、ペルオキシダーゼ標識した第二の抗体によって2時間培養した。LPSへのルイス抗体の結合は、450nmにおいて吸光度を測定することによって検出された。平均値±SD(n=4)。同様の結果が2つの独立した実験において得られた。(D)LPS誘発シグナル伝達経路についての、rTMD1の抑制効果に関するLeyの効果。rTMD1(20μg/mL)および種々の濃度のLeyを、細胞に添加する前にLPS(100mg/mL)と共にプレインキュベートした。30分間の培養の後に、ウエスターン ブロットを使用して、LPS誘発ERK1/2リン酸化、細胞質の区画におけるIкBαの分解、および、NF−кBp50およびNF−кBp65の核転座を、アッセイした。同様の結果が2つの独立した実験において得られた。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書では、「炎症」は、生存している組織の損傷に対する局所反応、とりわけ細い血管、これらの内容物、およびこれらの随伴する構造に対する局所反応を意味する。組織への、脈管壁を通した血液成分(血管外遊出)の通過が炎症の特徴である。一般に、炎症は、内皮壁への増強された白血球の癒着で始まり、組織または器官中への白血球の血管外遊出をもたらす。
【0024】
実際に、バクテリア、過剰な熱、低温、粉砕などの機械的損傷、酸、アルカリ、照射により生存している組織に損傷を与えるいずれかの有害なプロセスまたはウイルスによる感染は、関与する器官または組織に関係なく炎症を起こし得る。動物およびヒトの疾患は、関節炎、皮膚炎、腹膜炎、虚血/再潅流障害(例えば、心臓、肝臓、腎臓、脳)を随伴する障害、炎症性肺障害(例えば、喘息、気管支炎、成人呼吸困難症候群(ARDS)を含む)、脈管炎、アテローム性動脈硬化症、腎炎、皮膚創傷治癒、敗血症、および、局所および全身性感染症を含む「炎症性疾患」として分類されることは、明らかなはずである。
【0025】
本明細書では、用語「グラム陰性バクテリア」は、グラム染色プロトコルにおいてクリスタルバイオレット染料を保持しないものである。グラム陽性菌は、アルコール洗浄の後に前記暗青色染料を保持する。グラム染色試験において、クリスタルバイオレットの後に、対比染料が添加され、この対比染料は全てのグラム陰性バクテリアを赤色またはピンク色に染める。この試験自体、バクテリア細胞壁の構造差に基づいて、バクテリアの2つの明確に異なるタイプを分類する際に有用である。グラム陰性バクテリアの多くの種は、病原性であり、グラム陰性バクテリアは宿主有機体の疾患を起こすことが可能であることを意味している。この病原性の能力は、通常、グラム陰性細胞壁のある種の成分、特にリポ多糖類(LPSまたはエンドトキシンとしても知られている)層に随伴している。
【0026】
本明細書では、用語「凝固」は、粒子の凝集である。これは、生物学の場合に3つの主な例において生じる。1.抗体の存在下でバクテリアまたは赤血球などの細胞の凝集。抗体または他の分子は、多発性粒子と結合し、多発性粒子を接合する。2.溶液に懸濁されている小さい粒子の凝集。これらの大きい物質は、次いで(通常は)沈殿する。3.アレルギー性反応タイプ発生。この場合、細胞は異物が細胞に入るのを防止するために、より堅く締まる。これは、通常その細胞の周辺にある抗原の結果である。本発明のバクテリアの凝固は、マクロファージによるバクテリアを食菌する作用を促進する。
【0027】
好ましい実施形態において、当該の疾患は、LPSまたはグラム陰性バクテリアにより誘発される敗血症である。この疾患または障害は、トロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン(TMD1)をLPSまたはグラム陰性バクテリアに結合して、バクテリアの凝固またはオプソニン作用を誘発することによって予防または治療される。したがって、この疾患または障害は、マクロファージにおける、炎症性のメディエイタTNF−αまたはNOの、LPSで誘発された産生を減少させることによって、ならびにLPSで誘発された炎症性の応答に関与したシグナル経路を抑制することによって予防または治療される。
【0028】
さらに好ましい実施形態において、当該の疾患または障害は、相互作用TMD1によって予防または治療される。TMD1は、グラム陰性バクテリアに対する先天性の免疫性にとって、自然のオプソニン的機能基として機能する。オプソニン作用の誘発は、LPSまたは細胞膜中のルイスY抗原へTMD1を結合させることによってなされ、バクテリアの凝固の誘発は、マクロファージによるバクテリアを食菌する作用を促進する。これらの応答は、肺におけるPMN浸潤を軽減するか、または腎臓機能を維持する。LPSで誘発された炎症性応答に関与したシグナル経路は、ERKおよびP38のリン酸化、IкBの分解、およびNF―кBの転座、および、誘導性の一酸化窒素シンターゼ(iNOS)およびTNF−αの増大する発現を含む。さらに、この疾患または障害は、高移動性基B1(HMGB1)との相互作用TMD1によって予防される。
【0029】
また、本発明は、被験者からの試料においてルイスY抗原を過剰発現する、腫瘍細胞、グラム陰性バクテリアまたはLPSを検出する方法を提供し、前記方法は、次のステップを含む:試料を、標識されたトロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン(TMD1)、またはこの標識された類似体と接触させるステップ。好ましい実施形態において、ルイスY抗原を発現する腫瘍細胞は、乳房、膵臓、卵巣、結腸、胃および肺癌である。提示された試料は、被験者からの、血液、組織、体液、細胞または排出物から得られる。本発明の実施形態において、被験者は、哺乳動物である。本発明の好ましい実施形態において、被験者はヒトである。TMD1における標識されたマーカまたはこの類似体は、蛍光分子、放射性分子、色素の分子、ビオチン、アクリジニウムエステルおよびアクリジニウム−9−カルボキサミドなどの検出可能なマーカである。
【0030】
本明細書では、用語「被験者」は、医療の注目を受けるなんらかの動物である。特に、動物はヒトである。ヒトは、往々にして病気になったり、傷害を受けたりして、医師またの医療専門家による治療を必要とする。
【0031】
本明細書では、用語「類似体」は、1つまたは2つ以上の個々の原子が、異なる原子で、または異なる官能基で置換された化合物である。生化学におけるこの用語のその他の使用は、別の物質に構造が類似している物質のことをいう。本明細書において使用される、TMD1の類似体には、限定はしないがネズミを含む異なる動物からのTMのレクチンドメイン、ならびに突然変異など、および、ポリエチレングリコール化およびグリコシレーションなどの化学的変性などの、この分野の知識を有する技術者に知られている変性が含まれる。
【0032】
本明細書では、用語「先天性免疫」は、宿主を他の有機体による感染から非特異的な方法で防御する、細胞およびメカニズムを含む。これは、先天性の細胞は包括的な方法で病原体を認識および応答し、しかし順応免疫系とは異なって、これは、宿主に対して長期にわたる、または保護的免疫を与えないことを意味する。先天性免疫系は、感染に対して即時の防御をもたらし、植物および動物の生命現象の全ての綱において見出される。
【0033】
本明細書では、用語「オプソニン作用」は、例えば、膜上のマイナスに電荷された分子を被覆することにより、食菌作用のプロセスに対する結合エンハンサーとして作用するいずれかの分子作用である。食菌作用を実行する細胞の膜ならびにこの標的は、共にマイナス電荷(ゼータ電位)を有し、この2つの細胞の接近を困難にする。オプソニン作用のプロセスの間に、抗原は、抗体および/または補体分子によって結合される。食作用の細胞は、オプソニン分子を結合するレセプタを発現する。これらの分子により被覆された抗原により、食細胞への抗原の結合は、大きく増強する。ほとんどの食作用の結合は、抗原のオプソニン作用なしには生じ得ない。さらに、抗原のオプソニン作用、および引き続く活性化された食細胞への結合は、近傍の食細胞上の補体レセプタの発現を増大させる。オプソニン分子の例には、IgGおよびIgA抗体、および、補体系のC3b、C4bおよびiC3b成分が挙げられる。
【0034】
さらに、本発明は、標識されたトロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン(TMD1)、またはこの標識された類似体を含む、腫瘍細胞、グラム陰性バクテリアまたはLPSにおいて過剰発現されたルイスY抗原を検出するキットを提供する。
【実施例】
【0035】
材料および方法
【0036】
1. ピキア(Pichia)および哺乳動物タンパク質の両方の発現系を使用した組換えタイプTMD(rTMD)の調製。
pPICZαAおよびpCR3−EKベクターを、ヒトrTMDタンパク質の発現および分泌のために使用した。このヒトrTMDタンパク質は、メタノール資化酵母(Pichia patoris)およびヒト胎芽腎臓 293(HEK293)哺乳動物タンパク質発現系において、精製のために、および、タンパク質検出のために6XHis標識およびc−Mycエピトープを含んでいる。簡潔に言うと、TMD1(残余物Ala1−Ala155)、TMD2/EGF123(残余Ala224−Glu346)、およびTMD23(残余Ala224−Ser497)に対してコード化するcDNA断片を、特異性プライマーを使用してヒト臍帯静脈内皮細胞のPCRによって得た。構築物に対して使用したプライマーシーケンスは、以下の通りであった:TMD(TMD1−センス:配列番号2およびTMD−アンチセンス:配列番号2およびrTMD1−アンチセンス:配列番号3)、TMD23(TMD2−センス:配列番号4およびTMD3−アンチセンス:配列番号5)、およびTMD2/EGF123(TMD2−センスおよびTMD2/EGF3−アンチセンス:配列番号6)。rTMDシーケンスとHis/c−Myc標識の間のエントロキナーゼ切断部位は、引き続いて起こる標識シーケンスの除去を可能とする。発現されたrTMDタンパク質を含む、酵母発酵媒体またはHEK293細胞条件付け媒体は、ニッケルキレート化セファロースカラム(Amersham Pharmacia Biotec.,Piscataway,NJ)を利用し、rTMD含有分画をイミダゾール傾斜方法で溶離した。精製されたrTMDタンパク質を、SDS−PAGEおよびウエスターンブロッティングによって検査し、質量分光分析によるタンパク質同定によって確認した。また、rTMDタンパク質のN末端アミノ酸シーケンスもモデル477Aシーケンサー(Applied Biosysyems,Foster City,CA)によるEdman分解によって決定した。融合ペプチドを含むrTMDの分子量は、タンパク質濃度計算用のExPAsy ウエブサイトを使用して予測した(rTMD1:22,902ダルトン、rTMD2/EGF123:16,473。ダルトンおよびrTMD23:32,823ダルトン)。非標識rTMDを、5ngエンテロキナーゼ(New England Biolab,MA)含有1mgrTMDを、4℃において16時間培養することによって調製した。培養の後に、試料をニッケルキレート化セファロースカラムに適用し、この非標識rTMD含有非結合分画を収集した。この試料を固定された大豆トリプシン抑制因子セファロースゲルでさらに処理して、残余のエンテロキナーゼを吸収した。それぞれの試料を、エンテロキナーゼ処理の前後に、SDS−PAGEおよびウエスターンブロットによって分析し、元の標識rTMD1より2000ダルトン小さい分子量を有する非標識rTMD1を得た。
【0037】
細胞および細胞培養。
ヒト白血病単球THP−1細胞およびネズミマクロファージ細胞をアメリカン・タイプ・カルチュアー・コレクション(Amerikan Type Culture Collection)から得た。THP−1細胞を、10mMHEPES、1mMピルビン酸ナトリウム、0.1%β−メルカプトエタノール、100U/mlペニシリン、100g/mlストレプトマイシン、および10%致死胎児血清(FBS)で捕足された、RPMI−1640の懸濁液中で増殖させた。RAW264.7細胞は、1.5g/l炭酸水素ナトリウムおよび4.5g/lグルコース、100U/mlペニシリン、100g/mlストレプトマイシン、および10%FBSを含むように調整された、4mM L−グルタミンを含むDulbecco’s変性Eagle’s媒体中で、給湿された5%CO2雰囲気下で37℃において、付着層として増殖させた。差別化のために、THP−1細胞を、10nM PMAを含む媒体中でプレートとし、18時間接着させた。
【0038】
3. 炎症性のメディエイタアッセイ。
条件付けされた媒体またはマウス血清における、TNF−αを酵素関連免疫吸着剤アッセイ(ELISA)(R&D Systems,Minneapolis,MN)によって測定した。媒体またはマウス血清定における亜硝酸塩の蓄積は、Griess 試薬(Sigma−Aldrich)を使用して比色分析によって求めた。血液尿素窒素(BUN)およびクレアチニンを、Roche D&Pモジュラー(RocheDiagnostic Systems,Branchburg)により測定した。
【0039】
4. ウエスターン ブロッティング。
大腸菌(E.coli)およびLPS(LPS O111:B4,Sigma−Aldrich)を含まないか、または含んで、ルイスY(Ley;DextraLaboratories,Reading,UK)の不存在下または存在下で30分間プレインキュベートされた、rTMD(0−50μg/mL、0−2.18nモル/mLに等しい)を使用してTHP−1またはRAW264.7細胞を刺激した。インキュベーション期間は、pIкBおよびIкB(他に指示がなければ、B−9およびC−21,SantaCruz Biotecnology,Santa Crus,CA,)、p38(C−20)およびpp38(D−8)に対して20分間、ERK1/2(K−23)、pERK1/2
(E−4)、ラミン(lamin)B2(E−3、Zymed Labolatories、San Fransisco、CA)、NF−кBp50(C−19)およびNF−кBp65核転座(C−20)に対して30分間、および特異性抗体(N−20)を使用したiNOS発現に対して24時間であった。
【0040】
5. 動物および全身性敗血症モデル。
雄FVB複数マウス(生後8−10週間)を使用して、インビボで敗血症をモデルした。The Institutional Animal Care and Use Committee of the National Cheng Kung Universityが方法を承認した。慢性の内毒血症モデルにおいて、等モル量で、種々の濃度のrTMD1またはrTMDタンパク質を尾部静脈(i.v.)注射によって投与し、LPS(20mg/kg)または肺炎桿菌(5×102CFU/マウス、BCRC)を腹腔内(i.p.)注射によって投与した。6または12時間後に、複数マウスをペントバルビタール麻酔(50mg/kg;i.p.)によって犠牲にした。血清を収集し、TNF−α、NO、BUNおよびクレアチニンに対してアッセイし、ならびに肺および腎臓組織を取り出し、ホルマリンで固定し、組織化学的検査のためにパラフィン中に包埋した。致命的な敗血症モデルにおいて、rTMD1(2mg/kg、87.3nモル/kgに等しい)をLPS(40mg/kg)のi.p.投与0、6、12、および24時間後に、i.v.投与した。循環におけるrTMD1の半減期を、rTMD1(10mg/kg、436.64nモル/kgに等しい)のi.v.注射によって求め、血清試料を種々の時間間隔で収集した。収集された血清中のrTMD1のレベルを、捕捉および検出抗体(両者とも、Santa Crus Biotechnology製)として、アンチ−c−Mycモノクロナール抗体およびTM−H300をそれぞれ使用するサンドイッチELISAによって求めた。致死性の菌血症に対してrTMD1(10mg/kg)を、肺炎桿菌(5×103CFU/マウス)の注射の前に投与した。死亡率率を、どの実験群においても全てのマウスが死亡するまで、6−12時間毎に監視した。LPS半減期を求める実験的方法は、以下の通りである。LPS(20mg/kg)を、rTMD1(10mg/kg;i.v.)を含まないか、または含んで雄FVBs102にi.p.投与した。血清試料を種々の時間間隔で収集し、LPSの量をリムルス(Limulus)アメーバ様細胞溶解産物試験(Associates of Cape Cod,E.Falmouth,MA)によって求めた。さらに実験を実施して、rTMD1がバクテリア クリアランスに影響を与えるかどうかを確認した。肺炎桿菌(5×102CFU/マウス)を、TMD1(10mg/kg;i.v.)を含まないか、または含んで雄複数マウスにi.p.投与し、血清試料を種々の時間間隔で収集した。血液試料の順次希釈溶液を血液寒天板上で平板インキュベートとし、37℃において終夜インキュベーションした後に、コロニーを数えることによって肺炎桿菌の外殖を定量した。
【0041】
6.肺炎桿菌およびLPS結合アッセイ
重炭酸塩バッファー(pH9.6)の100μL中の、肺炎桿菌(3×105CFU/ウエル)、大腸菌O111スムースタイプLPS(5μg/ウエル)、またはウシ血清アルブミン(BSA、5μg/ウエル)を、高結合マイクロタイタープレート(Corning Costar ,Cambridge,MA)のウエル上にコートした。非特異性結合を、50mg/mLBSAを含む結合バッファー(20mM トリス−HCl、pH7.4、0.15M NaCl、5mM CaCl2)で遮断した。1mg/mL BSAを含む結合バッファー中の、CD14(10μg/mL;R&D Systems)を含まないか、または含んだ種々の濃度のrTMDタンパク質をウエルに添加し、2時間インキュベートした。いくつかの実験において、LPS結合およびrTMD1結合と競合するために、0.2Mマンノース、5mM EDTA、またはLeyを結合バッファー中に含ませた。抗体rTMDタンパク質のc−Mycエピトープに対する抗体をウエルに添加し、2時間インキュベーとし、ペルオキシダーゼ標識化した二番目の抗体を続いて添加した。rTMDタンパク質の結合を450nmを測定することによって検出した。
【0042】
7.バクテリアの凝固に関するrTMD1の効果
肺炎桿菌および大腸菌DH5α(BCRC)を、0.1M 重炭酸ナトリウムバッファー(pH9.6)0.1mg/mLで2回洗浄し、暗所で37℃において、0.mg/mLフルオレセインイソチオシアネート(FITC)によりインキュベートした。rTMD1の20μg/mLのそれぞれを、非標識rTMD1、哺乳動物のrTMD1、および組換えTMドメイン2および3(rTMD23)を、バッファー(20mM Tris、pH7.4、0.15M NaCl、5mM CaCl2、1mg/mL BSA)中で、0.2Mマンノースまたは5mMEDTAを含んで、または含まずに、FITC標識バクテリア(1×105CFU/mL)によって共−インキュベートした。試料をガラススライド上に置き、蛍光的に標識されたバクテリアを顕微鏡的に観察して、凝固を評価した。
【0043】
8.THP−1食菌作用アッセイ
FITC標識肺炎桿菌(1×105CFU/ウエル)を、分化したTHP−1細胞に添加する前に、37℃で、30分間プレインキュベートした。2時間インキュベーションした後に、THP−1細胞を蛍光顕微鏡検査の前に、氷冷PBSで2回洗浄し、またはさらにトリプシン化し、PBS中に再懸濁させて、蛍光活性化細胞選別器(FACS;Becton Dickinson San Jose、CA)を用いて分析して、THP−1細胞内の蛍光を測定した。ログ(log)スケールで530nmにおいて収集された、条件当り10,000件(細胞)の緑色蛍光データをCellQuest(登録商標)ソフトウエア(Becton Dickson)により分析した。
【0044】
9.rTMD1リガンド分析。
ビオチン−ポリアクリルアミド(ビオチン−PAA)−糖(GlycoTech,Rockville,MA)、rTMD1、ウサギアンチマウス IgG 抗体(Zymed)、マウス、アンチ−6×His標識抗体(Abcam,Cambridge,UK)、ならびに接合ストレプトアビジンをコートしたドナーおよびタンパク質A接合アクセプタビーズ(PerkinElmer,Boston,MA)を、25mMTris(pH7.0)、25mMCaCl2および1mg/mL BSAを含むアッセイバッファーで、適切な濃度に希釈した。このアンチ−6×His標識抗体、ウサギアンチマウス IgG 抗体、およびアクセプタビーズ(Abcam,Cambridge,UK)、ならびにアクセプタビーズを使用(アクセプタ混合物として)前に、25℃で1時間アッセイバッファーでインキュベートした。ビオチン−PAA−糖 、rTMD1、およびドナービーズを、ProxiPlate−384アッセイプレート(PerkinElmer)のウエルに別々に添加し、25℃で1時間インキュベートした。アクセプタの混合物のアリコートを次いでウエルに添加し、25℃でさらに2時間インキュベートした。この結果をAlphaScreenプログラムを使用して、PerkinElmer Envisionの機器によって読み取った。全ての手法およびインキュベーションを暗所で実施した。
【0045】
10.大腸菌LPS O111:B4におけるルイス抗原の分析。
大腸菌O111:B4LPS(5μg/ウエル)を高結合マイクロタイタープレートのウエル上にコートした。50mg/mLBSAを含む結合バッファーにより特異性結が遮断された後に、ルイスa(Lea)、ルイスb(Leb)、ルイスX(Lex)、およびLeyに対する種々の抗体(Abcam)の5μg/mLを、1mg/mLBSAを含む結合バッファーと共にウエルに添加し、および、ヤギアンチマウスセイヨウワサビペルオキシダーゼ共役IgGまたはIgMにより37℃で2時間インキュベートする前に、27℃で2時間インキュベートした。このペルオキシダーゼ反応を、基質として3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンを使用して実施し、2NH2SO4によって停止した。この産物を450nmにおいて吸光度を測定することによって検出した。
【0046】
11.統計的分析
生存データをログ−ランクによって分析した。データを平均値±標準偏差(SD)として表した。統計的有意性を非対性スチューデント t 検定によって分析した。2つを超える群の間の差異を分散の一方向分析または分散の二方向分析、および以下の多重比較検定によって比較した。この場合、P<0.05は統計的に有意と考えられる。
【実施例1】
【0047】
rTMD1処理は、マクロファージにおけるLPS誘発炎症性メディエイタ産生を減少させる。
【0048】
TMD1が抗炎症性特性を有するかどうかを試験するために、ピキアパストリス(Pichia pastoris)および哺乳動物のタンパク質発現系の両方を使用することによってrTMDタンパク質を調製した。両方の系から得られたこのrTMDタンパク質は、糖鎖形成変性の状態で同様な分子量を有した。この分子量は、約35キロダルトン(kDa)であり、銀染色およびウエスターン ブロッテイングによってアッセイされる通りであった。LPSにより刺激されたRAW264.7およびTHP−1細胞におけるrTMDタンパク質の抗炎症性効果を最初に試験した。EGF様ドメイン1、2,3を含む組換えTMD2(rTMD2/EGF123)ではなく、ピキア発現rTMD1は、投与量に依存して、LPSにより刺激されたRAW264.7細胞中のTNF−α産生を抑制した(図1A);同様な結果が、THP−1細胞において得られた(データは示されていない)。同様に、rTMD1だけが、RAW264.7細胞におけるNO産生を効果的に抑制し得る(図1B)。;同様な結果は、哺乳動物発現rTMD1を使用して得られた(図1A−B)。rTMD1による、LPS誘発炎症性メディエイタの減少がLPS−rTMD1結合から生じるのかどうかを試験するために、LPSおよびrTMD1の種々の濃度を使用して、相互作用を試験した。rTMD1の不在の場合に、LPSは投与量に依存してTNF−α産生を増大させ(図1C)、rTMD1は投与量に依存してLPS誘発TNF−α産生を
抑制した(図1C)。このことは、細胞による炎症性メディエイタ産生に関してrTMD1が有する低減効果を、LPS−rTMD1結合がもたらすという仮説と一致する。
【実施例2】
【0049】
rTMD1はLPS誘発シグナル伝達経路を遮断する。
IкBαのリン酸化および分解は、LPS(100mg/mL)で刺激されたRAW264.7細胞において起こる。この効果は、rTMD1(50μg/mL、2.18nモル/mL)によって完全に逆になった(図1D)。また、NF−кBのLPS誘発核転座もrTMD1によって投与量依存のやりかたで抑制された(図1E)。また、ERK1/2およびp38のLPS誘発リン酸化もrTMD1によって抑制された(図1F)。シグナル形質導入経路の活性化に関するrTMD1の同様な効果が、THP−1細胞において観察された(データは示されていない)。また、LPSによるRAW264.7細胞におけるiNOS誘導もrTMD1によって抑制された(図1G)。
【実施例3】
【0050】
rTMD1はサイトカイン放出を減少させ、肺および腎臓の障害を減衰させ、実験敗血症における生存率を改善させ、ならびにバクテリアLPSクリアランスを増強する。
rTMD1はLPS誘発炎症性メディエイタ産生およびシグナル伝達経路を抑制することが予想できるので、多分、rTMD1は、インビボでLPSによって誘発される炎症性応答および死亡率を減少させるための治療薬として機能するであろう。TNF−αおよびNOレベルは、対照複数マウスに対する、20mg/kgLPSのi.p.投与の6時間後に、複数マウスにおいて増大した。rTMD1(1−5mg/kg、43.66−218.3nモル/kgに等しい)のi.v.注射を受けた複数マウスは、TNF−αおよびNOのレベルが著しく低下した(図2A−B)。PMNs浸潤は、LPS処理複数マウスの肺切開面において、LPSの投与6時間後に明らかであった(図2C−D)。rTMD1注射はLPS投与の6時間後にPMNsの肺性蓄積を著しく抑制した(図2C−D)。しかしながら、rTMD2/EGF123は、LPS誘発炎症性応答に関して著しい効果はなく、酵母組換えタンパク質のネガティブ対照として使えると予想される(図2C−D)。同様に、LPSは、腎臓の重篤な糸球体障害を起こす。糸球体腎炎の程度は、rTMD1処理複数マウスにおいて著しく低下した(図2E)。LPSの投与の12時間後に、BUNおよび血清クレアチニンの増大は、腎臓の機能不全と一致した。rTMD1により処理され、次いでLPSで攻撃された複数マウスは、LPS処理複数マウスと比較して、BUNおよびクレアチニンレベルを明らかに減少させた(図2F−G)。この効果が、死亡率を下げる効果をもつかどうかを検討するために、複数マウスを、rTMD1(2mg/kg)またはPBSで4回、i.v.投与された投与量により処理し、どちらの実験群においても、全ての複数マウスが死亡するまで複数マウスを観察した。rTMD1処理は、死亡率を著しく下げ、内毒血症の間にわたり生存を増進させる(LPS攻撃1日後に、rTMD1処理群生存、100%、PBS処理群生存、10%;およびLPS攻撃4日後に、rTMD1処理群生存、60%、PBS処理群生存、0%)(図2H)。このことは、rTMD1が治療効果の可能性を有し得ることを示唆している。注射されたrTMD1は、それぞれのi.v.注射後12時間以内に、検出可能であり、この場合、ELISAによりアッセイして、3−4時間の半減期である(図2I)。注射されたLPS(20mg/kg)は、i.p.投与2時間後に、最高レベルに到達し、約6−8時間の半減期を有して、循環から取り除かれる(図2J)。rTMD1投与はLPSクリアランスを増強した(図2J)。さらに、rTMD1(TMD1Ab)に対するウサギ多クローン性抗体を調製し、特徴付けをした。TMD1 AbによるrTMD1の前処理は、LPS誘発TNF−α放出の抑制についての効果を逆転させる。このことは、炎症性メディエイタ産生についてのrTMD1の抗炎症性効果は、rTMD1に特異性があることを示している。
【実施例4】
【0051】
rTMD1は、肺炎桿菌誘発炎症性応答および死亡率を減少させ、およびバクテリアクリアランスを増強させる。
【0052】
TMD1がグラム陰性バクテリアによって発現された死亡を防御するかどうかを試験するために、肺炎桿菌をi.p.注射することおよびrTMD1で処置することによって全身性の敗血症を複数マウスに誘発した(図3A−C)。TNF−αおよびNOレベルは、肺炎桿菌(5×102 CFU)を受けた複数マウスにおいて12時間以内に増大した。rTMD1処理(5−25mg/kg;i.v.)は、効果的にTNF−αおよびNO産生を減少させる(図3A−B)。生存実験のために、肺炎桿菌(5×103CFU)を受けた全ての複数マウスが、18時間以内に死亡したが、一方rTMD1(10mg/kg)の単一i.v.投与量を受けた複数マウスの50%は、24時間を超えて生存した(図3C)。肺炎桿菌に誘発された死亡率の影響が、バクテリアクリアランスを促進させたrTMD1に起因するかどうかを探索するために、血液中の生存可能なバクテリアの量を求めた。FVB複数マウスに肺炎桿菌(5×102CFU)を、rTMD1処理(10mg/kg;i.v.)を含まないか、または含んでそれぞれi.p.注射した。rTMD1は、注射12、24、36時間後に、循環における肺炎桿菌クリアランスを著しく増強した(図3D)。rTMD1が治療能力を有することを示すために、rTMD1をバクテリア感染の後に注入した。時系列の実験において、rTMD1(10mg/kg)を肺炎桿菌のi.p.投与30分後または60分後に直ちに(1分間以内)i.v.投与した。この結果は、rTMD1が肺炎桿菌誘起TNF−α放出を効果的に抑制し得ること(図3E)、およびrTMD1の30分後または60分後処置においてさえも、感染12、24および36時間後において、循環における肺炎桿菌クリアランスを増強させることを示した(図3F)。rTMD1の不存在下で肺炎桿菌に感染した複数マウスは、42時間後に死亡し始めた。しかしながら、全てのrTMD1処置群において生存率は改善された。
【実施例5】
【0053】
rTMD1のグラム陰性バクテリアおよびLPSとの直接結合、および膜結合TMのLPSとの直接結合。
【0054】
TMD1が、グラム陰性バクテリアおよびLPSに特異的に結合する能力があるかどうかを試験するために、rTMD1およびrTMD23を、肺炎桿菌、LPSまたはBSAと結合させるために使用した。rTMD23ではなくて、rTMD1は、肺炎桿菌に特異的に結合すると予想される(図4A)。rTMD1はグラム陰性バクテリアに結合すると予想されるので、グラム陰性バクテリアのLPSは、可能性のある候補リガンドと考えられる。適切に、LPSまたはBSAへのrTMD1およびrTMD23を測定した。rTMD23ではなくてrTMD1がLPSに特異的に結合(図4B)し、結合はマンノースおよびEDTAによって抑制される。このことは、TMD1炭水化物認識ドメインが、Ca2+に依存したやりかたでLPS炭水化物と相互作用したことを示している(図4C)。図4Bから、LPSのrTMD1との結合の50%飽和から概算された見掛けのKdは、約1.6×10−6モル/Lであった。また、LPSは、rTMD1を、表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイを使用した8.24×10−6モル/Lから9.01×10−8モル/Lの範囲の濃度に依存したやりかたでKdに結合する。LPSへのrTMD1の結合は、おそらく、LPSのLPS結合分子との相互作用を遮断するであろうと考えられ、このLPSへのrTMD1の結合がLPS誘発炎症性メディエイタ産生およびシグナル伝達経路を遮断する。図4Dに示す通り、LPSへのCD14の結合は、投与量に依存したやりかたでrTMD1によって抑制されるが、LPSへのLPS結合タンパク質の結合は、rTMD1によって抑制されなかった(データは示されていない)。rTMD1が相互作用するように、内因性のTMD1がLPSと特異的に相互作用し得るかどうかを探索するために、内因性の膜結合TM14、および過剰発現されたフルレングスまたはレクチン様ドメイン欠失膜結合TM17,29を設計して、LPS結合能力を試験した。この結果は、THP−1細胞上に発現された膜結合TMは、ビオチニル化されたLPSを結合すると予想されることを示した。さらに、レクチン様ドメイン欠失膜結合TMではなく、フルレングスTMは、ビオチニル化されたLPSを結合すると予想される。これらの結果は、膜固定TMは、TMのN末端レクチン様ドメインを介してLPSを結合すると予想されることを示す。
【実施例6】
【0055】
rTMD1は、グラム陰性バクテリアの凝固を誘発し、THP−1細胞におけるバクテリアの食菌作用を増強する。
【0056】
TMD1は、炭水化物リガンド17に結合することによって細胞−細胞間の癒着を媒介し、rTMD1は、LPSおよび肺炎桿菌(それぞれ、図2Jおよび3D)のクリアランスにおいて機能するので、もしバクテリアの表面上の炭水化物機能基がTMのリガンドから構成されとすれば、rTMD1が、バクテリアの結合およびバクテリアを食菌する作用に関与し得ることは自明のことと思われた。rTMD1結合特異性を、FITC標識グラム陰性(K.pneumoniae(肺炎桿菌)およびE.Coli(大腸菌))バクテリアとの凝固反応によってアッセイした。rTMD1(20μg・mL)は、肺炎桿菌および大腸菌DH5αの著しい凝固を誘発した(図5A)。さらに、凝固活性は、Ca2+依存性であり、マンノースおよびEDTA(図5A)によって減衰される。rTMD1タンパク質における、His/c−Myc標識の可能性のある干渉効果を除外するために、非標識rTMD1を調製して、試験を実施した。非標識rTMD1は、rTMD1と同様な効果を示し、一方標識rTMD23は、凝固を産生できなかった。同様な結果が、哺乳動物発現rTMD1を使用することによって得られた(図5A)。活性化されたTHP−1細胞による、FITC−標識肺炎桿菌の食菌作用に関するrTMD1の効果をアッセイした。rTMD1は、THP−1細胞による、バクテリアを食菌する作用の量を著しく増大した。それ故、rTMD1は、バクテリア誘発炎症性反応と干渉するだけでなく、またバクテリアの凝固を誘発しマクロファージによる食菌作用を促進する。
【実施例7】
【0057】
rTMD1のリガンド特異性の確認およびHMGB1−rTMD1結合に関するLeyの非競合効果。
【0058】
rTMD1のリガンド特異性を確認するために、炭水化物リガンド(図6A)のパネルを、アルファスクリーン法(AlphaScreen method)を使用して、rTMD1親和性に対して試験した。この結果は、Ley抗原は、哺乳動物発現rTMD1またはピキア発現rTMD1に対する特異性リガンドであることを示した(図6A)。Leyは、rTMD1のLPSとの結合を、投与量に依存するやりかたで特異的に抑制した(図6B)。このことは、rTMD1の炭水化物結合部位は、LPSとの相互作用に関与していたことを示す。ELISAは、大腸菌O111:B4LPSが、rTMD1の結合特異性と一致して、LeaおよびLeb抗原よりもLexおよびLey抗原を含むことを示した(図6C)。さらに、Leyは、投与量に依存して、LPS誘発ERK1/2リン酸化、IкBα分解、および、NF−кB p50およびp65核転座に関する、rTMD1の遮断効果を中和することが予想できる(図6D)。HMGB1のrTMD1との結合に関するLeyの効果を観察するための実験を、LPS/Ley−rTMD1相互作用がHMGB1−rTMD1相互作用と干渉し、したがって、LPS/LeyおよびHMGB1がTMD1上でオーバーラップするかどうかを検証するために実施した。この結果は、Leyは、HMGB1およびrTMD1相互作用を阻害しないと予想されることを示し、このことは、HMGB1相互作用を媒介する、TMD1の構造ドメインは、LPS/Leyとオーバーラップしないことを示している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン、ならびにルイスY抗原に関連した疾患または障害の予防および/または治療のためのこの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
感染性生物体によって誘発される過剰な宿主免疫応答から生じる敗血性ショック症候群は、入院患者の主要な死因である。敗血症における病態生理学的変化は、免疫細胞、特に単球およびマクロファージからの、一酸化窒素、腫瘍壊死因子(TNF)、およびインターロイキン(ILs)を含む前炎症性メディエイタの、病原体に誘発された制御不能な放出に関係がある。グラム陰性バクテリアの感染は、グラム陰性バクテリア外膜のリポポリサッカライド(LPS)成分による、全身性のバクテリア性敗血症の主要な要因の1つである。LPSは、前炎症性メディエイタの急速な増加を誘発し、致死性の全身性の組織損傷および多臓器不全をもたらし、これは敗血性症候群の炎症性応答によく似ている。
【0003】
哺乳動物において、膜結合CD14およびToll様レセプタ4(TLR4)−MD−2は、LPSの細胞認識に関与する。TLR4レセプタへのLPSの結合は、p38、p42/p44細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)およびc−JunN末端キナーゼ(JNK)を含むミトゲン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)経路の要素の、活性化を誘発する。休止において、刺激されていない細胞、核因子(NF)−кB、50−および65−kDa(p50/p65)タンパク質サブユニットから成るヘテロ二量化複合体は、細胞質中で抑制性кBα(IкBα)に結合された不活性複合体として維持される。細胞がLPSによる前炎症性の刺激下にある間に、IкBαのリン酸化および分解は、NF−кBα核転座を可能にし、誘導性一酸化窒素シンターゼ(iNOS)、TNF−αおよびその他を含む炎症性遺伝子の発現を促進する。
【0004】
トロンボモジュリン(TM)は、6個の表皮成長因子(EGF)様構造(D2)、O−グリコシル化部位に富むドメイン(D3)、膜内外ドメイン(D4)、および細胞質尾ドメイン(D5)が付随するNH2末端レクチン様ドメイン(D1)を含む、557アミノ酸Iタイプグリコシル化膜内外タンパク質である。(Weiler,H.等、J.Thromb.Haemost2003Jul.;1(7):1515−24)。D2 EGF様構造は、トロンビンの基質特異性の変化を介して、TMの抗血液凝固活性を担っている。TMドメイン2(TMD2)−トロンビン複合体は、抗血液凝固タンパク質C(APC)を活性化し、これはまた前血液凝固(プロコアギュラント)補助因子VaおよびVIIIaを不活性化する。一方、TM発現は、ケラチノサイト、多形核好中球(PMNs)、単球および内皮細胞を含む細胞タイプにおいて生じ、TMは、抗凝固に加えて、生物学的機能を有する可能性があることを示唆している。また、TMの異なる生物学的機能も存在し得る。TMドメインは、タンパク質Cに依存した機構および自律的な機構によって、脈管形成因子および抗炎症薬剤として機能する。最近、TMドメイン1(TMD1)の抗炎症活性が示唆された。というのは欠失TMレクチン様ドメインを有する複数マウスは、NFкBおよびMAPKシグナル伝達経路を介した癒着分子発現の抑止によって、LPSを伴う攻撃を受け易くなるからである(Conway,E.M.等、J.Exp.Med.2002 Sep.2;196(5):567−77;米国特許第73419912号)。さらに、TMD1は、進行したグリケーション最終生成物(RAGE)に対するレセプタへの、HMGB1の結合を妨害することによって、高可動性群B1(HMGB1)タンパク質、致死性内毒症および致死性敗血症の後発生サイトカインメディエイタを封鎖することが示された(Abeyama,等、J.Cli.Ivest.2005May;115(5)1267−74.Epub.2005Apr.14)。また、TMD1は補体活性化を妨げ、関節炎を防ぐ。
【0005】
TMD1は、Ca2+依存炭水化物レセプタドメインから一般に構成される、哺乳動物のCタイプレクチンに対して、構造的に相同性である。異なるCタイプレクチンは、細胞癒着、エンドサイトーシスおよび病原体中和を含む種々の生物学的機能に寄与し、先天性免疫系において重要な役割を果たす。
【0006】
上皮由来の腫瘍の70%に過剰発現されるルイスY抗原は、血液タイプに関連したジフコシル化オリゴサッカライドのファミリーの一員である(Kuemmel,A.等、Tumor Biol.2007;28:340−349)。上皮由来に由来した腫瘍には、乳房、膵臓、卵巣、結腸、胃または肺の癌が含まれる。ルイスY発現腫瘍の高い頻度、腫瘍細胞表面のこの高い密度および変性された発現、ならびに原発性および転移性病変におけるこの比較的相同な発現は、乳癌を含んだ上皮腫瘍の範囲に対する抗原的標的としての、腫瘍の選別につながっている。(Westwood,J.A.等、PANAS,2005;102(52):19051−19056;
Schlimok,G.等、Eur.J.Cancer,31A:1799−1803,1995;Tolcher,A.W.等、J.Clin.Oncol.,17:478−484,1999)。ルイスY抗原を認識する抗体は、Leyを発現する癌腫を除去すると予想される(Kerrie Clarke等、Clinical Cancer Research 6,3621−3628,2000;Erwin R.Boghaert等、Clinical Cancer Research 10,4538−4549,2004)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第73419912号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Conway,E.M.等、J.Exp.Med.2002 Sep.2;196(5):567−77.
【非特許文献2】Abeyama,等、J.Cli.Ivest.2005May;115(5)1267−74.Epub.2005Apr.14.
【非特許文献3】Kuemmel,A.等、Tumor Biol.2007;28:340−349.
【非特許文献4】Westwood,J.A.等、PANAS,2005;102(52):19051−19056.
【非特許文献5】Schlimok,G.等、Eur.J.Cancer,31A:1799−1803,1995.
【非特許文献6】Tolcher,A.W.等、J.Clin.Oncol.,17:478−484,1999.
【非特許文献7】Kerrie Clarke等、Clinical Cancer Research 6,3621−3628,2000.
【非特許文献8】Erwin R.Boghaert等、Clinical Cancer Research 10,4538−4549,2004.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、配列番号1の、トロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン(TMD1)またはこの類似体を含む、ルイスY抗原過剰発現から生じる疾患の予防または治療用の医薬組成物を提供する。
【0010】
また、本発明は、腫瘍細胞、グラム陰性バクテリアまたはLPSおいて過剰発現されたルイスY抗原を検出するための、トロンボモジュリンの標識されたN末端レクチン様ドメインまたはこの標識された類似体を含むキットを提供する。
【0011】
さらに、本発明は、被検者からの試料において、ルイスY抗原を過剰発現する腫瘍細胞、グラム陰性バクテリアまたはLPSを検出する方法も提供し、前記方法は、試料を、標識されたトロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン(TMD1)またはこの標識された類似体を含む組成物と接触させるステップを含む。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、配列番号1の、トロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン(TMD1)またはこの類似体を含む、ルイスY抗原過剰発現から生じる疾患の治療用の医薬組成物を提供する。提示されたルイスY抗原は、腫瘍細胞、グラム陰性バクテリアまたはLPSにおいて発現される。この実施形態において、腫瘍細胞は、乳房、膵臓、卵巣、結腸、胃および肺癌から選択された、上皮由来の腫瘍である。また、この組成物は、ルイスY抗原を過剰発現する腫瘍を予防および治療する。
【0013】
本発明において、TMD1はLPSに結合し、凝固作用を誘発し、ならびにマクロファージによるバクテリア食菌作用を増強することが発見されている。TMD1は、グラム陰性バクテリアによって誘発される敗血症の全身性炎症の早期における抗炎症性因子として機能することが実証される。さらに、TMD1は、肺炎桿菌(K.pneumoniae)などのスムースタイプ(smooth−type)LPSを運搬するバクテリア、重要なグラム陰性病原体と特異的に相互作用すること、および、LPSへの結合、下流シグナル形質導入を遮断することによって、LPSおよび肺炎桿菌誘発炎症性応答および死亡率を減衰させることが示される。したがって、TMD1は、LPSの中和における重要な保護機能を有することができ、敗血性ショック症候群および他の炎症性疾患状態の治療において治療的に有用である。また、マクロファージにおけるTMの生物学的機能も提示される。
【0014】
本発明は、TMがグラム陰性バクテリア媒介敗血症を保護することを示す。トロンボモジュリンN末端レクチン様ドメイン(TMD1)は、ルイスY抗原およびLPSに結合し、LPS誘発炎症性応答を抑制する。さらに、TMD1は、大腸菌および肺炎桿菌を凝固させ、これらのグラム陰性バクテリアの食菌作用を増強する。TMD1の投与は、LPSおよびグラム陰性バクテリアによって誘発された敗血症における、炎症性応答を抑制することにより宿主を保護する。それ故、組換えタイプTMD1は、敗血症の過激な炎症の治療において、とりわけグラム陰性バクテリアによって生じる感染において有用であり得る。
【0015】
好ましい実施形態において、炎症性応答は、LPSまたはグラム陰性バクテリアによって誘発された敗血症である。さらに好ましい実施形態において、グラム陰性バクテリアは、大腸菌または肺炎桿菌である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】LPS誘発炎症性メディエイタ産生およびLPS誘発シグナル伝達に関する組換えタイプMTD(rTMD)タンパク質の効果を示す図。
【図1B】LPS誘発炎症性メディエイタ産生およびLPS誘発シグナル伝達に関する組換えタイプMTD(rTMD)タンパク質の効果を示す図。
【図1C】LPS誘発炎症性メディエイタ産生およびLPS誘発シグナル伝達に関する組換えタイプMTD(rTMD)タンパク質の効果を示す図。
【図1D】LPS誘発炎症性メディエイタ産生およびLPS誘発シグナル伝達に関する組換えタイプMTD(rTMD)タンパク質の効果を示す図。
【図1E】LPS誘発炎症性メディエイタ産生およびLPS誘発シグナル伝達に関する組換えタイプMTD(rTMD)タンパク質の効果を示す図。
【図1F】LPS誘発炎症性メディエイタ産生およびLPS誘発シグナル伝達に関する組換えタイプMTD(rTMD)タンパク質の効果を示す図。
【図1G】LPS誘発炎症性メディエイタ産生およびLPS誘発シグナル伝達に関する組換えタイプMTD(rTMD)タンパク質の効果を示す図。
【図2A】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図2B】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図2C】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図2D】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図2E】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図2F】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図2G】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図2H】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図2I】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図2J】rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。
【図3A】rTMD1は、肺炎桿菌で誘発された炎症性応答および死亡率を低下させ、およびバクテリアのクリアランスを増強させることを示す図である。
【図3B】rTMD1は、肺炎桿菌で誘発された炎症性応答および死亡率を低下させ、およびバクテリアのクリアランスを増強させることを示す図である。
【図3C】rTMD1は、肺炎桿菌で誘発された炎症性応答および死亡率を低下させ、およびバクテリアのクリアランスを増強させることを示す図である。
【図3D】rTMD1は、肺炎桿菌で誘発された炎症性応答および死亡率を低下させ、およびバクテリアのクリアランスを増強させることを示す図である。
【図3E】rTMD1は、肺炎桿菌で誘発された炎症性応答および死亡率を低下させ、およびバクテリアのクリアランスを増強させることを示す図である。
【図3F】rTMD1は、肺炎桿菌で誘発された炎症性応答および死亡率を低下させ、およびバクテリアのクリアランスを増強させることを示す図である。
【図4A】rTMDタンパク質の肺炎桿菌およびLPSとの結合、およびLPSへのCD14の結合に関するrTMD1の遮断効果を示す図である。
【図4B】rTMDタンパク質の肺炎桿菌およびLPSとの結合、およびLPSへのCD14の結合に関するrTMD1の遮断効果を示す図である。
【図4C】rTMDタンパク質の肺炎桿菌およびLPSとの結合、およびLPSへのCD14の結合に関するrTMD1の遮断効果を示す図である。
【図4D】rTMDタンパク質の肺炎桿菌およびLPSとの結合、およびLPSへのCD14の結合に関するrTMD1の遮断効果を示す図である。
【図5A】THP−1細胞による、バクテリアを凝固する作用およびバクテリアを食菌する作用に関するrTMD1の効果を示す図である。
【図5B】THP−1細胞による、バクテリアを凝固する作用およびバクテリアを食菌する作用に関するrTMD1の効果を示す図である。
【図5C】THP−1細胞による、バクテリアを凝固する作用およびバクテリアを食菌する作用に関するrTMD1の効果を示す図である。
【図6A】アルファスクリーン法(AlphaScreen)によるrTMD1リガンドの分析、LPSとのrTMD1の結合に関するLey抗原の抑制効果、および大腸菌LPSO111:B4におけるルイス抗原の分析を示す図である。
【図6B】アルファスクリーン法(AlphaScreen)によるrTMD1リガンドの分析、LPSとのrTMD1の結合に関するLey抗原の抑制効果、および大腸菌LPSO111:B4におけるルイス抗原の分析を示す図である。
【図6C】アルファスクリーン法(AlphaScreen)によるrTMD1リガンドの分析、LPSとのrTMD1の結合に関するLey抗原の抑制効果、および大腸菌LPSO111:B4におけるルイス抗原の分析を示す図である。
【図6D】アルファスクリーン法(AlphaScreen)によるrTMD1リガンドの分析、LPSとのrTMD1の結合に関するLey抗原の抑制効果、および大腸菌LPSO111:B4におけるルイス抗原の分析を示す図である。
【0017】
図1はLPS誘発炎症性メディエイタ産生およびLPS誘発シグナル伝達に関する組換えタイプMTD(rTMD)タンパク質の効果を示す図である。(AおよびB)ピキア(Pichia)からのrTMDタンパク質および哺乳動物のタンパク質を、RAW264.7細胞に添加する前に前培養させた。6時間培養の後に、培地を(A)TNF−αおよび(B)NOの測定のために収集した。mTMD1は、哺乳動物タンパク質発現系からのrTMD1を表す。数値は、平均値±SD(n=3)である。LPS処理培養と比較して、AおよびB、**P<0.01および***P<0.001。PBS群と比較して###P<0.001。(C)LPSの種々の量を、RAW264.7細胞においてTNF−α産生を誘発させるために使用し、rTMD1の効果を測定した。数値は、平均値±SD(n=4)である。LPS処理群と比較して、*P<0.05、**P<0.01、および***P<0.001。IкBα(D)、核分画における、LPSで誘発されたIкBαのリン酸化および分解(D)、NF−кBp50およびp65の核転座(E)、ERK1/2およびp38リン酸化(F)、およびiNOS発現(G)をアッセイするためにウエスタンブロッティングを使用した。全ての結果は、少なくとも3つの独立した実験で得られた結果をよく表している。
【0018】
図2は、rTMD1は、LPSで誘発された炎症性の応答および死亡率を低下させること、LPSに誘発されたPMNsの肺性蓄積および腎障害を減少させること、およびインビボのLPSクリアランスを増大させることを示す図である。(AおよびB)rTMD1は,LPSのi.p.注射(20mg/kg)の前にi.v.投与された。(A)TNF−αおよび(B)NO産生のアッセイのために、LPS投与の6時間後に血清を集めた。数値は、平均値±SD(n=10)である。LPS処理群と比較して、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001;PBS処理群と比較して、###P<0.001。(C)ヘマトキシリンおよびエオシンで染色された肺の切開面の代表的な顕微鏡像を示す。(D)それぞれの肺胞において、浸潤したPMNの数を光学顕微鏡によって観察した(倍率630×)。それぞれの実験マウスについて、スライドガラス1枚当り4つの任意の区域からPMNの数を数え、PMNの数をそれぞれのスライドガラス上の肺胞数の区域に基準化した。数値は、平均値±SD(n=10)である。LPS処理群と比較して、***P<0.001;PBS処理群と比較して、###P<0.001。これらのグラフは、3つの独立した実験からの結果を表す。(E,F,およびG)複数マウス中へのLPS(20mg/kg)i.p.注射の前に、rTMD1(5および25mg/kg)を、i.v.投与した。12時間後に、複数マウスを犠牲にし、腎臓組織を取り出した。腎臓切開面を、組織学的ヘマトキシレンおよびエオシン染色によって観察した。代表的な顕微鏡像を示す。(E)腎性障害のrTMD1抑制。矢印先端は、糸球体の部位を示す(スケールバーは50μm)。rTMD1は、複数マウス血清中の腎性障害マーカBUN(F)およびクレアチニン(G)のレベルを低下させた。それぞれの実験群に対して、n=4;LPSで処理されていない対照複数マウスと比較して###P<0.001。LPS処理対照複数マウスと比較して**P<0.01、***P<0.001。これらのグラフは、3つの独立した実験からの結果を示す。(H)複数マウスは、LPS(40mg/kg)およびrTMD1(LPS注射の、0、6、12および24時間後に2mg/kgの4回の投与量)を受けた。生存数を求めた。それぞれの実験群に対して、n=20。LPS処理群と比較して、***P(I)<0.001。(I)循環におけるrTMD1のクリアランス。それぞれ、循環におけるrTMD1の半減期はrTMD1(10mg/kg)の注射によって求め、また血清中のrTMD1のレベルは、捕捉および検出抗体として抗−c−MyeおよびTM−H300を使用して、サンドイッチELISAによって測定した。数値は、平均値±SD(n=5)。(J)rTMD1処理を伴わないか、または伴った循環におけるLPSのクリアランス。LPS(20mg/kg)を、雄FVB複数マウスに、rTMD1(10mg/kg)を伴わないか、または伴ってi.p.投与し、血清試料を、種々の時間間隔において収集し、LPSの量をリムルス(Limulus)アメーバ様細胞溶解産物試験によって求めた。数値は、平均値±SD。それぞれの時間間隔群に対して、n=5;LPS処理複数マウスと比較して、*P<0.05および***P<0.001。
【0019】
図3はrTMD1は、肺炎桿菌で誘発された炎症性応答および死亡率を低下させ、およびバクテリアのクリアランスを増強させることを示す図である。(AおよびB)rTMD1を、複数マウスへの肺炎桿菌(5х102CFU/マウス)の注射の前に投与した。血清を、(A)TNF−αおよび(B)NO産生のアッセイのために肺炎桿菌の投与12時間後に収集した。肺炎桿菌処理群と比較して、**P<0.01および***P<0.001;PBS処理群と比較して、###P<0.001。(C)rTMD1(10mg/kg)を、複数マウスへの肺炎桿菌(5×103CFU/マウス)の注射の前に投与した。生存率を求めた。それぞれの実験群に対して、n=20。肺炎桿菌処理群と比較した***P<0.001。これらのグラフは、3つの独立した実験からの結果を表す。(D)循環においてrTMD1は、肺炎桿菌クリアランスを増強した。FVB複数マウスに、rTMD1(10mg/kg;i.v.)を伴わないか、または伴って肺炎桿菌(5×102CFU/マウス)をi.p.注射した。それぞれの群からの血液試料を種々の時間間隔において収集し、生存可能なバクテリアをCFU計数するためにアッセイした。数値は、平均値±SD。それぞれの時間間隔群に対して、n=5;肺炎桿菌処理複数マウスと比較して、*P<0.05。(E)(F)rTMD1(10mg/kg)を、複数マウスに肺炎桿菌(5х102FU/マウス)を注射した30または60分後に、直ちに投与した。TNF−αの血清レベルおよび肺炎桿菌クリアランス(F)を求めた。数値は、平均値±SD。それぞれの時間間隔群に対して、n=8−10;それぞれの時間間隔群の肺炎桿菌処理複数と比較して、*P<0.005および***P<0.001。PBS処理群と比較して、###P<0.001。同様の結果が2つの独立した実験において得られた。
【0020】
図4はrTMDタンパク質の肺炎桿菌およびLPSとの結合、およびLPSへのCD14の結合に関するrTMD1の遮断効果を示す図である。(A)肺炎桿菌またはBSA。
(B)大腸菌(E.coli)O111:B4 LPSまたはBSA。(AおよびB)肺炎桿菌、LPSまたはBSAをウエル上にコートした。rTMDタンパク質の等モル量をそれぞれのウエルに添加した。rTMDタンパク質の結合を検出した。数値は、平均値±SD(n=6)。rTMD23添加群およびBSAコート群と比較して、***P<0.001。(C)LPSをウエル上にコートし、0.2Mマンノースまたは5mM EDTAの、不存在下および存在下において、CaCl2を含む結合バッファー中でrTMD(50μg/mL)と共にインキュベートした。結果は、結合バッファー群(100%)で基準化した相対吸光度の百分率として表す。数値は、平均値±SD(n=6)。この結合バッファー群と比較して、***P<0.001。示された結果は、少なくとも3つの独立した実験において得られた結果の典型的なものである。(D)LPSに対するCD14の結合のrTMD1封鎖。LPSをウエル上にコートし、rTMD1およびCD14の指示された濃度でインキュベートした。LPSに対するCD14の結合を、CD14抗体(M−305、Santa Cruz Biotechnology)を使用して検出した。数値は、平均値±SD(n=4)、CD14だけを受けた群と比較して、**P<0.01および***P<0.001。同様の結果が、3つの独立した実験において得られた。
【0021】
図5はTHP−1細胞による、バクテリアを凝固する作用およびバクテリアを食菌する作用に関するrTMD1の効果を示す図である。(A)FITC標識肺炎桿菌およびFITC標識FITC標識大腸菌DH5αを、5mMCaCl2を含む結合バッファー中で、ならびに0.2Mマンノースおよび5mMEDTAを含まないか、または含んで、rTMD1の不存在下または存在下でインキュベートした。蛍光的に標識されたバクテリアを、蛍光顕微鏡を使用して観察して、バクテリアの凝集作用を評価した。非標識rTMD1をエンテロキナーゼによるrTMD1のインキュベーションによって調製し、Document S1に記載されている通りに精製した。また、哺乳動物発現rTMD1および標識rTMD23を有する内部対照も包含されていた。顕微鏡写真は、これらの3つの独立した実験の代表的なものである。(B)代表的顕微鏡写真は、バクテリアの食菌作用に関するrTMD1の効果を示している。分化したTHP−1細胞を、rTMD1前処理されたFITC標識肺炎桿菌によりインキュベートした。左のパネルは明るいドメイン像を示し、右のパネルは蛍光顕微鏡写真(スケールバーは200μmを表す)を示す。(C)(B)からの試料のFACS分析。このグラフは、FITC蛍光(x軸)のレベルに対して相対的細胞数(y軸)を描いたものである。これらのグラフは、3つの独立した実験からの結果を表す。
【0022】
図6はアルファスクリーン法(AlphaScreen)によるrTMD1リガンドの分析、LPSとのrTMD1の結合に関するLey抗原の抑制効果、および大腸菌LPSO111:B4におけるルイス抗原の分析を示す図である。(A)AlphaScreenアッセイ結果。数値は、平均値±SD(n=4)。哺乳動物発現rTMD1の糖結合特異性は、相対強度によって示される(最高の吸光度に関連して)。糖識別は、表に挙げた番号によって示される。ブランクに比較して***P<0.001。結果は、4つの独立したアッセイの平均から得られた。同様の結果が、ピキア発現rTMD1を使用して得られた。(B)LPSとのrTMD1の結合に関するLey抗原の効果。LPSをウエル上にコートし、種々の濃度のLeyおよびrTMD1をそれぞれのウエルに添加した。rTMD1の結合は、平均値±SD(n=4)として発現され、rTMD1単独群と比較して、*P<0.05、**P<0.01、および***P<0.001。同様の結果が、2つの独立した実験において得られた。(C)大腸菌LPSO111:B4におけるルイス抗原の分析。LPS(5μg/ウエル)を高結合マイクロタイタープレートのウエルの上にコートした。Lea、Leb、Lex、およびLey抗体(5μg/mL)を結合バッファー中のそれぞれのウエルに添加し、37℃で2時間インキュベートしてから、ペルオキシダーゼ標識した第二の抗体によって2時間培養した。LPSへのルイス抗体の結合は、450nmにおいて吸光度を測定することによって検出された。平均値±SD(n=4)。同様の結果が2つの独立した実験において得られた。(D)LPS誘発シグナル伝達経路についての、rTMD1の抑制効果に関するLeyの効果。rTMD1(20μg/mL)および種々の濃度のLeyを、細胞に添加する前にLPS(100mg/mL)と共にプレインキュベートした。30分間の培養の後に、ウエスターン ブロットを使用して、LPS誘発ERK1/2リン酸化、細胞質の区画におけるIкBαの分解、および、NF−кBp50およびNF−кBp65の核転座を、アッセイした。同様の結果が2つの独立した実験において得られた。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書では、「炎症」は、生存している組織の損傷に対する局所反応、とりわけ細い血管、これらの内容物、およびこれらの随伴する構造に対する局所反応を意味する。組織への、脈管壁を通した血液成分(血管外遊出)の通過が炎症の特徴である。一般に、炎症は、内皮壁への増強された白血球の癒着で始まり、組織または器官中への白血球の血管外遊出をもたらす。
【0024】
実際に、バクテリア、過剰な熱、低温、粉砕などの機械的損傷、酸、アルカリ、照射により生存している組織に損傷を与えるいずれかの有害なプロセスまたはウイルスによる感染は、関与する器官または組織に関係なく炎症を起こし得る。動物およびヒトの疾患は、関節炎、皮膚炎、腹膜炎、虚血/再潅流障害(例えば、心臓、肝臓、腎臓、脳)を随伴する障害、炎症性肺障害(例えば、喘息、気管支炎、成人呼吸困難症候群(ARDS)を含む)、脈管炎、アテローム性動脈硬化症、腎炎、皮膚創傷治癒、敗血症、および、局所および全身性感染症を含む「炎症性疾患」として分類されることは、明らかなはずである。
【0025】
本明細書では、用語「グラム陰性バクテリア」は、グラム染色プロトコルにおいてクリスタルバイオレット染料を保持しないものである。グラム陽性菌は、アルコール洗浄の後に前記暗青色染料を保持する。グラム染色試験において、クリスタルバイオレットの後に、対比染料が添加され、この対比染料は全てのグラム陰性バクテリアを赤色またはピンク色に染める。この試験自体、バクテリア細胞壁の構造差に基づいて、バクテリアの2つの明確に異なるタイプを分類する際に有用である。グラム陰性バクテリアの多くの種は、病原性であり、グラム陰性バクテリアは宿主有機体の疾患を起こすことが可能であることを意味している。この病原性の能力は、通常、グラム陰性細胞壁のある種の成分、特にリポ多糖類(LPSまたはエンドトキシンとしても知られている)層に随伴している。
【0026】
本明細書では、用語「凝固」は、粒子の凝集である。これは、生物学の場合に3つの主な例において生じる。1.抗体の存在下でバクテリアまたは赤血球などの細胞の凝集。抗体または他の分子は、多発性粒子と結合し、多発性粒子を接合する。2.溶液に懸濁されている小さい粒子の凝集。これらの大きい物質は、次いで(通常は)沈殿する。3.アレルギー性反応タイプ発生。この場合、細胞は異物が細胞に入るのを防止するために、より堅く締まる。これは、通常その細胞の周辺にある抗原の結果である。本発明のバクテリアの凝固は、マクロファージによるバクテリアを食菌する作用を促進する。
【0027】
好ましい実施形態において、当該の疾患は、LPSまたはグラム陰性バクテリアにより誘発される敗血症である。この疾患または障害は、トロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン(TMD1)をLPSまたはグラム陰性バクテリアに結合して、バクテリアの凝固またはオプソニン作用を誘発することによって予防または治療される。したがって、この疾患または障害は、マクロファージにおける、炎症性のメディエイタTNF−αまたはNOの、LPSで誘発された産生を減少させることによって、ならびにLPSで誘発された炎症性の応答に関与したシグナル経路を抑制することによって予防または治療される。
【0028】
さらに好ましい実施形態において、当該の疾患または障害は、相互作用TMD1によって予防または治療される。TMD1は、グラム陰性バクテリアに対する先天性の免疫性にとって、自然のオプソニン的機能基として機能する。オプソニン作用の誘発は、LPSまたは細胞膜中のルイスY抗原へTMD1を結合させることによってなされ、バクテリアの凝固の誘発は、マクロファージによるバクテリアを食菌する作用を促進する。これらの応答は、肺におけるPMN浸潤を軽減するか、または腎臓機能を維持する。LPSで誘発された炎症性応答に関与したシグナル経路は、ERKおよびP38のリン酸化、IкBの分解、およびNF―кBの転座、および、誘導性の一酸化窒素シンターゼ(iNOS)およびTNF−αの増大する発現を含む。さらに、この疾患または障害は、高移動性基B1(HMGB1)との相互作用TMD1によって予防される。
【0029】
また、本発明は、被験者からの試料においてルイスY抗原を過剰発現する、腫瘍細胞、グラム陰性バクテリアまたはLPSを検出する方法を提供し、前記方法は、次のステップを含む:試料を、標識されたトロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン(TMD1)、またはこの標識された類似体と接触させるステップ。好ましい実施形態において、ルイスY抗原を発現する腫瘍細胞は、乳房、膵臓、卵巣、結腸、胃および肺癌である。提示された試料は、被験者からの、血液、組織、体液、細胞または排出物から得られる。本発明の実施形態において、被験者は、哺乳動物である。本発明の好ましい実施形態において、被験者はヒトである。TMD1における標識されたマーカまたはこの類似体は、蛍光分子、放射性分子、色素の分子、ビオチン、アクリジニウムエステルおよびアクリジニウム−9−カルボキサミドなどの検出可能なマーカである。
【0030】
本明細書では、用語「被験者」は、医療の注目を受けるなんらかの動物である。特に、動物はヒトである。ヒトは、往々にして病気になったり、傷害を受けたりして、医師またの医療専門家による治療を必要とする。
【0031】
本明細書では、用語「類似体」は、1つまたは2つ以上の個々の原子が、異なる原子で、または異なる官能基で置換された化合物である。生化学におけるこの用語のその他の使用は、別の物質に構造が類似している物質のことをいう。本明細書において使用される、TMD1の類似体には、限定はしないがネズミを含む異なる動物からのTMのレクチンドメイン、ならびに突然変異など、および、ポリエチレングリコール化およびグリコシレーションなどの化学的変性などの、この分野の知識を有する技術者に知られている変性が含まれる。
【0032】
本明細書では、用語「先天性免疫」は、宿主を他の有機体による感染から非特異的な方法で防御する、細胞およびメカニズムを含む。これは、先天性の細胞は包括的な方法で病原体を認識および応答し、しかし順応免疫系とは異なって、これは、宿主に対して長期にわたる、または保護的免疫を与えないことを意味する。先天性免疫系は、感染に対して即時の防御をもたらし、植物および動物の生命現象の全ての綱において見出される。
【0033】
本明細書では、用語「オプソニン作用」は、例えば、膜上のマイナスに電荷された分子を被覆することにより、食菌作用のプロセスに対する結合エンハンサーとして作用するいずれかの分子作用である。食菌作用を実行する細胞の膜ならびにこの標的は、共にマイナス電荷(ゼータ電位)を有し、この2つの細胞の接近を困難にする。オプソニン作用のプロセスの間に、抗原は、抗体および/または補体分子によって結合される。食作用の細胞は、オプソニン分子を結合するレセプタを発現する。これらの分子により被覆された抗原により、食細胞への抗原の結合は、大きく増強する。ほとんどの食作用の結合は、抗原のオプソニン作用なしには生じ得ない。さらに、抗原のオプソニン作用、および引き続く活性化された食細胞への結合は、近傍の食細胞上の補体レセプタの発現を増大させる。オプソニン分子の例には、IgGおよびIgA抗体、および、補体系のC3b、C4bおよびiC3b成分が挙げられる。
【0034】
さらに、本発明は、標識されたトロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン(TMD1)、またはこの標識された類似体を含む、腫瘍細胞、グラム陰性バクテリアまたはLPSにおいて過剰発現されたルイスY抗原を検出するキットを提供する。
【実施例】
【0035】
材料および方法
【0036】
1. ピキア(Pichia)および哺乳動物タンパク質の両方の発現系を使用した組換えタイプTMD(rTMD)の調製。
pPICZαAおよびpCR3−EKベクターを、ヒトrTMDタンパク質の発現および分泌のために使用した。このヒトrTMDタンパク質は、メタノール資化酵母(Pichia patoris)およびヒト胎芽腎臓 293(HEK293)哺乳動物タンパク質発現系において、精製のために、および、タンパク質検出のために6XHis標識およびc−Mycエピトープを含んでいる。簡潔に言うと、TMD1(残余物Ala1−Ala155)、TMD2/EGF123(残余Ala224−Glu346)、およびTMD23(残余Ala224−Ser497)に対してコード化するcDNA断片を、特異性プライマーを使用してヒト臍帯静脈内皮細胞のPCRによって得た。構築物に対して使用したプライマーシーケンスは、以下の通りであった:TMD(TMD1−センス:配列番号2およびTMD−アンチセンス:配列番号2およびrTMD1−アンチセンス:配列番号3)、TMD23(TMD2−センス:配列番号4およびTMD3−アンチセンス:配列番号5)、およびTMD2/EGF123(TMD2−センスおよびTMD2/EGF3−アンチセンス:配列番号6)。rTMDシーケンスとHis/c−Myc標識の間のエントロキナーゼ切断部位は、引き続いて起こる標識シーケンスの除去を可能とする。発現されたrTMDタンパク質を含む、酵母発酵媒体またはHEK293細胞条件付け媒体は、ニッケルキレート化セファロースカラム(Amersham Pharmacia Biotec.,Piscataway,NJ)を利用し、rTMD含有分画をイミダゾール傾斜方法で溶離した。精製されたrTMDタンパク質を、SDS−PAGEおよびウエスターンブロッティングによって検査し、質量分光分析によるタンパク質同定によって確認した。また、rTMDタンパク質のN末端アミノ酸シーケンスもモデル477Aシーケンサー(Applied Biosysyems,Foster City,CA)によるEdman分解によって決定した。融合ペプチドを含むrTMDの分子量は、タンパク質濃度計算用のExPAsy ウエブサイトを使用して予測した(rTMD1:22,902ダルトン、rTMD2/EGF123:16,473。ダルトンおよびrTMD23:32,823ダルトン)。非標識rTMDを、5ngエンテロキナーゼ(New England Biolab,MA)含有1mgrTMDを、4℃において16時間培養することによって調製した。培養の後に、試料をニッケルキレート化セファロースカラムに適用し、この非標識rTMD含有非結合分画を収集した。この試料を固定された大豆トリプシン抑制因子セファロースゲルでさらに処理して、残余のエンテロキナーゼを吸収した。それぞれの試料を、エンテロキナーゼ処理の前後に、SDS−PAGEおよびウエスターンブロットによって分析し、元の標識rTMD1より2000ダルトン小さい分子量を有する非標識rTMD1を得た。
【0037】
細胞および細胞培養。
ヒト白血病単球THP−1細胞およびネズミマクロファージ細胞をアメリカン・タイプ・カルチュアー・コレクション(Amerikan Type Culture Collection)から得た。THP−1細胞を、10mMHEPES、1mMピルビン酸ナトリウム、0.1%β−メルカプトエタノール、100U/mlペニシリン、100g/mlストレプトマイシン、および10%致死胎児血清(FBS)で捕足された、RPMI−1640の懸濁液中で増殖させた。RAW264.7細胞は、1.5g/l炭酸水素ナトリウムおよび4.5g/lグルコース、100U/mlペニシリン、100g/mlストレプトマイシン、および10%FBSを含むように調整された、4mM L−グルタミンを含むDulbecco’s変性Eagle’s媒体中で、給湿された5%CO2雰囲気下で37℃において、付着層として増殖させた。差別化のために、THP−1細胞を、10nM PMAを含む媒体中でプレートとし、18時間接着させた。
【0038】
3. 炎症性のメディエイタアッセイ。
条件付けされた媒体またはマウス血清における、TNF−αを酵素関連免疫吸着剤アッセイ(ELISA)(R&D Systems,Minneapolis,MN)によって測定した。媒体またはマウス血清定における亜硝酸塩の蓄積は、Griess 試薬(Sigma−Aldrich)を使用して比色分析によって求めた。血液尿素窒素(BUN)およびクレアチニンを、Roche D&Pモジュラー(RocheDiagnostic Systems,Branchburg)により測定した。
【0039】
4. ウエスターン ブロッティング。
大腸菌(E.coli)およびLPS(LPS O111:B4,Sigma−Aldrich)を含まないか、または含んで、ルイスY(Ley;DextraLaboratories,Reading,UK)の不存在下または存在下で30分間プレインキュベートされた、rTMD(0−50μg/mL、0−2.18nモル/mLに等しい)を使用してTHP−1またはRAW264.7細胞を刺激した。インキュベーション期間は、pIкBおよびIкB(他に指示がなければ、B−9およびC−21,SantaCruz Biotecnology,Santa Crus,CA,)、p38(C−20)およびpp38(D−8)に対して20分間、ERK1/2(K−23)、pERK1/2
(E−4)、ラミン(lamin)B2(E−3、Zymed Labolatories、San Fransisco、CA)、NF−кBp50(C−19)およびNF−кBp65核転座(C−20)に対して30分間、および特異性抗体(N−20)を使用したiNOS発現に対して24時間であった。
【0040】
5. 動物および全身性敗血症モデル。
雄FVB複数マウス(生後8−10週間)を使用して、インビボで敗血症をモデルした。The Institutional Animal Care and Use Committee of the National Cheng Kung Universityが方法を承認した。慢性の内毒血症モデルにおいて、等モル量で、種々の濃度のrTMD1またはrTMDタンパク質を尾部静脈(i.v.)注射によって投与し、LPS(20mg/kg)または肺炎桿菌(5×102CFU/マウス、BCRC)を腹腔内(i.p.)注射によって投与した。6または12時間後に、複数マウスをペントバルビタール麻酔(50mg/kg;i.p.)によって犠牲にした。血清を収集し、TNF−α、NO、BUNおよびクレアチニンに対してアッセイし、ならびに肺および腎臓組織を取り出し、ホルマリンで固定し、組織化学的検査のためにパラフィン中に包埋した。致命的な敗血症モデルにおいて、rTMD1(2mg/kg、87.3nモル/kgに等しい)をLPS(40mg/kg)のi.p.投与0、6、12、および24時間後に、i.v.投与した。循環におけるrTMD1の半減期を、rTMD1(10mg/kg、436.64nモル/kgに等しい)のi.v.注射によって求め、血清試料を種々の時間間隔で収集した。収集された血清中のrTMD1のレベルを、捕捉および検出抗体(両者とも、Santa Crus Biotechnology製)として、アンチ−c−Mycモノクロナール抗体およびTM−H300をそれぞれ使用するサンドイッチELISAによって求めた。致死性の菌血症に対してrTMD1(10mg/kg)を、肺炎桿菌(5×103CFU/マウス)の注射の前に投与した。死亡率率を、どの実験群においても全てのマウスが死亡するまで、6−12時間毎に監視した。LPS半減期を求める実験的方法は、以下の通りである。LPS(20mg/kg)を、rTMD1(10mg/kg;i.v.)を含まないか、または含んで雄FVBs102にi.p.投与した。血清試料を種々の時間間隔で収集し、LPSの量をリムルス(Limulus)アメーバ様細胞溶解産物試験(Associates of Cape Cod,E.Falmouth,MA)によって求めた。さらに実験を実施して、rTMD1がバクテリア クリアランスに影響を与えるかどうかを確認した。肺炎桿菌(5×102CFU/マウス)を、TMD1(10mg/kg;i.v.)を含まないか、または含んで雄複数マウスにi.p.投与し、血清試料を種々の時間間隔で収集した。血液試料の順次希釈溶液を血液寒天板上で平板インキュベートとし、37℃において終夜インキュベーションした後に、コロニーを数えることによって肺炎桿菌の外殖を定量した。
【0041】
6.肺炎桿菌およびLPS結合アッセイ
重炭酸塩バッファー(pH9.6)の100μL中の、肺炎桿菌(3×105CFU/ウエル)、大腸菌O111スムースタイプLPS(5μg/ウエル)、またはウシ血清アルブミン(BSA、5μg/ウエル)を、高結合マイクロタイタープレート(Corning Costar ,Cambridge,MA)のウエル上にコートした。非特異性結合を、50mg/mLBSAを含む結合バッファー(20mM トリス−HCl、pH7.4、0.15M NaCl、5mM CaCl2)で遮断した。1mg/mL BSAを含む結合バッファー中の、CD14(10μg/mL;R&D Systems)を含まないか、または含んだ種々の濃度のrTMDタンパク質をウエルに添加し、2時間インキュベートした。いくつかの実験において、LPS結合およびrTMD1結合と競合するために、0.2Mマンノース、5mM EDTA、またはLeyを結合バッファー中に含ませた。抗体rTMDタンパク質のc−Mycエピトープに対する抗体をウエルに添加し、2時間インキュベーとし、ペルオキシダーゼ標識化した二番目の抗体を続いて添加した。rTMDタンパク質の結合を450nmを測定することによって検出した。
【0042】
7.バクテリアの凝固に関するrTMD1の効果
肺炎桿菌および大腸菌DH5α(BCRC)を、0.1M 重炭酸ナトリウムバッファー(pH9.6)0.1mg/mLで2回洗浄し、暗所で37℃において、0.mg/mLフルオレセインイソチオシアネート(FITC)によりインキュベートした。rTMD1の20μg/mLのそれぞれを、非標識rTMD1、哺乳動物のrTMD1、および組換えTMドメイン2および3(rTMD23)を、バッファー(20mM Tris、pH7.4、0.15M NaCl、5mM CaCl2、1mg/mL BSA)中で、0.2Mマンノースまたは5mMEDTAを含んで、または含まずに、FITC標識バクテリア(1×105CFU/mL)によって共−インキュベートした。試料をガラススライド上に置き、蛍光的に標識されたバクテリアを顕微鏡的に観察して、凝固を評価した。
【0043】
8.THP−1食菌作用アッセイ
FITC標識肺炎桿菌(1×105CFU/ウエル)を、分化したTHP−1細胞に添加する前に、37℃で、30分間プレインキュベートした。2時間インキュベーションした後に、THP−1細胞を蛍光顕微鏡検査の前に、氷冷PBSで2回洗浄し、またはさらにトリプシン化し、PBS中に再懸濁させて、蛍光活性化細胞選別器(FACS;Becton Dickinson San Jose、CA)を用いて分析して、THP−1細胞内の蛍光を測定した。ログ(log)スケールで530nmにおいて収集された、条件当り10,000件(細胞)の緑色蛍光データをCellQuest(登録商標)ソフトウエア(Becton Dickson)により分析した。
【0044】
9.rTMD1リガンド分析。
ビオチン−ポリアクリルアミド(ビオチン−PAA)−糖(GlycoTech,Rockville,MA)、rTMD1、ウサギアンチマウス IgG 抗体(Zymed)、マウス、アンチ−6×His標識抗体(Abcam,Cambridge,UK)、ならびに接合ストレプトアビジンをコートしたドナーおよびタンパク質A接合アクセプタビーズ(PerkinElmer,Boston,MA)を、25mMTris(pH7.0)、25mMCaCl2および1mg/mL BSAを含むアッセイバッファーで、適切な濃度に希釈した。このアンチ−6×His標識抗体、ウサギアンチマウス IgG 抗体、およびアクセプタビーズ(Abcam,Cambridge,UK)、ならびにアクセプタビーズを使用(アクセプタ混合物として)前に、25℃で1時間アッセイバッファーでインキュベートした。ビオチン−PAA−糖 、rTMD1、およびドナービーズを、ProxiPlate−384アッセイプレート(PerkinElmer)のウエルに別々に添加し、25℃で1時間インキュベートした。アクセプタの混合物のアリコートを次いでウエルに添加し、25℃でさらに2時間インキュベートした。この結果をAlphaScreenプログラムを使用して、PerkinElmer Envisionの機器によって読み取った。全ての手法およびインキュベーションを暗所で実施した。
【0045】
10.大腸菌LPS O111:B4におけるルイス抗原の分析。
大腸菌O111:B4LPS(5μg/ウエル)を高結合マイクロタイタープレートのウエル上にコートした。50mg/mLBSAを含む結合バッファーにより特異性結が遮断された後に、ルイスa(Lea)、ルイスb(Leb)、ルイスX(Lex)、およびLeyに対する種々の抗体(Abcam)の5μg/mLを、1mg/mLBSAを含む結合バッファーと共にウエルに添加し、および、ヤギアンチマウスセイヨウワサビペルオキシダーゼ共役IgGまたはIgMにより37℃で2時間インキュベートする前に、27℃で2時間インキュベートした。このペルオキシダーゼ反応を、基質として3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンを使用して実施し、2NH2SO4によって停止した。この産物を450nmにおいて吸光度を測定することによって検出した。
【0046】
11.統計的分析
生存データをログ−ランクによって分析した。データを平均値±標準偏差(SD)として表した。統計的有意性を非対性スチューデント t 検定によって分析した。2つを超える群の間の差異を分散の一方向分析または分散の二方向分析、および以下の多重比較検定によって比較した。この場合、P<0.05は統計的に有意と考えられる。
【実施例1】
【0047】
rTMD1処理は、マクロファージにおけるLPS誘発炎症性メディエイタ産生を減少させる。
【0048】
TMD1が抗炎症性特性を有するかどうかを試験するために、ピキアパストリス(Pichia pastoris)および哺乳動物のタンパク質発現系の両方を使用することによってrTMDタンパク質を調製した。両方の系から得られたこのrTMDタンパク質は、糖鎖形成変性の状態で同様な分子量を有した。この分子量は、約35キロダルトン(kDa)であり、銀染色およびウエスターン ブロッテイングによってアッセイされる通りであった。LPSにより刺激されたRAW264.7およびTHP−1細胞におけるrTMDタンパク質の抗炎症性効果を最初に試験した。EGF様ドメイン1、2,3を含む組換えTMD2(rTMD2/EGF123)ではなく、ピキア発現rTMD1は、投与量に依存して、LPSにより刺激されたRAW264.7細胞中のTNF−α産生を抑制した(図1A);同様な結果が、THP−1細胞において得られた(データは示されていない)。同様に、rTMD1だけが、RAW264.7細胞におけるNO産生を効果的に抑制し得る(図1B)。;同様な結果は、哺乳動物発現rTMD1を使用して得られた(図1A−B)。rTMD1による、LPS誘発炎症性メディエイタの減少がLPS−rTMD1結合から生じるのかどうかを試験するために、LPSおよびrTMD1の種々の濃度を使用して、相互作用を試験した。rTMD1の不在の場合に、LPSは投与量に依存してTNF−α産生を増大させ(図1C)、rTMD1は投与量に依存してLPS誘発TNF−α産生を
抑制した(図1C)。このことは、細胞による炎症性メディエイタ産生に関してrTMD1が有する低減効果を、LPS−rTMD1結合がもたらすという仮説と一致する。
【実施例2】
【0049】
rTMD1はLPS誘発シグナル伝達経路を遮断する。
IкBαのリン酸化および分解は、LPS(100mg/mL)で刺激されたRAW264.7細胞において起こる。この効果は、rTMD1(50μg/mL、2.18nモル/mL)によって完全に逆になった(図1D)。また、NF−кBのLPS誘発核転座もrTMD1によって投与量依存のやりかたで抑制された(図1E)。また、ERK1/2およびp38のLPS誘発リン酸化もrTMD1によって抑制された(図1F)。シグナル形質導入経路の活性化に関するrTMD1の同様な効果が、THP−1細胞において観察された(データは示されていない)。また、LPSによるRAW264.7細胞におけるiNOS誘導もrTMD1によって抑制された(図1G)。
【実施例3】
【0050】
rTMD1はサイトカイン放出を減少させ、肺および腎臓の障害を減衰させ、実験敗血症における生存率を改善させ、ならびにバクテリアLPSクリアランスを増強する。
rTMD1はLPS誘発炎症性メディエイタ産生およびシグナル伝達経路を抑制することが予想できるので、多分、rTMD1は、インビボでLPSによって誘発される炎症性応答および死亡率を減少させるための治療薬として機能するであろう。TNF−αおよびNOレベルは、対照複数マウスに対する、20mg/kgLPSのi.p.投与の6時間後に、複数マウスにおいて増大した。rTMD1(1−5mg/kg、43.66−218.3nモル/kgに等しい)のi.v.注射を受けた複数マウスは、TNF−αおよびNOのレベルが著しく低下した(図2A−B)。PMNs浸潤は、LPS処理複数マウスの肺切開面において、LPSの投与6時間後に明らかであった(図2C−D)。rTMD1注射はLPS投与の6時間後にPMNsの肺性蓄積を著しく抑制した(図2C−D)。しかしながら、rTMD2/EGF123は、LPS誘発炎症性応答に関して著しい効果はなく、酵母組換えタンパク質のネガティブ対照として使えると予想される(図2C−D)。同様に、LPSは、腎臓の重篤な糸球体障害を起こす。糸球体腎炎の程度は、rTMD1処理複数マウスにおいて著しく低下した(図2E)。LPSの投与の12時間後に、BUNおよび血清クレアチニンの増大は、腎臓の機能不全と一致した。rTMD1により処理され、次いでLPSで攻撃された複数マウスは、LPS処理複数マウスと比較して、BUNおよびクレアチニンレベルを明らかに減少させた(図2F−G)。この効果が、死亡率を下げる効果をもつかどうかを検討するために、複数マウスを、rTMD1(2mg/kg)またはPBSで4回、i.v.投与された投与量により処理し、どちらの実験群においても、全ての複数マウスが死亡するまで複数マウスを観察した。rTMD1処理は、死亡率を著しく下げ、内毒血症の間にわたり生存を増進させる(LPS攻撃1日後に、rTMD1処理群生存、100%、PBS処理群生存、10%;およびLPS攻撃4日後に、rTMD1処理群生存、60%、PBS処理群生存、0%)(図2H)。このことは、rTMD1が治療効果の可能性を有し得ることを示唆している。注射されたrTMD1は、それぞれのi.v.注射後12時間以内に、検出可能であり、この場合、ELISAによりアッセイして、3−4時間の半減期である(図2I)。注射されたLPS(20mg/kg)は、i.p.投与2時間後に、最高レベルに到達し、約6−8時間の半減期を有して、循環から取り除かれる(図2J)。rTMD1投与はLPSクリアランスを増強した(図2J)。さらに、rTMD1(TMD1Ab)に対するウサギ多クローン性抗体を調製し、特徴付けをした。TMD1 AbによるrTMD1の前処理は、LPS誘発TNF−α放出の抑制についての効果を逆転させる。このことは、炎症性メディエイタ産生についてのrTMD1の抗炎症性効果は、rTMD1に特異性があることを示している。
【実施例4】
【0051】
rTMD1は、肺炎桿菌誘発炎症性応答および死亡率を減少させ、およびバクテリアクリアランスを増強させる。
【0052】
TMD1がグラム陰性バクテリアによって発現された死亡を防御するかどうかを試験するために、肺炎桿菌をi.p.注射することおよびrTMD1で処置することによって全身性の敗血症を複数マウスに誘発した(図3A−C)。TNF−αおよびNOレベルは、肺炎桿菌(5×102 CFU)を受けた複数マウスにおいて12時間以内に増大した。rTMD1処理(5−25mg/kg;i.v.)は、効果的にTNF−αおよびNO産生を減少させる(図3A−B)。生存実験のために、肺炎桿菌(5×103CFU)を受けた全ての複数マウスが、18時間以内に死亡したが、一方rTMD1(10mg/kg)の単一i.v.投与量を受けた複数マウスの50%は、24時間を超えて生存した(図3C)。肺炎桿菌に誘発された死亡率の影響が、バクテリアクリアランスを促進させたrTMD1に起因するかどうかを探索するために、血液中の生存可能なバクテリアの量を求めた。FVB複数マウスに肺炎桿菌(5×102CFU)を、rTMD1処理(10mg/kg;i.v.)を含まないか、または含んでそれぞれi.p.注射した。rTMD1は、注射12、24、36時間後に、循環における肺炎桿菌クリアランスを著しく増強した(図3D)。rTMD1が治療能力を有することを示すために、rTMD1をバクテリア感染の後に注入した。時系列の実験において、rTMD1(10mg/kg)を肺炎桿菌のi.p.投与30分後または60分後に直ちに(1分間以内)i.v.投与した。この結果は、rTMD1が肺炎桿菌誘起TNF−α放出を効果的に抑制し得ること(図3E)、およびrTMD1の30分後または60分後処置においてさえも、感染12、24および36時間後において、循環における肺炎桿菌クリアランスを増強させることを示した(図3F)。rTMD1の不存在下で肺炎桿菌に感染した複数マウスは、42時間後に死亡し始めた。しかしながら、全てのrTMD1処置群において生存率は改善された。
【実施例5】
【0053】
rTMD1のグラム陰性バクテリアおよびLPSとの直接結合、および膜結合TMのLPSとの直接結合。
【0054】
TMD1が、グラム陰性バクテリアおよびLPSに特異的に結合する能力があるかどうかを試験するために、rTMD1およびrTMD23を、肺炎桿菌、LPSまたはBSAと結合させるために使用した。rTMD23ではなくて、rTMD1は、肺炎桿菌に特異的に結合すると予想される(図4A)。rTMD1はグラム陰性バクテリアに結合すると予想されるので、グラム陰性バクテリアのLPSは、可能性のある候補リガンドと考えられる。適切に、LPSまたはBSAへのrTMD1およびrTMD23を測定した。rTMD23ではなくてrTMD1がLPSに特異的に結合(図4B)し、結合はマンノースおよびEDTAによって抑制される。このことは、TMD1炭水化物認識ドメインが、Ca2+に依存したやりかたでLPS炭水化物と相互作用したことを示している(図4C)。図4Bから、LPSのrTMD1との結合の50%飽和から概算された見掛けのKdは、約1.6×10−6モル/Lであった。また、LPSは、rTMD1を、表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイを使用した8.24×10−6モル/Lから9.01×10−8モル/Lの範囲の濃度に依存したやりかたでKdに結合する。LPSへのrTMD1の結合は、おそらく、LPSのLPS結合分子との相互作用を遮断するであろうと考えられ、このLPSへのrTMD1の結合がLPS誘発炎症性メディエイタ産生およびシグナル伝達経路を遮断する。図4Dに示す通り、LPSへのCD14の結合は、投与量に依存したやりかたでrTMD1によって抑制されるが、LPSへのLPS結合タンパク質の結合は、rTMD1によって抑制されなかった(データは示されていない)。rTMD1が相互作用するように、内因性のTMD1がLPSと特異的に相互作用し得るかどうかを探索するために、内因性の膜結合TM14、および過剰発現されたフルレングスまたはレクチン様ドメイン欠失膜結合TM17,29を設計して、LPS結合能力を試験した。この結果は、THP−1細胞上に発現された膜結合TMは、ビオチニル化されたLPSを結合すると予想されることを示した。さらに、レクチン様ドメイン欠失膜結合TMではなく、フルレングスTMは、ビオチニル化されたLPSを結合すると予想される。これらの結果は、膜固定TMは、TMのN末端レクチン様ドメインを介してLPSを結合すると予想されることを示す。
【実施例6】
【0055】
rTMD1は、グラム陰性バクテリアの凝固を誘発し、THP−1細胞におけるバクテリアの食菌作用を増強する。
【0056】
TMD1は、炭水化物リガンド17に結合することによって細胞−細胞間の癒着を媒介し、rTMD1は、LPSおよび肺炎桿菌(それぞれ、図2Jおよび3D)のクリアランスにおいて機能するので、もしバクテリアの表面上の炭水化物機能基がTMのリガンドから構成されとすれば、rTMD1が、バクテリアの結合およびバクテリアを食菌する作用に関与し得ることは自明のことと思われた。rTMD1結合特異性を、FITC標識グラム陰性(K.pneumoniae(肺炎桿菌)およびE.Coli(大腸菌))バクテリアとの凝固反応によってアッセイした。rTMD1(20μg・mL)は、肺炎桿菌および大腸菌DH5αの著しい凝固を誘発した(図5A)。さらに、凝固活性は、Ca2+依存性であり、マンノースおよびEDTA(図5A)によって減衰される。rTMD1タンパク質における、His/c−Myc標識の可能性のある干渉効果を除外するために、非標識rTMD1を調製して、試験を実施した。非標識rTMD1は、rTMD1と同様な効果を示し、一方標識rTMD23は、凝固を産生できなかった。同様な結果が、哺乳動物発現rTMD1を使用することによって得られた(図5A)。活性化されたTHP−1細胞による、FITC−標識肺炎桿菌の食菌作用に関するrTMD1の効果をアッセイした。rTMD1は、THP−1細胞による、バクテリアを食菌する作用の量を著しく増大した。それ故、rTMD1は、バクテリア誘発炎症性反応と干渉するだけでなく、またバクテリアの凝固を誘発しマクロファージによる食菌作用を促進する。
【実施例7】
【0057】
rTMD1のリガンド特異性の確認およびHMGB1−rTMD1結合に関するLeyの非競合効果。
【0058】
rTMD1のリガンド特異性を確認するために、炭水化物リガンド(図6A)のパネルを、アルファスクリーン法(AlphaScreen method)を使用して、rTMD1親和性に対して試験した。この結果は、Ley抗原は、哺乳動物発現rTMD1またはピキア発現rTMD1に対する特異性リガンドであることを示した(図6A)。Leyは、rTMD1のLPSとの結合を、投与量に依存するやりかたで特異的に抑制した(図6B)。このことは、rTMD1の炭水化物結合部位は、LPSとの相互作用に関与していたことを示す。ELISAは、大腸菌O111:B4LPSが、rTMD1の結合特異性と一致して、LeaおよびLeb抗原よりもLexおよびLey抗原を含むことを示した(図6C)。さらに、Leyは、投与量に依存して、LPS誘発ERK1/2リン酸化、IкBα分解、および、NF−кB p50およびp65核転座に関する、rTMD1の遮断効果を中和することが予想できる(図6D)。HMGB1のrTMD1との結合に関するLeyの効果を観察するための実験を、LPS/Ley−rTMD1相互作用がHMGB1−rTMD1相互作用と干渉し、したがって、LPS/LeyおよびHMGB1がTMD1上でオーバーラップするかどうかを検証するために実施した。この結果は、Leyは、HMGB1およびrTMD1相互作用を阻害しないと予想されることを示し、このことは、HMGB1相互作用を媒介する、TMD1の構造ドメインは、LPS/Leyとオーバーラップしないことを示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1の、トロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン(TMD1)またはこの類似体を含む、ルイスY抗原過剰発現から生じる疾患の治療用の医薬組成物。
【請求項2】
ルイスY抗原が、腫瘍細胞、グラム陰性バクテリアまたはLPSにおいて発現する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
疾患が、腫瘍または炎症性疾患であって、ここで、
(a)腫瘍が、乳房、膵臓、卵巣、結腸、胃または肺癌から選択された、上皮由来の腫瘍であり、
(b)炎症性疾患が、LPSまたはグラム陰性バクテリアによって誘発される、
請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
炎症性疾患が、敗血症である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
予防または治療が、配列番号1の、トロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン(TMD1)またはこの類似体をルイスY抗原に結合させて、凝固反応、バクテリアのオプソニン作用またはマクロファージによる食菌作用を誘発することによってなされる、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
標識された、配列番号1の、トロンボモジュリンのN−末端レクチン様ドメイン(TMD1)、またはこの標識された類似体を含む、腫瘍細胞、グラム陰性バクテリアまたはLPSにおいて過剰発現されたルイスY抗原を検出するキット。
【請求項1】
配列番号1の、トロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン(TMD1)またはこの類似体を含む、ルイスY抗原過剰発現から生じる疾患の治療用の医薬組成物。
【請求項2】
ルイスY抗原が、腫瘍細胞、グラム陰性バクテリアまたはLPSにおいて発現する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
疾患が、腫瘍または炎症性疾患であって、ここで、
(a)腫瘍が、乳房、膵臓、卵巣、結腸、胃または肺癌から選択された、上皮由来の腫瘍であり、
(b)炎症性疾患が、LPSまたはグラム陰性バクテリアによって誘発される、
請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
炎症性疾患が、敗血症である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
予防または治療が、配列番号1の、トロンボモジュリンのN末端レクチン様ドメイン(TMD1)またはこの類似体をルイスY抗原に結合させて、凝固反応、バクテリアのオプソニン作用またはマクロファージによる食菌作用を誘発することによってなされる、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
標識された、配列番号1の、トロンボモジュリンのN−末端レクチン様ドメイン(TMD1)、またはこの標識された類似体を含む、腫瘍細胞、グラム陰性バクテリアまたはLPSにおいて過剰発現されたルイスY抗原を検出するキット。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図2H】
【図2I】
【図2J】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図2H】
【図2I】
【図2J】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【公開番号】特開2010−155822(P2010−155822A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−246503(P2009−246503)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(509297820)
【出願人】(509297831)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246503(P2009−246503)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(509297820)
【出願人】(509297831)
【Fターム(参考)】
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