説明

ルチル形酸化チタンゾル

【課題】 アナタース形酸化チタンゾルに匹敵する高い透明性を持ちながら、光触媒活性が抑制された酸化チタンゾルを提供する。
【解決手段】 透明性の高いルチル形酸化チタンヒドロゾルを作成し、そのヒドロゾルをシランカップリング剤の加水分解で被覆して安定なゾルを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率を有するルチル形酸化チタンの透明なゾルおよびその製造法に関する。このゾルは例えばプラスチック基材の表面に硬く、高屈折率を持つ透明なコーティング層を形成するために有用である。
【背景技術】
【0002】
アナタース形酸化チタンおよびルチル形酸化チタンは古くから白色顔料として生産され、使用されている。白色顔料として用いられる酸化チタンは平均粒径0.1〜0.3μmを有し、他の白色顔料に比較して高い隠蔽力を持っている。粒径0.1μm以下のルチル形酸化チタンは可視光に対して透過性であるが、紫外線の透過を選択的にブロックする性質を有することから、例えば日焼け止め化粧料などに配合される。近年酸化チタンの高い光活性に着目して光触媒としての利用が広まっている。この目的に使用される酸化チタンは主に光活性の強いアナタース形である。アナタース形酸化チタンゾルは光触媒機能を有するコーティング膜をつくるために使用され、その製造法およびさまざまな用途について多数の特許文献が見られる。
【0003】
酸化チタンゾルには、光触媒とは別の用途がある。例えば光学部品(光学エレメント)のハードコート、反射防止膜などに用いられ、高透明性、基材との密着性、高屈折率及び耐摩耗性が求められる。これまでこの分野でもアナタース形酸化チタンゾルが用いられて来た。その理由はアナタース形の方がルチル形より酸化チタンゾルの透明性が高いからである。しかしながらアナタース形の高い光触媒活性はそれと接触するプラスチックのような有機材料を分解し、変色させる欠点を有する。もしアナタース形に匹敵する高い透明性のルチル形酸化チタンゾルを得ることができれば、その相対的に低い光触媒活性の故にその利用分野を一層拡大できることが期待される。
【0004】
ルチル形酸化チタンゾルそのものの製造法は公知である。一般的な製造方法は、チタン塩水溶液を加水分解して得られる含水酸化チタンをアルカリ処理した後、酸で熟成する方法がある。このルチル形酸化チタンゾルは、製造工程において添加する塩類を除去することが困難なため、透明性においてアナタース形ゾルに及ばない。
また、特開平2−210027は、水和酸化チタン(オルソチタン酸)に過酸化水素水を加えて溶解し、この溶液をスズ化合物の共存下加熱することからなるルチル形酸化チタンゾルの製造を開示している。スズ化合物はルチル形への転移剤として作用する。このようにして得られたルチル形酸化チタンゾル、およびスズ化合物の共存下でチタン酸溶液の加熱をシリカゾル中で行って得られるゾルは、前述のように透明性においてアナタース形ゾルに及ばない。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、アナタース形酸化チタンゾルに匹敵する高い透明性を有し、光触媒機能が抑制されたルチル形酸化チタンゾルを提供する。
【0006】
本発明のルチル形酸化チタンゾルは、ルチル形酸化チタンのヒドロゾルをシランカップリング剤で処理することによって製造することができる。シランカップリング剤はヒドロゾルに含まれる水で加水分解され、ゾル中のルチル形酸化チタンがその加水分解物によって被覆される。好ましくはシランカップリング剤処理後、ゾルは溶媒置換によりルチル形酸化チタンのオルガノゾルへ転換される。
【0007】
シランカップリング剤の加水分解物で被覆することにより、ゾルはアナタース形酸化チタンゾルに匹敵する高い透明性を持つ一方で、アナタース形に比較して光触媒活性が低いので、アナタース形ゾルよりも光学部品のコーティングに一層適したものとなる。またゾルの安定性も高まる。
【0008】
本発明はまたシランカップリング剤の加水分解物で被覆されたルチル形酸化チタンのゾルの製造法を提供する。この方法は、ルチル形酸化チタンのヒドロゾルを準備し、これへ水混和性の有機溶媒に溶解したシランカップリング剤の溶液を添加し、生成した加水分解物によりルチル形酸化チタン粒子に被覆する。好ましくは被覆後のゾルは溶媒置換によりオルガノゾルへ転換される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ルチル形酸化チタンのヒドロゾルは公知の方法、例えば特開平2−210027に開示された方法によって製造することができる。一般的にルチル形酸化チタンのヒドロゾルは、四塩化チタン、硫酸チタンなどの水溶性チタン塩をアルカリで中和して得た含水酸化チタン、またはチタンアルコキシドを加水分解して得られる含水酸化チタンに転移剤である酸化スズを加え、酸またはアルカリを加えて解膠することによって製造される。あらかじめ別々に製造した含水酸化チタンと酸化スズを混合する代りに、塩化スズ、硫酸スズのようなスズ塩と水溶性チタン塩の混合水溶液のアルカリ中和により水和酸化チタンと酸化スズの混合物を製造し、これを解膠してヒドロゾルとすることもでき、または水溶性チタン塩またはチタンアルコキシドの加水分解を酸化スズの存在下で行い、解膠しても良い。
【0010】
中和に用いるアルカリの典型例は、水酸化ナトリウムおよびアンモニア水である。中和の終点はpH6〜8である。解膠には酸またはアルカリが用いられ、酸は塩酸、硝酸、シュウ酸、酢酸等の無機または有機酸、アルカリはエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ピリジン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラヒドロキシアルキルアンモニウムなどの有機塩基が使用される。ルチル形を有するのであれば転移剤を使用する必要はない。また、酸化スズの代りに他の公知の転移剤を使用してもよい。酸化スズの場合、その添加量はTiOに換算した水和酸化チタンに対して2〜20wt%,特に約3〜15wt%とするのが好ましい。
【0011】
高い透明性を有するゾルを得るためには光散乱を低く抑えることが重要である。このため解膠は例えば塩酸を加えた後90℃以下の温度で約1時間かけて熟成する。ゾル中のルチル形酸化チタンの粒径が過大になったり、粒径分布が不規則になるのを防止するためである。
【0012】
解膠後生成したヒドロゾルはシランカップリング剤で処理される。この処理はシランカップリング剤を水混和性有機溶媒に溶解し、この溶液をヒドロゾルと混合することによって行われる。ヒドロゾルも水混和性有機溶媒で希釈して用いるのが好ましい。水混和性有機溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、エチレングリコールおよびそのモノアルキルエーテル、その他の水混和性有機溶媒であるが、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールのような低級アルコールが好ましい。シランカップリング剤の加水分解は、解膠のために加えた酸またはアルカリが触媒として作用して促進される。アルミニウムアセチルアセトナートのような公知の金属錯体触媒を加えてもよい。シランカップリング剤溶液は室温で徐々に添加するのが好ましい。添加終了後は反応液を室温でしばらく放置し、ゾルを熟成させる。以上の処理によりシランカップリング剤の加水分解物で被覆されたルチル形酸化チタンのゾルは高い透明性と貯蔵安定性を持つようになる。ゾル中の被覆されたルチル形酸化チタンの粒子径を電子顕微鏡写真で測定したところ、1〜20nmの範囲であった。
【0013】
シランカップリング剤は種々知られており、本発明においてはいずれの市販シランカップリング剤を使用することができる。これらはRnSiX4−nの一般式で表わすことができる。式中nは1または2であり、Rの少なくとも一つは官能基を有する炭化水素基であり、他はアルキル基であり、Xはハロゲンまたはアルコキシ基であり、官能基は炭素−炭素間二重結合、エポキシ、アミノ、置換アミノ、ウレイジル、ハロゲン、メルカプト、イソシアナートなどである。シランカップリング剤の例は以下のものを含む。
【0014】
ビニルトリクロロシラン
ビニルトリメトキシシラン
ビニルトリエトキシシラン
2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン
1−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン
3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシラン
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン
p−スチリルトリメトキシシラン
3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン
3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン
3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン
3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン
N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン
N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン
N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン
3−アミノプロピルトリメトキシシラン
3−アミノプロピルトリエトキシシラン
3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン
N―フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン
N―(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩
3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン
3−クロロプロピルトリメトキシシラン
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン
3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン
ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド
3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン
【0015】
シランカップリング剤はゾル中のTiOに対して0.1〜300wt%,好ましくは0.5〜200wt%,最も好ましくは約同重量使用される。
【0016】
以上のようにシランカップリング剤の加水分解物で被覆されたルチル形酸化チタンのゾルは、必要があれば限外濾過、透析などによって夾雑無機イオンを除去した後、減圧下で適切な固形分濃度例えば5〜50wt%へ濃縮される。濃縮と同時に新たに有機溶媒を徐々に滴下しながら水分を留去し、溶媒置換によりヒドロゾルをオルガノゾルへ転換することができる。置換すべき溶媒は親水性有機溶媒に限らず、トルエンのような疎水性有機溶媒を含む。また、分散安定性を向上させるために種々の分散剤および添加剤を加えてもかまわない。
【0017】
上記のようにシランカップリング剤で処理されたゾルは、そのまままたは必要に応じて無機もしくは有機バインダーに配合してコーティング組成物を調製することができる。得られたコーティング組成物は透明性が要求されるハードコートを金属製、ガラス製またはプラスチック製の物体、例えば光学部品の表面に形成するために使用するのに適している。また本発明のゾルは、ゾル−ゲル法によって透明な独立膜およびバルク体に成形することもできる。
【0018】
以下に限定を意図しない実施例によって本発明を例証する。これらにおいて%は重量基準による。
【実施例1】
【0019】
硫酸チタニル303g(TiOとして100g)と、硫酸スズ6.2g(SnOとして3.0g,TiOに対して3%)の水溶液2000gを10%水酸化ナトリウム水溶液でpH7.0に中和した。析出した水和酸化チタンと水和酸化スズの混合物を濾過、水洗し、固形分12.0%のケーキを得た。このケーキ958.7gに濃塩酸278gと水763.3gを徐々に加え、攪拌しながら80℃で60分熟成してケーキを解膠し、ルチル形酸化チタンのヒドロゾルを得た。冷却後このゾル2000gをメタノール5000gで希釈した後、攪拌しながらメタノール2900g中に3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン100gを溶解した溶液を徐々に添加し、添加終了後室温で更に60分間攪拌した。生成したゾル溶液を減圧濃縮し、固形分20.5%のルチル形酸化チタンのヒドロゾルを得た。
【実施例2】
【0020】
実施例1の減圧濃縮を少量ずつのメタノールを連続的に添加しながら行い、ゾルの溶媒をメタノールへ置換して固形分20.8%のルチル形酸化チタンのオルガノゾルを得た。
【実施例3】
【0021】
実施例1においてシランカップリング剤の種類を同量のビニルトリエトキシシランに変更し、シランカップリング剤で処理したヒドロゾルを実施例2と同様にメタノールで溶媒置換し、固形分15.5%のルチル形酸化チタンのオルガノゾルを得た。
【実施例4】
【0022】
実施例1において3−メタクリロキシプロピルジメトキシシランの量を5gに変更し、同様に処理したヒドロゾルを実施例2と同様にメタノールで溶媒置換し、固形分14.6%のオルガノゾルを得た。
【実施例5】
【0023】
硫酸スズ6.2g(SnOとして3g)を水300gに溶かし、これを10%水酸化ナトリウムでpH7.0に中和し、析出物を濾過し、水洗して固形分15.5%の酸化スズケーキを得た。このケーキ19.4g(SnOとしてTiOに対して3%)にテトライソプロポキシチタン357g(TiOとして100g)と水1345.6gを加え、室温で30分熟成した後、濃塩酸278gを徐々に滴下し、80℃で60分熟成してルチル形酸化チタンのヒドロゾルを得た。冷却後このゾル2000gをイソプロパノール5000gで希釈した後、攪拌しながらイソプロパノール2900g中3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン100gを溶解した溶液を徐々に添加し、添加終了後室温で更に60分間攪拌した。熟成後ゾルへ少量ずつイソプロパノールを連続的に加えながら減圧濃縮し、固形17.8%のイソプロパールで溶媒置換した被覆ルチル形酸化チタンゾルを得た。
【実施例6】
【0024】
ガラス製のビーカに1−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン105.3gを加え、マグネティックスターラーで撹拌しながら0.01規定の塩酸36.8gを3時間で滴下した。滴下終了後、更に30分間攪拌し、1−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの部分加水分解物を得た。次に実施例1で得たルチル形酸化チタンゾルをメタノールで10%に希釈したものを1200g、ブチルセロソルブ65g、更に硬化剤としてアルミニウムアセチルアセトナート4.2gをこの順で前述のα−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの部分加水分解物142.1gに加え、30分撹拌しコーティング剤を得た。本コーティング剤を松浪硝子工業製ミクロスライドガラス(76mm×52mm×1.3mm)にスピンコーター(1000rpm−3秒)で塗布し、110℃で1時間乾燥させ、光学エレメントを得た。
【実施例7】
【0025】
実施例6においてルチル形酸化チタンゾルを実施例2で得たルチル形酸化チタンゾルに変更し、光学エレメントを得た。
【実施例8】
【0026】
実施例6においてルチル形酸化チタンゾルを実施例3で得たルチル形酸化チタンゾルに変更し、光学エレメントを得た。
【実施例9】
【0027】
実施例6においてルチル形酸化チタンゾルを実施例4で得たルチル形酸化チタンゾルに変更し、光学エレメントを得た。
【実施例10】
【0028】
実施例6においてルチル形酸化チタンゾルを実施例5で得たルチル形酸化チタンゾルに変更し、光学エレメントを得た。
【比較例1】
【0029】
常法により硫酸チタニルを加水分解し、濾過、水洗して得たTiO濃度45%の含水酸化チタンケーキ222gを得た。このケーキへ30%水酸化ナトリウム水溶液667gと水111gを加え、攪拌しながら2時間沸騰させた。冷却後混合液を濾過・水洗し、TiO濃度48%のケーキを得た。このケーキ208gに濃塩酸50gと水1742gを加え、攪拌しながら2時間沸騰させ、TiO濃度が5%のルチル形酸化チタンヒドロゾルを得た。冷却後このゾル2000gをメタノール5000gで希釈した後、これへ攪拌しながらメタノール2900g中3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン100gを含む溶液を徐々に添加し、添加終了後室温で更に60分間攪拌した。熟成後ゾルへ少量ずつメタノールを添加しながら減圧濃縮し、固形18.9%の被覆ルチル形酸化チタンオルガノゾルを得た。
【比較例2】
【0030】
水2000g中の硫酸チタニル303g(TiOとして100g)水溶液を10%水酸化ナトリウムでpH7.0に中和し、析出物を濾過・水洗して固形分12.0%の水和酸化チタンケーキを得た。ケーキ833gに濃塩酸278gと水889gを徐々に加え、70℃で60分熟成してケーキを解膠してアナタース形酸化チタンのヒドロゾルを得た。冷却後このゾル2000gをメタノール5000gで希釈し、これへメタノール2900g中3−メタクリロキシオキシプロピルメチルジメトキシシラン100gの溶液を攪拌下に加え、室温で60分熟成した。熟成後ゾルへメタノールを少量ずつ連続的に加えながら減圧濃縮し、メタノールで溶媒置換した固形分21.0%のアナタース形酸化チタンのオルガノゾルを得た。
【比較例3】
【0031】
実施例1と同様に酸化スズを含む水和酸化チタンを解膠して得たルチル形酸化チタンのヒドロゾルをシランカップリング剤で処理することなくメタノールで溶媒置換しながら減圧濃縮し、固形分10.0wt%のオルガノゾルを得た。
【比較例4】
【0032】
ガラス製のビーカにα−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン105.3gを加え、マグネティックスターラーで撹拌しながら0.01規定の塩酸36.8gを3時間で滴下した。滴下終了後、更に30分間攪拌し、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの部分加水分解物を得た。次に比較例1で得たルチル形酸化チタンゾルをメタノールで10%に希釈したものを1200g、ブチルセロソルブ65g、更に硬化剤としてアルミニウムアセチルアセトナート4.2gをこの順で前述のα−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの部分加水分解物142.1gに加え、30分間撹拌しコーティング剤を得た。本コーティング剤を松浪硝子工業製ミクロスライドガラス(76mm×52mm×1.3mm)にスピンコーター(1000rpm−3秒)で塗布し、110℃で1時間乾燥させ、光学エレメントを得た。
【比較例5】
【0033】
比較例4において酸化チタンゾルを比較例2で得た酸化チタンゾルに変更し、光学エレメントを得た。
【比較例6】
【0034】
比較例4において酸化チタンゾルを比較例3で得た酸化チタンゾルに変更し、光学エレメントを得た。
【0035】
評価試験
実施例1〜5および比較例1〜3で得たゾルについてヘーズ(透明性)、酸化チタンの結晶形、貯蔵安定性について以下の方法で試験し、表1に示す結果を得た。
【0036】
1.ゾルのヘーズ
実施例5のゾルの場合はイソプロパノールで、他のゾルはメタノールでそれぞれ固形分0.1%に希釈し、これを光路長1cmの石英セルへ収容し、スガ試験機(株)製DIGITAL HAZE COMPUTER HGM−2DP型を用いてヘーズを測定した。
【0037】
2.塗膜のヘーズ
水52.8gと、濃塩酸0.9gと、イソプロパノール73.5gを混合し、この溶液へイソプロパノール100g中テトラエトキシシラン22.8gの溶液を加えて加水分解し、固形分2.5%のシリカゾルを得た。このシリカゾル100gをバインダーとし、実施例および比較例のゾルを固形分として2.5gを混一に混合してコーティング液とした。このコーティング液をガラスプレートへ乾燥重量0.3g/mの塗布量となるようにスピンコートし、110℃で30分乾燥し、下記式により塗膜のヘーズを算出した。
塗膜ヘーズ=〔塗布後プレートのヘーズ〕−〔塗布前プレートのヘーズ〕
【0038】
3.酸化チタンの結晶形
実施例および比較例のゾルを110℃で30分間乾燥して得たゲルを試料とし、X線回折装置(PHILIPS社X‘Pert Pro)を用いて結晶形を測定した。
【0039】
4.ゾルの貯蔵安定性
実施例および比較例のゾルを25℃の恒温室に1ケ月間静置した後、目視により下記基準に従って安定性を評価した。
安定性あり:相分離、沈澱物の生成、増粘、ゲル化が認められない。
安定性なし:相分離、沈澱物の生成、増粘またはゲル化が認められる。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例6〜10および比較例4〜6で得た光学エレメントについてヘーズ(透明性)、屈折率、耐光性を以下の方法で試験し、表2に示す結果を得た。
1.光学エレメントのヘーズ
それぞれの光学エレメントをスガ試験機(株)製DIGITAL HAZE COMPUTER HGM−2DP型を用いてヘーズを測定した。
2.光学エレメントの屈折率
それぞれの光学エレメントを(株)溝尻光学研究所製エリプソメーターDHA−XA/M8型を用いて単波長エリプソメトリー法にて測定した。
3.光学エレメントの耐光性
それぞれの光学エレメントを1ヶ月間屋外暴露し、暴露後の光学エレメントの外観変化を目視にて評価した。
【0042】
【表2】

【0043】
考察:
表1に示した結果から、本発明のシランカップリング剤で処理したルチル形酸化チタンゾルは対応するアナタース形酸化チタンゾルに匹敵する透明性と貯蔵安定性を有することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒で固形分0.1wt%に希釈した時のヘーズが50%以下であるルチル形酸化チタンヒドロゾル。
【請求項2】
請求項1のゾルを溶媒置換して得られるルチル形酸化チタンオルガノゾル。
【請求項3】
シランカップリング剤の加水分解物で被覆されている請求項1または2のルチル形酸化チタンゾル。
【請求項4】
シランカップリング剤はケイ素原子へ結合した少なくとも2つの加水分解可能な基と、炭素原子でケイ素原子へ結合した少なくとも1つの有機基を有するシラン化合物である請求項3のルチル形酸化チタンゾル。
【請求項5】
ヒドロゾル中のルチル形酸化チタンに対する加水分解前のシランカップリング剤の割合が0.1ないし300wt%である請求項3または4のルチル形酸化チタンゾル。
【請求項6】
ヒドロゾル中のルチル形酸化チタンに対する加水分解前のシランカップリング剤の割合が5ないし200wt%である請求項5のルチル形酸化チタンゾル。
【請求項7】
ルチル形転移剤の存在下水和酸化チタンを解膠して得られるルチル形酸化チタンヒドロゾルを被覆処理した請求項3ないし6のいずれかのルチル形酸化チタンゾル。
【請求項8】
液状バインダー中に請求項1ないし7のいずれかのルチル形酸化チタンゾルを分散してなるコーティング組成物。
【請求項9】
請求項8のコーティング組成物を皮膜した光学エレメント。
【請求項10】
a)ルチル転移剤の存在下水和酸化チタンを解膠してルチル形酸化チタンのヒドロゾルを製造し、
b)製造したヒドロゾルへシランカップリング剤を加え、
c)添加したシランカップリング剤が加水分解され、加水分解生成物によりヒドロゾル中のルチル形酸化チタン粒子が被覆されるのに十分な条件下で混合物を熟成するステップを含んでいるルチル形酸化チタンゾルの製造方法。
【請求項11】
熟成ステップc)の後、d)ヒドロゾルを溶媒置換によりオルガノゾルへ転換するステップをさらに含んでいる請求項10の方法。

【公開番号】特開2006−83033(P2006−83033A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271302(P2004−271302)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】