説明

レアメタルの製造方法及び製造システム

【課題】一連のプロセスにおいてレアメタルを単離・回収することを可能とし、二次廃棄物の発生量を低減させるレアメタルの製造技術を提供する。
【解決手段】電解質溶液を電解して陰電極にRe酸化物を採取する工程(S15)と、前記Re酸化物を回収し溶融塩電解質において電解してRe金属を採取する工程(S17)と、Nd含有残渣液を回収する工程(S21)と、前記Nd含有残渣液を処理してNd酸化物を生成する工程(S22〜S26)と、前記Nd酸化物を溶融塩電解質において電解してNd金属を採取する工程(S27)と、Dy含有残渣液を回収する工程(S31)と、前記Dy含有残渣液を処理してDy酸化物を生成する工程(S32〜S34)と、前記Dy酸化物を溶融塩電解質において電解してDy金属を採取する工程(S35)と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レアメタルの製造技術に関し、特に溶液中のレニウム(Re)、ネオジム(Nd)、ディスプロシウム(Dy)の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レニウム(Re)は、レアメタルのなかでも、特に希少な金属で、航空機等のタービン材料を強化するのに用いられている。
このRe金属の従来の製造プロセスは、鉱石から中間製品である過レニウム酸アンモニウム(NH4ReO4;ammonium perrhenate rhenium(APR))を経て、このAPRを水素気流中において約150℃で還元して得る方法が知られている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
また、磁石の原料として利用されているネオジム(Nd)やディスプロシウム(Dy)等の希土類金属は、それぞれの元素の化学的性質が近似していることに起因して単独で分離することが困難であるとされている。
そして、これらNd金属やDy金属の従来の単離プロセスとしては、鉱石を硫酸などで溶解した後、シュウ酸沈殿法により、アルカリ金属や白金族などの不純物を分離・除去し、希土類金属の相互分離をし、フッ化カルシウムによる還元法を経る方法が知られている。
さらに、これら希土類金属の単離方法として、その酸化物を溶融塩中で揮発させ、相互に分離、回収する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−201765号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】金属時評編集部編,新金属データブック
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来プロセスにおいては、Re金属の中間製品であるAPRを生成する過程で、酸、アルカリ、有機溶媒及びイオン交換樹脂を消費して大量の二次廃棄物が発生する問題があった。
また、NdやDy等の希土類金属の酸化物は、還元速度が遅く、さらに使用した還元剤は再生が困難で大量の二次廃棄物が発生する問題があった。
一方、Re金属と、Nd金属及びDy金属等の希土類金属とを、一連の工程でそれぞれ分離、回収する技術の報告例はこれまでにない。
【0007】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、一連のプロセスにおいてレアメタルを単離・回収することを可能とし、二次廃棄物の発生量を低減させるレアメタルの製造技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るレアメタルの製造方法は、少なくともRe元素が含まれる電解質溶液を電解して陰電極にRe酸化物を採取する工程と、前記Re酸化物を回収する工程と、前記Re酸化物を第1溶融塩電解質において電解して陰電極でRe金属を採取する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るレアメタルの製造方法によれば、鉱物を浸出処理して主目的金属を採取した後の残渣液から、副目的金属であるレアメタルを一連のプロセスで単離・回収することが可能となる。これにより、工程数を削減して二次廃棄物の発生量を低減させるレアメタルの製造技術が提供されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るレアメタル金属の製造システムの構成要素である溶液電解槽の実施形態を示す概略図。
【図2】本発明に係るレアメタル金属の製造システムの構成要素である第1溶融塩電解槽の実施形態を示す概略図。
【図3】本発明に係るレアメタル金属の製造システムの構成要素である第2溶融塩電解槽の実施形態を示す概略図。
【図4】本発明に係るレアメタル金属の製造方法の第1実施形態を示すフローチャート。
【図5】本発明に係るレアメタル金属の製造方法の第2実施形態を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
本発明の第1実施形態に係るレアメタル金属の製造システムは、溶液電解槽10(図1)と、第1溶融塩電解槽20A(図2)とから構成されている。
このように構成される製造システムは、Re元素を含むイオン、及びその他の金属元素を含むイオンが溶解している電解質溶液PからRe金属を分離・回収するものである。さらに、このその他の金属元素が、希土類金属に属するNd元素及びDy元素である場合に、Nd金属及びDy金属をそれぞれ分離・回収するものである。
【0012】
溶液電解槽10は、図1に示されるように、直流電源11のマイナス極に接続する陰電極12と、直流電源11のプラス極に接続する陽電極13と、陰電極12が浸漬する電解質溶液Pを保持する陰極室14と、陽電極13が浸漬する緩衝液Qを保持する陽極室15と、この陰極室14及び陽極室15の境界に配置される隔膜16と、から構成されている。
このように構成される溶液電解槽10は、酸化Reイオンが溶解している電解質溶液Pを電解して陰電極12にRe酸化物を析出させ採取するものである。
【0013】
この電解質溶液Pは、ウラン、銅又はモリブデンなどの主目的金属を得るための湿式精錬において発生する残渣液を用いるが、これに限定されずRe元素、Nd元素、Dy元素が含まれる溶液であれば適宜用いることができる。
【0014】
緩衝液Qは、電解質溶液Pと同じ酸溶媒で、前記した金属元素が含まれていないものを用いる。この緩衝液Qは、電解質溶液Pと混合しないように、かつイオンの通過が自由であるように隔膜16によって仕切られている。
【0015】
陰電極12は、陽電極13との間に電圧を印加して電解を実行すると、電解質溶液Pに溶解している酸化ReイオンがRe酸化物として析出する。そして、このRe酸化物が析出した陰電極12を溶液電解槽10から引き上げて、空気中において約100〜300℃で仮焼して水分を除去し、粉末状のRe酸化物を得る。
ここで陰電極12の構成材料としては、Re酸化物の析出反応と競合する水素発生反応を抑制するために、水素過電圧の小さい金属材料である必要がある。
【0016】
具体的な陰電極12の構成材料としては、カドミウム、水銀、タリウム、インジウム、錫、鉛、ビスマス、黒鉛、銅、タンタル、ニオブ、ベリリウム、アルミニウム、銀、鉄、モリブデン、ニッケル、平滑白金、タングステン及び金のうちいずれか又はこれらの合金であることが望ましい。
ここで、タンタルを陰電極12に用いた場合は、Re酸化物の回収率が70%にのぼるという実験結果が得られており、陰極材料として一般的な白金を用いた回収率が13〜16%であることを対比すると、回収率が4倍以上に向上することが認められる。
【0017】
ここで、陰電極12及び陽電極13における電極反応は、次式(1)(2)で例示される。
なおRe元素は、原子価が2〜7の値をとることが知られており、Re酸化物の形態も、ReO2,ReO3,Re27,Re23等、多種にわたり、現実の電極反応は複雑である。
【0018】
陰極;ReO4- + 4H+ +4e- → ReO2 +2H2O (1)
陽極;2O2- → O2 +4e- (2)
【0019】
溶液電解槽10において、前記した電極反応(1)(2)が終了した後の電解質溶液Pは、Nd元素とDy元素を含むNd・Dy含有残渣液が残留している。
このNd・Dy含有残渣液からNd元素及びDy元素を、それぞれNd酸化物(Nd23)及びDy酸化物(Dy23)として分離・回収する方法について次に示す。
【0020】
溶液電解槽10から回収したNd・Dy含有残渣液を別の反応槽(図示略)に移し替え、アルカリ金属硫酸塩である硫酸ナトリウム(Na2SO4)を過剰に添加して加熱する。すると軽希土類金属であるNdのみがNd硫酸塩である硫酸ネオジム(Nd2(SO43)として晶出し、選択的に沈殿する。
そして、この反応槽(図示略)から取り出した硫酸ネオジムに、シュウ酸((COOH)2)を添加するとNdシュウ酸塩であるシュウ酸ネオジム(Nd2(COO)3)を生じる。
【0021】
このシュウ酸ネオジムを乾燥させて水分を除去した後、塩化カリウム(KCl)及び塩化リチウム(LiCl)と混合し、加熱炉(図示略)において温度を約500℃まで上昇させると、この混合溶融塩中でシュウ酸ネオジムは、一酸化炭素(CO)の脱離反応をおこし酸化ネオジム(Nd2O)に転換される。
【0022】
一方、重希土類金属であるDyは、硫酸ネオジムが晶出し沈殿した後も、残渣液に他の不純物と共に溶解している。そこで、このDy含有残渣液にシュウ酸を添加してNdシュウ酸塩であるシュウ酸ディスプロシウム(Dy2(COO)3)を生成し沈殿させて、他の不純物と分離する。
【0023】
このシュウ酸ディスプロシウムを乾燥させて水分を除去した後、前記した工程と同様にして、塩化カリウム(KCl)及び塩化リチウム(LiCl)と混合し、加熱炉(図示略)において温度を約500℃まで上昇させると、この混合溶融塩中でシュウ酸ディスプロシウムは、一酸化炭素(CO)の脱離反応をおこし酸化ディスプロシウム(Dy2O)に転換される。
【0024】
図2に示されるように第1溶融塩電解槽20Aは、直流電源21のマイナス極に接続する陰電極22Aと、直流電源21のプラス極に接続する陽電極23と、第1溶融塩電解質26Aを保持する電解室24と、この第1溶融塩電解質26Aを温度制御する加熱部25とから構成されている。
このように構成される第1溶融塩電解槽20Aは、溶液電解槽10から回収され付着成分が除去されたRe酸化物を第1溶融塩電解質26Aにおいて電解し、陰電極22Aで還元されたRe金属を採取する。
さらに、第1溶融塩電解槽20Aは、前記Re酸化物に代えて、Nd含有残渣液から回収されたNd酸化物を電解することによって、Nd金属を採取する。同様に、第1溶融塩電解槽20Aは、Dy含有残渣液から回収されたDy酸化物を電解し、Dy金属を採取する。
【0025】
第1溶融塩電解質26Aは、塩化リチウム(LiCl)−酸化リチウム(Li2O)の混合塩、塩化マグネシウム(MgCl2)−酸化マグネシウム(MgO)の混合塩、又は塩化カルシウム(CaCl2)−酸化カルシウム(CaO)の混合塩のうちいずれかの混合塩とすることができる。
ここで、Re酸化物の電解には、塩化リチウム−酸化リチウムの混合塩を用いるのが好適で、Nd酸化物及びDy酸化物の電解には、塩化マグネシウム−酸化マグネシウムの混合塩を用いるのが好適である。
【0026】
ここで、第1溶融塩電解質26Aを構成する混合塩における酸化金属成分(Li2O,MgO,CaO)の混合塩全体に占める割合は、1%程度である。
この酸化金属成分が果たす役割を、Re酸化物の電解を例にとって説明すると、後記する電極反応式(4)と並行する、次式(3)の電極反応で生成したLi金属がRe酸化物の酸素分子を奪取する。これにより、Re酸化物の還元が促進されて、Re金属を効率的に析出させることができる。
陰極;Li2O+2e- → 2Li+O2- (3)
【0027】
ところで、Re酸化物、Nd酸化物又はDy酸化物の電解が進むなかで、第1溶融塩電解質26Aを構成する混合塩の望まない酸化も進行する。この望まない酸化が進行して第1溶融塩電解質26Aの酸化金属成分(Li2O,MgO,CaO)が増加すると、溶融塩電解槽20Aにおける電解の進行を妨げることになる。
よって、このように酸化物に変化した第1溶融塩電解質26Aの組成の一部を回収し還元させて再利用することが、二次廃棄物の発生量を低減させる観点から好ましい。
【0028】
陰電極22Aは、Re酸化物、Nd酸化物又はDy酸化物の粉末を保持するバスケット形状を有するステンレス製のものである。
陰電極22Aは、第1溶融塩電解質26Aの中に浸漬され、Re酸化物、Nd酸化物及びDy酸化物のうちいずれか一つを保持した状態で金属に還元するものである。
陽電極23は、白金、カーボンなどを構成材料とすることができ、酸素イオンを酸素ガスもしくは二酸化炭素ガスとして除去するものである。
【0029】
次に、Re酸化物、Nd酸化物及びDy酸化物のそれぞれを電解する場合における電極反応を例示する。なお、陽極反応は白金を採用した場合のものである。
<Re酸化物>
陰極;ReO2 +4e- → Re+2O2- (4)
陽極;2O2- → O2 +4e- (5)
<Nd酸化物>
陰極;Nd2+6e- → 2Nd+3O2- (6)
陽極;3O2- → 3/2O2 +6e- (7)
<Dy酸化物>
陰極;Dy2+6e- → 2Dy+3O2- (8)
陽極;3O2- → 3/2O2 +6e- (9)
【0030】
図4のフローチャートを参照して第1実施形態におけるレアメタル金属の製造方法(手順)を説明する。
まず、鉱物を予備処理(粉砕、選鉱、焙焼)してから(S11)、酸又はアルカリ溶液で浸出処理する(S12)。この浸出液から主目的金属を採取した(S13)後に残留し、Re元素、Nd元素及びDy元素が含まれる残渣液を回収する(S14)。
この残渣液を電解質溶液Pとして溶液電解槽10の陰極室14に保持させ電解して陰電極12にRe酸化物を析出させて採取する(S15)。
Re酸化物を回収し付着成分を除去する(S16)。
このRe酸化物を第1溶融塩電解槽20Aの陰電極22Aに保持させて電解する(S17)。
そして、電解終了後にこの陰電極22Aを第1溶融塩電解質26Aから引き上げてRe金属を副目的金属として採取する(S18)。
【0031】
一方、溶液電解槽10における電解工程(S15)の終了後、Re酸化物が採取された残りのNd元素及びDy元素が含まれるNd・Dy含有残渣液を回収する(S21)。
このNd・Dy含有残渣液にアルカリ金属硫酸塩(Na2SO4)を添加して(S22)、Nd硫酸塩(Nd2(SO4)3)を晶出させる(S23)。
そして、このNd硫酸塩(Nd2(SO4)3)を回収しシュウ酸((COOH)2)を添加して反応させて(S24)、Ndシュウ酸塩(Nd2(COO)3)を生成させる(S25)。 このNdシュウ酸塩から脱CO処理をしてNd酸化物(Nd23)を生成させる(S26)。
このNd酸化物を回収して第1溶融塩電解槽20Aの陰電極22Aに保持させて電解する(S27)。そして、電解終了後にこの陰電極22Aを第1溶融塩電解質26Aから引き上げてNd金属を副目的金属として採取する(S28)。
【0032】
また一方において、Nd硫酸塩の晶出工程(S23)の終了後、Nd硫酸塩が採取された残りのDy元素が含まれるDy含有残渣液を回収する(S31)。
このDy含有残渣液にシュウ酸((COOH)2)を添加して(S32)、晶出させたDyシュウ酸塩(Dy2(COO)3)を回収する(S33)。
このDyシュウ酸塩から脱CO処理をしてDy酸化物(Dy23)を生成させる(S34)。
このDy酸化物を回収して第1溶融塩電解槽20Aの陰電極22Aに保持させて溶融塩電解する(S35)。そして、電解終了後にこの陰電極22Aを第1溶融塩電解質26Aから引き上げてDy金属を副目的金属として採取する(S36)。
【0033】
本発明の第1実施形態に基づくレアメタルの製造プロセスによれば、二次廃棄物の発生量が500kg/年となり、従来のプロセスにおける1000kg/年に対して約50%削減が実現される。
【0034】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係るレアメタル金属の製造システムは、溶液電解槽10(図1)と、第1溶融塩電解槽20A(図2)と、第2溶融塩電解槽20B(図3)とから構成されている。
ここで、溶液電解槽10は既に説明したものと同一のものなので説明を省略し、第2溶融塩電解槽20Bは、図3に記載されている構成のうち、図2に記載されているものと共通するものについては、同一の符号を付し前記した説明を引用して記載を省略する。
このように構成される第2実施形態の製造システムは、電解質溶液PからRe金属を最初に分離・回収する点においては、第1実施形態と同様である。
そして第2実施形態の製造システムは、Reを分離した後の残渣液から希土類金属のNd元素及びDy元素を分離・回収する方式が第1実施形態と相違している。
【0035】
まず、第2溶融塩電解槽20Bの説明に入る前に、溶液電解槽10から排出されてこの第2溶融塩電解槽20Bで電解されることになるNd・Dy含有残渣液の前処理について説明する。
【0036】
溶液電解槽10から回収したNd・Dy含有残渣液を別の反応槽(図示略)に移し替え、シュウ酸((COOH)2)を添加するとNdシュウ酸塩であるシュウ酸ネオジム(Nd2(COO)3)と、Ndシュウ酸塩であるシュウ酸ディスプロシウム(Dy2(COO)3)の混合物が生成し沈殿する。
この沈殿したシュウ酸ネオジム及びシュウ酸ディスプロシウムに塩化剤である塩酸(HCl)を添加して温度を約90℃に設定する。すると、シュウ酸ネオジムおよびシュウ酸ディスプロシウムは、それぞれNd塩酸塩である塩酸ネオジム(NdCl3)及びDy塩酸塩である塩酸ディスプロシウム(DyCl3)に化学変化した上で、塩酸溶媒に溶解した塩化物溶液となる。
【0037】
そして、この塩化物溶液に、過酸化水素を加えながら加熱すると、未反応のシュウ酸を塩化物に分解して除去することができる。
さらに、この塩化物溶液を不活性ガス雰囲気中で温度設定を約200℃として、加熱乾燥により水分を完全に除去し、無水塩化ネオジムおよび無水塩化ディスプロシウムの混合物すなわちNd塩酸塩及びDy塩酸塩の混合物が生成される。
Nd・Dy含有残渣液の前処理の説明は以上の通りである。
【0038】
第2溶融塩電解槽20Bは、図3に示されるように、直流電源21のマイナス極に接続する陰電極22Bと、直流電源21のプラス極に接続する陽電極23と、第2溶融塩電解質26Bを保持する電解室24と、この第2溶融塩電解質26Bを温度制御する加熱部25とから構成されている。
このように構成される第2溶融塩電解槽20Bは、前記した前処理により得られたNd塩酸塩及びDy塩酸塩の混合物を第2溶融塩電解質26Bにおいて電解し、陰電極22BでNd金属を選択的に採取した後に、この陰電極22Bを交換しDy金属を選択的に採取するものである。
【0039】
第2溶融塩電解質26Bは、塩化カリウム(KCl)と塩化ナトリウム(NaCl)の混合塩、塩化カリウム(KCl)と塩化リチウム(LiCl)の混合塩、塩化ナトリウム(NaCl)と塩化セシウム(CsCl)の混合塩などのアルカリ金属の塩化物もしくはアルカリ土類金属の塩化物の二元系のものを使用することも可能である。
また、塩化カリウムと塩化ナトリウムの混合塩、フッ化カリウムとフッ化ナトリウムの混合塩を用いることも可能である。
【0040】
陰電極22Bは、溶融塩中に溶解したNdイオン(Nd3+)およびDyイオン(Dy3+)のうち、酸化還元電位が貴であるNdイオンが優先的に陰電極22B上にNd金属として析出、回収される(反応式(10))。
そして、陰電極22Bを新しいものに交換し、陽電極23との間に電圧を印加するとDyイオンが陰電極22BにDy金属として析出、回収される(反応式(11))。
一方、陽電極23においては、塩素イオンが塩素ガスとなって排出される(反応式(12))。
【0041】
陰極;Nd3+ +3e- → Nd(第1段階) (10)
;Dy3+ +3e- → Dy(第2段階) (11)
陽極;3Cl- → 3/2・Cl2+3e- (12)
【0042】
図5のフローチャートを参照して第2実施形態におけるレアメタル金属の製造方法(手順)を説明する。
第2実施形態におけるステップS11からS18までは、第1実施形態におけるものと同一であるので、既にした説明を引用して記載を省略する。
【0043】
溶液電解槽10における電解工程(S15)の終了後、Re酸化物が採取された残りのNd元素及びDy元素が含まれるNd・Dy含有残渣液を回収する(S41)。
このNd・Dy含有残渣液にシュウ酸((COOH)2)を添加して反応させて(S42)、晶出させたNdシュウ酸塩(Nd2(COO)3)及びDyシュウ酸塩(Dy2(COO)3)の混合物を回収する(S43)。
【0044】
そして、このNdシュウ酸塩及びDyシュウ酸塩の混合物に塩化剤としてHClを添加してNd塩酸塩(NdCl3)及びDy塩酸塩(DyCl3)の混合溶液とする(S44)。
このNd塩酸塩及びDy塩酸塩の混合溶液中に過酸化水素を添加して残留するシュウ酸を除去する(S45)。
混合溶液から溶媒を除去してNd塩酸塩及びDy塩酸塩の混合物を回収する(S46)。
【0045】
次に、このNd塩酸塩及びDy塩酸塩の混合物を第2溶融塩電解槽20Bの第2溶融塩電解質26Bに混ぜて溶融塩電解し(S47)、陰電極22BでNd金属を選択的に析出させ副目的金属として採取する(S48)。
次にNd金属が析出した陰電極22Bを取り出して別個のものに交換する(S51)。そして、第2溶融塩電解質26Bに残留しているDy塩酸塩を溶融塩電解して(S52)、新たな陰電極22BでDy金属を選択的に析出させ副目的金属として採取する(S53)。
【0046】
本発明は前記した実施形態に限定されるものでなく、共通する技術思想の範囲内において、適宜変形して実施することができる。
例えば、実施形態においては、電解質溶液Pに、Re元素、Nd元素、Dy元素の全てが含まれていることを前提としているが、このうちいずれかが欠けている場合であっても、金属として分離回収することができる。
また、鉱物から主目的金属を採取した後の残渣液からレアメタルを回収することを例示しているが、そのような用途に限定されることもない。
【符号の説明】
【0047】
10…溶液電解槽、11…直流電源、12…陰電極、13…陽電極、14…陰極室、15…陽極室、16…隔膜、20A…第1溶融塩電解槽、20B…第2溶融塩電解槽、22A…陰電極、22B…陰電極、23…陽電極、24…電解室、25…加熱部、26A…第1溶融塩電解質、26B…第2溶融塩電解質。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともRe元素が含まれる電解質溶液を電解して陰電極にRe酸化物を採取する工程と、
前記Re酸化物を回収する工程と、
前記Re酸化物を第1溶融塩電解質において電解して陰電極でRe金属を採取する工程と、を含むことを特徴とするレアメタルの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレアメタルの製造方法において、
前記電解質溶液にはさらにNd元素が含まれており、
前記電解質溶液の電解工程の終了後、前記Nd元素が含まれるNd含有残渣液を回収する工程と、
前記Nd含有残渣液にアルカリ金属硫酸塩を添加してNd硫酸塩を晶出させる工程と、
前記Nd硫酸塩を回収しシュウ酸を反応させてNdシュウ酸塩を生成させる工程と、
前記Ndシュウ酸塩を処理してNd酸化物を生成させる工程と、
前記Nd酸化物を第1溶融塩電解質において電解して陰電極でNd金属を採取する工程と、を含むレアメタルの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のレアメタルの製造方法において、
前記電解質溶液にはさらにDy元素が含まれており、
前記Nd硫酸塩の晶出工程の終了後、前記Dy元素が含まれるDy含有残渣液を回収する工程と、
前記Dy含有残渣液にシュウ酸を添加して晶出させたDyシュウ酸塩を回収する工程と、
前記Dyシュウ酸塩を処理してDy酸化物を生成する工程と、
前記Dy酸化物を第1溶融塩電解質において電解して陰電極でDy金属を採取する工程と、を含むレアメタルの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のレアメタルの製造方法において、
前記電解質溶液にはさらにNd元素及びDy元素が含まれており、
前記電解質溶液の電解工程の終了後、前記Nd元素及びDy元素が含まれるNd・Dy含有残渣液を回収する工程と、
前記Nd・Dy含有残渣液にシュウ酸を添加して晶出させたNdシュウ酸塩及びDyシュウ酸塩の混合物を回収する工程と、
前記Ndシュウ酸塩及びDyシュウ酸塩の混合物に塩化剤を添加して生成したNd塩酸塩及びDy塩酸塩の混合物を回収する工程と、
前記Nd塩酸塩及びDy塩酸塩の混合物を第2溶融塩電解質において電解して陰電極でNd金属を選択的に採取する工程と、
前記Nd金属が析出した陰電極を取り出して別個のものに交換する工程と、
残留しているDy塩酸塩を前記第2溶融塩電解質において電解して前記交換した陰電極でDy金属を選択的に採取する工程と、を含むレアメタルの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のレアメタルの製造方法において、
前記Nd塩酸塩及びDy塩酸塩の混合物の回収工程において、この混合物中に過酸化水素を添加して残留する前記シュウ酸の除去処理を実施することを特徴とするレアメタルの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のレアメタルの製造方法において、
前記第1溶融塩電解質で電解を行う過程において、
酸化物に変化した前記第1溶融塩電解質の組成の一部を回収し還元させて再利用を図ることを特徴とするレアメタルの製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のレアメタルの製造方法において、
前記電解質溶液は、鉱物を浸出処理して主目的金属を採取した後の残渣液であって、
前記Re金属、前記Nd金属又はDy金属は、副目的金属であることを特徴とするレアメタルの製造方法。
【請求項8】
少なくともRe元素が含まれる電解質溶液を電解して陰電極でRe酸化物を採取する溶液電解槽と、
前記溶液電解槽から回収されたRe酸化物を第1溶融塩電解質において電解して陰電極でRe金属を採取する第1溶融塩電解槽と、を備えることを特徴とするレアメタルの製造システム。
【請求項9】
請求項8に記載のレアメタルの製造システムにおいて、
前記電解質溶液にはさらにNd元素が含まれており、
前記第1溶融塩電解槽は、前記溶液電解槽内のNd含有残渣液から選択的に回収され処理されたNd酸化物を第1溶融塩電解質で電解し、陰電極においてNd金属を採取すること、を特徴とするレアメタルの製造システム。
【請求項10】
請求項9に記載のレアメタルの製造システムにおいて、
前記電解質溶液にはさらにDy元素が含まれており、
前記第1溶融塩電解槽は、前記溶液電解槽内のDy含有残渣液から選択的に回収され処理されたDy酸化物を第1溶融塩電解質で電解し、陰電極においてDy金属を採取すること、を特徴とするレアメタルの製造システム。
【請求項11】
請求項8に記載のレアメタルの製造システムにおいて、
前記電解質溶液にはさらにNd元素及びDy元素が含まれており、
前記溶液電解槽内のNd・Dy含有残渣液から回収され処理されたNd塩酸塩及びDy塩酸塩の混合物を第2溶融塩電解質において電解して陰電極でNd金属を選択的に採取した後に、この陰電極を交換しDy金属を選択的に採取する第2溶融塩電解槽を備えるレアメタルの製造システム。
【請求項12】
請求項8から請求項11のいずれか1項に記載のレアメタルの製造システムにおいて、
前記第1溶融塩電解質は、LiCl、MgCl2又はCaCl2にそれぞれLi2O、MgO又はCaOを混合させたものであることを特徴とするレアメタルの製造システム。
【請求項13】
請求項8から請求項12のいずれか1項に記載のレアメタルの製造システムにおいて、
前記第1溶融塩電解槽の陰電極は、前記Re酸化物、Nd酸化物又はDy酸化物の粉末を保持するバスケット形状を有することを特徴とするレアメタルの製造システム。
【請求項14】
請求項8から請求項13のいずれか1項に記載のレアメタルの製造システムにおいて、
前記溶液電解槽の陰電極材料はタンタルであることを特徴とするレアメタルの製造システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−285680(P2010−285680A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142565(P2009−142565)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】