説明

レジスト膜及び微細加工方法

【課題】安価で大きな出力のレーザパワーが得られる赤色半導体レーザを用いても微細なパターンが露光可能なレジスト材料を提供することを目的とする。
【解決手段】半導体装置の製造の際、パターンを形成するために使用されるレジスト膜において、レーザ光の照射によって感光し性質が変化する感光膜102と、パターンを形成するためのマスク層104と、マスク層104を感光膜102から剥離するための剥離層103と、を有し、感光膜102は、遷移金属の不完全酸化物からなり、不完全酸化物は、酸素の含有量が遷移金属のとりうる価数に応じた化学量論組成の酸素含有量より小さい材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機材料からなるレジスト膜及び微細加工方法に関し、特に、紫外線領域から可視光線領域を露光源とする精度の高い微細加工が可能なレジスト膜及び微細加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体、光学デバイス、磁気デバイス等を微細加工するためのリソグラフィ技術には数十nm程度以下のパターン精度が必須である。
【0003】
この高精度を実現するために光源、レジスト材料、ステッパ等の様々な分野において精力的な開発が進められている。
【0004】
微細加工寸法精度を向上させる手法としては、露光源の波長を短くすることや細く収束された電子線又はイオンビームを採用すること等が有効とされる。
【0005】
しかし、短波長の露光光源、電子線及びイオンビーム照射源を搭載する装置は高価であり、安価なデバイス供給には不向きである。
【0006】
そこで、既存の露光装置と同一光源を用いながら加工寸法精度の向上を図る手法として、照明の方法に工夫を施すことや、位相シフトマスクと称される特殊なマスクを用いること等が提案されている。
【0007】
他の手法として、レジストを多層とする方法や、無機レジストを用いる方法等の試みがなされている。
【0008】
現在では、例えば、ノボラック系レジスト、化学増幅レジスト等の有機レジストと、露光源として紫外線とを組み合わせた露光方法が一般的に広く行われている。
【0009】
有機レジストは、汎用性がありフォトリソグラフィの分野で広く用いられているものであるが、分子量が高いことに起因して露光部と未露光部との境界部のパターンが不明瞭となる。そのため、微細加工の精度を高める点では困難がある。
【0010】
これに対して、無機レジストは低分子であるので露光部と未露光部との境界部で明瞭なパターンが得られ、有機レジストに比較して高精度の微細加工を達成する可能性がある。
【0011】
例えば、非特許文献1において、MoOやWO等をレジスト材料として用い、露光源としてイオンビームを用いた微細加工例が記載されている。
【0012】
また、非特許文献2において、SiOをレジスト材料として用い、露光源として電子ビームを用いる加工例が記載されている。
【0013】
非特許文献3には、カルコゲナイドガラスをレジスト材料として用い、露光源として波長476nm及び波長532nmのレーザ並びに水銀キセノンランプからの紫外光を用いる方法が記載されている。
【0014】
ところで、露光源として電子ビームを用いる場合には、上記のように多種類の無機レジスト材料を組み合わせることが可能であるが、紫外線又は可視光に対応する材料としてはカルコゲナイド材料の報告があるのみである。
【0015】
これは、カルコゲナイド材料以外にこれまで提案された無機レジスト材料が、紫外線又は可視光に対して透明であるため、吸収が著しく少なく実用上不適であるためと考えられる。
【0016】
しかしながら、カルコゲナイド材料は、紫外線又は可視光が利用可能であり既存の露光装置を利用可能という利点を有するが、Ag、Ag−As、AgSe−GeSe等の材料を含んでいる。
【0017】
一方、紫外線又は可視光を用いたフォトリソグラフィ技術は、半導体デバイス等の作製に利用される。半導体デバイスの例としては、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、Flashメモリ、CPU(Central Processing Unit)及びASIC(Application Specific IC)等があげられる。
【0018】
また、磁気ヘッド等の磁気デバイス、液晶、EL(Electro Luminescence)及びPDP(Plasma Display Panel)等の表示デバイス、光記録媒体及び光変調素子等の光デバイス等の各種デバイスの作製にも応用されている。
【0019】
これらの中で、コンパクトディスク(CD)(登録商標)、いわゆるDVD等に代表される読み取り専用光ディスクの構造を例に挙げて以下に説明する。
【0020】
光ディスクは、基本的に、情報信号を示すピットやグルーブ等の微細な凹凸パターンが形成された基板の一主面に、アルミニウム等の金属薄膜からなる反射膜が形成され、その上に保護膜が形成された構造を有する。
【0021】
このような光ディスクの微細凹凸パターンは、微細凹凸パターンが高精度に形成されたスタンパを用いて、基板上に忠実に且つ即座に凹凸パターンを複製するプロセスを経ることにより作製される。
【0022】
ここで、スタンパの作製方法について以下に説明する。
【0023】
例えば、表面を充分に平滑にしたガラス基板を回転基台に載置し、ガラス基板を所定の回転数で回転した状態で、感光性のフォトレジストをガラス基板上に供給して塗布する。
【0024】
次に、ガラス基板を回転させてフォトレジストを延伸し、全面的にスピンコートした状態とする。
【0025】
次に、記録用レーザ光によりフォトレジストを所定のパターンに露光し、情報信号に対応した潜像を形成する。
【0026】
次に、これを現像液で現像し、露光部又は未露光部を除去する。
【0027】
これにより、ガラス基板上に、フォトレジストの所定の凹凸パターンが形成されてなるレジスト原盤が得られる。
【0028】
さらに、電鋳法等の手法によってレジスト原盤の凹凸パターン上に金属を析出させて凹凸パターンを転写し、これをレジスト原盤から剥離することによりスタンパとする。
【0029】
そして、作製したスタンパを用いて射出成型法等の従来公知の転写方法によって、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂からなる基板を大量に複製し、さらに反射膜、保護膜等を成膜することにより光ディスクが得られる。
【0030】
この光ディスクに記録される情報容量は、如何に高密度でピット又はグルーブを記録できるかによって決定される。
【0031】
すなわち、光ディスクに記録される情報容量は、レジスト層にレーザ光による露光を行って潜像を形成する、いわゆるカッティングにより如何に微細な凹凸パターンを形成できるかによって決定される。
【0032】
例えば、読み取り専用DVD(DVD−ROM)においては、スタンパ上に最短ピット長0.4μm、トラックピッチ0.74μmのピット列がスパイラル状に形成されている。このスタンパを金型として作製された直径12cmの光ディスクの片面に4.7GBの情報容量を持たせている。
【0033】
このような構成の光ディスク作製に必要なレジスト原盤を作製するリソグフィ工程では、波長413nmのレーザと、開口数NAとして0.90前後(例えば0.95)の対物レンズとが用いられている。
【0034】
近年の情報通信及び画像処理技術の急速な発展に伴い、上記したような光ディスクにおいても、現在の数倍にも及ぶ記録容量を達成することが課題とされている。
【0035】
例えば、デジタルビデオディスクの延長線上にある次世代光ディスクにおいては、これまでと同じ信号処理方式により直径12cmの光ディスクの片面に25GBの情報容量を持たせることが要求される。
【0036】
DVDと同じ符号を用いた場合、この要求に応えるためには最短ピット長を0.17μm、トラックピッチを0.32μm程度にまで微細化する必要がある。
【0037】
ところで、光源の波長をλ(μm)とし、対物レンズの開口数をNAとすると、露光される最短ピット長P(μm)は、以下の式(1)で表される。なお、Kは比例定数である。
【0038】
P=K・λ/NA …(1)
ここで、光源の波長λ、対物レンズの開口数NAは光源となるレーザ装置の仕様によって決まる項目であり、比例定数Kはレーザ装置とレジスト層との組み合せで決まる項目である。
【0039】
DVD等の光ディスクを作製する場合には、波長0.413μm、開口数NAを0.90とすると、最短ピット長が0.40μmであるため、上記式(1)より比例定数K=0.87となる。
【0040】
一般的には、上記した極微細ピットの形成は、レーザ波長の短波長化によって達成することが有効とされる。
【0041】
すなわち、片面25GBの高密度光ディスクに要求される最短ピット長0.17μm程度を得るためには、比例定数Kを一定とし、例えばNA=0.95の場合、レーザ波長としてλ=0.18μmの光源が必要である。
【0042】
ここで必要となる波長0.18μmは、次世代半導体リソグラフィ用の光源として開発されている波長193nmのArFレーザよりも短波長である。
【0043】
このような短波長を実現する露光装置は、光源となるレーザのみならずレンズ等の光学部品についても特殊なものが必要となり、非常に高価となる。
【0044】
露光波長λの短波長化と対物レンズの開口数NAの大口径化とによって光学的な解像度を上げて極微細加工する手法は、微細化の進展に伴って既存の露光装置が使用できなくなり高価な露光装置を導入せざるを得ない。そのため、安価なデバイスの供給にはあまり向いていない。
【0045】
そこで、上記の点を考慮して、特許文献1には、遷移金属の不完全酸化物を用いたレジスト材料とそれを用いた微細加工方法が提案されている。
【0046】
一方、光ディスクの更なる高密度化の手段の一つとして、特許文献2には、貴金属酸化物からなるマスク層を用いた媒体が知られている。
【0047】
これは貴金属酸化物からなるマスク層がある温度以上で光学的変化を起こし光を透過させる性質を利用したものである。
【0048】
通常スーパーレンズ方式と呼ばれている。実質的に媒体面上の光スポットを小さくできるものである。
【0049】
図9は、従来のレジスト膜の一例を示す模式断面図である。
【0050】
図9に示すように、基板100上に不完全酸化膜102が形成され、そこに露光することで現像する。
【0051】
現像されたパターンに基づいてエッチングなどの処理をすることで、現像されたパターンを顕在化させる。
【特許文献1】特開2003−315988号公報
【特許文献2】特開2004−310803号公報
【非特許文献1】Jpn. J. Appl. Phys. Vol.30 (1991) pp3246
【非特許文献2】Jpn. J. Appl. Phys. Vol.35 (1996) pp6673
【非特許文献3】SPIE Vol.3424 (1998) pp20
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0052】
ところで、遷移金属の不完全酸化物のレジストを用いた微細加工方法において、露光時に使用するレーザ光の波長が短いほど光のスポットサイズが小さくでき、より微細なパターンが形成できる。
【0053】
しかし、波長が短いレーザは、図5、6及び7に示されるようにArガスレーザを用いた大きな装置であったり、青色レーザダイオードの開発に見られるように赤色レーザダイオードのような大きなパワーが得られない。
【0054】
従来から用いられているArガスレーザを用いた露光装置は、大掛かりな装置でコストが高く、大きな設置スペースが必要であった。
【0055】
また、実質的なパワー密度を大きくするために露光時の基板の回転数、すなわち、被露光レジスト層のレーザ光に対する相対的移動速度(以下、線速と称す)を遅くする必要があり、露光時間が多くかかっていた。
【0056】
また、基板とレジスト層の間に設ける中間層として熱伝導率が小さい材料を用いなければならなかった。
【0057】
そこで、本発明は、安価で大きな出力のレーザパワーが得られる赤色半導体レーザを用いても微細なパターンが露光可能なレジスト材料を提供することを目的とする。
【0058】
また、基板の線速や中間層の材料選定自由度、中間層の膜厚選定自由度等露光時の条件の制約を緩和し、生産効率の高い高精度の微細加工を実現するレジスト材料を提供することも目的とする。
【0059】
さらに、従来用いているArガスレーザを用いた露光装置で更に微細なパターンを形成できるようにすることも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0060】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、半導体装置の製造の際、パターンを形成するために使用されるレジスト膜において、レーザ光の照射によって感光し性質が変化する感光膜と、前記パターンを形成するためのマスク層と、当該マスク層を前記感光膜から剥離するための剥離層と、を有し、前記感光膜は、遷移金属の不完全酸化物からなり、当該不完全酸化物は、酸素の含有量が前記遷移金属のとりうる価数に応じた化学量論組成の酸素含有量より小さい材料であることを特徴とする。
【0061】
本発明は、遷移金属は不完全酸化物からなり、当該不完全酸化物は、酸素の含有量が前記遷移金属のとりうる価数に応じた化学量論組成の酸素含有量より小さい材料である感光膜と、当該マスク層を剥離するための剥離層と、前記パターンを形成するためのマスク層と、を有するレジスト膜を用いた微細加工方法において、基板上に、前記レジスト膜を形成し、当該レジスト膜を選択的に露光することで現像し、所定形状のパターニングをすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0062】
本発明によれば、紫外線又は可視光に対して吸収を示す遷移金属の不完全酸化物のみの場合に比べて、同じ仕様のピット又は溝を形成するための露光光源の波長を長くすることができ露光装置の小型化、低コスト化、生産効率の向上が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための最良の実施の形態を説明する。
【0064】
図1は、本発明の一実施形態としてのレジスト膜の模式断面図である。
【0065】
基板100の上に、不完全酸化物からなる感光膜としてのレジスト層102と、現像工程で使用される現像液に溶解しマスク層を剥離する剥離層103と、その上にマスク層104とが形成されている。
【0066】
露光レーザ光はマスク層側から照射される。
【0067】
本実施形態で使用するレジスト材料は、遷移金属の不完全酸化物である。
【0068】
ここで、遷移金属の不完全酸化物は、遷移金属のとりうる価数に応じた化学量論組成より酸素含有量が少ない方向にずれた化合物のことと定義する。
【0069】
すなわち、遷移金属の不完全酸化物における酸素の含有量が、上記の遷移金属のとりうる価数に応じた化学量論組成の酸素含有量より小さい化合物のことと定義する。
【0070】
例えば、遷移金属の酸化物として化学式MoOを例に挙げて説明する。
【0071】
化学式MoOの酸化状態を組成割合Mo−xOxに換算すると、x=0.75の場合が完全酸化物であるのに対して、0<x<0.75で表される場合に化学量論組成より酸素含有量が不足した不完全酸化物であるといえる。
【0072】
また、遷移金属では一つの元素が価数の異なる酸化物を形成可能なものがあるが、この場合には、遷移金属のとりうる価数に応じた化学量論組成より実際の酸素含有量が不足している場合を本実施形態の範囲内とする。
【0073】
例えば、Moは、3価の酸化物(MoO)が最も安定であるが、その他に1価の酸化物(MoO)も存在する。
【0074】
この場合には組成割合Mo−xOxに換算すると、0<x<0.5の範囲内であるとき化学量論組成より酸素含有量が不足した不完全酸化物であるといえる。
【0075】
このような遷移金属の不完全酸化物は、紫外線又は可視光に対して吸収を示し、紫外線又は可視光を照射されることでその化学的性質が変化する。
【0076】
この結果、無機レジストでありながら現像工程において露光部と未露光部とでエッチング速度に差が生じる、いわゆる選択比が得られる。
【0077】
また、遷移金属の不完全酸化物からなるレジスト材料は、膜粒子サイズが小さいために未露光部と露光部との境界部のパターンが明瞭なものとなり、分解能を高めることができる。
【0078】
ところで、遷移金属の不完全酸化物は、酸化の度合いによってそのレジスト材料としての特性が変化するので、適宜最適な酸化の度合いを選択する。
【0079】
例えば、遷移金属の完全酸化物の化学量論組成より大幅に酸素含有量が少ない不完全酸化物では、露光工程で大きな照射パワーを要したり、現像処理に長時間を有したりする等の不都合を伴う。
【0080】
このため、遷移金属の完全酸化物の化学量論組成より僅かに酸素含有量が少ない不完全酸化物であることが好ましい。
【0081】
レジスト材料を構成する具体的な遷移金属としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Nb、Cu、Ni、Co、Mo、Ta、W、Zr、Ru、Ag等が挙げられる。
【0082】
この中でも、Mo、W、Cr、Fe、Nbを用いることが好ましく、特に、紫外線又は可視光により大きな化学的変化を得られるといった見地からMo、Wを用いることが好ましい。
【0083】
上記レジスト材料は、所定の遷移金属を含んだターゲットを用いたAr+O雰囲気中のスパッタリング法によって作製すればよい。
【0084】
例えば、チャンバー内への導入ガスの全流量に対してOを5〜20%とし、ガス圧は通常のスパッタリングのガス圧(1〜10Pa)とする。
【0085】
しかし、膜表面の平滑性を考慮するとより平滑な表面性が得られる低い圧力でスパッタした方が好ましい。
【0086】
剥離層は、現像時に使用される現像液に溶解する材料が用いられる。
【0087】
また、露光レーザ光の照射により昇温されても変化しない安定な材料が用いられる。
【0088】
例えば、アルカリ現像液としては、テトラメチルアンモニウム水酸化溶液を用いた場合に溶解する酸化アルミニウムや遷移金属の完全酸化物が使用できる。
【0089】
ここでいう完全酸化物は、酸素の含有量が遷移金属のとりうる価数に応じた化学量論組成のものである。
【0090】
剥離層の膜厚は、剥離可能な膜厚であれば十分である。通常20〜50nmが用いられる。あまり厚いと溶解するのに時間がかかるので薄い方が好ましい。
【0091】
マスク層は、貴金属酸化物からなる材料を用いることができる。
【0092】
具体的な貴金属酸化物としては、白金酸化物(PtOx)、金酸化物(AuOx)、銀酸化物(AgOx)、パラジウム酸化物(PdOx)がある。
【0093】
マスク層の厚さは、必要な光スポットの大きさが得られる厚さであればよい。
【0094】
この膜厚は、材料の光学的特性、マスク層として機能する温度等により最適な膜厚が用いられる。具体的には2〜20nmが好ましい。
【0095】
次に、上記のレジスト材料を用いた微細加工方法について説明する。
【0096】
本実施形態の微細加工方法は、例えば、遷移金属の不完全酸化物と剥離層とマスク層からなるレジスト材料を基板上に成膜してレジスト層を形成する工程と、レジスト層に選択的に露光する工程とからなる。
【0097】
以下では、光ディスク用のレジスト原盤のカッティング工程に本実施形態の微細加工方法を適用した例について説明する。
【0098】
もちろん、本実施形態の微細加工方法は以下の例に限定されず、半導体装置、光学デバイス、表示デバイス、磁気デバイス等の様々な電子デバイスの微細加工に応用可能であることは言うまでもない。
【0099】
[レジスト層形成工程]
まず、表面が充分に平滑とされた基板上に、遷移金属の不完全酸化物からなるレジスト層102を成膜する。
【0100】
具体的な成膜方法としては、例えば遷移金属の単体からなるスパッタターゲットを用いて、アルゴン及び酸素雰囲気中でスパッタリング法により成膜を行う方法が挙げられる。
【0101】
この場合には、真空雰囲気中の酸素ガス濃度を変えることにより、遷移金属の不完全酸化物の酸化度合いを制御できる。
【0102】
2種類以上の遷移金属を含む遷移金属の不完全酸化物をスパッタリング法により成膜する場合には、異なる種類のスパッタターゲット上で基板を常に回転させることにより複数種類の遷移金属を混合させる。
【0103】
混合割合は、それぞれのスパッタ投入パワーを変えることにより制御する。
【0104】
また、先に記載した金属ターゲットを用いた酸素雰囲気中のスパッタリング法でレジスト層を成膜できる。
【0105】
これ以外では、予め所望量の酸素を含有する遷移金属の不完全酸化物からなるターゲットを用いて通常のアルゴン雰囲気中でスパッタリングを行うことによっても、遷移金属の不完全酸化物からなるレジスト層を同様に成膜できる。
【0106】
次に剥離層103を成膜する。具体的な成膜方法としては、通常のスパッタリングを用いることにより形成できる。さらに、スパッタリング法の他、蒸着法によっても成膜可能である。
【0107】
マスク層104は、例えばリアクティブスパッタリング法により形成される。
【0108】
例えば、白金酸化物(PtOx)のマスク層50を形成する場合、真空容器内にアルゴン(Ar)及び酸素(O)を注入し、白金をターゲットとしてスパッタリングすれば、白金酸化物(PtOx)のマスク層を形成できる。
【0109】
基板としては、ガラス、ポリカーボネート等のプラスチック、シリコン、アルミナチタンカーバイド、ニッケル等を用いることができる。
【0110】
不完全酸化物のレジスト層102の膜厚は任意に設定可能であるが、例えば10nm〜80nmの範囲内とすることができる。
【0111】
以下の露光工程と現像工程は、特許文献1に開示されているのと同様な方法を採用することができる。
【0112】
[レジスト層露光工程]
次に、レジスト層の成膜が終了したレジスト基板110を、図6に示すような光ディスクドライブの光学系を応用した露光装置のターンテーブル11にレジスト成膜面が上側に配置されるようにセットする。
【0113】
従来の露光工程と同様に、フォーカシングをかけた後、所望の半径位置にターンテーブル11を移動させる。
【0114】
レーザ光を照射すると同時にターンテーブル11を回転させて、レジスト層に対して露光を行う。
【0115】
この露光は、ターンテーブル11を回転させながら、レジスト基板110の半径方向にターンテーブル11を連続的に僅かな距離ずつ移動させる。その結果、微細凹凸の潜像、すなわち記録用ディスクの場合はスパイラル状の案内溝が形成される。
【0116】
また、光ディスクの場合には、微細凹凸の潜像として情報データ用凹凸ピット及び案内溝の蛇行を形成する。
【0117】
また、磁気ハードディスク等の同心円状のトラックが用いられるディスクを作製する際には、ターンテーブル11を連続的ではなくステップ的に送ることにより対応可能である。
【0118】
上記のような設定により、情報データに応じてピット又は案内溝に対応した照射閾値パワーP以上の所望のパワーの照射パルス又は連続光を、レジスト基板1の所望な位置から順次レジスト層に照射し、露光を行う。
【0119】
遷移金属の不完全酸化物と剥離層及びマスク層の積層からなるレジスト材料は、マスク層側から照射されたレーザ光によりマスク層に図7のレジスト付き基板105に示したようにある温度以上の領域で光が透過する開口部が現れる。
【0120】
開口部の大きさはマスク層がない場合の光スポットサイズより小さい。
【0121】
したがって、実質的に従来より小さな光のスポットサイズで露光されることになる。剥離層は露光に使用するレーザ光の波長における吸収がほとんどなく、膜厚も薄く安定な材料を用いているため変化しない。
【0122】
以上の理由により、不完全酸化物の膜のみが照射閾値パワーP以上の紫外線又は可視光の照射によってその化学的性質が変化する。その結果、現像時に用いるアルカリ又は酸に対するエッチング速度が露光部と未露光部とで異なることである、選択比を得ることができる。
【0123】
このとき、照射パワーを低くする程短く且つ狭いピットの形成が可能であるが、極端に照射パワーを低くすると照射閾値パワーに近づくために安定したパターン形成が困難となる。
【0124】
このため、最適な照射パワーを適宜設定して露光する必要がある。
【0125】
また、露光に用いるレーザ光の波長は、所望のピットサイズや溝深さ、溝幅、トラックピッチが得られるように適宜選択する。
【0126】
[レジスト層現像工程]
次に、このようにしてパターン露光されたレジスト基板110を現像することにより、所定の露光パターンに応じたピット又は案内溝の微細凹凸が形成されてなる光ディスク用のレジスト原盤が得られる。
【0127】
現像処理としては、酸又はアルカリ等の液体によるウェットプロセスによって選択比を得ることが可能であり、使用目的、用途、装置設備等によって適宜使い分けることが可能である。
【0128】
ウェットプロセスに用いられるアルカリ現像液としてはテトラメチルアンモニウム水酸化溶液、KOH、NaOH、NaCO等の無機アルカリ水溶液等を用いることができる。酸現像液としては、塩酸、硝酸、硫酸、燐酸等を用いることができる。
【0129】
また、ウェットプロセスの他、プラズマ又は反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching :RIE)と呼ばれるドライプロセスによっても、ガス種及び複数のガスの混合比を調整することにより現像が可能である。
【0130】
現像時に剥離層が現像液に溶解する材料を用いているため、マスク層は剥離層とともに除去される。
【0131】
したがって、パターニングされたレジスト層の現像は従来と同様に可能である。
【0132】
また、露光感度の調整は、基板材料を選択することによっても可能である。
【0133】
石英、シリコン、ガラス及びプラスチック(ポリカーボネート)を基板として用いた場合の露光感度は、基板の種類により異なり、具体的にはシリコン、石英、ガラス、プラスチックの順に感度が高いことが確認された。
【0134】
この順序は、熱伝導率の順に対応しており、熱伝導率が小さい基板ほど露光感度が良好となる結果であった。
【0135】
これは、熱伝導率が小さい基板ほど、露光時の温度上昇が著しいため、温度上昇に伴ってレジスト材料の化学的性質が大きく変化するためと考えられる。
【0136】
図2に示すように露光前処理としては、基板100と不完全酸化物レジスト材料102との間に中間層101を形成する処理、熱処理、紫外線照射する処理などがある。
【0137】
とくに、単結晶シリコンからなるシリコンウエハのように熱伝導率が大きい基板を用いる場合には、中間層101として熱伝導率の比較的低い層を基板上に形成することによって、露光感度を適切に改善することができる。
【0138】
中間層によって露光時のレジスト材料への熱の蓄積が改善されるためである。
【0139】
なお、その中間層を構成する熱伝導率の低いものとして、アモルファスシリコン、二酸化ケイ素(SiO)、窒化シリコン(SiN)などが適している。
【0140】
後工程においてウェットによる現像を行う場合は、現像時に用いる現像液に反応しない材料が好ましい。
【0141】
また、その中間層はスパッタリング法やその他の蒸着法によって形成すればよい。
【0142】
以上説明したように、遷移金属の不完全酸化物と剥離層及びマスク層からなる積層レジスト材料を用いるので、不完全酸化物のみのレジスト層を用いた場合に比べて従来より長い波長の光を用いても従来同様の微細加工が可能である。
【0143】
さらに、従来と同じレーザ波長を用いる場合は、より微細な加工が可能である。
【実施例】
【0144】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果に基づいて説明する。
【0145】
<実施例1>
実施例1では、レジスト材料としてWの3価とMoの3価との不完全酸化物を用いて光ディスク用レジスト原盤を実際に作製した。
【0146】
その製造工程の概略を図8に示す。
【0147】
まず、シリコンウエハを基板100とし、その基板上に、熱酸化法によりアモルファス酸化シリコンからなる中間層101を100nmの膜厚で均一に成膜した。
【0148】
次に、その上にスパッタリング法によりWとMoとの不完全酸化物からなるレジスト層102を均一に成膜した。
【0149】
このとき、WとMoとの不完全酸化物からなるスパッタターゲットを用い、アルゴン雰囲気中でスパッタリングを行った。
【0150】
レジスト層102の膜厚は70nmであった。なお、同一条件で作成されたX線回折用サンプルのX線回折の解析結果より、WMoO不完全酸化物の露光前の結晶状態はアモルファスであることが確認された。
【0151】
次に酸化アルミナターゲットを用いて、アルゴンと酸素の混合ガスによるスパッタリングを行いAlからなる剥離層103を形成した。膜厚は30nmであった。
【0152】
次に、白金をターゲットを用いて、アルゴンと酸素の混合ガスによるスパッタリングを行い白金酸化物(PtOx)からなるマスク層104を形成した。膜厚は5nmであった。
【0153】
レジスト層の成膜が終了したレジスト基板を、図6に示す露光装置のターンテーブル上に載置した。
【0154】
そしてターンテーブル11を所望の回転数で回転させながらフォーカスを合わせた。
【0155】
次に、光学系を固定した状態で、ターンテーブル11の送り機構により所望の半径位置にターンテーブルを移動させ、一定のパワーをレジスト層に照射し、レジスト層を露光する。
【0156】
このとき、ターンテーブルを回転させたままレジスト基板の半径方向にターンテーブルを連続的に僅かな距離にて移動させながら、露光を行う。
【0157】
なお、露光波長を405nmとし、露光光学系の開口数NAを0.95とした。
【0158】
また、露光時の一定線速度を5.0m/sとし、照射DCパワーを6.0mWとした。
【0159】
次に、露光の終了したレジスト基板100を、アルカリ現像液によるウェットプロセスにより現像した。
【0160】
この現像工程では、レジスト基板を現像液に浸したまま、エッチングの均一性を向上させるために超音波を加えた状態で現像を行った。その際、マスク層は剥離層とともに除去された。
【0161】
そして、現像終了後には純水及びイソプロピルアルコールにより充分に洗浄し、エアブロー等で乾燥させてプロセスを終了した。
【0162】
アルカリ現像液としてはテトラメチルアンモニウム水酸化溶液を用い、現像時間は30分とした。
【0163】
これをAFMを用いて評価した。
【0164】
露光エリアが凹となるポジタイプのレジストであった。
【0165】
形成された溝は、トラックピッチ280nm、深さ50nmであった。
【0166】
なお、以上のように作成された原盤から光ディスクスタンパー及び基板を作成する方法は、周知の技術を用いればできる。
【0167】
<実施例2>
本実施例では、実施例1において、露光装置として図5、6及び7に示すような露光装置を用いて露光レーザ波長を351nmとし、剥離層に遷移金属の完全酸化物を用いた。それ以外は、実施例1と同様な構成、方法でレジスト膜形成、露光、現像の処理を行った。
【0168】
露光時の一定線速度を1.0m/sとし、照射DCパワーを1.0mWとした。
【0169】
AFMを用いて評価した。露光エリアが凹となるポジタイプのレジストであった。形成された溝は、トラックピッチ230nm、深さ50nmであった。
【0170】
<実施例3>
実施例1において、露光装置のレーザ波長を635nmとした以外は、実施例1と同様な構成、方法でレジスト膜形成、露光、現像の処理を行った。
【0171】
AFMを用いて評価した。露光エリアが凹となるポジタイプのレジストであった。形成された溝は、トラックピッチ420nm、深さ50nmであった。
【0172】
<比較例1>
実施例1において、剥離層及びマスク層を形成しない以外は実施例1と同様な構成のレジスト層を形成した。
【0173】
それを実施例1と同様な露光条件で露光し、現像した。AFMによる評価を行ったが、トラックピッチ320nmの溝は形成されていたが、280nm溝は形成されていなかった。
【0174】
<比較例2>
実施例2において、剥離層及びマスク層を形成しない以外は実施例2と同様な構成のレジスト層を形成した。
【0175】
それを実施例2と同様な露光条件で露光し、現像した。
【0176】
AFMによる評価を行ったが、トラックピッチ280nmの溝は形成されていたが、230nmの溝は形成されていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本発明は、安価で大きな出力のレーザパワーが得られる赤色半導体レーザを用いる微細加工の分野において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0178】
【図1】本発明の一実施形態としてのレジスト膜の模式断面図である。
【図2】本発明の一実施形態としての基板とレジスト層の間に中間層を設けた模式断面図である。
【図3】本発明の一実施形態としての微細加工に用いられる露光装置の模式図である。
【図4】本発明の一実施形態としての微細加工に用いられる露光装置の光学系を表す模式図である。
【図5】本発明の一実施形態としての微細加工に用いられる露光装置の移動光学台の構成を表す模式図である。
【図6】本発明の一実施形態としての微細加工に用いられる別の露光装置の模式図である。
【図7】本発明の一実施形態として、露光時におけるマスク層に形成される開口部の状態を表す模式図である。
【図8】本発明の一実施形態としての微細加工を適用した光ディスクの原盤製造工程を表す模式図である。
【図9】従来のレジスト膜の模式断面図である。
【符号の説明】
【0179】
1 レーザ光源
11 ターンテーブル
52 落射ミラー
100 基板
101 中間層
102 レジスト層
103 剥離層
104 マスク層
105 マスク層開口部
200 ビーム発生源
201 コリメータレンズ
202 ビームスプリッタ
203 対物レンズ
204 集光レンズ
205 分割フォトディテクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置の製造の際、パターンを形成するために使用されるレジスト膜において、
レーザ光の照射によって感光し性質が変化する感光膜と、前記パターンを形成するためのマスク層と、当該マスク層を前記感光膜から剥離するための剥離層と、を有し、
前記感光膜は、遷移金属の不完全酸化物からなり、
当該不完全酸化物は、酸素の含有量が前記遷移金属のとりうる価数に応じた化学量論組成の酸素含有量より小さい材料であることを特徴とするレジスト膜。
【請求項2】
前記感光膜の材料である遷移金属は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Nb、Cu、Ni、Co、Mo、Ta、W、Zr、Ru、Agのうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載のレジスト膜。
【請求項3】
前記感光膜の材料である遷移金属の不完全酸化物が3価の酸化物であり、当該遷移金属の不完全酸化物を組成割合A1−xOx(ただし、Aは遷移金属である。)で表したとき、0.1<x<0.75であり、前記完全酸化物が3価の酸化物であることを特徴とする請求項2記載のレジスト膜。
【請求項4】
前記感光膜の材料である遷移金属は、Mo又はWであることを特徴とする請求項3記載のレジスト膜。
【請求項5】
遷移金属は不完全酸化物からなり、当該不完全酸化物は、酸素の含有量が前記遷移金属のとりうる価数に応じた化学量論組成の酸素含有量より小さい材料である感光膜と、当該マスク層を剥離するための剥離層と、前記パターンを形成するためのマスク層と、を有するレジスト膜を用いた微細加工方法において、
基板上に、前記レジスト膜を形成し、
当該レジスト膜を選択的に露光することで現像し、
所定形状のパターニングをすることを特徴とする微細加工方法。
【請求項6】
前記基板と前記感光膜との間に、前記基板よりも熱伝導率の小さい中間層を形成することを特徴とする請求項5記載の微細加工方法。
【請求項7】
前記中間層は、アモルファスシリコン、二酸化珪素、窒化シリコン、アルミナのうち一種からなる薄膜であることを特徴とする請求項6記載の微細加工方法。
【請求項8】
スパッタリング法又は蒸着法により、前記感光膜を形成することを特徴とする請求項7記載の微細加工方法。
【請求項9】
前記スパッタリング法は、遷移金属からなるターゲットを用いて行い、酸素含有雰囲気中で行われることを特徴とする請求項8記載の微細加工方法。
【請求項10】
前記遷移金属は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Nb、Cu、Ni、Co、Mo、Ta、W、Zr、Ru、Agのうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項9記載の微細加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−212655(P2007−212655A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31152(P2006−31152)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】