説明

レドックスフロー電池

【課題】高い起電力が得られるレドックスフロー電池を提供する。
【解決手段】電極を備える電池要素に、正極電解液および負極電解液を供給して充放電を行なうレドックスフロー電池である。このレドックスフロー電池は、正極活物質としてMnイオンを含む正極電解液、および負極活物質としてTiイオンを含む負極電解液の少なくとも一方を有し、MnイオンまたはTiイオンを含む電解液を貯留するタンク(正極用タンク106)内の電解液を撹拌する撹拌機構1と、その撹拌機構1の動作を制御する制御手段9と、を備える。撹拌機構1を備えることで、電解液において充電状態にある活物質イオンと放電状態にある活物質イオンの偏りを解消することができ、レドックスフロー電池による効率的な充放電を行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い起電力が得られるレドックスフロー電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、地球温暖化への対策として、太陽光発電、風力発電といった新エネルギーの導入が世界的に推進されている。これらの発電出力は、天候に影響されるため、大量に導入が進むと、周波数や電圧の維持が困難になるといった電力系統の運用に際しての問題が予測されている。この問題の対策の一つとして、大容量の蓄電池を設置して、出力変動の平滑化、余剰電力の貯蓄、負荷平準化などを図ることが期待される。
【0003】
大容量の蓄電池の一つにレドックスフロー電池がある。レドックスフロー電池は、正極電極と負極電極との間に隔膜を介在させた電池要素に正極電解液及び負極電解液をそれぞれ供給して充放電を行なう。上記電解液は、代表的には、酸化還元により価数が変化する金属イオンを含有する水溶液が利用される。正極に鉄イオン、負極にCrイオンを用いる鉄−クロム系レドックスフロー電池の他、正極及び負極の両極にVイオンを用いるバナジウム系レドックスフロー電池が代表的である(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−147374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バナジウム系レドックスフロー電池は、実用化されており、今後も使用が期待される。しかし、従来の鉄−クロム系レドックスフロー電池やバナジウム系レドックスフロー電池では、起電力が十分に高いとは言えない。今後の世界的な需要に対応するためには、更に高い起電力を有し、かつ、活物質に用いる金属イオンを安定して供給可能な、好ましくは安定して安価に供給可能な新たなレドックスフロー電池の開発が望まれる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、高い起電力が得られるレドックスフロー電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
起電力を向上するためには、標準酸化還元電位が高い金属イオンを活物質に用いることが考えられる。従来のレドックスフロー電池に利用されている正極活物質の金属イオンの標準酸化還元電位は、Fe2+/Fe3+が0.77V、V4+/V5+が1.0Vである。本発明者らは、正極活物質となる金属イオン(活物質イオン)として、水溶性の金属イオンであり、従来の金属イオンよりも標準酸化還元電位が高く、バナジウムよりも比較的安価で、資源供給面においても優れると考えられるマンガン(Mn)を用いたレドックスフロー電池を検討した。Mn2+/Mn3+の標準酸化還元電位は、1.51Vであり、Mnイオンは、起電力がより大きなレドックス対を構成するための好ましい特性を有する。また、本発明者らは、負極活物質となる金属イオンとしてチタン(Ti)に着目し、そのTiを用いたレドックスフロー電池を検討した。Ti4+/Ti3+の標準酸化還元電位は、0Vであり、このチタンも起電力がより高いレドックス対を構成するための好ましい特性を有する。特に、正極活物質としてMnイオンを、負極活物質としてTiイオンを用いたレドックスフロー電池は、今までにない高い起電力を得ることができるレドックスフロー電池として期待される。
【0008】
ここで、本発明者らがさらに検討した結果、正極活物質としてMnイオンを用いたレドックスフロー電池、あるいは負極活物質としてTiイオンを用いたレドックスフロー電池では、充放電を繰り返すうちに充電不足あるいは放電不足を引き起こす場合があることがわかった。
【0009】
まず、正極活物質としてMnイオンを採用したレドックスフロー電池では、正極用電解液中でMnイオン(活物質イオン)の濃度分布に偏りが生じることがわかった。放電時の酸化状態であるMn2+に比べて充電時の酸化状態であるMn3+の比重が大きいため、正極用タンクの下部側ではMn3+濃度がMn2+に比べて高い電解液(充電状態の電解液)があり、上部側ではMn2+濃度がMn3+に比べて高い電解液(放電状態の電解液)がある2層状態となり易い。そのため、正極用タンクの下部から電池要素に送液する構成を採用した場合、充電状態にある電解液を常に電池要素に送液することになるので、レドックスフロー電池に十分に充電させることができなくなる恐れがある。最悪の場合、充電時に過電圧となったり、活物質の析出が生じたりする恐れがある。
【0010】
一方、負極活物質としてTiイオン(活物質イオン)を採用したレドックスフロー電池では、Mn系の正極用タンクと反対に、負極用タンクの上部側に充電状態の電解液があり、下部側に放電状態の電解液がある2層状態となり易い。これは、放電時の酸化状態であるTi4+に比べて充電時の酸化状態であるTi3+の比重が小さいためである。このような場合、負極用タンクの下部から電池要素に送液する構成とすると、放電状態にある電解液を常に電池要素に送液することになるので、レドックスフロー電池から十分に放電させることができなくなる恐れがある。
【0011】
以上説明した検討・知見に基づき、本発明を以下に規定する。
【0012】
本発明レドックスフロー電池は、正極電極と、負極電極と、これら電極間に介在される隔膜と、を備える電池要素に、正極電解液および負極電解液を供給して充放電を行なうレドックスフロー電池であって、正極活物質としてMnイオンを含む正極電解液、および負極活物質としてTiイオンを含む負極電解液の少なくとも一方を有する。そして、本発明レドックスフロー電池は、MnイオンまたはTiイオンを含む電解液を貯留するタンク内の電解液を撹拌する撹拌機構と、その撹拌機構の動作を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
ここで、本発明レドックスフロー電池では、正極電解液と負極電解液の構成に応じて撹拌機構の設置状態が異なる。具体的には、次の3つである。
[1]正極電解液が正極活物質としてMnイオンを含有し、負極電解液はTiイオンを含有しない場合、撹拌機構は正極電解液を貯留する正極用タンクに設ける。もちろん、負極電解液を貯留する負極用タンクにも撹拌機構を設けても構わない。
[2]負極電解液が負極活物質としてTiイオンを含有し、正極電解液はMnイオンを含有しない場合、撹拌機構は負極用タンクに設ける。もちろん、正極用タンクにも撹拌機構を設けても構わない。
[3]正極電解液がMnイオンを含有し、負極電解液がTiイオンを含有する場合、撹拌機構は正極用タンクと負極用タンクの両方に設ける。
【0014】
上記構成を備える本発明レドックスフロー電池によれば、充放電に伴ってタンク中の電解液において活物質イオンの分布が不均一になった場合でも、その分布を速やかに均一化することができる。撹拌のタイミングは、充放電のために電池要素に電解液を送液する前からとすると良く、少なくとも充放電のための電解液の送液を終えるまでの間、撹拌を継続することが好ましい。そうすることで、活物質としてMnイオンおよびTiイオンの少なくとも一方を用いたレドックスフロー電池における充電不足あるいは放電不足といった問題を生じ難くすることができる。
【0015】
以下、本発明レドックスフロー電池の好ましい形態について説明する。
【0016】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、撹拌機構は、導入配管とガス供給機構とを備える構成とすることが挙げられる。導入配管は、タンク外からタンク内に導入され、そのタンク内に貯留される電解液中に開口する配管である。また、ガス供給機構は、導入配管を介してタンク内に不活性ガスを供給する機構である。
【0017】
上記構成によれば、電解液を不活性ガスでバブリングすることで、電解液を撹拌することができる。より効率的なバブリングを行なうのであれば、後述する実施形態1に示すように、導入配管の側壁部分のうち、電解液中に配置される部分に複数の気孔を設けておくと良い。
【0018】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、撹拌機構は、タンク内の電解液中で回転または揺動して、電解液を撹拌する撹拌部材を備える構成とすることが挙げられる。
【0019】
上記構成によれば、撹拌部材の動きによって電解液に対流を生じさせ、タンク中の電解液を効果的に撹拌することができる。
【0020】
上記撹拌部材を備える本発明レドックスフロー電池の一形態として、撹拌部材は、電磁力により動作する構成とすることが挙げられる。その場合、撹拌部材として、永久磁石を樹脂でコートした物を用いると良い。そして、この樹脂コート磁石をタンク外からの電磁力により回転あるいは振動させると良い。これは、いわゆるマグネティックスターラーと同じ構成である。
【0021】
例えば、回転軸の先端にプロペラの付いた撹拌部材で電解液を撹拌する構成とした場合、タンクに孔を開けてその孔に回転軸を通した上で、孔と回転軸との間をシールする必要がある。これに対して、電磁力で撹拌部材を動作させる構成であれば、タンクに孔を開ける必要がなく、従ってシールの必要もない。
【0022】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、撹拌機構は、撹拌用配管と、送液ポンプとを備える構成とすることが挙げられる。撹拌用配管は、その一端がタンク内の液相に開口し、他端が同じタンク内の液相もしくは気相に開口する配管である。また、送液ポンプは、撹拌用配管の一端側から他端側に向かって電解液を送り出すポンプである。
【0023】
上記構成とすることで、タンク内の電解液に大きな対流を生じさせることができ、タンク内の電解液を効率的かつ効果的に撹拌することができる。
【0024】
撹拌用配管と送液ポンプとを備える本発明レドックスフロー電池の一形態として、撹拌用配管の途中に、電解液の温度調整をする温度調整機構を設けても良い。
【0025】
基本的に、本発明レドックスフロー電池では、充放電を行なう前に撹拌機構を動作させる。そのため、撹拌用配管の途中に温度調整機構を設けておけば、レドックスフロー電池の充放電の際に、効率的に電解液を充放電に適した温度に調整することができる。また、撹拌機構を動作させないときに温度調整機構を動作させる無駄を無くすことができるため、レドックスフロー電池のランニングコストを低減させることができる。
【0026】
撹拌用配管と送液ポンプとを備える本発明レドックスフロー電池の一形態として、撹拌用配管の途中に、電解液中の不純物および析出物を除去するフィルターを備える構成とすることが挙げられる。
【0027】
撹拌用配管にフィルターを設けることで、電解液を撹拌しつつ電解液をフィルターにかけることができる。そのため、フィルターへの送液のための別ポンプが不要となることから、レドックスフロー電池の設備コストやランニングコストの低減が可能となる。
【0028】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、正極電解液と負極電解液に含まれる金属イオン種が共通であり、正極電解液を貯留する正極用タンクの液相と、負極電解液を貯留する負極用タンクの液相と、を連通する液相連通管を備える構成とすることが挙げられる。この場合、負極用タンク側にある液相連通管の一端は、負極用タンクの底部寄りの位置に開口させ、正極用タンク側にある液相連通管の他端は、上記一端よりも高い位置で、かつ正極用タンク中の電解液の液面寄りの位置に開口させることが好ましい。
【0029】
正・負電解液の金属イオン種を共通とする場合、即ちMnイオンとTiイオンを含有する電解液を、正極電解液と負極電解液として利用する場合、両電解液を混合することでレドックスフロー電池を速やかに自己放電させ、電池容量の回復を図ることができる。ここで、活物質としてMnイオンを含有する正極用タンクでは上部側に放電状態の電解液が、活物質としてTiイオンを含有する負極用タンクでは下部側に放電状態の電解液が偏る傾向にある。そのため、正・負電解液を自己放電させるときに、正極用タンクの上部側にある放電状態の電解液と負極用タンクの下部側にある放電状態の電解液とを混合すれば、自己放電を速やかに行なうことができる。
【0030】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、制御手段は、予め定められたスケジュールに従って前記撹拌機構を間欠的に動作させる構成とすることが挙げられる。
【0031】
撹拌機構を常に動作させておくのは非効率的である。これに対して、撹拌機構を間欠的に運転することで、レドックスフロー電池のランニングコストを下げることができる。撹拌機構をスケジュール通りに運転できるのは、通常のレドックスフロー電池ではその運転スケジュールもある程度決まったものである場合が多いからである。例えば、負荷平準化のためにレドックスフロー電池を設ける場合、そのレドックスフロー電池は、夜間に充電し、昼間の電力需要が高い時間帯に放電するというような決まった運転スケジュールで運転されることが多い。このように運転スケジュールが決まっていれば、その運転スケジュールに合わせて電解液を撹拌するスケジュールも容易に決めることができる。
【0032】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、タンク内における電解液中の活物質イオンの分布状態を検知する検知機構を備える構成とすることが挙げられる。その場合、制御手段は、検知機構の検知結果に基づいて撹拌機構を制御すると良い。
【0033】
検知結果に基づいて撹拌機構を運転する、つまり電解液における活物質イオンの濃度分布が不均一になったときに撹拌機構を動作させることで、レドックスフロー電池のランニングコストを効果的に低減することができる。ここで、検知機構としては、図4(A)を参照する後述の実施形態3に示すように、電解液の透明度(あるいは色度)を検知して活物質イオンの濃度分布を検知する検知機構を挙げることができる。電解液の透明度を検知の対象とできるのは、Mnイオンを含む電解液もTiイオンを含む電解液も、イオンの酸化数の違いにより透明度に差ができるからである。その他、電解液を実際にサンプリングして活物質イオンの濃度分布を検知するものを採用しても良い。
【発明の効果】
【0034】
本発明レドックスフロー電池は、高起電力で、かつ安定した充放電特性を有するレドックスフロー電池である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】各実施形態に共通するレドックスフロー電池の基本構成の概略構成図である。
【図2】タンク内に不活性ガスを導入することでタンク内の電解液を撹拌する実施形態1に記載される撹拌機構の概略構成図である。
【図3】(A)〜(C)は、タンク内の電解液に対流を起こさせることで電解液を撹拌する実施形態2に記載される撹拌機構の概略構成図である。
【図4】(A)〜(B)は、タンク内の電解液を一旦外部に取り出して、再びタンク内に戻すことで電解液を撹拌する実施形態3に記載される撹拌機構の概略構成図である。
【図5】実施形態4に記載される正極用タンクの液相と負極用タンクの液相を繋ぐ液相連通管の配置状態を説明する概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明レドックスフロー電池の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態のレドックスフロー電池に備わる構成の大部分は共通するため、その共通する構成を図1に基づいて説明する。その後、各実施形態に固有の構成についてそれぞれ図面を参照しつつ説明する。
【0037】
<レドックスフロー電池の共通構成>
図1は、各実施形態のレドックスフロー電池(以下、RF電池)100のうち、共通する構成を有する部分を示す概略構成図である。このRF電池100は、正極活物質としてMnイオン、負極活物質としてTiイオンを用いた点が、従来のレドックスフロー電池と異なる。図1における実線矢印は、充電、破線矢印は、放電を意味する。なお、図1に示す活物質イオンは代表的な形態を示しており、図示される以外の形態も含み得る。例えば、図1では、4価のTiイオンとしてTi4+を示すが、TiO2+などのその他の形態も含み得る。
【0038】
図1のRF電池100は、代表的には、交流/直流変換器を介して、発電部(例えば、太陽光発電機、風力発電機、その他、一般の発電所など)や変電設備を含む電力系統に接続され、発電部を電力供給源として充電を行い、負荷を電力提供対象として放電を行なう。このRF電池100は、従来のRF電池と同様に、電池要素100cと、この電池要素100cに電解液を循環させる循環機構(タンク、配管、ポンプ)とを備える。
【0039】
[電池要素と循環機構]
RF電池100に備わる電池要素100cは、正極電極104を内蔵する正極セル102と、負極電極105を内蔵する負極セル103と、両セル102,103を分離すると共にイオンを透過する隔膜101と、を備える。正極セル102には、正極電解液を貯留する正極用タンク106が配管108,110を介して接続される。負極セル103には、負極電解液用を貯留する負極用タンク107が配管109,111を介して接続される。配管108,109には、各極の電解液を循環させるためのポンプ112,113を備える。電池要素100cは、配管108〜111、ポンプ112,113を利用して、正極セル102(正極電極104)、負極セル103(負極電極105)にそれぞれ正極用タンク106の正極電解液、負極用タンク107の負極電解液を循環供給して、各極の電解液中の活物質となる活物質イオン(正極にあってはMnイオン、負極にあってはTiイオン)の価数変化反応に伴って充放電を行なう。
【0040】
電池要素100cは通常、複数積層されたセルスタックと呼ばれる形態で利用される。電池要素100cを構成するセル102,103は、一面に正極電極104、他面に負極電極105が配置される双極板(図示せず)と、電解液を供給する給液孔及び電解液を排出する排液孔を有し、かつ上記双極板の外周に形成される枠体(図示せず)とを備えるセルフレームを用いた構成が代表的である。複数のセルフレームを積層することで、上記給液孔及び排液孔は電解液の流路を構成し、この流路は配管108〜111に接続される。セルスタックは、セルフレーム、正極電極104、隔膜101、負極電極105、セルフレーム、…と順に繰り返し積層されて構成される。
【0041】
[電解液]
本実施形態のRF電池100に用いられる正負の電解液には、MnイオンとTiイオンを含有する共通のものを使用している。正極側にあってはMnイオンが正極活物質として働き、負極側にあってはTiイオンが負極活物質として働く。また、正極側におけるTiイオンは、理由は不明ではあるが、MnOの析出を抑制する。Mnイオン及びTiイオンの各濃度はいずれも0.3M以上5M以下とすることが好ましい。
【0042】
本実施形態のように、正負の電解液に共通の電解液を用いることで、次の3つの効果を奏することができる。
(1)活物質イオンが電池要素の隔膜を介して対極に移動して、各極で本来反応する活物質イオンが相対的に減少することによる電池容量の減少現象を効果的に回避できる。
(2)充放電に伴って経時的に液移り(一方の極の電解液が隔膜を介して他方の極に移動する現象)が生じて両極の電解液の液量やイオン濃度にばらつきが生じた場合でも、両極の電解液を混合するなどして、上記ばらつきを容易に是正できる。
(3)正負個別に専用の電解液を作製する必要がなく、電解液の製造性に優れる。
【0043】
電解液の溶媒としては、HSO、KSO、NaSO、HPO、H、KPO、NaPO、KPO、HNO、KNO、及びNaNOから選択される少なくとも一種の水溶液を利用することができる。
【0044】
[その他]
図示しないが、RF電池100は、電池容量を監視するモニタセルを備えていても良い。モニタセルは基本的に電池要素100cと同一の構成を備える電池要素100cよりも小型の単セルであり、正極用タンク106と負極用タンク107から正負の電解液の供給を受けて、電池要素100cと同様に起電力を生じる。その開路電圧からRF電池100の電池容量を知ることができる。
【0045】
<実施形態1>
図1を参照したRF電池100は、さらに正極用タンク106と負極用タンク107に、各タンク106,107内に貯留される電解液を撹拌するための構成を備える。以下、本実施形態の撹拌機構の構成を図2に基づいて説明する。なお、図2では、正極用タンク106と、そのタンク106に設けられる撹拌機構1のみを図示する。具体的に図示しないが、負極用タンク107(図1参照)にも同様の構成が設けられていると考えて良い。
【0046】
図2に示す本実施形態には、正極用タンク106内の電解液を撹拌するための撹拌機構1と、その撹拌機構1を制御する制御機構9とを備える。
【0047】
[撹拌機構]
撹拌機構1は、正極用タンク106の内外に連通する導入配管11と、導入配管11を介して正極用タンク106内に不活性ガスを供給するガス供給機構12と、を備える。これらの構成のうち、導入配管11は、電解液により腐食され難いPVCや、PE、フッ素樹脂などからなる配管である。電解液中の導入配管11は、不活性ガスの導入により正極用タンク106の上下方向(深さ方向)に電解液を対流させることができるように配置されることが好ましい。この導入配管11の側壁には複数の気孔11hが形成されており、ガス供給機構12から送り込まれる不活性ガスを、導入配管11の端部開口部からだけでなく気孔11hからも噴射できるようになっている。なお、導入配管11の断面形状は特に限定されず、例えば円形であっても良いし、多角形であっても良い。
【0048】
一方、ガス供給機構12は、代表的には不活性ガスを貯留するガスボンベと、ガスボンベから導入配管11に不活性ガスを圧送するポンプとで構成することができる。不活性ガスとしては、例えば、ヘリウムやアルゴン、窒素などを挙げることができる。
【0049】
[制御機構]
制御機構9は、撹拌機構1の供給機構12を制御して、正極用タンク106への不活性ガスの吹き込み量を調節する機構であって、例えば、コンピューターなどで構成することができる。RF電池100の充放電動作を制御するコンピューターに制御機構9を兼任させても良い。なお、この制御機構9は、負極用タンクにおける撹拌機構にも繋がっており、その撹拌機構も制御する。
【0050】
制御機構9は、予め定められたスケジュールに従って撹拌機構1の動作を制御するように構成すれば良い。その場合、RF電池100の充放電スケジュールに応じて撹拌機構1の動作スケジュールを決定することが好ましい。例えば、夜間の特定時間帯に充電し、電力需要が高い昼間の特定時間帯に放電するといった充放電スケジュールであれば、充電(放電)を始める少し前から撹拌機構1の運転を開始し、充電(放電)を終了すれば撹拌機構1の運転も停止する、といった動作スケジュールで撹拌機構1を制御すると良い。その他、後述する実施形態3に例示するように、正極用タンク106内の電解液の状態を検知して、その検知結果に基づいて撹拌機構1を制御しても良い。
【0051】
以上説明した実施形態1の構成によれば、RF電池100の充放電にあたり、電解液における活物質イオン(正極用タンク106においてはMnイオン、負極用タンク107においてはTiイオン)の濃度を均一にすることができる。その結果、健全な状態でRF電池100の運転を行なうことができる。
【0052】
<実施形態2>
実施形態2では、実施形態1とは異なり、電解液に正極用タンク106の上下方向の対流を生じさせることで電解液を撹拌する撹拌機構を備えるRF電池100を図3に基づいて説明する。
【0053】
まず、図3(A)に示す撹拌機構2は、回転軸の先端にプロペラを有する撹拌部材21と、回転軸を軸周りに回転させるモーター22とを備える。このような構成によれば、正極用タンク106内の電解液に非常に強い対流を生じさせることができ、迅速かつ効果的に電解液を撹拌することができる。
【0054】
次に、図3(B)に示す撹拌機構3は、いわゆるマグネティックスターラーと同じ構成を備える。具体的には、スターラー・バー(撹拌部材)31と、スターラー・バー31を回転させる電磁力を発生させるスターラー本体32とを備える。このような構成によれば、正極用タンク106に孔を開けることなくスターラー・バー31を動作させることができる。スターラー・バー31は、磁石の外周をテフロン(登録商標)などで被覆したものを使用することができる。このスターラー・バー31の形状は特に限定されず、例えば、一般的な繭型のものであっても良いし、八角棒状のものであっても良いし、風車の羽根状のものであっても良い。なお、回転ではなく振動により電解液を撹拌するマグネティックスターラーであっても良い。
【0055】
最後に、図3(C)に示す撹拌機構4は、正極用タンク106内の電解液に浸漬させた水中ポンプ(撹拌部材)41と、その水中ポンプ41に電力を供給して水中ポンプ41を動作させる電源装置42とを備える。この構成によれば、図3(A),(B)の構成よりも強い対流を発生させることができる。
【0056】
<実施形態3>
実施形態3では、実施形態1,2とは異なり、電解液を一旦、正極用タンク106外に取り出し、再び正極用タンク106に戻すことで電解液を撹拌する撹拌機構5を備えるRF電池100を図4に基づいて説明する。
【0057】
図4(A),(B)に示すように、撹拌機構5は、往路配管(撹拌用配管)51と、復路配管(撹拌用配管)52と、送液ポンプ53と、を備える。往路配管51は正極用タンク106の液相に開口し、復路配管52は正極用タンク106の気相(液相でも可)に開口する。また、ポンプ53は、両配管51,52の間に設けられ、電解液を正極用タンク106内から往路配管51を介して復路配管52に送り出す。なお、上記構成に加えて図4(A)では正極用タンク106内における電解液のMnイオンの分布を確認する構成を、図4(B)では電解液の温度調整を行なう構成を備えるが、これらの構成については後述する。
【0058】
上記構成の撹拌機構5によれば、正極用タンク106→往路配管51→復路配管52→正極用タンク106となる電解液の流れを作ることができ、電解液を効果的に撹拌することができる。
【0059】
[Mnイオンの分布を確認する構成]
正極用タンク106内の電解液のMnイオンに常に偏りがあるわけではないので、上記構成を常時動作させることは、非効率的である。そこで、当該偏りを検知し、その検知結果に基づいて電解液の撹拌の必要性を判断して撹拌機構5を動作させることが好ましい。例えば、図4(A)に示す構成では、当該偏りを検知する構成として、復路配管52(往路配管51でも可)に電解液の透明度を確認できる透明な窓部52wを形成している。
【0060】
ここで、Mn3+の溶液は有色、Mn2+の溶液はほぼ無色透明であり、電解液におけるMn3+が支配的になれば電解液の透明度は低くなり、逆にMn2+が支配的になれば電解液の透明度は高くなる。つまり、RF電池100を放電して正極用タンク106内でMn2+が支配的になっているはずであるのに、窓部52wから確認できる電解液の透明度が低い場合、正極用タンク106内で電解液中のMnイオンの分布に偏りが生じていると判断できる。ここで、負極用タンク107(図1参照)においても、図4(A)の構成と同様の構成により、電解液の透明度から電解液の撹拌の必要性を判断することができる。電解液においてTi3+が支配的になれば電解液の透明度は低くなり、Ti4+が支配的になれば電解液の透明度は高くなるからである。
【0061】
電解液の透明度の確認は、目視にて確認しても良いし、例えば光学的センサにより自動で確認しても良い。前者の場合、目視にて電解液の透明度を確認して作業者が制御機構9を操作してポンプ53の出力を調整すると良い。後者の場合、光学的センサの検知結果に基づいて制御機構9がポンプ53の出力を自動で調整すると良い。
【0062】
なお、窓部52wを用いた電解液のMnイオンの偏りを検知する構成は、復路配管52や往路配管51に限定されるわけではない。例えば、正極用タンク106の底部寄りの位置に窓部を形成しても良いし、正極用タンク106内の電解液の液面寄りの位置に窓部を形成しても良いし、あるいは両方の位置に窓部を形成しても良い。正極用タンク106に設ける場合、実施形態1や2の構成に適用することもできる。
【0063】
電解液の透明度を参照する構成の他、正極用タンク106内から電解液を取り出して、電解液のMnイオンの偏りを検知する構成を採用しても良い。例えば、正極用タンク106の底部寄りの位置と、液面寄りの位置とから電解液を別々の容器に取り出し、それら電解液の間の電位差が閾値を超える場合、電解液の撹拌が必要であると判断する構成を挙げることができる。
【0064】
[電解液の温度調整を行なう構成]
図4(B)では、復路配管52(往路配管51でも可)に電解液の温度調整を行なう温度調整機構8、例えば熱交換器を設けている。この構成によれば、電解液を撹拌する際、電解液の温度を同時に調整することできる。そもそも、本発明の構成では、RF電池100の充放電を行なう前に電解液の撹拌操作を行なうため、そのときに電解液の温度調整をすることが効率的である。
【0065】
[その他]
撹拌用配管51,52の内部に、電解液中の不純物および析出物を除去するフィルターを設けても良い。フィルターを設けることで送液ポンプ53の負荷を低減することができる。フィルターの材質としては、例えば電解液により腐食されないプラスチック(PVCや、PE、フッ素樹脂など)メッシュや、カーボンメッシュなどを用いることができる。また、フィルターの孔径は0.1〜100μmとすることが好ましい。
【0066】
<実施形態4>
実施形態4では、図5に基づいて、実施形態1〜3の構成にさらに正極用タンク106の液相と負極用タンク107の液相とを連通する液相連通管7を備えるRF電池100を説明する。なお、図5は、正極用タンク106,負極用タンク107と液相連通管7の接続状態のみを示す簡易的な図面である。
【0067】
[液相連通管]
液相連通管7は、正極用タンク106の液相と、負極用タンク107の液相と、を連通する配管である。より具体的には、負極用タンク107側にある液相連通管7の一端は、負極用タンク107の底部寄りの位置に開口し、正極用タンク106側にある液相連通管7の他端は、上記一端よりも高い位置で、かつ正極用タンク106中の電解液の液面寄りの位置に開口している。この液相連通管7を設けることで、両タンク106,107内の電解液を混合させることができる。また、液相連通管7の途中にはバルブ7bが形成されており、必要に応じて正極用タンク106と負極用タンク107との連通・非連通を切り換えることができるようになっている。
【0068】
上記液相連通管7は、RF電池100の電池容量を回復させるために設けられるものである。液相連通管7を開放することで、正負の電解液が混ざり合い、RF電池100は速やかに放電状態となる。ここで、既に述べたように、正極用タンク106では、放電時の酸化状態であるMn2+が当該タンク106の上層側に偏っており、負極用タンク107では、放電時の酸化状態であるTi4+が当該タンク107の下層側に偏っている。そのため、正極用タンク106の上方と、負極用タンク107の下方とを繋ぐ液相連通管7によれば、単に水平にタンク106,107間を繋ぐ液相連通管よりも効率的かつ確実にRF電池100を放電状態とすることができる。なお、液相連通管7を開放して所定時間経過した後、撹拌機構を動作させると、RF電池100をより確実に放電状態とすることができる。
【0069】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。例えば、正極電解液と負極電解液の組成を異ならせても良い。正極電解液がMnイオンを含有し、負極電解液がTiイオンを含有しない場合、実施形態で説明した構成を正極用タンクにのみ設ければ良い。また、負極電解液がTiイオンを含有し、正極電解液がMnイオンを含有しない場合、実施形態で説明した構成を負極用タンクにのみ設ければ良い。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明レドックスフロー電池は、太陽光発電、風力発電などの新エネルギーの発電に対して、発電出力の変動の安定化、発電電力の余剰時の蓄電、負荷平準化などを目的とした大容量の蓄電池に好適に利用することができる。その他、本発明レドックスフロー電池は、一般的な発電所や工場などに併設されて、瞬低・停電対策や負荷平準化を目的とした大容量の蓄電池としても好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
100 レドックスフロー電池
100c 電池要素
101 隔膜 102 正極セル 103 負極セル
104 正極電極 105 負極電極 106 正極用タンク
107 負極用タンク 108,109,110,111 配管
112,113 ポンプ
1 撹拌機構 11 導入配管 11h 気孔 12 ガス供給機構
2 撹拌機構 21 回転軸(撹拌部材) 22 モーター
3 撹拌機構 31 スターラー・バー(撹拌部材) 32 スターラー本体
4 撹拌機構 41 水中ポンプ(撹拌部材) 42 電源装置
5 撹拌機構 51,52 撹拌用配管 53 送液ポンプ 52w 窓部
7 液相連通管 7b バルブ
8 温度調整機構
9 制御機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極電極と、負極電極と、これら電極間に介在される隔膜と、を備える電池要素に、正極電解液および負極電解液を供給して充放電を行なうレドックスフロー電池であって、
正極活物質としてMnイオンを含む正極電解液、および負極活物質としてTiイオンを含む負極電解液の少なくとも一方を有し、
MnイオンまたはTiイオンを含む電解液を貯留するタンク内の電解液を撹拌する撹拌機構と、
前記撹拌機構の動作を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とするレドックスフロー電池。
【請求項2】
前記撹拌機構は、
前記タンク外からタンク内に導入され、そのタンク内に貯留される電解液中に開口する導入配管と、
前記導入配管を介して前記タンク内に不活性ガスを供給するガス供給機構と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池。
【請求項3】
前記撹拌機構は、前記タンク内の電解液中で回転または揺動して、電解液を撹拌する撹拌部材を備えることを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池。
【請求項4】
前記撹拌部材は、電磁力により動作することを特徴とする請求項3に記載のレドックスフロー電池。
【請求項5】
前記撹拌機構は、
一端が前記タンク内の液相に開口し、他端が同じタンク内の液相もしくは気相に開口する撹拌用配管と、
前記一端側から他端側に向かって電解液を送り出す送液ポンプと、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池。
【請求項6】
前記撹拌用配管の途中に設けられ、電解液の温度調整をする温度調整機構を備えることを特徴とする請求項5に記載のレドックスフロー電池。
【請求項7】
前記撹拌用配管の途中に設けられ、電解液中の不純物および析出物を除去するフィルターを備えることを特徴とする請求項5または6に記載のレドックスフロー電池。
【請求項8】
前記正極電解液と負極電解液に含まれる金属イオン種が共通であり、
前記正極電解液を貯留する正極用タンクの液相と、前記負極電解液を貯留する負極用タンクの液相と、を連通する液相連通管を備え、
前記負極用タンク側にある前記液相連通管の一端は、負極用タンクの底部寄りの位置に開口し、
前記正極用タンク側にある前記液相連通管の他端は、前記一端よりも高い位置で、かつ正極用タンク中の電解液の液面寄りの位置に開口していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項9】
前記制御手段は、予め定められたスケジュールに従って前記撹拌機構を間欠的に動作させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項10】
前記タンク内における電解液中の活物質イオンの分布状態を検知する検知機構を備え、
前記制御手段は、前記検知機構の検知結果に基づいて前記撹拌機構を制御することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−8640(P2013−8640A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142219(P2011−142219)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】