説明

レバウディオサイドAの精製方法

【課題】レバウディオサイドAをレバウディオサイドA及びステビオサイドを含有する混合物から分離して高度に精製する方法、特に工業的に応用できる方法を提供する。
【解決手段】分子篩作用を有する樹脂を充填した少なくとも4つの充填塔を有する擬似移動床式クロマト分離装置を用いて、レバウディオサイドAとステビオサイドを含む組成物からレバウディオサイドAを精製する方法であって、上記樹脂として水分含量が50〜57質量%であるスチレン系のゲル型強酸性陽イオン交換樹脂を用いることを特徴とする、レバウディオサイドAの精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステビア(Stevia rebaudiana)に含まれる天然甘味成分であるレバウディオサイドAをより純度の高い形で調製する方法に関する。より詳細には、レバウディオサイドAとステビオサイドとを含む混合物から、レバウディオサイドAを分離精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステビア(学名:Stevia rebaudiana)はパラグアイを始めとする南米を原産地とするキク科多年性植物であり、一般にステビアと略称されている。ステビアに含まれる甘味成分としては、ステビオサイド、レバウディオサイドA、レバウディオサイドB、レバウディオサイドC、レバウディオサイドD、レバウディオサイドE、レバウディオサイドF、ズルコサイドA、ルブソシド、ステビオールビオシド等が知られており、これらの甘味成分のうち、ステビオサイド、レバウディオサイドA及びレバウディオサイドC、特にステビオサイドとレバウディオサイドAが主としてステビア抽出物の成分を占める。
ステビオサイドは砂糖の200倍の甘味を有し、その甘味は比較的砂糖に似ているが苦味等の残味がある。またレバウディオサイドCは砂糖の40〜60倍の甘味しかないうえに、その甘味は渋味が強いという欠点がある。これに対し、レバウディオサイドAは砂糖の300倍の甘味を有し、その甘昧は砂糖に類似してまろやかで残味がなく、高甘味度甘味料としての有用性が極めて高い。
【0003】
しかしながら、現在食品工業で用いられているステビア由来の甘味料のほとんどは上記甘味成分の混合物であるため、レバウディオサイドAの長所が他の甘味成分であるステビオサイド、レバウディオサイドC等で消失してしまい、全体として苦味、渋味のある甘味料となっている。
【0004】
この欠点に対して、呈味質の良いレバウディオサイドAを高純度で調製する方法としては再結晶方法が一般的であるが(例えば、特許文献1等参照)、かかる再結晶法を適用するには、抽出の段階で70%以上もの高濃度でレバウディオサイドAを含有する抽出物を取得しなくてはならない。
さらに再結晶化にはアルコール等の有機溶媒を大量に使用するという問題もある。
【0005】
そこで、従来から、レバウディオサイドAの含量が少ない原料からも高純度でレバウディオサイドAを取得する方法が求められている。例えば、ステビオサイド、レバウディオサイドA、レバウディオサイドCおよびズルコサイドAの混合物からレバウディオサイドAを精製する方法として、固定相として親水性のビニルポリマーを素材とするゲルろ過用充填剤を、移動相として水を用いたゲル濾過クロマトグラフィーを用いる方法が提案されているが(例えば、特許文献2参照)、かかる方法では、1回に精製できる被験試料の量が限られ、またレバウディオサイドAの精製に16時間以上を要するため、大量に処理することができず、工業規模で使用することが難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭52−62300号公報
【特許文献2】特開平6−192283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、レバウディオサイドAを精製する方法を提供することを目的とする。より詳細には、本発明は、ステビアに含まれる天然甘味成分であるレバウディオサイドAを、特にステビオサイドと分離して、高純度の形態で取得することができる方法であって、しかも工業規模で使用可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
工業的分離法として従来より擬似移動床法(Sumilated Moving Bed:SMB)が知られている。擬似移動床法は、2以上の成分を含む溶液(原液)から、各成分の移動速度の差に応じて当該2つの成分を2つの画分に分離するための方法である。より具体的には、当該方法は、原液中に含まれる2以上の成分中の目的成分に対して選択的吸着能力を有する吸着剤を充填した4以上の単位充填塔を直列に連結するとともに、最下流部の単位充填塔と最上流部の単位充填塔を連結することによって無端円状の循環系を構成した充填層に、2以上の成分を含む原液と溶離液を通流させることにより、当該充填層の循環系に前記吸着剤に対する親和力の順に吸着帯域を形成させ、原液供給口、溶離液供給口、原液に含まれるA成分(充填層内を移動する速度の大きい成分)の抜き取り口、原液に含まれるB成分(充填層内を移動する速度の小さい成分)の抜き取り口を、一定の位置関係に保ちながら充填層の流体循環方向の下流側に順位移動させることで、擬似的に充填層(固定相)を溶離液(移動相)の流れに対して逆方向に移動させ、目的成分(A成分またはB成分)を連続的に分離する方法である(特開2003-61700号公報等参照)。
【0009】
本発明者らは、分子篩(ゲル濾過)の原理に基づいて上記擬似移動床法を用いて、レバウディオサイドAとステビオサイドを含む被験試料から、レバウディオサイドAを分離精製するにあたり、まずイオン交換樹脂を固定相とするクロマトグラフィーを用いて、レバウディオサイドAとステビオサイドを含むステビア抽出液からレバウディオサイドAを分離しようと試みた。具体的には、イオン交換樹脂として、スチレン系のゲル型強酸性陽イオン交換樹脂である三菱化学(株)製のダイヤイオンUBK510L(水分含量61-65%、架橋度:4%)、ダイヤイオンUBK530(水分含量52-55.5%、架橋度6%)およびダイヤイオンUBK550(架橋度8%)を利用して分離を試みた。ちなみに架橋度が高いほど樹脂の孔径は小さい。
【0010】
その結果、固定相(充填剤)としてダイヤイオンUBK 550(水分含量46-49.5%、架橋度8%)を用いた場合には樹脂を素通りして分離することができず、一方、固定相(充填剤)としてダイヤイオンUBK 510L(水分含量61-65%、架橋度:4%)を用いた場合には、ベッドボリュームに溶出するものの分離することができなかった(実験例1参照)。
【0011】
これに対して、固定相(充填剤)としてダイヤイオンUBK530(水分含量52-55.5%、架橋度6%)を用いた場合には、ボイドボリュームに溶出して樹脂を素通りする傾向にあったものの、レバウディオサイドAに比してステビオサイドの溶出が遅延する傾向にあった。本来、ダイヤイオンUBK530は分子量が500以下の物質の精製、分離に使用される樹脂であり、当該樹脂に対して分子量が大きいレバウディオサイドA(C44H70O23、分子量967)及びステビオサイド(C38H60O18、分子量805)の分離、精製はできないものと考えられる。
【0012】
しかし、本発明者らはかかるダイヤイオンUBK530を用いることにより、レバウディオサイドA及びステビオサイドの両物質がボイドボリュームに溶出して樹脂を素通りする傾向にあったものの、意外にも、若干ながらレバウディオサイドAに比してステビオサイドの溶出が遅延する傾向にあることを見いだし、両者を分離できる可能性を見出した。
【0013】
そこで、かかる知見に基づいて、上記特性の樹脂を充填したカラムを連結した擬似移動床法を用いて、レバウディオサイドAの精製を試みたところ、擬似移動床法からの溶出を繰り返すことでレバウディオサイドAを順次ステビオサイドと分離することができ、高度に精製されたレバウディオサイドAが取得可能であることを確認した。このことから、充填塔に充填する樹脂として水分含量が49.5%より多く61%より少ない、具体的には水分含量が50〜57%であるスチレン系のゲル型強酸性陽イオン交換樹脂を用いて擬似移動床式クロマト分離を行うことで、レバウディオサイドAをステビオサイドから分離して高純度に精製することができることが判明した。
【0014】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の構成を有するレバウディオサイドAの精製方法、より詳細にはレバウディオサイドA及びステビオサイドを含む混合物から、レバウディオサイドAを分離し精製する方法に関する。
【0015】
項1.分子篩作用を有する樹脂を充填した充填塔を少なくとも4つ直列に連結してなる擬似移動層を備えた擬似移動床式クロマト分離装置を用いた、レバウディオサイドAとステビオサイドとを分離してレバウディオサイドAを精製する方法であって、
上記樹脂として水分含量が50〜57重量%であるスチレン系のゲル型強酸性陽イオン交換樹脂を用い、且つ
(a)レバウディオサイドAとステビオサイドを含む被験試料を上記擬似移動層に供する工程、
(b)当該擬似移動層から、吸収波長210nmの吸光度を指標に、ピーク画分に相当する溶離液を回収する工程、
(c)上記溶離液を再び上記工程(a)および(b)に、少なくとも1回供する工程
を有することを特徴とする、上記方法。
【0016】
項2.上記工程(c)において、工程(a)および(b)に供されて回収される溶離液中の「レバウディオサイドAとステビオサイドとの重量比(Reba A/Stev)」が、当該工程(a)および(b)に供される直前の溶離液中の「レバウディオサイドAとステビオサイドとの重量比(Reba A/Stev)」よりも大きいことを特徴とする、項1記載の方法。
【0017】
項3.工程(b)後に、さらに回収された溶離液を逆浸透膜濃縮処理に供する工程を有することを特徴とする、項1または2に記載する方法。
【0018】
項4.レバウディオサイドAとステビオサイドを含む被験試料が、レバウディオサイドAとステビオサイドを含むステビア抽出物である、項1乃至3のいずれかに記載する方法。
【0019】
項5.項1乃至4のいずれかに記載する方法で精製されてなる、「レバウディオサイドAとステビオサイドとの重量比(Reba A/Stev)」が20以上、好ましくは30以上である、レバウディオサイドA含有組成物。
【0020】
項6.項5記載のレバウディオサイドA含有組成物からなる甘味料。
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法によれば、ステビアに由来する天然甘味成分のうち、呈味質の最も優れたレバウディオサイドAを効率よく低コストで工業的に調製することができる。より具体的には、本発明の方法によれば、レバウディオサイドAとステビオサイドの混合物から、レバウディオサイドAを効率よく且つ純度高く分離し精製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明で使用する擬似移動床式クロマト分離装置の概念図を示す。(A)は、5つの充填塔の下流に逆浸透膜処理機(RO機)を備えない装置を、(B)は5つの充填塔の下流に逆浸透膜処理機(RO機)を備えた装置を示す。図中、各符号の意味は下記の通りである。1:原料タンク、2:展開溶媒タンク、3:擬似移動層、3-1:充填塔1、3-2:充填塔2、3-3:充填塔3、3-4:充填塔4、3-5:充填塔5、4:UV測定部、5:精製液回収タンク、6:展開溶媒回収タンク、7:逆浸透膜濃縮機(RO機)、8:RO処理液回収タンク、9:循環液タンク。
【図2】実験例1において、ステビア甘味料(ステビロンTK、stevioside 52%、rebaudioside A 25%含有)を、スチレン系陽イオン交換樹脂(ダイヤイオンUBK-550(架橋度8、水分含量46-49.5%):三菱化学(株))を用いてゲル濾過クロマトグラフィーを行った結果のクロマトグラムを示す。
【図3】実験例1において、ステビア甘味料(ステビロンTK、stevioside 52%、rebaudioside 25%含有)を、スチレン系陰イオン交換樹脂(ダイヤイオンWA-30(水分含量43-55%):三菱化学(株))を用いてゲル濾過クロマトグラフィーを行った結果のクロマトグラムを示す。
【図4】実験例1において、ステビア甘味料(ステビロンTK、stevioside 52%、rebaudioside 25%含有)を、スチレン系陽イオン交換樹脂(ダイヤイオンUBK-530(架橋度6、水分含量52-55.5%):三菱化学(株))を用いてゲル濾過クロマトグラフィーを行った結果のクロマトグラムを示す。
【図5】実験例2において、ステビア甘味料(ステビロンTK、stevioside 52%、rebaudioside A 25%含有)を、5つの充填塔を備えた擬似移動床式クロマト分離装置(図1(A))に供して第1回目の分離操作を行った結果、すなわちレバウディオサイドA(-■-)とステビオサイド(-◆-)の溶出パターンを示す
【図6】実験例2において、第1回目の分離操作で回収した画分(第1溶出画分)を、5つの充填塔を備えた擬似移動床式クロマト分離装置(図1(A))に供して第2回目の分離操作を行った結果、すなわちレバウディオサイドA(-■-)とステビオサイド(-◆-)の溶出パターンを示す。
【図7】実験例2において、第2回目の分離操作で回収した画分(第2溶出画分)を、5つの充填塔を備えた擬似移動床式クロマト分離装置(図1(A))に供して第3回目の分離操作を行った結果、すなわちレバウディオサイドA(-■-)とステビオサイド(-◆-)の溶出パターンを示す。
【図8】実験例3において、ステビア甘味料(ステビロンTK、stevioside 52%、rebaudioside A 25%, rebaudioside C 12%含有)を、5つの充填塔を備えた擬似移動床式クロマト分離装置(図1(B))に供して第1回目の分離操作を行った結果、すなわちレバウディオサイドA(-■-)とステビオサイド(-◆-)の溶出パターンを示す
【図9】実験例3において、第1回目の分離操作で回収した画分(第1溶出画分)を、5つの充填塔を備えた擬似移動床式クロマト分離装置(図1(B))に供して第2回目の分離操作を行った結果、すなわちレバウディオサイドA(-■-)とステビオサイド(-◆-)の溶出パターンを示す
【図10】実験例3において、第2回目の分離操作で回収した画分(第2溶出画分)を、5つの充填塔を備えた擬似移動床式クロマト分離装置(図1(B))に供して第3回目の分離操作を行った結果、すなわちレバウディオサイドA(-■-)とステビオサイド(-◆-)の溶出パターンを示す
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、レバウディオサイドAの精製に、擬似移動床式クロマト分離装置(以下、「SMBクロマト分離装置」と称する)を用いる方法である。
【0024】
以下、図1(A)および(B)に記載するSMBクロマト分離装置の概念図を参照しながら、本発明の方法を説明する。但し、図1に記載する装置は、本発明の方法で使用するSMBクロマト分離装置の一態様であって、本発明の方法は当該装置に制限されるものではない。
【0025】
本発明の方法で用いるSMBクロマト分離装置は、図1(A)に示すように、原料をいれた「原料タンク」、展開溶媒をいれた「展開溶媒タンク」、分子篩作用を有する樹脂を充填した充填塔を5つ直列に連結してなる「擬似移動層」、擬似移動層から溶出した溶離液の吸光度を測定する「UV検出部」、UV検出部で検出されたピーク画分(波長210nm付近)に相当する溶離液を回収する「精製液回収タンク」、上記ピーク画分(波長210nm付近)以外の溶離液を回収する「展開溶媒回収タンク」を備えている。なお、レバウディオサイドAを含まない溶離液は必ずしも回収しておく必要はないから、当該図1において「展開溶媒回収タンク」は任意部分である。
【0026】
なお、図1では、充填塔を5つ直列に連結した実施態様を例示しているが、「擬似移動層3」を構成する充填塔は分子篩作用を有する樹脂を充填した充填塔を少なくとも4つ直列に連結していればよい。詳細には、レバウディオサイドAがリッチな部分を抜き出す充填塔、ステビオサイドがリッチな部分を抜き出す充填塔、原料を供給する充填塔及びレバウディオサイドA及びステビオサイドを分離する充填塔の4つを有していれば良く、その限りにおいて充填塔の数は適宜調整することが可能である。好ましくは5つ以上の充填塔を有することが望ましい。
【0027】
「擬似移動層」を構成する充填塔に充填する樹脂としては、分子篩作用を有するスチレン系のゲル型強酸性陽イオン交換樹脂を挙げることができる。当該樹脂は、具体的には、ベンゼン環にビニル基が一つついたスチレンと、ベンゼン環にビニル基が二つついたジビニルベンゼン(DVB)とを材料として、それらを懸濁重合することで直鎖の高分子であるポリスチレン同士がDVBによって架橋されてなるものである。これにスルホン酸や4級アンモニウム塩などが官能基として導入されている。当該樹脂は、上記の懸濁重合時にポリスチレン同士を橋架けするために使用するDVBの量によって、樹脂内の分子の網目(ミクロポアー)の大きさを適宜調整することができる。DVBの量を多くすると、橋架けする箇所が多くなって網目が密になり、一方、DVBが少ないと橋架けする箇所が少なくなるため網目は大きくなる。
【0028】
好ましくは官能基として硫酸基を有するスチレン系のゲル型強酸性陽イオン交換樹脂を、さらに好ましくはスチレンスルホン酸ナトリウムからなるゲル型強酸性陽イオン交換樹脂を挙げることができる。
【0029】
かかるゲル型強酸性陽イオン交換樹脂中の橋架けの度合い、すなわち架橋度は、樹脂の水分含量と相関していることが知られている(例えば、「DIAION 1イオン交換樹脂・合成吸着剤マニュアル」第48頁など参照、三菱化学(株))。上記樹脂は上述するように、スチレンとジビニルベンゼンとを材料として懸濁重合することで製造されるが、製造時の水分量が少ないとスチレン及びジビニルベンゼンの架橋反応が進む一方、水分量が多いと両者間の水分によって架橋反応が進みにくくなるためである。従って、イオン交換樹脂中の架橋度は、樹脂中の水分含量によって示すことができる。なお、樹脂中の「水分含量」(質量%)は、室温状態にある樹脂を105℃で6時間乾燥させた前後の重量差から、下式に従って求めることができる。
【0030】
【数1】

【0031】
本発明で用いるスチレン系ゲル型強酸性陽イオン交換樹脂の水分含量としては、50〜57質量%を挙げることができる。好ましくは52〜55.5質量%を挙げることができる。なお、当該水分含量を有する樹脂は6を中心として5〜7、好ましくは5.5〜6.5、より好ましくは6の架橋度を有している。
【0032】
また、本発明で用いるスチレン系のゲル型強酸性陽イオン交換樹脂としては、樹脂の粒度分布が200〜240μm(85%以上)であるものを挙げることができる。ここで「200〜240μm(85%以上)」とは、樹脂の85%以上の粒子の直径が200〜240μmの範囲にあることを意味する。当該粒子の直径は篩いを用いて測定することができ、この場合、具体的には孔径が240μmの篩いを通過し、且つ孔径が199μmの篩いを通過しない粒子の割合が、全体の85%以上を占める場合を「粒度分布が200〜240μm(85%以上)である」とすることができる。
【0033】
かかる樹脂としては、具体的にはダイヤイオンUBK-530(架橋度6、水分含量52〜55.5%)(以上、三菱化学(株)製)などの市販品を用いることができる。
【0034】
「擬似移動層」はかかる樹脂を充填した充填塔(分離カラム)を少なくとも4つ連結してなるものである。充填塔の数は4以上、好ましくは5以上であればよく、その上限は、制限されないが、通常10程度を挙げることができる。各充填層には、同一の樹脂を充填してもよいが、これに限定されることなく、上記限りにおいて異なる架橋度および/または粒度分布を有するものを充填してもよい。好ましくは同一の樹脂である。
【0035】
充填塔の大きさや充填する樹脂の量は、精製するレバウディオサイドAの量に応じて適宜設定することができ、特に制限されない。一例を挙げるとすれば、例えば、レバウディオサイドAを10〜20g含むステビア抽出液20〜100mlを被験試料とする場合、使用する樹脂の総量としては3500〜7000mlを挙げることができる。かかる量の樹脂を上記少なくとも4つの充填塔(分離カラム)に分けて充填して使用される。
【0036】
SMBに使用する展開溶媒は、特に制限はないが、好ましくは含水低級アルコールを挙げることができる。ここで低級アルコールとしては、炭素数1〜6のアルコール、好ましくは炭素数1〜3のアルコールを挙げることができる。好ましくはエタノールである。含水アルコールのアルコール濃度としては、20〜80容量%、好ましくは30〜60容量%、より好ましくは40〜50容量%を挙げることができる。
【0037】
SMBに供する原料、すなわち被験試料は、少なくともレバウディオサイドAとステビオサイドを含むものであればよく、さらにレバウディオサイドCを含むものであってもよい。好ましくは被験試料中に含まれるレバウディオサイドAの割合が5〜80重量%であり、より好ましくは10〜30重量%である。
【0038】
従来、レバウディオサイドAを高純度で調製する方法として一般に使用されてきた再結晶法は、再結晶化する前に70%以上もの高濃度でレバウディオサイドAを含有する抽出物を取得しなければならないという欠点を抱えていた。しかし、本発明に係る精製方法を用いれば、レバウディオサイドAの割合が10〜30重量%といった低含量である被験試料からであってもレバウディオサイドAを高度に分離、精製することができるという極めて優れた利点を有する。
【0039】
かかるレバウディオサイドAとステビオサイドを含むものとしては、ステビア(Stevia rebaudiana Bertoni)の抽出液、またはこれを原料として調製される、レバウディオサイドAとステビオサイドを含むステビア抽出物を含むステビア甘味料を挙げることができる。
例えば、市販されているステビア甘味料として、守田化学株式会社製の「ステビロンTK」、DICライフテック株式会社製の「ステビアDIC C−P」、池田糖化工業株式会社製の「ステビアST−AB」、日本製紙ケミカル株式会社製の「ステビアフィンH」、丸善製薬株式会社製の「純マルミロン」等を例示することができる。
【0040】
本発明の方法は、前述するSMBクロマト分離装置を用いて、下記(a)〜(c)の工程を行うことによって実施することができる:
(a)レバウディオサイドAとステビオサイドを含む被験試料を上記擬似移動層に供する工程、
(b)当該擬似移動層から、吸収波長210nmの吸光度を指標に、ピーク画分に相当する溶離液を回収する工程、
(c)上記溶離液を再び上記工程(a)および(b)に、少なくとも1回供する工程。
【0041】
これを図1(A)に基づいて説明する。
【0042】
図1(A)において、「展開溶媒タンク」から供給された上記展開溶媒は「擬似移動層」内を流通している。その中で「原料タンク」から原料(被験試料)が「擬似移動層」の上流部、すなわち第1の充填塔1(符号3-1)の上流部に添加されることで、本発明の方法が開始する((a)工程)。
【0043】
斯くして「擬似移動層」に供された被験試料は、展開溶媒とともに、擬似移動層内、すなわち「充填塔1→充填塔2→充填塔3→充填塔4→充填塔5」内を通過し、最後尾の充填塔5(符号3-5)の下流部から溶出される。溶出された溶離液は、「UV測定部」において吸収波長210nmにおける吸光度が測定される。当該吸収波長210nmは、レバウディオサイドAの極大吸収波長に相当する。ここでかかる吸光度を指標として、ピーク画分に相当する溶離液は「精製液回収タンク」に回収される((b)工程)。一方、そうでない溶離液は「展開溶媒回収タンク」に回収される。
【0044】
「精製液回収タンク」に回収された溶液は、次いで、必要に応じて濃縮される。かかる濃縮に使用する方法は、特に制限されないが、簡便には減圧濃縮を挙げることができる。この場合、減圧濃縮により展開溶媒中に含まれるアルコールと水が蒸発して展開溶媒のアルコール濃度が変化する。このため、濃縮後、「擬似移動層」に供給する上記展開溶媒と同じアルコール濃度になるように調整される。
【0045】
斯くて調整された溶液は、「原料タンク」に送られて、再び「擬似移動層」に供される(工程(c)における工程(a))。具体的には、前述するように「擬似移動層」の上流部、すなわち第1の充填塔1(符号3-1)の上流部に添加され、当該「擬似移動層」の「充填塔1→充填塔2→充填塔3→充填塔4→充填塔5」を通じて精製され、次いで、充填塔5(符号3-5)から溶出された溶離液は、「UV測定部」において測定される吸収波長210nmにおける吸光度を指標として、ピーク画分に相当する溶離液が「精製液回収タンク」に回収される(工程(c)における(b)工程)。
【0046】
斯くして回収された溶液は、レバウディオサイドAが分離精製されるまで、必要に応じて再び、濃縮されて、上記(a)および(b)工程に供することができる。
【0047】
斯くして得られる溶離液、すなわち工程(c)において上記(a)および(b)工程に供され、ピーク画分として回収された溶離液は、当該溶離液中の「レバウディオサイドAとステビオサイドとの重量比」(以下、「Reba A/Stev」という。)が、その工程(a)に供される直前の溶離液中の「Reba A/Stev」よりも大きいことを特徴とする。すなわち、工程(c)において工程(a)および(b)を経る毎に、その回数に応じて、溶離液中に含まれるレバウディオサイドAの割合(重量)がステビオサイドの割合よりも多くなり、その「Reba A/Stev」が、その工程(a)に供される直前の溶離液中の「Reba A/Stev」よりも大きくなる。
【0048】
この場合のレバウディオサイドAの分離精製の指標としては、特に制限されないが、例えば溶離液中の「Reba A/Stev」が20以上となることを挙げることができる。好ましくは30以上、より好ましくは35以上である。
【0049】
なお、上記では、「精製液回収タンク」に回収された溶液の濃縮に減圧濃縮を例示したが、これに代えて、逆浸透膜を使用することもできる。かかる逆浸透膜(RO)による濃縮工程を有する擬似移動床式クロマト分離装置の概念図を図1(B)に示す。かかる逆浸透膜(RO)による濃縮によれば、溶液中のアルコール濃度が変わらないので、得られた濃縮液は、アルコール濃度の調整をする必要なく、再度原料タンクに供給することができる。
【0050】
ここで逆浸透膜に用いられる膜素材としては、試料中に含まれるレバウディオサイドA、ステビオサイド、ならびにレバウディオサイドCなどの成分は透過せず、水やアルコールなどの溶媒を選択的に透過するものであればよく、この限りにおいて、天然、合成、半合成の別を問わない。例えばセルロース、セルロース・ジ-アセテート若しくはトリ-アセテート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアクリロニトリルなどを挙げることができる。一例として、逆浸透膜として、合成高分子系複合膜(PVA系)を用いたNaCl阻止率90%以上の高透過水量タイプの低圧RO膜である日東電工(株)製の「NTR-729HR」、またNaCl阻止率99.5%以上の高透過水量タイプの超低圧RO膜である日東電工(株)製の「ES10-D」を例示することができる。
【0051】
この場合、「精製液回収タンク」に回収された溶液は、RO機に供されて、ここで濃縮される。ここで濃縮されたレバウディオサイドAを含む溶液は、「原料タンク1」に送られて、再び「擬似移動層」に供給され、当該「擬似移動層」の「充填塔1→充填塔2→充填塔3→充填塔4→充填塔5」を通じて精製される(工程(c)における工程(a))。次いで、充填塔5(符号3-5)から溶出された溶離液は、「UV測定部」において測定される吸収波長210nmにおける吸光度を指標として、ピーク画分に相当する溶離液が「精製液回収タンク」に回収される(工程(c)における(b)工程)。
【0052】
斯くして回収された溶液は、図1(A)に関して説明したように、レバウディオサイドAが分離精製されるまで、必要に応じて再び、濃縮されて、上記(a)および(b)工程に供される。
【0053】
一方、RO機での濃縮で生じたレバウディオサイドA等を含まない溶液は、RO処理液回収タンクに回収される。当該溶液は、循環液タンクに供給されて、展開溶媒として繰り返し使用される。
【0054】
かかるSMBクロマト分離装置において、展開溶媒の流速は、充填塔の大きさおよび分離する被験試料の量によっても相違するが、通常5〜30ml/min、好ましくは10〜15ml/minを挙げることができる。
【0055】
当該SMBクロマト分離装置において、溶離液中の「Reba A/Stev」が80以上、好ましくは90以上、より好ましくは98以上となることを指標として、レバウディオサイドAの分離精製を終了することができる。
【0056】
斯くして得られる溶離液は、必要に応じて濃縮または乾燥し、レバウディオサイドAを高純度に含む甘味料として提供することができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の内容を以下の実験例を用いて具体的に説明する。但し、これらの実験例は本発明の一態様に過ぎず、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。なお、特に記載のない限り「%」は「質量%」意味するものとする。
【0058】
実験例1
ゲル濾過法は分子量の異なる成分を固定相(樹脂)によって形成される網目構造の孔径に応じて目的物を分離する方法であり、分子量の大きいものから溶出してくる。
【0059】
レバウディオサイドAとステビオサイドを含むステビア甘味料を原料として、下記の3種類の樹脂((a)、(b)、(c))を固定相としてゲル濾過クロマトグラフィーを行い、ゲル濾過法による分離の可能性を探った。
【0060】
(1)原料液
レバウディオサイドAとステビオサイドを含むステビア甘味料(ステビロンTK: stevioside 52%, rebaudioside A 25%含有:守田化学工業(株))1gをエタノール濃度が25容量%の含水エタノール10mlに溶解したものを使用。
【0061】
(2)ゲル濾過クロマトグラフィー
(i)装置:直径50mm×長さ50cmのガラスカラムに下記の樹脂を700ml充填し、同じものを5本直列につなぐ。
(ii)溶離液:エタノール濃度55容量%の含水エタノール
(iii)固定相:下記いずれかの充填剤を硝子製カラム(カラム直径450mm×600mm)に充填(500ml)したものを使用
(a) スチレンスルホン酸ナトリウムのゲル型強酸性陽イオン交換樹脂(ダイヤイオンUBK-550(架橋度8、水分含量46−49.5%):三菱化学(株))
(b) スチレン系ジメチルアミンのポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂(ダイヤイオンWA-30:(水分含量43−55%)三菱化学(株))
(c)スチレンスルホン酸ナトリウムのゲル型強酸性陽イオン交換樹脂(ダイヤイオンUBK-530(架橋度6、水分含量52−55.5%):三菱化学(株))
(iv)流速:定量ポンプにて約10ml/min
(v)検出方法:フローセル検出器(UV210nm)。
【0062】
(3)実験とその結果
充填剤として(a)の樹脂(ダイヤイオンUBK-550)を用いたときのゲル濾過クロマトグラフィーを図2に示す。図2からわかるように、レバウディオサイドAとステビオサイドはいずれも当該樹脂(ダイヤイオンUBK-550)のボイドボリュームで溶出した。このことは、これらの成分はいずれも樹脂の孔径に入ることなく、空隙(ボイドボリューム)を素通りすることを示している。また両ピークともシャープであることから、レバウディオサイドAとステビオサイドはいずれも当該樹脂に吸着しないことが確認された。
【0063】
充填剤として(b)の樹脂(ダイヤイオンWA-30)を用いたときのゲル濾過クロマトグラフィーを図3に示す。通常ポーラス型のイオン交換樹脂はゲル型のイオン交換樹脂よりも孔径が大きい。図3からわかるように、レバウディオサイドAとステビオサイドはいずれも当該樹脂(ダイヤイオンWA-30)のベッドボリュームで溶出した。このことは、これらの成分はいずれも樹脂の孔径に入ることを示している。しかし、また両ピークともブロードであることから、レバウディオサイドAとステビオサイドはいずれも当該樹脂に吸着性を有することが確認された。しかし、かかる樹脂では、両成分を分離することができなかった。
【0064】
また実施例には示さないが、樹脂としてスチレンスルホン酸ナトリウムのゲル型強酸性陽イオン交換樹脂(ダイヤイオンUBK-510L(架橋度4、水分含量61〜65%):三菱化学(株))を用いた場合も、レバウディオサイドAとステビオサイドの両成分を分離することはできなかった。
【0065】
充填剤として(c)の樹脂(ダイヤイオンUBK-530)を用いたときのゲル濾過クロマトグラフィーを図4に示す。図4からわかるように、ダイヤイオンUBK-550の場合と同様に、レバウディオサイドAとステビオサイドはいずれも当該樹脂(ダイヤイオンUBK-530)のボイドボリュームで溶出した。このことは、これらの成分はいずれも樹脂の孔径に入ることなく空隙を素通りすることを示している。しかし、わずかながらではあるが、レバウディオサイドAの溶出は、ステビオサイドの溶出よりも遅延する傾向が認められ、当該樹脂により両成分を分離することができると考えられた。
【0066】
実験例2
実験例1の結果から、擬似移動床式クロマト分離装置の固定相(充填剤)として(c)の樹脂(ダイヤイオンUBK-530)、すなわちスチレンスルホン酸ナトリウムのゲル型強酸性陽イオン交換樹脂を用いて、下記の方法によりレバウディオサイドAを精製した。
【0067】
(1)精製対象とする原料液
レバウディオサイドAとステビオサイドを含むステビア甘味料(ステビロンTK: stevioside 52%, rebaudioside A 25%含有:守田化学工業(株))1.5gを水10mlに溶解したものを使用した。
【0068】
(2)SMB条件
(a) 溶離液:エタノール濃度55容量%の含水エタノール
(b) 固定相(充填剤):スチレンスルホン酸ナトリウムのゲル型強酸性陽イオン交換樹脂(ダイヤイオンUBK530(架橋度6、水分含量52-55.5%):三菱化学(株))
(c)充填塔(カラム):硝子製の5本のカラム(カラム直径450mm×600mm)に上記充填剤を充填した5充填塔を使用(充填剤の総量:3500ml)、
(d)原料液の流速:9.4ml/min
(e)溶離液の流速:9.4ml/min
(f)カラム温度:室温 24℃
(g)サイクルタイム:480分。
【0069】
(3)実験とその結果
以下、分離操作を図1(A)に示す擬似移動床式クロマト分離装置の模式図、並びに図5〜7を参照しながら説明する。
【0070】
(i)第1回目の分離操作(図5参照)
まず、上記原料液を、「原料タンク」から上記5つの充填塔3-13-5を備えた擬似移動床式クロマト分離装置(図1(A))を用いて、2循環を1サイクルとして処理した。かかる分離操作(2循環)におけるレバウディオサイドA(-■-)とステビオサイド(-◆-)の溶出パターンを図5に示す。1循環目(0〜240分)の溶出パターンでは溶出し始めの140分〜145分ではレバウディオサイドA/ステビオサイドの比は高いものの(140分:4、143分:2、145分:1)、それ以後の145分〜240分では逆転し、その比は低くなっているのがわかる(160分:0.32、170分:0.31)。
【0071】
次いで、142分〜170分の溶出画分を回収して、2循環目の処理を行った。つまり、充填塔5(符号3-5)より溶出した液のうち142分から170分の部分を充填塔1(符号3-1)に戻し2循環目の処理を行った。その他の部分(170分〜300分)は展開液回収タンクへ回収し、展開溶媒タンクには新たな展開溶媒(55%EtOH)を追加した。2循環目の溶出(300分〜480分)では300分〜350分では1循環目より更にレバウディオサイドA/ステビオサイド比が高くなっていたので300分〜350分を「精製液回収タンク」に回収した。この精製液は、次いでロータリーエバポレーターにて真空濃縮し、含水アルコール(55%EtOH)で希釈調整した後、次回の第2回目の分離操作の精製に使用した。
【0072】
(ii)第2回目の分離操作(図6参照)
上記の第1回目の分離操作で回収し濃縮し、含水アルコール(55%EtOH)で調整した第1精製液40mlを、再び上記5つの充填塔を備えた擬似移動床式クロマト分離装置(図1(A))の原液供給口(充填塔1(符号3-1)の上流部)に供し、充填塔5(符号3-5)の下流部から溶出させた。次いで、この138〜170分の溶出画分を充填塔1(符号3-1)に戻して2循環させ、2循環目の290〜314分の溶出画分を「精製液回収タンク5」に回収し、その他の部分は展開液回収タンクへ回収した。回収した精製液は、次いでロータリーエバポレーターにて真空濃縮し、含水アルコール(55%EtOH)で希釈調整した後、次回の第2回目の分離操作の精製に使用した(第2溶出画分)。かかる分離操作におけるレバウディオサイドA(-■-)とステビオサイド(-◆-)の溶出パターンを図6に示す。
【0073】
(iii)第3回目の分離操作(図7参照)
上記の第2回目の分離操作で回収し濃縮し、含水アルコール(55%EtOH)で調整した第2精製液15mlを、再び上記5つの充填塔を備えた擬似移動床式クロマト分離装置(図1(A))の原液供給口(充填塔1(符号3-1)の上流部)に供し、充填塔5(符号3-5)の下流部から溶出し138〜150分の溶出画分を充填塔1(符号3-1)に戻し2循環させ(グラフのスポットは記載されていない)、2循環目の276〜314分画分を「精製液回収タンク」に回収した(第3溶出画分)。かかる分離操作におけるレバウディオサイドA(-■-)とステビオサイド(-◆-)の溶出パターンを図7に示す。
【0074】
上記で得られた第1溶出画分、第2溶出画分および第3溶出画分に含まれているレバウディオサイドAとステビオサイドの割合を、下記条件のHPLCで分析し、レバウディオサイドA(RebaA)とステビオサイド(Stev)の重量比(RebaA/Stev)を求めた。
【0075】
<HPLC条件>
装置:日本分光製HPLC2000シリーズ
固定相:Shodex社製 Asahipak NH2P-50
移動相: CH3CN:H2O=80:20 アイソクラティック
流速:1ml/min
検出波長 210nm。
【0076】
その結果、第1回目の分離操作において、ステビロンTK(原料)のレバウディオサイドA(RebaA)とステビオサイド(Stev)の重量比(RebaA/Stev)は0.48であったものが、第1溶出画分では0.94に上昇し、さらに第2溶出画分では1.44、またさらに第3溶出画分では21.0と上昇し、分離操作を繰り返すにつれて、レバウディオサイドAの割合が増加し、レバウディオサイドAが順次精製されていくことが確認された。
【0077】
また、図1(A)において、5つの充填塔に代えて4つの充填塔を備えた擬似移動床式クロマト分離装置を用いても、上記と同様に、ステビア甘味料(ステビロンTK: stevioside 52%, rebaudioside A 25%含有:守田化学工業(株))から、レバウディオサイドAが精製できることが確認された。
【0078】
実験例3
実験例2により樹脂UBK530を使用することによってレバウディオサイドAとステビオサイドが、若干ではあるが分離することがわかり、上記操作を繰り返すことで徐々にレバウディオサイドAが精製できることを確信した。しかし、この操作は2循環を1サイクルとするバッチ処理であるため、工業スケールで行うことは難しい。そこで、この操作を連続的に行うことを検討した。レバウディオサイドA/ステビオサイド比が一定であれば溶出パターンは同じであることが分かっているので、溶出液の流れる部分にフローUVメーターを設置し、溶出開始時を検出させ回収を始める。その後、一定時間後にタイマー信号によりバルブを切り替え、別の場所に回収をすることにより精製液(図1(B):精製液回収タンク5)と非精製液(循環液回収タンク6)の回収が可能となる。
【0079】
充填塔1〜5内を循環する展開溶媒においても、成分がテーリングしていることより循環には使用することができず、回収した液(精製液回収部と非精製液回収部)は新規の展開溶媒を添加してやる必要がある。この問題点を解決するためにRO機(RO濃縮機)を循環内に組みこんだ。RO機は、水、アルコール等の低分子成分は透過し、レバウディオサイドA等の成分は透過させないという特徴がある。このためRO機7を透過した液は、使用前の展開溶媒と同等のものになるため、展開溶媒が必要でなくなり、RO機導入により、同じ溶媒を循環させ続けることが可能になる。またRO濃縮液は含水アルコール濃度の変化もないことから、実施例1で行ったアルコール調整も必要でなく、このため一定の濃度になったら原料タンクにそのまま返送することができる。このように、実験例2で使用したバッチシステムをRO機の導入とコンピュータ制御によりバッチ連続システムに変換することができた。このシステムを図1(B)に示す。
【0080】
擬似移動床式クロマト分離装置の固定相(充填剤)として(c)の樹脂(ダイヤイオンUBK-530)、すなわちスチレンスルホン酸ナトリウムのゲル型強酸性陽イオン交換樹脂を用いて、下記の方法によりレバウディオサイドAを精製した。
【0081】
(1)精製対象とする原料液
レバウディオサイドAとステビオサイドを含むステビア甘味料(ステビロンTK: stevioside 52%, rebaudioside A 25%含有:守田化学工業(株))20gを水40mlに溶解したものを使用した。
【0082】
(2)SMB条件
(a) 溶離液:エタノール濃度50容量%の含水エタノール
(b) 固定相(充填剤):スチレンスルホン酸ナトリウムのゲル型強酸性陽イオン交換樹脂(ダイヤイオンUBK530(架橋度6、水分含量52-55.5%):三菱化学(株))
(c)充填塔(カラム):硝子製の5本のカラム(カラム直径450mm×600mm)に上記充填剤を充填した5充填塔を使用(充填剤の総量:3500ml)、
(d)原料液の流速:9.0ml/min
(e)溶離液の流速:9.0ml/min
(f)カラム温度:室温 24℃
(g)サイクルタイム:480分
(h)検出:UV210nmの吸光度を測定。
【0083】
(3)実験とその結果
以下、分離操作を図1(B)に示す擬似移動床式クロマト分離装置の模式図、並びに図8〜10を参照しながら説明する。
【0084】
(i)第1回目の分離操作(図8参照)
まず、上記原料液を、「原料タンク1」から上記5つの充填塔(符号3-1〜3-5)を備えた擬似移動床式クロマト分離装置(図1(B))を用い、2循環を1サイクルとして処理した(図8)。つまり1循環目は142分〜180分の溶出画分を充填塔1(符号3-1)に戻し、180〜300分の溶出画分は循環させず循環液回収タンクに送液した。更に、300〜350分の溶出画分は精製液回収タンクへ送液し、350〜480分溶出画分は循環液回収タンク6へ送液した。分離開始時の展開溶媒として含水アルコール(50%EtOH)を使用したが、その後は循環液回収タンクおよび精製液回収タンクに送られた回収液を、逆浸透膜装置(RO機)(NTR-729HR、日東電工社製)で処置した透過液をRO処理液回収タンクへ送り更に循環液タンクに送って展開溶媒として使用した。精製液回収タンクのRO膜処理濃縮液は、次回の第2回目の分離操作の原料として原料タンクへ送った。第1回目の分離操作により得られた精製液のレバウディオサイドA/ステビオサイド比は、原料の0.48から1.05へと上昇した。本操作におけるレバウディオサイドA(-■-)とステビオサイド(-◆-)との全溶出パターンを図8に示す。
【0085】
(ii)第2回目の分離操作(図9参照)
第1回目の分離操作で得られた精製液をRO膜濃縮した原料液を、「原料タンク」から上記5つの充填塔(符号3-1〜3-5)を備えた擬似移動床式クロマト分離装置(図1(B))を用いて、再び2循環を1サイクルとして処理した。つまり1循環目は142〜190分の溶出画分を充填塔1(符号3-1)に戻し、190〜310分の溶出画分は循環させず循環液回収タンクに送液した。更に、310〜360分の溶出画分は精製液回収タンクへ送液、360分〜480分の溶出画分は循環液回収タンクへ送液した。分離開始時の展開溶媒として含水アルコール(50%EtOH)を使用したが、その後は循環液回収タンクおよび精製液回収タンクに送られた回収液をRO膜で処置した透過液をRO処理液回収タンクへ送り、更に循環液タンクに送って展開溶媒として使用した。また精製液回収タンクのRO膜処理濃縮液を、次回の第3回目分離操作の原料として原料タンクへ送った。かかる第2回目の分離操作により、精製液のレバウディオサイドA/ステビオサイド比は、原料の1.05から2.52に上昇していた。本操作におけるレバウディオサイドA(-■-)とステビオサイド(-◆-)との全溶出パターンを図9に示す。
【0086】
(iii)第3回目の分離操作(図10参照)
上記第2回目の分離操作において得られた精製液をRO膜濃縮した原料液を、「原料タンク1」から上記5つの充填塔(符号3-1〜3-5)を備えた擬似移動床式クロマト分離装置(図1(B))を用いて、再び2循環を1サイクルとして処理した。つまり1循環目は142〜190分の溶出画分を充填塔1(符号3-1)に戻し、190〜310分の溶出画分は循環させずに循環液回収タンクに送液した。更に、310〜380分の溶出画分は精製液回収タンクへ送液、380〜480分の溶出画分は循環液回収タンクへ送液した。分離開始時の展開溶媒として含水アルコール(50%EtOH)を使用したが、その後は循環液回収タンクおよび精製液回収タンクに送られた回収液をRO膜で処置した透過液を、RO処理液回収タンクへ送り、更に循環液タンクに送って展開溶媒として使用した。第3回目の分離操作により、精製液(RO膜処理濃縮液)のレバウディオサイドA/ステビオサイド比は、原料の2.52から34.2へと上昇した。本操作におけるレバウディオサイドA(-■-)とステビオサイド(-◆-)の全溶出パターンを図10に示す。
【0087】
上記で得られた第1回目の分離操作、第2回目の分離操作および第3回目の分離操作によって得られたRO膜処理濃縮液に含まれているレバウディオサイドAとステビオサイドの割合を、実験例2と同様の方法で分析し、レバウディオサイドA(RebaA)とステビオサイド(Stev)の重量比(RebaA/Stev)を求めた。
【0088】
その結果、第1回目の分離操作において、ステビロンTK(原料)のレバウディオサイドA(RebaA)とステビオサイド(Stev)の重量比(RebaA/Stev)は0.48であったものが、第1回目の分離操作では1.05に上昇し、さらに第2回目の分離操作では2.52、またさらに第3回目の分離操作では34.2と上昇し、分離操作を繰り返すにつれて、レバウディオサイドAの割合が増加し、レバウディオサイドAが順次精製されていくことが確認された。
【0089】
また、図1(B)において、5つの充填塔に代えて4つの充填塔を備えた擬似移動床式クロマト分離装置を用いても、上記と同様に、ステビア甘味料(ステビロンTK: stevioside 52%, rebaudioside A 25%含有:守田化学工業(株))から、レバウディオサイドAが精製できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子篩作用を有する樹脂を充填した充填塔を少なくとも4つ直列に連結してなる擬似移動層を備えた擬似移動床式クロマト分離装置を用いた、レバウディオサイドAとステビオサイドとを分離してレバウディオサイドAを精製する方法であって、
上記樹脂として水分含量が50〜57質量%であるスチレン系のゲル型強酸性陽イオン交換樹脂を用い、且つ
(a)レバウディオサイドAとステビオサイドを含む被験試料を上記擬似移動層に供する工程、
(b)当該擬似移動層から、吸収波長210nmの吸光度を指標に、ピーク画分に相当する溶離液を回収する工程、
(c)上記溶離液を再び上記工程(a)および(b)に、少なくとも1回供する工程
を有することを特徴とする、上記方法。
【請求項2】
上記工程(c)において、工程(a)および(b)に供されて回収される溶離液中の「レバウディオサイドAとステビオサイドとの重量比(Reba A/Stev)」が、当該工程(a)および(b)に供される直前の溶離液中の「レバウディオサイドAとステビオサイドとの重量比(Reba A/Stev)」よりも大きいことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(b)後に、さらに回収された溶離液を逆浸透膜濃縮処理に供する工程を有することを特徴とする、請求項1または2に記載する方法。
【請求項4】
レバウディオサイドAとステビオサイドを含む被験試料が、レバウディオサイドAとステビオサイドを含むステビア抽出物である、請求項1乃至3のいずれかに記載する方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載する方法で精製されてなる、「レバウディオサイドAとステビオサイドとの重量比(Reba A/Stev)」が20以上であることを特徴とする、レバウディオサイドA含有組成物。
【請求項6】
請求項5記載のレバウディオサイドA含有組成物からなる甘味料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−51909(P2011−51909A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200100(P2009−200100)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】