説明

レンズの染色方法及び装置

【課題】レンズにハーフ染色を施す際に、加工後のレンズの縦サイズに応じて最適な染色濃度を与える。
【解決手段】レンズの表面に濃度が連続的に変化する染色を施すレンズの染色方法であって、計算機に眼鏡枠の枠形状データを読み込み(S1)、前記枠形状データから前記眼鏡枠に組み込む加工レンズの縦サイズを演算し(S2)、前記枠形状データを適用する未加工レンズの外径及び幾何学中心の位置を前記計算機に読み込み、前記幾何学中心に前記縦サイズを設定し、前記縦サイズに対応する染色濃度勾配を設定し(S5)、前記計算機が染色装置に前記染色濃度勾配を指令して前記未加工レンズに染色を行う(S6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズの染色方法及び染色装置に関し、特に、眼鏡用のレンズにハーフ染色を施すのに適した方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズを染色する方法としては、未加工レンズの表面に染料被膜を形成した後、加熱処理を施して染料をレンズ内に拡散させて染色する技術や、未加工レンズを染料に浸漬させて染色する技術が知られている。そして、レンズのファッション性を高めるために、染色に連続的な濃度勾配を与えたハーフ染色によりグラディエントレンズ(ハーフカラーレンズ又はぼかしレンズ)を形成する手法も知られている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
これらの技術では、一定の濃度勾配で所定の染色開始位置(レンズ上端部)から染色終了位置(レンズ光学中心の下方)まで連続的に染色を行うものである(図17参照)。
【特許文献1】特開平3−72978号
【特許文献2】特開2004−85587号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では軽量なプラスティックレンズの普及に伴って眼鏡枠の種類も多様となり、加工後のレンズの縦サイズ(Bサイズ)も多様となっている。このため、上記従来技術では染色濃度勾配が一定なため、未加工レンズの状態では、所定の染色濃度勾配が得られてはいるが、図17で示すように、未加工レンズを縦サイズが異なるレンズB1、B2、B3に加工した場合、縦サイズの最も大きいレンズB3では未加工レンズの染色濃度勾配に近いイメージとなるものの、縦サイズの小さいレンズB2、B1では染色濃度の最大値と最小値の幅が狭くなり、特に、縦サイズが最も小さいレンズB1の染色濃度の最大値は光学中心の染色濃度に比して若干濃いだけであり、未加工レンズの染色濃度のイメージからはかけ離れてしまう、という問題があった。
【0005】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、レンズにハーフ染色を施す際に、加工後のレンズの縦サイズに応じて最適な染色濃度を与えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、レンズの表面に濃度が連続的に変化する染色を施すレンズの染色方法であって、計算機に眼鏡枠の枠形状データを読み込み、前記枠形状データから前記眼鏡枠に組み込む加工レンズの縦サイズを演算し、前記枠形状データを適用する未加工レンズの外径及び幾何学中心の位置を前記計算機に読み込み、前記幾何学中心に前記縦サイズを設定し、前記縦サイズに対応する染色濃度勾配を設定し、前記計算機が染色装置に前記染色濃度勾配を指令して前記未加工レンズに染色を行う。
【0007】
また、前記縦サイズに対応する染色濃度勾配を設定する際に、前記縦サイズ内で染色濃度勾配の開始位置と着色終了位置を設定し、前記縦サイズ内での染色の最高濃度を設定し、前記開始位置で前記最高濃度となるように、前記着色終了位置からの染色濃度勾配を設定する。
【発明の効果】
【0008】
したがって、本発明によれば、加工レンズの縦サイズにかかわらず最適な染色濃度範囲を維持することができ、染色済みの未加工レンズと同様の染色濃度分布の加工レンズを得ることができ、装用者に違和感を与えることのない眼鏡用レンズを提供できる。
【0009】
また、着色終了位置や濃度勾配開始位置を任意に変更することができるため、任意のハーフ染色パターンを創作でき、装用者の好み等に合わせたハーフ染色パターンを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は本発明の第1の実施の形態にかかる染色システムの構成を示すブロック図である。
【0012】
図1において、サーバ3はネットワーク5を介して端末コンピュータ5から枠形状測定装置4が測定した眼鏡枠の枠形状データと、端末コンピュータ5で設定した眼鏡枠に装着するレンズの加工に関するレンズ情報を取得し、識別子を付して記憶装置(図示省略)に格納する。このレンズ情報には、染色する色情報と染色濃度情報が含まれる。本実施形態では、端末コンピュータ5で設定する染色濃度情報は、後述する濃度勾配開始位置と着色終了位置及び最高濃度と最低濃度を含むものとする。ただし、最低濃度Dminについては、着色終了位置での染色濃度の段差を防ぐため濃度が0(透過率最大)としてもよい。
【0013】
染色装置1は、制御コンピュータ2の指令に基づいて、未加工レンズにハーフ染色を施す。このため、制御コンピュータ2では、ネットワーク5を介してサーバ3から染色するレンズ情報(染色濃度情報)と枠形状データを読み込んで、未加工レンズに染色を施す位置と染色濃度勾配及び染色する色情報を決定し、染色装置1に染色の実行を指令するハーフ染色制御ソフトウェア20が稼動する。なお、ハーフ染色(またはグラディエント染色)とは未加工レンズ7に着色した染料の濃度(または、光の透過率)が連続的に変化する染色を意味する。本実施形態では、未加工レンズ7の鉛直方向(=Bサイズの鉛直方向)に染色濃度勾配を備えたハーフ染色の場合を示す。
【0014】
なお、色情報は染色装置1が複数の染色を行うことが可能な場合に必要なもので、染色装置1が一色のみで染色を行う場合には、色情報は不要となる。また、枠形状測定装置は例えば、特開平6−47656号で開示されるものや前記特許文献1、2のように、眼鏡枠のレンズ径(縦サイズ=Bサイズ、横サイズ=Aサイズ)及びレンズの幾何学中心を把握可能であればよい。
【0015】
次に、染色装置1の一例として、未加工レンズを染料に浸漬させて染色を施す装置について図2を参照しながら説明する。染色装置1は、所定の染色液11を満たした染浴槽10に、レンズ支持部12に載置された未加工レンズ7を、所定の速度で上下動させて浸漬させて染色を行う。なお、レンズ支持部12は複数の未加工レンズ7を鉛直方向で載置可能に構成され、眼鏡の左右のレンズを同時に染色する。また、レンズ支持部12へ未加工レンズ7を載置する際には、
このため、未加工レンズ7を載置するレンズ支持部12は、ロッド13を介して昇降部14に結合される。昇降部14は、駆動モータ15に駆動されるネジを備えたシャフト16と螺合し、シャフト16の回転によって昇降部14は上下方向に変位する。また、昇降部14は染浴槽10に向けた水平方向に腕部を備え、この腕部がロッド13と結合する。また、ロッド13には、未加工レンズ7をレンズ支持部12へ載置する際に上方へ変位可能であり、染色中は未加工レンズ7を図示のように保持するホルダー131を備える。
【0016】
シャフト16は鉛直方向に立設されており、基端をギアボックス18で支持される。ギアボックス18は水平方向に配置された駆動モータ15の駆動力を、鉛直方向のシャフト16に伝達するウォームギアなどにより構成される。また、ギアボックス18からは昇降部14がシャフト16回りに回転するのを防ぐガイド17が立設されて、昇降部14の所定の箇所がこのガイド17と係合し、ガイド17は昇降部14の上下動を許容し、シャフト16回りの回転を規制する。
【0017】
駆動モータ15は例えばステッピングモータなどで構成され、制御装置19によって駆動されるもので、制御コンピュータ2の指令に応じてレンズ支持部12を上下動する速度及び位置を制御する。
【0018】
なお、染色装置1は、複数の染浴槽10とレンズ支持部12及び駆動モータ15を有し、各染浴槽10の染色液11を異なるものとすることで制御コンピュータ2が選択した染浴槽10で上記色情報に応じた染色を実行することができる。
【0019】
ここで、未加工レンズ7と枠形状データ70について図3を参照しながら説明する。図3は、所定の直径(レンズ径)2rの未加工レンズ7に、枠形状測定装置4が取得した枠形状データ70を重ねたものである。なお、枠形状データ70は未加工レンズに玉摺り加工を施した後のレンズ形状を示し、この形状を以下では加工レンズとする。
【0020】
未加工レンズ7は円形で構成され、円形の幾何学中心7cは鉛直方向と水平方向の径方向でそれぞれrの位置となる。そして、図中幾何学中心7cを通る鉛直方向の軸を鉛直線7vとし、幾何学中心7cを通る水平方向の軸を水平線7hとする。
【0021】
そして、未加工レンズ7の外周の上部で、鉛直線7vと交差する点を最上点7uとし、未加工レンズ7の外周下部で鉛直線7vと交差する点を最下点7dとする。未加工レンズ7に枠形状データ70を重ねたときに、鉛直線7v方向の最大の寸法をBサイズ(縦サイズ)とし、同様に水平線7h方向の最大の寸法をAサイズ(横サイズ)とする。このとき、幾何学中心7cと枠形状データ70の中心を一致させておく。また、枠形状データ70のBサイズは、装用者の目の上下方向であり、Aサイズは装用者の目の水平方向である。
【0022】
未加工レンズ7に重ね合わせる枠形状データ70は、未加工レンズ7の幾何学中心7cに枠形状データ70の中心(幾何学中心)を合わせ、さらに、未加工レンズ7の水平線7hに枠形状データ70の水平線を合わせる。この重ね合わせは、後述のように制御コンピュータ2の染色制御ソフトウェア20上で行われる。
【0023】
未加工レンズ7に染色を施す際に、前記図17の従来例のように、レンズ上方に向かうにつれて染色の濃度を増大させる場合では、図3の最上点7uを染色装置1のレンズ支持部12に向けて載置する。
【0024】
次に、制御コンピュータ2で実行される染色制御ソフトウェア20の処理の一例について、図4のフローチャートを参照しながら以下に説明する。
【0025】
まず、S1では染色を行う未加工レンズ7のレンズ情報及び枠形状データ70をサーバ3から取得する。サーバ3の記憶装置には、識別子(オーダーNoやロットID)等の識別子に対応してレンズ情報及び枠形状データ70が格納されており、制御コンピュータ2のオペレータなどが識別子を指定して上記情報を制御コンピュータ2に読み込む。また、染色を行う未加工レンズ7の直径2r及び幾何学中心の位置7cを未加工レンズ7の形状情報として制御コンピュータ2へ入力しておく。この例では、鉛直線7v方向でr、かつ水平線7h方向でrの位置が幾何学中心7cとなる。
【0026】
S2では、読み込んだ枠形状データ70と未加工レンズ7の直径2rから、図5で示すようにBサイズ(縦サイズ)を演算する。このとき、図3で示したように未加工レンズ7と枠形状データ70の重ね合わせを行い、Bサイズの演算を行う。このBサイズは、図5において、加工後のレンズの鉛直線7v方向における最大寸法を示し、眼鏡枠の縦方向サイズである。Bサイズの演算は公知の手法(例えば、上記特開平6−47656号)を用いればよい。
【0027】
また、最初に染色液11に浸漬される点を鉛直線7v上方の最上点7uとし、この最上点7uを基準点Oとする。
【0028】
S3、S4では染色濃度情報から濃度勾配開始位置と着色終了位置の設定値を読み込んで、未加工レンズ7上の濃度勾配開始位置Sと、着色終了位置Eを演算する。ここで、端末コンピュータ5が設定した濃度勾配開始位置設定値Saは、未加工レンズ7の幾何学中心7cからの鉛直線7v方向の距離で設定されているものとする。同様に、端末コンピュータ5で設定された着色終了位置設定値Eaは未加工レンズ7の幾何学中心7cからの距離で設定されているものとする。なお、端末コンピュータ5が設定した濃度勾配開始位置Saと着色終了位置Eaが共に0の場合には、枠形状データ70から求めたBサイズの全体で染色濃度勾配を設定するものとする。つまり、鉛直線7v方向で、Bサイズの最上点7u側の位置を濃度勾配開始位置Sとし、Bサイズの最下点7d側を着色終了位置Eとする。
【0029】
端末コンピュータ5が設定した濃度勾配開始位置Saからは次式により未加工レンズ7上の濃度勾配開始位置Sを演算する。
【0030】
S=(1/2)×未加工レンズ直径2r−Sa ………(1)
となる。また、Bサイズ全体で染色濃度勾配を設定する場合では、
S=(1/2)×未加工レンズ直径2r−(1/2)×B ………(1’)
となる。
【0031】
端末コンピュータ5が設定した着色終了位置設定値Eaからは次式により未加工レンズ7上の着色終了位置Eを演算する。
【0032】
E=(1/2)×未加工レンズ直径2r+Ea ………(2)
となる。また、Bサイズ全体で染色濃度勾配を設定する場合では、
E=(1/2)×未加工レンズ直径2r+(1/2)×B ………(2’)
となる。
【0033】
S3、S4の処理で、図5に示した未加工レンズ7上の濃度勾配開始位置Sと着色終了位置Eが鉛直線7v方向の位置として設定される。なお、実際の染色では、図5における最上点7u(基準点O)から染浴槽10に浸漬され、基準点Oから濃度勾配開始位置Sの間も染色が施される。
【0034】
次に、図4のS5では染色濃度情報から最高濃度Dmaxと最低濃度Dminを読み込んで、上記濃度勾配開始位置Sと着色終了位置Eに基づいて、未加工レンズ7に着色する染色濃度勾配を求める。ここでは、最低濃度Dminを濃度=0(透過率最大)に固定値した例を示す。そして、未加工レンズ7の最上点7u側の染色濃度を高くし、未加工レンズ7の最下点7d側の染色濃度を低くする場合、濃度勾配開始位置Sに最高濃度Dmaxを関連付け、着色終了位置Eに最低濃度Dminを対応付ける。
【0035】
濃度勾配開始位置Sと着色終了位置Eが決まり、さらに各位置での濃度が決まると、染色濃度勾配を決定することができる。例えば、着色終了位置Eの最低濃度Dminを基準にして、未加工レンズ7内の複数の予め設定したレンズ位置における染色濃度のパターンを複数設定しておき、これら複数のパターンから1つを選択することで染色濃度勾配パターンを決定することができる。
【0036】
あるいは、濃度勾配開始位置Sと着色終了位置Eの各染色濃度から演算にて染色濃度勾配を求めることができる。
この場合の染色濃度勾配Lは、
L=(Dmax−Dmin)/(着色終了位置E−濃度勾配開始位置S) …(3)
となる。但し、染色濃度(最高濃度Dmax、最低濃度Dmin)は、透過率等で表すことができ、この場合上記(3)式を、(Dmin−Dmax)と置き換えればよい。
【0037】
例えば、眼鏡枠の枠形状データ70として図6(A)〜(C)のようにBサイズが異なるレンズに対応して未加工レンズ7に染色する例を示す。図6(A)は最もBサイズ(B1)が小さい枠形状データ70を示し、(C)は最もBサイズ(B3)が大きい枠形状データ70で、(B)はB1とB3の中間となるBサイズ(B2)の枠形状データ70である。
【0038】
これらの3つのBサイズ(B1〜B3)を備えた枠形状データ70についてBサイズ全体についてハーフ染色を施す場合、上記S3、S4で求めた濃度勾配開始位置Sと着色終了位置Eは、上記(1’)式と(2’)式よりBサイズ=B1の未加工レンズ7の濃度勾配開始位置をS1、着色終了位置をE1とし、Bサイズ=B2の未加工レンズ7の濃度勾配開始位置をS2、着色終了位置をE2とし、Bサイズ=B3の未加工レンズ7の濃度勾配開始位置をS3、着色終了位置をE3とする。
【0039】
B1〜B3のBサイズの未加工レンズ7に同一の最高濃度Dmaxを与えた場合、未加工レンズ7の鉛直線7v方向の位置に対する染色濃度の関係は、上記(3)式から求めた染色濃度勾配L(L1〜L3)により図7のようになる。なお、図7において、レンズ位置は、図中0が図3の最下点7dの位置に対応し、図中2rが最上点7uに対応する(以下同様)。
【0040】
すなわち、Bサイズ=B1の染色濃度勾配はL1となり、Bサイズ=B2の染色濃度勾配はL2、Bサイズ=B3の染色濃度勾配はL3となり、各染色濃度勾配は、L1>L2>L3となる。
【0041】
そして、B1〜B3のBサイズの各レンズでは、各濃度勾配開始位置S1〜S3の染色濃度は最高濃度Dmaxに一致し、着色終了位置E1〜E3の最低濃度は0で一致し、Bサイズの大小にかかわらず、同一の染色濃度範囲を付与することができるのである。
【0042】
また、Bサイズの全域で染色濃度勾配を与える場合には、Bサイズ毎に染色濃度勾配パターン(例えば、図7の染色濃度勾配L1〜L3)を設定しておき、Bサイズと未加工レンズ7の外径が決まれば、自動的に染色濃度勾配パターンを決定してもよい。
【0043】
また、図7のようなBサイズ毎に着色終了位置Eの染色濃度を0とした複数の染色濃度勾配パターンL1〜L3を予め設定しておく場合では、Bサイズと着色終了位置Eを与えて自動的に染色濃度勾配パターンを決定するようにしてもよい。
【0044】
次に、図4のS6では、上記S5で得られた染色濃度勾配L(L2〜L3)を、染色装置1の駆動モータ15の駆動パターンに変換する。そして、得られた駆動パターンを染色装置1に指令して染色を開始させる。なお、このとき染色装置1が複数の染浴槽10を備える場合には、駆動パターンに色情報を付加して使用する染浴槽10を指定すればよい。
【0045】
染色濃度勾配L(L2〜L3)から駆動モータ15の駆動パターンへの変換は、未加工レンズ7を染浴槽10に浸漬している時間に応じて染色濃度が決まることから、使用する染色液11の特性に応じて、各レンズ位置における浸漬時間を演算する。
【0046】
この結果、図7で得られた染色濃度勾配L1〜L3は、図8に示すように染色液11の特性に応じたレンズ位置と浸漬時間の特性T1〜T3に変換される。そして、駆動モータ15の駆動パターンは、図8の特性T1〜T3を、駆動モータ15の回転速度(またはレンズ支持部12の昇降速度)とレンズ位置の関係に変換する。つまり、浸漬時間の大きいレンズ位置では駆動モータ15の回転速度を遅く設定し、浸漬時間の短いレンズ位置では駆動モータ15の回転速度が速くなるように演算する。なお、この演算はギアボックス18のギア比やレンズ支持部12と染色液11の液面までの位置関係など染色装置1に固有のパラメータを用いて演算すればよい。
【0047】
この結果、浸漬時間の特性T1〜T3は、上述の演算により、図9で示すように駆動モータ15の速度のパターン(駆動パターン)M1〜M3に変換される。そして、選択した枠形状データ70に対応する駆動パターンMを染色装置1の制御装置19に送信して、染色を実行する。
【0048】
以上の制御により、所望の濃度勾配開始位置Saと着色終了位置Ea及び最高濃度Dmaxと最低濃度Dminを設定しておけば、枠形状データ70から求めたBサイズと未加工レンズ7の直径2rに応じて最適な染色濃度分布を持つレンズを得ることができる。
【0049】
そして、図6、図7で示したように、Bサイズの大小にかかわらず染色濃度範囲を維持することができるため、染色を施した未加工レンズ7と同一のイメージで、加工後(玉摺り後)のレンズの濃度範囲を維持することが可能となる。
【0050】
これに対して前記従来例では、図18で示すように、Bサイズが最も小さいB1の染色濃度範囲は図中Dmax1〜Dmin1と最も狭くなり、Bサイズが最も大きいB3の染色濃度範囲は図中Dmax3〜Dmin3=0と最も広くなり、未加工レンズ7から玉摺り工程により加工を行うと、Bサイズの差異に応じて染色濃度範囲がずれてしまい、違和感を生じる。
【0051】
本発明は、以上のように、単一の染色濃度勾配で未加工レンズ7の染色を行う欠点を克服し、Bサイズにかかわらず最適な染色濃度範囲を維持することができ、染色済みの未加工レンズ7と同様の染色濃度分布の加工レンズを得ることができ、装用者に違和感を与えることのない眼鏡用レンズを提供できる。
【0052】
また、着色終了位置Eや濃度勾配開始位置Sを任意に変更することができるため、任意のハーフ染色パターンを創作できる。例えば、同一のBサイズの枠形状データ70であっても、着色終了位置Eを変更することで装用者の好み等に合わせたハーフ染色パターンを提供できる。この一例を図10、図11に示す。
【0053】
図10は同一のBサイズの枠形状データ70に対して、着色終了位置EをE1〜E3に変更する場合を示す。(A)はBサイズ(B1)全体で染色濃度勾配をつける場合で、(B)はBサイズの下端と幾何学中心の間に着色終了位置E2を設定した場合、(C)は幾何学中心に着色終了位置E3を設定した場合を示す。また、図10の各着色終了位置E1〜E3に対応するレンズ位置と染色濃度の関係は、図11示すようになる。
【0054】
図10(A)では、図6の(A)と同様にBサイズの全域で染色濃度勾配を与えている。図10(B)では、加工後のレンズの下端から下部中央の着色終了位置E2までは染色濃度=0となり、図10(B)では、加工後のレンズの下端から下部中央の着色終了位置E2までは染色濃度=0となり、異なるイメージのハーフ染色パターンを提供できる。
【0055】
あるいは、最高濃度Dmaxや最低濃度Dminを任意に変更して異なるイメージのハーフ染色パターンを創作できる。例えば、図12のように最高濃度DmaxをDmax1、2、3(但し、Dmax1>Dmax2>Dmax3)に変更すると、染色濃度範囲が異なるハーフ染色パターンを提供することができ、装用者の好み等に応じて適宜変更することが可能となる。
【0056】
また、実際に染色が必要な範囲は、Bサイズの範囲であるので、図13で示すように未加工レンズ7が染色液11に浸漬を開始する位置(2r=図5の最上点7u)から濃度勾配開始位置Sまでは、後の玉摺り工程で切除されるので、染色濃度を管理する必要がない部分である。したがって、未加工レンズ7が浸漬を開始する位置から濃度勾配開始位置Sまでの駆動モータ15の速度を最大(=染色濃度は0)に設定することで、染色工程のタクトタイムを短縮して生産性を向上させることが可能となる。
【0057】
<第2実施形態>
図14は第2の実施形態を示す眼鏡用レンズである。図14において眼鏡枠72は左右の加工レンズ71L、71Rを眼鏡枠72へ組み付けた状態を示す正面図である。
【0058】
眼鏡枠72は左右の加工レンズ71を保持する水平方向の中間の位置を眼鏡枠中心72cとする。なお、加工レンズを単体で指定するときには左目用の加工レンズ71L、右目用の加工レンズ71Rとし、左右一対の加工レンズを示すときには加工レンズ71と記載する。また、加工レンズ71は未加工レンズ7に玉摺り工程を施したレンズを示す。
【0059】
左目用の加工レンズ71Lは眼鏡枠中心72c側に染色濃度が低い(透過率=高)明部72を備え、眼鏡枠中心72cから遠ざかるにつれて染色濃度が連続的に高くなり、眼鏡枠72の外側となる加工レンズ71Lには染色濃度が高い暗部73が形成される。つまり、左目用の加工レンズ71Lの染色濃度勾配は眼鏡枠の中心72c側から外側に向けて徐々に高くなるよう着色される。
【0060】
右目用加工レンズ71Rは、左目用の加工レンズ71Lとは逆の染色濃度勾配を有しており、右目用の加工レンズ71Rは眼鏡枠中心72c側に染色濃度が低い(透過率=高)明部72を備え、眼鏡枠中心72cから遠ざかるにつれて染色濃度が連続的に高くなり、眼鏡枠72の外側となる加工レンズ71Rには染色濃度が高い暗部73が形成される。つまり、右目用の加工レンズ71Rの染色濃度勾配は眼鏡枠の中心72c側から外側に向けて徐々に高くなるよう着色される。
【0061】
左右の加工レンズ71は水平方向でハーフ染色を施したもので、眼鏡枠中心72c側で染色濃度を低くすることで装用者の視界の明るさを確保し、眼鏡枠72の外側の染色濃度を高くすることで、装用者の目尻近傍の皺を視認しにくくする。これにより、高齢の装用者等の美意識を高めることができる。
【0062】
つまり、加工レンズ71を通して装用者の目の周囲が拡大されるため、高齢の装用者では目尻近傍の皺などが拡大されてしまうのを嫌う傾向がある。このため加工レンズ71全体に染色を施すことも可能ではあるが、視野の明度が低下するため全体的な染色を嫌う傾向がある。このような問題を解決するために、眼鏡枠中心72c側で染色濃度を低くし、眼鏡枠72の外側の染色濃度を高くする染色を施すことで、高齢者などの装用者に好適な眼鏡用レンズを提供できるのである。
【0063】
このような、眼鏡枠72の水平方向に沿ったハーフ染色は、前記第1実施形態の図1、図2に示したシステム及び装置を用いて染色を行うことができる。
【0064】
この場合、端末コンピュータ5が設定した濃度勾配開始位置設定値Sa及び濃度勾配開始位置S、着色終了位置設定値Ea及び着色終了位置Eは、未加工レンズ7の幾何学中心7cからの水平線7h方向の距離で設定されているものとする。
【0065】
すなわち、図15において、未加工レンズ7の外周で、幾何学中心7cを通る水平線7hと交差する図中右側の点7iとし、水平線7hと交差する図中左側の点を点7oとする。未加工レンズ7に枠形状データ70を重ねたときに、水平線7h方向の最大の寸法をAサイズ(横サイズ)とし、このAサイズ方向で濃度勾配開始位置Sと着色終了位置Eを設定する。そして、前記第1実施形態と同様の処理でハーフ染色を行うことで、水平方向に染色濃度勾配を備えた加工レンズ71を得ることができる。ただし、前記第1の図4のS2では、Bサイズに代わってAサイズを求めるものとする。また、前記第1実施形態において染色濃度勾配を決定する際のBサイズの記載を、Aサイズに置き換えればよい。
【0066】
そして、染色濃度勾配は図16で示すように、前記第1実施形態の鉛直方向のハーフ染色と同様に、Aサイズの大きさ(A>A2>A1)にかかわらず等しい染色濃度範囲を確保することができるのである。また、第1実施形態に示した作用効果を得ることができる。
【0067】
なお、上記各実施形態では、染浴槽10に未加工レンズ7を浸漬させる例を示したが、前記従来例に示したように、未加工レンズの表面に染料被を施した後、加熱処理を施して染料をレンズ内に拡散させて染色する染色装置に適用しても良く、同様の作用効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上のように、本発明によれば、ファッション性の高いハーフ染色のレンズを提供できるので、眼鏡用レンズに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1実施形態を示す染色システムのブロック図。
【図2】染色装置の構成を示す概略図。
【図3】未加工レンズと枠形状データの関係を示す説明図。
【図4】制御コンピュータ実行される染色制御ソフトウェアの処理の一例を示すフローチャート。
【図5】染色の濃度勾配範囲を示す説明図。
【図6】Bサイズに応じた濃度勾配開始位置Sと着色終了位置Eの関係を示す説明図で、(A)は最も小さいBサイズ(B1)の場合を示し、(B)は中間のBサイズ(B2)の場合を示し、(C)は最も大きいBサイズ(B3)の場合を示す。
【図7】各Bサイズ(B1〜B3)毎のレンズの位置に対する染色濃度の関係を示すグラフ。
【図8】各Bサイズ(B1〜B3)毎のレンズの位置に対する浸漬時間の関係を示すグラフ。
【図9】各Bサイズ(B1〜B3)毎のレンズの位置に対する駆動モータの速度の関係を示すグラフ。
【図10】同一のBサイズで着色終了位置Eが異なる場合の未加工レンズ7と加工レンズの関係を示す説明図で、(A)はBサイズの全域で染色濃度勾配を設ける場合を示し、(B)は加工レンズの下部の中程(E2)から最上点へ向けて染色濃度勾配を設ける場合を示し、(C)は幾何学中心(E3)から最上点へ向けて染色濃度勾配を設ける場合を示す。
【図11】各着色終了位置(E1〜E3)毎のレンズの位置に対する染色濃度の関係を示すグラフ。
【図12】最高濃度Dmaxを変化させた場合のレンズの位置に対する染色濃度の関係を示すグラフ。
【図13】濃度勾配開始位置までのモータの速度を高く設定する場合のレンズの位置に対するモータの速度の関係を示すグラフ。
【図14】第2の実施形態を示し、水平方向でハーフ染色を施した加工レンズを組み付けた眼鏡枠の正面図。
【図15】未加工レンズと枠形状データの関係を示す説明図。
【図16】各Aサイズ(A、A1、A2)毎のレンズの位置に対する染色濃度の関係を示すグラフ。
【図17】従来例を示し、Bサイズに応じた染色濃度範囲を示す説明図。
【図18】従来例を示し、各Bサイズ(B1〜B3)毎のレンズの位置に対する染色濃度の関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0070】
1 染色装置
2 制御コンピュータ
4 枠形状測定装置
7 未加工レンズ
10 染浴槽
11 染色液
20 染色制御ソフトウェア
70 枠形状データ
71 加工レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズの表面に濃度が連続的に変化する染色を施すレンズの染色方法であって、
計算機に眼鏡枠の枠形状データを読み込む工程と、
前記枠形状データから前記眼鏡枠に組み込む加工レンズの縦サイズを演算する工程と、
前記枠形状データを適用する未加工レンズの外径及び幾何学中心の位置を前記計算機に読み込む工程と、
前記幾何学中心に前記縦サイズを設定する工程と、
前記縦サイズに対応する染色濃度勾配を設定する工程と、
前記計算機が染色装置に前記染色濃度勾配を指令して前記未加工レンズに染色を行う工程と、
を含むことを特徴とするレンズのハーフ染色方法。
【請求項2】
前記縦サイズに対応する染色濃度勾配を設定する工程は、
前記縦サイズと未加工レンズの外径及び幾何学中心の位置から染色濃度の変化が開始される染色濃度勾配の開始位置を設定することを特徴とする請求項1に記載のレンズのハーフ染色方法。
【請求項3】
前記縦サイズに対応する染色濃度勾配を設定する工程は、
前記縦サイズ内で染色濃度勾配の開始位置と着色終了位置を設定する工程と、
前記縦サイズ内での染色の最高濃度を設定する工程と、
前記開始位置で前記最高濃度となるように、前記着色終了位置からの染色濃度勾配を設定する工程と、
を含むことを特徴とする請求項2に記載のレンズのハーフ染色方法。
【請求項4】
前記縦サイズに対応する染色濃度勾配を設定する工程は、
予め設定した染色濃度勾配パターンから前記縦サイズに応じて何れかの染色濃度勾配パターンを選択することを特徴とする請求項2または請求項3に記載のレンズのハーフ染色方法。
【請求項5】
未加工レンズの表面に染色を施す染色装置と、
前記染色装置に染色濃度勾配を指令して、前記未加工レンズに染色濃度が連続的に変化するハーフ染色を施す制御計算機と、を備えたレンズの染色システムにおいて、
前記制御計算機は、
眼鏡枠の枠形状データを取得する枠形状データ取得部と、
前記枠形状データを適用する未加工レンズの外径及び幾何学中心の位置を設定する未加工レンズ情報設定部と、
前記枠形状データから前記眼鏡枠に組み込む加工レンズの縦サイズを演算する縦サイズ演算部と、
前記未加工レンズの幾何学中心に前記加工レンズの縦サイズを設定し、前記縦サイズに対応する染色濃度勾配を設定する染色濃度勾配設定部と、
前記染色濃度勾配を前記染色装置に指令して前記未加工レンズの染色を開始する染色指令部と、
を備えたことを特徴とするレンズの染色システム。
【請求項6】
眼鏡枠に組み込まれる眼鏡用レンズにおいて、
前記眼鏡用レンズは、
前記眼鏡枠の中心側に染色濃度の低い明部と、
前記眼鏡枠の外側に染色濃度の高い暗部と、
を備え、
眼鏡枠の水平方向で前記明部から暗部に向けて染色濃度が連続的に変化する染色を施したことを特徴とする眼鏡用レンズ。
【請求項7】
レンズの表面に濃度が連続的に変化する染色を施すレンズの染色方法であって、
計算機に眼鏡枠の枠形状データを読み込む工程と、
前記枠形状データから前記眼鏡枠に組み込む加工レンズの横サイズを演算する工程と、
前記枠形状データを適用する未加工レンズの外径及び幾何学中心の位置を前記計算機に読み込む工程と、
前記幾何学中心に前記横サイズを設定する工程と、
前記縦サイズに対応する染色濃度勾配を設定する工程と、
前記計算機が染色装置に前記染色濃度勾配を指令して前記未加工レンズに染色を行う工程と、
を含むことを特徴とするレンズのハーフ染色方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図16】
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【図18】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−34203(P2007−34203A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−221243(P2005−221243)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】