説明

レンズ装置

【課題】本発明は、赤外カットフィルタ等の所定波長域の光を透過又はカットするフィルタを光路に対して進退移動させることなく使用可能なレンズ装置を提供する。
【解決手段】本発明は、IRカットフィルタ102を、絞り羽根50、52の小絞り開口92に対応する大きさに形成し、これを絞り羽根50、52の近傍で小絞り開口92に対向して配置する。昼間撮影時には、絞り機構16を小絞り開口92に設定する。これにより、小絞り開口92を通過した全ての光の赤外光がIRカットフィルタ102によってカットされる。一方で夜間撮影時には、絞り開口92を全開放する。これにより、絞り開口92を通過する光の一部はIRカットフィルタ102を通過し、一部の光の赤外光がIRカットフィルタ102によってカットされるものの、そのカットされる光量は全通過光量の極一部であるため、問題なく夜間撮影を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレンズ装置に係り、特に監視カメラ用のレンズ装置であって、昼光の可視光波長域から夜光の近赤外波長域までの波長域で使用可能なデイナイト(昼夜兼用)監視カメラ用のレンズ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
監視カメラは、カメラ本体に設けられた撮像素子の結像面に昼間は可視光領域の光を結像させてカラー撮影を行い、夜間は可視光領域の光に加えて近赤外波長域の光を結像させてモノクロ撮影を行い、TVモニタに監視像を映し出す。
【0003】
一般にレンズ装置の光学系は、使用される波長域に応じて設計され、それ以外の波長域で使用されると、色収差の影響で結像位置にずれが生じる。このため、昼光の可視光波長域(400nm〜700nm程度)と夜光の近赤外波長域(700nm〜1000nm程度)の両方の波長域で使用される監視カメラ用のレンズ装置は、使用される波長域に応じて結像位置を補正する必要がある。
【0004】
そこで従来では、昼光における結像位置のずれを補正する赤外カットフィルタ(IRカットフィルタ)を、レンズ装置の光学系と撮像素子との間に配置するとともに光学系の光路に対して直交する平面内で進退移動自在に設けたレンズ装置が知られている。また、夜間撮影時には、IRカットフィルタを光学系の光路から退避させるとともに、光路長を調整する所定厚さの透光性平行平面板を光学系の光路に挿入することにより、焦点位置を撮像素子の結像面に一致させるレンズ装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
図9は、IRカットフィルタ進退構造の一例を示した模式図である。同図はレンズ鏡胴1の後端部を示した図であり、IRカットフィルタ2は、矩形状の保持枠3の円形開口部3Aに保持されている。また、この開口部3Aに隣接した開口部3Bには、光路長を調整する透光性平行平面板4が取り付けられている。保持枠3は、レンズ装置の鏡胴1内の円筒空間において撮影光学系5の光軸Pと直交する面内でスライド移動自在に設けられている。図9の状態は、撮影光学系5の光路上に透光性平行平面板4が位置されており、夜間撮影の状態が示されている。この状態から昼光用に切り替える場合には、保持枠3を矢印A方向にスライド移動させ、IRカットフィルタ2を前記光路上に位置させる。
【特許文献1】特開2002−250864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、IRカットフィルタ2を撮影光学系5の光路に対して進退移動させる前記従来のレンズ装置は、IRカットフィルタ2や透光性平行平面板4を使用し、交互に切り替えるためのメータが必要であり、その他多数の機構部品で構成されるため、レンズ装置自体が大型で重量物になり、高価なものになるという欠点があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、赤外カットフィルタ等の所定波長域の光を透過又はカットするフィルタを光路に対して進退移動させることなく使用することができるレンズ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記目的を達成するために、レンズと絞り部材とがレンズ鏡胴に保持されたレンズ装置において、所定波長域の光をカット又は透過するフィルタが、前記絞り部材の小絞り開口に対応する大きさに形成されるとともに前記絞り部材の近傍で前記小絞り開口に対向して配置されたことを特徴としている。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、所定波長域の光をカット又は透過するフィルタを、絞り部材の小絞り開口に対応する大きさに形成し、これを絞り部材の近傍で小絞り開口に対向して配置した。本発明のレンズ装置は、所定波長域の光をカット又は透過するというフィルタ効果を得たい場合には、絞り部材を小絞り開口に設定する。これにより、小絞り開口を通過した光は、小絞り開口に近接配置されたフィルタに全て通過するので、フィルタ効果を得ることができる。一方でフィルタ効果を得たくない場合には、絞り開口を全開放する。これにより、絞り開口を通過する光の一部はフィルタを通過するものの、その光量は全通過光量の極一部であるため、フィルタ効果を受けない通常撮影が可能となる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記フィルタは、可視光波長域の光を透過し、近赤外波長域の光をカットする赤外カットフィルタであることを特徴としている。請求項2に記載の発明は、デイナイトで使用される監視カメラ用レンズ装置を対象とした発明であり、すなわち、昼間撮影時には、絞り部材を小絞り開口に設定する。これにより、小絞り開口を通過した全ての光の赤外光が赤外カットフィルタによってカットされるので、問題なく昼間撮影を行うことができる。一方で夜間撮影時には、絞り開口を全開放する。これにより、絞り開口を通過する光の一部はフィルタを通過し、一部の光の赤外光がカットされるものの、そのカットされる光量は全通過光量の極一部であるため、問題なく夜間撮影を行うことができる。結像面における結像位置のずれは、赤外カットフィルタがコーティングされた透明プラスチック製又は透明樹脂製のフィルムの厚みによって補正することができ、また、小絞りによって深くなる焦点深度を利用して補正することもできる。すなわち、夜間撮影時における結像位置を基準として設定しておけば、焦点深度が深い昼間撮影に切り替えた場合でも、透光性平行平面板のようなピント補正部材を挿入することなくピントが合う。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記フィルタは、前記絞り部材に近接する前記レンズに取り付けられていることを特徴としている。このように絞り部材に近接するレンズにフィルタを取り付けることにより、フィルタ取付専用の部材が不要になり、部品点数を削減でき、小型軽量で廉価なレンズ装置を提供できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るレンズ装置によれば、所定波長域の光をカット又は透過するフィルタを、絞り部材の小絞り開口に対応する大きさに形成し、これを絞り部材の近傍で小絞り開口に対向して配置したので、所定波長域の光を透過又はカットするフィルタを光路に対して進退移動させることなく使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面に従って本発明に係るレンズ装置の好ましい実施の形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明に係るレンズ装置が適用された監視カメラ用レンズ鏡胴10の構成を示した断面図である。
【0015】
同図に示すレンズ鏡胴10は前部固定筒12、後部固定筒14、及び絞り機構(絞り部材)16等から構成され、前部固定筒12と後部固定筒14との間に絞り機構16が挟み込まれた状態で、前部固定筒12、後部固定筒14、及び絞り機構16が図示しないネジにより締結されることにより組み立てられている。後部固定筒14の後側には、雄ねじ18Aが形成されたマウント環18が配置され、このマウント環18を介してレンズ鏡胴10がカメラ本体(不図示)のマウント部に着脱自在に取り付けられる。
【0016】
前部固定筒12内には、レンズ枠22に保持されたフォーカスレンズ20が配置される。レンズ枠22の外周面には係合部24、24が突設され、一方、前部固定筒12には光軸方向に直進溝12A、12Aが形成されている。レンズ枠22の係合部24、24が前部固定筒12の直進溝12A、12Aに係合されることにより、レンズ枠22とともにフォーカスレンズ20が直進溝12Aにガイドされて光軸方向に直進移動される。
【0017】
前部固定筒12の外周面にはフォーカスリング26が回動可能に配置され、このフォーカスリング26の内周面にはカム溝26A、26Aが形成されている。レンズ枠22の係合部24、24にはカムピン24A、24Aが突設され、このカムピン24A、24Aがフォーカスリング26のカム溝26A、26Aに係合されている。したがって、フォーカスリング26を回動操作すると、フォーカスリング26のカム溝26A、26Aと前部固定筒12の直進溝12A、12Aとの交差位置が光軸方向に変位するとととに、その交差位置に従ってレンズ枠22とともにフォーカスレンズ20が光軸方向に変位するので、フォーカスレンズ20が光軸方向に前後移動されてピント調整が行われる。
【0018】
フォーカスリング26には、外周面から内周面まで貫通するネジ孔26Bが形成されている。このネジ孔26Bにツマミ28のネジ部28Aがねじ込まれてフォーカスリング26にツマミ28が取り付けられている。操作者は、このツマミ28を利用してフォーカスリング26を回動操作することもできる。また一方でツマミ28のネジ部28Aをねじ込んでネジ部28Aの先端を前部固定筒12の周面に押し当てることにより、フォーカスリング26を所望のピント調整位置で固定しておくこともできる。この後、フォーカスリング26を回動操作する際には、ツマミ28を緩めればよい。
【0019】
後部固定筒14内には、レンズ枠32に保持されたズームレンズ30が配置される。レンズ枠32には係合部34、34が突設され、一方、後部固定筒14には光軸方向に直進溝14A、14Aが形成されている。レンズ枠32の係合部34、34が後部固定筒14の直進溝14A、14Aに係合されることによってレンズ枠32とともにズームレンズ30が、直進溝14A、14Aにガイドされて光軸方向に直進移動される。
【0020】
後部固定筒14の外周面にはズームリング36が回動可能に配置され、このズームリング36の内周面にはカム溝36A、36Aが形成されている。また、ズームリング36の後端面には環状の凹部36Cが形成され、この凹部36Cにマウント環18の前端面に形成された環状の凸部18Bが挿入される。マウント環18は、後部固定筒14にネジ37により固定される。
【0021】
レンズ枠32の係合部34、34にはカムピン34A、34Aが突設され、このカムピン34A、34Aがズームリング36のカム溝36A、36Aに係合される。したがって、ズームリング36を回動操作すると、ズームリング36のカム溝36A、36Aと後部固定筒14の直進溝14A、14Aとの交差位置が光軸方向に変位するとともに、その交差位置に従ってレンズ枠32とともにズームレンズ30が光軸方向に変位するので、ズームレンズ30が光軸方向に前後移動されて焦点距離が調整される。
【0022】
また、ズームリング36には、外周面から凹部36Cまで貫通するネジ孔36Bが形成されている。このネジ孔36Bにツマミ38のネジ部38Aがねじ込まれてズームリング36にツマミ38が取り付けられている。操作者は、このツマミ38を利用してズームリング36を回動操作することもできる。また一方でツマミ38のネジ部38Aをねじ込んでネジ部38A先端を凹部36Cに挿入されたマウント環18の凸部18Bに押し当てることにより、ズームリング36を所望の焦点距離調整位置で固定しておくこともできる。この後、ズームリング36を回動操作する際には、ツマミ38を緩めればよい。
【0023】
なお、直進溝12A、係合部24、カムピン24A、カム溝26A、直進溝14A、係合部34、カムピン34A、カム溝36Aは、それぞれ図中上下に2箇所に配置されているが、例えば円周3等分した3箇所に配置することにより安定したレンズ20、30の移動を行うことができる。
【0024】
ところで、絞り機構16は、図1、図2に示すように2枚の絞り羽根50、52、絞り羽根50、52をズームレンズ30側で保持するとともに絞り機構16をレンズ鏡胴10に装着保持するための保持枠54、及び絞り羽根50、52をフォーカスレンズ20側から保持枠54に向けて押さえる押え板56等の部材により構成される。
【0025】
また、押え板56には、IRカットフィルタ(フィルタ)が蒸着されたフィルム100が接着されている。このフィルム100については後述する。
【0026】
保持枠54には、絞り羽根50、52を開閉動作させるための駆動機構を装着保持する保持部58が一体形成され、この保持部58に、不図示の電動用駆動機構又は手動用駆動機構が装着される。電動用駆動機構は絞り羽根50、52をアイリスメータにより開閉動作させるための駆動機構であり、一方、手動用駆動機構は絞り羽根50、52を手動により開閉動作させるための駆動機構である。いずれの駆動機構を絞り機構16の保持部58に装着する場合であっても、絞り機構16を構成する絞り羽根50、52、保持枠54、押え板56等の全ての部材は同一部材で構成される。
【0027】
図3(A)、(B)、(C)はそれぞれ絞り機構16の外観を示した正面図、側面図、及び背面図である。なお、図3においては絞り羽根50、52を省略して示している。
【0028】
保持枠54は、絞り羽根50、52を収納保持する保持枠本体部60と、駆動機構を装着保持する保持部58とから構成される。保持枠本体部60には絞り羽根50、52を収納する空間が前面側に設けられ、その前方に押え板56が配置される。押え板56は、図3に示すようにその両側辺の4箇所で垂直に折り曲げられた曲部62、62…の各孔62A、62A…(図3(B)参照)が保持枠本体部60の各爪63、63…(図3(B)参照)に係止されることにより、保持枠本体部60に固定される。保持枠本体部60と押え板56の中央部には、それぞれレンズ鏡胴10内に入射した被写体光が通過する開口64、66が形成され、この開口64、66の位置において2枚の絞り羽根50、52により光量調整が行われるようになっている。なお、図3(A)、(B)に示すように保持枠本体部60の両側に突設された突片67、67には絞り機構16をレンズ鏡胴10に装着するためのネジ孔67A、67Aが形成されている。また、図3(A)に示すように保持枠本体部60には、絞り羽根50、52の動作を直線運動に規制するための規制ピン90、90…が左右に2本ずつ設けられている。
【0029】
図3(A)で示されるようにIRカットフィルタ102がその中央部に蒸着されたフィルム100は、絞り羽根50、52に近接した位置に配置された押え板56の開口66を閉塞するように押え板56に接着される。このフィルムは、透明のプラスチック製又は透明の樹脂製で作られた薄いフィルムであり、十分な光透過性のあるフィルムである。また、フィルム100は、開口66の中心、すなわちレンズ鏡胴10の光軸にIRカットフィルタ102が位置するように接着されている。
【0030】
保持枠54の保持部58には、保持枠本体部60から前方に突出して配置される保持板68が形成され、その保持板68の背面側における側方及び下方を囲むように側板70が形成される。
【0031】
図2の如く、保持部58には開口72が形成され、保持枠本体部60に配置された絞り羽根50、52の基端部がこの開口72を挿通して、保持板68と側板70で囲まれた空間部74に配置される。
【0032】
保持板68には、図2、図3に示すように4本の爪76、76…が突設されるとともに、図3(A)、(B)に示すように所定径の円に沿って3片の突片78、79、79が突設される。また、図2、図3(A)、(C)に示すように保持板68の中央部に孔80が穿設されるとともに、所定径の円に沿って弧状の長孔82、84が穿設される。また、保持板68に突設された円筒状の部材86、86は、保持部58全体を覆うカバーを装着するための部材である。また、保持板68には、駆動機構の部材を中央部の孔80に嵌合させたときに孔80の歪を吸収する矩形状の孔87、87…が形成されている。
【0033】
絞り羽根50、52はそれぞれ図4(A)の如く構成される。絞り羽根50には、絞り開口を形成するための所定形状の切欠き50Aが形成されるとともに、保持枠本体部60の2本の規制ピン90、90と係合する直進溝50B、50Bと、駆動ピンと係合する長溝50Cが穿設される。同様に、絞り羽根52には、絞り開口を形成するための所定形状の切欠き52Aが形成されるとともに、保持枠本体部60の3本の規制ピン90、90、90と係合する直進溝52B、52B、52Bと、駆動ピンと係合する長溝52Cが穿設される。これらの絞り羽根50、52は、図4(B)に示すように上下に重ね合わされて保持枠54に配置され、絞り羽根50の切欠き50Aと絞り羽根52の切欠き52Aにより絞り開口92の輪郭が形成される。
【0034】
図5(A)、(B)は、保持枠54と保持枠54に配置した絞り羽根50、52との位置関係を示した正面図及び背面図である。これらの図に示すように絞り羽根50、52により形成される絞り開口92は、保持枠54の保持枠本体部60に形成された開口64の位置に配置され、絞り羽根50、52の長溝50C、52Cが形成された基端部は保持部58の空間部74に配置される。絞り羽根50、52の各直進溝50B、52Bは、それぞれ保持枠本体部60の対応した位置の規制ピン90と係合され、絞り羽根50、52は、紙面上下方向の往復動作のみに規制される。また、絞り羽根50、52の基端部に形成された長溝50C、52Cはそれぞれ、保持板68の弧状の長孔82、84に対抗する位置に配置される。各長溝50C、52Cに係合する駆動ピンは、電動用駆動機構と手動用駆動機構のいずれの場合でも長孔82、84に沿って駆動機構により揺動され、その駆動ピンが揺動することによって、駆動ピンに連動して絞り羽根50、52が図中上下方向に往復動作する。
【0035】
図6(A)、(B)、(C)は、駆動機構による駆動ピンの動作と、絞り羽根50、52の開閉動作を示した図であり、同図には、絞り羽根50、52、駆動ピン94、96の他、保持枠54における保持枠本体部60の開口64及び規制ピン90、90…と、保持部58の孔80及び長孔82、84が示されている。駆動ピン94、96は、孔80の中心位置Pに対して対象の位置に配置されるとともに、中心位置Pを軸として駆動ピン94と駆動ピン96が連動して回動する。駆動ピン94、96が図中反時計回りに回動し、図6(A)に示す端位置に移動した場合には、絞り羽根50が紙面上方に移動する一方、絞り羽根52が紙面下方に移動し、絞り開口92は閉鎖される。これによって、保持枠本体部60の開口64は遮蔽され、被写体光が通過しない状態となる。
【0036】
一方、図6(A)の状態から駆動ピン94、96が図中時計回りに回動し、図6(B)に示す中間位置に向かって移動すると、絞り羽根50が紙面上方に向かって移動する一方、絞り羽根52が紙面下方に向かって移動し、絞り開口92が広がっていく。更に、駆動ピン94、96が図中時計回りに回動し、図6(C)に示す端位置に移動すると、絞り開口92が最大となり、保持枠本体部60の開口64全体を被写体光が通過できる状態となる。なお、図4〜図6には、IRカットフィルタ102が蒸着されたフィルム100を省略している。
【0037】
図7(A)は、絞り羽根50、52の全開放(例えばF1.6)時における絞り開口92とフィルム100に蒸着されたIRカットフィルタ102との位置関係を示した図であり、図7(B)は、絞り羽根50、52の小絞り(例えばF4.0)時における小絞り開口92とIRカットフィルタ102との位置関係を示した図である。
【0038】
IRカットフィルタ102は、フィルム100の中央部に円形状に蒸着され、その径は、図7(A)で示した全開放の絞り開口92の径に対して約10%であり、且つ、図7(B)で示した小絞り開口92の大きさと略同じ大きさに形成され、小絞り開口92を通過した全ての光がIRカットフィルタ102を洩れなく通過するようになっている。
【0039】
次に、前記の如く構成された監視カメラ用レンズ鏡胴10の作用について説明する。
【0040】
まず、このレンズ鏡胴10を昼間時に使用する場合には、取り込む光の赤外光をカットする必要があるため、図7(B)に示すように絞り機構16を小絞りの開口92に設定する。これにより、小絞りの開口92を通過した全ての光の赤外光がIRカットフィルタ102によってカットされるので、問題なく昼間撮影を行うことができる。
【0041】
一方で夜間撮影時には、図7(A)の如く絞り開口92を全開放する。これにより、全開放の絞り開口92を通過する光の一部はIRカットフィルタ102を通過し、一部の光の赤外光がカットされるものの、そのカットされる光量は全通過光量の極一部であるため、問題なく夜間撮影を行うことができる。
【0042】
この際、カメラの結像面における結像位置のずれは、IRカットフィルタ102が蒸着されたフィルム100の厚みによって補正することができ、また、小絞りによって深くなる焦点深度を利用して補正することもできる。すなわち、夜間撮影時における結像位置を基準として設定しておけば、焦点深度が深い昼間撮影に切り替えた場合でも、透光性平行平面板のようなピント補正部材を挿入することなくピントが合う。
【0043】
実施の形態では、絞り羽根50、52に近接する絞り機構16の押え板56にIRカットフィルタ102を取り付けた例を説明したが、これに限定されるものではなく、図1に示すズームレンズ30の絞り機構16側の面に図9の如くIRカットフィルタ102(図7で示したIRカットフィルタ102と同じ大きさのIRカットフィルタ102)をコーティングしてもよい。このように絞り機構16に近接するレンズにIRカットフィルタ102を取り付けることにより、フィルタ取付専用の部材が不要になり、部品点数を削減でき、小型軽量で廉価なレンズ装置を提供できる。
【0044】
なお、実施の形態では、IRカットフィルタ102を必要とする監視カメラ用レンズ装置について説明したが、本発明の思想は、所定波長域の光をカット又は透過するフィルタを、絞り部材の小絞り開口に対応する大きさに形成し、これを絞り部材の近傍で小絞り開口に対向して配置したことにある。本発明のレンズ装置によれば、所定波長域の光をカット又は透過するというフィルタ効果を得たい場合には、絞り部材を小絞り開口に設定する。これにより、小絞り開口を通過した光は、小絞り開口に近接配置されたフィルタに全て通過するので、フィルタ効果を得ることができる。一方でフィルタ効果を得たくない場合には、絞り開口を全開放する。これにより、絞り開口を通過する光の一部はフィルタを通過するものの、その光量は全通過光量の極一部であるため、フィルタ効果のない通常撮影が可能となる。
【0045】
また、本発明のフィルタとしては、軟焦点効果用フィルタ、霧効果用フィルタ、クロスフィルタ、多映効果フィルタ、回折光条効果フィルタ、部分露出調整効果フィルタ、及びPLフィルタ等の特殊フィルタを例示できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施の形態の監視用カメラ用レンズ鏡胴の構成を示した断面図
【図2】図1のレンズ鏡胴に適用された絞り機構の側面図
【図3】図2に示した絞り機構の外観を示した正面図、側面図、及び背面図
【図4】図2に示した絞り機構の絞り羽根の構成及び動作を説明した図
【図5】絞り機構の保持枠と絞り羽根との位置関係を示した図
【図6】駆動機構による駆動ピンの動作と絞り羽根の開閉動作を示した図
【図7】絞り羽根の全開放時及び小絞り時における絞り開口とIRカットフィルタとの位置関係を示した図
【図8】IRカットフィルタがコーティングされたレンズの正面図
【図9】従来のIRカットフィルタ進退構造を示した説明図
【符号の説明】
【0047】
10…レンズ鏡胴、12…前部固定筒、14…後部固定筒、16…絞り機構、20…フォーカスレンズ、30…ズームレンズ、50、52…絞り羽根、56…押え板、100…フィルム、102…IRカットフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズと絞り部材とがレンズ鏡胴に保持されたレンズ装置において、
所定波長域の光をカット又は透過するフィルタが、前記絞り部材の小絞り開口に対応する大きさに形成されるとともに前記絞り部材の近傍で前記小絞り開口に対向して配置されたことを特徴とするレンズ装置。
【請求項2】
前記フィルタは、可視光波長域の光を透過し、近赤外波長域の光をカットする赤外カットフィルタであることを特徴とする請求項1に記載のレンズ装置。
【請求項3】
前記フィルタは、前記絞り部材に近接する前記レンズに取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のレンズ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−78666(P2006−78666A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−261259(P2004−261259)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】