レヴィー小体病におけるαシヌクレインの切断断片
本出願は、リューイ体病(LBD)患者およびその遺伝子導入動物モデルにおいてαシヌクレインの新規断片を明らかにするものである。この疾患はαシヌクレインの凝集を特徴とする。この断片は完全長αシヌクレインのC末端が切断されたものである。一部の断片は、トリシン緩衝液を用いてSDSゲル電気泳動により測定した分子量が約12kDaであり、天然型αシヌクレインのC末端から少なくとも10個のアミノ酸が切断されたものであるという特徴を有する。切断部位は、天然型αシヌクレインの残基(117)の後および残基(126)の前に生じることが好ましい。こうしたαシヌクレインの新規断片の特定には、例えば、創薬、診断、治療、遺伝子導入マウスなどにいくつかの用途がある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は非仮出願であり、あらゆる目的で全文引用により本明細書に組み込まれている2003年5月19日提出の米国特許出願第60/471,929号の利益を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
(背景)
リューイ体病(LDB)の特徴は、ドーパミン作動系の変性、運動性変調、認知障害、およびリューイ体の形成である。(McKeithら,Clinical and pathological diagnosis of dementia with Lewy bodies(DLB):Report of the CDLB International Workshop.Neurology(1996年)47:p1113−24)。LDBとしては、パーキンソン病、瀰漫性リューイ体病(DLBD)、リューイ体型アルツハイマー病(LBV)、およびPDとアルツハイマー病(AD)との併発が挙げられる。リューイ体を有する痴呆(DLB)というのは、LBDについての用語法の相違を調整するために作られた用語である。LBを有する疾患は、依然として、高齢者における運動性疾患および認識力低下に共通する原因となっている。(Galaskoら,Clinical−neuropathological correlations in Alzheimer’s disease and related dementias.Arch.Neurol.(1994年)51:p888−95)。この疾患への罹患率は増加し続けており、深刻な公衆衛生問題を生じているが、今日まで、こうした疾患に対して認可された治療法はない。(Tannerら,Epidemiology of Parkinson’s disease and akinetic syndromes.Curr.Opin.Neurol.(2000年)13:p427−30)。LBDの原因については意見の分かれるところであり、各種の神経毒および遺伝的感受性要因などのさまざまな要因が役割を果たしていると提唱されている。
【0003】
AD、PDおよびDLBDは高齢者において最も一般的に見出される神経変性疾患である。最近の疫学的研究によれば、アルツハイマー病患者の約30%がPDをも有することから、ADとPDとの間には密接な臨床的関係のあることが明らかとなった。従って、AD患者は、その他の高齢者に比し、PDを併発する可能性がより高い。さらに、痴呆症になるPD患者は、通常、典型的なADをすでに発症している。いずれの神経変性疾患も特定の脳領域および細胞集団に好発し、明確な病理学的特徴を示すが、PD、ADおよびDLBDも共通の病理学的特徴を共有している。家族性AD、ダウン症候群もしくは散発型ADの患者は、扁桃体にLBを形成するが、これはPDの典型的な神経病理学的特徴である。さらに、各疾患は、神経の変性、神経間シナプス結合および最終的な細胞死、神経伝達物質の枯渇、ならびにその前駆体が正常な中枢神経系の機能に関与する折り畳み構造の蛋白質の異常な蓄積を伴う。AD、PDおよびDLBDの間の関連については生化学的研究によって裏付けられている。
【0004】
近年、LBDの病因の理解に関して新たな可能性が浮上した。具体的には、いくつかの研究によって、(1)シナプス蛋白質αシヌクレインがLB内に蓄積すること(Spillantiniら,Nature(1997年)388:p839−40;Takedaら,J.Pathol.(1998年)152:p367−72;Wakabayashiら,Neurosci.Lett.(1997年)239:p45−8)、(2)αシヌクレイン遺伝子の突然変異体が稀な家族型パーキンソン病に伴って単離されること(Krugerら,Nature Gen.(1998年)18:p106−8;Polymeropoulosら,Science(1997年)276:p2045−7)、ならびに(3)遺伝子導入マウス(Masliahら,Science)(2000年)287:p1265−9)およびショウジョウバエ(Feanyら,Nature(2000年)404:p394−8)におけるその過剰発現によってPDのいくつかの病理学的側面が再現されることから、αシヌクレインはPDの病因に中心的な役割を果たしていることが分かった。従って、脳内のαシヌクレインの蓄積がヒト、マウス、ハエといった多様な種において同様な形態学的および神経学的変化を伴うという事実から、この分子がPD進行の一因となっていることが示唆される。
【0005】
ADの典型的な病理学的特徴である神経炎性班は、基本的に、アミロイド前駆蛋白質(APP)のアミノ酸蛋白分解性産物であるアミロイド・ベータ(Aβ)蛋白質、およびαシヌクレインのアミノ酸35個の蛋白分解性断片であるNACからなる。AβおよびNACはいずれも、それぞれの完全長蛋白質の蛋白分解性断片としてアミロイド班中に初めて確認され、これらの完全長cDNAが同定され、クローニングされた。(Iwai A.,Biochim.Biophys.Acta(2000年)1502:p95−109;Masliahら,AM J Pathol(1996年)148:p201−10;Uedaら,Proc.Natl.Acad SciUSA(1993年)90:p11282−6)。
【0006】
αシヌクレインは、β−およびγ−シヌクレインならびにシノレチンなどの蛋白質の大きなファミリーの一部である。αシヌクレインは、シナプスと関係がある正常な状態において発現され、神経可塑性、学習および記憶において役割を果たしていると考えられている。αシヌクレインの凝集を増強するヒト(h)αシヌクレインの突然変異が確認されており(Ala30ProおよびAla53Thr)、稀なタイプの常染色体優性型PDと関連付けられている。こうした突然変異がαシヌクレインの凝集傾向を強化するメカニズムについては知られていない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(特許請求の範囲に記載されている発明の要旨)
本発明は、リューイ体病(LDB)の処置に有用な薬理活性を有する薬剤をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、薬剤と、インタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損を特徴とするαシヌクレインの断片とを接触させ、およびこのαシヌクレインの断片の凝集の速度もしくは程度を測定し、上記薬剤を用いない対照との比較による凝集割合もしくは程度の減少によってこの薬剤が薬理活性を有することが示されるものとするものである。
【0008】
この断片は、任意選択的に、インタクトなαシヌクレインの118番目〜125番目の残基にC末端を有する。好ましい断片としては、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目が挙げられる。任意選択的に、このαシヌクレインの断片は、Xを130〜139番目とした場合、1番目からX番目である。このαシヌクレインの断片は、任意選択的に、A53T突然変異などの遺伝性LBDと関連する突然変異を有する。任意選択的に、上記方法は、上記薬剤がLBDの症状を治療もしくは抑制するかどうかを調べるためにLBDを有するヒトもしくはLDBの動物モデルにおいて試験を行う別の工程を含む。
【0009】
さらに、本発明は、LBD(例えば、パーキンソン病もしくはDLBD)の処置に有用な薬理活性について薬剤をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、αシヌクレインを発現し、このαシヌクレインを断片にプロセシングする細胞を薬剤と接触させることを含む。この断片の特徴は、インタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸が存在し、インタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸が欠損することである。次いで、上記細胞内の上記断片のレベルを上記薬剤非存在下の同じ細胞種内のベースラインレベルとの比較で測定するが、このベースラインに対し断片レベルが減少することによりこの薬剤にLBDの処置に有用な薬理活性があることが示される。このαシヌクレインの断片は、任意選択的に、インタクトなαシヌクレインの118番目〜125番目の残基にC末端を有する。好ましい断片は、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目である。任意選択的に、このαシヌクレインの断片は、Xを130〜139番目とした場合、1番目からX番目である。このαシヌクレインの断片は、任意選択的に、A53T突然変異などの遺伝性LBDと関連する突然変異を有する。上記細胞は、ヒト細胞、神経細胞もしくはドーパミン作動性細胞とすることができる。任意選択的に、この細胞はPC12細胞もしくはSy5Y細胞である。任意選択的に、この方法は、上記薬剤がLBDの症状を治療もしくは抑制するかどうかを調べるためにLBDを有するヒトもしくはLDBの動物モデルにおいて試験を行う工程を含む。
【0010】
さらに、本発明は、LBD(例えば、パーキンソン病もしくはDLBD)の処置に有用な薬理活性を有する薬剤をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、インタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸が存在し、インタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸が欠損することを特徴とするαシヌクレインの断片を発現する遺伝子導入動物を接触させ、および上記薬剤非存在下の同様の遺伝子導入動物の脳内の凝集型の上記断片のベースラインレベルとの比較で上記遺伝子導入動物の脳内の凝集型上記断片のレベルを測定し、このベースラインに対する上記凝集型断片レベルの減少によってこの薬剤にLBDの処置に有用な薬理活性があることが示されるものとするものである。このαシヌクレインの断片は、任意選択的に、インタクトなαシヌクレインの118番目〜125番目の残基にC末端を有する。好ましい断片としては、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目が挙げられる。任意選択的に、このαシヌクレインの断片は、Xを119〜139番目とした場合、1番目からX番目である。このαシヌクレインの断片は、任意選択的に、A53T突然変異などの遺伝性LBDと関連する突然変異を有する。上記遺伝子導入動物は、任意選択的に、げっ歯類である。また、この遺伝子導入動物は、ショウジョウバエとすることもできる。任意選択的に、この方法は、上記薬剤がLBDの症状を治療もしくは抑制するかどうかを調べるためにLBDを有するヒトもしくはLDBの動物モデルにおいて試験を行うこと含む。
【0011】
さらに、本発明は、LBD(例えば、パーキンソン病もしくはDLBD)の処置に有用な薬理活性について薬剤をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、薬剤と、αシヌクレインを発現し、αシヌクレインを断片にプロセシングする遺伝子導入動物とを接触させ、この断片は、インタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸が存在し、インタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸が欠損することを特徴とするものとし、および上記薬剤非存在下のベースラインレベルとの比較で神経細胞内の上記断片のレベルを測定し、このベースラインに対する上記断片のレベルの減少によってこの薬剤にLBDの処置に有用な薬理活性があることが示されるものとするものである。このαシヌクレインの断片は、任意選択的に、インタクトなαシヌクレインの118番目〜125番目の残基にC末端を有する。好ましい断片としては、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目が挙げられる。任意選択的に、このαシヌクレインの断片は、Xを130〜139番目とした場合、1番目からX番目である。このαシヌクレインの断片は、任意選択的に、A53T突然変異などの遺伝性LBDと関連する突然変異を有する。上記遺伝子導入動物は、任意選択的に、げっ歯類、マウスもしくはショウジョウバエである。任意選択的に、この方法は、上記薬剤がLBDの症状を治療もしくは抑制するかどうかを調べるためにLBDを有するヒトもしくはLDBの動物モデルにおいて試験を行う工程を含む。
【0012】
さらに、本発明は、インタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸が存在し、インタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸が欠損することを特徴とするαシヌクレインの断片をコードする核酸セグメントに動作可能なように結合したプロモータを含む導入遺伝子を含むゲノムを有する遺伝子導入動物であって、この遺伝子導入動物に上記断片を発現させることによりこの動物がLBDの少なくとも1つの特徴を発症しやすくなることを特徴とする遺伝子導入動物を提供する。このαシヌクレインの断片は、任意選択的に、1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目アミノ酸からなる群から選ばれる。任意選択的に、このαシヌクレインの断片は、Xを130〜139番目とした場合、1番目からX番目である。上記プロモータは、任意選択的に、PDGFプロモータである。任意選択的に、少なくとも1つの特徴は運動機能の障害である。任意選択的に、上記遺伝子導入動物の少なくとも1つの特徴は、認識機能障害である。上記遺伝子導入動物は、任意選択的に、げっ歯類、マウスもしくはショウジョウバエである。
【0013】
さらに、本発明は、患者においてLBDの存在もしくはLBDに対する罹病性を検出する方法を提供する。この方法は、インタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸が存在し、インタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸が欠損することを特徴とする、脳脊髄液中のαシヌクレインの断片を検出するものである。健常者のベースラインレベルよりもレベルが高いことにより、LBDの存在もしくはLBDに対する罹病性が示されるものとする。
【0014】
さらに、本発明は、インタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸が存在し、インタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸が欠損することを特徴とするαシヌクレインの断片と特異的に結合するが、完全長のαシヌクレインには特異的な結合を示さない抗体を提供する。好ましい断片としては、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目が挙げられる。任意選択的に、この断片は、Xを130〜139番目とした場合、1番目からX番目である。上記抗体は、任意選択的に、ヒト型、ヒト化もしくはキメラ抗体である。任意選択的に、この抗体はモノクロナールである。任意選択的に、この抗体はヒト・アイソタイプIgG1を有する。
【0015】
さらに、本発明は、LBDの存在もしくはLBDに対する罹病性を診断する方法を提供する。この方法は、119番目〜125番目の残基に遊離C末端を有するαシヌクレインの断片と特異的に結合するが、完全長のシヌクレインには特異的な結合を示さない抗体を患者に投与し、およびこの患者におけるこの抗体の結合のレベルを測定し、健常者のベースラインレベルに対する結合レベルの上昇によって上記LBの存在もしくはLBDに対する罹病性が示されるものとするものである。
【0016】
さらに、本発明は、LBDに罹患しているか罹患するリスクのある患者に対して、インタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸が存在し、インタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸が欠損すること、およびインタクトなαシヌクレインのC末端から少なくとも10個の連続するアミノ酸が欠損することを特徴とするαシヌクレイン断片の有効な療法を施行し、これにより上記LBDを治療もしくは予防することを含むLBDの治療もしくは予防方法を提供する。このαシヌクレインの断片は、任意選択的に、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目である。任意選択的に、この断片は、Xを130〜139番目とした場合、1番目からX番目である。さらに、この方法は、任意選択的に、この断片に対する抗体を含む免疫反応を増強するアジュバントを投与することを含む。任意選択的に、上記断片は、この断片に対する抗体を含む免疫反応を増強する、融合蛋白質を形成する担体に結合させる。
【0017】
さらに、本発明は、LBDを治療もしくは予防する方法を提供する。この方法は、LBDに罹患しているか罹患するリスクのある患者に対して、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、1番目から125番目および1番目からX番目からなり、Xを130〜139番目とする群から選ばれるαシヌクレインの断片に特異的に結合するが、インタクトなαシヌクレインには結合しない抗体の有効な療法を施行し、この抗体により上記疾患を予防もしくは治療するものである。
【0018】
さらに、本発明は、インタクトなαシヌクレインを切断して、インタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸が存在し、インタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸が欠損することを特徴とする断片を生じさせるプロテアーゼをスクリーニングする方法を提供する。この方法は、プロテアーゼの阻害剤を特定し、この阻害剤をこのプロテアーゼを含む細胞抽出物もしくは組織抽出物と接触させることによりこのプロテアーゼをこの阻害剤に結合させ、次いで、この阻害剤からこのプロテアーゼを遊離させるものである。任意選択的に、上記阻害剤は、インタクトなαシヌクレインの115番目〜130番目の位置の少なくとも5残基からなる連続したセグメントを含むαシヌクレインのペプチドである。任意選択的に、このペプチドは、118番目〜122番目の位置のうちの少なくとも5残基からなる連続したセグメントを含む。任意選択的に、これらの残基の少なくとも1つは遷移状態アナログである。
【0019】
さらに、本発明は、αシヌクレインの109番目から120番目までの残基内の抗原決定基に特異的に結合するモノクロナール抗体を提供する。このモノクロナール抗体は、任意選択的に、キメラ型、ヒト化型もしくはヒト型である。
【0020】
さらに、本発明は、αシヌクレインの115番目から123番目までの残基内の抗原決定基に特異的に結合するモノクロナール抗体を提供する。
【0021】
さらに、本発明は、αシヌクレインの43番目から51番目および58番目から65番目の残基内の非連続的抗原決定基に特異的に結合するモノクロナール抗体を提供する。この抗体は、任意選択的に、キメラ型、ヒト化型もしくはヒト型である。
【0022】
さらに、本発明は、遊離C末端を有する独立した完全長のαシヌクレインに特異的に結合し、C末端が別のポリペプチドに結合しているαシヌクレインを含む融合蛋白質に特異的な結合を示さない末端特異的モノクロナール抗体を提供する。この抗体は、任意選択的に、キメラ型、ヒト化型もしくはヒト型である。
【0023】
さらに、本発明は、患者においてリューイ体病の存在もしくはリューイ体病に対する罹病性を検出する方法を提供する。この方法は、患者の脳からの試料においてαシヌクレインの125番目の位置がリン酸化もしくはニトロ化されたαシヌクレインのレベルを測定し、健常者集団の平均レベルに対するレベルの上昇によって上記患者がリューイ体病を有するかこれに罹患性であることが示されるものとするものである。
【0024】
(定義)
「薬剤」という用語は、薬理活性を有するか、有する可能性のある化合物を記述するのに用いている。薬剤としては、既知の薬物である化合物、薬理活性が確認されているが、さらに治療上の評価が行われている化合物、および薬理活性についてスクリーニングされることになっているコレクションおよびライブラリを構成する物質である化合物が挙げられる。
【0025】
「薬理」活性とは、薬剤が疾患の予防もしくは治療に有用であるか、有用である可能性を有することを示すスクリーニング系において、ある薬剤が活性を示すことを意味する。このスクリーニング系はインビトロ系、細胞系、動物系もしくはヒト系とすることができる。薬剤は、疾患の処置における実際的な予防もしくは治療的有用性を立証するにはさらに試験を必要とする可能性があるにしても、薬理活性を有すると評することができる。
【0026】
ゲル電気泳動を用いた分子量測定との関連で、「約」という用語は、同一条件下でその方法を繰り返した際に実験誤差によると思われる分子量の標準偏差の存在を意味している。αシヌクレインの一部の断片についての12kDaという分子量測定値は、トリシン緩衝液を用いた測定に適用される。
【0027】
「特異的に結合する」という語句は、蛋白質その他の生体物質の不均一な集団の存在下に前記蛋白質の存在を決定する結合反応のことを意味する。従って、所定の条件下において、特定のリガンドは特定の蛋白質に選択的に結合するが、試料中に存在する他の蛋白質とは有意な量で結合しない。多くの場合、蛋白質に特異的に結合する抗体のような分子の結合定数は、少なくとも106M−1もしくは107M−1、好ましくは108M−1〜109M−1、より好ましくは約1010M−1〜1011M−1以上である。種々のイムノアッセイ方式を用いて特定の蛋白質に対し特異的な免疫反応性を示す抗体を選定することができる。例えば、蛋白質に対し特異的な免疫反応性を示すモノクロナール抗体を選定するのに固相ELISAイムノアッセイ法が日常的に用いられている。特異的な免疫反応性を測定するのに用いることができるイムノアッセイ方式および条件の解説については、例えば、Harlow,Lane(1988年)Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Publications、ニューヨークを参照されたい。
【0028】
配列の比較においては、通常、1つの配列を試験配列と比較する対照配列として用いる。配列比較アルゴリズムを用いる際には、試験および対照配列をコンピュータに入力し、必要な場合、部分配列座標を指定し、次に、配列アルゴリズム・プログラム・パラメータを指定する。次いで、指定したプログラム・パラメータに基づいて、配列比較アルゴリズムにより、対照配列に対する試験配列の配列同一性パーセントが算出される。
【0029】
比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、Smith,Waterman,Adv.Appl.Math.,2:p482(1981年)の局所ホモロジーアルゴリズム、Needleman,Wunsch,J.Mol.Biol.,48:p443(1970年)のホモロジー・アラインメント・アルゴリズム、Pearson,Lipman,Pro.Nat’l.Acad Sci USA,85:p2444(1988年)の類似性検索法、これらのアルゴリズムのコンピュータによる実施(ウィスコンシン・ジェネティクス・ソフトウェア・パッケージ(Wisconsin Genetics Software Package)、ジェネティクス・コンピュータ・グループ(Genetics Computer Group)、575サイエンス(Science)Dr.、マジソン(Madison)、WIのGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)、もしくは目視検査(visual inspection)(一般的には、Ausubelらの上記文献参照)によって行うことができる。
【0030】
配列同一性パーセントおよび配列類似性を測定するのに適したアルゴリズムの別の例は、Altschulら,J.Mol.Biol.,215:p403−410(1990年)に記載されているBLASTアルゴリズムである。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、全米バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から公開されている。このアルゴリズムは、先ず、データベース配列中の同じ長さの文字列とアラインメントさせた時にある正値の閾値スコアTにマッチするかこれを満たす検索配列中の長さWの短い文字列を特定することによって高相同性スコア(high scoring)配列対(HSP)を同定する。Tは、近傍文字列スコア閾値(Altschulら、上記文献)と呼ばれる。これらの初期の近傍文字列ヒットは、これらを含むより長いHSPを見出す検索を開始するためのシードとなる。次いで、これらの文字列ヒットは、累積アラインメント・スコアが増加し得る限り、各配列に沿って両方向に延長される。ヌクレオチド配列の場合、累積スコアは、パラメータM(一対の一致残基のスコア値(reward);常に>0)およびN(不一致残基のペナルティ値;常に<0)を用いて算出する。アミノ酸配列の場合、スコアリング・マトリクスを用いて累積スコアを算出する。文字列ヒットの各方向への延長は、以下の場合、即ち、上記累積アラインメント・スコアがその最大到達値から数量Xだけ減少した場合、この累積スコアが1つ以上のネガチブ・スコア残基アラインメントの蓄積によりゼロ以下になった場合、もしくはどちらの配列においても末端に到達した場合に停止する。ある核酸もしくはポリペプチドが本発明の範囲内にあるかどうかを確認するためには、BLASTプログラムのデフォルト・パラメータが適している。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列の場合)は、デフォルトとして、文字列長さ(W)11、期待値(E)10、M=5、N=4および両鎖の比較を用いる。アミノ酸配列の場合、BLASTNプログラムは、デフォルトとして、文字列長さ(W)3、期待値(E)10およびBLOSUM62スコアリング・マトリクスを用いる。TBLATNプログラム(ヌクレオチド配列の蛋白配列を使用)は、デフォルトとして、文字列長さ(W)3、期待値(E)10およびBLOSUM62スコアリング・マトリクスを用いる。(Henikoff&Henikoff,Proc.Natl.Acad Sci USA89:p10915(1989年)参照)。
【0031】
配列同一性パーセントを算出する他に、BLASTアルゴニズムは2つの配列間の類似性の統計的な解析を行う(例えば、Karlin&Altschul,Proc.Natl.Acad Sci USA90:p5873−5787(1993年)参照)。BLASTアルゴニズムにより得られる類似性の1つの指標は、2つのヌクレオチドもしくはアミノ酸配列間の一致が偶然生じる確率の指標となる最小合計確率(P(N))である。例えば、試験核酸と対照核酸との比較における最小合計確率が約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合、この核酸は対照配列と類似していると考えられる。
【0032】
アミノ酸置換を保存的もしくは非保存的なものとして分類するために、アミノ酸を以下のようにグループ分けする:グループI(疎水性側鎖):ノルロイシン、met、ala、val、leu、ileu;グループII(中性親水性側鎖):cys、ser、thr;グループIII(酸性側鎖):asp、glu;グループIV(塩基性側鎖):asn、gln、his、lys、arg;グループV(鎖配向に影響する残基):gly、pro;およびグループVI(芳香族側鎖):trp、tyr、phe。保存的置換は同じクラスのアミノ酸間の置換を伴う。非保存的置換は、これらのクラスの中の1つのアミノ酸を別のクラスのアミノ酸と交換することから成る。
【0033】
通常、本発明の治療剤は好ましくない夾雑物を実質的に含まない。このことは、薬剤が、妨害蛋白質および夾雑物を実質的に含まないばかりでなく、通常、少なくとも約50%w/w(重量/重量)の純度であることを意味する。場合によっては、こうした薬剤の純度は、少なくとも約80%w/w、より好ましくは少なくとも90もしくは約95%w/wである。しかしながら、従来の蛋白質精製法を用いると、少なくとも99%w/wの均一なペプチドを得ることができる。
【0034】
「抗体」もしくは「免疫グロブリン」という用語は、インタクトな抗体およびその結合性断片を含めて用いている。通常、断片は、それが由来するインタクトな抗体と、個々の重鎖、軽鎖Fab、Fab’F(ab’)2、FabcおよびFvを含む抗原断片への特異的結合に対して競合する。断片は、組換えDNA法、もしくはインタクトな免疫グロブリンの酵素的もしくは化学的切断によって作製することができる。また、「抗体」という用語は、他の蛋白質との融合蛋白質へと化学的に結合させ、もしくはこうした融合蛋白質として発現させた1種以上の免疫グロブリン鎖を含む。また、「抗体」という用語は、二重特異性抗体を含む。二重特異性もしくは二官能性抗体は、2種の重/軽鎖対および2種の結合部位を有する人工的なハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合もしくはFab’断片間の結合を含む種々の方法によって作製することができる。例えば、Songsivilai&Lachmann,Clin.Exp.Immunol.,79:p315−321(1990年);Kostelny el al.,J.Immunol.,148::p1547−1553(1992年)を参照されたい。
【0035】
「アジュバント」という用語は、抗原と共に投与すると、その抗原に対する免疫反応を増強するが、単独で投与してもその抗原に対する免疫反応を生じない化合物のことを意味する。アジュバントは、リンパ球動員、Bおよび/またはT細胞の賦活ならびにマクロファージの賦活を含むいくつかのメカニズムによって免疫反応を増強することができる。
【0036】
「患者」という用語は、予防的もしくは治療的処置を受けるヒトおよび他の哺乳動物の対象を含む。
【0037】
抗体間の競合は、試験対象の免疫グロブリンが対照抗体のαシヌクレインなどの共通の抗原への特異的結合を阻害するようなアッセイ法を用いて測定される。数多くのタイプの競合的結合アッセイ法が知られており、このようなものとしては、例えば、固相直接もしくは間接ラジオイムノアッセイ(RIA)、固相直接もしくは間接エンザイムイムノアッセイ(EIA)、サンドイッチ競合アッセイ(Stahliら,Methods in Enzymology,9:p242−253(1983年)参照);固相直接ビオチン−アビジンEIA(Kirklandら,J.Immunol.,137:p3614−3619(1986年)参照);固相直接標識化アッセイ、固相直接標識化サンドイッチ・アッセイ(Harlow&Lane,Antibodies,A Laboratory Manual.Cold Spring Harbor Press(1988年)参照);I−125標識を使用する固相直接標識RIA(Morelら,Molec.Immunol.,25(1):p7−15(1988年)参照);固相直接ビオチン−アビジンEIA(Cheungら,Virology 176:p546−552(1990年);および直接標識化RIA(Moldenhauerら,Scand.J Immunol.,32:p77−82(1990年))がある。通常、このようなアッセイ法では、固相面に結合させた精製抗原もしくはこれらの両方を有する細胞、非標識試験免疫グロブリン、および標識対照免疫グロブリンを用いる。競合的阻害は、この試験免疫グロブリンの存在下に固相面もしくは細胞に結合した標識の量を定量することにより測定する。通常、試験免疫グロブリンは過剰に存在させる。競合アッセイによって特定される抗体(競合抗体)としては、対照抗体と同じ抗原決定基に結合する抗体、およびこの対照抗体が結合した抗原決定基に、立体障害を生じるのに十分近接した近傍抗原決定基に結合する抗体が挙げられる。通常、競合抗体は、過剰に存在させた場合、対照抗体の共通抗原への特異的結合を少なくとも50もしくは75%阻害する。
【0038】
抗原決定基の座標は近似である(±2アミノ酸)。抗原決定基内の全てのアミノ酸が結合に必ずしも必要な訳ではない。
【0039】
記載された1つ以上の要素を「含む」組成物もしくは方法には、特に記載されていない他の要素を含めることができる。例えば、αシヌクレイン・ペプチドを含む組成物は、αシヌクレイン・ペプチド単体と、より大きなポリペプチド配列の構成成分としてのαシヌクレイン・ペプチドとの両方を包含する。
【0040】
特に文脈から明らかでない限り、本発明の実施態様、構成要素、工程もしくは構成は全て、任意の他のものとの組み合わせで用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
(発明の詳細な説明)
(I.概要)
本発明は、部分的に、リューイ体病(LDB)患者およびその遺伝子導入動物モデルにおいてαシヌクレインの新規断片を特定することを前提としている。こうした疾患の特徴は、αシヌクレインの凝集である。その断片は完全長のαシヌクレインがC末端で切断されたものである。一部の断片は、トリシン緩衝液を用いるSDSゲル電気泳動で測定した分子量が約12kDaであり、天然型αシヌクレインのC末端から少なくとも10個の連続したアミノ酸が切断されたものであるという特徴を有する。切断部位は、天然型αシヌクレインの117番目残基の後および126番目残基の前に生じることが好ましい。これらのαシヌクレイン断片の特定には、例えば、創薬、診断、治療、遺伝子導入動物などにおいていくつかの用途がある。
【0042】
本発明は、LBDの処置に有用な活性について薬剤をスクリーニングするいくつかの方法を提供する。一部の方法では、本発明の新規断片を生じる切断反応を阻害する薬剤が特定される。他の方法では、この切断反応の産物の凝集を阻害する薬剤が特定される。このような阻害剤はLBDの処置に有用である。また、上記切断反応の阻害剤は、この切断反応に関与するプロテアーゼのアフィニティー精製にも有用である。
【0043】
また、本発明は、上述のαシヌクレインの断片を発現する遺伝子導入動物モデルおよび細胞を提供する。この遺伝子導入動物モデルおよび細胞には、上記断片の凝集体を含有するリューイ体を含むリューイ体病の特徴を形成する性質がある。この動物モデルおよび細胞は上記のスクリーニング方法に利用することができる。
【0044】
さらに、本発明は、αシヌクレインの断片に特異的に結合するが、インタクトなαシヌクレイン自体には特異的な結合を示さない末端特異的な抗体を提供する。こうした抗体は、αシヌクレイン凝集体のインビトロ・イメージング用に、および処置の方法にも有用である。また、新規なαシヌクレイン断片は、処置の方法に、必要であれば、アジュバントとの併用で、用いることができる。
【0045】
(II.αシヌクレイン断片)
ヒト型αシヌクレインは以下のアミノ酸配列を有するアミノ酸140個のペプチドである:
【0046】
【化1】
(Uedaら,Proc.Natl.Acad Sci USA(1993年)90:p11282−6;ジェンバンク(GenBank)アセッション番号:P37840)。この蛋白質は、認識される3つのドメイン、即ち、1から61番目のアミノ酸をカバーするKTKE繰返し配列ドメイン(repeat domain)、約60番目から95番目のアミノ酸に及ぶNAC(非アミロイド成分)ドメイン、および約98番目から140番目のアミノ酸に及ぶC末端酸性ドメインを有する。
【0047】
本発明の一部の新規断片は、C末端から少なくとも10個の連続したアミノ酸、好ましくは少なくとも15個の連続したアミノ酸、任意選択的に20、22、23もしくは25個までのアミノ酸が切断されたものである。これらの断片は、全体もしくはほぼ全体(即ち、上記欠損部以外のαシヌクレインからの少なくとも100個の連続する残基)を含む。また、一部の断片は、1から4番目、1から6番目、1から10番目、1から12番目の欠損など、N末端から20個までの比較的短いアミノ酸配列が切断されたものである。一部の断片は1から23番目、1から38番目もしくは1から45番目残基のN末端欠損を有する。好ましい断片は、SN1−118、SN1−119、SNI−120、SN1−121、SN1−122、SN1−123、SN1−124、SN1−125、SN1−126、SN1−127、SN1−128、SN1−129およびSNI−130である。とくに好ましい断片は、SN1−119、SN1−120、SN1−121、SN1−122、SN1−123、SN1−124およびSN1−125である。これらのうち特に好ましい断片はSN1−119である。切断反応は、118番目〜126番目のアミノ酸残基間、例えば、119番目と120番目の残基の間のペプチド結合で行われることが好ましい。本発明の他の断片としては、(SDS電気泳動で測定して)約6〜7kDaもしくは50〜80個のアミノ酸のαシヌクレインN末端断片が挙げられる。本発明の別の断片としては、インタクトなαシヌクレインのC末端から1〜10個のアミノ酸を欠くαシヌクレインのN末端断片、即ち、Xを130〜139とした場合のSN1−Xが挙げられる。一部の断片は、抗体ELADW43(遊離N末端)および5C12(109−120)への特異的結合、ならびに8A5(遊離C末端)、LB509(115−123)およびELAD47(118−123)への特異的結合の欠如を特徴とする。一部の断片は、ELADW43(遊離N末端)および5C12(109−120)、LB509(115−123)およびELAD47(118−123)への特異的結合、ならびに8A5(遊離C末端)への特異的結合の欠損を特徴とする。一部の断片は、ELADW43(遊離N末端)と5C12(109−120)、LB509(115−123)とELAD47(118−123)および8A5(遊離C末端)への特異的結合、ならびにELADW43(遊離N末端)への特異的結合の欠損を特徴とする。
【0048】
一部の断片もしくは完全長のαシヌクレインは、αシヌクレインの125番目の位置を占めるチロシン残基がリン酸化もしくはニトロ化されたものである。また、125番目のアミノ酸セリンを保持している断片、もしくは完全長のαシヌクレインは、この位置でリン酸化されていてもよい。125番目の位置のリン酸化もしくはニトロ化または129番目の位置のリン酸化に関し、患者において健常者集団の平均に対する増強が検出されることがリューイ体病の指標となる。検出は、125番目の位置がリン酸化もしくはニトロ化されたαシヌクレインに特異的な抗体を用いて行うことができる。レベルは、健常者集団の平均プラス1標準偏差より大きい場合、増大していると見なされる。
【0049】
本発明の断片は、以前に報告されたアルツハイマー病アミロイドの非Aβ成分(NAC)とは異なる。この断片は、少なくとも28個のアミノ酸残基(60番目から87番目までの残基)および、任意に35個のアミノ酸残基(61番目から95番目までの残基)から成る。Iwaiら,Biochemistry 34:p10139−10145;Jensenら,Biochem.J.310(Pt1):p91−94(1995年);ジェンバンク・アセッション番号S56746を参照されたい。
【0050】
他に断らない限り、αシヌクレインもしくはその断片に言及する場合、前記の天然のヒト型アミノ酸配列もしくはその断片、ならびに対立遺伝子、種および誘発による変異体などのアナログを含む。上記のアナログと天然ヒト型アミノ酸配列とが最大限にアラインメントされている場合、このアナログのアミノ酸にはこのヒト型アミノ酸配列の対応するアミノ酸と同じ番号が付与される。通常、アナログは、多くの場合、保存的置換によって、1箇所、もしくは2箇所、または数箇所の位置で天然ペプチドと異なる。一部の天然の対立遺伝子による変異体は、遺伝性LBDと遺伝的な関連がある。こうした変異体としては、A30PおよびA53Tが挙げられる。A53T変異は、この突然変異のない健常者のリン酸化の基準に比し、この突然変異を有する者ではαシヌクレインの129番目の位置においてリン酸化レベルの上昇を伴う。アナログは、天然ペプチドと少なくとも80もしくは90%の配列同一性を示す。また、一部のアナログは、非天然型アミノ酸を、または1箇所、もしくは2箇所、または数箇所の位置のNもしくはC末端アミノ酸が修飾されたものを含む。例えば、天然型のグルタミン酸残基はイソ−アスパラギン酸で置換されることがある。非天然型アミノ酸の例としては、D,α,α2置換アミノ酸、N−アルキルアミノ酸、乳酸、4−ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、イプシロン−N,N,N,−トリメチルリジン、イプシロン−N−アセチルリジン、O−ホスホセリン、N−アセチルセリン、N−ホルミルメチオニン、3−メチルヒスチジン、5−ヒドロキシリジン、オメガ−N−メチルアルギニン、β−アラニン、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、チロキシン、γ−アミノ酪酸、ホモセリン、シトルリンおよびイソアスパラギン酸が挙げられる。通常、アナログは、天然ヒト型αシヌクレインに対するポリクロナール抗体集団に特異的に結合する。また、本発明は、D−アミノ酸でαシヌクレインの大部分もしくは全ての位置の対応する天然L−アミノ酸を置換させることができるD−ペプチドを提供する。
【0051】
αシヌクレイン、その断片およびアナログは、固相ペプチド合成法もしくは組換え発現法によって合成することができ、または自然源から入手することができる。自動ペプチド合成機が、アプライド・バイオシステムズ社、フォスター・シティ、カリフォルニアなどの数多くの製造業者から市販されている。組換え発現法では大腸菌などの細菌、酵母、昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞を用いることができる。組換え発現の方法については、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual.(C.S.H.P.プレス、NY、第2版、1989年)に記載されている。
【0052】
(III.リューイ体病)
リューイ体病(LDB)の特徴は、ドーパミン作動系の変性、運動性変調、認知障害、およびリューイ体(LB)の形成である。(McKeithら,Clinical and pathological diagnosis of dementia with Lewy bodies(DLB):Report of the CDLB International Workshop,Neurology(1996年)47:p1113−24)。リューイ体は神経細胞に見出される球状の蛋白質沈着物である。これが脳内に存在すると、アセチルコリン、ドーパミンなどの化学的メッセンジャーの作用が遮断されて脳の正常な機能が妨げられる。リューイ体病としては、(特発性パーキンソン病(PD)を含む)パーキンソン病、リューイ体を有する痴呆(DLB)としても知られる瀰漫性リューイ体病(DLBD)、アルツハイマー病とパーキンソン病との併発、および多系統萎縮症(MSA)が挙げられる。DLBDは、アルツハイマーおよびパーキンソン病の症状を共有する。DLBDは、主にリューイ体の存在部位においてパーキンソン病と異なる。DLBDではリューイ体は主として皮質に形成される。パーキンソン病ではこれは主として黒質に形成される。他のリューイ体病としては、自律神経失調症、リューイ体性燕下困難、偶発性LDB、遺伝性LDB(例えば、αシヌクレイン遺伝子PARK3およびPARK4の突然変異)ならびに多系統萎縮症(例えば、オリーブ橋小脳萎縮症、線条体黒質変性症およびシャイ・ドレーガー症候群)が挙げられる。
【0053】
(IV.遺伝子導入動物および細胞)
本発明は、上述のC末端切断型αシヌクレインをコードしている核酸セグメントを含む導入遺伝子を含むゲノムを有する遺伝子導入動物を提供する。この導入遺伝子はこの遺伝子導入動物の体細胞および生殖系細胞の全体もしくは実質上全体に存在することが好ましい。上記C末端切断型αシヌクレインをコードしている核酸セグメントは、この切断型αシヌクレインがこの動物の神経細胞内で発現されることを可能にする1つ以上の調節性セグメントに動作可能なように結合させる。ラット神経特異的エノラーゼ・プロモータ、ヒト・β−アクチン遺伝子プロモータ、ヒト血小板由来成長因子B(PDGF−B)鎖遺伝子プロモータ、ラット・ナトリウム・チャンネル遺伝子プロモータ、マウス・ミエリン塩基性蛋白質遺伝子プロモータ、ヒト銅−亜鉛スーパーオキシド・ジスムターゼ遺伝子プロモータ、哺乳動物POU−ドメイン調節遺伝子プロモータなどのプロモータを使用することができる。これらのうち、PDGFプロモータが特に適している。任意選択的に、誘導性プロモータを使用する。亜鉛などの重金属をマウスの水もしくは餌に加えることにより調節することができるマウス・メタロチオニン・プロモータが適している。このような遺伝子導入動物は、完全長のαシヌクレインを有する遺伝子導入動物の作製のために(Masliahら,AM J Pathol(1996年)148:p201−10およびFeanyら,Nature(2000年)404:p394−8)により報告され、もしくは(突然変異型APPを有する遺伝子導入動物の作製に関する)米国特許第5,811,633号に開示されたのと同じ一般的な方法によって作製することができる。任意選択的に、切断型αシヌクレイン蛋白質を発現する導入遺伝子を有する遺伝子導入動物は、アルツハイマー病モデルなどの他の神経性疾患モデルと交配させることができる。例えば、切断型αシヌクレイン蛋白質を発現する導入遺伝子を有する遺伝子導入動物は、例えば、Gamesら,Nature 373:p523(1995年);McConlogueら、米国特許第5,612,486号;Hsiaoら,Science 274:p99(1996年);Staufenbielら,Proc.Natl.Acad Sci USA94:p13287−13292(1997年);Sturchler−Pierratら,Proc.Natl.Acad Sci USA94:p13287−13292(1997年);Borcheltら,Neuron 19:p939−945(1997年)に記載されている導入遺伝子により発現されるFAD突然変異を含むAPPを有する遺伝子導入動物と交配させることができる。このような交配を実施する方法については、例えば、完全長のαシヌクレインを発現する遺伝子導入マウスとGamesらによるPDAPPマウスとの交配を報告しているMasliahら,PNAS USA98:p12245−12250(2001年)に記載がある。本発明の遺伝子導入動物は、好ましくは、マウス、ラットなどの齧歯動物、もしくはショウジョウバエなどの昆虫である。
【0054】
動物モデルで切断型αシヌクレインを発現させることにより、リューイ体病の少なくとも1つの特徴を形成する性質を付与された動物が得られる。このような特徴としては、αシヌクレインの細胞内沈着物の量の増加、リューイ体形成の増大、ならびに同種の正常な非遺伝子導入動物と比較した場合の認識および運動機能の障害が挙げられる。このような遺伝子導入動物は、リューイ体病の処置における薬理活性について薬剤をスクリーニングするのに有用である。
【0055】
また、本発明は、凝集した切断型αシヌクレインを含む封入体を構成する切断型αシヌクレインで形質転換した細胞を提供する。この形質転換細胞は、GT1−7神経細胞(Hsueら,Am.J.Pathol.157:p401−410(2000年))、PC12細胞、SY5Y神経芽腫細胞などの神経細胞であることが好ましい。また、PEAK細胞も使用することができる。これらの細胞はヒト細胞であることが好ましい。この切断型発現の発現を確実にする1つ以上の調節性配列に動作可能なように結合させた切断型αシヌクレインをコードしているセグメントを含むベクターをこれらの細胞内に形質導入する。形質導入した細胞を用いることにより、αシヌクレイン封入体を除去する活性について薬剤をスクリーニングすることができる。
【0056】
(V.スクリーニング方法)
本発明は、LBDの処置に有用な薬理活性を有する薬剤を特定するためのいくつかのスクリーニング方法を提供する。この方法は、インビトロで、または細胞もしくは遺伝子導入動物を用いて実施することができるスクリーニング、および活性の指標としての種々のパラメータを調べるスクリーニングを含む。これらのスクリーニングにおいて活性を有すると判定された薬剤は、LBDの動物モデルによる二次スクリーニングもしくは臨床試験において再度試験することにより、こうした疾患の行動上その他の症状に対する活性を測定することができる。
【0057】
(1.インビトロ)
インビトロ・アッセイは、切断型αシヌクレインの凝集に対する薬剤の阻害能を調べるために行う。αシヌクレインのインビトロ凝集を分析するための基本方式については、完全長のαシヌクレインに関するものではあるが、(Wood,J.Biol.Chem.274:p19509−19512(1999年))に記載がある。本発明の方法では、このアッセイは試験すべき薬剤の存在下に実施する。薬剤存在下のαシヌクレイン凝集の速度もしくは程度を測定して、薬剤を用いない同時的もしくはヒストリカルな対照におけるαシヌクレイン凝集の速度もしくは程度と比較する。対照に対して薬剤存在下の凝集の速度もしくは程度が低下した場合、これによってこの薬剤に切断型αシヌクレインの凝集を阻害する活性があることが明らかになる。この活性は、リューイ体病を治療もしくは予防するのに有用となる可能性がある。
【0058】
(2.細胞によるアッセイ)
細胞による一部のアッセイは、上述の切断型αシヌクレインをコードしている核酸を用いて、また、任意選択的にAla30ProもしくはAla53Thなどの遺伝的変種を用いて形質導入した細胞で実施する。このような細胞を試験対象の薬剤と接触させ、この切断型αシヌクレインの凝集の程度の速度を測定する。次いで、αシヌクレインの凝集の程度の速度を、薬剤の非存在下に同様に形質導入した対照細胞と比較する。凝集は、免疫組織化学的分析、光学顕微鏡の使用もしくはゲル分析によってモニターすることができる。ゲル分析を用いると、二量体、三量体もしくはそれ以上のオリゴマーの形成、および高レベルのオリゴマー形成によるシヌクレインのゲルへの侵入不能性を検知することができる。対照に対して試験薬剤存在下の凝集の速度もしくは程度が低下した場合、これによって薬剤が切断型αシヌクレインの凝集を阻害する薬理活性を有することが明らかになる。この活性は、リューイ体病を治療もしくは予防するのに有用となる可能性がある。
【0059】
細胞による他のアッセイは、完全長のαシヌクレイン、および任意選択的にAla30ProもしくはAla53Thなどの遺伝的変種をコードしている核酸を用いて形質導入した細胞で実施する。このような細胞を試験対象の薬剤と接触させ、切断型αシヌクレインおよび/またはリン酸化型もしくはニトロ化型シヌクレインの形成の速度もしくは程度を測定する。こうした型の存在は、αシヌクレインに対する1種以上の抗体を用いるウェスタン・ブロッティングによって検出することができる。末端特異的抗体(即ち、切断型には結合するが、完全長のαシヌクレインには結合しない抗体)はこの分析に特に有用である。また、種々の抗原決定基特異性を有する抗体のコレクションを用いることもできる。例えば、切断型αシヌクレインの存在は、インタクトなαシヌクレインの118番目から125番目のアミノ酸によってほぼ規定されるアミノ酸セグメントの抗原決定基N末端を認識する抗体を用いてブロットした時にバンドが認められること、およびこの領域の抗原決定基C末端を認識する抗体でブロットした時にバンドが認められないことによって明らかにすることができる。薬剤の存在下における切断型αシヌクレインおよび/またはリン酸化型もしくはニトロ化型の形成の速度もしくは程度は、薬剤非存在下の同様な対照細胞と比較する。対照に対して試験薬剤存在下の切断型αシヌクレイン形成の速度もしくは程度が低下した場合、これによって、薬剤がαシヌクレインの切断型へのプロセシングを阻害する薬理活性を有することが明らかになる。この活性は、LBDを治療もしくは予防するのに有用である。
【0060】
(3.遺伝子導入動物によるアッセイ)
遺伝子導入動物は、上述の切断型αシヌクレイン、および任意選択的にAla30ProもしくはAla53Thなどの遺伝的変種を発現する導入遺伝子を有する。このような動物を試験対象の薬剤と接触させ、この切断型αシヌクレインの凝集の程度の速度を、同時的もしくはヒストリカルな対照との比較で測定する。この対照は、通常、上記薬剤に接触させなかった同種の同様な遺伝子導入動物である。遺伝子導入動物におけるαシヌクレインの凝集は、実施例で説明したように、ウエスタン・ブロッティングもしくは免疫組織化学によってモニターすることができる。あるいは、もしくはさらに、このような遺伝子導入動物における薬剤の活性は、実施例で説明したように、運動もしくは認識上の特徴などの行動上の特徴から測定することができる。このようなアッセイでは、薬剤の薬理活性は、薬剤に接触させなかった同様な対照遺伝子導入動物と比較した場合の運動もしくは認識上の特徴の改善(即ち、このような特徴の障害の低減)によって示される。
【0061】
別のアッセイは、完全長型αシヌクレイン、および任意選択的にAla30ProもしくはAla53Thなどの遺伝的変種を発現する導入遺伝子を有する遺伝子導入動物を用いて実施する。このような動物を試験対象の薬剤と接触させ、切断型αシヌクレイン、および任意選択的にAla30ProもしくはAla53Thなどの遺伝的変種についてこれらの出現の速度もしくは程度を検出する。このような型は、(細胞によるアッセイに対して述べたように)適切な抗αシヌクレイン抗体を用いたウエスタン・ブロッティングもしくは免疫組織化学的分析によって検出することができる。切断型αシヌクレインおよび/またはリン酸化もしくはニトロ化型の出現の速度の程度は、薬剤に接触させなかった同様な遺伝子導入動物に相当する同時的もしくはヒストリカルな対照におけるそのような型の出現の速度もしくは程度と比較する。対照に対して試験薬剤に接触させた動物における切断型αシヌクレイン出現の速度もしくは程度が低下した場合、これによって、薬剤が完全長のαシヌクレインの切断型へのプロセシングを阻害する薬理活性を有することが明らかになる。
【0062】
(4.スクリーニング対象の薬剤)
スクリーニング対象の薬剤としては、αシヌクレインに対する抗体、αシヌクレインのペプチド、LBDの処置において活性を有することが知られ、もしくは考えられる薬物、天然物、およびコンビナトリアル・ライブラリが挙げられる。好ましいαシヌクレインのペプチドは、αシヌクレインの118番目から125番目までのアミノ酸を含む30、25、20、10もしくはそれ以下の個数のアミノ酸から成る比較的短いペプチドである。任意選択的に、C末端切断型αシヌクレインを生じさせる切断部位のすぐN末端側のアミノ酸、例えば、αシヌクレインの119番目アミノ酸を、この切断部位を挟む2つのアミノ酸間に加水分解されない結合を形成する遷移状態アナログ・アミノ酸で置換する。アナログの例としては、スタチン、ヒドロキシエチレン、ヒドロキシエタノールアミン、AHPPA、ACHPAおよびこれらの誘導体などの遷移状態アナログがある。また、天然型αシヌクレインの1つ以上のアミノ酸を他の天然型アミノ酸で置換することもできる。
【0063】
また、スクリーニング対象の天然物は、国立がんセンター研究所天然物リポジトリ、ベセズダ、MDから入手することもできる。また、ペプチドその他の化合物のランダム・ライブラリを適合性についてスクリーニングすることもできる。コンビナトリアル・ライブラリは、段階的方法で合成することができる多くの種類の化合物について作製することができる。このような化合物としては、ポリペプチド、β−ターン類似物質、多糖類、リン脂質、ホルモン、プロスタグランジン、ステロイド、芳香族化合物、複素環式化合物、ベンゾジアゼピン、オリゴマーN−置換グリシン、およびオリゴカルバメートが挙げられる。これらの化合物の大きなコンビナトリアル・ライブラリは、アフィマックス社の国際公開第95/12608号、アフィマックス社の国際公開第93/06121号、コロンビア大学の国際公開第94/08051号、ファーマコペア社の国際公開第95/35503号およびスクリップス社(Scripps)の国際公開第95/30642号(これらのいずれも、あらゆる目的で引用により本明細書に組み込まれている)に開示されている符号化されたライブラリ合成(ESL)法によって構築することができる。また、ペプチド・ライブラリは、ファージ・ディスプレイ法によって作製することもできる。例えば、Devlinの国際公開第91/18980号を参照されたい。コンビナトリアル・ライブラリおよび他の化合物は、最初に、これらのαシヌクレインへの結合能を測定することによって適合性をスクリーニングすることができる。
【0064】
(VI.毒性アッセイ)
これらのスクリーニング・アッセイに開示されているのと類似の方法を用いて、既存の薬物、食品、環境有害物質および他の化合物がαシヌクレインのプロセシング、リン酸化もしくは凝集の促進を介して毒性作用を発現するかどうかを調べることができる。このようなアッセイは上記スクリーニング・アッセイと同様に行うことができる。毒性作用は、上記スクリーニング・アッセイにおける薬理活性とは逆の結果で示される。
【0065】
(VII.プロテアーゼの単離)
完全長αシヌクレインの本発明の切断型へのプロセシングは、プロテアーゼを用いて行う。このプロテアーゼは、上述のスクリーニング法によって特定される阻害剤を用いて精製することができる。好ましい阻害剤は、切断部位に対してN末端側の残基を遷移状態アナログで置換した117番目から126番目までの残基を含むαシヌクレインのペプチドである。このような阻害剤をアフィニティー精製試薬として用いることによって脳細胞の抽出物から上記プロテアーゼを精製する。この細胞は、正常者もしくはLDB病に罹患していた者の死体から入手することができる。プロテアーゼのレベルは後者で高いと考えられる。このプロテアーゼは、αシヌクレイン基質にこれを作用させ、切断産物の形成をモニターすることによってアッセイすることができる。この基質は、例えば、上述の天然のヒト型αシヌクレイン、切断部位の両側から挟む残基を有するその断片、もしくは突然変異が遺伝型LBDを伴うその突然変異型とすることができる。任意選択的に、こうした基質のC末端を固相に、N末端を標識に固定化することができる。基質が切断されると、この標識が液相に遊離する。この液相は固相から容易に分離されるので、標識の量を蛋白分解活性の指標として測定することができる。
【0066】
(VII.末端特異的抗体)
本発明は末端特異的抗体を提供する。この抗体は、(C末端)切断型αシヌクレイン、好ましくはSN1−118、SN1−119、1−120、1−121、1−122、1−123、1−124、1−125もしくは1−126からなる群から選ばれる型に特異的に結合するが、完全長のαシヌクレインには特異的な結合を示さない。このような抗体は、αシヌクレイン沈着物のインビトロでのイメージングに、および治療剤として(下記参照)、ならびに上述のスクリーニング方法においてαシヌクレインの蛋白分解性切断で生じる切断産物を検出するのに有用である。また、対応するC末端側断片、例えば、118−140、119−140、120−140、121−140、122−140、123−140、124−140、125−140および126−140に対する末端特異的抗体を提供する。こうした末端特異的抗体は、これらの断片のN末端を認識することによって、完全長のαシヌクレインには特異的な結合を示すことなく、断片に特異的に結合する。
【0067】
このような抗体は、実験動物をαシヌクレインもしくはその断片で免疫して抗体を生じさせ、得られた抗体をスクリーニングして所望の結合活性を有するものを特定することにより作製することができる。任意選択的に、免疫は、本発明の切断断片のC末端を含む20個未満のアミノ酸からなる比較的短いペプチド(例えば、SN99−118もしくはSN110−119)を用いて行うことができる。任意選択的に、こうした短いペプチドは、免疫反応の誘発を促進する担体に結合させる。
【0068】
任意選択的に、標識もしくは固定化断片への特異的な結合は、非標識の完全長αシヌクレインと競合させる形で行うことができる。任意選択的に、抗体の大きなライブラリは、ファージ・ディスプレイ法を用いて同時にスクリーニングすることができる。
【0069】
非ヒト、例えば、マウス、モルモット、霊長類、ウサギもしくはラットのモノクロナール抗体は、(あらゆる目的で引用により本明細書に組み込まれている)Harlow&Lane,Antibodies,A Laboratory Manual(CSHP NY、1988年)に記載されている方法で作製することができる。実験動物の免疫には、完全フロインドアジュバントと、これに続いて不完全アジュバントを用いることが好ましい。通常、ウサギもしくはモルモットはポリクロナール抗体の作製に用いられる。一般に、モノクロナール抗体の作製にはマウスを用いる。結合は、例えば、ウェスタン・ブロットもしくはELISAによって評価することができる。抗体の抗原決定基は、この抗体に特異的に結合する最小の断片によって規定される。一方、抗原決定基特異性は、試験および対照抗体がαシヌクレインへの結合に対して競合する競合アッセイによって調べることができる。試験および対照抗体が競合する場合、これらは同じ抗原決定基、もしくは1つの抗体の結合がもう一方の抗体の結合を妨げるのに十分互いに近接した抗原決定基に結合する。
【0070】
キメラおよびヒト化抗体は、キメラもしくはヒト化抗体の作製の出発原料となるマウスその他の非ヒト抗体と同一もしくは同様の結合特異性および親和性を有する。キメラ抗体は、その軽鎖および重鎖の遺伝子が、異なる種に由来する免疫グロブリン遺伝子セグメントから、通常遺伝子操作によって構築された抗体である。例えば、マウス・モノクロナール抗体からのこうした遺伝子の可変(V)セグメントを、ヒトのIgG1、IgG4などの定常(C)セグメントに結合させることができる。ヒト・アイソタイプIgG1が好ましい。一部の方法として、この抗体のアイソタイプはヒトIgG1である。また、一部の方法として、IgM抗体を用いることもできる。従って、代表的なキメラ抗体は、マウス抗体のV、即ち抗原結合ドメインとヒト抗体のC、即ちエフェクタ・ドメインとから成るハイブリッド抗体である。
【0071】
ヒト化抗体は、実質的にヒト抗体(アクセプター抗体と呼ばれる)からの可変領域フレームワーク残基、および実質的にマウス抗体(ドナー免疫グロブリンと呼ばれる)からの相補性決定領域を有する。QueenらのProc.Natl.Acad Sci USA86:p10029−10033(1989年)、国際公開第90/07861号、米国特許第5,693,762号、米国特許第5,693,761号、米国特許第5,585,089号、米国特許第5,530,101号、およびWinterの米国特許第5,225,539号(これらのいずれも、あらゆる目的のため全文引用により本明細書に組み込まれている)を参照されたい。また、定常領域は、存在する場合、実質的にもしくは完全にヒト免疫グロブリン由来のものとする。ヒト可変ドメインは、通常、フレームワーク配列が上記CDRの由来するマウス可変領域ドメインと高度の配列同一性を示すヒト抗体から選ばれる。重鎖および軽鎖可変領域フレームワーク残基は、同一もしくは異なるヒト抗体配列に由来するものとすることができる。ヒト抗体の配列は、天然型ヒト抗体の配列もしくは数種のヒト抗体のコンセンサス配列とすることができる。Carterらの国際公開第92/22653号を参照されたい。上記ヒト可変領域フレームワーク残基から特定のアミノ酸を選び、CDRの立体構造および/または抗原への結合に対して及ぼし得る影響に基づいて置換する。このような及ぼし得る影響についての研究は、模型化、特定の位置のアミノ酸の特性の検討、または特定アミノ酸の置換もしくは突然変異の影響についての経験的観察によって行われる。
【0072】
αシヌクレインに対するヒト抗体は、以下に説明する種々の方法により形成される。特定のマウス抗体と同じ抗原決定基特異性を有する一部のヒト抗体は、競合結合実験もしくは別の方法により選定する。ヒト抗体を得る方法としては、Oestbergら,Hybridoma 2:p361−367(1983年);Oestbergの米国特許第4,634,664号;およびEnglemanらの米国特許第4,634,666号(これらはいずれも、あらゆる目的で全文引用により本明細書に組み込まれている)に記載されているトリオーマ法、例えば、Lonbergらの国際公開第93/1222号、米国特許第5,877,397号、米国特許第5,874,299号、米国特許第5,814,318号、米国特許第5,789,650号、米国特許第5,770,429号、米国特許第5,661,016号、米国特許第5,633,425号、米国特許第5,625,126号、米国特許第5,569,825号、米国特許第5,545,806号、Nature 148:p1547−1553(1994年)、Nature Biotechnology 14:p826(1996年)、Kucherlapatiの国際公開第91/10741号(これらはいずれも、あらゆる目的で全文引用により本明細書に組み込まれている)に記載されているような、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の少なくとも1つのセグメントをコードしている導入遺伝子を有する非ヒト遺伝子導入哺乳動物の使用、ならびにファージ・ディスプレイ法(例えば、Dowerらの国際公開第91/17271号およびMcCaffertyらの国際公開第92/01047号、米国特許第5,877,218号、米国特許第5,871,907号、米国特許第5,858,657号、米国特許第5,837,242号、米国特許第5,733,743号および米国特許第5,565,332号(これらはいずれも、あらゆる目的で全文引用により本明細書に組み込まれている))が挙げられる。
【0073】
キメラ、ヒト化もしくはヒト抗体の重鎖および軽鎖可変領域は、ヒト定常領域の少なくとも一部分に結合させることができる。定常領域の選択は、一部、抗体依存性補体および/または細胞媒介毒性が所望されるかどうかによって決まる。例えば、アイソトープIgG1およびIgG3は補体活性を有するが、アイソタイプIgG2およびIgG4は有しない。また、アイソタイプの選択は、脳内への抗体の通過に影響することがある。ヒト・アイソタイプIgG1が好ましい。軽鎖定常領域はラムダ型もしくはカッパ型とすることができる。抗体は、2本の軽鎖および2本の重鎖を含む四量体として、もしくは別々の重鎖、軽鎖として、またはFab、Fab’、F(ab’)2およびFvとして、あるいは重鎖および軽鎖可変ドメインをスペーサを介して結合させた一本鎖抗体として発現させることができる。
【0074】
また、別の実施態様として、αシヌクレインの109番目から120番目の残基内もしくは115番目から123番目の残基内の抗原決定基または43番目から51番目の残基および68番目から65番目の残基内の不連続な抗原決定基に特異的に結合し、あるいはαシヌクレインのC末端に対して末端特異的であるヒト化型、キメラ型およびヒト型などのモノクロナール抗体を提供する。αシヌクレインのC末端に対する末端特異的抗体は、遊離蛋白質としてαシヌクレインに特異的に結合することができるが、αシヌクレインのC末端が別のペプチドと結合しているような融合蛋白質の構成成分としてのαシヌクレインには特異的に結合できないという性質によって識別することができる。これらの抗体は、治療活性についてスクリーニングすることができ、肯定的な結果が得られれば、治療法に用いることができる。また、こうした抗体は、前述のように、αシヌクレインの断片を検出するのにも用いることができる。
【0075】
(IX.診断)
本発明は患者においてLBをインビボでイメージングする方法を提供する。このような方法は、PDのリューイ体病もしくはこれに対する罹病性を診断し、またはこれらの診断を確認するのに有用である。例えば、この方法は痴呆の症状を示す患者において用いることができる。この患者がLBを有する場合、患者はリューイ体病に罹患していると考えられる。また、この方法は、無症候性の患者においても用いることができる。異常なアミロイド沈着が存在すると、将来症候性疾患に罹患しやすいことが分かる。また、この方法は、以前にリューイ体病と診断された患者において疾患の進行および/または治療に対する反応をモニターするのに有用である。
【0076】
この方法は、患者の体内でαシヌクレインに結合する上記のような末端特異的抗体を投与し、次いで結合したこの抗体を検出することによって行うことができる。所望であれば、除去反応は、Fabなどの完全長の定常領域を欠く抗体断片を用いることにより回避することができる。一部の方法では、同一の抗体に治療剤および診断試薬としての両方の機能を持たせることができる。
【0077】
診断試薬は、患者の体内に静注することにより、または頭蓋内注射により、もしくはドリルで穴をあけた頭蓋骨から直接脳内に投与することができる。試薬の投与量は治療方法の場合と同じ範囲内とする必要がある。通常、この試薬は標識するが、一部の方法では、αシヌクレインに対して親和性を有する主試薬は標識せず、別の標識試薬を用いて主試薬に結合させる。標識の選択は検出方法によって決まる。例えば、蛍光標識は光学的検出に適している。常磁性標識の使用は外科的処置を必要としない断層撮影法による検出に適している。また、放射活性標識はPETもしくはSPECTを用いて検出することができる。
【0078】
診断は、標識された部位の数、大きさおよび/または強度を対応するベースラインレベルと比較することにより行う。このベースラインレベルは健常者集団の平均のレベルとすることができる。また、ベースラインレベルは同一患者で測定した以前のレベルとすることもできる。例えば、処置を始める前の患者においてベースラインレベルを測定し、その後の測定値をこのベースラインレベルと比較することができる。ベースラインに対するレベルの減少は、処置に対する好反応を示唆するものである。
【0079】
また、末端特異的抗体は、切断型αシヌクレインが脳脊髄液または他の体組織もしくは体液に存在するかどうかを調べるのに有用である。この型が、健常者集団の正常レベルに対し、患者おいて有意に高いレベル(即ち、平均プラス1標準偏差より高いレベル)で存在することは、LBDに罹患しているか罹患性があることを示すものである。
【0080】
(X.処置方法)
本発明は、リューイ体病に罹患しているか、罹患するリスクを有する患者においてこの疾患を予防もしくは治療するいくつかの方法を提供する。治療剤としては、上述の切断型αシヌクレインおよび抗体を誘導するのに有効なその断片、上記のような末端特異的抗体、ならびに上述のような、切断型αシヌクレインの凝集もしくはαシヌクレインの蛋白分解性プロセシングに対する阻害剤が挙げられる。LBDに罹患しているか、罹患するリスクを有する患者に薬剤を投与する一般的な方法については、あらゆる目的で、記載されている全ての引用文献を含む全文引用により本明細書に組み込まれている同時係属出願の2002年11月1日提出の米国特許出願第60/423,012号、ならびに2000年6月1日提出の国際特許出願第PCT/US00/15239号および2003年10月31日提出の国際特許出願第PCT/US03/34527号に開示されている。
【0081】
治療の対象となる患者としては、現在LBDの症状を示している患者ばかりでなく、LBDに罹患するリスクを有するが、症状は出ていない者も含まれる。従って、本方法は、LBDについて知られている遺伝的リスクを有する者に予防的に施行することができる。このような者としては、本疾患に罹患したことのある血縁者を有する者、および遺伝もしくは生化学的マーカーの解析によってリスクが明らかにされている者が挙げられる。PDに対するリスクの遺伝マーカーとしては、αシヌクレインもしくはパーキン(Parkin)、UCHLI、およびCYP2D6遺伝子の突然変異;特に、αシヌクレイン遺伝子の30および53番目の位置の突然変異が挙げられる。現在パーキンソン病に罹患している者は、静止振戦、筋固縮、運動緩徐および姿勢の不安定を含む臨床症状によって見分けることができる。
【0082】
一部の方法として、上記患者は、リューイ体を特徴とする疾患以外のどんなアミロイド生成性疾患の臨床症状もしくはリスク要因も有さない者である。一部の方法として、上記患者は、細胞外アミロイド沈着を特徴とするどんな疾患の臨床症状もしくはリスク要因も有さない者である。一部の方法として、上記患者は、Aβペプチドのアミロイド沈着を特徴とする疾患を有さない者である。一部の方法として、上記患者は、アルツハイマー病の臨床症状およびリスク要因を有さない者である。一部の方法として、上記患者は、アルツハイマー病とリューイ体とを特徴とする疾患を併発している者である。一部の方法として、上記患者は、アルツハイマー病とパーキンソン病とを併発している者である。
【0083】
無症候性の患者では、任意の年齢(例えば、10、20、30歳)で処置を開始することができる。しかしながら、通常、患者が40、50、60もしくは70歳に到達するまで処置を開始する必要はない。一般的には、処置は、ある期間にわたって多回投与することを必要とする。処置は、治療剤(例えば、切断型αシヌクレイン・ペプチド)に対する抗体または活性化T細胞もしくはB細胞反応を長い期間をかけてアッセイすることによりモニターすることができる。反応が低下した場合には、追加抗原投与が必要となる。
【0084】
予防的な適用では、医薬用組成物もしくは薬剤を、LBDに罹りやすいか、それとも罹るリスクのある患者に対して、そのリスクを除去もしくは低下させ、その重症度を軽減し、あるいはこの疾患の生理学的、生化学的、組織学的および/または行動上の症状、その合併症ならびにこの疾患の進行中に発現する中間的な病理学的表現型を含むこの疾患の発現を遅らせるのに十分なこの組成物もしくは薬剤の投与量および投与頻度を含む治療法において投与する。治療的な適用では、組成物もしくは薬剤を、そのような疾患が疑われるか、すでに罹患している患者に対して、その合併症およびこの疾患の進行中に発現する中間的な病理学的表現型を含むこの疾患の(生理学的、生化学的、組織学的および/または行動上の)症状を治すか、少なくとも部分的に抑えるのに十分なこの組成物の投与量および投与頻度を含む治療法において投与する。治療的もしくは予防的処置を遂行するのに適切な量は、治療的もしくは予防的有効用量と定義される。治療的もしくは予防的処置を遂行するのに適切な量および投与頻度の組み合わせは、治療的もしくは予防的有効療法と定義される。治療的および予防的有効療法のいずれにおいても、薬剤は、通常、十分な免疫反応が達成されるまで数用量投与する。一般には、免疫反応をモニターし、免疫反応が減弱し始める場合には投薬を繰り返す。
【0085】
一部の方法では、薬剤の投与によりαシヌクレインの細胞内凝集レベルが低下する。一部の方法では、薬剤の投与によりC末端切断型αシヌクレインのレベルが低下する。一部の方法では、薬剤の投与により、パーキンソン病の場合の運動もしくは認識機能のようなLBDの臨床症状が改善する。一部の方法では、薬剤投与後、時々、αシヌクレインの細胞内凝集レベルの低下もしくは疾患の臨床症状の改善をモニターする。
【0086】
上述の症状の処置に対する本発明の組成物の有効用量は、多くの種々の要因、例えば、投与手段、標的部位、患者の生理的状態、患者がヒトか動物か、他の投与薬剤、および処置が予防的なものか治療的なものかによって異なる。通常、患者はヒトであるが、遺伝子導入動物を含む非ヒト哺乳動物も処置することができる。処置用量は、安全性および有効性を最適化するために漸増する必要がある。
【0087】
一部の方法では、この薬剤は、αシヌクレインの切断断片もしくはαシヌクレインに対する抗体を誘導することができるその断片である。このような断片の量は、アジュバントも投与するかどうかによって決まり、アジュバントを用いない場合には用量を上げる必要がある。ヒトへの投与の場合、断片の投与量は、患者1人当たり1から500μgまでとし、より普通には、1回の注射当たり5から500μgとすることがある。時として、1回の注射当たり1〜2mgの比較的高用量を用いる。一般には、ヒトへの注射1回当たり約10、20、50もしくは100μgを用いる。また、断片の質量は、断片全体の質量に対する断片内の免疫原性抗原決定基の質量比によって決まる。通常、断片の1マイクログラムにつき10−3〜10−5マイクロモルの免疫原性抗原決定基を用いる。注射のスケジュールは、1日1回から1年に1回、さらには10年に1回と大きく変えることができる。ある用量の免疫原を投与する所定の日の投与量は、1μg/患者より高く、アジュバントも投与する場合には、通常10μg/患者より高いが、アジュバントを用いない場合は、通常100μg/患者より高い。一般的な治療法は、免疫後、6週間間隔などの時間間隔でブースタ注射を行うことから成る。別の治療法は、免疫後、1、2および12ヶ月後にブースタ注射を行うことから成る。別の治療法は、生涯にわたって2ヶ月毎の注射を必要とする。あるいは、ブースタ注射は、免疫反応のモニタリングによって必要とされる場合、不定期に行うことができる。
【0088】
また、αシヌクレインの切断断片は、αシヌクレインの切断断片の発現を確実にするための1つ以上の調節性エレメントに動作可能なように結合させたこの断片をコードする核酸の形で投与することもできる。免疫原をコードする核酸の用量は、患者1人当たり約10ng〜1g、100ng〜100mg、1μg〜10mgもしくは30〜300μgDNAである。感染性ウイルス・ベクターの用量は、投与量当たり10〜100ビリオンもしくはそれ以上とする。
【0089】
一部の方法は末端特異的抗体を用いた受動免疫を含む。このような方法では、投与量は宿主体重1kg当たり約0.0001〜100mg、より普通には0.01〜5mgである。例えば、投与量を1mg/kg体重もしくは10mg/kg体重または1〜10mg/kgの範囲内、即ち、70kgの体重の患者の場合、それぞれ、70mgもしくは700mgまたは70〜700mgの範囲内とすることができる。例示的な処置療法は、2週間毎に1回もしくは1ヶ月に1回もしくは3〜6ヶ月に1回投与するものである。一部の方法では、種々の結合特異性を有する2種以上のモノクロナール抗体を、各抗体の投与量が示した範囲内に収まるようにして、同時投与する。通常、抗体は複数回にわたって投与する。個々の投薬間の間隔は1週間、1ヶ月もしくは1年とすることができる。また、間隔は、患者におけるαシヌクレインに対する抗体の血中濃度の測定によって必要とされる場合、不定期とすることができる。一部の方法では血漿中抗体濃度が1〜1,000μg/mlとなるように、一部の方法では25〜300μg/mlとなるように投与量を調節する。あるいは、抗体は、徐放性製剤として投与することができるが、この場合、投与頻度を下げる必要がある。投与量および投与頻度は患者体内における抗体の半減期によって異なる。一般に、ヒト型抗体は最も長い半減期を示し、これにヒト化抗体、キメラ抗体および非ヒト抗体が続く。投与量および投与頻度は、処置が予防的なものか治療的なものかによっても異なることがある。予防的な適用では、比較的低用量を長期間比較的低頻度の間隔で投与する。一部の患者では、その後の生涯にわたって処置を継続する。治療的適用では、疾患の進行が低減するか停止するまで、好ましくは患者が疾患の症状の部分的もしくは完全な寛解を示すまで、比較的短い間隔で比較的高用量を投与することが必要な場合がある。その後は、この患者に予防療法を施行することができる。
【0090】
治療剤は、予防的および/または治療的処置において、非経口的、局所的、経静脈的、経口的、経皮下的、経動脈的、経頭蓋内的、経髄腔内的、経腹腔内的、経鼻腔内的もしくは経筋肉内的手段によって投与することができる。免疫原の最も一般的な投与経路は皮下であるが、他の経路も同様に有効である。次に最も一般的な投与経路は筋肉内注射である。このタイプの注射は、最も一般的には、腕もしくは脚筋において行われている。一部の方法として、薬剤を、沈着物が蓄積している特定の組織に直接注射(例えば、頭蓋内注射)する。抗体の投与には筋肉内注射もしくは静脈内注射が好ましい。一部の方法として、特定の治療用抗体を頭蓋内に直接注射する。一部の方法として、抗体を徐放組成物もしくはデバイス、例えば、メディパッド(Medipad)(登録商標)デバイスとして投与する。αシヌクレインのプロテアーゼによるプロセシングを阻害することによって作用する小分子は、この小分子が治療もしくは予防効果を示すのに十分脳血液関門を通過する場合には静脈内に、そうでない場合は頭蓋内に直接投与することができる。
【0091】
本発明の薬剤は、任意選択的に、LBDの処置において少なくともある程度有効な他の薬剤と組み合わせて投与することができる。また、本発明の薬剤は、脳血液関門に対する本発明の薬剤の通過を促進する他の薬剤と併用して投与することもできる。
【0092】
免疫原はアジュバントとの組み合わせで投与することがある。種々のアジュバントをαシヌクレインなどのペプチドと組み合わせて用いることにより免疫反応を誘発することができる。好ましいアジュバントは、免疫原に固有の反応を増強するが、この反応の質的な形態に影響する免疫原の立体構造変化を引き起こさない。好ましいアジュバントとしては、水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウム、3De−O−アシル化モノホスホリルリピッドA(MPL(登録商標))(英国特許第2220211号(RIBIイムノケム・リサーチ社(ImmunoChem Research Inc.)、ハミルトン、モンタナ州、現在コリザ社の一部)参照)が挙げられる。スティミュロン(Stimulon)(登録商標)QS−21は、南アメリカに存在するバラ科キラヤ(学名Quillaja Saponaria Molina)の木の樹皮から単離されたトリテルペン・グリコシドもしくはサポニンである(Kensilら,Vaccine Design:The Subunit and Adjuvant Approach(Powel&Newman編、Plenum Press、NY、1995年);米国特許第5,057,540号(アキラ・バイオファーマシューティカルス社(Aquila BioPharmaceuticals)、フレーミングハム、MA)参照)。他のアジュバントには、(スクアレン、ピーナッツ油などの)水中油エマルジョンがあり、任意選択的に、モノホスホリルリピッドA(Stouteら,N Engl J Med 336:p86−91(1997年)、プルロニック・ポリマー、マイコバクテリア死菌などの免疫賦活剤と組み合わせて用いる。別のアジュバントにはCpG(国際公開第98/40100号)がある。あるいは、αシヌクレインをアジュバントに結合させることができる。しかしながら、このような結合によって、αシヌクレインの立体構造がこれに対する免疫反応の性質に影響を与えるような変化を実質的に生じてはならない。アジュバントは、有効な薬剤を含む治療用組成物の構成任意選択的に成分として投与することができ、あるいは治療剤の投与の前、もしくは投与と同時に、または投与後に別々に投与することができる。
【0093】
好ましい種類のアジュバントは、水酸化アラム、リン酸アラム、硫酸アラムなどのアルミニウム塩(アラム)である。このようなアジュバントは、MPLもしくは3−DMP、QS−21、ポリグルタミン酸、ポリリジンなどの重合体もしくは単量体アミノ酸のような他の特異的免疫賦活剤と併用するか併用しないで用いることができる。別の種類のアジュバントは水中油エマルジョン製剤である。このようなアジュバントは、ムラミルペプチド(例えば、N−アセチルムラミル−L−スレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(nor−MDP)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(MTP−PE)、N−アセチルグルコサミル−N−アセチルムラミル−L−Al−D−イソグル−L−Ala−ジパルミトキシプロピルアミド(DTP−DPP)テラミドTM)その他の細菌細胞壁成分のような他の特異的免疫賦活剤と併用するか併用しないで用いることができる。水中油エマルジョンとしては、(a)モデル110Yミクロフルイダイザー(ミクロフルイディクス社(Microfluidics)、ニュートン、MA)などのミクロフルイダイザーを用いて1ミクロン未満の粒子に処方された、(任意選択的に種々の量のMTP−PEを含む)5%スクアレン、0.5%ツウィーン80および0.5%スパン85を含むMF59(国際公開第90/14837号)、(b)1ミクロン未満のエマルジョンにミクロ流体化するか旋回流を与えてより大きなサイズのエマルジョンとした、10%スクアレン、0.4%ツウィーン80、5%プルロニック・ブロック・ポリマーL121およびthr−MDPを含むSAF、ならびに(c)2%スクアレン、0.2%ツウィーン80、およびモノホスホリルリピドA(MPL)、トレハロースジミコレート、(TDM)、細胞壁骨格(CWS)、好ましくはMPL+CWS(デトックス(Detox)(登録商標))からなる群から選ばれる1種以上の細菌細胞壁成分を含むリビ(Ribi)(登録商標)アジュバント・システム(RAS)(リビ・イムノケム社(Ribi ImmunoChem)、ハミルトン、MT)が挙げられる。
【0094】
別の種類の好ましいアジュバントは、スティミュロン(Stimulon)(登録商標)(QS−21、アキラ社(Aquila)、フレーミングハム、MA)などのサポニン系アジュバント、もしくはこれらから作製したISCOM(免疫賦活複合体)、ISCOMATRIXなどの粒子である。他のアジュバントとしては、RC−529、GM−CSFならびに完全フロインドアジュバント(CFA)およびフロイント不完全アジュバント(IFA)が挙げられる。別のアジュバントとしては、インターロイキン(例えば、IL−1、IL−2、IL−4、IL−6、IL−12、IL13およびIL−15)、マクロファージ・コロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子(GM−CSF)、腫瘍壊死因子(TNF)などのサイトカインが挙げられる。別の種類のアジュバントは、免疫調節剤もしくはアジュバントとしての、糖残基がアミノ酸で置換されているN−グリコシルアミド、N−グリコシルウレアおよびN−グリコシルカルバメートを含む糖脂質である(米国特許第4,855,283号参照)。また、熱ショック蛋白質、例えば、HSP70およびHSP90もアジュバントとして用いることができる。
【0095】
アジュバントは、αシヌクレイン断片と一緒に、単一組成物として投与することができ、あるいはαシヌクレイン断片投与の前、もしくはこれと同時に、またはこれの後に投与することができる。αシヌクレイン断片およびアジュバントは、同一バイアルに包装して供給することができ、もしくは別々のバイアルに包装して使用前に混合することができる。通常、αシヌクレイン断片およびアジュバントは、目的とする治療用途を表示するラベルと共に包装する。αシヌクレイン断片およびアジュバントが別々に包装される場合には、この包装に、使用前に混合することについての使用説明書を添付するのが普通である。アジュバントおよび/または担体の選択は、このアジュバントを含む免疫原製剤の安定性、投与経路、投与スケジュールおよび接種対象の種に対するアジュバントの効力によって決まり、ヒトにおいて医薬用として許容可能なアジュバントは、関係する規制機関によってヒトへの投与が承認されているか承認されうるものである。例えば、完全フロインドアジュバントはヒトへの投与に適切ではない。アラム、MPLおよびQS−21が好ましい。任意選択的に、2種以上のアジュバントを同時に用いることができる。好ましい組み合わせとしては、アラムとMPL、ミョウバンとQS−21、MPLとQS−21、MPLもしくはRC−529とGM−CSF、およびアラムとQS−21とMPLが挙げられる。また、任意選択的にアラム、QS−21およびMPLならびにこれらの全ての組み合わせのうちのいずれかと併用して、フロイント不完全アジュバントを使用することができる(Changら,Advanced Drug Delivery Reviews 32:p173−186(1998年))。
【0096】
多くの場合、本発明の薬剤は、有効な治療剤および各種の他の医薬用として許容可能な成分を含む医薬用組成物として投与する。Remington’s Pharmaceutical Science(第15版、Mack Publishing Company,Easton,Pennsylvania)、1980年)を参照されたい。好ましい形態は、所望の投与様式および治療用途によって決まる。また、この組成物は、所望の製剤に応じて、動物もしくはヒトへの投与用の医薬用組成物を処方するための一般的な賦形剤と定義される、医薬用として許容可能で毒性のない担体もしくは希釈剤を含むことができる。この希釈剤は、その組み合わせの生物活性に影響を与えないように選択する。このような希釈剤の例としては、蒸留水、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、ブドウ糖液、およびハンクス液がある。さらに、この医薬用組成物もしくは製剤は、他の担体、アジュバント、もしくは毒性がなく治療用ではない非免疫原性の安定化剤なども含むことができる。
【0097】
また、医薬用組成物は、蛋白質、キトサンなどの多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸および(ラテックス官能化セファロース(latex functionalized Sepharose)(登録商標)、アガロース、セルロースなどの)コポリマー、アミノ酸重合体、アミノ酸共重合体、ならびに(油滴、リポソームなどの)脂質凝集物などの大きくてゆっくりと代謝される高分子を含むこともできる。さらに、こうした担体は、免疫賦活剤(即ち、アジュバント)として機能させることができる。
【0098】
非経口投与の場合、本発明の薬剤は、水、油、生理食塩水、グリセロール、エタノールなどの滅菌液とすることができる医薬用担体を含む生理的に許容可能な希釈剤を用いたこの物質の溶液もしくは懸濁液として、注射可能な用量を投与することができる。さらに、湿潤剤、乳化剤、界面活性剤、pH緩衝剤などの補助剤を組成物に加えることができる。医薬用組成物の他の成分としては、石油、動物、植物もしくは合成由来の成分、例えば、ピーナッツ油、大豆油および鉱油がある。一般に、プロピレングリコール、ポリエチレン・グリコールなどのグリコール類が、特に注射用溶液には好ましい液体担体である。抗体は、有効成分の持続放出を可能にするように処方することができるデポー注射剤もしくは植込み製剤の形で投与することができる。例示的な組成物は、50mMのL−ヒスチジンおよび150mMのNaClからなり、HClでpH6.0に調整した水性緩衝液に配合したモノクロナール抗体を5mg/mL含む。通常、非経口投与用の組成物は、実質的に無菌で、実質的に等張であり、FDAもしくは同様な機関のGMP条件下に製造される。
【0099】
通常、組成物は溶液もしくは懸濁液の形の注射剤として調製するが、注射に先立って液体溶媒に溶解もしくは懸濁するのに適した固形物として調製することもできる。また、この製剤は、上述のアジュバント効果を増強するために、リポソームもしくはポリラクチド、ポリグリコリド、コポリマーなどの微粒子を用いて乳化もしくは封入することもできる(Langer,Science 249:p1527(1990年)およびHanes,Advanced Drug Delivery Reviews 28:p97−119(1997年)参照)。本発明の薬剤は、有効成分の持続もしくはパルス放出を可能にするように処方することができるデポー注射剤もしくは植込み製剤の形で投与することができる。
【0100】
他の投与様式に適した別の製剤としては、経口用、鼻腔内用および呼吸器用(pulmonary)製剤、坐剤ならびに経皮投与剤(transdermal application)が挙げられる。坐剤の場合、結合剤および担体としては、例えば、ポリアルキレン・グリコールもしくはトリグリセリドが挙げられ、このような坐剤は、本有効成分を0.5%〜10%、好ましくは1%〜2%含む混合物から作製することができる。経口用製剤は、医薬品グレードのマンニトール、乳糖、でんぷん、ステアリン酸マグネシウム、サッカリン・ナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの賦形剤を含む。この組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放製剤もしくは散剤の形をとり、有効成分を10%〜95%、好ましくは25%〜70%含む。
【0101】
局所に適用すると、経皮的に、もしくは皮内から送達させることができる。本剤をコレラトキシンまたはその無毒化誘導体もしくはサブユニットあるいは他の同様な細菌毒素と同時投与することにより局所投与を容易にすることができる(Glennら,Nature 391:p851(1998年))。同時投与は、これらの成分を混合物として、または化学的架橋結合もしくは融合蛋白質としての発現により得られる結合分子として用いることにより達成することができる。あるいは、スキン・パス(skin path)もしくはトランスフェロソームを用いて経皮的送達を達成することができる(Paulら,Eur.J.Immunol.)25:p3521−24(1995年);Cevcら,Biochem.Biophys.Acta 1368:p201−15(1998年))。
【実施例】
【0102】
(1.遺伝子導入動物における切断型αシヌクレインの検出)
PDFGプロモータに動作可能なように結合させたインタクトなαシヌクレインをコードする核酸を有する、6週令、3ヶ月齢および12ヶ月齢の遺伝子導入マウスを用いて検討した。これらのマウスを安楽死させて、4匹(雄2匹/雌2匹)からの皮質および海馬組織をプールした。この組織をTBS(250mM NaCl)中でホモジナイズした後、150,000×gで15分間遠心した。次いで、得られたペレットを1%トリトンXにより30分間4℃で抽出し、これを上記のようにして遠心した。次に、得られたペレットを1%SDSにより30分間25℃で抽出し、これを上記と同様に遠心した。最後に、このペレットを8M尿素/1%SDSで抽出した。この方法によって、以下の説明でトリス、トリトン、SDSおよび尿素抽出物と呼ぶ4種の抽出物が得られた。
【0103】
図1Aおよび図1Bは、抗体ELADW−47を用いた、遺伝子導入マウスおよび対応対照からの抽出物のウェスタン・プロットを示す。この抗体は、SN115−122内の抗原決定基に結合する(が、何がしかの結合を生じるのに必ずしもその全てのアミノ酸を必要とする訳ではない)ポリクロナール抗体である。この抗体は、ヒト型αシヌクレインを選択的に結合するだけでなく、程度はより少ないがマウス型にも結合する。図1Aおよび図1Bは、対照マウスおよび遺伝子導入マウスにおける14kDaのαシヌクレインのバンドを示す。このバンドは対照よりも遺伝子導入マウスで強い。各種の抽出物では、トリトン抽出物のバンドが最も強い。この抽出物は、膜結合αシヌクレインおよび恐らくリューイ体様封入体を可溶性にしている。(対照ではなく)遺伝子導入マウスについてのトリスおよび特にトリトン抽出では、トリシン緩衝液中で約12kDaのバンドが現れる。これは切断型αシヌクレインである。このバンドの分子量は、約115〜120個のアミノ酸の長さに相当する。
【0104】
図2は、図1と同じ抗体を用いて、3ヶ月齢と12ヶ月齢のマウスで切断型αシヌクレインのレベルを比較したウェスタン・ブロットを示す。この図から、この切断型は3ヶ月齢のマウスでより強く現れることが分かる。この場合も、対照マウスでは切断型は現れない。このように遺伝子導入マウスの発育の初期段階で切断型αシヌクレインがより強く現れることから、切断型αシヌクレインはリューイ体病の発生過程の初期段階で役割を果たしていることが分かる。
【0105】
図3Aおよび図3Bは、12C1と呼ばれる別の抗体(43番目から51番目および58番目から65番目のアミノ酸の抗原決定基に結合するモノクロナール抗体IgG1 k)を用いたウェスタン・ブロットを示す。この抗体は、43番目から51番目および58番目から65番目までのアミノ酸を含む抗原決定基においてマウス型およびヒト型αシヌクレインと等しく結合する。図3は、上記遺伝子導入マウスのトリトン抽出物における12kDaの切断バンドを示す。対照マウスのトリトン抽出物では同じバンドが、ずっとぼんやりと現れる。従って、αシヌクレインの切断型へのプロセシングは正常マウスおよび遺伝子導入マウスのいずれにおいても生じるが、後者の方がより強く生じる。このように遺伝子導入マウスにおいてプロセシングの程度がより強いのは、ヒト型αシヌクレインを直接プロセシングすることによると考えられ、もしくは非遺伝子導入マウスで余り使われていない経路に沿ってマウス型αシヌクレインを追いやるヒト型αシヌクレインの存在による考えられる。
【0106】
図4は、図3と同じ抗体を用いた別のウェスタン・ブロットを示す。このゲルでは、分子量約6もしくは7kDaの別の2つのバンドが現れている。7kDaのバンドは対照マウスよりも遺伝子導入マウスにおいて強く現れる。6kDaのバンドは、遺伝子導入マウスにおいてのみ、その上、3ヶ月サンプルにおいてのみ現れる。この6もしくは7kDaのバンドは、長さ約50〜80個のアミノ酸のより短いαシヌクレインN末端断片を示すものである。
【0107】
図5A、図5B、図5C、図5Dおよび図5Eは、4種の抗体を用いたウェスタン・ブロットおよびこれらの抗体の結合部位の抗原決定基マップを示す。ELADW−44は、ヒト型αシヌクレインにのみ結合する(即ち、マウス型には結合しない)ポリクロナール抗体である。これは98番目から019番目のアミノ酸の抗原決定基に結合する。ELADW−47は、ヒト型に選択的に結合するだけでなく、マウス型にも結合するポリクロナール抗体である。これは115番目から122番目のアミノ酸の抗原決定基に結合する。ELADW−48は、ヒト型およびマウス型に等しく結合するポリクロナール抗体である。これは131番目から140番目のアミノ酸の抗原決定基に結合する。8A5は、ヒト型およびマウス型に等しく結合するモノクロナール抗体である。これはαシヌクレインのC末端に結合する。図5A〜図5Eから、以上の4種の抗体のうち、ELADW−47のみが切断型αシヌクレインを示す12kDaのバンドを生じたことが分かる。ELADW48がこのバンドを生じなかったという結果は、切断部位のマッピングを行うのに助けになる。ELADW−47は結合し、ELADW48は結合しなかったので、切断部位は、ELADW−47抗原決定基のN末端およびELADW−48抗原決定基のC末端アミノ酸に隣接している。さらに、ELADW−47抗原決定基の一部のアミノ酸が存在することにより結合が可能となるはずであり、ELADW−48抗原決定基の一部のアミノ酸が存在しないことにより結合が妨げられるはずであるので、切断部位は、さらに、ほぼ118番目から135番目のアミノ酸の範囲内の領域に限定される。このデータを切断断片のサイズ(約115〜120アミノ酸)と考え合わせると、考えられる切断部位は、118番目〜121番目のアミノ酸あたりである。C末端抗体8A5による結合が見られないことは、この切断部位と整合する。しかしながら、抗体ELADW−44による結合が見られないことについては、さらに解説を要する。切断により生じる切断型ヒト・αシヌクレインが異なる立体構造をELADW−44の結合を妨げるインタクトなαシヌクレインに適合させるのであれば、このように切断が見られないことの説明がつく。一方、正常マウスよりも遺伝子導入マウスでより大きな程度に存在する切断型αシヌクレインは、マウス・αシヌクレイン型である。この場合、遺伝子導入マウスで切断型の量が多いのは、対照マウスの状況と比べて切断型αシヌクレインを生じるプロセシング経路に沿ってより多くのマウス・αシヌクレインを追いやるヒト・αシヌクレインの存在によるものと思われる。
【0108】
(2.DLBD患者の脳内の切断型αシヌクレインの検出)
この実施例では、LB内のαシヌクレイン種をDLBD脳の残りの可溶性および粒状蛋白質フラクションと比較する。LBおよび可溶性蛋白質は、単一のDLBD患者の皮質から調製する(Jensenら,J.Biol.Chem.275:p21500−21507(2000年)参照)。組織は、トリス/スクロース(0.32mM)/EDTA(5mM)およびプロテアーゼ阻害剤緩衝液中でホモジナイズした。得られたホモジネートを1000gで遠心した。上清をさらに150kgで遠心した。この遠心による上清を用いて蛋白質のトリス可溶性フラクションを調製した。1000gの遠心で得られたペレットは再懸濁し、これを用いてリューイ体フラクションを調製した。リューイ体は、抗シヌクレイン抗体を担持させた磁性ビーズを用いる免疫沈降法によって精製した。次いで、得られた沈降物を7M尿素2Mチオ尿素/4%CHAPSで抽出した。得られた結合型を尿素/チオ尿素/CHAPSで再抽出した。次いで、この工程による抽出物と前回の抽出物とをプールし、2D PAGEおよびイムノブロットにより分析した。結合型を、さらに90%ギ酸で抽出した。得られた抽出物は、ギ酸9%にまで希釈して保存した。次いで、この抽出物をSDS PAGEおよびRP−HPLCにより分析した。
【0109】
シヌクレイン種は2−Dゲルで分離し、ウェスタン・ブロットで検出した。その結果、LBおよび可溶性脳フラクションのいずれにも、リン酸化型および切断型の種を含む複数のαシヌクレイン種が存在した。切断は、αシヌクレインのほぼ120番目〜125番目のアミノ酸のC末端に主に認められた。また、C末端近くで切断された別の大きな断片も認められた。β−およびγ−シヌクレインは、上記可溶性フラクション中には存在しているにもかかわらず、LB中には検出されなかった。このLB試料中のαシヌクレインは、別のC末端切断部位を有する点、および全体的に切断型αシヌクレイン種が可溶性蛋白フラクションに比し、LB内に濃縮されている点で、この可溶性フラクション中のものと異なっていた。さらに、分子量が約25〜35kDaとより大きい複数のαシヌクレイン種がLB試料にのみ検出された。C末端切断断片は、実施例1の遺伝子導入マウスで認められたのと同じサイズであり、疾患の原因としての役割が示唆された。
【0110】
図6A、図6Bおよび図6Cは、種々の抗体でプローブし、2−Dゲル電気泳動の対象として、ウェスタン・ブロッティングにかけたトリトン抽出物を示す。チャートの左の方にみられるダーク・スポットは完全長のαシヌクレインを示す。最も注目すべき特徴は、8A5のチャートにはみられないSyn−1のチャートの4つのスポットである。これら4つのスポットは、C末端アミノ酸の欠如のため8A5抗体を結合することができない切断型αシヌクレインである。これらの切断は、SN1−120〜SN1−125の型にほぼ相当する。完全長αシヌクレインのスポットの下および近傍にはいくつかの別のスポットがみられる。この完全長スポットの下のスポットは、C末端からの小さな切断(即ち、Xを130〜139とした場合のシヌクレイン1−X)を示すものと思われる。完全長スポット近傍の右側スポットは(ELADW43を用いたブロットにこのスポットがないため)N末端からの小さな欠損を示す。
【0111】
図7A、図7B、図7Cおよび図7Dは、別の抗体を用いたブロットを示す。5C12(109−120)の場合、4つのスポットが認められる。ELADW47(118−123)の場合、これらのスポットのうちの2つが認められ、LB509(115−123)の場合、これら全てのスポットがみられなかった。これらのスポットは、分子量においても、ニトロ化、リン酸化などの翻訳後修飾の有無においても互いに異なると思われる。これらの結果から、切断部位はαシヌクレインのほぼ120番目から125番目のアミノ酸の範囲内に決まる。また、注目すべきは、いくつかのスポットが、修飾されていないシヌクレインのスポットよりもわずか下(分子量がより小さい)もしくは右側(pHがより高い)に出ていることである。これらは、恐らく、主要なスポットに比し、受けた切断の程度が小さい、および/又は翻訳後に受けた修飾が異なるシヌクレインの型を示すものと考えられる。
【0112】
図8は、ウェスタン・ブロッティングに用いる抗体が結合する抗原決定基に関係する切断部位の概要を示す。
【0113】
図9A、図9Bは、トリス可溶性蛋白質とリューイ体からの抽出蛋白質とを2D電気泳動およびウェスタン・ブロッティングにより比較したものである。左側のトリス・ブロットには、(恐らくアミノ酸1番目から120番目〜1番目から125番目の範囲にある)切断型αシヌクレインを表すより低分子量の4つのスポットが示されている。これらは、完全長αシヌクレインを表すスポットに比し、強度が比較的低い。リューイ体からの蛋白質のブロットでは、1番目から120番目〜1番目から125番目の範囲の切断型αシヌクレインを表すより多くのスポットが示されている。しかしながら、これらは、完全長αシヌクレインを表すスポットに比し、強度が高い。また、明らかなことは、2つのスポットが、完全長αシヌクレインより速いが、このブロットの下部に集まっているスポットよりも遅い移動を示すことである。これらのスポットは、Xを130〜139番目のアミノ酸とした場合の1−Xの範囲の切断を表すものと考えられる。
【0114】
図10A、図10B、図10C、図10Dは、各種C末端抗体で再プローブした(reprobed)リューイ体からの蛋白質の免疫ブロットを示す。Syn−1(91−96)および5C12(109−120)の場合、全てのスポットが現れる。ELADW47の場合、Syn−1および5C12ブロットにおいて最も速い速度で最も底部の(basic)位置を移動するスポットは見当たらない。LB509ブロットでは、その他のブロットにおける移動のより速い/より底部のスポットの全てが見当たらないか、ぼんやりとしている。ELADW47およびLB509のブロットに特定のスポットが存在しないか、強度が低いことから、これらのスポットは、切断型αシヌクレインを示すものであり、切断がほぼ120番目〜125番目のアミノ酸で生じることと符合していることが分かる。
【0115】
(3.遺伝子導入動物における凝集αシヌクレインの検出)
遺伝子導入動物を安楽死させ、脳を摘出して神経化学的および神経病理学的検討を行う。簡単に言えば、右半分の脳を凍結し、ホモジナイズして凝集および非凝集ヒト・αシヌクレインの免疫反応性をウェスタン・ブロットにより測定する(Masliahら,Science(2000年)287:p1265)。左半分の脳は、4%パラホルムアルデヒドで固定し、ビブラトームで連続切片を作製して免疫細胞化学および超微細構造分析を行う。
【0116】
脳切片を、ヒト・αシヌクレインに対するウサギ・ポリクロナール抗体(1:500)で免疫染色する。4℃で一夜インキュベーションした後、切片を、ビオチニル化抗ウサギ二次抗体、次いでアビジンD−ホースラディシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)複合体(1:200、ABCエリート、ベクター社(Vector))とインキュベートする。反応を、0.001%H2O2を含む50mMのトリス−HCl(pH7.4)に溶かした0.1%の3,3−ジアミノベンジジン四塩酸塩(DAB)を用いて視覚化し、次いで、切片をエンテランを用いてスライド上に封入する。免疫反応性のレベルは、クウォンティメット570Cを用いるオプティカル・デンシトメトリーにより半定量的に評価した。また、この切片を画像解析により調べて、αシヌクレインの免疫反応性封入体の数を測定し、この信頼できるαシヌクレイン凝集の測定値を抗凝集効果の有用な指標として用いる(Masliahら,Science(2000年)287:p1265)。
【0117】
神経変性のパターンの解析は、シナプトフィジンおよび微小管関連蛋白2(MAP2)に対して二重免疫標識し、LSCMで視覚化したビブラトーム切片を用い、海馬、前頭皮質、側頭皮質および基底核のシナプスおよび樹状突起の密度を定量分析することによって達成する。神経変性の別の解析は、これまでに報告されている方法(Masliahら(2000年))により尾状核被殻および黒質(SN)のチロシン水酸化酵素(TH)の免疫反応性を測定することによって達成する。切片はLSCMによって画像化されることになり、個々の各画像は、線飛程内にピクセル強度を示すTH−免疫反応性終末が含まれるように、相互作用的に閾値によって処理される。スケールはピクセルをμm比で求めるように設定する。次いで、この情報を利用してTH−免疫反応性終末によって覆われる神経網の面積%を算出する。また、この同じ切片を用いてSN内のTHニューロンの数を計測する。
【0118】
(4.LBD患者におけるαシヌクレインの分析)
αシヌクレインのどの種が疾患組織内に濃縮され、もしくは疾患組織に特有であるかを明らかにするために、多系統萎縮症(MSA)および家族性パーキンソン病突然変異(A53T;Contursi家系)の患者からの脳サンプルについて検討した。MSAおよびContursi脳の粒状フラクションを、それぞれ、50mMトリス、140mM NaClおよび1%トリトン(MSAの場合)もしくは0.1%NP40(Contursiの場合)からなる溶液中で脳組織をホモジナイズすることによって調製した。年齢をマッチングした対照患者(「正常者」)についても疾患脳と全く同様に処理した。サンプルは、1−Dゲルを用い、次いで下記のようにELISAによって、さらに、2−Dゲルを用いて分析した。この分析は粒状フラクションの一部について行い、残りは遠心した。得られた上清についても分析し、ペレットは7M尿素で抽出した。この抽出による上清は分析した。得られたペレットは、さらに7M尿素/1%SDSで抽出し、その上清を分析した。全αシヌクレインを検出し、もしくは129番目の位置がリン酸化されたαシヌクレインを特異的に検出する抗体を用いたウェスタン・ブロットの結果を図11に示した。
【0119】
このシヌクレインの分画は、Contursi脳では対照脳と異なっていた。正常脳のシヌクレインの大部分は、トリス緩衝スクロース液を用いホモジナイズした後、可溶性であったが、Contursi脳のシヌクレインのほぼ全てで、可溶化するのに尿素およびSDSを必要とし、この患者では大量のリューイ体の存在が示唆された。Contursi患者のシヌクレインは、ser129リン酸化の量が対照患者と際立って異なっていた。対照患者ではごく少量のリン酸化α−シヌクレインが検出されたのに対して、Contursi患者では、ウェスタン・ブロットを用いた比較によって極めて大量のリン酸化シヌクレインが認められた。従って、Contursi脳のシヌクレインの不溶性は、シヌクレインのser129におけるリン酸化の大きな増大と関連付けられた。また、Contursi患者のα−シヌクレインは、C末端切断の分布が正常脳の場合と異なっていた。C末端切断型α−シヌクレインは、対照およびContursi粒状脳フラクションのいずれにおいても認められたが、検出可能な全ての切断断片は、Contursi患者では高度に不溶性(尿素/SDS抽出物)であったのに対し、対照患者の脳では可溶性(トリス緩衝スクロース液)であった。Contursi患者のLB濃縮フラクションにおけるC末端切断型シヌクレインの濃縮は、DLBD LBにおいてC末端切断型シヌクレインが濃縮されているとの本発明者らの知見と一致している。また、MSA脳もリン酸化(ser129)α−シヌクレインが濃縮していたことから、LBでもみられたC末端切断および多くのリン酸化その他の酸性修飾の存在が明らかとなった。また、DLBD患者の脳では、健常者に比し、高レベルのリン(ser129)が認められた。また、別の実験において、A53T突然変異を有するαシヌクレインで形質導入したPEAK細胞では、野性型ヒト・αシヌクレインで形質導入したPEAK細胞に比し、(約30%高い)高レベルのリン(ser129)が認められた。
【0120】
(5.遺伝子導入動物における行動上の分析)
マウスの自発運動について、以前に報告された方法(マスリアほか(Masliahら)(2000年))により、回転棒(サンディエゴ・インストルメンツ、サンディエゴ、CA)を用いて2日間検討する。1日目に、5つのトライアルについてマウスを訓練する。即ち、1つ目は10rpm、2つ目は20rpm、3〜5つ目は40rpmでのトライアルとする。2日目に、各40rpmの7回のトライアルについてマウスを試験する。マウスを円筒上に一匹ずつ置き、回転速度を240秒間かけて0から40rpmまで増加させる。マウスがその棒上に留まっている時間の長さ(落下潜時)を記録し、これを運動機能の指標として用いた。
【0121】
マウスの認識能力について、モリス水迷路(Morris Water maze)(Morris,Learn Motivat.12:p239−260(1981年))を用いて試験する。この方法では、水を満たし、水面直下に逃避台を沈めてある円形プールにマウスを入れる。この台に目で見ることのできる印を付けておくことによって、マウスが近位の目に見える手掛かりの方に泳いでいくことによってこの印を見つけることができるようにしてある。あるいは、この台の位置を分からせる型にはまった手掛かりを設けないこの試験のもっと複雑なタイプをマウスに施行する。このタイプでは、マウスは、遠くの目に見える手掛かりとの関連で台の位置を学習する必要がある。マウスが水中に留まっている時間の長さは認識能力に反比例する。
6.細胞株を用いた凝集αシヌクレイン断片の分析
上述のαシヌクレイン、マウス・αシヌクレインの切断断片を発現するpCR3.1−T発現ベクター(インビトロジェン社(Invitrogen)、カールズバッド、CA)を用いてGT1−7神経細胞(Hsueら,Am.J.Pathol.157:p401−410(2000年))を形質導入し、発現ベクター単独で形質導入した細胞と比較する。ベクター単独で形質導入した細胞は線維芽球様の外観を有するが、αシヌクレインで形質導入した細胞は丸みを帯び、光学顕微鏡および共焦点型走査顕微鏡で見ることのできる細胞表面の封入体を有する。形質導入したGT1−7細胞を用いることによってシヌクレイン封入体を除去する活性について薬剤をスクリーニングすることができる。
【0122】
以上の実施例は単に例示的なものであり、本発明を限定するものではない。従って、他の変形形態がありうることは当業者には容易に理解されよう。本発明の範囲は、これにより付与される全ての特許の請求範囲によってカバーされる。従って、本発明の範囲は、上記の説明を参照するのではなく、付与される特許請求の範囲をその均等物の全範囲と共に参照して決定されるべきである。本出願において引用した全ての刊行物、参考文献および特許文献は、個々の刊行物もしくは特許文献がそれぞれ、そのようにして個別に示されている場合と同程度に、あらゆる目的で全文引用により本明細書に組み込まれている。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】図1Aおよび図1Bは、SN115〜122内の抗原決定基に結合するポリクロナール抗体を用いた、遺伝子導入マウス(B)および対応対照(A)の皮質および海馬からの各種抽出物のウエスタン・ブロットを示す。
【図2】図2は、図1Aおよび図1Bと同じ抗体を用い、3ヶ月齢および12ヶ月齢マウスの皮質および海馬のトリトン−X100抽出物においてαシヌクレインの切断型の濃度を比較したウエスタン・ブロットを示す。
【図3】図3Aおよび図3Bは、12C1と称する別の抗体(43〜51番目および58〜65番目アミノ酸の抗原決定基に結合するモノクロナール抗体)を用いた、高齢対応対照(A)との比較における3ヶ月齢遺伝子導入マウス(B)の脳からのトリトン抽出物のウエスタン・ブロットを示す。
【図4】図4は、図3と同じ抗体を用いた、3ヶ月齢および12ヶ月齢遺伝子導入マウスの脳からのトリトン抽出物による別のウエスタン・ブロットを示す。
【図5】図5A、図5B、図5C、図5Dおよび図5Eは、遺伝子導入マウスの脳からの各種抽出物に対する4種の抗体を用いたウエスタン・ブロット(図5B、図5C、図5D、図5E)およびこれらの抗体の結合部位の抗原決定基マップ(図5A)を示す。
【図6】図6A、図6Bおよび図6Cは、3種の抗体(図6A、図6B、図6C)でプローブし、2−Dゲル電気泳動の対象とし、ウェスタン・ブロッティングにかけたリューイ体病患者の脳のトリトン抽出物を示す。
【図7】図7A、図7B、図7Cおよび図7Dは、別の特異性を有する4種の抗体(図7A、図7B、図7C、図7D)を用いた、リューイ体病患者脳のトリトン抽出物の別のブロットを示す。
【図8】図8は、ウェスタン・ブロッティングに用いる抗体が結合する抗原決定基に対する切断部位の概要を示す。
【図9】図9A、図9Bは、トリス可溶性蛋白質(A)とリューイ体からの抽出蛋白質(B)とを2D電気泳動およびウェスタン・ブロッティングにより比較したものである。
【図10】図10A、図10B、図10C、図10Dは、各種C末端抗体で再プローブ(reprobed)したリューイ体からの蛋白質の免疫ブロットを示す。
【図11】図11は、αシヌクレイン全体を認識する抗体もしくはリン−129αシヌクレインに特異的な抗体でプローブした健常者およびContursi患者の各種抽出物のウエスタン・ブロットを示す。
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は非仮出願であり、あらゆる目的で全文引用により本明細書に組み込まれている2003年5月19日提出の米国特許出願第60/471,929号の利益を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
(背景)
リューイ体病(LDB)の特徴は、ドーパミン作動系の変性、運動性変調、認知障害、およびリューイ体の形成である。(McKeithら,Clinical and pathological diagnosis of dementia with Lewy bodies(DLB):Report of the CDLB International Workshop.Neurology(1996年)47:p1113−24)。LDBとしては、パーキンソン病、瀰漫性リューイ体病(DLBD)、リューイ体型アルツハイマー病(LBV)、およびPDとアルツハイマー病(AD)との併発が挙げられる。リューイ体を有する痴呆(DLB)というのは、LBDについての用語法の相違を調整するために作られた用語である。LBを有する疾患は、依然として、高齢者における運動性疾患および認識力低下に共通する原因となっている。(Galaskoら,Clinical−neuropathological correlations in Alzheimer’s disease and related dementias.Arch.Neurol.(1994年)51:p888−95)。この疾患への罹患率は増加し続けており、深刻な公衆衛生問題を生じているが、今日まで、こうした疾患に対して認可された治療法はない。(Tannerら,Epidemiology of Parkinson’s disease and akinetic syndromes.Curr.Opin.Neurol.(2000年)13:p427−30)。LBDの原因については意見の分かれるところであり、各種の神経毒および遺伝的感受性要因などのさまざまな要因が役割を果たしていると提唱されている。
【0003】
AD、PDおよびDLBDは高齢者において最も一般的に見出される神経変性疾患である。最近の疫学的研究によれば、アルツハイマー病患者の約30%がPDをも有することから、ADとPDとの間には密接な臨床的関係のあることが明らかとなった。従って、AD患者は、その他の高齢者に比し、PDを併発する可能性がより高い。さらに、痴呆症になるPD患者は、通常、典型的なADをすでに発症している。いずれの神経変性疾患も特定の脳領域および細胞集団に好発し、明確な病理学的特徴を示すが、PD、ADおよびDLBDも共通の病理学的特徴を共有している。家族性AD、ダウン症候群もしくは散発型ADの患者は、扁桃体にLBを形成するが、これはPDの典型的な神経病理学的特徴である。さらに、各疾患は、神経の変性、神経間シナプス結合および最終的な細胞死、神経伝達物質の枯渇、ならびにその前駆体が正常な中枢神経系の機能に関与する折り畳み構造の蛋白質の異常な蓄積を伴う。AD、PDおよびDLBDの間の関連については生化学的研究によって裏付けられている。
【0004】
近年、LBDの病因の理解に関して新たな可能性が浮上した。具体的には、いくつかの研究によって、(1)シナプス蛋白質αシヌクレインがLB内に蓄積すること(Spillantiniら,Nature(1997年)388:p839−40;Takedaら,J.Pathol.(1998年)152:p367−72;Wakabayashiら,Neurosci.Lett.(1997年)239:p45−8)、(2)αシヌクレイン遺伝子の突然変異体が稀な家族型パーキンソン病に伴って単離されること(Krugerら,Nature Gen.(1998年)18:p106−8;Polymeropoulosら,Science(1997年)276:p2045−7)、ならびに(3)遺伝子導入マウス(Masliahら,Science)(2000年)287:p1265−9)およびショウジョウバエ(Feanyら,Nature(2000年)404:p394−8)におけるその過剰発現によってPDのいくつかの病理学的側面が再現されることから、αシヌクレインはPDの病因に中心的な役割を果たしていることが分かった。従って、脳内のαシヌクレインの蓄積がヒト、マウス、ハエといった多様な種において同様な形態学的および神経学的変化を伴うという事実から、この分子がPD進行の一因となっていることが示唆される。
【0005】
ADの典型的な病理学的特徴である神経炎性班は、基本的に、アミロイド前駆蛋白質(APP)のアミノ酸蛋白分解性産物であるアミロイド・ベータ(Aβ)蛋白質、およびαシヌクレインのアミノ酸35個の蛋白分解性断片であるNACからなる。AβおよびNACはいずれも、それぞれの完全長蛋白質の蛋白分解性断片としてアミロイド班中に初めて確認され、これらの完全長cDNAが同定され、クローニングされた。(Iwai A.,Biochim.Biophys.Acta(2000年)1502:p95−109;Masliahら,AM J Pathol(1996年)148:p201−10;Uedaら,Proc.Natl.Acad SciUSA(1993年)90:p11282−6)。
【0006】
αシヌクレインは、β−およびγ−シヌクレインならびにシノレチンなどの蛋白質の大きなファミリーの一部である。αシヌクレインは、シナプスと関係がある正常な状態において発現され、神経可塑性、学習および記憶において役割を果たしていると考えられている。αシヌクレインの凝集を増強するヒト(h)αシヌクレインの突然変異が確認されており(Ala30ProおよびAla53Thr)、稀なタイプの常染色体優性型PDと関連付けられている。こうした突然変異がαシヌクレインの凝集傾向を強化するメカニズムについては知られていない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(特許請求の範囲に記載されている発明の要旨)
本発明は、リューイ体病(LDB)の処置に有用な薬理活性を有する薬剤をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、薬剤と、インタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損を特徴とするαシヌクレインの断片とを接触させ、およびこのαシヌクレインの断片の凝集の速度もしくは程度を測定し、上記薬剤を用いない対照との比較による凝集割合もしくは程度の減少によってこの薬剤が薬理活性を有することが示されるものとするものである。
【0008】
この断片は、任意選択的に、インタクトなαシヌクレインの118番目〜125番目の残基にC末端を有する。好ましい断片としては、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目が挙げられる。任意選択的に、このαシヌクレインの断片は、Xを130〜139番目とした場合、1番目からX番目である。このαシヌクレインの断片は、任意選択的に、A53T突然変異などの遺伝性LBDと関連する突然変異を有する。任意選択的に、上記方法は、上記薬剤がLBDの症状を治療もしくは抑制するかどうかを調べるためにLBDを有するヒトもしくはLDBの動物モデルにおいて試験を行う別の工程を含む。
【0009】
さらに、本発明は、LBD(例えば、パーキンソン病もしくはDLBD)の処置に有用な薬理活性について薬剤をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、αシヌクレインを発現し、このαシヌクレインを断片にプロセシングする細胞を薬剤と接触させることを含む。この断片の特徴は、インタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸が存在し、インタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸が欠損することである。次いで、上記細胞内の上記断片のレベルを上記薬剤非存在下の同じ細胞種内のベースラインレベルとの比較で測定するが、このベースラインに対し断片レベルが減少することによりこの薬剤にLBDの処置に有用な薬理活性があることが示される。このαシヌクレインの断片は、任意選択的に、インタクトなαシヌクレインの118番目〜125番目の残基にC末端を有する。好ましい断片は、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目である。任意選択的に、このαシヌクレインの断片は、Xを130〜139番目とした場合、1番目からX番目である。このαシヌクレインの断片は、任意選択的に、A53T突然変異などの遺伝性LBDと関連する突然変異を有する。上記細胞は、ヒト細胞、神経細胞もしくはドーパミン作動性細胞とすることができる。任意選択的に、この細胞はPC12細胞もしくはSy5Y細胞である。任意選択的に、この方法は、上記薬剤がLBDの症状を治療もしくは抑制するかどうかを調べるためにLBDを有するヒトもしくはLDBの動物モデルにおいて試験を行う工程を含む。
【0010】
さらに、本発明は、LBD(例えば、パーキンソン病もしくはDLBD)の処置に有用な薬理活性を有する薬剤をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、インタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸が存在し、インタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸が欠損することを特徴とするαシヌクレインの断片を発現する遺伝子導入動物を接触させ、および上記薬剤非存在下の同様の遺伝子導入動物の脳内の凝集型の上記断片のベースラインレベルとの比較で上記遺伝子導入動物の脳内の凝集型上記断片のレベルを測定し、このベースラインに対する上記凝集型断片レベルの減少によってこの薬剤にLBDの処置に有用な薬理活性があることが示されるものとするものである。このαシヌクレインの断片は、任意選択的に、インタクトなαシヌクレインの118番目〜125番目の残基にC末端を有する。好ましい断片としては、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目が挙げられる。任意選択的に、このαシヌクレインの断片は、Xを119〜139番目とした場合、1番目からX番目である。このαシヌクレインの断片は、任意選択的に、A53T突然変異などの遺伝性LBDと関連する突然変異を有する。上記遺伝子導入動物は、任意選択的に、げっ歯類である。また、この遺伝子導入動物は、ショウジョウバエとすることもできる。任意選択的に、この方法は、上記薬剤がLBDの症状を治療もしくは抑制するかどうかを調べるためにLBDを有するヒトもしくはLDBの動物モデルにおいて試験を行うこと含む。
【0011】
さらに、本発明は、LBD(例えば、パーキンソン病もしくはDLBD)の処置に有用な薬理活性について薬剤をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、薬剤と、αシヌクレインを発現し、αシヌクレインを断片にプロセシングする遺伝子導入動物とを接触させ、この断片は、インタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸が存在し、インタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸が欠損することを特徴とするものとし、および上記薬剤非存在下のベースラインレベルとの比較で神経細胞内の上記断片のレベルを測定し、このベースラインに対する上記断片のレベルの減少によってこの薬剤にLBDの処置に有用な薬理活性があることが示されるものとするものである。このαシヌクレインの断片は、任意選択的に、インタクトなαシヌクレインの118番目〜125番目の残基にC末端を有する。好ましい断片としては、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目が挙げられる。任意選択的に、このαシヌクレインの断片は、Xを130〜139番目とした場合、1番目からX番目である。このαシヌクレインの断片は、任意選択的に、A53T突然変異などの遺伝性LBDと関連する突然変異を有する。上記遺伝子導入動物は、任意選択的に、げっ歯類、マウスもしくはショウジョウバエである。任意選択的に、この方法は、上記薬剤がLBDの症状を治療もしくは抑制するかどうかを調べるためにLBDを有するヒトもしくはLDBの動物モデルにおいて試験を行う工程を含む。
【0012】
さらに、本発明は、インタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸が存在し、インタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸が欠損することを特徴とするαシヌクレインの断片をコードする核酸セグメントに動作可能なように結合したプロモータを含む導入遺伝子を含むゲノムを有する遺伝子導入動物であって、この遺伝子導入動物に上記断片を発現させることによりこの動物がLBDの少なくとも1つの特徴を発症しやすくなることを特徴とする遺伝子導入動物を提供する。このαシヌクレインの断片は、任意選択的に、1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目アミノ酸からなる群から選ばれる。任意選択的に、このαシヌクレインの断片は、Xを130〜139番目とした場合、1番目からX番目である。上記プロモータは、任意選択的に、PDGFプロモータである。任意選択的に、少なくとも1つの特徴は運動機能の障害である。任意選択的に、上記遺伝子導入動物の少なくとも1つの特徴は、認識機能障害である。上記遺伝子導入動物は、任意選択的に、げっ歯類、マウスもしくはショウジョウバエである。
【0013】
さらに、本発明は、患者においてLBDの存在もしくはLBDに対する罹病性を検出する方法を提供する。この方法は、インタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸が存在し、インタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸が欠損することを特徴とする、脳脊髄液中のαシヌクレインの断片を検出するものである。健常者のベースラインレベルよりもレベルが高いことにより、LBDの存在もしくはLBDに対する罹病性が示されるものとする。
【0014】
さらに、本発明は、インタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸が存在し、インタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸が欠損することを特徴とするαシヌクレインの断片と特異的に結合するが、完全長のαシヌクレインには特異的な結合を示さない抗体を提供する。好ましい断片としては、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目が挙げられる。任意選択的に、この断片は、Xを130〜139番目とした場合、1番目からX番目である。上記抗体は、任意選択的に、ヒト型、ヒト化もしくはキメラ抗体である。任意選択的に、この抗体はモノクロナールである。任意選択的に、この抗体はヒト・アイソタイプIgG1を有する。
【0015】
さらに、本発明は、LBDの存在もしくはLBDに対する罹病性を診断する方法を提供する。この方法は、119番目〜125番目の残基に遊離C末端を有するαシヌクレインの断片と特異的に結合するが、完全長のシヌクレインには特異的な結合を示さない抗体を患者に投与し、およびこの患者におけるこの抗体の結合のレベルを測定し、健常者のベースラインレベルに対する結合レベルの上昇によって上記LBの存在もしくはLBDに対する罹病性が示されるものとするものである。
【0016】
さらに、本発明は、LBDに罹患しているか罹患するリスクのある患者に対して、インタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸が存在し、インタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸が欠損すること、およびインタクトなαシヌクレインのC末端から少なくとも10個の連続するアミノ酸が欠損することを特徴とするαシヌクレイン断片の有効な療法を施行し、これにより上記LBDを治療もしくは予防することを含むLBDの治療もしくは予防方法を提供する。このαシヌクレインの断片は、任意選択的に、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目である。任意選択的に、この断片は、Xを130〜139番目とした場合、1番目からX番目である。さらに、この方法は、任意選択的に、この断片に対する抗体を含む免疫反応を増強するアジュバントを投与することを含む。任意選択的に、上記断片は、この断片に対する抗体を含む免疫反応を増強する、融合蛋白質を形成する担体に結合させる。
【0017】
さらに、本発明は、LBDを治療もしくは予防する方法を提供する。この方法は、LBDに罹患しているか罹患するリスクのある患者に対して、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、1番目から125番目および1番目からX番目からなり、Xを130〜139番目とする群から選ばれるαシヌクレインの断片に特異的に結合するが、インタクトなαシヌクレインには結合しない抗体の有効な療法を施行し、この抗体により上記疾患を予防もしくは治療するものである。
【0018】
さらに、本発明は、インタクトなαシヌクレインを切断して、インタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸が存在し、インタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸が欠損することを特徴とする断片を生じさせるプロテアーゼをスクリーニングする方法を提供する。この方法は、プロテアーゼの阻害剤を特定し、この阻害剤をこのプロテアーゼを含む細胞抽出物もしくは組織抽出物と接触させることによりこのプロテアーゼをこの阻害剤に結合させ、次いで、この阻害剤からこのプロテアーゼを遊離させるものである。任意選択的に、上記阻害剤は、インタクトなαシヌクレインの115番目〜130番目の位置の少なくとも5残基からなる連続したセグメントを含むαシヌクレインのペプチドである。任意選択的に、このペプチドは、118番目〜122番目の位置のうちの少なくとも5残基からなる連続したセグメントを含む。任意選択的に、これらの残基の少なくとも1つは遷移状態アナログである。
【0019】
さらに、本発明は、αシヌクレインの109番目から120番目までの残基内の抗原決定基に特異的に結合するモノクロナール抗体を提供する。このモノクロナール抗体は、任意選択的に、キメラ型、ヒト化型もしくはヒト型である。
【0020】
さらに、本発明は、αシヌクレインの115番目から123番目までの残基内の抗原決定基に特異的に結合するモノクロナール抗体を提供する。
【0021】
さらに、本発明は、αシヌクレインの43番目から51番目および58番目から65番目の残基内の非連続的抗原決定基に特異的に結合するモノクロナール抗体を提供する。この抗体は、任意選択的に、キメラ型、ヒト化型もしくはヒト型である。
【0022】
さらに、本発明は、遊離C末端を有する独立した完全長のαシヌクレインに特異的に結合し、C末端が別のポリペプチドに結合しているαシヌクレインを含む融合蛋白質に特異的な結合を示さない末端特異的モノクロナール抗体を提供する。この抗体は、任意選択的に、キメラ型、ヒト化型もしくはヒト型である。
【0023】
さらに、本発明は、患者においてリューイ体病の存在もしくはリューイ体病に対する罹病性を検出する方法を提供する。この方法は、患者の脳からの試料においてαシヌクレインの125番目の位置がリン酸化もしくはニトロ化されたαシヌクレインのレベルを測定し、健常者集団の平均レベルに対するレベルの上昇によって上記患者がリューイ体病を有するかこれに罹患性であることが示されるものとするものである。
【0024】
(定義)
「薬剤」という用語は、薬理活性を有するか、有する可能性のある化合物を記述するのに用いている。薬剤としては、既知の薬物である化合物、薬理活性が確認されているが、さらに治療上の評価が行われている化合物、および薬理活性についてスクリーニングされることになっているコレクションおよびライブラリを構成する物質である化合物が挙げられる。
【0025】
「薬理」活性とは、薬剤が疾患の予防もしくは治療に有用であるか、有用である可能性を有することを示すスクリーニング系において、ある薬剤が活性を示すことを意味する。このスクリーニング系はインビトロ系、細胞系、動物系もしくはヒト系とすることができる。薬剤は、疾患の処置における実際的な予防もしくは治療的有用性を立証するにはさらに試験を必要とする可能性があるにしても、薬理活性を有すると評することができる。
【0026】
ゲル電気泳動を用いた分子量測定との関連で、「約」という用語は、同一条件下でその方法を繰り返した際に実験誤差によると思われる分子量の標準偏差の存在を意味している。αシヌクレインの一部の断片についての12kDaという分子量測定値は、トリシン緩衝液を用いた測定に適用される。
【0027】
「特異的に結合する」という語句は、蛋白質その他の生体物質の不均一な集団の存在下に前記蛋白質の存在を決定する結合反応のことを意味する。従って、所定の条件下において、特定のリガンドは特定の蛋白質に選択的に結合するが、試料中に存在する他の蛋白質とは有意な量で結合しない。多くの場合、蛋白質に特異的に結合する抗体のような分子の結合定数は、少なくとも106M−1もしくは107M−1、好ましくは108M−1〜109M−1、より好ましくは約1010M−1〜1011M−1以上である。種々のイムノアッセイ方式を用いて特定の蛋白質に対し特異的な免疫反応性を示す抗体を選定することができる。例えば、蛋白質に対し特異的な免疫反応性を示すモノクロナール抗体を選定するのに固相ELISAイムノアッセイ法が日常的に用いられている。特異的な免疫反応性を測定するのに用いることができるイムノアッセイ方式および条件の解説については、例えば、Harlow,Lane(1988年)Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Publications、ニューヨークを参照されたい。
【0028】
配列の比較においては、通常、1つの配列を試験配列と比較する対照配列として用いる。配列比較アルゴリズムを用いる際には、試験および対照配列をコンピュータに入力し、必要な場合、部分配列座標を指定し、次に、配列アルゴリズム・プログラム・パラメータを指定する。次いで、指定したプログラム・パラメータに基づいて、配列比較アルゴリズムにより、対照配列に対する試験配列の配列同一性パーセントが算出される。
【0029】
比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、Smith,Waterman,Adv.Appl.Math.,2:p482(1981年)の局所ホモロジーアルゴリズム、Needleman,Wunsch,J.Mol.Biol.,48:p443(1970年)のホモロジー・アラインメント・アルゴリズム、Pearson,Lipman,Pro.Nat’l.Acad Sci USA,85:p2444(1988年)の類似性検索法、これらのアルゴリズムのコンピュータによる実施(ウィスコンシン・ジェネティクス・ソフトウェア・パッケージ(Wisconsin Genetics Software Package)、ジェネティクス・コンピュータ・グループ(Genetics Computer Group)、575サイエンス(Science)Dr.、マジソン(Madison)、WIのGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)、もしくは目視検査(visual inspection)(一般的には、Ausubelらの上記文献参照)によって行うことができる。
【0030】
配列同一性パーセントおよび配列類似性を測定するのに適したアルゴリズムの別の例は、Altschulら,J.Mol.Biol.,215:p403−410(1990年)に記載されているBLASTアルゴリズムである。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、全米バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から公開されている。このアルゴリズムは、先ず、データベース配列中の同じ長さの文字列とアラインメントさせた時にある正値の閾値スコアTにマッチするかこれを満たす検索配列中の長さWの短い文字列を特定することによって高相同性スコア(high scoring)配列対(HSP)を同定する。Tは、近傍文字列スコア閾値(Altschulら、上記文献)と呼ばれる。これらの初期の近傍文字列ヒットは、これらを含むより長いHSPを見出す検索を開始するためのシードとなる。次いで、これらの文字列ヒットは、累積アラインメント・スコアが増加し得る限り、各配列に沿って両方向に延長される。ヌクレオチド配列の場合、累積スコアは、パラメータM(一対の一致残基のスコア値(reward);常に>0)およびN(不一致残基のペナルティ値;常に<0)を用いて算出する。アミノ酸配列の場合、スコアリング・マトリクスを用いて累積スコアを算出する。文字列ヒットの各方向への延長は、以下の場合、即ち、上記累積アラインメント・スコアがその最大到達値から数量Xだけ減少した場合、この累積スコアが1つ以上のネガチブ・スコア残基アラインメントの蓄積によりゼロ以下になった場合、もしくはどちらの配列においても末端に到達した場合に停止する。ある核酸もしくはポリペプチドが本発明の範囲内にあるかどうかを確認するためには、BLASTプログラムのデフォルト・パラメータが適している。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列の場合)は、デフォルトとして、文字列長さ(W)11、期待値(E)10、M=5、N=4および両鎖の比較を用いる。アミノ酸配列の場合、BLASTNプログラムは、デフォルトとして、文字列長さ(W)3、期待値(E)10およびBLOSUM62スコアリング・マトリクスを用いる。TBLATNプログラム(ヌクレオチド配列の蛋白配列を使用)は、デフォルトとして、文字列長さ(W)3、期待値(E)10およびBLOSUM62スコアリング・マトリクスを用いる。(Henikoff&Henikoff,Proc.Natl.Acad Sci USA89:p10915(1989年)参照)。
【0031】
配列同一性パーセントを算出する他に、BLASTアルゴニズムは2つの配列間の類似性の統計的な解析を行う(例えば、Karlin&Altschul,Proc.Natl.Acad Sci USA90:p5873−5787(1993年)参照)。BLASTアルゴニズムにより得られる類似性の1つの指標は、2つのヌクレオチドもしくはアミノ酸配列間の一致が偶然生じる確率の指標となる最小合計確率(P(N))である。例えば、試験核酸と対照核酸との比較における最小合計確率が約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合、この核酸は対照配列と類似していると考えられる。
【0032】
アミノ酸置換を保存的もしくは非保存的なものとして分類するために、アミノ酸を以下のようにグループ分けする:グループI(疎水性側鎖):ノルロイシン、met、ala、val、leu、ileu;グループII(中性親水性側鎖):cys、ser、thr;グループIII(酸性側鎖):asp、glu;グループIV(塩基性側鎖):asn、gln、his、lys、arg;グループV(鎖配向に影響する残基):gly、pro;およびグループVI(芳香族側鎖):trp、tyr、phe。保存的置換は同じクラスのアミノ酸間の置換を伴う。非保存的置換は、これらのクラスの中の1つのアミノ酸を別のクラスのアミノ酸と交換することから成る。
【0033】
通常、本発明の治療剤は好ましくない夾雑物を実質的に含まない。このことは、薬剤が、妨害蛋白質および夾雑物を実質的に含まないばかりでなく、通常、少なくとも約50%w/w(重量/重量)の純度であることを意味する。場合によっては、こうした薬剤の純度は、少なくとも約80%w/w、より好ましくは少なくとも90もしくは約95%w/wである。しかしながら、従来の蛋白質精製法を用いると、少なくとも99%w/wの均一なペプチドを得ることができる。
【0034】
「抗体」もしくは「免疫グロブリン」という用語は、インタクトな抗体およびその結合性断片を含めて用いている。通常、断片は、それが由来するインタクトな抗体と、個々の重鎖、軽鎖Fab、Fab’F(ab’)2、FabcおよびFvを含む抗原断片への特異的結合に対して競合する。断片は、組換えDNA法、もしくはインタクトな免疫グロブリンの酵素的もしくは化学的切断によって作製することができる。また、「抗体」という用語は、他の蛋白質との融合蛋白質へと化学的に結合させ、もしくはこうした融合蛋白質として発現させた1種以上の免疫グロブリン鎖を含む。また、「抗体」という用語は、二重特異性抗体を含む。二重特異性もしくは二官能性抗体は、2種の重/軽鎖対および2種の結合部位を有する人工的なハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合もしくはFab’断片間の結合を含む種々の方法によって作製することができる。例えば、Songsivilai&Lachmann,Clin.Exp.Immunol.,79:p315−321(1990年);Kostelny el al.,J.Immunol.,148::p1547−1553(1992年)を参照されたい。
【0035】
「アジュバント」という用語は、抗原と共に投与すると、その抗原に対する免疫反応を増強するが、単独で投与してもその抗原に対する免疫反応を生じない化合物のことを意味する。アジュバントは、リンパ球動員、Bおよび/またはT細胞の賦活ならびにマクロファージの賦活を含むいくつかのメカニズムによって免疫反応を増強することができる。
【0036】
「患者」という用語は、予防的もしくは治療的処置を受けるヒトおよび他の哺乳動物の対象を含む。
【0037】
抗体間の競合は、試験対象の免疫グロブリンが対照抗体のαシヌクレインなどの共通の抗原への特異的結合を阻害するようなアッセイ法を用いて測定される。数多くのタイプの競合的結合アッセイ法が知られており、このようなものとしては、例えば、固相直接もしくは間接ラジオイムノアッセイ(RIA)、固相直接もしくは間接エンザイムイムノアッセイ(EIA)、サンドイッチ競合アッセイ(Stahliら,Methods in Enzymology,9:p242−253(1983年)参照);固相直接ビオチン−アビジンEIA(Kirklandら,J.Immunol.,137:p3614−3619(1986年)参照);固相直接標識化アッセイ、固相直接標識化サンドイッチ・アッセイ(Harlow&Lane,Antibodies,A Laboratory Manual.Cold Spring Harbor Press(1988年)参照);I−125標識を使用する固相直接標識RIA(Morelら,Molec.Immunol.,25(1):p7−15(1988年)参照);固相直接ビオチン−アビジンEIA(Cheungら,Virology 176:p546−552(1990年);および直接標識化RIA(Moldenhauerら,Scand.J Immunol.,32:p77−82(1990年))がある。通常、このようなアッセイ法では、固相面に結合させた精製抗原もしくはこれらの両方を有する細胞、非標識試験免疫グロブリン、および標識対照免疫グロブリンを用いる。競合的阻害は、この試験免疫グロブリンの存在下に固相面もしくは細胞に結合した標識の量を定量することにより測定する。通常、試験免疫グロブリンは過剰に存在させる。競合アッセイによって特定される抗体(競合抗体)としては、対照抗体と同じ抗原決定基に結合する抗体、およびこの対照抗体が結合した抗原決定基に、立体障害を生じるのに十分近接した近傍抗原決定基に結合する抗体が挙げられる。通常、競合抗体は、過剰に存在させた場合、対照抗体の共通抗原への特異的結合を少なくとも50もしくは75%阻害する。
【0038】
抗原決定基の座標は近似である(±2アミノ酸)。抗原決定基内の全てのアミノ酸が結合に必ずしも必要な訳ではない。
【0039】
記載された1つ以上の要素を「含む」組成物もしくは方法には、特に記載されていない他の要素を含めることができる。例えば、αシヌクレイン・ペプチドを含む組成物は、αシヌクレイン・ペプチド単体と、より大きなポリペプチド配列の構成成分としてのαシヌクレイン・ペプチドとの両方を包含する。
【0040】
特に文脈から明らかでない限り、本発明の実施態様、構成要素、工程もしくは構成は全て、任意の他のものとの組み合わせで用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
(発明の詳細な説明)
(I.概要)
本発明は、部分的に、リューイ体病(LDB)患者およびその遺伝子導入動物モデルにおいてαシヌクレインの新規断片を特定することを前提としている。こうした疾患の特徴は、αシヌクレインの凝集である。その断片は完全長のαシヌクレインがC末端で切断されたものである。一部の断片は、トリシン緩衝液を用いるSDSゲル電気泳動で測定した分子量が約12kDaであり、天然型αシヌクレインのC末端から少なくとも10個の連続したアミノ酸が切断されたものであるという特徴を有する。切断部位は、天然型αシヌクレインの117番目残基の後および126番目残基の前に生じることが好ましい。これらのαシヌクレイン断片の特定には、例えば、創薬、診断、治療、遺伝子導入動物などにおいていくつかの用途がある。
【0042】
本発明は、LBDの処置に有用な活性について薬剤をスクリーニングするいくつかの方法を提供する。一部の方法では、本発明の新規断片を生じる切断反応を阻害する薬剤が特定される。他の方法では、この切断反応の産物の凝集を阻害する薬剤が特定される。このような阻害剤はLBDの処置に有用である。また、上記切断反応の阻害剤は、この切断反応に関与するプロテアーゼのアフィニティー精製にも有用である。
【0043】
また、本発明は、上述のαシヌクレインの断片を発現する遺伝子導入動物モデルおよび細胞を提供する。この遺伝子導入動物モデルおよび細胞には、上記断片の凝集体を含有するリューイ体を含むリューイ体病の特徴を形成する性質がある。この動物モデルおよび細胞は上記のスクリーニング方法に利用することができる。
【0044】
さらに、本発明は、αシヌクレインの断片に特異的に結合するが、インタクトなαシヌクレイン自体には特異的な結合を示さない末端特異的な抗体を提供する。こうした抗体は、αシヌクレイン凝集体のインビトロ・イメージング用に、および処置の方法にも有用である。また、新規なαシヌクレイン断片は、処置の方法に、必要であれば、アジュバントとの併用で、用いることができる。
【0045】
(II.αシヌクレイン断片)
ヒト型αシヌクレインは以下のアミノ酸配列を有するアミノ酸140個のペプチドである:
【0046】
【化1】
(Uedaら,Proc.Natl.Acad Sci USA(1993年)90:p11282−6;ジェンバンク(GenBank)アセッション番号:P37840)。この蛋白質は、認識される3つのドメイン、即ち、1から61番目のアミノ酸をカバーするKTKE繰返し配列ドメイン(repeat domain)、約60番目から95番目のアミノ酸に及ぶNAC(非アミロイド成分)ドメイン、および約98番目から140番目のアミノ酸に及ぶC末端酸性ドメインを有する。
【0047】
本発明の一部の新規断片は、C末端から少なくとも10個の連続したアミノ酸、好ましくは少なくとも15個の連続したアミノ酸、任意選択的に20、22、23もしくは25個までのアミノ酸が切断されたものである。これらの断片は、全体もしくはほぼ全体(即ち、上記欠損部以外のαシヌクレインからの少なくとも100個の連続する残基)を含む。また、一部の断片は、1から4番目、1から6番目、1から10番目、1から12番目の欠損など、N末端から20個までの比較的短いアミノ酸配列が切断されたものである。一部の断片は1から23番目、1から38番目もしくは1から45番目残基のN末端欠損を有する。好ましい断片は、SN1−118、SN1−119、SNI−120、SN1−121、SN1−122、SN1−123、SN1−124、SN1−125、SN1−126、SN1−127、SN1−128、SN1−129およびSNI−130である。とくに好ましい断片は、SN1−119、SN1−120、SN1−121、SN1−122、SN1−123、SN1−124およびSN1−125である。これらのうち特に好ましい断片はSN1−119である。切断反応は、118番目〜126番目のアミノ酸残基間、例えば、119番目と120番目の残基の間のペプチド結合で行われることが好ましい。本発明の他の断片としては、(SDS電気泳動で測定して)約6〜7kDaもしくは50〜80個のアミノ酸のαシヌクレインN末端断片が挙げられる。本発明の別の断片としては、インタクトなαシヌクレインのC末端から1〜10個のアミノ酸を欠くαシヌクレインのN末端断片、即ち、Xを130〜139とした場合のSN1−Xが挙げられる。一部の断片は、抗体ELADW43(遊離N末端)および5C12(109−120)への特異的結合、ならびに8A5(遊離C末端)、LB509(115−123)およびELAD47(118−123)への特異的結合の欠如を特徴とする。一部の断片は、ELADW43(遊離N末端)および5C12(109−120)、LB509(115−123)およびELAD47(118−123)への特異的結合、ならびに8A5(遊離C末端)への特異的結合の欠損を特徴とする。一部の断片は、ELADW43(遊離N末端)と5C12(109−120)、LB509(115−123)とELAD47(118−123)および8A5(遊離C末端)への特異的結合、ならびにELADW43(遊離N末端)への特異的結合の欠損を特徴とする。
【0048】
一部の断片もしくは完全長のαシヌクレインは、αシヌクレインの125番目の位置を占めるチロシン残基がリン酸化もしくはニトロ化されたものである。また、125番目のアミノ酸セリンを保持している断片、もしくは完全長のαシヌクレインは、この位置でリン酸化されていてもよい。125番目の位置のリン酸化もしくはニトロ化または129番目の位置のリン酸化に関し、患者において健常者集団の平均に対する増強が検出されることがリューイ体病の指標となる。検出は、125番目の位置がリン酸化もしくはニトロ化されたαシヌクレインに特異的な抗体を用いて行うことができる。レベルは、健常者集団の平均プラス1標準偏差より大きい場合、増大していると見なされる。
【0049】
本発明の断片は、以前に報告されたアルツハイマー病アミロイドの非Aβ成分(NAC)とは異なる。この断片は、少なくとも28個のアミノ酸残基(60番目から87番目までの残基)および、任意に35個のアミノ酸残基(61番目から95番目までの残基)から成る。Iwaiら,Biochemistry 34:p10139−10145;Jensenら,Biochem.J.310(Pt1):p91−94(1995年);ジェンバンク・アセッション番号S56746を参照されたい。
【0050】
他に断らない限り、αシヌクレインもしくはその断片に言及する場合、前記の天然のヒト型アミノ酸配列もしくはその断片、ならびに対立遺伝子、種および誘発による変異体などのアナログを含む。上記のアナログと天然ヒト型アミノ酸配列とが最大限にアラインメントされている場合、このアナログのアミノ酸にはこのヒト型アミノ酸配列の対応するアミノ酸と同じ番号が付与される。通常、アナログは、多くの場合、保存的置換によって、1箇所、もしくは2箇所、または数箇所の位置で天然ペプチドと異なる。一部の天然の対立遺伝子による変異体は、遺伝性LBDと遺伝的な関連がある。こうした変異体としては、A30PおよびA53Tが挙げられる。A53T変異は、この突然変異のない健常者のリン酸化の基準に比し、この突然変異を有する者ではαシヌクレインの129番目の位置においてリン酸化レベルの上昇を伴う。アナログは、天然ペプチドと少なくとも80もしくは90%の配列同一性を示す。また、一部のアナログは、非天然型アミノ酸を、または1箇所、もしくは2箇所、または数箇所の位置のNもしくはC末端アミノ酸が修飾されたものを含む。例えば、天然型のグルタミン酸残基はイソ−アスパラギン酸で置換されることがある。非天然型アミノ酸の例としては、D,α,α2置換アミノ酸、N−アルキルアミノ酸、乳酸、4−ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、イプシロン−N,N,N,−トリメチルリジン、イプシロン−N−アセチルリジン、O−ホスホセリン、N−アセチルセリン、N−ホルミルメチオニン、3−メチルヒスチジン、5−ヒドロキシリジン、オメガ−N−メチルアルギニン、β−アラニン、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、チロキシン、γ−アミノ酪酸、ホモセリン、シトルリンおよびイソアスパラギン酸が挙げられる。通常、アナログは、天然ヒト型αシヌクレインに対するポリクロナール抗体集団に特異的に結合する。また、本発明は、D−アミノ酸でαシヌクレインの大部分もしくは全ての位置の対応する天然L−アミノ酸を置換させることができるD−ペプチドを提供する。
【0051】
αシヌクレイン、その断片およびアナログは、固相ペプチド合成法もしくは組換え発現法によって合成することができ、または自然源から入手することができる。自動ペプチド合成機が、アプライド・バイオシステムズ社、フォスター・シティ、カリフォルニアなどの数多くの製造業者から市販されている。組換え発現法では大腸菌などの細菌、酵母、昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞を用いることができる。組換え発現の方法については、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual.(C.S.H.P.プレス、NY、第2版、1989年)に記載されている。
【0052】
(III.リューイ体病)
リューイ体病(LDB)の特徴は、ドーパミン作動系の変性、運動性変調、認知障害、およびリューイ体(LB)の形成である。(McKeithら,Clinical and pathological diagnosis of dementia with Lewy bodies(DLB):Report of the CDLB International Workshop,Neurology(1996年)47:p1113−24)。リューイ体は神経細胞に見出される球状の蛋白質沈着物である。これが脳内に存在すると、アセチルコリン、ドーパミンなどの化学的メッセンジャーの作用が遮断されて脳の正常な機能が妨げられる。リューイ体病としては、(特発性パーキンソン病(PD)を含む)パーキンソン病、リューイ体を有する痴呆(DLB)としても知られる瀰漫性リューイ体病(DLBD)、アルツハイマー病とパーキンソン病との併発、および多系統萎縮症(MSA)が挙げられる。DLBDは、アルツハイマーおよびパーキンソン病の症状を共有する。DLBDは、主にリューイ体の存在部位においてパーキンソン病と異なる。DLBDではリューイ体は主として皮質に形成される。パーキンソン病ではこれは主として黒質に形成される。他のリューイ体病としては、自律神経失調症、リューイ体性燕下困難、偶発性LDB、遺伝性LDB(例えば、αシヌクレイン遺伝子PARK3およびPARK4の突然変異)ならびに多系統萎縮症(例えば、オリーブ橋小脳萎縮症、線条体黒質変性症およびシャイ・ドレーガー症候群)が挙げられる。
【0053】
(IV.遺伝子導入動物および細胞)
本発明は、上述のC末端切断型αシヌクレインをコードしている核酸セグメントを含む導入遺伝子を含むゲノムを有する遺伝子導入動物を提供する。この導入遺伝子はこの遺伝子導入動物の体細胞および生殖系細胞の全体もしくは実質上全体に存在することが好ましい。上記C末端切断型αシヌクレインをコードしている核酸セグメントは、この切断型αシヌクレインがこの動物の神経細胞内で発現されることを可能にする1つ以上の調節性セグメントに動作可能なように結合させる。ラット神経特異的エノラーゼ・プロモータ、ヒト・β−アクチン遺伝子プロモータ、ヒト血小板由来成長因子B(PDGF−B)鎖遺伝子プロモータ、ラット・ナトリウム・チャンネル遺伝子プロモータ、マウス・ミエリン塩基性蛋白質遺伝子プロモータ、ヒト銅−亜鉛スーパーオキシド・ジスムターゼ遺伝子プロモータ、哺乳動物POU−ドメイン調節遺伝子プロモータなどのプロモータを使用することができる。これらのうち、PDGFプロモータが特に適している。任意選択的に、誘導性プロモータを使用する。亜鉛などの重金属をマウスの水もしくは餌に加えることにより調節することができるマウス・メタロチオニン・プロモータが適している。このような遺伝子導入動物は、完全長のαシヌクレインを有する遺伝子導入動物の作製のために(Masliahら,AM J Pathol(1996年)148:p201−10およびFeanyら,Nature(2000年)404:p394−8)により報告され、もしくは(突然変異型APPを有する遺伝子導入動物の作製に関する)米国特許第5,811,633号に開示されたのと同じ一般的な方法によって作製することができる。任意選択的に、切断型αシヌクレイン蛋白質を発現する導入遺伝子を有する遺伝子導入動物は、アルツハイマー病モデルなどの他の神経性疾患モデルと交配させることができる。例えば、切断型αシヌクレイン蛋白質を発現する導入遺伝子を有する遺伝子導入動物は、例えば、Gamesら,Nature 373:p523(1995年);McConlogueら、米国特許第5,612,486号;Hsiaoら,Science 274:p99(1996年);Staufenbielら,Proc.Natl.Acad Sci USA94:p13287−13292(1997年);Sturchler−Pierratら,Proc.Natl.Acad Sci USA94:p13287−13292(1997年);Borcheltら,Neuron 19:p939−945(1997年)に記載されている導入遺伝子により発現されるFAD突然変異を含むAPPを有する遺伝子導入動物と交配させることができる。このような交配を実施する方法については、例えば、完全長のαシヌクレインを発現する遺伝子導入マウスとGamesらによるPDAPPマウスとの交配を報告しているMasliahら,PNAS USA98:p12245−12250(2001年)に記載がある。本発明の遺伝子導入動物は、好ましくは、マウス、ラットなどの齧歯動物、もしくはショウジョウバエなどの昆虫である。
【0054】
動物モデルで切断型αシヌクレインを発現させることにより、リューイ体病の少なくとも1つの特徴を形成する性質を付与された動物が得られる。このような特徴としては、αシヌクレインの細胞内沈着物の量の増加、リューイ体形成の増大、ならびに同種の正常な非遺伝子導入動物と比較した場合の認識および運動機能の障害が挙げられる。このような遺伝子導入動物は、リューイ体病の処置における薬理活性について薬剤をスクリーニングするのに有用である。
【0055】
また、本発明は、凝集した切断型αシヌクレインを含む封入体を構成する切断型αシヌクレインで形質転換した細胞を提供する。この形質転換細胞は、GT1−7神経細胞(Hsueら,Am.J.Pathol.157:p401−410(2000年))、PC12細胞、SY5Y神経芽腫細胞などの神経細胞であることが好ましい。また、PEAK細胞も使用することができる。これらの細胞はヒト細胞であることが好ましい。この切断型発現の発現を確実にする1つ以上の調節性配列に動作可能なように結合させた切断型αシヌクレインをコードしているセグメントを含むベクターをこれらの細胞内に形質導入する。形質導入した細胞を用いることにより、αシヌクレイン封入体を除去する活性について薬剤をスクリーニングすることができる。
【0056】
(V.スクリーニング方法)
本発明は、LBDの処置に有用な薬理活性を有する薬剤を特定するためのいくつかのスクリーニング方法を提供する。この方法は、インビトロで、または細胞もしくは遺伝子導入動物を用いて実施することができるスクリーニング、および活性の指標としての種々のパラメータを調べるスクリーニングを含む。これらのスクリーニングにおいて活性を有すると判定された薬剤は、LBDの動物モデルによる二次スクリーニングもしくは臨床試験において再度試験することにより、こうした疾患の行動上その他の症状に対する活性を測定することができる。
【0057】
(1.インビトロ)
インビトロ・アッセイは、切断型αシヌクレインの凝集に対する薬剤の阻害能を調べるために行う。αシヌクレインのインビトロ凝集を分析するための基本方式については、完全長のαシヌクレインに関するものではあるが、(Wood,J.Biol.Chem.274:p19509−19512(1999年))に記載がある。本発明の方法では、このアッセイは試験すべき薬剤の存在下に実施する。薬剤存在下のαシヌクレイン凝集の速度もしくは程度を測定して、薬剤を用いない同時的もしくはヒストリカルな対照におけるαシヌクレイン凝集の速度もしくは程度と比較する。対照に対して薬剤存在下の凝集の速度もしくは程度が低下した場合、これによってこの薬剤に切断型αシヌクレインの凝集を阻害する活性があることが明らかになる。この活性は、リューイ体病を治療もしくは予防するのに有用となる可能性がある。
【0058】
(2.細胞によるアッセイ)
細胞による一部のアッセイは、上述の切断型αシヌクレインをコードしている核酸を用いて、また、任意選択的にAla30ProもしくはAla53Thなどの遺伝的変種を用いて形質導入した細胞で実施する。このような細胞を試験対象の薬剤と接触させ、この切断型αシヌクレインの凝集の程度の速度を測定する。次いで、αシヌクレインの凝集の程度の速度を、薬剤の非存在下に同様に形質導入した対照細胞と比較する。凝集は、免疫組織化学的分析、光学顕微鏡の使用もしくはゲル分析によってモニターすることができる。ゲル分析を用いると、二量体、三量体もしくはそれ以上のオリゴマーの形成、および高レベルのオリゴマー形成によるシヌクレインのゲルへの侵入不能性を検知することができる。対照に対して試験薬剤存在下の凝集の速度もしくは程度が低下した場合、これによって薬剤が切断型αシヌクレインの凝集を阻害する薬理活性を有することが明らかになる。この活性は、リューイ体病を治療もしくは予防するのに有用となる可能性がある。
【0059】
細胞による他のアッセイは、完全長のαシヌクレイン、および任意選択的にAla30ProもしくはAla53Thなどの遺伝的変種をコードしている核酸を用いて形質導入した細胞で実施する。このような細胞を試験対象の薬剤と接触させ、切断型αシヌクレインおよび/またはリン酸化型もしくはニトロ化型シヌクレインの形成の速度もしくは程度を測定する。こうした型の存在は、αシヌクレインに対する1種以上の抗体を用いるウェスタン・ブロッティングによって検出することができる。末端特異的抗体(即ち、切断型には結合するが、完全長のαシヌクレインには結合しない抗体)はこの分析に特に有用である。また、種々の抗原決定基特異性を有する抗体のコレクションを用いることもできる。例えば、切断型αシヌクレインの存在は、インタクトなαシヌクレインの118番目から125番目のアミノ酸によってほぼ規定されるアミノ酸セグメントの抗原決定基N末端を認識する抗体を用いてブロットした時にバンドが認められること、およびこの領域の抗原決定基C末端を認識する抗体でブロットした時にバンドが認められないことによって明らかにすることができる。薬剤の存在下における切断型αシヌクレインおよび/またはリン酸化型もしくはニトロ化型の形成の速度もしくは程度は、薬剤非存在下の同様な対照細胞と比較する。対照に対して試験薬剤存在下の切断型αシヌクレイン形成の速度もしくは程度が低下した場合、これによって、薬剤がαシヌクレインの切断型へのプロセシングを阻害する薬理活性を有することが明らかになる。この活性は、LBDを治療もしくは予防するのに有用である。
【0060】
(3.遺伝子導入動物によるアッセイ)
遺伝子導入動物は、上述の切断型αシヌクレイン、および任意選択的にAla30ProもしくはAla53Thなどの遺伝的変種を発現する導入遺伝子を有する。このような動物を試験対象の薬剤と接触させ、この切断型αシヌクレインの凝集の程度の速度を、同時的もしくはヒストリカルな対照との比較で測定する。この対照は、通常、上記薬剤に接触させなかった同種の同様な遺伝子導入動物である。遺伝子導入動物におけるαシヌクレインの凝集は、実施例で説明したように、ウエスタン・ブロッティングもしくは免疫組織化学によってモニターすることができる。あるいは、もしくはさらに、このような遺伝子導入動物における薬剤の活性は、実施例で説明したように、運動もしくは認識上の特徴などの行動上の特徴から測定することができる。このようなアッセイでは、薬剤の薬理活性は、薬剤に接触させなかった同様な対照遺伝子導入動物と比較した場合の運動もしくは認識上の特徴の改善(即ち、このような特徴の障害の低減)によって示される。
【0061】
別のアッセイは、完全長型αシヌクレイン、および任意選択的にAla30ProもしくはAla53Thなどの遺伝的変種を発現する導入遺伝子を有する遺伝子導入動物を用いて実施する。このような動物を試験対象の薬剤と接触させ、切断型αシヌクレイン、および任意選択的にAla30ProもしくはAla53Thなどの遺伝的変種についてこれらの出現の速度もしくは程度を検出する。このような型は、(細胞によるアッセイに対して述べたように)適切な抗αシヌクレイン抗体を用いたウエスタン・ブロッティングもしくは免疫組織化学的分析によって検出することができる。切断型αシヌクレインおよび/またはリン酸化もしくはニトロ化型の出現の速度の程度は、薬剤に接触させなかった同様な遺伝子導入動物に相当する同時的もしくはヒストリカルな対照におけるそのような型の出現の速度もしくは程度と比較する。対照に対して試験薬剤に接触させた動物における切断型αシヌクレイン出現の速度もしくは程度が低下した場合、これによって、薬剤が完全長のαシヌクレインの切断型へのプロセシングを阻害する薬理活性を有することが明らかになる。
【0062】
(4.スクリーニング対象の薬剤)
スクリーニング対象の薬剤としては、αシヌクレインに対する抗体、αシヌクレインのペプチド、LBDの処置において活性を有することが知られ、もしくは考えられる薬物、天然物、およびコンビナトリアル・ライブラリが挙げられる。好ましいαシヌクレインのペプチドは、αシヌクレインの118番目から125番目までのアミノ酸を含む30、25、20、10もしくはそれ以下の個数のアミノ酸から成る比較的短いペプチドである。任意選択的に、C末端切断型αシヌクレインを生じさせる切断部位のすぐN末端側のアミノ酸、例えば、αシヌクレインの119番目アミノ酸を、この切断部位を挟む2つのアミノ酸間に加水分解されない結合を形成する遷移状態アナログ・アミノ酸で置換する。アナログの例としては、スタチン、ヒドロキシエチレン、ヒドロキシエタノールアミン、AHPPA、ACHPAおよびこれらの誘導体などの遷移状態アナログがある。また、天然型αシヌクレインの1つ以上のアミノ酸を他の天然型アミノ酸で置換することもできる。
【0063】
また、スクリーニング対象の天然物は、国立がんセンター研究所天然物リポジトリ、ベセズダ、MDから入手することもできる。また、ペプチドその他の化合物のランダム・ライブラリを適合性についてスクリーニングすることもできる。コンビナトリアル・ライブラリは、段階的方法で合成することができる多くの種類の化合物について作製することができる。このような化合物としては、ポリペプチド、β−ターン類似物質、多糖類、リン脂質、ホルモン、プロスタグランジン、ステロイド、芳香族化合物、複素環式化合物、ベンゾジアゼピン、オリゴマーN−置換グリシン、およびオリゴカルバメートが挙げられる。これらの化合物の大きなコンビナトリアル・ライブラリは、アフィマックス社の国際公開第95/12608号、アフィマックス社の国際公開第93/06121号、コロンビア大学の国際公開第94/08051号、ファーマコペア社の国際公開第95/35503号およびスクリップス社(Scripps)の国際公開第95/30642号(これらのいずれも、あらゆる目的で引用により本明細書に組み込まれている)に開示されている符号化されたライブラリ合成(ESL)法によって構築することができる。また、ペプチド・ライブラリは、ファージ・ディスプレイ法によって作製することもできる。例えば、Devlinの国際公開第91/18980号を参照されたい。コンビナトリアル・ライブラリおよび他の化合物は、最初に、これらのαシヌクレインへの結合能を測定することによって適合性をスクリーニングすることができる。
【0064】
(VI.毒性アッセイ)
これらのスクリーニング・アッセイに開示されているのと類似の方法を用いて、既存の薬物、食品、環境有害物質および他の化合物がαシヌクレインのプロセシング、リン酸化もしくは凝集の促進を介して毒性作用を発現するかどうかを調べることができる。このようなアッセイは上記スクリーニング・アッセイと同様に行うことができる。毒性作用は、上記スクリーニング・アッセイにおける薬理活性とは逆の結果で示される。
【0065】
(VII.プロテアーゼの単離)
完全長αシヌクレインの本発明の切断型へのプロセシングは、プロテアーゼを用いて行う。このプロテアーゼは、上述のスクリーニング法によって特定される阻害剤を用いて精製することができる。好ましい阻害剤は、切断部位に対してN末端側の残基を遷移状態アナログで置換した117番目から126番目までの残基を含むαシヌクレインのペプチドである。このような阻害剤をアフィニティー精製試薬として用いることによって脳細胞の抽出物から上記プロテアーゼを精製する。この細胞は、正常者もしくはLDB病に罹患していた者の死体から入手することができる。プロテアーゼのレベルは後者で高いと考えられる。このプロテアーゼは、αシヌクレイン基質にこれを作用させ、切断産物の形成をモニターすることによってアッセイすることができる。この基質は、例えば、上述の天然のヒト型αシヌクレイン、切断部位の両側から挟む残基を有するその断片、もしくは突然変異が遺伝型LBDを伴うその突然変異型とすることができる。任意選択的に、こうした基質のC末端を固相に、N末端を標識に固定化することができる。基質が切断されると、この標識が液相に遊離する。この液相は固相から容易に分離されるので、標識の量を蛋白分解活性の指標として測定することができる。
【0066】
(VII.末端特異的抗体)
本発明は末端特異的抗体を提供する。この抗体は、(C末端)切断型αシヌクレイン、好ましくはSN1−118、SN1−119、1−120、1−121、1−122、1−123、1−124、1−125もしくは1−126からなる群から選ばれる型に特異的に結合するが、完全長のαシヌクレインには特異的な結合を示さない。このような抗体は、αシヌクレイン沈着物のインビトロでのイメージングに、および治療剤として(下記参照)、ならびに上述のスクリーニング方法においてαシヌクレインの蛋白分解性切断で生じる切断産物を検出するのに有用である。また、対応するC末端側断片、例えば、118−140、119−140、120−140、121−140、122−140、123−140、124−140、125−140および126−140に対する末端特異的抗体を提供する。こうした末端特異的抗体は、これらの断片のN末端を認識することによって、完全長のαシヌクレインには特異的な結合を示すことなく、断片に特異的に結合する。
【0067】
このような抗体は、実験動物をαシヌクレインもしくはその断片で免疫して抗体を生じさせ、得られた抗体をスクリーニングして所望の結合活性を有するものを特定することにより作製することができる。任意選択的に、免疫は、本発明の切断断片のC末端を含む20個未満のアミノ酸からなる比較的短いペプチド(例えば、SN99−118もしくはSN110−119)を用いて行うことができる。任意選択的に、こうした短いペプチドは、免疫反応の誘発を促進する担体に結合させる。
【0068】
任意選択的に、標識もしくは固定化断片への特異的な結合は、非標識の完全長αシヌクレインと競合させる形で行うことができる。任意選択的に、抗体の大きなライブラリは、ファージ・ディスプレイ法を用いて同時にスクリーニングすることができる。
【0069】
非ヒト、例えば、マウス、モルモット、霊長類、ウサギもしくはラットのモノクロナール抗体は、(あらゆる目的で引用により本明細書に組み込まれている)Harlow&Lane,Antibodies,A Laboratory Manual(CSHP NY、1988年)に記載されている方法で作製することができる。実験動物の免疫には、完全フロインドアジュバントと、これに続いて不完全アジュバントを用いることが好ましい。通常、ウサギもしくはモルモットはポリクロナール抗体の作製に用いられる。一般に、モノクロナール抗体の作製にはマウスを用いる。結合は、例えば、ウェスタン・ブロットもしくはELISAによって評価することができる。抗体の抗原決定基は、この抗体に特異的に結合する最小の断片によって規定される。一方、抗原決定基特異性は、試験および対照抗体がαシヌクレインへの結合に対して競合する競合アッセイによって調べることができる。試験および対照抗体が競合する場合、これらは同じ抗原決定基、もしくは1つの抗体の結合がもう一方の抗体の結合を妨げるのに十分互いに近接した抗原決定基に結合する。
【0070】
キメラおよびヒト化抗体は、キメラもしくはヒト化抗体の作製の出発原料となるマウスその他の非ヒト抗体と同一もしくは同様の結合特異性および親和性を有する。キメラ抗体は、その軽鎖および重鎖の遺伝子が、異なる種に由来する免疫グロブリン遺伝子セグメントから、通常遺伝子操作によって構築された抗体である。例えば、マウス・モノクロナール抗体からのこうした遺伝子の可変(V)セグメントを、ヒトのIgG1、IgG4などの定常(C)セグメントに結合させることができる。ヒト・アイソタイプIgG1が好ましい。一部の方法として、この抗体のアイソタイプはヒトIgG1である。また、一部の方法として、IgM抗体を用いることもできる。従って、代表的なキメラ抗体は、マウス抗体のV、即ち抗原結合ドメインとヒト抗体のC、即ちエフェクタ・ドメインとから成るハイブリッド抗体である。
【0071】
ヒト化抗体は、実質的にヒト抗体(アクセプター抗体と呼ばれる)からの可変領域フレームワーク残基、および実質的にマウス抗体(ドナー免疫グロブリンと呼ばれる)からの相補性決定領域を有する。QueenらのProc.Natl.Acad Sci USA86:p10029−10033(1989年)、国際公開第90/07861号、米国特許第5,693,762号、米国特許第5,693,761号、米国特許第5,585,089号、米国特許第5,530,101号、およびWinterの米国特許第5,225,539号(これらのいずれも、あらゆる目的のため全文引用により本明細書に組み込まれている)を参照されたい。また、定常領域は、存在する場合、実質的にもしくは完全にヒト免疫グロブリン由来のものとする。ヒト可変ドメインは、通常、フレームワーク配列が上記CDRの由来するマウス可変領域ドメインと高度の配列同一性を示すヒト抗体から選ばれる。重鎖および軽鎖可変領域フレームワーク残基は、同一もしくは異なるヒト抗体配列に由来するものとすることができる。ヒト抗体の配列は、天然型ヒト抗体の配列もしくは数種のヒト抗体のコンセンサス配列とすることができる。Carterらの国際公開第92/22653号を参照されたい。上記ヒト可変領域フレームワーク残基から特定のアミノ酸を選び、CDRの立体構造および/または抗原への結合に対して及ぼし得る影響に基づいて置換する。このような及ぼし得る影響についての研究は、模型化、特定の位置のアミノ酸の特性の検討、または特定アミノ酸の置換もしくは突然変異の影響についての経験的観察によって行われる。
【0072】
αシヌクレインに対するヒト抗体は、以下に説明する種々の方法により形成される。特定のマウス抗体と同じ抗原決定基特異性を有する一部のヒト抗体は、競合結合実験もしくは別の方法により選定する。ヒト抗体を得る方法としては、Oestbergら,Hybridoma 2:p361−367(1983年);Oestbergの米国特許第4,634,664号;およびEnglemanらの米国特許第4,634,666号(これらはいずれも、あらゆる目的で全文引用により本明細書に組み込まれている)に記載されているトリオーマ法、例えば、Lonbergらの国際公開第93/1222号、米国特許第5,877,397号、米国特許第5,874,299号、米国特許第5,814,318号、米国特許第5,789,650号、米国特許第5,770,429号、米国特許第5,661,016号、米国特許第5,633,425号、米国特許第5,625,126号、米国特許第5,569,825号、米国特許第5,545,806号、Nature 148:p1547−1553(1994年)、Nature Biotechnology 14:p826(1996年)、Kucherlapatiの国際公開第91/10741号(これらはいずれも、あらゆる目的で全文引用により本明細書に組み込まれている)に記載されているような、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の少なくとも1つのセグメントをコードしている導入遺伝子を有する非ヒト遺伝子導入哺乳動物の使用、ならびにファージ・ディスプレイ法(例えば、Dowerらの国際公開第91/17271号およびMcCaffertyらの国際公開第92/01047号、米国特許第5,877,218号、米国特許第5,871,907号、米国特許第5,858,657号、米国特許第5,837,242号、米国特許第5,733,743号および米国特許第5,565,332号(これらはいずれも、あらゆる目的で全文引用により本明細書に組み込まれている))が挙げられる。
【0073】
キメラ、ヒト化もしくはヒト抗体の重鎖および軽鎖可変領域は、ヒト定常領域の少なくとも一部分に結合させることができる。定常領域の選択は、一部、抗体依存性補体および/または細胞媒介毒性が所望されるかどうかによって決まる。例えば、アイソトープIgG1およびIgG3は補体活性を有するが、アイソタイプIgG2およびIgG4は有しない。また、アイソタイプの選択は、脳内への抗体の通過に影響することがある。ヒト・アイソタイプIgG1が好ましい。軽鎖定常領域はラムダ型もしくはカッパ型とすることができる。抗体は、2本の軽鎖および2本の重鎖を含む四量体として、もしくは別々の重鎖、軽鎖として、またはFab、Fab’、F(ab’)2およびFvとして、あるいは重鎖および軽鎖可変ドメインをスペーサを介して結合させた一本鎖抗体として発現させることができる。
【0074】
また、別の実施態様として、αシヌクレインの109番目から120番目の残基内もしくは115番目から123番目の残基内の抗原決定基または43番目から51番目の残基および68番目から65番目の残基内の不連続な抗原決定基に特異的に結合し、あるいはαシヌクレインのC末端に対して末端特異的であるヒト化型、キメラ型およびヒト型などのモノクロナール抗体を提供する。αシヌクレインのC末端に対する末端特異的抗体は、遊離蛋白質としてαシヌクレインに特異的に結合することができるが、αシヌクレインのC末端が別のペプチドと結合しているような融合蛋白質の構成成分としてのαシヌクレインには特異的に結合できないという性質によって識別することができる。これらの抗体は、治療活性についてスクリーニングすることができ、肯定的な結果が得られれば、治療法に用いることができる。また、こうした抗体は、前述のように、αシヌクレインの断片を検出するのにも用いることができる。
【0075】
(IX.診断)
本発明は患者においてLBをインビボでイメージングする方法を提供する。このような方法は、PDのリューイ体病もしくはこれに対する罹病性を診断し、またはこれらの診断を確認するのに有用である。例えば、この方法は痴呆の症状を示す患者において用いることができる。この患者がLBを有する場合、患者はリューイ体病に罹患していると考えられる。また、この方法は、無症候性の患者においても用いることができる。異常なアミロイド沈着が存在すると、将来症候性疾患に罹患しやすいことが分かる。また、この方法は、以前にリューイ体病と診断された患者において疾患の進行および/または治療に対する反応をモニターするのに有用である。
【0076】
この方法は、患者の体内でαシヌクレインに結合する上記のような末端特異的抗体を投与し、次いで結合したこの抗体を検出することによって行うことができる。所望であれば、除去反応は、Fabなどの完全長の定常領域を欠く抗体断片を用いることにより回避することができる。一部の方法では、同一の抗体に治療剤および診断試薬としての両方の機能を持たせることができる。
【0077】
診断試薬は、患者の体内に静注することにより、または頭蓋内注射により、もしくはドリルで穴をあけた頭蓋骨から直接脳内に投与することができる。試薬の投与量は治療方法の場合と同じ範囲内とする必要がある。通常、この試薬は標識するが、一部の方法では、αシヌクレインに対して親和性を有する主試薬は標識せず、別の標識試薬を用いて主試薬に結合させる。標識の選択は検出方法によって決まる。例えば、蛍光標識は光学的検出に適している。常磁性標識の使用は外科的処置を必要としない断層撮影法による検出に適している。また、放射活性標識はPETもしくはSPECTを用いて検出することができる。
【0078】
診断は、標識された部位の数、大きさおよび/または強度を対応するベースラインレベルと比較することにより行う。このベースラインレベルは健常者集団の平均のレベルとすることができる。また、ベースラインレベルは同一患者で測定した以前のレベルとすることもできる。例えば、処置を始める前の患者においてベースラインレベルを測定し、その後の測定値をこのベースラインレベルと比較することができる。ベースラインに対するレベルの減少は、処置に対する好反応を示唆するものである。
【0079】
また、末端特異的抗体は、切断型αシヌクレインが脳脊髄液または他の体組織もしくは体液に存在するかどうかを調べるのに有用である。この型が、健常者集団の正常レベルに対し、患者おいて有意に高いレベル(即ち、平均プラス1標準偏差より高いレベル)で存在することは、LBDに罹患しているか罹患性があることを示すものである。
【0080】
(X.処置方法)
本発明は、リューイ体病に罹患しているか、罹患するリスクを有する患者においてこの疾患を予防もしくは治療するいくつかの方法を提供する。治療剤としては、上述の切断型αシヌクレインおよび抗体を誘導するのに有効なその断片、上記のような末端特異的抗体、ならびに上述のような、切断型αシヌクレインの凝集もしくはαシヌクレインの蛋白分解性プロセシングに対する阻害剤が挙げられる。LBDに罹患しているか、罹患するリスクを有する患者に薬剤を投与する一般的な方法については、あらゆる目的で、記載されている全ての引用文献を含む全文引用により本明細書に組み込まれている同時係属出願の2002年11月1日提出の米国特許出願第60/423,012号、ならびに2000年6月1日提出の国際特許出願第PCT/US00/15239号および2003年10月31日提出の国際特許出願第PCT/US03/34527号に開示されている。
【0081】
治療の対象となる患者としては、現在LBDの症状を示している患者ばかりでなく、LBDに罹患するリスクを有するが、症状は出ていない者も含まれる。従って、本方法は、LBDについて知られている遺伝的リスクを有する者に予防的に施行することができる。このような者としては、本疾患に罹患したことのある血縁者を有する者、および遺伝もしくは生化学的マーカーの解析によってリスクが明らかにされている者が挙げられる。PDに対するリスクの遺伝マーカーとしては、αシヌクレインもしくはパーキン(Parkin)、UCHLI、およびCYP2D6遺伝子の突然変異;特に、αシヌクレイン遺伝子の30および53番目の位置の突然変異が挙げられる。現在パーキンソン病に罹患している者は、静止振戦、筋固縮、運動緩徐および姿勢の不安定を含む臨床症状によって見分けることができる。
【0082】
一部の方法として、上記患者は、リューイ体を特徴とする疾患以外のどんなアミロイド生成性疾患の臨床症状もしくはリスク要因も有さない者である。一部の方法として、上記患者は、細胞外アミロイド沈着を特徴とするどんな疾患の臨床症状もしくはリスク要因も有さない者である。一部の方法として、上記患者は、Aβペプチドのアミロイド沈着を特徴とする疾患を有さない者である。一部の方法として、上記患者は、アルツハイマー病の臨床症状およびリスク要因を有さない者である。一部の方法として、上記患者は、アルツハイマー病とリューイ体とを特徴とする疾患を併発している者である。一部の方法として、上記患者は、アルツハイマー病とパーキンソン病とを併発している者である。
【0083】
無症候性の患者では、任意の年齢(例えば、10、20、30歳)で処置を開始することができる。しかしながら、通常、患者が40、50、60もしくは70歳に到達するまで処置を開始する必要はない。一般的には、処置は、ある期間にわたって多回投与することを必要とする。処置は、治療剤(例えば、切断型αシヌクレイン・ペプチド)に対する抗体または活性化T細胞もしくはB細胞反応を長い期間をかけてアッセイすることによりモニターすることができる。反応が低下した場合には、追加抗原投与が必要となる。
【0084】
予防的な適用では、医薬用組成物もしくは薬剤を、LBDに罹りやすいか、それとも罹るリスクのある患者に対して、そのリスクを除去もしくは低下させ、その重症度を軽減し、あるいはこの疾患の生理学的、生化学的、組織学的および/または行動上の症状、その合併症ならびにこの疾患の進行中に発現する中間的な病理学的表現型を含むこの疾患の発現を遅らせるのに十分なこの組成物もしくは薬剤の投与量および投与頻度を含む治療法において投与する。治療的な適用では、組成物もしくは薬剤を、そのような疾患が疑われるか、すでに罹患している患者に対して、その合併症およびこの疾患の進行中に発現する中間的な病理学的表現型を含むこの疾患の(生理学的、生化学的、組織学的および/または行動上の)症状を治すか、少なくとも部分的に抑えるのに十分なこの組成物の投与量および投与頻度を含む治療法において投与する。治療的もしくは予防的処置を遂行するのに適切な量は、治療的もしくは予防的有効用量と定義される。治療的もしくは予防的処置を遂行するのに適切な量および投与頻度の組み合わせは、治療的もしくは予防的有効療法と定義される。治療的および予防的有効療法のいずれにおいても、薬剤は、通常、十分な免疫反応が達成されるまで数用量投与する。一般には、免疫反応をモニターし、免疫反応が減弱し始める場合には投薬を繰り返す。
【0085】
一部の方法では、薬剤の投与によりαシヌクレインの細胞内凝集レベルが低下する。一部の方法では、薬剤の投与によりC末端切断型αシヌクレインのレベルが低下する。一部の方法では、薬剤の投与により、パーキンソン病の場合の運動もしくは認識機能のようなLBDの臨床症状が改善する。一部の方法では、薬剤投与後、時々、αシヌクレインの細胞内凝集レベルの低下もしくは疾患の臨床症状の改善をモニターする。
【0086】
上述の症状の処置に対する本発明の組成物の有効用量は、多くの種々の要因、例えば、投与手段、標的部位、患者の生理的状態、患者がヒトか動物か、他の投与薬剤、および処置が予防的なものか治療的なものかによって異なる。通常、患者はヒトであるが、遺伝子導入動物を含む非ヒト哺乳動物も処置することができる。処置用量は、安全性および有効性を最適化するために漸増する必要がある。
【0087】
一部の方法では、この薬剤は、αシヌクレインの切断断片もしくはαシヌクレインに対する抗体を誘導することができるその断片である。このような断片の量は、アジュバントも投与するかどうかによって決まり、アジュバントを用いない場合には用量を上げる必要がある。ヒトへの投与の場合、断片の投与量は、患者1人当たり1から500μgまでとし、より普通には、1回の注射当たり5から500μgとすることがある。時として、1回の注射当たり1〜2mgの比較的高用量を用いる。一般には、ヒトへの注射1回当たり約10、20、50もしくは100μgを用いる。また、断片の質量は、断片全体の質量に対する断片内の免疫原性抗原決定基の質量比によって決まる。通常、断片の1マイクログラムにつき10−3〜10−5マイクロモルの免疫原性抗原決定基を用いる。注射のスケジュールは、1日1回から1年に1回、さらには10年に1回と大きく変えることができる。ある用量の免疫原を投与する所定の日の投与量は、1μg/患者より高く、アジュバントも投与する場合には、通常10μg/患者より高いが、アジュバントを用いない場合は、通常100μg/患者より高い。一般的な治療法は、免疫後、6週間間隔などの時間間隔でブースタ注射を行うことから成る。別の治療法は、免疫後、1、2および12ヶ月後にブースタ注射を行うことから成る。別の治療法は、生涯にわたって2ヶ月毎の注射を必要とする。あるいは、ブースタ注射は、免疫反応のモニタリングによって必要とされる場合、不定期に行うことができる。
【0088】
また、αシヌクレインの切断断片は、αシヌクレインの切断断片の発現を確実にするための1つ以上の調節性エレメントに動作可能なように結合させたこの断片をコードする核酸の形で投与することもできる。免疫原をコードする核酸の用量は、患者1人当たり約10ng〜1g、100ng〜100mg、1μg〜10mgもしくは30〜300μgDNAである。感染性ウイルス・ベクターの用量は、投与量当たり10〜100ビリオンもしくはそれ以上とする。
【0089】
一部の方法は末端特異的抗体を用いた受動免疫を含む。このような方法では、投与量は宿主体重1kg当たり約0.0001〜100mg、より普通には0.01〜5mgである。例えば、投与量を1mg/kg体重もしくは10mg/kg体重または1〜10mg/kgの範囲内、即ち、70kgの体重の患者の場合、それぞれ、70mgもしくは700mgまたは70〜700mgの範囲内とすることができる。例示的な処置療法は、2週間毎に1回もしくは1ヶ月に1回もしくは3〜6ヶ月に1回投与するものである。一部の方法では、種々の結合特異性を有する2種以上のモノクロナール抗体を、各抗体の投与量が示した範囲内に収まるようにして、同時投与する。通常、抗体は複数回にわたって投与する。個々の投薬間の間隔は1週間、1ヶ月もしくは1年とすることができる。また、間隔は、患者におけるαシヌクレインに対する抗体の血中濃度の測定によって必要とされる場合、不定期とすることができる。一部の方法では血漿中抗体濃度が1〜1,000μg/mlとなるように、一部の方法では25〜300μg/mlとなるように投与量を調節する。あるいは、抗体は、徐放性製剤として投与することができるが、この場合、投与頻度を下げる必要がある。投与量および投与頻度は患者体内における抗体の半減期によって異なる。一般に、ヒト型抗体は最も長い半減期を示し、これにヒト化抗体、キメラ抗体および非ヒト抗体が続く。投与量および投与頻度は、処置が予防的なものか治療的なものかによっても異なることがある。予防的な適用では、比較的低用量を長期間比較的低頻度の間隔で投与する。一部の患者では、その後の生涯にわたって処置を継続する。治療的適用では、疾患の進行が低減するか停止するまで、好ましくは患者が疾患の症状の部分的もしくは完全な寛解を示すまで、比較的短い間隔で比較的高用量を投与することが必要な場合がある。その後は、この患者に予防療法を施行することができる。
【0090】
治療剤は、予防的および/または治療的処置において、非経口的、局所的、経静脈的、経口的、経皮下的、経動脈的、経頭蓋内的、経髄腔内的、経腹腔内的、経鼻腔内的もしくは経筋肉内的手段によって投与することができる。免疫原の最も一般的な投与経路は皮下であるが、他の経路も同様に有効である。次に最も一般的な投与経路は筋肉内注射である。このタイプの注射は、最も一般的には、腕もしくは脚筋において行われている。一部の方法として、薬剤を、沈着物が蓄積している特定の組織に直接注射(例えば、頭蓋内注射)する。抗体の投与には筋肉内注射もしくは静脈内注射が好ましい。一部の方法として、特定の治療用抗体を頭蓋内に直接注射する。一部の方法として、抗体を徐放組成物もしくはデバイス、例えば、メディパッド(Medipad)(登録商標)デバイスとして投与する。αシヌクレインのプロテアーゼによるプロセシングを阻害することによって作用する小分子は、この小分子が治療もしくは予防効果を示すのに十分脳血液関門を通過する場合には静脈内に、そうでない場合は頭蓋内に直接投与することができる。
【0091】
本発明の薬剤は、任意選択的に、LBDの処置において少なくともある程度有効な他の薬剤と組み合わせて投与することができる。また、本発明の薬剤は、脳血液関門に対する本発明の薬剤の通過を促進する他の薬剤と併用して投与することもできる。
【0092】
免疫原はアジュバントとの組み合わせで投与することがある。種々のアジュバントをαシヌクレインなどのペプチドと組み合わせて用いることにより免疫反応を誘発することができる。好ましいアジュバントは、免疫原に固有の反応を増強するが、この反応の質的な形態に影響する免疫原の立体構造変化を引き起こさない。好ましいアジュバントとしては、水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウム、3De−O−アシル化モノホスホリルリピッドA(MPL(登録商標))(英国特許第2220211号(RIBIイムノケム・リサーチ社(ImmunoChem Research Inc.)、ハミルトン、モンタナ州、現在コリザ社の一部)参照)が挙げられる。スティミュロン(Stimulon)(登録商標)QS−21は、南アメリカに存在するバラ科キラヤ(学名Quillaja Saponaria Molina)の木の樹皮から単離されたトリテルペン・グリコシドもしくはサポニンである(Kensilら,Vaccine Design:The Subunit and Adjuvant Approach(Powel&Newman編、Plenum Press、NY、1995年);米国特許第5,057,540号(アキラ・バイオファーマシューティカルス社(Aquila BioPharmaceuticals)、フレーミングハム、MA)参照)。他のアジュバントには、(スクアレン、ピーナッツ油などの)水中油エマルジョンがあり、任意選択的に、モノホスホリルリピッドA(Stouteら,N Engl J Med 336:p86−91(1997年)、プルロニック・ポリマー、マイコバクテリア死菌などの免疫賦活剤と組み合わせて用いる。別のアジュバントにはCpG(国際公開第98/40100号)がある。あるいは、αシヌクレインをアジュバントに結合させることができる。しかしながら、このような結合によって、αシヌクレインの立体構造がこれに対する免疫反応の性質に影響を与えるような変化を実質的に生じてはならない。アジュバントは、有効な薬剤を含む治療用組成物の構成任意選択的に成分として投与することができ、あるいは治療剤の投与の前、もしくは投与と同時に、または投与後に別々に投与することができる。
【0093】
好ましい種類のアジュバントは、水酸化アラム、リン酸アラム、硫酸アラムなどのアルミニウム塩(アラム)である。このようなアジュバントは、MPLもしくは3−DMP、QS−21、ポリグルタミン酸、ポリリジンなどの重合体もしくは単量体アミノ酸のような他の特異的免疫賦活剤と併用するか併用しないで用いることができる。別の種類のアジュバントは水中油エマルジョン製剤である。このようなアジュバントは、ムラミルペプチド(例えば、N−アセチルムラミル−L−スレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(nor−MDP)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(MTP−PE)、N−アセチルグルコサミル−N−アセチルムラミル−L−Al−D−イソグル−L−Ala−ジパルミトキシプロピルアミド(DTP−DPP)テラミドTM)その他の細菌細胞壁成分のような他の特異的免疫賦活剤と併用するか併用しないで用いることができる。水中油エマルジョンとしては、(a)モデル110Yミクロフルイダイザー(ミクロフルイディクス社(Microfluidics)、ニュートン、MA)などのミクロフルイダイザーを用いて1ミクロン未満の粒子に処方された、(任意選択的に種々の量のMTP−PEを含む)5%スクアレン、0.5%ツウィーン80および0.5%スパン85を含むMF59(国際公開第90/14837号)、(b)1ミクロン未満のエマルジョンにミクロ流体化するか旋回流を与えてより大きなサイズのエマルジョンとした、10%スクアレン、0.4%ツウィーン80、5%プルロニック・ブロック・ポリマーL121およびthr−MDPを含むSAF、ならびに(c)2%スクアレン、0.2%ツウィーン80、およびモノホスホリルリピドA(MPL)、トレハロースジミコレート、(TDM)、細胞壁骨格(CWS)、好ましくはMPL+CWS(デトックス(Detox)(登録商標))からなる群から選ばれる1種以上の細菌細胞壁成分を含むリビ(Ribi)(登録商標)アジュバント・システム(RAS)(リビ・イムノケム社(Ribi ImmunoChem)、ハミルトン、MT)が挙げられる。
【0094】
別の種類の好ましいアジュバントは、スティミュロン(Stimulon)(登録商標)(QS−21、アキラ社(Aquila)、フレーミングハム、MA)などのサポニン系アジュバント、もしくはこれらから作製したISCOM(免疫賦活複合体)、ISCOMATRIXなどの粒子である。他のアジュバントとしては、RC−529、GM−CSFならびに完全フロインドアジュバント(CFA)およびフロイント不完全アジュバント(IFA)が挙げられる。別のアジュバントとしては、インターロイキン(例えば、IL−1、IL−2、IL−4、IL−6、IL−12、IL13およびIL−15)、マクロファージ・コロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子(GM−CSF)、腫瘍壊死因子(TNF)などのサイトカインが挙げられる。別の種類のアジュバントは、免疫調節剤もしくはアジュバントとしての、糖残基がアミノ酸で置換されているN−グリコシルアミド、N−グリコシルウレアおよびN−グリコシルカルバメートを含む糖脂質である(米国特許第4,855,283号参照)。また、熱ショック蛋白質、例えば、HSP70およびHSP90もアジュバントとして用いることができる。
【0095】
アジュバントは、αシヌクレイン断片と一緒に、単一組成物として投与することができ、あるいはαシヌクレイン断片投与の前、もしくはこれと同時に、またはこれの後に投与することができる。αシヌクレイン断片およびアジュバントは、同一バイアルに包装して供給することができ、もしくは別々のバイアルに包装して使用前に混合することができる。通常、αシヌクレイン断片およびアジュバントは、目的とする治療用途を表示するラベルと共に包装する。αシヌクレイン断片およびアジュバントが別々に包装される場合には、この包装に、使用前に混合することについての使用説明書を添付するのが普通である。アジュバントおよび/または担体の選択は、このアジュバントを含む免疫原製剤の安定性、投与経路、投与スケジュールおよび接種対象の種に対するアジュバントの効力によって決まり、ヒトにおいて医薬用として許容可能なアジュバントは、関係する規制機関によってヒトへの投与が承認されているか承認されうるものである。例えば、完全フロインドアジュバントはヒトへの投与に適切ではない。アラム、MPLおよびQS−21が好ましい。任意選択的に、2種以上のアジュバントを同時に用いることができる。好ましい組み合わせとしては、アラムとMPL、ミョウバンとQS−21、MPLとQS−21、MPLもしくはRC−529とGM−CSF、およびアラムとQS−21とMPLが挙げられる。また、任意選択的にアラム、QS−21およびMPLならびにこれらの全ての組み合わせのうちのいずれかと併用して、フロイント不完全アジュバントを使用することができる(Changら,Advanced Drug Delivery Reviews 32:p173−186(1998年))。
【0096】
多くの場合、本発明の薬剤は、有効な治療剤および各種の他の医薬用として許容可能な成分を含む医薬用組成物として投与する。Remington’s Pharmaceutical Science(第15版、Mack Publishing Company,Easton,Pennsylvania)、1980年)を参照されたい。好ましい形態は、所望の投与様式および治療用途によって決まる。また、この組成物は、所望の製剤に応じて、動物もしくはヒトへの投与用の医薬用組成物を処方するための一般的な賦形剤と定義される、医薬用として許容可能で毒性のない担体もしくは希釈剤を含むことができる。この希釈剤は、その組み合わせの生物活性に影響を与えないように選択する。このような希釈剤の例としては、蒸留水、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、ブドウ糖液、およびハンクス液がある。さらに、この医薬用組成物もしくは製剤は、他の担体、アジュバント、もしくは毒性がなく治療用ではない非免疫原性の安定化剤なども含むことができる。
【0097】
また、医薬用組成物は、蛋白質、キトサンなどの多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸および(ラテックス官能化セファロース(latex functionalized Sepharose)(登録商標)、アガロース、セルロースなどの)コポリマー、アミノ酸重合体、アミノ酸共重合体、ならびに(油滴、リポソームなどの)脂質凝集物などの大きくてゆっくりと代謝される高分子を含むこともできる。さらに、こうした担体は、免疫賦活剤(即ち、アジュバント)として機能させることができる。
【0098】
非経口投与の場合、本発明の薬剤は、水、油、生理食塩水、グリセロール、エタノールなどの滅菌液とすることができる医薬用担体を含む生理的に許容可能な希釈剤を用いたこの物質の溶液もしくは懸濁液として、注射可能な用量を投与することができる。さらに、湿潤剤、乳化剤、界面活性剤、pH緩衝剤などの補助剤を組成物に加えることができる。医薬用組成物の他の成分としては、石油、動物、植物もしくは合成由来の成分、例えば、ピーナッツ油、大豆油および鉱油がある。一般に、プロピレングリコール、ポリエチレン・グリコールなどのグリコール類が、特に注射用溶液には好ましい液体担体である。抗体は、有効成分の持続放出を可能にするように処方することができるデポー注射剤もしくは植込み製剤の形で投与することができる。例示的な組成物は、50mMのL−ヒスチジンおよび150mMのNaClからなり、HClでpH6.0に調整した水性緩衝液に配合したモノクロナール抗体を5mg/mL含む。通常、非経口投与用の組成物は、実質的に無菌で、実質的に等張であり、FDAもしくは同様な機関のGMP条件下に製造される。
【0099】
通常、組成物は溶液もしくは懸濁液の形の注射剤として調製するが、注射に先立って液体溶媒に溶解もしくは懸濁するのに適した固形物として調製することもできる。また、この製剤は、上述のアジュバント効果を増強するために、リポソームもしくはポリラクチド、ポリグリコリド、コポリマーなどの微粒子を用いて乳化もしくは封入することもできる(Langer,Science 249:p1527(1990年)およびHanes,Advanced Drug Delivery Reviews 28:p97−119(1997年)参照)。本発明の薬剤は、有効成分の持続もしくはパルス放出を可能にするように処方することができるデポー注射剤もしくは植込み製剤の形で投与することができる。
【0100】
他の投与様式に適した別の製剤としては、経口用、鼻腔内用および呼吸器用(pulmonary)製剤、坐剤ならびに経皮投与剤(transdermal application)が挙げられる。坐剤の場合、結合剤および担体としては、例えば、ポリアルキレン・グリコールもしくはトリグリセリドが挙げられ、このような坐剤は、本有効成分を0.5%〜10%、好ましくは1%〜2%含む混合物から作製することができる。経口用製剤は、医薬品グレードのマンニトール、乳糖、でんぷん、ステアリン酸マグネシウム、サッカリン・ナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの賦形剤を含む。この組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放製剤もしくは散剤の形をとり、有効成分を10%〜95%、好ましくは25%〜70%含む。
【0101】
局所に適用すると、経皮的に、もしくは皮内から送達させることができる。本剤をコレラトキシンまたはその無毒化誘導体もしくはサブユニットあるいは他の同様な細菌毒素と同時投与することにより局所投与を容易にすることができる(Glennら,Nature 391:p851(1998年))。同時投与は、これらの成分を混合物として、または化学的架橋結合もしくは融合蛋白質としての発現により得られる結合分子として用いることにより達成することができる。あるいは、スキン・パス(skin path)もしくはトランスフェロソームを用いて経皮的送達を達成することができる(Paulら,Eur.J.Immunol.)25:p3521−24(1995年);Cevcら,Biochem.Biophys.Acta 1368:p201−15(1998年))。
【実施例】
【0102】
(1.遺伝子導入動物における切断型αシヌクレインの検出)
PDFGプロモータに動作可能なように結合させたインタクトなαシヌクレインをコードする核酸を有する、6週令、3ヶ月齢および12ヶ月齢の遺伝子導入マウスを用いて検討した。これらのマウスを安楽死させて、4匹(雄2匹/雌2匹)からの皮質および海馬組織をプールした。この組織をTBS(250mM NaCl)中でホモジナイズした後、150,000×gで15分間遠心した。次いで、得られたペレットを1%トリトンXにより30分間4℃で抽出し、これを上記のようにして遠心した。次に、得られたペレットを1%SDSにより30分間25℃で抽出し、これを上記と同様に遠心した。最後に、このペレットを8M尿素/1%SDSで抽出した。この方法によって、以下の説明でトリス、トリトン、SDSおよび尿素抽出物と呼ぶ4種の抽出物が得られた。
【0103】
図1Aおよび図1Bは、抗体ELADW−47を用いた、遺伝子導入マウスおよび対応対照からの抽出物のウェスタン・プロットを示す。この抗体は、SN115−122内の抗原決定基に結合する(が、何がしかの結合を生じるのに必ずしもその全てのアミノ酸を必要とする訳ではない)ポリクロナール抗体である。この抗体は、ヒト型αシヌクレインを選択的に結合するだけでなく、程度はより少ないがマウス型にも結合する。図1Aおよび図1Bは、対照マウスおよび遺伝子導入マウスにおける14kDaのαシヌクレインのバンドを示す。このバンドは対照よりも遺伝子導入マウスで強い。各種の抽出物では、トリトン抽出物のバンドが最も強い。この抽出物は、膜結合αシヌクレインおよび恐らくリューイ体様封入体を可溶性にしている。(対照ではなく)遺伝子導入マウスについてのトリスおよび特にトリトン抽出では、トリシン緩衝液中で約12kDaのバンドが現れる。これは切断型αシヌクレインである。このバンドの分子量は、約115〜120個のアミノ酸の長さに相当する。
【0104】
図2は、図1と同じ抗体を用いて、3ヶ月齢と12ヶ月齢のマウスで切断型αシヌクレインのレベルを比較したウェスタン・ブロットを示す。この図から、この切断型は3ヶ月齢のマウスでより強く現れることが分かる。この場合も、対照マウスでは切断型は現れない。このように遺伝子導入マウスの発育の初期段階で切断型αシヌクレインがより強く現れることから、切断型αシヌクレインはリューイ体病の発生過程の初期段階で役割を果たしていることが分かる。
【0105】
図3Aおよび図3Bは、12C1と呼ばれる別の抗体(43番目から51番目および58番目から65番目のアミノ酸の抗原決定基に結合するモノクロナール抗体IgG1 k)を用いたウェスタン・ブロットを示す。この抗体は、43番目から51番目および58番目から65番目までのアミノ酸を含む抗原決定基においてマウス型およびヒト型αシヌクレインと等しく結合する。図3は、上記遺伝子導入マウスのトリトン抽出物における12kDaの切断バンドを示す。対照マウスのトリトン抽出物では同じバンドが、ずっとぼんやりと現れる。従って、αシヌクレインの切断型へのプロセシングは正常マウスおよび遺伝子導入マウスのいずれにおいても生じるが、後者の方がより強く生じる。このように遺伝子導入マウスにおいてプロセシングの程度がより強いのは、ヒト型αシヌクレインを直接プロセシングすることによると考えられ、もしくは非遺伝子導入マウスで余り使われていない経路に沿ってマウス型αシヌクレインを追いやるヒト型αシヌクレインの存在による考えられる。
【0106】
図4は、図3と同じ抗体を用いた別のウェスタン・ブロットを示す。このゲルでは、分子量約6もしくは7kDaの別の2つのバンドが現れている。7kDaのバンドは対照マウスよりも遺伝子導入マウスにおいて強く現れる。6kDaのバンドは、遺伝子導入マウスにおいてのみ、その上、3ヶ月サンプルにおいてのみ現れる。この6もしくは7kDaのバンドは、長さ約50〜80個のアミノ酸のより短いαシヌクレインN末端断片を示すものである。
【0107】
図5A、図5B、図5C、図5Dおよび図5Eは、4種の抗体を用いたウェスタン・ブロットおよびこれらの抗体の結合部位の抗原決定基マップを示す。ELADW−44は、ヒト型αシヌクレインにのみ結合する(即ち、マウス型には結合しない)ポリクロナール抗体である。これは98番目から019番目のアミノ酸の抗原決定基に結合する。ELADW−47は、ヒト型に選択的に結合するだけでなく、マウス型にも結合するポリクロナール抗体である。これは115番目から122番目のアミノ酸の抗原決定基に結合する。ELADW−48は、ヒト型およびマウス型に等しく結合するポリクロナール抗体である。これは131番目から140番目のアミノ酸の抗原決定基に結合する。8A5は、ヒト型およびマウス型に等しく結合するモノクロナール抗体である。これはαシヌクレインのC末端に結合する。図5A〜図5Eから、以上の4種の抗体のうち、ELADW−47のみが切断型αシヌクレインを示す12kDaのバンドを生じたことが分かる。ELADW48がこのバンドを生じなかったという結果は、切断部位のマッピングを行うのに助けになる。ELADW−47は結合し、ELADW48は結合しなかったので、切断部位は、ELADW−47抗原決定基のN末端およびELADW−48抗原決定基のC末端アミノ酸に隣接している。さらに、ELADW−47抗原決定基の一部のアミノ酸が存在することにより結合が可能となるはずであり、ELADW−48抗原決定基の一部のアミノ酸が存在しないことにより結合が妨げられるはずであるので、切断部位は、さらに、ほぼ118番目から135番目のアミノ酸の範囲内の領域に限定される。このデータを切断断片のサイズ(約115〜120アミノ酸)と考え合わせると、考えられる切断部位は、118番目〜121番目のアミノ酸あたりである。C末端抗体8A5による結合が見られないことは、この切断部位と整合する。しかしながら、抗体ELADW−44による結合が見られないことについては、さらに解説を要する。切断により生じる切断型ヒト・αシヌクレインが異なる立体構造をELADW−44の結合を妨げるインタクトなαシヌクレインに適合させるのであれば、このように切断が見られないことの説明がつく。一方、正常マウスよりも遺伝子導入マウスでより大きな程度に存在する切断型αシヌクレインは、マウス・αシヌクレイン型である。この場合、遺伝子導入マウスで切断型の量が多いのは、対照マウスの状況と比べて切断型αシヌクレインを生じるプロセシング経路に沿ってより多くのマウス・αシヌクレインを追いやるヒト・αシヌクレインの存在によるものと思われる。
【0108】
(2.DLBD患者の脳内の切断型αシヌクレインの検出)
この実施例では、LB内のαシヌクレイン種をDLBD脳の残りの可溶性および粒状蛋白質フラクションと比較する。LBおよび可溶性蛋白質は、単一のDLBD患者の皮質から調製する(Jensenら,J.Biol.Chem.275:p21500−21507(2000年)参照)。組織は、トリス/スクロース(0.32mM)/EDTA(5mM)およびプロテアーゼ阻害剤緩衝液中でホモジナイズした。得られたホモジネートを1000gで遠心した。上清をさらに150kgで遠心した。この遠心による上清を用いて蛋白質のトリス可溶性フラクションを調製した。1000gの遠心で得られたペレットは再懸濁し、これを用いてリューイ体フラクションを調製した。リューイ体は、抗シヌクレイン抗体を担持させた磁性ビーズを用いる免疫沈降法によって精製した。次いで、得られた沈降物を7M尿素2Mチオ尿素/4%CHAPSで抽出した。得られた結合型を尿素/チオ尿素/CHAPSで再抽出した。次いで、この工程による抽出物と前回の抽出物とをプールし、2D PAGEおよびイムノブロットにより分析した。結合型を、さらに90%ギ酸で抽出した。得られた抽出物は、ギ酸9%にまで希釈して保存した。次いで、この抽出物をSDS PAGEおよびRP−HPLCにより分析した。
【0109】
シヌクレイン種は2−Dゲルで分離し、ウェスタン・ブロットで検出した。その結果、LBおよび可溶性脳フラクションのいずれにも、リン酸化型および切断型の種を含む複数のαシヌクレイン種が存在した。切断は、αシヌクレインのほぼ120番目〜125番目のアミノ酸のC末端に主に認められた。また、C末端近くで切断された別の大きな断片も認められた。β−およびγ−シヌクレインは、上記可溶性フラクション中には存在しているにもかかわらず、LB中には検出されなかった。このLB試料中のαシヌクレインは、別のC末端切断部位を有する点、および全体的に切断型αシヌクレイン種が可溶性蛋白フラクションに比し、LB内に濃縮されている点で、この可溶性フラクション中のものと異なっていた。さらに、分子量が約25〜35kDaとより大きい複数のαシヌクレイン種がLB試料にのみ検出された。C末端切断断片は、実施例1の遺伝子導入マウスで認められたのと同じサイズであり、疾患の原因としての役割が示唆された。
【0110】
図6A、図6Bおよび図6Cは、種々の抗体でプローブし、2−Dゲル電気泳動の対象として、ウェスタン・ブロッティングにかけたトリトン抽出物を示す。チャートの左の方にみられるダーク・スポットは完全長のαシヌクレインを示す。最も注目すべき特徴は、8A5のチャートにはみられないSyn−1のチャートの4つのスポットである。これら4つのスポットは、C末端アミノ酸の欠如のため8A5抗体を結合することができない切断型αシヌクレインである。これらの切断は、SN1−120〜SN1−125の型にほぼ相当する。完全長αシヌクレインのスポットの下および近傍にはいくつかの別のスポットがみられる。この完全長スポットの下のスポットは、C末端からの小さな切断(即ち、Xを130〜139とした場合のシヌクレイン1−X)を示すものと思われる。完全長スポット近傍の右側スポットは(ELADW43を用いたブロットにこのスポットがないため)N末端からの小さな欠損を示す。
【0111】
図7A、図7B、図7Cおよび図7Dは、別の抗体を用いたブロットを示す。5C12(109−120)の場合、4つのスポットが認められる。ELADW47(118−123)の場合、これらのスポットのうちの2つが認められ、LB509(115−123)の場合、これら全てのスポットがみられなかった。これらのスポットは、分子量においても、ニトロ化、リン酸化などの翻訳後修飾の有無においても互いに異なると思われる。これらの結果から、切断部位はαシヌクレインのほぼ120番目から125番目のアミノ酸の範囲内に決まる。また、注目すべきは、いくつかのスポットが、修飾されていないシヌクレインのスポットよりもわずか下(分子量がより小さい)もしくは右側(pHがより高い)に出ていることである。これらは、恐らく、主要なスポットに比し、受けた切断の程度が小さい、および/又は翻訳後に受けた修飾が異なるシヌクレインの型を示すものと考えられる。
【0112】
図8は、ウェスタン・ブロッティングに用いる抗体が結合する抗原決定基に関係する切断部位の概要を示す。
【0113】
図9A、図9Bは、トリス可溶性蛋白質とリューイ体からの抽出蛋白質とを2D電気泳動およびウェスタン・ブロッティングにより比較したものである。左側のトリス・ブロットには、(恐らくアミノ酸1番目から120番目〜1番目から125番目の範囲にある)切断型αシヌクレインを表すより低分子量の4つのスポットが示されている。これらは、完全長αシヌクレインを表すスポットに比し、強度が比較的低い。リューイ体からの蛋白質のブロットでは、1番目から120番目〜1番目から125番目の範囲の切断型αシヌクレインを表すより多くのスポットが示されている。しかしながら、これらは、完全長αシヌクレインを表すスポットに比し、強度が高い。また、明らかなことは、2つのスポットが、完全長αシヌクレインより速いが、このブロットの下部に集まっているスポットよりも遅い移動を示すことである。これらのスポットは、Xを130〜139番目のアミノ酸とした場合の1−Xの範囲の切断を表すものと考えられる。
【0114】
図10A、図10B、図10C、図10Dは、各種C末端抗体で再プローブした(reprobed)リューイ体からの蛋白質の免疫ブロットを示す。Syn−1(91−96)および5C12(109−120)の場合、全てのスポットが現れる。ELADW47の場合、Syn−1および5C12ブロットにおいて最も速い速度で最も底部の(basic)位置を移動するスポットは見当たらない。LB509ブロットでは、その他のブロットにおける移動のより速い/より底部のスポットの全てが見当たらないか、ぼんやりとしている。ELADW47およびLB509のブロットに特定のスポットが存在しないか、強度が低いことから、これらのスポットは、切断型αシヌクレインを示すものであり、切断がほぼ120番目〜125番目のアミノ酸で生じることと符合していることが分かる。
【0115】
(3.遺伝子導入動物における凝集αシヌクレインの検出)
遺伝子導入動物を安楽死させ、脳を摘出して神経化学的および神経病理学的検討を行う。簡単に言えば、右半分の脳を凍結し、ホモジナイズして凝集および非凝集ヒト・αシヌクレインの免疫反応性をウェスタン・ブロットにより測定する(Masliahら,Science(2000年)287:p1265)。左半分の脳は、4%パラホルムアルデヒドで固定し、ビブラトームで連続切片を作製して免疫細胞化学および超微細構造分析を行う。
【0116】
脳切片を、ヒト・αシヌクレインに対するウサギ・ポリクロナール抗体(1:500)で免疫染色する。4℃で一夜インキュベーションした後、切片を、ビオチニル化抗ウサギ二次抗体、次いでアビジンD−ホースラディシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)複合体(1:200、ABCエリート、ベクター社(Vector))とインキュベートする。反応を、0.001%H2O2を含む50mMのトリス−HCl(pH7.4)に溶かした0.1%の3,3−ジアミノベンジジン四塩酸塩(DAB)を用いて視覚化し、次いで、切片をエンテランを用いてスライド上に封入する。免疫反応性のレベルは、クウォンティメット570Cを用いるオプティカル・デンシトメトリーにより半定量的に評価した。また、この切片を画像解析により調べて、αシヌクレインの免疫反応性封入体の数を測定し、この信頼できるαシヌクレイン凝集の測定値を抗凝集効果の有用な指標として用いる(Masliahら,Science(2000年)287:p1265)。
【0117】
神経変性のパターンの解析は、シナプトフィジンおよび微小管関連蛋白2(MAP2)に対して二重免疫標識し、LSCMで視覚化したビブラトーム切片を用い、海馬、前頭皮質、側頭皮質および基底核のシナプスおよび樹状突起の密度を定量分析することによって達成する。神経変性の別の解析は、これまでに報告されている方法(Masliahら(2000年))により尾状核被殻および黒質(SN)のチロシン水酸化酵素(TH)の免疫反応性を測定することによって達成する。切片はLSCMによって画像化されることになり、個々の各画像は、線飛程内にピクセル強度を示すTH−免疫反応性終末が含まれるように、相互作用的に閾値によって処理される。スケールはピクセルをμm比で求めるように設定する。次いで、この情報を利用してTH−免疫反応性終末によって覆われる神経網の面積%を算出する。また、この同じ切片を用いてSN内のTHニューロンの数を計測する。
【0118】
(4.LBD患者におけるαシヌクレインの分析)
αシヌクレインのどの種が疾患組織内に濃縮され、もしくは疾患組織に特有であるかを明らかにするために、多系統萎縮症(MSA)および家族性パーキンソン病突然変異(A53T;Contursi家系)の患者からの脳サンプルについて検討した。MSAおよびContursi脳の粒状フラクションを、それぞれ、50mMトリス、140mM NaClおよび1%トリトン(MSAの場合)もしくは0.1%NP40(Contursiの場合)からなる溶液中で脳組織をホモジナイズすることによって調製した。年齢をマッチングした対照患者(「正常者」)についても疾患脳と全く同様に処理した。サンプルは、1−Dゲルを用い、次いで下記のようにELISAによって、さらに、2−Dゲルを用いて分析した。この分析は粒状フラクションの一部について行い、残りは遠心した。得られた上清についても分析し、ペレットは7M尿素で抽出した。この抽出による上清は分析した。得られたペレットは、さらに7M尿素/1%SDSで抽出し、その上清を分析した。全αシヌクレインを検出し、もしくは129番目の位置がリン酸化されたαシヌクレインを特異的に検出する抗体を用いたウェスタン・ブロットの結果を図11に示した。
【0119】
このシヌクレインの分画は、Contursi脳では対照脳と異なっていた。正常脳のシヌクレインの大部分は、トリス緩衝スクロース液を用いホモジナイズした後、可溶性であったが、Contursi脳のシヌクレインのほぼ全てで、可溶化するのに尿素およびSDSを必要とし、この患者では大量のリューイ体の存在が示唆された。Contursi患者のシヌクレインは、ser129リン酸化の量が対照患者と際立って異なっていた。対照患者ではごく少量のリン酸化α−シヌクレインが検出されたのに対して、Contursi患者では、ウェスタン・ブロットを用いた比較によって極めて大量のリン酸化シヌクレインが認められた。従って、Contursi脳のシヌクレインの不溶性は、シヌクレインのser129におけるリン酸化の大きな増大と関連付けられた。また、Contursi患者のα−シヌクレインは、C末端切断の分布が正常脳の場合と異なっていた。C末端切断型α−シヌクレインは、対照およびContursi粒状脳フラクションのいずれにおいても認められたが、検出可能な全ての切断断片は、Contursi患者では高度に不溶性(尿素/SDS抽出物)であったのに対し、対照患者の脳では可溶性(トリス緩衝スクロース液)であった。Contursi患者のLB濃縮フラクションにおけるC末端切断型シヌクレインの濃縮は、DLBD LBにおいてC末端切断型シヌクレインが濃縮されているとの本発明者らの知見と一致している。また、MSA脳もリン酸化(ser129)α−シヌクレインが濃縮していたことから、LBでもみられたC末端切断および多くのリン酸化その他の酸性修飾の存在が明らかとなった。また、DLBD患者の脳では、健常者に比し、高レベルのリン(ser129)が認められた。また、別の実験において、A53T突然変異を有するαシヌクレインで形質導入したPEAK細胞では、野性型ヒト・αシヌクレインで形質導入したPEAK細胞に比し、(約30%高い)高レベルのリン(ser129)が認められた。
【0120】
(5.遺伝子導入動物における行動上の分析)
マウスの自発運動について、以前に報告された方法(マスリアほか(Masliahら)(2000年))により、回転棒(サンディエゴ・インストルメンツ、サンディエゴ、CA)を用いて2日間検討する。1日目に、5つのトライアルについてマウスを訓練する。即ち、1つ目は10rpm、2つ目は20rpm、3〜5つ目は40rpmでのトライアルとする。2日目に、各40rpmの7回のトライアルについてマウスを試験する。マウスを円筒上に一匹ずつ置き、回転速度を240秒間かけて0から40rpmまで増加させる。マウスがその棒上に留まっている時間の長さ(落下潜時)を記録し、これを運動機能の指標として用いた。
【0121】
マウスの認識能力について、モリス水迷路(Morris Water maze)(Morris,Learn Motivat.12:p239−260(1981年))を用いて試験する。この方法では、水を満たし、水面直下に逃避台を沈めてある円形プールにマウスを入れる。この台に目で見ることのできる印を付けておくことによって、マウスが近位の目に見える手掛かりの方に泳いでいくことによってこの印を見つけることができるようにしてある。あるいは、この台の位置を分からせる型にはまった手掛かりを設けないこの試験のもっと複雑なタイプをマウスに施行する。このタイプでは、マウスは、遠くの目に見える手掛かりとの関連で台の位置を学習する必要がある。マウスが水中に留まっている時間の長さは認識能力に反比例する。
6.細胞株を用いた凝集αシヌクレイン断片の分析
上述のαシヌクレイン、マウス・αシヌクレインの切断断片を発現するpCR3.1−T発現ベクター(インビトロジェン社(Invitrogen)、カールズバッド、CA)を用いてGT1−7神経細胞(Hsueら,Am.J.Pathol.157:p401−410(2000年))を形質導入し、発現ベクター単独で形質導入した細胞と比較する。ベクター単独で形質導入した細胞は線維芽球様の外観を有するが、αシヌクレインで形質導入した細胞は丸みを帯び、光学顕微鏡および共焦点型走査顕微鏡で見ることのできる細胞表面の封入体を有する。形質導入したGT1−7細胞を用いることによってシヌクレイン封入体を除去する活性について薬剤をスクリーニングすることができる。
【0122】
以上の実施例は単に例示的なものであり、本発明を限定するものではない。従って、他の変形形態がありうることは当業者には容易に理解されよう。本発明の範囲は、これにより付与される全ての特許の請求範囲によってカバーされる。従って、本発明の範囲は、上記の説明を参照するのではなく、付与される特許請求の範囲をその均等物の全範囲と共に参照して決定されるべきである。本出願において引用した全ての刊行物、参考文献および特許文献は、個々の刊行物もしくは特許文献がそれぞれ、そのようにして個別に示されている場合と同程度に、あらゆる目的で全文引用により本明細書に組み込まれている。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】図1Aおよび図1Bは、SN115〜122内の抗原決定基に結合するポリクロナール抗体を用いた、遺伝子導入マウス(B)および対応対照(A)の皮質および海馬からの各種抽出物のウエスタン・ブロットを示す。
【図2】図2は、図1Aおよび図1Bと同じ抗体を用い、3ヶ月齢および12ヶ月齢マウスの皮質および海馬のトリトン−X100抽出物においてαシヌクレインの切断型の濃度を比較したウエスタン・ブロットを示す。
【図3】図3Aおよび図3Bは、12C1と称する別の抗体(43〜51番目および58〜65番目アミノ酸の抗原決定基に結合するモノクロナール抗体)を用いた、高齢対応対照(A)との比較における3ヶ月齢遺伝子導入マウス(B)の脳からのトリトン抽出物のウエスタン・ブロットを示す。
【図4】図4は、図3と同じ抗体を用いた、3ヶ月齢および12ヶ月齢遺伝子導入マウスの脳からのトリトン抽出物による別のウエスタン・ブロットを示す。
【図5】図5A、図5B、図5C、図5Dおよび図5Eは、遺伝子導入マウスの脳からの各種抽出物に対する4種の抗体を用いたウエスタン・ブロット(図5B、図5C、図5D、図5E)およびこれらの抗体の結合部位の抗原決定基マップ(図5A)を示す。
【図6】図6A、図6Bおよび図6Cは、3種の抗体(図6A、図6B、図6C)でプローブし、2−Dゲル電気泳動の対象とし、ウェスタン・ブロッティングにかけたリューイ体病患者の脳のトリトン抽出物を示す。
【図7】図7A、図7B、図7Cおよび図7Dは、別の特異性を有する4種の抗体(図7A、図7B、図7C、図7D)を用いた、リューイ体病患者脳のトリトン抽出物の別のブロットを示す。
【図8】図8は、ウェスタン・ブロッティングに用いる抗体が結合する抗原決定基に対する切断部位の概要を示す。
【図9】図9A、図9Bは、トリス可溶性蛋白質(A)とリューイ体からの抽出蛋白質(B)とを2D電気泳動およびウェスタン・ブロッティングにより比較したものである。
【図10】図10A、図10B、図10C、図10Dは、各種C末端抗体で再プローブ(reprobed)したリューイ体からの蛋白質の免疫ブロットを示す。
【図11】図11は、αシヌクレイン全体を認識する抗体もしくはリン−129αシヌクレインに特異的な抗体でプローブした健常者およびContursi患者の各種抽出物のウエスタン・ブロットを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リューイ体病(LBD)を処置するのに有用な薬理活性を有する薬剤をスクリーニングする方法であって
該薬剤をαシヌクレインの断片と接触させ、該断片はインタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損を特徴とするものとし
該αシヌクレインの断片の凝集の速度もしくは程度を測定し、該薬剤を用いない対照との比較による凝集の速度もしくは程度の減少によって該薬剤が薬理活性を有することが示されるものとすること
を含む、方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、該αシヌクレインの断片が、インタクトなαシヌクレインの118番目〜125番目の残基にC末端を有する、方法。
【請求項3】
請求項1の方法であって、該αシヌクレインの断片が、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目からなる群から選ばれる、方法。
【請求項4】
請求項1の方法であって、該αシヌクレインの断片が1番目からX番目であり、Xは130番目〜139番目であるものとする、方法。
【請求項5】
請求項1の方法であって、該αシヌクレインの断片が遺伝性LBDと関連する突然変異を有する、方法。
【請求項6】
請求項5の方法であって、該突然変異がA53T突然変異である、方法。
【請求項7】
請求項1の方法であって、さらに、LBDを有するヒトもしくはLBDの動物モデルにおいて試験を行って該薬剤が該LBDの症状を治療もしくは阻止するかどうかを明らかにすることを含む、方法。
【請求項8】
LBDの処置に有用な薬理活性を有する薬剤をスクリーニングする方法であって
αシヌクレインを発現し、該αシヌクレインを断片にプロセシングする細胞を薬剤と接触させ、該断片はインタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損を特徴とするものとし
該細胞内の該断片のレベルを該薬剤の非存在下の同じ細胞種内のベースラインレベルとの比較で測定し、該ベースラインに対し断片レベルが減少することにより該薬剤にLBDの処置に有用な薬理活性があることが示されるものとすること
を含む、方法。
【請求項9】
請求項8の方法であって、該αシヌクレインの断片が、インタクトなαシヌクレインの118番目〜125番目の残基にC末端を有する、方法。
【請求項10】
請求項8の方法であって、該αシヌクレインの断片が、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目からなる群から選ばれる、方法。
【請求項11】
請求項8の方法であって、該αシヌクレインの断片が1番目からX番目であり、Xは130番目〜139番目であるものとする、方法。
【請求項12】
請求項8の方法であって、該αシヌクレインの断片が遺伝性LBDと関連する突然変異を有する、方法。
【請求項13】
請求項12の方法であって、該突然変異がA53T突然変異である、方法。
【請求項14】
請求項8の方法であって、該細胞がヒト細胞である、方法。
【請求項15】
請求項14の方法であって、該細胞が神経細胞である、方法。
【請求項16】
請求項14の方法であって、該細胞がドーパミン作動性細胞である、方法。
【請求項17】
請求項14の方法であって、該細胞がPC12細胞もしくはSy5Y細胞である、方法。
【請求項18】
請求項8の方法であって、さらに、LBDを有するヒトもしくはLBDの動物モデルにおいて試験を行って該薬剤が該LBDの症状を治療もしくは阻止するかどうかを明らかにすることを含む、方法。
【請求項19】
請求項18の方法であって、該リューイ体病がパーキンソン病もしくは瀰漫性リューイ体病(DLBD)である、方法。
【請求項20】
LBDの処置に有用な薬理活性を有する薬剤をスクリーニングする方法であって
αシヌクレインの断片を発現する遺伝子導入動物を接触させ、該断片はインタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損を特徴とするものとし
該薬剤非存在下の同様な遺伝子導入動物の脳内の凝集型の該断片のベースラインレベルとの比較で該遺伝子導入動物の脳内の凝集型の該断片のレベルを測定し、該ベースラインに対する該凝集型断片レベルの減少によって該薬剤にLBDの処置に有用な薬理活性があることが示されるものとすること
を含む、方法。
【請求項21】
請求項20の方法であって、該αシヌクレインの断片が、インタクトなαシヌクレインの118番目〜125番目の残基にC末端を有する、方法。
【請求項22】
請求項20の方法であって、該αシヌクレインの断片が、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目からなる群から選ばれる、方法。
【請求項23】
請求項20の方法であって、該αシヌクレインの断片が1番目からX番目であり、Xは119番目〜139番目であるものとする、方法。
【請求項24】
請求項20の方法であって、該αシヌクレインの断片が遺伝性LBDと関連する突然変異を有する、方法。
【請求項25】
請求項20の方法であって、該突然変異がA53T突然変異である、方法。
【請求項26】
請求項20の方法であって、該遺伝子導入動物がマウスである、方法。
【請求項27】
請求項20の方法であって、該遺伝子導入動物がショウジョウバエである、方法。
【請求項28】
請求項20の方法であって、さらに、LBDを有するヒトもしくはLBDの動物モデルにおいて試験を行って該薬剤が該LBDの症状を治療もしくは阻止するかどうかを明らかにすることを含む、方法。
【請求項29】
請求項20の方法であって、該LBDがパーキンソン病もしくはDLBDである、方法。
【請求項30】
LBDの処置に有用な薬理活性を有する薬剤をスクリーニングする方法であって
αシヌクレインを発現する導入遺伝子を有し、該αシヌクレインを断片にプロセシングする遺伝子導入動物を薬剤と接触させ、該断片はインタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損を特徴とするものとし
該薬剤非存在下のベースラインレベルとの比較で神経細胞内の該断片のレベルを測定し、このベースラインに対する上記断片のレベルの減少によってこの薬剤にLBDの処置に有用な薬理活性があることが示されるものとすること
を含む、方法。
【請求項31】
請求項30の方法であって、該αシヌクレインの断片が、インタクトなαシヌクレインの118番目〜125番目の残基にC末端を有する、方法。
【請求項32】
請求項30の方法であって、該αシヌクレインの断片が、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目からなる群から選ばれる、方法。
【請求項33】
請求項30の方法であって、該αシヌクレインの断片が1番目からX番目であり、Xは130番目〜139番目であるものとする、方法。
【請求項34】
請求項30の方法であって、該αシヌクレインの断片が遺伝性LBDと関連する突然変異を有する、方法。
【請求項35】
請求項33の方法であって、該突然変異がA53T突然変異である、方法。
【請求項36】
請求項33の方法であって、該遺伝子導入動物がマウスである、方法。
【請求項37】
請求項33の方法であって、該遺伝子導入動物がショウジョウバエである、方法。
【請求項38】
請求項33の方法であって、さらに、LBDを有するヒトもしくはLBDの動物モデルにおいて試験を行って該薬剤が該LBDの症状を治療もしくは阻止するかどうかを明らかにすることを含む、方法。
【請求項39】
請求項38の方法であって、該LBDがパーキンソン病もしくはDLBDである、方法。
【請求項40】
αシヌクレインの断片をコードする核酸セグメントに動作可能なように結合したプロモータを含む導入遺伝子を含むゲノムを有する遺伝子導入動物であって、該断片はインタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損を特徴とするものとし
該遺伝子導入動物に該断片を発現させることにより該動物がLBDの少なくとも1つの特徴を発症しやすくなることを特徴とする
遺伝子導入動物。
【請求項41】
請求項40の遺伝子導入動物であって、該αシヌクレインの断片が、1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目からなる群から選ばれる遺伝子導入動物。
【請求項42】
請求項40の遺伝子導入動物であって、該αシヌクレインの断片が1番目からX番目であり、Xは130番目〜139番目であるものとする遺伝子導入動物。
【請求項43】
請求項40の遺伝子導入動物であって、該プロモータがPDGFプロモータである遺伝子導入動物。
【請求項44】
請求項40の遺伝子導入動物であって、該少なくとも1つの特徴が運動機能の障害である遺伝子導入動物。
【請求項45】
請求項40の遺伝子導入動物であって、該少なくとも1つの特徴が認識機能の障害である遺伝子導入動物。
【請求項46】
マウスである請求項40の遺伝子導入動物。
【請求項47】
ショウジョウバエである請求項40の遺伝子導入動物。
【請求項48】
患者においてLBDの存在もしくはLBDに対する罹病性を検出する方法であって
脳脊髄液中のαシヌクレインの断片を検出し、該断片はインタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損を特徴とするものとし
健常者のベースラインレベルよりもレベルが高いことにより、LBDの存在もしくはLBDに対する罹病性が示されるものとすること
を含む、方法。
【請求項49】
αシヌクレインの断片に特異的に結合する抗体であって、該断片がインタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損を特徴とするが、完全長のシヌクレインには特異的な結合を示さない、抗体。
【請求項50】
請求項49の抗体であって、該αシヌクレインの断片が、1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目からなる群から選ばれる、抗体。
【請求項51】
請求項49の抗体であって、該αシヌクレインの断片が1番目からX番目であり、Xは130番目〜139番目であるものとする、抗体。
【請求項52】
ヒト抗体である請求項49の抗体。
【請求項53】
ヒト化抗体である請求項49の抗体。
【請求項54】
モノクロナール抗体である請求項49の抗体。
【請求項55】
ヒト・アイソタイプIgG1を有する請求項49の抗体。
【請求項56】
LBDの存在もしくはLBDに対する罹病性を診断する方法であって
119番目〜125番目の残基に遊離C末端を有するαシヌクレインの断片と特異的に結合するが、完全長のシヌクレインには特異的な結合を示さない抗体を患者に投与し
該患者における該抗体の結合レベルを測定し、健常者のベースラインレベルに対する結合レベルの上昇によって該LBDの存在もしくは該LBDに対する罹病性が示されるものとすること
を含む、方法。
【請求項57】
LBDに罹患しているか罹患するリスクのある患者に対してαシヌクレイン断片の有効な療法を施行し、該断片がインタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損
ならびにインタクトなαシヌクレインのC末端からの少なくとも10個の連続するアミノ酸の欠損を特徴とし、これにより該LBDを治療もしくは予防すること
を含むLBDの治療もしくは予防方法。
【請求項58】
請求項57の方法であって、該αシヌクレインの断片が、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目からなる群から選ばれる、方法。
【請求項59】
請求項57の方法であって、該αシヌクレインの断片が1番目からX番目であり、Xは130番目〜139番目であるものとする、方法。
【請求項60】
請求項57の方法であって、さらに、該断片に対する抗体を含む免疫反応を増強するアジュバントを投与することを含む、方法。
【請求項61】
請求項57の方法であって、該断片は融合蛋白質を形成する担体に結合させるものとし、該担体は該断片に対する抗体を含む免疫反応を増強するものとする、方法。
【請求項62】
LBDに罹患しているか罹患するリスクのある患者に対して、αシヌクレイン断片に特異的に結合し、該断片はαシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、1番目から125番目、および1番目からX番目からなる群から選ばれるものとし、ここで、Xは、130番目〜139番目であるものとし、インタクトなαシヌクレインには結合しない抗体の有効な療法を施行し、これにより上記疾患を予防もしくは治療することを含むLBDの治療もしくは予防方法。
【請求項63】
インタクトなαシヌクレインを切断して断片を生じさせるプロテアーゼをスクリーニングする方法であって、該断片はインタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損を特徴とするものとし
該プロテアーゼの阻害剤を特定すること
該阻害剤を該プロテアーゼを含む細胞抽出物もしくは組織抽出物と接触させることにより該プロテアーゼを該阻害剤に結合させること、ならびに
該阻害剤から該プロテアーゼを遊離させること
を含む、方法。
【請求項64】
請求項63の方法であって、該阻害剤はインタクトなαシヌクレインの115番目〜130番目の位置の少なくとも5残基からなる連続したセグメントを含むαシヌクレインのペプチドであるものとする、方法。
【請求項65】
請求項64の方法であって、該ペプチドは118番目〜122番目の位置の少なくとも5残基からなる連続したセグメントを含むものとする、方法。
【請求項66】
請求項65の方法であって、該残基の少なくとも1つが遷移状態アナログである、方法。
【請求項67】
患者においてリューイ体病の存在もしくはリューイ体病に対する罹病性を検出する方法であって
該患者の脳からの試料においてαシヌクレインの125番目の位置がリン酸化もしくはニトロ化されたαシヌクレインのレベルを測定し、健常者集団の平均レベルに対するレベルの上昇によって該患者がリューイ体病を有するかこれに罹患性であることが示されるものとすること
を含む、方法。
【請求項1】
リューイ体病(LBD)を処置するのに有用な薬理活性を有する薬剤をスクリーニングする方法であって
該薬剤をαシヌクレインの断片と接触させ、該断片はインタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損を特徴とするものとし
該αシヌクレインの断片の凝集の速度もしくは程度を測定し、該薬剤を用いない対照との比較による凝集の速度もしくは程度の減少によって該薬剤が薬理活性を有することが示されるものとすること
を含む、方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、該αシヌクレインの断片が、インタクトなαシヌクレインの118番目〜125番目の残基にC末端を有する、方法。
【請求項3】
請求項1の方法であって、該αシヌクレインの断片が、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目からなる群から選ばれる、方法。
【請求項4】
請求項1の方法であって、該αシヌクレインの断片が1番目からX番目であり、Xは130番目〜139番目であるものとする、方法。
【請求項5】
請求項1の方法であって、該αシヌクレインの断片が遺伝性LBDと関連する突然変異を有する、方法。
【請求項6】
請求項5の方法であって、該突然変異がA53T突然変異である、方法。
【請求項7】
請求項1の方法であって、さらに、LBDを有するヒトもしくはLBDの動物モデルにおいて試験を行って該薬剤が該LBDの症状を治療もしくは阻止するかどうかを明らかにすることを含む、方法。
【請求項8】
LBDの処置に有用な薬理活性を有する薬剤をスクリーニングする方法であって
αシヌクレインを発現し、該αシヌクレインを断片にプロセシングする細胞を薬剤と接触させ、該断片はインタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損を特徴とするものとし
該細胞内の該断片のレベルを該薬剤の非存在下の同じ細胞種内のベースラインレベルとの比較で測定し、該ベースラインに対し断片レベルが減少することにより該薬剤にLBDの処置に有用な薬理活性があることが示されるものとすること
を含む、方法。
【請求項9】
請求項8の方法であって、該αシヌクレインの断片が、インタクトなαシヌクレインの118番目〜125番目の残基にC末端を有する、方法。
【請求項10】
請求項8の方法であって、該αシヌクレインの断片が、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目からなる群から選ばれる、方法。
【請求項11】
請求項8の方法であって、該αシヌクレインの断片が1番目からX番目であり、Xは130番目〜139番目であるものとする、方法。
【請求項12】
請求項8の方法であって、該αシヌクレインの断片が遺伝性LBDと関連する突然変異を有する、方法。
【請求項13】
請求項12の方法であって、該突然変異がA53T突然変異である、方法。
【請求項14】
請求項8の方法であって、該細胞がヒト細胞である、方法。
【請求項15】
請求項14の方法であって、該細胞が神経細胞である、方法。
【請求項16】
請求項14の方法であって、該細胞がドーパミン作動性細胞である、方法。
【請求項17】
請求項14の方法であって、該細胞がPC12細胞もしくはSy5Y細胞である、方法。
【請求項18】
請求項8の方法であって、さらに、LBDを有するヒトもしくはLBDの動物モデルにおいて試験を行って該薬剤が該LBDの症状を治療もしくは阻止するかどうかを明らかにすることを含む、方法。
【請求項19】
請求項18の方法であって、該リューイ体病がパーキンソン病もしくは瀰漫性リューイ体病(DLBD)である、方法。
【請求項20】
LBDの処置に有用な薬理活性を有する薬剤をスクリーニングする方法であって
αシヌクレインの断片を発現する遺伝子導入動物を接触させ、該断片はインタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損を特徴とするものとし
該薬剤非存在下の同様な遺伝子導入動物の脳内の凝集型の該断片のベースラインレベルとの比較で該遺伝子導入動物の脳内の凝集型の該断片のレベルを測定し、該ベースラインに対する該凝集型断片レベルの減少によって該薬剤にLBDの処置に有用な薬理活性があることが示されるものとすること
を含む、方法。
【請求項21】
請求項20の方法であって、該αシヌクレインの断片が、インタクトなαシヌクレインの118番目〜125番目の残基にC末端を有する、方法。
【請求項22】
請求項20の方法であって、該αシヌクレインの断片が、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目からなる群から選ばれる、方法。
【請求項23】
請求項20の方法であって、該αシヌクレインの断片が1番目からX番目であり、Xは119番目〜139番目であるものとする、方法。
【請求項24】
請求項20の方法であって、該αシヌクレインの断片が遺伝性LBDと関連する突然変異を有する、方法。
【請求項25】
請求項20の方法であって、該突然変異がA53T突然変異である、方法。
【請求項26】
請求項20の方法であって、該遺伝子導入動物がマウスである、方法。
【請求項27】
請求項20の方法であって、該遺伝子導入動物がショウジョウバエである、方法。
【請求項28】
請求項20の方法であって、さらに、LBDを有するヒトもしくはLBDの動物モデルにおいて試験を行って該薬剤が該LBDの症状を治療もしくは阻止するかどうかを明らかにすることを含む、方法。
【請求項29】
請求項20の方法であって、該LBDがパーキンソン病もしくはDLBDである、方法。
【請求項30】
LBDの処置に有用な薬理活性を有する薬剤をスクリーニングする方法であって
αシヌクレインを発現する導入遺伝子を有し、該αシヌクレインを断片にプロセシングする遺伝子導入動物を薬剤と接触させ、該断片はインタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損を特徴とするものとし
該薬剤非存在下のベースラインレベルとの比較で神経細胞内の該断片のレベルを測定し、このベースラインに対する上記断片のレベルの減少によってこの薬剤にLBDの処置に有用な薬理活性があることが示されるものとすること
を含む、方法。
【請求項31】
請求項30の方法であって、該αシヌクレインの断片が、インタクトなαシヌクレインの118番目〜125番目の残基にC末端を有する、方法。
【請求項32】
請求項30の方法であって、該αシヌクレインの断片が、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目からなる群から選ばれる、方法。
【請求項33】
請求項30の方法であって、該αシヌクレインの断片が1番目からX番目であり、Xは130番目〜139番目であるものとする、方法。
【請求項34】
請求項30の方法であって、該αシヌクレインの断片が遺伝性LBDと関連する突然変異を有する、方法。
【請求項35】
請求項33の方法であって、該突然変異がA53T突然変異である、方法。
【請求項36】
請求項33の方法であって、該遺伝子導入動物がマウスである、方法。
【請求項37】
請求項33の方法であって、該遺伝子導入動物がショウジョウバエである、方法。
【請求項38】
請求項33の方法であって、さらに、LBDを有するヒトもしくはLBDの動物モデルにおいて試験を行って該薬剤が該LBDの症状を治療もしくは阻止するかどうかを明らかにすることを含む、方法。
【請求項39】
請求項38の方法であって、該LBDがパーキンソン病もしくはDLBDである、方法。
【請求項40】
αシヌクレインの断片をコードする核酸セグメントに動作可能なように結合したプロモータを含む導入遺伝子を含むゲノムを有する遺伝子導入動物であって、該断片はインタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損を特徴とするものとし
該遺伝子導入動物に該断片を発現させることにより該動物がLBDの少なくとも1つの特徴を発症しやすくなることを特徴とする
遺伝子導入動物。
【請求項41】
請求項40の遺伝子導入動物であって、該αシヌクレインの断片が、1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目からなる群から選ばれる遺伝子導入動物。
【請求項42】
請求項40の遺伝子導入動物であって、該αシヌクレインの断片が1番目からX番目であり、Xは130番目〜139番目であるものとする遺伝子導入動物。
【請求項43】
請求項40の遺伝子導入動物であって、該プロモータがPDGFプロモータである遺伝子導入動物。
【請求項44】
請求項40の遺伝子導入動物であって、該少なくとも1つの特徴が運動機能の障害である遺伝子導入動物。
【請求項45】
請求項40の遺伝子導入動物であって、該少なくとも1つの特徴が認識機能の障害である遺伝子導入動物。
【請求項46】
マウスである請求項40の遺伝子導入動物。
【請求項47】
ショウジョウバエである請求項40の遺伝子導入動物。
【請求項48】
患者においてLBDの存在もしくはLBDに対する罹病性を検出する方法であって
脳脊髄液中のαシヌクレインの断片を検出し、該断片はインタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損を特徴とするものとし
健常者のベースラインレベルよりもレベルが高いことにより、LBDの存在もしくはLBDに対する罹病性が示されるものとすること
を含む、方法。
【請求項49】
αシヌクレインの断片に特異的に結合する抗体であって、該断片がインタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損を特徴とするが、完全長のシヌクレインには特異的な結合を示さない、抗体。
【請求項50】
請求項49の抗体であって、該αシヌクレインの断片が、1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目からなる群から選ばれる、抗体。
【請求項51】
請求項49の抗体であって、該αシヌクレインの断片が1番目からX番目であり、Xは130番目〜139番目であるものとする、抗体。
【請求項52】
ヒト抗体である請求項49の抗体。
【請求項53】
ヒト化抗体である請求項49の抗体。
【請求項54】
モノクロナール抗体である請求項49の抗体。
【請求項55】
ヒト・アイソタイプIgG1を有する請求項49の抗体。
【請求項56】
LBDの存在もしくはLBDに対する罹病性を診断する方法であって
119番目〜125番目の残基に遊離C末端を有するαシヌクレインの断片と特異的に結合するが、完全長のシヌクレインには特異的な結合を示さない抗体を患者に投与し
該患者における該抗体の結合レベルを測定し、健常者のベースラインレベルに対する結合レベルの上昇によって該LBDの存在もしくは該LBDに対する罹病性が示されるものとすること
を含む、方法。
【請求項57】
LBDに罹患しているか罹患するリスクのある患者に対してαシヌクレイン断片の有効な療法を施行し、該断片がインタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損
ならびにインタクトなαシヌクレインのC末端からの少なくとも10個の連続するアミノ酸の欠損を特徴とし、これにより該LBDを治療もしくは予防すること
を含むLBDの治療もしくは予防方法。
【請求項58】
請求項57の方法であって、該αシヌクレインの断片が、αシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、および1番目から125番目からなる群から選ばれる、方法。
【請求項59】
請求項57の方法であって、該αシヌクレインの断片が1番目からX番目であり、Xは130番目〜139番目であるものとする、方法。
【請求項60】
請求項57の方法であって、さらに、該断片に対する抗体を含む免疫反応を増強するアジュバントを投与することを含む、方法。
【請求項61】
請求項57の方法であって、該断片は融合蛋白質を形成する担体に結合させるものとし、該担体は該断片に対する抗体を含む免疫反応を増強するものとする、方法。
【請求項62】
LBDに罹患しているか罹患するリスクのある患者に対して、αシヌクレイン断片に特異的に結合し、該断片はαシヌクレインの1番目から119番目、1番目から120番目、1番目から121番目、1番目から122番目、1番目から123番目、1番目から124番目、1番目から125番目、および1番目からX番目からなる群から選ばれるものとし、ここで、Xは、130番目〜139番目であるものとし、インタクトなαシヌクレインには結合しない抗体の有効な療法を施行し、これにより上記疾患を予防もしくは治療することを含むLBDの治療もしくは予防方法。
【請求項63】
インタクトなαシヌクレインを切断して断片を生じさせるプロテアーゼをスクリーニングする方法であって、該断片はインタクトなαシヌクレインの少なくとも100個の連続するアミノ酸の存在およびインタクトなαシヌクレインのC末端の1番目から23番目の連続するアミノ酸の欠損を特徴とするものとし
該プロテアーゼの阻害剤を特定すること
該阻害剤を該プロテアーゼを含む細胞抽出物もしくは組織抽出物と接触させることにより該プロテアーゼを該阻害剤に結合させること、ならびに
該阻害剤から該プロテアーゼを遊離させること
を含む、方法。
【請求項64】
請求項63の方法であって、該阻害剤はインタクトなαシヌクレインの115番目〜130番目の位置の少なくとも5残基からなる連続したセグメントを含むαシヌクレインのペプチドであるものとする、方法。
【請求項65】
請求項64の方法であって、該ペプチドは118番目〜122番目の位置の少なくとも5残基からなる連続したセグメントを含むものとする、方法。
【請求項66】
請求項65の方法であって、該残基の少なくとも1つが遷移状態アナログである、方法。
【請求項67】
患者においてリューイ体病の存在もしくはリューイ体病に対する罹病性を検出する方法であって
該患者の脳からの試料においてαシヌクレインの125番目の位置がリン酸化もしくはニトロ化されたαシヌクレインのレベルを測定し、健常者集団の平均レベルに対するレベルの上昇によって該患者がリューイ体病を有するかこれに罹患性であることが示されるものとすること
を含む、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2007−525464(P2007−525464A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−514909(P2006−514909)
【出願日】平成16年5月19日(2004.5.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/015836
【国際公開番号】WO2005/013889
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(399013971)エラン ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド (75)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年5月19日(2004.5.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/015836
【国際公開番号】WO2005/013889
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(399013971)エラン ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド (75)
【Fターム(参考)】
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