説明

レーザの制御システムおよびレーザ動作の制御方法

【課題】使用時におけるレーザ光線の誤った照射によりユーザの手が負傷するおそれを減少させる。
【解決手段】レーザ光線(18)を生成するレーザ(16)用の制御システムは、ユーザの手(26)の位置を感知するセンサ(46)と、感知されたユーザの手(26)の位置に基づいてレーザ(16)の動作を制御する制御装置(20)と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ用の安全制御装置に関し、特に、ユーザのレーザ光線への接近に基づいてレーザを非作動状態とする安全制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザは、レーザ溶接、レーザはんだ付け、およびレーザ切断などの種々の産業用途で使用されるレーザ光線を生成する。レーザ光線の特性により、ユーザを肉体的損傷から保護するために数多くの安全対策が実施されてきた。米国規格協会(ANSI)は、このような安全上の問題に対して、種々のレーザを安全に使用するためのガイドラインや注意を提供するANSI Z136.1−2000を定めている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、レーザ光線によるワークの加工中にユーザがワークを操作するときなどのように、ユーザがレーザを用いて活発な作業を行うときにレーザの安全性に関する一般的な問題が生じる。例えば、ユーザは、レーザ光線によるワークの溶接、切断または他の加工中にワークを手で持って移動させる場合がある。このため、レーザ加工中にレーザ光線が誤って照射されることにより、ユーザが手に傷や火傷を負うおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、レーザ光線を生成するレーザ用の制御システムおよび制御方法である。制御システムは、ユーザの手の位置を感知するセンサと、感知されたユーザの手の位置に基づいてレーザの動作を制御する制御装置と、を含む。この制御システムは、使用時におけるレーザ光線の誤った照射によりユーザの手が負傷するおそれを減少させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
図1,図2は、レーザ照射によりワークを加工するのに適した産業用レーザ装置であるレーザ装置10の側面図である。レーザ装置10は、基部12、ハウジング14、レーザ16、レーザ光線18、制御装置20、ペダル式作動装置22、および安全装置24を含む。図1は、レーザ光線18から離れた位置に配置されたユーザの手26を示しており、このレーザ光線18は、1つまたは複数のワーク(図示省略)を加工するために作動レベル強度でレーザ16により生成されている。図2は、レーザ光線18の(図1,図2において仮想線28aによって示された)公称危険領域28内に配置されたユーザの手を示している。以下で説明するように、本発明の安全装置24は、ユーザの手26がレーザ光線18の公称危険領域28内に移動したときに、レーザ光線18の強度を作動レベルから待機レベルに低下させるようにレーザ16を制御する。これにより、レーザ光線18の照射による負傷のおそれが減少する。
【0006】
図1に示すように、基部12は、レーザ16で作業するための支持基部であり、表面30を含む。ハウジング14は、基部12に取外し可能に固定されており、ハウジング14の外側に位置するユーザをレーザ光線18から保護する。ハウジング14は、ユーザがハウジング14内に手26を伸ばすことを可能にする開口部32を含む。ハウジング14は、シートメタル、安全ガラス、およびこれらの材料および他の材料の組合せなどの種々の保護材料から製造することができる。ハウジング14は、ユーザがハウジング14内に手26を入れることを可能にするポートホールも含みうる。レーザ加工の前にユーザが表面30上にワークを配置することができるように、ハウジング14を基部12に対して手動または機械的に昇降させてもよい。
【0007】
レーザ16は、溶接、はんだ付け、切断、機械加工、および表面処理などの技術によって金属部品を加工可能な産業用レーザである。レーザ16は、レーザ光線18を生成するようにハウジング14内に配置されている。レーザ16は、完全にハウジング14内に位置するように示されているが、レーザ光線18がハウジング14内で生成される限り、レーザ16を部分的にハウジング14の外側に配置してもよい。
【0008】
レーザ光線18は、金属部品が加工されるレーザ光線18の部分である焦点18aで出力密度が最大である。レーザ光線18は、さらにレーザ16と焦点18aとの間に位置する収束部18bと、焦点18aと表面30との間に位置する発散部18cと、を有する。収束部18bでは、レーザ光線18の出力密度が焦点18aに向かって収束する。これに対して、発散部18cでは、レーザ光線18の出力密度が焦点18aから発散する。
【0009】
表面30に対してレーザ16を垂直方向で昇降させて、レーザ光線18の焦点18aの位置を垂直方向で調整することができる。これは、異なる高さで金属部品を加工するのに有用である。焦点18aは、レーザ16の光学的な設定に基づいて、レーザ16に対して固定された位置でオフセットされている。よって、レーザ16の垂直移動は、これと等しい焦点18aの移動を生じさせる。これに対応して、収束部18bの三次元寸法(volumetric dimension)は、レーザ16の垂直移動によって実質的に変動しない。しかし、発散部18cの三次元寸法は、レーザ16と表面30との間の距離に基づいて変動する。
【0010】
収束部18bの適切な三次元寸法の例は、レーザ16と焦点18aとの間の高さが約5〜15cmでかつ頂部における底面の直径が約5cmである逆円錐形を含む。発散部18cの適切な三次元寸法の例は、収束部18bに対応するベクトルを有し、かつ焦点18aと表面30との間の高さが約7〜40cmである円錐形を含む。
【0011】
制御装置20は、プログラム可能論理制御装置(PLC)であり、ペダル式作動装置22および安全装置24からの信号を含む受信信号に基づいてレーザ16の動作を制御する。制御装置20は、種々の方法でレーザ16の動作を制御しうる。例えば、制御装置20は、作動レベルの強度を有するレーザ光線18をレーザ16に生成させることができる。作動レベルは、レーザ光線18によるワークの(溶接、切断、および表面処理などの)レーザ加工を可能にする。加えて、制御装置20は、レーザ16のレーザ光線18の強度を作動レベルから低強度またはゼロ強度レベルである待機レベルに低下させることができる。レーザ光線の適切な待機レベルの例には、ANSI Z136.1−2000に説明された照射制限を実質的に満たす強度が含まれる。レーザ光線18の強度は、レーザ16への電力の制限、レーザ16への電力の停止、レーザ光線18の焦点をはずすこと、レーザ光線18の焦点の変更、(例えば、レーザ光線18を水冷のビームダンプに導くことによる)光線のダンピング、およびこれらの組合せによって待機レベルに低下させることができる。
【0012】
ユーザは、レーザ16を作動させるペダル操作式の作動スイッチであるペダル式作動装置22によってレーザ16を作動させる。ペダル式作動装置22は、基部12に隣接して配置され、ライン34を介して制御装置20と通信する。ペダル式作動装置22は、ユーザがペダル式作動装置を押し下げると第1の状態から第2の状態に切り替わり、ペダル式作動装置22の状態は制御装置20によるレーザ16の制御状態を表す。(押し下げられていない)第1の状態は、レーザ16を非作動状態にするか、待機レベルのレーザ光線18をレーザ16に生成させるように制御装置20に指示を与える。(押し下げられた)第2の状態は、作動レベルのレーザ光線18をレーザ16に生成させるように制御装置20に指示を与える。これにより、レーザ加工のための作動レベルでレーザ16のレーザ光線18を生成させるためには、ユーザによりペダル式作動装置22が手動で押し下げられることが必要となる。
【0013】
レーザ光線18の公称危険領域28は、レーザ光線18の周囲に位置する砂時計形の範囲(volume)であり、レーザ光線18の肌への照射の危険性が最も大きい領域を示す。従って、作動レベルのレーザ光線18の直接的な照射のおそれを減少させるためには、レーザ光線18が生成されている間はユーザの手26が公称危険領域28外にある必要がある。
【0014】
公称危険領域28は、垂直方向で焦点18aを中心として設けられ、収束部18bおよび発散部18cの周りに延びている。公称危険領域28が焦点18aの上下で延びる垂直距離は、レーザ光線18の強度によって変動する。図1に示す一実施例では、公称危険領域28は、焦点18aの上下においてある垂直距離まで延在し、この垂直距離を超えるとレーザ光線18の強度の危険性レベルは低くなる。公称危険領域28の焦点18aからの適切な垂直距離の例は、焦点18aの約8cm上と焦点18aの約8cm下を含む。他の実施例では、公称危険領域28はレーザ16と表面30との間の全垂直距離にわたって延びてもよい。これは、レーザ光線18の全範囲を含む。
【0015】
さらに図1に示すように、公称危険領域28は、収束部18bおよび発散部18cに比べて焦点18aからより大きな径方向距離だけ離れて延びている。レーザ光線18による負傷のおそれは、レーザ光線18の強度が最も高い焦点18aで最も大きいので、これは望ましいことである。焦点18aと公称危険領域28との適切な径方向距離の例は、約0.5〜2.5cmである。収束部18bおよび発散部18cと公称危険領域28との間の適切な径方向距離の例は、径方向距離がない状態と、ほぼ焦点18aと公称危険領域28との間の径方向距離と、の間の範囲である。本明細書では、公称危険領域28を砂時計形の範囲として説明したが、公称危険領域28はレーザ光線18が照射されるおそれが最も高い領域を示していることを理解されたい。よって、公称危険領域28は、レーザ16からレーザ光線18がどのように生成されるかに基づいて異なる形状を有しうる。
【0016】
公称危険領域28が占めないハウジング14内の残りの範囲は、レーザ光線18の第2の危険領域36と呼ばれ、目に対する危険領域である。レーザ加工中には、レーザ光線18の一部がワークから種々の方向に反射または散乱するおそれがある。ハウジング14は、レーザ光線18の反射および散乱した部分がハウジング14の外側のユーザ位置、特にユーザの目に直接達するのを防ぐ。しかし、ハウジング14は、ハウジング14内に配置されたユーザの手26を直接保護することはない。
【0017】
本発明の安全装置24は、ユーザがハウジング14内でワークを操作しているときなどにハウジング14内に配置されたユーザの手26を保護する。安全装置24は、手袋38、つなぎ綱40,プーリ42、磁石44、センサ46、およびライン48を含む。手袋38は、手26を収容可能な保護バリアであり、開口部32の周囲でハウジング14に固定される。手袋38は、矢印52の方向でハウジング14に向かって付勢された蛇腹状すなわちベローズ状のリブ付部分50を含む。よって、手袋38は、図1に示す引込位置に向かって付勢されている。
【0018】
手袋38の素材は、第2の危険領域36内のレーザ光線18の反射および散乱した部分を吸収する。これにより、手26がハウジング14内に配置されたときにレーザが照射されるおそれが減少する。手袋38用の適切な素材の例は、ニトリル基化合物、ネオプレン基化合物、ブタジエンスチレン基化合物およびこれらの組合せを含む標準的なゴム手袋用化合物を含む。他の実施例では、手袋38の代わりに照射に対する保護を提供する他の保護バリアを用いてもよい。
【0019】
安全装置24は、手袋38による照射に対する保護に加えて、レーザ光線18の公称危険領域28内に手26があるときにレーザ光線18の強度を待機レベルに低下させることによってユーザを保護する。これは、磁石44とセンサ46によって達成され、センサ46は、磁石44とセンサ46との間の距離に基づいてハウジング14内の手26の位置を特定する。磁石44は、磁界を発生させる信号生成要素であり、つなぎ綱によって手袋38に連結される。つなぎ綱40は、手袋38に連結された第1の端部と、磁石44に連結された第2の端部40bと、を含む。他の実施例では、つなぎ綱は、手袋38と一体形成可能である。手袋38が使用されないまた他の実施例では、つなぎ綱40の第1の端部40aは(例えば、手首で)ユーザの手26に取付可能である。プーリ42は、基部12およびハウジング14からオフセットされた固定位置で回転可能に固定される。つなぎ綱40は、第1の端部40aの横方向運動が第2の端部40bの垂直運動に変換されるようにプーリ上に延びている。
【0020】
センサ46は、磁石44の磁界を感知可能な磁気作動スイッチである。センサ46用の適切な装置の例には、ホールセンサおよびリードスイッチが含まれる。センサ46は、基部12に固定されてライン48を介して制御装置20と通信する。センサ46は、磁石44の磁界を感知するか否かに基づいて第1の状態と第2の状態との間で切り替わる。センサ46は、磁界が感知されないときには第1の状態であり、磁界が感知されると第2の状態に切り替わる。
【0021】
センサ46の状態は、制御装置20によるレーザ16の制御を指示する。センサ46の第1の状態は、レーザ16を特定の方法で制御する指示を制御装置20に与えない。よって、ユーザがペダル式作動装置22を押し下げると、レーザ16は作動レベルのレーザ光線18を生成する。しかし、センサ46の第2の状態は、他の受信信号とは関係なく、レーザ光線18の強度を作動レベルから待機レベルまで低下させるよう制御装置20に指示を与える。よって、センサ46の第2の状態に関連する信号は、ペダル式作動装置からの信号に優先し、ペダル式作動装置22が第2の状態にあるときにレーザ光線18の強度を待機レベルに低下させる。
【0022】
センサ46が磁石44の磁界を感知するか否かは、一般に磁石44とセンサ46との間の距離に基づいており、この距離はユーザの手26の位置に対応している。例えば、手26が図1に示す引込位置にあるときは、センサ46が磁石44の磁界を感知するには磁石44がセンサ46から離れすぎている。このため、レーザ16は、レーザ加工のために作動レベルのレーザ光線18を生成できる。しかし、公称危険領域28に入るように手26が引込位置から充分に遠くまで移動すると、センサ46が磁石44の磁界を感知する位置まで磁石44がセンサ46に充分に近づく。これにより、レーザ光線16の強度が待機レベルまで低下し、ユーザの手26をレーザ光線18の照射から保護する。
【0023】
本発明の他の実施例では、磁石44とセンサ46の代わりに、リニアエンコーダ、信号強度を最小信号閾値と比較する信号閾値センサ、および当該技術で周知の他の構成要素などの他の形態の信号生成要素および対応するセンサを用いることができる。さらに、磁石44の横方向運動の範囲を制限するために磁石44をガイドレールに移動可能に連結してもよい。また、手袋38は、ハウジング14に連結された(チェーンやケーブルなどの)タイバックによって物理的に拘束することができる。ハウジング14と手袋38との間のタイバックの長さは、手袋38が公称危険領域28に物理的に入るのを防止するように選択可能である。
【0024】
図2は、ユーザの手26が公称危険領域28内に延びる延長位置で手袋38を示している。この状況は、ユーザが公称危険領域28内でワークを操作しているときに起こりうる。ユーザは、リブ付部分50の付勢力よりも大きい反対方向の力を加えることで引込位置から手袋38を延長する。手袋38は、引込位置から引込位置と延長位置とを含むこれらの間の種々の位置に移動可能である。また、ユーザは、ハウジング14内で軸方向回転運動を含むあらゆる方向に手袋38を移動させることができる。よって、手袋38は、ハウジング14内で高いレベルの自由運動を提供し、ユーザがワークを把持および操作することを可能にする。これは、ワークの操作に高レベルの敏捷性が要求される溶接や切断で特に有利である。
【0025】
本発明の一実施例では、磁石44とセンサ46とは、ユーザの手26が公称危険領域28に入るとセンサ46が磁石44の磁界を感知して状態を切り換えるように配置される。引込位置から公称危険領域28に向かってユーザが手26を伸ばすと、磁石44が垂直に上昇する。これにより、磁石44はセンサ46に近づく。手26が公称危険領域28に達すると、磁石44は、センサ46が磁石44の磁界を感知できる程度にセンサ46の近くに位置する。制御装置20は、これに応じて、上述したようにレーザのレーザ光線18の強度を待機レベルに低下させる。これにより、ユーザの手26が公称危険領域28内に配置されているときには、レーザ光線18の強度が安全なレベルすなわちゼロ強度レベルに自動的に低下する。従って、ユーザは公称危険領域28内で作業するためにレーザ16を手動で非作動状態とする必要がない。
【0026】
ユーザが手26を引込位置に向かって移動すると、磁石44が垂直方向で下降してセンサ46から遠ざかる。手26が公称危険領域28を出ると、センサ46は磁石44の磁界を感知しなくなる。そうすると、センサ46は第1の状態に戻るように切り替わり、ユーザがペダル式作動装置22を押し下げることに応答して、レーザ光線18の強度が作動レベルに戻るように増加する。よって、ペダル式作動装置22を押し下げている間、ユーザはレーザ光線18が誤って照射されることを心配せずに公称危険領域28の内外に手を繰り返し移動することができる。安全装置24は、手26が公称危険領域28内にあるときにはレーザ光線18の強度を安全なレベルすなわちゼロ強度レベルに低下させ、手26が公称危険領域28を出るとレーザ16の強度が作動レベルに戻るように増加することを可能にする。これにより、レーザ光線18の照射のおそれが減少し、レーザ16を用いた作業の安全性が向上する。
【0027】
図3,図4は、レーザ照射によりワークを加工するのに適した他の産業用レーザ装置であるレーザ装置110の側面図である。図3に示すように、レーザ装置110は、安全装置24の代わりに安全装置153を使用しているほかは、図1,図2のレーザ装置10に類似している(対応する参照番号には100を足している)。安全装置153は、ユーザがハウジング114内でワークを操作しているときなど、ユーザの手126がハウジング114内に配置されているときこれを保護する。安全装置153は、手袋138と、ライン148を介して制御装置120と通信するエミッタ/センサ154と、を含む。
【0028】
手袋138は、図1で手袋38について説明したのと同様の方法で機能する。手袋138は、第2の危険領域136内で反射および散乱したレーザ光線118の部分を吸収し、ハウジング114内で高レベルの自由運動を提供する。さらに、手袋138は、エミッタ/センサ154がハウジング114内におけるユーザの手126の位置を検出可能となるように(例えば、インク、顔料、染料などの紫外線(UV)発光材料である)蛍光材料を含むことができる。蛍光材料は、手袋138の製造に使用される成形材料に含まれてもよく、または、蛍光材料を含むコーティング、フィルム、またはラップで手袋を覆うこともできる。
【0029】
蛍光材料は、手袋138が紫外線の波長光を吸収したときに(以下では“信号波長光”と呼ぶ)特定の波長光を発することを可能にする。特に、紫外線の波長光が手袋138に向けられると、手袋138に含まれる蛍光材料の電子が紫外線の波長光から光子を吸収し、元のエネルギ状態からより高いエネルギ状態に励起される。電子がより低いエネルギ状態に低下すると、光子は手袋138から放出される。しかし、これにより得られる低エネルギ状態は、元のエネルギ状態とは異なり、放出された光子が紫外線の波長光よりも長い波長を有するようになる。一般に、手袋138が発する光子の特定の波長(すなわち、信号波長光)は、使用される発光材料の種類および密度によって決まる。
【0030】
エミッタ/センサ154は、ハウジング114内に配置されており、紫外線エミッタ156とセンサ158とを含む、組み合わされたエミッタ/センサ装置である。エミッタ/センサ154の適切な装置の例は、“UVX100”および“UVX300”発光センサと呼ばれる、オハイオ州クリーブランド(Cleveland,Ohio)所在のイーエムエックス インダストリーズ インコーポレイテッド(EMX Industries,Inc.)により市販されている商品を含む。
【0031】
紫外線エミッタ156は、紫外線160を発する信号生成要素である。紫外線160は、図3に示すように、表面130に向けられるとともにレーザ光線118の周囲に広がる発散光である。表面130およびワークは一般に蛍光材料を含まないので、表面130およびワークは信号波長光を発しない。しかし、手袋138が蛍光材料を含むために、手袋138は、紫外線160内に配置されているときに紫外線160の一部を吸収して信号波長光を発する。
【0032】
紫外線160は、レーザ光線118の最大出力密度の位置であるレーザ光線118の焦点118aを含むように配置されることが望ましい。さらに望ましくは、紫外線160は、図1で説明した公称危険領域28と同様のレーザ光線118の公称危険領域(図示省略)を実質的に含むように配置される。これにより、手袋138がレーザ光線118の公称危険領域に入ったときに紫外線160が手袋に向けられる。
【0033】
センサ158は、エミッタ/センサ154に向かって発せられた信号波長光を感知するセンサである。センサ158は、ライン148を介して制御装置120に出力信号を生成する電子機器を含む。出力信号は、第1の状態と第2の状態とを有し、これらの状態は予め設定された閾値以上の強度を有する信号波長光をセンサ158が感知するか否かに基づいている。センサ158が信号波長光を感知しないか、感知される信号波長光が予め設定された閾値を超えない場合には、センサ158の出力信号は第1の状態である。センサ158の出力信号は、感知された信号波長光が予め設定された閾値以上の場合に第2の状態に切り替わる。
【0034】
予め設定された閾値は、バックグラウンドの信号波長光の検出によってセンサ158の出力信号が誤って第2の状態に切り替わるのを防止する。例えば、溶接などのレーザ作業中には、ワークの溶融金属から測定可能な量の信号波長光が発せられる可能性がある。よって、予め設定される閾値は、このようなバックグラウンドの信号波長光の強度よりも高く設定されることが望ましい。これにより、センサ158は、手袋138から発せられて感知された信号波長光とバックグラウンドの信号波長光とを区別することができる。従って、紫外線エミッタ156は、手袋138が予め設定された閾値よりも大きい強度で信号波長光を発することを可能にする強度の紫外線160を発することが望ましい。これにより、手袋138からエミッタ/センサ154に向かって発せられる信号波長光の部分が、予め設定された閾値を超えるようになる。
【0035】
センサ158の出力信号の状態により、センサ46について図1で上述したのと同様の方法で、制御装置120によってレーザ116に制御指示が与えられる。出力信号の第1の状態は、特定の方法でレーザ116を制御する指示を特に制御装置120に与えない。よって、ユーザがペダル式作動装置122を押し下げると、レーザ116は作動レベルのレーザ光線118を生成する。しかし、出力信号の第2の状態は、他の受信信号に関係なく、レーザ116のレーザ光線118の強度を作動レベルから待機レベルに低下させるように制御装置120に指示を与える。従って、センサ158の第2の状態における出力信号は、ペダル式作動装置122の信号に優先し、ペダル式作動装置122が第2の状態にある場合でもレーザ光線118の強度を待機レベルに低下させる。
【0036】
センサ158が信号波長光を感知するか否かは、ユーザの手126および手袋138の位置に一般に基づく。例えば、手袋138が図3に示す引込位置にあるときには、手袋138は紫外線160内に配置されていない。よって、レーザ116は、レーザ加工のために作動レベルでレーザ光線118を生成することができる。しかし、手126が引込位置から充分に離れた位置まで移動すると、手袋138は紫外線160に入って紫外線160の部分を吸収するとともにエミッタ/センサ154に向かって信号波長光を発する。感知された信号波長光の強度が予め設定された閾値を超えるので、レーザ光線118の強度は待機レベルに低下してユーザの手126をレーザ光線118の照射から保護する。
【0037】
図4は、ユーザの手126が紫外線160内に伸びる、延長位置における手袋138を示している。ユーザは、リブ付部分150の付勢力よりも大きい反対方向の力を加えることで引込位置から手袋138を延長する。手袋138は、引込位置から引込位置と延長位置とを含むこれらの間の種々の位置に移動可能である。
【0038】
ユーザが手126を紫外線160内に伸ばすと、紫外線160の部分が手袋に吸収され、これにより信号波長光が手袋138から発せられる。発せられた信号波長光がハウジング114内で散乱する一方で、信号波長光の一部はエミッタ/センサ154に向けられる。センサ158は、信号波長光のこれらの部分を感知する。このような信号波長光の感知される部分は手袋138から発せられるので、その強度は予め定められた閾値を超える。続いて、制御装置120が、これに応じてレーザ116のレーザ光線118の強度を待機レベルに低下させる。これにより、ユーザの手126が紫外線160内に配置されているときには、レーザ光線118の強度が安全なレベルすなわちゼロ強度レベルに自動的に低下する。従って、ユーザは紫外線160の領域内で作業するためにレーザ116を手動で非作動状態とする必要がない。
【0039】
ユーザが手126を引込位置に向かって移動すると、手袋138が紫外線160から出る。これにより、センサ158は信号波長光を感知しなくなる。そうすると、センサ158の出力信号は第1の状態に戻るように切り替わり、ユーザがペダル式作動装置122を押し下げることに応答して、レーザ光線118の強度が作動レベルに戻るように増加する。よって、ペダル式作動装置122を押し下げている間、ユーザはレーザ光線118が誤って照射されることを心配せずに紫外線160の内外に手を繰り返し移動することができる。安全装置153は、手126が紫外線160内にあるときにはレーザ光線118の強度を安全なレベルすなわちゼロ強度レベルに低下させ、手126が紫外線160を出るとレーザ116の強度が作動レベルに戻るように増加することを可能にする。これにより、レーザ光線118の照射のおそれが減少し、レーザ116用いた作業の安全性が向上する。
【0040】
図3,図4に開示されたものとは別の実施例では、エミッタ/センサ154は(紫外線の波長光ではなく)特定の色の光波長を発するとともに感知することができる。エミッタ/センサ154用の適切な色ベースの装置の例は、“COLORMAX−1000 DISCRETE”、“COLORMAX−1000 HEX”、および“COLORMAX−1000 RGB”色センサと呼ばれる、オハイオ州、クリーブランド所在のイーエムエックス インダストリーズ,インコーポレイテッドによって市販されている商品を含む。この実施例では、手袋138は、手袋138が所定の色の光線に入ったことを検出するために色センサに関連する所定の色を反射または発する材料を含みうる。
【0041】
好適実施例を参照して本発明を説明したが、当業者であればわかるように、本発明の趣旨および範囲から逸脱せずに形態および詳細を変更することができる。例えば、レーザ装置10,110は単一の安全装置(安全装置24,153)を有するように開示されているが、本発明の安全装置を複数使用してもよい。特に、両手がハウジング14内にある状態でユーザが安全に作業を行うために、一対の本発明の安全装置24が使用されることが望ましい。また、紫外線160の照射範囲を増加させるために複数の安全装置152を使用することもできる。さらに、本発明は、レーザ加工装置とともに使用するように開示されているが、レーザを使用するあらゆる装置での使用に適している。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】手袋が引込位置にある本発明のレーザ制御安全装置を含むレーザ装置の側面図である。
【図2】手袋が延長位置にある本発明のレーザ制御安全装置を含むレーザ装置の側面図である。
【図3】手袋が引込位置にある本発明の他のレーザ制御安全装置を含むレーザ装置の側面図である。
【図4】手袋が延長位置にある本発明の他のレーザ制御安全装置を含むレーザ装置の側面図である。
【符号の説明】
【0043】
10…レーザ装置
12…基部
14…ハウジング
16…レーザ
18…レーザ光線
18a…レーザ光線の焦点
18b…レーザ光線の収束部
18c…レーザ光線の発散部
20…制御装置
22…ペダル式作動装置
24…安全装置
26…ユーザの手
28…公称危険領域
30…表面
32…開口部
34,48…ライン
36…第2の危険領域
38…手袋
40…つなぎ綱
40a…つなぎ綱の第1の端部
40b…つなぎ綱の第2の端部
42…プーリ
44…磁石
46…センサ
50…リブ付部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光線を生成するレーザの制御システムであって、
ユーザの手の位置を感知するセンサと、
感知されたユーザの手の位置に基づいてレーザの動作を制御する制御装置と、を有することを特徴とするレーザの制御システム。
【請求項2】
ユーザの手のための保護バリアをさらに含むことを特徴とする請求項1記載のレーザの制御システム。
【請求項3】
前記保護バリアは、紫外線発光材料を含むことを特徴とする請求項2記載のレーザの制御システム。
【請求項4】
前記レーザは、感知されたユーザの手の位置に基づいて、レーザ光線の強度を作動レベルから待機レベルに低下させるように前記制御装置によって制御されていることを特徴とする請求項1記載のレーザの制御システム。
【請求項5】
前記制御装置は、ユーザの手がレーザ光線の公称危険領域に入ると、レーザ光線の強度を待機レベルに低下させることを特徴とする請求項4記載のレーザの制御システム。
【請求項6】
信号生成要素をさらに含むことを特徴とする請求項1記載のレーザの制御システム。
【請求項7】
前記信号生成要素は磁石を含み、前記センサは磁気作動スイッチを含むことを特徴とする請求項6記載のレーザの制御システム。
【請求項8】
前記信号生成要素は紫外線エミッタを含み、前記センサは紫外線波長光センサを含むことを特徴とする請求項6記載のレーザの制御システム。
【請求項9】
ユーザの手がハウジングに出入り可能となるように、少なくとも1つの開口部を含むハウジングをさらに有することを特徴とする請求項1記載のレーザの制御システム。
【請求項10】
レーザ光線を使用してワークに製造加工を行う産業用レーザ装置であって、
ユーザの手がハウジングに出入り可能となるように、少なくとも1つの開口部を有するハウジングと、
前記ハウジング内でレーザ光線を生成するレーザと、
作動時に第1の状態を有し、非作動時に第2の状態を有する作動装置と、
ハウジング内におけるユーザの手の位置を感知するとともに、感知されたユーザの手の位置に基づいてセンサ信号を提供するセンサと、
前記作動装置の状態と前記センサ信号とに基づいて前記レーザの動作を制御する制御装置と、を有することを特徴とする産業用レーザ装置。
【請求項11】
ユーザの手のための保護バリアをさらに有することを特徴とする請求項10記載の産業用レーザ装置。
【請求項12】
前記レーザは、前記作動装置が第1の状態にあり、かつ前記センサ信号がユーザの手が公称危険領域外にあることを示すときに、作動レベルのレーザ光線を生成するように前記制御装置によって制御されていることを特徴とする請求項10記載の産業用レーザ装置。
【請求項13】
前記制御装置は、前記センサによりユーザの手が公称危険領域内にあることが感知されると、前記レーザのレーザ光線の強度を作動レベルから待機レベルに低下させることを特徴とする請求項12記載の産業用レーザ装置。
【請求項14】
信号生成要素をさらに有することを特徴とする請求項10記載の産業用レーザ装置。
【請求項15】
前記信号生成要素は磁石を含み、前記センサは磁気作動スイッチを含むことを特徴とする請求項14記載の産業用レーザ装置。
【請求項16】
前記信号生成要素は紫外線エミッタを含み、前記センサは紫外線波長光センサを含むことを特徴とする請求項14記載の産業用レーザ装置。
【請求項17】
レーザ光線を生成するレーザのレーザ動作の制御方法であって、
作動装置を非作動状態と作動状態との間で切り替え、
ユーザの手がレーザ光線の公称危険領域に入ったときに第1の状態から第2の状態に切り替わるセンサによってユーザの手の位置を感知し、
前記作動装置が作動状態にあり、かつ前記センサが第1の状態にあるときに、作動レベルのレーザ光線を生成するようにレーザを制御することを含むことを特徴とするレーザ動作の制御方法。
【請求項18】
前記レーザは、前記センサが第2の状態にあるときに、レーザ光線の強度を作動レベルから待機レベルに低下させるように制御されることを特徴とする請求項17記載のレーザ動作の制御方法。
【請求項19】
ユーザの手の位置の感知は、前記センサと、ユーザの手と動作可能に接続された信号生成要素との間の距離に基づいて行われることを特徴とする請求項17記載のレーザ動作の制御方法。
【請求項20】
ユーザの手を保護バリア内に収容することをさらに含むことを特徴とする請求項17記載のレーザ動作の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−61910(P2007−61910A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229991(P2006−229991)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
【Fターム(参考)】