説明

レーザトラッカ

【課題】簡単な構成で要求される性能を維持しつつ、測定が中断しても高精度な測定を行うことができ、使い勝手の良いレーザトラッカを提供する。
【解決手段】本体からターゲット106迄の絶対距離を測定する光コム距離計201と、モータ113、115を用いてレーザ光3の方向を変えることのできる2軸の回転機構と、ターゲットと本体との相対的な角度を測定する2軸分の角度測定手段114、116と、光コム距離計が出力する絶対距離のデータと角度測定手段が出力する2軸分の角度データから、ターゲットの空間座標を算出するデータ処理装置110と、ターゲットに入射するレーザ光の光軸と直角方向にターゲットが移動すると、この移動量と移動する方向に応じた信号を出力する光位置検出手段109と、光位置検出手段から出力された信号を用いて、移動量がゼロになるように2軸の回転機構を制御する制御手段111、112とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いてターゲットを追尾しつつ、本体からターゲットまでの距離を測定するレーザトラッカに係り、特に、簡単な構成で要求される性能を維持しつつ、測定が中断しても高精度な測定をそのまま再開することができ、測定中断前後でデータの整合性をとる必要が無く、使い勝手の良いレーザトラッカに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、大型のロボットハンド先端の動きの検出や、飛行機等の大型装置の組立に際して、目標部品にターゲットを配設し、レーザ光を用いて該ターゲットを追尾しつつ、本体からターゲットまでの距離(例えば1〜10m程度)を測定するレーザトラッカが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このレーザトラッカは、「レーザ干渉計」と「レーザを使用した絶対距離計」を両方備えることが一般的である。これは(1)レーザ干渉計のみを使用した場合、変位の測定精度は高いものの絶対距離の測定ができない、これに対し(2)絶対距離計のみを使用した場合、絶対距離の測定はできるものの、測定精度は100μm程度と要求される精度に達しないことによる。絶対距離の測定が可能であれば任意の位置で測定を開始することができるため測定に要する時間を短縮することができる。
【0004】
したがって、従来のレーザトラッカでは、「レーザ干渉計」と「絶対距離計」の2つの装置を組み込まなければならないという問題があった。
【0005】
従来のレーザトラッカの一例の構成を図1に示す。レーザ干渉計101から出射された、例えば可視域の波長633nmの連続光でなるレーザ光1は、ハーフミラー102、レーザ光1の波長近傍の波長の光のみを通過するバンドパスフィルタ(BPF)103、ハーフミラー104、方位角用モータ113および仰角用モータ115を用いて2軸の回転を行うことができるジンバルミラー105を介して、例えばレトロリフレクタでなるターゲット106に到達し、同じ経路を通ってレーザ干渉計101に再び入射する。レーザ干渉計101は、公知のマイケルソン型もしくはフィゾー型の干渉計で、レーザ光1の光軸に沿ったターゲット106の変位を測定することができる。レーザ干渉計101で測定したターゲット106の変位のデータは、パソコン(PC)110を用いて収集する。
【0006】
レーザ光1がターゲット106で反射されてレーザ干渉計101に戻るとき、ハーフミラー102においてレーザ光1の一部が反射されて2次元PSD109に入射する。ターゲット106に入射するレーザ光1の光軸と直角方向にターゲットが移動すると、この移動量と移動する方向に応じて2次元PSD109に入射するレーザ光1の位置が変化する。このレーザ光1の位置の変化を2次元PSD109を用いて検出し、このレーザ光1の位置が常に一定になるようにPC110、モータ駆動回路111、112、方位角用モータ113および仰角用モータ115を用いて、ジンバルミラー105の方向を制御する。これによりターゲット106をレーザ光1を用いてトラック(追尾)することができる。
【0007】
公知の絶対距離計107から出射された、レーザ光1とは異なる波長、例えば赤外域の波長780nmのパルス光でなるレーザ光2は、該レーザ光2の波長近傍の波長の光のみを透過するバンドパスフィルタ(BPF)108、前記ハーフミラー104、ジンバルミラー105を介してターゲット106で反射され、同じ経路を通って絶対距離計107に入射する。絶対距離計107は、レーザトラッカ本体からターゲット106までの絶対距離を測定することができ、絶対距離の測定値はPC110を用いて収集する。
【0008】
レーザトラッカがターゲット106を追尾しているとき、レーザトラッカとターゲット106との相対的な角度は、方位角用ロータリーエンコーダ114と仰角用ロータリーエンコーダ116を用いて測定される。これら2つの角度データはPC110を用いて収集する。
【0009】
PC110は、これら2つの角度データと、前述の絶対距離計107による絶対距離のデータ、および前述のレーザ干渉計101による変位のデータを用いて、ターゲット106の三次元座標を算出することができる。
【0010】
以上が従来のレーザトラッカの構成である。
【0011】
また、従来技術として、1μmオーダの精度の絶対距離測定が可能な「光コム距離計」が知られている(特許文献2、非特許文献1参照)。
【0012】
【特許文献1】特開2007−57522号公報
【特許文献2】特開2001−13245号公報
【非特許文献1】美濃島 薫「フェムト秒光パルスの時間・周波数関係を利用した空間精密計測」電子情報通信学会誌Vol.86 No.8(2003年8月)pp632〜636
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら従来は、(1)レーザ干渉計101と絶対距離計107が両方必要であり、構成が複雑である。
【0014】
又、(2)絶対距離計107で測定した絶対距離のデータの精度は、レーザ干渉計101で測定した変位データの精度に比べて低い。従って、測定が中断しなければレーザ干渉計101の精度で測定できるが、測定が中断すると、絶対距離計107で絶対距離を測定し直す必要があり、絶対距離計の誤差の分だけデータの精度が悪化するため、高精度の測定をそのまま再開することができない。
【0015】
更に、(3)測定が中断した場合、座標が既知の一点に一度戻るなど、測定中断前後でのデータの整合性を取る作業を行なわなければ、測定が中断しなかった場合と同程度の精度で測定を行うことができず、使い勝手が悪い等の問題点を有していた。
【0016】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、簡単な構成で要求される性能を維持しつつ、測定が中断しても高精度な測定をそのまま再開することができ、測定中断前後でデータの整合性をとる作業を行なう必要が無く、使い勝手の良いレーザトラッカを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、レーザ光を用いてターゲットを追尾しつつ、本体からターゲット迄の距離を測定するレーザトラッカにおいて、本体からターゲット迄の絶対距離を測定する光コム距離計と、モータを用いてレーザ光の方向を変えることのできる2軸の回転機構と、ターゲットと本体との相対的な角度を測定する2軸分の角度測定手段と、前記光コム距離計が出力する絶対距離のデータと前記角度測定手段が出力する2軸分の角度データから、ターゲットの空間座標を算出するデータ処理装置と、ターゲットに入射するレーザ光の光軸と直角方向にターゲットが移動すると、この移動量と移動する方向に応じた信号を出力する光位置検出手段と、該光位置検出手段から出力された信号を用いて、前記移動量がゼロになるように前記2軸の回転機構を制御する制御手段と、を備えることにより、前記課題を解決したものである。
【0018】
ここで、前記光コム距離計を2軸回転機構とは別に配設し、該2軸回転機構上に、レーザ光を反射するジンバルミラーを設けることができる。
【0019】
あるいは、前記前記光コム距離計を2軸回転機構上に配設することができる。
【0020】
あるいは、前記光コム距離計のヘッドとレーザ光源を別体とし、該光コム距離計のヘッドを2軸回転機構上に配設することができる。
【0021】
更に、前記2軸回転機構に、固定データムと、該固定データムに対する光距離計のヘッドの変位を測定する変位計を配設することができる。
【0022】
又、前記光コム距離計による絶対距離の測定を複数の波長で行って、空気の屈折率変化の影響を補償することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、(1)従来のような絶対距離計107及び、その関連部品(103、104、108)が不要となり、簡単な構成で、要求される性能を維持することができる。また、(2)絶対距離のデータの精度が高いため、測定が途中で中断しても、データの精度が悪化せず、高精度な測定をそのまま再開することができる。更に、(3)測定が中断しても高精度な測定を行うことができるので、測定中断前後でデータの整合性をとる作業を行なう必要が無い。従って、レーザトラッカの使い勝手が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0025】
本発明の第1実施形態を図2に示す。図2において、1μmオーダの精度の絶対距離測定が可能な光コム距離計201から出射されたレーザ光3は、ハーフミラー102、方位角用モータ113および仰角用モータ115を用いて2軸の回転を行うことができるジンバルミラー105を介して、例えばレトロリフレクタでなるターゲット106に到達し、同じ経路を通って光コム距離計201に再び入射する。光コム距離計201によって測定したレーザトラッカとターゲット106との絶対距離は、PC110を用いて収集される。
【0026】
レーザ光3がターゲット106で反射されて光コム距離計201に戻るとき、ハーフミラー102においてレーザ光3の一部が反射されて2次元PSD109に入射する。ターゲット106に入射するレーザ光3の光軸と直角方向にターゲットが移動すると、この移動量と移動する方向に応じて2次元PSD109に入射するレーザ光3の位置が変化する。このレーザ光3の位置の変化を2次元PSD109を用いて検出し、このレーザ光3の位置が常に一定になるようにPC110、モータ駆動回路111、112、方位角用モータ113および仰角用モータ115を用いて、ジンバルミラー105の方向を制御する。これによりターゲット106をレーザ光3を用いてトラック(追尾)することができる。
【0027】
レーザトラッカがターゲット106を追尾しているとき、レーザトラッカとターゲット106との相対的な角度は、方位角用ロータリーエンコーダ114と仰角用ロータリーエンコーダ116を用いて測定される。これら2つの角度データは、PC110を用いて収集する。
【0028】
PC110は、これら2つの角度データと前述の光コム距離計201による絶対距離のデータを用いてターゲット106の三次元座標を算出する。
【0029】
本実施形態においては、従来のレーザ干渉計101を光コム距離計201に置き換えるだけで、絶対距離計107及びバンドパスフィルタ103、108、ハーフミラー104を省略できるので、構成が簡略である。又、従来のようにレーザ干渉計101と絶対距離計107のレーザ光1と2の波長を変えたり、あるいは時分割にして、これらを区別する必要もない。
【0030】
なお、第1実施形態では、ジンバルミラー105を用いてレーザ光3の出射方向を変更するようにされていたが、図3に示す第2実施形態のように、光コム距離計201と2次元PSD109及びハーフミラー102を2軸の回転機構上に設けたキャリッジ301に搭載することによって、ジンバルミラーを省略することも可能である。本実施形態によれば、第1実施形態よりも更に構成が簡略である。
【0031】
なお、前記第2実施形態では、光コム距離計201の全体がキャリッジ301上に搭載されていたが、図4に示す第3実施形態のように、光源部分のフェムト秒ファイバレーザ401を切り離して外部に設置し、光ファイバ402により光コム距離計ヘッド403に導くことにより、キャリッジ301に搭載する要素を小型軽量化して、キャリッジ301の回転の応答速度を上げることができる。
【0032】
次に、図5を参照して、特許文献1に記載した、固定データム型のレーザトラッカの干渉計として光コム距離計を用いた本発明の第4実施形態を説明する。
【0033】
本実施形態においては、ベース板501上に設置した固定データム(例えば基準球)502とキャリッジ301との相対的な変位を静電容量変位計503で検出して補正することにより、固定データム502の中心を基準とした高精度な測定を行うことができる。ここで、固定データム502は、例えば真球度80nm程度の金属製の球を用いることができる。
【0034】
次に、図6を参照して、2色法を用いて空気の屈折率変化の影響を受け難いロバストな測定を行うようにした本発明の第5実施形態を説明する。
【0035】
図6において、フェムト秒ファイバレーザ401からは、広帯域のレーザが発振されているので、図7に詳細に示すような構成の光コム距離計ヘッド601を用いて、例えば、ある基本波と、その第2高調波を用いて絶対距離測定を行う。基本波による絶対距離の測定値と、第2高調波による絶対距離の測定値に対して、非特許文献1の634頁〜635頁の2.3項に記載されているような2色法による屈折率補正のアルゴリズムを用いれば、測定環境に存在する空気の屈折率変化を補償できるため、1波長のレーザで絶対距離測定を実施した場合と比較して、高精度な測定を行うことができる。
【0036】
前記2色法による測定のアルゴリズムは、次に示す非特許文献1中の式(2)で示されている。
【0037】
D=D2ω−A(D2ω−Dω
【0038】
ここで、Dは、レーザトラッカ本体からターゲット106までの距離、Dωは、基本波を用いた絶対距離の測定値、D2ωは、第2高調波を用いた絶対距離の測定値、Aは定数である。
【0039】
前記光コム距離計ヘッド601の詳細を図7に示す。図7において、701は、基本波用のハーフミラー、702、703は同じくバンドパスフィルタ、704、705は同じく光検出器、706〜708は同じくバンドパスフィルタ、709は同じくダブルバランスドミキサ、710は同じく位相計、711は、第2高調波用のハーフミラー、712、713は同じくバンドパスフィルタ、714、715は同じく光検出器、716〜718は同じくバンドパスフィルタ、719は同じくダブルバランスドミキサ、720は同じく位相計であり、721はコリメータである。
【0040】
前記光コム距離計ヘッド601の構成は、非特許文献1の図2に示される構成でも良く、非特許文献1の図2には示されていない色ガラスフィルタを用いて、基本波による測定と第2高調波による測定を交互に実施することができる。
【0041】
又、図7に示したように、検出系を2系統(基本波用の検出系と第2高調波用の検出系)設けておけば、基本波を用いた絶対距離の測定値と、第2高調波を用いた絶対距離の測定値を同時に取得できるので、検出系が1系統の場合よりも、更に空気の屈折率変化の影響を受け難いロバストな測定が可能である。即ち、空気の屈折率は時間的に変動しているため、交互に測定を行うより、同時に測定を行ったほうが、空気の屈折率変化の影響を受け難いロバストな測定が可能である。
【0042】
なお、前記実施形態においては、いずれも、2軸回転機構の回転角度を、モータ113、115に付設されたロータリエンコーダ114、116で検出していたが、回転角度を検出する手段は、これに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】従来のレーザトラッカの一例の構成を示す、一部斜視図を含むブロック図
【図2】本発明の第1実施形態の構成を示す、一部斜視図を含むブロック図
【図3】本発明の第2実施形態の構成を示す、一部斜視図を含むブロック図
【図4】本発明の第3実施形態の構成を示す、一部斜視図を含むブロック図
【図5】本発明の第4実施形態の構成を示す、一部斜視図を含むブロック図
【図6】本発明の第5実施形態の構成を示す、一部斜視図を含むブロック図
【図7】第5実施形態で用いられる光コム距離計ヘッドの構成例を示すブロック図
【符号の説明】
【0044】
3…レーザ光
105…ジンバルミラー
106…ターゲット
109…二次元PSD
110…パソコン(PC)
111、112…モータ駆動回路
113…方位角用モータ
114…方位角用ロータリーエンコーダ
115…仰角用モータ
116…仰角用ロータリーエンコーダ
201…光コム距離計
301…キャリッジ
401…フェムト秒ファイバレーザ
402…光ファイバ
403、601…光コム距離計ヘッド
502…固定データム
503…静電容量変位計
504…静電容量変位計用信号処理回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を用いてターゲットを追尾しつつ、本体からターゲット迄の距離を測定するレーザトラッカにおいて、
本体からターゲット迄の絶対距離を測定する光コム距離計と、
モータを用いてレーザ光の方向を変えることのできる2軸の回転機構と、
ターゲットと本体との相対的な角度を測定する2軸分の角度測定手段と、
前記光コム距離計が出力する絶対距離のデータと前記角度測定手段が出力する2軸分の角度データから、ターゲットの空間座標を算出するデータ処理装置と、
ターゲットに入射するレーザ光の光軸と直角方向にターゲットが移動すると、この移動量と移動する方向に応じた信号を出力する光位置検出手段と、
該光位置検出手段から出力された信号を用いて、前記移動量がゼロになるように前記2軸の回転機構を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とするレーザトラッカ。
【請求項2】
前記光コム距離計が2軸回転機構とは別に配設され、該2軸回転機構上に、レーザ光を反射するジンバルミラーが設けられていることを特徴とする請求項1に記載のレーザトラッカ。
【請求項3】
前記光コム距離計が2軸回転機構上に配設されていることを特徴とする請求項1に記載のレーザトラッカ。
【請求項4】
前記光コム距離計のヘッドとレーザ光源が別体とされ、該光コム距離計のヘッドが2軸回転機構上に配設されていることを特徴とする請求項1に記載のレーザトラッカ。
【請求項5】
前記2軸回転機構に、固定データムと、該固定データムに対する光コム距離計のヘッドの変位を測定する変位計が配設されていることを特徴とする請求項4に記載のレーザトラッカ。
【請求項6】
前記光コム距離計による絶対距離の測定を複数の波長で行って、空気の屈折率変化の影響を補償することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のレーザトラッカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−54429(P2010−54429A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221504(P2008−221504)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】