説明

レーザハイブリッドアーク溶接機とレーザハイブリッドアーク溶接システム

【課題】レーザハイブリッドアーク溶接施工中に直接もしくは反射したレーザにより、スパッタの発生、ビード外観の不良、溶接不安定、溶接欠陥、溶接強度不足が生じる。またレーザ設備の導入コストが高額である。
【解決手段】施工状態を監視するための施工状態検出器3と溶滴移行中におけるレーザ出力を適正に制御するレーザ出力制御部1とアーク長が短くなった場合にアーク長を適正に制御するアーク出力を制御するアーク出力制御部2とアーク電源部4を備えたレーザハイブリッドアーク溶接機9を用いたレーザハイブリッドアーク溶接システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアークとレーザを併用してワークの溶接を行うレーザハイブリッドアーク溶接機とレーザハイブリッドアーク溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザとアーク溶接機を併用して用いるレーザハイブリッドアーク溶接が注目されている。このレーザハイブリッドアーク溶接システムでは、アークとレーザの出力を同時にワークに出力し溶接を行う。これに用いるレーザ発振機にYAGレーザ、半導体レーザを用い、アーク溶接機にパルスMIG溶接機を組み合わすシステムが一般的である。このレーザハイブリッド溶接システムでは深い溶け込み形状、溶接速度向上、アーク安定性の向上、ビード概観の向上等に効果があり、自動車業界等、昨今のアルミ溶接需要の増大に伴いその必要性、重要性が注目されている。
【0003】
従来のレーザハイブリッドアーク溶接システムとしては、レーザ吸収効率の増加とベース区間中の溶接安定性の向上を目的とし、パルス溶接機のパルスピーク区間に同期させてレーザ出力を変化させるものがあった(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−25081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したレーザハイブリッドアーク溶接システムでは、溶接ワイヤのワーク上での狙い位置と、レーザの狙い位置(オフセット)が、数mm以内であることが重要である。
【0006】
このようなレーザハイブリッドアーク溶接システムでは、レーザはワークに照射されワークに入熱を加えるが、前述のオフセットが近いために、溶滴移行状況、ワーク形状等の施工状況によっては、溶接ワイヤ先端から離脱した溶滴とレーザが干渉する場合がある。このとき直接もしくはワークから反射したレーザが溶滴に照射され、印加された入熱により溶滴が爆発し細かいスパッタ状となり飛散しビード概観を損ねることがあった。
【0007】
本現象は、5356ワイヤによる施工時に顕著であり、4043ワイヤ、1100ワイヤの順に発生頻度が下がる。これは5356ワイヤ材中にはMgが4043ワイヤ、1100ワイヤに比べ多く含有されており、ワイヤの沸点が低くなっていることが原因であると考えられる。Mgの含有はワークの強度を確保するために必要であり、5356ワイヤを用いた施工中に前述の溶滴の爆発が発生しワイヤ成分がスパッタとして飛散した場合、ワーク中のMg含有量が減少することになり、所望のワーク強度を確保できない恐れもある。
【0008】
また、溶接施工中に、溶滴移行状況、ワーク形状等の施工状況によって、アーク長が極端に短くなる場合がある。その場合、直接もしくはワークから反射したレーザが、溶接ワイヤ先端に照射され、溶接ワイヤを不必要に溶融する場合があった。元々、アーク溶接機による波形制御シーケンスにより溶接ワイヤの溶融は制御されているため、前述のようなレーザの干渉による不必要な溶接ワイヤの溶融が発生すると、制御想定外の外乱となり、それがきっかけで溶接不安定を引き起こし、結果として溶接不良、溶接欠陥が発生することがあった。
【0009】
さらに、レーザハイブリッドアーク溶接システムでは、システム全体に占めるレーザ設備にかかるコストが高額であることが問題であり、低コストでの設備導入とライン停止を発生させないといった稼働率の向上が課題であった。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するため、アーク電流・アーク電圧・溶融池画像といった施工状態を検知し、各々の状況に応じたレーザ出力、アーク出力に制御することができ、またレーザ発振機の導入コストを抑えることが可能なレーザハイブリッドアーク溶接機とレーザハイブリッドアーク溶接システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のレーザハイブリッド溶接システムは、アーク電流、アーク電圧、アーク電力、ワークの溶融状態、溶接ワイヤ突き出し長、アーク長、溶接ワイヤ溶滴移行状況の少なくとも1つ以上の施工状態を監視する施工状態検出器と、前記施工状態検出器からの信号を入力し、溶接ワイヤから溶滴が離脱したことを検知し、所定の第1のレーザ出力の値にレーザ出力を変化させるレーザ出力制御信号を出力するレーザ出力制御部と、前記施工状態検出器からの信号を入力し、アーク出力を制御するアーク出力制御信号を出力するアーク出力制御部と、前記アーク出力制御信号に応じた出力動作をするアーク電源部を設けたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、溶滴の移行中にレーザ出力を適正な値にまで低下させることにより、移行中の溶滴とレーザとの干渉をさけ、溶滴の爆発を防止し、スパッタの減少、ビード外観の向上、ワーク強度を確保することができる。また、アーク長が短くなった場合に、溶接ワイヤとレーザの干渉をさけることで、不必要な溶接ワイヤの溶融を避け、溶接安定性の向上、溶接欠陥の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1における全体構成を示す図
【図2】本発明の実施の形態2における全体構成を示す図
【図3】本発明の実施の形態3における全体構成を示す図
【図4】本発明におけるレーザ溶接システムのレーザ出力制御方法を示す図
【図5】本発明におけるレーザ溶接システムのレーザ出力制御方法を示す図
【図6】本発明におけるレーザ溶接システムのレーザ出力制御方法を示す図
【図7】本発明におけるレーザ溶接システムのレーザ出力制御方法を示す図
【図8】本発明におけるレーザ溶接システムのアーク出力制御方法を示す図
【図9】本発明の実施の形態4における全体構成を示す図
【図10】本発明の実施の形態5における全体構成を示す図
【図11】本発明の実施の形態6における全体構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
図1〜3、図9〜11において、図中、1はレーザ出力制御部、2はアーク出力制御部、3は施工状態検出器、4はアーク電源部、5aはレーザ発振機、5'は第2のレーザ発振機、6はレーザヘッド、6'は第2のレーザヘッド、7は溶接トーチ、7'は第2の溶接トーチ、8はワーク、8'は第2のワーク、9はレーザハイブリッドアーク溶接機、9'は第2のレーザハイブリッドアーク溶接機、10はレーザ出力切替機、11はレーザハイブリッドアーク溶接用レーザ発振機を示す。
【0016】
また図4〜7において、図中、T1は所定の第1の時間、L1は所定の第1のレーザ出力の値、L2は所定の第2のレーザ出力の値、E1は溶滴の離脱を検知した時点、E2は溶滴の溶融池への移行を検知した時点、E3は所定の第1のレーザ出力の値L1にレーザ出力を変化させてから所定の第1の時間T1経過した時点、E4はパルスベース制御開始時点、F1は所定の第1の関数、F2は所定の第2の関数を示す。
【0017】
また図8中、H1は所定の第1のパルス周波数の値、P1は所定の第1のパルスピークの値、B1は所定の第1のパルスベースの値、H2は所定の第2のパルス周波数の値、P2は定の第2のパルスピークの値、B2は所定の第2のパルスベースの値、VE1はアーク長が短くなったことを検知した時点、VE2はアーク長が適正になった時点を示す。
【0018】
(実施の形態1)
図1のように構成されたレーザハイブリッドアーク溶接システムについて、その動作を説明する。
【0019】
以下、レーザ発振機に半導体レーザ、アーク溶接機には、消耗電極式パルスMIG溶接機を用いた例にて説明する。
【0020】
アーク電源部4は供給された入力電力を、溶接トーチ7とワーク8の間に給電し、溶接トーチ7先端より送給された溶接ワイヤ先端とワーク8との間にアークを点弧させアーク溶接を行う。レーザ発振機5に給電された入力電力は、レーザに変換され、伝送用のファイバーを経由し、レーザヘッド6に伝送され、レーザヘッド6からワーク8にレーザを照射しレーザ溶接を行う。伝送経路としては、光伝送が可能なミラー等他の光学系でもよい。このとき、レーザのスポット径は2mm以下とすることが重要である。ただし施工状態によっては前述の限りではなく、ワークの加工精度が低く狙い裕度が必要な場合はスポット径を大きくとり、レーザエネルギー密度を下げることが有効である。またレーザヘッド6とワーク8の距離は15cm以上が望ましい。これは、ワーク8との干渉をさけるためと、スパッタ、ヒュームやワーク8周辺の輻射熱からレーザヘッド6の損傷を防ぐためである。ただし施工状態によっては前述の限りではなく、レーザヘッドに使われる光学系(集光レンズ)に所望の仕様のものが手に入らない場合は、やむを得ずワークとレーザヘッドの距離が近づく場合もある。また、レーザの照射位置は、ワーク上における溶接ワイヤ狙い位置から2〜3mm前方の溶融池先端あたりがよい。ただし施工状態によっては、前述の限りではない。
【0021】
次に施工状態検出器3を説明する。施工状態検出器3は、アーク電流、アーク電圧、アーク電力、ワークの溶融状態、溶接ワイヤ突き出し長、アーク長、溶接ワイヤ溶滴移行状況を検出し、レーザ出力制御部1、アーク出力制御部2に施工状態検出情報を出力する。アーク電流はCT等を用いて測定する。アーク電圧はアーク電源部4の出力端子、溶接トーチ6先端、ワーク8、溶接ワイヤ送給フィーダー等のいずれかの測定部を電圧計にて測定する。アーク電力は電力計にて測定する。ワークの溶融状態、溶接ワイヤ突き出し長、アーク長、溶接ワイヤ溶滴移行状況は、高速カメラ画像をもちいた画像処理にて検出する、もしくはアーク電流、アーク電圧から算出して検出する。
【0022】
次にレーザ出力制御部1を説明する。レーザ出力制御部1は、施工状態検出器3から入力される施工状態検出情報から、溶接ワイヤ先端から溶滴が離脱する瞬間を検出する。検出方法としては、アーク電流・アーク電圧からアークのインピーダンスの急激な変化を捉える方法、またワーク8上の高速カメラ画像を画像処理して検出する方法もある。
【0023】
レーザ出力制御部3は、図4に示すように、溶滴の離脱を検知した時点E1より、所定の第1のレーザ出力の値L1にレーザ出力を変化させるレーザ出力制御信号を出力する。もしくは、図2、図5に示すように、アーク電源部4からパルスベース制御開始時点E4の信号を受けることにより、所定の第1のレーザ出力の値L1にレーザ出力を変化させるレーザ出力制御信号を出力する。所定の第1のレーザ出力の値L1は、本溶接中のレーザ出力である所定の第2のレーザ出力の値L2に比べ、十分低い値もしくは0(レーザ発振オフ)である必要がある。レーザ発振機5は前記信号に応じた出力を行う。
【0024】
次に、レーザ出力制御部1は、図4に示すように、溶滴の溶融池への移行を検知した時点E2より所定の第2のレーザ出力の値L2にレーザ出力を変化させる。もしくは、図6に示すように、前回離脱を検知して所定のレーザ出力1L1に変化した時点E1から、所定の第1の時間T1の後、所定の第2のレーザ出力の値L2にレーザ出力を変化させる。所定の第1の時間T1は、溶滴の移行が完了するために十分な時間を確保する必要があり、パルス周波数100Hzのパルス溶接であれば、約2ms程度でもよい。ただし、施工状態によっては前述の限りではない。
【0025】
所定の第2のレーザ出力の値L2は、レーザハイブリッドアーク溶接として十分な効果が得られる値である必要がある。たとえば、汎用5000系アルミニウム合金A5052板厚t2.0mmのワークをφ1.2径5356ワイヤにてアーク電流180A、溶接速度4.0m/min、スポット径2mm、オフセット2mmで溶接施工を行う場合では、第2のレーザ出力の値L2は2.0kW以上が望ましい。ただし、施工によっては前述の限りではない。
【0026】
レーザ出力の変動中の値は、図4に示すように、パルス状に変化してもよく、また、図7に示すように、所定の第1のレーザ出力の値L1から所定の第2のレーザ出力の値L2への移行の際は所定の第1の関数F1、また、所定の第2のレーザ出力の値L2から所定の第1のレーザ出力の値L1への移行の際は所定の第2の関数F2に倣ったレーザ出力であってもよい。所定の第1の関数F1、所定の第2の関数F2は、4kW/msの傾きをもつ線形関数でもよい。ただし、施工状態によっては前述の限りではない。
【0027】
上記のように、溶滴の離脱を検知し、溶滴の離脱移行中のレーザ出力を低下もしくは0になるように制御することで、レーザと溶滴の干渉の発生頻度が低くなり、干渉した際の影響が弱くなる。よって溶接移行中の溶滴の爆発が発生しにくく、スパッタの発生おさえ良好なビード外観を得ることができる。
【0028】
次にアーク出力制御部2を説明する。アーク出力制御部2は、図8に示すようにアーク長が極端に短くなったこと検知した時点VE1より、アーク電源部4に対し、パルスピークの値を所定の第1のパルスピークの値P1に変化させるアーク出力制御信号を出力させる。アーク長を検出する方法としては、電圧の急激な減少、短絡回数の増加を検出する方法、また画像処理による方法等がある。アーク電源部4は前記信号に応じたアーク出力を行う。所定の第1のパルスピークの値P1は、本溶接中におけるパルスピークの値である所定の第2のパルスピークの値P2よりも高い値である必要がある。例えば、本溶接中のパルスピークの値より10%高い値(例えば本溶接中のパルスピークの値が320Aの場合350A)でもよい。これによりアーク電圧が増大しアーク長を伸ばすことができる。アーク長が伸びたことにより、レーザとワイヤ先端の干渉を避けることができ、安定した溶接が可能となる。
【0029】
上記は、パルスピークの値のみを変化させた例であるが、パルスベースの値、パルス周波数の値、パルス幅の値のいずれかもしくは複数の値を変化させてもよい。
【0030】
次にアーク出力制御部2は、図8に示すように、アーク長が適正になった時点VE2より、溶接電源に対し、パルスピークの値を所定の第2のパルスピークの値P2に変化させるアーク出力制御信号を出力する。アーク電源部4は前記信号に応じたアーク出力を行う。
【0031】
上記は、レーザ発振機5に半導体レーザを用いた例であるが、レーザ発振機5は、レーザ発振可能なYAGレーザ、CO2レーザ等であってもよい。また、アーク電源部4に、消耗電極式パルスMIG溶接機を用いた例であるが、アーク溶接可能な、消耗電極式パルスCO2/MAG溶接機、消耗電極式CO2/MAG/MIG溶接機、消耗電極式交流パルスCO2/MAG/MIG溶接機であってもよい。
【0032】
(実施の形態2)
図2のように構成されたレーザハイブリッドアーク溶接システムについて、その動作を説明する。
【0033】
本実施の形態において実施の形態1と同様の構成については同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
【0034】
図2において、レーザ出力制御部1は、設定電流、設定電圧、ワイヤ送給速度、シールドガス種類、ワイヤ種類、ワイヤ径、ワーク材質、溶接速度の少なくとも1つ以上の設定値と、施工状態検出部3が検出するアーク電流、アーク電圧、アーク長といった施工状態検出情報を入力とし、図4〜7の所定の第1のレーザ出力の値L1、所定の第2のレーザ出力の値L2、所定の第1の時間T1、所定の第1の関数F1、所定の第2の関数F2を設定する。例えば、設定電流180Aの場合、所定の第1の時間T1を2msと設定するようなテーブルを用いてもよい。また、「所定の第1の時間T1=所定の定数/E1時点でのアーク電流」のように表記される関数で設定してもよい。
【0035】
また、図2において、アーク出力制御部2は、設定電流、設定電圧、ワイヤ送給速度、シールドガス種類、ワイヤ種類、ワイヤ径、ワーク材質、溶接速度の少なくとも1つ以上の設定値と、施工状態検出部3が検出するアーク電流、アーク電圧、アーク長といった施工状態検出情報を入力とし、図8の所定の第1のパルスピークの値P1と所定の第2のパルスピークの値P2と所定の第1のパルスベースの値B1と所定の第2のパルスベースの値B2と所定の第1のパルス周波数の値H1と所定の第2のパルス周波数の値H2を設定する。例えば、φ1.2mm径5356ワイヤ、設定電流180Aの施工の場合、所定の第1のパルスピークの値P1は350A、所定の第2のパルスピークの値は320Aと設定する条件テーブルを作成してもよい。また、「所定の第1のパルスピークの値P1=所定の第2のパルスピークの値P2+所定の係数×(設定電圧−アーク電圧)」のように表記される関数で設定してもよい。
【0036】
以上のように、アーク長が短くなった場合に、パルスピークの値を上げることで、アーク長を適正に保つことができ、溶接ワイヤとレーザの干渉をさけ、不必要な溶接ワイヤの溶融を避け、溶接安定性の向上、溶接欠陥の発生を防止することができる。
【0037】
(実施の形態3)
図3のように構成されたレーザハイブリッドアーク溶接システムについて、その動作を説明する。
【0038】
本実施の形態において実施の形態1と同様の構成については同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
【0039】
図3の構成では、2機のレーザ発振機5,5'と2機のレーザハイブリッドアーク溶接機9,9'から構成されるレーザハイブリッドアーク溶接システムであるが、2機以上もしくは1機のレーザ発振機と2機以上もしくは1機のレーザハイブリッドアーク溶接機から構成されてもよい。図3に示すように、レーザ発振機5と第2のレーザ発振機5'のレーザ出力は、レーザ出力切替機10により、レーザヘッド6と第2のレーザヘッド6'に切り替えられる。切替方法はミラーを物理的に回転させ切り替える方法でもよいし、ファイバーを切り替える方法でもよい。
【0040】
(実施の形態4)
図9のように構成されたレーザハイブリッドアーク溶接システムについて、その動作を説明する。
【0041】
本実施の形態において実施の形態1と同様の構成については同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
【0042】
図9は、1機のレーザ発振機5と、2機のレーザハイブリッドアーク溶接機を組み合わせた例である。
【0043】
2機のレーザハイブリッドアーク溶接機9、9'は、2つのワーク8、8'の溶接を行う。レーザ発振機5からのレーザ出力は、レーザ出力切替機10で切り替えられ、レーザヘッド6にて施工が行われる場合は、レーザヘッド6へレーザ出力を供給し、第2のレーザヘッド6'にて施工が行われる場合は、第2のレーザヘッド6'へレーザ出力を供給する。これにより、1機のレーザ発振機5を用いた、2つのレーザハイブリッドアーク溶接システムを構築することが可能で、従来2機のレーザ発振機が必要であった場合に比べ、導入コストの削減が図れる。
【0044】
上記は、レーザヘッド6と第2のレーザヘッド6'は同時にレーザ出力をしないことが前提であったが、レーザヘッド6と第2のレーザヘッド6'へのレーザ出力を施工中にパルス状に切り替えることにより、同時に施工をおこなうことも可能である。また、半導体素子を用いて、レーザ出力を分割することによっても、2つのレーザヘッドに同時にレーザ出力を供給することができる。
【0045】
(実施の形態5)
図10のように構成されたレーザハイブリッドアーク溶接システムについて、その動作を説明する。
【0046】
本実施の形態において実施の形態1と同様の構成については同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
【0047】
図10は、2機のレーザ発振機と1機のレーザハイブリッドアーク溶接機を組み合わせた例である。図10では、施工状況に応じて、レーザ発振機5と第2のレーザ発振機5'のレーザ出力を重畳して、レーザヘッド6に出力し、1機のレーザ発振機では得ることのできない高出力を得ることができる。これにより高コストである高出力レーザ発振機の設備導入の必要がなく、既存のレーザ発振機を組み合すことで高出力レーザ施工も含めた多様な施工に対応できる。
【0048】
また、あらかじめ予備のレーザ発振機を準備しておくことで、仮に1機のレーザ発振機に故障があったような場合でも、予備のレーザ発振機の出力を自動的に切り替え、システム(製造ライン等)の停止をさけることができる。またレーザ発振機の保守をおこなうような場合にも、システムを停止する必要がない。
【0049】
(実施の形態6)
図11のように構成されたレーザハイブリッドアーク溶接システムについて、その動作を説明する。
【0050】
本実施の形態において実施の形態1と同様の構成については同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
【0051】
図11は、施工状態検出器3とレーザ出力制御部1とアーク出力制御部2とレーザ出力制御信号に応じたレーザ出力動作をするレーザ発振機を備えたレーザハイブリッドアーク溶接用レーザ発振機11と前記レーザハイブリッドアーク溶接用レーザ発振機が出力するアーク出力制御信号に応じたアーク出力動作をするアーク電源部4と溶接トーチ7とレーザヘッド6を備えたレーザハイブリッドアーク溶接システムの例である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のレーザハイブリッドアーク溶接機とレーザハイブリッドアーク溶接システムによれば、溶接欠陥のない安定した溶接及び良好なビード外観、溶接強度を得ることができ、またレーザ発振機の導入コストを抑えることが可能なので、産業上、有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 レーザ出力制御部
2 アーク出力制御部
3 施工状態検出器
4 アーク電源部
5 レーザ発振機
5' 第2のレーザ発振機
6 レーザヘッド
6' 第2のレーザヘッド
7 溶接トーチ
7' 第2の溶接トーチ
8 ワーク
8' 第2のワーク
9 レーザハイブリッドアーク溶接機
9' 第2のレーザハイブリッドアーク溶接機
10 レーザ出力切替機
11 レーザハイブリッドアーク溶接用レーザ発振機
T1 所定の第1の時間
L1 所定の第1のレーザ出力の値
L2 所定の第2のレーザ出力の値
E1 溶滴の離脱を検知した時点
E2 溶滴の溶融池への移行を検知した時点
E3 所定の第1のレーザ出力の値L1にレーザ出力を変化させてから所定の第1の時間T1経過した時点
E4 パルスベース制御開始時点
F1 所定の第1の関数
F2 所定の第2の関数
H1 所定の第1のパルス周波数の値
P1 所定の第1のパルスピークの値
B1 所定の第1のパルスベースの値
H2 所定の第2のパルス周波数の値
P2 所定の第2のパルスピークの値
B2 所定の第2のパルスベースの値
VE1 アーク長が短くなったことを検知した時点
VE2 アーク長が適正になった時点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク電流、アーク電圧、アーク電力、ワークの溶融状態、溶接ワイヤ突き出し長、アーク長、溶接ワイヤ溶滴移行状況の少なくとも1つ以上の施工状態を監視する施工状態検出器と、
前記施工状態検出器からの信号を入力し、溶接ワイヤから溶滴が離脱したことを検知し、所定の第1のレーザ出力の値にレーザ出力を変化させるレーザ出力制御信号を出力するレーザ出力制御部と、
前記施工状態検出器からの信号を入力し、アーク出力を制御するアーク出力制御信号を出力するアーク出力制御部と、
前記アーク出力制御信号に応じた出力動作をするアーク電源部とを設けたレーザハイブリッドアーク溶接機。
【請求項2】
レーザ出力制御部が、溶滴の溶融池への移行を検知した後、所定の第2のレーザ出力の値にレーザ出力を変化させるレーザ出力制御信号を出力する請求項1に記載のレーザハイブリッドアーク溶接機。
【請求項3】
レーザ出力制御部が、所定の第1のレーザ出力の値にレーザ出力を変化させてから所定の第1の時間の後、所定の第2のレーザ出力の値にレーザ出力を変化させるレーザ出力制御信号を出力する請求項1に記載のレーザハイブリッドアーク溶接機。
【請求項4】
レーザ出力制御部が、所定の第2のレーザ出力の値への出力移行の際は、所定の第1の関数に倣ったレーザ出力を行うレーザ出力制御信号を出力する請求項2又は3記載のレーザハイブリッドアーク溶接機。
【請求項5】
レーザ出力制御部が、所定の第1のレーザ出力の値への出力移行の際は、所定の第2の関数に倣ったレーザ出力を行うレーザ出力制御信号を出力する請求項1から4の何れかに記載のレーザハイブリッドアーク溶接機。
【請求項6】
レーザ出力制御部が、所定の第1のレーザ出力の値と所定の第2のレーザ出力の値と所定の第1の時間と所定の第1の関数と所定の第2の関数を設定電流、設定電圧、ワイヤ送給速度、シールドガス種類、ワイヤ種類、ワイヤ径、ワーク材質、溶接速度、アーク電流、アーク電圧、アーク長のいずれか1つ以上の関数として設定する請求項1〜5の何れかに記載のレーザハイブリッドアーク溶接機。
【請求項7】
アーク出力制御部が、アーク長が短くなったことを検知し、パルスピークの値、パルスベースの値、パルス周波数の値の少なくとも1つ以上の値を所定の第1のパルスピークの値、所定の第1のパルスベースの値、所定の第1のパルス周波数の値に変化させるアーク出力制御信号を出力し、
アーク出力制御部が、アーク長が適正になったことを検知し、パルスピークの値、パルスベースの値、パルス周波数の値の少なくとも1つ以上の値を所定の第2のパルスピークの値、所定の第2のパルスベースの値、所定の第2のパルス周波数の値に変化させるアーク出力制御信号を出力する
請求項1〜6の何れかに記載のレーザハイブリッドアーク溶接機。
【請求項8】
アーク出力制御部が、所定の第1のパルスピークの値と所定の第2のパルスピークの値と所定の第1のパルスベースの値と所定の第2のパルスベースの値と所定の第1のパルス周波数の値と所定の第2のパルス周波数の値を、設定電流、設定電圧、ワイヤ送給速度、シールドガス種類、ワイヤ種類、ワイヤ径、ワーク材質、溶接速度、アーク電流、アーク電圧、アーク長のいずれか1つ以上の関数として設定する請求項7記載のレーザハイブリッドアーク溶接機。
【請求項9】
請求項1から8の何れかに記載のレーザハイブリッドアーク溶接機と前記レーザハイブリッドアーク溶接機のアーク出力をワークに印加する溶接トーチと前記レーザハイブリッドアーク溶接機が出力するレーザ出力制御信号に応じたレーザ出力動作をするレーザ発振機と前記レーザ発振機のレーザ出力をワークに照射するレーザヘッドを設けたレーザハイブリッドアーク溶接システム。
【請求項10】
アーク電源部が消耗電極式パルスCO2/MAG/MIG溶接機、消耗電極式CO2/MAG/MIG溶接機、消耗電極式交流パルスCO2/MAG/MIG溶接機のいずれか1つ以上の組み合わせで、レーザ発振機が半導体レーザ、YAGレーザ、CO2レーザのいずれか1つ以上の組み合わせである請求項9に記載のレーザハイブリッドアーク溶接システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−178773(P2009−178773A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123777(P2009−123777)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【分割の表示】特願2004−84374(P2004−84374)の分割
【原出願日】平成16年3月23日(2004.3.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】