説明

レーザーマーキング用インキ及びレーザーマーキング方法

【課題】包装材の表面に、ロット番号、賞味期限等のマーキングを鮮明に且つ効率的に施すことを目的とする。
【解決手段】レーザー光を吸収して発熱するレーザー光吸収剤5質量%〜40質量%と、レーザー光吸収剤の熱により変色する樹脂2質量%〜30質量%と、樹脂を溶解する溶剤とを含有するインキが印刷された基材の印刷部分にレーザー光を照射する。ここで用いる樹脂には、ニトロセルロ−ス、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、塩化ゴム、ポリエステル及びこれらの混合物が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーマーキング用インキ及びそれを用いたレーザーマーキング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
包装材の表面には、品質管理、製造管理等のため、製造所等の記号、ロット番号、賞味期限等の日付等の種々のマーキングが施されている。これらのマーキングは、作業効率やコストの観点から、インクジェット方式により行われることが多い(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−048187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、インクジェット方式による従来のマーキングでは、インキが原因と思われるノズルのつまりが生じてマーキングの不良となることがあったり、マーキングを施す部分が内容物、異物等で僅かに汚染されているだけでマーキングできないことがあり、仮にマーキングできたとしても後の製造工程や流通工程においてマーキングが消失したり不鮮明になるという問題点がある。更に、予め特定の形状に成形された包装材の表面にマーキングを施す場合には、成形性を高めるために塗布された流動パラフィンのような離型剤が原因でインキがはじかれてマーキングの不良となるという問題点もある。
従って、本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、包装材の表面に鮮明なマーキングを効率的に施すことのできるマーキング方法及びそれに用いるレーザーマーキング用インキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための第一の発明は、レーザー光を吸収して発熱するレーザー光吸収剤5質量%〜40質量%と、レーザー光吸収剤の熱により変色する樹脂2質量%〜30質量%と、樹脂を溶解する溶剤とを含有することを特徴とするレーザーマーキング用インキである。
ここで、レーザー光吸収剤は、YVO4レーザー光の波長域に吸収帯を有する物質を含むことが好ましい。また、レーザー光吸収剤の熱により変色する樹脂は、ニトロセルロ−ス、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、塩化ゴム、ポリエステル及びこれらの混合物からなる群から選択されることが好ましい。
【0006】
第二の発明は、上記レーザーマーキング用インキが印刷された基材の印刷部分にレーザー光を照射することを特徴とするレーザーマーキング方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、包装材の表面に鮮明なマーキングを効率的に施すことのできるレーザーマーキング用インキ及びレーザーマーキング方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明によるレーザーマーキング用インキは、レーザー光を吸収して発熱するレーザー光吸収剤と、レーザー光吸収剤の熱により変色する樹脂と、樹脂を溶解する溶剤とを必須成分として含むことを特徴とするものである。
【0009】
本発明において、レーザー光を吸収して発熱するレーザー光吸収剤とは、好ましくはYVO4レーザー光(1064nm)の波長域に吸収帯があり、この波長域の光を熱に変換することができる機能を有する公知の材料のことを言う。通常、本発明におけるレーザー光吸収剤はレーザー光が照射されても変色や発色しないものである。このようなレーザー光吸収剤の代表的なものには、雲母や、雲母をアンチモンドープ酸化スズ、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化鉄等の金属酸化物の少なくとも1種で被覆したものが挙げられる。市販品としては、例えば、メルク株式会社のレーザーフレア(登録商標)820、825、830、835等がある。
これらのレーザー光吸収剤は、レーザーマーキング用インキに対して、5質量%〜40質量%、好ましくは15質量%〜25質量%の割合で含有される。レーザー光吸収剤の含有量が5質量%より少ないと発色が悪く、一方、40質量%より多いと印刷し難く、基材との密着が悪くなる。
【0010】
本発明における樹脂としては、レーザー光吸収剤からの熱により変色(灰色から墨色)するものであればよく、具体的には、ニトロセルロ−ス、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、塩化ゴム、ポリエステル又はこれらの混合物が挙げられる。
レーザー光吸収剤の熱により変色する樹脂は、レーザーマーキング用インキに対して、2質量%〜30質量%、好ましくは10質量%〜20質量%の割合で含有される。樹脂の含有量が2質量%より少ないと発色が悪く、一方、30質量%より多いと印刷し難く、基材との密着が悪くなる。
【0011】
更に、より鮮明なマーキングを得る観点から、レーザー光吸収剤と樹脂との好ましい組み合わせは、レーザーフレア(登録商標)820とニトロセルロース及びアクリル系樹脂との組み合わせ、レーザーフレア(登録商標)820とアクリル系樹脂との組み合わせ等が挙げられる
【0012】
溶剤としては、上記樹脂を溶解することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、酢酸エチル、酢酸n−プロピル等のエステル系溶剤、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン系溶剤、イソプロピルアルコール、メタノール、1−メトキシ−2−プロパノール等のアルコール系溶剤やこれらの混合溶剤が挙げられる。溶剤の含有量は、インキの印刷対象である基材や採用する印刷方式に応じて適宜設定されるが、通常、レーザーマーキング用インキに対して、40質量%〜70質量%である。
【0013】
また、本発明によるレーザーマーキング用インキには、通常の印刷インキに含まれる成分を必要に応じて添加してもよい。このような成分としては、例えば、顔料、沈降防止剤、酸化チタン(IV)等を添加することができる。
【0014】
本発明によるレーザーマーキング用インキの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、上記樹脂を溶解させた樹脂溶液中にレーザー光吸収剤を添加し、撹拌する方法が挙げられる。
【0015】
本発明のレーザーマーキング用インキは、グラビア印刷、シルクスクリーン印刷、フレキソ印刷、エアナイフコーティング、ブレードコーティング等の任意の印刷方式を採用して、基材上に印刷される。これらの中でも、生産効率が高いという点で、グラビア印刷が好ましく用いられる。基材上に印刷されるレーザーマーキング用インキの厚みは、乾燥皮膜として1g/m2〜5g/m2であることが好ましい。レーザーマーキング用インキの厚みが乾燥皮膜として1g/m2未満であると、発色が十分に得られない場合があり、一方、5g/m2を超えるとレーザーマーキング用インキの基材への密着不良の原因となる。
【0016】
基材は特に限定されるものではなく、紙基材等の通常の包装材に用いられるものが挙げられる。紙基材としては、コートボール、カード紙、アイボリー紙、マニラボール等の板紙、ミルクカートン原紙、カップ原紙、クラフト紙、上質紙等の公知の紙を用いることができる。また、包装材の最終的な形態に応じて、レーザーマーキング用インキが印刷された基材の印刷部分(乾燥皮膜)を覆うように樹脂フィルムを積層させてもよい。ここで用いる樹脂フィルムとしては、マーキング時に樹脂フィルムが損傷を受けない(劣化しない)ように、照射されるレーザー光を透過し得る材料から適宜選択すればよい。具体的には、樹脂フィルムは、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、チーグラー系低密度ポリエチレン、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート等の材料から適宜選択される。
【0017】
本発明によるレーザーマーキング方法は、上述したレーザーマーキング用インキが印刷された基材の印刷部分にレーザー光を照射することを特徴とするものである。本発明のレーザーマーキング方法では、マーキングを施す部分が内容物、異物、離型剤等で多少汚染されていてもレーザー光はそれを透過するので、ロット番号、賞味期限等のマーキングを確実に施すことができるという利点を有する。更に、マーキング時に照射されるレーザー光はレーザーマーキング用インキの印刷部分で吸収されるので、基材に殆ど損傷を与えることがないという利点も有する。
【0018】
本発明において用いることのできるレーザー装置としては、平均出力が6W以上、好ましくは13W以上であり、ピークパワーが30kW以上、好ましくは100kW以上であり、パルス幅が6ns以下、好ましくは4ns以下の走査型レーザー装置が好ましく、例えば、YVO4レーザー、YAGレーザー等が挙げられ、これらの中でもより鮮明なマーキングが得られる点で、YVO4レーザーが好ましく用いられる。また、走査型レーザー装置を用いる場合、スキャン速度やスキャン数は特に制限されるものではないが、スキャン速度が速過ぎるとマーキングの鮮明さが若干低下する傾向があり、また、スキャン数を増やすとマーキングの鮮明さが若干向上する傾向がある。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、それらは例示であって本発明を限定するものではない。
<実施例1>
ラミCPメジューム、ラミCP709白、ラミCP507原色藍色コンク及びラミCP500草(いずれも大日本インキ化学工業社製)の混合樹脂溶液(ニトロセルロース4.0質量%、アクリル系樹脂5.1質量%、トルエン18.8質量%、酢酸エチル18.8質量%及びイソプロピルアルコール18.8質量%を含み、残部は顔料等)80質量部に、レーザー光吸収剤としてレーザーフレア820(メルク株式会社製、雲母38.5質量%、アンチモンドープ酸化スズ43質量%、酸化チタン13質量%及び酸化ケイ素5.5質量%を含む)を20質量部添加した後、撹拌して水色レーザーマーキング用インキを調製した。
上記で調製した水色レーザーマーキング用インキをヘリオ70線∠0版(彫刻)を用いたグラビア印刷でカップ原紙に印刷した後、押出しコーティング(EC)により印刷面上にポリエチレンをラミネートして積層体を作製した。水色レーザーマーキング用インキの塗布量は、乾燥皮膜として1.5g/m2となる量とした。得られた積層体の模式断面図を図1に示した。なお、図1において、1は基材としてのカップ原紙、2は水色レーザーマーキング用インキの乾燥皮膜層、3は樹脂フィルムとしてのポリエチレン層を表す。
【0020】
<レーザーマーキング方法>
市販のYVO4レーザー装置(株式会社キーエンス製MD−V9900、平均出力13W、ピークパワー100kW、パルス幅4ns)を使用して、実施例1で作製された積層体にYVO4レーザー光(波長1064nm)をポリエチレン層側から照射してマーキングを行った。この時のレーザー照射条件は、レーザー出力を30%〜100%の範囲で変え、スキャンスピード1500mm/秒、スキャン数3回とした。次に、マーキングの鮮明さを目視により、◎:極めて鮮明、○:鮮明、△:実用上問題なし、×認識不可の4段階で評価した。結果を表1に示した。
【0021】
【表1】

【0022】
表1の結果から明らかなように、カップ原紙にポリエチレン層がラミネートされた包装材の表面にマーキングを施すことができた。また、積層体のマーキングが施された部分を学振型摩擦堅牢度試験機で擦ったが、マーキングが不鮮明になることはなかった。更に、実施例1で作製された積層体のポリエチレン層表面に流動パラフィンを塗布してからマーキングを行ったところ、同様の結果が得られ、マーキング不良は認められなかった。
【0023】
<実施例2>
ヘリオ70線∠0版(彫刻)の代わりに、ダイレクト175線35μ版(腐食)を用いて1度刷りすることにより、水色レーザーマーキング用インキの塗布量を乾燥皮膜として2.0g/m2となる量とした以外は、実施例1と同様にマーキングを行ったところ、実施例1と同等のマーキングを施すことができた。また、積層体のマーキングが施された部分を学振型摩擦堅牢度試験機で擦ったが、マーキングが不鮮明になることはなかった。更に、実施例2で作製された積層体のポリエチレン層表面に流動パラフィンを塗布してからマーキングを行ったところ、同様の結果が得られ、マーキング不良は認められなかった。
【0024】
<実施例3>
ヘリオ版70線∠0版(彫刻)を用いて2度刷りすることにより、水色レーザーマーキング用インキの塗布量を乾燥皮膜として3.0g/m2となる量とした以外は、実施例1と同様にマーキングを行ったところ、各レーザー出力において実施例1よりも若干鮮明なマーキングを施すことができた。また、積層体のマーキングが施された部分を学振型摩擦堅牢度試験機で擦ったが、マーキングが不鮮明になることはなかった。更に、実施例3で作製された積層体のポリエチレン層表面に流動パラフィンを塗布してからマーキングを行ったところ、同様の結果が得られ、マーキング不良は認められなかった。
【0025】
<実施例4>
ヘリオ70線∠0版(彫刻)の代わりに、ダイレクト175線35μ版(腐食)を用いて2度刷りすることにより、水色レーザーマーキング用インキの塗布量を乾燥皮膜として4.0g/m2となる量とした以外は、実施例1と同様にマーキングを行ったところ、各レーザー出力において実施例1よりも若干鮮明なマーキングを施すことができた。また、積層体のマーキングが施された部分を学振型摩擦堅牢度試験機で擦ったが、マーキングが不鮮明になることはなかった。更に、実施例3で作製された積層体のポリエチレン層表面に流動パラフィンを塗布してからマーキングを行ったところ、同様の結果が得られ、マーキング不良は認められなかった。
【0026】
<比較例1>
カップ原紙の表面にポリエチレンをラミネートして比較例1の積層体を作製した。得られた積層体のポリエチレン層表面に従来のインクジェット装置を用いてマーキングを行ったところ、極めて鮮明な(◎)マーキングを施すことができた。また、積層体のマーキングが施された部分を学振型摩擦堅牢度試験機で擦ったところ、マーキングが若干不鮮明になった。更に、比較例1で作製された積層体のポリエチレン層表面に流動パラフィンを塗布してからマーキングを行ったところ、インキが部分的にはじかれてマーキングが認識できない(×)部分が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1で得られた積層体の模式断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 カップ原紙、2 レーザーマーキング用インキの乾燥皮膜層、3 ポリエチレン層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を吸収して発熱するレーザー光吸収剤5質量%〜40質量%と、レーザー光吸収剤の熱により変色する樹脂2質量%〜30質量%と、樹脂を溶解する溶剤とを含有することを特徴とするレーザーマーキング用インキ。
【請求項2】
前記レーザー光吸収剤が、YVO4レーザー光の波長域に吸収帯を有する物質を含むことを特徴とする請求項1に記載のレーザーマーキング用インキ。
【請求項3】
前記樹脂が、ニトロセルロ−ス、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、塩化ゴム、ポリエステル及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザーマーキング用インキ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載のレーザーマーキング用インキが印刷された基材の印刷部分にレーザー光を照射することを特徴とするレーザーマーキング方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−83185(P2009−83185A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253392(P2007−253392)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】