説明

レーザー光照射装置およびレーザー光照射方法

【課題】出力変動が抑制され、照射するレーザー光の出力が安定化されたレーザー光照射装置およびレーザー光照射方法を提供する。
【解決手段】フィルムを切断するために当該フィルムにレーザー光を照射するレーザー光照射装置10は、レーザー光Lを発振するレーザー光発振機1と、レーザー光発振機1から発振されたレーザー光Lを二つに分岐し、反射光L1であるレーザー光をフィルムに照射するビームスプリッター3と、透過光L2であるレーザー光の強度を測定するパワーセンサー4と、測定された強度からレーザー光発振機1の出力値を算出し、設定値に対する上記出力値の大小を判断して、レーザー光発振機1の出力値を設定値に近づけるように補正する処理ボード5と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力変動が抑制され、照射するレーザー光の出力が安定化されてフィルムを適切に切断することができるレーザー光照射装置およびレーザー光照射方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光フィルムは液晶パネル等の各種製品に広く用いられている。従来、偏光フィルムの切断加工には刃物が用いられているものの、被切断物からフィルム屑等の異物が生じ易く、この異物が偏光フィルムに付着することにより、被切断物である製品の歩留まりが低下してしまう。
【0003】
そこで、近年、偏光フィルムの切断加工には、刃物に代わってレーザー光が使用されている。レーザー光で切断加工を行うことにより、刃物による切断加工と比較して、被切断物からフィルム屑等の異物が生じ難くなるので、被切断物である製品の歩留まりの低下を抑制することができる。このため、レーザー光による切断方法は有用であり、例えば特許文献1〜5に記載されているように、種々の方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−284572号公報(2008年11月27日公開)
【特許文献2】特開2008−302376号公報(2008年12月18日公開)
【特許文献3】特開2009−22978号公報 (2009年2月5日公開)
【特許文献4】特開2009−167321号公報(2009年7月30日公開)
【特許文献5】特開2010−53310号公報 (2010年3月11日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に、レーザー光発振機は、レーザー光の出力が一定ではなく、ごく短い周期(例えば1ミリ秒)で、出力値が設定値を挟んだ一定の振幅で変動するという特性を有している。それゆえ、レーザー光発振機の出力変動により、偏光フィルムを切断加工するのに必要な値にレーザー光の出力値を設定していても、実際には偏光フィルムを適切に切断加工することができない場合があるという問題点を有している。当該問題点について、以下に具体的に説明する。
【0006】
通常、偏光フィルムの切断加工は、偏光フィルムの長尺物を一定の速度で搬送しながらレーザー光を照射することによって連続的に行われる。ここで、レーザー光の出力値を偏光フィルムの切断加工に必要な(かつ、より低い)値に設定すると、出力変動によって当該出力値が設定値よりも一定以上低く(小さく)なったときには、偏光フィルムが切断されなくなってしまう。それゆえ、切断加工後の偏光フィルムを巻回するときに当該偏光フィルムの端部(切断部)が引き千切られた状態になったり、端部から偏光フィルム内側に向かって破れたりするという不都合が発生することとなる。一方、上記不都合を解消するために、即ち、出力値が設定値よりも一定以上低くなったときにおいても切断加工ができるように、レーザー光の出力値を偏光フィルムの切断加工に必要な値よりも高い値に設定すると、出力変動によって当該出力値が設定値よりも一定以上高く(大きく)なったときには、出力値が高くなり過ぎ、偏光フィルムの端部(切断部)がレーザー光の照射による過剰な熱で溶解したり、熱膨張して盛り上がったり反り返ったりしてしまう。それゆえ、切断加工後の偏光フィルムにおいて品質の劣化が生じるという別の不都合が発生することとなる。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜5に記載されている切断方法においては、レーザー光発振機の上記特性、即ち、ごく短い周期で、レーザー光の出力が変動するという特性について、特段の考慮や対策は行われていない。つまり、上記特許文献1〜5に記載されている切断方法においては、偏光フィルムを適切に切断加工することができない場合があるという問題点を有している。それゆえ、偏光フィルムを常時、適切に切断加工することができるレーザー光照射装置およびレーザー光照射方法が求められている。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、出力変動が抑制され、照射するレーザー光の出力が安定化されたレーザー光照射装置およびレーザー光照射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るレーザー光照射装置は、上記課題を解決するために、フィルムを切断するために当該フィルムにレーザー光を照射するレーザー光照射装置であって、レーザー光を発振するレーザー光発振機と、レーザー光発振機から発振されたレーザー光を二つに分岐し、分岐させたレーザー光のうちの、一方のレーザー光をフィルムに照射するビームスプリッターと、分岐されたレーザー光のうちの、他方のレーザー光の強度を測定する測定装置と、測定された強度から上記レーザー光発振機の出力値を算出し、設定値に対する上記出力値の大小を判断して、上記レーザー光発振機の出力値を設定値に近づけるように補正する補正装置と、を備えていることを特徴としている。
【0010】
上記構成によれば、ビームスプリッターによって分岐されたレーザー光のうちの、他方のレーザー光の強度を測定装置で測定し、補正装置で上記強度からレーザー光発振機の出力値を算出し、設定値に対する上記出力値の大小を判断して、上記レーザー光発振機の出力値を設定値に近づけるように補正することができる。従って、上記レーザー光照射装置から発振されるレーザー光の出力値を、フィルムを切断するのに必要な(かつ、より低い)値に設定しても、出力変動が抑制されるので当該出力値が設定値よりも一定以上低く(小さく)なることはなく、フィルムを適切に切断することができる。それゆえ、出力変動(設定値に対する変動)が抑制され、照射するレーザー光の出力が安定化されてフィルムを適切に切断することができるレーザー光照射装置を提供することができる。
【0011】
上記測定装置は、分岐されたレーザー光のうちの、透過光の強度を測定するようになっていることがより好ましい。また、上記測定装置がパワーセンサーであることがより好ましい。さらに、上記レーザー光発振機がCOレーザー光発振機であることがより好ましい。
【0012】
本発明に係るレーザー光照射方法は、上記課題を解決するために、フィルムを切断するために当該フィルムにレーザー光を照射するレーザー光照射方法であって、レーザー光発振機から発振されたレーザー光を二つに分岐させ、分岐させたレーザー光のうちの、一方のレーザー光をフィルムに照射すると共に、他方のレーザー光の強度を測定し、測定した強度から上記レーザー光発振機の出力値を算出し、設定値に対する上記出力値の大小を判断して、上記レーザー光発振機の出力値を設定値に近づけるようにフルタイム補正することを特徴としている。
【0013】
上記構成によれば、分岐されたレーザー光のうちの、他方のレーザー光の強度を測定し、上記強度からレーザー光発振機の出力値を算出し、設定値に対する上記出力値の大小を判断して、上記レーザー光発振機の出力値を設定値に近づけるようにフルタイム補正する。従って、上記レーザー光照射装置から発振されるレーザー光の出力値を、フィルムを切断するのに必要な(かつ、より低い)値に設定しても、出力変動が抑制されるので当該出力値が設定値よりも一定以上低く(小さく)なることはなく、フィルムを適切に切断することができる。それゆえ、出力変動(設定値に対する変動)が抑制され、照射するレーザー光の出力が安定化されてフィルムを適切に切断することができるレーザー光照射方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るレーザー光照射装置およびレーザー光照射方法によれば、レーザー光の出力値を、フィルムを切断するのに必要な(かつ、より低い)値に設定しても、出力変動が抑制されるので当該出力値が設定値よりも一定以上低く(小さく)なることはなく、フィルムを適切に切断することができる。それゆえ、出力変動(設定値に対する変動)が抑制され、照射するレーザー光の出力が安定化されてフィルムを適切に切断することができるレーザー光照射装置およびレーザー光照射方法を提供することができるという効果を奏する。
【0015】
本発明に係るレーザー光照射装置およびレーザー光照射方法によって切断されたフィルムは、その端部(切断部)が引き千切られた状態になったり、端部から偏光フィルム内側に向かって破れたりすることはなく、しかも、レーザー光の出力値が必要以上に高く設定されていないため、溶解したり、熱膨張して盛り上がったり反り返ったりすることもない。それゆえ、切断加工後のフィルムにおいては、品質の劣化が生じるおそれはない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るレーザー光照射装置の一例を示すものであり、概略の構成を示すブロック図である。
【図2】(a),(b),(c)共に、上記レーザー光照射装置によってレーザー光の出力値が安定化された一例を示すものであり、レーザー光照射装置によって照射されたレーザー光の出力変動を示すグラフである。
【図3】従来のレーザー光照射装置の一例を示すものであり、概略の構成を示すブロック図である。
【図4】(a),(b),(c)共に、従来のレーザー光照射装置によって照射されたレーザー光の出力変動を示すグラフである。
【図5】(a),(b),(c)共に、本発明に係るレーザー光照射装置によって照射されたレーザー光の出力変動と、従来のレーザー光照射装置によって照射されたレーザー光の出力変動とを対比したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の一形態について、図1〜図5に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0018】
尚、以下の説明においては、切断されるフィルムが偏光フィルムである場合を例に挙げることとする。また、本発明においてフィルムを「切断する」とは、フィルムを少なくとも二つに分割することの他に、フィルムに貫通する切れ目を入れることやフィルムに所定の深さの溝(切れ込み)を形成すること等の「少なくとも一部を切断する」ことも包含されていることとする。より具体的には、「切断する」には、例えば、フィルムの端部の切断(切り落とし)、ハーフカット、マーキング加工等も含まれることとする。
【0019】
〔レーザー光照射装置〕
本発明に係るレーザー光照射装置の一例を図1に示す。図1に示すように、本実施形態に係るレーザー光照射装置10は、偏光フィルム(フィルム)を切断するために当該偏光フィルムにレーザー光を照射する装置であって、レーザー光発振機1、ベンドミラー2、ビームスプリッター3、パワーセンサー(測定装置)4、処理ボード(補正装置)5、および集光レンズ(図示しない)を備えると共に、必要に応じてビームエキスパンダー(図示しない)等の光学部材をさらに備えている。
【0020】
レーザー光発振機1は、レーザー光Lを発振する部材であり、例えば、COレーザー光発振機(二酸化炭素レーザー光発振機)、UVレーザー光発振機、半導体レーザー光発振機、YAGレーザー光発振機、エキシマレーザー光発振機等の発振機を用いることができるが、具体的な構成は特に限定されるものではない。上記例示の発振機の中でもCOレーザー光発振機は、例えば偏光フィルムの切断加工に好適な高出力でレーザー光を発振することができるので、より好ましい。
【0021】
一般に、レーザー光発振機は、レーザー光の出力が一定ではなく、ごく短い周期(例えば1ミリ秒)で、出力値が設定値を挟んだ一定の振幅で変動するという特性を有すると共に、出力が低い場合にはレーザー光の出力値が不安定となり易い(出力が高いほど出力値の変動幅が小さくなり易い)という特性も有している。このため、レーザー光発振機1の出力値をより一層安定化させるには、レーザー光発振機1の出力を比較的高出力にすることが望ましい。但し、出力値が高すぎると、偏光フィルムがレーザー光の照射による過剰な熱で溶解したり、熱膨張して盛り上がったり反り返ったりしてしまい、切断加工後の偏光フィルムにおいて品質の劣化が生じるおそれがある。それゆえ、レーザー光発振機1の出力値は、偏光フィルムの材質や厚さ等の条件に応じた適切な設定値に予め設定すればよい。即ち、レーザー光発振機1の具体的な出力値は、偏光フィルムの材質や厚さ、偏光フィルムの搬送速度、並びに、ビームスプリッター3による透過光および反射光の比率に応じて、適切な設定値に設定することが望ましい。
【0022】
照射するレーザー光Lの周波数は、レーザー光発振機1の出力、偏光フィルムの材質や厚さ、偏光フィルムの搬送速度等の条件により適宜設定すればよいが、概して5kHz以上、100kHz以下とすることができる。
【0023】
そして、レーザー光発振機1は、予め設定された設定値に従ってレーザー光を出力すると共に、補正装置である処理ボード5によって、その出力値が設定値に近づくようにフルタイム補正されるようになっている。
【0024】
レーザー光照射装置10は、ビームスプリッター3から偏光フィルムに向かう光路上に、ビームエキスパンダーを備えていることがより好ましい形態である。ビームエキスパンダーは、レーザー光L1を平行光束に広げる部材であり、公知のビームエキスパンダーを使用することができる。具体的には、ビームエキスパンダーにより、レーザー光L1の直径を例えば2倍〜10倍程度に広げることがより好ましい。レーザー光の直径を拡大することによって、偏光フィルムに照射するレーザー光のスポット径をより絞る(小さくする)ことができる。
【0025】
ベンドミラー(bent mirror) 2は、レーザー光発振機1から発振されたレーザー光Lをビームスプリッター3に向けて反射する部材である。上記ベンドミラー2は、例えば平面反射鏡が好適であるが、レーザー光Lをビームスプリッター3に向けて反射することができる構成であればよい。また、その個数は特に限定されるものではない。
【0026】
ビームスプリッター(beam splitter) 3は、レーザー光発振機1から発振されベンドミラー2にて反射されたレーザー光Lを、一定の比率(割合)で二つに分岐する部材である。即ち、ビームスプリッター3は、レーザー光Lを、一定の比率で反射光L1と透過光L2とに分岐する部材である。そして、ビームスプリッター3は、分岐させたレーザー光のうちの、反射光L1(一方のレーザー光)を、集光レンズ等の光学部材を介して偏光フィルムに照射して偏光フィルムの切断加工に使用すると共に、透過光L2(他方のレーザー光)を、パワーセンサー4に照射してレーザー光発振機1の出力調節に使用するようになっている。当該ビームスプリッター3は、公知のビームスプリッターを使用することができる。
【0027】
上記集光レンズは、例えば球面レンズや非球面レンズ等の公知のレンズを使用すればよく、特に限定されるものではない。尚、反射光L1であるレーザー光の集光径によって偏光フィルムの切断幅(切りしろ)が決定されることになるため、偏光フィルム上における当該レーザー光の集光径は、5μm以上、500μm以下であることが好ましく、10μm以上、400μm以下であることがより好ましい。
【0028】
尚、本実施形態に係るレーザー光照射装置10においては、反射光L1を偏光フィルムの切断加工に使用し、透過光L2をレーザー光発振機1の出力調節に使用する構成となっているが、例えばベンドミラー(図示しない)を用いることにより、透過光L2を偏光フィルムの切断加工に使用し、反射光L1をレーザー光発振機1の出力調節に使用する構成とすることもできる。
【0029】
測定装置としてのパワーセンサー(power sensor)4は、透過光L2を熱起電力に変換し、透過光L2であるレーザー光の強度を測定する素子である。つまり、パワーセンサー4は、レーザー光が照射されることによって発生する電力を測定し、これにより当該レーザー光の強度を測定するようになっている。パワーセンサー4による測定間隔は短い方がより好ましく、例えば10ミリ秒とすればよいが、特に限定されるものではない。尚、パワーセンサー4は、公知のパワーセンサーを使用することができる。また、測定装置は、レーザー光の強度を測定することができる構成であればよい。
【0030】
そして、パワーセンサー4は、測定したレーザー光の強度(測定値)のデータを、A/Dコンバータ(図示しない)を介して処理ボード5に送信する。上記A/Dコンバータは、測定値のアナログデータをデジタルデータに変換し、測定値のデジタルデータを処理ボード5に送信する。
【0031】
補正装置である処理ボード5は、CPU(central processing unit) 等の演算処理装置を内蔵している。当該処理ボード5は、パワーセンサー4からA/Dコンバータを介して受信した測定値のデジタルデータと、ビームスプリッター3での分岐における透過光L2の比率(割合)とから、上記レーザー光発振機1の出力値を算出し、予め設定された設定値に対する上記出力値の大小(過不足)を判断して、上記レーザー光発振機1の出力値を設定値に近づけるようにフルタイム補正するようになっている。つまり、処理ボード5は、演算結果をレーザー光発振機1にフルタイムで、具体的には例えば10ミリ秒毎にフィードバックして、レーザー光発振機1の実際の出力値を、設定値に近づくように調節(補正)するようになっている。より具体的には、透過光L2であるレーザー光の強度が小さく、レーザー光発振機1の出力値が設定値よりも小さい場合には、レーザー光Lの実際の出力値が大きくなるようにレーザー光発振機1の出力を調節し、一方、透過光L2であるレーザー光の強度が大きく、レーザー光発振機1の出力値が設定値よりも大きい場合には、レーザー光Lの実際の出力値が小さくなるようにレーザー光発振機1の出力を調節する。尚、処理ボード5は、上記算出および判断を行うことができる構成であればよく、従ってその具体的な構成は、特定の構成に限定されるものではない。
【0032】
本実施形態に係るレーザー光照射装置10においては、上記構成のパワーセンサー4および処理ボード5により、例えば10ミリ秒の測定間隔で透過光L2の強度を測定し、レーザー光Lの出力値を調節するいわゆるFTS(full time stabilizer)システムを採用してレーザー光発振機1の実際の出力値を設定値に近づくように調節(補正)することができるので、偏光フィルムを適切に切断することができる。
【0033】
本実施形態に係るレーザー光照射装置10は、例えば、偏光フィルムの切断加工を連続的に行うスリッター機(図示しない)を構成する一装置として使用される。スリッター機は、レーザー照射装置10の他に、長尺の偏光フィルム(後述する)を巻き出す巻出部、当該偏光フィルムを搬送する複数の搬送ロール、切断加工された偏光フィルムを巻き取る巻取部等の部材を備えている。以下、スリッター機について説明する。但し、スリッター機におけるレーザー照射装置10以外の構成は、公知の構成を採用することができるので、その説明を簡略化することとする。
【0034】
巻出部は、長尺の偏光フィルムを保持すると共に、回転装置により回転されることによって偏光フィルムを搬送ロールに向かって巻き出す部材であり、具体的には公知の巻出部が挙げられる。尚、偏光フィルムに加わる張力および偏光フィルムの搬送速度は、回転装置によって調節される。また、巻出部は一つ設置すればよいが、二つ設置することにより、一方の巻出部の偏光フィルムが全て巻き出される前に、当該偏光フィルムを他方の巻出部の偏光フィルムと連結することができるので、偏光フィルムの原反を交換する時間を削減することができる。
【0035】
偏光フィルムを搬送する搬送ロールとしては、公知の搬送ロールが挙げられる。通常、搬送ロールの幅は、1.5m〜2.5m程度である。偏光フィルムの搬送速度は、例えば、1m/秒以上、100m/秒以下とすればよいが、特に限定されるものではない。また、スリッター機には、偏光フィルムを搬送ロールに押し当てるタッチロールが備えられていてもよい。
【0036】
巻取部は、二つ設置されており、回転装置により回転されることによって切断加工された偏光フィルムを巻き取る部材であり、具体的には公知の巻取部が挙げられる。尚、切断加工された偏光フィルムに加わる張力および偏光フィルムの搬送速度は、回転装置によって調節される。
【0037】
レーザー照射装置10は、複数の搬送ロールによって形成される偏光フィルムの搬送経路の途中に配設されており、搬送ロールによって搬送される偏光フィルムを連続的に切断加工する。尚、偏光フィルムの切断加工は、偏光フィルムを移動させる代りにレーザー照射装置10を移動させながら行ってもよい。
【0038】
従って、上記構成のスリッター機を用いることにより、偏光フィルムを連続的に切断加工することができる。
【0039】
〔フィルム〕
レーザー照射装置10が切断するフィルム(切断対象)は、特に限定されるものではないが、公知の偏光フィルムを挙げることができる。当該偏光フィルムとしては、通常、長尺(例えば切断方向における偏光フィルムの長さが10m以上)の偏光フィルムが挙げられるが、短尺(例えば切断方向における偏光フィルムの長さが2m以上、10m未満)または板状(例えば切断方向における偏光フィルムの長さが10cm以上、2m未満)の偏光フィルムであってもよい。
【0040】
偏光フィルムの構成としては、具体的には、例えば、偏光子フィルムの両面に保護フィルム部材としてTAC(トリアセチルセルロース)フィルム、COP(シクロオレフィンポリマー)フィルム等のフィルムが貼合されており、レーザー照射装置10に対する面の逆面(裏面)のTACフィルムに、粘着剤を介して保護フィルムが積層された構成を挙げることができる。偏光フィルムの中心に位置する偏光子フィルムとしては、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素等の染色剤によって染色がなされて延伸されたフィルムに、TAC等の保護フィルム部材が貼合されたフィルムを挙げることができる。また、上記ポリビニルアルコールフィルムに代えて、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム、セルロース系フィルム等の親水性高分子フィルム、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン配向フィルムを使用することもできる。
【0041】
上記保護フィルムとしては、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタラートフィルム等のフィルムを用いることもできる。上記保護フィルムの厚さおよび幅は、特に限定されるものではないが、偏光フィルムの保護フィルムとして用いられる観点から、例えば、5μm以上、60μm以下の厚さであり、200mm以上、1500mm以下の幅であることが好ましい。
【0042】
保護フィルムを含めた偏光フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、100μm以上、500μm以下とすることができる。尚、偏光子フィルムの厚さは、概して10μm以上、50μm以下である。さらに、偏光フィルムは、実用上、問題が無い範囲において、上記三層(偏光子フィルム、TACフィルムおよびCOPフィルム、保護フィルム)以外にさらに他の層を含んでいてもよい。
【0043】
〔レーザー光照射方法〕
本実施形態に係るレーザー光照射方法は、偏光フィルム(フィルム)を切断するために当該偏光フィルムにレーザー光を照射する方法であって、レーザー光発振機1から発振されたレーザー光Lを二つに分岐させ、分岐させたレーザー光のうちの、例えば、反射光L1(一方のレーザー光)を、集光レンズ等の光学部材を介して偏光フィルムに照射して当該偏光フィルムの切断加工に使用すると共に、透過光L2(他方のレーザー光)であるレーザー光の強度を測定し、測定した強度(例えば測定値のデジタルデータ)と、ビームスプリッター3での分岐における透過光L2の比率(割合)とから、上記レーザー光発振機1の出力値を算出し、予め設定された設定値に対する上記出力値の大小(過不足)を判断して、上記レーザー光発振機1の出力値を設定値に近づけるようにフルタイム補正する方法である。
【0044】
上記レーザー光Lとしては、COレーザー光が、例えば偏光フィルムの切断加工に好適な高出力を得ることができるので、より好ましい。また、照射するレーザー光Lの周波数は、レーザー光発振機1の出力、偏光フィルムの材質や厚さ、偏光フィルムの搬送速度等の条件により適宜設定すればよいが、概して5kHz以上、100kHz以下とすることができる。
【0045】
レーザー光Lを二つに分岐させるには、上述した通りビームスプリッター3を用いればよい。但し、分岐方法はビームスプリッターを用いた方法に限定されるものではなく、レーザー光Lを二つに分岐させることができる方法であればよい。但し、反射光L1と透過光L2との比率は、レーザー光発振機1の出力、偏光フィルムの材質や厚さ、偏光フィルムの搬送速度等の条件に応じた適切な設定値とすればよく、特に限定されるものではない。
【0046】
尚、本実施形態に係るレーザー光照射方法においては、反射光L1をフィルムの切断加工に使用し、透過光L2をレーザー光発振機1の出力調節に使用する構成となっているが、透過光L2をフィルムの切断加工に使用し、反射光L1をレーザー光発振機1の出力調節に使用する構成とすることもできる。
【0047】
透過光L2であるレーザー光の強度を測定するには、上述した通りパワーセンサー4を用いればよい。但し、測定方法はパワーセンサーを用いた方法に限定されるものではなく、レーザー光の強度を測定することができる方法であればよい。また、測定間隔は短い方がより好ましく、例えば10ミリ秒とすればよいが、特に限定されるものではない。
【0048】
レーザー光発振機1の出力値を設定値に近づけるようにフルタイム補正するには、上述した通り処理ボード5を用いればよい。但し、補正方法は処理ボードを用いた方法に限定されるものではなく、測定したレーザー光の強度(例えば測定値のデジタルデータ)と、透過光L2の比率(割合)と、予め設定された設定値とを用いた演算結果をレーザー光発振機1に例えば10ミリ秒毎にフィードバックして、レーザー光発振機1の実際の出力値を、設定値に近づくように調節(補正)することができる方法であればよい。より具体的には、透過光L2であるレーザー光の強度が小さく、レーザー光発振機1の出力値が設定値よりも小さい場合には、レーザー光Lの実際の出力値が大きくなるようにレーザー光発振機1の出力を調節し、一方、透過光L2であるレーザー光の強度が大きく、レーザー光発振機1の出力値が設定値よりも大きい場合には、レーザー光Lの実際の出力値が小さくなるようにレーザー光発振機1の出力を調節することができる方法であればよい。
【0049】
本実施形態に係るレーザー光照射方法においては、例えば10ミリ秒の測定間隔で透過光L2の強度を測定し、レーザー光Lの出力値を調節するいわゆるFTS(full time stabilizer)システムを採用してレーザー光発振機1の実際の出力値を設定値に近づくように調節(補正)することができるので、偏光フィルムを適切に切断することができる。
【0050】
本実施形態に係るレーザー光照射方法は、例えば、偏光フィルムの切断加工を連続的に行うスリッター機に好適に採用することができる。
【0051】
尚、本発明に係るレーザー光照射装置およびレーザー光照射方法は、フィルムを適切に切断することができる装置および方法であるので、レーザー光切断装置およびレーザー光切断方法であると理解することもできる。
【実施例】
【0052】
本実施形態に係るレーザー光照射装置10の性能を検討した。また、本実施形態に係るレーザー光照射装置10の性能と対比するために、従来のレーザー光照射装置の性能を検討した。具体的には、本実施形態に係るレーザー光照射装置10および従来のレーザー光照射装置の、レーザー光発振機1から発振されるレーザー光Lの出力変動を測定した。
【0053】
性能を検討したレーザー光照射装置の構成を図3に示す。図3に示すように、従来のレーザー光照射装置20は、レーザー光発振機1、ベンドミラー2、ベンドミラー8、および集光レンズ(図示しない)を備えている。つまり、従来のレーザー光照射装置20は、ビームスプリッター、パワーセンサー、A/Dコンバータおよび処理ボードを備えておらず、レーザー光発振機1から発振されるレーザー光Lの全てをベンドミラー2およびベンドミラー8で反射して、フィルムの切断加工に使用する構成となっている。尚、レーザー光照射装置20は、上記レーザー光発振機1の出力値を設定値に近づけるように補正するための構成以外の構成(例えばビームエキスパンダー等の光学部材)については、レーザー光照射装置10と同様に備えている。また、レーザー光発振機1は、レーザー光照射装置10とレーザー光照射装置20とで同一の発振機を用いた。
【0054】
そして、本実施形態に係るレーザー光照射装置10と、従来のレーザー光照射装置20とを用いて、レーザー光発振機1から発振されるレーザー光Lの出力変動を測定した。
【0055】
即ち、レーザー光発振機1から発振されるレーザー光Lの出力値を14.0Wに設定し、フィルムを6m/分の速度で切断加工した。本実施形態に係るレーザー光照射装置10では、図2(a)に示すように、実際に出力されたレーザー光Lの出力値は概して13.4〜14.1Wの範囲内に納まった(平均13.8W,振れ幅0.7W)。これに対して、従来のレーザー光照射装置20では、図4(a)に示すように、実際に出力されたレーザー光Lの出力値は概して12.3〜15.0Wの範囲内にばらついた(平均13.8W,振れ幅2.7W)。従って、図5(a)に示す結果から明らかなように、レーザー光Lの出力値を14.0Wに設定した場合において、レーザー光照射装置10のレーザー光発振機1から発振されるレーザー光Lの出力変動は小さく、本実施形態に係るレーザー光照射装置10の性能は、従来のレーザー光照射装置20の性能と比較して、格段に優れていることが判った。
【0056】
また、レーザー光発振機1から発振されるレーザー光Lの出力値を49.5Wに設定し、フィルムを30m/分の速度で切断加工した。本実施形態に係るレーザー光照射装置10では、図2(b)に示すように、実際に出力されたレーザー光Lの出力値は概して48.9〜50.4Wの範囲内に納まった(平均49.5W,振れ幅1.6W)。これに対して、従来のレーザー光照射装置20では、図4(b)に示すように、実際に出力されたレーザー光Lの出力値は概して46.4〜51.1Wの範囲内にばらついた(平均49.2W,振れ幅4.7W)。従って、図5(b)に示す結果から明らかなように、レーザー光Lの出力値を49.5Wに設定した場合において、レーザー光照射装置10のレーザー光発振機1から発振されるレーザー光Lの出力変動は小さく、本実施形態に係るレーザー光照射装置10の性能は、従来のレーザー光照射装置20の性能と比較して、格段に優れていることが判った。
【0057】
また、レーザー光発振機1から発振されるレーザー光Lの出力値を100.0Wに設定し、フィルムを60m/分の速度で切断加工した。本実施形態に係るレーザー光照射装置10では、図2(c)に示すように、実際に出力されたレーザー光Lの出力値は概して99.3〜100.6Wの範囲内に納まった(平均99.9W,振れ幅1.3W)。これに対して、従来のレーザー光照射装置20では、図4(c)に示すように、実際に出力されたレーザー光Lの出力値は概して95.2〜102.8Wの範囲内にばらついた(平均99.1W,振れ幅7.6W)。従って、図5(c)に示す結果から明らかなように、レーザー光Lの出力値を100.0Wに設定した場合において、レーザー光照射装置10のレーザー光発振機1から発振されるレーザー光Lの出力変動は小さく、本実施形態に係るレーザー光照射装置10の性能は、従来のレーザー光照射装置20の性能と比較して、格段に優れていることが判った。
【0058】
即ち、図5(a)〜(c)に示す結果から、本実施形態に係るレーザー光照射装置10の性能は、従来のレーザー光照射装置20の性能と比較して、レーザー光発振機1から発振されるレーザー光Lの出力変動が小さいので、格段に優れていることが明らかである。
【0059】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施することができ、従って、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係るレーザー光照射装置およびレーザー光照射方法によれば、レーザー光の出力値を、フィルムを切断するのに必要な(かつ、より低い)値に設定しても、出力変動が抑制されるので当該出力値が設定値よりも一定以上低く(小さく)なることはなく、フィルムを適切に切断することができる。それゆえ、出力変動(設定値に対する変動)が抑制され、照射するレーザー光の出力が安定化されてフィルムを適切に切断することができるレーザー光照射装置およびレーザー光照射方法を提供することができるという効果を奏する。
【0061】
それゆえ、本発明に係るレーザー光照射装置およびレーザー光照射方法は、例えば、偏光フィルムの切断加工に利用することができるので、偏光フィルムを用いた例えば液晶パネル等の各種製品の製造過程において、つまり、偏光フィルムを用いる各種産業において広範に利用され得る。
【符号の説明】
【0062】
1 レーザー光発振機
2 ベンドミラー
3 ビームスプリッター
4 パワーセンサー(測定装置)
5 処理ボード(補正装置)
10 レーザー光照射装置
L レーザー光
L1 反射光(レーザー光)
L2 透過光(レーザー光)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムを切断するために当該フィルムにレーザー光を照射するレーザー光照射装置であって、
レーザー光を発振するレーザー光発振機と、
レーザー光発振機から発振されたレーザー光を二つに分岐し、分岐させたレーザー光のうちの、一方のレーザー光をフィルムに照射するビームスプリッターと、
分岐されたレーザー光のうちの、他方のレーザー光の強度を測定する測定装置と、
測定された強度から上記レーザー光発振機の出力値を算出し、設定値に対する上記出力値の大小を判断して、上記レーザー光発振機の出力値を設定値に近づけるように補正する補正装置と、
を備えていることを特徴とするレーザー光照射装置。
【請求項2】
フィルムを切断するために当該フィルムにレーザー光を照射するレーザー光照射方法であって、
レーザー光発振機から発振されたレーザー光を二つに分岐させ、分岐させたレーザー光のうちの、一方のレーザー光をフィルムに照射すると共に、他方のレーザー光の強度を測定し、
測定した強度から上記レーザー光発振機の出力値を算出し、設定値に対する上記出力値の大小を判断して、上記レーザー光発振機の出力値を設定値に近づけるようにフルタイム補正することを特徴とするレーザー光照射方法。
【請求項3】
上記測定装置は、分岐されたレーザー光のうちの、透過光の強度を測定するようになっていることを特徴とする請求項1に記載のレーザー光照射装置。
【請求項4】
上記測定装置がパワーセンサーであることを特徴とする請求項1または3に記載のレーザー光照射装置。
【請求項5】
上記レーザー光発振機がCOレーザー光発振機であることを特徴とする請求項1,3または4に記載のレーザー光照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−135782(P2012−135782A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288671(P2010−288671)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(511300765)ハードラム カンパニーリミテッド (1)
【Fターム(参考)】