説明

レーザー切断性に優れた鋼板およびその製造方法

【課題】造船等に供して好適なレーザー切断時に優れた切断品質が得られる鋼板およびその製造条件を提供する。
【解決手段】質量%で、特定量のC、Si、Mn、P、S、Al、N、O、下式によるPoが−5〜25、必要に応じて、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、Ti、B、REM、Ca、Mgの1種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の組成を有し、スケール層の平均厚さが10μm以下であり、スケール層中にマグネタイトが60mass%以上含まれ、より好ましくはスケール厚の標準偏差が4.0μm以下の鋼板。上記鋼組成からなる鋳片または鋼片を、1000〜1200℃に再加熱後、650〜850℃で終了する熱間圧延を実施し、950℃〜圧延終了温度の間の圧延パス中において、鋼板表裏面に水を噴射してデスケーリングを5回以上かつデスケーリングのパス間時間を10〜50秒で実施する。Po=(2.9Si−0.2Mn+0.7Al)×(O−0.0023)×10 (ここで、Si、Mn、Al、およびOは含有量(mass%))

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造船、土木、建築、橋梁、建産機械、海洋構造物、貯蔵タンク、圧力容器、等に供して好適なレーザー切断時に優れた切断品質が得られる板厚6mm以上の鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
造船、土木、建築、橋梁、建産機械、海洋構造物、貯蔵タンク、圧力容器などの鋼構造物に熱間圧延鋼板が用いられる際には、所望の形状に切断した後に組み立てるのが一般的である。鋼構造物の工作工程における切断作業の割合は高く、作業の高能率化や低コスト化への要求は高い。また、意匠性などの観点から鋼構造物の形状が複雑化するとともに、切断以降の工程省略のため、切断面形状が複雑化しており、切断面に対して高い精度が要求される。
【0003】
従来、厚鋼板の切断方法としてガス切断やプラズマ切断が広く用いられている。ガス切断は、設備が比較的簡単であり、非常に板厚が厚い鋼板まで切断可能であることから最も広く利用される。しかしながら、ガス炎の制御や監視など自動作業化が難しく、また切断速度が比較的遅いことから、作業性に劣る。プラズマ切断は、最大厚50mm程度までは高速切断が可能であるが、トーチ寿命が数時間しかなく、頻繁な交換作業のため作業性が低く、自動作業化は困難である。
【0004】
一方、レーザー切断は、薄鋼板の切断から普及し、近年では、レーザー発振器の高出力化、低価格化に伴い、板厚の厚い鋼板の切断にも適用範囲が拡大している。その特徴としては、まずトーチ寿命が長く、レーザーの出力が容易であるため、切断作業の完全自動化が容易である。また、切断による熱変形が小さいとともに、切断面の品質が良好である。このため、レーザー切断は作業性と切断品質の観点から理想的な厚鋼板の切断方法といえる。
【0005】
しかしながら、現状のレーザー出力では、対象板厚は最大25mm程度に限定され、それ以上の板厚になると、切断の安定性が急激に低下する。レーザー切断機の能力としては、更なる高出力化が進められているが、一方で、鋼板自体のレーザー切断性(切断不良が生じないこと)を向上させる検討がされてきた。
【0006】
特許文献1には、質量%で、C:0.20%以下−Si:0.1〜1.0%−Mn:2.5%以下系にCu、Ni、Ti、Zrを添加した鋼素材を、低温加熱、低温圧延および加速冷却して、母材とスケール層の界面にCu、Ni、Ti、Zrの濃化層を生成させた鋼板とし、該濃化層がレーザー光のエネルギーを効率的に地鉄に吸収させてレーザー切断性を向上させる技術が報告されている。
【0007】
特許文献2では、Siを添加した鋼素材を、熱間圧延前に高圧デスケーリングした後、普通圧延、加速冷却および平坦度調整処理を組み合わせる製造方法により、スケール厚さを10〜60μmに制御してレーザー切断性を向上させる技術が報告されている。
【0008】
特許文献3では、鋼板表面の光沢性、レーザー切断時の溶鋼の粘性を調整した重量%で0.03〜0.06%C−0.05〜0.3%Si−0.5〜1.5%Mn系にCu、Ni、Crなどを添加した成分組成の鋼素材とし、特定温度に加熱後、制御圧延中に高圧のデスケーリングを複数回実施して鋼板表面に剥離したスケールやゴミを残さず、且つ、必要以上にスケールを厚くしないようにしてレーザー切断性を向上させる技術が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−195983号公報
【特許文献2】特開2008−95155号公報
【特許文献3】特許第3218166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、高価な合金元素の添加が必要で高コストになり、さらに、低温加熱−低温圧延により、鋼板内部にボイドなどの欠陥が残存したり、歪が生じたりすることが問題となる。
【0011】
特許文献2に記載された技術では、加速冷却と平坦度調整処理により、鋼板内に歪が導入され、切断時の変形が問題となるだけでなく、鋼板の板内位置によるスケール形態(スケール厚さ、スケール組成)のばらつきが顕著でスケール厚の標準偏差も大きく、安定して優れたレーザー切断性を確保することは困難である。
【0012】
特許文献3に記載された技術では、高価な合金元素の添加が必要であり高コストとなるだけでなく、圧延仕上げ温度が低温であるため、圧延パス間およびデスケーリングパス間の時間が長くなり、鋼板内位置によるスケール形態(スケール厚さ、スケール組成)のばらつきが顕著でスケール厚の標準偏差も大きく、安定して優れたレーザー切断性を確保することは困難である。
【0013】
本発明は、これらの事実に鑑みてなされたもので、経済性に優れ、レーザー切断性に優れた鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。ここで、レーザー切断性に優れるとは、レーザー切断に適することを指し、具体的には切断中での鋼板の変形が少なく作業性に優れ、切断後の鋼板断面にはノッチがなく、鋼板裏面にはドロス付着もない切断品質に優れていることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を達成するため、厚鋼板を対象に優れたレーザー切断性を確保するため、鋼板の成分組成、製造方法、スケール形態(スケール厚さ、スケール組成)、スケール厚の標準偏差およびレーザー切断による溶鋼の粘性を決定する各種要因に関して鋭意研究を行い、以下の知見を得た。
【0015】
1.高密度エネルギーによるレーザー照射で鋼板に発生する熱応力は極めて大きく、レーザー照射時に表層のスケールが破壊されやすい。それを防ぐためには、スケールと地鉄の界面の密着性を向上させることが有効である。そのためにはスケール層の平均厚さを薄くし、かつスケール層厚さのばらつきを低減することが重要である。
【0016】
2.優れたレーザー切断性を達成するためには、レーザーエネルギーを効率よく熱エネルギーに変換して、レーザー照射部が溶融することが必要である。レーザーエネルギーを効率よく吸収する、すなわち、吸収能を高くするためには、鋼板表面に生成したスケールの色調を吸収能力が優れたものとすることが重要である。
【0017】
3.上記のスケール形態を達成するためには、鋼板の成分組成を管理することにより、スケールと地鉄の界面の密着性向上と、スケールの成長を抑制することが不可欠である。さらには、熱間圧延条件と熱間圧延中のデスケーリング条件を厳格に管理して、熱間圧延前、熱間圧延途中および熱間圧延後に生成、成長するスケールを効果的に剥離させて、除去すること、および成長を抑制することが重要である。
【0018】
4.また、レーザー切断時の加熱による溶鋼の粘性によりレーザー切断性が影響を受け、溶鋼の粘性を低下させるような成分設計がレーザー切断性の向上に有効である。
【0019】
本発明は、得られた知見にさらに検討を加えてなされたもので、
1.mass%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.01〜0.60%、 Mn:0.1〜2.5%、P:0.016〜0.050%、S:0.01%以下、Al:0.07%以下、N:0.01%以下、O:0.0005〜0.0050%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼板において、下式で示されるPoが−5〜25で、鋼板表面のスケール層の平均厚さが10μm以下であり、スケール層中にマグネタイトが60mass%以上含まれることを特徴とするレーザー切断性に優れた鋼板。
【0020】
Po=(2.9Si−0.2Mn+0.7Al)×(O−0.0023)×10
(ここで、Si、Mn、Al、およびOは含有量(mass%))
2.鋼板の成分組成に、mass%でさらに、Cu:1.5%以下、Ni:2.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、Nb:0.1%以下、V:0.1%以下、Ti:0.03%以下、B:0.005%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする1記載のレーザー切断性に優れた鋼板。
3.鋼板の成分組成に、mass%でさらに、REM:0.008%以下、Ca:0.005%以下、Mg:0.005%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする1または2記載のレーザー切断性に優れた鋼板。
4.鋼板表面のスケール層厚さの標準偏差が4.0μm以下となることを特徴とする1〜3記載のレーザー切断性に優れた鋼板。
5.1乃至3のいずれか一つに記載した鋼組成からなる鋳片または鋼片を、1000〜1200℃に再加熱後、650〜850℃で終了する熱間圧延を実施し、950℃〜圧延終了温度の間の圧延パス中において、鋼板表裏面に水を噴射してデスケーリングを5回以上かつデスケーリングのパス間時間を10〜50秒で実施することを特徴とするレーザー切断性に優れた鋼板の製造方法。
6.950℃〜圧延終了温度の間の圧延パス中に、熱間圧延機に鋼板を通過させながら鋼板の上下面をそれぞれ4m /m min以上の水量密度で加速冷却を1回または2回以上実施することを特徴とする5記載のレーザー切断性に優れた鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、レーザー切断において、優れた作業性と切断品質とを有する鋼板が得られ、鋼構造物作製時の製造効率や安全性の向上に大きく寄与し、産業上格段の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明ではスケールの形態(スケール厚さ、スケール組成)と鋼板の成分組成を規定する。なお、説明において%はmass%とする。
[スケールの形態]
鋼板表面のスケール層の平均厚さが10μm以下であり、スケール層中にマグネタイトが60%以上含まれるスケール組成とする。
【0023】
優れたレーザー切断性を得るためには、スケールと地鉄の密着性を高くしてレーザー切断時のスケールの破壊を抑制し、レーザー光の吸収能の高いスケール表面形態とする。
【0024】
本発明では、スケールと地鉄の密着性を高くするために、スケール層の平均厚さを厳格に管理する。スケール層の平均厚さが10μmよりも厚ければ、スケール密着性が低下するために、レーザー切断性が劣る。このためスケールの平均厚さは10μm以下とした。スケールの平均厚さの求め方は実施例において後述する。
【0025】
さらに、スケールの組成を管理して、レーザーの吸収能が高い、黒っぽい色調とする。熱間圧延後の鋼板表面に生成するスケールは、主にウスタイト(FeO)、マグネタイト(Fe)、およびヘマタイト(Fe)より形成されるが、スケール層の組成がマグネタイト主体となるとスケールの色が黒色になり、レーザー吸収能が向上し、レーザー切断性が向上する。
【0026】
このような効果を得るためには、スケール層中にマグネタイトを60%以上有することが必要である。なお、そのほかのスケール組成の影響としては、ヘマタイトが多くなるほどスケールの色が赤色に近くなり、レーザー吸収能が低下するので、できるだけ少ないことが好ましいが、25%未満であればその影響は無視できる。
【0027】
また、ウスタイトは、レーザー吸収能にほとんど影響を及ぼさないが、地鉄との密着性を低下させるため、できるだけ少ないことが好ましいが、15%未満であればその影響は無視できる。
【0028】
本発明では、更にレーザ切断性を向上させる場合、上記基本スケール形態に加えて、鋼板表面のスケール層厚さの標準偏差を4.0μm以下とする。スケール層厚さの標準偏差が4.0μmを超えると、鋼板表面でのレーザー吸収が不安定になり、レーザー切断性が劣る。このためスケール層厚さの標準偏差は4.0μm以下とした。標準偏差の求め方は後述する。
【0029】
但し、レーザ切断性は、上述したスケール形態やスケール層厚さの標準偏差の他に溶鋼の粘性にも影響を受ける。
【0030】
[鋼板の成分組成]
本発明では、1..熱間圧延前、熱間圧延途中および熱間圧延後に生成、成長するスケールを熱間圧延時のデスケーリングで剥離しやすく、且つその成長を抑制し、2.レーザ切断時にはスケールと地鉄の密着性が高くなるように、鋼板の成分組成を規定する。なお、説明において%はmass%とする。
【0031】
C:0.03〜0.20%
Cは、鋼の強度を増加させ、構造用鋼材として必要な強度を確保するために必要な元素で、その効果を得るため0.03%以上の含有を必要とする。一方、0.20%を超える含有は、靭性を劣化させるとともに、溶接性が低下する。このため、0.03〜0.20%の範囲に限定する。好ましくは、0.04〜0.18%である。
【0032】
Si:0.01〜0.60%
Siは、脱酸材として作用し、製鋼上必要であるだけでなく、スケールと地鉄の界面に濃化して、スケールの密着性を低下させる。これによりデスケーリングの際のスケールの剥離性が向上する。
【0033】
このような効果は、特に650〜950℃という高温域で顕著であり、圧延前および圧延中に生成したスケールを効果的に除去することができる。
【0034】
また、スケールと地鉄界面に濃化したSiは、熱間圧延後の鋼板表面に生成するスケールの成長を抑制し、レーザー切断時のスケール密着性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、0.01%以上の含有を必要とする。
【0035】
一方、0.60%を超えて含有すると、母材の靭性、溶接部の低温割れ性が顕著に劣化するため、0.01〜0.60%の範囲に限定する。好ましくは、0.02〜0.55%である。
【0036】
Mn:0.1〜2.5%
Mnは、鋼の焼入れ性を増加させる効果を有し、母材の強度を確保するために0.1%以上の含有が必要である。一方、2.5%を超えて含有すると、母材の靭性、延性および溶接性が著しく劣化するため、0.1〜2.5%の範囲に限定する。好ましくは、0.2〜2.0%である。
【0037】
P:0.016〜0.050%
Pは、微量の添加でも、スケールと地鉄の界面に濃化して、スケールの密着性を低下させる。これによりデスケーリングの際のスケールの剥離性が向上する。
このような効果は、特に650〜950℃という高温域で顕著であり、この温度域でデスケーリングをすると、圧延前および圧延中に生成したスケールを効果的に除去することができる。
【0038】
また、スケールと地鉄界面に濃化したPは、熱間圧延後の鋼板表面に生成するスケールの成長を抑制し、レーザー切断時のスケール密着性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、0.016%以上の含有を必要とする。一方、0.050%を超えて含有すると、鋼の強度を増加させ著しく靭性を劣化させるため、0.016〜0.050%の範囲に限定する。
【0039】
S:0.01%以下
Sは、母材の低温靭性や延性を劣化させるため、0.01%を上限として低減することが望ましい。
【0040】
Al:0.07%以下
Alは、脱酸剤として作用し、鋼板の溶鋼脱酸プロセスに於いてもっとも汎用的に使われる。また、鋼中のNをAlNとして固定し、母材および溶接部の靭性向上に寄与する。一方、0.07%を超えて含有すると、母材の靭性が低下するとともに、溶接時に溶接金属部に混入して溶接金属の靭性を劣化させるようになるため、0.07%以下に限定する。
【0041】
N:0.01%以下
Nは、不可避的不純物として鋼中に含まれ、0.01%を超えて含有すると、母材および溶接部靭性が著しく低下するため、0.01%以下に限定する。
【0042】
O:0.0005〜0.0050%
Oは不可避的不純物として含有され,鋼中では酸化物として存在する。レーザー切断中は、加熱段階において母材とともに酸化物が溶融するものの、冷却過程で溶鋼中にAlやSiなどの酸化物として再晶出し、溶鋼の粘性を低下させることにより、レーザー切断性を向上させる効果を有する。このような効果を得るためには、0.0005%以上の含有を必要とする。一方、0.0050%を超えると鋼中に存在する酸化物が粗大化して,清浄度を低下させ、母材の靭性に悪影響を及ぼすため、0.0005〜0.0050%の範囲に限定する。
【0043】
Po(=(2.9Si−0.2Mn+0.7Al)×(O−0.0023)×10ここで、Si、Mn、Al、およびOは含有量(mass%)):−5〜25
本パラメータ式Poは本発明鋼の溶鋼の粘性を低下させてレーザ切断性に優れる特性を付与するためのもので、−5〜25とする。
【0044】
本発明では各成分が上記の組成範囲を単に満足しているだけでは不十分で,Poが−5〜25を満足することが重要である。
【0045】
鋼板中に存在する酸化物は、レーザー切断の加熱段階において母材とともに溶融し、冷却過程で溶鋼中に酸化物として再晶出する。この際、酸化物を形成する合金元素によって、溶鋼の粘性が変動し、ひいては、レーザー切断性に影響を及ぼす。Poが−5〜25の範囲において、溶鋼の粘性が低下し、レーザー切断性の向上に有効である。このため、Poは、−5〜25の範囲に限定する。
【0046】
本発明では、上記基本成分系に加えて、更に特性を向上させるために、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、Ti、B、REM、CaおよびMgの1種または2種以上を含有することができる。
【0047】
Cu:1.5%以下、Ni:2.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、Nb:0.1%以下、V:0.1%以下、Ti:0.03%以下、B:0.005%以下の1種または2種以上
Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、Ti、Bは、いずれも鋼の強度向上に寄与する元素であり、所望する強度に応じて適宜含有できる。
【0048】
Cuを添加する場合は、0.1%以上とすることが好ましいが、1.5%を超えると熱間脆性を生じて鋼板の表面性状を劣化させるため、1.5%以下とする。
【0049】
Niを添加する場合は、0.1%以上とすることが好ましいが、2.0%を超えると効果が飽和し、経済的に不利になるため、2.0%以下とする。
【0050】
Crを添加する場合は、0.05%以上とすることが好ましいが、1.0%を超えて含有すると、母材靭性、延性および溶接性が著しく劣化するため、1.0%以下とする。
【0051】
Moを添加する場合は、0.05%以上とすることが好ましいが、1.0%を超えると、母材靭性、延性および耐溶接割れ性に悪影響を及ぼすため、1.0%以下とする。
【0052】
Nbを添加する場合は、0.005%以上とすることが好ましいが、0.1%を超えると、母材靭性および延性を劣化させるため、0.1%以下とする。
【0053】
Vを添加する場合は、0.01%以上とすることが好ましいが、0.1%を超えると、母材靭性および延性を劣化させるため、0.1%以下とする。
【0054】
Tiは、Nとの親和力が強く凝固時にTiNとして析出し、溶接熱影響部でのオーステナイト粒の粗大化を抑制して高靭化に寄与する添加元素である。一方、0.03%を超えて添加するとTiN粒子が粗大化して、母材および溶接部靭性を劣化させるため、0.03%以下とする。
【0055】
Bは、焼入れ性の向上を介して、鋼の強度を増加させる作用を有する.一方、0.005%を超える含有は焼入れ性を著しく増加させ、母材の靭性、延性の劣化をもたらすため、0.005%以下とする。
【0056】
REM:0.008%以下、Ca:0.005%以下およびMg:0.005%以下の1種または2種以上
REM、CaおよびMgは、いずれも靭性向上に寄与し、所望する特性に応じて選択して添加する。REMを添加する場合は、0.002%以上とすることが好ましいが、0.02%を超えても効果が飽和するため、0.008%を上限とする。
【0057】
Caを添加する場合は、0.0005%以上とすることが好ましいが、0.005%を超えても効果が飽和するため、0.005%を上限とする。
【0058】
Mgを添加する場合は、0.001%以上とすることが好ましいが、0.005%を超えても効果が飽和するため、0.005%を上限とする。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
【0059】
本発明に係る鋼板は以下の製造条件で製造することが好ましい。説明において、温度に関する「℃」表示は、板厚の1/2における温度を意味するものとする。
【0060】
鋼素材加熱温度:1000℃〜1250℃
上述した組成の鋳片または鋼片の鋼素材を転炉、電気炉、真空溶解炉等、通常公知の方法による溶鋼から作成し、1000℃〜1250℃に再加熱する。再加熱温度が1000℃未満では、熱間圧延での変形抵抗が高く、1パス当たりの圧下量が大きく取れなくなることから、圧延パス数が増加し、圧延能率の低下を招くとともに、鋼素材(スラブ)中の鋳造欠陥を圧着することができない場合が生じる。一方、再加熱温度が1250℃を超えると、加熱時のスケールによって表面疵が生じやすく、圧延後の手入れ負荷が増大するとともに、結晶粒が粗大化して所望のミクロ組織が得られず、局部伸びの低下を介して全伸びが低下するため、1000〜1250℃の範囲とする。
【0061】
熱間圧延終了温度:650〜850℃
熱間圧延の終了温度が850℃を超えるとスケールにブリスターが発生するだけでなく、圧延終了後の冷却過程でスケールが過度に成長するために所望のスケール形態(スケール厚さ、スケール組成)およびスケール厚の標準偏差を得られない。一方、圧延終了温度が650℃より低いと、変形抵抗が高くなりすぎて、圧延荷重が増大し、圧延機への負担が大きくなる.また、圧延温度を低下させるためには、圧延途中で待機する必要があり、生産性を大きく阻害するだけでなく、待機中にスケールが過度に成長するために所望のスケール形態(スケール厚さおよびスケール組成)を得られない。さらには、鋼板中に蓄積される歪が大きくなるため、レーザー切断中に鋼板が変形し、切断精度の低下を招いたり、切断が途中で停止することが問題となる。このため、650〜850℃の範囲とする。
【0062】
圧延終了後の冷却方法は空冷、水冷など特に規定しないが、条切り歪を抑制する観点からは、空冷することが好ましい。
【0063】
950℃〜圧延終了温度の間にデスケーリングを5回以上かつパス間時間を10〜50秒
所望のスケール形態(スケール厚さ、スケール組成)およびスケール厚の標準偏差を安定して達成するためには、本発明では、圧延中のデスケーリングの回数およびパス間時間を厳格に管理することが重要である。デスケーリングの回数が5回より少ないと、圧延中に生成、成長するスケールの剥離が不十分となり所望のスケール形態(スケール厚さ、スケール組成)およびスケール厚の標準偏差を得られない。
【0064】
また、デスケーリングのパス間時間が10秒未満であると、圧延時の搬送速度が速すぎて厚鋼板の製造が成り立たないだけでなく、デスケーリング前パス後に生成、成長したスケールに対して十分なデスケーリング効果を得られない。一方、デスケーリングのパス間時間が50秒を超えると待機中にスケールが過度に成長するために所望のスケール厚さおよびスケール組成を得られない。このため、950℃〜圧延終了温度の間にデスケーリングを5回以上かつパス間時間を10〜50秒の範囲とする。
【0065】
なお、説明において、デスケーリングのパス間時間というのは、厚鋼板の製造プロセスであるリバース圧延時に、最初のデスケーリングの開始時刻と、次のデスケーリング開始時刻の差とする。また、デスケーリングの能力としては、噴射圧力が10MPa以上あれば、本発明の効果を発揮することができる。
【0066】
更に上記製造条件に加えて、デスケーリングのパス間時間を50秒以内としつつ、圧延終了温度を650〜800℃とするためには、鋼板温度を強制的に低下させることが必要で、950℃〜圧延終了温度の間の圧延パス中に、熱間圧延機に鋼板を通過させながら鋼板の上下面をそれぞれ4m /m min以上の水量密度で加速冷却を1回または2回以上挿入する。
【0067】
水量密度が4m /m min未満であると、加速冷却の効果が不十分となり、デスケーリングのパス間時間が50秒を超えて、待機中にスケールが過度に成長するために所望のスケール厚さおよびスケール組成を得られない。このため、950℃〜圧延終了温度の間の鋼板上下面の加速冷却は水量密度を4m /m min以上で行う。
【実施例】
【0068】
転炉−取鍋精錬−連続鋳造法で、表1に示す種々の成分組成に調製した鋼スラブを、表2に示す種々の熱間圧延条件により板厚25mmの鋼板とした。表2における鋼No.1−1〜1−7は表1の鋼No.1で熱間圧延条件を種々変化させたもの、鋼No.2〜8は表1の鋼No.2〜8にそれぞれ対応する。
【0069】
各鋼板長手方向の先端部から500mm、中心、および尾端部から500mmの位置から、それぞれ板幅方向1/4幅および1/2幅の圧延方向から、板厚×20mmのサンプルを合計6個採取した。各サンプルについて、地鉄およびスケール層を含む領域の倍率500倍の光学顕微鏡写真を5枚撮影し、各写真の任意の10ヶ所で画像解析装置を用いてスケール層の厚さを測定し、サンプル6個すべての測定値の平均をスケールの平均厚さ、また、サンプル6個すべての測定値の標準偏差をスケール厚さの標準偏差とした。
【0070】
また、スケール組成の同定は、X線解析法による結果をもとに、スケール標準サンプルを用いた検量線法により求めた.
レーザー切断性は、6kWの炭酸ガスレーザーを用いて切断し、切断後の鋼板断面におけるノッチの有無、および鋼板裏面でのドロスの付着有無を評価した。なお、酸素圧力0.3kgf/cm、レーザー切断速度は1100mm/min.、切断長500mmとした。
【0071】
得られた結果を、供試鋼板の製造条件と共に表2に示す。
発明例(鋼No.1−1、1−2、2、3、4、5、6)は、スケールの平均厚さ10μm以下、スケール層中に含まれるマグネタイトの体積分率が60%以上を有し、またレーザー切断中の溶鋼の粘性も低く、レーザー切断性が極めて良好であった。
【0072】
一方、成分組成中のSi量が本発明範囲より少ない比較例(鋼No.7)と、Pが本発明範囲より少ない比較例(鋼No.8)は、スケール平均厚さが厚くなり、スケール層中のマグネタイト量が60mass%に至らず、レーザー切断性が劣った。
【0073】
成分組成中のO量が本発明範囲より少なくPoが本発明範囲外の比較例(鋼No.9)、および、Poが本発明範囲外の比較例(No.10)は、レーザー切断中の溶鋼の粘性が高く、レーザー切断性が劣った。
【0074】
成分組成が本発明の範囲内であるが熱間圧延および/またはデスケーリング条件が本発明範囲外でスケール形態およびスケール厚さの標準偏差が本発明範囲外の比較例(鋼No.1−3、1−5、1−6、1−7、1−8)は、レーザー切断性が劣った。
【0075】
鋼No.1−4は、成分組成とスケール形態は本発明の範囲内であるが熱間圧延終了温度が本発明範囲外で低く、鋼板中に蓄積された歪が大きいため、レーザー切断時に鋼板が変形し、切断途中で停止せざるを得ず、作業性が悪くレーザー切断性が劣った。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
mass%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.01〜0.60%、 Mn:0.1〜2.5%、P:0.016〜0.050%、S:0.01%以下、Al:0.07%以下、N:0.01%以下、O:0.0005〜0.0050%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼板において、下式で示されるPoが−5〜25で、鋼板表面のスケール層の平均厚さが10μm以下であり、スケール層中にマグネタイトが60mass%以上含まれることを特徴とするレーザー切断性に優れた鋼板。
Po=(2.9Si−0.2Mn+0.7Al)×(O−0.0023)×10
(ここで、Si、Mn、Al、およびOは含有量(mass%))
【請求項2】
鋼板の成分組成に、mass%でさらに、Cu:1.5%以下、Ni:2.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、Nb:0.1%以下、V:0.1%以下、Ti:0.03%以下、B:0.005%以下の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載のレーザー切断性に優れた鋼板。
【請求項3】
鋼板の成分組成に、mass%でさらに、REM:0.008%以下、Ca:0.005%以下、Mg:0.005%以下の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載のレーザー切断性に優れた鋼板。
【請求項4】
鋼板表面のスケール層厚さの標準偏差が4.0μm以下となることを特徴とする請求項1〜3に記載のレーザー切断性に優れた鋼板。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載した成分組成からなる鋳片または鋼片を、1000〜1200℃に再加熱後、650〜850℃で終了する熱間圧延を実施し、950℃〜圧延終了温度の間の圧延パス中において、鋼板表裏面に水を噴射してデスケーリングを5回以上かつデスケーリングのパス間時間を10〜50秒で実施することを特徴とするレーザー切断性に優れた鋼板の製造方法。
【請求項6】
950℃〜圧延終了温度の間の圧延パス中に、熱間圧延機に鋼板を通過させながら鋼板の上下面をそれぞれ4m /m min以上の水量密度で加速冷却を1回または2回以上実施することを特徴とする請求項5に記載のレーザー切断性に優れた鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2012−87339(P2012−87339A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233415(P2010−233415)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】