説明

レーザー加工装置、レーザービームのピッチ可変方法、及びレーザー加工方法

【課題】理想的なビーム分岐ができ、かつビーム間ピッチを任意に調整することができるレーザー加工装置、レーザービームのピッチ可変方法、及びレーザー加工方法の提供。
【解決手段】レーザービーム発振器21と音響光学素子22とこの音響光学素子に接続したRF電源23と集光レンズ24、25とを有し、レーザービーム発振器から発振される単一のレーザービームを音響光学素子を入射せしめ、音響光学素子にRFパワーを印加し、単一のレーザービームに音波振動を与え、ラマンナス回折により複数のビームに分岐してビームのピッチ間隔を調整し、ビーム間隔の調整された複数のビームを集光レンズを透過させ、被加工物表面に照射させてライン状の加工を行うために使用されるレーザー加工装置。この加工装置によるレーザービームのピッチ調整、及びこの加工装置を用いた被加工物表面のレーザー加工。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー加工装置、レーザービームのピッチ可変方法、及びレーザー加工方法に関し、特に音響光学素子を備えたレーザー加工装置、音響光学素子を利用するレーザービームのピッチ可変方法、及びこのレーザー加工装置を用いたレーザー加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザービームにより被加工物表面にライン状加工を行う工程として、例えば、薄膜太陽電池パネル作製に当たり、電極膜形成のためにITO膜、アモルファスシリコン膜等にスクライビング(切り込み)加工を行う加工工程や、アモルファスシリコンをポリシリコンに改質するためにシリコン膜にレーザービームをライン状に施すレーザーアニール工程や、チップ抵抗のセラミック基板に対して、個別チップに分割するためのスクライビングラインを施すスクライビング工程等が知られている。
【0003】
例えば、薄膜太陽電池パネルは、CVD法やスパッタ法で下地層を成膜したガラス基板上に、透明電極膜、シリコン膜、及びメタル膜等を形成してなる積層膜からなる。これらの積層膜が光に対して応答し、電池作用を引き起こす。この電池パネルの生産工程では、レーザーにより膜面をスクライビングして、電池を直列に接続する工程が必要になる。この工程で使われるレーザー装置を、通常、レーザースクライバーと称している。このスクライビング工程では、通常、波長1μm近傍や0.5μm近傍のレーザービーム発振器が多く使われている。他の波長でもスクライビングは可能であるが、装置のコストや入手難や安定性等に鑑みて、上記した波長のレーザービーム発振器が多く使われているのが現状である。
【0004】
近年、上記スクライビング工程等において、単一のレーザービームを複数のビームに分岐し、この分岐された複数のビームを用いてライン状の加工を行うことが提案されている。例えば、回折格子を用いて単一のレーザービームを分岐することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
スクライビング工程では、通常、レーザービームを分岐するだけではなく、分岐後のビーム間のピッチが可変であると共に、被加工物の加工目的に応じてピッチ間隔を調整できなければならない。しかし、回折格子により分岐されたビームは照射レンズへと向かい、照射レンズでは被加工物に対してなるべく垂直な方向からビームが到達するように設計されるが、外側のビームほど、斜めに照射されるという問題がある。そのため、ビームエネルギーの利用効率は低く、60%程度である。また、回折格子では、理想的なビーム分岐はできず、必ず回折条件の成立しない副次光が発生するという問題もあり、汎用的ではない。
【0006】
図1に回折格子を用いたビーム分岐の一例を示す。レーザービーム発振器1から発振される単一レーザービームは、エキスパンダー2を透過し、反射ミラー3で反射された後に回折格子4を透過して分岐される。この分岐されたビームは、0次から高次までの回折光となり、広がりながら照射レンズ5へと向かう。照射レンズ5を透過したビームは、遮光マスク6を経て被加工物7に対してなるべく垂直な方向から到達するように設計されているが、全てのビームを垂直方向から被加工物7へ照射することはできないという問題がある。回折格子を使用する場合、ビーム間のピッチは、ビームの光軸を中心にして、回折格子4、照射レンズ5及び遮光マスク6を回転することにより達成可能ではあるが、上記したような問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開2004−268144号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、理想的なビーム分岐ができ、被加工物に対してビームを垂直に照射でき、かつビーム間ピッチを任意に調整することができるレーザー加工装置、レーザービームのピッチ可変方法、及びこのレーザー加工装置を用いたレーザー加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のレーザー加工装置は、レーザービーム発振器と音響光学素子とこの音響光学素子に接続したRF電源と集光レンズとを有し、レーザービーム発振器から発振される単一のレーザービームを音響光学素子に入射せしめ、音響光学素子にRFパワーを印加し、この単一のレーザービームに音波振動を与え、ラマンナス回折により複数のビームに分岐してビームのピッチ間隔を調整し、このビーム間隔の調整された複数のビームを集光レンズを透過させ、被加工物表面に照射させてライン状の加工を行うために使用されることを特徴とする。
【0010】
上記のように構成したレーザー加工装置によれば、理想的なビーム分岐ができ、被加工物に対して垂直に照射できると共に、ビーム間ピッチを任意に調整することができるようになる。
【0011】
本発明のレーザービームのピッチ可変方法は、レーザービーム発振器と音響光学素子とこの音響光学素子に接続したRF電源と集光レンズとを有するレーザー加工装置を用いて行う複数のビームのピッチ間隔を調整するレーザービームのピッチ可変方法であって、レーザービーム発振器から発振される単一のレーザービームを音響光学素子に入射せしめ、音響光学素子にRFパワーを印加し、この単一のレーザービームに音波振動を与え、ラマンナス回折により複数のビームに分岐してビームのピッチ間隔を調整し、このビーム間隔の調整された複数のビームを集光レンズを透過させることを特徴とする。
【0012】
このピッチ可変方法においては、音響光学素子に所定のRFパワーを印加することにより、被加工物に照射するビームを理想的な分岐ビームとすることできると共に、ビーム間ピッチを任意に調整し、可変することができる。また、理想的なビーム分岐ができ、被加工物に対してビームを垂直に照射できる。
【0013】
本発明のレーザー加工方法は、レーザービーム発振器と音響光学素子とこの音響光学素子に接続したRF電源と集光レンズとを有するレーザー加工装置を用いて行う被加工物の表面をライン状に加工する方法において、レーザービーム発振器から発振される単一のレーザービームを該音響光学素子に入射せしめ、音響光学素子にRFパワーを印加し、この単一のレーザービームに音波振動を与え、ラマンナス回折により複数のビームに分岐してビームのピッチ間隔を調整し、このビーム間隔の調整された複数のビームを集光レンズを透過させて被加工物表面に照射してライン状の加工を行うことを特徴とする。
【0014】
上記のように構成したプロセスによれば、音響光学素子に所定のRFパワーを印加することにより、被加工物に照射するビームを理想的な分岐ビームとして、被加工物に対して垂直に照射できると共に、ビーム間ピッチを任意に調整し、可変することができるので、被加工物を目的に応じて任意にライン状に加工することができる。
【0015】
上記で用いられる音響光学素子は、水晶又はガラス等からなるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、レーザービームの理想的な分岐ができ、加工物に対してビームを垂直に照射できると共に、ビーム間ピッチを任意に調整することができ、被加工物を目的に応じて任意にライン状に加工できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係るレーザー加工装置の好ましい実施の形態によれば、レーザービーム発振器と音響光学素子である水晶とこの水晶に接続したRF電源と集光レンズとを有し、レーザービーム発振器から発振される単一のレーザービームを水晶結晶に対して、所定の傾きをもって入射せしめ、水晶に所定のRFパワーを印加し、この単一のレーザービームに音波振動を与え、ラマンナス回折により複数のビームに分岐してビームのピッチ間隔を調整し、この分岐されたビーム間隔の調整された複数のビームを集光レンズを透過させ、被加工物表面に照射させてライン状の加工を行うために使用されるレーザー加工装置が提供される。
【0018】
本発明によれば、光路途中に挿入した水晶のような音響光学素子に入射するレーザービームに対して、RFパワーにより音波振動を加えることにより所期の目的を達成することができる。そのため、本発明において用いるレーザーは、パルス信号を発するものでも、CW信号を発するものでも良い。また、レーザービームがパルスであった場合、音波信号は、必ずしもビームのパルスに同期する必要はない。これは、音響格子が成立している箇所へビームを入射せしめるからである。
【0019】
音響光学素子である水晶にRF電源から所定のRF領域の音波(縦波)を付与すると、水晶結晶中に疎密波が発生し、ある瞬間に密度が高いところと低いところが交互に発生することから、RFパワーが与えられた水晶結晶は格子とみることができる。従って、RFパワーが定常的に与えられていれば、電極部分に対応する箇所(格子が有効に使える幅である総作用長:L)に定常的に格子が発生する。そのため、この格子部分にレーザービームを入射せしめると、このビームは回折され、ビーム分岐が生じる。この分岐数は、RFパワーに比例する。この場合、空冷により音響光学素子を用いた時には、RF出力(水晶へのRF印加パワー、周波数:40MHz)が20〜50Wの範囲であればビームの分岐数に変化はないが、RF出力が20Wより低いと水晶結晶内に生成していた格子が消滅してしまい、ビーム分岐は認められない。空冷の場合は、RF出力が50Wを超える音圧の歪が生じることがあるが、水冷により音響光学素子を用いれば、50Wよりも高いRF出力でも、上記と同様にビーム分岐は認められる。
【0020】
本発明で用いる音響光学素子は、レーザー装置内で強度変調やビーム位置の電気的制御(ビーム変調)のために広く使われる結晶であり、この素子では、レーザービーム周波数は、音響周波数と同じだけシフトする。音響光学素子内にレーザービームと音響波が存在するとき、その素子において音響光学効果が起こり、音響波が素子内に入ると、正弦グレーディングのように作用するある屈折率を持った波が生じる。レーザービームが、このグレーディングに入射されると、ラマンナス効果又はブラッグ効果によりいくつかのオーダーに回折される。
【0021】
次に、ラマンナス回折及びブラッグ回折について説明する。
【0022】
音響光学素子は、結晶の構成により、下記の式(1)に従ってラマンナス効果又はブラッグ効果を生じる。
【0023】
Q=(2πλL)/(nΛ) (1)
式(1)中で、Λ=ν/fであるので、
Q=(2πλLf)/(nν) (2)
式(1)及び(2)中、Qは性能指数、λは入射レーザービームの波長、Lは総作用幅(格子が有効に使える電極幅)、nはレーザー波長による材料の屈折率、Λは超音波の波長、fは超音波変調周波数、νは超音波媒質中の伝播速度を表す。
【0024】
Q<1の条件の時をラマンナス回折領域と言い、ラマンナス回折が生じ、図2に示すように、入射レーザービームが0次回折光を中心に±n次回折光が生じる。すなわち、音響光学素子内に生成された回折格子により、入射ビームは回折作用を受けるので、射出ビームは複数本に分岐され、扇状に射出される。これは、回折を受ける状態にもよるが、回折格子の格子条件に強く依存する。本発明者らの実験によれば、7〜8本の分岐の状態が確認されたが、RF電源(RFドライバー)の出力を増すにつれて、分岐ビーム本数が増えることが確認できている。また、RF出力を加減することで、極めて分岐幅の狭い領域の分岐ビームを得ることもできる。さらに、音響光学素子に対するレーザービームの入射角度は、分岐幅への依存性がある程度はあるものの、分岐幅よりもむしろ、光軸中心にビームを振動させる空間偏重的な効果を相乗させることができるという点にある。これは、ビーム変調の1つとして解釈される。
【0025】
上記式(2)のファクターを任意に選択してQ<1となるようにすれば、上記ラマンナス効果は生じる。例えば、λ=0.53μm、L=5mm、n=1.46(at 0.53μm)、f=41MHz、ν=5.96mm/μsecとし、上記式(1)に代入すれば、Q≒0.54となり、Q<1のラマンナス条件を満たす。本発明の実施例ではこの条件を用いて行った。
【0026】
また、Q>1の条件の時をブラッグ回折領域と言い、ブラッグ回折が生じ、入射レーザービームは反射されて0次光及び+次光の回折が生じる。
【0027】
本発明は、上記したラマンナス回折を利用するものである。レーザービームを音響光学素子に入射せしめ、この素子を透過すると、ビームは扇状に広がって射出される。その結果、レーザービームは所望の数に分岐される。かくして、ビームのピッチ間隔が調整されて、このピッチ間隔の調整された複数のビームを用いて、被加工物表面をライン状に加工するためのレーザー加工装置が提供される。
【0028】
例えば、図2に示すように、レーザービーム発振器21を音響光学素子22に対して所定の角度傾けて配置し、レーザービーム発振器21から発振される単一のレーザービームを、音響光学素子22に対して垂直から所定の角度の傾きをもって入射せしめ、音響光学素子22に対してRF電源23から所定のRFパワーを与えると、RF領域の音波により音響光学素子22の結晶中に疎密波が発生して回折格子となる。このため、入射されたレーザービームは、この回折格子によってラマンナス効果により回折され、回折光として音響光学素子22から扇状に広がって射出され、集光レンズ24及び25を透過して、0次回折光を中心に±n次回折光として射出され、所定の数の分岐ビームが得られる(図2では7本の分岐ビームを示してある)。かくして、ビームのピッチ間隔が調整され、このピッチ間隔の調整された複数のビームを用いて、被加工物表面をライン状に加工することができる。この場合、RFパワーを20〜50Wの範囲内で変化させると、ビームのピッチ間隔を調整することができると共に高い輝度が得られる。
【0029】
上記したように、レーザービーム発振器21から発振される単一のレーザービームを、音響光学素子22に対して垂直から所定の角度の傾きをもって入射せしめると、入射ビームの分散がより可能となると共に、0次回折光に対する回折効率が低減し、高次光における回折成分に対する回折効率が上がる。
【0030】
上記したように、音響光学素子22に対するRFパワーを変えれば、ビームの分散角が変わり、その結果、射出するビームの扇状の形状が変わり、必然的にビームピッチが変わる。
【0031】
図3に示すように、レーザービーム発振器21から発振する単一のレーザービームを音響光学素子22の疎密波進行方向に垂直となる位置から入射せしめ、音響光学素子22に対してRF電源23から所定のRFパワーを与えると、RF領域の音波により音響光学素子22の結晶中に疎密波が発生して回折格子となって、入射されたレーザービームは縦波(音波)の回折光として音響光学素子22から射出される。
【0032】
また、図4に示すように、レーザービーム発振器21から発振する単一のレーザービームを音響光学素子22疎密波進行方向に垂直となる位置から入射せしめ、音響光学素子22に対してRF電源23から所定のRFパワーを与えると、RF領域の音波が入射したレーザービームに対して垂直に当たり、音響光学素子22の結晶中に疎密波が発生して回折格子となって、入射されたレーザービームは縦波の回折光として音響光学素子22から射出され、スクリーン上に所定の幅を持ったライン状のレーザービームとして照射される。
【0033】
上記した音響光学素子としては、例えば、可視領域及び近赤外領域では、主に水晶単結晶、ガリウムリン単結晶、二酸化テルル単結晶、インジウムリン単結晶等、モリブデン酸鉛単結晶、ガラス等を使うことができ、赤外領域ではゲルマニウム単結晶を主に使うことができる。本発明で使用する音響光学素子としては、水晶単結晶等の水晶又はガラス等が好ましい。
【0034】
上記では、音響光学素子内へRFパワーを印加してビームのピッチ間隔が調整された分岐ビームを生成したが、このピッチ幅は、RFパワーを変化させること以外に、分岐されたビームを透過する集光レンズの倍率を変化させるか、又は音響光学素子と集光レンズとを一体物として、これを光軸中心に回転させることによっても、ビームのピッチは拡大、縮小するので、ピッチを調整し、可変することができる。
【0035】
本発明のレーザービームのピッチ可変方法の好ましい実施の形態によれば、レーザービーム発振器と音響光学素子としての水晶とこの水晶に接続したRF電源と集光レンズとを有するレーザー加工装置を用いて行う複数のビームのピッチ間隔を調整するレーザービームのピッチ可変法方法であって、レーザービーム発振器から発振される単一のレーザービームを水晶に入射せしめ、水晶にRFパワーを印加し、この単一のレーザービームに音波振動を与えて複数のビームに分岐してビームのピッチ間隔を調整し、この分岐されたビーム間隔の調整された複数のビームを集光レンズを透過させるピッチ可変方法が提供される。
【0036】
このピッチ可変方法における各構成要素については、前記したレーザー加工装置において説明した通りである。
【0037】
本発明のレーザー加工方法の好ましい実施の形態によれば、レーザービーム発振器と水晶とこの水晶に接続したRF電源と集光レンズとを有するレーザー加工装置を用いて行う被加工物の表面をライン状に加工する方法において、レーザービーム発振器から発振される単一のレーザービームを水晶に入射せしめ、水晶にRFパワーを印加し、この単一のレーザービームに音波振動を与えて複数のビームに分岐してビームのピッチ間隔を調整し、この分岐されたビーム間隔の調整された複数のビームを集光レンズを透過させて被加工物表面に照射してライン状の加工を行うレーザー加工方法が提供される。
【0038】
このレーザー加工方法における各構成要素については、前記したレーザー加工装置において説明した通りである。
【実施例1】
【0039】
レーザービーム発振器と水晶とこの水晶に接続したRF電源(周波数:40MHz)と集光レンズとを有し、レーザービーム発振器から発振される単一のレーザービームを水晶内に入射せしめ、水晶に所定のRFパワーを印加して単一のレーザービームに音波振動を与えて複数のビームに分岐してビームのピッチ間隔を調整し、この分岐されたビーム間隔の調整された複数のビームを集光レンズを透過させ、被加工物表面に照射させてライン状の加工を行うために使用されるレーザー加工装置を用い、RFパワーを20〜50Wの範囲で、段階的に変化させて稼働し、得られたレーザースポットをスクリーンに投影させ、そのスポットを撮影した。この映像を図5(a)〜(d)に示す。このRFパワーを20Wより低下させて上記と同様にしてレーザービームを入射させたところ、水晶結晶内に生成していた格子が消滅し、ビーム分岐は認められなかった。
【0040】
図5(a)は、レーザービームを水晶結晶面に入射せしめた場合(RFパワー:50W
)における、射出ビームの状態を示すものであり、9ビームに分岐されている様子が肉
眼で観察できる。
【0041】
図5(b)は、RFパワーを20Wとした場合の結果を示すものであり、図5(a)と比べて、ビームの分岐数は変化しなかったが、輝度が異なっており、これは、回折効率がRFパワーの低下と共に、低下したためと考えられる。
【0042】
図5(c)は、RFパワーを50Wとし、入射角度を垂直軸から1度程度傾けてビームを入射した場合の結果を示すものである。高次光と低次光との解析効率が均等に分配され、ビーム輝度が均一に近い状態になっていた。ビーム分岐数は、9本であり、図5(a)及び(b)と同じであった。但し、両端のビームの輝度は低かった。
【0043】
図5(d)は、RFパワーを50Wとし、入射角度を垂直軸から2度程度傾けてビームを入射した場合の結果を示すものである。図5(c)と比べて、入射角度が大きくなると、ビームの分岐数が少なくなった。従って、ビーム分岐数を少なくしたい場合には、入射角度を2度以上傾けて、回折効率を低減することで達成できることが分かる。さらに、入射角度が大きい時には、RFパワーのビーム分岐に対する依存性が垂直入射に比べて敏感になるので、ビーム分岐数の増減が顕著になる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、理想的なビーム分岐ができ、分岐ビームを被加工物に対して垂直に照射できると共に、ビーム間ピッチを任意に調整することができるので、例えば、薄膜太陽電池パネル作製に当たり、電極膜形成のためのスクライビング工程、アモルファスシリコンをポリシリコンに改質するためにシリコン膜にレーザービームをライン状に施すレーザーアニール工程や、チップ抵抗のセラミック基板に対して、個別チップに分割するためのスクライビングラインを施すスクライビング工程等を初めとして、レーザービームによる加工を行う技術分野で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】回折格子を用いた従来技術のビーム分岐を説明するための模式的説明図。
【図2】本発明のレーザー加工装置におけるビームの光路を説明するための模式的説明図。
【図3】本発明のレーザー加工装置におけるビームの光路を説明するための模式的説明図。
【図4】本発明のレーザー加工装置におけるビームの光路を説明するための模式的説明図。
【図5】実施例1において、RFパワーを変化させて得られたレーザースポットをスクリーンに投影させたレーザースポットの写真。
【符号の説明】
【0046】
1 レーザービーム発振器 2 エキスパンダー
3 反射ミラー 4 回折格子
5 照射レンズ 6 遮光マスク
7 被加工物 21 レーザービーム発振器
22 音響光学素子 23 RF電源
24、25 集光レンズ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザービーム発振器と音響光学素子とこの音響光学素子に接続したRF電源と集光レンズとを有し、レーザービーム発振器から発振される単一のレーザービームを該音響光学素子に入射せしめ、該音響光学素子にRFパワーを印加し、この単一のレーザービームに音波振動を与え、ラマンナス回折により複数のビームに分岐してビームのピッチ間隔を調整し、このビーム間隔の調整された複数のビームを集光レンズを透過させ、被加工物表面に照射させてライン状の加工を行うために使用されることを特徴とするレーザー加工装置。
【請求項2】
前記音響光学素子が、水晶又はガラスからなることを特徴とする請求項1記載のレーザー加工装置。
【請求項3】
レーザービーム発振器と音響光学素子とこの音響光学素子に接続したRF電源と集光レンズとを有するレーザー加工装置を用いて行う複数のビームのピッチ間隔を調整するレーザービームのピッチ可変方法であって、該レーザービーム発振器から発振される単一のレーザービームを該音響光学素子に入射せしめ、該音響光学素子にRFパワーを印加し、この単一のレーザービームに音波振動を与え、ラマンナス回折により複数のビームに分岐してビームのピッチ間隔を調整し、このビーム間隔の調整された複数のビームを集光レンズを透過させることを特徴とするレーザービームのピッチ可変方法。
【請求項4】
前記音響光学素子が、水晶又はガラスからなることを特徴とする請求項3記載のレーザービームのピッチ可変方法。
【請求項5】
レーザービーム発振器と音響光学素子とこの音響光学素子に接続したRF電源と集光レンズとを有するレーザー加工装置を用いて行う被加工物の表面をライン状に加工する方法において、レーザービーム発振器から発振される単一のレーザービームを該音響光学素子に入射せしめ、該音響光学素子にRFパワーを印加し、この単一のレーザービームに音波振動を与え、ラマンナス回折により複数のビームに分岐してビームのピッチ間隔を調整し、このビーム間隔の調整された複数のビームを集光レンズを透過させて被加工物表面に照射してライン状の加工を行うことを特徴とするレーザー加工方法。
【請求項6】
前記音響光学素子が、水晶又はガラスからなることを特徴とする請求項5記載のレーザー加工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−248173(P2009−248173A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101946(P2008−101946)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】