説明

レーザー彫刻用印刷原版およびその製造に用いる樹脂組成物

【課題】近赤外線レーザー彫刻に対応し、高精細かつ表面べとつきの少ないレーザー彫刻用印刷原版および該印刷原版の製造に適した樹脂組成物の提供。
【解決手段】数平均分子量が300〜30万である樹脂(a)100質量部に対して、1分子中に重合性官能基を2個以上有し、かつ該官能基の少なくとも一つがチオール基である多官能チオール化合物(b)を0.1〜150質量部、レーザー吸収剤(c)を1〜100質量部、熱重合開始剤(d)を0.1〜10質量部を含む樹脂組成物からなる樹脂層を熱硬化して得られるレーザー彫刻用印刷原版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高精細かつ表面べとつきの少ないレーザー彫刻用印刷原版および印刷版と、それらの製造に適した樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フィルムなどの軟包装に印刷を施す方法としてフレキソ印刷やグラビア印刷が広汎に用いられている。グラビア印刷に使用される凹版は一般に金属製の凹版である。この凹版の表面には、通常、クロムメッキ層が設けられている。この金属製の凹版は磨耗に強く耐久性の高いものであるが、製版工程が非常に複雑であり、またメッキ工程などで大量の廃水処理が必要となる。そこで、特許文献1には熱可塑性樹脂をベースをとした樹脂層を直接レーザーで凹版を作成し、この凹版を利用してグラビア印刷を行う方法が提案されている。
また、特許文献2にはフレキソ印刷分野では高解像度なレーザー彫刻用印刷版として、伝導性カーボンブラックをレーザー吸収剤として用いた例がある。
【特許文献1】特開平7−276837号公報
【特許文献2】国際公開2004/091927号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1は熱可塑性樹脂、ニトロセルロース、カーボンブラックからなる組成が開示されているが、版を形成する際に多量の溶剤を使用する事、また、溶剤を使用するため、厚膜の印刷版を作製する事が非常に困難であるなどの問題がある。特許文献2に開示されている技術ではバインダーを伝導性カーボンブラックに関する記載があるが、カーボンブラックの1次凝集体が大きく、高精細な彫刻をする際には1次凝集体が欠け、所望の印刷パターンが得られないという問題がある。また、大気下で組成物を熱硬化させる場合には、表面のべとつきが問題になる。
表面がべとつく場合は印刷原版の研磨が困難になる事、研磨に必要な樹脂量が多くなるなどの問題があった。架橋方法として電子線を用いた場合には、架橋反応だけでなく、分解反応も起き、硬度が低下する問題、気泡が発生するなどの問題がある。そのため、高解像度なレーザー彫刻用印刷原版の製造は困難であった。
【0004】
以上のことより、硬化後の表面べとつきが低減され、環境対応性を考慮して製版工程で溶剤不要であるレーザーによる彫刻が可能な樹脂製印刷原版、さらには近赤外線レーザーで高解像度な彫刻が可能な樹脂製印刷原版の開発が求められている。
すなわち本発明は、表面べとつきが少なく、環境対応性を考慮し近赤外線レーザー彫刻で凹凸部の形成が可能な高解像度なレーザー彫刻用印刷原版及び印刷版を提供するものである。更に当該印刷原版の製造に適した樹脂組成物をも提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記課題を解決するために樹脂組成物について鋭意検討した結果、数平均分子量が300〜30万である樹脂(a)、1分子中に2個以上のチオール基を有する多官能チオール化合物(b)、レーザー吸収剤(c)、熱重合開始剤(d)を含む樹脂組成物からなる樹脂層を熱硬化して得られるレーザー彫刻用印刷原版用いて、上記課題を解決できる事を見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
数平均分子量が300〜30万である樹脂(a)100質量部に対して、1分子中に重合性官能基を2個以上有しかつ該官能基の少なくとも一つがチオール基である多官能チオール化合物(b)を0.1〜150質量部、レーザー吸収剤(c)を1〜100質量部、熱重合開始剤(d)を0.1〜10質量部を含む樹脂組成物からなる樹脂層を熱硬化して得られるレーザー彫刻用印刷原版。
[2]
多官能チオール化合物(b)がチオグリコール酸誘導体及び/又はメルカプトプロピオン酸誘導体である前項1記載のレーザー彫刻用印刷原版。
[3]
樹脂組成物が更に重合性不飽和基を有する数平均分子量が1万以下の単量体(e)を1〜300質量部含む前項1又は2記載のレーザー彫刻用印刷原版。
[4]
樹脂組成物が更に安定剤を0.01〜10質量部含む前項1〜3いずれか一項記載のレーザー彫刻用印刷原版。
[5]
(a)成分がウレタン結合及び/又はエステル結合を有する前項1〜4いずれか一項記載のレーザー彫刻用印刷原版。
[6]
(d)成分が有機過酸化物である前項1〜5いずれか一項記載のレーザー彫刻用印刷原版。
[7]
印刷原版の表面の中心線平均粗さRaが0.01μm以上、0.4μm以下である前項1〜7いずれか一項記載のレーザー彫刻用印刷原版。
[8]
前項1〜7いずれか一項に記載のレーザー彫刻用印刷原版を波長2μm以下のレーザーで彫刻して得られる印刷版。
[9]
数平均分子量が300〜30万である樹脂(a)100質量部に対して、1分子中に重合性官能基を2個以上有し、かつ該官能基の少なくとも一つがチオール基である多官能チオール化合物(b)を0.1〜150質量部、レーザー吸収剤(c)を1〜100質量部、熱重合開始剤(d)を0.1〜10質量部を含む印刷原版用樹脂組成物。
[10]
樹脂組成物が更に重合性不飽和基を有する数平均分子量が1万以下の単量体(e)を1〜300質量部含む前項9記載の印刷原版用樹脂組成物。
[11]
樹脂組成物が更に安定剤を0.01〜10質量部含む前項9又は10記載の印刷原版用樹脂組成物。
[12]
(a)成分がウレタン結合及び/又はエステル結合を有する前項9〜11いずれか一項記載の印刷原版用樹脂組成物。
[13]
前記(d)成分が有機過酸化物である前項9〜12いずれか一項記載の印刷原版用樹脂組成物。
[14]
円筒状支持体上に前項9〜13いずれか一項に記載の樹脂組成物を厚みが50μm以上、7mm未満の厚みになるように塗布して樹脂層を成型する工程と、該円筒状に成形された樹脂層を加熱し硬化せしめる工程とを含むレーザー彫刻用印刷原版の製造方法。
[15]
前記加熱し硬化せしめる工程の後に、更に、表面粗度を調整する工程を含む前項14に記載のレーザー彫刻用印刷原版の製造方法。
[16]
前記表面粗度を調整する工程において、切削、研削、および研磨からなる群より選択される少なくとも1種類の工程を含む前項15に記載のレーザー彫刻用印刷原版の製造方法。
[17]
前項1〜7のいずれか一項に記載のレーザー彫刻用印刷原版を発振波長2μm以下のレーザーで彫刻する工程を含む印刷版の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば表面べとつきが少なく近赤外線レーザー彫刻による凹凸部形成が可能な印刷原版及び印刷版、およびそれらの製造に適した樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、本実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
[樹脂組成物]
本実施の形態の樹脂組成物は、数平均分子量が300〜30万である樹脂(a)、1分子中に重合性官能基を2個以上有し、かつ該官能基の少なくとも一つがチオール基である多官能チオール化合物(b)、レーザー吸収剤(c)、熱重合開始剤(d)の各成分を少なくとも1種類ずつ含有する。
【0009】
[樹脂(a)]
本実施の形態の樹脂(a)は、数平均分子量が300以上30万以下、好ましくは500以上20万以下、より好ましくは1000以上10万以下の樹脂である。印刷原版及び印刷板の強度が向上するため繰り返しの使用にも耐え得る傾向にある点から、数平均分子量が300以上である。一方、樹脂組成物の成形加工時の粘度が過度に上昇することがなく、熱重合開始反応が起こらない温度で円筒状に印刷体を容易に作製し得る傾向にある点から30万以下である。ここで言う数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定し、分子量既知のポリスチレンで検量し換算した値である。
【0010】
また、樹脂(a)は、熱により硬化する場合、分子内に重合性不飽和基を有する必要はない場合もあるが、分子内に重合性不飽和基を有することが好ましい。1分子あたり平均で0.3個以上の重合性不飽和基を有しているのが好ましい。1分子あたり平均で0.3個以上の重合性不飽和基を有している場合、印刷原版及び印刷版の機械強度が向上し、耐久性も良好となる傾向にあり好ましい。また、印刷原版及び印刷版の機械強度を考慮すると、樹脂(a)中の重合性不飽和基の個数は1分子あたり0.5個以上がより好ましく、0.7個以上がさらに好ましい。硬化後の樹脂の機械的物性が向上すること、および重合性不飽和基を付与するプロセスが簡便である観点から、樹脂(a)中の重合性不飽和基の個数は1分子あたり2以下が好ましい。ここで「重合性不飽和基」とは、ラジカル重合反応又は付加重合反応に関与する重合性官能基を意味する。重合性不飽和基の位置は、高分子主鎖、高分子側鎖の末端あるいは高分子主鎖中や側鎖中に直接結合していることが好ましい。樹脂(a)1分子に含まれる重合性不飽和基の個数の平均は、核磁気共鳴スペクトル法(NMR法)による分子構造解析法で求めることができる。
【0011】
樹脂(a)の具体的な例としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどのポリジエン類、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリハロオレフィン類、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリアクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルエーテル等のC−C連鎖高分子の他、ポリフェニレンエーテル等のポリエーテル類、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリアミド、ポリウレア、ポリイミド等の主鎖にヘテロ原子を有する重合体等が挙げられる。樹脂(a)としては、1種若しくは2種以上の重合体を用いることができる。複数の重合体を用いる場合の形態としては共重合体とブレンドのどちらでもよい。
【0012】
さらに、樹脂(a)は、分子内にカーボネート結合、ウレタン結合、又はエステル結合からなる群より選ばれる少なくとも1種の結合を有しているのが好ましい。樹脂(a)が前記結合を有する場合、印刷で用いられる芳香族水素やエステル系溶剤に対する印刷版の耐性が向上する傾向にあるため好ましい。
樹脂(a)を製造する方法としては、特に限定されず、例えば、カーボネート結合、エステル結合を有し、かつ、水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、ケトン基、ヒドラジン残基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、環状カーボネート基、アルコキシカルボニル基等の反応性基を複数有する数千程度の分子量の化合物と、上記反応性基と結合し得る官能基を複数有する化合物(例えば、水酸基やアミノ基等を有するポリイソシアネート等)を反応させ、分子量の調節及び分子末端の結合性基への変換等を行った後、この末端結合性基と反応し得る官能基と重合性不飽和基を有する有機化合物とを反応させて末端に重合性不飽和基を導入する方法等を用いることができる。
【0013】
樹脂(a)の製造に用いられるカーボネート結合を有する化合物としては、例えば、4,6−ポリアルキレンカーボネートジオール、8,9−ポリアルキレンカーボネートジオール、5,6−ポリアルキレンカーボネートジオール等の脂肪族ポリカーボネートジオール等を挙げることができる。また、芳香族系分子構造を分子内に有する脂肪族ポリカーボネートジオールを用いてもよい。これらの化合物の末端水酸基に、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物、トリフェニルメタントリイソシアネート、1−メチルベンゼン―2,4,6―トリイソシアネート、ナフタリン−1,3,7−トリイソシアネート、ビフェニル−2,4,4’−トリイソシアネート等のトリイソシアネート化合物を縮合反応させることにより、ウレタン結合を導入するとともに、高分子量化させることができる。さらに、末端の水酸基あるいはイソシアネート基を、重合性不飽和基を導入するために用いることもできる。
【0014】
樹脂(a)の製造に用いられるエステル結合を有する化合物としては、例えば、アジピン酸、フタル酸、マロン酸、コハク酸、イタコン酸、シュウ酸、グルタル酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼラン酸、セバシン酸、フマル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のジカルボン酸化合物と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ピコナール、シクロペンタンジオール、シクロヘキサンジオール等の分子内に2個以上の水酸基を有する化合物とを縮合反応させて得られるポリエステル類、ポリカプロラクトン等のポリエステル類等を挙げることができる。これらの化合物の末端水酸基あるいはカルボキシル基にジイソシアネート化合物を縮合反応させることにより、ウレタン結合を導入するとともに、高分子量化させることができる。さらに、末端の水酸基、カルボキシル基あるいはイソシアネート基を、重合性不飽和基を導入するために用いることもできる。
また、本実施の形態の樹脂(a)は、印刷原版の各種溶剤に対し卓越した耐溶剤性を発現させるために下記式(1)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートジオールから製造されることができる。
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、R1は、炭素数2〜50の直鎖又は分岐した炭化水素基を表し、nは、2〜50の整数を表す。)
前記式(1)において、Rは、炭素数2〜50の直鎖又は分岐した炭化水素基を表す。Rは不飽和結合を含んでも構わない。R1の炭素数が2以上であることが、安定性及び耐溶剤性の観点から好ましい。Rの炭素数が50以下であることによりポリカーボネートジオールの工業的製造を良好に行うことができる。
前記式(1)において、Rは単一成分であっても複数の成分からなっても構わない。Rとしては、下記式(2)
(CH (2)
(式中、xは2〜50の整数を表す。)
で表されるポリメチレン基が好ましく、より好ましくは、xが2〜30のポリメチレン基である。
【0017】
前記式(1)において、nは、2〜50の整数を表す。nが2以上であることが、耐溶剤性の観点から好ましい。nが50以下であることが、耐溶剤性の観点から好ましく、ポリカーボネートジオールの工業的製造を良好に行うことができる。入手容易性や取り扱いの容易性の観点から、nのより好ましい範囲は2〜30であり、さらに好ましい範囲は2〜12である。
なお上記ポリカーボネートジオールは、前記式(1)に対応するジオール化合物であるHO−(R−O)n−Hより、公知の方法(例えば、特公平5−29648号公報)などにより製造することが可能である。
前記ポリカーボネートジオールとしては特に制限されないが、下記式(3)で表される化合物がより好ましい。
【0018】
【化2】

【0019】
(式中、Rは、各々独立して炭素数2〜50の直鎖及び/又は分岐した炭化水素基を表し、nは、各々独立して2〜50の整数を表し、aは、1以上の整数を表す。)
上記ポリカーボネートジオールを用いて樹脂(a)を製造する方法としては、末端水酸基と他の化合物との間で化学結合の形成を伴って製造される事が好ましい。化学結合の種類に特に制限はされないが、化学結合としては、ウレタン結合が好ましい。
樹脂(a)としては、上記ポリカーボネートジオールの末端水酸基が、ポリイソシアナート化合物、イソシアナトアルキルアクリレート及びイソシアナトアルキルメタクリレートなどのイソシアナート基を有する化合物など並びにヒドロキシアルキルアクリレート及びヒドロキシアルキルメタクリレートなどと化学結合を伴って製造されるポリマーであることが好ましく、アクリル基及びメタクリル基などの重合性不飽和基を有するポリマーであることが好ましい。
【0020】
樹脂(a)の好ましい第1の例は、前記式(1)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートジオールと、当該ポリカーボネートジオールの末端水酸基の当量未満のイソシアナート基当量のポリイソシアナート化合物と、がウレタン結合により重合し、前記重合しているポリカーボネートジオールの残存する末端水酸基と、イソシアナトアルキルアクリレート及び/又はイソシアナトアルキルメタクリレートと、がウレタン結合により結合しているポリマーが挙げられる。
前記第1の例の樹脂(a)は、前記ポリカーボネートジオールの末端水酸基を、当該ポリカーボネートジオールの末端水酸基の当量未満のイソシアナート基当量のポリイソシアナート化合物と、イソシアナトアルキルアクリレート及び/又はイソシアナトアルキルメタクリレートと、を反応させることにより製造される。
【0021】
本実施の形態におけるポリイソシアナート化合物としては、1分子中にイソシアナート基を2個以上有する化合物であれば制限はないが、例えば、ジイソシアナート化合物を例示すると、芳香族ジイソシアナートとしては、ジフェニルメタンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート、テトラメチルキシリレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、ナフチレンジイソシアナート、トリジンジイソシアナート、p−フェニレンジイソシアナートなど;脂肪族又は脂環式ジイソシアナートとしては、ヘキサメチレンジイソシアナート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、シクロヘキシレンジイソシアナート、水素化キシリレンジイソシアナートなどが挙げられる。トリイソシアナート化合物を例示すると、トリフェニルメタントリイソシアナート、トリ(イソシアナトフェニル)トリホスフェートなどが挙げられ、多官能ポリイソシアナート化合物を例示すると、ポリメリック(ジフェニルメタンジイソシアナート)などが挙げられる。印刷版又は印刷原版の耐溶剤性の観点から、ジイソシアナート化合物が好ましく、芳香族ジイソシアナートがより好ましく、トリレンジイソシアナートがさらに好ましい。
【0022】
ポリカーボネートジオールの末端水酸基の当量未満のイソシアナート基当量とは、ポリイソシアナート化合物のイソシアナート基の当量(mol)が、ポリカーボネートジオールの末端水酸基の当量(mol)未満であることを意味する。該イソシアナート基当量としては、ポリカーボネートジオールの末端水酸基の当量未満であれば制限はされないが、ポリカーボネートジオールの末端水酸基の当量の50〜95%当量であることが好ましく、60〜90%当量であることがより好ましい。
イソシアナトアルキルアクリレート及び/又はイソシアナトアルキルメタクリレートとしては、例えば、該アクリレート化合物中のアルキル部分が炭素数2〜10のアルキレン基などである化合物が好ましく、炭素数2又は3のアルキレン基などである化合物がより好ましい。イソシアナトアルキルアクリレート及び/又はイソシアナトアルキルメタクリレートの具体例としては、イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、イソシアナトプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
このようなポリマー(a)の中でも、下記式(4)で表されるポリマーが、極めて優れた耐溶剤性を示すことから好ましい。
【0023】
【化3】

【0024】
(式中、Rは、各々独立して、前記式(1)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートジオールから両末端水酸基を除いた残基を表し、Rは、ジイソシアナート化合物からイソシアナート基を除いた残基を表し、Rは、イソシアナトアルキルアクリレート及び/又はイソシアナトアルキルメタクリレートのアルキル部分を表し、R、Rは、各々独立して、メチル基又は水素原子を表し、Lは、1以上の整数を表す。)
樹脂(a)の好ましい第2の例は、前記式(1)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートジオールと、当該ポリカーボネートジオールの末端水酸基の当量のポリイソシアナート化合物と、がウレタン結合により重合し、前記重合しているポリイソシアナート化合物の残存するイソシアナート基と、ヒドロキシアルキルアクリレート及び/又はヒドロキシアルキルメタクリレートと、がウレタン結合により結合しているポリマーが挙げられる。
前記第2の例の樹脂(a)は、前記ポリカーボネートジオールの末端水酸基を、当該ポリカーボネートジオールの末端水酸基の当量を超えるイソシアナート基当量のポリイソシアナート化合物と、ヒドロキシアルキルアクリレート及び/又はヒドロキシアルキルメタクリレートとを反応させることにより製造される。
【0025】
本実施の形態におけるポリイソシアナート化合物としては、1分子中にイソシアナート基を2個以上有する化合物であれば制限はないが、例えば、ジイソシアナート化合物を例示すると、芳香族ジイソシアナートとしては、ジフェニルメタンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート、テトラメチルキシリレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、ナフチレンジイソシアナート、トリジンジイソシアナート、p−フェニレンジイソシアナートなど;脂肪族又は脂環式ジイソシアナートとしては、ヘキサメチレンジイソシアナート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、シクロヘキシレンジイソシアナート、水素化キシリレンジイソシアナートなどが挙げられる。トリイソシアナート化合物を例示すると、トリフェニルメタントリイソシアナート、トリ(イソシアナトフェニル)トリホスフェートなどが挙げられ、多官能ポリイソシアナート化合物を例示すると、ポリメリック(ジフェニルメタンジイソシアナート)などが挙げられる。印刷版又は印刷原版の耐溶剤性の観点から、ジイソシアナート化合物が好ましく、芳香族ジイソシアナートがより好ましく、トリレンジイソシアナートがさらに好ましい。
【0026】
ポリカーボネートジオールの末端水酸基の当量を超えるイソシアナート基当量とは、ポリイソシアナート化合物のイソシアナート基の当量(mol)が、ポリカーボネートジオールの末端水酸基の当量(mol)を超えることを意味する。該イソシアナート基当量としては、ポリカーボネートジオールの末端水酸基の当量を超えていれば制限はされないが、ポリカーボネートジオールの末端水酸基の当量の105〜150%当量であることが好ましく、110〜140%当量であることがより好ましい。
ヒドロキシアルキルアクリレート及び/又はヒドロキシアルキルメタクリレートとしては、例えば、該アクリレート化合物中のアルキル部分が炭素数2〜10のアルキレン基などである化合物が好ましく、炭素数2又は3のアルキレン基などである化合物がより好ましい。ヒドロキシアルキルアクリレート及び/又はヒドロキシアルキルメタクリレートの具体例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
このような樹脂(a)の中でも、下記式(5)で表されるポリマーが、極めて優れた耐溶剤性を示すことから好ましい。
【0027】
【化4】

【0028】
(式中、Rは、各々独立して、前記式(1)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートジオールから両末端水酸基を除いた残基を表し、Rは、ジイソシアナート化合物からイソシアナート基を除いた残基を表し、Rは、ヒドロキシアルキルアクリレート及び/又はヒドロキシアルキルメタクリレートのアルキル部分を表し、R、Rは、各々独立して、メチル基又は水素原子を表し、mは、1以上の任意の整数を表す。)
前記式(4)及び式(5)において、R、Rとしては、炭素数2〜10のアルキレン基が好ましく、より好ましくは、炭素数2〜5のアルキレン基であり、さらに好ましくは、エチレン基又はプロピレン基であり、よりさらに好ましくはエチレン基である。
【0029】
樹脂(a)の製造方法としては、特に制限はされないが、例えば、以下の方法などにより樹脂(a)を製造することができる。前記ポリカーボネートジオールと、該ポリカーボネートジオールの末端水酸基の当量未満のイソシアナート基当量のポリイソシアナート化合物と、ウレタン化触媒とを50〜90℃で1〜5時間反応させた後、イソシアナトアルキル(メタ)アクリレートとウレタン化触媒とを加え、50〜90℃で1〜5時間反応させることにより、樹脂(a)を製造することができる。
また、前記ポリカーボネートジオールと、該ポリカーボネートジオールの末端水酸基の当量を超えるイソシアナート基当量のポリイソシナネート化合物と、ウレタン化触媒とを50〜90℃で1〜5時間反応させた後、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとウレタン化触媒とを加え、50〜90℃で1〜5時間反応させることにより、樹脂(a)を製造することができる。
【0030】
樹脂(a)は、ガラス転移温度が20℃以下の液状樹脂、より好ましくはガラス転移温度0℃以下の液状樹脂を含むことができる。そのような液状樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、ポリイソプレン等の炭化水素鎖を有する化合物、アジペート、ポリカプロラクトン等のエステル結合を有するポリエステル化合物、脂肪族ポリカーボネート構造を有する化合物、ポリジメチルシロキサン骨格を有する化合物等が挙げられる。特に、耐候性の観点からポリカーボネート構造を有する不飽和ポリウレタン類がより好ましい。ここでいう液状樹脂とは、容易に流動変形し、かつ冷却により変形された形状に固化できるという性質を有する高分子体を意味し、外力を加えたときに、その外力に応じて瞬時に変形し、かつ外力を除いたときには、短時間に元の形状を回復する性質を有するエラストマーに対応する用語である。
【0031】
[多官能チオール化合物(b)]
多官能チオール化合物(b)は1分子中に重合性官能基を2個以上有し、かつ該重合性官能基の少なくとも一つがチオール基である多官能チオール化合物である。本実施の形態において、重合性官能基とは水酸基、カルボキシル基、アミノ基、フェノール性水酸基、(メタ)アクリロイル基、チオール基、エポキシ基などの重合性官能基を意味する。
具体的な多官能チオール化合物(b)の形態としては特に制限されないが、例えばアルキル基にチオール基が結合した重合性官能基を2つ以上有する化合物、重合性官能基を2つ以上有するチオグリコール酸誘導体、および重合性官能基を2つ以上有するメルカプトプロピオン酸誘導体等が挙げられる。チオグリコール酸誘導体やメルカプトプロピオン酸誘導体は、任意のポリオールとチオグリコール酸やメルカプトプロピオン酸とのエステル化により、さまざまな構造の多官能チオール化合物が得られる。また、特に制限されないが、多官能チオール化合物(b)の価数(1分子あたりのチオール基の数)は表面硬化性の観点から2価以上が好ましく、3価以上がより好ましい。
【0032】
多官能チオール化合物(b)の分子量は、樹脂(a)との相溶性が良好であるという観点と、樹脂加工時の粘度が過度に上昇する事が無く円筒成形が容易であるという観点から、好ましくは1万以下、より好ましくは1000以下である。ここで言う分子量とは、分子構造式から計算した値である。
本発明に用いられる多官能チオール化合物(b)の具体例としては1分子中に官能基を2個以上有し、かつ該官能基の少なくとも一つがチオール基であれば特に制限はされないが、
チオグリコール酸、チオグリコール酸アンモニウム、チオグリコール酸モノエタノールアミン、3‐メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、チオリンゴ酸、2―メルカプトエタノ−ル、2−メルカプトプロピオン酸、チオジグリコ−ル、チオグリセロ−ル、2−アミノ−3−メルカプト−1−プロパノ−ル、4,6−ジアミノピリミジン−2−チオ−ル、2−アミノ−3−メルカプトプロピオン酸、4−アミノチオフェノ−ル、3−アミノ−N−(2−メルカプトエチル)プロピオンアミド、6−アミノ−2−チオウラシル、2−アミノ−4−クロロベンゼンチオ−ル、1−アミノ−2−メチル−2−メルカプトプロパン−1−カルボン酸、等の2個以上の重合性官能基を有し、かつ該重合性官能基の1つがチオール基である化合物、
【0033】
1,2−エタンジチオール、1,3−プロパンジチオール、1,4−ブタンジチオール、2,3−ブタンジチオール、1,5−ペンタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,8−オクタンジチオール、1,9−ノナンジチオール、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、ジチオエリスリトール、2,3−ジメルカプトサクシン酸、1,2−ベンゼンジチオール、1,2−ベンゼンジメタンチオール、1,3−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジメタンチオール、1,4−ベンゼンジメタンチオール、3,4−ジメルカプトトルエン、o−,m−あるいはp−キシレンジチオール、4−クロロ−1,3−ベンゼンジチオール、2,4,6−トリメチル−1,3−ベンゼンジメタンチオール、4,4’−チオジフェノール、2−ヘキシルアミノ−4,6−ジメルカプト−1,3,5−トリアジン、2−ジエチルアミノ−4,6−ジメルカプト−1,3,5−トリアジン、2−シクロヘキシルアミノ−4,6−ジメルカプト−1,3,5−トリアジン、2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−1,3,5−トリアジン、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ブタンジオールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオプロピオネート、ブタンジオールビスチオプロピオネート、ヘキサンジオールビスチオグリコレート、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2,2’−(エチレンジチオ)ジエタンチオール、2,2−ビス(2−ヒドロキシ−3−メルカプトプロポキシフェニルプロパン)、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、2−(ジメチルアミノ)−1,3−プロパンビスチオール、1,3−ジメルカプト−2−プロパノール、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、2,5−ジアミノ−1,4−ベンゼンジチオール、等の2個以上の重合性官能基を有し、かつ該重合性官能基の2個がチオール基である化合物、
【0034】
1,2,6−ヘキサントリオールトリチオグリコレート、1,3,5−トリチオシアヌル酸、1,3,5−トリス(3−メルカブトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、トリヒドロキシエチルトリイソシアヌール酸トリスチオプロピオネート、トリスー[(エチルー3−メルカプトプロピオニロキシ)−エチル]イソシアヌレート等の3個以上の重合性官能基を有し、かつ該重合性官能基の3個がチオール基である化合物、
ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ジペンタエリスリトールヘキサキスー3−メルカプトプロピオネート等の4個以上の重合性官能基を有し、かつ該重合性官能基の4個以上がチオール基である化合物等が挙げられるがこの限りではない。
【0035】
これらの多官能チオール化合物(b)には、市販のものとして、エチレングリコールビスチオプロピオネート(EGTG)(商標)、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート(TMTG)(商標)、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート(PETG)(商標)(いずれも淀化学株式会社製)、や
1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン(カレンズMT BD1)(商標)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)(カレンズMT PE1)(商標)、1,3,5−トリス(3−メルカブトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(カレンズMT NR1)(商標)(いずれも昭和電工株式会社製)や、
トリメチロールプロパントリスー3−メルカプトプロピオネート(TMMP)(商標)、ペンタエリスリトールテトラキスー3−メルカプトプロピオネート(PEMP)(商標)、ジペンタエリスリトールヘキサキスー3−メルカプトプロピオネート(DPMP)(商標)、トリスー[(エチルー3−メルカプトプロピオニロキシ)−エチル]イソシアヌレート(TEMPIC)(商標)(いずれも堺化学工業株式会社製)等があるが、本発明の多官能チオール化合物(b)が限定される訳ではない。
【0036】
多官能チオール化合物(b)の含有量としては、樹脂(a)100質量部に対して0.1質量部以上、150質量部以下、好ましくは0.2質量部以上、100質量部以下、とりわけ好ましくは、0.5質量部以上、50質量部以下が好ましい。
多官能チオール化合物(b)が0.1質量部以上であると、表面硬化性に優れ、表面タックの少ない樹脂硬化物が得られる傾向にあり、100質量部以下であると、貯蔵安定性の良好な樹脂組成物が得られる傾向にある。
【0037】
[レーザー吸収剤(c)]
本実施の形態の樹脂組成物は、レーザー吸収剤(c)を含有する。一般に、有機化合物は近赤外線領域にレーザー波長に対応する吸収度が低い。そのため、近赤外線領域に波長を持つレーザーで印刷用原版を作製するには、レーザーの波長領域に吸収を持つレーザー吸収剤が必要になる。レーザー吸収剤としては、その波長領域に吸収を持つものであれば特に制限されないが、好適な例として、遠赤外スペクトル領域において強力に吸収する染料、例えばフタロシアニン、ナフタロシアニン、シアニン、キノン、金属錯体染料、例えばジチオレン、またはホトクロミック染料である。また、別の好適なレーザー吸収剤としては、無機顔料、特に濃く着色された無機顔料、例えば酸化クロム、酸化鉄、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレンなどの炭素材料、または金属粒子である。レーザーに対する吸光度、取り扱い製の容易さなどからレーザー吸収剤として、特にカーボンブラックが好ましい。また、カーボンブラックがレーザーの彫刻時における彫刻閾値を下げる事は、例えば特許文献GB2071574Aなどに記載されている。
【0038】
カーボンブラック(c)の平均1次粒径は、好ましくは45nm〜70nm、より好ましくは45nm〜68nmである。樹脂組成物中の分散性の観点から45nm以上であり、高解像度なレーザー彫刻という観点から70nm以下である。また、カーボンブラック(c)のDBP吸油量は、好ましくは45mL/100gより大きく、150mL/100g未満であり、より好ましくは45mL/100gより大きく、130mL/100g未満である。樹脂中の分散性の観点から50mL/100g以上であり、高解像度なレーザー彫刻という観点から130mL/100g以下である。
カーボンブラックのpHとしては、分散性の観点から好ましくは5以下、より好ましくは4以下である。pHを当該範囲に設定することは、カーボンブラックの凝集をより低減させ、カーボンブラックの配合量が少量でもレーザー光を効率良く吸収可能であり且つ光硬化も容易な印刷原版を実現させる観点からより好適である。
【0039】
なお、本実施の形態における「平均1次粒径」、「DBP吸油量」、「pH」は、後述の実施例における測定法に準じて測定できる。
本実施の形態の樹脂組成物において、前記(c)成分の含有量は特に制限されないが、樹脂(a)100質量部に対して、1質量部以上、100質量部以下が好ましく、より好ましくは、3質量部以上80質量部以下、更に好ましくは5質量部以上、60質量部以下である。レーザー彫刻性の観点から1質量部以上が好ましい。印刷原版の製造効率の観点から100質量部以下が好ましい。このとき、前記(c)成分は単独で用いても良いし、2種類以上を添加しても良い。
【0040】
[熱重合開始剤(d)]
本実施の形態において、レーザー彫刻用印刷原版を得るために、樹脂組成物からなる樹脂層に含まれる熱重合開始剤(d)によって該樹脂層を熱硬化する。樹脂組成物中の熱重合開始剤(d)の含有量は特に制限されないが、樹脂(a)100質量部に対し、0.1質量部以上、10質量部以下が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上、5質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以上、5質量部以下である。熱重合開始剤(d)の含有率が上記範囲であれば、樹脂組成物を十分に硬化させることができ、機械的強度の優れた熱硬化物を形成する事が可能となる。
成形加工時の温度幅を広く保つという観点から熱重合開始剤(d)の熱安定性は高いことが好ましい。熱重合開始剤(d)の熱安定性は、通常、10時間半減期の温度10h−t1/2の方法によって、即ち、熱重合開始剤(d)の当初の量の50%が、10時間後に分解してフリーラジカルを形成する温度で示される。これに関する更なる詳細については、「Encyclopedia of Polymer Science and Engineering」,11巻、1頁以降、John Wiley & Sons,ニューヨーク,1988年、に示されている。
特に好適な熱重合開始剤(d)は、通常、好ましくは少なくとも60℃、より好ましくは少なくとも70℃の10h−t1/2を有する。特に好ましくは80℃〜150℃の10h−t1/2である。
【0041】
熱重合開始剤(d)としては、熱硬化性の観点および樹脂組成物との相溶性の観点から有機過酸化物が特に好ましい。化合物の具体例としては、モノパーオキシカーボネート類、例えば、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、パーオキシエステル類、例えば、過オクタン酸t−ブチル、過オクタン酸t−アミル、パーオキシイソ酪酸t−ブチル、パーオキシマレイン酸t−ブチル、過安息香酸t−アミル、ジパーオキシフタール酸ジ−t−ブチル、過安息香酸t−ブチル、過酢酸t−ブチル及び2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン、ある種のジパーオキシケタール、例えば、1,1−ジ(t−アミルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)パーシクロヘキサン、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン及びエチル3,3−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブチレート、ある種のジアルキルパーオキシド、例えば、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド及び2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン、ある種のジアシルパーオキシド、例えば、ジベンゾイルパーオキシド及びジアセチルパーオキシド、ある種のt−アルキルヒドロパーオキシド、例えばt−ブチルヒドロパーオキシド、t−アミルヒドロパーオキシド、ピナンヒドロパーオキシド及びクミルヒドロパーオキシドである。また、気泡を含有させるクッション層を形成する際に好ましいものとして、アゾ化合物を挙げることができる。例えば、1−(t−ブチルアゾ)ホルムアミド、2−(t−ブチルアゾ)イソブチロニトリル、1−(t−ブチルアゾ)シクロヘキサンカルボニトリル、2−(t−ブチルアゾ)−2−メチルブタンニトリル、2,2’−アゾビス(2−アセトキシプロパン)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)及び2,2’−アゾビス(2−メチルブタンニトリル)等の化合物である。
【0042】
[単量体(e)]
本実施の形態の樹脂組成物は樹脂組成物の粘度や印刷原版の硬度を調整する観点から、重合性不飽和基を有し、数平均分子量が1万未満の単量体(e)を含んでも良い。樹脂組成物が単量体(e)を含有する場合、単量体(e)は1種類であっても良いし、2種類以上を併用しても良い。樹脂(a)との希釈のし易さから数平均分子量は1万未満が好ましく、更に好ましくは数平均分子量が5000未満、とりわけ好ましくは2000未満であり、低揮発性など取扱いの観点から100以上が好ましい。重合性不飽和基の定義は、樹脂(a)の箇所でも記載したように、ラジカル又は付加重合反応に関与する重合性不飽和基である。
【0043】
単量体(e)は、重合性不飽和基を有する数平均分子量が1万未満の(a)とは異なる単量体(e)である。樹脂(a)との希釈のし易さから単量体(e)の数平均分子量は1万未満であり、好ましくは数平均分子量が5000未満、さらに好ましくは2000未満である。また、低揮発性など取り扱いの観点から100以上が好ましい。重合性不飽和基の定義は、樹脂(a)の箇所でも記載したように、ラジカル又は付加重合反応に関与する重合性不飽和基である。
単量体(e)の含有量(2種類以上を併用する場合はその合計の含有量)は、樹脂(a)100質量部に対して1質量部以上、300質量部以下が好ましく、より好ましくは5質量部以上250質量部以下、さらに好ましくは10質量部以上、200質量部以下である。単量体(e)の含有量が1質量部以上であると、樹脂硬化物が十分な機械的強度が得られる傾向にあるため好ましく、300質量部以下であると、樹脂硬化物の硬化収縮が低減される傾向にあるため好ましい。
【0044】
単量体(e)の具体例としては、ラジカル反応性化合物として、エチレン、プロピレン、スチレン、ジビニルベンゼン等のオレフィン類、アセチレン類、(メタ)アクリル酸及びその誘導体、ハロオレフィン類、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体、アリールアルコール、アリールイソシアネート等のアリール化合物、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその誘導体、酢酸ビニル類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール等が挙げられる。その種類の豊富さ、価格、レーザー光照射時の分解性等の観点から(メタ)アクリル酸及びその誘導体が好ましい例である。該誘導体として、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、シクロアルケン基、ビシクロアルケン基などを有する脂環族化合物、ベンジル基、フェニル基、フェノキシ基、フルオレン基などを有する芳香族化合物、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、グリシジル基等を有する化合物、アルキレングリコール、トリメチロールプロパン等の多価アルコールとのエステル化合物などが挙げられる。具体的な誘導体例としては、また、印刷版の強度、レーザー照射時の分解性等の観点から、(メタ)アクリロイル基を有し、更に芳香族を有する事が好ましい。例えば、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、などが挙げられる。
【0045】
また、単量体(e)としての、付加重合反応するエポキシ基を有する化合物としては、種々のジオールやトリオールなどのポリオールにエピクロルヒドリンを反応させて得られる化合物、分子中のエチレン結合に過酸を反応させて得られるエポキシ化合物などを挙げることができる。具体的には、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した化合物のジグリシジルエーテル等のエポキシ化合物を挙げることができる。
【0046】
重合性不飽和基を有する単量体(e)は、印刷インキの溶剤である芳香族炭化水素やエステル等の有機溶剤に対する耐溶剤性の観点から、長鎖脂肪族の誘導体、脂環族の誘導体及び芳香族の誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の誘導体有することが好ましい。
単量体(e)は、耐溶剤性の観点から、分子鎖中にカーボネート結合、エステル結合、エーテル結合からなる群から選ばれる少なくとも1種類の結合を有するか、及び/又は脂肪族飽和炭化水素鎖、及び脂肪族不飽和炭化水素鎖からなる群から選ばれる少なくとも1種類の分子鎖を有し、かつウレタン結合を有する化合物であることが、好ましい。
【0047】
[微粒子]
本実施の形態の樹脂組成物には、更に、無機系微粒子、有機系微粒子、有機無機複合微粒子等の微粒子を添加することができる。これらの微粒子を添加することにより熱硬化させて得られる樹脂硬化物の機械的物性の向上、樹脂硬化物表面の濡れ性改善、あるいは樹脂組成物の粘度の調整、樹脂硬化物の粘弾性特性の調整等が可能となる。無機系微粒子あるいは有機系微粒子の材質は特に限定するものではなく、公知のものを用いることができる。また、有機無機複合微粒子として、無機系微粒子の表面に有機物層あるいは有機系微粒子を形成した微粒子、あるいは有機系微粒子表面に無機物層あるいは無機微粒子を形成した微粒子等をあげることができる。
【0048】
樹脂硬化物の機械的物性を向上させる目的では、窒化珪素、窒化ホウ素、炭化珪素等の剛性の高い無機系微粒子あるいはポリイミド等の有機系微粒子を用いることができる。更に、得られた樹脂硬化物の耐溶剤特性を向上させる目的で、無機系微粒子や、使用する溶剤への膨潤特性の良好な材質で形成された有機系微粒子を添加することもできる。
また、レーザー彫刻法により樹脂硬化物層表面あるいは樹脂硬化物を貫通したパターンを形成する目的のために、レーザー彫刻時に発生する粘稠性液状残渣の吸着除去特性に優れる数平均粒子径が5nm以上10μm以下の多孔質微粒子、あるいは1次粒子の数平均粒子径が5nm以上100nm以下の無孔質微粒子を添加しても構わない。特に限定するものではないが、例えば、多孔質シリカ、メソポーラスシリカ、シリカ−ジルコニア多孔質ゲル、ポーラスアルミナ、多孔質ガラス等を挙げることができる。
【0049】
微粒子の粒子形状は特に限定するものではなく、球状、扁平状、針状、無定形、あるいは表面に突起のある粒子などを使用することができる。特に耐磨耗性の観点からは、球状粒子が好ましい。
また、微粒子の表面をシランカップリング剤、チタンカップリング剤、その他の単量体(e)で被覆し表面改質処理を行い、より親水性化あるいは疎水性化した粒子を用いることもできる。これらの微粒子は1種類もしくは2種類以上のものを選択できる。
樹脂組成物に微粒子を用いる場合特に限定されないが、樹脂(a)100質量部に対して、1〜100質量部が好ましく、2〜50質量部の範囲がより好ましい。更に好ましい範囲は、2〜20質量部である。
【0050】
[安定剤]
本実施の形態の樹脂組成物には安定剤として、樹脂材料又はゴム材料の分野において通常使用されるものを添加することができる。その具体例としては、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤等を挙げることができる。
フェノール系酸化防止剤の具体例としては、ビタミンE、テトラキス−(メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス〔3‐(3,5−ジ−t−ブチル−4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,6−ジ−(t−ブチル)−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス−(6−t−ブチル−p−クレゾール)、1,3,5−トリス(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等を挙げることができる。
【0051】
また、ホスファイト系酸化防止剤の具体例としては、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリスデシルホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、ジフェニルモノ(2−エチルヘキシル)ホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、ジフェニルハイドロゲンホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、テトラ(トリデシル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチル−3−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、及び下記式(1)〜(4)で表されるホスファイト化合物等が挙げられる。
【0052】
これらの酸化防止剤は、単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。 特に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤との併用が好ましい。
樹脂組成物に安定剤を用いる場合特に限定されないが、樹脂(a)100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、0.05〜7.5質量部の範囲がより好ましい。更に好ましい範囲は、0.1〜5質量部である。
【0053】
[その他添加物]
その他添加物として、樹脂組成物には用途や目的に応じて紫外線吸収剤、滑剤、界面活性剤、可塑剤、香料などを添加することができる。
樹脂組成物にその他添加物を用いる場合特に限定されないが、樹脂(a)100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、0.5〜15質量部の範囲がより好ましい。更に好ましい範囲は、1〜10質量部である。
【0054】
[組成物の粘度]
本実施の形態の樹脂組成物の粘度は特に制限されないが、好ましくは50℃において10Pa・s以上10kPa・s以下である。さらに好ましくは、50℃において50Pa・s以上5kPa・s以下である。粘度が50℃において10Pa・s以上であれば、作製される印刷原版の機械的強度が十分であり、樹脂組成物を円筒状に成形する際であっても形状を保持し易く、加工し易い。粘度が50℃において10kPa・s以下であれば、変形し易く、加工が容易である。。特に厚み精度の高い印刷原版を得るためには、該樹脂組成物が重力により液ダレ等の現象を起こさないように粘度が50℃において10Pa・s以上、より好ましくは20Pa・s以上、更に好ましくは50Pa・s以上の樹脂組成物であることが望ましい。
【0055】
[成形方法]
本実施の形態のレーザー彫刻原版用樹脂組成物から得られるレーザー彫刻印刷原版は、前記樹脂組成物を(i)シート状あるいは円筒状支持体上に塗布し樹脂層を形成する工程、(ii)形成された樹脂層を熱硬化する工程を含む方法により得られることが好ましい。
(i)の工程においては、溶剤を使用しないことが、環境対応型である観点、塗布工程を簡略化する観点および樹脂中に気泡を有しない樹脂層を形成する観点から好ましい。
樹脂組成物をシート状、もしくは円筒状に塗布する方法は、既存の樹脂の塗布方法を用いることができる。例えば、注型法、ポンプや押し出し機等の機械で樹脂をノズルやダイスから押し出し、ブレードで厚みを合わせる、ロールによりカレンダー加工して厚みを合わせる方法等、スプレー等を用いて噴霧する方法が例示できる。その際、樹脂組成物が反応を起こさない範囲で加熱しながら成形を行うことも可能である。また、必要に応じて圧延処理、研削処理などをほどこしても良い。
【0056】
このとき、樹脂組成物の厚みは50μm以上、7mm未満である事が好ましい。厚みが50μm以上、7mm未満であると、レーザー彫刻時に凹凸差の大きいパターンが得られる。凹凸の大きい印刷版を用いて印刷した場合、凹版であれば、多量のインクを受理・転移でき、ベタ濃度が大きくなり、凸版であれば、白抜き線の埋まりが少ない印刷物を得る事ができる。
グラビア印刷では、研磨処理された後の金属性シリンダー上に銅メッキを施す工程があり、その後彫刻、ハードクロムメッキ処理をする。本実施の形態では、直接金属シリンダー上に樹脂を塗布しても良いし、銅メッキやハードクロムメッキ処理を施した後に樹脂を塗布しても良い。
【0057】
また、PETやニッケルなどの素材からなるシート状支持体上に塗布する事や円筒状支持体(スリーブ)に直接塗布することも好ましい。円筒状支持体が、繊維強化プラスチック、フィルム強化プラスチック、金属、ゴムから選択される少なくとも1種類の材料を構成成分とする円筒状支持体であることが好ましい。また、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維等の繊維で強化されたポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等のプラスチック製スリーブ、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルチューブ等の円筒状支持体を具体例として挙げることができる。円筒状支持体は中空状であることが、印刷版の軽量化および取り扱いの容易さの観点から好ましい。シート状支持体あるいは円筒状支持体の役割は、樹脂硬化物の寸法安定性を確保することである。したがって、寸法安定性の高いものを選択することが好ましい。線熱膨張係数を用いて評価すると、好ましい材料の上限値は100ppm/℃以下、更に好ましくは70ppm/℃以下である。材料の具体例としては、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリビスマレイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンチオエーテル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂からなる液晶樹脂、全芳香族ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。また、これらの樹脂を積層して用いることもできる。
【0058】
また、多孔質性のシート、例えば繊維を編んで形成したクロスや、不織布、フィルムに細孔を形成したもの等をシート状支持体として用いることができる。シート状支持体として多孔質性シートを用いる場合、樹脂組成物を孔に含浸させた後に熱硬化させることで、樹脂硬化物層とシート状支持体とが一体化するために高い接着性を得ることができる。クロスあるいは不織布を形成する繊維としては、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アルミナ・シリカ繊維、ホウ素繊維、高珪素繊維、チタン酸カリウム繊維、サファイア繊維などの無機系繊維、木綿、麻などの天然繊維、レーヨン、アセテート等の半合成繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ビニロン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリイミド、アラミド等の合成繊維を挙げることができる。また、バクテリアの生成するセルロースは、高結晶性ナノファイバーであり、薄くて寸法安定性の高い不織布を作製することのできる材料である。
【0059】
前記工程(ii)では、シート状支持体あるいは円筒状支持体の寸法安定性や、樹脂組成物を円筒状支持体上に塗布した場合の円筒状支持体を回転させることによる重力方向の液ダレを効果的に抑制できる観点から、80℃以上250℃以下に加熱する工程を有することが好ましい。より好ましくは、80℃以上200℃以下、更に好ましくは100℃以上150℃以下である。これらの温度は、樹脂層表面の温度とする。
前記工程(ii)において、樹脂層を加熱する方法として、熱線を照射する方法、熱風を吹きつける方法、熱風が対流する雰囲気に曝される方法、加熱したロールと接触させる方法から選択される少なくとも1種類の方法を使用することが好ましい。特に作業性の容易さの観点から熱線を照射する方法、加熱したロールと接触させる方法が好ましい。熱線としては、近赤外線、赤外線を挙げることができる。
本実施の形態の樹脂組成物を熱硬化させて得られる印刷原版の厚みは、その使用目的に応じて20μm以上50mm以下の範囲で任意に設定して構わないが、印刷原版として用いる場合には、一般的に50μm以上10mm以下の範囲である。場合によっては、組成の異なる材料を複数積層していても構わない。
【0060】
[クッション層]
印刷原版と支持体との間に、クッション層を有することもできる。該クッション層は、印刷工程での振動による衝撃を吸収する役割を果たす。クッション層としては、ショアA硬度が10以上70度以下、あるいはASKER−C型硬度計で測定したASKER−C硬度が20度以上85度以下のエラストマー層であることが好ましい。ショアA硬度が10度以上あるいはASKER−C硬度が20度以上である場合、適度に変形するため、印刷品質を確保することができる。また、ショアA硬度が70度以下あるいはASKER−C硬度が85度以下であれば、クッション層としての役割を果たすことができる。より好ましいショアA硬度の範囲は20〜60度、ASKER−C硬度では45〜75度の範囲である。ショアA硬度とASKER−C硬度は、クッション層に使用する材質により使い分けることが好ましい。2種類の硬度の違いは、測定に用いる硬度計の押針形状の違いに由来する。均一な樹脂組成の場合、ショアA硬度を用いることが好ましく、発泡ポリウレタン、発泡ポリエチレン等の発泡性基材のように不均一な樹脂組成の場合には、ASKER−C硬度を用いることが好ましい。ASKER−C硬度は、JIS K7312規格に準拠する測定法である。
【0061】
[耐溶剤性]
本実施の形態において、耐溶剤性は下記で定義される質量変化率により評価した。質量変化率が低いほど版に溶剤が侵食しにくく、溶剤による版の膨潤が少ないことを意味し、耐溶剤性が優れていると評価する。印刷原版のトルエンに対する質量変化率は50質量%以下である事が好ましく、更に好ましくは40質量%以下である事が好ましい。これらの好適な範囲では印刷時に版の膨潤が抑えられ、数十万mのロングラン印刷でも文字の太りが無いなど優れた印刷品質を再現できる。
質量変化率は試験片の大きさが幅2cm、長さ5cm、厚さ1mmの試験片をトルエン溶剤に温度20℃の条件下で、24時間浸漬させ、浸漬前後の質量増加分として下記(式1)で定義する。
質量変化率(%)=[浸漬後の質量(g)/浸漬前の質量−1]×100 (式1)
【0062】
[表面粗さ]
グラビア印刷では印刷版上のインキをドクターで掻き取る工程を含む。そのため、グラビア印刷における印刷原版及び印刷版表面の表面粗さは画像形成における重要な要素である。本実施の形態の印刷原版及び印刷版の印刷面側の中心線平均粗さRaは0.01μm以上、0.4μm以下である事が好ましい。さらに好ましくは0.02μm以上、0.3μm以下である。これらの好適な範囲で表面粗さは、ドクターによるインキ掻き取り性に優れ、ドットの階調表現性が良く、非画像部のインキ残存量が問題のない程度に低減できる。
ここで、中心線平均粗さRaは粗さ曲線を中心線から折り返し、その粗さ曲線と中心線によって得られた面積を長さLで割った値をマイクロメートル(μm)で表わす。表面粗さを測定する方法としてはJIS B0651に準拠する方法で測定を行う。
【0063】
[表面調整]
表面を加工する際には、切削、研削、研磨から選択される少なくとも1種類の方法で表面調整することが好ましい。切削加工のみを用いて表面を加工することも可能であるが、切削工程、もしくは研削工程後に研摩加工を行うと印刷原版の表面形状をより精密に調節できるため好ましい。
印刷原版表面の切削による加工としては、特に制限するものではないが、例えば旋盤、ボール盤、フライス盤、形削り盤、平削り盤、NC工作機械などの刃物による加工が挙げられる。また、印刷原版表面の研削による加工としては、砥石による加工などが挙げられる。研削加工に用いられる研削砥石の材質は、特に制限するものではないが、例としてアルミナ系や炭化珪素系の材質が挙げられる。該砥石の材質としては、例えば、アルミナ系では褐色アルミナ、白色アルミナ、淡紅色アルミナ、解砕形アルミナ等が挙げられ、炭化珪素系では黒色炭化珪素、緑色炭化珪素等が挙げられる。
研削加工に用いられる研削砥石の砥粒の粒度については、8番以上、5000番以下の砥石が好ましく用いられる。砥粒を結合させる結合剤の主要成分としては、例えば、長石可溶性粘度・フラックス、ベークライト人造樹脂、珪酸ソーダフラックス、天然・人造ゴム・硫黄、セラック天然樹脂、金属箔などが挙げられる。
【0064】
印刷原版表面の研磨加工に用いる研磨体としては、特に制限するものでないが、例えば研磨紙、ラッピングフィルム、ミラーフィルムなどの研磨フィルム、研磨ホイールが挙げられる。
該研磨紙や該研磨フィルム表面上の研磨剤の材質としては、金属、セラミックス、炭素化合物から選択される少なくとも1種類の微粒子が好ましい。金属微粒子の例としては、クロム、チタン、ニッケル、鉄等の比較的硬質の材料が好ましい。また、セラミックスの具体例としては、アルミナ、シリカ、窒化珪素、窒化ホウ素、ジルコニア、珪酸ジルコニウム、炭化珪素などが挙げられる。アルミナ質砥粒の素材質としては、褐色アルミナ質、解砕型アルミナ質研摩剤、淡紅色アルミナ質研摩剤、白色アルミナ質研削剤、人造エメリー研削剤などが挙げられる。炭化珪素質砥粒の素材質としては黒色炭化珪素質研磨剤、緑色炭化珪素質研摩剤などが挙げられる。また、炭素化合物としては、ダイヤモンド、グラファイト等の化合物を挙げることができる。特に人造ダイヤモンドは研磨剤として好ましい。他の研磨剤の材質として、ガラスビーズなどのガラス系研磨剤、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエステル、メチルメタルアクリレートなどの樹脂系研磨剤、クルミ殻、杏の種、桃の種などの植物系研磨剤などを用いることもできる。さらに、研磨布と上記の研磨剤を組み合わせて用いることも可能である。
【0065】
研磨剤の数平均粒子径は、0.1μm以上100μm以下のものが好ましい。より好ましい粒度は3μm以上100μm以下である。さらに好ましくは粒度が9μm以上30μm以下である。100μm以下の範囲であれば印刷評価に好適に利用できる印刷原版が簡便に作成できる。
特に、得られる印刷原版の表面の凹凸を小さくすることにより、被印刷体へのインキ転移性や印刷品質を向上する点からは、研磨剤の数平均粒子径は20μm以下であることが好ましい。一方、表面加工に要する時間を短縮化し、印刷原版の生産性を向上する点からは、研磨剤の数平均粒子径は12μm以下であることが好ましい。
【0066】
研磨ホイール表面の粒度としては、60番から3000番までが好ましく用いられる。研磨ホイールの材質としては、特に制限されるものではないが、鉄、アルミナ、セラミックス、炭素化合物、砥石、木、ブラシ、フェルト、コルクなどが挙げられる。
研磨紙や研磨フイルム等の支持体の厚み、材質などは特に制限するものではないが、厚みは1μm以上1000μm以下の範囲が好ましい。より好ましくは10μm以上500μm、さらに好ましくは25μm〜125μmである。25μm以上125μm以下の範囲であれば巻き取りなどの取り扱い性が簡便である。支持体の形状は特に制限するものではないが、ロール、ディスク、シート、ベルトなどが挙げられる。
【0067】
また、研磨体を用いた研磨の際に液体を介在させない乾式研磨でも印刷原版表面の研磨は可能であるが、研磨力、研磨後の印刷原版表面の均一性、粉塵の発生が少ないこと、研磨中に発生する熱の除去などを考慮すると、液体を介在させながら印刷原版に研磨剤を接触させることが好ましい。使用する液体としては、特に限定するものではないが、例えば石油、機械油、アルカリ溶液、水などが挙げられる。
特に、研磨の際に介在させる液体として、水を用いることによって他の液体を用いるよりも印刷原版の変性が少なくなり、また廃液の処理も容易となる。
本実施の形態においては表面調整の好ましい別の態様として、金属、セラミックス、炭素化合物等から選択される少なくとも1種類の物質からなる数平均粒子径が0.1μm以上100μm以下程度の微粒子を印刷原版表面に衝突させる方法も挙げられる。
微粒子を印刷原版に衝突させる方法は、特に限定されるものではないが、例えばサンドブラスト、ショットブラスト、エアーブラスト、ブロワブラストなどが挙げられる。また、微粒子の材質としては、特に限定するものではないが、例えばガラスビーズなどのガラス系粒子、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエステル、メチルメタルアクリレートなどの樹脂系粒子、クルミ殻、杏の種、桃の種などの植物系粒子などが挙げられる。
【0068】
[レーザー]
印刷原版表面にレーザーを用いて彫刻し凹凸形成して印刷版として使用する場合、レーザー彫刻法においては、形成したい画像をデジタル型のデータとしてコンピューターを利用してレーザー装置を操作し、印刷原版にレリーフ画像を作成する。レーザー彫刻に用いるレーザーは、樹脂硬化物層が吸収を有する波長を含むものであればどのようなものを用いてもよい。彫刻を高速度で行うためには出力の高いものが望ましく、炭酸ガスレーザー、ファイバーレーザー、YAGレーザー、半導体レーザー等の赤外線あるいは赤外線放出固体レーザーが好ましい。しかし、レーザーの波長としてはファイバーレーザーのようにレーザー波長が2μm以下のものを用いる方が、高解像度な彫刻版を得るのに好ましい。また、可視光線領域に発振波長を有するYAGレーザーの第2高調波、銅蒸気レーザー、紫外線領域に発振波長を有する紫外線レーザー、例えばエキシマレーザー、第3あるいは第4高調波へ波長変換したYAGレーザーは、有機分子の結合を切断するアブレージョン加工が可能であり、微細加工に適する。また、レーザーは連続照射でも、パルス照射でも良い。
レーザーによる彫刻は酸素含有ガス下、一般には空気存在下もしくは気流下に実施するが、炭酸ガス、窒素ガス下でも実施できる。彫刻終了後、レリーフ印刷版面にわずかに発生する粉末状もしくは液状の物質は適当な方法、例えば溶剤や界面活性剤の入った水等で洗いとる方法、高圧スプレー等により水系洗浄剤を照射する方法、高圧スチームを照射する方法などを用いて除去しても良い。
【0069】
[印刷版]
本実施の形態の印刷版は、前記印刷原版をレーザーで彫刻することにより表面に凹凸形成し得られうる。また、高解像度な印刷パターンが要求される場合、発振波長2μm以下のレーザーで彫刻されることが好ましい。
本実施の形態の印刷版は特に限定されないが、グラビア印刷、フレキソ印刷、レタープレス印刷、ドライオフセット印刷、ロータリースクリーン印刷などの用途で用いることが出来る。また、印刷版を鋳型として使用し、該印刷版表面と、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂が接触し、前記印刷版表面の凹部パターンが転写される用途で用いることもできる。
【0070】
[表面処理]
本実施の形態の印刷版は研磨後もしくはレーザー彫刻後、表面に改質層を形成させる事により、印刷版のタックを低減させたり、インク濡れ性を向上させたりする事もできる。改質層としては、シランカップリング剤あるいはチタンカップリング剤等の表面水酸基と反応する化合物で処理した被膜、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)被膜等を挙げる事ができる。
【実施例】
【0071】
本実施の形態を更に詳細に説明するために、以下に、実施例及び比較例を示すが、これらの実施例は本実施の形態の説明及びそれによって得られる効果などを具体的に示すものであって、本実施の形態を何ら制限するものではない。なお、以下の実施例及び比較例における諸特性は、下記の方法に従って測定した。
<測定方法>
(1)カーボンブラックの平均1次粒径
カーボンブラックの平均1次粒径は日立製作所社製透過型電子顕微鏡HF−2000を用いて1次粒径を観察し、その10点の平均値を平均1次粒径とした。電子線の加速電圧は50kVで測定を行った。
(2)カーボンブラックのDBP吸油量の測定方法
JIS K 6217−4:2001に準じて測定した。
(3)カーボンブラックのpHの測定方法
JIS Z 8802−1984に準じて測定した。
【0072】
(4)ポリカーボネートジオールのOH価
無水酢酸12.5gをピリジン50mlでメスアップしアセチル化試薬を調製した。100mlナスフラスコに、サンプルを1.0g精秤した。アセチル化試薬2mlとトルエン4mlをホールピペットで添加後、冷却管を取り付けて、100℃で1時間撹拌加熱した。蒸留水1mlをホールピペットで添加、さらに10分間加熱撹拌した。
2〜3分間冷却後、エタノールを5ml添加し、指示薬として1%フェノールフタレイン/エタノール溶液を2〜3滴入れた後に、0.5mol/lエタノール性水酸化カリウムで滴定した。
空試験としてアセチル化試薬2ml、トルエン4ml、蒸留水1mlを100mlナスフラスコに入れ、10分間加熱撹拌した後、同様に滴定を行った。この結果をもとに、下記数式(i)を用いてOH価を計算した。
OH価(mg−KOH/g)={(b−a)×28.05×f}/e (i)
a:サンプルの滴定量(ml)
b:空試験の滴定量(ml)
e:サンプル質量(g)
f:滴定液のファクター
【0073】
(5)ポリカーボネートジオールの分子量
実施例、比較例中のポリカーボネートジオールの末端は、13C−NMR(270MHz)の測定により、実質的に全てがヒドロキシル基であった。また、ポリカーボネートジオール中の酸価をKOHによる滴定により測定したところ、実施例、比較例の全てが0.01以下であった。
そこで、得られたポリマーの数平均分子量を下式(ii)により求めた。
数平均分子量Mn=2/(OH価×10―3/56.11) (ii)
(6)粘度の測定
樹脂組成物の粘度は、東京計器社製のB型粘度計「B8H型」(商標)を用いて50℃で測定した。
【0074】
(7)樹脂(a)の数平均分子量の測定
樹脂(a)の平均分子量は、GPC法を用いて求めた多分散度(Mw/Mn)が1.1より大きいものであったため、GPC法で求めた数平均分子量Mnを採用した。具体的には、樹脂(a)の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ法(GPC法)を用いて、分子量既知のポリスチレンで換算して求めた。東ソー社製の高速GPC装置「HLC−8020」(商標)と東ソー社製のポリスチレン充填カラム「TSKgel GMHXL」(商標)を用い、テトラヒドロフラン(THF)で展開して測定した。カラムの温度は40℃に設定した。GPC装置に注入する試料としては、樹脂濃度が1wt%のTHF溶液を調製し、注入量10μlとした。また、検出器としては、樹脂紫外吸収検出器を使用し、モニター光として254nmの光を用いた。
【0075】
(8)重合性不飽和基の数の測定
樹脂(a)の分子内に存在する重合性不飽和基の平均数は、未反応の低分子成分を液体クロマトグラフ法を用いて除去した後、核磁気共鳴スペクトル法(NMR法、Bruker Biospin社製「Avance 600」(商標))を用いて分子構造解析し求めた。例えば「1.7官能」とは、分子内に存在する重合性不飽和基の平均数が1.7個であることを意味する。
(9)表面のべとつき
表面のべとつきは研磨前の樹脂硬化物の表面に触れた時に、触れた後にべとつく場合もしくは、触れた跡が目視で確認できる場合はべとつきあり、目視で確認できない場合はべとつきなしとして評価した。
【0076】
(10)表面タック
表面タックは研磨前の樹脂硬化物を東洋精機製作所製タックテスター「PCIMA TACKYMETER」を用いて行なった。タック測定は、20℃において、試料片の平滑な部分に半径50mm、幅13mmのアルミニウム輪の幅13mmの部分を接触させ、該アルミニウム輪に0.5kgの荷重を加え4秒間放置した後、毎分30mmの一定速度で前記アルミニウム輪を引き上げ、アルミニウム輪が試料片から離れる際の抵抗力をプッシュプルゲージで読み取る。この値が大きいもの程、べとつき度が大きい。
(11)ショアA硬度
ショアA硬度は研磨前の硬化物をテクロック社製、商標「GS−710」を用いて測定した。測定に用いた錘の重量は、8kgであった。ショアA硬度の値は落錘後、60秒後の値を読み取った。
【0077】
(12)質量変化率
質量変化率は以下の方法で測定した。レーザー彫刻用印刷原版を幅2cm、長さ5cm、厚さ1mmに切り、試験片を作製し、あらかじめ、試験片の質量を測定し、その試験片をサンプル瓶に入れて溶剤(トルエン)に入れ、サンプル瓶の蓋をして、温度20℃、24時間浸漬した。その後、再び試験片の質量を測定し、以下の式(iii)により、質量変化率を算出した。
質量変化率(%)=[浸漬後の質量(g)/浸漬前の質量−1]*100 (iii)
(13)表面粗さ測定
表面粗さは研磨後の印刷原版を小坂研究所社製の表面粗さ測定機「SE500」(商標)を用いて、触針R2μm, カットオフλc=0.8mm、測定長さ4mm、送り速さ0.5m/sの条件で中心線平均粗さRaを測定し評価した。中心線平均粗さは、粗さ曲線を中心線から折り返し、その粗さ曲線と中心線によって得られた面積を長さLで割った値をマイクロメートル(μm)で表わす。
(14)彫刻深さ
彫刻深さはオリンパス社製の顕微鏡「BX−61」(商標)を用いて、彫刻されたグラデーションのシャドウ部セルの底と土手(未彫刻の部分)の差を測定した。
【0078】
<製造方法>
(1)樹脂組成物の成形
樹脂組成物の支持体としてポリエステルフィルム(PET)を用いた。PET上に厚さ1mmの金属枠(内幅150mm*200mm)を使用し、50℃に加温しておいた樹脂組成物を塗工し、さらに50℃*30min保持した。その後、樹脂組成物を140℃*30min保持させ、樹脂組成物をギヤオーブン中(大気中)で硬化させ、厚さが1.1mmになるように成形し、レーザー彫刻用印刷原版を作製した。
(2)表面調整
研磨ホイール3000番を用いてレーザー彫刻用印刷原版の表面を研磨し、厚さ1mmのレーザー彫刻用印刷原版を作製した。
(3)レーザー彫刻
レーザー彫刻は、ESKO社製のファイバーレーザー彫刻機「Spark4260」(商標)(波長1μm)を用いて行った。彫刻条件として、シリンダーの回転数200rpm、レーザー出力62.952W、エネルギーは12.J/cmである。彫刻画像は解像度2450dot per inch、線数175Lines per inchで作成した。画像はグラビア印刷におけるセルのグラデーションパターン、細字3pt、5pt、7ptを明朝体で作製した。
【0079】
[製造例1]
規則充填物ヘリパックパッキンNo.3を充填した、充填高さ300mm、内径30mmの蒸留塔、及び分留頭を備えた500ml四口フラスコに、ジエチレングリコール214g(2.01mol)、エチレンカーボネート186g(2.12mol)を仕込み、70℃で撹拌溶解し、系内を窒素置換した後、触媒としてテトラブトキシチタンを0.177gを加えた。このフラスコを、フラスコの内温が145〜150℃、圧力が2.5〜3.5kPaとなるように、分留頭から還流液の一部を抜き出しながら、オイルバスで加熱し、22時間反応した。その後、充填式蒸留塔を外して、単蒸留装置に取り替え、フラスコの内温170℃に上げ、圧力を0.2kPaまで落として、フラスコ内に残った、ジエチレングリコール、エチレンカーボネートを1時間かけて留去した。その後、フラスコの内温170℃、圧力0.1kPaでさらに5時間反応した。この反応により、室温で粘稠な液状のポリカーボネートジオールが174g得られた。得られたポリカーボネートジオールのOH価は60.9(数平均分子量Mn=1843)であった。
【0080】
撹拌機を備えた300mlのセパラブルフラスコにこのポリカーボネートジオール65.0g、リン酸モノブチル0.05gを入れ、80℃で3時間撹拌することにより、テトラブトキシチタンを失活させた。その後、トリレンジイソシアネート4.63g、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール0.07g、アジピン酸0.01g、ジ−n−ブチルスズジラウレート0.001gを加えて、乾燥空気雰囲気で80℃で3時間撹拌した。その後、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート2.77g、ジ−n−ブチルスズジラウレート0.001gを加えて、乾燥空気雰囲気で80℃で2時間撹拌した。この段階で、赤外分光分析によりポリカーボネートジオールの末端水酸基がウレタン結合により連結され、且つ二重結合を有すことを確認し、末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子あたり平均約1.8個)であり、数平均分子量約7000の樹脂(Lp−A)を調製した。
【0081】
[製造例2]
温度計、攪拌機、還流器を備えた2Lのセパラブルフラスコに旭化成株式会社製のポリカーボネートジオール「PCDL T4672」(商標)(数平均分子量2059、OH価54.5)1318gとトリレンジイソシアナート76.8gを加え、80℃加温下で約3時間反応させた後、2−メタクリロイルオキシイソシアネート52.6gを添加し、さらに約3時間反応させて、末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子あたり平均約1.7個)である数平均分子量約7000の樹脂(Lp−B)を調製した。
【0082】
[実施例1]
樹脂(a)として製造例1より得られたLp−A100質量部に対して、多官能チオール(b)として、堺化学工業株式会社製トリメチロールプロパントリス−3−メルカプトプロピオネート「TMMP」(商標)(3価チオール、分子量399)25質量部、さらに、樹脂(a)100質量部に対してレーザー吸収剤(c)として東海カーボン社製のカーボンブラック「TB#A700F」(商標)(平均1次粒径62nm、DBPの吸油量121mL/100g)12.5質量部、熱重合開始剤(d)として、日本油脂株式会社製の1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)パーシクロヘキサン「パーヘキサC−75(EB)」(商標)1.25質量部、安定剤としてリン酸トリフェニル1.25質量部を加えて50℃で撹拌しながら、13kPaに減圧して脱泡し、室温で粘稠な液体状の組成物を得た。さらに、樹脂組成物を東洋精機社製のラボプラストミルで30分混練した。その後、得られた樹脂組成物を前記の方法で、支持体上に塗工、成形、研磨、レーザー彫刻、印刷を行った。なお、ここでいう多官能チオール(b)の分子量とは分子構造式から算出した値である。(以下同様)
【0083】
[実施例2]
多官能チオール(b)として、堺化学工業株式会社製トリメチロールプロパントリス−3−メルカプトプロピオネート「TMMP」(商標)(3価チオール、分子量399)0.8質量部、単量体(e)としてフェノキシエチルメタクリレート18.75質量部、もう一つの単量体(e)としてトリメチロールプロパントリメタクリレート5.45質量部した以外は実施例1と同様にした。
[実施例3]
多官能チオール化合物(b)として、堺化学工業株式会社製トリメチロールプロパントリス−3−メルカプトプロピオネート「TMMP」(商標)(3価チオール、分子量399)6.25質量部、単量体(e)としてフェノキシエチルメタクリレート18.75質量部のみにした以外は実施例2と同様にした。
[実施例4]
多官能チオール化合物(b)として、堺化学工業株式会社製トリス−[(エチル−3−メルカプトプロピオニロキシ)−エチル]イソシアヌレート「TEMPIC」(商標)(3価チオール、数平均分子量526)0.8質量部とした以外は実施例2と同様にした。
【0084】
[実施例5]
多官能チオール化合物(b)として、堺化学工業株式会社製トリス−[(エチル−3−メルカプトプロピオニロキシ)−エチル]イソシアヌレート「TEMPIC」(商標)(3価チオール、数平均分子量526)6.25質量部、単量体(e)としてフェノキシエチルメタクリレート18.75質量部のみにした以外は実施例2と同様にした。
[実施例6]
多官能チオール化合物(b)として、堺化学工業株式会社製ペンタエリスリトールテトラキス−3−メルカプトプロピオネート「PEMP」(商標)(4価チオール、数平均分子量489)0.8質量部とした以外は実施例2と同様にした。
[実施例7]
多官能チオール化合物(b)として、堺化学工業株式会社製ジペンタエリスリトールヘキサキスー3−メルカプトプロピオネート「DPMP」(商標)(6価チオール、数平均分子量783)0.8質量部とした以外は実施例2と同様にした。
[実施例8]
樹脂(a)として、製造例2により得られたLp−Bを用いた以外は実施例2と同様にした。
【0085】
[比較例1]
樹脂(a)として製造例1より得られたLp−A100質量部に対して、単量体(e)としてフェノキシエチルメタクリレート18.75質量部、もう一つの単量体(e)としてトリメチロールプロパントリメタクリレート6.25質量部を加え、さらに、樹脂(a)100質量部に対してレーザー吸収剤(c)として東海カーボン社製のカーボンブラック「TB#A700F」(商標)(平均1次粒径62nm、DBPの吸油量121mL/100g)12.5質量部、熱重合開始剤(d)として、日本油脂株式会社製の1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)パーシクロヘキサン「パーヘキサC−75(EB)」(商標)1.25質量部、安定剤としてリン酸トリフェニル1.25質量部を加えて50℃で撹拌しながら、13kPaに減圧して脱泡し、室温で粘稠な液体状の組成物を得た。さらに、樹脂組成物を東洋精機社製のラボプラストミルで30分混練した。その後、得られた樹脂組成物を前記の方法で、支持体上に塗工、成形、レーザー彫刻、印刷を行った。
上記各実施例及び比較例の組成と、樹脂組成物の50℃における粘度、印刷原版の表面べとつき、タック、質量変化率、ショアA硬度、中心線平均粗さRa、印刷版の彫刻深さの測定結果を表1にまとめた。
【0086】
【表1】

【0087】
実施例と比較例の表面のべとつきおよびタック測定の結果を比較すると、本発明の印刷原版は表面のべとつき低減効果が極めて優れている事が分かる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明はレーザー彫刻による高精細なグラビア、フレキソ、ドライオフセットなどの印刷版用レリーフ画像形成に最適である。また、電子部品の導体、半導体、絶縁体、パターン形成、光学部品の反射防止膜、カラーフィルター、(近)赤外線カットフィルター等の機能性材料のパターン形成、更には液晶ディスプレイあるいは有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ等の表示素子の製造における配向膜、下地層、発光層、電子輸送層、封止材層の塗膜・パターン形成に適したレーザー彫刻可能な印刷原版に用いる事のできる円筒状印刷原版として最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が300〜30万である樹脂(a)100質量部に対して、1分子中に重合性官能基を2個以上有しかつ該官能基の少なくとも一つがチオール基である多官能チオール化合物(b)を0.1〜150質量部、レーザー吸収剤(c)を1〜100質量部、熱重合開始剤(d)を0.1〜10質量部を含む樹脂組成物からなる樹脂層を熱硬化して得られるレーザー彫刻用印刷原版。
【請求項2】
多官能チオール化合物(b)がチオグリコール酸誘導体及び/又はメルカプトプロピオン酸誘導体である請求項1記載のレーザー彫刻用印刷原版。
【請求項3】
樹脂組成物が更に重合性不飽和基を有する数平均分子量が1万以下の単量体(e)を1〜300質量部含む請求項1又は2記載のレーザー彫刻用印刷原版。
【請求項4】
樹脂組成物が更に安定剤を0.01〜10質量部含む請求項1〜3いずれか一項記載のレーザー彫刻用印刷原版。
【請求項5】
(a)成分がウレタン結合及び/又はエステル結合を有する請求項1〜4いずれか一項記載のレーザー彫刻用印刷原版。
【請求項6】
(d)成分が有機過酸化物である請求項1〜5いずれか一項記載のレーザー彫刻用印刷原版。
【請求項7】
印刷原版の表面の中心線平均粗さRaが0.01μm以上、0.4μm以下である請求項1〜7いずれか一項記載のレーザー彫刻用印刷原版。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか一項に記載のレーザー彫刻用印刷原版を波長2μm以下のレーザーで彫刻して得られる印刷版。
【請求項9】
数平均分子量が300〜30万である樹脂(a)100質量部に対して、1分子中に重合性官能基を2個以上有し、かつ該官能基の少なくとも一つがチオール基である多官能チオール化合物(b)を0.1〜150質量部、レーザー吸収剤(c)を1〜100質量部、熱重合開始剤(d)を0.1〜10質量部を含む印刷原版用樹脂組成物。
【請求項10】
樹脂組成物が更に重合性不飽和基を有する数平均分子量が1万以下の単量体(e)を1〜300質量部含む請求項9記載の印刷原版用樹脂組成物。
【請求項11】
樹脂組成物が更に安定剤を0.01〜10質量部含む請求項9又は10記載の印刷原版用樹脂組成物。
【請求項12】
(a)成分がウレタン結合及び/又はエステル結合を有する請求項9〜11いずれか一項記載の印刷原版用樹脂組成物。
【請求項13】
前記(d)成分が有機過酸化物である請求項9〜12いずれか一項記載の印刷原版用樹脂組成物。
【請求項14】
円筒状支持体上に請求項9〜13いずれか一項に記載の樹脂組成物を厚みが50μm以上、7mm未満の厚みになるように塗布して樹脂層を成型する工程と、該円筒状に成形された樹脂層を加熱し硬化せしめる工程とを含むレーザー彫刻用印刷原版の製造方法。
【請求項15】
前記加熱し硬化せしめる工程の後に、更に、表面粗度を調整する工程を含む請求項14に記載のレーザー彫刻用印刷原版の製造方法。
【請求項16】
前記表面粗度を調整する工程において、切削、研削、および研磨からなる群より選択される少なくとも1種類の工程を含む請求項15に記載のレーザー彫刻用印刷原版の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のレーザー彫刻用印刷原版を発振波長2μm以下のレーザーで彫刻する工程を含む印刷版の製造方法。

【公開番号】特開2009−262370(P2009−262370A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112796(P2008−112796)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】