説明

レーザー治療装置

【課題】 吸引により引っ張って引き伸ばした皮下組織に多数の微細孔を形成してレーザー治療し、新しい皮膚の再生を促す。
【解決手段】 本発明は、レーザー光あるいはフラッシュランプ光発生装置1と、皮膚組織に多数の微細孔を形成する微細多孔発生装置2と、レーザー光あるいはフラッシュランプ光の照射時に皮膚組織を吸引する吸引装置3と、からなるレーザー治療装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の皮膚のレーザー治療時に皮膚に当接させてレーザー蒸散により皮膚表面にミクロン単位の微細孔を開けるのに用いるレーザー治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における女性の労働人口の高まりと高齢化に伴い、女性の美しさや若返りへの欲求は果てしないものがある。この数年間でこうした欲求に起因する美容は、化粧品の分野にとどまらず、医療の分野でも美容医薬として脚光を浴びてきた。
【0003】
こうした美容医療分野で最も活用されている機器は、レーザーやフラッシュランプを用いた光治療器である。このような美容医療用のレーザーやフラッシュランプ機器は、治療するターゲット組織の組成や色により吸収される発振波長や照射時間等が異なり、使用する種類も豊富である。また、これらレーザーの波長や照射時間等を調節した色素性皮膚疾患のみに対するレーザー治療の理論は、Selective Photo-thermolysis(選択的光熱融解)と呼ばれている。
【0004】
レーザーによる美容治療の原理で重要なのは、皮膚組織中のターゲット組織としての固有の色や組成、水分等に正常組織をできるだけ損傷せずにレーザーの光熱作用を及ぼすことである。ヘモグロビンをターゲットとする場合には、色素レーザー、メラニンをターゲットとする場合には、アレキサンドライトレーザー、水分をターゲットとする場合には、エルビウムYAGレーザーを使用し、さまざま強さで与えられた、レーザー光熱作用の刺激により、皮膚組織内のそれぞれの細胞は細胞分裂を繰り返し、皮膚の修復作用を行う。この際に、古い組織と置き換えられた新生組織が、外見的にも組織学的にも若返った組織となる(図4参照)。
【0005】
しかし、現在使用されている殆どのレーザーが高いパワーレベルとともに、大きなスポットサイズで皮膚を治療するために、ターゲットの組織以外の健全な組織がしばしば熱損傷量を生じてしまう。例えば、日光性色素斑など、いわゆるシミの治療では、レーザーのターゲットはメラニン色素であり、メラニンを合成する細胞小器官であるのがメラノゾームである。
【0006】
レーザーを皮膚に照射すると、メラニン色素にレーザーが吸収されて発生する熱エネルギーでメラニン、メラノゾームが破壊され、メラニン細胞も損傷を受ける。また、伝導熱がさらに周囲の細胞に熱傷を起させると、皮膚に瘢痕や炎症性色素沈着を起してしまう。
【0007】
そのため、レーザー治療後の皮膚の回復に数ヶ月間を要し、その間、患者は包帯ガーゼ等で治療部位、例えば顔、を覆う必要がある。また、色素形成細胞であるメラノサイトに広範囲にわたって損傷を起させてしまうと、皮膚に部分的に白く抜けてしまう白斑を起してしまう問題も生じる。
【0008】
そこで、最近米国で開発されたのが、「フラクセル」(Fraxel)と呼ばれるレーザー治療装置で、レーザーファイバーやスキャナー等を用いて皮膚1平方センチメートル当たり数千個の直径70μm〜100μm(ミクロン)ほどの微細孔を100μm〜300μm間隔で一度に開けて治療するシステムである(非特許文献1参照)。
【0009】
このフラクセル装置で、一点のレーザーで掘れる深さ(孔の深遠深度は皮膚表面から皮膚層内へ400μm〜700μm)は、数100μmであり、一回に照射できる面積は、10〜20平方ミリメートル程度である。このシステムの長所は、それぞれのレーザースポットが真皮乳頭層の肝細胞とメラノサイトの多くを損傷させず、急速な上皮の新再生を起こさせることによって、皮膚の外側を若返らせることにある。このため、皮膚表面にあける微細孔が小さければ小さいほど良い。
【0010】
しかし、このフラクセル装置では、レーザーのスポットサイズの形成に機械的に限界があるため、前述したように、直径30μm程度の孔の形成が限界である。欧米人等の白色人種は、皮膚に瘢痕、色素沈着等が起きにくいため、これ位の大きな孔でも差し支えないが、日本人等の黄色人種では、ときに上述したような副作用の併発を避けられないことが多い。
【0011】
図7は、この種の従来のレーザー治療装置の概念図を示し、スリーブ30中に順次収納されたレンズ10にレーザー光源からのレーザー光を当てて収束させ、次いで微細多孔発生装置20を経て直系30〜50μm程度のスポットサイズにしたレーザー光を人体の皮膚に照射してレーザー光による蒸散により微細孔h0を皮膚の表皮層、真皮層(図6参照)を貫いて形成する。しかしながら、この種のレーザー治療装置では、レーザー光のスポットサイズに限界があるため、約30μm以下の直径を有する微細孔の皮膚への形成は、極めて困難であった。
【0012】
また、このフラクセル装置は、微細加工用の構造を有しているために、その価格が数100万円から1,600万円程の非常に高価なものであり、患者の治療費負担を増加させる一因となっている。
【0013】
さらに、通常皮膚の角質層には、外界からの紫外線、化学物質、微生物等の異物侵入を防ぐ機能と、生体内から水分や電解質などの生体成分が失われることを防ぐという二面性を持ったバリア機能がある。そのため、生体外から何らかの薬剤を皮膚に塗布しても容易に表皮内に浸透させることができない。
【0014】
現在、薬剤を人体の皮膚内に浸透させる方法として、イオントフォレーシス療法がある。イオントフォレーシス療法は、皮膚に通電させることにより人体の組織中にイオンを導入する方法であるが、この方法も、また、浸透させたい薬剤をイオン化する必要があり、全ての薬剤に有効ではなく、また、皮膚内に浸透してもその量は極少量でしかない欠点があった。
【0015】
また、さらに皮膚を吸引して光を照射する「エステラPPXテクノロジー」というアンチエージング医療機器が最近米国で開発された。これは、レーザーではない強力なフラッシュランプ光線を、皮膚を吸引しながら照射することで、皮下組織のターゲットであるメラニンや毛胞を皮膚表面に出来るだけ近づけて照射する方式である(非特許文献2参照)。
【0016】
このエステラPPXテクノロジー方式は、ある一定の光の波長を吸収するターゲットのみを選択してダメージを与えるもので、対象となるターゲットは、主にシミや毛などのメラニンや、血管腫であるヘモグロビンであって、皮膚組織の再生等の若返りを目的とするものではない。
【非特許文献1】http://www.reliant-tech.com/seience/defaul.asp
【非特許文献2】http://www.aesthera.com/default/index.cfm
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明が解決しようとする問題点は、既製のレーザー治療装置では、皮膚に形成する微細孔の直径に限界があることである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のレーザー治療装置は、レーザー光あるいはフラッシュランプ光発生装置と、皮膚組織に多数の微細孔を形成する微細多孔発生装置と、レーザー光あるいはフラッシュランプ光照射時に皮膚組織を吸引する吸引装置と、からなる。
【発明の効果】
【0019】
吸引して引張った皮下組織に微細孔をレーザー光あるいはフラッシュランプ光による蒸散により形成することにより、皮下組織を元に戻した時により小径の微細孔が形成され新しい組織の再生ができる点である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明のレーザー治療装置の実施例の概念図であって、本発明のレーザー治療装置は、レーザー光・フラッシュランプ光発生装置1、板状体に多数の微細孔を所定の間隔で穿ちレーザー光・フラッシュランプ光発生装置1からのレーザー光あるいはフラッシュランプ光を透過させる微細多孔発生装置2及びレーザー光あるいはフラッシュランプ光の照射時に皮膚の表皮層を真空吸引して引き伸ばす吸引装置3と、から構成されている。
【0021】
また、図2に示すように、図1に示した基本構成に加えて、吸引装置3に薬液を吸引して注入する薬液噴霧装置4を接続して吸引装置3内の圧力を負圧から常圧に戻すときに、所定の薬液を吸引して皮膚に噴霧する。
【0022】
本発明のレーザー治療装置の具体的構成を図2により説明する。
【0023】
レーザー治療装置は、スリーブ30内に上から順に光源から照射されたレーザー光あるいはフラッシュランプ光を偏向・収束させるレンズ10、吸引時に皮膚に当接する微細多孔発生装置20、真空源に接続され、かつスリーブ30を貫通して流体的に連通された吸引装置3と、から構成されている。
【0024】
この微細多孔装置20は、図4に示すように、例えばアルミニューム板20に所定直径50μmの多数の微細孔20aを所定の間隔で穿ったもの、あるいは図5に示すように、所定材料(例えば、ガラス、プラスチック)の板状体20に多数の微細孔を穿ち、それらの開口をガラスあるいはプラスチックを溶かして一定量滴下してそれらの溶融材料の表面張力を利用してレンズ体20bを構成する。
【0025】
また、吸引装置3は、図2に示すように、吸引管31をスリーブ30を貫いて流体的に吸引空間に連通させ、吸引管31の一端に形成された開口部32をスリーブ30内に収納されたレンズ10と微細多孔装置20との間に形成される吸引空間に開口させ、また、吸引管31の他端を所定の真空源(例えば、真空ポンプ)に接続して当該空間から真空引きする。
【0026】
前述したように、図7に示すような従来のレーザー治療装置では、微細多孔発生装置20のみによってレーザー光を透過させているので、レーザー光の、作用、例えば蒸散によるものでは皮膚(生体組織)に形成される孔の大きさ(直径)に物理的限界(例えば、50μm位まで)があった。ここで、生体組織の「蒸散」とは、生体組織の約65%が水分からなり、水の吸引率の高いレーザー光(例えば、CO2レーザー)を用いて、レーザーを照射させると生体組織に照射したレーザーの大部分が皮膚の表皮層で熱エネルギーとなって吸収されて大きな水蒸気爆発を生じさせ、生体組織を破壊することをいう。
【0027】
そこで、本発明のレーザー治療装置では、図2(a)に示すように、レーザー照射時に真空源に接続した吸引管31からレンズ10と微細孔発生装置20との間に形成された吸引空間を吸引圧力13.790〜41.370キロパスカル(2〜6psi)で吸引する。この吸引により皮膚が微細多孔装置20の表面に当接するまで引張られ、この状態のままレーザー光を皮膚に照射すると、図2(a)に示すような微細孔発生装置の微細孔と同じ直径の蒸散孔h0が引っ張られた皮下組織に形成される。
【0028】
次いで、レーザー照射後、図2(b)に示すように、真空源との接続を断って、吸引管31から開口部32を経て空気(大気)を戻し当該吸引空間を常圧に戻すと、引き伸ばされた皮膚が元に戻り、蒸散により皮下組織に形成された孔h0は収縮されてより小さな直径をもつ微細孔hiとなり、皮膚のレーザー治療に適した直径の微細孔が多数皮膚に形成されることになる。
【0029】
本発明者等の実験及び文献(非特許文献3)によると、吸引装置3で皮膚を吸引すると、皮膚は、25%から35%程度引っ張られて引き伸ばされる。したがって、例えば吸引時に蒸散されて皮膚上に形成された直径50μmの微細孔を常圧に戻すと、37μmから40μm程度の直径の微細孔が皮膚に形成されたと同じことになる。
【非特許文献3】The optics of stretching skin and use during clinical laser treatments, Steven L. Jacques, Vic A Narukar MD, Robert Anderson, Progres Report, prepare for distribution at the American Academy of Dermatology したがって、本発明のレーザー治療装置によると、皮下組織へダメージの少ない多数の微細孔を形成できるので、このような微細孔は、皮下組織のメラノサイト細胞を完全に死滅させることなく、新しい皮膚の再生を促すこととなり、結果として皮膚全体のリジュビネーション(若返り)効果を奏するようになる。
【0030】
また、図3に示すように、スリーブ30に薬液源に連通した薬液噴霧管33を接続し、薬液噴霧口34から、負圧から常圧に戻す際に薬液噴霧装置4を作動させて薬液を当該吸引空間に圧入する。または、吸引空間は吸引時は負圧状態のため常圧に戻すと自動的に薬液は吸引空間に引き込まれる。これにより、容易に薬剤の塗布と皮膚内への浸透が可能となる。
【0031】
なお、この薬剤には、例えば皮膚組織の活性化を助けるビタミンCおよびその誘導体や、ビタミンEなど、また、最近アンチエージング治療などに用いられる、ヒアルロン酸などがある。
【産業上の利用可能性】
【0032】
レーザーあるいはフラッシュランプ光の照射時に皮膚を吸引して引き伸ばして多数の微細孔を形成することによって、既存のレーザー治療装置で開けることができる微細孔よりもさらに小さな直径の微細孔を皮膚のみならず人体の他の部位に開ける既存の治療・手術装置ならびにレーザー加工装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1(a)は、本発明のレーザー治療装置の実施例の概念図である。また、図1(b)は、本発明のレーザー治療装置の他の実施例の概念図であって、薬剤噴霧装置を付加したものを示す。
【図2】図2(a)は、本発明のレーザー治療装置の縦断面図であって、吸引装置を作動させて皮膚を引っ張られている状態を、また、図2(b)は、真空源との接続を断ち吸引空間を常圧に戻した状態を示す。
【図3】本発明のレーザー治療装置に薬液噴霧装置を備えたものの縦断面図を示す。
【図4】本発明のレーザー治療装置に用いる微細孔発生装置の斜視図を示す。
【図5】本発明のレーザー治療装置に用いる微細孔発生装置の他の実施例の正面図を示す。
【図6】皮膚の断面構造とレーザー治療装置による皮膚組織への孔の形成方法を示す。
【図7】従来のレーザー治療装置の縦断面図を示す。
【符号の説明】
【0034】
1 レーザー光・フラッシュランプ光発生装置
2,20 微細多孔発生装置
3 吸引装置
4 薬剤噴霧装置
10 レンズ
30 スリーブ
31 吸引管
33 薬液噴霧管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光あるいはフラッシュランプ光発生装置と、
皮膚組織に多数の微細孔を形成する微細多孔発生装置と、
レーザー光あるいはフラッシュランプ光照射時に皮膚組織を吸引する吸引装置と、
からなるレーザー治療装置。
【請求項2】
照射後の皮膚組織に薬液を噴霧する薬剤噴霧装置を備えた請求項1のレーザー治療装置。
【請求項3】
前記微細多孔発生装置が、多数の微細孔を穿った板状体からなる請求項1のレーザー治療装置。
【請求項4】
前記微細多孔発生装置が、アルミニューム、ガラスあるいはプラスチックからなる多数の微細孔を穿った板状体からなり、該微細孔の開口部にガラスあるいはプラスチックを溶着してレンズ体を形成した請求項1のレーザー治療装置。
【請求項5】
前記薬剤噴霧装置で噴霧する薬剤が、ビタミンC及びその誘導体、ビタミンEあるいはヒアルロン酸からなる請求項1のレーザー治療装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−326147(P2006−326147A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156874(P2005−156874)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(505128924)
【出願人】(505128957)
【Fターム(参考)】