説明

レーザー溶着用樹脂組成物及び成形品

【課題】レーザー溶着性の高いレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)と、脂肪酸系化合物(B)(例えば、C12−36脂肪酸エステル、C12−36脂肪酸金属塩など)と、さらに必要に応じて環状ポリエステルオリゴマー(C)(例えば、環状ポリアルキレンテレフタレートオリゴマーなど)とでレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を構成する。このような樹脂組成物において、脂肪酸系化合物(B)の割合は、通常、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)100重量部に対して、0.01〜1.0重量部程度であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー溶着性(又はレーザー透過性)に優れるポリブチレンテレフタレート系樹脂(以下、PBT系樹脂ということがある)組成物、この成形品で形成された成形品(レーザー透過側成形品)、この成形品を用いた複合成形品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂は、優れた機械的特性・電気的特性、耐熱性、耐候性、耐水性、耐薬品性及び耐溶剤性を有するため、エンジニアリング・プラスチックとして自動車部品、電気・電子部品などの種々の用途に広く利用されている。近年、電子部品の基板などを保護する外装容器材料(ハウジング材料)として使用されることも多くなり、このような場合に容器の密閉性が必要となる場合には、接着や溶着工法が一般的に使用されている。溶着工法のうち、レーザー溶着手法は、接合時に振動溶着や超音波溶着のように、振動や熱を製品全体に与えることなく、溶着部分のみ溶融して接合させることが可能となるため、精密電子部品を保護する外装容器などの接合に適した手法として近年注目されている。
【0003】
しかし、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、比較的レーザー透過性の低い材料であるため、レーザー溶着を行うためにはその成形品の厚みには制限がある。このように、肉厚製品のレーザー溶着を可能とするなどの要求に応えるため、ポリブチレンテレフタレート樹脂成形品におけるレーザー透過性の向上が求められている。
【0004】
例えば、特開2001−26656号公報(特許文献1)には、特定の範囲の融点を有するポリブチレンテレフタレート系共重合体、特定の範囲の融点を有するポリエチレンテレフタレート系共重合体および特定の範囲の融点を有するポリエチレンナフタレート系共重合体から選ばれた少なくとも1種のポリエステル系共重合体(a)からなる成形品(A)と他の成形品(B)とを溶着加工により一体化させて成形体を製造する方法が開示されている。この文献には、融点が170℃〜220℃範囲のPBT系共重合体は、融解熱が低く、特に、レーザー溶着法においては光線透過率が高いため、より低い融解エネルギーで溶融させることが可能であり、低融解エネルギーでの接合は、溶着強さが向上するとともに、溶着条件の幅が広がることが記載されている。また、この文献には、ホモポリブチレンテレフタレート樹脂はレーザー溶着強度が小さいことが記載されている。しかし、共重合体を用いると、透過性がやや向上する半面、成形性が低下する可能性がある。
【0005】
また、特開2003−292752号公報(特許文献2)には、(A)ポリブチレンテレフタレートまたは、ポリブチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレート共重合体からなるポリブチレンテレフタレート系樹脂と、(B)ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ポリフェニレンオキシド、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の樹脂を配合してなり、(B)は、(A)と(B)の合計に対し1〜50重量%であるレーザー溶着用樹脂組成物が開示されている。また、この文献には、樹脂組成物には、離型剤として、モンタン酸ワックス類、またはステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミニウム等の金属石鹸、エチレンビスステアリルアミド等の高級脂肪酸アミド、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物などを含んでいてもよいことが記載されている。しかし、この文献の樹脂組成物では、樹脂(B)のブレンド比率が低い場合には、その効果が明確に発現されず、また、樹脂(B)のブレンド比率を大きくすると、レーザー透過性は向上する場合があるものの、耐薬品性や成形性が低下するなど、PBTの特性が失われてしまう虞がある。
【0006】
なお、特開2000−290476号公報(特許文献3)には、ポリブチレンテレフタレートなどの熱可塑性ポリエステル100重量部に対して、炭化水素系化合物、アルキレンビス脂肪酸アミド系化合物、脂肪酸エステル系化合物(モンタン酸部分ケン化エステルワックスなど)、脂肪酸およびその金属塩、グリコール系化合物、ポリエステルエラストマ系化合物、ポリアミドエラストマ系化合物、ポリオレフィン系化合物、エポキシ系化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物が0.02〜50重量部含有されている溶着用樹脂組成物が開示されている。この文献では、前記樹脂組成物又はその成形品を、超音波溶着、振動溶着、スピン溶着、高周波溶着、誘導加熱溶着、熱板溶着、熱風溶着、摩擦溶着、インパルス溶着などの溶着に利用できることが記載されており、レーザー溶着への適用を想定していない。
【0007】
また、特開平6−184410号公報(特許文献4)には、(A)末端カルボキシル基量が15当量/106g以下のポリブチレンテレフタレート樹脂に、ペレットの食い込み性、離型性を付与するため、(B)脂肪酸エステル系化合物(例えば、炭素数12〜32の脂肪酸と一価もしくは多価アルコールとのエステルなど)0.01〜3重量%を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が開示されている。また、特開平5−170933号公報(特許文献5)には、特定のポリブチレンフタレート共重合体を成形したポリエステル薄肉成形品に、内部潤滑効果及び/又は金型離型効果を発現させ得る有機系添加剤(例えば、脂肪酸金属塩など)を配合してもよいことが記載されている。これらの文献では、脂肪酸エステル系化合物および脂肪酸金属塩はいずれも潤滑剤として用いており、樹脂組成物又は薄肉成形品をレーザー溶着に用いることについてなんら記載されていない。
【特許文献1】特開2001−26656号公報(特許請求の範囲、段落番号[0003]、段落番号[0020])
【特許文献2】特開2003−292752号公報(特許請求の範囲、、段落番号[0029])
【特許文献3】特開2000−290476号公報(特許請求の範囲、段落番号[0022])
【特許文献4】特開平6−184410号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開平5−170933号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(特に、ホモポリブチレンテレフタレート)をベースとしながらも、レーザー透過性を向上できるレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物、この樹脂組成物で形成されたレーザー透過性樹脂成形品、この成形品を用いた複合成形品及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂の特性(機械的強度、成形性など)を損なうことなく、高いレーザー溶着性を実現できるレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物、この樹脂組成物で形成されたレーザー透過性樹脂成形品、この成形品を用いた複合成形品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(特に、ホモポリブチレンテレフタレート)と脂肪酸系化合物と(さらには環状ポリエステルオリゴマーと)を組み合わせると、レーザー透過性(又はレーザー溶着性)を向上できること、さらには、ポリブチレンテレフタレート系樹脂の特性(機械的強度、成形性など)とレーザー透過性(又はレーザー溶着性)とを両立できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明のレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂(A)と、脂肪酸系化合物(B)(脂肪酸およびその誘導体から選択された少なくとも1種)とで構成されている。このような樹脂組成物において、脂肪酸系化合物(B)の割合は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)100重量部に対して、通常、0.01〜1.0重量部程度であってもよい。
【0012】
本発明の樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)は、変性割合が低いPBT系樹脂であってもよい。また、本発明の樹脂組成物では、樹脂成分が、実質的にポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)のみで構成されていてもよい。本発明では、このような変性割合の低いPBT系樹脂を使用しても、また、他の樹脂を含んでいなくても、レーザー透過性を向上できる。
【0013】
前記脂肪酸系化合物(B)は、例えば、脂肪酸エステル(例えば、C12−36脂肪酸エステルなど)および脂肪酸金属塩(例えば、C12−36脂肪酸金属塩など)から選択された少なくとも1種であってもよい。
【0014】
本発明の樹脂組成物は、さらに、環状ポリエステルオリゴマー(C)(例えば、環状ポリC2−4アルキレンテレフタレートオリゴマーなどの環状ポリアルキレンテレフタレートオリゴマー)を含んでいてもよい。このような環状ポリエステルオリゴマー(C)の割合は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)100重量部に対して、例えば、0.01〜20重量部程度であってもよい。
【0015】
なお、本発明の樹脂組成物は、充填剤を含まない(実質的に含まない)樹脂組成物であってもよい。
【0016】
本発明には、前記樹脂組成物で形成されたレーザー透過性樹脂成形品(又はレーザー透過側成形品)も含まれる。詳細には、本発明には、レーザー光を吸収可能なレーザー吸収性樹脂成形品と接触可能であり、レーザー光を透過して、前記樹脂成形品と接合するレーザー透過性樹脂成形品であって、前記樹脂組成物で形成されているレーザー透過性樹脂成形品も含まれる。また、本発明には、前記レーザー透過性樹脂成形品と、レーザー光を吸収可能なレーザー吸収性樹脂成形品とがレーザー溶着により接合されている複合成形品も含まれる。このような複合成形品は、例えば、レーザー透過性樹脂成形品とレーザー吸収性樹脂成形品との接触面にレーザー光を照射することにより製造できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の樹脂組成物およびその成形品では、ポリブチレンテレフタレート系樹脂と脂肪酸系化合物と(さらには環状ポリエステルオリゴマーと)を組み合わせるので、ポリブチレンテレフタレート系樹脂をベースとしながらも、レーザー透過性を向上できる。また、前記組み合わせにより、ポリブチレンテレフタレート系樹脂の特性(機械的強度、成形性など)を損なうことがなく、高いレーザー溶着性を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物]
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂
ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)とは、テレフタル酸成分(テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体)、及び炭素数4のアルキレングリコール(1,4−ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体を少なくとも重合成分とする熱可塑性樹脂である。
【0019】
このようなベース樹脂としてのポリブチレンテレフタレート系樹脂(PBT系樹脂)としては、ブチレンテレフタレートを主成分として[例えば、50重量%以上(例えば、55〜100重量%)、好ましくは60重量%以上(例えば、65〜100重量%)、さらに好ましくは70重量%以上(例えば、75〜100重量%)程度]含むホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)又はコポリエステル(ブチレンテレフタレート系共重合体又はポリブチレンテレフタレートコポリエステル)などが挙げられる。
【0020】
コポリエステル(ブチレンテレフタレート系共重合体又は変性PBT樹脂)における前記共重合可能なモノマー(以下、単に共重合性モノマーと称する場合がある)としては、テレフタル酸成分を除くジカルボン酸成分(二塩基酸)、1,4−ブタンジオールを除くジオール成分、オキシカルボン酸成分、ラクトン成分などが挙げられる。共重合性モノマーは一種で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0021】
ジカルボン酸(又はジカルボン酸成分又はジカルボン酸類)としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸(例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ダイマー酸などのC4−40ジカルボン酸、好ましくはC4−14ジカルボン酸)、脂環式ジカルボン酸(例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ハイミック酸などのC8−12ジカルボン酸)、テレフタル酸を除く芳香族ジカルボン酸(例えば、フタル酸、イソフタル酸;2,6−ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸;4,4′−ジフェニルジカルボン酸、4,4′−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルケトンジカルボン酸などのC8−16芳香族ジカルボン酸)、又はこれらの反応性誘導体(例えば、低級アルキルエステル(ジメチルフタル酸、ジメチルイソフタル酸(DMI)などのフタル酸又はイソフタル酸のC1−4アルキルエステルなど);酸クロライド;酸無水物;アルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体などのエステル形成可能な誘導体)などが挙げられる。さらに、必要に応じて、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体(アルコールエステルなど)などを併用してもよい。このような多官能化合物を併用すると、分岐状のPBT系樹脂を得ることもできる。
【0022】
ジオール(又はジオール成分又はジオール類)には、例えば、1,4−ブタンジオールを除く脂肪族ジオール[例えば、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール(1,6−ヘキサンジオールなど)、オクタンジオール(1,3−オクタンジオール、1,8−オクタンジオールなど)、デカンジオールなどの低級アルカンジオール、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C2−12アルカンジオール、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C2−10アルカンジオールなど);(ポリ)オキシアルキレングリコール(例えば、複数のオキシC2−4アルキレン単位を有するグリコール、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジテトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど)など]、脂環族ジオール(例えば、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールAなど)、芳香族ジオール[例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、ナフタレンジオールなどのジヒドロキシC6−14アレーン;ビフェノール(4,4’−ジヒドロキシビフェニルなど);ビスフェノール類;キシリレングリコールなど]、及びこれらの反応性誘導体(アルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体などのエステル形成性誘導体など)などが挙げられる。さらに、必要に応じて、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなどのポリオール又はそのエステル形成性誘導体を併用してもよい。このような多官能化合物を併用すると、分岐状のPBT系樹脂を得ることもできる。
【0023】
前記ビスフェノール類としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタンなどのビス(ヒドロキシアリール)C1−6アルカン;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)C4−10シクロアルカン;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド;4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、及びこれらのアルキレンオキサイド付加体などが例示できる。アルキレンオキサイド付加体としては、ビスフェノール類(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールFなど)のC2−3アルキレンオキサイド付加体、例えば、2,2−ビス−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ジエトキシ化ビスフェノールA(EBPA)、2,2−ビス−[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ジプロポキシ化ビスフェノールA、ビスフェノ−ルAのプロピレンオキサイド3モル付加体などが挙げられる。アルキレンオキサイド付加体において、アルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのC2−3アルキレンオキサイド)の付加モル数は、各ヒドロキシル基1モルに対して1〜10モル、好ましくは1〜5モル程度である。
【0024】
オキシカルボン酸(又はオキシカルボン酸成分又はオキシカルボン酸類)には、例えば、オキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、ヒドロキシフェニル酢酸、4−カルボキシ−4’−ヒドロキシビフェニル、グリコール酸、オキシカプロン酸などのオキシカルボン酸又はこれらの誘導体(アルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体など)などが含まれる。ラクトンには、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(例えば、ε−カプロラクトンなど)などのC3−12ラクトンなどが含まれる。
【0025】
好ましい共重合性モノマーとしては、ジオール類[C2−6アルキレングリコール(エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状アルキレングリコールなど)、繰返し数が2〜4程度のオキシアルキレン単位を有するポリC2−4アルキレングリコール(ジエチレングリコールなど)、ビスフェノール類(ビスフェノール類又はそのアルキレンオキサイド付加体など)、1,4−シクロヘキサンジメタノールなど]、ジカルボン酸類[C6−12脂肪族ジカルボン酸(アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸など)、カルボキシル基がアレーン環の非対称位置に置換した非対称芳香族ジカルボン酸など]などが挙げられる。これらの化合物のうち、芳香族化合物、例えば、ビスフェノール類(特にビスフェノールA)のアルキレンオキサイド付加体、及び非対称芳香族ジカルボン酸[フタル酸、イソフタル酸、及びその反応性誘導体(ジメチルイソフタル酸(DMI)などの低級アルキルエステル)など]などが好ましい。
【0026】
ポリブチレンテレフタレート系樹脂としては、ホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)及び/又は共重合体(ポリブチレンテレフタレートコポリエステル)が好ましく、ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、共重合性モノマーの割合(変性量)が、通常、45モル%以下(例えば、0〜40モル%程度)、好ましくは35モル%以下(例えば、0〜35モル%程度)であってもよく、さらに好ましくは30モル%以下(例えば、0〜30モル%程度)のホモ又はコポリエステルであってもよい。本発明の樹脂組成物では、樹脂成分をこのような変性割合が低いPBT系樹脂(特に、ホモポリエステル)で構成しても、レーザー透過性を効率よく向上できるため、PBT樹脂の優れた特性(耐薬品性、成形性など)を低下させることなくレーザー溶着(レーザー透過側部材)に用いることができる。
【0027】
なお、共重合体において、共重合性モノマーの割合は、例えば、0.01〜30モル%程度の範囲から選択でき、通常、1〜30モル%、好ましくは3〜25モル%、さらに好ましくは5〜20モル%(例えば、5〜15モル%)程度である。また、ホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)と共重合体(コポリエステル)とを組み合わせて使用する場合、ホモポリエステルとコポリエステルとの割合は、共重合性モノマーの割合が、全単量体に対して0.1〜30モル%(好ましくは1〜25モル%、さらに好ましくは5〜25モル%)程度となる範囲であり、通常、前者/後者=99/1〜1/99(重量比)、好ましくは95/5〜5/95(重量比)、さらに好ましくは90/10〜10/90(重量比)程度の範囲から選択できる。
【0028】
なお、PBT系樹脂の固有粘度(IV)は、例えば、0.6dL/g以上、好ましくは0.64〜1.3dL/g、さらに好ましくは0.65〜1.2dL/g程度であってもよい。このような範囲の固有粘度を有するPBT系樹脂を使用すると、十分な靱性の付与と溶融粘度の低減とを効率よく実現しやすい。なお、固有粘度(IV)は、例えば、o−クロロフェノール中で、温度35℃の条件下で測定できる。固有粘度が小さすぎると、十分な機械特性が得られない虞があり、また、固有粘度が大きすぎると成形時の流動性が不良となる虞がある。
【0029】
なお、PBT系樹脂は、市販品を使用してもよく、テレフタル酸又はその反応性誘導体と1,4−ブタンジオールと必要により共重合可能なモノマーとを、慣用の方法、例えば、エステル交換、直接エステル化法などにより共重合(重縮合)することにより製造したものを使用してもよい。
【0030】
(B)脂肪酸系化合物
本発明の特色は、前記PBT系樹脂組成物において、脂肪酸系化合物を(特定の割合で)配合する点にある。このような脂肪酸系化合物の添加により、PBT系樹脂組成物のレーザー透過性を効率よく向上できる。
【0031】
脂肪酸系化合物(B)としては、脂肪酸、脂肪酸誘導体などが挙げられる。脂肪酸としては、長鎖脂肪酸(又は高級脂肪酸、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、べヘン酸、カルナウバ酸、セロチン酸、ヘプタコサノイック酸、モンタン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エルカ酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸などのC10−40脂肪酸(特に、モノカルボン酸)、好ましくはC12−36脂肪酸、さらに好ましくはC18−32脂肪酸)などが挙げられる。なお、脂肪酸は、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよく、特に飽和脂肪酸であってもよい。
【0032】
脂肪酸誘導体としては、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩などが挙げられる。
【0033】
脂肪酸エステルは、脂肪酸(前記例示の脂肪酸)とアルコールとのエステルであり、アルコールとしては、一価アルコール(又はモノオール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコールなどのアルカノール、好ましくはC1−30アルカノール、さらに好ましくはC1−20アルカノールなど)、多価アルコール[例えば、ジオール(例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどのアルカンジオール、好ましくはC2−10アルカンジオール、好ましくはC2−6アルカンジオール;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのポリC2−4アルキレングリコール)、3以上のヒドロキシル基を有するポリオール(例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタンなどのC3−12脂肪族ポリオール、好ましくはC4−10脂肪族ポリオールなど]などが挙げられる。なお、脂肪酸エステルは、脂肪酸が複数のカルボキシル基を有する脂肪酸(飽和又は不飽和ジカルボン酸など)である場合、モノエステルであってもよく、ポリエステル(ジエステルなど)であってもよい。脂肪酸エステルは、これらのアルコールを単独又は2種以上組み合わせたエステルであってもよい。
【0034】
代表的な脂肪酸エステルとしては、前記例示の脂肪酸のエステル、例えば、長鎖脂肪酸エステル{例えば、モンタン酸エステル[又はモンタン酸ワックス、例えば、モンタン酸アルキルエステル(例えば、メチルエステル、プロピルエステル、ラウリルエステル、ステアリルエステルなどのC1−30アルキルエステル)などの一価アルコールのモンタン酸エステル;(ポリ)アルキレングリコールモンタネート(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ポリエチレングリコールなどの(ポリ)C2−4アルキレングリコール)のモノ又はジモンタネートなど)などのアルカンジオールモンタン酸エステル;グリセリンモンタン酸エステル(例えば、グリセリンモノモンタネートなどのモノ乃至トリエステル)、トリメチロールプロパンモンタン酸エステル(例えば、トリメチロールプロパンモノモンタネートなどのモノ乃至トリエステル)、ペンタエリスリトールモンタン酸エステル(例えば、ペンタエリスリトールモノモンタネートなどのモノ乃至テトラエステル)、ソルビタンモンタン酸エステル(例えば、ソルビタンモノモンタネート、ソルビタンジモンタネートなどのモノ乃至トリエステル)などの脂肪族ポリオールのモンタン酸エステルなど]、これらに対応するラウリン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル(グリセリンモノ乃至トリステアレート、ペンタエリスリトールモノ乃至テトラステアレート、ソルビタンモノ乃至トリステアレートなど)、ベヘン酸エステル(ソルビタンモノベヘネートなど)、オレイン酸エステルなど}などが含まれる。
【0035】
脂肪酸アミドとしては、前記例示の脂肪酸のアミド、例えば、長鎖脂肪酸アミド[例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、アラキン酸アミド、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリルステアリン酸アミド、ステアリルオレイン酸アミド、エチレンジアミン−ジステアリン酸アミド、ヘキサメチレンジアミン−ジステアリン酸アミド、エチレンジアミン−ジオレイン酸アミド、エチレンジアミン−ジエルカ酸アミド、エチレンジアミン−(ステアリン酸アミド)オレイン酸アミドなどのC10−40飽和又は不飽和脂肪酸アミド(モノ又はジアミドなど)など]などが含まれる。
【0036】
脂肪酸金属塩としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩など)、周期表2B族金属(亜鉛塩など)、周期表3B族金属(例えば、アルミニウム塩など)などが挙げられる。脂肪酸金属塩は、これらの金属を単独で又は2種以上組み合わせた金属塩であってもよい。
【0037】
これらの脂肪酸系化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0038】
好ましい脂肪酸系化合物には、脂肪酸エステル{例えば、C12−36脂肪酸エステル(特に脂肪族モノカルボン酸エステル、例えば、アルカノール(C1−30アルコールなど)とのエステル、アルカンジオール(C2−10アルカンジオールなど)とのエステル、ポリアルカンジオール(ポリエチレングリコールなどのポリC2−4アルカンジオールなど)とのエステル、C3−12脂肪族ポリオール(グリセリン、ソルビタンなど)などの3以上のヒドロキシル基を有するポリオールとのエステル(モノ乃至テトラエステルなど)など)など}、脂肪酸金属塩[例えば、C12−36脂肪酸アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)、C12−36脂肪酸アルカリ土類金属塩(カルシウム塩など)など]が含まれる。
【0039】
脂肪酸系化合物(B)の割合は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)100重量部に対して、0.01〜1.0重量部の範囲から選択でき、例えば、0.02〜0.7重量部、好ましくは0.03〜0.5重量部、さらに好ましくは0.04〜0.4重量部程度である。本発明では、上記のような特定の少割合で脂肪酸系化合物を樹脂組成物に配合することにより、レーザー透過性を効率よく向上できる。なお、脂肪酸系化合物の配合割合が少なすぎると、十分なレーザー透過性の向上効果が得られない場合があり、また、多すぎると逆にレーザー透過性を低下させる虞がある。
【0040】
(C)環状ポリエステルオリゴマー
本発明のPBT系樹脂組成物は、さらに環状ポリエステルオリゴマー含んでいてもよい。環状ポリエステルオリゴマーと前記脂肪酸系化合物とを組み合わせることにより、より一層前記樹脂組成物のレーザー透過性(およびレーザー溶着性)を向上できる。また、このような環状ポリエステルオリゴマーは、前記樹脂組成物に添加しても、PBT系樹脂そのものが有する機械的強度などの特性を低下させることがないため、レーザー透過性の向上と機械的強度などの特性の保持とを両立させて実現できる。さらに、環状ポリエステルオリゴマーの添加により、PBT系樹脂の溶融流動性を向上させることができるため、PBT系樹脂組成物の成形性をも高めることができる。このため、環状ポリエステルオリゴマーと脂肪酸系化合物との組み合わせにより、レーザー透過性の向上、PBT系樹脂の特性の保持、および流動性の向上をバランスよく両立させることができる。
【0041】
環状ポリエステルオリゴマー(C)(環状ポリエステル、環状エステル系オリゴマー)は、ポリエステル骨格を有する環状ポリマーであればよい。ポリエステル骨格(又はポリエステル骨格を構成するポリエステル)としては、芳香族ポリエステル、脂環族ポリエステル、脂肪族ポリエステルなどのいずれであってもよい。ポリエステル骨格は、通常、芳香族ポリエステルであってもよい。
【0042】
代表的な環状ポリエステルオリゴマーには、下記式で表される構造単位を有する化合物(環状芳香族ポリエステルオリゴマー)が含まれる。
【0043】
【化1】

【0044】
(式中、Rはアルキレン基又は二価の脂環式基、Aは二価の芳香族基又は脂環式基、nは1以上の整数を示す)
上記式において、アルキレン基Rとしては、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基などのC2−12アルキレン基(特に直鎖状C2−12アルキレン基)、好ましくはC2−8アルキレン基、さらに好ましくはC2−4アルキレン基などが挙げられる。また、上記式において、二価の脂環式基Rとしては、シクロアルキレン基R(例えば、1,4−シクロヘキシレン基などのC5−10シクロアルキレン基)、シクロアルカンジアルキレン基(例えば、1,4−シクロヘキサンジメチレン基などのC5−10シクロアルカン−ジC1−4アルキレン基など)などが挙げられる。また、nは、1以上であればよく、例えば、1〜10、好ましくは1〜5、さらに好ましくは1〜3、特に1であってもよい。なお、nが2以上であるとき、複数のRは同一又は異なるアルキレン基又はシクロアルキレン基で構成してもよい。
【0045】
また、上記式において、芳香族基Aとしては、フェニレン基(例えば、m−フェニレン基、p−フェニレン基など)、ナフチレン基(例えば、2,6−ナフチレン基など)などのC6−12アリーレン基、好ましくはC6−10アリーレン基、さらに好ましくはC6−8アリーレン基などが挙げられる。また、脂環式基Aとしては、例えば、シクロアルキレン基(例えば、1,4−シクロヘキシレン基などのC5−10シクロアルキレン基)などが挙げられる。
【0046】
好ましい環状ポリエステルオリゴマーには、環状ポリアルキレンアリレート[例えば、環状ポリエチレンテレフタレートオリゴマー、環状ポリプロピレンテレフタレートオリゴマー、環状ポリブチレンテレフタレート(ポリテトラメチレンテレフタレート)オリゴマーなどの環状ポリC2−6アルキレンテレフタレート;環状ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなど]が含まれ、特に、環状ポリアルキレンテレフタレートオリゴマー(特に、環状ポリブチレンテレフタレートなどの環状ポリC2−4アルキレンテレフタレート)が好ましい。
【0047】
環状ポリエステルオリゴマー(C)の平均重合度は、例えば、2〜30、好ましくは3〜25、さらに好ましくは5〜20(例えば、6〜18)程度であってもよく、通常8〜15程度であってもよい。特に、環状ポリエステルオリゴマーは、主要部分(例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおいてピークを示す領域)が重合度12までの重合度を有するオリゴマーであり、各種の重合度を有する環状オリゴマーの混合物であってもよい。
【0048】
環状ポリエステルオリゴマーの融点は、例えば、100〜250℃、好ましくは110〜220℃、さらに好ましくは120〜210℃(例えば、130〜200℃)程度であってもよい。
【0049】
なお、環状ポリエステルオリゴマーは、公知の方法[例えば、対応するジオールおよびジカルボン酸ハライド(塩化テレフタロイルなど)を立体障害のないアミン存在下で縮合させる方法;特開平8−225633号公報に記載の方法(ビス−ヒドロキシアルキル末端ジエステル又はオリゴマーを高沸点溶媒及びエステル化に接触させる方法);特開平8−19962号公報(特許第3426064号)に記載の方法;特表2004−507599号公報に記載の方法;特開2002−317041号公報に記載の方法など]を利用して製造したものを使用してもよく、市販品を使用することもできる。例えば、環状ポリエステルオリゴマー(環状ポリブチレンテレフタレーオリゴマー)は、サイクリクス・コーポレイション(Cyclics Corporation)社製、「CBT」などとして入手可能である。
【0050】
環状ポリエステルオリゴマー(C)の割合は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)100重量部に対して、例えば、0.01〜20重量部、好ましくは0.05〜15重量部、さらに好ましくは0.2〜10重量部程度あってもよい。本発明では、上記のように、少割合の添加であっても、PBT系樹脂組成物のレーザー透過性をより一層向上できる。
【0051】
また、環状ポリエステルオリゴマー(C)の割合は、脂肪酸系化合物(B)100重量部に対して、例えば、0.1〜100重量部、好ましくは0.5〜50重量部、さらに好ましくは1〜30重量部程度であってもよい。
【0052】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂(熱可塑性樹脂など)、種々の添加剤を含んでいてもよい。他の樹脂としては、例えば、PBT系樹脂以外のポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂など)、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂(ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体など)、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール、ポリアリーレンオキシド(ポリフェニレンオキシドなど)、ポリアリーレンサルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリアリレートなどが例示される。これらの他の樹脂は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0053】
特に、本発明の樹脂組成物は、樹脂成分として、実質的にポリブチレンテレフタレート系樹脂のみを含む樹脂組成物であってもよい。本発明では、前記特開2003−292752号公報に記載の樹脂組成物のように、PBT系樹脂に加えて、他の樹脂(すなわち、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ポリフェニレンオキシド、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の樹脂)を含んでいなくても、優れたレーザー透過性を前記樹脂組成物に付与できる。
【0054】
また、添加剤としては、充填剤、安定剤(酸化防止剤又は抗酸化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤(染料や顔料など)、潤滑剤、可塑剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、ドリッピング防止剤などが例示される。
【0055】
充填剤(又は補強剤)としては、無機充填剤[例えば、繊維状充填剤(ガラス繊維、ミルドガラスファイバー、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスバルーン、シリカ、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維、カーボン繊維などの無機質繊維)、板状又は粉粒状充填剤(例えば、カーボンブラック、黒鉛、珪酸カルシウム・珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレーなどの珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、アルミナなどの金属酸化物、カルシウム、マグネシウム、亜鉛などの金属の炭酸塩や硫酸塩、さらには炭化珪素、窒化珪素、窒化ホウ素など)など]、有機充填材(例えば、高融点の芳香族ポリエステル繊維、液晶性ポリエステル繊維、芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維、ポリイミド繊維など)などが例示される。これらの添加剤は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0056】
なお、本発明の樹脂組成物は、非強化(又は非強化性)の樹脂組成物であってもよい。すなわち、本発明の樹脂組成物は、実質的に充填剤(および結晶核剤)を含まない樹脂組成物であってもよい。通常、PBT系樹脂組成物には、実用的には充填剤が含まれることが多いが、本発明の樹脂組成物では、レーザー透過性を十分に保持するため、充填剤を含まない形で好適に使用することもできる。なお、充填剤を添加すると、レーザー透過性が低下することが多い。
【0057】
本発明のPBT系樹脂組成物は、粉粒体混合物や溶融混合物(ペレットなど)であってもよい。特に、本発明の樹脂組成物は、成形性に優れているため、各成分[PBT系樹脂(A)と脂肪酸系化合物(B)と必要に応じて環状ポリエステルオリゴマー(C)と(さらに必要により他の成分)]を溶融混合物(溶融混練物)として効率よく得ることができる。溶融混合物は、慣用の方法により各成分を溶融混練することにより製造できる。また、本発明の樹脂組成物は、混合物(例えば、粉粒体又は溶融混合物)の形態でそのまま成形体の製造に供してもよい。
【0058】
本発明の樹脂組成物は、PBT系樹脂で形成されているにも拘わらず、光線透過性(特に、レーザー光に対する光線透過性)が高く、レーザー溶着に適している。そのため、本発明の樹脂組成物は、レーザー溶着用の樹脂組成物、詳細には、レーザー透過性樹脂成形品用樹脂組成物(レーザー透過性樹脂成形品を形成するための樹脂組成物、レーザー溶着における透過側部材用の樹脂組成物)として好適である。なお、レーザー透過性樹脂成形品(レーザー透過性成形品、レーザー透過側樹脂成形品、レーザー透過側成形品、レーザー透過性樹脂部材、レーザー透過性部材などということがある)とは、レーザー光を吸収可能なレーザー吸収性樹脂成形品と接触可能であり、レーザー光を透過して、前記樹脂成形品と接合する成形品であって、前記樹脂組成物で形成された成形品である。
【0059】
[成形品]
本発明のレーザー透過性樹脂成形品は、前記樹脂組成物で形成されている。このような成形品(レーザー透過性樹脂成形品)は、各成分[すなわち、PBT系樹脂(A)と脂肪酸系化合物(B)と(必要に応じて環状ポリエステルオリゴマー(C)とさらに必要により他の成分と)]で構成された前記樹脂組成物を慣用の方法で成形することにより製造できる。例えば、本発明の成形品(又は成形体)は、(1)各成分を混合して、押出機(一軸又は二軸押出機)により混練し押出してペレットを調製した後、成形する方法、(2)一旦、組成の異なるペレット(マスターバッチ)を調製し、そのペレットを所定量混合(希釈)して成形に供し、所定の組成の成形品を得る方法、(3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法などで製造できる。また、樹脂成分の一部を細かい粉体としてこれ以外の成分と混合し添加することは、これらの成分の均一配合を行う上で好ましい方法である。また、前記添加剤などは、任意の時期に添加し、所望の組成物を得ることも可能である。
【0060】
成形品は、前記PBT系樹脂組成物を溶融混練し、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、回転成形、インサート成形、ガスインジェクションモールディングなどの慣用の方法で容易に成形できる。成形品は、特に、射出成形により成形された成形品(射出成形品)であってもよい。
【0061】
成形品の形状は、特に制限されないが、成形品をレーザー溶着により相手材(他の樹脂成形品)と接合して用いるため、通常、少なくとも接触面(平面など)を有する形状(例えば、板状)である。また、本発明の成形品はレーザー光に対する透過性が高いので、レーザー光が透過する部位の成形品の厚み(レーザー光が透過する方向の厚み)は、広い範囲から選択でき、例えば、0.1〜5mm、好ましくは0.1〜3mm(例えば、0.5〜3mm)程度であってもよい。
【0062】
レーザー光源としては、特に制限されず、例えば、色素レーザー、気体レーザー(エキシマレーザー、アルゴンレーザー、クリプトンレーザー、ヘリウム−ネオンレーザーなど)、固体レーザー(YAGレーザーなど)、半導体レーザーなどが利用できる。レーザー光としては、通常、パルスレーザーが利用される。
【0063】
本発明は、前記レーザー透過性樹脂成形品で形成された複合成形品(又は複合成形体又は複合成形部材又は複合成形樹脂部材)も開示する。この複合成形品は、前記樹脂組成物で形成されたレーザー透過性樹脂成形品(又は第1の成形品)と、相手材のレーザー吸収性樹脂成形品(レーザー吸収側樹脂成形品、レーザー吸収側成形品、レーザー吸収側樹脂部材、レーザー吸収側部材、第2の成形品、被着体)とがレーザー溶着により接合された成形品であり、両成形品が互いに一体化されている。このような複合成形品は、レーザー透過性樹脂成形品とレーザー吸収性樹脂成形品との接触面(又は界面)に、レーザー光を照射することにより製造できる。詳細には、第1の成形品と第2の成形品とを接触(特に少なくとも接合部を面接触)させ、レーザー光を照射することにより、第1の成形品と第2の成形品との界面を少なくとも部分的に溶融させて接合面を密着させ、冷却することにより二種の成形品を接合、一体化して1つの成形品とすることができる。このような複合成形品において、本発明の成形品を用いると、融着により高い接合強度が得られ、レーザー光の照射により融着していない非融着部材と同等の高い融着強度を保持できる。
【0064】
前記レーザー吸収性樹脂成形品を構成する樹脂としては、特に制限されず、種々の熱可塑性樹脂、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの混合物[又はアロイ、例えば、スチレン系樹脂(ABS樹脂、AS樹脂などのゴム含有スチレン系樹脂)とポリエステル樹脂とのアロイなど]などが挙げられる。これらの樹脂のうち、前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を構成する樹脂と同種類又は同系統の樹脂(PBT系樹脂、PET系樹脂などのポリエステル系樹脂(芳香族ポリエステル系樹脂)、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂など)又はその組成物でレーザー吸収側成形品を構成してもよい。例えば、第2の成形品を、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(又はその組成物)で形成してもよい。
【0065】
被着体は、レーザー光に対する吸収剤又は着色剤を含んでいてもよい。前記着色剤は、レーザー光の波長に応じて選択でき、無機顔料[カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなど)などの黒色顔料、酸化鉄赤などの赤色顔料、モリブデートオレンジなどの橙色顔料、酸化チタンなどの白色顔料など]、有機顔料(黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料など)などが挙げられる。なお、レーザー吸収剤は、「クリアーウエルド」(GENTEX社、近赤外吸収材料)などとして市販品を使用することもできる。これらの吸収剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0066】
レーザー光の照射は、通常、第1の成形品から第2の成形品の方向に向けて行われる。そして、このようなレーザー光の照射により、吸収剤又は着色剤を含む第2の成形体の界面で発熱させて、第1の成形品と第2の成形品とを融着させる。なお、必要によりレンズ系を利用して、第1の成形品と第2の成形品との界面にレーザー光を集光させ接触界面を融着してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の複合成形品は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(特に、PBT系樹脂)の特性を保持しつつ、高い溶着強度を有し、種々の用途、例えば、電気・電子部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、自動車機構部品などに適用できる。特に、自動車電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品など)、モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0069】
実施例1〜10及び比較例1〜2
実施例及び比較例では、以下の成分を用いた。
【0070】
ボリブチレンテレフタレート系樹脂(A);
(A−1)ポリブチレンテレフタレート(固有粘度=0.86dL/g、ウィンテックポリマー(株)製)
脂肪酸系化合物(B);
(B−1)モンタン酸ワックス(東洋ペトロライト社製、「LUZAWAX−EP」)
(B−2)カルシウムステアレイト(日本油脂社製、「カルシウムステアレイトS」)
(B−3)ペンタエリスリトールステアリン酸エステル(日本油脂社製、「ユニスターH476」)
(B−4)ソルビタン脂肪酸エステル(理研ビタミン社製、リケマールB−150)
(b)非脂肪酸系化合物;
低分子量ポリエチレン(三洋化成工業社製、「サンワックス165P」)
(C)環状ポリエステルオリゴマー;
環状ポリブチレンテレフタレートオリゴマー(サイクリクスコーポレイション社製、「CBT」(Cyclie butyleneterephthalate)、融点140〜190℃)。
【0071】
表に示す割合で、2軸押出機(日本製鋼所製,30mmφ)により250℃にて混練し、ペレットを作製した。得られたペレットを用いて射出成形機(住友重機械工業株式会社製)により、シリンダー温度260℃及び金型温度80℃の条件で、図1に示す平板状ダンベル型試験片[試験片1(縦2cm、横18cm、厚み2mm)、幅広部2(縦2cm、横3.5cm、厚み2mm)、幅狭部(又は把持部)3(縦(中央部)1cm、横11cm、厚み2mm)]を作成した。この成形片を用いて、以下のようにして、レーザー透過率およびレーザー溶着強度を測定した。なお、表において、断りのない限り、数値の単位は「重量部」である。
【0072】
(レーザー透過率)
上記2mm厚みのダンベル型試験片の標線部(試験片1又は幅狭部3の中央部分)を使用して、積分球を使用した分光光度計(日本分光(株)製、「V570」)により、波長940nmでの試験片の透過率を測定した。
【0073】
(レーザー溶着強度)
レーザー透過側試験片として、上記厚み2mmのダンベル型試験片(試験片1)の幅狭部3の中央部から厚み方向に向けて切断した試験片A(試験片の半分に相当)を作成した。また、PBT樹脂(ウィンテックポリマー(株)製、ジュラネックス2002(黒))を用いて、前記試験片Aに対する被溶着試験片B(レーザー吸収側試験片)として試験片Aと同様の形状を有する試験片Bを作成した。
【0074】
そして、図2に示すように、試験片B(7)の切断部に対して試験片A(6)の切断部の一部を重ねて接触させ、レーザー溶着機を用いて、光源又はレーザー発振器(4)からのレーザー光(5)の焦点を調整し、試験片A(6)を透過させて試験片B(7)にレーザー光(5)を照射してレーザー溶着を行った。なお、レーザー溶着は、レーザー溶着機(ノボラック社製)を使用して、焦点距離88mm(照射径φ1.2、照射幅4mm、出力34A、照射速度10mm/s)の条件で行った。
【0075】
そして、引張試験機(オリエンテック製、RTC−1325PL)を用いて、レーザー溶着した試験片Aと試験片Bとを10mm/分で引張り、レーザー溶着強度を測定した。
【0076】
実施例及び比較例の結果を表に示す。
【0077】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は実施例で使用した平板状ダンベル型試験片の平面図である。
【図2】図2は実施例でのレーザー溶着を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0079】
1…ダンベル型試験片
2…幅広部
3…幅狭部
4…光源
5…レーザー光
6…試験片A
7…試験片B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)と脂肪酸系化合物(B)とで構成され、脂肪酸系化合物(B)の割合が、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)100重量部に対して、0.01〜1.0重量部であるレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物。
【請求項2】
脂肪酸系化合物(B)が、脂肪酸エステルおよび脂肪酸金属塩から選択された少なくとも1種である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
脂肪酸系化合物(B)が、C12−36脂肪酸エステルおよびC12−36脂肪酸金属塩から選択された少なくとも1種である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、環状ポリエステルオリゴマー(C)を含み、環状ポリエステルオリゴマー(C)の割合が、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)100重量部に対して0.01〜20重量部である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項5】
環状ポリエステルオリゴマー(C)が、環状ポリアルキレンテレフタレートオリゴマーである請求項4記載の樹脂組成物。
【請求項6】
レーザー光を吸収可能なレーザー吸収性樹脂成形品と接触可能であり、レーザー光を透過して、前記樹脂成形品と接合するレーザー透過性樹脂成形品であって、請求項1記載の樹脂組成物で形成されているレーザー透過性樹脂成形品。
【請求項7】
請求項6記載のレーザー透過性樹脂成形品と、レーザー光を吸収可能なレーザー吸収性樹脂成形品とがレーザー溶着により接合されている複合成形品。
【請求項8】
レーザー透過性樹脂成形品とレーザー吸収性樹脂成形品との接触面にレーザー光を照射し、請求項7記載の複合成形品を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−156432(P2008−156432A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345225(P2006−345225)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(501183161)ウィンテックポリマー株式会社 (54)
【Fターム(参考)】