説明

レーザ加工方法

【課題】水晶で形成された加工対象物を寸法精度よく切断すると共に、その外表面にダメージが生じるのを抑制することが可能なレーザ加工方法を提供する。
【解決手段】水晶で形成された加工対象物1に対し表面3をレーザ光入射面としてレーザ光Lを集光させ、加工対象物1における粗面としての裏面21側に改質領域7を切断予定ライン5に沿って形成する。これにより、表面3に露出する亀裂が生じるのを抑制し、切断後の加工対象物1の寸法精度を高める。加えて、水晶はレーザ光Lの加工閾値が高いためにレーザ光Lのエネルギが改質領域7の形成で大きく消費されると共に、裏面21が粗面であるために裏面21に到達したレーザ光Lが散乱することから、裏面21にダメージが生じることも少ない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象物を切断するためのレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーザ加工方法としては、加工対象物にレーザ光を集光させ、加工対象物に改質領域を切断予定ラインに沿って形成し、加工対象物を切断予定ラインに沿って切断するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−108459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述したようなレーザ加工方法においては、水晶で形成された加工対象物に改質領域を形成する場合、一般的に、改質領域を形成するためのレーザ光の加工閾値が高いことから、集光させるレーザ光の加工エネルギ密度が高いものとされる。そのため、改質領域から亀裂が延び易く、レーザ光入射面に露出する亀裂が生じやすい。この点、レーザ光入射面に露出する亀裂を生じさせると、当該亀裂は例えば水晶が有する加工特性のために蛇行し易いことから、切断後の加工対象物の寸法精度(加工品質)を制御することは容易でなく、寸法精度を向上させることが困難とされている。
【0005】
また、上述したようなレーザ加工方法では、加工対象物へのレーザ光の照射で加工対象物の外表面にダメージが生じるのを抑制することが好ましい。
【0006】
そこで、本発明は、水晶で形成された加工対象物を寸法精度よく切断すると共に、その外表面にダメージが生じるのを抑制することが可能なレーザ加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るレーザ加工方法は、水晶で形成され表面と該表面の反対側の粗面としての裏面とを有する加工対象物を、切断予定ラインに沿って切断するためのレーザ加工方法であって、表面をレーザ光入射面として加工対象物にレーザ光を集光させ、加工対象物における裏面側に改質領域を切断予定ラインに沿って形成する改質領域形成工程を含むことを特徴とする。
【0008】
この本発明のレーザ加工方法では、レーザ光入射面としての表面とは反対側の裏面側に改質領域が形成されている。よって、レーザ光入射面に露出する亀裂が生じるのを抑制することができ、切断後の加工対象物の寸法精度を高めることができる。このとき、改質領域が裏面側に形成されるために裏面へのダメージが懸念されるが、水晶では加工閾値が高いためにレーザ光のエネルギが改質領域の形成で大きく消費されると共に、裏面が粗面とされているために裏面に到達したレーザ光が散乱することから、裏面にダメージが生じることも少ない。従って、本発明によれば、水晶で形成された加工対象物を寸法精度よく切断すると共に、加工対象物の外表面にダメージが生じるのを抑制することが可能となる。
【0009】
また、裏面の中心線平均粗さは、0.05μm以上とされていることが好ましい。この場合、例えば裏面に到達したレーザ光の散乱を効果的に生じさせ、裏面へのダメージを一層抑制することができる。
【0010】
また、上記作用効果を好適に奏するために、具体的には、加工対象物の厚さは、100μm以下であり、改質領域形成工程では、加工対象物内において裏面から5μm以下の位置に改質領域を形成する場合がある。
【0011】
また、切断予定ラインに沿って外部から加工対象物に力を印加することにより、改質領域を切断の起点として加工対象物を切断する切断工程をさらに含むことが好ましい。これにより、加工対象物を確実に切断予定ラインに沿って切断することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水晶で形成された加工対象物を寸法精度よく切断すると共に、その外表面にダメージが生じるのを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】改質領域の形成に用いられるレーザ加工装置の概略構成図である。
【図2】改質領域の形成の対象となる加工対象物の平面図である。
【図3】図2の加工対象物のIII−III線に沿っての断面図である。
【図4】レーザ加工後の加工対象物の平面図である。
【図5】図4の加工対象物のV−V線に沿っての断面図である。
【図6】図4の加工対象物のVI−VI線に沿っての断面図である。
【図7】本実施形態に係る水晶振動子の製造工程を示すフロー図である。
【図8】加工対象物を水晶チップに切断する工程を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
本実施形態に係るレーザ加工方法では、加工対象物にレーザ光を集光させ、改質領域を切断予定ラインに沿って形成する。そこで、まず、改質領域の形成について、図1〜図6を参照して説明する。
【0016】
図1に示すように、レーザ加工装置100は、レーザ光Lをパルス発振するレーザ光源101と、レーザ光Lの光軸(光路)の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、レーザ光Lを集光するための集光用レンズ(集光光学系)105と、を備えている。また、レーザ加工装置100は、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1を支持するための支持台107と、支持台107を移動させるためのステージ111と、レーザ光Lの出力やパルス幅、パルス波形等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部(制御手段)102と、ステージ111の移動を制御するステージ制御部115と、を備えている。
【0017】
このレーザ加工装置100においては、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、ダイクロイックミラー103によってその光軸の向きを90°変えられ、支持台107上に載置された加工対象物1の内部に集光用レンズ105によって集光される。これと共に、ステージ111が移動させられ、加工対象物1がレーザ光Lに対して切断予定ライン5に沿って相対移動させられる。これにより、切断予定ライン5に沿った改質領域が加工対象物1に形成されることとなる。なお、ここでは、レーザ光Lを相対的に移動させるためにステージ111を移動させたが、集光用レンズ105を移動させてもよいし、或いはこれらの両方を移動させてもよい。
【0018】
加工対象物1は、水晶で形成されており、図2に示すように、加工対象物1には、加工対象物1を切断するための切断予定ライン5が設定されている。切断予定ライン5は、直線状に延びた仮想線である。加工対象物1の内部に改質領域を形成する場合、図3に示すように、加工対象物1の内部に集光点(集光位置)Pを合わせた状態で、レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち、図2の矢印A方向に)相対的に移動させる。これにより、図4〜図6に示すように、改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部に形成され、切断予定ライン5に沿って形成された改質領域7が切断起点領域8となる。
【0019】
なお、集光点Pとは、レーザ光Lが集光する箇所のことである。また、切断予定ライン5は、直線状に限らず曲線状であってもよいし、これらが組み合わされた3次元状であってもよいし、座標指定されたものであってもよい。また、切断予定ライン5は、仮想線に限らず加工対象物1の表面3に実際に引かれた線であってもよい。改質領域7は、連続的に形成される場合もあるし、断続的に形成される場合もある。また、改質領域7は列状でも点状でもよく、要は、改質領域7は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また、改質領域7を起点に亀裂が形成される場合があり、亀裂及び改質領域7は、加工対象物1の外表面(表面3、裏面21、若しくは外周面)に露出していてもよい。また、改質領域7を形成する際のレーザ光入射面は、加工対象物1の表面3に限定されるものではなく、加工対象物1の裏面21であってもよい。
【0020】
ちなみに、ここでのレーザ光Lは、加工対象物1を透過すると共に加工対象物1の内部の集光点近傍にて特に吸収され、これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される(すなわち、内部吸収型レーザ加工)。よって、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lが殆ど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。一般的に、表面3から溶融され除去されて穴や溝等の除去部が形成される(表面吸収型レーザ加工)場合、加工領域は表面3側から徐々に裏面側に進行する。
【0021】
ところで、本実施形態で形成される改質領域は、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいう。改質領域としては、例えば、溶融処理領域(一旦溶融後再固化した領域、溶融状態中の領域及び溶融から再固化する状態中の領域のうち少なくともいずれか一つを意味する)、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。さらに、改質領域としては、加工対象物の材料において改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域や、格子欠陥が形成された領域がある(これらをまとめて高密転移領域ともいう)。
【0022】
また、溶融処理領域や屈折率変化領域、改質領域の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、格子欠陥が形成された領域は、さらに、それら領域の内部や改質領域と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック)を内包している場合がある。内包される亀裂は改質領域の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。加工対象物1としては、水晶(SiO)又は水晶を含む材料が用いられている。
【0023】
また、本実施形態においては、切断予定ライン5に沿って改質スポット(加工痕)を複数形成することによって、改質領域7を形成している。改質スポットとは、パルスレーザ光の1パルスのショット(つまり1パルスのレーザ照射:レーザショット)で形成される改質部分であり、改質スポットが集まることにより改質領域7となる。改質スポットとしては、クラックスポット、溶融処理スポット若しくは屈折率変化スポット、又はこれらの少なくとも1つが混在するもの等が挙げられる。
【0024】
この改質スポットについては、要求される切断精度、要求される切断面の平坦性、加工対象物の厚さ、種類、結晶方位等を考慮して、その大きさや発生する亀裂の長さを適宜制御することが好ましい。
【0025】
次に、本実施形態について詳細に説明する。
【0026】
本実施形態は、例えば水晶振動子を製造するための水晶振動子の製造方法として用いられるものであって、六方柱状の結晶である水晶で形成された加工対象物1を複数の水晶チップに切断する。そこで、まず、図7を参照しつつ水晶振動子の全体の製造工程フローを概略説明する。
【0027】
初めに、人工水晶原石を例えばダイヤモンド研削によって切り出し、所定サイズの棒状体(ランバード)に加工する(S1)。続いて、水晶振動子の温度特性要求に応じた切断角度をX線により測定し、この切断角度に基づいてランバードをワイヤーソー加工によって複数のウェハ状の加工対象物1に切断する(S2)。ここでの加工対象物1は、10mm×10mmの矩形板状を呈し、厚さ方向に対し35.15°傾斜した結晶軸を有している。
【0028】
続いて、ラッピング加工を加工対象物1の表面3及び裏面21に施し、その厚さを所定厚さとする(S3)。続いて、微小角度レベルで切断角度をX線により測定し、加工対象物1の選別及び分類を行った後、上記S3と同様なラッピング加工を加工対象物1の表面3及び裏面21に再度施し、加工対象物1の厚さを微調整する(S4,S5)。
【0029】
上記S5においては、加工対象物1は、その厚さが100μm以下とされ、好ましいとして厚さ35μmの超極薄状とされている。また、上記S3,S5にて表面3及び裏面21にラッピング加工が施されることにより、これら表面3及び裏面21は粗面となっている。具体的には、表面3及び裏面21は、例えば梨地状に形成され、その中心線平均粗さRa(以下、単に「粗さRa」)が0.05μm以上とされ、好ましいとして0.05μm〜0.30μmとされている。なお、粗さRaは、日本工業規格(JIS−B0601)で定義される中心線平均粗さを意味する。
【0030】
続いて、切断加工及び外形加工として、加工対象物1に改質領域7を形成し当該改質領域7を切断の起点として加工対象物1を切断予定ライン5に沿って切断する(S6:詳しくは、後述)。これにより、±数μm以下の寸法精度の外形寸法を有する複数の水晶チップを得る。本実施形態では、表面3視において切断予定ライン5が格子状に加工対象物1に設定されており、1mm×0.5mmの矩形板状の水晶チップとして加工対象物1を切断する。
【0031】
続いて、所定周波数となるように水晶チップに面取り加工(コンベックス加工)を施す共に、所定周波数となるようにエッチング加工により水晶チップの厚さを調整する(S7,S8)。その後、この水晶チップを水晶振動子として組み立てる(S9)。具体的には、水晶チップ上にスパッタリングにより電極を形成し、この水晶チップをマウンタ内に搭載し、真空雰囲気中で熱処理した後、イオンエッチングで水晶チップの電極を削り周波数を調整し、マウンタ内をシーム封止する。これにより、水晶振動子の製造が完了する。
【0032】
図8は、加工対象物を水晶チップに切断する工程を説明するための概略図である。図中においては、説明の便宜上、1つの切断予定ライン5に沿った切断を例示して示している。加工対象物1を水晶チップへ切断する上記S6においては、まず、加工対象物1の裏面21にエキスパンドテープ31を貼り付けて加工対象物1を支持台107(図1参照)上に載置する。
【0033】
続いて、レーザ光源制御部102によりレーザ光源101を制御すると共にステージ制御部115によりステージ111を制御し、切断予定ライン5に沿って、加工対象物1にレーザ光Lを適宜集光させて改質領域7を形成する(改質領域形成工程)。
【0034】
具体的には、図8(a)に示すように、加工対象物1内において裏面21側に集光点を合わせ、例えば出力0.2Wでレーザ光Lを表面3側から照射する。これに併せて、このレーザ光Lを、例えば135mm/sの速度で加工対象物1に対し相対移動させる(スキャン)。これにより、加工対象物1の表面3に露出する亀裂を形成することなく、例えば3μmのピッチを有する複数の改質スポットを含む改質領域7を、切断予定ライン5に沿って加工対象物1内の裏面21側に一列形成する。そして、上記スキャンを全ての切断予定ライン5について実施する。
【0035】
ここでは、好ましいとして、加工対象物1内において裏面21から加工対象物1の厚さの半分以下の位置に集光点を合わせてレーザ光Lを照射し、加工対象物1内の当該位置に切断予定ライン5に沿って改質領域7を形成する。或いは、好ましいとして、加工対象物1内において裏面21から0〜10μm以内(より好ましいとして、5μm以下)の位置に集光点を合わせてレーザ光Lを照射し、加工対象物1内の当該位置に切断予定ライン5に沿って改質領域7を形成する。さらに或いは、好ましいとして、加工対象物1内において裏面21近傍に集光点を合わせてレーザ光Lを照射し、加工対象物1内の当該裏面21近傍に切断予定ライン5に沿って改質領域7を形成する。
【0036】
続いて、図8(b)に示すように、エキスパンドテープ31を表面3に転写した後、加工対象物1に対し裏面21側から、エキスパンドテープ31を介して切断予定ライン5に沿ってナイフエッジ32を押し当てる(切断工程)。これにより、改質領域7が開く(応力開放する)よう切断予定ライン5に沿って外部から加工対象物1に力を印加し、改質領域7を切断の起点として、加工対象物1を複数の水晶チップに切断する。そして、図8(c)に示すように、エキスパンドテープ31を拡張させ、チップ間隔を確保する。以上により、加工対象物1が複数の水晶チップ10として切断されることとなる。
【0037】
ところで、水晶で形成された加工対象物1にレーザ光Lを集光させて改質領域7を形成する場合、加工閾値が高いためにレーザ光Lのエネルギ密度を高める必要があり、よって、改質領域7から亀裂が延び易く、レーザ光入射面としての表面3に露出する亀裂(ハーフカット)が生じやすい。このハーフカットは、水晶が有する加工特性のために蛇行し易いことから、例えば切断面が鋸歯状に形成され、切断後の加工対象物1の寸法精度(加工品質)を制御することは容易でない。この点、本実施形態では、上述したように、レーザ光入射面である表面3の反対面としての裏面21側に改質領域7が形成されており、よって、ハーフカットが生じるのを抑制することができる。その結果、切断後の加工対象物1の寸法精度を高めることができる。
【0038】
ここで、改質領域7が裏面21側に形成されると、裏面21にダメージが生じることが懸念され、かかる懸念は本実施形態のように加工対象物1が薄い場合に顕著となる。これに対し、本実施形態では、水晶が有する高い加工閾値のためにレーザ光Lのエネルギが改質領域7の形成で大きく消費されると共に、裏面21が粗面とされているために裏面21に到達したレーザ光Lが散乱することから、裏面21にダメージが生じることも少ない。さらに、改質領域7が裏面21側に形成されても、加工対象物1自体が高い硬度を有するため、抗折強度に対する悪影響は少ない。
【0039】
従って、本実施形態によれば、水晶で形成された加工対象物1を切断する場合において、加工対象物1の外表面にダメージが生じるのを抑制しながら、加工対象物1を寸法精度よく切断して加工品質を向上させることが可能となる。
【0040】
また、本実施形態では、上述したように、裏面21の粗さRaは、0.05μm以上とされていることから、例えば裏面21に到達したレーザ光Lの散乱が効果的に生じるため、裏面21へのダメージを一層抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態では、上述したように、ナイフエッジ32を用いて加工対象物1に切断予定ライン5に沿って外部応力を印加し、改質領域7を切断の起点として加工対象物1をしている。これにより、切断し難い水晶で形成された加工対象物1であっても、加工対象物1を確実に切断予定ライン5に沿って精度切断することが可能となる。
【0042】
なお、加工対象物1におけるレーザ光入射面としての表面3側に改質領域7を形成する場合、前述のようにレーザ光Lに高いエネルギ密度が必要であることから、ハーフカットが発生して加工品質が低下するおそれが大きい。またこの場合、ハーフカットが発生しないようレーザ光Lを制御することは容易でなく、いわゆる空振り(レーザ光Lを加工対象物1に集光させても改質スポットないし改質領域7が形成されない現象)が生じ易い。この点においても、加工対象物1の裏面21側に改質領域7を形成する本実施形態の技術的意義は大きいといえる。
【0043】
ちなみに、水晶振動子は水晶の材料そのものの特性を利用するデバイスであることから、水晶振動子用の水晶チップは寸法精度が温度特性や振動子特性に大きく影響を与える。よって、水晶チップとして寸法精度よく加工対象物1を切断する上記作用効果は、水晶振動子を製造する場合に顕著となる。
【0044】
また、表面3及び裏面21が粗面とされていても、圧電効果に与える悪影響は少ない。また、水晶チップはその厚さが薄いものほど、高周波デバイスとして好適に利用することが可能となる。よって、表面が荒れていて且つ薄い水晶チップとして加工対象物1を切断できる本実施形態は、特に有効なものといえる。
【0045】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用してもよい。
【0046】
例えば上記において、加工対象物1の厚さ、改質領域7の形成位置、及び粗さRaの各数値は、加工上、製造上及び設計上等の誤差を許容するものである。また、上記実施形態では、加工対象物1の内部に改質領域7を形成したが、改質領域7はレーザ光入射面の反対面である裏面21から露出してもよい。なお、本発明は、上記レーザ加工方法により水晶振動子を製造する水晶振動子の製造方法又は製造装置として捉えることもできる一方、水晶振動子を製造するものに限定されず、水晶で形成された加工対象物を切断するための種々の方法又は装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…加工対象物、5…切断予定ライン、7…改質領域、L…レーザ光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶で形成され表面と該表面の反対側の粗面としての裏面とを有する加工対象物を、切断予定ラインに沿って切断するためのレーザ加工方法であって、
前記表面をレーザ光入射面として前記加工対象物にレーザ光を集光させ、前記加工対象物における前記裏面側に改質領域を前記切断予定ラインに沿って形成する改質領域形成工程を含むことを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
前記裏面の中心線平均粗さは、0.05μm以上とされていることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記加工対象物の厚さは、100μm以下であり、
前記改質領域形成工程では、前記加工対象物内において前記裏面から5μm以下の位置に前記改質領域を形成することを特徴とする請求項1又は2記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記切断予定ラインに沿って外部から前記加工対象物に力を印加することにより、前記改質領域を切断の起点として前記加工対象物を切断する切断工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項記載のレーザ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−63453(P2013−63453A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203392(P2011−203392)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】