説明

レーザ加工装置およびその調整方法

【課題】 従来の脆性材料を含む複合材料のレーザ加工技術は、加工品質と生産性が相反する関係にあり、両立せず実用化が妨げているという課題を有していた。
【解決手段】 本発明のレーザ加工装置は、楕円整形したレーザビームの楕円の長手方向と相対移動の方向を略一致させる位置に整形手段と、パルス状のレーザビームパターンの一部が重複する速度に設定制御する駆動手段を備え、楕円整形したレーザビームの長手方向と相対移動の方向を略一致させる位置に整形手段を配置することにより、表層の剥離やマイクロクラックない加工品質確保と生産性を両立させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物にグルービング加工を施すレーザ加工装置およびその調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、複合材料に対し加工時に機械応力のかからないレーザ加工が注目されている。特に、複合材料が脆性材料である場合、機械加工ではマイクロクラックや応力による材料剥離が入り大きな問題となっている。
【0003】
このような場合、一般に図3に示すような2ステップの加工が実施されている。それでは、図3を使用してプロセスの説明をする。図3に記載された201はレーザ光、202は被加工物であり、表層にラミネート・蒸着またはされた脆性材料である。さらに、203は被加工物のベース基材、204はレーザで加工された加工溝、205は、機械式のプロセスの例として切断ホイールであるが、エンドミルによるマシニングでも良い。前述したようにこのような脆性材料が表層にある被加工物をマシニングする場合表層の脆性材料202に機械式のホイール205またはエンドミルを直接押し当てて加工をするとマイクロクラックや応力による材料剥離が発生する。そこで、最近では、STEP1としてレーザ光201により、表層の脆性材料202部分のみグルービング加工により除去し、その後STEP2としてベース基材203に対して機械式ホイール205またはエンドミルを押し当てて加工することが多い(例えば特許文献1参照)。
【0004】
図4には、このような表層に脆性材料201を有する複合材料に対して、ステップ1で実施するレーザ光201によるグルービング加工を実施するレーザ加工装置の構成について記載した。図4において、101はレーザ発振器、102はコリメータユニット、103はベンドミラー、104は集光レンズ、105はX−Yテーブルの移動軸、106は被加工物を固定する手段を有する加工テーブル、107は脆性材料を表層に有する複合材料を含む被加工物である。それでは、図4を用いて、従来のレーザグルービング技術について説明する。レーザ発振器101から出力されたレーザ光は、コリメータユニット102で所定の集光径になるようにレーザビーム径を変換され、ベンドミラー103を通して集光レンズ104に導かれる。集光レンズ104は加工テーブル106に固定されたレーザ光を被加工物107上に集光し、加熱除去加工を実施する。その時、X−Y移動軸105により、レーザ照射中被加工物107は移動され、線状の加工溝が形成される。この時、特に脆性材料がある場合、材料表面にかかる熱応力をさけるため一般にパルスレーザが使用される。
【0005】
パルスレーザを使用することで、単位面積にかかる入熱をきめ細かく制御することが可能であり、被加工物にかかる熱応力を必要最小限にすることで加工品質を確保することができる。他方、使用するレーザがパルスレーザであることから連続した加工溝を形成する場合、レーザパルスとパルスの照射位置にある程度のオーバーラップが必要である(例えば特許文献2参照)。
【0006】
図5には、レーザパルスの照射位置と照射部の被加工物温度の関係を模式的に示した。それでは、図5を用いて、加工プロセスの説明をする。図5中(a)はオーバーラップを少なく設定した場合であり、パルスとパルスの間隔が開いている。この場合、場所による温度差Δthlが大きくなり、その結果局所的な熱膨張応力に差が発生し、表層の剥離やマイクロクラックが入りやすい。他方、図5中(b)に示すように、パルスとパルスの間隔を詰めると、場所による温度差Δthhが小さく、温度分布が均一になるため局所熱応力も均一になり、表層の剥離やマイクロクラックが発生しにくい。レーザ発振器101により発生するレーザパルスは加工に必要なエネルギーとパルス周波数には限界があることから、このオーバーラップの程度が生産性を著しく制限することになる。
【特許文献1】特開2003−320466号公報
【特許文献2】特開2004−155159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の脆性材料を含む複合材料のレーザ加工技術は、加工品質と生産性が相反する関係にあり、両立せず実用化が妨げているという課題を有していた。
本発明は、楕円整形したレーザビームの長手方向と相対移動の方向を略一致させる位置に整形手段を配置することで、加工品質と生産性を両立させたレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のレーザ加工装置は、楕円整形したレーザビームの楕円の長手方向と相対移動の方向を略一致させる位置に整形手段と、パルス状のレーザビームパターンの一部が重複する速度に設定制御する駆動手段を備えている。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明は楕円整形したレーザビームの長手方向と相対移動の方向を略一致させる位置に整形手段を配置することにより、表層の剥離やマイクロクラックない加工品質確保と生産性を両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図1から図2を用いて説明する。
【0011】
図1には、本発明の実施の形態を示した。図1において、1は楕円ビームまたは矩形ビームの整形光学系であり、2はその角度を回転機構により制御する制御装置である。その他の構成は、従来の技術とおなじである。それでは、図1を用いて、本発明のレーザグルービング技術について説明する。レーザ発振器101から出力されたレーザ光は、コリメータユニット102で所定の集光径になるようにレーザビーム径を変換され、ベンドミラー103を通して楕円ビームまたは矩形ビームの整形光学系1に入り、集光レンズ104に導かれる。集光レンズ104は加工テーブル106に固定されたレーザ光を被加工物107上に集光し、過熱除去加工を実施する。その時、X−Y移動軸105により、レーザ照射中被加工物107は移動され、線状の加工溝が形成される。図1に示されるようにX−Yテーブルを用いたシステムでは、楕円ビームまたは矩形ビームの整形光学系1の角度は最初の試験加工で、相対移動方向のレーザビーム加工跡の幅が最小になる位置に楕円ビームまたは矩形ビームの整形光学系1の角度をX軸、Y軸独立に制御装置2により制御され、X−Yの方向が変更になった場合は楕円ビームまたは矩形ビームの整形光学系1の角度があらかじめ設定された角度だけ回転する。また、X−Y−Θテーブルの場合は、楕円ビームまたは矩形ビームの整形光学系1をプリセット固定し、テーブル側で加工方向を変更することも可能である。
【0012】
図2には、本発明のレーザパルスの照射位置と照射部の被加工物温度の関係を模式的に示した。それでは、図2を用いて、加工プロセスの説明をする。図2中(a)は従来の技術であり、オーバーラップは加工品質を維持するためにパルスとパルスの間隔が狭く設定されている。結果的に、場所による温度差Δthhが小さく、温度分布が均一になるため局所熱応力も均一になり、表層の剥離やマイクロクラックが発生しにくいが、一方テーブルの速度が小さく、生産性は犠牲になる。本発明を示した図2(b)では、加工品質を維持するためにオーバーラップは従来の設定と同じであり、場所による温度差Δthaは同様に小さく、温度分布が均一で局所熱応力も均一になり、表層の剥離やマイクロクラックが発生しにくいことは維持される。一方、実際のレーザ光の間隔はレーザ光が楕円であるため、パルスとパルスの間を広く設定することが可能であり、エネルギー密度を一定にするようにパルスエネルギーを選択していけば生産性を低下させることなく、高品質のレーザ加工溝の形成が可能である。従って、楕円比率の倍数だけ生産性は改善する。さらに進めて、楕円または矩形ビームの長手方向にビーム強度分布を持たせることで、余熱と徐冷効果を持たせ極端な熱衝撃からの緩和作用により、加工品質も改善することが可能である。
以上のように、本実施の形態によれば楕円整形したレーザビームの楕円の長手方向と相対移動の方向を略一致させる位置に整形手段と、パルス状のレーザビームパターンの一部が重複する速度に設定制御する駆動手段を備えることにより、脆性材料を含む複合材料のレーザ加工技術において加工品質と生産性を両立することができる。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明のレーザ加工装置およびその調整方法は、加工品質と生産性を両立することができ、被加工物にグルービング加工を施すレーザ加工装置およびその調整方法として産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のレーザ加工装置の実施の形態における構成図
【図2】本発明のレーザパルスの照射位置と照射部の被加工物温度の関係を示す模式図
【図3】従来の脆性複合材料の加工プロセスの流れの説明図
【図4】従来のレーザ加工装置の構成図
【図5】従来のレーザパルスの照射位置と照射部の被加工物温度の関係を示す模式図
【符号の説明】
【0015】
1 ・・・楕円ビームまたは矩形ビームの整形光学系
2 ・・・回転機構により制御する制御装置
101・・レーザ発振器
102・・コリメータユニット
103・・ベンドミラー
104・・集光レンズ
105・・X−Yテーブルの移動軸
106・・被加工物を固定する手段を有する加工テーブル
107・・脆性材料を表層に有する複合材料を含む被加工物
201・・レーザ光
202・・被加工物(表層の脆性材料を含む)
203・・被加工物のベース基材
204・・レーザで加工された加工溝
205・・機械式ホイール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状のレーザビームを出力するレーザ出力手段と、前記レーザビームのパターンを楕円又は矩形状に整形する整形手段と、前記整形手段を通したレーザビームと被加工物を相対移動する駆動手段と、前記駆動手段を制御する制御手段を備え、前記整形したレーザビームの楕円の長手方向又は矩形の長辺方向と前記相対移動の方向を略一致させる位置に整形手段を配置し、前記制御手段でパルス状のレーザビームパターンの一部が重複する速度に前記駆動手段を制御するレーザ加工装置。
【請求項2】
パターンを楕円又は矩形状に整形したパルス状のレーザビームを照射しながら、前記レーザビームと被加工物を相対移動するステップと、前記相対移動時に発生する相対移動方向以外の揺動の影響を前記レーザビームによる加工跡から検出するステップと、前記相対移動方向のレーザビーム加工跡の幅が最小になる位置にレーザビームのパターンを楕円又は矩形状に整形する整形手段の配置するレーザ加工装置の調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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