説明

レーザ加工装置及びレーザ加工方法

【課題】 加工効率のよいレーザ加工装置及びそのレーザ加工装置を利用したレーザ加工方法を提供する。
【解決手段】 レーザ加工装置1は、被加工物10に照射するレーザ光を出力する照射手段20と、被加工物10における被加工部位11を加熱する加熱手段40とを備える。そして、加熱手段40は、被加工部位11の溶融温度より小さい範囲内であって被加工部位11がレーザ光Lに対して加工可能な吸収特性S2を有するように被加工部位11を加熱する。これにより、被加工部位11は、加工可能な吸収特性S2を有した状態でレーザ加工されるので、より効率的に加工することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置、及びそのレーザ加工装置を利用したレーザ加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この分野の技術として、例えば、特許文献1に記載のレーザ加工装置が知られている。このレーザ加工装置は、脆性材料からなる被加工物にレーザ光を照射することによって、被加工物に貫通穴を開けるためのものである。レーザ加工では、レーザ光を照射してレーザ光が照射された部分のみ加工するものであるが、レーザ光が照射された箇所とその近傍との温度差が大きくなるため、クラックなどが発生する場合があった。そのため、特許文献1に記載のレーザ加工装置では、加工部周辺を更にレーザ光で加熱することによって加工部とその周辺部との温度差を低減してクラックの防止を図っている。
【特許文献1】特開2004―291026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、レーザ加工は、主として被加工物がレーザ光を吸収することによって生じる熱的な効果を利用している。従って、被加工物が効率よくレーザ光を吸収することが必要である。しかしながら、光の吸収特性は材料固有のものであるため、被加工物によっては、従来加工用として利用されているレーザ光の波長に対してレーザ加工を効率的に行える程の吸光度を常温(例えば、25℃)で有するとは限らない。そのため、加工ができない場合や加工効率が低下する場合もあった。
【0004】
そこで、本発明は、加工効率のよいレーザ加工装置及びそのレーザ加工装置を利用したレーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、材料の吸収特性が温度によって変化することに着目した。そして、例えば、常温において加工用レーザ光の波長に対して吸光度が低い被加工物を加熱することによって、被加工物の吸収特性を加工用レーザ光の波長に対して加工可能な吸収特性に制御できることを見出して本発明に至った。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るレーザ加工装置は、被加工物に照射するレーザ光を出力する照射手段と、被加工物における被加工部位を加熱する加熱手段と、を備え、加熱手段は、被加工部位の溶融温度より低い温度範囲内であって被加工部位におけるレーザ光の波長に対する吸収特性が加工可能な吸収特性となるように被加工部位を加熱することを特徴とする。
【0007】
上記構成では、加熱手段によって被加工部位が加熱されることで被加工部位が照射手段から出力されるレーザ光の波長に対して加工可能な吸収特性を有することになる。その結果として、加熱前よりも加熱後の方が被加工部位における加工用のレーザ光の吸収効率が向上する。よって、レーザ光が被加工物の被加工部位に照射されると、効率よく加工できる。
【0008】
また、本発明に係るレーザ加工装置では、被加工部位をモニタするモニタ手段と、モニタ手段でのモニタ結果に基づいて加熱手段を制御する制御手段とを備えることが好ましい。
【0009】
この場合、モニタ手段で被加工部位をモニタすることによって、例えば、被加工部位の温度や画像情報等をモニタ結果として得ることができる。そして、そのようなモニタ結果に基づいて加熱手段を制御するので、被加工部位での吸収特性をより確実に加工可能な吸収特性にすることができる。
【0010】
このようにモニタ手段及び制御手段を備えた本発明に係るレーザ加工装置では、モニタ手段は、被加工部位の温度を測定する温度測定器を有し、制御手段は、予め算出されている被加工物の温度と吸収特性との相関と、温度測定器の測定結果とに基づいて加熱手段を制御することが好適である。
【0011】
この場合、温度測定器によって被加工部位の温度が測定される。そして、制御手段が、予め算出されている被加工物の温度と吸収特性との相関と、温度測定器の測定結果とに基づいて加熱手段を制御するので、被加工部位の吸収特性をより確実に加工可能な吸収特性にすることができる。
【0012】
また、上記のようにモニタ手段及び制御手段を備えた本発明に係るレーザ加工装置では、モニタ手段は、被加工部位を撮像する撮像装置を有し、制御手段は、撮像装置で撮像された被加工部位の画像情報に基づいて加熱手段を制御することも好適である。
【0013】
この場合、撮像装置で撮像された画像情報に含まれる被加工部位の色変化などから加熱状態が分かる。そして、制御手段が、撮像装置で撮像された被加工部位の画像情報に基づいて加熱手段を制御するので、被加工部位の吸収特性を加工可能な吸収特性に調整し易い。
【0014】
また、本発明に係るレーザ加工方法は、照射手段から出力されたレーザ光を被加工物の被加工部位に照射する照射工程と、被加工物の溶融温度より低い温度範囲内であって被加工部位におけるレーザ光の波長に対する吸収特性が加工可能な吸収特性になるように被加工部位を加熱する加熱工程とを備えることを特徴とする。
【0015】
この場合、加熱手段によって被加工部位が加熱されることで被加工部位が照射手段から出力されるレーザ光の波長に対して加工可能な吸収特性を有することになる。その結果として、加熱前よりも加熱後の方が被加工部位における加工用レーザ光の吸収効率が向上する。よって、レーザ光が被加工物に照射されると、効率よく加工できる。
【0016】
更に、本発明に係るレーザ加工方法では、被加工部位をモニタするモニタ工程と、モニタ工程のモニタ結果に基づいて被加工部位の温度を制御する制御工程とを備えることが好ましい。
【0017】
この場合、モニタ工程で被加工部位をモニタすることによって、例えば、被加工部位の温度や画像情報等をモニタ結果として得ることができる。そして、そのようなモニタ結果に基づいて被加工部位の温度を制御するので、被加工部位の吸収特性をより確実に加工可能な吸収特性にすることができる。その結果として、被加工部位をより効率よく加工することができる。
【0018】
上記のモニタ工程では、被加工部位の温度を測定し、制御工程では、予め算出されている被加工物の温度と吸収特性との相関と、モニタ工程で測定した被加工部位の温度とに基づいて被加工部位の温度を制御することが好適である。
【0019】
上記方法では、モニタ工程で測定された被加工部位の温度に基づいて加熱手段が制御されることで、被加工部位の吸収特性をより確実に加工可能な吸収特性にすることが可能となる。
【0020】
また、上記のモニタ工程では、被加工部位の画像情報を取得し、制御工程では、モニタ工程で取得された被加工部位の画像情報に基づいて被加工部位の温度を制御することも好ましい。
【0021】
モニタ工程で取得された被加工部位の画像情報には、被加工部位の色変化なども含まれるので、それらから被加工部位の加熱状態が分かる。したがって、取得された画像情報に基づいて被加工部位の温度を制御することで、被加工部位の吸収特性を加工可能な吸収特性に調整し易い。
【発明の効果】
【0022】
本発明のレーザ加工装置及びそのレーザ加工装置を利用したレーザ加工方法によれば、被加工物を効率よく加工することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符合を付し、重複する説明を省略する。
【0024】
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係るレーザ加工装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【0025】
レーザ加工装置1は、被加工物10に照射するためのレーザ光を出力するレーザ発振器21を備えた照射手段20を有する。レーザ発振器21は、ピコ秒〜フェムト秒のパルスを出力するパルス光源でもよいし、ナノ秒のパルスを出力するパルス光源とすることも可能である。レーザ発振器21としては、レーザ加工に好適に利用されるものであれば特に限定されないが、例えば、チタンサファイアレーザ装置である。
【0026】
照射手段20は、レーザ発振器21から出力されたレーザ光を波長変換する波長変換器22をレーザ光の光路上に有する。波長変換器22としては、例えば、SHG結晶やOPO結晶などを利用したものが挙げられる。ここでは、波長変換器22から波長λ(nm)のレーザ光Lが出力されるものとする。波長λとしては、レーザ発振器21からは波長約800nmの光が出力され、波長変換器22が2倍高調波を生成するものとすると、波長約400nmである。また、照射手段20は、レーザ加工に必要な光出力を得るために、レーザアンプを更に有することも好適である。
【0027】
レーザ加工装置1は、照射手段20から出力されたレーザ光Lをレンズなどの集光光学系31によって集光して、集光光学系31の焦点位置に配置された被加工物10の被加工部位11に照射する。被加工物10は、例えば、3軸の移動ステージなどに搭載され集光光学系31に対して位置を調整できるようになっていることが好ましい。
【0028】
被加工物10は、常温(例えば、25℃)において、照射手段20から出力されるレーザ光Lの波長λに対して吸光度が低く実質的に透明なものであり、例えば、硼珪酸ガラスである。図2は、被加工物10の吸収特性を模式的に示す図である。横軸は、波長(nm)を示している。縦軸は吸光度を示しており、常用対数で表示している。被加工物10は、常温において、図2中の実線で示すように、レーザ光Lの波長λに対して低い吸収度となる吸収特性としての吸光度カーブS1を有する。
【0029】
レーザ加工装置1は、照射されるレーザ光Lの波長λに対して常温で実質的に透明な被加工物10を、レーザ光Lの波長λに対してより高い吸光度を有するように加熱する熱源40を有することを特徴とする。
【0030】
ここで、先ず、加熱により被加工物10の吸光度を制御できる理由について説明する。
【0031】
材料の吸収スペクトルは温度によって変化し、特に温度が上昇すると長波長側にシフトする傾向にある。本発明者らは、被加工部位11の温度を上昇させることによって被加工部位11での吸光度カーブS1を、加工可能な吸収特性としての加工用吸光度カーブS2(図2中の一点鎖線で示すカーブ)までシフトさせることが可能であることを見出した。加工用吸光度カーブS2とは、被加工物10に照射されるレーザ光Lの波長λに対して加工に適した吸光度を有する吸収特性を示すものである。
【0032】
被加工物10を硼珪酸ガラスとして、本発明者らが実験した結果に基づいてより具体的に説明する。
【0033】
図3は、硼珪酸ガラス(BK7)の透過スペクトルを示す図である。図3では、硼珪酸ガラスをペルチェ素子で加熱して得られた実験結果であり、25℃、30℃、35℃及び40℃での透過スペクトルをそれぞれ示している。図4は、図3の波長305nm近傍を拡大した図である。図3及び図4において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸は透過率(%)を示している。また、図5は、図4の透過スペクトルを吸光度に換算した図である。図5の横軸は波長(nm)を示している。縦軸は吸光度を示しており常用対数で表示している。換算にあたっては、透過しなかった光は全て吸収されたものとした。
【0034】
図5に示すように、温度が上昇するにつれて吸光度カーブが長波長側へシフトする。そして、そのスペクトルシフト量は、約+0.05nm/℃である。従って、ガラス加工時に、ガラスの温度を上げることで被加工部位11の吸光度を制御できることになる。
【0035】
そこで、レーザ加工装置1は、被加工部位11を加熱する熱源40と、被加工部位11をモニタするモニタ手段50と、モニタ手段50のモニタ結果に基づいて熱源40を制御する制御手段としてのパーソナルコンピュータ(PC)60とを有する。
【0036】
熱源40は、被加工物10の溶融温度より低い温度範囲内で被加工部位11の吸収特性が波長λの光に対して加工可能な吸収特性になるように被加工部位11を加熱するものである。
【0037】
熱源40は、赤外域の放射スペクトルが存在する赤外線ランプや、広い波長帯域を有するハロゲンランプ等の光源であり、熱源40から出力される光が被加工部位11に照射されるように配置されている。これにより、被加工物10の吸収特性にほとんど影響を受けずに赤外線や遠赤外線の光源から発せられたエネルギによって被加工物10を加熱することができる。熱源40は、PC60に接続されており、PC60によって加熱時間やパワーなどが制御される。
【0038】
この熱源40から出力された光を被加工部位11に集光するための集光光学系(レンズなど)を熱源40と被加工物10との間に配置することは、選択的且つ効率的に被加工部位11を加熱する観点から好適である。
【0039】
ここでは、熱源40を赤外域の放射スペクトルが存在する赤外線ランプや、広い波長帯域を有するハロゲンランプ等の光源としたが、可視光を出力するものでもよい。また、熱源40としては、被加工物10を加熱できれば特に限定されない。例えば、温風による加熱、誘電加熱(マイクロ波加熱、高周波誘電加熱)、誘導加熱などを可能とする非接触型の加熱器が例示される。また、ペルチェ素子やホットプレートなどの接触型の加熱器とすることも可能である。
【0040】
モニタ手段50は、被接触型の温度測定器51を有する。温度測定器51としては、サーミスタが例示される。温度測定器51は、測定結果(モニタ結果)としての被加工部位11の温度をPC60に入力する。
【0041】
PC60は、前述したように熱源40に接続されており、温度測定器51の測定結果に応じて熱源40を制御する。より具体的には、PC60は、被加工物10の温度とレーザ光Lの波長λに対する吸収特性との相関を示す温度吸収特性に基づいて熱源40を制御する。この温度吸収特性は、例えば、レーザ光Lの波長λに対する吸光度と被加工物10の温度とを対応させたルックアップテーブルとしてPC60が有する記憶部(不図示)に記録しておけばよい。このPC60による熱源40の制御としては、例えば、熱源40から出力される光の強度や、加熱時間などである。
【0042】
前述したように、温度測定器51の測定結果に応じて熱源40を制御することによって、被加工部位11の温度を、レーザ光Lに対して加工に適した吸光度を有する温度に確実に調整できる。そのため、被加工部位11における吸収特性を加工可能な吸収特性とすることが可能となる。なお、わずかな吸収効率の改善でも、加工効率には大きく影響する場合もある。
【0043】
また、PC60は、レーザ発振器21及び波長変換器22にも接続されている。そして、PC60は、温度測定器51の測定結果に応じてレーザ発振器21から出力されるレーザ光の強度を調整する。また、PC60は、温度測定器51で測定された被加工部位11の温度に応じて波長変換器22を制御することも好ましい。このように被加工部位11の温度に応じてレーザ光Lの波長λを調整することにより、所望の吸光度の値に早く近づけることができる。
【0044】
次に、上記レーザ加工装置1を利用した被加工物10のレーザ加工方法について説明する。ここでは、予め被加工物10の波長λの光に対する温度吸収特性を測定し、ルックアップテーブルとしてPC60の記憶部に記録しているものとする。
【0045】
先ず、レーザ発振器21からレーザ光を出力する。レーザ発振器21から出力されたレーザ光は、波長変換器22によって波長λのレーザ光Lに変換され、集光光学系31によって集光されて被加工部位11に照射される。
【0046】
そして、熱源40によって被加工部位11を加熱する。この際、被加工部位11の温度を温度測定器51によって測定する。温度測定器51の測定結果はPC60に入力され、PC60は、測定結果としての被加工部位11の温度と温度吸収特性とを対応させて被加工部位11の常温での吸光度カーブS1が加工用吸光度カーブS2(図2参照)になるように、熱源40を制御する。
【0047】
これにより被加工部位11の温度が所定の温度になり、波長λのレーザ光Lに対する被加工部位11での吸収特性が加工可能な吸収特性となる。そのため、レーザ光Lが加熱前よりも効率的に吸収され、穴形成などの加工が可能又は促進されることになる。
【0048】
上述したレーザ光Lを利用した被加工物10の加工方法では、熱源40による加熱によって被加工部位11は加工用吸光度カーブS2を有する。これにより、被加工部位11では常温の場合よりもレーザ光Lを効率よく吸収する。その結果として、レーザ光Lの波長λに対して常温で実質的に透明で加工が困難である被加工物10に対しても加工が容易に可能であり、更に、効率よく加工できる。そのため、被加工物10の加工に伴うコストを低減できる。
【0049】
また、被加工部位11の温度を調整することで被加工部位11の吸光度を制御しているので、レーザ発振器21や波長変換器22として従来レーザ加工に利用されていた汎用のものを利用できる。その結果、例えば、被加工物10毎に、その被加工物10の加工に適した波長のレーザ光を出力するレーザ発振器や波長変換器22を選択する必要がないので、レーザ加工装置1の製造コストを低減することができる。
【0050】
更に、熱源40も被加工部位11を加熱できればよく、前述したようにハロゲンランプや赤外線ランプなどを利用可能であることから、レーザ加工装置1の製造コストの更なる低減が図られている。
【0051】
更にまた、レーザ加工装置2では波長変換器22によってレーザ光の波長を変換しているが、波長は離散的に変換されるので、被加工物10の加工に適した波長にすることは困難である。これに対して、レーザ加工装置1では、加熱により被加工物10の吸光度を調整しているため、レーザ光Lの吸収効率をより確実に上げられ、加工効率を向上させることができる。
【0052】
(第2の実施形態)
図6は、本発明に係るレーザ加工装置の他の実施形態の構成を示すブロック図である。レーザ加工装置2の構成は、光変調器23と、撮像装置52とを有する点で、図1に示したレーザ加工装置1の構成と主に相違する。この点を中心にしてレーザ加工装置2について説明する。
【0053】
光変調器23は、照射手段20の一部を構成しており、波長変換器22と集光光学系31との間に設けられている。光変調器23は、PC60に接続されており、PC60からの変調信号に応じて被加工物10に照射されるレーザ光Lの空間パターンを変調する。集光光学系31は、変調されたレーザ光Lを集光するため、光変調器23の波面制御の効果によって所望の形状に被加工物10を加工することができる。光変調器23としては、SLM(空間光変調器)を利用した光波形整形器などが例示される。ここでは、光変調器23は、レーザ光の空間パターンを変調するとしたが、時間波形を調整するものを利用することもできる。光変調器23によって時間波形を整形する場合には、例えば、被加工物10に最適なパルス状態でレーザ光Lを被加工物10に照射することが可能である。
【0054】
撮像装置52は、モニタ手段50の一部を構成しており、例えば、テレビカメラである。撮像装置52は、被加工部位11を撮像して被加工部位11の画像情報をPC60に入力する。これにより、被加工部位11の形状や、被加工部位11の色変化などによる加工状態や加熱状態などの情報を得ることができる。撮像装置52は、集光光学系31によってレーザ光Lが多点に集光されている場合には、それらのうちの少なくとも1つを撮像すればよい。PC60は、撮像装置52による画像情報、及び温度測定器51の測定結果を利用して熱源40による被加工部位11の加熱条件を制御する。
【0055】
画像情報に基づいて熱源40を制御するときには、例えば、予め撮像されていた加熱による被加工部位11及びその近傍の色変化などと、レーザ加工の際に取得された画像情報とを比較しながら制御することが可能である。温度測定器51による熱源40の制御は、レーザ加工装置1の場合と同様である。そして、例えば、温度情報と画像情報とを組み合わせて熱源40による加熱条件を制御して被加工部位11の温度を調整することによって、より確実に被加工部位11の吸収特性を加工可能な吸収特性にすることができる。なお、PC60は、画像情報、及び温度測定器51の測定結果の少なくとも一方を利用して熱源40を制御すればよく、加熱による色変化などが生じにくい被加工物10を加工するときには、温度測定器51の測定結果を主に利用して熱源40を制御すればよい。
【0056】
また、PC60は、撮像装置52から入力された画像情報(特に、加工形状など)に基づいて、光変調器23に変調信号を入力し、レーザ光Lの照射パターンを制御する。
【0057】
上記レーザ加工装置2のレーザ加工方法は、撮像装置52による被加工部位11の画像情報も利用して熱源40を制御して被加工部位11の温度を調整する点や、撮像装置52による被加工部位11の画像情報に応じて被加工物10に照射するレーザ光Lの空間パターンを制御する点以外は、レーザ加工装置1の場合のレーザ加工方法と同様である。
【0058】
そして、レーザ加工装置2を利用した被加工物10の加工方法でも、熱源40による加熱によって被加工部位11は加工用吸光度カーブS2を有することになる。そのため、レーザ光Lの波長λに対して常温で実質的に透明な被加工物10に対しても加工が容易に可能であり、更に、効率よく加工でき、被加工物10の加工に伴うコストが低減される。
【0059】
また、被加工部位11の温度を調整することで被加工部位11の吸光度を制御しているので、レーザ発振器21や波長変換器22も従来レーザ加工に利用されていた汎用のものを使用でき、結果として、レーザ加工装置2の製造コストを低減することができる。また、熱源40も被加工部位11を加熱できればよく、前述したようにハロゲンランプや赤外線ランプなどを利用可能であるので、更に、レーザ加工装置2の製造コストの低減が図られている。
【0060】
レーザ加工装置2で示したように、熱源40を光源とする場合、集光光学系31と熱源40との間に熱源40から出力される光の空間パターンを変調する光変調器を更に設けることも好ましい。これにより、被加工部位11に照射される加工用レーザ光Lの空間パターンと加熱用の光の空間パターンとを対応させることが可能であり、結果として、より効率的に被加工物10を加工することができる。
【0061】
また、レーザ加工装置2では、温度測定器51と撮像装置52とが被加工部位11の加工状態や加熱状態をモニタするためのモニタ手段50として機能しているが、モニタ手段50としては撮像装置52のみとすることも可能である。
【0062】
なお、レーザ加工装置2では、光変調器23は、波長変換器22の後段に配置しているが、レーザ発振器21と波長変換器22との間に配置することも可能である。
【0063】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、第1の実施形態では温度測定器51の測定結果に基づいて、また、第2の実施形態では、温度測定器51及び撮像装置52の少なくとも一方の情報に基づいてPC60が熱源40を制御している。しかし、例えば、温度測定器51の測定結果や撮像装置52で撮像して得られた画像情報を参照して手動で熱源40を制御してもよい。
【0064】
また、制御手段としてのPC60は、記憶部に記録されているルックアップテーブルを利用して熱源40を制御しているが、これに限定されない。例えば、予め加熱開始からの時間と被加工部位11の温度変化とを測定しておけば、加熱時間を制御すればよい。
【0065】
更に、第1及び第2の実施形態では、レーザ光Lを照射してから熱源40によって被加工部位11を加熱しているが、熱源40によって被加工部位11を加熱した後からレーザ光Lを照射するようにすることもできる。
【0066】
更にまた、レーザ加工装置1,2では、波長変換器22を有するとしたが、波長変換器22は備えていなくてもよい。ただし、波長変換器22を利用してレーザ光の波長を低波長側に変換することによって被加工部位11の加熱による温度変化をより少なくすることができる。これは、加工に要する時間等も短縮できる観点から好適である。なお、波長変換器22は、レーザ発振器21が有するレーザ共振器内に配置しても良い。また、集光光学系31でレーザ光Lを集光することによって加工可能な閾値強度を得ることが容易である。更に、集光することで微細加工が容易になる。
【0067】
また、熱源40として光源を利用する場合、ハロゲンランプや赤外線ランプを例示したが、例えば、常温の被加工物10に対して吸収を有する波長帯域の光を出力するレーザ発振器を利用することもできる。例えば、図3に例示したような吸収スペクトルを有する硼珪酸ガラスに対しては、波長266nmのレーザ光を出力するYAGレーザ装置を利用することが可能である。
【0068】
ここで、パルス光を出力するYAGレーザによっても被加工部位11の温度制御が可能であることについて、被加工物10を図3に示す透過スペクトルを有する硼珪酸ガラス(BK7)として説明する。
【0069】
前述したように、図3で示した透過スペクトルを有する硼珪酸ガラスでは、約+0.05nm/℃で吸光度カーブがシフトする。ここで、例えばパルスエネルギー1mJ(ビーム径2mm)のレーザパルスを100μmに集光してガラスに入射した場合のガラス表面近傍の温度上昇ΔTを計算する。温度上昇はΔT=Ea/DC(E:レーザフルーエンス、a:ガラス吸収係数、D:密度、C:比熱)で与えられることから、D=2660[kg/m]、C=745.5[J/(sec・m・K)]、a=40[/m](実験値)を用いるとΔT=26℃となる。
【0070】
図7は、加熱用レーザ光を照射した後からのガラス温度変化をシミュレーションした結果である。図7は、2mm厚のガラス板に2mmφのビームが入射してその部分が500℃になったことを仮定し、その後からの温度の伝播の様子を示している。その結果、10msないし50msであれば、ガラス内での熱拡散はそれほど大きくないことがわかった。
【0071】
よって、被加工物10であるガラスを温度上昇させるためのレーザパルスは、単一パルスでなくても、適度な繰り返しの光パルスを使用すれば、温度上昇による波長シフトの効果を蓄積させておくことができる。そして、例えば温度上昇が20ms程度は蓄積されていると仮定すれば、5kHzのレーザーであれば100パルス分のエネルギーによる温度上昇が見込まれる。すなわち、1mJ/パルスのレーザでも100mJによる温度上昇と同じ効果が得られることになり、表面温度がΔT=2600℃の変化を受けることになる。温度上昇と波長シフト量が比例すると仮定すると、この場合の波長シフトは前述のパラメータを用いて計算すると130nmである。
【0072】
上記数値は一例であるが、加熱用にレーザ光を利用しても確かに被加工部位11の温度を上げることができる。このように熱源としてレーザ発振器を利用する場合、熱源と被加工物の間にレンズなどの集光光学系を配置して、加熱用のレーザ光を集光して被加工部位11に照射することは加熱効率を上げる観点から好ましい。
【0073】
以上のようにレーザ光を加熱用に利用したとしても、被加工部位11を溶融温度以下で加熱できればよいため、加工用に利用する場合に比べてパワーを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係るレーザ加工装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】被加工物の吸光度カーブを模式的に示す図である。
【図3】被加工物の一例としての硼珪酸ガラスの透過特性を示す図である。
【図4】図3で示し光透過特性の一部拡大図を示す図である。
【図5】図4で示した透過特性を吸光特性に変換した図である。
【図6】本発明に係るレーザ加工装置の他の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図7】被加工物の一例としての硼珪酸ガラスの熱拡散状態を示すシミュレーション結果を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1,2…レーザ加工装置、10…被加工物、11…被加工部位、20…照射手段、21…レーザ発振器、22…波長変換器、23…光変調器、31…集光光学系、40…熱源、50…モニタ手段、51…温度測定器、52…撮像装置、L…照射手段から出力されるレーザ光、S2…吸光度カーブ(加工可能な吸収特性)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物に照射するレーザ光を出力する照射手段と、
前記被加工物における被加工部位を加熱する加熱手段と、
を備え、
前記加熱手段は、前記被加工部位の溶融温度より低い温度範囲内であって前記被加工部位における前記レーザ光の波長に対する吸収特性が加工可能な吸収特性となるように前記被加工部位を加熱することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記被加工部位をモニタするモニタ手段と、
前記モニタ手段でのモニタ結果に基づいて前記加熱手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記モニタ手段は、
前記被加工部位の温度を測定する温度測定器を有し、
前記制御手段は、
予め算出されている前記被加工物の温度と吸収特性との相関と、前記温度測定器の測定結果とに基づいて前記加熱手段を制御することを特徴とする請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記モニタ手段は、
前記被加工部位を撮像する撮像装置を有し、
前記制御手段は、
前記撮像装置で撮像された前記被加工部位の画像情報に基づいて前記加熱手段を制御することを特徴とする請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
照射手段から出力されたレーザ光を被加工物の被加工部位に照射する照射工程と、
前記被加工物の溶融温度より低い温度範囲内であって前記被加工部位における前記レーザ光の波長に対する吸収特性が加工可能な吸収特性になるように前記被加工部位を加熱する加熱工程とを備えることを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項6】
前記被加工部位をモニタするモニタ工程と、
前記モニタ工程のモニタ結果に基づいて前記被加工部位の温度を制御する制御工程とを備えることを特徴とする請求項5に記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
前記モニタ工程では、前記被加工部位の温度を測定し、
前記制御工程では、予め算出されている前記被加工物の温度と吸収特性との相関と、前記モニタ工程で測定した前記被加工部位の温度とに基づいて前記被加工部位の温度を制御することを特徴とする請求項6に記載のレーザ加工方法。
【請求項8】
前記モニタ工程では、前記被加工部位の画像情報を取得し、
前記制御工程では、前記モニタ工程で取得された前記被加工部位の画像情報に基づいて前記被加工部位の温度を制御することを特徴とする請求項6に記載のレーザ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−305620(P2006−305620A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−134519(P2005−134519)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人 科学技術振興機構、地域結集型共同研究事業、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503304577)財団法人光科学技術研究振興財団 (11)
【Fターム(参考)】