説明

レーザ加工装置

【課題】加工速度の高速化を図ることができるレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】焦点位置可変手段としての電気光学ユニットは、電気光学素子21の第1及び第2電極23,24間に介在された電気光学材料(誘電体材料)としての電気光学部材22に対し、第1及び第2電極23,24間に電圧が印加されることで、その電気光学部材22に加えられる電界の作用によりレーザ光の光軸Lに対する拡がり角度を可変させる。そして、制御手段を構成する制御回路は、第1及び第2電極23,24間の電位差を周期的に変化させて、収束レンズ17にて収束されたレーザ光の焦点位置を光軸L方向に振動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、搬送ラインにて搬送される加工対象物(ワーク)の表面に文字・記号・図形等をマーキング加工するレーザ加工装置において、搬送ライン上における加工位置よりも上流側に配置した距離センサ等でワーク表面までの距離を測定し、その測定結果に基づきレーザ光の焦点を該表面に合わせて加工するものがある(例えば特許文献1)。このようなレーザ加工装置では、特にワーク表面が凹凸形状をなす場合等に、レーザ光の焦点がワーク表面からずれて所望のマーキングがなされないといった加工ミスの発生を抑えることができる。
【特許文献1】特開2007−111763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のようなレーザ加工装置では、距離センサにてワークまでの距離を測定し、その後、レーザ光の焦点をワークの表面に合わす動作を行うため、その焦点位置調整に要する時間が長くなってしまうという不具合が生じていた。近年のレーザ加工装置において、レーザ光の2次元走査の高速化が可能であるが、焦点位置調整に時間がかかるために、それに合わせて2次元の走査速度を遅くする必要が生じてしまう。
【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、加工速度の高速化を図ることができるレーザ加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、レーザ光源から出射されたレーザ光を加工対象物の表面に収束させて加工を行うレーザ加工装置であって、第1及び第2電極間に介在された誘電体材料に対し、前記第1及び第2電極間に電圧が印加されることで、該誘電体材料に加えられる電界の作用により前記レーザ光の光軸に対する拡がり角度を可変させて、前記レーザ光の焦点位置を光軸方向に変化させる焦点位置可変手段と、前記焦点位置可変手段の第1及び第2電極間の電位差を周期的に変化させて前記焦点位置を前記光軸方向に振動させる制御手段とを備えたことをその要旨とする。
【0006】
この発明では、第1及び第2電極間に介在された誘電体材料に対し、第1及び第2電極間に電圧が印加されることで、その誘電体材料に加えられる電界の作用によりレーザ光の光軸に対する拡がり角度を可変させて、レーザ光の焦点位置を光軸方向に変化させる焦点位置可変手段を備える。そして、制御手段はその焦点位置可変手段の第1及び第2電極間の電位差を制御手段により周期的に変化させて焦点位置を光軸方向に振動させる。これにより、例えば距離センサにて測定された加工対象物までの距離に応じてレーザ光の焦点位置を調整する必要がなくなるので、加工速度の高速化を図ることができる。尚、レーザ光源からのレーザ光は、焦点位置で加工可能なビームパワー(エネルギー密度)が得られるように設定されているのが好ましい。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ加工装置において、前記制御手段は、前記焦点位置可変手段に正弦波の交流電圧を付与して前記第1及び第2電極間の電位差を周期的に変化させることをその要旨とする。
【0008】
この発明では、焦点位置可変手段に正弦波の交流電圧を付与して第1及び第2電極間の電位差を周期的に変化させるため、レーザ光の焦点位置を光軸方向に振動させることができる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のレーザ加工装置において、前記レーザ光源は、フェムト秒レーザ光源であることをその要旨とする。
この発明では、レーザ光源は、フェムト秒レーザ光源である。フェムト秒レーザ光は焦点位置で加工可能なビームパワー(エネルギー密度)が得られる超短パルス幅のレーザ光である。このため、レーザ光の焦点から外れた位置では加工可能なビームパワーは得られず、レーザ光の焦点が加工対象物の表面に合ったときに加工されるため、焦点位置を振動させることによる加工線幅の変化を抑えることができる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザ加工装置において、前記誘電体材料は、加えられる電界強度に応じて屈折率が変化する電気光学材料からなることをその要旨とする。
【0011】
この発明では、誘電体材料は加えられる電界強度に応じて屈折率が変化する電気光学材料からなるため、第1及び第2電極間の電位差の変化に応じてレーザ光の拡がり角度を変化させることができる。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ加工装置において、前記光軸上における前記焦点位置可変手段よりも前記加工対象物側の位置には、前記焦点位置可変手段からの光を前記加工対象物に収束して照射する収束レンズが設けられたことをその要旨とする。
【0013】
この発明では、光軸上における焦点位置可変手段よりも加工対象物側の位置には、焦点位置可変手段からの光を加工対象物に収束して照射する収束レンズが設けられる。このため、光軸方向における焦点位置の振動範囲を大きくすることができる。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ加工装置において、前記光軸上において前記レーザ光を収束する収束レンズを備え、前記光軸上における収束レンズよりも前記レーザ光源側の位置には、前記レーザ光を発散するためのレンズが設けられたことをその要旨とする。
【0015】
この発明では、光軸上においてレーザ光を収束する収束レンズを備え、光軸上における収束レンズよりもレーザ光源側の位置には、レーザ光を発散するためのレンズが設けられる。このため、加工対象物に収束角度が大きいレーザ光を照射することができ、その結果、焦点位置でのビームパワーと、その焦点位置以外の位置でのビームパワーとの差が大きくなるので、焦点位置で加工可能なビームパワーを得ることが可能となる。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載のレーザ加工装置において、前記焦点位置可変手段は、前記第1及び第2電極と前記誘電体材料とを有する電気光学素子を備え、前記電気光学素子は、前記レーザ光が通過する通過部と、前記第1及び第2電極を配置する電極部とを有し、前記電極部は、前記誘電体材料の入射側の端面に前記第1電極を設けるための第1配置面及び出射側の端面に前記第2電極を設けるための第2配置面が設けられ、該第1及び第2配置面の少なくとも一方は、前記光軸を挟んで対称位置においてその内面が前記光軸側に向く傾斜面に形成されたことをその要旨とする。
【0017】
この発明では、第1及び第2電極間に誘電体材料を介在させてなる電気光学素子は、レーザ光が通過する通過部と、第1及び第2電極を配置する電極部とを有し、電極部の誘電体材料における第1及び第2電極が設けられた第1及び第2配置面の少なくとも一方は、レーザ光の光軸を挟んで対称位置においてその内面がその光軸側に向く傾斜面に形成される。この構成により、第1及び第2電極間に電位差が与えられると、第1及び第2電極間には誘電体材料を通過する電気力線が光軸側に突出するように湾曲して示される電界が発生し、その電界の作用によりレーザ光の拡がり角度が可変される。従って、レーザ光の拡がり角度の可変を的確に行うことができる。
【0018】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載のレーザ加工装置において、前記第1及び第2電極がそれぞれ前記光軸と直交する一方向に並んで配置された一対の電極を有してなる前記電気光学素子を2つ備え、該各電気光学素子は前記一対の電極の並ぶ方向が互いに直交するように前記光軸上に並設されたことをその要旨とする。
【0019】
この発明では、第1及び第2電極がそれぞれ光軸と直交する一方向に並んで配置された一対の電極を有してなる電気光学素子を2つ備え、該各電気光学素子はその一対の電極の並ぶ方向が互いに直交するように光軸上に並設される。このため、各電気光学素子の第1及び第2電極間の電位差の変化に応じてレーザ光の拡がり角度を変化させることができる。
【0020】
請求項9に記載の発明は、請求項7又は8に記載のレーザ加工装置において、前記第1及び第2電極は透明電極であり、前記電極部は前記通過部を兼ねることをその要旨とする。
【0021】
この発明では、第1及び第2電極は透明電極であり、電極部は通過部を兼ねるため、電気光学素子を小型に構成することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
従って、上記記載の発明によれば、加工速度の高速化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に概略構成を示す本実施形態のレーザ加工装置10は、制御手段を構成する制御回路11の制御に基づいて、搬送ラインにて搬送されるワーク(加工対象物)Wの表面に文字・記号・図形等をマーキング加工するものである。
【0024】
レーザ加工装置10は、加工用のレーザ光を出射するレーザ光源12を備えている。レーザ光源12は、例えばチタンサファイヤレーザ発振器からなり、フェムト秒領域の超短パルス幅のフェムト秒レーザ光(以下、レーザ光)を発振するものである。レーザ光源12は制御回路11にてその発振が制御される。
【0025】
レーザ光源12の後段に配置されたビームエキスパンダ13は、レーザ光源12から出射されたレーザ光のビーム径を一定の倍率で一旦拡大する。尚、本実施形態では、ビームエキスパンダ13からは、光軸Lに対して一定の拡がり角度で拡がるレーザ光が出射されるようになっている。
【0026】
ビームエキスパンダ13の後段には、焦点位置可変手段としての電気光学ユニット14が配置されている。電気光学ユニット14は、その内部の屈折率変化によりビームエキスパンダ13にて一旦拡大されたレーザ光の拡がり角度を変更可能に構成されている。
【0027】
電気光学ユニット14の後段に配置されたガルバノミラー15は、該電気光学ユニット14にて拡がり角度が可変されたレーザ光を反射してその照射方向を変更するものであり、例えば対をなすX軸ミラーとY軸ミラーとで構成されている。ガルバノミラー15は、制御回路11の制御に基づく駆動装置16の駆動により角度制御され、マーキングする文字や記号、図形等に基づいて2次元でレーザ光を走査する。
【0028】
ガルバノミラー15の後段に配置された収束レンズ(fθレンズ)17は、電気光学ユニット14にて拡がり角度が変化されたレーザ光をワークWの表面において所定のスポット径となるまで収束させ、マーキング加工に適したエネルギー密度まで高める。
【0029】
上記のようなレーザ加工装置10において、レーザ光の焦点をワークWの表面に合わせる収束レンズ17の屈折率は一定であるため、電気光学ユニット14による拡がり角度の可変に応じてレーザ光の焦点距離が光軸L方向に変化する(図3参照)。即ち、レーザ光の光軸L方向における焦点位置は、電気光学ユニット14から出射されるレーザ光の拡がり角度の大きさにより決定される。電気光学ユニット14には、電源18からの電圧を受ける制御回路11の制御に基づき交流電圧発生器19にて発生される正弦波交流電圧が印加される。そして、電気光学ユニット14はその交流電圧の大きさに応じてレーザ光の拡がり角度を可変するようになっている。以下に、電気光学ユニット14について説明する。
【0030】
図2に示すように、電気光学ユニット14は一対(2つの)の電気光学素子21を有している。電気光学素子21は、加えられる電界の強度に応じて屈折率が変化する電気光学材料(誘電体材料)からなる電気光学部材22と、その電気光学部材22に電界を加えるための第1及び第2電極23,24とを有している。本実施形態では、電気光学部材22はKTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム)結晶からなる。
【0031】
電気光学部材22は略台形柱状をなし、図3に示すように、上底面の中央部から下底面の中央部に向けて光軸Lが設定されており、その光軸Lに沿う断面が左右対称の山形に形成されている。尚、図3では、説明の便宜のため、電気光学ユニット14において電気光学素子21を1つのみ図示するとともに、ガルバノミラー15を省略している。電気光学部材22は、左右方向の中心線がレーザ光の光軸Lを重なるように配置されるとともに、入射側(ビームエキスパンダ13側)を向く入射面22aがレーザ光の光軸Lと直交する平面状をなしている。入射面22aは第1電極23を配置するための第1配置面であり、入射面22aには平面形状が該入射面22aと略同じ大きさの第1電極23が固着されている。第1電極23は平面板状に形成されるとともに、その中央にはレーザ光を入射するための通過部を構成する貫通孔23aが形成されている(図2参照)。尚、電気光学素子21において、図3における左右方向中央にレーザ光が通過する通過部が形成されるとともに、該通過部の左右方向両側に電極を配置するための電極部が形成される。
【0032】
電気光学部材22の光軸L方向に沿って出射側に突出する凸部22bの底面(頂面)は、第1電極23の貫通孔23aから入射面22aに入射したレーザ光を出射する出射面22cとなっており、この出射面22cは入射面22aと平行な平面状に形成されている。凸部22bの側面は、光軸Lから離れるにしたがって入射面22aに近づくとともに光軸L側に突出する湾曲形状に形成された傾斜面22dとなっている。即ち、傾斜面22dは、レーザ光の光軸Lを挟んで対称位置においてその内面がその光軸L側を向くように傾斜している。この傾斜面22dは第2電極24を配置するための第2配置面であり、左右両側の傾斜面22dにはそれぞれ傾斜面22dの湾曲に沿う形状をなす第2電極24が固着されている。一対の第2電極24は光軸Lと直交する一方向(図3における左右方向)に並んで配置されている。尚、各第2電極24間に位置する出射面22cが第2電極24側の通過部となっている。また、第1及び第2電極23,24はともに金属部材からなる。
【0033】
図2に示すように、電気光学ユニット14において2つの電気光学素子21よりも入射側(ビームエキスパンダ13側)には、レーザ光を直線偏光に変えるための偏光板25が設けられている。偏光板25はその板面が光軸Lと直交するとともに、直線偏光化したレーザ光の偏光方向が偏光板25のすぐ後段の電気光学素子21の左右方向と一致するように設けられている。即ち、偏光板25を通過し、すぐ後段の電気光学素子21に入射するレーザ光の偏光方向と、その電気光学素子21の第1及び第2電極23,24間に発生する電界の方向とが一致するようになっている。各電気光学素子21は、一対の第2電極24の並ぶ方向(前述した光軸Lと直交する一方向)が互いに直交するように光軸L上に並設されている。また、各電気光学素子21間には、偏光板25にて直線偏光化されたレーザ光の偏光方向を90°回転させるためのλ/2波長板26が介在されている。
【0034】
このような電気光学ユニット14において、ビームエキスパンダ13から出射されたレーザ光は偏光板25にて直線偏光化されて1つ目の電気光学素子21に入射する。各電気光学素子21は、第1電極23が接地されるとともに、各第2電極24には前記制御回路11に基づいて交流電圧発生器19にて発生される所定周波数及び振幅の交流電圧が印加される。尚、2つの電気光学素子21の第2電極24にはそれぞれ同様の交流電圧が印加される。
【0035】
電気光学素子21において、第2電極24に交流電圧が印加されて該第1電極23と第2電極24との間に電位差が生じると、図3に示すように、電気光学素子21の光軸Lに対して線対称の形状に起因して光軸Lに対して線対称の電界が発生する。この第1及び第2電極23,24間の電界の電気力線は、図3において破線で示すように、光軸L側に突出するように湾曲している。第1及び第2電極23,24間に電界が発生すると、電気光学部材22はその電界の強度に応じてその屈折率が変化する。電気光学部材22の入射面22aから入射したレーザ光は、電気光学部材22の中心線(光軸L)側に屈折しながら進み、そのビーム径が各第2電極24側から均等に収縮されるようになっている。即ち、1つ目の電気光学素子21から出射されたレーザ光のビーム径は、各第2電極24側から均等に収縮した楕円形状となる。
【0036】
次に、1つ目の電気光学素子21から出射されたレーザ光は、λ/2波長板26にてその偏光方向が90°回転する。尚、このとき、レーザ光の偏光方向は変わるが、ビーム径の楕円形状は回転することなくそのまま維持される。λ/2波長板26を通過したレーザ光は2つ目の電気光学素子21に入射する。2つ目の電気光学素子21の第2電極24には、上記1つ目の電気光学素子21の第2電極24と等しい電圧が制御回路11により印加されている。そして、レーザ光は2つ目の電気光学素子21によって楕円の長手方向に収縮され、そのビーム径は略円形となる。このように、電気光学ユニット14は、ビームエキスパンダ13から出射されたレーザ光の拡がり角度を可変する。
【0037】
このような電気光学ユニット14において、可変する拡がり角度の大きさは電気光学部材22の屈折率によって決定され、その屈折率は第1電極23に印加される電圧の大きさによって決定される。即ち、第2電極24には、前述したように交流電圧発生器19からの交流電圧が印加されるため、電気光学部材22の屈折率が周期的に変動し、これに伴い、電気光学部材22を通過するレーザ光の拡がり角度が周期的に変動する。このように、電気光学ユニット14によって拡がり角度が周期的に変動されると、収束レンズ17にて収束されるレーザ光の焦点位置が光軸L方向に振動する。尚、第2電極24に印加される交流電圧の電圧値が大きくなるほど焦点位置が光軸Lに沿って収束レンズ17側に移動し、電圧値が小さくなるほど焦点位置が光軸Lに沿って収束レンズ17から遠ざかる位置に移動する。
【0038】
このようなレーザ加工装置10では、電気光学ユニット14にてレーザ光の焦点位置を振動させながら、ガルバノミラー15による2次元の走査を行いワークWの表面へのマーキング加工を行う。レーザ光は超短パルス幅のフェムト秒レーザであり、焦点位置で加工可能なビームパワーを得るようになっている。つまり、レーザ光の焦点位置近傍の領域(焦点深度内)ではレーザ光のビーム径は微少であるが、この領域を外れた位置においてはビーム径が大きくなるため、十分なビームパワー(十分なレーザ光のエネルギー密度)が得られず加工不能となっている。尚、このようにレーザ光はその焦点近傍においての加工可能な領域(焦点深度)を有するが、フェムト秒レーザにおいてはその領域幅がワークWの大きさに対して十分に小さいため、説明の便宜上、焦点位置のみで加工可能であるとする。即ち、レーザ光の焦点位置がワークWの表面に合ったときに該表面に加工がなされるようになっている。尚、レーザ光の焦点の振動範囲は、ワークW表面の凹凸形状の大きさに対して十分大きな幅に設定される。また、交流電圧発生器19は、制御回路11からの信号に基づき、ガルバノミラー15によるレーザ光の走査速度に対して十分に短い周期の交流電圧を電気光学ユニット14に出力する。これにより、ワークWの表面には断続的なマーキングがなされる。また、金属加工分野においては、レーザ光の焦点を金属表面に照射して、表面を溶融した直後、溶融して盛り下がった表面に再度レーザ光の焦点を照射することにより更にその表面を溶融させて深堀するという技術があるが、このような加工をする場合にも、本願発明は焦点位置が振動しているので、複雑な焦点位置可変機構を用いずに対応することができる。
【0039】
次に、本実施形態の特徴的な作用効果を記載する。
(1)焦点位置可変手段としての電気光学ユニット14は、第1及び第2電極23,24間に介在された電気光学材料(誘電体材料)としての電気光学部材22に対し、第1及び第2電極23,24間に電圧が印加されることで、その電気光学部材22に加えられる電界の作用によりレーザ光の光軸Lに対する拡がり角度を可変させる。そして、制御手段を構成する制御回路11は、第1及び第2電極23,24間の電位差を周期的に変化させて、収束レンズ17にて収束されたレーザ光の焦点位置を光軸L方向に振動させる。これにより、例えば距離センサにて測定された加工対象物までの距離に応じてレーザ光の焦点位置を調整する必要がなくなるので、加工速度の高速化を図ることができる。
【0040】
(2)交流電圧発生器19により電気光学ユニット14に正弦波の交流電圧を付与して第1及び第2電極23,24間の電位差を周期的に変化させるため、レーザ光の焦点位置を光軸L方向に振動させることができる。
【0041】
(3)レーザ光源12は、フェムト秒レーザ光源である。フェムト秒レーザ光は焦点位置で加工可能なビームパワー(エネルギー密度)が得られる超短パルス幅のレーザ光である。このため、レーザ光の焦点から外れた位置では加工可能なビームパワーは得られず、レーザ光の焦点がワークWの表面に合ったときに加工されるため、焦点位置を振動させることによる加工線幅の変化を抑えることができる。
【0042】
(4)電気光学部材22は電界強度に応じて屈折率が変化する電気光学材料からなるため、第1及び第2電極23,24間の電位差を変化に応じてレーザ光の拡がり角度を変化させることができる。特に、電界強度に応じた屈折率変化が大きいKTN結晶を用いているため、レーザ光の拡がり角度の可変幅を大きくすることができる。
【0043】
(5)光軸L上における電気光学ユニット14よりもワークW側の位置には、電気光学ユニット14からのレーザ光をワークWに収束して照射する収束レンズ17が設けられる。このため、光軸L方向における焦点位置の振動範囲を大きくすることができる。
【0044】
(6)電気光学部材22において、第2電極24が設けられた第2配置面としての傾斜面22dは、その内面がその光軸L側を向くように傾斜している。これにより、第1及び第2電極23,24間に電位差が与えられると、電気光学部材22を通過する電気力線が光軸L側に突出するように湾曲して示される電界が発生し、その電界の作用によりレーザ光の拡がり角度が可変される。従って、レーザ光の拡がり角度の可変を的確に行うことができる。
【0045】
(7)一対の第2電極24が光軸Lと直交する一方向に並んで配置された電気光学素子21が2つ設けられ、該電気光学素子21はその一対の第2電極24の並ぶ方向が互いに直交するように光軸L上に並設される。このため、各電気光学素子に対する電圧制御によりレーザ光の拡がり角度を可変することができる。これとともに、レーザ光の偏光方向と電気光学部材22にて発生する電界の方向とが一致しないことによるレーザ光の分散を抑制することができる。
【0046】
(8)第1電極23にはレーザ光を通過させるための通過部を構成する貫通孔23aが形成され、第2電極24側においては出射面22cが通過部を構成しているため、第1及び第2電極23,24に透明電極等を用いる必要がなくなる。従って、第1及び第2電極23,24として透明電極よりも高い電圧を印加可能な部材を用いれば、レーザ光の拡がり角度の可変幅を大きくすることができる。
【0047】
尚、本発明の実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、収束レンズ17は、光軸L上における電気光学ユニット14よりもワークW側の位置に設けられたが、光軸L上における電気光学ユニット14よりもレーザ光源12側に設けてもよい。また、光軸L上における収束レンズ17よりもレーザ光源12側の位置に、レーザ光を発散するためのレンズを設けた構成としてもよい。この構成によれば、ワークWに収束角度が大きいレーザ光を照射することができ、その結果、焦点位置でのビームパワーと、その焦点位置以外の位置でのビームパワーとの差が大きくなるので、焦点位置で加工可能なビームパワーを得ることが可能となる。
【0048】
・上記実施形態では、電気光学ユニット14はビームエキスパンダ13の後段に設けられたが、特にこれに限定されるものではなく、レーザ光源12の後段、ガルバノミラー15の後段、又は収束レンズ17の後段に設けてもよい。
【0049】
・上記実施形態では、電気光学部材22の入射面22aと出射面22cとは互いに平行な平面状に形成されたが、これ以外に例えば、入射面22a及び出射面22cの少なくとも一方を球面状に形成してもよい。
【0050】
・上記実施形態における電気光学ユニット14の形状等の構成は、上記実施形態のものに限定されるものではなく、電気光学部材22に加えられる電界の強度に応じてレーザ光の拡がり角度を変更可能であればよい。
【0051】
・上記実施形態では、電気光学素子21は凸部22bの頂面が出射面22cとなるように配置されたが、入射面22aとなるように配置してもよい。
・上記実施形態では、傾斜面22dは光軸L側に突出する湾曲形状に形成されるが、これ以外に例えば、断面直線状となるように形成してもよい。
【0052】
・上記実施形態では、電気光学部材22の凸部22bの傾斜面22dは、図3における左右方向両端まで形成されたが、左右方向両端部分が入射面22aと平行となるように形成してもよい。
【0053】
・上記実施形態では、第1電極23が1つ、第2電極24が2つ設けられたが、特にこれに限定されるものではなく、例えば第1電極23を分割し、光軸Lと直交する一方向に(図3における左右方向)並んで配置される一対の第1電極を設けてもよい。また、各第2電極24をレーザ光が通過する以外の位置で繋がるように1つの部材で構成してもよい。
【0054】
・上記実施形態では、第1及び第2電極23,24に金属部材を用いたが、これ以外に例えば、錫を添加した酸化インジウム(ITO)等からなる透明電極を用いてもよい。この場合、透明電極ゆえ、貫通孔23aを形成していない第1電極と、傾斜面に形成された出射面を覆う第2電極とを形成してもよい。即ち、電気光学部材22において、電極を配置する電極部をレーザ光が通過する通過部を兼ねる構成としてもよい。この構成によれば、電気光学素子21を小型に構成することが可能である。
【0055】
・上記実施形態では、電気光学部材22にKTN結晶を用いたが、これ以外に例えば、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ラタン)結晶等を用いてもよい。また、電気光学材料としては、KTN以外の材料でもよく主にポッケルス効果やカー効果を利用するもの、つまり、第1及び第2電極間に印加される電圧を変化することに基づいて電気光学素子21に加えられる電界強度が変化し、この加えられる電界強度に応じて屈折率が変化するものであればよい。
【0056】
・上記実施形態では、交流電圧発生器19を備え、電気光学ユニット14には該交流電圧発生器19にて発生する交流電圧が印加されたが、これ以外に例えば、周期的に変化するパルス状の電圧や三角波状の電圧等を印加してもよい。また、0V以上又は0V以下の範囲で周期的に変化する電圧でもよい。
【0057】
・上記実施形態では、入射面22a側の第1電極23が接地され、出射面22c側の第2電極24に電圧が印加されたが、特にこれに限定されるものではなく、例えば第1電極23に電圧を印加し、第2電極24を接地してもよく、また、第1及び第2電極23,24の両方に電圧を印加してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本実施形態におけるレーザ加工装置を示す概略構成図。
【図2】電気光学ユニットを示す分解斜視図。
【図3】電気光学ユニットの作用を説明するための概略図。
【符号の説明】
【0059】
L…光軸、W…ワーク、10…レーザ加工装置、11…制御手段を構成する制御回路、12…レーザ光源、14…焦点位置可変手段としての電気光学ユニット、17…収束レンズ、21…電気光学素子、22d…傾斜面、22…電気光学材料及び誘電体材料としての電気光学部材、23…第1電極、24…第2電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源から出射されたレーザ光を加工対象物の表面に収束させて加工を行うレーザ加工装置であって、
第1及び第2電極間に介在された誘電体材料に対し、前記第1及び第2電極間に電圧が印加されることで、該誘電体材料に加えられる電界の作用により前記レーザ光の光軸に対する拡がり角度を可変させて、前記レーザ光の焦点位置を光軸方向に変化させる焦点位置可変手段と、
前記焦点位置可変手段の第1及び第2電極間の電位差を周期的に変化させて前記焦点位置を前記光軸方向に振動させる制御手段と
を備えたことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ加工装置において、
前記制御手段は、前記焦点位置可変手段に正弦波の交流電圧を付与して前記第1及び第2電極間の電位差を周期的に変化させることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレーザ加工装置において、
前記レーザ光源は、フェムト秒レーザ光源であることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザ加工装置において、
前記誘電体材料は、加えられる電界強度に応じて屈折率が変化する電気光学材料からなることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ加工装置において、
前記光軸上における前記焦点位置可変手段よりも前記加工対象物側の位置には、前記焦点位置可変手段からの光を前記加工対象物に収束して照射する収束レンズが設けられたことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ加工装置において、
前記光軸上において前記レーザ光を収束する収束レンズを備え、
前記光軸上における収束レンズよりも前記レーザ光源側の位置には、前記レーザ光を発散するためのレンズが設けられたことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のレーザ加工装置において、
前記焦点位置可変手段は、前記第1及び第2電極と前記誘電体材料とを有する電気光学素子を備え、
前記電気光学素子は、前記レーザ光が通過する通過部と、前記第1及び第2電極を配置する電極部とを有し、
前記電極部は、前記誘電体材料の入射側の端面に前記第1電極を設けるための第1配置面及び出射側の端面に前記第2電極を設けるための第2配置面が設けられ、該第1及び第2配置面の少なくとも一方は、前記光軸を挟んで対称位置においてその内面が前記光軸側に向く傾斜面に形成されたことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項8】
請求項7に記載のレーザ加工装置において、
前記第1及び第2電極がそれぞれ前記光軸と直交する一方向に並んで配置された一対の電極を有してなる前記電気光学素子を2つ備え、該各電気光学素子は前記一対の電極の並ぶ方向が互いに直交するように前記光軸上に並設されたことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のレーザ加工装置において、
前記第1及び第2電極は透明電極であり、前記電極部は前記通過部を兼ねることを特徴とするレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−12011(P2009−12011A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173507(P2007−173507)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000106221)サンクス株式会社 (578)
【Fターム(参考)】