説明

レーザ溶接性に優れた電池ケース蓋用アルミニウム合金板

【課題】レーザ溶接時、同じ入熱量で従来の純アルミニウム系材料よりも溶け込み深さを大きくすることができる電池ケース蓋用アルミニウム合金板を提供すること。
【解決手段】Si:0.3〜2.0%(質量%、以下同じ)、Fe:0.5〜1.5%を含有し、さらに、In:0.01〜0.05%、Bi:0.05〜0.20%、Sn:0.01〜0.05%の1種または2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる。さらに、Ti:0.005〜0.15%、B:5〜500ppmを含有していることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池ケースの蓋に用いられるアルミニウム合金板、詳しくは、携帯電話やノートパソコンに使用される角型のリチウムイオン電池などのケースの蓋用として好適なレーザ溶接性に優れたアルミニウム合金板に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノート型パーソナルコンピュータ等に組み込まれる部品は軽量であることが強く望まれている。このため、これらに使用される角型リチウムイオン電池のケース本体の材料につても、当初の鋼板やステンレス鋼板に代えてA3003アルミニウム合金板が使われるようになっている。
【0003】
角型電池ケース本体は、複数の工程の絞りおよびしごき加工を組み合わせて成形される。Al−Mn系のA3003アルミニウム合金は、このような複雑な成形工程を採用しても、光沢のある美しい表面状態を維持しながらケースの薄肉化が可能な素材である。そのため、A3003アルミニウム合金は、電池のケース本体用素材として多用されている。
A3003よりなるケース本体の開口部は、純アルミニウム系であるA1050アルミニウム合金よりなる蓋で覆われ、両者はレーザ溶接によって接合されている。
【0004】
ところで、近年、リチウムイオン電池については、さらに軽量化、高容量化が求められており、角型電池ケースにおいても一層の薄肉化が要請されている。薄肉化は内容積の増加に直結し、電池特性の高容量化を図る重要な要素である。一方、充放電を繰り返すリチウムイオン電池は、その反応時に内部圧力が上昇し、クリープ変形により電池ケースが膨らむという問題がある。このようなフクレによる電池ケース本体の厚み変形量が大きい場合には、故障、破損などによる機器への影響が懸念され、単なる薄肉化はこの問題を助長することになりかねない。そのため、内部圧力によるフクレを抑制する角型電池ケース用アルミニウム材料として、A3005や、Mn、Cu、Mgを含有し、強度を改善したアルミニウム合金が提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−232009号公報
【特許文献2】特開2005−336540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電池ケースは、上述したごとく、ケース本体と蓋体からなり、レーザ溶接によってケース本体に蓋体を接合している。上記のごとくケース本体の薄肉化を図れば、その材料の強度改善をしても溶接部位の強度が低下してしまう。そのため、電池ケースの薄肉化が進むにつれて、ケース本体と蓋体との接合強度もより高いものとすることが求められている。
【0007】
電池ケースの場合、レーザ溶接をする際に、通常、蓋体の近傍には樹脂パーツが位置している。そのため、溶接時には、樹脂パーツに影響がないよう、できるだけ小さな入熱で接合することが望まれている。それ故、溶接部位に対する入熱(出力)を増やす方策は採ることができない。
【0008】
さらに、ケース本体の薄肉化、つまり、ケース本体及び蓋体の薄肉化に伴って、レーザ溶接時の溶接割れが生じやすくなる。そこで、電池ケースの蓋体用のアルミニウム材料として、純アルミニウム系と同等の成形加工性を有するとともに、レーザ溶接による溶接強度を向上できるアルミニウム合金材料が要請されている。それには、レーザ溶接時に入熱量を上げなくても、同じ入熱で溶け込み深さが大きくなるアルミニウム合金材料の開発が必要である。
【0009】
本発明は、かかる要請に基づいてなされたものであって、レーザ溶接時、同じ入熱量で従来の純アルミニウム系材料よりも溶け込み深さを大きくすることができる電池ケース蓋用アルミニウム合金板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、Si:0.3〜2.0%(質量%、以下同じ)、Fe:0.5〜1.5%を含有し、さらに、In:0.01〜0.05%、Bi:0.05〜0.20%、Sn:0.01〜0.05%の1種または2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなることを特徴とするレーザ溶接性に優れた電池ケース蓋用アルミニウム合金板にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電池ケース蓋用アルミニウム合金板は、上記特定の成分組成を有している。これにより、電池ケース蓋として用い、これをレーザ溶接により電池ケース本体とと接合する際に、入熱量を増加させることなく溶け込み深さを大きくすることができ、溶接部の強度を従来の純アルミニウム系材料の場合よりも高めることができる。そして、入熱量を上げる必要がないので、電池の樹脂パーツなどに影響を与えることも回避することができる。そのため、上記電池ケース蓋用アルミニウム合金板として、非常に好適である。特に、広く普及している角型リチウムイオン電池ケースの蓋用として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の電池ケース蓋用アルミニウム合金板における合金成分の意義およびその限定理由について説明する。
Si:0.3〜2.0%、
Siは、AlやFeと結合して金属間化合物を形成し、レーザ溶接時の溶け込み深さを向上させる効果がある。そのためのSi含有量は、0.3%以上、2.0%以下の範囲である。Si含有量が0.3%未満の場合は、金属間化合物の形成が不充分であり、溶け込み深さが向上しない。その含有量が2.0%超えの場合は、鋳造時に100μm以上の粗大な晶出物(金属間化合物)を形成し、製板の状態でも15μm以上の金属間化合物として存在することになり、割れ感受性が大きくなってしまい、レーザ溶接時に割れやすくなる。
【0013】
Fe:0.5〜1.5%、
FeもAlやSiと結合して金属間化合物を形成し、レーザ溶接時の溶け込み深さを向上させる効果がある。そのためのFe含有量は、0.5%以上、1.5%以下の範囲である。Fe含有量が0.5%未満の場合は、金属間化合物の形成が不充分であり、溶け込み深さが向上しない。その含有量が1.5%超えの場合は、鋳造時に100μm以上の粗大な晶出物(金属間化合物)を形成し、製板の状態でも1.5μm以上の金属間化合物として存在することになり、割れ感受性が大きくなってしまい、レーザ溶接時に割れやすくなる。
【0014】
In:0.01〜0.05%、
Bi:0.05〜0.20%、
Sn:0.01〜0.05%、
In、Sn、Biは、アルミニウムよりも低融点の金属元素であり、アルミニウムマトリックス中にほとんど固溶せず、第2相としてマトリックス中に分散する。この分散がレーザ溶接時の溶け込み深さに効果のあることを本発明者が見いだした。Inは0.01〜0.05%で、Biは0.05〜0.20%で、Snは0.01〜0.05%でその効果がある。それぞれ下限を下回るとその効果が得られず、上限を上回る場合は、レーザ溶接時の割れ感受性が大きくなってしまい、レーザ溶接時に割れやすくなる。In、Sn、Biはそれぞれ単独含有でもよいし、2種あるいは3種を組み合わせて含有してもよい。
【0015】
Fe、Si及びIn、Sn、Biの1種または2種以上以外の残部は、上述したごとく、Alおよび不可避的不純物である。ここで、不可避的不純物は、合金の製造上の問題から取り除くことが困難な成分である。
例えば、Cu、Mn、Mg、Cr、Znについては0.1%以下、好ましくは0.05%以下までは不可避的不純物として含むことができる。
なお、Fe、Si及びIn、Sn、Biの1種または2種以上の上述した作用効果を阻害しない限り、微量(0.03%以下)の範囲で他の元素を故意に添加した場合であっても、これは上記不可避的不純物と同等に扱うことができる。
【0016】
また、さらに、Ti:0.005〜0.15%、B:5〜500ppmを含有していることが好ましい(請求項2)。Ti、Bは、鋳造組織を微細化して、製品の成形性を安定化させることができるので、上記範囲において添加することが好ましい。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる電池ケース蓋用アルミニウム合金板につき、比較例と対比して説明する。
本例の実施例としては、表1に示す合金No.1〜14の合金を準備した。これらは、いずれも、Si:0.3〜2.0%(質量%、以下同じ)、Fe:0.5〜1.5%を含有し、さらに、In:0.01〜0.05%、Bi:0.05〜0.20%、Sn:0.01〜0.05%の1種または2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる。
【0018】
比較例としては、表1に示す合金No.15〜22を準備した。これらの合金は、成分範囲が上記適正範囲から外れたものである。
実施例の合金No.1〜14及び比較例の合金No.15〜22は、いずれも、半連続鋳造により造塊した。なお、いずれの合金も、鋳造組織微細化のために、Ti:0.01%とB:50ppmを添加した。得られた鋳塊に、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延を施して、厚さ0.8mmの板材とした。その後、板材に対し380℃の温度で3時間保持する最終熱処理を行い、得られた板材を試験材とした。
【0019】
【表1】

【0020】
各合金の試験材について、次の方法により、レーザ溶接時の割れ感受性の評価を行った。
・レーザ溶接機:半導体励起パルス発信型YAGレーザ(片岡製作所製HP300β)、
・レーザ出力:210W、
・溶接方法:上記試験材と同じ厚さのJIS1050のO材からなる板材を準備し、これを上記試験材に突き合わせて、その突き合わせ部にレーザ溶接のスポットを照射し、このスポットと突き合わせ部を900mm/分で相対移動させてレーザ溶接した。
【0021】
・溶け込み深さ評価方法:溶接継手断面を溶接方向に2cm間隔で5断面顕微鏡観察し、その最大溶け込み深さの平均値を算出した。溶け込み深さが140μm以上を合格とし、140μm未満は溶接不良として不合格と判断した。
・割れ感受性評価方法:溶接継手部位に割れが発生しているかどうかを、当該溶接継手部位の断面を顕微鏡観察することにより確認し、割れが無い場合は合格、一方、割れがある場合は、割れ感受性が高いことから不合格とした。
【0022】
評価結果を表1に示す。
表1から知られるように、本発明の実施例としての合金No.1〜14は、いずれも溶け込み深さが140μm以上であり、かつ、割れがないのに対して、比較例としての合金No.15〜22は、溶け込み深さが140μm未満か、割れ発生のいずれかに該当し、不合格となった。
この結果から、本発明の合金は、レーザ溶接性に優れ、電池ケース蓋用アルミニウム合金板として好適であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:0.3〜2.0%(質量%、以下同じ)、Fe:0.5〜1.5%を含有し、さらに、In:0.01〜0.05%、Bi:0.05〜0.20%、Sn:0.01〜0.05%の1種または2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなることを特徴とするレーザ溶接性に優れた電池ケース蓋用アルミニウム合金板。
【請求項2】
請求項1において、さらに、Ti:0.005〜0.15%、B:5〜500ppmを含有していることを特徴とするレーザ溶接性に優れた電池ケース蓋用アルミニウム合金板。

【公開番号】特開2011−6724(P2011−6724A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149309(P2009−149309)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】