説明

レーザ溶接方法及びレーザ溶接装置

【課題】安価な装置で実施可能な溶接方法であり、溶接状況に対応した適正なビードが得られ、而もビード幅及びビード高さの調整を可能とした。
【解決手段】溶接部材7にレーザ6を集光して照射する溶接トーチ2と、レーザの照射部位にフィラーワイヤ12を供給するフィラーワイヤ供給装置3と、前記フィラーワイヤに加熱用電流を供給する電源部13とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置、特にホットワイヤを補助熱源としたレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接方法は、エネルギ密度が高く、小さい入熱量で深い溶込みが得られるものであり、溶接歪みが少なく、高精度の溶接を可能とする。
【0003】
従来、レーザ溶接方法は、フィラーメタルを用いない突合わせ溶接に実施され、対象となるものは、通常小型精密部品の溶接、或は薄板の溶接等であった。
【0004】
一方で、レーザ溶接を鋼構造物に適用することで、高精度の溶接、溶接作業効率の改善が期待でき、近年ではレーザ溶接とTIG溶接、或はMIG溶接を組合わせたハイブリッド溶接方法が実施されている。
【0005】
ハイブリッド溶接方法では、TIG溶接、或はMIG溶接のアークでフィラーメタルを溶融させ、レーザ溶接では得られない適正なビードを形成することができる。
【0006】
ところが、ハイブリッド溶接方法では、レーザ溶接装置とTIG溶接装置、或はMIG溶接装置の2種類の溶接装置を備えなければならないので、装置が大掛りに、又高価な溶接装置となる。更に、ハイブリッド溶接方法では、アークによる入熱量が低く抑えられるが、低く抑えることでアークの発生が溶接材料の表面状態に影響され易くなり、溶接材料の表面に施されている下地処理が完全に除去されていない場合はアークが安定せず溶接が不安定になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2004−512965号公報
【特許文献2】特開2003−320454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は斯かる実情に鑑み、安価な装置で実施可能であり、溶接状況に対応した適正なビードが得られ、而もビード幅及びビード高さの調整を可能としたレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、溶接部位にレーザを照射すると共に加熱したフィラーワイヤを供給するレーザ溶接方法に於いて、前記レーザをデフォーカス状態で照射すると共に、レーザ光束断面でのエネルギ密度平均値/エネルギ密度最大値が所定の値となる様にデフォーカス状態を設定するレーザ溶接方法に係るものである。
【0010】
又本発明は、前記エネルギ密度平均値/エネルギ密度最大値は、求められるビードの幅又は高さに基づき設定されるレーザ溶接方法に係るものである。
【0011】
更に又本発明は、溶接部材にレーザを集光して照射する溶接トーチと、レーザの照射部位に加熱したフィラーワイヤを供給するフィラーワイヤ供給装置と、デフォーカス状態を変更する集光位置変更手段と、エネルギ密度平均値/エネルギ密度最大値が所定の値となる様に該集光位置変更手段のデフォーカス状態を制御する制御部とを具備するレーザ溶接装置に係るものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶接部位にレーザを照射すると共に加熱したフィラーワイヤを供給するレーザ溶接方法に於いて、前記レーザをデフォーカス状態で照射すると共に、レーザ光束断面でのエネルギ密度平均値/エネルギ密度最大値が所定の値となる様にデフォーカス状態を設定するので、簡単な調整によりビード形状の制御が可能となり、更にアークによるフィラーワイヤの溶融ではないので、溶接が安定し、溶接品質が向上する。
【0013】
又本発明によれば、前記エネルギ密度平均値/エネルギ密度最大値は、求められるビードの幅又は高さに基づき設定されるので、求めるビード形状が簡単に得られる。
【0014】
更に又本発明によれば、溶接部材にレーザを集光して照射する溶接トーチと、レーザの照射部位に加熱したフィラーワイヤを供給するフィラーワイヤ供給装置と、デフォーカス状態を変更する集光位置変更手段と、エネルギ密度平均値/エネルギ密度最大値が所定の値となる様に該集光位置変更手段のデフォーカス状態を制御する制御部とを具備するので、ビード形状の制御が容易であり、更にアークによるフィラーワイヤの溶融ではないので、溶接が安定し、溶接品質が向上するという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明が実施されるレーザ溶接装置を示す概略図である。
【図2】該レーザ溶接装置に於いて、デフォーカス比を変更した場合の溶接金属断面積の変化を示す線図である。
【図3】溶接金属の状態を示す説明図である。
【図4】溶接部材に対するデフォーカスの状態を示す説明図である。
【図5】ビードの形状とビードのエネルギ密度との関係を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0017】
先ず、図1に於いて、本発明が実施されるレーザ溶接装置1の一例を説明する。図中、2は溶接トーチであり、3はフィラーワイヤ供給装置を示している。本実施例で用いられるレーザはファイバレーザであり、深い溶込み深さが得られる。
【0018】
レーザ光源(図示せず)から発せられたレーザは光ファイバ4により前記溶接トーチ2迄導かれる。該溶接トーチ2には、集光光学系5が内蔵されており、該集光光学系5によって前記光ファイバ4から射出したレーザ6を溶接部材7の所要の位置に集光させている。尚、図1中、fは前記集光光学系5の焦点距離である。
【0019】
前記フィラーワイヤ供給装置3は、ワイヤドラム8、ワイヤ矯正機9、ワイヤホルダ11等を有し、前記ワイヤドラム8から送出されたフィラーワイヤ12は前記ワイヤ矯正機9で巻癖が矯正されて前記ワイヤホルダ11に送出される。
【0020】
該ワイヤホルダ11は前記フィラーワイヤ12に対する給電部となっており、前記ワイヤホルダ11と前記溶接部材7との間に電源部13によって前記フィラーワイヤ12に加熱用の電流が供給されている。前記フィラーワイヤ12に電流が供給されることで、ジュール熱により、前記フィラーワイヤ12が加熱される様になっている。前記ワイヤホルダ11から送出された前記フィラーワイヤ12は、前記レーザ6の照射部に供給される。
【0021】
尚、前記フィラーワイヤ12の加熱温度は、該フィラーワイヤ12の先端が溶融池に接触した時点で溶融する程度に加熱されることが好ましい。
【0022】
又、前記フィラーワイヤ供給装置3のワイヤ供給速度、前記レーザ6の出力、前記溶接トーチ2の移動速度(溶接速度)、前記フィラーワイヤ12への給電状態(加熱状態)及び焦点位置の調整は制御部10によって制御される様になっている。
【0023】
本発明者は、上記レーザ溶接装置1に於いて、溶接を実施した場合に、前記溶接部材7の表面からの焦点の位置(デフォーカス量)と成形されるビード幅、又溶込み深さとの関係について検証した。
【0024】
尚、溶接条件は、レーザパワーが3KW、前記フィラーワイヤ12に供給する電流値が50A、溶接速度が1m/sである。又、図2に示されるグラフの縦軸は、溶接金属の断面積mm2 であり、曲線Aは溶着金属、曲線Bは溶融金属(図3参照)のそれぞれ断面積を示し、横軸はデフォーカス比(デフォーカス量/焦点:Df/f)を示している。又、(Df/f)の−は前記溶接部材7の表面から離反する方向、(Df/f)の+は前記溶接部材7の内部に向って移動する方向である(図4参照)。
【0025】
先ず、母材側の溶融状態、即ち溶融金属Bの断面積とデフォーカス比の関係は、曲線Bに見られる様に、デフォーカス比=0の時、即ち前記レーザ6の焦点が前記溶接部材7の表面に一致した時に、最大且つ極大であり、+側、−側でデフォーカス比が大きくなるに従って、減少する。即ち、溶込み量はデフォーカス比が大きくなるに従って、減少する。これは、デフォーカス比が大きくなることによって、光束断面が増大し、エネルギ密度が低下することによる。
【0026】
次に、溶着金属の状態、即ち溶着金属Aの断面積とデフォーカス比の関係は、曲線Aに示される。溶着金属Aの断面積が最小、極小となるのはデフォーカス比+0.2の時であり、デフォーカス比=0から+側にずれている。
【0027】
又、前記曲線Aに見られる様に溶着金属Aはデフォーカス比が極小値の時のデフォーカス比から離れるに従って、増大し、デフォーカス比が−0.2及び+0.4で極大となり、更に離反すると、減少に転ずると共に−0.3及び+0.4を越えると溶接ができなくなる。
【0028】
尚、図示していないが、前記フィラーワイヤ12に供給する電流を増減することで、溶接金属の状態が変化する。
【0029】
前記フィラーワイヤ12への供給電流を増減した場合、図2の傾向を保ちつつ、主に溶着金属Aに影響が大きく現れ、電流を増大すると、前記曲線Aは断面積が増大する方向に移動する。又、電流を減少すると、前記曲線Aは断面積が減少する方向に移動する。
【0030】
而して、デフォーカス比、前記フィラーワイヤ12への供給電流を制御することで、溶接状態、即ち溶込み深さ、ビード幅、ビード脚長を制御できる。特に、入熱量を一定にした状態でも、デフォーカスの状態を制御することで、肉盛り金属を多くしたり、或は溶込み深さを深くしたりできる等溶接状態、ビードの成形状態を制御することができる。
【0031】
例えば、隅肉溶接を行う場合は、多くの溶着金属を必要とするので、デフォーカス比を大きくし、必要ならば前記フィラーワイヤ12への供給電力を増大させて溶接を行う。又、I型開先による突合わせ溶接を行う場合は、溶込み深さが必要とされるので、デフォーカス比(Df/f)=0又はデフォーカス比=0の近傍で溶接を行う等である。
【0032】
次に、前記レーザ6をデフォーカスした場合、光束中心部のエネルギ密度は高く、周辺部ではエネルギ密度が低くなる。従って、デフォーカスすると、光束径が拡大すると共にエネルギ密度分布の不均一化が進む。
【0033】
本発明者は斯かる現象に着目し、エネルギ密度とビード形状の相関を求めエネルギ密度をファクタとして溶接状態、或はビードの成形状態を制御することを発案した。
【0034】
図5は横軸にエネルギ密度、縦軸にビードの形状(ビードの幅、ビードの高さ)を示している。尚、エネルギ密度を評価する指標として、レーザ光束断面でのエネルギ密度平均値(Eave )/エネルギ密度最大値(Epeak)とした。例えば、(Eave )/(Epeak)=1は、最大値が無く完全なハット状となったものである。
【0035】
又、図5を得る溶接条件としては、入熱量が一定、及びレーザパワー、フィラーワイヤ12への通電量、該フィラーワイヤ12の供給量、溶接速度を一定とした。
【0036】
図5中、プロット▽で示される直線Cは、形成されるビードの幅を示し、プロット△で示される直線Dは、形成されるビードの高さを示している。
【0037】
直線Cは、(Eave )/(Epeak)の値の増加に対して比例的に増加し、直線Dは(Eave )/(Epeak)の値の増加に対して反比例的に減少している。
【0038】
尚、デフォーカスした場合の、(Eave )/(Epeak)の値、及びビードの幅、ビードの高さについては図2に示されるデータに基づき算出している。
【0039】
図5に示される様に、(Eave )/(Epeak)の値と、形成されるビードの幅、ビードの高さとはリニアの関係にあり、(Eave )/(Epeak)の値がビード形成を制御する為に適したファクターであることが分る。
【0040】
図5の(Eave )/(Epeak)と、ビードの幅、ビードの高さとの関係を利用すると、例えば、ビードの高さを1mmとした場合、ビードの幅は略5mmとなる等ビード形状の設定が簡単に行える。
【0041】
次に、上記レーザ溶接方法を上記したレーザ溶接装置1に適用する場合は、レーザパワー、溶接速度、前記フィラーワイヤ12への給電量等を所定の条件に固定した場合の図5で示す(Eave )/(Epeak)−ビード形状を求めておき、前記制御部10に設定入力する。
【0042】
溶接を実行する場合は、前記制御部10に溶接条件、例えば、隅肉溶接、突合わせ溶接、板厚等の条件を考慮し、図5に基づき(Eave )/(Epeak)を設定する。
【0043】
前記制御部10は設定された(Eave )/(Epeak)に対応する最適なデフォーカス比を演算又は選択し、演算又は選択されたデフォーカス比となる様に前記溶接トーチ2を上下に変位させデフォーカス比を設定し、溶接を実行する。
【0044】
又、図5に示される直線C、直線Dはレーザパワー、溶接速度、前記フィラーワイヤ12の供給速度を変更することで、勾配が変更される。従って、例えばレーザパワーをパラメータとしてレーザパワーを変更した際の直線Cn 、直線Dn を複数取得しておけば、(Eave )/(Epeak)に対応する多様なビード形状が得られ、最適な溶接条件が得られる。
【0045】
溶接が実行されるに於いて、前記フィラーワイヤ12はアークによって溶融されていないので、溶接状態は安定で高品質の溶接が可能である。
【0046】
尚、上記実施例では、集光位置変更手段として前記溶接トーチ2を上下させて焦点位置の変更を行ったが、集光位置変更手段は焦点長さを変更して焦点位置の変更を行う、光学的な集光位置変更手段であってもよい。
【0047】
又、上記実施例ではファイバレーザについて説明したが、LDレーザ、YAGレーザ、CO2 レーザ等を使用した場合にも実施可能であることは言う迄もない。
【符号の説明】
【0048】
1 レーザ溶接装置
2 溶接トーチ
3 フィラーワイヤ供給装置
4 光ファイバ
5 集光光学系
6 レーザ
7 溶接部材
8 ワイヤドラム
9 ワイヤ矯正機
10 制御部
11 ワイヤホルダ
12 フィラーワイヤ
13 電源部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接部位にレーザを照射すると共に加熱したフィラーワイヤを供給するレーザ溶接方法に於いて、前記レーザをデフォーカス状態で照射すると共に、レーザ光束断面でのエネルギ密度平均値/エネルギ密度最大値が所定の値となる様にデフォーカス状態を設定することを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項2】
前記エネルギ密度平均値/エネルギ密度最大値は、求められるビードの幅又は高さに基づき設定される請求項1のレーザ溶接方法。
【請求項3】
溶接部材にレーザを集光して照射する溶接トーチと、レーザの照射部位に加熱したフィラーワイヤを供給するフィラーワイヤ供給装置と、デフォーカス状態を変更する集光位置変更手段と、エネルギ密度平均値/エネルギ密度最大値が所定の値となる様に該集光位置変更手段のデフォーカス状態を制御する制御部とを具備することを特徴とするレーザ溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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