説明

レーザ溶接方法

【課題】鋼板同士を所定の厚み分の隙間が開いている状態のままレーザ溶接することにより、レーザ溶接時に分解ガスが発生せず、金属板の過熱により微量の蒸発ガスが発生したとしてもそのガスが開放されることによって、ブローホールが生ぜず、安定した良好な溶接ビードを得、溶接強度を向上させる。
【解決手段】少なくともいずれか一方の鋼板が亜鉛メッキ鋼板からなるワーク11,12を溶接するためのレーザ溶接方法であって、前記ワークに定められている溶接点以外の部位に所定の厚みの仮止め部材14を介在させて両鋼板を仮止めし、前記ワークに定められている溶接点を前記所定の厚み分の隙間が開いている状態でレーザ溶接を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接方法に係り、金属板の溶接において、板材間の隙間を一定値に保つと共に、押さえ治具を減らして溶接自由度を高めることができるレーザ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属板としての鋼板をレーザ溶接する場合、下記特許文献1に示されるように、接合される鋼板の間に有機物の薄いインサート材を介在させ、そのインサート材を介在させた状態でレーザ溶接を行っている。
【0003】
また、レーザ溶接は、下記特許文献2に示されるように、溶接ロボットの先端部に設けたスキャンヘッドを駆動して、位置決めされたワークの所定箇所にレーザ光を照射することによって行っている。
【特許文献1】特開平6−7978号公報
【特許文献2】特開平10−180472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、レーザ溶接が適切に行われるように、亜鉛メッキ鋼板間の隙間を一定以下に保つ必要があることから、押さえ治具を用いてワークをしっかりと押さえる必要がある。このため、押さえ治具が邪魔になってレーザ溶接の範囲が制限されるという問題がある。そこで、インサート材を介在させた状態でレーザ溶接を行えば、クランプ治具を減少させて溶接自由度を高めることができるが、0.2mm以上の厚みのインサート材を介在させてレーザ溶接をすると、金属板の加熱により蒸発した際に生じるガスやインサート材の熱分解ガスが開放されずに溶接ビードに入り込んでブローホールが生じ溶接強度が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような従来の問題を解消するために成されたものであり、金属板の溶接においてブローホールの発生を防止して溶接強度を確保することができるレーザ溶接方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明に係るレーザ溶接方法は、金属板からなるワークを溶接するためのレーザ溶接方法であって、前記ワークに定められている溶接点以外の部位に所定の厚みの仮止め部材を介在させて両鋼板を仮止めし、前記ワークに定められている溶接点を前記所定の厚み分の隙間が開いている状態でレーザ溶接を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
以上のように構成された本発明に係るレーザ溶接方法によれば、金属板からなるワークにおいて、鋼板同士を所定の厚み分の隙間が開いている状態のままレーザ溶接するようにしたので、レーザ溶接時に分解ガスが発生せず、金属板の加熱により微量の蒸発ガスが発生したとしてもそのガスが開放されることによって、ブローホールが生ぜず、安定した良好な溶接ビードを得ることができ、溶接強度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係るレーザ溶接方法を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0009】
図1および図2は本発明の実施形態1に係るレーザ溶接方法を説明するための図である。図1はワークの一部外観図を示し、図2(a)はレーザ溶接部分の平面図、図2(b)はレーザ溶接部分の断面図をそれぞれ示す。
【0010】
ワーク10は、本実施の形態では、少なくともいずれか一方の鋼板が亜鉛メッキ鋼板からなるものであり、本実施の形態では、上側鋼板11が亜鉛メッキ鋼板であり、下側鋼板12がSPC材である場合を例示する。上側鋼板11と下側鋼板12とをレーザ溶接する際は、ワーク10に定められている溶接点13a、13b、13c、13d、13e以外の下側鋼板12の部位に所定の厚みを持つ仮止め部材としての粘着テープ14a、14b、14c、14dを貼り付ける。なお、図では溶接点が5箇所しか記載されていないが、実際には上側鋼板11の手前側に位置する溶接点と同数の溶接点が上側鋼板11の奥側にも位置されている。また、図では粘着テープが4箇所しか貼り付けられていないが、実際には、すべての溶接点と溶接点の間に貼り付けられている。本実施の形態では、厚さ0.4mm以上のアクリル系準構造粘着テープまたは0.8〜1.0mmのエポキシ系構造粘着テープを用いている。
【0011】
以上のようにして粘着テープを貼り付けたら、上側鋼板11と下側鋼板12とをつき合わせて、貼り付けた粘着テープで両鋼板を仮止めする。この状態では、溶接点には両鋼板の間にほぼ粘着テープの厚み分の隙間が設けられている。このように、鋼板同士を仮止めすると、鋼板同士をしっかりと押さえつけるための治具を用いることなく溶接が行えるようになり、レーザ照射の障害となる部分がなくなって、レーザ溶接の自由度、速度が向上する。
【0012】
次に、両鋼板の間に隙間のある状態で、これらの溶接点13a、13b、13c、13d、13eをレーザ溶接する。レーザ溶接した後のレーザ溶接部分は図2(a)に示すように、溶接点13a、13b、13cのみが線状に溶接される。また、レーザ溶接部分の断面図は図2(b)に示すようになり、溶接点13a、13b、13c、13d、13eにおいて上側鋼板11と下側鋼板12とが接合される。レーザ溶接は上側鋼板11と下側鋼板12との間に隙間がある状態で行われるので、レーザ溶接時に蒸発する亜鉛蒸気が溶接点13a、13b、13c間に隙間15a、15b、15cから放出され、これによってブローホールの発生が抑えられ、安定した良好な溶接ビードを得ることができ、溶接品質を向上させることができる。また、その隙間は均一であるので、溶接ビードの状態も良好なものとなる。
【0013】
以上のようなレーザ溶接は、図3に示すようなレーザ溶接装置によって行われる。
【0014】
図3に示すように、レーザ溶接装置20は、ロボット22、加工ヘッド24、制御装置26によって構成される。ロボット22は、ワークの溶接点に離れた場所からレーザ光を照射して溶接を行うリモート溶接が可能なように設計されており、そのアーム端には加工ヘッド24が取り付けられる。加工ヘッド24は、溶接点に照射するレーザ光をスキャンするためのレーザ照射機構を有し、この機構によってレーザ光の焦点調整や、照射位置の調整を行う。制御装置26は、加工ヘッド24のレーザ照射機構の動作を制御したり、レーザ光を出力したり、ロボット22の動作を制御したりする。なお、制御装置26と加工ヘッド24は光ファイバ28によって接続され、制御装置26とロボット22は制御線30によって接続される。
【0015】
加工ヘッド24は図4に示すように構成されている。加工ヘッド24内にはレーザ照射機構として焦点可変機構40とスキャンミラー50とが設けられている。焦点可変機構40は光ファイバ28の照射端に対してレーザ光の照射方向前後に移動可能に支持され、拡散レンズ42、コンデンサレンズ44、集光レンズ46を備えている。光ファイバ28の照射端に対する焦点可変機構40の位置を調整することによってその照射方向の焦点距離が変化する。焦点可変機構40のレーザ光出力方向後段にはスキャンミラー50が揺動自在に取り付けられている。スキャンミラー50が揺動することによって、焦点可変機構40から出力されたレーザ光がワーク上をスキャンされる。加工ヘッド24の下部にはレーザ照射口52が開口され、スキャンミラー50で反射されたレーザ光が、レーザ照射口52を介してワークの溶接点に照射される。焦点可変機構40の位置調整およびスキャンミラー50の揺動は制御装置26によって制御される。
【0016】
図5は制御装置および加工ヘッドの制御系の構成を示すブロック図である。
【0017】
加工ヘッド24は焦点可変機構40およびスキャンミラー50を備えているが、焦点可変機構40はレンズ位置調整サーボモータ60によってその位置調整が行われ、スキャンミラー50はレーザスキャン用モータ62によってその揺動位置の調整が行われる。制御装置26は光学系制御部72を備えており、光学系制御部72はレンズ位置調整サーボモータ60とレーザスキャン用モータ62の動きを制御する。また、光学系制御部72は図示していないレーザ発生装置を備え、レーザ発生装置からのレーザ光を焦点可変機構40に光ファイバ28によって導く。制御装置26はさらにロボット制御部74を備え、ロボット制御部74によってロボット22の動作が制御される。さらに、制御装置26はレーザ照射位置検出部76を備え、レーザ照射位置検出部76はロボット制御部74からロボット22の各アームの位置情報を取得し、その位置情報に基づいてレーザ照射位置を把握する。取得した位置情報は光学系制御部で使用され、スキャンミラー50の揺動制御に使用される。
【0018】
以上のように構成されたレーザ溶接装置は図6の動作フローチャートに示すように動作する。この動作を図7の図面を参照しながら説明する。
【0019】
まず、レーザ溶接の開始指示を受けて、光学系制御部72はレンズ位置調整サーボモータ60を駆動させ、焦点可変機構40の光ファイバ端に対する位置を調整して、溶接点におけるレーザ光の焦点を調節する。この調整は手動で行っても良いし、光学系制御部72がワークごとに設定した焦点位置に関するデータを読み込んで自動で行っても良い(S1)。次に、ロボット制御部74は予め定めた一定の速度で加工ヘッド24を移動させる(S2)。このときの加工ヘッド24の位置、換言すれば、レーザ照射位置はレーザ照射位置検出部76によって検出されている(S3)。光学系制御部72は検出されているレーザ照射位置に応じてスキャンミラー50の位置(揺動角度)を調整する(S4)。すべての溶接点の溶接が終了するまでは、S2〜S4の処理が繰り返され(S5:NO)、すべての溶接点の溶接が終了したら(S5:YES)、レーザ溶接を終了する。なお、以上の実施の形態では、レーザ光の焦点を溶接作業の開始前に調整するだけで作業中はその調整を行っていないが、ワークが平坦ではなく、溶接点の位置によって高さが異なる場合には、検出されるレーザ照射位置に応じて焦点位置を変えるようにする。
【0020】
以上の一連の処理を図7で説明すると、レーザ溶接は次のようにして行われる。まず、ワークに溶接点13a〜13fが設定されているとすると、加工ヘッド24は図示矢印方向に休まずに一定の速度で動く。スキャンミラー50の揺動角度は、加工ヘッド24が動きながらでも正確にレーザ光が溶接点13aに当たるように、また、加工ヘッド24の移動方向とは反対方向にレーザ光が反射されるように、時々刻々と変化し、加工ヘッド24の移動速度よりも遅い速度で溶接が行われる。溶接点13aの溶接が終了すると、次の溶接点13bの開始位置に瞬時にレーザ光を照射させるため、スキャンミラー50の揺動角度を急激に、加工ヘッド24の移動方向に変える。そして、加工ヘッド24を一定の速度で動かしながら上記のようにスキャンミラー50の揺動角度を変え、レーザ光を溶接点13bに照射してレーザ溶接を行う。以上のような動作を溶接点13fまで行って溶接を完了する。
【0021】
以上の実施の形態では、金属板として亜鉛メッキ鋼板を例示して説明したが、これ以外の種類の鋼板であっても、本発明の適用が可能であるのはもちろんである。また、以上の実施の形態では、溶接点13a、13b、13cの間に粘着テープ14a、14b、14c、14dを貼り付ける場合を例示したが、図8に示すように、複数の溶接点13a、13b、13cを挟むように粘着テープ14a、14bを貼り付けても良い。
【0022】
さらに、図9に示すように、溶接点13a、13b、13c以外の部位全体を貼り付ける粘着テープ14であっても良い。図9に示したような形態の粘着テープを用いると、両鋼板間の気密、水密のためのシールを後工程で行う必要がなくなるので、製造効率を高めることができる。また、粘着テープ14を鋼板に連続的に貼り付ければよいので、その貼り付け作業の効率が向上すると共に、溶接後の疲労特性、強度、捩り剛性を高めることができ、溶接の補強効果を得ることができる。
【0023】
また、図10に示すように、鋼板をジョッグル構造とすることによって、溶接点13a、13b、13cの隙間よりも粘着テープを介在させる部分の隙間を大きくすることができ、厚みの厚い粘着テープ14a、14b、14c、14dの使用が可能になる。このため、溶接の補強効果を高めると共に、ハンドリング性が高く作業性が良好になる上、製造も容易なので比較的安価でコストも低くできる。
【0024】
また、以上の実施の形態では、仮止め部材として機能する接着手段に粘着テープを使用したが、ペースト状の接着剤を用いることも可能である。この場合、鋼板と鋼板の隙間を調整するための混合物を接着剤に含ませることが好ましく、混合物としては、例えばガラスやセラミックのような非弾性の小球を用いることが考えられる。
【0025】
接着剤を用いて溶接点の隙間を確保するためには、図11(a)、(b)に示すように、溶接点13a、13b、13c間の部位に小球が混合されているペースト状の接着剤を垂らし、両鋼板を所定の力で押さえつける。これによって、接着剤が溶接点13a、13b、13c以外の部位に、小球により所定の間隔が開いた隙間に介在されることになる。
【0026】
接着剤を使用する場合には、溶接作業を行う前に、プレキュア装置により仮硬化をさせ両鋼板間の隙間を調整する必要がある。なお、接着剤が熱硬化性であるときには、オーブンで本硬化をさせる必要がある。
【0027】
以上のように、本実施の形態によれば、レーザ溶接を行う部分に隙間が開くように両鋼板を仮止めし、両鋼板を隙間が開いている状態で溶接するようにしているので、ブローホールが生ぜず、安定した良好な溶接ビードを得ることができ、溶接強度を向上させることができる。また、両鋼板は溶接点以外の部位が粘着テープまたは接着剤によって接合されているので、溶接後の疲労特性、強度、捩り剛性を高めることができ、溶接の補強効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係るレーザ溶接方法は、亜鉛メッキが施されているワークの溶接に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ワークの一部外観図である。
【図2】(a)はレーザ溶接部分の平面図、(b)はレーザ溶接部分の断面図である。
【図3】レーザ溶接装置の概略構成を示す図である。
【図4】加工ヘッドの具体的な構成図である。
【図5】制御装置および加工ヘッドの制御系の構成を示すブロック図である。
【図6】レーザ溶接装置の動作フローチャートである。
【図7】レーザ溶接装置の動作説明に供する図である。
【図8】本発明の他の実施形態を示す図である。
【図9】本発明の他の実施形態を示す図である。
【図10】本発明の他の実施形態を示す図である。
【図11】本発明の他の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
10 ワーク、
11 上側鋼板、
12 下側鋼板、
13a、13b、13c、13d、13e 溶接点、
14a、14b、14c、14d 粘着テープ、
15a、15b、15c 隙間、
20 レーザ溶接装置、
22 ロボット、
24 加工ヘッド、
26 制御装置、
28 光ファイバ、
30 制御線、
40 焦点可変機構、
42 拡散レンズ、
44 コンデンサレンズ、
46 集光レンズ、
50 スキャンミラー、
52 レーザ照射口、
60 レンズ位置調整サーボモータ、
62 レーザスキャン用モータ、
72 光学系制御部、
74 ロボット制御部、
76 レーザ照射位置検出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板からなるワークを溶接するためのレーザ溶接方法であって、
前記ワークに定められている溶接点以外の部位に所定の厚みの仮止め部材を介在させて両鋼板を仮止めし、
前記ワークに定められている溶接点を前記所定の厚み分の隙間が開いている状態でレーザ溶接を行うことを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項2】
前記仮止め部材は、溶接点と溶接点との間に設けた接着手段であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項3】
前記仮止め部材は、溶接点以外の部位全体に設けた接着手段であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項4】
前記接着手段は、粘着テープまたは接着剤であることを特徴とする請求項2または3に記載のレーザ溶接方法。
【請求項5】
前記接着剤には厚みを調整するための混合物が含まれていることを特徴とする請求項4に記載のレーザ溶接方法。
【請求項6】
前記混合物は非弾性の小球であることを特徴とする請求項5に記載のレーザ溶接方法。
【請求項7】
前記レーザ溶接は、レーザ光を出力する加工ヘッドを一定の速度で動かしつつ、前記加工ヘッドが備えたスキャンミラーを動かすことによって、前記溶接点の溶接を行うようになっていることを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項8】
前記加工ヘッドはロボットのアーム端に取り付けられていることを特徴とする請求項7に記載のレーザ溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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