説明

レーザ溶接方法

【課題】接合品質の低下やばらつきの発生を抑制できるレーザ溶接方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るレーザ溶接方法は、金属端子17に撚り線11を溶接部19によって接合するものである。このレーザ溶接方法は、撚り線11が被覆体12によって被覆された電線13を用意し、電線13の被覆体12を剥離することにより撚り線11を露出させ、前記露出した撚り線11及び被覆体12の少なくとも一方をクランプ14a,14bによって保持し、前記露出した撚り線11を切断することにより撚り線11の露出長さを調整し、金属端子17の表面に対して電線13を傾斜させて配置しつつ前記露出した撚り線11を金属端子17に当接させ、前記露出した撚り線11にレーザを照射することにより金属端子17に撚り線11を接合することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子部材に電線、芯線、導線などの線を接続するためのレーザ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
端子部材と電線、芯線、導線などの線をレーザ溶接する場合、線と端子部材を適度の圧力がかかった状態で当接させ、線と端子部材にレーザ照射をするのが望ましい(例えば特許文献1参照)。従って、接合品質を一定に保つためには、前記適度の圧力などの条件をコントロールする必要がある。
【0003】
このような課題を解決する方法の一つとして以下の方法が提案されている。
図6は、従来のレーザ溶接方法を説明するための平面図である。図7は、図6に示すB部を拡大した図である。
【0004】
図6及び図7に示すように、絶縁材から作られたコネクタ1には、同軸極細線の芯線と接合するための複数の金属端子2が設けられている。同軸極細線3の中心導体の芯線4は、同軸極細線3の端部において、同軸線を形成する外部導体7と絶縁層(図示していない)及び絶縁カバー(図示していない)の被覆を所定長だけストリップして剥がされており、金属製のグランドバー5は同軸極細線3をコネクタ1に取り付けるために備えられたものである。
【0005】
ばらけ防止部6は、芯線がばらばらにならないように固定するものであって、芯線に樹脂又は紙製のフィルムが貼り付けられたものである。外部導体7は同軸極細線3の同軸を形成する金属のシールド層であり、グランドバー5と電気的に接続されている。また、この外部導体7と中心導体の芯線4との間はフッ素系樹脂からなる絶縁層を持ち、外部導体7の外側はフッ素系樹脂からなる絶縁カバーで被覆されている。
【0006】
同軸極細線3の芯線4がばらけ防止部6により固定されたまま、同軸極細線3の芯線4が金属端子2上にくるように当接され、金属端子2と密着して位置設定される。図6に示す点線で囲んだBの部分は、ばらけ防止部6で固定された芯線4と金属端子2との当接部分の一部を示している(図7参照)。芯線4はコネクタ1の金属端子2の長手方向のほぼ中心に当接される。
【0007】
このように同軸極細線3の芯線4はコネクタ1の金属端子2に当接され、図7に示すように金属端子2上の接合部8にレーザ10が照射されると、芯線4とコネクタ1の金属端子2は微細溶接により接合される。そして、この後に、不要となるばらけ防止部6がレーザ照射により切断される。図6において、二点鎖線で囲んだ部分9はレーザによる切断部を示し、同軸極細線3はレーザによる切断ステップにより切断処理さる。また図6の点線で囲んだBの部分は、レーザによる接合、切断により分離される芯線4の一部を示す(例えば特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平2−213075号公報
【特許文献2】特開2006−120364号公報(0031〜0034段落、図1〜6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、端子部材に電線、芯線、導線などの線をレーザ溶接によって接合する場合、レーザを照射する領域における前記線と端子部材を適度の圧力がかかった状態で当接させ、前記領域における線にレーザを照射することが望ましい。
上記従来のレーザ溶接方法では、ばらけ防止部6を使ったとしても、線を水平に配置しているため、線が局部的に湾曲していた場合、端子部材と線との間にわずかな隙間が発生することがある。その結果、線と端子部材の溶接接合がなされない箇所が生じたり、溶接の深さにばらつきが生ずるなど、接合品質の低下や接合品質のばらつきの発生の問題があった。
【0010】
本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、接合品質の低下やばらつきの発生を抑制できるレーザ溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係るレーザ溶接方法は、端子部材に線を溶接によって接合するレーザ溶接方法において、
前記線をクランプによって保持しながら、前記端子部材の表面に対して前記線を傾斜させて配置しつつ前記線を前記端子部材に当接させ、
前記線にレーザを照射することにより前記端子部材に前記線を接合することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るレーザ溶接方法において、前記線を傾斜させる角度は5°〜60°であることが好ましい。
【0013】
本発明に係るレーザ溶接方法は、端子部材に線を溶接によって接合するレーザ溶接方法において、
前記線が被覆体によって被覆された電線を用意し、前記電線の前記被覆体を剥離することにより前記線を露出させ、
前記露出した線及び前記被覆体の少なくとも一方をクランプによって保持し、
前記露出した線を切断することにより前記線の露出長さを調整し、
前記端子部材の表面に対して前記電線を傾斜させて配置しつつ前記露出した線を前記端子部材に当接させ、
前記露出した線にレーザを照射することにより前記端子部材に前記線を接合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、接合品質の低下やばらつきの発生を抑制することができる。また、一本の線を端子部材に接続する場合でも確実に溶接接合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図5は、本発明の実施の形態によるレーザ溶接方法を説明する図である。
図1(A),(B)は、撚り線の先端の被覆体を剥離し、その剥離によって露出した撚り線をクランプによって保持しつつ切断する工程を示す図である。図2は、図1に示す工程によって各々の先端の被覆体が剥離された複数本の電線をコネクタの金属端子上に配置した状態を示す平面図である。図3は、図2に示す状態の一部であって、一本の電線が一つの金属端子上に配置された状態を示す斜視図である。図4(A)は図3に示す状態の平面図であり、図4(B)は図3に示す状態の側面図であり、図4(C)は図3に示す状態の正面図である。図5は、図3及び図4に示す撚り線にレーザ照射を行うことで、撚り線と金属端子が溶接によって接続された状態を示す側面図である。
【0016】
まず、図1(A)に示すように、撚り線(芯線)11が被覆体12によって被覆された電線13を用意し、この電線13の被覆体12を剥離することにより撚り線11を露出させる。尚、本実施の形態では、撚り線が被覆体によって被覆された電線を用いているが、この電線以外の線を用いることも可能であり、例えば単芯線、多芯線、エナメル線などの絶縁被覆線、同軸線、裸電線を用いることも可能である。
【0017】
次いで、図1(B)に示すように、この電線13をクランプ(治具)14a,14bによって保持する。このクランプ14a,14bは、露出した撚り線11と被覆体12の両方を挟んで保持するようになっており、保持した際のクランプ14a,14bにおける撚り線11及び被覆体12それぞれとの接触面が撚り線11及び被覆体12それぞれの形状に沿うように形成されている(図3及び図4参照)。
【0018】
次いで、クランプ14a,14bで挟んで撚り線11を固定した状態で、点線で示した切断ライン15から撚り線11を切断する。これにより、撚り線11の露出長さを調整する。尚、図1では、一本の電線13をクランプ14a,14bで保持する構成を示しているが、これに限らず、複数本の電線それぞれをクランプで保持する構成を採用することもできる。このように複数本の電線をクランプ14a,14bで保持することにより、電線相互間の間隔を一定に保つことができる。また、被覆体12を剥離した際に撚り線11に加えられた応力によって撚り線11が広がることを、撚り線11と被覆体12の両方をクランプ14a,14bで挟むことにより抑制することができる。また、撚り線11を切断した際に撚り線11が変形しても、撚り線11の相互間の間隔のズレを小さく抑えることができる。また、クランプ14a,14bから撚り線11の先端までの距離を全て一定にすることができ、それにより全ての撚り線11を一定の圧力(適度な圧力)で金属端子の表面に当接させることができる。
【0019】
この後、図2〜図4に示すように、複数本の電線13をクランプ14a,14bで保持した状態で、複数本の撚り線11それぞれの先端をコネクタ16の金属端子17上に当接させつつ、金属端子17の表面に対して電線13を傾斜させて配置する。この際、電線13を、被覆体から露出した撚り線11が少し撓む程度の位置に配置することが好ましい。また、金属端子17の表面に対する電線13の傾斜角度18は、5°〜60°であることが好ましく、より好ましくは15°〜45°であり、さらに好ましくは25°〜30°である。尚、ここで重要なのは、複数の撚り線11それぞれと複数の金属端子17それぞれが全て確実に接触していることである。電線をクランプ14a,14bで保持していること、上記のような傾斜角度18にすることにより、全ての金属端子17と全ての撚り線11を確実に接触させることができる。
【0020】
次に、図4(B)に示すように、金属端子17上に配置した撚り線11にレーザを照射する。これにより、図5に示すように撚り線11を溶接部19によって金属端子17に接合することができる。この際のレーザ照射条件の一例を以下に示す。
【0021】
撚り線 : 導線径φ0.8mmのすずメッキ銅線
金属端子 : 0.2mm厚銅合金端子(金メッキつき)
レーザエネルギー : 2J
レーザ照射径 : φ300μm
使用レーザ : YAGレーザ
【0022】
上記実施の形態によれば、電線13をクランプ14a,14bで保持し、撚り線11の先端を金属端子17上に当接させつつ、金属端子17の表面に対して電線13を傾斜させて配置することにより、金属端子17と撚り線11を確実に接触させることができる。
【0023】
また、電線13は、撚り線11を切断する工程や被覆体12を剥離する工程などの影響で撚り線11の先端の状態が不安定になり易く、特に電線径が小さくなるとその影響が顕著になる。これに対し、本実施の形態では、電線13をクランプ14a,14bによって挟んで保持するため、撚り線11の先端の状態を安定化させることができる。
【0024】
また、端子部材に電線をレーザ溶接する際に、端子部材と電線間の隙間が大きいと、接合品質の低下やばらつきが生じるが、本実施の形態では、上述したように金属端子と撚り線を確実に接触させるため、接合品質の低下やばらつきの発生を抑制することができる。つまり、クランプ14a,14bから撚り線11の先端までの距離を全て一定にすることにより、全ての撚り線11を一定の圧力(適度な圧力)で金属端子の表面に当接させ、この状態で撚り線にレーザを照射することができる。その結果、撚り線と金属端子との接合品質の低下やばらつきの発生を抑制できる。
【0025】
また、本実施の形態では、複数の電線13をクランプ14a,14bで保持しているため、撚り線11の相互間隔を一定に保つことができ、その結果、金属端子17上から撚り線11がずれてしまうことを抑制できる。
これに対し、前述した図6及び図7に示す従来のレーザ溶接方法は、芯線4がばらばらにならないように固定するばらけ防止部6を取り付けた状態で、金属端子2と芯線4との接合部8にレーザ10を照射することにより、芯線4と金属端子2を溶接によって接合するものである。このため、従来のレーザ溶接方法でも、ばらけ防止部6によって芯線4の相互間隔を一定に保つことができ、金属端子2上から芯線4がずれてばらけることを抑制できると考えられる。しかし、従来のレーザ溶接方法では、レーザ溶接前には芯線4にばらけ防止部6を取り付ける工程が必要となり、レーザ溶接後には芯線4からばらけ防止部6を除去する工程が必要となり、これらの工程は、レーザ溶接のコストを高める原因になっている。
【0026】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、撚り線11と被覆体12の両方を挟むクランプ14a,14bを用いているが、これに限られず、撚り線のみを挟むクランプを用いても良いし、被覆体のみを挟むクランプを用いても良い。また、金属端子17上に電線13を配置する際の傾斜角度18、電線の位置、被覆体12を剥離する長さ等の具体的な条件は、撚り線の弾性変形の範囲等によって適切な条件に設定すれば良い。
【0027】
また、上記実施の形態では、クランプ14aとクランプ14bの両方において撚り線及び被覆体それぞれとの接触面を撚り線及び被覆体それぞれに沿うように形成しているが、クランプ14a及びクランプ14bの一方において前記接触面を撚り線及び被覆体それぞれに沿うように形成することも可能である。
【0028】
また、上記実施の形態では、撚り線11をコネクタ16の金属端子17に接続しているが、これに限られず、コネクタ以外の端子部材(例えばプリント基板のランド等)に撚り線を接続することも可能である。
【0029】
また、上記実施の形態では、YAGレーザを用いているが、これに限定されるものではなく、YAGレーザ以外の他のレーザ、例えば半導体レーザ、ファイバーレーザなどを用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(A),(B)は、撚り線の先端の被覆体を剥離し、その剥離によって露出した撚り線をクランプによって保持しつつ切断する工程を示す図である。
【図2】図1に示す工程によって各々の先端の被覆体が剥離された複数本の電線をコネクタの金属端子上に配置した状態を示す平面図である。
【図3】図2に示す状態の一部であって、一本の電線が一つの金属端子上に配置された状態を示す斜視図である。
【図4】(A)は図3に示す状態の平面図であり、(B)は図3に示す状態の側面図であり、(C)は図3に示す状態の正面図である。
【図5】図3及び図4に示す撚り線にレーザ照射を行うことで、撚り線と金属端子が溶接によって接続された状態を示す側面図である。
【図6】従来のレーザ溶接方法を説明するための平面図である。
【図7】図6に示すB部を拡大した図である。
【符号の説明】
【0031】
1 コネクタ
2 金属端子
3 同軸極細線
4 芯線
5 グランドバー
6 ばらけ防止部
7 外部導体
8 接合部
9 二点鎖線で囲んだ部分
10 レーザ
11 撚り線
12 被覆体
13 電線
14a,14b クランプ
15 切断ライン
16 コネクタ
17 金属端子
18 傾斜角度
19 溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子部材に線を溶接によって接合するレーザ溶接方法において、
前記線をクランプによって保持しながら、前記端子部材の表面に対して前記線を傾斜させて配置しつつ前記線を前記端子部材に当接させ、
前記線にレーザを照射することにより前記端子部材に前記線を接合することを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項2】
請求項1において、前記線を傾斜させる角度は5°〜60°であることを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項3】
端子部材に線を溶接によって接合するレーザ溶接方法において、
前記線が被覆体によって被覆された電線を用意し、前記電線の前記被覆体を剥離することにより前記線を露出させ、
前記露出した線及び前記被覆体の少なくとも一方をクランプによって保持し、
前記露出した線を切断することにより前記線の露出長さを調整し、
前記端子部材の表面に対して前記電線を傾斜させて配置しつつ前記露出した線を前記端子部材に当接させ、
前記露出した線にレーザを照射することにより前記端子部材に前記線を接合することを特徴とするレーザ溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−202158(P2009−202158A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161215(P2006−161215)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(303006916)フェトン株式会社 (13)
【Fターム(参考)】