説明

レーザ溶接装置およびレーザ溶接方法

【課題】大きい板隙間であっても接合強度が低下することなく溶接できるレーザ溶接装置およびレーザ溶接方法を提供する。
【解決手段】レーザ発振器11からレーザを発振し、レーザを集光レンズ14によって集束し、積層した上板101と下板102とに照射して、積層した上板101と下板102とを溶接するレーザ溶接装置10であって、レーザを上板101に照射し、上板101に照射したレーザを走査しながら、上板101に溶融池Yを形成し、溶融池Yにレーザを照射して、積層した上板101と下板102とにおいて溶融池Yを形成することによって、積層した上板101と下板102とを溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接装置およびレーザ溶接方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接は、レーザ発振器から発振したレーザを、集光レンズによって集束し、積層した鋼板に照射して溶接する溶接方法である。しかし、レーザ溶接では、積層する鋼板の板隙間が大きい場合には、接合強度が低下する。例えば、板隙間が0.3mm以上存在する場合には、溶接ビード表面が落ち込んで接合強度が低下することがある。また、板隙間が0.5mmより大きい場合には、穴あきが発生して接合強度が低下することがある。
【0003】
自動車車体などの3次元形状の溶接では、板隙間を例えば0.3mm以下に適正に管理することは困難である。一方、自動車車体等を製造する際には、運用上では1mm程度の板隙間まで許容されている。そのため、1mm程度の板隙間を、接合強度が低下することなく溶接することが課題となっている。現在、大きい板隙間のレーザ溶接の接合強度の低下対策として、いくつかの対策がなされている。
【0004】
特許文献1は、シムローラを用いて、板隙間を管理して溶接する方法を開示している。しかし、自動車車体等を溶接する場合では、2枚または3枚の鋼板を溶接する場合もある。そのため、特許文献1が開示する溶接方法では、シム交換等を高頻度で実施する必要があり、生産性が低下する。
【0005】
特許文献2では、クランプ装置を用いて、溶接部位と互い違いにレーザ仮付け溶接を実施する方法を開示している。しかし、特許文献2が開示する溶接方法では、自動車車体等を溶接する場合には、専用の大型クランプ装置が必要となる。また、特許文献2が開示する溶接方法では、亜鉛メッキ鋼板を溶接する場合には、レーザ仮付け溶接によってメッキ蒸気吹きによる溶接不良が発生する。
【0006】
特許文献3では、1回目のレーザ照射をデフォーカス状態で実施し、上板を溶融させて下板側に突設させて隙間を低減し、2回目のレーザ照射によって貫通した溶接を実施している。しかし、特許文献3が開示する溶接方法では、1回目のレーザ照射が低エネルギーであるため、上板をキーホール溶融ではなく伝熱溶融させることになる。そのため、加工時間が長くなり、生産性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−025219号公報
【特許文献2】特開2005−131707号公報
【特許文献3】特開2010−023047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は、大きい板隙間であっても接合強度が低下することなく溶接できるレーザ溶接装置およびレーザ溶接方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、請求項1においては、レーザ発振器からレーザを発振し、前記レーザを集光レンズによって集束し、積層した上板と下板とに照射して、前記積層した上板と下板とを溶接するレーザ溶接装置であって、前記レーザを前記上板に照射し、前記上板に照射したレーザを走査しながら、前記上板に溶融池を形成し、前記溶融池に前記レーザを照射して、前記積層した上板と下板とにおいて溶融池を形成することによって、前記積層した上板と下板とを溶接するものである。
【0011】
請求項2においては、レーザ発振器からレーザを発振し、前記レーザを集光レンズによって集束し、積層した上板と下板とに照射して、前記積層した上板と下板とを溶接するレーザ溶接方法であって、前記レーザを前記上板に照射し、前記上板に照射したレーザを走査しながら、前記上板に溶融池を形成し、前記溶融池に前記レーザを照射して、前記積層した上板と下板とにおいて溶融池を形成することによって、前記積層した上板と下板とを溶接するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のレーザ溶接装置およびレーザ溶接方法によれば、大きい板隙間であっても接合強度が低下することなく溶接できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るレーザ溶接装置の構成を示した構成図。
【図2】本発明の実施形態の溶接方法の流れを示すフロー図。
【図3】本発明の実施形態の溶接方法の作用を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を用いて、レーザ溶接装置10について説明する。
レーザ溶接装置10は、本発明のレーザ溶接装置の実施形態である。レーザ溶接装置10は、レーザ溶接を行う装置である。レーザ溶接とは、レーザ光を熱源として金属に集光した状態で照射し、金属を局部的に溶融・凝固させることによって接合する溶接方法である。
【0015】
以下の実施形態では、レーザ溶接装置10を用いるレーザ溶接によって、自動車車体を構成するため、積層した2枚の鋼板である上板101と下板102とを溶接するものとする。また、積層した上板101と下板102とは、板隙間が1mmであるものとする。
【0016】
レーザ溶接装置10の構成について説明する。
レーザ溶接装置10は、レーザ発振器11と、光路12と、レーザ照射ヘッド13と、集光レンズ14と、を具備している。レーザ発振器11は、溶接用熱源としてCO2レーザまたはYAGレーザを発振するものである。光路12は、発振器で発振されたレーザをレーザ照射ヘッド13へ導くものである。光路12は、ミラーによってレーザを折り返して伝送する、あるいは、光ファイバーによってレーザを自在に湾曲して伝送するものである。
【0017】
レーザ照射ヘッド13は、光路12によって伝送されたレーザを上板101の上方から上板101および下板102に照射するものである。レーザ照射ヘッド13は、図示せぬロボットによって、上板101の上方まで移動される。集光レンズ14は、光路12によって伝送されたレーザを適切なサイズへ集光して照射し、被溶接物上で走査させるものである。集光レンズ14は、レーザ照射ヘッド13の内部に収納されている。
【0018】
レーザ溶接装置10の作用について説明する。
レーザ溶接装置10は、レーザ発振器11からレーザを発振し、レーザ発振器11から発振されたレーザを集光レンズ14によって集束し、集光レンズ14によって集束されたレーザを積層した上板101と下板102とに照射し、上板101と下板102とを溶接する。
【0019】
図2および図3を用いて、レーザ溶接方法S100について説明する。
レーザ溶接方法S100は、本発明のレーザ溶接装置を用いたレーザ溶接方法の実施形態である。なお、図2の各ステップは、図3の各ステップに対応している。また、図3(B)は、図3(A)のAA断面図を示している。
【0020】
図2を用いて、レーザ溶接方法S100の流れについて説明する。
ステップS110において、レーザ溶接装置10は、積層した上板101および下板102の上方からレーザを照射する。このとき、レーザ溶接装置10は、レーザの照射軌跡によって平面視にて円形状が形成されるように、照射したレーザを走査する。なお、本実施形態では、レーザの照射軌跡は円形状に形成される構成としたが、四角形状、楕円形状等、他の形状であっても良い。
【0021】
また、レーザ溶接装置10は、上板101のみにおいて溶融池Yが形成されるように、照射したレーザを上板101の広い範囲で走査する。ここで、溶融池Yとは、溶接の際にアーク熱、その他の熱等によって上板101または下板102が溶融してできた溶融金属のたまりのことをいう。このとき、下板102までの溶け落ちを抑制しつつ照射したレーザを上板101の広い範囲で走査する。ここで、溶け落ちとは、上板101の溶融金属が下板102まで溶け落ちてしまうことをいう。
【0022】
言い換えれば、ステップS110では、レーザ照射の溶接条件を、上板101の狭い範囲で照射していれば、下板102まで溶け落ちが発生する程度としている。ここで、溶接条件とは、レーザ出力、レーザ操作速度およびレーザ集光径のことをいう。しかし、ステップS110では、照射したレーザを上板101の広い範囲で走査するため、下板102への溶け落ちを抑制している。
【0023】
ステップS120において、レーザ溶接装置10は、積層した上板101および下板102の上方からレーザを照射する。このとき、レーザ溶接装置10は、上板101のみに形成された溶融池Yにレーザを照射する。より詳しくは、レーザ溶接装置10は、平面視にて円形状に形成される溶融池Yの中心部にレーザを照射する。さらに、ステップS120では、ステップS110での溶接条件よりも強いエネルギーの溶接条件によってレーザを照射する。
【0024】
図3を用いて、レーザ溶接方法S100の作用について説明する。
ステップS110においては、レーザ溶接装置10によって、積層した上板101および下板102に上方からレーザが照射される。このとき、照射したレーザが上板101の広い範囲で走査されるため、側面断面視にて上板101の全体と下板102の一部とが溶融する。そして、側面断面視にて全体が溶融する上板101では、溶融池Yが形成される。このとき、上板101では、キーホール溶融によって溶融されている。ここで、キーホール溶融とは、溶融池Yの先端の部分で熱源が母材の裏側へ貫通して溶融することをいう。
【0025】
ステップS120においては、レーザ溶接装置10によって、積層した上板101および下板102に上方からレーザが照射される。このとき、溶融池Yの狭い範囲にレーザが照射されるため、側面断面視にて上板101の溶融池Yの全体と下板102の溶融池Yの全体とが溶融する。そして、側面断面視にて上板101の全体と下板102の全体とでは、溶融池Yが形成される。一体となってまとまった溶融池Yは、穴あけまたは分離ビードのない接合部となる。
【0026】
レーザ溶接方法S100の効果について説明する。
従来、自動車車体などの3次元形状の溶接では、板隙間を例えば0.3mm以下に適正に管理することは困難であった。一方、自動車車体等を製造する際には、運用上では1mm程度の板隙間まで許容されていた。そのため、1mm程度の板隙間を、接合強度が低下することなく溶接することが課題となっていた。レーザ溶接方法S100によれば、板隙間が1mmである上板101と下板102とを接合強度が低下することなく溶接できる。
【0027】
また、従来、1回目のレーザ照射をデフォーカス状態で実施し、上板を溶融させて下板側に突設させて隙間を低減し、2回目のレーザ照射によって貫通した溶接が実施されていた。しかし、この溶接方法では、1回目のレーザ照射が低エネルギーであるため、上板をキーホール溶融ではなく伝熱溶融させていた。そのため、加工時間が長くなり、生産性が低下していた。レーザ溶接方法S100によれば、1回目のレーザ照射(ステップS110)から上板101をキーホール溶融させるため、加工時間が短くなり、生産性が向上する。
【0028】
本実施形態では、積層した上板101および下板102(2枚の鋼板)の上方からレーザを照射する構成としたが、本発明はこれに限定されない。積層した3枚以上の鋼板の上方からレーザを照射する構成としても、同様の効果が得られる。ただし、最下部の鋼板まで溶融させる強いエネルギーの溶接条件によってレーザを照射する必要がある。
【0029】
本実施形態では、鋼板を被溶接物とする構成としたが、本発明はこれに限定されない。例えばアルミ板を被溶接物とする構成としても、同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0030】
10 レーザ溶接装置
11 レーザ発振器
12 光路
13 レーザ照射ヘッド
14 集光レンズ
101 上板
102 下板
Y 溶融池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器からレーザを発振し、
前記レーザを集光レンズによって集束し、積層した上板と下板とに照射して、
前記積層した上板と下板とを溶接するレーザ溶接装置であって、
前記レーザを前記上板に照射し、前記上板に照射したレーザを走査しながら、前記上板に溶融池を形成し、
前記溶融池に前記レーザを照射して、前記積層した上板と下板とにおいて溶融池を形成することによって、前記積層した上板と下板とを溶接する、
レーザ溶接装置。
【請求項2】
レーザ発振器からレーザを発振し、
前記レーザを集光レンズによって集束し、積層した上板と下板とに照射して、
前記積層した上板と下板とを溶接するレーザ溶接方法であって、
前記レーザを前記上板に照射し、前記上板に照射したレーザを走査しながら、前記上板に溶融池を形成し、
前記溶融池に前記レーザを照射して、前記積層した上板と下板とにおいて溶融池を形成することによって、前記積層した上板と下板とを溶接する、
レーザ溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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