説明

レーザ溶着部の構造及びレーザ溶着方法

【課題】第1の部材の突壁の先端面に対して第2の部材を、亀裂が生じることなく堅固に溶着することができるようにすること。
【解決手段】シリンダヘッドカバー12に設けられた突壁13の先端面13aに対してバッフルプレート14を、突壁13の先端面13aと対応する位置よりも外側の位置において加圧することにより接合させる。この状態で、バッフルプレート14を透過して突壁13の先端面13aにレーザ光Lを照射することにより、突壁13の先端面13aにバッフルプレート14を溶着する。バッフルプレート14における突壁13の先端面13aと対応する接合位置とその外側の加圧位置との間の部分には、他の部分よりも撓みやすい凹部または段差部よりなる撓曲部23を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばエンジンのシリンダヘッドカバー内にバッフルプレートをレーザ溶着する場合等に適用されるレーザ溶着部の構造及びレーザ溶着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のレーザ溶着方法として、特許文献1に記載されている技術がある。この特許文献1の技術は、相互に溶着される2つの合成樹脂材の一方を透過するレーザ光によって両合成樹脂材を溶着させるものである。そして、一方の合成樹脂材に突条を設けて、両合成樹脂材間の初期面圧を向上させ、これによって溶着部にボイド等の欠陥が生じないようにすることを意図している。しかしながら、レーザ溶着方法においては、溶着時に両合成樹脂材に対して密着方向への加圧力を付与する必要があるが、加圧力を付与する加圧部材がレーザ光の照射の邪魔にならないように、その加圧部材をレーザ光照射領域の外側に配置する必要がある。このため、従来は以下に述べるような問題点が存在する。
【0003】
すなわち、図7(a)〜(c)は、合成樹脂製のシリンダヘッドカバー31と、その内側に配置される同じく合成樹脂製のバッフルプレート33との溶着方法を示している。そして、シリンダヘッドカバー31の内側面に突壁32が形成され、この突壁32の先端面32aにバッフルプレート33が溶着されている。バッフルプレート33と突壁32とシリンダヘッドカバー31の頂壁との間には、ブローバイガスから潤滑オイルを分離するためのオイルセパレート室等が区画形成されている。
【0004】
この従来構造の溶着時には、図7(a)(b)に示すように、シリンダヘッドカバー31が上下を逆にした状態で治具34上に載置され、その突壁32の先端面32aにバッフルプレート33が配置される。バッフルプレート33は、溶着が適切に行われるように加圧部材35により加圧されるが、このとき、加圧部材35はレーザ光の照射領域を避けて突壁32の先端面32aと対応する位置よりも外側の位置を加圧する。このため、バッフルプレート33は突壁32の先端面32aに圧接されるが、加圧位置が前記先端面32aの外側であるため、バッフルプレート33は突壁32の先端面32aの角部を起点として撓曲される。そして、この状態で、バッフルプレート33を透過して突壁32の先端面32aにレーザ光Lが照射されることにより、突壁32の先端面32aにバッフルプレート33が溶着される。
【特許文献1】特開2005−288934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、レーザ溶着に際してバッフルプレート33が突壁32の先端面32aの角部の位置から撓曲される。このため、溶着終了にともない、加圧部材35による加圧が解除されて、図7(b)に示すように、バッフルプレート33が撓曲状態から平板状態に復元されたとき、突壁32の先端面32aとバッフルプレート33との溶着部36には剥離方向の力が作用する。このため、図7(c)に示すように、溶着部36の両端縁に亀裂Kが発生して、溶着強度が低下するおそれがあった。そして、このような亀裂Kが発生した場合、場合によっては2カ所の亀裂Kが連続してしまい、両端縁間に跨る細隙が形成されることもある。このように細隙が形成された場合は、溶着強度がさらに低下するばかりでなく、例えば図7(a)〜(c)において、突壁32を介した左右の空間の間に圧力差が必要であっても、その圧力差を保つことができず、構造物としての本来の機能が損なわれるおそれもあった。
【0006】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、第1の部材の突壁の先端面に対して第2の部材を、亀裂が生じることなく堅固に溶着することができるレーザ溶着部の構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明においては、第1の部材に設けられた突壁の先端面に対して、板状をなすとともに、レーザ光透過性を有する第2の部材をレーザ溶着させたレーザ溶着部の構造において、前記第2の部材における突壁の先端面対する接合位置から外側に離隔した位置には、他の部分よりも撓みやすい撓曲部を設けたことを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明においては、前記撓曲部は、薄肉部であることを特徴とする。
請求項3の発明においては、前記撓曲部は、段差部であることを特徴とする。
請求項4の発明においては、前記撓曲部は、応力集中抑制構造を有することを特徴とする。
【0009】
請求項5の発明においては、第1の部材がシリンダヘッドカバー、第2の部材がそのシリンダヘッドカバーの内側に固定されるバッフルプレートであって、それらの両部材の間にブローバイガスから潤滑オイルを分離するためのオイルセパレート室が形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項6の発明においては、請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載のレーザ溶着部の構造において、第1の部材に設けられた突壁の先端面に対して、第2の部材における撓曲部間の位置を接合した状態で、前記撓曲部よりも外側の位置において第2の部材を前記接合方向に加圧し、この状態で第2の部材を透過して突壁の先端面にレーザ光を照射することにより、突壁の先端面に第2の部材を溶着させることを特徴とする。なお、ここで、撓曲部よりも外側の位置とは、撓曲部の外側の位置だけではなく、撓曲部の位置も含むものとする。
【0011】
従って、この発明においては、レーザ溶着に際して第2部材が第1の部材の突壁の先端面に対する接合位置の外側の加圧位置において加圧されたとき、第2の部材が接合位置から離隔した撓曲部を中心に撓曲される。このため、レーザ溶着後に加圧が解除されて、第2の部材が撓曲状態から平板状態に復元される際に、突壁の先端面と第2の部材との間の溶着部に剥離方向への力が作用することはない。よって、溶着部に亀裂が生じるおそれを防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、この発明によれば、第1の部材の突壁の先端面に対して第2の部材を、亀裂が生じることなく堅固に溶着することができるという効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下に、この発明の第1実施形態を、図1〜図3に基づいて説明する。
図1に示すように、この第1実施形態においては、エンジンのシリンダブロック(図示しない)上に固定されたシリンダヘッド11上に、合成樹脂製の第1の部材としてのシリンダヘッドカバー12が装着されている。シリンダヘッドカバー12の頂壁12aの内面には、複数(実施形態では2条)の突壁13が突出形成されている。突壁13の先端面13aには、板状をなす合成樹脂製の第2の部材としてのバッフルプレート14が溶着されている。このバッフルプレート14は、レーザ光の透過性を有する。そして、バッフルプレート14,突壁13及びシリンダヘッドカバー12の頂壁12aの間には、ブローバイガスから潤滑オイルを分離するためのオイルセパレート室15が形成されている。なお、このオイルセパレート室15内には、図示しないオイル分離のための構成を備えている。
【0014】
バッフルプレート14における突壁13の先端面13aと対応する接合位置とその両外側の加圧される位置との間において、前記接合位置から所定距離離隔した部分には、他の部分よりも撓みやすいように凹部よりなる一対の撓曲部23が形成されている。従って、撓曲部23は薄肉部により構成されている。前記撓曲部23の内コーナ23aは、円弧状に形成されて、応力集中抑制構造となっている。ちなみに、各部の寸法は、例えば以下のような値が設定される。すなわち、前記突壁13の厚さT1は1〜3mm、バッフルプレート14の厚さT4は(T1+(0.3〜5))mmである。このような場合、凹部よりなる各撓曲部23の幅T2が0.5〜1.5mm、両撓曲部23の内側面間の間隔T3が(T1+0.3)〜(T1+1)mmとなるように設定される。また、撓曲部23を形成した部分,すなわち薄肉部におけるバッフルプレート14の厚さT5が(T3×(0.7〜0.9))mmとなるように設定される。
【0015】
図1に示すように、前記バッフルプレート14の下面には、合成樹脂製の溝部材16が溶着されている。溝部材16の幅方向の中央部には、溝部材16の長手方向に延びる凹溝16aが形成されている。凹溝16aの内面とバッフルプレート14の下面との間には、潤滑オイルの流路17が形成されている。オイルセパレート室15と流路17とを連通するように、バッフルプレート14には連通孔18が形成されている。流路17から下方に開口するように、凹溝16aの底壁には複数の供給孔19が形成されている。そして、オイルセパレート室15内でブローバイガスから分離された潤滑オイルが、連通孔18を介して流路17内に流下された後、各供給孔19からシリンダヘッド11内の図示しないカムシャフト等に向かって供給される。なお、前記シリンダヘッドカバー12,バッフルプレート14及び溝部材16は同材質により構成されている。
【0016】
次に、レーザ溶着方法について説明する。
さて、レーザ溶着時には、図2(a)に示すように、シリンダヘッドカバー12が上下を逆にした状態で治具21上に載置される。そして、シリンダヘッドカバー12内の突壁13の先端面13a上にバッフルプレート14の撓曲部23間の位置が配置される。その後、撓曲部23と対応する位置よりも両外側の位置において、加圧部材22によりバッフルプレート14がシリンダヘッドカバー12側に加圧される。このため、バッフルプレート14の下面が突壁13の先端面13aに圧接状態で接合される。
【0017】
この場合、バッフルプレート14における突壁13の先端面13aと対応する接合位置とその両外側の加圧される位置との間において、接合位置から離隔した位置には、一対の撓曲部23が形成されている。そして、撓曲部23の位置はバッフルプレート14の他の部分よりも薄くなっており、加圧部材22による加圧時には、図2(a)に示すように、バッフルプレート14の加圧された部分が、突壁13の先端面13aに対する接合位置の両端付近を起点とすることなく、それよりも外側の撓曲部23を起点として撓曲変形される。なお、前記撓曲部23の内コーナ23aは、円弧状に形成されているため、この内コーナ23aの部分に集中応力が生じることは抑制される。
【0018】
この状態で、バッフルプレート14を透過して突壁13の先端面13aにレーザ光Lが照射される。この場合、レーザ光Lは少なくとも突壁13の先端面13aの厚さT1の幅で、最大でもバッフルプレート14の撓曲部23間の間隔T3の領域を照射する。このレーザ光Lの照射により、突壁13の先端面13a及びその先端面と13aと接しているバッフルプレート14の面が溶融されて、突壁13とバッフルプレート14とが溶着される。その後、加圧部材22による加圧が解除されると、図2(b)に示すように、バッフルプレート14が撓曲状態から平板状態に復元される。このとき、バッフルプレート14が撓曲部23を起点として復元変形されるため、突壁13の先端面13aとバッフルプレート14との間の溶着部24に剥離方向への力が作用することはない。
【0019】
従って、この第1実施形態においては、以下の効果がある。
(1) レーザ溶着終了にともなうバッフルプレート14の復元に際して溶着部24に剥離方向への力が作用することがないため、溶着部24の両端縁に亀裂が生じるおそれを防止することができる。このため、高い溶着強度を得ることができるとともに、突壁13の両側における空間の間に圧力差が必要な場合、その圧力差を維持できる。
【0020】
(2) 突壁13とバッフルプレート14との間に亀裂が発生するおそれがないため、バッフルプレート14を突壁13の先端面13aに対して高い圧力で加圧できる。このため、高い溶着強度を得ることができる。
【0021】
(3) 撓曲部23の内コーナ23aが円弧状に形成されているため、加圧時にその内コーナ23aに対して応力が集中することを防止でき、バッフルプレート14の割れ等を防止できる。
【0022】
(第2実施形態)
次に、この発明の第2実施形態を、前記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
さて、この第2実施形態においては、図4に示すように、バッフルプレート14における突壁13の先端面13aと対応する接合位置とその両外側の加圧位置との間の部分において、先端面13aから離隔し、レーザ光の照射部より板厚が薄く形成された他の部分よりも撓みやすい段差部よりなる一対の撓曲部26が形成されている。この撓曲部26の内コーナ26aは円弧状に形成されている。そして、レーザ溶着に際してバッフルプレート14が加圧されたとき、バッフルプレート14が、突壁13の先端面13aの角部を起点とすることなく、それよりも外側の撓曲部26を起点にして撓曲変形される。
【0023】
従って、この第2実施形態においても、前記第1実施形態に記載の効果と同様な効果を得ることができる。
(第3実施形態)
次に、この発明の第3実施形態を、前記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0024】
さて、この第3実施形態では、図5に示すように、撓曲部26が断面円弧状に形成されている。
従って、この第3実施形態においては、撓曲部26における応力集中をさらに避けることができる。
【0025】
(第4実施形態)
次に、この発明の第4実施形態を、前記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
さて、この第4実施形態では、図6に示すように、ケースにおいて、第1の部材としての合成樹脂製の下部ケース27の外周縁に、突壁としての周壁28が形成されている。第2の部材としての上部ケース29の外周縁には、下部ケース27の周壁28に対応するフランジ状の板状部29aが形成されている。板状部29aにおける周壁28の先端面28aと対応する接合位置とその両外側の加圧位置との間において先端面28aから離隔した位置には、他の部分よりも撓みやすい溝状の凹部よりなる一対の撓曲部30が形成されている。そして、前記第1実施形態と同様な方法により、周壁28の先端面28aに対して板状部29aが溶着されて、ケースが密閉状態に保持されている。
【0026】
従って、この第3実施形態においても、前記第1実施形態に記載の効果とほぼ同様の効果を得ることができる。特に、この第3実施形態においては、周壁28と板状部29aとが強固に溶着されることから、ケースの密閉性を高めることに有用である。
【0027】
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記実施形態において、撓曲部を凹部または段差部とは異なった薄肉部等の他の形状にすること。例えば、バッフルプレート等の第2の部材に、その溶着部から所定距離離隔した位置から両側に向かって厚さが次第に薄くなる傾斜部を設けて、その傾斜部を撓曲部とすること。
【0028】
・ この発明を、前記実施形態とは異なった部材間のレーザ溶着部の構造に具体化すること。例えば、合成樹脂製のオイルパンの周壁とと蓋板との溶着部の構造において具体化すること。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1実施形態のレーザ溶着部の構造を示すシリンダヘッドカバー部分の断面図。
【図2】(a)は図1のレーザ溶着部の構造における溶着方法を示す部分拡大断面図。(b)は溶着後の状態を示す部分断面図。
【図3】図1のレーザ溶着部の構造を分解して示す部分斜視図。
【図4】第2実施形態のレーザ溶着部の構造を示す部分断面図。
【図5】第3実施形態のレーザ溶着部の構造を示す部分断面図。
【図6】第4実施形態のレーザ溶着部の構造を示す部分断面図。
【図7】(a)は従来のレーザ溶着部の構造における溶着方法を示す部分断面図。(b)は溶着後の状態を示す部分断面図、(c)は亀裂の発生状況を示す一部拡大断面図。
【符号の説明】
【0030】
12…第1の部材としてのシリンダヘッドカバー、13…突壁、13a…先端面、14…第2の部材としてのバッフルプレート、15…オイルセパレート室、21…治具、22…加圧部材、23…凹部よりなる撓曲部、24…溶着部、26…段差部よりなる撓曲部、27…第1の部材としての下部ケース、28…突壁としての周壁、28a…先端面、29…第2の部材としての上部ケース、29a…板状部、30…凹部よりなる撓曲部、L…レーザ光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の部材に設けられた突壁の先端面に対して、板状をなすとともに、レーザ光透過性を有する第2の部材をレーザ溶着させたレーザ溶着部の構造において、
前記第2の部材における突壁の先端面対する接合位置から外側に離隔した位置には、他の部分よりも撓みやすい撓曲部を設けたことを特徴とするレーザ溶着部の構造。
【請求項2】
前記撓曲部は、薄肉部であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶着部の構造。
【請求項3】
前記撓曲部は、段差部であることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザ溶着部の構造。
【請求項4】
前記撓曲部は、応力集中抑制構造を有することを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のレーザ溶着部の構造。
【請求項5】
第1の部材がシリンダヘッドカバー、第2の部材がそのシリンダヘッドカバーの内側に固定されるバッフルプレートであって、それらの両部材の間にブローバイガスから潤滑オイルを分離するためのオイルセパレート室が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のレーザ溶着部の構造。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載のレーザ溶着部の構造において、第1の部材に設けられた突壁の先端面に対して、第2の部材における撓曲部間の位置を接合した状態で、前記撓曲部よりも外側の位置において第2の部材を前記突壁に向かって加圧し、この状態で第2の部材を透過して突壁の先端面にレーザ光を照射することにより、突壁の先端面に第2の部材を溶着させることを特徴とするレーザ溶着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−107178(P2009−107178A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280537(P2007−280537)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】