説明

レーザ発振器を備えたレーザ加工機

【課題】大型化および複雑化することなしに、レーザの光強度分布データを測定する。
【解決手段】レーザ加工機(100)のレーザ発振器(2)は、放電作用によりレーザガスを励起する放電管(9)と、部分透過性を有していて放電管内においてレーザを増幅するリア鏡(6)および出力鏡(8)と、リア鏡の後方に配置された部分反射鏡(11)と、部分反射鏡により反射されたレーザおよび部分反射鏡を通過したレーザのうちの一方の出力を検出するレーザ検出部(5)と、部分反射鏡により反射されたレーザおよび部分反射鏡を通過したレーザのうちの他方を受光して受光面(12a)におけるレーザの光強度分布データを測定するプロファイラ(12)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ発振器からレーザを射出して被加工物を加工するレーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工機にはレーザ発振器が搭載されている。レーザ発振器から射出されたレーザは全反射鏡によりワークに向けて反射され、それにより、ワークを加工、例えば切断、溶接している。
【0003】
レーザ発振器を保守するときに全反射鏡またはレーザ発振器内の部分反射鏡を交換することがある。そのような場合には、全反射鏡および/または部分反射鏡の調整と真空系のエージングとを加工が可能な状態になるまで行い、レーザ発振器から射出されるレーザがワーク上の加工点まで導かれるか否かを確認する必要がある。
【0004】
ワークを加工した後でエージング不足などが判明した場合にはレーザ発振器の保守をやり直す必要があるので、通常はエージングが完了するのに十分な時間をかけてエージングなどを行うようにしている。このため、レーザ発振器を保守して再起動するまでに、多大な時間が浪費されることになる。
【0005】
さらに、全反射鏡および/または部分反射鏡の角度調整はアクリルブロックにレーザ光を直接当ててアクリルブロックのやけ具合を操作者が目視で判断することにより行われている。このため、定量的な判断が難しく、操作者の熟練度によって全反射鏡および/または部分反射鏡の角度が異なる事態も生じていた。
【0006】
このように、従来技術におけるエージング作業ならびに全反射鏡および/または部分反射鏡の角度調整作業は極めて非効率的であり、これらを定量的に行う潜在的な要求がある。
【0007】
ところで、レーザの光強度分布データを測定するためにプロファイラが利用されることがある。プロファイラの受光面がレーザを受光し、二次元での光強度分布データを測定する。例えば特許文献1に開示されるレーザ加工機は、レーザ発振器と、加工ステーションと、レーザ発振器外部に位置するプロファイラとを含んでいる。レーザ発振器から射出されたレーザは、角度調整式反射ミラーを内蔵した切換機構によりその方向が変更されて、プロファイラに入力される。プロファイラで検出された信号は共振器のアライメントにフィードバックされる。また、特許文献1においては、プロファイラの後方にパワーメータが配置されている。パワーメータは、プロファイラを通過したレーザのパワーを検出して、レーザ光のパワーが正常であるかどうかを判定するのに使用される。そして、例えばパワー不足であると判定された場合には、レーザのパワーをレーザ電源にフィードバックする。そして、レーザが安定化すると、切換機構を動作させ、加工ステーションにレーザを伝達して、ワークが加工される。
【特許文献1】特開平01−218786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1においてはレーザ発振器の出力鏡から射出されたレーザを計測しているので、レーザ加工機は、レーザ発振器の外部にプロファイラおよびパワーメータを備える必要がある。このため、引用文献1では、光学系が複雑になって、加工の安定性が低下すると共に、レーザ加工機全体が大型化しやすい、という問題があった。
【0009】
また、一般に、リア鏡から射出される場合と比較すると、出力鏡から射出されるレーザの強度は非常に高く、プロファイラに入力する前にレーザの強度を大幅に減衰する必要がある。このようなことによって、光学系はより複雑になると共に、レーザ加工機はより大型化することになる。さらに、特許文献1に開示されるようにレーザ加工機が複数の切換機構を含んでいる場合には、切換動作の制御が複雑になるという問題もあった。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、大型化および複雑化することなしに、レーザの光強度分布データを測定することのできるレーザ加工機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、レーザ発振器からレーザを射出して被加工物を加工するレーザ加工機において、前記レーザ発振器は、放電作用によりレーザガスを励起する放電管と、部分透過性を有していて前記放電管内においてレーザを増幅するリア鏡および出力鏡と、前記リア鏡の後方に配置された部分反射鏡と、該部分反射鏡により反射されたレーザおよび前記部分反射鏡を通過したレーザのうちの一方の出力を検出するレーザ検出部と、前記部分反射鏡により反射されたレーザおよび前記部分反射鏡を通過したレーザのうちの他方を受光して受光面における前記レーザの光強度分布データを測定するプロファイラと、を具備するレーザ加工機が提供される。
【0012】
すなわち1番目の発明においては、リア鏡とレーザ検出部との間またはリア鏡とプロファイラとの間に部分反射鏡を挿入している。このため、リア鏡から射出されたレーザの出力が検出されると共に、そのようなレーザの光強度分布データが測定される。つまり、プロファイラとレーザ出力センサとをレーザ発振器の内部に配置でき、またレーザの光路を切換える必要がないので、切換機構を排除できる。従って、レーザ加工機が大型化および複雑化することはない。また、このような部分反射鏡は既存のレーザ加工機に挿入できるので、既存のレーザ加工機を容易かつ安価に改良することもできる。
【0013】
2番目の発明によれば、1番目の発明において、前記プロファイラは前記受光面における前記レーザの少なくとも二つの光強度分布データを異なる時刻において測定しており、前記レーザ加工機は、さらに、前記レーザの少なくとも二つの光強度分布データに基づいて、前記レーザが出力可能であるか否かを判定する判定部を具備する。
すなわち2番目の発明においては、レーザ加工機のレーザが被加工物を加工できる状態にあるか否か、つまりエージングが完了したか否かを定量的かつ容易に判定することができる。従って、保守を行う際のレーザ加工機の停止時間を最小限にできる。
【0014】
3番目の発明によれば、1番目の発明において、さらに、前記部分反射鏡が劣化したときの前記レーザの光強度分布データを記憶する記憶部と、前記プロファイラにより測定された前記レーザの光強度分布データと、前記記憶部に記憶された光強度分布データとを比較して前記部分反射鏡が劣化したか否かを判定する劣化判定部とを具備する。
すなわち3番目の発明においては、部分反射鏡が劣化したか否かを定量的かつ容易に判定することができる。さらに、部分反射鏡の保守を行うタイミングを適切に把握し、保守頻度を低減することができる。
【0015】
4番目の発明によれば、1番目の発明において、さらに、前記レーザ発振器から射出されたレーザを前記被加工物に反射する全反射鏡と、前記全反射鏡が劣化したときの前記レーザの光強度分布データを記憶する記憶部と、前記プロファイラにより測定された前記レーザの光強度分布データと、前記記憶部に記憶された光強度分布データとを比較して前記全反射鏡が劣化したか否かを判定する劣化判定部とを具備する。
すなわち4番目の発明においては、全反射鏡が劣化したか否かを定量的かつ容易に判定することができる。さらに、全反射鏡の保守を行うタイミングを適切に把握し、保守頻度を低減することができる。
【0016】
5番目の発明によれば、3番目または4番目の発明において、さらに、前記劣化判定部により劣化が判定された場合には、アラームを出力するアラーム出力部を具備する。
すなわち5番目の発明においては、アラームを出力することにより操作者に注意を促すことができる。
【0017】
6番目の発明によれば、1番目の発明において、さらに、前記部分反射鏡の角度と前記プロファイラにより測定される前記レーザの光強度分布データとの間の関係を記憶する記憶部と、前記プロファイラにより測定された前記レーザの光強度分布データと、前記記憶部に記憶された光強度分布データとを比較して前記部分反射鏡の角度を調整するか否かを判定する調整判定部と、該調整判定部により前記部分反射鏡の角度を調整すると判定された場合に前記部分反射鏡の角度調整量を算出する算出部とを具備する。
すなわち6番目の発明においては、部分反射鏡の角度を調整する必要があるか否かを定量的に判定でき、部分反射鏡の角度調整量を容易に求めることができる。さらに、部分反射鏡の保守に要する時間を短縮すると共に、操作者の熟練度に応じて角度が異なる事態が生じるのを避けることができる。
【0018】
7番目の発明によれば、1番目の発明において、さらに、前記レーザ発振器から射出されたレーザを前記被加工物に反射する全反射鏡と、前記全反射鏡の角度と前記プロファイラにより測定される前記レーザの光強度分布データとの間の関係を記憶する記憶部と、前記プロファイラにより測定された前記レーザの光強度分布データと、前記記憶部に記憶された光強度分布データとを比較して前記全反射鏡の角度を調整するか否かを判定する調整判定部と、該調整判定部により前記全反射鏡の角度を調整すると判定された場合に前記全反射鏡の角度調整量を算出する算出部とを具備する。
すなわち7番目の発明においては、全反射鏡の角度を調整する必要があるか否かを定量的に判定でき、全反射鏡の角度調整量を容易に求めることができる。さらに、全反射鏡の保守に要する時間を短縮すると共に、操作者の熟練度に応じて角度が異なる事態が生じるのを避けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
図1は本発明に基づくレーザ加工機の略図である。レーザ加工機100は主に金属加工用に用いられ、レーザ発振器2と、被加工ワーク20を加工する加工部署40とを含んでいる。レーザ発振器2は放電励起型である比較的高出力のガスレーザ発振器、例えば出力1kW以上の炭酸ガスレーザである。図1に示されるように、これらレーザ発振器2と加工部署40とは制御装置1を介して互いに電気的に接続されている。
【0020】
図1に示されるように、レーザ発振器2はレーザガスが充填された放電管9を含んでいる。放電管9の一端には部分透過性を有するリア鏡6(共振器内部ミラー)が設けられており、放電管9の他端には部分透過性を有する出力鏡8が設けられている。出力鏡8はZnSeから形成されており、出力鏡8の内面は部分反射コーティングされると共に出力鏡8の外面は無反射コーティングされている。リア鏡6の後方には、レーザ出力センサ5が配置されている。レーザ出力センサ5は、部分透過性を有するリア鏡6を透過したレーザの出力を検出する。
【0021】
図示されるように、一対の放電電極7a、7bが放電管9を挟むように配置されている。これら放電電極7a、7bの間には放電セクションが形成される。放電電極7a、7bは同一寸法であって、金属メタライズされているか、または金属部材が取付けられている。図1に示されるように、放電電極7bはマッチング回路3を介してレーザ電源4に接続されている。
【0022】
放電電極7a、7bが所定の電圧、例えば数百kHzから数十MHzの交流電圧を印加すると、レーザガスが励起され、それにより、レーザビームが発生する。周知の原理により、レーザビームは放電管9の光共振空間で増幅され、出力鏡8を通じてレーザビームが射出される。
【0023】
レーザ発振器2の出力鏡8から出力されたレーザビームは加工部署40に入射する。加工部署40においては入射されたレーザを反射する少なくとも一つの全反射鏡41を含んでいる。また、被加工ワーク20は、水平方向に移動可能な加工テーブル43に載置されている。反射されたレーザは、図示しない集光レンズおよび加工ヘッドを通って加工テーブル43上の被加工ワーク20に照射され、それにより、被加工ワーク20が加工されるようになる。
【0024】
図1のレーザ発振器2を再び参照すると、リア鏡6およびレーザ出力センサ5の間には、部分反射鏡11が配置されている。放電管9内で励起されたレーザはリア鏡6を透過して、部分反射鏡11に入射される。レーザの一部分は部分反射鏡11を通過して、レーザ出力センサ5に入射される。図1から分かるように、レーザの残りの部分は部分反射鏡11により反射され、プロファイラ12に入射される。
【0025】
プロファイラ12はレーザを受光する受光面12aを含んでいて、受光面12aにおけるレーザの光強度分布を測定する。さらに、レーザ発振器2はプロファイラ12のデータを受信して解析演算するサブプロセッサ13を含んでいる。また、記憶部14には、サブプロセッサ13の演算結果が一時的に記憶される。
【0026】
さらに、図1に示される制御装置1はデジタルコンピュータであり、メインプロセッサ23(CPU)と、記憶部24とを主に含んでいる。記憶部24は、レーザ発振器2を駆動するためのプログラム、および後述する各種データを記憶している。
【0027】
図示されるように、制御装置1のメインプロセッサ23は、測定された光強度分布に基づいてレーザ発振器2のエージングが完了したか否かを判定する判定部31を含んでいる。さらに、メインプロセッサ23は、測定された光強度分布と、部分反射鏡11が劣化したときの光強度分布とに基づいて部分反射鏡11が劣化したか否かを判定する劣化判定部32を含んでいる。さらに、この劣化判定部32は、測定された光強度分布と、全反射鏡41が劣化したときの光強度分布とに基づいて全反射鏡41が劣化したか否かを判定することもできる。
【0028】
また、メインプロセッサ23は、部分反射鏡11および/または全反射鏡41の角度と測定された光強度分布との間の関係、および測定された光強度分布に基づいて、部分反射鏡11および/または全反射鏡41の角度を調整するか否かを判定する調整判定部33を含んでいる。また、部分反射鏡11の角度を調整する必要があると判定された場合には、メインプロセッサ23の算出部34が部分反射鏡11の角度調整量を算出する。なお、部分反射鏡11の角度はステップモータ11aにより調整されるものとする。
【0029】
図示されるように、本発明においては、部分反射鏡11により反射されたレーザがプロファイラ12に入射されるように部分反射鏡11がレーザ出力センサ5とリア鏡6との間に配置されている。このため、リア鏡6から射出されたレーザの出力がレーザ出力センサ5により検出され、リア鏡6から射出されたレーザの光強度分布データがプロファイラ12により測定される。
【0030】
このような構成であるので、本発明においては、プロファイラ12とレーザ出力センサ5とをレーザ発振器2の内部に配置できる。さらに、本発明においては、レーザの光路を切換える必要がないので、切換機構を排除できる。従って、本発明においては、レーザ加工機100が大型化および複雑化することなしに、レーザの光強度分布を測定することが可能である。なお、部分反射鏡11をレーザ加工機のレーザ出力センサ5とリア鏡6との間に挿入すれば本発明の構成を実現できるので、本発明の構成によって既存のレーザ加工機を容易かつ安価に改良することができる。
【0031】
以下、本発明のレーザ加工機100の保守を行った後のエージング処理について説明する。図2(a)は、プロファイラ12の受光面12aの概念図である。図2(a)に示されるように、受光面12aは「x行y列」の格子状に配置された複数の受光素子A11〜Axyを含んでいる。つまり、受光面12aはX軸方向にx個、Y軸方向にy個の受光素子を含む。一つの実施形態においては、x、yはそれぞれ100である。
【0032】
受光面12aにより受光されるレーザの光強度分布の一つの例を示す概念図である図2(b)に示されるように、受光面12aの中心付近においては光強度が高く、受光面12aの外周付近においては低くなっている。そして、各受光素子A11〜Axyごとに光強度を示す数値が取得される。このようにして取得された光強度分布データはProfile(x、y、n)で表される。なお、文字「n」はデータ番号である(0<n≦N)。
【0033】
レーザ加工機100の保守を行った後の所定期間内においてプロファイラ12によりN個の光強度分布データを異なる時刻で順次取得する。そして、N個の光強度分布データのうちの隣り合う光強度分布データ、例えばn番目とn+1番目との光強度分布データを注出する。次いで、メインプロセッサ23の判定部31が以下の式(1)を用いて判定値Hを算出する。
【数1】

【0034】
その後、判定部31は判定値Hを基準値H0と比較する。基準値H0は実験等により予め求められるものとする。そして、判定値Hが基準値H0以下になった場合には、エージングが完了し、レーザが出力可能になったと判定する。この場合には、被加工ワーク20を加工可能になったと判断できるので、その旨の信号を制御装置1に送信する。このように本発明においては、エージングが完了したか否かを定量的かつ容易に判定することができる。このため、余裕をもってエージングを行う必要はなく、保守を行う際にレーザ加工機100の停止時間を最小限にすることができる。言い換えれば、本発明においては、最小限の時間でエージングを完了できる。
【0035】
なお、判定値Hが基準値H0以下でない場合には、n+1番目とn+2番目の光強度分布データを用いて同様な判定を行う。さらに、N−1番目とN番目の光強度分布データを用いても判定値Hが基準値H0以下にならない場合には、複数の光強度分布データを再度取得し、判定値Hが基準値H0以下になるまで前述した処理を繰返すものとする。
【0036】
ところで、式(1)においては厳密にする目的でx行y列の全ての受光素子について計算を行っているが、x行y列のうちの一つの受光素子についてのみ計算を行うようにしてもよい。
【0037】
図3は、n番目とn+1番目との光強度分布データにおいて第Y1列目(1≦Y1≦y)における光強度データを示す図である。このため、これら光強度データにおける横軸は受光面12aにおけるX軸に対応する。また、図3における縦軸は光強度を示している。図3においてはX軸における所定位置、例えばX=X1における光強度が示されており、それにより、「第X1行第Y1列」に位置する受光素子により測定された光強度が比較されるようになる。
【0038】
そして、二つの光強度から判定値Hを定めることにより、前述したのと同様の判定を行うことができる。この場合には、一箇所のみの光強度を使用しているので、計算時間を短縮できることが分かるであろう。当然のことながら、複数の受光素子で測定された光強度を使用して前述した判定を行うようにしてもよい。
【0039】
ところで、本発明においては、前述した一連の処理を連続的に行うエージング加工開始ボタン25を制御装置1に設けても良い。図4は、そのような場合にエージングを行うときのフローチャートである。
【0040】
図4のステップS1において操作者がエージング加工開始ボタン25を押圧すると、エージングが開始される(ステップS2)。前述したように被加工ワーク20が加工可能になったという信号が制御装置1に送信される(ステップS3)まで、エージングが継続して行われる。そして、制御装置1が被加工ワーク20が加工可能になったという信号を受信すると、被加工ワーク20の加工が自動的に開始され(ステップS4)、被加工ワーク20の加工が完了するまで(ステップS5)、処理が継続される。
【0041】
このように、本発明においては、単にエージング加工開始ボタン25を押圧することのみによって、エージングの開始から被加工ワーク20の加工完了までを自動的に行うことができる。それゆえ、操作者の負担を大幅に減らすと共に、保守による機械の停止時間を最小限にすることが可能となる。
【0042】
さらに、本発明のレーザ加工機100によれば、部分反射鏡11および/または全反射鏡41が劣化しているときの光強度分布データが制御装置1の記憶部24に記憶されている。図5は、正常な光強度データと、部分反射鏡が劣化しているときの光強度データとを示す、図3と同様な図である。
【0043】
図5においては、部分反射鏡が劣化しているときの単一の光強度データが表されているが、部分反射鏡11の劣化の程度に応じて異なる複数の光強度分布データが記憶部24に記憶されているものとする。ここで、部分反射鏡11が劣化しているときの光強度分布データをDprofile(x,y,m)と呼ぶ。文字mは、データ番号を表し、その値が小さいほど部分反射鏡11の劣化の度合いが小さいものとする。
【0044】
また、制御装置1の劣化判定部32は、プロファイラ12により測定された複数の光強度分布データProfile(x,y,m)を平均して、平均光強度分布データProfileA(x,y)を算出する。このような平均処理により、データの精度を高めることができる。
【0045】
そして、劣化判定部32は、以下の式(2)および式(3)に示されるように、平均光強度分布データProfileA(x,y)をDprofile(x,y,m)のそれぞれと比較して、ResultA(m)を算出する。
【数2】

【0046】
その後、複数のResultA(m)から最小のResultA(m)を求めて、基準値R0と比較する。基準値R0は実験等により予め定めた値であり、最小のResultA(m)が基準値R0以下である場合には、部分反射鏡11が劣化しているものと判定する。また、部分反射鏡11の劣化の程度は、「m」の値から判断することができる。
【0047】
なお、詳細な説明は省略するものの、全反射鏡41の劣化の程度に応じて異なる複数の光強度分布データも記憶部24に記憶されている。従って、全反射鏡41に関して同様な処理を行うことにより、全反射鏡41の劣化を同様に判断することも可能である。
【0048】
このように、本発明においては、部分反射鏡11および/または全反射鏡41が劣化したか否かを定量的かつ容易に判定できる。従って、本発明においては、適切なタイミングで部分反射鏡11および/または全反射鏡41の保守を行うことが可能である。これにより、保守頻度の低減および保守に要する時間の短縮を図り、その結果、レーザ加工機100の生産性を高めることも可能である。さらに、操作者の熟練度に応じて部分反射鏡11および/または全反射鏡41の角度が異なる事態が生じるのを避けることも可能である。
【0049】
なお、部分反射鏡11および/または41の劣化が判定された場合には、制御装置1のアラーム出力部26からアラームを出力するのが好ましい。これにより、操作者に注意を促すことが可能となる。
【0050】
さらに、本発明のレーザ加工機100によれば、部分反射鏡11の角度に応じて異なる複数の光強度分布データが制御装置1の記憶部24に記憶されている。図6は、正常な光強度データと、部分反射鏡の角度がズレているときの光強度データとを示す、図3と同様な図である。図6においては、部分反射鏡11の角度がズレているときの単一の光強度データが表されているが、部分反射鏡11の角度のズレ量に応じて異なる複数の光強度分布データが記憶部24に記憶されているものとする。部分反射鏡11の角度がズレているときの光強度分布データをTprofile(x,y,l)と呼ぶ。この場合には、文字lは部分反射鏡11の基準角度からのズレ量を表し、その値が小さいほど部分反射鏡11の角度のズレ量が小さいものとする。
【0051】
そして、前述したのと同様に、調整判定部33は、以下の式(4)および式(5)に示されるように、平均光強度分布データProfileB(x,y)をTprofile(x,y,l)のそれぞれと比較して、ResultB(l)を算出する。
【数3】

【0052】
次いで、複数のResultB(l)から最小のResultB(l)を求めて、基準値R1と比較する。基準値R1は実験等により予め定めた値であり、最小のResultB(l)が基準値R1以下である場合には、部分反射鏡11の角度がズレているものと判定する。
【0053】
次いで、算出部34は、文字lに基づいて、部分反射鏡11の角度調整量を算出する。レーザ発振器2のステップモータ11aは、算出された角度調整量に基づいて、部分反射鏡11を回動させて適切な角度位置に配置する。このように、本発明においては、部分反射鏡11の角度を調整する必要があるか否かを定量的に判定でき、部分反射鏡11の角度調整量を容易に求めることができる。
【0054】
なお、詳細な説明は省略するものの、全反射鏡41の角度のズレに応じて異なる複数の光強度分布データも記憶部24に記憶されている。従って、全反射鏡41に関して同様な処理を行うことにより、全反射鏡41の角度のズレを同様に判断することも可能である。
【0055】
このように本発明においては、部分反射鏡11および/または全反射鏡41の基準位置からの角度のズレを定量的に判断できる。従って、本発明においては適切なタイミングで部分反射鏡11および/または全反射鏡41の保守を行うことが可能である。これにより、保守頻度の低減および保守に要する時間の短縮を図り、その結果、レーザ加工機100の生産性を高めることも可能である。
【0056】
制御装置1のメインプロセッサ23が前述した処理を行うことを説明したが、レーザ発振器2のサブプロセッサ13が、記憶部14に記憶されたデータに基づいて前述した処理の少なくとも一部を行うようにしてもよい。また、レーザ出力センサ5およびプロファイラ12の場所が入れ替わっていて、部分反射鏡11がプロファイラ12とリア鏡6との間に配置されていてもよい。そのような場合であっても、本発明の範囲に含まれることが分かるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に基づくレーザ加工機の略図である。
【図2】(a)プロファイラの受光面の概念図である。(b)プロファイラの受光面により受光されるレーザの光強度分布の一つの例を示す概念図である。
【図3】n番目とn+1番目との光強度分布データにおいて第Y列目における光強度データを示す図である。
【図4】本発明のレーザ加工機においてエージングを行うときのフローチャートである。
【図5】正常な光強度データと、部分反射鏡が劣化しているときの光強度データとを示す、図3と同様な図である。
【図6】正常な光強度データと、部分反射鏡の角度がズレているときの光強度データとを示す、図3と同様な図である。
【符号の説明】
【0058】
1 制御装置
2 レーザ発振器
3 マッチング回路
4 レーザ電源
5 レーザ出力センサ
6 リア鏡
7a、7b 放電電極
8 出力鏡
9 放電管
11 部分反射鏡
11a ステップモータ
12 プロファイラ
12a 受光面
13 サブプロセッサ
14 記憶部
20 被加工ワーク
23 メインプロセッサ
24 記憶部
25 エージング加工開始ボタン
26 アラーム出力部
31 判定部
32 劣化判定部
33 調整判定部
34 算出部
40 加工部署
41 全反射鏡
43 加工テーブル
100 レーザ加工機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器からレーザを射出して被加工物を加工するレーザ加工機において、
前記レーザ発振器は、
放電作用によりレーザガスを励起する放電管と、
部分透過性を有していて前記放電管内においてレーザを増幅するリア鏡および出力鏡と、
前記リア鏡の後方に配置された部分反射鏡と、
該部分反射鏡により反射されたレーザおよび前記部分反射鏡を通過したレーザのうちの一方の出力を検出するレーザ検出部と、
前記部分反射鏡により反射されたレーザおよび前記部分反射鏡を通過したレーザのうちの他方を受光して受光面における前記レーザの光強度分布データを測定するプロファイラと、を具備するレーザ加工機。
【請求項2】
前記プロファイラは前記受光面における前記レーザの少なくとも二つの光強度分布データを異なる時刻において測定しており、
前記レーザ加工機は、さらに、前記レーザの少なくとも二つの光強度分布データに基づいて、前記レーザが出力可能であるか否かを判定する判定部を具備する、請求項1に記載のレーザ加工機。
【請求項3】
さらに、前記部分反射鏡が劣化したときの前記レーザの光強度分布データを記憶する記憶部と、
前記プロファイラにより測定された前記レーザの光強度分布データと、前記記憶部に記憶された光強度分布データとを比較して前記部分反射鏡が劣化したか否かを判定する劣化判定部とを具備する、請求項1に記載のレーザ加工機。
【請求項4】
さらに、前記レーザ発振器から射出されたレーザを前記被加工物に反射する全反射鏡と、
前記全反射鏡が劣化したときの前記レーザの光強度分布データを記憶する記憶部と、
前記プロファイラにより測定された前記レーザの光強度分布データと、前記記憶部に記憶された光強度分布データとを比較して前記全反射鏡が劣化したか否かを判定する劣化判定部とを具備する、請求項1に記載のレーザ加工機。
【請求項5】
さらに、前記劣化判定部により劣化が判定された場合には、アラームを出力するアラーム出力部を具備する請求項3または4に記載のレーザ加工機。
【請求項6】
さらに、前記部分反射鏡の角度と前記プロファイラにより測定される前記レーザの光強度分布データとの間の関係を記憶する記憶部と、
前記プロファイラにより測定された前記レーザの光強度分布データと、前記記憶部に記憶された光強度分布データとを比較して前記部分反射鏡の角度を調整するか否かを判定する調整判定部と、
該調整判定部により前記部分反射鏡の角度を調整すると判定された場合に前記部分反射鏡の角度調整量を算出する算出部とを具備する請求項1に記載のレーザ加工機。
【請求項7】
さらに、前記レーザ発振器から射出されたレーザを前記被加工物に反射する全反射鏡と、
前記全反射鏡の角度と前記プロファイラにより測定される前記レーザの光強度分布データとの間の関係を記憶する記憶部と、
前記プロファイラにより測定された前記レーザの光強度分布データと、前記記憶部に記憶された光強度分布データとを比較して前記全反射鏡の角度を調整するか否かを判定する調整判定部と、
該調整判定部により前記全反射鏡の角度を調整すると判定された場合に前記全反射鏡の角度調整量を算出する算出部とを具備する請求項1に記載のレーザ加工機。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−137264(P2010−137264A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317322(P2008−317322)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】