説明

レーザ発振器

【課題】 回折光の発生を抑制してビームの高出力化及び高品質化を図ることができるレーザ発振器を提供する。
【解決手段】 レーザ発振器10は、出力鏡12、リア鏡14、2つの凹面鏡16及び18を有し、これらの鏡は協働してレーザビームプロファイル11を形成する。出力鏡12と凹面鏡16との間、及び凹面鏡18とリア鏡14との間にはそれぞれビームウェスト20及び22が形成される。またレーザ発振器10は、出力鏡12とビームウェスト20との略中間、及びビームウェスト20と凹面鏡16との略中間にそれぞれ配置される第1及び第2のアパーチャ24及び26を有し、さらに、凹面鏡18とビームウェスト22との略中間、及びビームウェスト22とリア鏡14との略中間にそれぞれ配置される第3及び第4のアパーチャ28及び30を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ発振器に関し、特には、溶融切断加工用のレーザ加工装置に使用されるレーザ発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば炭酸ガスを使用するレーザ加工装置のレーザ発振器は、切断性能向上のために高出力化される傾向にある。しかし、高出力化されたレーザ発振器においては、増幅自然光(ASE)が発生しやすくなるため一般にビームの品質は低下する。この理由は、図4に簡単に示すように、出力鏡52及びリア鏡54を有する共振器50において、通常発振されるビームプロファイル56と、ASEにより生じるビームプロファイル58とが重畳されるからである。
【0003】
上述の不具合を解消するために、共振器内にアパーチャを設ける方法がある。例えば図5に示すように、出力鏡52及びリア鏡54の前面にアパーチャ60及び62をそれぞれ設けることにより、M2値等のビーム品質の向上を図ることができる。しかしこの構成では、ビームが当たるアパーチャの部位において回折光が生じるため、レーザ発振器をレーザ加工装置として使用する場合には、十分な溶断性能を発揮するビーム品質を得ることは難しいという問題があった。
【0004】
アパーチャの形状や構成の改善については、これまでにも多くの試みがなされている。例えば特許文献1に記載の気体レーザ装置では、対向配置されたアパーチャの内面にレーザ光を吸収する物質を塗布して回折光の発生を抑制している。またレーザの品質を高めるために、特許文献2にはアパーチャの形状がトラック状であるガスレーザ装置が開示され、特許文献3にはアパーチャのビーム制限エッジ部が平坦なガスレーザ発振器が開示されている。さらに特許文献4には、アパーチャの位置をリア前面からフォルディングミラー前面に変更することによりビームの高品質化を図るレーザ発振器が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特許第2751648号公報
【特許文献2】特許第3301120号公報
【特許文献3】特開平6−350166号公報
【特許文献4】特開平8−204260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のようにアパーチャの形状及び構成については種々の提案がなされているが、いずれも回折光の発生を抑制するという点では十分とは言えず、結果として加工性能向上のためのさらなるビームの高出力化及び高品質化を図ることは困難となっていた。そこで本発明は、回折光の発生を抑制してビームの高出力化及び高品質化を図ることができるレーザ発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、出力鏡及びリア鏡を備え、前記出力鏡から前記リア鏡に至る光路に沿うレーザビームプロファイルを形成するレーザ発振器であって、前記レーザビームプロファイルに複数のビームウェストを形成するためのビームウェスト形成手段を有するレーザ発振器を提供する。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ発振器において、前記ビームウェスト形成手段は前記光路上に配置される少なくとも1つの凹面鏡を有し、それにより前記レーザビームプロファイルの、前記出力鏡と前記少なくとも1つの凹面鏡との間及び前記リア鏡と前記少なくとも1つの凹面鏡との間にそれぞれビームウェストが形成される、レーザ発振器を提供する。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のレーザ発振器において、前記複数のビームウェストの各々の、前記光路に沿った両側に配設されるアパーチャをさらに有する、レーザ発振器を提供する。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のレーザ発振器において、前記アパーチャは、前記ビームウェストと前記出力鏡、前記リア鏡及び前記凹面鏡のいずれか1つとの略中間に配置される、レーザ発振器を提供する。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項3又は4に記載のレーザ発振器において、前記アパーチャは、前記ビームウェストの各側に複数個隣接して配置され、該複数のアパーチャの各々の片面のみにレーザビームが照射するように構成される、レーザ発振器を提供する。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のレーザ発振器において、前記ビームウェストの各側に配置される前記複数のアパーチャは互いに等しい口径を有する、レーザ発振器を提供する。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項3〜6のいずれか1項に記載のレーザ発振器において、複数の前記アパーチャが1つの固定部材に設けられる、レーザ発振器を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ビームウェスト形成手段を用いてビームウェストを複数形成し、さらに各々のビームウェストと鏡との間に1つ以上のアパーチャを配設することにより、従来よりも回折光を大幅に低減することができる。また複数のアパーチャを隣接配置することにより、各アパーチャの片面のみにレーザを照射させて回折光をさらに低減することができる。さらに、複数又は全てのアパーチャを1つの固定部材に設けることにより、各アパーチャの位置精度を容易に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
図1に示す本発明に係るレーザ発振器10は、部分反射鏡すなわち出力鏡12、全反射鏡すなわちリア鏡14、ビームウェスト形成手段例えば第1及び第2の凹面鏡16及び18を有し、これらの鏡は協働して、光軸A及びBを含む光路に沿って進むレーザビームプロファイル11を形成する。図1のような構成を用いてレーザ発振することにより、レーザビームプロファイル11の、出力鏡12と第1の凹面鏡16との間及び第2の凹面鏡18とリア鏡14との間には、それぞれビームウェスト20及び22が形成される。またレーザ発振器10は、光軸Aに沿ったビームウェスト20の両側、すなわち出力鏡12とビームウェスト20との間及びビームウェスト20と凹面鏡16との間にそれぞれ配置される第1及び第2のアパーチャ24及び26を有する。さらにレーザ発振器10は、光軸Bに沿ったビームウェスト22の両側、すなわち凹面鏡18とビームウェスト22との間及びビームウェスト22とリア鏡14との間にそれぞれ配置される第3及び第4のアパーチャ28及び30を有する。
【0016】
ここでビームウェスト20と第1及び第2アパーチャ24及び26との距離d1及びd2は、いずれも出力鏡12と凹面鏡16との距離L1の約1/4、より詳細にはL1の7/32〜9/32の範囲内であることが好ましい。換言すれば、第1アパーチャ24は出力鏡12とビームウェスト20との略中間に配置され、第2アパーチャ26はビームウェスト20と凹面鏡16との略中間に配置されることが好ましい。すなわち、例えばLが4000mmであるときは、d1及びd2はそれぞれ約1000mmである。同様に、ビームウェスト22と第3及び第4アパーチャ28及び30との距離d3及びd4も、例えばリア鏡14と凹面鏡18との距離L2が4000mmであるときは、それぞれ約1000mmであることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、第1及び第2の凹面鏡16及び18を使用して出力鏡12からリア鏡14に至る光路上に複数のビームウェスト(ビーム径が最小となる部位)を形成し、さらに各々のビームウェストの両側にアパーチャを設けることにより、不都合なレーザの回折光を大幅に低減することができる。なお特許文献2に記載のガスレーザ装置においては、全反射ミラー、部分反射ミラー及び折り返しミラーのそれぞれの前面にアパーチャを配置しているが、折り返しミラーの前面のアパーチャは、折り返しミラーへの入射光及びその反射光の双方が通過するものであるため、入射光及び反射光の各々に対して最適な口径とはなっていない。それに対し本発明では、ビームウェストの両側の適当な位置にアパーチャを配置するため、アパーチャの口径を、アパーチャを通過するビーム径に対し最適な口径とすることができる。
【0018】
また図1に示すように、第1〜第4のアパーチャは、1つの固定部材例えばブロック32に配設(例えば固定)することができる。1つのブロックに複数又は全てのアパーチャを配設することにより、各アパーチャの位置精度を容易に向上させることができ、結果としてビーム品質を向上させることができる。
【0019】
図2は、図1の実施形態の好適な変形例を示す。図2の実施形態では、図1の実施形態において第1のアパーチャ24が配置される部位に2つのアパーチャ24a及び24bが光軸Aに沿って隣接配置される。詳細には、2つのアパーチャ24aと24bとの間の距離d5が出力鏡12と凹面鏡16との距離L1の約1/30以下であることが好ましい。さらに、2つのアパーチャ24a及び24bの口径は、互いに同一であることが好ましい。このような構成によれば、レーザビームは各アパーチャの片面にのみ当たり、両面に当たる場合よりも各アパーチャで生じる回折光を低減することができ、有利である。同様の理由から、図1の実施形態において第2のアパーチャ26が配置される部位には、互いに同一口径の2つのアパーチャ26a及び26bが光軸Aに沿って隣接配置される。さらに、図1の実施形態において第3のアパーチャ28が配置される部位には、互いに同一口径の2つのアパーチャ28a及び28bが光軸Aに沿って隣接配置され、第4のアパーチャ30が配置される部位には、互いに同一口径の2つのアパーチャ30a及び30bが光軸Aに沿って隣接配置される。
【0020】
図3は、本発明のレーザ発振器10の他の変形例を示しており、図1と異なる点は第2の凹面鏡18が平面鏡19に変更されていることである。レーザビームプロファイル11が複数のビームウェストを有するためには1つ以上の凹面鏡があればよく、図3の場合、出力鏡12と凹面鏡16との間、及び平面鏡19とリア鏡14との間にそれぞれビームウェスト20及び22を形成することができる。このときのビームウェスト22の位置は、凹面鏡16からリア鏡14に至る光路の略中間に位置する。この場合も、図1の形態と同様のアパーチャ構成とすることによって回折光の低減を図ることができる。なお図3の実施形態においても、図2のようにアパーチャを隣接配置することが可能である。
【0021】
図示された実施形態では、各ビームウェストについて複数のアパーチャが配設されているが、各ビームウェストにつき1つのアパーチャを設ける構成としてもよい。また、凹面鏡又は他のビームウェスト形成手段をさらに用いて3つ以上のビームウェストを形成し、各ビームウェストに1つ以上のアパーチャを配設することももちろん可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るレーザ発振器の要部の概略構成を示す図である。
【図2】図1の変形例を示す図である。
【図3】図1の他の変形例を示す図である。
【図4】従来のレーザ発振器におけるASEの発生を説明する図である。
【図5】従来のレーザ発振器における一般的なアパーチャの配置を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
10 レーザ発振器
12 出力鏡
14 リア鏡
16、18 凹面鏡
19 平面鏡
24、26、28、30 アパーチャ
32 ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力鏡及びリア鏡を備え、前記出力鏡から前記リア鏡に至る光路に沿うレーザビームプロファイルを形成するレーザ発振器であって、
前記レーザビームプロファイルに複数のビームウェストを形成するためのビームウェスト形成手段を有するレーザ発振器。
【請求項2】
前記ビームウェスト形成手段は前記光路上に配置される少なくとも1つの凹面鏡を有し、それにより前記レーザビームプロファイルの、前記出力鏡と前記少なくとも1つの凹面鏡との間及び前記リア鏡と前記少なくとも1つの凹面鏡との間にそれぞれビームウェストが形成される、請求項1に記載のレーザ発振器。
【請求項3】
前記複数のビームウェストの各々の、前記光路に沿った両側に配設されるアパーチャをさらに有する、請求項1又は2に記載のレーザ発振器。
【請求項4】
前記アパーチャは、前記ビームウェストと前記出力鏡、前記リア鏡及び前記凹面鏡のいずれか1つとの略中間に配置される、請求項3に記載のレーザ発振器。
【請求項5】
前記アパーチャは、前記ビームウェストの各側に複数個隣接して配置され、該複数のアパーチャの各々の片面のみにレーザビームが照射するように構成される、請求項3又は4に記載のレーザ発振器。
【請求項6】
前記ビームウェストの各側に配置される前記複数のアパーチャは互いに等しい口径を有する、請求項5に記載のレーザ発振器。
【請求項7】
複数の前記アパーチャが1つの固定部材に設けられる、請求項3〜6のいずれか1項に記載のレーザ発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−196827(P2006−196827A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−9077(P2005−9077)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】