説明

レーザ走査光学装置

【課題】光学素子の位置調整時に光学素子に歪みが発生することを抑制できるレーザ走査光学装置を得る。
【解決手段】ビームを感光体上に結像/走査する走査レンズ5をホルダ11上に回転部材20を介して取り付け、走査レンズ5を板ばね31でホルダ11側に弾性的に押圧しつつ回転部材20上で主走査方向Yに移動させて位置調整されたレーザ走査光学装置。回転部材20はその回転軸が主走査方向Yと直交する方向に配置されるとともにホルダ11のV溝11aに主走査方向Yの位置を規制された状態で摺動回転可能に保持されている。回転部材20は走査レンズ5と接している大径軸部21とホルダ11のV溝11aと接している小径軸部21を同軸上に有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ走査光学装置、特に、電子写真方式による複写機、プリンタなどの画像形成装置に画像書込み手段として搭載されるレーザ走査光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザプリンタなどの画像形成装置では画像形成の高精細化によって、レーザ走査光学装置に求められる仕様値が高まり、レンズやミラーなどの光学素子に関してその取付けに高精度な位置調整(特に主走査方向の位置調整)が要求されている。位置調整のために、ホルダ上に弾性的に押圧されている光学素子をホルダ上で移動させると、ホルダ(保持面)と光学素子との摩擦で光学素子に歪みや変形が生じ、光学性能が劣化するという問題点を有している。
【0003】
そこで、特許文献1には、ハウジングに設けた溝に回転自在に配置された球体によってレンズを保持することが開示されている。位置調整のためにレンズを移動させると球体が回転(転動)し、光学素子に歪みや変形を生じるのを防止しようとするものである。しかしながら、球体が転動すると球体とホルダ及びレンズとの接触位置がずれてしまい、レンズを保持するための弾性押圧部材と球体との間で曲げモーメントが発生し、それによりレンズに歪みが生じる。
【0004】
球体の保持形状としては、溝以外に円錐形状や多角錐形状の保持穴とすることが考えられる。この場合、レンズが移動しても球体の接触位置のずれは生じないものの、保持穴と球体との摩擦係数をレンズと球体との摩擦係数の少なくとも半分に設定しないと、球体が回転せずに、レンズに歪みが生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−326801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、光学素子の位置調整時に光学素子に歪みが発生することを抑制できるレーザ走査光学装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態であるレーザ走査光学装置は、
ビームを結像、整形及び/又は収差補正する光学素子をホルダ上に回転部材を介して取り付け、前記光学素子を前記ホルダ側に弾性的に押圧しつつ前記回転部材上で主走査方向に移動させて位置調整されたレーザ走査光学装置において、
前記回転部材はその回転軸が主走査方向と直交する方向に配置されるとともに前記ホルダに主走査方向の位置を規制された状態で摺動回転可能に保持されており、
前記回転部材は前記光学素子と接している第1の円弧部分と前記ホルダと接している第2の円弧部分とを有し、第2の円弧部分の半径よりも第1の円弧部分の半径が大きいこと、
を特徴とする。
【0008】
前記レーザ走査光学装置においては、光学素子と素子ホルダとの間に回転部材が主走査方向の位置を規制された状態で摺動回転自在に保持されている。回転部材は、光学素子と接している第1の円弧部分とホルダと接している第2の円弧部分とを有し、第2の円弧部分の半径よりも第1の円弧部分の半径が大きい。それゆえ、位置調整時に光学素子を主走査方向に移動させると、光学素子と接触している半径の大きな第1の円弧部分は光学素子の移動に伴って回転し、このとき、ホルダと接触している半径の小さな第2の円弧部分が滑ることになる。即ち、回転部材が光学素子の移動に連動してスムーズに回転することになり、光学素子に歪みを生じることがない。しかも、回転部材は転動することなく、主走査方向の所定の位置で回転するため、回転部材とホルダ及びレンズとの接触位置がずれることはなく、光学素子を保持するための弾性押圧部材と回転部材との間で曲げモーメントが発生して光学素子に歪みが生じることもない。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光学素子の位置調整時に光学素子に歪みが発生することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明が適用されるレーザ走査光学装置を示す概略斜視図である。
【図2】第1実施例の要部を示す斜視図である。
【図3】第1実施例における調整時の力関係を示す説明図である。
【図4】第2実施例の要部を示す斜視図である。
【図5】第3実施例の要部を示す斜視図である。
【図6】第4実施例の要部を示す斜視図である。
【図7】第4実施例における調整時の力関係を示す説明図である。
【図8】第5実施例の要部を示す斜視図である。
【図9】第6実施例の要部を示す斜視図である。
【図10】第7実施例の要部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るレーザ走査光学装置の実施例について添付図面を参照して説明する。なお、各図において、共通する部品、部分は同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
(レーザ走査光学装置の概略構成、図1参照)
まず、本発明が適用されるレーザ走査光学装置を概略的に説明する。このレーザ走査光学装置は、図1に示すように、主に、レーザダイオード1、コリメータレンズ2、ポリゴンミラー3、走査レンズ4,5、ミラー6にて構成したもので、これらの部材はハウジング7に搭載、収容されている。装置自体の基本的な構成は周知である。レーザダイオード1から放射されたビームは、ポリゴンミラー3によって主走査方向Yに等角速度で偏向され、ビームの整形機能、fθ機能、結像機能などの少なくともいずれかを有する走査レンズ4,5によって主走査方向Yの収差を補正され、感光体40上で結像した状態で露光/走査する。ちなみに、各図において、矢印Xはビームの進行方向を示し、矢印Zは副走査方向を示す。
【0013】
(第1実施例、図2及び図3参照)
以下に、前記走査レンズ4,5の取付け構造及び調整方法について第1実施例として説明する。具体的には走査レンズ5について説明するが、走査レンズ4についても同様である。また、他の形状の走査レンズにも妥当することは勿論である。
【0014】
走査レンズ5は、図2に示すように、前記ハウジング7に一体化されているホルダ11に上に二つの回転部材を介して取り付けられている。走査レンズ5は上方から板ばね31にて弾性的に押圧され、押圧箇所は回転部材20の回転軸と垂直方向において一致している。さらに、走査レンズ5はその一端をばね部材32によって矢印Ya方向に弾性的に押圧され、他端から調整ねじ33が当接することにより、矢印Yb方向に押圧される。即ち、走査レンズ5は調整ねじ33の進退によって主走査方向Yに位置調整される。この位置調整は、前記レーザダイオード1を発光させ、感光体40の相当位置でビームをモニタしつつ行われる。
【0015】
回転部材20は、図2及び図3に示すように、走査レンズ5の下面と接している第1の円弧部分20aと、ホルダ11に形成したV溝11aと接している第2の円弧部分20bとを有し、第2の円弧部分20bの半径D2よりも第1の円弧部分20aの半径D1が大きい。第1の円弧部分20aは断面円形の大径軸部21の一部であり、第2の円弧部分20bは断面円形の小径軸部22の一部である。軸部21,22は中心軸を同じにし、小径軸部22は大径軸部21の両側に形成されている。ホルダ11のV溝11aは主走査方向Yに対して直交する方向(光軸方向X)に形成されている。回転部材20は、小径軸部22がV溝11aに、主走査方向Yに位置を規制された状態で摺動回転自在に保持されている。
【0016】
以上の構成において、走査レンズ5は、板ばね31によって回転部材20に弾性的に押圧されている。ここで、走査レンズ5と大径軸部21との接点Aの摩擦係数をμ1、押圧力をFとすると、調整による走査レンズ5の主走査方向Yへの移動により、摩擦力μ1×F=F1が生じる。また、V溝11aと小径軸部22との接点Bの摩擦係数をμ2、V溝11aの角度をθとすると、同様に、摩擦力F×cos(θ/2)×μ2=F2/2が生じる。軸部21,22のそれぞれの半径はD1,D2であるので、それぞれの摩擦力F1,F2で生じる回転モーメントは、それぞれF1×D1,F2×D2となる。
【0017】
走査レンズ5、回転部材20及びホルダ11はいずれも樹脂材から成形されており、前記摩擦係数μ1,μ2は0.2から0.5程度で、μ1≒μ2である。また、V溝11aの角度θは90°とされている。その結果、F1≒F2あるいはF1<F2(但し、F2はF1の数割程度大きい)となる。この状態で、接点A,Bにおける半径D1,D2が同じであれば、走査レンズ5の調整による主走査方向Yへの移動に伴う摩擦力で接点A,Bはいずれも滑りにくく、結果として走査レンズ5に歪みを生じることになる。
【0018】
ここで、D1>D2とし、F1>F2×D2÷D1という関係が成立すれば、V溝11aと小径軸部22との接点Bのほうが走査レンズ5と大径軸部21との接点Aよりも滑りやすくなり、接点Aは滑ることなく回転部材20がV溝11a内で摺動回転することになる。これにて、歪みを生じさせることなく走査レンズ5を主走査方向Yに位置調整することが可能になる。この場合、軸部21,22は回転軸が移動することなく回転するため、回転部材20と板ばね31との位置関係が変化することはなく、この点でも走査レンズ5に歪みが生じることはない。
【0019】
なお、D1<D2では、走査レンズ5側の接点Aが滑ることになり、走査レンズ5に歪みが生じる。あるいは、半径D2のほうが大きいので、走査レンズ5の有効光学領域に半径D2の軸部22が干渉してしまうなどの不具合を生じる。
【0020】
走査レンズ5は前記位置調整の後、ホルダ11との間の適宜箇所に接着剤を充填、硬化させることにより、ホルダ11に固定される。この場合、位置調整に用いたばね部材32や調整ねじ33は取り外してもよい。
【0021】
(第2実施例、図4参照)
第2実施例は、図4に示すように、二つの大径軸部21の間に小径軸部22を設けた回転部材20を用いたものである。二つの大径軸部21によって計4点で走査レンズ5を安定して保持することができる。第2実施例におけるその他の作用効果は前記第1実施例と同様である。
【0022】
(第3実施例、図5参照)
第3実施例は、図5に示すように、走査レンズ5の一端側を第1実施例で用いた回転部材20で保持し、他端側を第2実施例で用いた回転部材20で保持するようにしたものである。走査レンズ5を計3点で安定して保持することができる。第3実施例におけるその他の作用効果は第1実施例と同様である。
【0023】
(第4実施例、図6及び図7参照)
第4実施例は、図6及び図7に示すように、上部に位置する第1の円弧部分25a及び下部に位置する第2の円弧部分25bを同軸の断面半円弧形状に形成した回転部材25を用いたものである。この回転部材25においても、F1>F2×D2÷D1という関係が成立すれば、ホルダ11に形成したV溝11aと第2の円弧部分25bとの接点Bのほうが走査レンズ5と第1の円弧部分25aとの接点Aよりも滑りやすくなり、接点Aは滑ることなく回転部材25がV溝11a内で摺動回転することになる。それゆえ、第4実施例の作用効果は第1実施例と同様である。
【0024】
なお、回転部材25は接点A,Bとなる円弧部分25a,25bが前記回転部材20の円弧部分20a,20bよりも短い。走査レンズ5の主走査方向Yへの調整(移動)量は微小であるため、円弧部分は半円形状であっても支障はない。
【0025】
(第5〜第7実施例、図8〜図10参照)
ここに示す第5〜第7実施例は、いずれも、回転部材のホルダ部分を前記ハウジング7のプレート部8に形成した溝部としたものである。
【0026】
第5実施例(図8参照)は、第2実施例で用いた回転部材20をプレート部8に形成した溝部15に摺動回転自在に保持したものである。第6実施例(図9参照)は、第2実施例で用いた回転部材20と第3実施例で用いた回転部材20をプレート部8に形成した溝部15,16に摺動回転自在に保持したものである。第7実施例(図10参照)は、第4実施例で用いた回転部材25をプレート部8に形成した溝部17に摺動回転自在に保持したものである。
【0027】
(他の実施例)
なお、本発明に係るレーザ走査光学装置は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更することができる。
【0028】
特に、光源光学系、走査光学系の構成、配置などは任意である。回転部材やホルダ(溝部)の詳細な構造、形状なども任意である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上のように、本発明は、レーザ走査光学装置に有用であり、特に、光学素子の位置調整時に光学素子に歪みが発生することを抑制できる点で優れている。
【符号の説明】
【0030】
1…レーザダイオード
3…ポリゴンミラー
4,5…走査レンズ
11…ホルダ
20,25…回転部材
20a,20b,25a,25b…円弧部分
21…大径軸部
22…小径軸部
40…感光体
A,B…接点
Y…主走査方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビームを結像、整形及び/又は収差補正する光学素子をホルダ上に回転部材を介して取り付け、前記光学素子を前記ホルダ側に弾性的に押圧しつつ前記回転部材上で主走査方向に移動させて位置調整されたレーザ走査光学装置において、
前記回転部材はその回転軸が主走査方向と直交する方向に配置されるとともに前記ホルダに主走査方向の位置を規制された状態で摺動回転可能に保持されており、
前記回転部材は前記光学素子と接している第1の円弧部分と前記ホルダと接している第2の円弧部分とを有し、第2の円弧部分の半径よりも第1の円弧部分の半径が大きいこと、
を特徴とするレーザ走査光学装置。
【請求項2】
第1の円弧部分及び第2の円弧部分が、同軸の断面円形の軸部として形成されていること、を特徴とする請求項1に記載のレーザ走査光学装置。
【請求項3】
第1の円弧部分及び第2の円弧部分が、同軸の断面半円弧形状に形成されていること、を特徴とする請求項1に記載のレーザ走査光学装置。
【請求項4】
前記光学素子と第1の円弧部分との静止摩擦力をF1、第1の円弧部分の半径をR1、前記ホルダと第2の円弧部分との静止摩擦力をF2、第2の円弧部分の半径をR2とするとき、以下の関係式を満足すること、
F1>F2×D2÷D1
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のレーザ走査光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−221323(P2011−221323A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91147(P2010−91147)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】