説明

レーザ走査型顕微鏡

【課題】簡単かつ安価な構成で、明るく、かつ、波長分解能の高い分光検出ができるレーザ走査型顕微鏡を提供する。
【解決手段】レーザ光を射出する光源装置10と、射出されたレーザ光を走査するXYガルバノスキャナ22と、走査されたレーザ光を標本Aに照射する一方、標本Aからの光を集光する対物レンズ45と、集光された標本Aからの光を複数の波長帯域に分散する透過型の回折格子と、分散された光を検出する光検出部36と、標本Aからの光の回折格子への入射角を変化させるガルバノメータとを備え、ガルバノメータは、光検出部36により検出される複数の波長帯域の光がブラッグの反射条件をそれぞれ満たすように、標本Aからの光の回折格子への入射角を、各検出波長帯域毎に変化させるレーザ走査型顕微鏡1を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ走査型顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、表面反射型の回折格子と、1次元に配列された32個のセルよりなるマルチチャンネルPMTとを備えるレーザ走査型顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、回転可能な表面反射型の回折格子と、スリット幅を可変な可変スリットと、0次元検出器とを備えるレーザ走査型顕微鏡が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−185581号公報
【特許文献2】特開2006−010944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されているレーザ走査型顕微鏡は、ピクセル毎の蛍光分光データを測定し、色素毎の参照スペクトルを用いて演算処理を行うことでクロストークの大きい複数蛍光を分離している。
【0005】
しかしながら、波長分解能を上げると1個のセルで検出する検出光量が少なくなってS/Nが悪化してしまう。また、1個のセルで取込む波長幅を広くすると、明るくなるが波長分解能が低下してしまう。したがって、1個のセルで、10nm幅程度の波長域を検出するようにしており、波長分解能が悪いという不都合がある。また、マルチチャンネル検出器は、電気系も含め高価で制御系が複雑化する。さらに、反射型の回折格子は、回折効率が低く、最も効率が良い波長でも70%程度の回折効率であるため、検出する光量が低下してしまうという不都合がある。
【0006】
特許文献2に開示されているレーザ走査型顕微鏡は、回転可能な表面反射型の回折格子と可変スリットにより、1回で取込む波長幅と、波長領域を任意に設定することが可能である。例えば、スリット幅を波長幅10nmに設定し、回折格子の回転ピッチの波長送りを2nmに設定することで、明るさと波長分解能の両立を実現している。
【0007】
しかしながら、可変スリットのスリット幅と回折格子の回転角を正確に合わせないと正しいデータを取得できないので、調整が困難であり、且つ装置が複雑化するという不都合がある。また、可変スリットと回折格子の両方を同期制御する必要があり、システムが高価となるという不都合がある。さらに、反射型の回折格子は、取込める波長領域は広いが回折効率が低く、最も効率が良い波長でも70%程度の回折効率であるため、検出する光量が低下してしまうという不都合がある。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、波長幅を切り出すスリットや、高価なマルチチャンネル検出器を用いることなく、簡単かつ安価な構成で、明るく、かつ、波長分解能の高い分光検出ができるレーザ走査型顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、レーザ光を射出するレーザ光源と、該レーザ光源から射出されたレーザ光を走査する走査部と、該走査部により走査されたレーザ光を標本に照射する一方、前記標本からの光を集光する対物レンズと、該対物レンズにより集光された前記標本からの光を複数の波長帯域に分散する透過型のVolume Phase Holographic(VPH)回折格子と、該VPH回折格子により分散された光を検出する光検出部と、前記標本からの光の前記VPH回折格子への入射角を変化させる入射角度変更手段とを備え、前記入射角度変更手段は、前記光検出部により検出される複数の波長帯域の光がブラッグの反射条件をそれぞれ満たすように、前記標本からの光の前記VPH回折格子への入射角を、各検出波長帯域毎に変化させるレーザ走査型顕微鏡を採用する。
【0010】
本発明によれば、レーザ光源から射出されたレーザ光が走査部により標本上において走査され、標本からの光が対物レンズにより集光される。この標本からの光は、透過型のVolume Phase Holographic(VPH)回折格子により複数の波長帯域に分散され、光検出部により検出される。この際、入射角度変更手段により、標本からの光のVPH回折格子への入射角が変化させられることで、標本からの光の分散状態が変化する。この場合において、光検出部により検出される複数の波長帯域の光のそれぞれについて、ブラッグの反射条件を満たすように、標本からの光のVPH回折格子への入射角が変化させられる。なお、ブラッグの反射条件とは、以下の式を満たす条件をいい、この条件において高い回折効率を得ることができ、強度の高い光を検出することができる。
2dsinΘ=nλ
ここで、dはVPH回折格子の周期、Θは標本からの光のVPH回折格子への入射角、nは整数、λは波長である。
【0011】
したがって、波長帯域毎にブラッグの反射条件を満たすように標本からの光のVPH回折格子への入射角を変化させることで、強度の高い標本からの光を波長帯域毎に検出することができる。
以上のように、本発明によれば、波長幅を切り出すスリットや、高価なマルチチャンネル検出器を用いることなく、簡単かつ安価な構成で、明るく、かつ、波長分解能が高い分光検出を行うことができる。
【0012】
上記発明において、前記入射角度変更手段が、前記VPH回折格子による分散方向に直交する軸線回りに前記VPH回折格子を回転させることとしてもよい。
VPH回折格子を分散方向に直交する軸線回りに回転させることで、標本からの光のVPH回折格子への入射角が変化する。この際、光検出部により検出される複数の波長帯域の光のそれぞれについて、ブラッグの反射条件を満たすように、VPH回折格子を軸線回りに回転させることで、高い回折効率を得ることができ、強度の高い光を検出することができる。
【0013】
上記発明において、前記光検出部により検出する波長帯域の中心波長に合わせて、前記入射角度変更手段を駆動させる制御部と、前記入射角度変更手段の動作に同期して、前記レーザ光の波長を選択する波長選択手段とを備えることとしてもよい。
このようにすることで、光検出部により検出する波長帯域の中心波長に合わせて、ブラッグの反射条件を満たす波長の光を切り替えるとともに、この切り替えに同期してレーザ光の波長を切り替えることができる。これにより、波長選択用スリットや、マルチチャンネルPMTや、反射型回折格子を用いないで、VPH回折格子により分散された波長毎に標本からの光を検出することができ、多重染色画像を容易に取得することができる。また、検出する波長帯域の中心波長の回折効率が最大となるようにVPH回折格子への入射角を変更することで、従来の反射型回折格子を用いたものに比べて回折効率を向上させることができ、明るい画像を取得することができる。
【0014】
上記発明において、等間隔ピッチで検出波長を時系列的に切り替えて画像を取得(λスキャン)し、各前記画像において対応するピクセルの輝度変化を用いて、ピクセル毎の分光データを取得することとしてもよい。
このようにすることで、分光データを細かく取得できるので、クロストークが大きい色素についても分離が可能である。
【0015】
上記発明において、前記光検出部により検出される光の中心波長のピッチが、前記VPH回折格子の回折効率が50%における波長幅よりも狭く設定されていることとしてもよい。
このようにすることで、VPH回折格子の回折効率を向上させることができ、明るい画像を取得することができる。
【0016】
上記発明において、前記VPH回折格子の回折効率が50%における波長幅が、複数の蛍光色素の蛍光スペクトルのうち、バンド幅が最も狭い蛍光スペクトルの半値幅よりも狭く設定されていることとしてもよい。
VPH回折格子の一つの回転角での分光特性の回折効率の半値幅は、各蛍光色素のうちバンド幅が最も狭い蛍光色素のバンドの半値幅よりも狭いほうが良く、特に、半分以下が好ましい。
【0017】
上記発明において、λスキャンの波長ピッチが、複数の蛍光色素のうちピーク波長の中心間隔が最も狭い間隔の半分以下に設定されていることとしてもよい。
λスキャンの波長ピッチは、複数の蛍光スペクトルのうち、ピーク間隔が最も狭い間隔の半分以下が好ましい。
【0018】
上記発明において、前記入射角度変更手段による前記標本からの光の入射角度の切り替えを前記走査部による走査に同期して行うこととしてもよい。
このようにすることで、検出波長毎の時間差を極めて少なくでき、動きのある標本を正確に捉えることができる。
【0019】
上記発明において、前記走査部の主走査方向のライン毎に、前記入射角度変更手段による前記標本からの光の入射角度の切り替えを行うこととしてもよい。
このようにすることで、効果的に入射角度の切り替えと走査部による走査とを同期させることができ、動きのある標本を正確に捉えることができる。
【0020】
上記発明において、前記VPH回折格子と前記VPH回折格子に入射する前記標本からの光の相対角度をブラッグの反射条件に合わせた場合における回折効率の逆数を、前記光検出部による検出データに波長毎に乗算することとしてもよい。
VPH回折格子と標本からの光の相対角度をブラッグの反射条件に合わせた場合における回折効率の逆数を、光検出部による検出データに波長毎に乗算することで、波長毎の回折効率の違いを補正することができ、正確な分光データを取得することができる。
【0021】
上記発明において、前記VPH回折格子と前記光検出部との間に、前記VPH回折格子から分散される光を前記光検出部の有効受光面に集光する集光光学系を備えることとしてもよい。
このようにすることで、VPH回折格子から分散される光を光検出部の有効受光面に集光させることができ、標本からの光の検出効率を向上させて明るい画像を取得することができる。
【0022】
上記発明において、前記集光光学系が、前記分散方向にのみ前記標本からの光を集光するシリンドリカルレンズであることとしてもよい。
集光光学系をシリンドリカルレンズとすることで、VPH回折格子による分散方向にのみ標本からの光を集光することができ、効率的に光検出部の有効受光面に集光させることができる。
【0023】
上記発明において、前記VPH回折格子、前記入射角度変更手段、および前記光検出部から構成される分光ユニットと、前記標本からの光のうち検出する波長を選択可能な検出系を含むメインスキャンユニットとを備え、前記分光ユニットと前記メインスキャンユニットとが着脱可能に構成されていることとしてもよい。
このようにすることで、光検出部と検出系のいずれか、あるいは両方で標本からの光を検出することができ、同時に多色の光を検出することができる。また、上記構成を有する分光ユニットをメインスキャンユニットに後付け可能な構成とすることで、明るくかつ安価な分光検出手段を容易に付加できる。すなわち、メインスキャンユニットを備えたレーザ走査型顕微鏡を、標本からの光を各蛍光波長帯域毎に対して効率よく検出することができ、波長分解能が高い多重染色標本の観察を行うようにアップグレードすることができる。
【0024】
上記発明において、前記VPH回折格子を直進する光(0次光)を検出する第2の光検出部を備えることとしてもよい。
このようにすることで、第2の光検出部により広帯域の光を一度に検出するモードと、VPH回折格子による比較的狭い波長帯域(例えば10〜20nm)の光を検出するモードの両方を行うことができ、これらモードの切り換えを、入射角度変更手段により行うことができる。
【0025】
上記発明において、前記VPH回折格子を直進する光(0次光)を、前記光検出部に再入力する再入力手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、VPH回折格子により回折される光とVPH回折格子を直進する光の両方を1つの光検出部で検出することができ、高価な光検出部(例えばPMT)を1個削減できる。なお、再入力手段としては、例えば、VPH回折格子を直進する光を光検出部の受光面に向けて反射するミラーを用いればよい。
【0026】
上記発明において、前記光検出部が、ノンディスキャン検出器であり、前記入射角度変更手段により前記VPH回折格子への入射角を変化させながら、前記ノンディスキャン検出器により前記標本からの光から複数の画像を生成し、該複数の画像間のピクセルデータを結合することとしてもよい。
このようにすることで、VPH回折格子への入射角を変化させながらノンディスキャン検出器により取得した各画像における対応するピクセルのデータを結合することで、ピクセル毎の分光データを取得することができる。
【0027】
上記発明において、前記入射角度変更手段は、前記VPH回折格子に入射する検出光の角度を可変する反射ミラーであり、該反射ミラーと前記光検出部とが、前記VPH回折格子を挟んで略対称の位置に配置されていることとしてもよい。
このようにすることで、ミラーを回転させることにより、VPH回折格子を回転させる場合よりも高速な波長切換に対応することができる。また、回折効率が最大となる波長はブラッグ反射し、光検出部上の1点に集まるので、光検出部の受光面積を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、簡単かつ安価な構成で、明るく、かつ、波長分解能の高い分光検出ができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡の概略構成図である。
【図2】図1の波長選択装置周辺の部分拡大図である。
【図3】図1の回折格子の断面図である。
【図4】図1の回折格子により回折される光を説明する図である。
【図5】図4の中心波長毎のVPH回折格子回転角と絶対出射角を示すグラフである。
【図6】回折効率と波長帯域との関係を示すグラフである。
【図7】ブラッグ反射条件を満たす波長における分光特性を示すグラフである。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡の概略構成図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡の概略構成図である。
【図10】図9の波長選択装置周辺の部分拡大図である。
【図11】図10の変形例に係る波長選択装置周辺の部分拡大図である。
【図12】本発明の第4の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡の概略構成図である。
【図13】本発明の第5の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡の概略構成図である。
【図14】図13のレーザ走査型顕微鏡において画像右端の入射光(420nm)がブラッグ反射する際の状態を説明する図である。
【図15】図14の状態におけるデータ取得領域を説明する図である。
【図16】図13のレーザ走査型顕微鏡において画像中心の入射光(420nm)がブラッグ反射する際の状態を説明する図である。
【図17】図16の状態におけるデータ取得領域を説明する図である。
【図18】図13のレーザ走査型顕微鏡において画像左端の入射光(420nm)がブラッグ反射する際の状態を説明する図である。
【図19】図18の状態におけるデータ取得領域を説明する図である。
【図20】図13のレーザ走査型顕微鏡において画像左端の入射光(560nm)がブラッグ反射する際の状態を説明する図である。
【図21】図20の状態におけるデータ取得領域を説明する図である。
【図22】図13のレーザ走査型顕微鏡において画像左端の入射光(700nm)がブラッグ反射する際の状態を説明する図である。
【図23】図22の状態におけるデータ取得領域を説明する図である。
【図24】図13のレーザ走査型顕微鏡において各画素におけるデータ取得領域を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1は、図1に示されるように、レーザ光を射出する光源装置10と、光源装置10からのレーザ光を走査するスキャンユニット20と、結像レンズ41およびミラー42を有し、スキャンユニット20からのレーザ光を導光する接続ユニット40と、接続ユニット40により導光されたレーザ光を標本Aに照射するとともに標本Aからの光を集光する対物レンズ45と、これらを制御する制御ユニット50とを備えている。
【0031】
光源装置10は、例えば中心波長560nmのレーザ光を発するレーザ光源11と、例えば中心波長488nmのレーザ光を発するレーザ光源12と、例えば中心波長405nmのレーザ光を発するレーザ光源13と、これらレーザ光源からのレーザ光の光路を合成するダイクロイックミラー14と、射出するレーザ光の波長を切り替えるAOTF(Acousto-optic tunable filter)等の音響光学素子(波長選択手段)15とを備えている。
【0032】
光源装置10とスキャンユニット20とは、例えば可視用シングルモードファイバ19により接続され、光源装置10からのレーザ光がスキャンユニット20に導光される。
スキャンユニット20は、光源装置10からのレーザ光を標本Aに照射する照射光学系25と、標本Aからの光を検出する検出光学系30とを備えている。
【0033】
照射光学系25は、光源装置10からのレーザ光を反射する一方、標本Aからの光を透過するダイクロイックミラー21と、ダイクロイックミラー21により反射されたレーザ光を標本A上で2次元走査するXYガルバノスキャナ(走査部)22と、レーザ光の瞳を投影する瞳投影レンズ23とを備えている。
【0034】
検出光学系30は、ダイクロイックミラー21を透過してきた標本Aからの光を共焦点ピンホール32に集光する共焦点レンズ31と、標本Aの焦点位置からの光のみを通過させる共焦点ピンホール32と、共焦点ピンホール32を通過してきた標本Aからの光を平行光にするコリメートレンズ33と、コリメートレンズ33により平行光にされた標本Aからの光のうち光源装置10からのレーザ光等の不要な成分を遮断するノッチフィルタ34と、ノッチフィルタ34を透過してきた標本Aからの光を複数の波長帯域から所定の波長帯域の光を選択する波長選択装置35と、波長選択装置35により選択された波長帯域の光を検出する光検出部36とを備えている。
【0035】
波長選択装置35は、図2に示すように、ノッチフィルタ34を透過してきた標本Aからの光を複数の波長帯域に分散する透過型の回折格子37と、回折格子37を保持し、回折格子37を標本Aからの光の分散方向(図2において紙面に沿う方向)に直交する軸線回りに回転させるガルバノメータ(入射角度変更手段)38とを備えている。
【0036】
回折格子37は、図3に示すように、透過型のVPH(Volume Phase Holographic)回折格子である。
透過型のVPH回折格子は、媒質の屈折率を周期的に変化させたもので、ブラッグの反射条件を満たす波長において高い回折効率が得られ、その他の波長においては殆ど回折しないようにすることができる。
例えば白色光Wに対する回折格子37の向きを回転調整することで、ブラッグの反射条件に合った波長の光を効率的に取り出せる。具体的には、図3に示すように、回折格子37が符号Rに示す位置にある場合には赤の波長の光が矢印Rに示す方向に射出し、回折格子37が符号Gに示す位置にある場合には緑の波長の光が矢印Gに示す方向に射出し、回折格子37が符号Bに示す位置にある場合には青の波長の光が矢印Bに示す方向に射出する。
なお、1次回折光として得られる光(矢印R,G,Bの向きにそれぞれ射出される光)の波長幅は、回折格子37の厚みによって変化し、厚みが厚いほど波長幅が狭くなるので、所望の波長幅となるように厚みを選択する。
【0037】
ガルバノメータ38は、制御ユニット50からの指示に基づいて、回折格子37を標本Aからの光の分散方向に直交する軸線回りに回転させるようになっている。具体的には、ガルバノメータ38は、光検出部36により検出する波長帯域の中心波長に合わせて駆動され、光検出部36により検出される複数の波長帯域の光がブラッグの反射条件をそれぞれ満たすように、回折格子37を軸線回りに回転させるようになっている。ここで、ブラッグの反射条件とは、以下の式を満たす条件をいい、この条件において高い回折効率が得られる。
2dsinΘ=nλ
上記の式において、dは回折格子37の周期、Θは標本Aからの光の回折格子37への入射角、nは整数、λは波長である。透過型のVPH回折格子では、n=1の時に高い回折効率が得られる。
【0038】
光検出部36は、例えばPMT(Photomultiplier Tube:光電子増倍管)である。光検出部36として、サイドオン型PMTを用いる場合は、軸方向の感度ユニフォミティが比較的緩いので、軸方向を分散方向に合わせて配置する。
【0039】
ここで、光検出部36の受光面は、分散した波長を全て受光できる受光面の大きさおよび角度ユニフォミティが必要である。ただし、受光面の大きさ、角度ユニフォミティに問題があれば、シリンドリカルレンズ等の集光光学系を配置することで、受光面に対する大きさを調節することができる。
【0040】
そこで、波長選択装置35と光検出部36との間には、図2に示すように、波長選択装置35により選択された波長帯域の光を、その分散方向にのみ集光するシリンドリカルレンズ(集光光学系)39が配置されている。このシリンドリカルレンズ39の作用により、波長選択装置35により分散された複数の波長帯域の光を光検出部36に集光させることができ、光検出部36の受光面を小さくすることができる。
【0041】
制御ユニット50は、XYガルバノスキャナ22、音響光学素子15、ガルバノメータ38、および光検出部36を同期制御するようになっている。具体的には、制御ユニット50は、XYガルバノスキャナ22の走査位置と光検出部36により検出される標本Aからの光の強度とに基づいて標本Aの画像を生成するようになっている。また、制御ユニット50は、光検出部36により検出する波長帯域の中心波長に合わせて、音響光学素子15によりレーザ光の波長を切り替えるとともに、ガルバノメータ38を駆動させて回折格子37への入射角を変化させるようになっている。
【0042】
上記のようにガルバノメータ38を動作させた場合の、光検出部36により検出される標本Aからの光の作用について、具体例を用いて以下に説明する。
図4において、符号αは、回折格子37の回転角(以下「VPH回折格子回転角」という)、すなわち入射光に対する回折格子37の法線(以下「VPH回折格子法線」という)の角度である。符号βは、VPH回折格子法線に対する1次回折光の出射角度である。符号γは、絶対出射角、すなわち入射光(0次光)に対する1次回折光の出射角度である。
【0043】
図5は、中心波長毎のVPH回折格子回転角αと絶対出射角γとの関係を示している。図5において、VPH回折格子回転角αは、ブラッグの反射条件を満たす波長毎の回転角を示している。
【0044】
回折格子37の厚みは、1次回折光として回折可能な波長範囲を決めるものである。すなわち、回折格子37の屈折率分布の厚みを調節することで、角度に対する回折効率の高い波長範囲を調節することができる。ここでは、例えば、回折格子37の格子間隔を1200本/mm、回折格子37の屈折率分布の厚みを120μm程度にすることで、図6に示すように、回折効率50%で波長幅が約10nm、回折効率ほぼ0%で波長幅が約20nmとしている。なお、サイドロープは、強度が弱いので無視できるものとする。
【0045】
つまり、回折格子37の回転角を、15.7°に設定すると図6の実線に示す回折効率となり、19.3°に設定すると図6の点線に示す回折効率となり、23°に設定すると図6の二点鎖線に示す回折効率となる。各中心波長に対する回折効率の特性は、図6の曲線51のように表わされる。
【0046】
上記構成を有するレーザ走査型顕微鏡1の作用について以下に説明する。
ここでは、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1を用いて、光検出部36により標本Aの蛍光観察を行う場合について説明する。
まず、光源装置10を作動させ、スキャンユニット20にレーザ光を入射させる。スキャンユニット20に導光されたレーザ光は、ダイクロイックミラー21により反射されてXYガルバノスキャナ22に導光される。XYガルバノスキャナ22では、レーザ光を標本A上において2次元的に走査させる。このように走査されたレーザ光は、瞳投影レンズ23および結像レンズ41を透過してミラー42により偏向され、対物レンズ45により標本A上に照射される。
【0047】
標本A上の対物レンズ45の焦点面においては、標本A内の蛍光物質が励起され、蛍光が発生する。発生した蛍光は、対物レンズ45により集光され、ミラー42、結像レンズ41、瞳投影レンズ23を介して、XYガルバノスキャナ22に導光される。XYガルバノスキャナ22を通過した蛍光は、ダイクロイックミラー21を透過し、共焦点レンズ31により集光され、標本Aの焦点面において発生した蛍光のみが共焦点ピンホール32を通過する。共焦点ピンホール32を通過した蛍光は、コリメートレンズ33により平行光にされ、ノッチフィルタ34を透過することで不要な励起光の波長がカットされる。ノッチフィルタ34を透過してきた蛍光は、波長選択装置35によりブラッグの反射条件を満たす蛍光波長帯域が選択されて、光検出部36により検出される。
【0048】
このように光検出部36により検出された蛍光の強度情報とXYガルバノスキャナ22によるレーザ光の照射位置とを対応づけて記憶することにより、2次元的な蛍光画像を構築することが可能となる。
【0049】
上記の画像取得方法において、光検出部36により検出する光を切り替えて多重染色画像を取得する際の処理について説明する。
前提条件として、蛍光色素DAPI(405nm励起/450nm検出)、蛍光色素Alexa488(488nm励起/530nm検出)、蛍光色素Alexa560(560nm励起/580nm検出)で3重染色された標本Aの観察を行う。この場合において、ノッチフィルタ34として、405nm、488nm、560nmの波長の光をカットする特性のものを用いる。
【0050】
まず、音響光学素子15でレーザ波長を405nmに設定する。
この場合には、中心波長450nmの光が回折効率最大となるようにガルバノメータ38を駆動することで、VPH回折格子回転角α(15.7°)を設定し、XYガルバノスキャナ22を動作させて画像を取得する(DAPIの画像)。
【0051】
次に、音響光学素子15でレーザ波長を488nmに設定する。
この場合には、中心波長530nmの光が回折効率最大となるようにガルバノメータ38を駆動することで、VPH回折格子回転角α(18.5°)を設定し、XYガルバノスキャナ22を動作させて画像を取得する(Alexa488の画像)。
【0052】
次に、音響光学素子15でレーザ波長560nmを設定する。
この場合には、中心波長580nmの光が回折効率最大となるようにガルバノメータ38を駆動することで、VPH回折格子回転角α(20.4°)を設定し、XYガルバノスキャナ22を動作させて画像を取得する(Alexa560の画像)。
そして、上記のように取得した3つのモノクロ画像に擬似カラーをつけて、多チャンネル画像として表示する。
【0053】
以上のように、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1によれば、それぞれの蛍光色素毎の検出波長帯域に合わせて、ブラッグの反射条件を満たすようにガルバノメータ38を動作させ、回折格子37を軸線回りに回転させることで、標本Aからの光を各蛍光波長帯域毎に対して効率よく検出することができる。すなわち、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1によれば、波長幅を切り出すスリットや、高価なマルチチャンネル検出器を用いることなく、簡単かつ安価な構成で、明るく、かつ、波長分解能が高い多重染色標本の観察を行うことができる。
【0054】
また、回折格子37は、透過型のVPH回折格子であり、かつ、検出波長帯域毎にブラッグの反射条件を満たすようにしているので、反射型の回折格子37に比べて、光検出部36により検出する光量を増大させることができ、明るい多重染色画像を取得することができる。
【0055】
[第1の変形例]
以下に、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1の第1の変形例について説明する。
本変形例における、光検出部36により検出する光の波長を順次切り替えてλスキャンを行う際の処理について以下に説明する。
前提条件として、蛍光色素GFPと蛍光色素YFPにより2重染色された標本Aの観察を行う。この場合において、ノッチフィルタ34として488nmの波長の光カットする特性のものを用い、ダイクロイックミラー21は例えば素ガラスを使用する。
【0056】
まず、音響光学素子15でレーザ波長を488nmに設定する。
この場合には、中心波長500nmの光が回折効率最大となるようにガルバノメータ38を駆動することで、VPH回折格子回転角α(17.5°)を設定し、XYガルバノスキャナ22を動作させて画像を取得する。
【0057】
次に、中心波長502nmの光が回折効率最大になるようにガルバノメータ38を駆動することで、VPH回折格子回転角αを設定し、XYガルバノスキャナ22を動作させて画像を取得する。
以下、検出する光の中心波長を2nmずつずらしながら、回折効率が最大となるVPH回折格子回転角αを設定して画像取得を繰返す。これらの動作を制御ユニット50により時系列的に切り替えながら行う。
【0058】
上記のように取得したピクセル毎の分光データを基に、例えば特開2003−185581号公報に記載のアンミキシング処理を施すことで、蛍光色素GFPと蛍光色素YFPとを分離して、多チャンネル画像として表示する。
【0059】
本変形例に係るレーザ走査型顕微鏡1によれば、前述の効果に加えて、回折格子37を回転させて分光データを細かく取得できるので、クロストークが大きい色素についても分離が可能である。特に、本変形例においては、回折格子37を回転させて、2nm刻みで分光データを取得できるので、クロストークが大きい色素の分離が可能である。
【0060】
[第2の変形例]
以下に、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1の第2の変形例について説明する。
本変形例においては、前述の画像を取得する際の処理において、ガルバノメータ38による回折格子37の回転角度の切り替えを、XYガルバノスキャナ22による走査に同期させ、XYガルバノスキャナ22の主走査であるXライン毎に行う。
このようにすることで、検出波長毎の時間差を極めて少なくでき、動きのある標本Aを正確に捉えることができる。
【0061】
[第3の変形例]
以下に、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1の第3の変形例について説明する。
前述の第1の実施形態では色素毎に1つの中心波長でのみ検出していたが、本変形例においては、色素の分光特性に合わせて複数の中心波長でデータ取得し、同じ色素のデータとして合算する。
このようにすることで、同じ色素のデータが合算されるので、各画像におけるS/Nを向上することができる。
【0062】
[第4の変形例]
以下に、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1の第4の変形例について説明する。
本変形例においては、回折格子37と回折格子37に入射する標本Aからの光の相対角度をブラッグの反射条件に合わせた場合における回折効率(図6における曲線51)の逆数を、波長毎に検出データに乗算する。
このようにすることで、波長毎の回折効率の違いを補正することができ、正確な分光データを取得することができる。
【0063】
[第5の変形例]
以下に、本実施形態の第1の変形例に係るレーザ走査型顕微鏡1の第5の変形例について説明する。
本変形例においては、図7に示すように、3種の蛍光(蛍光スペクトルA,B,C)をλスキャンして分光データを取得し、アンミキシング処理によりこれらの蛍光を分離する。
【0064】
この場合において、回折格子37の一つの回転角での分光特性の回折効率の半値幅は、以下に示すように、各蛍光色素の分光特性でバンド幅が最も狭い蛍光色素のバンドの半値幅よりも狭いほうが良い。
ΔλWS<ΔλWB
ここで、
ΔλWS:回折格子37の分光特性の回折効率50%地点の波長幅(半値幅)
ΔλWB:最もバンド幅が狭い、蛍光スペクトルBの分光特性の半値幅
【0065】
また、より好ましくは、回折格子37の一つの回転角での分光特性の回折効率の半値幅は、以下に示すように、各蛍光色素の分光特性でバンド幅が最も狭い蛍光色素のバンドの半値幅の半分以下が良い。
ΔλWS<ΔλWB/2
【0066】
また、λスキャンの波長ピッチは、以下に示すように、複数の蛍光スペクトルのピーク間隔で最も狭い間隔の半分以下が良い。
ΔλPS<Δλ/2
ここで、
ΔλPS:回折格子37によるλスキャンの波長ピッチ
Δλ:複数の蛍光スペクトルのうち、ピーク間隔が最も近い蛍光色素(蛍光スペクトルA、B間)のピーク波長間隔
【0067】
また、λスキャンの波長ピッチは、以下に示すように、回折格子37の一つの回転角の分光特性の回折効率の半値幅よりも狭いほうが良い。
ΔλWS>ΔλPS
【0068】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡について、図面を参照して説明する。本実施形態のレーザ顕微鏡装置2が第1の実施形態のレーザ顕微鏡装置1と異なる点は、標本からの光を導光する光路に検出ユニットを追加した点である。以下、本実施形態のレーザ顕微鏡装置2について、第1の実施形態のレーザ顕微鏡装置1と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0069】
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡2は、図8に示されるように、レーザ光を射出する光源装置10と、光源装置10からのレーザ光を走査するスキャンユニット(メインスキャンユニット)60と、スキャンユニット60からのレーザ光を導光する接続ユニット40(図示略)と、接続ユニット40により導光されたレーザ光を標本Aに照射するとともに標本Aからの光を集光する対物レンズ45(図示略)と、対物レンズ45により集光された標本Aからの光を分光する分光ユニット70と、これらを制御する制御ユニット50とを備えている。
【0070】
スキャンユニット60は、第1の実施形態のスキャンユニット20と同様の構成(ダイクロイックミラー21、XYガルバノスキャナ22、瞳投影レンズ23、共焦点レンズ31、共焦点ピンホール32、およびコリメートレンズ33)に加えて、コリメートレンズ33により平行光にされた標本Aからの光の一部または全部を分岐するダイクロイックミラー61,62と、ダイクロイックミラー61,62により分岐された標本Aからの光のうちレーザ光等の不要な成分を遮断するバリアフィルタ63,64と、バリアフィルタ63,64を透過してきた標本Aからの光をそれぞれ検出する光検出部65,66とを備えている。
【0071】
分光ユニット70は、第1の実施形態のスキャンユニット20と同様に、コリメートレンズ33により平行光にされた標本Aからの光のうち光源装置10からのレーザ光等の不要な成分を遮断するノッチフィルタ34と、ノッチフィルタ34を透過してきた標本Aからの光を複数の波長帯域に分散する波長選択装置35と、波長選択装置35によりブラッグの反射条件を満たす波長帯域の光を検出する光検出部36とを備えている。
【0072】
ダイクロイックミラー61,62は、検出する波長帯域によって、図示しない駆動機構により標本Aからの光の光路に挿脱されるようになっている。すなわち、光検出部65により標本Aからの光を検出する場合には、ダイクロイックミラー61を標本Aからの光の光路上に配置する。また、光検出部65により標本Aからの光を検出する場合には、ダイクロイックミラー61を標本Aからの光の光路上から外すとともに、ダイクロイックミラー62を標本Aからの光の光路上に配置する。また、光検出部36により標本Aからの光を検出する場合には、ダイクロイックミラー61,62を標本Aからの光の光路上から外す。
【0073】
あるいは、複数の光検出部により標本Aからの光を検出する場合には、ダイクロイックミラー61,62の少なくとも一方を標本Aからの光の光路上に配置する。例えば、ダイクロイックミラー61,62の両方を標本Aからの光の光路上に配置した場合には、光検出部65によりダイクロイックミラー61で反射された光を検出し、光検出部66によりダイクロイックミラー62で反射された光を検出し、光検出部36によりダイクロイックミラー61,62を透過した光を検出する。このようにすることで、3種類の蛍光色素を同時に検出することができる。
【0074】
上記構成を有する本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡2によれば、ダイクロイックミラー61,62を標本Aからの光の光路に挿脱することで、光検出部36,65,66のいずれか、あるいは光検出部36,65,66の複数で標本Aからの光を検出することができ、同時に多色の光を検出することができる。また、このような分光ユニット70をXYガルバノスキャナ22、光検出部65,66等を備えたスキャンユニット60に後付け可能な構成とすることで、明るくかつ安価な分光検出手段を容易に付加できる。すなわち、スキャンユニット60を備えたレーザ走査型顕微鏡2を、標本Aからの光を各蛍光波長帯域毎に対して効率よく検出することができ、波長分解能が高い多重染色標本の観察を行うようにアップグレードすることができる。
【0075】
なお、本実施形態において、標本Aからの光の一部を分岐する手段として、光路上に挿脱されるダイクロイックミラー61,62を用いたが、これに代えて、例えばミラーと素ガラスとを切り替えて光路上に配置する機構としてもよい。
【0076】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡について、図面を参照して説明する。本実施形態のレーザ顕微鏡装置3が第1の実施形態のレーザ顕微鏡装置1と異なる点は、回折格子37を透過してきた光(0次光)を検出する検出ユニットを追加した点である。以下、本実施形態のレーザ顕微鏡装置3について、第1の実施形態のレーザ顕微鏡装置1と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0077】
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡3は、図9に示されるように、レーザ光を射出する光源装置10と、光源装置10からのレーザ光を走査するスキャンユニット20と、スキャンユニット20からのレーザ光を導光する接続ユニット40(図示略)と、接続ユニット40により導光されたレーザ光を標本Aに照射するとともに標本Aからの光を集光する対物レンズ45(図示略)と、これらを制御する制御ユニット50とを備えている。
【0078】
スキャンユニット20は、光源装置10からのレーザ光を標本Aに照射する照射光学系25と、標本Aからの光を検出する検出光学系30とを備えている。
照射光学系25は、第1の実施形態と同様に、ダイクロイックミラー21と、XYガルバノスキャナ22と、瞳投影レンズ23とを備えている。
【0079】
検出光学系30は、第1の実施形態と同様の構成(共焦点レンズ31、共焦点ピンホール32、コリメートレンズ33、ノッチフィルタ34、波長選択装置35、および光検出部36)に加えて、回折格子37を透過してきた光(0次光)を検出する光検出部71とを備えている。
【0080】
図10に示すように、回折格子37を入射光に対して垂直に配置すると、ほとんどの波長の光が0次光として通り抜けてくる。したがって、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡3によれば、この0次光の射出方向に光検出部71を配置することで、光検出部71により広帯域の波長の光を一度に検出することができる。
【0081】
これにより、広帯域の光を一度に検出するモードと、透過型のVPH回折格子37による比較的狭い波長帯域(例えば10〜20nm)の光を検出するモードの両方を行うことができ、これらモードの切り換えを、回折格子37を回転駆動させるガルバノメータ38を用いて行うことができる。
【0082】
また、光検出部71により0次光を観察する場合は、ノッチフィルタ34の代わりに、例えば500〜600nmの透過帯域を持つ広帯域のバンドパスフィルタを設けることも有効である。
また、0次光を検出する光検出部71を利用して、ビデオAFをかけても良い。
また、光検出部71は、IR反射光でDICなどの検出を行っても良い。
【0083】
[変形例]
以下に、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡3の変形例について説明する。
本変形例においては、図11に示すように、光検出部71に代えて、回折格子37を透過する0次光を反射する反射ミラー72と、反射ミラー72により反射された0次光を光検出部36に向けて反射する反射ミラー73とを備えている。
【0084】
本変形例に係るレーザ走査型顕微鏡によれば、回折格子37を透過する0次光を、反射ミラー(再入力手段)72,73により反射して光検出部36に導光することができる。これにより、高価なPMT等の光検出部を1個削減して、製造コストを低減することができる。
【0085】
なお、本変形例に係るレーザ走査型顕微鏡において、1次光のみを検出する場合には、0次光が光検出部36に入らないように、回折格子37と反射ミラー72との間にシャッタを入れることとすれば良い。
【0086】
〔第4の実施形態〕
次に、本発明の第4の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡について、図面を参照して説明する。本実施形態のレーザ顕微鏡装置4が第1の実施形態のレーザ顕微鏡装置1と異なる点は、回折格子37を回転させるのではなく、回折格子37への入射角度を変化させる点である。以下、本実施形態のレーザ顕微鏡装置4について、第1の実施形態のレーザ顕微鏡装置1と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0087】
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡4は、図12に示されるように、レーザ光を射出する光源装置10と、光源装置10からのレーザ光を走査するスキャンユニット20と、スキャンユニット20からのレーザ光を導光する接続ユニット40(図示略)と、接続ユニット40により導光されたレーザ光を標本Aに照射するとともに標本Aからの光を集光する対物レンズ45(図示略)と、これらを制御する制御ユニット50とを備えている。
【0088】
スキャンユニット20は、光源装置10からのレーザ光を標本Aに照射する照射光学系25と、標本Aからの光を検出する検出光学系30とを備えている。
照射光学系25は、第1の実施形態と同様に、ダイクロイックミラー21と、XYガルバノスキャナ22と、瞳投影レンズ23とを備えている。
【0089】
検出光学系30は、第1の実施形態と同様の構成(共焦点レンズ31、共焦点ピンホール32、コリメートレンズ33、ノッチフィルタ34、回折格子37、および光検出部36)の他、ノッチフィルタ34を透過してきた標本Aからの光を反射する反射ミラー75と、反射ミラー75を保持して反射ミラー75を入射光に直交する軸線回りに回転させるガルバノメータ76とを備えている。
【0090】
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡4は、検出波長の中心に対する回折効率が最大となる入射角度を合わせる方法が他の実施形態とは異なり、回折格子37を回転させるのではなく、回折格子37の前段に配置した反射ミラー75をガルバノメータ76により回転させる。
【0091】
回折格子37は、ブラッグ反射する波長が最も回折効率が高くなるので、反射ミラー75と光検出部36を回折格子37に対して対称に配置することで、最大回折効率の光を検出することができる。
【0092】
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡4によれば、反射ミラー75を回転させることにより、回折格子37を回転させる場合よりも高速な波長切換に対応することができる。また、回折効率が最大となる波長はブラッグ反射して光検出部36上の1点に集まるので、光検出部36の受光面積を小さくすることができる。
【0093】
〔第5の実施形態〕
次に、本発明の第5の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡について、図面を参照して説明する。本実施形態のレーザ顕微鏡装置5が第1の実施形態のレーザ顕微鏡装置1と異なる点は、標本からの光をノンディスキャン検出するノンディスキャン検出ユニット80を備える点である。以下、本実施形態のレーザ顕微鏡装置5について、第1の実施形態のレーザ顕微鏡装置1と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0094】
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡5は、図13に示されるように、レーザ光を射出する光源装置10と、光源装置10からのレーザ光を走査するスキャンユニット20と、スキャンユニット20からのレーザ光を導光する接続ユニット40と、接続ユニット40により導光されたレーザ光を標本Aに照射するとともに標本Aからの光を集光する対物レンズ45と、標本Aからの光をノンディスキャン検出するノンディスキャン検出ユニット80と、これらを制御する制御ユニット50とを備えている。
【0095】
スキャンユニット20は、光源装置10からのレーザ光を標本Aに照射する照射光学系25と、標本Aからの光を検出する検出光学系30とを備えている。
照射光学系25は、第1の実施形態と同様に、ダイクロイックミラー21と、XYガルバノスキャナ22と、瞳投影レンズ23とを備えている。
【0096】
検出光学系30は、共焦点レンズ31と、共焦点ピンホール32と、コリメートレンズ33と、ノッチフィルタ34と、光検出部86とを備えている。
接続ユニット40は、結像レンズ41と、光源装置10からのレーザ光を反射する一方、標本Aからの光を透過するダイクロイックミラー87を備えている。
【0097】
ノンディスキャン検出ユニット80は、ダイクロイックミラー87を透過した標本Aからの光から光源装置10からのレーザ光等をカットするIRカットフィルタ81と、結像レンズ82と、反射ミラー83と、瞳投影レンズ84と、回折格子37およびガルバノメータ38を有する波長選択装置35と、シリンドリカルレンズ39と、光検出部36とを備えている。
【0098】
ここでは、上記構成を有するレーザ走査型顕微鏡5の詳細な構成について具体例を挙げて説明する。
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡5は、多光子励起により生じた蛍光を、XYガルバノスキャナ22に戻さずノンディスキャン検出し、回折格子37を用いて、420〜700nmの波長帯域まで分光検出する。
【0099】
光源装置10から射出されるレーザ光は、標本Aに多光子励起を生じさせるIRパルスレーザであり、720〜1000nmまでの波長のチューニングが可能である。
XYガルバノスキャナ22の光軸と対物レンズ45の光軸との交点には、ダイクロイックミラー87が配置されている。
【0100】
ダイクロイックミラー87は、光源装置10からのIRパルスレーザ光を反射し、400〜710nmの可視光を透過する特性を有している。
ダイクロイックミラー87の透過光路には、IRカットフィルタ81、結像レンズ82、反射ミラー83、瞳投影レンズ84、波長選択装置35、レンズ39、および光検出部36が配置されている。
【0101】
結像レンズ82と瞳投影レンズ84により、対物レンズ45の瞳は回折格子37に投影される。
回折格子37に入射する光は、瞳投影レンズ84により常に平行光となるが、XYガルバノスキャナ22による走査位置に応じて光軸に対する入射角度が変化する。
【0102】
具体的には、紙面内をX方向として走査による画像ピクセル数を512*512とすると、図14に示すように、画像左端(1ピクセル目)に対応する光線は符号91a、画像中心(256ピクセル目)に対応する光線は符号92a、画像右端(512ピクセル目)に対応する光線は符号93aのようになる。すなわち、XYガルバノスキャナ22による走査位置が、光軸中心から離れるに従って回折格子37に入射する光の入射角が大きくなる。
【0103】
この場合において、X方向の画像左端と右端にそれぞれ対応する光の回折格子37への入射角の差を、分光する波長の最短波長(本実施形態では420nm)と、最長波長(本実施形態では700nm)のブラッグの反射条件を満たす角度の差に合わせる。
【0104】
上記構成を有するレーザ走査型顕微鏡5の標本Aの観察方法について以下に説明する。
まず、図14に示すように、Xの画像右端(512ピクセル目)に対応する入射光93aが420nmの時に、ブラッグ反射する角度にVPH回折格子回転角(α1)を合わせてXYスキャンを行い、画像を取得する。この時、図15に示すように、画像右端(512ピクセル目)のデータを420nmのデータとして保存し、1〜511ピクセルのデータは廃棄する。
【0105】
その後、図16、図18、図20、図22に示すように、回折格子37の回転角を変化させながら、XY画像の取得を繰り返す。なお、各図の間に刻むVPH回折格子回転角αの可変ピッチは、必要な波長分解能に応じて決定すればよい。
【0106】
図16は、画像中心(256ピクセル目)入射光92aが420nmの時にブラッグ反射するVPH回折格子回転角(α2)である。この場合には、図17に示すように、画像中心(256ピクセル目)のデータが420nm、画像右端(512ピクセル目)のデータを560nmのデータとして保存し、1〜255ピクセル目までのデータは廃棄する。
【0107】
図18は、画像左端(1ピクセル目)入射光91aが420nmの時にブラッグ反射するVPH回折格子回転角(α3)である。この場合には、図19に示すように、画像左端(1ピクセル目)のデータが420nm、画像中心(256ピクセル目)のデータが560nm、画像右端(512ピクセル目)のデータを700nmのデータとして保存する。この場合には、廃棄するデータはない。
【0108】
図20は、画像左端(1ピクセル目)入射光が560nm(420nmと700nmの中間)の時にブラッグ反射するVPH回折格子回転角(α4)である。この場合には、図21に示すように、画像左端(1ピクセル目)のデータを560nmのデータとして保存し、画像中心(256ピクセル目)のデータを700nmのデータとして保存し、257〜512ピクセルのデータは廃棄する。
【0109】
図22は、画像左端(1ピクセル目)の入射光が700nmの時にブラッグ反射するVPH回折格子回転角(α5)であり、画像左端(1ピクセル目)のデータを700nmのデータとして保存する。この場合には、図23に示すように、2〜512ピクセルのデータは廃棄する。
【0110】
上記の標本Aの観察方法の動作をまとめた図が図24に示されている。
図24の矢印95に示すように、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡5によれば、各取得画像のX方向において同一ピクセルのデータをまとめることで、ピクセル毎の420nm〜700nmの分光データが取得できる。
【0111】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明を上記の各実施形態および各変形例に適用したものに限定されることなく、これらの実施形態および変形例を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0112】
A 標本
1,2,3,4,5 レーザ走査型顕微鏡
10 光源装置
15 音響光学素子(波長選択手段)
20 スキャンユニット
22 XYガルバノスキャナ(走査部)
25 照射光学系
30 検出光学系
35 波長選択装置
36 光検出部
37 回折格子
38 ガルバノメータ(入射角度変更手段)
39 シリンドリカルレンズ(集光光学系)
40 接続ユニット
45 対物レンズ
50 制御ユニット
60 スキャンユニット(メインスキャンユニット)
70 分光ユニット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を射出するレーザ光源と、
該レーザ光源から射出されたレーザ光を走査する走査部と、
該走査部により走査されたレーザ光を標本に照射する一方、前記標本からの光を集光する対物レンズと、
該対物レンズにより集光された前記標本からの光を複数の波長帯域に分散する透過型のVolume Phase Holographic(VPH)回折格子と、
該VPH回折格子により分散された光を検出する光検出部と、
前記標本からの光の前記VPH回折格子への入射角を変化させる入射角度変更手段とを備え、
前記入射角度変更手段は、前記光検出部により検出される複数の波長帯域の光がブラッグの反射条件をそれぞれ満たすように、前記標本からの光の前記VPH回折格子への入射角を、各検出波長帯域毎に変化させるレーザ走査型顕微鏡。
【請求項2】
前記入射角度変更手段が、前記VPH回折格子による分散方向に直交する軸線回りに前記VPH回折格子を回転させる請求項1に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項3】
前記光検出部により検出する波長帯域の中心波長に合わせて、前記入射角度変更手段を駆動させる制御部と、
前記入射角度変更手段の動作に同期して、前記レーザ光の波長を選択する波長選択手段とを備える請求項1または請求項2に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項4】
等間隔ピッチで検出波長を時系列的に切り替えて画像を取得(λスキャン)し、
各前記画像において対応するピクセルの輝度変化を用いて、ピクセル毎の分光データを取得する請求項1または請求項2に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項5】
前記光検出部により検出される光の中心波長のピッチが、前記VPH回折格子の回折効率が50%における波長幅よりも狭く設定されている請求項4に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項6】
前記VPH回折格子の回折効率が50%における波長幅が、複数の蛍光色素の蛍光スペクトルのうち、バンド幅が最も狭い蛍光スペクトルの半値幅よりも狭く設定されている請求項4に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項7】
λスキャンの波長ピッチが、複数の蛍光色素のうちピーク波長の中心間隔が最も狭い間隔の半分以下に設定されている請求項4に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項8】
前記入射角度変更手段による前記標本からの光の入射角度の切り替えを前記走査部による走査に同期して行う請求項1から請求項7のいずれかに記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項9】
前記走査部の主走査方向のライン毎に、前記入射角度変更手段による前記標本からの光の入射角度の切り替えを行う請求項8に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項10】
前記VPH回折格子と前記VPH回折格子に入射する前記標本からの光の相対角度をブラッグの反射条件に合わせた場合における回折効率の逆数を、前記光検出部による検出データに波長毎に乗算する請求項1から請求項9のいずれかに記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項11】
前記VPH回折格子と前記光検出部との間に、前記VPH回折格子から分散される光を前記光検出部の有効受光面に集光する集光光学系を備える請求項1または請求項2に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項12】
前記集光光学系が、前記分散方向にのみ前記標本からの光を集光するシリンドリカルレンズである請求項11に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項13】
前記VPH回折格子、前記入射角度変更手段、および前記光検出部から構成される分光ユニットと、
前記標本からの光のうち検出する波長を選択可能な検出系を含むメインスキャンユニットとを備え、
前記分光ユニットと前記メインスキャンユニットとが着脱可能に構成されている請求項1または請求項2に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項14】
前記VPH回折格子を直進する光(0次光)を検出する第2の光検出部を備える請求項1に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項15】
前記VPH回折格子を直進する光(0次光)を、前記光検出部に再入力する再入力手段を備える請求項1に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項16】
前記光検出部が、ノンディスキャン検出器であり、
前記入射角度変更手段により前記VPH回折格子への入射角を変化させながら、前記ノンディスキャン検出器により前記標本からの光から複数の画像を生成し、該複数の画像間のピクセルデータを結合する請求項1に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項17】
前記入射角度変更手段は、前記VPH回折格子に入射する検出光の角度を可変する反射ミラーであり、該反射ミラーと前記光検出部とが、前記VPH回折格子を挟んで略対称の位置に配置されている請求項1に記載のレーザ走査型顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−3196(P2012−3196A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140789(P2010−140789)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】