説明

レーザ走査顕微鏡および分光データ取得プログラム

【課題】 標本に塗布された1つ又は複数の蛍光プローブからの蛍光を、任意の波長単位で測光し、それを連続データ(λスタックデータ)として取得する場合に、その標本に対して、有効な分光データを取得できる範囲が自動的または略自動的に設定することが可能なレーザ走査顕微鏡を提供する。
【解決手段】 複数の蛍光プローブに対応した励起波長のレーザ光を発生するレーザ光源7〜9と、発生されたレーザ光を標本面上でスキャンさせる偏向部2と、前記標本面からの蛍光を任意の波長幅で取得して分光する分光部15と、標本に塗布された複数の蛍光プローブの既知の分光特性に基づいて、分光部15が分光データを取得する際の条件を設定する分光データ取得条件設定部16と、設定された分光データ取得条件に基づいて、分光部15を制御する分光制御部18と、分光された蛍光を受光して電気信号に変換する光電変換部14と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を複数の蛍光プローブが塗布された標本面に照射して、その標本面を2次元走査し、標本面からの蛍光を受光して、標本を観察するレーザ走査顕微鏡に関し、特に、そのようなレーザ走査顕微鏡における分光データの取得技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザを蛍光プローブが塗布された標本面に照射し、標本からの蛍光を受光して対応する電気信号を生成し、その電気信号に基づいて、標本からの蛍光に対応する画像データを生成して、例えばモニタ等に表示させて観察するレーザ走査顕微鏡がある。
【0003】
このようなレーザ走査顕微鏡を用いて、蛍光プローブが導入された標本からの蛍光を観察するには、その蛍光プローブの励起波長、蛍光ピーク波長に合った励起レーザ、測光ダイクロイックミラー、吸収フィルタを使用する必要がある。
【0004】
図20は、このような従来のレーザ走査顕微鏡の構成を示すブロック図である。
図20に示すように、標本に塗布される蛍光プローブの種別等に応じて、励起レーザを射出するレーザ光源87〜89、測光ダイクロイックミラー91、吸収フィルタ92、が複数設置される。
【0005】
以下、図に示すレーザ走査顕微鏡の動作について説明する。
まず、レーザ光源87〜89から励起レーザが射出される。それらレーザは、集光装置85、合成ミラー86、を介することで、集光され合成される。そして、全反射ミラー84、励起ダイクロイックミラー83、偏向部82、対物レンズ81を通過して、標本(面)に照射される。
【0006】
その励起レーザの照射に対応する標本からの蛍光は、再び、対物レンズ81、偏向部82、を通過し、励起ダイクロイックミラー83に向かう。
標本からの蛍光は、励起ダイクロイックミラー83によって分光され、蛍光プローブからの蛍光のみを選択・分光する測光ダイクロイックミラー91、吸収フィルタ92を通過して光電変換部93で電気信号に変換される。そして、この電気信号に基づいて、不図示のモニタに観察対象の標本(例えば、細胞)に対応する画像が表示される。
【0007】
そして、上記測光ダイクロイックミラー91、吸収フィルタ92の組み合わせを適宜切り替えることで、複数の蛍光プローブからの蛍光を観察している。
また、下記特許文献1には、顕微鏡システムに搭載される励起レーザ、各種フィルタのスペクトルデータと、試料(標本)に導入されている蛍光プローブの励起波長データ、及び、蛍光波長データに基づいて、最適な励起レーザ、測光ダイクロイックミラー、吸収フィルタの組み合わせを自動設定する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2000−39563号公報 「共焦点顕微鏡の機器配置調整のための方法およびシステム構成」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、最近では、標本に塗布された1つ又は複数の蛍光プローブからの蛍光を、任意の波長単位で測光し、それを連続データ(λスタックデータ)として取得するというものがある。
【0009】
このようなものに対しては、上記した図1に示されるシステム構成では、観察者が希望する透過スペクトルを持つ複数種類のフィルタを順次切り替えながら画像を取得する必要があり、システムが煩雑になるばかりか、場合によっては、観察者の希望に沿うフィルタが入手できない場合も考えられる。
【0010】
本発明の課題は、標本に塗布された1つ又は複数の蛍光プローブからの蛍光を、任意の波長単位で測光し、それを連続データ(λスタックデータ)として取得する場合に、その標本に対して、有効な分光データを取得できる範囲が自動的または略自動的に設定することが可能なレーザ走査顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1態様のレーザ走査顕微鏡は、複数の蛍光プローブが塗布された標本にレーザ光を照射して、その照射に対応する標本からの蛍光を受光することで、該標本を観察するレーザ走査顕微鏡において、前記複数の蛍光プローブに対応した励起波長のレーザ光を発生するレーザ光源と、前記発生されたレーザ光を標本面上でスキャンさせる偏向手段と、前記標本面からの蛍光を任意の波長幅で取得して分光する分光手段と、前記標本に塗布された複数の蛍光プローブの既知の分光特性に基づいて、前記分光手段が分光データを取得する際の条件を設定する分光データ取得条件設定手段と、前記設定された分光データ取得条件に基づいて、前記分光手段を制御する分光制御手段と、分光された蛍光を受光して電気信号に変換する光電変換手段と、を備えることを特徴とするレーザ走査顕微鏡である。
【0012】
ここで、分光制御手段によって分光手段を制御して任意の蛍光波長を任意の波長幅で取得することが可能となり、λスタックデータを容易に取得することができる。また、分光データ取得条件設定手段は、前記標本に塗布された複数の蛍光プローブの既知の分光特性に基づいて、前記分光手段が分光データを取得する際の条件を設定するので、複数の蛍光プローブが導入された試料(標本)に対して、有効な分光データを取得できる範囲が自動的にまたは略自動的に設定できる。
【0013】
本発明の第2態様のレーザ走査顕微鏡は、上記第1態様に対して、前記標本に塗布された複数の蛍光プローブの既知の分光特性を格納する分光特性データ格納手段をさらに備える。そして、前記分光データ取得条件設定手段は、格納された分光特性データに基づいて、前記分光手段が分光データを取得する際の条件を設定する。
【0014】
本発明の第3態様のレーザ走査顕微鏡は、上記第1態様において、前記分光手段は、標本からの蛍光をスペクトル分解し、かつ、波長選択する回折ミラーと、受光する蛍光の波長範囲を選択するスリットと、を備え、前記分光データ取得条件設定手段は、前記標本に塗布された複数の蛍光プローブの既知の分光特性に基づいて、該標本に対して波長走査を行なう際の、前記回折ミラーの回転角に対応する波長送り量、前記スリットの幅に対応する分光分解能を前記分光データ取得条件として設定する。
【0015】
本発明の第4態様のレーザ走査顕微鏡は、上記第3態様において、前記分光データ取得条件設定手段は、前記複数の蛍光プローブからの蛍光ピーク波長に基づいて、それら複数のピーク波長のうちの最も近接するピーク波長間の距離を算出する最近接ピーク間距離算出手段と、前記算出された最近接ピーク間距離に基づいて、前記波長送り量に設定する送り量設定手段と、前記算出された最近接ピーク間距離に基づいて、前記分光分解能を設定する分光分解能設定手段と、を備え、前記分光制御手段は、前記分光分解能、前記送り量に基づいて、前記分光手段を制御する。
【0016】
このようにすれば、前記送り量設定手段によって、波長送り量は例えば、最近接ピーク間距離に一致するように設定されるので、1回の分光データの取得区間内に複数の蛍光ピークが含まれるのを回避することが可能となると共に、例えば、1回の分光データの取得区間内に複数の蛍光ピークが含ませないために、分光データの取得範囲内で不必要に分光データの取得回数を増やすことが回避できる。
【0017】
本発明の第5態様のレーザ走査顕微鏡は、上記第4態様において、前記分光データ取得条件設定手段は、標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光ピーク波長、及び、標本に照射される各励起レーザ波長の内の2つが含まれるように区間が設定されたかを判定する区間判定手段、を備え、前記標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光ピーク波長、及び、前記標本に照射される各励起レーザ波長の内の1つが含まれるか、または、いずれも含まれないと判定された場合に、前記分光制御手段は、前記設定された区間に基づいて、前記分光手段を制御する。
【0018】
本発明の第6態様のレーザ走査顕微鏡は、上記第5態様において、前記分光データ取得条件設定手段は、前記標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光ピーク波長、及び、前記標本に照射される各励起レーザ波長の内の2つが含まれるように区間が設定された場合に、前記設定された区間をさらに所定数に分割する区間分割手段と、を備え、前記区間判定手段は、標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光ピーク波長、及び、標本に照射される各励起レーザ波長の内の2つが含まれるように区間が設定されたかを、前記区間分割手段によって分割された区間に対しても判定する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、分光制御部によって分光部を制御して任意の蛍光波長を任意の波長幅で取得することが可能となり、λスタックデータを容易に取得することができる。また、分光データ取得条件設定部によって、標本に塗布された複数の蛍光プローブの既知の分光特性に基づいて、分光部が分光データを取得する際の条件を設定するので、複数の蛍光プローブが導入された試料(標本)に対して、有効な分光データを取得できる範囲が自動的にまたは略自動的に設定できる。よって、レーザ走査顕微鏡を用いて標本の観察を行なう観察者の負担を軽減することが可能となる。
【0020】
また、本発明によれば、送り量設定部によって、波長送り量が例えば、最近接ピーク間距離に一致するように設定されるので、1回の分光データの取得区間内に複数の蛍光ピークが含まれるのを回避することが可能となると共に、例えば、1回の分光データの取得区間内に複数の蛍光ピークが含ませないために、分光データの取得範囲内で不必要に分光データの取得回数を増やすことが回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態のレーザ走査顕微鏡の構成を示すブロック図である。
図1において、レーザ走査顕微鏡は、複数の蛍光プローブが塗布された標本にレーザ光を照射して、その照射に対応する標本からの蛍光を受光することで、その標本を観察する。そして、図に示されるように、レーザ走査顕微鏡は、複数の蛍光プローブに対応した励起波長のレーザ光を発生するレーザ光源7〜9を含むレーザユニット10と、発生されたレーザ光を標本面上で例えば2次元にスキャンさせる偏向部2と、その標本面からの蛍光を任意の波長幅で取得して分光する分光部15と、標本に塗布された複数の蛍光プローブの既知の分光特性に基づいて、分光部15が分光データを取得する際の条件を設定する分光データ取得条件設定部16と、標本に塗布された複数の蛍光プローブの既知の分光特性、例えば、各蛍光プローブが発する蛍光のピーク波長、を格納する分光特性データ格納部17と、設定された分光データ取得条件に基づいて、分光部15を制御する分光制御部18と、分光された蛍光を受光して電気信号に変換する光電変換部14と、を備える。
【0022】
分光データ取得条件設定部16、分光特性データ格納部17、分光制御部18は、例えば、分光部15に接続されたコンピュータ19内のソフトウェアまたはハードウェアとして構成できる。
【0023】
図1に示されるように、分光部15は、標本からの蛍光をスペクトル分解し、かつ、波長選択する回折ミラー13と、受光する蛍光の波長範囲を選択するスリット11と、を備える。これにより、回折ミラー13、スリット11を制御して任意の蛍光波長を任意の波長幅で取得することが可能となり、λスタックデータを容易に取得することができる。
【0024】
分光データ取得条件設定部16は、標本に塗布された複数の蛍光プローブの既知の分光特性に基づいて、その標本に対して波長走査を行なう際の、回折ミラー13の回転角に対応する波長送り量、スリット11の幅に対応する分光分解能を分光データ取得条件として設定する。
【0025】
図2は、第1実施形態の分光データ取得条件設定部16の構成を示すブロック図である。
図2において、分光データ取得条件設定部16は、例えば、分光特性データ格納部17に格納された、標本に塗布された複数の蛍光プローブからの蛍光ピーク波長に基づいて、それら複数のピーク波長のうちの最も近接するピーク波長間の距離を算出する最近接ピーク間距離算出部21と、算出された最近接ピーク間距離に基づいて上記した波長送り量に設定する送り量設定部22と、算出された最近接ピーク間距離に基づいて上記した分光分解能を設定する分光分解能設定部23と、分光データの取得開始波長と、取得終了波長とを指定することが可能なユーザインターフェイスとしての取得開始・終了位置指定部24と、を備える。
【0026】
分光制御部18は、送り量設定部22によって設定された波長送り量と、例えば、隣接する区間(1回の取得範囲)の境界が互いに接するように分光分解能設定部23によって設定された分光分解能と、取得開始・終了位置指定部24を用いてユーザが指定した分光データの取得開始波長と取得終了波長と、に基づいて、分光部15を制御して、分光データを取得する。
【0027】
再び、図1の説明に戻り、その動作について説明する。
まず、レーザ光源7〜9から励起レーザが射出される。それらレーザは、集光装置4、合成ミラー5、を介することで、集光され合成される。そして、全反射ミラー6、励起ダイクロイックミラー3、偏向部2、対物レンズ1を通過して、標本(面)に照射される。
【0028】
その励起レーザの照射に対応する標本からの蛍光は、再び、対物レンズ1、偏向部2、を通過し、励起ダイクロイックミラー3に向かう。
ここで、励起ダイクロイックミラー3は、複数の、例えば3つの励起レーザに対して、それら励起レーザを透過させると共に、それら励起レーザの標本への照射に対応する、標本からの蛍光を反射させるように予め設計されている。
【0029】
このため、標本からの蛍光は、励起ダイクロイックミラー3によって分光され、全反射ミラー12に向かい、そこで、さらに転向されて、分光制御部18によって所定の角度に設定されている回折ミラー13に入射する。
【0030】
そして、その回折ミラー13によって、蛍光はスペクトル分解され、波長選択される。この回折ミラー13を介した蛍光から、さらに、分光制御部18によって所定の幅に設定されたスリット11によって受光波長範囲外の蛍光が除外される。スリット11を通過した受光波長範囲の蛍光は、光電変換部14において電気信号に変換される。そして、この電気信号に基づいて、不図示のモニタに観察対象の標本(例えば、細胞)に対応する画像が表示される。
【0031】
ここで、回折ミラー13は分光制御部18によって角度が設定可能であり、また、スリット11はその幅を分光制御部18によって設定可能である。例えば、分光制御部18によって、回折ミラー13が所定の角度ずつ変更されて、その都度、スリット11の幅に対応する1回分の分光データを取得することを繰り返して、必要な範囲の分光データを取得することができる。
【0032】
なお、本実施形態においては、標本に複数の蛍光プローブを塗布することで、対応する標本、例えば細胞中の複数の観察部位を観察するものであるが、以下にデータ例を挙げて、本実施形態におけるレーザ走査顕微鏡の動作について説明する。
【0033】
なお、本実施形態においては、3つの蛍光プローブに対応して励起レーザを射出する3つのレーザ光源7、8、9を設ける装置構成が採用されているが、通常そうであるように、使用される蛍光プローブの数と、対応するレーザ光源の数とが常に一致している訳ではなく、使用される蛍光プローブの数や、それが作用する標本(例えば、細胞)の部位等によって、その対応関係も変わることは言うまでもない。例えば、1つのレーザ光源が標本に塗布された複数の蛍光プローブに対応していてもよい。
【0034】
図3は、3つの蛍光プローブが塗布された標本に、3つの励起レーザを同時に照射した場合の各蛍光プローブからの蛍光の波長特性の一例を示す図である。
図3において、標本(例えば、細胞)には3つの蛍光プローブが塗布されていて、それら蛍光プローブは、その種別に応じて、細胞中の異なる部位に作用し、その細胞への励起レーザの照射によって、その作用した部位が蛍光を発することによって、観察対象となる。各蛍光プローブは、通常は、互いに異なるピーク波長の蛍光を発することになるが、図では、ピーク波長がそれぞれλ1、λ2、λ3で与えられる3つの蛍光プローブに対する波長特性が描かれている。
【0035】
図4A〜図4Cは、 3つの蛍光プローブが塗布された標本に、3つの励起レーザのいずれか1つを必要なタイミングで照射した場合の、その励起レーザに対応する蛍光プローブからの蛍光の波長特性の一例を示す図である。
【0036】
すなわち、図4Aは、ピーク波長がλ1の蛍光プローブに対応する波長特性を、図4Bは、ピーク波長がλ2の蛍光プローブに対応する波長特性を、図4Cは、ピーク波長がλ3の蛍光プローブに対応する波長特性を、それぞれ示している。
【0037】
なお、本実施形態においては、例えば、レーザ光源7は、ピーク波長がλ1の蛍光プローブに対応する励起レーザを射出し、また、レーザ光源8は、ピーク波長がλ2の蛍光プローブに対応する励起レーザを射出し、また、レーザ光源9は、ピーク波長がλ3の蛍光プローブに対応する励起レーザを射出するものとする。
【0038】
図5は、波長送り量を分光制御部に設定する処理のフローチャートである。このフローチャートの処理は、図2の最近接ピーク間距離算出部21、送り量設定部22によって行なわれる。
【0039】
図5において、まず、ステップS101で、最近接ピーク間距離算出部21によって、分光データ取得条件格納部17から標本に塗布された複数の蛍光プローブが発する蛍光ピーク波長が取得される。ここでは、例えば以下のような値が各蛍光プローブの発する蛍光ピーク波長として分光データ取得条件格納部17に格納されているものとする。
λ1=510nm
λ2=560nm
λ3=580nm
続く、ステップS102で、取得したピーク波長λ1、λ2、λ3から、最近接ピーク間距離算出部21によって、最も近接したピーク波長の差分が求められ、変数λGapMinに格納される。この場合、λ2とλ3との差が最小となるので、λGapMinは、次のように算出される。
λGapMin=|λ2−λ3|=|560nm−580nm|=20nm
そして、ステップS103で、送り量設定部22によって、変数λGapMinの値が回折ミラーの回転角(波長送り量)として、分光制御部18に設定される。例えば、1度が40nm分の送り量に相当する場合、20nmの波長送り量に対して0.5度に回転角が設定される。
【0040】
このようにすれば、送り量設定部22によって、波長送り量は、最近接ピーク間距離に一致するように設定されるので、1回の分光データの取得区間内に複数の蛍光ピークが含まれるのを回避することが可能となると共に、例えば、1回の分光データの取得区間内に複数の蛍光ピークが含ませないために、分光データの取得範囲内で不必要に分光データの取得回数を増やすことが回避できる。
【0041】
図6は、第1実施形態における分光部を制御して分光データを取得する処理のフローチャートである。このフローチャートの処理は、図2の分光分解能設定部22、分光制御部18、等によって行なわれる。
【0042】
図6において、まず、ステップS201で、ユーザは、図2の取得開始・終了位置指定部23を用いて、分光データの取得開始波長λStartを指定する。また、ステップS202で、ユーザは、同様に、取得開始・終了位置指定部23を用いて、分光データの取得終了波長λEndを指定する。
【0043】
続いて、ステップS203で、分光制御部18によって、取得開始波長と取得終了波長とに基づいて定まる取得範囲を、既に設定済みの波長送り量で割ることで、その取得範囲に対する分光データを取得するのに必要な、1回分の分光データの取得を行なう回数(繰り返し数)Nが以下の式によって算出される。
N=(λEnd−λStart)/λGapMin
ステップS204では、上記算出されたλGapMinに基づいて、図2の分光分解能設定部22によって、スリット幅(分光分解能)λResolutionが設定される。このステップにおいて、例えば、λGapMinに一致するように、すなわち、隣接する1回の取得範囲同士が互いに境界を接するように、スリット幅λResolutionが設定される(λResolution=λGapMin)。
【0044】
そして、以下のステップS205〜S208のループ処理を繰り返すことで、1回分の分光データが順次取得される。
まず、ループ処理に先立って、カウンタIを“0”に初期化する。そして、ステップS205において、既に算出してある繰り返し数NがカウンタIより大きいか(N>I)が判定される。
【0045】
ステップS205で、NがI以下であれば、一連の処理を終了する。
ステップS205で、NがIより大きければ、ステップS206に進み、そこで、分光制御部18によって、回折ミラーを下記位置に送られるように回転させる。
λStart+(I×λGapMin)
続いて、ステップS207で、1回分の分光データの取得処理が行なわれる。すなわち、上記したように、レーザ光源7〜9から射出、集光、合成された励起レーザは、標本(面)上で2次元走査(照射)され、その照射に対応する標本からの蛍光が、再び、対物レンズ1、偏向部2、励起ダイクロイックミラー3を通過して、全反射ミラー12に向かい、そこで、さらに転向されて、分光制御部18によってステップS206で角度(位置)が設定された回折ミラー13に入射する。そして、その回折ミラー13によって、蛍光はスペクトル分解され、波長選択される。この回折ミラー13を介した蛍光から、さらに、分光制御部18によってステップS204においてその幅が設定されたスリット11により受光波長範囲外の蛍光が除外される。スリット11を通過した受光波長範囲の蛍光は、光電変換部14において電気信号に変換される。このようにして、1回分の分光データが取得される。
【0046】
そして、ステップS208において、カウンタ変数IをインクリメントしてステップS205に戻る。ステップS205では、インクリメントされたカウンタIについて繰り返し数Nとの比較を行なう。
【0047】
図7は、図3の3つの蛍光プローブからの蛍光の波長特性に対応して設定された分光データの取得範囲の一例を示す図(その1)である。
図7において、ユーザは、取得開始・終了位置指定部を用いて、分光データの取得開始波長λStart、取得終了波長λEndを以下のように設定する。
λStart=500nm
λEnd=600nm
最近接ピーク間距離λGapMinは、上記したように、20nmで与えられるので、この例では、500−520nm、520−540nm、540−560nm、560−580nm、580−600nm、の5回に分けて分光データの取得が行なわれることになる。
【0048】
なお、取得した分光データが蛍光ピーク波長とそのピーク波長に対応する励起レーザのピーク波長とを含む場合には、実際には、その取得した分光データ中のピーク波長に対応する標本(細胞)中の部位を観察することが困難となるが、実際の使用においては、そのような取得範囲を採用せずに捨てれば済むため、上述の第1実施形態のような励起レーザの波長位置を考慮しない取得範囲の設定方法も有用である。以下に説明する第2実施形態においては、このような励起レーザの波長位置も考慮して取得範囲を設定している。
【0049】
第2実施形態においても、図1に示されるレーザ走査顕微鏡の構成が基本的には採用される。
図8は、第2実施形態の分光データ取得条件設定部16の構成を示すブロック図である。
【0050】
図8において、分光データ取得条件設定部16は、図2と比較して、標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光のピーク波長、及び、標本に照射される各励起レーザ波長の内の2つが含まれるように区間が設定されたかを判定する区間判定部31、を備える。そして、この区間判定部31によって、標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光ピーク波長、及び、標本に照射される各励起レーザ波長の内の1つが含まれるか、または、いずれも含まれないと判定された場合に、分光制御部18は、その設定された区間に基づいて、分光部を制御して分光データを取得する。
【0051】
なお、区間判定部31による条件が満たされない場合に、区間をさらに分割する区間分割部があってもよい。
図9は、第2実施形態の分光データ取得条件設定部16の変形例を示すブロック図である。
【0052】
図9において、分光データ取得条件設定部16は、図8と比較して、区間判定部31によって、標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光ピーク波長、及び、標本に照射される各励起レーザピーク波長の内の2つが含まれるように区間が設定されたと判定された場合に、その設定された区間をさらに所定数に分割する区間分割部32、をさらに備える。そして、区間判定部31は、標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光のピーク波長、及び、標本に照射される各励起レーザ波長の内の2つが含まれるように区間が設定されたかを、区間分割部32によって分割された区間に対しても判定する。
【0053】
このようにすれば、区間分割部32を用いて分割を繰り返すことにより、区間判定部31による条件が満たされる区間が設定され易くなる。
また、本第2実施形態においては、分光特性データ格納部27は、各蛍光プローブのピーク波長と、それぞれのピーク波長に対応する励起レーザ波長とを関連付けて格納する。
【0054】
例えば、3つの蛍光プローブが標本に塗布される場合に、各蛍光プローブの蛍光ピーク波長が、λ1(=510nm)、λ2(=560nm)、λ3(=580nm)で、それぞれのピーク波長に対応する励起レーザ波長が、Exλ1(=492nm)、Exλ2(=542nm)、Exλ3(=575nm)である場合に、以下のようなデータが分光特性データ格納部27には格納されている。
λ1=510nm Exλ1=492nm
λ2=560nm Exλ2=542nm
λ3=580nm Exλ3=575nm
以下、第2実施形態におけるレーザ走査顕微鏡の動作について説明する。まず、第1実施形態の図5のフローチャートと同様の処理が行なわれることによって、最近接ピーク間距離算出部21によって変数λGapMinに設定された最も近接するピーク波長間の距離が、送り量設定部22によって波長送り量として分光制御部に設定される。
【0055】
図10は、第2実施形態における分光部を制御して分光データを取得する処理のフローチャートである。このフローチャートの処理は、図2の分光分解能設定部23、分光制御部18、等によって行なわれる。
【0056】
この図10のフローチャートは、第1実施形態の図6のフローチャートにステップS301とステップS302との処理を追加したものとなっている。
この追加されたステップS301では、設定されたλGapMinおよび分光特性データ格納部27に格納された励起レーザ波長Exλ1、Exλ1、Exλ1とを取得する。また、ステップS302では、ステップS301で取得されたλGapMin、各励起レーザを参照して、一旦設定された波長送り量を再設定する処理、例えば、所定数に分割する処理、が行なわれる。
【0057】
図11は、図10のステップS302の処理(波長送り量の再設定処理)をより詳細に示すフローチャートである。
図11において、まず、ステップS401で、カウンタの値を“0”に初期化する。続いて、ステップS402で、既に設定されている取得開始波長λStartとλGapMinとから現在の(I番目の)区間の分光データ取得開始波長λSectionStart(=λStart+I×λGapMin)を算出すると共に、その現区間の分光データ取得開始波長λSectionStartが既に設定されている取得終了波長λEndより小さいかが判定される。
【0058】
ステップS402で、現区間の分光データ取得開始波長λSectionStartが取得終了波長λEnd以上であると判定された場合は、一連の処理を終了する。
一方、ステップS402で、現区間の分光データ取得開始波長λSectionStartが取得終了波長λEndより小さいと判定された場合は、ステップS403に進み、そこで、現区間の分光データ取得終了波長λSectionEnd(=λStart+(I+1)×λGapMin)を算出する。通常そうであるように、現区間の分光データ取得終了波長は、次区間の分光データ取得開始波長に一致する。
【0059】
そして、ステップS404において、現区間、すなわち、λSectionStartとλSectionEndとの間に、分光特性データ格納部17に格納されている、標本に照射される各励起レーザピーク波長Exλ1、Exλ2、Exλ3、及び、標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光ピーク波長λ1、λ2、λ3の内の2つが入っているかどうかにつき判定する。
【0060】
ステップS404において、Exλ1、Exλ2、Exλ3、λ1、λ2、λ3の内の2つが、λSectionStartとλSectionEndとの間に含まれると判定された場合には、ステップS405に進み、そこで、λGapMinの値を半分(λGapMin=λGapMin/2)に再設定(分割)し、ステップS401に戻り、上記処理を繰り返す。
【0061】
一方、ステップS404において、λSectionStartとλSectionEndとの間に、Exλ1、Exλ2、Exλ3、λ1、λ2、λ3の内の1つが含まれるか、または、いずれも含まれないと判定された場合には、ステップS406でカウンタIをインクリメント(I=I+1)してステップS402に戻り、ステップS402以降の処理が次区間に対して行なわれる。
【0062】
このようにして再設定された区間に基づいて、図10のステップS203以降の処理が行なわれる。
図12は、図3の3つの蛍光プローブからの蛍光の波長特性に対応して設定された分光データの取得範囲の一例を示す図(その2)である。
【0063】
図12において、ユーザは、取得開始・終了位置指定部を用いて、分光データの取得開始波長λStart、取得終了波長λEndを以下のように設定する。
λStart=500nm
λEnd=600nm
最近接ピーク間距離λGapMinは、上記したように、20nmで与えられるので、この例では、当初は、500−520nm、520−540nm、540−560nm、560−580nm、580−600nm、の5回に分けて分光データの取得が行なわれる予定であった。
【0064】
しかし、当初の各区間の幅(20nm)では、例えば、区間560−580nmに、励起レーザピーク波長Exλ3(=575nm)と蛍光ピーク波長λ3(=580nm)とが含まれてしまうため、現区間が560−580nmの区間である場合に図11のステップS404において、Exλ1、Exλ2、Exλ3、λ1、λ2、λ3の内の2つが、λSectionStart(=560nm)とλSectionEnd(=580nm)との間に含まれると判定され、続くステップS405において、λGapMinの値が、20nmから半分の10nmに再設定(分割)される。
【0065】
しかし、この再設定によって、500−510nm、・・・、590−600nmの10区間に分割されたとしても、例えば、区間570−580nmに、励起レーザピーク波長Exλ3(=575nm)と蛍光ピーク波長λ3(=580nm)とが含まれてしまうため、現区間が570−580nmの区間である場合に図11のステップS404において、Exλ1、Exλ2、Exλ3、λ1、λ2、λ3の内の2つが、λSectionStart(=570nm)とλSectionEnd(=580nm)との間に含まれると判定され、続くステップS405において、λGapMinの値が、10nmから半分の5nmに再設定(分割)される。
【0066】
そして、この結果、500−505nm、・・・、595−600nmの20区間に分割され、かつ、各区間はいずれも、図11のステップS404において、λSectionStartとλSectionEndとの間に、Exλ1、Exλ2、Exλ3、λ1、λ2、λ3の内の1つが含まれるか、または、いずれも含まれないと判定されるので、分光制御部はこの区間に基づいて分光部を制御して分光データの取得を行なうことになる。
【0067】
以上の説明では、分光データの取得開始波長、取得終了波長は、いずれも図2の取得開始・終了位置指定部24を用いてユーザが指定していたが、この取得開始波長、取得終了波長、すなわち、取得範囲を自動的に設定することも可能である。以下に述べる第3実施形態では、取得範囲を自動的に設定している。
【0068】
第3実施形態においても、図1に示されるレーザ走査顕微鏡の構成が基本的には採用される。
図13は、第3実施形態の分光データ取得条件設定部16の構成を示すブロック図である。
【0069】
図13の分光データ取得条件設定部16は、図2と比較して、取得開始・終了位置指定部24の替わりに取得範囲設定部34を備えている。この取得範囲設定部34は、分光特性データ格納部37に格納されている、標本に塗布された複数の蛍光プローブの既知の分光特性に基づいて、分光データの取得開始波長と、取得終了波長とを設定する。
【0070】
取得範囲設定部34は、標本に塗布された全ての蛍光プローブに対応するピーク波長を含むように、分光データの取得範囲を設定する。その際、例えば、右端または左端のピーク波長に対応する分布曲線の値がそのピーク値から所定の割合だけ減少した端部寄りの波長位置を分光データの取得開始位置、および、取得終了位置に設定する。
【0071】
また、本第3実施形態においては、分光特性データ格納部37は、各蛍光プローブのピーク波長と、それぞれのピーク波長に対応するピーク値の半値幅(分布曲線の値がそのピーク値から半分に減少した波長位置までのピーク波長からのずれ量)とを関連付けて格納する。
【0072】
例えば、3つの蛍光プローブが標本に塗布される場合に、各蛍光プローブのピーク波長が、λ1(=510nm)、λ2(=560nm)、λ3(=580nm)で、それぞれのピーク波長に対応するピーク値の半値幅が、Δλ1(=±20nm)、Δλ2(=±15nm)、Δλ3(=±10nm)である場合に、以下のようなデータが分光特性データ格納部37には格納されている。
λ1=510nm Δλ1=±20nm
λ2=560nm Δλ2=±15nm
λ3=580nm Δλ3=±10nm
以下、第3実施形態におけるレーザ走査顕微鏡の動作について図14および図15のフローチャートを参照して説明する。
【0073】
図14は、分光データの取得開始波長を設定する処理のフローチャートである。このフローチャートの処理は、図13の取得範囲設定部34によって行なわれる。
図14において、まず、ステップS501で、取得範囲設定部34によって、分光特性データ格納部37から最も短波長側(左端)の蛍光からのピーク波長(この場合、λ1)が取得され、変数λMinに設定される。また、同様に、その半値幅(ピーク波長からのずれ量、この場合、Δλ1)が取得され、変数λH1に設定される。
【0074】
続く、ステップS502で、取得範囲設定部34によって、下記式に基づいて、分光データの取得開始位置λStartが求められる。
λStart=λMin−λH1
ここで、ステップS502において、ピーク波長に対応する分布曲線の値がそのピーク値から所定の割合(この場合、1/2)だけ減少した端部寄りの波長位置を求めることから、ずれ量λH1を左端ピーク波長λMinから減算している。
【0075】
図15は、分光データの取得終了波長を設定する処理のフローチャートである。このフローチャートの処理は、図13の取得範囲設定部34によって行なわれる。
図15において、まず、ステップS601で、取得範囲設定部34によって、分光特性データ格納部37から最も長波長側(右端)の蛍光からのピーク波長(この場合、λ3)が取得され、変数λMaxに設定される。また、同様に、その半値幅(ピーク波長からのずれ量、この場合、Δλ1)が取得され、変数λH2に設定される。
【0076】
続く、ステップS602で、取得範囲設定部34によって、下記式に基づいて、分光データの取得終了位置λEndが求められる。
λEnd=λMax+λH2
ここで、ステップS602において、ピーク波長に対応する分布曲線の値がそのピーク値から所定の割合(この場合、1/2)だけ減少した端部寄りの波長位置を求めることから、ずれ量λH2を右端ピーク波長λMaxに加算している。
【0077】
なお、分光特性データ格納部37に格納される上記の分光特性データについて、図14及び図15の処理を行なえば、以下に示すような値が取得開始位置λStart、取得終了位置λEndにそれぞれ設定される。
λStart=λMin−λH1=510nm−20nm=490nm
λEnd=λMax+λH2=580nm+10nm=590nm
このように本第3実施形態においては、複数の蛍光プローブが導入された試料(標本)に対して、有効な分光データを取得できる範囲が自動的に設定できるので、レーザ走査顕微鏡を用いて標本の観察を行なう観察者の負担を軽減することが可能となる。
【0078】
以下、本発明の第4実施形態について説明する。第4実施形態では、分光分解能の設定方法について説明するが、この分光分解能の設定処理は、例えば、第1実施形態の図6のフローチャート中のステップS204にて行なわれる処理である。
【0079】
この図6のステップS204では、分光分解能設定部22によって、スリット幅(分光分解能)λResolutionが、最近接のピーク波長間距離λGapMinに基づいて、下記式に示すように設定される。
λResolution=λGapMin ・・・ (A1)
本第4実施形態においては、上記式に対して、下記(A2)または(A3)式によって、隣接する区間の境界が互いに所定区間だけ重なるように分光分解能を算出(設定)する。
【0080】
まず、(A2)式においては、変数λGapMinに対して、1より大きい定数β(β>1)を乗算することで、分光分解能λResolutionを算出している。
λResolution=β×λGapMin ・・・ (A2)
また、(A3)式においては、上記(A2)の右辺に対して、蛍光強度Iに関する減少関数f(I)(I1<I2ならば、f(I1)>f(I2))をさらに乗算して分光分解能λResolutionを算出している。
λResolution=β×f(I)×λGapMin ・・・ (A3)
ここで、f(I)は蛍光強度Iに関する減少関数であるので、蛍光強度が弱い蛍光プローブほど大きい値をとることになり、結果として、蛍光強度が弱い蛍光プローブほどλResolutionが大きな値となり(分光分解能が下がり)、明るさをかせぐことができる。
【0081】
本第4実施形態においては、特に、蛍光強度が弱い蛍光プローブからの分光データも取得できるようになる、という利点を有する。
以上の説明では、分光データの1回の取得区間について制約を設けない構成であったが、例えば、1回の取得区間が小さくなり過ぎると、蛍光ピークを検出することが困難になるという問題がある。このような事態を回避するには、図2、図8、図9、図13において、ピークを検出することが可能な目安となる分光分解能の下限を格納する分解能下限値格納部と、設定された又は分割された区間の区間幅が上記下限値以下であるか否かを判定する区間幅判定部と、をさらに備えるようにしてもよい。
【0082】
そして、設定された又は分割された区間の区間幅が上記下限値より大きい場合に、分光制御部は、その設定された又は分割された区間に基づいて、分光部を制御して分光データを取得する。
【0083】
図16は、第1実施形態の図2のブロック図に対して、分解能下限値格納部42と、区間幅判定部41とが追加されたブロック図である。
なお、第3実施形態の図13のブロック図に対しても、図16に対して行なったのと同様にして、分解能下限値格納部42と、区間幅判定部41とを追加することができる。
【0084】
また、第2実施形態の図8および図9のブロック図に対しては、区間判定部31に区間幅判定部41の機能を兼用させてもよい。この場合、区間判定部31は、分解能下限値格納部42に格納された分解能下限値を参照して、区間幅の下限値との比較を行なう。
【0085】
図17は、第1実施形態の図5のフローチャートに、区間幅の下限値との比較処理を追加したフローチャートである。
図17では、図5と比較し、ステップS103の後にステップS104が設けられ、このステップS104において、ステップS102で設定された変数λGapMinと設定可能最小値を示す分光分解能下限値とが比較される。そして、このステップS104の判定ステップにおいて、設定されたλGapMinが分光分解能下限値より大きいと判定された場合に例えば図6や図10のフローチャートに示される以降の処理を継続し、設定された区間に基づいて、分光データの取得が行なわれる。
【0086】
図18は、第2実施形態の図10のフローチャートに、区間幅の下限値との比較処理を追加したフローチャートである。
図18では、図10と比較し、ステップS302とステップS203との間にステップS303が設けられ、このステップS303において、ステップS302で再設定された変数λGapMinと設定可能最小値を示す分光分解能下限値とが比較される。そして、このステップS303の判定ステップにおいて、再設定されたλGapMinが分光分解能下限値より大きいと判定された場合に以降の処理を継続し、設定された区間に基づいて、分光データの取得が行なわれる。
【0087】
図19は、本実施形態における各処理をコンピュータに実行させるプログラムが格納される記憶媒体例を示す図である。
図19に示すように、上記記憶媒体には、CD−ROM、フレキシブルディスク(MO、DVD、リムーバブルハードディスク等であってもよい)等の媒体駆動装置67に脱着可能な可搬記憶媒体66、ネットワーク回線63経由でプログラムが送信される外部の装置(サーバ等)内の記憶手段(データベース等)62、情報処理装置61の本体64内のメモリ(RAMまたはハードディスク等)65、が含まれる。本実施形態の各処理を行うプログラムは、上記記憶媒体から本体64内のメモリ65にロードされ実行される。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の第1実施形態のレーザ走査顕微鏡の構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態の分光データ取得条件設定部の構成を示すブロック図である。
【図3】3つの蛍光プローブが塗布された標本に、3つの励起レーザを同時に照射した場合の各蛍光プローブからの蛍光の波長特性の一例を示す図である。
【図4A】3つの蛍光プローブが塗布された標本に、3つの励起レーザのいずれか1つを必要なタイミングで照射した場合の、その励起レーザに対応する蛍光プローブからの蛍光(ピーク波長λ1)の波長特性の一例を示す図である。
【図4B】3つの蛍光プローブが塗布された標本に、3つの励起レーザのいずれか1つを必要なタイミングで照射した場合の、その励起レーザに対応する蛍光プローブからの蛍光(ピーク波長λ2)の波長特性の一例を示す図である。
【図4C】3つの蛍光プローブが塗布された標本に、3つの励起レーザのいずれか1つを必要なタイミングで照射した場合の、その励起レーザに対応する蛍光プローブからの蛍光(ピーク波長λ3)の波長特性の一例を示す図である。
【図5】波長送り量を分光制御部に設定する処理のフローチャートである。
【図6】第1実施形態における分光部を制御して分光データを取得する処理のフローチャートである。
【図7】図3の3つの蛍光プローブからの蛍光の波長特性に対応して設定された分光データの取得範囲の一例を示す図(その1)である。
【図8】第2実施形態の分光データ取得条件設定部の構成を示すブロック図である。
【図9】第2実施形態の分光データ取得条件設定部の変形例を示すブロック図である。
【図10】第2実施形態における分光部を制御して分光データを取得する処理のフローチャートである。
【図11】図10の波長送り量の再設定処理をより詳細に示すフローチャートである。
【図12】図3の3つの蛍光プローブからの蛍光の波長特性に対応して設定された分光データの取得範囲の一例を示す図(その2)である。
【図13】第3実施形態の分光データ取得条件設定部の構成を示すブロック図である。
【図14】分光データの取得開始波長を設定する処理のフローチャートである。
【図15】分光データの取得終了波長を設定する処理のフローチャートである。
【図16】第1実施形態の図2のブロック図に対して、分解能下限値格納部と、区間幅判定部とが追加されたブロック図である。
【図17】第1実施形態の図5のフローチャートに、区間幅の下限値との比較処理を追加したフローチャートである。
【図18】第2実施形態の図10のフローチャートに、区間幅の下限値との比較処理を追加したフローチャートである。
【図19】記憶媒体例を示す図である。
【図20】従来のレーザ走査顕微鏡の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0089】
1 対物レンズ
2 偏向部
3 励起ダイクロイックミラー
4 集光装置
5 合成ミラー
6,12 全反射ミラー
7〜9 レーザ光源
10 レーザユニット
11 スリット
13 回折ミラー
14 光電変換部
15 分光部
16 分光データ取得条件設定部
17,27,37 分光特性データ格納部
18 分光制御部
21 最近接ピーク間距離算出部
22 送り量設定部
23 分光分解能設定部
24 取得開始・終了位置指定部
31 区間判定部
32 区間分割部
34 取得範囲設定部
41 区間幅判定部
42 分解能下限値格納部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の蛍光プローブが塗布された標本にレーザ光を照射して、その照射に対応する標本からの蛍光を受光することで、該標本を観察するレーザ走査顕微鏡において、
前記複数の蛍光プローブに対応した励起波長のレーザ光を発生するレーザ光源と、
前記発生されたレーザ光を標本面上でスキャンさせる偏向手段と、
前記標本面からの蛍光を任意の波長幅で取得して分光する分光手段と、
前記標本に塗布された複数の蛍光プローブの既知の分光特性に基づいて、前記分光手段が分光データを取得する際の条件を設定する分光データ取得条件設定手段と、
前記設定された分光データ取得条件に基づいて、前記分光手段を制御する分光制御手段と、
分光された蛍光を受光して電気信号に変換する光電変換手段と、を備えることを特徴とするレーザ走査顕微鏡。
【請求項2】
前記標本に塗布された複数の蛍光プローブの既知の分光特性を格納する分光特性データ格納手段をさらに備え、
前記分光データ取得条件設定手段は、格納された分光特性データに基づいて、前記分光手段が分光データを取得する際の条件を設定することを特徴とする請求項1記載のレーザ走査顕微鏡。
【請求項3】
前記分光手段は、標本からの蛍光をスペクトル分解し、かつ、波長選択する回折ミラーと、受光する蛍光の波長範囲を選択するスリットと、を備え、
前記分光データ取得条件設定手段は、前記標本に塗布された複数の蛍光プローブの既知の分光特性に基づいて、該標本に対して波長走査を行なう際の、前記回折ミラーの回転角に対応する波長送り量、前記スリットの幅に対応する分光分解能を前記分光データ取得条件として設定することを特徴とする請求項1記載のレーザ走査顕微鏡。
【請求項4】
前記分光データ取得条件設定手段は、
前記複数の蛍光プローブからの蛍光ピーク波長に基づいて、それら複数のピーク波長のうちの最も近接するピーク波長間の距離を算出する最近接ピーク間距離算出手段と、
前記算出された最近接ピーク間距離に基づいて、前記波長送り量に設定する送り量設定手段と、
前記算出された最近接ピーク間距離に基づいて、前記分光分解能を設定する分光分解能設定手段と、を備え、
前記分光制御手段は、前記分光分解能、前記送り量に基づいて、前記分光手段を制御することを特徴とする請求項3記載のレーザ走査顕微鏡。
【請求項5】
前記分光データの取得開始波長と、取得終了波長とを指定することが可能な取得開始・終了位置指定手段、をさらに備えることを特徴とする請求項4記載のレーザ走査顕微鏡。
【請求項6】
前記標本に塗布された複数の蛍光プローブの既知の分光特性に基づいて、前記分光データの取得開始波長と、取得終了波長とを設定する取得範囲設定手段、をさらに備えることを特徴とする請求項4記載のレーザ走査顕微鏡。
【請求項7】
前記取得範囲設定手段は、前記標本に塗布された全ての蛍光プローブの蛍光ピーク波長を含むように、分光データの取得範囲を設定することを特徴とする請求項4記載のレーザ走査顕微鏡。
【請求項8】
前記分光データ取得条件設定手段は、
標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光ピーク波長、及び、標本に照射される各励起レーザ波長の内の2つが含まれるように区間が設定されたかを判定する区間判定手段、を備え、
前記標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光ピーク波長、及び、前記標本に照射される各励起レーザ波長の内の1つが含まれるか、または、いずれも含まれないと判定された場合に、前記分光制御手段は、前記設定された区間に基づいて、前記分光手段を制御することを特徴とする請求項4記載のレーザ走査顕微鏡。
【請求項9】
前記分光データ取得条件設定手段は、
前記標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光ピーク波長、及び、前記標本に照射される各励起レーザ波長の内の2つが含まれるように区間が設定された場合に、前記設定された区間をさらに所定数に分割する区間分割手段と、を備え、
前記区間判定手段は、標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光ピーク波長、及び、標本に照射される各励起レーザ波長の内の2つが含まれるように区間が設定されたかを、前記区間分割手段によって分割された区間に対しても判定することを特徴とする請求項8記載のレーザ走査顕微鏡。
【請求項10】
ピークを検出することが可能な目安となる分光分解能の下限を格納する分解能下限値格納手段と、
設定された又は分割された区間の区間幅が前記下限値以下であるか否かを判定する区間幅判定手段と、をさらに備え、
設定された又は分割された区間の区間幅が前記下限値より大きい場合に、前記分光制御手段は、前記設定された又は分割された区間に基づいて、前記分光手段を制御することを特徴とする請求項4、または、9記載のレーザ走査顕微鏡。
【請求項11】
前記分光分解能設定手段は、隣接する区間の境界が互いに接するように前記分光分解能を設定することを特徴とする請求項4記載のレーザ走査顕微鏡。
【請求項12】
前記分光分解能設定手段は、隣接する区間の境界が互いに所定区間だけ重なるように前記分光分解能を設定することを特徴とする請求項4記載のレーザ走査顕微鏡。
【請求項13】
前記取得範囲設定手段は、右端または左端のピーク波長に対応する分布曲線の値がそのピーク値から所定の割合だけ減少した端部寄りの波長位置を分光データの取得開始位置、および、取得終了位置に設定することを特徴とする請求項6記載のレーザ走査顕微鏡。
【請求項14】
複数の蛍光プローブが塗布された標本にレーザ光を照射して、その照射に対応する標本からの蛍光を受光することで、該標本を観察するレーザ走査顕微鏡における分光データの取得条件を設定する処理をコンピュータに実現させるプログラムにおいて、
前記複数の蛍光プローブからの蛍光ピーク波長に基づいて、それら複数のピーク波長のうちの最も近接するピーク波長間の距離を算出する処理と、
前記算出された最近接ピーク間距離に基づいて、前記標本からの蛍光をスペクトル分解し、かつ、波長選択する回折ミラーの回転角に対応する波長送り量に設定する処理と、
前記算出された最近接ピーク間距離に基づいて、受光する蛍光の波長範囲を選択するスリットの幅に対応する分光分解能を設定する処理と、
前記設定された波長送り量、分光分解能に基づいて、前記分光データを取得する処理と、
を前記コンピュータに実行させることを特徴とする分光データ取得プログラム。
【請求項15】
前記分光データを取得する処理は、指定された前記分光データの取得開始波長と、取得終了波長とを加味して行なうことを特徴とする請求項14記載の分光データ取得プログラム。
【請求項16】
前記標本に塗布された複数の蛍光プローブの既知の分光特性に基づいて、前記分光データの取得開始波長と、取得終了波長とを設定する処理、を備え、
前記分光データを取得する処理は、設定された前記分光データの取得開始波長と、取得終了波長とを加味して行なうことを特徴とする請求項14記載の分光データ取得プログラム。
【請求項17】
標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光ピーク波長、及び、標本に照射される各励起レーザ波長の内の2つが含まれるように区間が設定されたかを判定する処理、を備え、
前記標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光ピーク波長、及び、前記標本に照射される各励起レーザ波長の内の1つが含まれるか、または、いずれも含まれないと判定された場合に、その設定された区間に基づいて、前記分光データを取得する処理を前記コンピュータに実行させることを特徴とする請求項14記載の分光データ取得プログラム。
【請求項18】
前記標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光ピーク波長、及び、前記標本に照射される各励起レーザ波長の内の2つが含まれるように区間が設定された場合に、前記設定された区間をさらに所定数に分割する処理、を備え、
前記標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光ピーク波長、及び、前記標本に照射される各励起レーザ波長の内の2つが含まれるように区間が設定されたかの判定を、前記分割された区間に対しても行なうことを特徴とする請求項17記載の分光データ取得プログラム。
【請求項19】
隣接する区間の境界が互いに接するように前記分光分解能を設定する処理、を備えることを特徴とする請求項14記載の分光データ取得プログラム。
【請求項20】
隣接する区間の境界が互いに所定区間だけ重なるように前記分光分解能を設定する処理、を備えることを特徴とする請求項14記載の分光データ取得プログラム。
【請求項21】
右端または左端のピーク波長に対応する分布曲線の値がそのピーク値から所定の割合だけ減少した端部寄りの波長位置を分光データの取得開始位置、および、取得終了位置に設定する処理、を備えることを特徴とする請求項14記載の分光データ取得プログラム。
【請求項22】
複数の蛍光プローブが塗布された標本にレーザ光を照射して、その照射に対応する標本からの蛍光を受光することで、該標本を観察するレーザ走査顕微鏡に接続されたコンピュータが行なう分光データの取得条件を設定する方法において、
前記複数の蛍光プローブからの蛍光ピーク波長に基づいて、それら複数のピーク波長のうちの最も近接するピーク波長間の距離を算出し、
前記算出された最近接ピーク間距離に基づいて、前記標本からの蛍光をスペクトル分解し、かつ、波長選択する回折ミラーの回転角に対応する波長送り量に設定し、
前記算出された最近接ピーク間距離に基づいて、受光する蛍光の波長範囲を選択するスリットの幅に対応する分光分解能を設定し、
前記設定された波長送り量、分光分解能に基づいて、前記分光データを取得する、
ことを特徴とする分光データ取得方法。
【請求項23】
前記分光データを取得するに際して、指定された前記分光データの取得開始波長と、取得終了波長とを加味して行なうことを特徴とする請求項22記載の分光データ取得方法。
【請求項24】
さらに、前記標本に塗布された複数の蛍光プローブの既知の分光特性に基づいて、前記分光データの取得開始波長と、取得終了波長とを設定し、
前記分光データを取得するに際して、設定された前記分光データの取得開始波長と、取得終了波長とを加味して行なうことを特徴とする請求項22記載の分光データ取得方法。
【請求項25】
標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光ピーク波長、及び、標本に照射される各励起レーザ波長の内の2つが含まれるように区間が設定されたかを判定し、
前記標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光ピーク波長、及び、前記標本に照射される各励起レーザピーク波長の内の1つが含まれるか、または、いずれも含まれないと判定された場合に、その設定された区間に基づいて、前記分光データを取得する、
ことを特徴とする請求項22記載の分光データ取得方法。
【請求項26】
前記標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光ピーク波長、及び、前記標本に照射される各励起レーザ波長の内の2つが含まれるように区間が設定された場合に、前記設定された区間をさらに所定数に分割し、
前記標本に塗布された各蛍光プローブからの蛍光ピーク波長、及び、前記標本に照射される各励起レーザ波長の内の2つが含まれるように区間が設定されたかの判定を、前記分割された区間に対しても行なう、
ことを特徴とする請求項25記載の分光データ取得方法。
【請求項27】
さらに、隣接する区間の境界が互いに接するように前記分光分解能を設定する、ことを特徴とする請求項22記載の分光データ取得方法。
【請求項28】
さらに、隣接する区間の境界が互いに所定区間だけ重なるように前記分光分解能を設定する、ことを特徴とする請求項22記載の分光データ取得方法。
【請求項29】
さらに、右端または左端のピーク波長に対応する分布曲線の値がそのピーク値から所定の割合だけ減少した端部寄りの波長位置を分光データの取得開始位置、および、取得終了位置に設定する、ことを特徴とする請求項22記載の分光データ取得方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2006−39116(P2006−39116A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−217397(P2004−217397)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】