説明

レーダ受信信号のパルス圧縮装置

【課題】本発明の課題は、パルス圧縮処理を早い時間で完了しリアルタイム性が向上するレーダ受信信号のパルス圧縮装置を提供することにある。
【解決手段】本発明は、レーダ受信信号をデジタル信号に変換してIQ検波したIデータとQデータをそれぞれ高速フーリエ変換処理して周波数領域上の実数部Rと虚数部jSのデータを得る第1の高速フーリエ変換部と、レーダ送信信号を生成するIデータとQデータをそれぞれ高速フーリエ変換処理して周波数領域上の実数部Tと虚数部jUのデータを得る第2の高速フーリエ変換部と、前記第1の高速フーリエ変換部からのデータR,jSと前記第2の高速フーリエ変換部からのデータT,jUを用いて複素演算処理してT・R+U・Sとj(−T・S+U・R)のデータを得る演算部と、前記演算部からの出力データを逆高速フーリエ変換処理する逆高速フーリエ変換部とを具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ受信信号がデジタルIQ検波された信号を周波数領域上でパルス圧縮するFPGA(Field Programmable Gate Array)で実現可能なレーダ受信信号のパルス圧縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機搭載用のレーダを開発した場合は、アンテナ方位に対して、リアルタイムに画像データを表示する必要があり、出来る限り、処理時間遅れを小さくしたい要求がある。
【0003】
従来、周波数領域でのパルス圧縮は、DSP(Digital Signal Processor)のパイプラインを用いて実現してきた。
【0004】
図7は従来のDSPでパルス圧縮処理したときの処理時間を示す説明図である。すなわち、レーダ受信信号を中間周波にしてAD変換した後IQ検波してIデータとQデータを得る。このIデータとQデータをDDR等のメモリへの書き込み(Write)と共にそのIデータとQデータをDSPに取り込み、その後、DSPメモリからIデータとQデータを読み出し(READ)パルス圧縮の信号処理を行い、その後、その圧縮データをDSPメモリに書き込み(WRITE)と共にDDR等のメモリに溜め、DDR等のメモリから圧縮データを読み出し(Read)ビデオデータに変換してビデオ波形を生成していた。
【0005】
しかしながら、DSPを使用してパルス圧縮処理する場合、メモリの読み出し(Read)/書き込み(Write)のオーバーヘッドがあり、処理時間遅れが大きくなる。通常、あるデータ単位(TRG単位:割り込み単位)で処理される場合、処理時間遅れは、5TRG以上の処理時間遅れが生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−275331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、メモリの読み出し(Read)/書き込み(Write)のオーバーヘッドをなくし、パルス圧縮処理を早い時間で完了しリアルタイム性が向上するレーダ受信信号のパルス圧縮装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係るレーダ受信信号のパルス圧縮装置は、レーダ受信信号をデジタル信号に変換してIQ検波したIデータとQデータをそれぞれ高速フーリエ変換処理して周波数領域上の実数部Rと虚数部jSのデータを得る第1の高速フーリエ変換部と、レーダ送信信号を生成するIデータとQデータをそれぞれ高速フーリエ変換処理して周波数領域上の実数部Tと虚数部jUのデータを得る第2の高速フーリエ変換部と、前記第1の高速フーリエ変換部からのデータR,jSと前記第2の高速フーリエ変換部からのデータT,jUを用いて複素演算処理してT・R+U・Sとj(−T・S+U・R)のデータを得る演算部と、前記演算部からの出力データを逆高速フーリエ変換処理する逆高速フーリエ変換部とを具備することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るレーダ受信信号のパルス圧縮装置は、メモリの読み出し(Read)/書き込み(Write)のオーバーヘッドをなくし、パルス圧縮処理を早い時間で完了しリアルタイム性が向上する。例えば、DSPを使用せずにFPGAで実現し、3TRG以内での処理を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係るレーダ受信信号のパルス圧縮装置の信号処理系統を示す構成説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係るレーダ受信信号のパルス圧縮装置のパルス圧縮計算を示す構成説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係るレーダ受信信号のパルス圧縮装置のパルス圧縮部の処理系統を示す構成説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係るレーダ受信信号のパルス圧縮装置のパルス圧縮部の処理系統を示す構成説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係るレーダ受信信号のパルス圧縮装置のパルス圧縮したビデオ波形を示す写真である。
【図6】本発明の実施形態に係るレーダ受信信号のパルス圧縮装置にて処理したときの処理時間を示す説明図である。
【図7】従来のDSPで処理したときの処理時間を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0012】
図1は本発明の実施形態に係るレーダ受信信号のパルス圧縮装置の信号処理系統を示す構成説明図である。図1において、11は送信タイミング生成部(TRG)、12はチャープ(I)信号発生部、13はチャープ(Q)信号発生部、14は送信種信号生成部(チャープ)、15はデジタル(D)/アナログ(A)変換部、16は周波数変換器、17は信号増幅器、18はサーキュレータ、19はアンテナ、20は周波数変換器、21はアナログ(A)/デジタル(D)変換部、22はIQ検波部、23はパルス圧縮処理部、24は航空機である。
【0013】
図1に示すように、送信タイミング生成部(TRG)11の出力端から出力されたタイミング信号がチャープ(I)信号発生部12の入力端及びチャープ(Q)信号発生部13の入力端に加えられ、チャープ(I)信号発生部12の出力端から出力されたIデータが送信種信号生成部(チャープ)14の一方の入力端に加えられると共にパルス圧縮処理部23の一方の入力端に加えられる。前記チャープ(Q)信号発生部13の出力端から出力されたQデータが送信種信号生成部(チャープ)14の他方の入力端に加えられると共にパルス圧縮処理部23の他方の入力端に加えられる。
【0014】
前記送信種信号生成部(チャープ)14の出力端から出力された送信種信号はD/A変換部15により中間周波(IF)のアナログ信号に変換され、さらに周波数変換器16で高周波(RF)信号に変換される。周波数変換器16で変換されたRF信号は信号増幅器17で増幅されて後、サーキュレータ18を通って送信信号TxRFとしてアンテナ19より航空機24に向かって発射される。尚、パルス圧縮する為には、レーダの送信信号はパルス・ド・チャープ信号である必要がある。
【0015】
航空機24からの反射波はアンテナ19により受信されて受信信号RxRFとしてサーキュレータ18を通って周波数変換器20でIF信号に変換され、さらにA/D変換部21でデジタル信号に変換された受信データとなる。A/D変換部21から出力された受信データはIQ検波部22でIQ検波されて、Iデータ、Qデータのデジタルデータとなり、パルス圧縮処理部23の別の入力端に加えられる。パルス圧縮処理部23はパルス圧縮処理部23から入力されたIデータ、Qデータに対してパルス圧縮処理を実施する。パルス圧縮処理とは受信信号に対して周波数対遅延時間特性を持つ回路を通すことで、パルス内に順番に分散されていた周波数成分が1点に集約され急峻なインパルス状態になる処理である。この原理を用いると、送信パルスは広くても高分解能の受信ビデオがえられる。
【0016】
図2は本発明の実施形態に係るレーダ受信信号のパルス圧縮装置のパルス圧縮計算を示す構成説明図であり、周波数領域でのFFT(高速フーリエ変換)の計算の模式図である。
【0017】
すなわち、受信信号のIデータ、Qデータ、それぞれに対してパルス圧縮を行う。受信データのIデータをFFTして得られた信号を複素平面上で、R及びSと表す。実数部をR、虚数部をSとすると、FFTしたデータは、R+jSと表される。
【0018】
パルス圧縮を実現する為には、参照データも必要となるため、送信種信号のデータ(チャープデータ)も同様に処理を行う。送信種信号をIQ検波し、得られたIデータに対して、FFT処理を行う。FFT後に得られた信号を複素平面上で、T及びUと表す。実数部をT、虚数部をUとすると、FFTしたデータは、T+jUと表される。
【0019】
FFT処理された結果は、周波数領域上のデータとなる。周波数領域での値で複素演算T・R+U・S+j(−T・S+U・R)を実施し、得られたデータは、実数部T・R+U・S及び虚数部−T・S+U・Rに整理される。得られた結果を逆FFTすることで、時間領域のデータに戻し、パルス圧縮されたIデータが得られる。
【0020】
同様の処理をQデータに対しても同じように行う。
【0021】
図3は本発明の実施形態に係るレーダ受信信号のパルス圧縮装置のパルス圧縮部の処理系統を示す構成説明図であり、Iデータのパルス圧縮処理である。図3において、31はシフトレジスタ、32はFFT(高速フーリエ変換)回路、33,34,35,36,37は乗算回路、38,39は加算回路、40は極性反転回路、41はIFFT(逆高速フーリエ変換)回路である。
【0022】
図3に示すように、レーダ受信信号のIデータ(ICH:2MHz,16bit)はシフトレジスタ31を介してFFT回路32の入力端に入力される。FFT回路32の一方の出力端にはIデータの実数部であるI(real)=Rが出力され、FFT回路32の他方の出力端にはIデータの虚数部であるI(imaginary)=Sが出力される。FFT回路32から出力されたI(real)=Rは乗算回路33,34のそれぞれ一方の入力端に入力され、FFT回路32から出力されたI(imaginary)=Sは乗算回路35,36のそれぞれ一方の入力端に入力される。
【0023】
乗算回路33,36のそれぞれ他方の入力端にはレーダ送信種信号を生成するIデータの実数部であるI′(real)=Tが入力され、乗算回路34,35のそれぞれ他方の入力端にはレーダ送信種信号を生成するIデータの虚数部であるI′(imaginary)=Uが入力される。
【0024】
乗算回路33の出力端にはR・Tが出力されて加算回路38の一方の入力端に入力され、乗算回路34の出力端にはU・Rが出力されて加算回路39の一方の入力端に入力される。乗算回路35の出力端にはU・Sが出力されて加算回路38の他方の入力端に入力され、乗算回路36の出力端にはT・Sが出力されて乗算回路37の一方の入力端に入力される。乗算回路37の他方の入力端には極性反転回路40からの出力信号−1が入力され、乗算回路37の出力端には−T・Sが出力されて加算回路39の他方の入力端に入力される。
【0025】
加算回路38の出力端には(R・T+U・S)=real(R・T+U・S)が出力されてIFFT回路41の一方の入力端に入力され、加算回路38の出力端には(−T・S+U・R)=imaginary(−T・S+U・R)が出力されてIFFT回路41の他方の入力端に入力される。IFFT回路41の出力端にはパルス圧縮されたIデータであるIcomv(2MHz,16bit)が抽出される。
【0026】
図4は本発明の実施形態に係るレーダ受信信号のパルス圧縮装置のパルス圧縮部の処理系統を示す構成説明図であり、Qデータのパルス圧縮処理である。図4において、51はシフトレジスタ、52はFFT(高速フーリエ変換)回路、53,54,55,56,57は乗算回路、58,59は加算回路、60は極性反転回路、61はIFFT(逆高速フーリエ変換)回路である。
【0027】
図4に示すように、レーダ受信信号のQデータ(QCH:2MHz,16bit)はシフトレジスタ51を介してFFT回路52の入力端に入力される。FFT回路52の一方の出力端にはQデータの実数部であるQ(real)=Rが出力され、FFT回路52の他方の出力端にはQデータの虚数部であるQ(imaginary)=Sが出力される。FFT回路52から出力されたQ(real)=Rは乗算回路53,54のそれぞれ一方の入力端に入力され、FFT回路52から出力されたQ(imaginary)=Sは乗算回路55,56のそれぞれ一方の入力端に入力される。
【0028】
乗算回路53,56のそれぞれ他方の入力端にはレーダ送信種信号を生成するQデータの実数部であるQ′(real)=Tが入力され、乗算回路54,55のそれぞれ他方の入力端にはレーダ送信種信号を生成するQデータの虚数部であるQ′(imaginary)=Uが入力される。
【0029】
乗算回路53の出力端にはR・Tが出力されて加算回路58の一方の入力端に入力され、乗算回路54の出力端にはU・Rが出力されて加算回路59の一方の入力端に入力される。乗算回路55の出力端にはU・Sが出力されて加算回路58の他方の入力端に入力され、乗算回路56の出力端にはT・Sが出力されて乗算回路57の一方の入力端に入力される。乗算回路57の他方の入力端には極性反転回路60からの出力信号−1が入力され、乗算回路57の出力端には−T・Sが出力されて加算回路59の他方の入力端に入力される。
【0030】
加算回路58の出力端には(R・T+U・S)=real(R・T+U・S)が出力されてIFFT回路61の一方の入力端に入力され、加算回路58の出力端には(−T・S+U・R)=imaginary(−T・S+U・R)が出力されてIFFT回路61の他方の入力端に入力される。IFFT回路61の出力端にはパルス圧縮されたQデータであるQcomv(2MHz,16bit)が抽出される。
【0031】
図5は本発明の実施形態に係るレーダ受信信号のパルス圧縮装置のパルス圧縮したビデオ波形を示す写真である。すなわち、実際に、パルス圧縮した信号の信号強度を算出し、ビデオ波形としたものを示し、中央の角の様に見える部分が、圧縮された箇所である。
【0032】
図6は本発明の実施形態に係るレーダ受信信号のパルス圧縮装置にて処理したときの処理時間を示す説明図である。すなわち、レーダ受信信号をアンテナで受信して中間周波にした信号をAD変換してデジタルデータとして後、IQ検波したIデータ、Qデータを用いてパルス圧縮の信号処理をして圧縮データを得てビデオデータに変換してビデオ波形を生成していた。
【0033】
以上のように、本発明に係るレーダ受信信号のパルス圧縮装置は、メモリの読み出し(Read)/書き込み(Write)のオーバーヘッドをなくし、パルス圧縮処理を早い時間で完了しリアルタイム性が向上する。例えば、DSPを使用せずにFPGAで実現し、3TRGでの処理を実現することができる。
【0034】
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0035】
11…送信タイミング生成部、12…チャープ(I)信号発生部、13…チャープ(Q)信号発生部、14…送信種信号生成部(チャープ)、15…デジタル(D)/アナログ(A)変換部、16…周波数変換器、17…信号増幅器、18…サーキュレータ、19…アンテナ、20…周波数変換器、21…アナログ(A)/デジタル(D)変換部、22…IQ検波部、23…パルス圧縮処理部、24…航空機、31…シフトレジスタ、32…FFT(高速フーリエ変換)回路、33,34,35,36,37…乗算回路、38,39…加算回路、40…極性反転回路、41…IFFT(逆高速フーリエ変換)回路、51…シフトレジスタ、52…FFT(高速フーリエ変換)回路、53,54,55,56,57…乗算回路、58,59…加算回路、60…極性反転回路、61…IFFT(逆高速フーリエ変換)回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ受信信号をデジタル信号に変換してIQ検波したIデータとQデータをそれぞれ高速フーリエ変換処理して周波数領域上の実数部Rと虚数部jSのデータを得る第1の高速フーリエ変換部と、
レーダ送信信号を生成するIデータとQデータをそれぞれ高速フーリエ変換処理して周波数領域上の実数部Tと虚数部jUのデータを得る第2の高速フーリエ変換部と、
前記第1の高速フーリエ変換部からのデータR,jSと前記第2の高速フーリエ変換部からのデータT,jUを用いて複素演算処理してT・R+U・Sとj(−T・S+U・R)のデータを得る演算部と、
前記演算部からの出力データを逆高速フーリエ変換処理する逆高速フーリエ変換部と
を具備することを特徴とするレーダ受信信号のパルス圧縮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−191133(P2011−191133A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56349(P2010−56349)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000221155)東芝電波プロダクツ株式会社 (62)
【Fターム(参考)】