説明

レーダ画像処理装置

【課題】 従来の画像レーダにおける超解像処理アルゴリズムは、優れた分解能を達成可能だが暗い信号に対して感度がないMUSIC法や、暗い信号に対して感度が高いが分解能の改善度が悪いHDI−Capon法など、暗い信号から明るい信号まで全てのダイナミックレンジの信号に対して優れた分解能を達成可能な信号処理アルゴリズム、もしくはそれを備えるレーダ画像処理装置は存在しなかった。
【解決手段】 入力画像データに対し、超解像処理を行い、目標信号成分を識別し、元画像から目標信号を差し引くことで背景信号成分を抽出する。背景信号に対しては、暗い信号にも高い感度を有するHDI−Capon法による超解像処理を適用する。その結果、超解像処理が行われた目標信号と背景信号を合成することで、全てのダイナミックレンジに対する超解像画像の生成を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
画像レーダにおける画像処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成開口レーダSAR(Synthetic Aperture Radar)において、帯域を越える分解能を達成する信号処理技術として超解像技術がある。
【0003】
MUSIC(Multiple Signal Classification)法は代表的な超解像アルゴリズムの一つであり、信号の到来方向の推定に高い精度を有する。MUSIC法は明るい信号に対しては元画像に対して33%程度まで分解能を改善可能であるが、一方で、暗い信号を過剰に抑圧してしまう性質をもつ。
【0004】
レーダ画像を目標信号成分と背景信号成分に分解し、目標信号部分に対してはMUSIC法を用いることで超解像処理を行い、これと背景信号を重ね合わせる画像レーダ装置が提案されている(特許文献1参照。)。この方法によって、目標信号成分については分解能を向上させ、かつ背景画像を表示することによって視覚的に自然な画像を得ることができる。
【0005】
別の代表的な超解像アルゴリズムとしてCapon法がある。Capon法は通信技術にも使われるアダプティブビームフォーミングを基本にした超解像技術の一つであり、レーダ散乱断面積の推定に高い精度を示す。
【0006】
特に、Capon法の改良が提案されており、従来のCapon法にさらに拘束条件を加えることによって、暗い信号にも高い感度を有するHDI−Capon法(High Defenition Imaging-Capon)が知られている(非特許文献1参照。)。
【0007】
【特許文献1】特開2004―309158号公報(第1図)
【非特許文献1】G.R.Benitz”High-Definition Vector Imaging”,pp.147-169,Vol.10,Number2, Lincoln Laboratory Journal,1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
MUSIC法によって出力される画像は、暗い背景画像の上に明るい点目標の位置に点を重ねたような画像であり、視覚的に不自然な画像が生成されてしまう問題がある。
【0009】
特許文献1による手法では、上記問題を解決はしているが、背景となる暗い信号には超解像処理を行っていないため、画像全体として暗い信号から明るい信号まで広いダイナミックレンジにおいて超解像処理を行うことは実現していないという問題がある。
【0010】
HDI−Capon法では、暗い信号に対しても超解像処理が可能であるが、そのアルゴリズムの特性から、分解能の改善は元画像に対してせいぜい50%程度であり、MUSIC法ほどの優れた分解能の改善が行われない問題がある。
【0011】
このように、公知の超解像技術は、各々が長所と短所を有しているため、一般に、暗い信号から明るい信号まで広いダイナミックレンジにおける信号を、高い分解能(MUSIC処理程度)で解像する信号処理装置、超解像処理方法は存在しない。
【0012】
この発明は、係る課題を解決するために成されたものであり、特許文献1で考案された画像処理装置について、背景画像に対して新たに超解像処理装置を加え、暗い信号から明るい信号まで全てのダイナミックレンジにおいて超解像処理を行った画像を作成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明のレーダ画像処理装置は、再生されたSAR画像に対して2次元フーリエ変換を行う2次元FFT処理部と、上記2次元FFT処理部からの目標信号を識別しMUSIC超解像処理を行い、目標振幅を推定し、背景信号を生成する目標信号処理部と、上記目標信号処理部からの背景信号に対して、共分散行列の算出を行い、HDI−Capon法等の超解像処理を行う背景信号処理部と、上記目標信号処理部からの目標信号と上記背景信号処理部からの背景信号に対して2次元逆フーリエ変換を行う2次元IFFT処理部と、上記目標信号処理部からの目標信号と上記2次元IFFT処理部からの背景信号を重みをつけて重ね合わせる画像重畳処理部と、上記画像重畳処理部からの信号で生成された超解像画像を表示する表示部と、を具備するものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、超解像処理を行い、目標信号成分を識別し、元画像から目標信号を差し引くことで背景信号成分を抽出し、背景信号に対しては、暗い信号にも高い感度を有するHDI−Capon法による超解像処理を適用した目標信号と背景信号を合成することによって、全てのダイナミックレンジに対する超解像画像の生成を可能とすることができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1であるレーダ画像処理装置の構成を示した図であり、101は再生SAR画像、102は2次元IFFT部、103はMUSIC処理部、104は点目標振幅推定処理部、105は背景画像生成部、106は共分散行列導出部、107はHDI−Capon処理部、108は2次元FFT部、109は画像重畳処理部、110は画像表示部、201は目標信号処理部、202は背景信号処理部である。
【0016】
再生SAR画像101を入力として、超解像画像を画像表示部110で出力する装置である。装置は、2次元FFT部102、MUSIC処理部103、点目標振幅推定処理部104、信号除去画像生成部105、共分散行列導出部106、HDI−Capon処理部107、2次元IFFT部108、画像重畳処理部109、画像表示部110で構成される。MUSIC処理部103、点目標振幅推定処理部104、信号除去画像生成部105は目標信号処理部201として、共分散行列導出部106、HDI−Capon処理部107は背景信号超解像処理部202として定義する。
【0017】
装置の入力である再生SAR画像101は実空間の複素画像フォーマットであり、SARとして取得した生信号を合成開口処理した結果である。2次元FFT部102は、入力された再生SAR画像101に対して2次元フーリエ変換を実施する装置である。MUSIC処理部103は、2次元FFTされたデータに対して、データの共分散行列を取得し、行列の固有値解析から明るい信号の到来方向の推定を行う。MUSIC処理は周知の事実である。
【0018】
点目標振幅推定処理部104は、MUSIC処理部103で抽出された点目標位置に相当する周波数を有するスペクトル信号の組を、2次元FFT部102で生成された2次元周波数信号に対して最小二乗フィッティングを行うことで、点目標の振幅値を推定する。信号除去画像生成部105は2次元FFT部102で生成された2次元周波数信号から、点目標振幅推定処理部104で推定された点目標の振幅値を差し引くことで、背景画像のみの周波数信号を生成する。
【0019】
本発明における新しい機能は、共分散行列導出部106、HDI−Capon処理部107を含む、背景信号処理部202である。特許文献1に記述される従来の実施形態では、背景画像の出力は、マルチルック等の処理のみによって、画像重畳処理部に送られる。従って、背景画像の分解能は元画像と同等かマルチルック処理によってはそれよりも劣ってしまうことになる。これに対し、本発明では信号除去画像生成部105の出力に対し、新たに背景信号処理部202を加えることで、背景画像の超解像処理を実施する。
【0020】
共分散行列導出部106の入力は、信号除去画像生成部105で点目標成分を差し引かれた背景画像成分のみの周波数信号である。この入力信号をM×Nの部分行列に分割する。ここで、部分行列は互いに重複を許す。
【0021】
次に、分割された個々のM×Nの行列をL個(=M×N)の1次元行列Ziに変換する。ここで、i=1,…,Kである。Kは全画像のサイズと部分行列の重複の度合いで一意に決まる値である。このようにして得られた部分行列Ziに対し、部分共分散行列を求め、それをK個について平均化することで、入力信号の共分散行列Rを求める。部分共分散行列Ziから共分散行列Rへの平均化の方法は、(1)式もしくは(2)式のどちらでもよい。
【0022】
【数1】

【0023】
【数2】

【0024】
共分散行列導出部106で生成された共分散行列Rに対して、HDI−Capon処理部107によってHDI−Capon処理を実施する。
【0025】
一般に、方向ベクトルVと以下の関係にある重みベクトルWを用い、RCSが最小となるような重みベクトルWを決定する方法は、(古典的)Capon法として周知の事実であり、(3)式で表される。例えば、「アレーアンテナによる適応信号処理」(菊間信良著, 科学技術出版)などに詳しい。
【0026】
【数3】

【0027】
ここで用いるHDI−Caponでは、重みWに対して、さらに(4)式で示される拘束条件を追加する。WをVからの微小変化εの変数とし、このεの方向が共分散行列Rの張る空間と直交しないように制限をかける。この拘束によって、隣接の暗い信号をキャンセルしないようにウェイトベクトルを決定する。
【0028】
【数4】

【0029】
ここで、HDI−Capon処理部107は、古典的Capon法等の他の超解像アルゴリズムを使用しても良い。
【0030】
このようにして生成された目標信号画像と背景信号画像に対して、それぞれ2次元IFFT部108によって、2次元逆フーリエ変換を実施し、その出力を画像重畳処理部109によって合成する。
【0031】
画像重畳処理部109で生成された信号は、目標信号処理部201と背景信号処理部202によって、それぞれ超解像処理されているため、全体として超解像処理によって分解能が改善された画像が画像表示部110によって出力される。
【0032】
実施の形態2.
図2はこの発明の実施の形態2であるレーダ画像処理装置の構成を示した図であり、102は2次元IFFT部、103はMUSIC処理部、104は点目標振幅推定処理部、105は背景画像生成部、106は共分散行列導出部、107はHDI−Capon処理部、101、102、105〜110は図1と同じものである。
【0033】
図2は、図1の実施の形態1に対し、目標信号処理部203を任意の数だけ追加し、MUSIC処理部103を超解像処理部111に、点目標振幅推定処理部104を目標信号識別・振幅推定処理部112に置き換えたものである。
【0034】
2次元FFT部102までの処理は実施の形態1と同じである。2次元FFT部102の出力は目標信号処理部203に入力される。
【0035】
目標信号処理部203では、超解像処理部111によって入力信号の超解像処理を行う。ここで、超解像アルゴリズムは実施の形態1におけるMUSIC法だけでなく、任意のアルゴリズムを使用可能である。超解像処理を行った後、目標信号識別・振幅推定処理部112に送られ、信号成分の識別を行い、その振幅の推定を行う。
【0036】
信号成分の識別に関しては、用いる超解像アルゴリズムや目標散乱体の種類によって最適な判別方法を選択可能とする。
【0037】
これによって得られた信号成分は、信号除去画像生成部105に送られ、元画像から目標信号を差し引かれた信号が生成される。また、目標信号識別・振幅推定処理部112の出力は、2次元FFT部108に送られる。信号除去画像生成部105の出力は、繰り返し、任意の数だけ、目標信号処理部203に入力される。
【0038】
ここで、繰り返す際の超解像処理部111に用いる超解像アルゴリズムは処理ごとに異なる手法を採用する。また、通常の点目標に対する超解像アルゴリズムに加え、アジマス方向に広がった人工物のモデル(アジマスフラッシュモデル)等の散乱体が異なる特性の超解像モデルも活用可能である。
【0039】
これによって、1種類の超解像アルゴリズムで目標信号として判別されなかった信号成分に対し、異なる超解像アルゴリズム、異なる散乱体モデルを用いて繰り返し識別評価を行い、信号の取りこぼしをなくす。
【0040】
以下に例をあげて実施の形態2の特徴を述べる。
ここで、目標信号処理部203の繰り返し回数nを2とし、目標信号処理部(1)における超解像処理部111では、アジマス方向に広がった人工物のモデル(アジマスフラッシュモデル)によるCapon法を使用する。これによって、空間的に広がった人工物等のターゲットを除去することが可能となる。次に、目標信号処理部(2)における超解像処理部111では、点ターゲットに対するMUSICアルゴリズムを使用し、明るい点散乱体の除去を行う。
【0041】
空間的に広がった構造のターゲットを超解像処理すると、アルゴリズムによっては点源の集合体と誤認識してしまい、誤った画像を生成する危険があるが、実施の形態2の繰り返し処理を行うことによって、広がった人工物を複数のターゲットと誤って識別する問題を回避することが可能となる。
【0042】
n回の目標信号処理を通した後の背景信号は、実施の形態1と同様にHDI−Capon処理を実施し、背景画像に対しても超解像処理を実施する。実施の形態1と同様、HDI−Capon処理部は、古典的Capon法等、他の超解像アルゴリズムを使用してもよい。
【0043】
2次元IFFT部8は、n回の目標信号処理部の信号成分と、背景信号成分の合計n+1ラインが入力され、それぞれ独立に2次元IFFT処理を実施する。
【0044】
画像重畳処理部109では、n+1の成分の重みベクトルを算出してn+1成分の信号合成を行い、超解像画像を生成し、画像表示部110で表示する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の実施の形態1であるレーダ画像処理装置の構成を示した図である。
【図2】この発明の実施の形態2であるレーダ画像処理装置の構成を示した図である。
【符号の説明】
【0046】
101 再生SAR画像、 102 2次元IFFT部、 103 MUSIC処理部、 104 点目標振幅推定処理部、 105 背景画像生成部、 106 共分散行列導出部、 107 HDI−Capon処理部、 108 2次元FFT部、 109 画像重畳処理部、 110 画像表示部、 111 超解像処理部、 112 目標信号識別・振幅推定処理部、 201 目標信号処理部、 202 背景信号処理部、 203目標信号処理部(i)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生されたSAR画像に対して2次元フーリエ変換を行う2次元FFT処理部と、
上記2次元FFT処理部からの目標信号を識別しMUSIC超解像処理を行い、目標振幅を推定し、背景信号を生成する目標信号処理部と、
上記目標信号処理部からの背景信号に対して、超解像処理を行う背景信号処理部と、
上記目標信号処理部からの目標信号と上記背景信号処理部からの背景信号に対して2次元逆フーリエ変換を行う2次元IFFT処理部と、
上記目標信号処理部からの目標信号と上記2次元IFFT処理部からの背景信号を重みをつけて重ね合わせる画像重畳処理部と、
上記画像重畳処理部からの信号で生成された超解像画像を表示する表示部と、
を具備することを特徴とするレーダ画像処理装置。
【請求項2】
超解像アルゴリズムを選択可能な超解像処理部を有し、目標信号識別を行い、振幅を推定し、信号成分を除去した画像を生成する目標信号処理部と、
複数の目標信号と背景信号に対して2次元逆フーリエ変化を行う2次元IFFT処理部と、
複数の目標信号と背景信号に対して重みをつけて重ね合わせる画像重畳処理部と、
を具備することを特徴とする請求項1記載のレーダ画像処理装置。
【請求項3】
上記背景信号処理部は、共分散行列の算出を行い、HDI−Capon法等により、超解像処理を行うことを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載のレーダ画像処理装置。
【請求項4】
上記共分散行列の算出は、M×Nの行列をL個(=M×N)の1次元行列Ziに変換することによって実施されることを特徴とする請求項3記載のレーダ画像処理装置。
【請求項5】
上記HDI−Capon法は、重みWを方向ベクトルVからの微小変化εの変数とし、このεの方向が共分散行列Rの張る空間と直交しないように制限をかけることによって実施されることを特徴とする請求項3記載のレーダ画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−241559(P2008−241559A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84392(P2007−84392)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】