説明

レーダ装置、検査システム、及び検査方法

【課題】レーダ装置の検査を実施する環境として適切であるか否かを判定可能とすること。
【解決手段】レーダ装置30で実行する信号解析処理では、動作モードが環境検査モードであれば(S210:YES)、比較固有値λMの各々について固有値比SlMを算出する(S220)。この固有値比SlMは、強い相関を有する到来波に対応する固有値λ同士の間で導出されたものであれば小さな値となり、到来波に対応する固有値λと熱雑音に対応する固有値λとの間で導出されたものであれば大きな値となる。そして、基準閾値Th以下となる固有値比SlMが存在しなければ(S230:NO)、軸検査を実施する環境として適している旨を出力し(S240)、基準閾値Th以下となる固有値比SlMが1つでも存在すれば(S230:YES)、軸検査を実施する環境として不適である旨を出力する(S250)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ波を送信し、該レーダ波が反射されることで生じる到来波を受信した結果に基づいて、レーダ波を反射した物標を検出するレーダ装置、当該レーダ装置を検査する検査システム、及び当該レーダ装置の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミリ波帯域の電波をレーダ波として送信し、該レーダ波が反射することで生じた到来波を複数のアンテナ素子がアレイ状に配置された受信アンテナにて受信した結果に基づいて、レーダ波を反射した物標までの距離(以下、物標距離と称す)、及び物標が存在する方位(以下、到来方位と称す)を含む情報を物標情報として生成するレーダ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この種のレーダ装置における到来方位の推定手法として、各アンテナ素子が受信した受信信号間の相関を表す相関行列を生成し、固有値分解した結果に基づいて到来波の数を推定した上で、その推定した到来波の数分の到来方位を角度スペクトルなどから検出する方法が知られている。このような到来方位の推定手法の代表例として、MUSIC(Multiple Signal Classification)やESPRIT(Estimation of signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−145178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、レーダ装置を自動車に取り付ける際には、自動車に予め規定された設置基準軸に、受信アンテナに規定された配置基準軸を一致させる必要がある。これは、レーダ装置にて推定される到来方位が、受信アンテナの向きを基準とした座標系で表されているため、この座標系と車両の座標系との対応関係が不明である場合には、到来方位の推定結果が不正確となるためである。
【0006】
よって、レーダ装置が取り付けられた自動車に対する検査では、受信アンテナの座標系と車両の座標系との対応関係を検査する軸検査工程が設けられている。一般的な軸検査工程では、レーダ波を反射する検査用物体(いわゆるリフレクタ)を1つ、予め規定された位置(以下、基準位置と称す)に配置した後、実際にレーダ波を送信して到来方位を推定した結果に基づいて、受信アンテナに規定された軸が設置基準軸に一致しているか否かを検査している。
【0007】
しかしながら、軸検査工程を実施する環境は、自動車の製造工場や自動車の整備工場であることが多く、レーダ波の照射範囲には、1つのリフレクタの他にもレーダ波を反射する物体(以下、検査障害物と称す)が存在する可能性があった。
【0008】
このように検査障害物が存在していると、レーダ装置は、リフレクタの位置(即ち、到来方位)を正確に推定できず、ひいては、配置基準軸が設置基準軸に一致しているか否かを正確に検査できないという問題あった。
【0009】
つまり、自動車に取り付けられるレーダ装置においては、配置基準軸が設置基準軸に一致しているか否かを検査する前に、レーダ装置の検査を実施する環境として適切であるか否かを判定することが求められている。
【0010】
そこで、本発明は、レーダ装置の検査を実施する環境として適切であるか否かを判定可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するためになされた本発明は、レーダ波を送信し、該レーダ波が反射されることで生じた到来波を、複数のアンテナ素子からなる受信アンテナにて受信した結果に基づいて、少なくとも、各到来波が到来した方位を表す到来方位、及び該レーダ波を反射した物標それぞれまでの距離を表す物標距離を推定し、それらの到来方位及び物標距離を同一物標毎に対応付けた物標情報を生成するレーダ装置に関する。
【0012】
本発明のレーダ装置では、固有値導出手段が、複数のアンテナ素子における受信信号間の相関を表す相関行列を導出し、その相関行列の固有値を導出し、比率導出手段が、その導出された固有値の中で、値が最大の固有値である最大固有値と該最大固有値以外の固有値である比較固有値との比を表す固有値比を導出する。
【0013】
すると、環境判定手段は、導出された固有値比に基づいて当該レーダ装置の検査環境の適否を判定する。
すなわち、このようなレーダ装置において導出される各固有値は、受信アンテナにて受信した電力の大きさに相当するものであるため、到来波に対応する固有値であれば大きな値となり、熱雑音に対応する固有値であれば小さな値となる。
【0014】
よって、固有値導出手段で導出された固有値の中で、到来波に対応する固有値が1つのみ存在する場合と、到来波に対応する固有値が複数存在する場合とでは、固有値比は、比較固有値毎に明らかに異なる。
【0015】
したがって、本願発明のレーダ装置によれば、この固有値比を監視することで、当該環境がレーダ装置の検査を実施する環境として適切であるか否かを判定することができる。
この結果、レーダ装置の検査環境として適切な環境である場合に、配置基準軸が設置基準軸に一致しているか否かを検査することで当該検査の精度を確実なものとすることができる。
【0016】
本発明のレーダ装置において、環境判定手段は、固有値比と、予め規定された基準閾値とを比較した結果に基づいて、検査環境の適否を判定しても良い(請求項2)。
このようなレーダ装置であれば、固有値比を確実に監視することができる。
【0017】
さらに、本発明における環境判定手段は、予め規定された規定条件を満たす固有値比の数をカウントし、該カウント数に基づいて、検査環境の適否を判定しても良い(請求項3)。なお、ここで言う規定条件とは、例えば、固有値比として、最大固有値の比較固有値それぞれに対する比の対数を導出する場合、その導出した固有値比が基準閾値以下となることである。ただし、基準閾値とは、少なくとも、最大固有値の判定閾値に対する比に相当するものとして予め規定された閾値であり、最大固有値の判定閾値に対する比よりも小さな値であることが好ましい。また、判定閾値とは、一般的な到来方位の推定方法において到来波の数を推定する際の基準として予め規定された閾値である。
【0018】
このような本発明のレーダ装置によれば、規定条件を満たす固有値比をカウントすることで、固有値比を確実に監視することができる。
そして、本発明における環境判定手段は、カウント数が、予め規定された規定数に一致するかまたは規定数とは異なる設定数未満である場合に検査環境が適切である旨を出力するか、或いはカウント数が、設定数以上である場合に、検査環境が不適切である旨を出力しても良い(請求項4)。また、環境判定手段は、固有値比が、到来波が1つであることを表していれば検査環境が適切である旨を出力するか、或いは到来波が2つ以上であることを表していれば、検査環境が不適切である旨を出力しても良い(請求項5)。
【0019】
これら(請求項4,5に記載の)レーダ装置によれば、検査環境の適否を知得できる。
ところで、本発明のレーダ装置において、比率導出手段が、最大固有値の比較固有値それぞれに対する比の対数を、固有値比として導出する場合、環境判定手段は、固有値比の中に、基準閾値以下となる固有値比が0であれば、到来波が1つであることを表しているものとし、基準閾値以下となる固有値比が1つ以上あれば、到来波が2つ以上であることを表しているものとすれば良い(請求項6)。
【0020】
このようなレーダ装置によれば、到来波が1つであるか否かを確実に判定することができる。
本発明のレーダ装置において、比率導出手段が、最大固有値の比較固有値の和に対する比を固有値比として導出する場合、環境判定手段は、固有値比の中に、基準閾値以上となる固有値比が0であれば、到来波が1つであることを表しているものとし、基準閾値以上となる固有値比が1つ以上あれば、到来波が2つ以上であることを表しているものとすれば良い(請求項7)。
【0021】
このようなレーダ装置であっても、到来波が1つであるか否かを、より確実に判定することができる。
なお、ここ(請求項6,7)で言う基準閾値は、少なくとも、最大固有値の判定閾値に対する比に相当するものとして予め規定された閾値であり、最大固有値の判定閾値に対する比よりも小さな値であることが好ましい。ただし、判定閾値とは、一般的な到来方位の推定方法において到来波の数を推定する際の基準として予め規定された閾値である。
【0022】
本発明は、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のレーダ装置を検査する検査システムとしてなされていても良い(請求項8)。
この場合、本発明の検査システムは、切替手段が、規定された規定指令が外部から入力されると、比率導出手段に固有値比を導出させ、環境判定手段に、該レーダ装置の検査環境として適しているか不適であるかを判定させる。そして、報知手段が、環境判定手段にて判定された結果を報知する。
【0023】
このような検査システムであれば、レーダ装置を検査する検査者が、外部装置を用いてレーダ装置に規定指令を入力することで検査を開始することができると共に、その検査者は、レーダ装置の検査環境についての検査結果を認識できる。
【0024】
さらに、本発明は、レーダ装置を検査する検査方法としてなされていても良い。ただし、本発明の検査方法が検査対象とするレーダ装置は、レーダ波を送信し、該レーダ波が反射されることで生じた到来波を、複数のアンテナ素子からなる受信アンテナにて受信した結果に基づいて、少なくとも、各到来波が到来した方位を表す到来方位、及び該レーダ波を反射した物標それぞれまでの距離を表す物標距離を推定し、それらの到来方位及び物標距離を同一物標毎に対応付けた物標情報を生成するものである。
【0025】
そして、本発明の検査方法では、固有値導出過程にて、複数のアンテナ素子における受信信号間の相関を表す相関行列を導出し、その相関行列の固有値を導出し、比率導出過程にて、固有値導出過程で導出した固有値の中で、値が最大の固有値である最大固有値と該最大固有値以外の固有値である比較固有値との比を表す固有値比を導出して、環境判定過程にて、比率導出過程で導出した固有値比に基づいて当該レーダ装置の検査環境の適否を判定する(請求項9)。
【0026】
このような検査方法であれば、当該環境がレーダ装置の検査を実施する環境として適切であるか否かを判定することができる。
なお、本発明における環境判定過程は、予め規定された規定条件を満たす前記固有値比の数をカウントし、そのカウント数が、予め規定された規定数に一致するかまたは規定数とは異なる設定数未満である場合に検査環境が適切である旨を出力するか、或いはカウント数が、設定数以上である場合に、検査環境が不適切である旨を出力しても良い(請求項10)。
【0027】
このような検査方法であれば、検査環境の適否を知得できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明が適用された検査システムの概略構成を示す図である。
【図2】レーダ装置の信号処理部が実行する信号解析処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】走行支援電子制御装置の制御部が実行するモード切替処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】検査ツールの制御部が実行する検査処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】信号解析処理の変形例の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明が適用されたレーダ装置を検査する検査システムの概略構成を、レーダ装置を中心に示した図である。
【0030】
検査システム1は、自動車に搭載された走行支援制御システム5を構成するレーダ装置30を検査するシステムである。この検査システム1は、走行支援制御システム5に接続され、走行支援制御システム5との間で情報を通信する検査ツール60を備えている。以下では、走行支援制御システム5が搭載された自動車を自車両と称す。
【0031】
〈検査ツールについて〉
まず、検査ツール60について説明する。
検査ツール60は、マイクロコンピュータを中心に構成され、当該検査ツール60を構成する各部を統括制御する制御部61と、走行支援制御システム5との間で情報を通信可能な通信インターフェース(通信I/F)63と、各種操作キー(図示せず)を介して情報の入力を受け付ける操作部65と、情報を表示する表示部67(例えば、液晶ディスプレイなど)とを備えている。
【0032】
〈走行支援制御システムについて〉
次に、走行支援制御システム5について説明する。
走行支援制御システム5は、先行車両と自車両との車間距離を予め設定された距離に保持するアダプティブクルーズ制御や、自車両と先行車両との車間距離が予め設定された距離以下となると、警告を出力したり、シートベルトを巻き上げたりするプリクラッシュセーフティ制御を走行支援制御として実行する車載システムである。
【0033】
これを実現するために、走行支援制御システム5は、ミリ波帯域の電波をレーダ波として送信し、該レーダ波が反射されることで生じた到来波を受信することによって、該レーダ波を反射した物標を検出し、該物標に関する情報(以下、物標情報とする)を生成するレーダ装置30と、そのレーダ装置30にて生成された物標情報に基づいて自車両を制御する走行支援電子制御装置(以下、走行支援ECUとする)10とを備えている。
【0034】
なお、本実施形態における物標とは、例えば、先行車両などの物体において、レーダ波を反射したポイントを表すものである。また、本実施形態における物標情報は、検出した物標までの自車両からの距離と、自車両と物標との間の相対速度と、予め規定された検出基準軸に対して到来波が到来した方位(即ち、物標が存在する方位(角度)、以下、到来方位と称す)とを少なくとも含むものである。
【0035】
また、走行支援ECU10は、少なくともROM、RAM、CPUを備えた周知のマイクロコンピュータを中心に構成された制御部11と、検査ツール60との間で情報通信を行う通信インターフェース(以下、通信I/Fと称す)13とを備えている。そして、走行支援ECU10の通信インターフェース13は、コネクタCNTを介して検査ツール60が接続可能に構成されている。
【0036】
また、走行支援ECU10には、図示しない警報ブザー、モニター、クルーズコントロールスイッチ、目標車間設定スイッチ等が接続されている。この他、走行支援ECU10には、エンジン電子制御装置(エンジンECU)20や、ブレーキ電子制御装置(ブレーキECU)22、シートベルト電子制御装置(シートベルトECU)24等が、LAN通信バス(図示せず)を介して接続されている。
【0037】
つまり、走行支援ECU10は、レーダ装置30からの物標情報に基づいて、走行支援制御を実行するように構成されている。
〈レーダ装置について〉
続いて、本実施形態の検査システム1が検査の対象とするレーダ装置30について説明する。
【0038】
このレーダ装置30は、FMCW方式のいわゆるミリ波レーダ装置として構成されたものであり、時間に対して周波数が直線的に増加(漸増)する上り区間、及び周波数が直線的に減少(漸減)する下り区間を一変調周期として有するように変調されたミリ波帯の高周波信号を生成する発振器31と、発振器31が生成する高周波信号を増幅する増幅器32と、増幅器32の出力を送信信号Ssとローカル信号Lsとに電力分配する分配器34と、送信信号Ssに応じたレーダ波を放射する送信アンテナ36と、レーダ波を受信するN個(Nは、2以上の自然数)のアンテナ素子391〜39Nからなる受信アンテナ40とを備えている。なお、受信アンテナ40を構成するアンテナ素子391〜39Nは、アレイ状に配置されており、アンテナ素子391〜39Nのそれぞれに、チャンネルCH1〜CHNが割り当てられている。
【0039】
また、レーダ装置30は、受信アンテナ40を構成するアンテナ素子391〜39Nのいずれかを順次選択し、選択されたアンテナ素子391〜39Nからの受信信号Srを後段に供給する受信スイッチ41と、受信スイッチ41から供給される受信信号Srを増幅する増幅器42と、増幅器42にて増幅された受信信号Srにローカル信号Lsを混合して、送信信号Ssと受信信号Srとの周波数の差を表すビート信号BTを生成するミキサ43と、ミキサ43が生成したビート信号BTから不要な信号成分を除去するフィルタ44と、フィルタ44の出力をサンプリングしデジタルデータに変換するA/D変換器45と、ビート信号BTのサンプリングデータを用いて、レーダ波を反射した物標を検出すると共に、その物標についての物標情報を生成する信号解析処理を実行する信号処理部46とを備えている。
【0040】
この信号処理部46は、少なくとも、ROM、RAM、CPUを備えた周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、さらに、A/D変換器45を介して取り込んだデータ(即ち、ビート信号BT)に対して、高速フーリエ変換(FFT)処理等を実行するための演算処理装置(例えば、DSP)を備えている。
【0041】
つまり、このように構成されたレーダ装置30では、信号処理部46からの指令に従って発振器31が振動すると、その発振器31で生成され、増幅器32で増幅した高周波信号を、分配器34が電力分配することにより、送信信号Ss及びローカル信号Lsを生成し、このうち送信信号Ssを送信アンテナ36を介してレーダ波として送信する。
【0042】
そして、送信アンテナ36から送出されて物標に反射されたレーダ波(即ち、到来波)は、受信アンテナ40を構成する全てのアンテナ素子391〜39Nにて受信され、受信スイッチ41によって選択されている受信チャンネルCHi(i=1〜N)の受信信号Srのみが増幅器42で増幅された後、ミキサ43に供給される。すると、ミキサ43では、この受信信号Srに分配器34からのローカル信号Lsを混合することによりビート信号BTを生成する。そして、このビート信号BTは、フィルタ44にて不要な信号成分が除去された後、A/D変換器45にてサンプリングされ、信号処理部46に取り込まれる。
【0043】
なお、受信スイッチ41は、レーダ波の一変調周期の間に、全てのチャンネルCH1からCHNが所定回(例えば、512回)ずつ選択されるよう切り替えられ、また、A/D変換器45は、この切り替えタイミングに同期してサンプリングを実行する。つまり、レーダ波の一変調周期の間に、各チャンネルCH1〜CHN毎かつレーダ波の上り、及び下り区間毎にサンプリングデータが蓄積されることになる。
【0044】
なお、レーダ装置30は、自動車に規定された設置基準軸に、当該レーダ装置30に規定された配置基準軸が一致するように自動車に取り付けられる。配置基準軸は、通常、レーダ装置30を自動車に取り付ける際の受信アンテナ40の向きとして規定されている。
【0045】
〈軸検査について〉
この自動車に取り付けられたレーダ装置30は、配置基準軸と設置基準軸とが不一致となる、即ち、予め規定された規定条件を満たしていない可能性があるため、配置基準軸と設置基準軸とが規定条件を満たしているか否かを検査(以下、この検査を軸検査と称す)する必要がある。
【0046】
この軸検査は、検査ツール60、走行支援ECU10、及びレーダ装置30が協調して実施する検査であり、レーダ装置30にて実行される信号解析処理、走行支援ECU10にて実行されるモード切替処理、及び検査ツールにて実行される検査処理によって実現される。
【0047】
具体的に本実施形態の軸検査では、レーダ波を反射する検査用物体(いわゆるリフレクタ)を1つ、予め規定された位置(以下、基準位置と称す)に配置した後、自動車に取り付けられたレーダ装置30から実際にレーダ波を送信して到来方位を推定した結果に基づいて、配置基準軸が設置基準軸に一致しているか否かを検査している。
【0048】
ただし、軸検査を実施する環境は、リフレクタの他にレーダを反射する物体(以下、検査障害物と称す)が、レーダ波の照射範囲内に存在しない環境であることが望ましいが、検査環境によっては、検査障害物が存在する可能性がある。このため、本実施形態の軸検査には、軸検査の環境として、当該環境が適しているか不適であるかを検査する環境検査を含む。
【0049】
〈信号解析処理について〉
次に、レーダ装置30の信号処理部46が実行する信号解析処理について説明する。
ここで、図2は、信号解析処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0050】
この信号解析処理は、予め規定された規定時間間隔(即ち、測定サイクル)毎に起動されるものであり、起動されると、図2に示すように、まず、発振器31を起動してレーダ波の送信を開始する(S110)。続いて、A/D変換器45を介してビート信号BTのサンプリング値を取得し(S120)、必要なだけサンプリング値を取得すると、発振器31を停止することにより、レーダ波の送信を停止する(S130)。
【0051】
次に、S130にて取得したサンプリング値(即ち、ビート信号BT)について周波数解析(本実施形態では、FFT処理)を実行し、受信チャンネルCH1〜CHN毎かつ上り/下り区間毎にビート信号BTのパワースペクトルを求める(S140)。このパワースペクトルは、ビート信号BTに含まれる周波数と、各周波数における強度とを表したものである。
【0052】
そして、上り区間について、パワースペクトル上に存在する各周波数ピークfbu1mを検出すると共に、下り区間について、パワースペクトル上に存在する各周波数ピークfbd1mを検出する(S150)。なお、検出された周波数ピークfbu,fbdの各々は、到来波の発生源となった物標が存在する可能性があることを意味する。
【0053】
具体的に本実施形態のS150では、受信チャンネルCH毎に求められたパワースペクトルを、全ての受信チャンネルで相加平均した平均スペクトルを導出する。そして、その平均スペクトルの中で、強度が予め設定された設定閾値を超える周波数のピーク点に対応する(即ち、平均スペクトルにおける強度が極大となる)周波数を周波数ピークfbu,fbdとして検出する。
【0054】
続いて、S150にて周波数ピークfbu,fbdを検出できたか否かを判定する(S160)。そのS160での判定の結果、周波数ピークfbu,fbdを検出できていなければ(S160:NO)、物標が存在しない旨を表す物標情報を生成して、走行支援ECU10に出力する(S170)。その後、今回の測定サイクルにおける信号解析処理を終了し、次の測定サイクルにて信号解析処理が起動されるまで待機する。
【0055】
一方、S160での判定の結果、周波数ピークfbu,fbdを検出できていれば(S160:YES)、上り区間のパワースペクトルから抽出された周波数ピークfbu、及び下り区間のパワースペクトルから抽出された周波数ピークfbdのうち、S190〜S270までの処理が未処理であるものを1つ選択する(S180)。
【0056】
続いて、S180にて選択された周波数の信号成分(FFT処理結果データ)を、全チャンネルCH1〜CHNのパワースペクトルから抽出して配列してなる受信ベクトルXi(k)を、下記(1)式に従って生成する。これと共に、その生成した受信ベクトルXi(k)に基づき、受信ベクトルXi(k)の相関を表す相関行列Rxx(k)を、下記(2)式に従って生成する(S190)。
【0057】
なお、(1)式において、符号“T”は、ベクトル転置を意味し、(2)式において、符号“H”は、複素転置行列を意味する。
【0058】
【数1】

【0059】
そして、S190にて生成した相関行列Rxxの固有値λ1〜λN(但し、λ1≧λ2≧…≧λN)を求めると共に、固有値λ1〜λNに対応する固有ベクトルE1〜ENを算出する(S200)。
【0060】
続いて、レーダ装置30の動作モードが、軸検査を実行する環境が適切であるか否かを判定する環境検査モードに設定されているか否かを判定する(S210)。この動作モードの設定は、詳しくは後述するが、検査ツール60を介して入力された指令に従って、走行支援ECU10が実行する。なお、本実施形態では、走行支援制御システム5の動作モードとして、少なくとも、走行支援制御を実行する通常モードと、レーダ装置30を検査する検査モードとが予め用意されており、レーダ装置30における検査モードとして、環境検査モードが用意されている。
【0061】
そして、S210での判定の結果、レーダ装置30の動作モードが環境検査モードであれば(S210:YES)、最大固有値λ1及び比較固有値λMを下記(3)に代入することで、比較固有値λMの各々について固有値比SlMを算出する(S220)。
【0062】
ただし、ここで言う最大固有値λ1は、S200にて導出した固有値λ1〜λNの中で、値が最大である固有値λである。また、ここで言う比較固有値λMは、S200にて導出した固有値λ1〜λNの中で、値が最大である固有値λ以外の固有値λである。よって、(3)式中のMは、2〜Nである。
【0063】
【数2】

【0064】
この(3)式によって導出される固有値比SlMは、強い相関を有する到来波に対応する固有値λ同士の間で導出されたものであれば小さな値となり、到来波に対応する固有値λと熱雑音に対応する固有値λとの間で導出されたものであれば大きな値となる。
【0065】
続いて、S220で導出した固有値比SlMの各々が、予め規定された基準閾値Th以下であるか否か、即ち、S220で導出した固有値比SlMの中に基準閾値Th以下となる固有値比SlMが存在するか否かを判定する(S230)。なお、本実施形態における基準閾値Thは、少なくとも、最大固有値λ1の判定閾値に対する比に相当する値として予め規定された閾値であり、最大固有値λ1の判定閾値に対する比を(λ1/λM)として上記(3)式に代入した値よりも小さな値であることが好ましい。さらに、本実施形態における判定閾値とは、詳しくは後述する到来波数Lを推定する際に用いる閾値である。
【0066】
このS230での判定の結果、基準閾値Th以下となる固有値比SlMが存在しなければ(S230:NO)、軸検査を実施する環境、即ち、設置基準軸に一致するように配置基準軸を調整する環境として、現在の環境が適している旨(以下、環境適情報と称す)を、走行支援ECU10に出力する(S240)。このとき、走行支援ECU10は、環境適情報を検査ツール60に出力する。その後、S260へと移行する。
【0067】
一方、S230での判定の結果、基準閾値Th以下となる固有値比SlMが1つでも存在すれば(S230:YES)、軸検査を実施する環境、即ち、設置基準軸に一致するように配置基準軸を調整する環境として、現在の環境が不適である旨(以下、環境不適情報と称す)を、走行支援ECU10に出力する(S250)。このとき、走行支援ECU10は、環境不適情報を検査ツール60に出力する。その後、S260へと移行する。
【0068】
なお、S210での判定の結果、レーダ装置30の動作モードが環境検査モードではない場合、即ち、レーダ装置30の動作モードが通常モードである場合には(S210:NO)、S220からS250のステップを実行することなく、S260へと移行する。
【0069】
そのS260では、S200にて導出した固有値λ1〜λNの中で、予め規定された判定閾値以下となる固有値λの数を、到来波数L(ただし、L<N)として推定する。この到来波数Lを推定する手法は、周知の手法であり、数々の手法が提案されているので、ここでの詳しい説明は省略するが、例えば、判定閾値として、熱雑音電力に相当する値を規定することが考えられる。
【0070】
そして、判定閾値以下となる(N−L)個の固有値に対応した固有ベクトルからなる雑音固有ベクトルENOを、下記(4)式で定義し、自車両の進行方向を基準とした方位θに対する受信アンテナ40の複素応答をa(θ)で表すものとして、下記(5)式に示す評価関数PMU(θ)を求める。
【0071】
【数3】

【0072】
この評価関数PMU(θ)から得られる角度スペクトル(MUSICスペクトル)は、到来波が到来した方向と一致する方位θにおいて発散して鋭いピークが立つように設定されている。このため、到来波の到来方位θ1〜θL、即ち、物標候補の方位は、MUSICスペクトルのピークを検出することにより求められる(S270)。
【0073】
なお、本実施形態のS270では、到来方位θにおけるMUSICスペクトルの値が、到来波の受信電力を表す到来電力として求められ、到来方位及び到来電力を、到来波毎に記憶する。以下、到来波毎に記憶された、到来方位と到来電力とからなる情報を方位情報と称す。
【0074】
続いて、全ての周波数ピークfbu,fbdに対して、S180からS270のステップを実行したか否か、即ち、未選択ピークが存在するか否かを判定する(S280)。このS280での判定の結果、未選択ピークが存在していれば(S280:YES)、S180へと戻り、S180からS270のステップを未実行である周波数ピークfbu,fbdの中から、1つの周波数ピークを選択して、S180からS270のステップを実行する。
【0075】
一方、S280での判定の結果、未選択ピークが存在していなければ(S280:NO)、ペアマッチングを実行する(S290)。このペアマッチングでは、S270にて推定した到来方位及び到来電力に基づいて、上り区間のビート信号BTから求められた周波数ピークfbu1mと、下り区間のビート信号BTから求められた周波数ピークfbd1mとを、同一物標にてレーダ波を反射したとみなせるもの同士でマッチングして登録する。以下、マッチングして登録された周波数ピークfbu,fbdの組を、周波数ペアと称す。
【0076】
より具体的には、上り区間の周波数ピークfbuと下り区間の周波数ピークfbdとの全ての組合せについて、到来電力の差、及び到来方位の角度差が予め規定された許容範囲内であるか否かを判定する。その判定の結果、到来電力の差及び到来方位の角度差が共に、許容範囲内であれば、対応する周波数ピークの組を周波数ペアとする。
【0077】
さらに、登録された周波数ペアに対して、FMCW方式のレーダ装置における周知の手法により、レーダ装置30から物標候補までの距離(以下、物標距離と称す)、物標候補と自車両との相対速度(以下、物標相対速度と称す)を導出する(S300)。本実施形態のS300では、このとき、物標相対速度、及び自車両の車速に基づいて、各物標候補の速度を導出すると共に、その物標候補が、停止物体であるか移動物体であるかを判定する。
【0078】
そして、物標候補それぞれについて、物標距離、物標相対速度に加えて、各物標候補に対応する周波数ペアの到来方位を物標方位とした物標情報を、走行支援ECU10に出力する(S310)。
【0079】
その後、本信号解析処理を終了する。
〈モード切替処理について〉
次に、走行支援ECU10の制御部11が実行するモード切替処理について説明する。
【0080】
ここで、図3は、モード切替処理の処理手順を示したフローチャートである。
このモード切替処理は、当該走行支援ECU10の作動中は繰り返し実行される。
走行支援ECU10の制御部11は、モード切替処理を開始すると、まず、検査ツール60から、検査モードへと移行する指令である検査モード移行指令を取得したか否かを判定する(S410)。そのS410での判定の結果、検査モード移行指令を取得していなければ(S410:NO)、検査モード移行指令を取得するまで待機する。そして、検査モード移行指令を取得すると(S410:YES)、走行支援制御の実行を停止する(S420)。
【0081】
さらに、検査モードへの移行が完了したことを表すモード移行完了通知を、検査ツール60へと出力する(S430)。続いて、レーダ装置30からの物標情報に含まれる方位情報を、検査ツール60へと送信する(S440)。
【0082】
そして、環境検査モードへと移行させる指令である環境検査モード移行指令、環境検査モードを解除させる指令である環境検査モード解除指令、及び検査モードを解除させる指令である検査モード解除指令が、検査ツール60から入力されたか否かを判定し(S450,S460,S470)、上記各指令が入力されていない場合(S450:NO,S460:NO,S470:NO)、S440へと戻り、方位情報等の情報を検査ツール60へと出力する処理を継続する。
【0083】
一方、環境検査モード移行指令が検査ツール60から入力されると(S450:YES)、環境検査モード移行指令をレーダ装置30に出力し(S480)、レーダ装置30を環境検査モードにて動作させる。これにより、レーダ装置30は、環境検査モードで動作し、検査環境の適・不適を判定する。そして、レーダ装置30から環境適情報または環境不適情報が入力されると、走行支援ECU10では、当該環境適情報、環境不適情報を検査ツール60に出力する。
【0084】
また、環境検査モード解除指令が検査ツール60から入力されると(S460:YES)、通常モード指令をレーダ装置30に出力し(S490)、レーダ装置30を通常モードにて動作させる。
【0085】
なお、検査モード解除指令が検査ツール60から入力されると(S470:YES)、制御部11は、当該モード切替処理を一旦終了し、S410に移行して、検査モード移行指令が再度入力されるまで待機する。
【0086】
〈検査処理について〉
次に、検査ツール60の制御部61が実行する検査処理について説明する。
ここで、図4は、検査処理の処理手順を示したフローチャートである。
【0087】
この検査処理は、検査ツール60が電源投入された直後から繰り返し実行される処理である。
検査ツール60の制御部61は、検査処理の実行を開始すると、まず、表示部67に初期画面を表示し(S510)、その後、操作部65に対して何らかの操作がなされるまで待機する(S520)。そして、操作部65に対して操作がなされると、なされた操作がレーダ装置30の検査開始操作であるか否かを判定し(S530)、なされた操作がレーダ装置30の検査開始操作でない場合(S530:NO)には、なされた操作に応じた処理を実行し(S540)、S510へと戻る。
【0088】
一方、なされた操作がレーダ装置30の検査開始操作であれば(S530:YES)、検査モード移行指令を走行支援ECU10に出力する(S550)。そして、検査モード移行指令を出力してから所定時間内に、走行支援ECU10からモード移行完了通知が入力されたか否か、即ち、モード移行が完了したか否かを判定する(S560)。
【0089】
このS560での判定の結果、所定時間内にモード移行完了通知が入力されていれば(S560:YES)、詳しくは後述するS570へと移行する。一方、S560での判定の結果、所定時間内にモード移行完了通知が入力されていなければ(S560:NO)、検査モードへの移行に失敗したことを示すエラー表示を表示部67に表示して(S650)、S660へと移行する。
【0090】
また、S570へと移行すると、走行支援ECU10を介してレーダ装置30から送信されてくる方位情報、環境適情報、及び環境不適情報などの情報を受信する(S570)。そして、S570にて受信した情報(方位情報、環境適情報、及び環境不適情報)を、表示部67に表示する(S580)。なお、S580にて表示する方位情報は、到来方位の時間変化を表すグラフでも良い。
【0091】
さらに、操作部65に対して何らかの操作がなされたか否かを判定し(S590)、操作部65に対して操作がなされていない場合には(S590:NO)、S570,S580のステップを繰り返す。一方、操作部65に対して操作がなされた場合には(S590:YES)、当該操作に対応する処理を実行する。
【0092】
具体的には、操作部65に対してなされた操作が環境検査モードへの移行であれば(S600:YES)、環境検査モード移行指令を走行支援ECU10に出力する(S610)。これにより、レーダ装置30は、環境検査モードにて動作する。検査処理は、その後、S570へと戻る。
【0093】
一方、操作部65に対してなされた操作が環境検査モードへの移行ではなく(S600:NO)、環境検査モードの解除であれば(S620:YES)、環境検査モード解除指令を走行支援ECU10に出力する(S630)。これにより、レーダ装置30は、動作モードが通常モードへと移行する。検査処理は、その後、S570へと戻る。
【0094】
操作部65に対してなされた操作が、環境検査モードへの移行、環境検査モードの解除のいずれでもなく(S600:NO,S620:NO)、さらに、検査モードの解除でもなければ(S640:NO)、S570へと戻る。
【0095】
さらに、操作部65に対してなされた操作が、環境検査モードへの移行、環境検査モードの解除のいずれでもなく(S600:NO,S620:NO)、検査モードの解除であれば(S640:YES)、検査モードの解除指令を走行支援ECU10に出力する(S660)。
【0096】
その後、検査処理を終了する。
[実施形態の効果]
一般的に、各固有値λは、受信アンテナ40にて受信した電力の大きさに相当するものであるため、到来波に対応する固有値λであれば大きな値となり、熱雑音に対応する固有値λであれば小さな値となる。
【0097】
よって、信号解析処理のS200にて導出された固有値λの中で、到来波に対応する固有値λが1つのみ存在すれば、全ての固有値比SlMが基準閾値Thよりも大きくなり、到来波に対応する固有値λが複数存在すれば、少なくとも1つの固有値比SlMが基準閾値Th以下となる。
【0098】
したがって、検査システム1によれば、この固有値比SlMを監視することで、当該環境が、レーダ波の照射範囲内にリフレクタが1つ配置され検査障害物が存在しない、レーダ装置30の検査を実施する環境として適切な環境であるか否かを判定することができる。
【0099】
そして、この判定結果を認識した検査担当者が、レーダ装置30の検査環境として適切な環境である場合に、配置基準軸が設置基準軸に一致しているか否かを検査することで当該検査の精度を確実なものとすることができる。さらに、配置基準軸が設置基準軸に一致しているか否かの検査の結果、配置基準軸が設置基準軸に不一致であれば、配置基準軸が設置基準軸に一致するようにレーダ装置30の取り付けを調整することができ、配置基準軸が設置基準軸に不一致である状態に長時間保持されることを防止できる。
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0100】
例えば、上記実施形態における信号解析処理では、各周波数ピークfbu,fbdについて、基準閾値Th以下となる固有値比SlMが存在するか否かを判定し、基準閾値Th以下となる固有値比SlMが存在する場合、直ちに、環境不適情報と出力していたが、環境不適情報を出力するタイミングは、これに限るものではない。つまり、一変調周期の間に検出された全ての周波数ピークfbu,fbdについて、基準閾値Th以下となる固有値比SlMが存在するか否かを判定し、その判定の結果、予め規定された規定値以上の固有値比SlMが基準閾値Th以下となる場合に、環境不適情報を出力しても良いし、変調周期を複数回繰り返した結果、規定値以上の固有値比SlMが基準閾値Th以下となる場合に、環境不適情報を出力しても良い。
【0101】
また、上記実施形態の信号解析処理においては、環境不適情報を出力した後に、到来波の数Lを推定して到来方位を推定していたが、環境不適情報を出力した後は、信号解析処理を直ちに終了しても良い。
【0102】
さらに、上記実施形態では、固有値比SlMは、最大固有値λ1の比較固有値λMに対する比の対数を固有値比SlMとしていたが、固有値比SlMは、これに限るものではなく、例えば、最大固有値λ1の比較固有値λMの和に対する比(λ1/ΣλM)の対数であっても良い。
【0103】
ところで、動作モードが環境検査モードであるときに、信号解析処理にて実行される処理内容は、上記実施形態にて説明したものに限らない。
すなわち、動作モードが環境検査モードであるときに、信号解析処理にて実行される処理内容は、固有値比SlMを監視することで、レーダ装置30の検査環境の適否を検査可能であれば、どのようなものでも良い。
【0104】
具体的には、信号解析処理にて実行される処理内容は、図2に示すS230に替えて、図5に示すS222,S224を実行しても良い。
この図5に示す信号解析処理は、上記実施形態にて説明した信号解析処理におけるS220に続くステップ(S222)として、基準閾値Th以下となる固有値比SlMをカウントする。そして、S222にてカウントしたカウント数CNが、予め設定された設定数Thα(ここでは、設定数Thα=「1」とする)未満であれば(S224:YES)、軸検査を実施する環境として適しているものとして、環境適情報を走行支援ECU10に出力する(S240)。
【0105】
一方、カウント数CNが設定数Thα以上であれば(S224:NO)、軸検査を実施する環境として不適切であるものとして、環境不適情報を走行支援CU10に出力する(S250)。
【0106】
図5に示す信号解析処理は、S222,S224以外のステップは、上記実施形態(即ち、図2に示す信号解析処理)と同様の内容であるため、ここでの説明は省略する。
なお、上記S222では、カウント数CNが、設定値Thα未満であるか否かを判定したが、S222にて判定する内容は、これに限るものではなく、カウント数CNが、予め規定された規定数(ここでは、規定数=「0」とする)に一致するか否かを判定しても良い。つまり、図5に示す信号解析処理では、カウント数CNが規定数に一致すれば、軸検査を実施する環境として適しているものとして、環境適情報を走行支援ECU10に出力し(S240)、カウント数CNが規定数に不一致であれば、軸検査を実施する環境として不適切であるものとして、環境不適情報を走行支援CU10に出力(S250)しても良い。
【0107】
ところで、上記実施形態では、方位推定の手法として、MUSIC(Multiple Signal Classification)を挙げたが、本発明が適用可能な方位推定の手法は、これに限るものではなく、例えば、ESPRIT(Estimation of signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)でも良いし、Root−MUSICでも良い。さらに、これらの方位推定の手法にユニタリ変換を実施した、Unitary MUSIC,Unitary ESPRIT,Unitary Root−MUSICでも良い。
【0108】
つまり、アンテナ素子391Nの各々における受信信号間の相関を表す相関行列Rxxを導出し、その相関行列Rxxの固有値λを導出した上で到来方位を推定する手法であれば、どのような手法であっても良く、例えば、最小ノルム法でも良い。
【0109】
また、上記実施形態のレーダ装置30では、受信アンテナ40から信号処理部46までの構成(以下、受信系と称す)として、N個のアンテナ素子39と、一つの受信スイッチ41、増幅器42、ミキサ43、フィルタ44、及びA/D変換器45とを備えていたが、本発明における受信系は、受信スイッチ41を備えていなくとも良い。この場合、受信系は、受信アンテナ40を構成するアンテナ素子391〜39Nそれぞれについて、個々のアンテナ素子391〜39Nから供給される受信信号Srを増幅するN個の増幅器421〜42Nと、増幅器421〜42Nそれぞれにて増幅された受信信号Srにローカル信号Lsを混合してビート信号BTを生成するN個のミキサ431〜43Nと、ミキサ431〜43Nそれぞれが生成したビート信号BTから不要な信号成分を除去するN個のフィルタ441〜44Nと、フィルタ441〜44Nそれぞれの出力をサンプリングしてデジタルデータに変換するN個のA/D変換器451〜45Nとを備えていても良い。
【0110】
さらに言えば、上記実施形態では、FMCWレーダをレーダ装置30として例示したが、レーダ装置30は、これに限るものではなく、例えば、パルスレーダでも良いし、2周波レーダでも良い。つまり、複数のアンテナ素子391Nがアレイ状に配置された受信アンテナ40を有し、上記手法にて到来方位を推定可能なレーダ装置であれば、検査システム1が検査の対象とするレーダ装置30は、どのようなレーダ装置でも良い。
[実施形態と特許請求の範囲との対応関係]
最後に、上記実施形態の記載と、特許請求の範囲の記載との関係を説明する。
【0111】
上記実施形態の信号解析処理におけるS190及びS200を実行することで得られる機能が、特許請求の範囲における固有値導出手段に相当し、S220を実行することで得られる機能が、特許請求の範囲における比率導出手段に相当し、S230〜S250を実行することで得られる機能が、特許請求の範囲における環境判定手段に相当する。
【0112】
さらに、上記実施形態のモード切替処理を実行することで得られる機能が、特許請求の範囲における切替手段に相当し、上記実施形態の検査処理におけるS580を実行することで得られる機能が、特許請求の範囲における報知手段に相当する。
【符号の説明】
【0113】
1…検査システム 5…走行支援制御システム 10…走行支援ECU 11…制御部 13…通信インターフェース 30…レーダ装置 31…発振器 32…増幅器 34…分配器 36…送信アンテナ 39…アンテナ素子 40…受信アンテナ 41…受信スイッチ 42…増幅器 43…ミキサ 44…フィルタ 45…A/D変換器 46…信号処理部 60…検査ツール 61…制御部 63…通信I/F 65…操作部 67…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ波を送信し、該レーダ波が反射されることで生じた到来波を、複数のアンテナ素子からなる受信アンテナにて受信した結果に基づいて、少なくとも、各到来波が到来した方位を表す到来方位、及び該レーダ波を反射した物標それぞれまでの距離を表す物標距離を推定し、それらの到来方位及び物標距離を同一物標毎に対応付けた物標情報を生成するレーダ装置であって、
前記複数のアンテナ素子における受信信号間の相関を表す相関行列を導出し、その相関行列の固有値を導出する固有値導出手段と、
前記固有値導出手段で導出した固有値の中で、値が最大の固有値である最大固有値と該最大固有値以外の固有値である比較固有値との比を表す固有値比を導出する比率導出手段と、
前記比率導出手段で導出した前記固有値比に基づいて当該レーダ装置の検査環境の適否を判定する環境判定手段と
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記環境判定手段は、
前記固有値比と、予め規定された基準閾値とを比較した結果に基づいて、前記検査環境の適否を判定する
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記環境判定手段は、
予め規定された規定条件を満たす前記固有値比の数をカウントし、該カウント数に基づいて、前記検査環境の適否を判定する
ことを特徴とする請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記環境判定手段は、
前記カウント数が、予め規定された規定数に一致するかまたは前記規定数とは異なる設定数未満である場合に前記検査環境が適切である旨を出力するか、或いは前記カウント数が、前記設定数以上である場合に、前記検査環境が不適切である旨を出力する
ことを特徴する請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記環境判定手段は、
前記固有値比が、到来波が1つであることを表していれば、検査環境が適切である旨を出力するか、或いは前記固有値比が、前記到来波が2つ以上であることを表していれば、検査環境が不適切である旨を出力する
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記比率導出手段は、
前記最大固有値の前記比較固有値それぞれに対する比の対数を、前記固有値比として導出し、
前記環境判定手段は、
前記固有値比の中に、予め規定された基準閾値以下となる固有値比が0であれば、前記到来波が1つであることを表しているものとし、前記基準閾値以下となる固有値比が1つ以上あれば、前記到来波が2つ以上であることを表しているものとする
ことを特徴とする請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記比率導出手段は、
前記最大固有値の前記比較固有値の和に対する比を、前記固有値比として導出し、
前記環境判定手段は、
前記固有値比の中に、予め規定された基準閾値以下となる固有値比が0であれば、前記到来波が1つであることを表しているものとし、前記基準閾値以下となる固有値比が1つ以上あれば、前記到来波が2つ以上であることを表しているものとする
ことを特徴とする請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のレーダ装置を検査する検査システムであって、
規定された規定指令が外部から入力されると、前記比率導出手段に固有値比を導出させ、前記環境判定手段に、該レーダ装置の検査環境として適しているか不適であるかを判定させる切替手段と、
前記レーダ装置の環境判定手段にて判定された結果を報知する報知手段と
を備えることを特徴とする検査システム。
【請求項9】
レーダ波を送信し、該レーダ波が反射されることで生じた到来波を、複数のアンテナ素子からなる受信アンテナにて受信した結果に基づいて、少なくとも、各到来波が到来した方位を表す到来方位、及び該レーダ波を反射した物標それぞれまでの距離を表す物標距離を推定し、それらの到来方位及び物標距離を同一物標毎に対応付けた物標情報を生成するレーダ装置の検査方法であって、
前記複数のアンテナ素子における受信信号間の相関を表す相関行列を導出し、その相関行列の固有値を導出する固有値導出過程と、
前記固有値導出過程で導出した固有値の中で、値が最大の固有値である最大固有値と該最大固有値以外の固有値である比較固有値との比を表す固有値比を導出する比率導出過程と、
前記比率導出過程で導出した前記固有値比に基づいて当該レーダ装置の検査環境の適否を判定する環境判定過程と
を有する検査方法。
【請求項10】
前記環境判定過程は、
予め規定された規定条件を満たす前記固有値比の数をカウントし、
該カウント数が、予め規定された規定数に一致するかまたは前記規定数とは異なる設定数未満である場合に前記検査環境が適切である旨を出力するか、或いは前記カウント数が、前記設定数以上である場合に、前記検査環境が不適切である旨を出力する
ことを特徴とする請求項9に記載の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−242169(P2012−242169A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110528(P2011−110528)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】