説明

レーダ装置

【課題】距離分解能、送信回数および処理距離範囲をそれぞれ独立に設定可能なレーダ装置を得る。
【解決手段】送信周波数が所定のステップ周波数だけ異なるM種類(M≧2)の周波数の信号にそれぞれ異なる変調を施した後に合成するとともに、送信毎にN(N≧2)を法とした送信回数の剰余演算結果をミキシングした送信信号をアンテナ部6から送信する送信部3と、送信部3からの送信波が目標で反射した当該目標からの反射波をアンテナ部6により受信し、当該受信信号をM点の離散フーリエ変換処理した後に前記変調を復調するDFT部7と、送信部3による送信毎に得られるDFT部7からのM個の出力をN回の送信にわたり保持し、そのM×N個の信号で離散逆フーリエ変換処理を行うIDFT部8とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はレーダ装置に関し、特に、ステップチャープ送信により高距離分解能を得る、合成帯域法を用いるレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成帯域法は高距離分解能を得るレーダ方式の一つで、従来の合成帯域法では、送信毎に一定の周波数(以下、ステップ周波数とする。)だけ異なる信号を送信し、その受信信号をIDFT(Inverse Discrete Fourier Transform,離散逆フーリエ変換)することにより高距離分解能を得る(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Donald R. Wehner著、“High-Resolution Radar Second Edition”、Artech House, Inc., 1995年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の合成帯域法の場合、ステップ周波数をdF、送信回数をNとすると、距離分解能dRgは、次式(1)で示される。
【0005】
【数1】

【0006】
また、従来の合成帯域法で検出される距離は、次式(2)で示される距離範囲Rug(以下、処理距離範囲とする。)で繰り返される周期関数となり、距離の不確定性が発生する。
【0007】
【数2】

【0008】
なお、ここで、式(1)、式(2)において、cは光速である。
【0009】
式(1)、式(2)から自明のとおり、距離分解能、送信回数、および、処理距離範囲のうち2項目が決まると、他の1項目は一義的に決まってしまうという問題点がある。
【0010】
例えば、許容される観測時間が0.1秒以下、PRI(Pulse Repetition Interval、パルス繰返し周期)が2msの航空機を検出するレーダ装置の場合、送信回数は50回が上限となる。一方、航空機の機体の長さは最大80m程度であるため、処理距離範囲を誤差も含め150mとすると、ステップ周波数は、式(2)から1MHzとなる。従って、距離分解能は、式(1)から一義的に3mとなり、これ以上の距離分解能を得ることができないという問題点があった。
【0011】
この発明は、かかる問題点を解決するためになされたものであり、距離分解能、送信回数および処理距離範囲をそれぞれ独立に設定可能にし、それにより、広距離範囲を短時間で高距離分解能処理することを可能にするレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、送信周波数が所定のステップ周波数だけ異なるM種類(Mは2以上の任意の整数)の周波数の信号にそれぞれ異なる変調を施した後に合成するとともに、送信毎にN(Nは2以上の任意の整数)を法とした送信回数の剰余演算結果をミキシングして送信する送信手段と、前記送信手段からの送信波が目標で反射した当該目標からの反射波を受信信号として受信し、前記受信信号をM点の離散フーリエ変換処理した後に前記変調を復調する離散フーリエ変換処理手段と、前記送信手段からの前記送信波の送信毎に得られる前記離散フーリエ変換処理手段からのM個の出力をN回の送信にわたり保持し、そのM×N個の信号で離散逆フーリエ変換処理を行う離散逆フーリエ変換処理手段とを備えたことを特徴とするレーダ装置である。
【発明の効果】
【0013】
この発明は、送信周波数が所定のステップ周波数だけ異なるM種類(Mは2以上の任意の整数)の周波数の信号にそれぞれ異なる変調を施した後に合成するとともに、送信毎にN(Nは2以上の任意の整数)を法とした送信回数の剰余演算結果をミキシングして送信する送信手段と、前記送信手段からの送信波が目標で反射した当該目標からの反射波を受信信号として受信し、前記受信信号をM点の離散フーリエ変換処理した後に前記変調を復調する離散フーリエ変換処理手段と、前記送信手段からの前記送信波の送信毎に得られる前記離散フーリエ変換処理手段からのM個の出力をN回の送信にわたり保持し、そのM×N個の信号で離散逆フーリエ変換処理を行う離散逆フーリエ変換処理手段とを備えたことを特徴とするレーダ装置であるので、距離分解能、送信回数および処理距離範囲をそれぞれ独立に設定できるため、広距離範囲を短時間で高距離分解能処理することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1によるレ−ダ装置の構成を示すブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明に係るレーダ装置は、送信周波数がステップ周波数dFだけ異なるM種類(Mは2以上の任意の整数)の周波数の信号に、それぞれ異なる変調、例えば、0度と180度の2位相変調を施した後に合成し、さらに、送信毎にN(Nは2以上の任意の整数)を法とした送信回数の剰余演算結果、すなわち、0から(N−1)の数値に比例して変化する周波数の信号をミキシングして送信する送信部と、目標からの反射波を受信した受信信号をM点のDFT(Discrete Fourier Transform、離散フーリエ変換)処理した後、前記位相変調を復調するDFT部と、送信毎に得られる前記DFT部からのM個の出力をN回の送信に亘り保持し、その「M×N」個の信号でIDFT処理を行うIDFT部とを備えたものである。
【0016】
なお、この発明によるレーダ装置は、送信回数Nを周期として同一の動作を繰り返すため、以下、上記Nを法とした送信回数の剰余演算結果を送信回数という。
【0017】
以下、この発明の一実施の形態に係るレーダ装置について説明する。
【0018】
実施の形態1.
図1は、本実施の形態1によるレーダ装置の構成を示したブロック構成図である。図1に示すように、このレーダ装置は、タイミング発生部1と、送信キャリア信号発生部2と、送信部3と、受信部4と、送受切替部5と、アンテナ部6と、DFT部7と、IDFT部8とから構成される。
【0019】
タイミング発生部1は、送信回数信号101および位相変調信号102を送信キャリア信号発生部2に送出するとともに、送信パルス変調信号103を送信部3に送出し、A/Dクロック信号104を受信部4に送出し、位相復調信号105をDFT部7へ送出する。送信回数信号101は、レーダ装置の距離分解処理に必要な送信回数をN回(Nは2以上の任意の整数)とすると、送信毎に0から(N−1)の整数値を順に繰返し出力する信号である。また、位相変調信号102は、送信キャリア信号発生部2から送出される送信キャリア信号106に例えば0度と180度の2位相変調を施す信号で、例えばビット長がM(Mは2以上の任意の自然数)で、各ビットの値が「0」又は「1」の2値の擬似ランダム符号で、例えば値が「0」のとき0度に位相変調し(すなわち、位相変調しない)、値が「1」のとき180度に位相変調する。一方、位相復調信号105は、送信部3から送出される送信信号109に施された位相変調成分を取り除くための信号で、例えば位相変調信号102と同一の信号である。
【0020】
送信キャリア信号発生部2は、送信回数信号101および位相変調信号102に基づいて、次式(3)で示されるCOHO信号107と、次式(4)および次式(5)で示される、送信毎に「M×dF」だけ周波数が異なるローカル信号108とを生成し、受信部4へ送出するとともに、次式(6)で示される、dFだけ異なるM種類の周波数成分から成り、かつ、送信毎に「M×dF」だけ送信周波数が異なる送信キャリア信号106を生成し、送信部3へ送出する。
【0021】
【数3】

【0022】
ここで、Sc(n,t)、Sl(n,t)およびSt(n,t)は、それぞれ、COHO信号107、ローカル信号108および送信キャリア信号106であり、nは送信回数、tは時間、AcおよびAlは、それぞれ、COHO信号107およびローカル信号108の振幅、Atは送信キャリア信号106の各周波数成分の振幅で、一例として各周波数成分で同一振幅としている。Fifは、COHO信号107の周波数、Fl0はローカル信号108の規準となる周波数、φ(m)は位相変調信号102のmビット目の値である。また、COHO信号107、ローカル信号108、および、送信キャリア信号106の初期位相は本発明の作動に影響を与えないため省略している。
【0023】
送信部3は、送信キャリア信号106を送信パルス変調信号103で周期的にパルス変調した後、電力増幅し、送信信号109として、送受切替部5を経由して、アンテナ部6に送出する。送信パルス変調信号103は、前述のとおり、送信信号109のパルス幅をステップ周波数dFの逆数以下、例えばステップ周波dFの逆数(1/dF)に制御する。
【0024】
アンテナ部6は、送信信号109を空間に放射し、図示していない目標でそれが反射された信号はアンテナ部6で受信され、送受切替部5を経て、次式(7)および次式(8)で示される受信信号110として受信部4へ出力される。
【0025】
【数4】

【0026】
ここで、Sr(n,t)は受信信号110、Arは受信信号110の振幅、Rtは図示していない目標までの距離、τrは図示していない目標までの距離Rtによる時間遅れである。
【0027】
受信部4は、受信信号110を電力増幅するとともに、ローカル信号108でそれをIF周波数に変換し、さらに、COHO信号107で直交位相検波した後、A/Dクロック信号104のタイミングでA/D変換し、次式(9)で示される2チャンネルのI/Qビデオ信号111として、DFT部7へ送出する。また、A/Dクロック信号104の周期は、次式(10)で示すとおり、受信信号110の周波数帯域幅である「M×dF」の逆数以下、例えば「M×dF」の逆数に選定される。なお、簡単のため、次式(9)ではI/Qビデオ信号111を複素信号で表すとともに、パルス変調成分は省略し、I/Qビデオ信号111の立ち上がり時点をA/D変換の開始時点とし、I/Qビデオ信号111の立ち上がり時点をA/D変換の終了時点としている。
【0028】
【数5】

【0029】
ここで、Sv(n,k)はI/Qビデオ信号111、AvはI/Qビデオ信号111の振幅、τsはA/Dクロック信号104の周期、kはA/D変換のサンプリング回数で、I/Qビデオ信号111のパルス幅が「1/dF」であるため、0から(M−1)のM個の整数値をとる。
【0030】
DFT部7は、次式(11)で示すとおり、I/Qビデオ信号111をDFTにより周波数信号に変換する。
【0031】
【数6】

【0032】
ここで、Sfm(n,l)はDFTされたI/Qビデオ信号111のn番目の周期送信回数における、l番目の周波数セルの信号で、nは0から(N−1)のN個の整数、lは0から(M−1)のM個の整数である。また、周波数セルの分解能はA/Dのサンプリング時間、すなわちI/Qビデオ信号111のパルス幅の逆数で、ステップ周波数dFである。
【0033】
DFT部7は、さらに、次式(11)で示されるDFTされたI/Qビデオ信号111を位相復調信号105により周波数セルごとに式(12)で示される位相変調を施すことにより、位相変調信号102で生成された位相変調成分を取り除き、DFTビデオ信号112としてIDFT部8へ送出する。なお、前述のとおり、本説明では位相復調信号105は位相変調信号102と同じ信号で、「0」のとき0度の位相変調を行い、「1」のとき180度の位相変調を行う。
【0034】
【数7】

【0035】
ここで、Sdft(n,l)はDFTビデオ信号112のn番目の周期送信回数におけるl番目の周波数セルの信号である。
【0036】
IDFT部8は上記DFTビデオ信号112をN回の送信にわたり記憶し、最初の周期送信回数(n=0)の最初の周波数セル(l=0)から順番に、すなわち「nM+l、n=0〜N−1,l=0〜M−1」の値が小さい方から順番に並べた後、次式(13)〜次式(15)で示されるIDFT変換により、時間信号であるIDFT変換信号113に変換する。
【0037】
【数8】

【0038】
ここで、Sidft(p)はIDFT変換信号113である。
【0039】
IDFT変換信号113は例えば図示していない測距装置へ送出され、目標までの測距が行なわれる。目標までの距離Rtは、IDFT変換信号113の振幅が最大値のセル、すなわち、式(13)の分母がゼロのセルで与えられ、次式(16)で示される。
【0040】
【数9】

【0041】
ここで、P0はIDFT変換信号113の振幅が最大値のセル番号である。
【0042】
さらに、式(7)および式(16)から、本発明の距離分解能dRp、処理距離範囲Rupは、それぞれ、次式(17)および次式(18)で表される。
【0043】
【数10】

【0044】
すなわち、処理距離範囲を「c/(2×dF)」、送信回数をNとした場合、従来の合成帯域法での距離分解能dRgは、式(1)に示すとおり、送信回数N、ステップ周波数dFの逆数に比例するが、本発明によれば、距離分解能dRpは、次式(17)に示すとおり、送信回数N、ステップ周波数dF、および、同一送信での周波数の数Mの逆数に比例するため、Mの値を変えることにより、ステップ周波数dF、および、送信回数Nとは独立に距離分解能dRpを設定することができる。
【0045】
なお、上記実施の形態1では、位相変調信号102は送信キャリア信号106に0度と180度の位相変調を施す信号で、各ビットの値が0又は1の2値の擬似ランダム符号としたが、その場合に限らず、各ビットの値が多値で、多値の位相変調を行なう信号でも良い。また、位相復調信号105は位相変調信号102と同一としたが、送信キャリア信号106での位相変調をキャンセルできる信号であれば良い。
【0046】
以上のように、本実施の形態1に係るレーダ装置は、ステップチャ−プ送信により高距離分解能を得る、合成帯域法を用いるレーダ装置であって、送信周波数がステップ周波数だけ異なるM種類(Mは2以上の任意の整数)の周波数の信号にそれぞれ異なる変調、例えば、0度と180度の2位相変調を施した後に合成し、さらに、送信毎にN(Nは2以上の任意の整数)を法とした送信回数の剰余演算結果、すなわち、0から(N−1)までの数値に比例して変化する周波数の信号をミキシングして送信する送信部3と、目標からの反射波を受信した受信信号をM点のDFT処理した後に位相変調を復調するDFT部7と、送信毎に得られるDFT部7からのM個の出力をN回の送信にわたり保持し、その「M×N」個の信号で、IDFT処理を行うIDFT部8とを備えるようにしたので、距離分解能、送信回数、および処理距離範囲を独立に設定できるため、広距離範囲を短時間で高距離分解能処理をすることが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 タイミング発生部、2 送信キャリア信号発生部、3 送信部、4 受信部、5 送受切換部、6 アンテナ部、7 DFT部、8 IDFT部、101 送信回数信号、102 位相変調信号、103 パルス変調信号、104 A/Dクロック信号、105 位相復調信号、106 送信キャリア信号、107 COHO信号、108 ローカル信号、109 送信信号、110 受信信号、111 I/Qビデオ信号、112 DFTビデオ信号、113 IDFT変換信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信周波数が所定のステップ周波数だけ異なるM種類(Mは2以上の任意の整数)の周波数の信号にそれぞれ異なる変調を施した後に合成するとともに、送信毎にN(Nは2以上の任意の整数)を法とした送信回数の剰余演算結果をミキシングして送信する送信手段と、
前記送信手段からの送信波が目標で反射した当該目標からの反射波を受信信号として受信し、前記受信信号をM点の離散フーリエ変換処理した後に前記変調を復調する離散フーリエ変換処理手段と、
前記送信手段からの前記送信波の送信毎に得られる前記離散フーリエ変換処理手段からのM個の出力をN回の送信にわたり保持し、そのM×N個の信号で離散逆フーリエ変換処理を行う離散逆フーリエ変換処理手段と
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記剰余演算結果は、0から(N−1)までの数値に比例して変化する周波数の信号であることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記変調は、0度と180度の2位相変調であることを特徴とする請求項1または2に記載のレーダ装置。

【図1】
image rotate