レーダ装置
【課題】角度推定の精度やアンテナ感度を低下させることなく、ターゲットを検知可能な角度範囲を広くすることを課題とする。
【解決手段】アレーアンテナを有するレーダ装置1に、アンテナch1、ch2、ch6の何れかを送信アンテナとして電波を送信する送信部11と、アンテナch1−ch6を受信アンテナとして反射電波を受信する受信部12と、送信アンテナとして用いられるアンテナを、送信処理単位で切り替える制御部13と、を備え、アンテナch2−ch6は、隣接するアンテナに対して間隔dをおいて配置され、アンテナch1、ch2は、隣接するアンテナに対して間隔3/2dをおいて配置されることとした。
【解決手段】アレーアンテナを有するレーダ装置1に、アンテナch1、ch2、ch6の何れかを送信アンテナとして電波を送信する送信部11と、アンテナch1−ch6を受信アンテナとして反射電波を受信する受信部12と、送信アンテナとして用いられるアンテナを、送信処理単位で切り替える制御部13と、を備え、アンテナch2−ch6は、隣接するアンテナに対して間隔dをおいて配置され、アンテナch1、ch2は、隣接するアンテナに対して間隔3/2dをおいて配置されることとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アンテナが等間隔に配置されたアレーアンテナを備えたレーダ装置において、送信アンテナとして用いるアンテナを切り替えながら送受信した結果をホログラフィック合成することにより、実際のアンテナの数を超える数の仮想アンテナによる受信結果を得る技術がある(例えば、特許文献1から4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−198312号公報
【特許文献2】特開2006−91028号公報
【特許文献3】特開2006−308608号公報
【特許文献4】特開2007−199085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、複数のアンテナを等間隔に一列に並べたアレーアンテナを構成し、複数のアンテナによる受信信号を演算することで複数の受信ビームを形成し、スキャンを行う電子スキャン方式のレーダ装置がある。このようなレーダ装置では、アンテナ間隔と各アンテナにおいて受信される反射電波の相対位相とに基づいてターゲット(物標)の角度を算出するため、アンテナ間隔に応じてターゲットを検知可能な角度範囲(FOV:Field of View)が決定される。FOVおよびターゲットの角度は、アレーアンテナが並べられた平面に対して垂直な法線に対する角度で示され、FOVは、以下の計算式を用いて算出することが出来る。
FOV = Arcsin(波長/2/アンテナ間隔)
【0005】
このようなアレーアンテナの特性から、アレーアンテナでは、アンテナ間隔を狭くすることで方位角を推定出来る範囲(FOV)を広くすることが出来る。しかし、物理的にアンテナ間隔を狭くした場合、アンテナ間干渉が大きくなって位相が乱れ、角度検知の精度が低下するという問題や、アンテナの指向性が低下するという問題、アンテナ面積が小さくなって感度が低下するという問題等が発生する。このため、物理的なアンテナ間隔を狭くすることによるFOVの広角化は困難であった。
【0006】
本発明は、上記した問題に鑑み、角度推定の精度やアンテナ感度を低下させることなく、ターゲットを検知可能な角度範囲を広くすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アレーアンテナにおけるアンテナ間隔を一部不等間隔とし、送信アンテナを切り替えながら電波の送受信を行うことで、角度推定の精度やアンテナ感度を低下させることなく、ターゲットを検知可能な角度範囲を広くすることを可能にした。
【0008】
詳細には、本発明は、間隔をおいて一列に並べられた複数のアンテナと、前記複数のアンテナの何れかを送信アンテナとして電波を送信する送信処理を行う送信手段と、前記複数のアンテナを受信アンテナとして、前記送信手段によって送信されターゲットで反射した電波を受信する受信手段と、前記送信手段によって送信アンテナとして用いられるアン
テナを、前記送信処理単位で切り替える切替手段と、を備え、前記複数のアンテナは、隣接するアンテナに対して第一の間隔をおいて配置されたアンテナと、隣接するアンテナに対して前記第一の間隔とは異なり且つ前記第一の間隔の整数倍ではない第二の間隔をおいて配置されたアンテナと、を含む、レーダ装置である。
【0009】
本発明に係るレーダ装置は、複数のアンテナが間隔を置いて一列に並べられることで構成される、所謂アレーアンテナを有する。本発明は、様々な方式のアレーアンテナに対して適用することが可能であり、例えば、パッチアンテナ、トリプレート型アンテナ、マイクロストリップ型アンテナ、導波管スロットアレーアンテナの他、ホーンアンテナを複数並べたものに対しても適用可能である。
【0010】
送信手段は、レーダ装置が有する複数のアンテナのうち、何れかのアンテナを送信アンテナとして、レーダ送信波としての電波を送信する。送信手段によって送信されたレーダ送信波は、ターゲットで反射し、反射電波として受信手段によって受信される。受信手段は、複数のアンテナの全てを受信アンテナとして用いてもよいし、一部のアンテナ、例えば送信アンテナとして用いられたアンテナを除くアンテナのみを受信アンテナとして用いてもよい。
【0011】
送信手段による送信処理は、複数回行われる。この複数回の送信処理において、切替手段は、送信アンテナを切り替える。このとき、レーダ装置が有する複数のアンテナは一部不等間隔で並べられているため、何れか一の送信処理を基準とした場合に、基準とした送信処理に係る受信結果と、送信アンテナが切り替えて行われた他の送信処理に係る受信結果との間で、少なくとも一部の受信結果に係る相対位相が重ならない(一致しない)。
【0012】
即ち、本発明に係るレーダ装置によって得られる複数回の送信処理に係る受信結果を合成すれば、少なくとも一部に、物理的な実際のアンテナ間隔よりも小さいアンテナ間隔のアンテナを用いて受信したのと同様の相対位相を得ることが出来る。上述の通り、アレーアンテナではアンテナ間隔を狭くすることで方位角を推定出来る範囲(FOV)を広くすることが出来るため、本発明に係るレーダ装置によれば、実際のアンテナ間隔を狭めることなく、即ち、角度推定の精度やアンテナ感度を低下させることなく、ターゲットを検知可能な角度範囲を広くすることが可能となる。
【0013】
また、アンテナ間隔を一部不等間隔とする場合には、相対位相が重ならないようにするために、第一の間隔と第二の間隔とが整数倍の関係とならないようにすることが好ましい。具体的には、前記第二の間隔は、前記第一の間隔の3/2倍の間隔としてもよい。なお、第二の間隔としては、前記第一の間隔の1/2倍、4/3倍、5/4倍等、実施の形態に応じて様々なアンテナ間隔を採用することが出来る。
【0014】
また、本発明に係るレーダ装置は、前記受信手段によるアンテナ毎の受信結果であって、前記切替手段によって切り替えられることで夫々異なるアンテナが送信アンテナとして用いられた複数の送信処理に係る複数の受信結果を合成することで、前記複数の送信処理に係る受信結果を、一回の仮想的な送信処理に係る仮想アンテナの受信結果とする合成手段を更に備えてもよい。
【0015】
合成手段によって合成された、一回の仮想的な送信処理に係る仮想アンテナの受信結果は、上記説明したように、物理的な実際のアンテナ間隔よりも小さいアンテナ間隔のアンテナを用いて受信したのと同様の相対位相を含む。なお、受信結果には、ターゲットの角度による相対位相の他、ターゲットの距離による時間遅れ、およびターゲットの速度によるドップラシフトが含まれてもよい。
【0016】
また、前記仮想アンテナは、前記第一の間隔と第二の間隔との差に相当するアンテナ間隔を少なくとも一箇所に有してもよい。上記説明したように、合成手段による合成によって得られた仮想アンテナの受信結果は、物理的な実際のアンテナ間隔よりも小さいアンテナ間隔のアンテナを用いて受信したのと同様の相対位相を含む。この小さいアンテナ間隔は、前記第一の間隔と第二の間隔との差に相当し、例えば、前記第二の間隔が前記第一の間隔の3/2倍であった場合、仮想アンテナの間隔は、少なくとも一部において前記第一の間隔の1/2倍となる。
【0017】
また、前記合成手段は、前記複数の受信結果うちの、一の送信処理に係る一のアンテナの受信結果を基準として、他の受信結果を補正して合成してもよい。複数の送信処理に係る複数の受信結果を、一の送信処理に係る一のアンテナの受信結果を基準として補正することで、複数の送信処理の間にターゲットが移動したような場合であっても、一の送信処理のタイミングにおけるターゲットの位置を基準として、ターゲットの正しい角度を算出することが可能な合成結果を得ることが出来る。
【0018】
また、本発明に係るレーダ装置は、前記合成手段によって合成された受信結果のうち、前記第一の間隔と同一の間隔の仮想アンテナに係る受信結果を用いて前記ターゲットの角度を算出する第一の算出処理と、前記第一の間隔および前記第二の間隔の何れよりも小さい間隔の仮想アンテナに係る受信結果を用いて前記ターゲットの角度を算出する第二の算出処理と、を実行する角度算出手段を更に備えてもよい。
【0019】
ここで、第一の算出処理では、前記第一の間隔と同一の間隔の仮想アンテナに係る受信結果を用いて前記ターゲットの角度を算出するため、実際のアンテナ間隔で角度算出を行った場合と同等のFOVにおけるターゲット角度を算出することが出来る。これに対して、第二の算出処理では、前記第一の間隔および前記第二の間隔の何れよりも小さい間隔の仮想アンテナに係る受信結果を用いて前記ターゲットの角度を算出するため、実際のアンテナ間隔よりも狭い間隔のアンテナを用いて角度算出を行った場合と同等の、より広いFOVにおけるターゲット角度を算出することが出来る。
【0020】
また、本発明に係るレーダ装置は、前記角度算出手段によって算出されたターゲットの角度を比較して、前記第一の算出処理では算出されたが、前記第二の算出処理では算出されなかったターゲットを、ゴーストと判定する判定手段を更に備えてもよい。
【0021】
即ち、上記説明した第一の算出処理および第二の算出処理では、物理的なアンテナ間隔に応じたFOVにおけるターゲット角度算出と、物理的なアンテナよりもより間隔の狭い仮想アンテナ間隔に応じたより広いFOVにおけるターゲット角度算出が行われる。このため、相対的に狭いFOVが得られる第一の算出処理で折り返しによるゴーストが発生したような場合であっても、より広いFOVが得られる第二の算出処理の結果と比較することで、誤検知されたゴーストを判定することが出来る。
【0022】
また、本発明に係るレーダ装置は、所定の角度の範囲内については、前記第一の算出処理で算出されたターゲット角度を算出結果として出力し、前記所定の角度の範囲外については、前記第一の算出処理で算出されたターゲット角度と前記第二の算出処理で算出されたターゲット角度との平均値を算出結果として出力する、算出結果出力手段を更に備えてもよい。
【0023】
所定の角度の範囲内では、より精度の高い第一の算出処理で算出されたターゲット角度を算出結果として出力し、所定の角度の範囲外では、複数の算出処理の結果の平均を算出結果として出力することで、全体として、算出結果に含まれるターゲット角度の精度を高めることが可能となる。
【0024】
また、前記切替手段は、送信アンテナとして用いるアンテナからの電波送信後に、該アンテナを受信アンテナに切り替えることで、該アンテナから送信された電波の反射電波を該アンテナ自身に受信させてもよい。このようにすることで、受信アンテナ数を増やし、全体として精度の高い受信結果をえることが可能となる。
【0025】
また、前記切替手段は、送信アンテナとして用いるアンテナを、該アンテナから送信された電波の反射電波を受信させるための受信アンテナに切り替えず、送信手段に、レーダ送信波を連続送信させてもよい。このようにすることで、受信手段による受信時間を増やし、レーダ装置の受信感度を向上させることが出来る。
【発明の効果】
【0026】
本発明によって、角度推定の精度やアンテナ感度を低下させることなく、ターゲットを検知可能な角度範囲を広くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態に係るレーダ装置の構成の概略を示す図である。
【図2】実施形態に係るアンテナの配置の概略を示す図である。
【図3】実施形態に係るアンテナによってターゲットからの反射電波が受信される様子を示した図である。
【図4】実施形態において、図3に示すようなレーダ波の送受信が、アンテナch1、ch2、ch6を送信アンテナとして順次切り替えて行われた場合の、アンテナch1から送信されてアンテナch1で受信された電波の位相を基準とした、各受信アンテナにおける受信電波の相対位相を示す図である。
【図5】実施形態において、アンテナch1、ch2、ch6を送信アンテナとして順次切り替えて行われた場合の、各受信アンテナにおける相対位相を示す図である。
【図6】実施形態に係る広FOV用仮想アンテナおよび狭FOV用仮想アンテナによる角度検出可能な範囲を示すグラフである。
【図7】実施形態に係るレーダ装置におけるターゲット検知処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】7チャンネルのアンテナを用意し、チャンネル1、2および7を連続送信のための送信アンテナとして用いる場合の、レーダ装置の構成の概略を示す図である。
【図9】図8に示したレーダ装置の2x2スイッチを用いた送受信切替の方法を示す図である。
【図10】図8に示したレーダ装置において送受信を行った場合の、各受信アンテナにおける相対位相を示す図である。
【図11】6チャンネルのアンテナを用意し、チャンネル1と2の間隔を他のアンテナ間隔の1/2倍とし、チャンネル1、2および6を送信アンテナとして用いる場合の、各受信アンテナにおける相対位相を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るレーダ装置の実施の形態について、図面に基づいて説明する。本実施形態に係るレーダ装置は、車載されて、他の車両等、車両周囲のターゲットを検知することに用いることが可能である。ターゲットの検知結果は車載の記憶装置やECU(Electrical Control Unit)等に対して出力され、車両制御等に用いることが出来る。但し、本実施形態に係るレーダ装置は、車載レーダ装置以外の用途に用いられてよい。
【0029】
図1は、本実施形態に係るレーダ装置1の構成の概略を示す図である。本実施形態に係るレーダ装置1は、アンテナch1−ch6、分配器19、送信部11、受信部12、合
成部14、算出部15、判定部16および出力部17を備える。但し、他の実施形態において本発明に係るレーダ装置を実施する場合、レーダ装置は、合成部14、算出部15、判定部16および出力部17等の構成が省略されていてもよい。これらの構成は、レーダ装置の外部に接続されたコンピュータによって実現することが出来る。また、合成部14、算出部15、判定部16および出力部17等の各構成には、汎用または専用のプロセッサを用いることが出来る。また、複数のプロセッサの組み合わせが一の構成に含まれてもよいし、複数の構成において複合的な機能を有する一のプロセッサが用いられてもよい。
【0030】
送信部11は、アンテナch1−ch6のうちの何れか一のアンテナを送信アンテナとして用いてレーダ送信波を送信する。本実施形態に係るレーダ装置1では、アンテナch1−ch6の何れであっても送信に用いることが可能であるが、本発明に係るレーダ装置1の実施にあたっては、アレーアンテナ中の複数のアンテナのうち少なくとも2以上のアンテナが送信アンテナとして利用可能であればよい。本実施形態では、送信部11は、アンテナch1、ch2、ch6の3つのアンテナを順に切り替えて送信アンテナとして用いて、レーダ送信波を送信する。また、本実施形態では、レーダ装置1によって送受信される電波に、FM‐CW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式のレーダ送信波を用いる。FM‐CWによれば、反射電波から、ターゲットの角度による相対位相、ターゲットの距離による時間遅れ、およびターゲットの速度によるドップラシフトを得ることが出来るため、ターゲットの角度、距離、相対速度を測定することが出来る。
【0031】
受信部12は、アンテナch1−ch6のうちレーダ送信波を送信中でないアンテナを受信アンテナとして用いて、ターゲットからの反射電波を受信する。本実施形態に係るレーダ装置1では、送信アンテナからレーダ送信波を送信した直後に、送信アンテナを時分割で受信アンテナに切り替えて、自アンテナが送信したレーダ送信波の反射電波を受信させる。例えば、アンテナch1が送信アンテナとして用いられる場合にも、アンテナch1からのレーダ送信波の送信直後に、アンテナch1を受信モードに切り替えることで、アンテナch1から送信されたレーダ送信波の反射電波を、アンテナch1にも受信させる。即ち、本実施形態では、3つのアンテナch1、ch2、ch6の何れが送信アンテナとして用いられる場合にも、6つのアンテナch1−ch6が全て受信アンテナとして用いられる。
【0032】
本実施形態において、合成部14、算出部15、判定部16および出力部17は、制御部13としてのコンピュータが、制御プログラムを実行することによって実現される。ここで用いられる制御部13は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、RAM等に展開された命令及びデータを処理することでシステム全体を制御するCPU(Central Processing
Unit)、RAMにロードされる各種プログラムや、ターゲット検知処理で得られた算出結果等、システムによって使用される様々なデータが記憶されるEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)等を有するコンピュータである。
【0033】
制御部13は、レーダ装置1に備えられた各構成を制御する。具体的には、制御部13は、レーダ送信波の送信タイミングおよびターゲットからの反射電波の受信タイミングに合わせて分配器19を制御することで、アンテナch1、ch2、ch6における送受信モードを切り替える。本実施形態では、送信アンテナは時分割で高速に送信モードと受信モードとを切り替えることで、自アンテナで送信したレーダ送信波の反射電波を受信する。
【0034】
合成部14は、異なる送信アンテナから異なるタイミングで送信されたレーダ送信波に
基づく反射電波の受信結果をホログラフィック合成する。このようなホログラフィック合成により、レーダ装置1が物理的に備えるアンテナ数よりも多い仮想アンテナによる受信結果を得ることが出来る。
【0035】
算出部15は、アンテナによる受信結果に基づいて、ターゲットの角度、距離および速度を算出する。なお、本実施形態では、算出部15によって、後述する狭FOV用仮想アンテナによる受信結果に基づくターゲット角度の算出と、広FOV用仮想アンテナによる受信結果に基づくターゲット角度の算出と、が行われることで、従来と同等のFOVにおけるターゲット検知結果と、従来よりも広いFOVにおけるターゲット検知結果と、を得ることが出来る。
【0036】
判定部16は、狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果を、広FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果を用いて補正することで、狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果に含まれるゴーストを除去する。ゴースト判定処理の詳細については、後述する。
【0037】
出力部17は、算出部15によって算出され、判定部16によってゴーストの補正が行われたターゲット検知結果(ターゲットの角度、距離および速度を含む情報)を確定し、確定された検知結果を、レーダ装置1に接続されたECU等に対して出力する。本実施形態では、出力部17によって精度の高いターゲット検知結果が出力されるため、車載ECUは、精度の高いターゲット検知結果に基づいて、エンジンや車載ナビゲーション装置等の制御を行うことが可能となる。
【0038】
図2は、本実施形態に係るアンテナch1−ch6の配置の概略を示す図である。本実施形態では、アンテナ素子が2列に並べられたトリプレート型アンテナch1−ch6が用いられている。そして、アンテナch1−ch6は、隣接するアンテナに対して所定の間隔をおいて一列に並べられることで、アレーアンテナを構成している。ここで、アンテナch2−ch6については、アンテナ間隔として、従来の車載用に開発されたレーダ装置において採用されていた標準的な間隔d(本実施形態では、1.8λ(ラムダ))が採用されている。このアンテナ間隔は、アンテナのサイズ、出力、干渉等を考慮して決定された間隔である。アンテナ間隔が1.8λである場合、FOVはArcsin(λ/(2*1.8λ))≒16.12度である。しかし、本実施形態において採用されるアンテナは2列アンテナであり水平面指向性を有するものの、間隔1.8λの場合±30度まで−10dB以上のアンテナ特性を有しているため、FOV内に、FOVの外に位置しているターゲットからの反射電波によるゴーストが検知されてしまう。
【0039】
また、本実施形態では、アンテナch1とアンテナch2との間のアンテナ間隔として、アンテナch2−ch6のアンテナ間隔の1.5倍のアンテナ間隔である3/2d(本実施形態では、2.7λ)が採用される。
【0040】
図3は、本実施形態に係るアンテナch1−ch6によってターゲットからの反射電波が受信される様子を示した図である。本実施形態に係るレーダ装置1は、送信アンテナから送信され、一列に並べられた受信アンテナにおいて受信された反射電波の相対位相(図3のαによって示される)によってターゲットが位置する角度を算出するものである。図3によれば、アンテナch2−ch6において受信される反射電波の相対位相が、隣接するアンテナ間で略αとなる場合に、アンテナch1とアンテナch2との間では、相対位相が、他のアンテナ間の相対位相αの1.5倍である3/2αとなることが分かる。
【0041】
図4は、本実施形態において、図3に示すようなレーダ波の送受信が、アンテナch1、ch2、ch6を送信アンテナとして順次切り替えて行われた場合の、アンテナch1
から送信されてアンテナch1で受信された電波の位相を基準とした、各受信アンテナにおける受信電波の相対位相を示す図である。アンテナch1から送信されてアンテナch2で受信された電波の相対位相は3/2αであり、同様に、アンテナch2から送信されてアンテナch1で受信された電波の相対位相は3/2αである。また、アンテナch1送信、アンテナch6受信の場合の相対位相と、アンテナch6送信、アンテナch1受信の場合の相対位相とは、11/2αであり、アンテナch2送信、アンテナch6受信の場合の相対位相と、アンテナch6送信、アンテナch2受信の場合の相対位相とは、14/2αである。
【0042】
図5は、本実施形態において、アンテナch1、ch2、ch6を送信アンテナとして順次切り替えて行われた場合の、各受信アンテナにおける相対位相を示す図である。図5によれば、アンテナch1送信の際にアンテナch3−ch6によって受信された受信電波の相対位相と、アンテナch2送信の際にアンテナch2−ch5によって受信された受信電波の相対位相と、をホログラフィック合成すると、各受信電波の相対位相は1/2α間隔となり、1/2d(0.9λ)間隔で並べられた8つの仮想アンテナによる受信結果が得られることが分かる。即ち、本実施形態では、物理的に間隔dをもって設けられたアレーアンテナ中に、更に広い間隔3/2dをもって設けるアンテナを配し、送信アンテナを切り替えて送受信された結果をホログラフィック合成することで、実際にはアンテナ間干渉等の問題から設置することの困難な間隔1/2dのアンテナによる受信結果と同等の受信結果を得ることが出来る。そして、間隔1/2dの8つの仮想アンテナは、間隔dのアンテナに比べて広いFOV(Arcsin(λ/(2*0.9λ))≒33.7度)を有するため、広FOV用仮想アンテナとして用いることが可能である。
【0043】
また、本実施形態では、アンテナch2送信の際にアンテナch2−ch6によって受信された受信電波の相対位相と、アンテナch6送信の際にアンテナch2−ch6によって受信された受信電波の相対位相と、をホログラフィック合成することで、間隔dで並べられた8つの仮想アンテナによる受信結果を得ることが出来るという、実際のアンテナ数よりも多い仮想アンテナによる受信結果を得るという目的も果たすことが出来る。また、間隔dの9つの仮想アンテナは、上記した間隔1/2dの8つの仮想アンテナに対して狭いFOV(約16.12度)を有するため、狭FOV用仮想アンテナとして用いることが出来る。
【0044】
図6は、本実施形態に係る広FOV用仮想アンテナおよび狭FOV用仮想アンテナによる角度検出可能な範囲を示すグラフである。グラフの横軸には実際のターゲットの角度を示し、グラフの縦軸にはレーダ装置1によってターゲットが検出される角度を示す。また、太線は狭FOV用仮想アンテナを用いた場合の角度検出、細線は広FOV用仮想アンテナを用いた場合の角度検出を示す。
【0045】
例えば、図6のグラフ中の横軸に×で示した角度にターゲットが配置されていた場合、狭FOV用仮想アンテナ、即ち、実際のアンテナ間隔dと同等のFOVを有するアンテナでは、縦軸の破線×で示した角度にターゲットが検出され、ゴーストが発生してしまう。そこで、本実施形態では、狭FOV用仮想アンテナによる検出結果と広FOV用仮想アンテナによる検出結果とを比較することで、ゴーストの発生を判定する。即ち、上記に示した例では、横軸に×で示した角度にターゲットが配置されていた場合、広FOV用仮想アンテナでは、縦軸の実線×で示した正しい角度にターゲットが検出され、狭FOV用仮想アンテナで検出された破線×のターゲットは検出されない。このため、狭FOV用仮想アンテナで検出された破線×のターゲットがゴーストであると判断出来る。
【0046】
図7は、本実施形態に係るレーダ装置1におけるターゲット検知処理の流れを示すフローチャートである。本フローチャートに示した処理は、レーダ装置1の起動後、制御プロ
グラムを実行する制御部13によって開始される。なお、処理の開始タイミングは、レーダ装置1の外部に接続されたコンピュータやECUによるターゲット検知要求に従ってもよい。また、図7に示した処理順序は一例であり、処理の順序は実施の形態に応じて適宜並び替えられてもよい。
【0047】
ステップS101では、アンテナch1、ch2およびch6が送信アンテナとして用いられて、レーダ送信波の送信が行われる。制御部13は、予め定められた送信タイミングに従ってアンテナch1を送信モードに切り替え、他のアンテナch2−ch6を受信モードに切り替える。そして、送信部11は、予め定められた送信タイミングに従って、または制御部13による指示を受けて、FM‐CW方式によるレーダ送信波をアンテナch1から送出する。制御部13は、アンテナch1からレーダ送信波が所定の時間送出された後、アンテナch1を受信モードに切り替える。
【0048】
次に、制御部13は、予め定められた送信タイミングに従ってアンテナch2を送信モードに切り替え、他のアンテナch1、ch3−ch6を受信モードとする。そして、送信部11は、予め定められた送信タイミングに従って、または制御部13による指示を受けて、FM‐CW方式によるレーダ送信波をアンテナch2から送出する。制御部13は、アンテナch2からレーダ送信波が所定の時間送出された後、アンテナch2を受信モードに切り替える。
【0049】
そして、制御部13は、予め定められた送信タイミングに従ってアンテナch6を送信モードに切り替え、他のアンテナch1−ch5を受信モードとする。そして、送信部11は、予め定められた送信タイミングに従って、または制御部13による指示を受けて、FM‐CW方式によるレーダ送信波をアンテナch6から送出する。制御部13は、アンテナch6からレーダ送信波が所定の時間送出された後、アンテナch6を受信モードに切り替える。この切替によって、アンテナch1−ch6が全て受信モードとなる。その後、処理はステップS102へ進む。
【0050】
なお、ステップS101におけるレーダ送信波の送出時間は、送出された電波が反射して自アンテナ(ここではアンテナch1、ch2またはch6)に戻るまでにアンテナの送受信モードを切替可能なように、十分に短い時間に設定されている。本実施形態では、アンテナch1、ch2およびch6の何れの送信においても、1波長分のレーダ送信波が送信される。また、送受信の切替は高速に行われる必要があるため、制御部13の指示に基づく切替ではなく、予め定められたスケジュールに従って、分配器19や送信部11、受信部12等が、供給されるクロックに従って自律的に切り替える方式とすることが好ましい。
【0051】
ステップS102では、アンテナch1−ch6が受信アンテナとして用いられて、ターゲットからの反射電波の受信が行われる。受信部12は、アンテナch1、ch2およびch6から送出されたレーダ送信波の反射電波を、順に、アンテナch1−ch6において受信する。受信部12は、アンテナch1、ch2およびch6を送信アンテナとする夫々の送信処理について、アンテナch1−ch6において受信された反射電波から、アンテナch1に対する相対位相、時間遅れ、ドップラシフト等の情報を受信結果として抽出する。その後、処理はステップS103へ進む。
【0052】
ステップS103では、広FOV用のホログラフィック合成が行われる。本実施形態では、アンテナch1送信とアンテナch2送信との重なりを利用したホログラフィック合成が行われる。合成部14は、アンテナch2送信(ステップS102)において受信された、アンテナch1に対するアンテナch2−ch6の相対位相に、アンテナch1送信(ステップS101)において受信された、アンテナch1に対するアンテナch2の
相対位相を足すことで、アンテナch2送信において受信されたアンテナch2−ch6の相対位相を、アンテナch1送信時のアンテナch1受信結果を基準とする相対位相に補正する(図4を参照)。この補正により、アンテナch1送信時とアンテナch2送信時とでターゲットが移動しているような場合であっても、移動分の位相差が反映され、移動するターゲットに対しても正確な角度を算出することが可能となる。そして、合成部14は、アンテナch1送信において受信されたアンテナch3−ch6の相対位相と、補正されたアンテナch2送信において受信されたアンテナch2−ch5の相対位相とを合成することで、アンテナ間隔が0.9λの広FOV用仮想アンテナにおける相対位相を得ることが出来る。その後、処理はステップS104へ進む。
【0053】
ステップS104では、狭FOV用のホログラフィック合成が行われる。本実施形態では、アンテナch2送信とアンテナch6送信との重なりを利用したホログラフィック合成が行われる。合成部14は、アンテナch6送信(ステップS101)において受信された、アンテナch1に対するアンテナch2−ch6の相対位相に、アンテナch1送信(ステップS101)において受信された、アンテナch1に対するアンテナch6の相対位相を足すことで、アンテナch6送信において受信されたアンテナch2−ch6の相対位相を、アンテナch1送信時のアンテナch1受信結果を基準とする相対位相に補正する(図4を参照)。この補正により、アンテナch1送信時とアンテナch6送信時とでターゲットが移動しているような場合であっても、移動分の位相差が反映され、移動するターゲットに対しても正確な角度を算出することが可能となる。そして、合成部14は、アンテナch2送信において受信されたアンテナch2−ch6の相対位相と、補正されたアンテナch6送信において受信されたアンテナch2−ch6の相対位相とを合成することで、アンテナ間隔が1.8λの狭FOV用仮想アンテナにおける相対位相を得ることが出来る。その後、処理はステップS105へ進む。
【0054】
ステップS105では、広FOV用仮想アンテナによる受信結果(ステップS103における合成結果)に基づくターゲット角度が算出される。算出部15は、ステップS103において得られた各広FOV用仮想アンテナの受信結果の相対位相に基づいて、ターゲットの角度を算出する。なお、アレーアンテナにおいて受信された反射電波の相対位相に基づいてターゲット角度を算出する技術は従来技術であるため、詳細な説明は省略する。また、本実施形態に係るレーダ装置1では、FM‐CW方式でレーダ送信波を送信しているため、受信電波の、ターゲットの距離による時間遅れ、およびターゲットの速度によるドップラシフトから、ターゲットの距離および速度についても算出することが可能である。広FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度の算出が完了すると、処理はステップS106へ進む。
【0055】
ステップS106では、狭FOV用仮想アンテナによる受信結果(ステップS104における合成結果)に基づくターゲット角度が算出される。算出部15は、ステップS104において得られた各狭FOV用仮想アンテナの受信結果の相対位相に基づいて、ターゲットの角度を算出する。なお、FM‐CW方式を採用することでターゲットの距離および速度についても算出可能であることは、ステップS105で説明した通りである。狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度の算出が完了すると、処理はステップS107へ進む。
【0056】
ステップS107では、ゴーストの除去が行われる。判定部16は、狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果を、広FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果を用いて補正することで、狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果に含まれるゴーストを除去する。具体的には、判定部16は、狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出の結果検知されたターゲットと、広FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出の結果検知されたターゲットとを比較する。そして、判
定部16は、比較の結果、狭FOV用仮想アンテナでは検知されたが、広FOV用仮想アンテナでは検知されていないターゲットがあり、且つ、該ターゲットの折り返しの元と推定される狭FOV外のターゲットが広FOV用仮想アンテナで検知されている場合には、該ターゲットをゴーストと判断し、狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果から削除する。
【0057】
図6を参照して説明すると、狭FOV用仮想アンテナではグラフの縦軸上に破線×で示されたターゲットを検出しているが、広FOV用仮想アンテナでは同様の位置にターゲットを検出しておらず、折り返し位置(縦軸上の実線×)にターゲットを検出している場合、判定部16は、狭FOV用仮想アンテナで検出された破線×のターゲットはゴーストであり、ターゲットの実際の位置は実線×の位置であると判断出来る。
【0058】
なお、狭FOV用仮想アンテナで検知されたターゲットと、広FOV用仮想アンテナで検知されたターゲットとの一致不一致を判断する際には、狭FOV用仮想アンテナに基づく算出結果(ターゲットの角度、距離、速度)と広FOV用仮想アンテナに基づく算出結果(ターゲットの角度、距離、速度)との差分が所定の閾値内であるか否かを判定することで、同一のターゲットであるか否かを推定することが可能である。ゴーストの除去が完了すると、処理はステップS108へ進む。
【0059】
ステップS108では、レーダ装置1の法線に対して±15度以内の角度範囲におけるターゲット検知結果が確定される。出力部17は、±15度以内でのターゲット角度算出結果について、ステップS105で得られた広FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果と、ステップS107で得られた狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果とを比較し、結果が略同じであれば、狭FOV用仮想アンテナのターゲット角度算出結果を、±15度以内の角度範囲における最終的なターゲット角度算出結果として採用する。このようにすることで、より精度の高いターゲット角度算出結果を得ることが出来る。また、広FOV用仮想アンテナでの角度算出結果と、狭FOV用仮想アンテナでの角度算出結果とが略同じでない場合、出力部17は、これらの算出結果を平均し、±15度以内の角度範囲における最終的なターゲット角度算出結果として採用する。なお、ターゲット角度算出結果の比較は、ステップS107と同様、夫々の仮想アンテナで検知されたターゲットの角度の、狭FOV用仮想アンテナに基づく算出結果と広FOV用仮想アンテナに基づく算出結果との差分が所定の閾値内であるか否かを判定する方法で行うことが可能である。その後、処理はステップS109へ進む。
【0060】
ステップS109では、レーダ装置1の法線に対して±15度より外の角度範囲におけるターゲット検知結果が確定される。出力部17は、±15度より外のターゲット角度算出結果について、ステップS105で得られた広FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果と、ステップS107で得られた狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果とを平均し、この結果を、±15度より外の角度範囲における最終的なターゲット角度算出結果として採用する。このようにすることで、より精度の高いターゲット角度算出結果を得ることが出来る。その後、処理はステップS110へ進む。
【0061】
ステップS110では、上記ステップS109までの処理において得られたターゲット検知結果が、レーダ装置1に接続されたECU等に対して出力される。出力部17は、ステップS108およびステップS109で確定されたターゲット検知結果(ターゲットの角度、距離および速度を含む情報)を、レーダ装置1に接続されたECU等に対して出力する。その後、ステップS101からステップS110までの処理が繰り返されることで、本実施形態に係るレーダ装置1は、定期的にターゲットの検知を行い、検知結果をECU等に対して出力する。
【0062】
本実施形態に係るレーダ装置1によれば、物理的な実際のアンテナ間隔を狭めることなく、仮想アンテナ間隔を1/2とし、FOVを広角化することが可能となる。また、この際、実際のアンテナ間隔を狭めないため、角度推定の精度やアンテナ感度を低下させることなくFOVを広角化出来る。特に、アンテナ間隔が3/2dとなっているアンテナについては、従来の間隔dのアンテナよりもアンテナ間干渉が少なくなり、検知精度が向上する。更に、本実施形態に係るレーダ装置1によれば、間隔1/2dの仮想アンテナと間隔dの仮想アンテナとを同時に用いることが出来るため、折り返しによって発生するゴーストを検知し、ゴーストを除去する補正を行うことが出来る。また、仮想アンテナを用いることで実際のアンテナ数を少なく抑えることが出来るため、コスト上有利であり、また、省スペースである。
【0063】
上記説明した実施形態では、異なるタイミングのレーダ送信波に係る受信結果をホログラフィック合成する際に、所定のタイミングの送信に係る相対位相で他のタイミングの送信に係る相対位相を補正する方式を採用しているが(ステップS103およびステップS104の説明を参照)、このような補正は省略されてもよいし、その他の方法による補正が施されてもよい。
【0064】
また、上記説明した実施形態では、時分割によってアンテナの送受信モードを高速に切り替えることで、送信アンテナが自身で送信したレーダ送信波の反射電波を受信する方式を採用しているが、このような方式に代えて、送信アンテナによる時分割受信を行わずに、送信アンテナによる連続送信を行うことで受信時間を増やし、受信感度を改善する方式が採用されてもよい。
【0065】
図8は、7チャンネルのアンテナを用意し、チャンネル1、2および7を連続送信のための送信アンテナとして用いる場合の、レーダ装置1bの構成の概略を示す図である。図8に示したレーダ装置1bでは、図1に示したレーダ装置1においてアンテナ毎に設けられていた分配器19に代えて、アンテナch1およびch2の送受信状態を切り替えるための2x2スイッチが採用されている。また、アンテナch3−ch6については、受信専用のアンテナとして用いられ、アンテナch7については、図1に示したレーダ装置1と同様、分配器19によって送受信モードが切り替えられる。
【0066】
図9は、図8に示したレーダ装置1bの2x2スイッチを用いた送受信切替の方法を示す図である。図8の(a)図には、アンテナch1を送信アンテナとして連続送信を行う場合の2x2スイッチの状態が示され、(b)図には、アンテナch2を送信アンテナとして連続送信を行う場合の2x2スイッチの状態が示され、(c)図には、アンテナch7を送信アンテナとして連続送信を行う場合の2x2スイッチの状態が示されている。なお、アンテナch7を送信アンテナとする場合には、2x2スイッチにおいて送信部11からアンテナch1への接続が遮断されるため、アンテナch1は受信に用いられない。
【0067】
図10は、図8に示したレーダ装置1bにおいて送受信を行った場合の、各受信アンテナにおける相対位相を示す図である。図10に示す例によれば、実際のアンテナ数を7とし、送信アンテナからの連続送信を行うことで、受信感度を改善しつつ、8の広FOV用仮想アンテナ、および9の狭FOV用仮想アンテナを実現出来ることが分かる。
【0068】
また、上記実施形態では、一部のアンテナ間隔を他のアンテナ間隔の3/2倍とすることで、実際のアンテナ間隔を狭くすることなく、1/2倍の間隔の仮想アンテナを得ることを可能としているが、一部のアンテナ間隔を他のアンテナ間隔の1/2倍とすることで、実際よりも多い数の1/2倍の間隔の仮想アンテナを得ることとしてもよい。
【0069】
図11は、6チャンネルのアンテナを用意し、チャンネル1と2の間隔を他のアンテナ
間隔の1/2倍とし、チャンネル1、2および6を送信アンテナとして用いる場合の、各受信アンテナにおける相対位相を示す図である。図11に示す例によれば、一つのアンテナ間隔のみを他のアンテナ間隔の1/2倍とすることで、11の広FOV用仮想アンテナ、および10の狭FOV用仮想アンテナを実現出来ることが分かる。
【符号の説明】
【0070】
1、1b レーダ装置
11 送信部
12 受信部
13 制御部
14 合成部
15 算出部
16 判定部
17 出力部
18 2x2スイッチ
19 分配器
ch1−ch6 アンテナ
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アンテナが等間隔に配置されたアレーアンテナを備えたレーダ装置において、送信アンテナとして用いるアンテナを切り替えながら送受信した結果をホログラフィック合成することにより、実際のアンテナの数を超える数の仮想アンテナによる受信結果を得る技術がある(例えば、特許文献1から4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−198312号公報
【特許文献2】特開2006−91028号公報
【特許文献3】特開2006−308608号公報
【特許文献4】特開2007−199085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、複数のアンテナを等間隔に一列に並べたアレーアンテナを構成し、複数のアンテナによる受信信号を演算することで複数の受信ビームを形成し、スキャンを行う電子スキャン方式のレーダ装置がある。このようなレーダ装置では、アンテナ間隔と各アンテナにおいて受信される反射電波の相対位相とに基づいてターゲット(物標)の角度を算出するため、アンテナ間隔に応じてターゲットを検知可能な角度範囲(FOV:Field of View)が決定される。FOVおよびターゲットの角度は、アレーアンテナが並べられた平面に対して垂直な法線に対する角度で示され、FOVは、以下の計算式を用いて算出することが出来る。
FOV = Arcsin(波長/2/アンテナ間隔)
【0005】
このようなアレーアンテナの特性から、アレーアンテナでは、アンテナ間隔を狭くすることで方位角を推定出来る範囲(FOV)を広くすることが出来る。しかし、物理的にアンテナ間隔を狭くした場合、アンテナ間干渉が大きくなって位相が乱れ、角度検知の精度が低下するという問題や、アンテナの指向性が低下するという問題、アンテナ面積が小さくなって感度が低下するという問題等が発生する。このため、物理的なアンテナ間隔を狭くすることによるFOVの広角化は困難であった。
【0006】
本発明は、上記した問題に鑑み、角度推定の精度やアンテナ感度を低下させることなく、ターゲットを検知可能な角度範囲を広くすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アレーアンテナにおけるアンテナ間隔を一部不等間隔とし、送信アンテナを切り替えながら電波の送受信を行うことで、角度推定の精度やアンテナ感度を低下させることなく、ターゲットを検知可能な角度範囲を広くすることを可能にした。
【0008】
詳細には、本発明は、間隔をおいて一列に並べられた複数のアンテナと、前記複数のアンテナの何れかを送信アンテナとして電波を送信する送信処理を行う送信手段と、前記複数のアンテナを受信アンテナとして、前記送信手段によって送信されターゲットで反射した電波を受信する受信手段と、前記送信手段によって送信アンテナとして用いられるアン
テナを、前記送信処理単位で切り替える切替手段と、を備え、前記複数のアンテナは、隣接するアンテナに対して第一の間隔をおいて配置されたアンテナと、隣接するアンテナに対して前記第一の間隔とは異なり且つ前記第一の間隔の整数倍ではない第二の間隔をおいて配置されたアンテナと、を含む、レーダ装置である。
【0009】
本発明に係るレーダ装置は、複数のアンテナが間隔を置いて一列に並べられることで構成される、所謂アレーアンテナを有する。本発明は、様々な方式のアレーアンテナに対して適用することが可能であり、例えば、パッチアンテナ、トリプレート型アンテナ、マイクロストリップ型アンテナ、導波管スロットアレーアンテナの他、ホーンアンテナを複数並べたものに対しても適用可能である。
【0010】
送信手段は、レーダ装置が有する複数のアンテナのうち、何れかのアンテナを送信アンテナとして、レーダ送信波としての電波を送信する。送信手段によって送信されたレーダ送信波は、ターゲットで反射し、反射電波として受信手段によって受信される。受信手段は、複数のアンテナの全てを受信アンテナとして用いてもよいし、一部のアンテナ、例えば送信アンテナとして用いられたアンテナを除くアンテナのみを受信アンテナとして用いてもよい。
【0011】
送信手段による送信処理は、複数回行われる。この複数回の送信処理において、切替手段は、送信アンテナを切り替える。このとき、レーダ装置が有する複数のアンテナは一部不等間隔で並べられているため、何れか一の送信処理を基準とした場合に、基準とした送信処理に係る受信結果と、送信アンテナが切り替えて行われた他の送信処理に係る受信結果との間で、少なくとも一部の受信結果に係る相対位相が重ならない(一致しない)。
【0012】
即ち、本発明に係るレーダ装置によって得られる複数回の送信処理に係る受信結果を合成すれば、少なくとも一部に、物理的な実際のアンテナ間隔よりも小さいアンテナ間隔のアンテナを用いて受信したのと同様の相対位相を得ることが出来る。上述の通り、アレーアンテナではアンテナ間隔を狭くすることで方位角を推定出来る範囲(FOV)を広くすることが出来るため、本発明に係るレーダ装置によれば、実際のアンテナ間隔を狭めることなく、即ち、角度推定の精度やアンテナ感度を低下させることなく、ターゲットを検知可能な角度範囲を広くすることが可能となる。
【0013】
また、アンテナ間隔を一部不等間隔とする場合には、相対位相が重ならないようにするために、第一の間隔と第二の間隔とが整数倍の関係とならないようにすることが好ましい。具体的には、前記第二の間隔は、前記第一の間隔の3/2倍の間隔としてもよい。なお、第二の間隔としては、前記第一の間隔の1/2倍、4/3倍、5/4倍等、実施の形態に応じて様々なアンテナ間隔を採用することが出来る。
【0014】
また、本発明に係るレーダ装置は、前記受信手段によるアンテナ毎の受信結果であって、前記切替手段によって切り替えられることで夫々異なるアンテナが送信アンテナとして用いられた複数の送信処理に係る複数の受信結果を合成することで、前記複数の送信処理に係る受信結果を、一回の仮想的な送信処理に係る仮想アンテナの受信結果とする合成手段を更に備えてもよい。
【0015】
合成手段によって合成された、一回の仮想的な送信処理に係る仮想アンテナの受信結果は、上記説明したように、物理的な実際のアンテナ間隔よりも小さいアンテナ間隔のアンテナを用いて受信したのと同様の相対位相を含む。なお、受信結果には、ターゲットの角度による相対位相の他、ターゲットの距離による時間遅れ、およびターゲットの速度によるドップラシフトが含まれてもよい。
【0016】
また、前記仮想アンテナは、前記第一の間隔と第二の間隔との差に相当するアンテナ間隔を少なくとも一箇所に有してもよい。上記説明したように、合成手段による合成によって得られた仮想アンテナの受信結果は、物理的な実際のアンテナ間隔よりも小さいアンテナ間隔のアンテナを用いて受信したのと同様の相対位相を含む。この小さいアンテナ間隔は、前記第一の間隔と第二の間隔との差に相当し、例えば、前記第二の間隔が前記第一の間隔の3/2倍であった場合、仮想アンテナの間隔は、少なくとも一部において前記第一の間隔の1/2倍となる。
【0017】
また、前記合成手段は、前記複数の受信結果うちの、一の送信処理に係る一のアンテナの受信結果を基準として、他の受信結果を補正して合成してもよい。複数の送信処理に係る複数の受信結果を、一の送信処理に係る一のアンテナの受信結果を基準として補正することで、複数の送信処理の間にターゲットが移動したような場合であっても、一の送信処理のタイミングにおけるターゲットの位置を基準として、ターゲットの正しい角度を算出することが可能な合成結果を得ることが出来る。
【0018】
また、本発明に係るレーダ装置は、前記合成手段によって合成された受信結果のうち、前記第一の間隔と同一の間隔の仮想アンテナに係る受信結果を用いて前記ターゲットの角度を算出する第一の算出処理と、前記第一の間隔および前記第二の間隔の何れよりも小さい間隔の仮想アンテナに係る受信結果を用いて前記ターゲットの角度を算出する第二の算出処理と、を実行する角度算出手段を更に備えてもよい。
【0019】
ここで、第一の算出処理では、前記第一の間隔と同一の間隔の仮想アンテナに係る受信結果を用いて前記ターゲットの角度を算出するため、実際のアンテナ間隔で角度算出を行った場合と同等のFOVにおけるターゲット角度を算出することが出来る。これに対して、第二の算出処理では、前記第一の間隔および前記第二の間隔の何れよりも小さい間隔の仮想アンテナに係る受信結果を用いて前記ターゲットの角度を算出するため、実際のアンテナ間隔よりも狭い間隔のアンテナを用いて角度算出を行った場合と同等の、より広いFOVにおけるターゲット角度を算出することが出来る。
【0020】
また、本発明に係るレーダ装置は、前記角度算出手段によって算出されたターゲットの角度を比較して、前記第一の算出処理では算出されたが、前記第二の算出処理では算出されなかったターゲットを、ゴーストと判定する判定手段を更に備えてもよい。
【0021】
即ち、上記説明した第一の算出処理および第二の算出処理では、物理的なアンテナ間隔に応じたFOVにおけるターゲット角度算出と、物理的なアンテナよりもより間隔の狭い仮想アンテナ間隔に応じたより広いFOVにおけるターゲット角度算出が行われる。このため、相対的に狭いFOVが得られる第一の算出処理で折り返しによるゴーストが発生したような場合であっても、より広いFOVが得られる第二の算出処理の結果と比較することで、誤検知されたゴーストを判定することが出来る。
【0022】
また、本発明に係るレーダ装置は、所定の角度の範囲内については、前記第一の算出処理で算出されたターゲット角度を算出結果として出力し、前記所定の角度の範囲外については、前記第一の算出処理で算出されたターゲット角度と前記第二の算出処理で算出されたターゲット角度との平均値を算出結果として出力する、算出結果出力手段を更に備えてもよい。
【0023】
所定の角度の範囲内では、より精度の高い第一の算出処理で算出されたターゲット角度を算出結果として出力し、所定の角度の範囲外では、複数の算出処理の結果の平均を算出結果として出力することで、全体として、算出結果に含まれるターゲット角度の精度を高めることが可能となる。
【0024】
また、前記切替手段は、送信アンテナとして用いるアンテナからの電波送信後に、該アンテナを受信アンテナに切り替えることで、該アンテナから送信された電波の反射電波を該アンテナ自身に受信させてもよい。このようにすることで、受信アンテナ数を増やし、全体として精度の高い受信結果をえることが可能となる。
【0025】
また、前記切替手段は、送信アンテナとして用いるアンテナを、該アンテナから送信された電波の反射電波を受信させるための受信アンテナに切り替えず、送信手段に、レーダ送信波を連続送信させてもよい。このようにすることで、受信手段による受信時間を増やし、レーダ装置の受信感度を向上させることが出来る。
【発明の効果】
【0026】
本発明によって、角度推定の精度やアンテナ感度を低下させることなく、ターゲットを検知可能な角度範囲を広くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態に係るレーダ装置の構成の概略を示す図である。
【図2】実施形態に係るアンテナの配置の概略を示す図である。
【図3】実施形態に係るアンテナによってターゲットからの反射電波が受信される様子を示した図である。
【図4】実施形態において、図3に示すようなレーダ波の送受信が、アンテナch1、ch2、ch6を送信アンテナとして順次切り替えて行われた場合の、アンテナch1から送信されてアンテナch1で受信された電波の位相を基準とした、各受信アンテナにおける受信電波の相対位相を示す図である。
【図5】実施形態において、アンテナch1、ch2、ch6を送信アンテナとして順次切り替えて行われた場合の、各受信アンテナにおける相対位相を示す図である。
【図6】実施形態に係る広FOV用仮想アンテナおよび狭FOV用仮想アンテナによる角度検出可能な範囲を示すグラフである。
【図7】実施形態に係るレーダ装置におけるターゲット検知処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】7チャンネルのアンテナを用意し、チャンネル1、2および7を連続送信のための送信アンテナとして用いる場合の、レーダ装置の構成の概略を示す図である。
【図9】図8に示したレーダ装置の2x2スイッチを用いた送受信切替の方法を示す図である。
【図10】図8に示したレーダ装置において送受信を行った場合の、各受信アンテナにおける相対位相を示す図である。
【図11】6チャンネルのアンテナを用意し、チャンネル1と2の間隔を他のアンテナ間隔の1/2倍とし、チャンネル1、2および6を送信アンテナとして用いる場合の、各受信アンテナにおける相対位相を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るレーダ装置の実施の形態について、図面に基づいて説明する。本実施形態に係るレーダ装置は、車載されて、他の車両等、車両周囲のターゲットを検知することに用いることが可能である。ターゲットの検知結果は車載の記憶装置やECU(Electrical Control Unit)等に対して出力され、車両制御等に用いることが出来る。但し、本実施形態に係るレーダ装置は、車載レーダ装置以外の用途に用いられてよい。
【0029】
図1は、本実施形態に係るレーダ装置1の構成の概略を示す図である。本実施形態に係るレーダ装置1は、アンテナch1−ch6、分配器19、送信部11、受信部12、合
成部14、算出部15、判定部16および出力部17を備える。但し、他の実施形態において本発明に係るレーダ装置を実施する場合、レーダ装置は、合成部14、算出部15、判定部16および出力部17等の構成が省略されていてもよい。これらの構成は、レーダ装置の外部に接続されたコンピュータによって実現することが出来る。また、合成部14、算出部15、判定部16および出力部17等の各構成には、汎用または専用のプロセッサを用いることが出来る。また、複数のプロセッサの組み合わせが一の構成に含まれてもよいし、複数の構成において複合的な機能を有する一のプロセッサが用いられてもよい。
【0030】
送信部11は、アンテナch1−ch6のうちの何れか一のアンテナを送信アンテナとして用いてレーダ送信波を送信する。本実施形態に係るレーダ装置1では、アンテナch1−ch6の何れであっても送信に用いることが可能であるが、本発明に係るレーダ装置1の実施にあたっては、アレーアンテナ中の複数のアンテナのうち少なくとも2以上のアンテナが送信アンテナとして利用可能であればよい。本実施形態では、送信部11は、アンテナch1、ch2、ch6の3つのアンテナを順に切り替えて送信アンテナとして用いて、レーダ送信波を送信する。また、本実施形態では、レーダ装置1によって送受信される電波に、FM‐CW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式のレーダ送信波を用いる。FM‐CWによれば、反射電波から、ターゲットの角度による相対位相、ターゲットの距離による時間遅れ、およびターゲットの速度によるドップラシフトを得ることが出来るため、ターゲットの角度、距離、相対速度を測定することが出来る。
【0031】
受信部12は、アンテナch1−ch6のうちレーダ送信波を送信中でないアンテナを受信アンテナとして用いて、ターゲットからの反射電波を受信する。本実施形態に係るレーダ装置1では、送信アンテナからレーダ送信波を送信した直後に、送信アンテナを時分割で受信アンテナに切り替えて、自アンテナが送信したレーダ送信波の反射電波を受信させる。例えば、アンテナch1が送信アンテナとして用いられる場合にも、アンテナch1からのレーダ送信波の送信直後に、アンテナch1を受信モードに切り替えることで、アンテナch1から送信されたレーダ送信波の反射電波を、アンテナch1にも受信させる。即ち、本実施形態では、3つのアンテナch1、ch2、ch6の何れが送信アンテナとして用いられる場合にも、6つのアンテナch1−ch6が全て受信アンテナとして用いられる。
【0032】
本実施形態において、合成部14、算出部15、判定部16および出力部17は、制御部13としてのコンピュータが、制御プログラムを実行することによって実現される。ここで用いられる制御部13は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、RAM等に展開された命令及びデータを処理することでシステム全体を制御するCPU(Central Processing
Unit)、RAMにロードされる各種プログラムや、ターゲット検知処理で得られた算出結果等、システムによって使用される様々なデータが記憶されるEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)等を有するコンピュータである。
【0033】
制御部13は、レーダ装置1に備えられた各構成を制御する。具体的には、制御部13は、レーダ送信波の送信タイミングおよびターゲットからの反射電波の受信タイミングに合わせて分配器19を制御することで、アンテナch1、ch2、ch6における送受信モードを切り替える。本実施形態では、送信アンテナは時分割で高速に送信モードと受信モードとを切り替えることで、自アンテナで送信したレーダ送信波の反射電波を受信する。
【0034】
合成部14は、異なる送信アンテナから異なるタイミングで送信されたレーダ送信波に
基づく反射電波の受信結果をホログラフィック合成する。このようなホログラフィック合成により、レーダ装置1が物理的に備えるアンテナ数よりも多い仮想アンテナによる受信結果を得ることが出来る。
【0035】
算出部15は、アンテナによる受信結果に基づいて、ターゲットの角度、距離および速度を算出する。なお、本実施形態では、算出部15によって、後述する狭FOV用仮想アンテナによる受信結果に基づくターゲット角度の算出と、広FOV用仮想アンテナによる受信結果に基づくターゲット角度の算出と、が行われることで、従来と同等のFOVにおけるターゲット検知結果と、従来よりも広いFOVにおけるターゲット検知結果と、を得ることが出来る。
【0036】
判定部16は、狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果を、広FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果を用いて補正することで、狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果に含まれるゴーストを除去する。ゴースト判定処理の詳細については、後述する。
【0037】
出力部17は、算出部15によって算出され、判定部16によってゴーストの補正が行われたターゲット検知結果(ターゲットの角度、距離および速度を含む情報)を確定し、確定された検知結果を、レーダ装置1に接続されたECU等に対して出力する。本実施形態では、出力部17によって精度の高いターゲット検知結果が出力されるため、車載ECUは、精度の高いターゲット検知結果に基づいて、エンジンや車載ナビゲーション装置等の制御を行うことが可能となる。
【0038】
図2は、本実施形態に係るアンテナch1−ch6の配置の概略を示す図である。本実施形態では、アンテナ素子が2列に並べられたトリプレート型アンテナch1−ch6が用いられている。そして、アンテナch1−ch6は、隣接するアンテナに対して所定の間隔をおいて一列に並べられることで、アレーアンテナを構成している。ここで、アンテナch2−ch6については、アンテナ間隔として、従来の車載用に開発されたレーダ装置において採用されていた標準的な間隔d(本実施形態では、1.8λ(ラムダ))が採用されている。このアンテナ間隔は、アンテナのサイズ、出力、干渉等を考慮して決定された間隔である。アンテナ間隔が1.8λである場合、FOVはArcsin(λ/(2*1.8λ))≒16.12度である。しかし、本実施形態において採用されるアンテナは2列アンテナであり水平面指向性を有するものの、間隔1.8λの場合±30度まで−10dB以上のアンテナ特性を有しているため、FOV内に、FOVの外に位置しているターゲットからの反射電波によるゴーストが検知されてしまう。
【0039】
また、本実施形態では、アンテナch1とアンテナch2との間のアンテナ間隔として、アンテナch2−ch6のアンテナ間隔の1.5倍のアンテナ間隔である3/2d(本実施形態では、2.7λ)が採用される。
【0040】
図3は、本実施形態に係るアンテナch1−ch6によってターゲットからの反射電波が受信される様子を示した図である。本実施形態に係るレーダ装置1は、送信アンテナから送信され、一列に並べられた受信アンテナにおいて受信された反射電波の相対位相(図3のαによって示される)によってターゲットが位置する角度を算出するものである。図3によれば、アンテナch2−ch6において受信される反射電波の相対位相が、隣接するアンテナ間で略αとなる場合に、アンテナch1とアンテナch2との間では、相対位相が、他のアンテナ間の相対位相αの1.5倍である3/2αとなることが分かる。
【0041】
図4は、本実施形態において、図3に示すようなレーダ波の送受信が、アンテナch1、ch2、ch6を送信アンテナとして順次切り替えて行われた場合の、アンテナch1
から送信されてアンテナch1で受信された電波の位相を基準とした、各受信アンテナにおける受信電波の相対位相を示す図である。アンテナch1から送信されてアンテナch2で受信された電波の相対位相は3/2αであり、同様に、アンテナch2から送信されてアンテナch1で受信された電波の相対位相は3/2αである。また、アンテナch1送信、アンテナch6受信の場合の相対位相と、アンテナch6送信、アンテナch1受信の場合の相対位相とは、11/2αであり、アンテナch2送信、アンテナch6受信の場合の相対位相と、アンテナch6送信、アンテナch2受信の場合の相対位相とは、14/2αである。
【0042】
図5は、本実施形態において、アンテナch1、ch2、ch6を送信アンテナとして順次切り替えて行われた場合の、各受信アンテナにおける相対位相を示す図である。図5によれば、アンテナch1送信の際にアンテナch3−ch6によって受信された受信電波の相対位相と、アンテナch2送信の際にアンテナch2−ch5によって受信された受信電波の相対位相と、をホログラフィック合成すると、各受信電波の相対位相は1/2α間隔となり、1/2d(0.9λ)間隔で並べられた8つの仮想アンテナによる受信結果が得られることが分かる。即ち、本実施形態では、物理的に間隔dをもって設けられたアレーアンテナ中に、更に広い間隔3/2dをもって設けるアンテナを配し、送信アンテナを切り替えて送受信された結果をホログラフィック合成することで、実際にはアンテナ間干渉等の問題から設置することの困難な間隔1/2dのアンテナによる受信結果と同等の受信結果を得ることが出来る。そして、間隔1/2dの8つの仮想アンテナは、間隔dのアンテナに比べて広いFOV(Arcsin(λ/(2*0.9λ))≒33.7度)を有するため、広FOV用仮想アンテナとして用いることが可能である。
【0043】
また、本実施形態では、アンテナch2送信の際にアンテナch2−ch6によって受信された受信電波の相対位相と、アンテナch6送信の際にアンテナch2−ch6によって受信された受信電波の相対位相と、をホログラフィック合成することで、間隔dで並べられた8つの仮想アンテナによる受信結果を得ることが出来るという、実際のアンテナ数よりも多い仮想アンテナによる受信結果を得るという目的も果たすことが出来る。また、間隔dの9つの仮想アンテナは、上記した間隔1/2dの8つの仮想アンテナに対して狭いFOV(約16.12度)を有するため、狭FOV用仮想アンテナとして用いることが出来る。
【0044】
図6は、本実施形態に係る広FOV用仮想アンテナおよび狭FOV用仮想アンテナによる角度検出可能な範囲を示すグラフである。グラフの横軸には実際のターゲットの角度を示し、グラフの縦軸にはレーダ装置1によってターゲットが検出される角度を示す。また、太線は狭FOV用仮想アンテナを用いた場合の角度検出、細線は広FOV用仮想アンテナを用いた場合の角度検出を示す。
【0045】
例えば、図6のグラフ中の横軸に×で示した角度にターゲットが配置されていた場合、狭FOV用仮想アンテナ、即ち、実際のアンテナ間隔dと同等のFOVを有するアンテナでは、縦軸の破線×で示した角度にターゲットが検出され、ゴーストが発生してしまう。そこで、本実施形態では、狭FOV用仮想アンテナによる検出結果と広FOV用仮想アンテナによる検出結果とを比較することで、ゴーストの発生を判定する。即ち、上記に示した例では、横軸に×で示した角度にターゲットが配置されていた場合、広FOV用仮想アンテナでは、縦軸の実線×で示した正しい角度にターゲットが検出され、狭FOV用仮想アンテナで検出された破線×のターゲットは検出されない。このため、狭FOV用仮想アンテナで検出された破線×のターゲットがゴーストであると判断出来る。
【0046】
図7は、本実施形態に係るレーダ装置1におけるターゲット検知処理の流れを示すフローチャートである。本フローチャートに示した処理は、レーダ装置1の起動後、制御プロ
グラムを実行する制御部13によって開始される。なお、処理の開始タイミングは、レーダ装置1の外部に接続されたコンピュータやECUによるターゲット検知要求に従ってもよい。また、図7に示した処理順序は一例であり、処理の順序は実施の形態に応じて適宜並び替えられてもよい。
【0047】
ステップS101では、アンテナch1、ch2およびch6が送信アンテナとして用いられて、レーダ送信波の送信が行われる。制御部13は、予め定められた送信タイミングに従ってアンテナch1を送信モードに切り替え、他のアンテナch2−ch6を受信モードに切り替える。そして、送信部11は、予め定められた送信タイミングに従って、または制御部13による指示を受けて、FM‐CW方式によるレーダ送信波をアンテナch1から送出する。制御部13は、アンテナch1からレーダ送信波が所定の時間送出された後、アンテナch1を受信モードに切り替える。
【0048】
次に、制御部13は、予め定められた送信タイミングに従ってアンテナch2を送信モードに切り替え、他のアンテナch1、ch3−ch6を受信モードとする。そして、送信部11は、予め定められた送信タイミングに従って、または制御部13による指示を受けて、FM‐CW方式によるレーダ送信波をアンテナch2から送出する。制御部13は、アンテナch2からレーダ送信波が所定の時間送出された後、アンテナch2を受信モードに切り替える。
【0049】
そして、制御部13は、予め定められた送信タイミングに従ってアンテナch6を送信モードに切り替え、他のアンテナch1−ch5を受信モードとする。そして、送信部11は、予め定められた送信タイミングに従って、または制御部13による指示を受けて、FM‐CW方式によるレーダ送信波をアンテナch6から送出する。制御部13は、アンテナch6からレーダ送信波が所定の時間送出された後、アンテナch6を受信モードに切り替える。この切替によって、アンテナch1−ch6が全て受信モードとなる。その後、処理はステップS102へ進む。
【0050】
なお、ステップS101におけるレーダ送信波の送出時間は、送出された電波が反射して自アンテナ(ここではアンテナch1、ch2またはch6)に戻るまでにアンテナの送受信モードを切替可能なように、十分に短い時間に設定されている。本実施形態では、アンテナch1、ch2およびch6の何れの送信においても、1波長分のレーダ送信波が送信される。また、送受信の切替は高速に行われる必要があるため、制御部13の指示に基づく切替ではなく、予め定められたスケジュールに従って、分配器19や送信部11、受信部12等が、供給されるクロックに従って自律的に切り替える方式とすることが好ましい。
【0051】
ステップS102では、アンテナch1−ch6が受信アンテナとして用いられて、ターゲットからの反射電波の受信が行われる。受信部12は、アンテナch1、ch2およびch6から送出されたレーダ送信波の反射電波を、順に、アンテナch1−ch6において受信する。受信部12は、アンテナch1、ch2およびch6を送信アンテナとする夫々の送信処理について、アンテナch1−ch6において受信された反射電波から、アンテナch1に対する相対位相、時間遅れ、ドップラシフト等の情報を受信結果として抽出する。その後、処理はステップS103へ進む。
【0052】
ステップS103では、広FOV用のホログラフィック合成が行われる。本実施形態では、アンテナch1送信とアンテナch2送信との重なりを利用したホログラフィック合成が行われる。合成部14は、アンテナch2送信(ステップS102)において受信された、アンテナch1に対するアンテナch2−ch6の相対位相に、アンテナch1送信(ステップS101)において受信された、アンテナch1に対するアンテナch2の
相対位相を足すことで、アンテナch2送信において受信されたアンテナch2−ch6の相対位相を、アンテナch1送信時のアンテナch1受信結果を基準とする相対位相に補正する(図4を参照)。この補正により、アンテナch1送信時とアンテナch2送信時とでターゲットが移動しているような場合であっても、移動分の位相差が反映され、移動するターゲットに対しても正確な角度を算出することが可能となる。そして、合成部14は、アンテナch1送信において受信されたアンテナch3−ch6の相対位相と、補正されたアンテナch2送信において受信されたアンテナch2−ch5の相対位相とを合成することで、アンテナ間隔が0.9λの広FOV用仮想アンテナにおける相対位相を得ることが出来る。その後、処理はステップS104へ進む。
【0053】
ステップS104では、狭FOV用のホログラフィック合成が行われる。本実施形態では、アンテナch2送信とアンテナch6送信との重なりを利用したホログラフィック合成が行われる。合成部14は、アンテナch6送信(ステップS101)において受信された、アンテナch1に対するアンテナch2−ch6の相対位相に、アンテナch1送信(ステップS101)において受信された、アンテナch1に対するアンテナch6の相対位相を足すことで、アンテナch6送信において受信されたアンテナch2−ch6の相対位相を、アンテナch1送信時のアンテナch1受信結果を基準とする相対位相に補正する(図4を参照)。この補正により、アンテナch1送信時とアンテナch6送信時とでターゲットが移動しているような場合であっても、移動分の位相差が反映され、移動するターゲットに対しても正確な角度を算出することが可能となる。そして、合成部14は、アンテナch2送信において受信されたアンテナch2−ch6の相対位相と、補正されたアンテナch6送信において受信されたアンテナch2−ch6の相対位相とを合成することで、アンテナ間隔が1.8λの狭FOV用仮想アンテナにおける相対位相を得ることが出来る。その後、処理はステップS105へ進む。
【0054】
ステップS105では、広FOV用仮想アンテナによる受信結果(ステップS103における合成結果)に基づくターゲット角度が算出される。算出部15は、ステップS103において得られた各広FOV用仮想アンテナの受信結果の相対位相に基づいて、ターゲットの角度を算出する。なお、アレーアンテナにおいて受信された反射電波の相対位相に基づいてターゲット角度を算出する技術は従来技術であるため、詳細な説明は省略する。また、本実施形態に係るレーダ装置1では、FM‐CW方式でレーダ送信波を送信しているため、受信電波の、ターゲットの距離による時間遅れ、およびターゲットの速度によるドップラシフトから、ターゲットの距離および速度についても算出することが可能である。広FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度の算出が完了すると、処理はステップS106へ進む。
【0055】
ステップS106では、狭FOV用仮想アンテナによる受信結果(ステップS104における合成結果)に基づくターゲット角度が算出される。算出部15は、ステップS104において得られた各狭FOV用仮想アンテナの受信結果の相対位相に基づいて、ターゲットの角度を算出する。なお、FM‐CW方式を採用することでターゲットの距離および速度についても算出可能であることは、ステップS105で説明した通りである。狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度の算出が完了すると、処理はステップS107へ進む。
【0056】
ステップS107では、ゴーストの除去が行われる。判定部16は、狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果を、広FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果を用いて補正することで、狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果に含まれるゴーストを除去する。具体的には、判定部16は、狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出の結果検知されたターゲットと、広FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出の結果検知されたターゲットとを比較する。そして、判
定部16は、比較の結果、狭FOV用仮想アンテナでは検知されたが、広FOV用仮想アンテナでは検知されていないターゲットがあり、且つ、該ターゲットの折り返しの元と推定される狭FOV外のターゲットが広FOV用仮想アンテナで検知されている場合には、該ターゲットをゴーストと判断し、狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果から削除する。
【0057】
図6を参照して説明すると、狭FOV用仮想アンテナではグラフの縦軸上に破線×で示されたターゲットを検出しているが、広FOV用仮想アンテナでは同様の位置にターゲットを検出しておらず、折り返し位置(縦軸上の実線×)にターゲットを検出している場合、判定部16は、狭FOV用仮想アンテナで検出された破線×のターゲットはゴーストであり、ターゲットの実際の位置は実線×の位置であると判断出来る。
【0058】
なお、狭FOV用仮想アンテナで検知されたターゲットと、広FOV用仮想アンテナで検知されたターゲットとの一致不一致を判断する際には、狭FOV用仮想アンテナに基づく算出結果(ターゲットの角度、距離、速度)と広FOV用仮想アンテナに基づく算出結果(ターゲットの角度、距離、速度)との差分が所定の閾値内であるか否かを判定することで、同一のターゲットであるか否かを推定することが可能である。ゴーストの除去が完了すると、処理はステップS108へ進む。
【0059】
ステップS108では、レーダ装置1の法線に対して±15度以内の角度範囲におけるターゲット検知結果が確定される。出力部17は、±15度以内でのターゲット角度算出結果について、ステップS105で得られた広FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果と、ステップS107で得られた狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果とを比較し、結果が略同じであれば、狭FOV用仮想アンテナのターゲット角度算出結果を、±15度以内の角度範囲における最終的なターゲット角度算出結果として採用する。このようにすることで、より精度の高いターゲット角度算出結果を得ることが出来る。また、広FOV用仮想アンテナでの角度算出結果と、狭FOV用仮想アンテナでの角度算出結果とが略同じでない場合、出力部17は、これらの算出結果を平均し、±15度以内の角度範囲における最終的なターゲット角度算出結果として採用する。なお、ターゲット角度算出結果の比較は、ステップS107と同様、夫々の仮想アンテナで検知されたターゲットの角度の、狭FOV用仮想アンテナに基づく算出結果と広FOV用仮想アンテナに基づく算出結果との差分が所定の閾値内であるか否かを判定する方法で行うことが可能である。その後、処理はステップS109へ進む。
【0060】
ステップS109では、レーダ装置1の法線に対して±15度より外の角度範囲におけるターゲット検知結果が確定される。出力部17は、±15度より外のターゲット角度算出結果について、ステップS105で得られた広FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果と、ステップS107で得られた狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果とを平均し、この結果を、±15度より外の角度範囲における最終的なターゲット角度算出結果として採用する。このようにすることで、より精度の高いターゲット角度算出結果を得ることが出来る。その後、処理はステップS110へ進む。
【0061】
ステップS110では、上記ステップS109までの処理において得られたターゲット検知結果が、レーダ装置1に接続されたECU等に対して出力される。出力部17は、ステップS108およびステップS109で確定されたターゲット検知結果(ターゲットの角度、距離および速度を含む情報)を、レーダ装置1に接続されたECU等に対して出力する。その後、ステップS101からステップS110までの処理が繰り返されることで、本実施形態に係るレーダ装置1は、定期的にターゲットの検知を行い、検知結果をECU等に対して出力する。
【0062】
本実施形態に係るレーダ装置1によれば、物理的な実際のアンテナ間隔を狭めることなく、仮想アンテナ間隔を1/2とし、FOVを広角化することが可能となる。また、この際、実際のアンテナ間隔を狭めないため、角度推定の精度やアンテナ感度を低下させることなくFOVを広角化出来る。特に、アンテナ間隔が3/2dとなっているアンテナについては、従来の間隔dのアンテナよりもアンテナ間干渉が少なくなり、検知精度が向上する。更に、本実施形態に係るレーダ装置1によれば、間隔1/2dの仮想アンテナと間隔dの仮想アンテナとを同時に用いることが出来るため、折り返しによって発生するゴーストを検知し、ゴーストを除去する補正を行うことが出来る。また、仮想アンテナを用いることで実際のアンテナ数を少なく抑えることが出来るため、コスト上有利であり、また、省スペースである。
【0063】
上記説明した実施形態では、異なるタイミングのレーダ送信波に係る受信結果をホログラフィック合成する際に、所定のタイミングの送信に係る相対位相で他のタイミングの送信に係る相対位相を補正する方式を採用しているが(ステップS103およびステップS104の説明を参照)、このような補正は省略されてもよいし、その他の方法による補正が施されてもよい。
【0064】
また、上記説明した実施形態では、時分割によってアンテナの送受信モードを高速に切り替えることで、送信アンテナが自身で送信したレーダ送信波の反射電波を受信する方式を採用しているが、このような方式に代えて、送信アンテナによる時分割受信を行わずに、送信アンテナによる連続送信を行うことで受信時間を増やし、受信感度を改善する方式が採用されてもよい。
【0065】
図8は、7チャンネルのアンテナを用意し、チャンネル1、2および7を連続送信のための送信アンテナとして用いる場合の、レーダ装置1bの構成の概略を示す図である。図8に示したレーダ装置1bでは、図1に示したレーダ装置1においてアンテナ毎に設けられていた分配器19に代えて、アンテナch1およびch2の送受信状態を切り替えるための2x2スイッチが採用されている。また、アンテナch3−ch6については、受信専用のアンテナとして用いられ、アンテナch7については、図1に示したレーダ装置1と同様、分配器19によって送受信モードが切り替えられる。
【0066】
図9は、図8に示したレーダ装置1bの2x2スイッチを用いた送受信切替の方法を示す図である。図8の(a)図には、アンテナch1を送信アンテナとして連続送信を行う場合の2x2スイッチの状態が示され、(b)図には、アンテナch2を送信アンテナとして連続送信を行う場合の2x2スイッチの状態が示され、(c)図には、アンテナch7を送信アンテナとして連続送信を行う場合の2x2スイッチの状態が示されている。なお、アンテナch7を送信アンテナとする場合には、2x2スイッチにおいて送信部11からアンテナch1への接続が遮断されるため、アンテナch1は受信に用いられない。
【0067】
図10は、図8に示したレーダ装置1bにおいて送受信を行った場合の、各受信アンテナにおける相対位相を示す図である。図10に示す例によれば、実際のアンテナ数を7とし、送信アンテナからの連続送信を行うことで、受信感度を改善しつつ、8の広FOV用仮想アンテナ、および9の狭FOV用仮想アンテナを実現出来ることが分かる。
【0068】
また、上記実施形態では、一部のアンテナ間隔を他のアンテナ間隔の3/2倍とすることで、実際のアンテナ間隔を狭くすることなく、1/2倍の間隔の仮想アンテナを得ることを可能としているが、一部のアンテナ間隔を他のアンテナ間隔の1/2倍とすることで、実際よりも多い数の1/2倍の間隔の仮想アンテナを得ることとしてもよい。
【0069】
図11は、6チャンネルのアンテナを用意し、チャンネル1と2の間隔を他のアンテナ
間隔の1/2倍とし、チャンネル1、2および6を送信アンテナとして用いる場合の、各受信アンテナにおける相対位相を示す図である。図11に示す例によれば、一つのアンテナ間隔のみを他のアンテナ間隔の1/2倍とすることで、11の広FOV用仮想アンテナ、および10の狭FOV用仮想アンテナを実現出来ることが分かる。
【符号の説明】
【0070】
1、1b レーダ装置
11 送信部
12 受信部
13 制御部
14 合成部
15 算出部
16 判定部
17 出力部
18 2x2スイッチ
19 分配器
ch1−ch6 アンテナ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔をおいて一列に並べられた複数のアンテナと、
前記複数のアンテナの何れかを送信アンテナとして電波を送信する送信処理を行う送信手段と、
前記複数のアンテナを受信アンテナとして、前記送信手段によって送信されターゲットで反射した電波を受信する受信手段と、
前記送信手段によって送信アンテナとして用いられるアンテナを、前記送信処理単位で切り替える切替手段と、を備え、
前記複数のアンテナは、隣接するアンテナに対して第一の間隔をおいて配置されたアンテナと、隣接するアンテナに対して前記第一の間隔とは異なり且つ前記第一の間隔の整数倍ではない第二の間隔をおいて配置されたアンテナと、を含む、
レーダ装置。
【請求項2】
前記受信手段によるアンテナ毎の受信結果であって、前記切替手段によって切り替えられることで夫々異なるアンテナが送信アンテナとして用いられた複数の送信処理に係る複数の受信結果を合成することで、前記複数の送信処理に係る受信結果を、一回の仮想的な送信処理に係る仮想アンテナの受信結果とする合成手段を更に備える、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記仮想アンテナは、前記第一の間隔と第二の間隔との差に相当するアンテナ間隔を少なくとも一箇所に有する、
請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記合成手段は、前記複数の受信結果うちの、一の送信処理に係る一のアンテナの受信結果を基準として、他の受信結果を補正して合成する、
請求項2または3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記第二の間隔は、前記第一の間隔の3/2倍の間隔である、
請求項1から4の何れか一項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記合成手段によって合成された受信結果のうち、前記第一の間隔と同一の間隔の仮想アンテナに係る受信結果を用いて前記ターゲットの角度を算出する第一の算出処理と、前記第一の間隔および前記第二の間隔の何れよりも小さい間隔の仮想アンテナに係る受信結果を用いて前記ターゲットの角度を算出する第二の算出処理と、を実行する角度算出手段を更に備える、
請求項3から5の何れか一項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記角度算出手段によって算出されたターゲットの角度を比較して、前記第一の算出処理では算出されたが、前記第二の算出処理では算出されなかったターゲットを、ゴーストと判定する判定手段を更に備える、
請求項6に記載のレーダ装置。
【請求項8】
所定の角度の範囲内については、前記第一の算出処理で算出されたターゲット角度を算出結果として出力し、前記所定の角度の範囲外については、前記第一の算出処理で算出されたターゲット角度と前記第二の算出処理で算出されたターゲット角度との平均値を算出結果として出力する、算出結果出力手段を更に備える、
請求項6に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記切替手段は、送信アンテナとして用いるアンテナからの電波送信後に、該アンテナ
を受信アンテナに切り替えることで、該アンテナから送信された電波の反射電波を該アンテナ自身に受信させる、
請求項1から8の何れか一項に記載のレーダ装置。
【請求項1】
間隔をおいて一列に並べられた複数のアンテナと、
前記複数のアンテナの何れかを送信アンテナとして電波を送信する送信処理を行う送信手段と、
前記複数のアンテナを受信アンテナとして、前記送信手段によって送信されターゲットで反射した電波を受信する受信手段と、
前記送信手段によって送信アンテナとして用いられるアンテナを、前記送信処理単位で切り替える切替手段と、を備え、
前記複数のアンテナは、隣接するアンテナに対して第一の間隔をおいて配置されたアンテナと、隣接するアンテナに対して前記第一の間隔とは異なり且つ前記第一の間隔の整数倍ではない第二の間隔をおいて配置されたアンテナと、を含む、
レーダ装置。
【請求項2】
前記受信手段によるアンテナ毎の受信結果であって、前記切替手段によって切り替えられることで夫々異なるアンテナが送信アンテナとして用いられた複数の送信処理に係る複数の受信結果を合成することで、前記複数の送信処理に係る受信結果を、一回の仮想的な送信処理に係る仮想アンテナの受信結果とする合成手段を更に備える、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記仮想アンテナは、前記第一の間隔と第二の間隔との差に相当するアンテナ間隔を少なくとも一箇所に有する、
請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記合成手段は、前記複数の受信結果うちの、一の送信処理に係る一のアンテナの受信結果を基準として、他の受信結果を補正して合成する、
請求項2または3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記第二の間隔は、前記第一の間隔の3/2倍の間隔である、
請求項1から4の何れか一項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記合成手段によって合成された受信結果のうち、前記第一の間隔と同一の間隔の仮想アンテナに係る受信結果を用いて前記ターゲットの角度を算出する第一の算出処理と、前記第一の間隔および前記第二の間隔の何れよりも小さい間隔の仮想アンテナに係る受信結果を用いて前記ターゲットの角度を算出する第二の算出処理と、を実行する角度算出手段を更に備える、
請求項3から5の何れか一項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記角度算出手段によって算出されたターゲットの角度を比較して、前記第一の算出処理では算出されたが、前記第二の算出処理では算出されなかったターゲットを、ゴーストと判定する判定手段を更に備える、
請求項6に記載のレーダ装置。
【請求項8】
所定の角度の範囲内については、前記第一の算出処理で算出されたターゲット角度を算出結果として出力し、前記所定の角度の範囲外については、前記第一の算出処理で算出されたターゲット角度と前記第二の算出処理で算出されたターゲット角度との平均値を算出結果として出力する、算出結果出力手段を更に備える、
請求項6に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記切替手段は、送信アンテナとして用いるアンテナからの電波送信後に、該アンテナ
を受信アンテナに切り替えることで、該アンテナから送信された電波の反射電波を該アンテナ自身に受信させる、
請求項1から8の何れか一項に記載のレーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−217035(P2010−217035A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65036(P2009−65036)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.EEPROM
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.EEPROM
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】
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