説明

レーダ装置

【課題】追尾技術によって生成される航跡の推定精度の向上が効率的に実現されるように、追尾開始性能を最適化するためのレーダの最適な観測間隔を決定することのできるレーダ装置を得る。
【解決手段】レーダ10を制御するレーダ制御部9と、未知の目標を検出する追尾開始手段とを備え、レーダ10から追尾開始手段に対して定期的に観測値を提供するレーダ装置において、観測間隔を、追尾開始手段における実際の追尾開始性能が最適となる値に設定するためのシミュレーション処理手段をさらに備えている。シミュレーション処理手段は、解析用観測間隔設定部2と、追尾開始性能計算部3と、シミュレーション用観測間隔候補設定部4と、擬似観測値生成部5と、擬似航跡生成部6と、追尾開始性能集計部7と、シミュレーションに基づく観測間隔をレーダ制御部9に指示するレーダパラメータ指示部8とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、多目標追尾装置などに適用されるレーダ装置において、未知の目標を検出する追尾開始手段を備えたレーダ装置に関し、特に、目標観測値(以下、単に「観測値」という)の時系列データを追尾処理して目標航跡を生成することにより、追尾開始手段に対して定期的に観測値を提供する際に、追尾開始手段における追尾開始性能が最適となるように、観測値に含まれるパラメータの1つである観測間隔を設定するレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、レーダ装置においては、目標を観測するレーダ(または、センサ)から得られる位置情報の観測値を用いて目標の航跡を生成する追尾技術が必要となる。
たとえば、センサにより目標を観測し、得られた観測値を用いて目標を追尾する技術については、すでに多くの論文や特許文献で取り挙げられており、追尾装置および追尾方法については、様々の提案がなされている。
【0003】
なお、追尾処理は、追尾開始処理と追尾維持処理との2種類に大別され、追尾開始処理は、未発見の目標を観測値の時系列データから追尾機能を用いて発見する処理であるのに対して、追尾維持処理は、存在が既知である目標の運動を追跡する処理である。
【0004】
このとき、レーダを用いて目標を追尾する場合には、追尾維持処理については、既知の追尾情報であることから、ビームを向ける方向が或る程度限定されるのに対し、追尾開始処理については、未知の目標が対象となるので、広い領域にビームを向けて捜索する必要がある。
【0005】
したがって、追尾開始処理における広領域の捜索において、目標の探知性能を高くするためには、信号電力が高い方が良く、また、観測頻度が高い方が良いので、捜索間隔(観測間隔)が短い方が追尾開始性能は高くなる。
【0006】
しかし、レーダの単位時間あたりの送信電力は限られており、信号電力を高い値に設定すると、観測間隔は長くならざるを得ず、逆に、観測間隔を短く設定しようとすると、信号電力は低くならざるを得なくなる。
【0007】
このように、観測間隔と信号電力との間には、1対1の関係があるが、観測間隔を変えると追尾開始性能が変わるので、限られた送信電力を有効に利用するためには、最適な観測間隔となるように、レーダを制御する必要がある。
【0008】
この種のレーダの最適な観測間隔は、事前にシミュレーションを行うことにより、レーダ設計時に或る程度は決定することができる。しかし、最適な観測間隔は、レーダの有効反射面積に依存するので、想定外の目標に対しては事前の設定値が最適とはならない。
したがって、想定外の目標が追尾開始の対象となった場合には、新たに最適な観測間隔を見積もりながらレーダを制御する必要がある。
【0009】
そこで、従来から、センサを用いたレーダ装置の制御技術として、追尾状況に応じてセンサの資源配分を決定する資源管理装置が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の従来装置においては、追尾目標の航跡の個々の追尾状況、たとえば、誤差楕円の大きさ、探知抜け回数、目標距離や目標速度、複数目標間の距離などの運動諸元に応じて優先度が設定され、優先度が高い目標の航跡について、優先的にセンサ資源が割り当てられる。
【0010】
図7は上記特許文献1に記載の従来装置を示すブロック図であり、追尾維持の最適化を実現するためのセンサ制御に適用した場合の機能構成を示している。
以下、図7に示した従来装置の動作について、センサ制御の機能のみに限定して説明する。
【0011】
なお、上記特許文献1には、追尾フィルタの動作を決定するパラメータの制御についても記載されているが、ここでは追尾フィルタの制御機能は用いないものとする。
また、上記特許文献1では、クラッタ発生地域の情報などの観測条件が得られることを想定しているが、ここではクラッタ発生地域の情報は得られないものとする。
すなわち、ここでは、追尾状況に基づいてセンサの割り当てを決定する機能のみに絞って説明する。したがって、図7においては、以下の説明では使われないブロックも存在する。
【0012】
図7において、レーダ装置の資源管理装置は、複数のセンサ100a、100b、・・・からなるセンサ群100と、追尾開始機能を有する多目標追尾処理部101と、センサ群指示部102と、センサ群100からの情報に基づき観測値および観測情報を生成する観測情報融合部103と、フィルタ群指示部104と、センサ状態抽出部105と、目標状態評価部106と、観測情報抽出部107と、追尾情報抽出部108と、フィルタ状態抽出部109と、追加データベースを有する資源配分方式作成部110と、資源データベースを有する資源管理計算部111と、を備えている。
【0013】
多目標追尾処理部101は、組合せ航跡相関行列を有する相関決定部101aと、追尾フィルタ(図示せず)を有するフィルタ処理部101bとを備えている。
相関決定部101aは、観測情報融合部103からの観測値に基づいて、観測値と航跡との組合せを生成する。
【0014】
フィルタ処理部101bは、観測情報融合部103からの観測値と、相関決定部101aからの観測値と航跡との組合せとを入力情報として、追尾情報抽出部108およびフィルタ状態抽出部109を制御する。
【0015】
センサ群100は、センサ群指示部102が出力する動作条件にしたがって、指定された時刻において指定された目標を観測し、その観測情報を出力する。
観測情報融合部103は、センサ群100のいずれかのセンサから観測情報が入力されると、上記動作条件に基づき、該当する目標の運動諸元を推定する追尾フィルタに対して観測値(目標観測値)を出力する。
【0016】
追尾フィルタは、対応する目標の追尾計算を実行することにより、各目標の位置および速度の推定および予測を行い、目標の追尾情報を更新する。
追尾情報抽出部108は、追尾フィルタ群が出力する目標の追尾情報から、目標の運動諸元(たとえば、位置や速度)の推定値に関する情報として、推定誤差範囲である誤差楕円(誤差共分散行列)を抽出し、その抽出情報を目標状態評価部106に入力する。
【0017】
目標状態評価部106は、各目標に対して、センサ割り当ての優先度に相当する評価値を設定する。追尾フィルタからは推定誤差範囲が得られるので、推定誤差範囲が広い目標に対しては、誤差を縮小する目的で評価値を大きく設定する。
【0018】
次に、資源配分方式作成部110は、目標状態評価部106からの評価値が入力されると、追尾データベースを参照しながら、目標状態評価部106が出力する評価値に基づいて、各目標に対するセンサの割り当てと、その配分効果についての評価値とを、複数組算出して出力する。
【0019】
すなわち、目標状態評価部106が出力する評価値(各目標の追尾状態)に基づいて、目標に対して割り当てるセンサおよび観測時刻を決定する。
この割り当ては、候補として複数生成し、各々について、各目標の追尾精度が割り当てられたセンサの観測によってどれだけ向上するかについての期待値を目標状態評価値の大きさで重み付けした配分効果評価値を算出する。
【0020】
次に、資源管理計算部111は、各資源の複数のセンサ割り当ておよび配分効果評価値が資源配分方式作成部110から入力されるとともに、センサ群100の現在の動作状況が入力されると、資源データベースを参照しながら、各センサ割り当てが実行可能であるか否か、センサ群100におよぼす放射エネルギーなどの負荷がどの程度まで達するかについて考慮し、配分効果評価値が大きいセンサ割り当てを選択する。
【0021】
センサ群指示部102は、資源管理計算部111が最適な配分方式を決定すると、その決定情報にしたがって、センサ群100を構成する各センサ100a、100b、・・・の動作指示を行う。
【0022】
従来装置における資源管理装置のセンサ制御手順は以上の通りであるが、図7の従来装置においては、センサ群100による観測値が追尾手段に入力される時点で、どの観測値がどの追尾目標に対応しているかについて、或る程度既知であることが前提となっており、個々の追尾目標の推定誤差に基づいてセンサの割り当てを決定している。
【0023】
すなわち、誤差が比較的大きい目標について、また、センサ観測による改善効果が比較的高い目標とセンサとの組合せについて、優先的にセンサ資源を割り当てている。
たとえば、図8(a)、(b)の説明図に示した例のように、目標O1、O2の各々の誤差楕円を比較して、目標O1よりも目標O2の方が大きい場合には、目標O2に優先的にセンサ資源を割り当てることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特許第4014785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
従来のレーダ装置は、レーダによって特定の領域を捜索しながら追尾開始を行う場合、追尾開始は観測値の最初の数個が得られる短時間の処理であり、また、航跡の推定誤差の収束が不十分である。
したがって、観測間隔を最適化するための制御を実行しようとした場合に、実際に追尾を行いながら観測間隔を制御する方法では間に合わないので、実際にレーダによる観測を行う前に観測間隔の最適化を行う必要があるが、その要求を実現することができないという課題があった。
【0026】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、追尾技術によって生成される航跡の推定精度の向上が効率的に実現されるように、追尾開始性能を最適化するためのレーダの最適な観測間隔を決定することのできるレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
この発明に係るレーダ装置は、所定の観測領域を捜索するレーダと、レーダを制御するレーダ制御部と、レーダによる観測値の時系列データを追尾処理して目標航跡を生成することにより、未知の目標を検出する追尾開始手段とを備え、レーダから追尾開始手段に対して定期的に観測値を提供するレーダ装置において、観測値のパラメータの1つである観測間隔を、追尾開始手段における実際の追尾開始性能が最適となる値に設定するためのシミュレーション処理手段をさらに備え、シミュレーション処理手段は、性能解析における観測間隔を探索して観測間隔候補を設定するとともに、最適観測間隔予想値を生成する解析用観測間隔設定部と、解析用観測間隔設定部により設定された観測間隔候補を前提とした場合の追尾開始性能予想値を、レーダの観測性能値から航跡生成に関する特定の仮定に基づいて解析的に予想計算する追尾開始性能計算部と、シミュレーションにおける観測間隔を探索し、候補となる観測間隔を設定するシミュレーション用観測間隔候補設定部と、レーダの観測性能値に基づいて追尾開始シミュレーションに用いる擬似観測値を生成する擬似観測値生成部と、擬似観測値生成部により生成された擬似観測値を入力情報として、レーダが観測値を提供する追尾開始手段と同等の追尾処理機能により擬似航跡を生成する擬似航跡生成部と、擬似航跡生成部により生成された擬似航跡を用いて追尾開始性能を集計計算する追尾開始性能集計部と、シミュレーションによって決定された観測間隔の設定値をレーダ制御部に指示するレーダパラメータ指示部とを含むものである。
【発明の効果】
【0028】
この発明によれば、追尾技術によって生成される航跡の推定精度の向上が効率的に実現されるように、追尾開始性能を最適化するためのレーダの最適な観測間隔を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1によるレーダの観測間隔決定のための処理手順を示すフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態1における観測間隔候補に応じた追尾開始性能予想値の例を示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態1における観測間隔候補に応じた第1の追尾開始性能の例を示す説明図である。
【図5】この発明の実施の形態1における観測間隔候補に応じた第2の追尾開始性能の例を示す説明図である。
【図6】この発明の実施の形態1における観測間隔候補に応じた第3の追尾開始性能の例を示す説明図である。
【図7】従来のレーダ装置の要部構成を示すブロック図である。
【図8】従来のレーダ装置における異なる目標の各誤差楕円を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
実施の形態1.
以下、図面を参照しながら、この発明の好適な実施の形態について説明する。
図1はこの発明の実施の形態1に係るレーダ装置を示すブロック図であり、多目標追尾装置に適用した場合の概略構成を示している。
【0031】
図1において、レーダ装置は、ユーザの入力インターフェイスとなる観測条件入力部1と、解析用観測間隔設定部2と、追尾開始性能計算部3と、シミュレーション用観測間隔候補設定部4と、擬似観測値生成部5と、擬似航跡生成部6と、追尾開始性能集計部7と、レーダパラメータ指示部8と、レーダ制御部9と、レーダ10とを備えている。
【0032】
観測条件入力部1は、ユーザから入力される目標種別に応じて、観測間隔と信号電力との関係を生成して解析用観測間隔設定部2に入力する。
解析用観測間隔設定部2は、観測条件入力部1からの入力情報と、追尾開始性能計算部3からのフィードバック情報とに基づいて、観測間隔候補および最適観測間隔予想値Tpreを生成し、観測間隔候補を追尾開始性能計算部3に入力し、最適観測間隔予想値Tpreをシミュレーション用観測間隔候補設定部4に入力する。
【0033】
追尾開始性能計算部3は、観測間隔候補に基づく追尾開始性能予想値を生成して解析用観測間隔設定部2にフィードバック入力する。
シミュレーション用観測間隔候補設定部4は、解析用観測間隔設定部2からの入力情報と、追尾開始性能集計部7とからのフィードバック情報とに基づいて、観測間隔および最適観測間隔を生成し、観測間隔を擬似観測値生成部5に入力し、最適観測間隔をレーダパラメータ指示部8に入力する。
【0034】
擬似観測値生成部5は、観測間隔に基づく擬似観測値を擬似航跡生成部6に入力し、擬似航跡生成部6は、擬似観測値に基づく擬似航跡を追尾開始性能集計部7に入力する。
追尾開始性能集計部7は、擬似航跡に基づく追尾開始性能をシミュレーション用観測間隔候補設定部4にフィードバック入力する。
【0035】
レーダパラメータ指示部8は、最適観測間隔に基づく観測間隔をレーダ制御部9に入力する。
最後に、レーダ制御部9は、レーダパラメータ指示部8からの観測間隔に基づきレーダ10を制御する。
【0036】
レーダ10は、従来のレーダ装置に含まれる部分であり、前述(図7参照)と同様の構成を有する。すなわち、図7内のセンサ群100に代えて、レーダを有する点のみが図7と異なるので、多目標追尾処理部1などの具体的な構成については、ここでは図示を省略して、総称的にレーダ10として示している。つまり、図1内のレーダ10は、多目標追尾機能および追尾開始機能を備えているものとする。
【0037】
図1内の各ブロックは、レーダ10から追尾開始手段に対して定期的に観測値を提供するレーダ装置において、レーダ10による観測値のパラメータの1つである観測間隔を、追尾開始手段における実際の追尾開始性能が最適となる値に設定するためのシミュレーション処理手段を構成している。
【0038】
なお、図1に示すレーダ装置においては、1台のレーダ10により或る領域を捜索しながら目標の追尾開始を行うことを前提とし、レーダ10の最適な観測間隔を決定し、さらに、レーダ10の最適観測間隔をレーダ制御部9に指示する。
【0039】
以下、図2〜図6を参照しながら、図1に示したこの発明の実施の形態1による処理内容について具体的に説明する。
図2は図1のレーダ装置によるレーダ10の観測間隔決定のための処理手順を示すフローチャートである。
【0040】
また、図3は3つの観測間隔候補に応じた追尾開始性能予想値を示す説明図であり、図4〜図6は3つの観測間隔に応じた第1〜第3の追尾開始性能を示す説明図である。
なお、ここでは、或る目標が追尾開始対象となり、その種類の目標については、事前に最適な観測間隔の見積もりがなされていないものとする。
【0041】
図2において、まず、ユーザ操作により観測条件入力(ステップS1)が行われ、観測条件入力部1には、追尾開始対象とする目標の有効反射面積σと、レーダ10の送信電力Ptrとが、観測条件として入力される。
【0042】
このとき、観測条件入力部1は、観測条件の入力情報に基づき、信号電力SNRと観測間隔Tとの関係式を求める。
信号電力SNRと観測間隔Tとの関係は、レーダ10の送信電力Ptrと目標の有効反射面積σとを用いて、以下の式(1)で表される。
【0043】
SNR・T=f(Ptr,σ) ・・・(1)
【0044】
ただし、式(1)において、関数f( )は、レーダ10によって一意に定められる。
次に、解析用観測間隔設定部2は、式(1)に基づき、観測間隔候補を、前回設定した観測間隔候補から所定の刻み幅ΔT(事前に設定された固定パラメータ)だけ増加させた値に設定して、追尾開始性能計算部3に入力する(ステップS2)。
【0045】
なお、最初にステップS2が実行されたときには、観測間隔候補は、取り得る最小値Tminに設定され、最小の観測間隔候補が追尾開始性能計算部3に入力される。また、最小値Tminは、事前に設定されるパラメータである。以下、観測間隔候補は、ステップS2が繰り返し実行されるごとに、刻み幅ΔTだけ増加される。
【0046】
次に、追尾開始性能計算部3は、ステップ2で設定された観測間隔候補を観測間隔とした場合の追尾開始性能予想値を計算する(ステップS3)。
このとき、追尾開始性能計算部3により計算される追尾開始性能予想値としては、目標航跡の開始確率Ptgtが適用される。
【0047】
以下、目標航跡の開始確率Ptgtの導出手順について具体的に説明する。
まず、観測時刻t(i)における追尾処理終了時に、目標航跡がm(m=0、1、2、3)探知状態である確率pm(i)を算出する。
【0048】
この確率pm(i)は、目標航跡の観測値がm個得られ、m個の観測値が1つの目標航跡を構成している状態となる確率を表している。
確率pm(i)(m=0、1、2、3)は、1観測時刻前の確率pm(i−1)を用いて、漸化式からなる以下の式(2)により記述される。
【0049】
p0(i)=p0(i−1)・{1−pD(i)}+p2(i−1)・{1−pD(i)}・pF(i)
p1(i)=p1(i−1)・{1−pD(i)}+p0(i−1)・pD(i)
p2(i)=p2(i−1)・{1−pD(i)}・{1−pF(i)}+p1(i−1)・pD(i)
p3(i)=p3(i−1)+p2(i−1)・pD(i)
・・・(2)
【0050】
ただし、式(2)において、pD(i)は、観測時刻t(i)においてレーダが目標を探知する確率であり、信号電力SNRによって決まる値である。
また、pF(i)は、目標航跡のゲート内に誤警報が入る確率であり、べき乗を「^」で表せば、以下の式(3)のように算出される。
【0051】
pF(i)=1−(1−pfa)^[Vg(i)/{ΔR・R(i)・ΔEl・R(i)・ΔAz}] ・・・(3)
【0052】
ただし、式(2)において、pfaは、レーダの検出閾値の設定によって決まる誤警報確率である。
また、Vg(i)は、目標航跡のゲート体積であり、追尾フィルタ計算により算出される。また、R(i)は、目標距離であり、ΔR、ΔEl、ΔAzは、それぞれ、レーダの距離方向、仰角方向、方位角方向の分解能である。
【0053】
式(2)から、目標航跡がm探知状態である確率pm(i)の初期値、すなわち「i=1」における値は、以下の式(4)となる。
【0054】
p0(1)=1−pD(1)
p1(1)=pD(1)
p2(1)=0
p3(1)=0
・・・(4)
【0055】
ここで、目標航跡が3探知状態、すなわち3つの観測値が得られた段階で、必ず確立するものと仮定すると、観測時刻t(i)における目標航跡の開始確率Ptgt(i)は、以下の式(5)のように表される。
【0056】
Ptgt(i)=p3(i) ・・・(5)
【0057】
図2に戻り、追尾開始性能計算部3は、ステップS3に続いて、追尾開始性能の極大値が発見されたか否かを判定する(ステップS4)。
すなわち、式(5)のように計算された追尾開始性能予想値(目標航跡の開始確率Ptgt)の極大値が発見されたか否かを判定する。
【0058】
ステップS4において、極大値が発見されない(極大値が確定していない)場合には、判定結果が「No」となって、解析用観測間隔設定処理(ステップS2)に戻る。
ステップS2においては、観測間隔を、現在の観測間隔候補値から刻み幅ΔTだけ増加させて増やす。
【0059】
以下、上記処理(ステップS2〜S4)を繰り返し、ステップS4において、追尾開始性能予想値の極大値が確定し、判定結果が「Yes」となった段階で、次のシミュレーション用観測間隔候補設定処理(ステップS5)に移行する。
【0060】
なお、追尾開始性能予想値の極大値が確定したか否かについては、現在(最新)の追尾開始性能予想値が、その1回前に実行した追尾開始性能計算によって得られた追尾開始性能の値よりも低下したか否かによって、判定することができる。
【0061】
ここで、ステップS4の判定処理について具体的に説明する。
図3に示す観測間隔候補に応じた追尾開始性能予想値の例において、観測間隔候補を第1回目の「Tmin」とした場合の追尾開始性能予想値と、第2回目の「Tmin+ΔT」とした場合の追尾開始性能予想値とを比べると、第2回目の追尾開始性能予想値の方が大きい値となっている。
【0062】
したがって、第2回目の時点では、追尾開始性能予想値の極大値は確定していない。
次に、観測間隔候補を第3回目の「Tmin+2ΔT」とした場合には、追尾開始性能予想値が第2回目の値よりも低下しているので、第3回目の探索において、追尾開始性能予想値の極大を実現する観測間隔候補が「Tmin+ΔT」であると定まる。
この極大値は、それまでに得られた追尾開始性能予想値の最大値として設定される。
【0063】
こうして、極大値が確定した時点で、その追尾開始性能予測値を極大とする観測間隔候補が、最適観測間隔予想値Tpreとしてシミュレーション用観測間隔候補設定部4に入力され、次のシミュレーション用観測間隔候補設定処理(ステップS5)に移行することになる。
【0064】
ステップS5においては、シミュレーションを行うための観測間隔候補を設定する。
なお、解析用観測間隔設定部2から最適観測間隔予想値Tpreが入力された直後の時点であって、最初にステップS5が実行されたときには、3つの観測間隔「Tpre−ΔT」、「Tpre」、「Tpre+ΔT」がシミュレーション用観測間隔候補となる。
【0065】
次に、擬似観測値生成部5は、ステップS5で設定された観測間隔候補を観測間隔として、乱数によって実際の観測条件を模擬しながら、N個分の擬似観測値を生成する(ステップS6)。
なお、擬似観測値の生成数Nは、モンテカルロシミュレーションの試行回数(事前に設定されるパラメータ)であり、シミュレーションに費やすことが可能な時間に相当する回数である。
【0066】
次に、擬似航跡生成部6は、擬似観測値生成部5により生成された擬似観測値を入力情報として、レーダ10が観測値を提供する追尾開始手段の場合と同等の追尾処理機能により、擬似航跡を生成する(ステップS7)。
この擬似航跡生成処理(ステップS7)は、N個の擬似観測値のすべてについて実行される。
【0067】
次に、追尾開始性能集計部7は、シミュレーション結果集計処理を行い、擬似航跡生成部6によって生成された擬似航跡のうちの目標航跡のみを選別し、或る特定の時刻t(i)における目標航跡の開始確率PT(i)を計算する(ステップS8)。
【0068】
このとき、追尾開始性能集計部7は、擬似航跡生成部6により生成された航跡が目標航跡であるか誤航跡であるかを判定する。すなわち、擬似航跡生成部6により生成された航跡が、過去に運動諸元推定に用いた擬似観測値が目標を想定したもののみであれば、目標航跡であると判定する。
【0069】
一方、擬似航跡生成部6により生成された航跡に、過去に用いた擬似観測値に誤警報を想定したものがあれば、追尾開始性能集計部7は、生成された航跡が誤航跡であると判定する。
ここで、擬似観測値生成処理(ステップS6)におけるシミュレーション試行回数をNとして、観測時刻t(i)までに目標航跡がmT試行で確立されているものとすると、目標航跡の開始確率PT(i)は、以下の式(6)のように表される。
【0070】
PT(i)=mT/N ・・・(6)
【0071】
次に、追尾開始性能集計部7は、ステップS8によって得られた追尾開始性能(開始確率PT(i))の極大値が発見されたか否かを判定し(ステップS9)、追尾開始性能の極大値が得られて判定結果が「Yes」となった時点で、最後のレーダ制御指示処理(ステップS10)に移行する。
【0072】
一方、ステップS9において、追尾開始性能の極大値が得られていなければ、判定結果が「No」となってステップS5に戻り、再度のシミュレーション用観測間隔候補の設定処理を行い、上記処理(ステップS5〜S9)を繰り返し実行する。
【0073】
ここで、ステップS5〜S9におけるシミュレーション間隔候補の設定処理について、具体的に説明する。
前述の通り、最初にステップS5が実行された時点では、3つの観測間隔「Tpre−ΔT」、「Tpre」、「Tpre+ΔT」がシミュレーション用観測間隔候補となるので、シミュレーション結果集計処理(ステップS8)においては、たとえば図4のように、3つの追尾開始性能値が得られる。
【0074】
図4において、3つの観測間隔に対する追尾開始性能は、上に凸の特性を有している。このように、3つの追尾開始性能が得られた場合には、中心候補「Tpre」での追尾開始性能が最も高く、この観測間隔「Tpre」で追尾開始性能の極大値が実現されているので、観測間隔「Tpre」を最適観測間隔として確定する。
【0075】
一方、図5のように、3つの観測間隔に対する追尾開始性能が単調増加を示す場合には、第3回目の観測間隔「Tpre+ΔT」での追尾開始性能が最も高いが、この観測間隔「Tpre+ΔT」で極大が実現されていることを確定することはできない。
したがって、さらに、観測間隔候補を刻み幅ΔTずつ増加させて、順次に「Tpre+2・ΔT」、「Tpre+3・ΔT」、・・・と設定しながら、追尾開始性能の極大を実現する観測間隔を探索する。
【0076】
また、図6のように、3つの観測間隔に対する追尾開始性能が単調減少を示す場合には、第1回目の観測間隔「Tpre−ΔT」での性能が最も高いが、この観測間隔「Tpre−ΔT」で極大が実現されていることを確定することはできない。
したがって、さらに、観測間隔候補を刻み幅ΔTずつ減少させて、順次に「Tpre−2・ΔT」、「Tpre−3・ΔT」、・・・と設定しながら、追尾開始性能の極大を実現する観測間隔を探索する。
【0077】
図2に戻り、最後に、レーダパラメータ指示部8は、レーダ制御部9に対して、レーダ制御指示(ステップS10)を行い、レーダ10の観測間隔が、シミュレーションにより探索しながら得られた最適観測間隔となるように、指示を出力する。
このように、実際にレーダ10を動作させて観測を行う前に、解析とシミュレーションとにより、観測間隔を最適に決定することができる。
【0078】
以上のように、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置は、所定の観測領域を捜索するレーダ10と、レーダ10を制御するレーダ制御部9と、レーダ10による観測値の時系列データを追尾処理して目標航跡を生成することにより、未知の目標を検出する追尾開始手段とを備え、レーダから追尾開始手段に対して定期的に観測値を提供するレーダ装置において、観測値のパラメータの1つである観測間隔を、追尾開始手段における実際の追尾開始性能が最適となる値に設定するためのシミュレーション処理手段をさらに備えている。
【0079】
シミュレーション処理手段は、解析用観測間隔設定部2と、追尾開始性能計算部3と、シミュレーション用観測間隔候補設定部4と、擬似観測値生成部5と、擬似航跡生成部6と、追尾開始性能集計部7と、レーダパラメータ指示部8とを備えている。
【0080】
解析用観測間隔設定部2は、性能解析における観測間隔を探索して観測間隔候補を設定するとともに、最適観測間隔予想値Tpreを生成する。
追尾開始性能計算部3は、解析用観測間隔設定部2により設定された観測間隔候補を前提とした場合の追尾開始性能予想値を、レーダ10の観測性能値から航跡生成に関する特定の仮定に基づいて解析的に予想計算する。
【0081】
シミュレーション用観測間隔候補設定部は、シミュレーションにおける観測間隔を探索し、候補となる観測間隔を設定する。
擬似観測値生成部5は、レーダ10の観測性能値に基づいて追尾開始シミュレーションに用いる擬似観測値を生成する。
【0082】
擬似航跡生成部6は、擬似観測値生成部5により生成された擬似観測値を入力情報として、レーダ10が観測値を提供する追尾開始手段と同等の追尾処理機能により擬似航跡を生成する。
追尾開始性能集計部7は、擬似航跡生成部6により生成された擬似航跡を用いて追尾開始性能を集計計算し、レーダパラメータ指示部8は、シミュレーションによって決定された観測間隔の設定値をレーダ制御部9に指示する。
【0083】
これにより、追尾技術によって生成される航跡の推定精度の向上が実現されるように、追尾開始性能を最適化するためのレーダ10の最適な観測間隔を、効率的に決定することができる。
したがって、追尾開始の実績がない目標について追尾開始を行う場合でも、短時間の解析とシミュレーションによって決めた観測間隔を設定することによって、追尾開始の最適化を図ることが可能となる。
【0084】
また、追尾開始性能計算部3により算出される追尾開始性能予想値と、追尾開始性能集計部7により算出される追尾開始性能とは、或る特定の時刻t(i)における目標航跡の開始確率PT(i)である。
このように、追尾開始の性能指標として、目標航跡の開始確率PT(i)を適用することにより、目標航跡の開始確率PT(i)が最も高くなるための観測間隔を設定することが可能となる。
【0085】
また、単にシミュレーションのみの繰り返しによる探索ではなく、解析によって予測された最適観測間隔を出発点としてシミュレーションでの探索回数を最小限としているので、現実的な時間で観測間隔を決定することができる。
【0086】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1では、追尾開始性能計算部3により算出される追尾開始性能予想値と、追尾開始性能集計部7により算出される追尾開始性能とを、或る特定の時刻t(i)における目標航跡の開始確率PT(i)としたが、目標航跡の開始確率PT(i)に代えて、誤航跡の開始確率PF(i)としてもよい。
【0087】
以下、多目標追尾装置において誤航跡の開始確率PFを適用したこの発明の実施の形態2に係るレーダ装置について説明する。
なお、この発明の実施の形態2による装置構成は、前述(図1参照)と同様であり、処理手順も図2に示した通りである。
【0088】
ただし、この場合、図2内の解析用観測間隔候補設定処理(ステップS2)、追尾開始性能計算処理(ステップS3)、シミュレーション用観測間隔候補設定処理(ステップS5)およびシミュレーション結果集計処理(ステップS8)の内容が一部異なるので、以下では、ステップS2、S3、S5、S8のみに限定して説明する。
【0089】
まず、ステップS2において、解析用観測間隔設定部2は、追尾開始処理で開始される「誤航跡の数」ができるだけ少なくなるように、観測間隔を探索する。
続いて、ステップS3において、追尾開始性能計算部3は、ステップS2で入力された観測間隔候補を観測間隔とした場合の追尾開始性能予想値を計算する。
【0090】
このとき、追尾開始性能計算部3は、計算される追尾開始性能予想値として、誤航跡の開始確率Pflsを適用する。
ここで、観測時刻t(i)における追尾処理終了時にm(m=1、2、3)探知状態である誤航跡の数の期待値をnFm(i)で表すと、各期待値nFm(i)は、1観測時刻前の期待値nFm(i−1)を用いて、漸化式からなる以下の式(7)のように記述される。
【0091】
nF1(i)=nF1(i−1)・{1−pfalse(i)}+pfa・Vobs/{ΔR・R(i)・ΔEl・R(i)・ΔAz}
nF2(i)=nF2(i−1)・{1−pfalse(i)}+nF1(i−1)・pfalse(i)
nF3(i)=nF3(i−1)+nF2(i−1)・pfalse(i)+p2(i−1)・{1−pD(i)}・pF(i)
・・・(7)
【0092】
ただし、式(7)において、Pfalse(i)は、ゲート内の分解能のセル{体積ΔR・R(i)・ΔEl・R(i)・ΔAz}のいずれかに誤警報が入る確率であり、全セルで誤警報が入らない確率を「1.0」から減算することにより算出することができる。したがって、ゲート内の分解能のセルのいずれかに誤警報が入る確率Pfalse(i)は、べき乗を「^」で表せば、以下の式(8)のように算出される。
【0093】
Pfalse(i)=1−(1−pfa)^[Vfg(i)/{ΔR・R(i)・ΔEl・R(i)・ΔAz}] ・・・(8)
【0094】
ただし、式(8)において、ゲート体積Vfg(i)は、ゲート体積の上限値であり、Vobsは、捜索領域の体積である。
また、目標の初探知時刻における各状態の誤航跡数の期待値(すなわち、初期値)nFm(i)は、以下の式(9)のように表される。
【0095】
nF1(i)=pfa・Vobs/{ΔR・R(i)・ΔEl・R(i)・ΔAz}
nF2(i)=0
nF3(i)=0
・・・(9)
【0096】
ここで、誤航跡が3つの観測値によって確立するものと仮定し、式(9)から得られた初探知時刻における期待値nF3(i)を、観測領域全体の分解能のセル数ncellで除算した値は、誤航跡の開始確率Pfls(i)であり、以下の式(10)のように表される。
【0097】
Pfls(i)=nF3(i)/ncell ・・・(10)
【0098】
以下、この発明の実施の形態2によるシミュレーション用観測間隔候補設定部4は、ステップS5において、誤航跡の開始確率Pfls(i)の値を最小化するための観測間隔を探索する。すなわち、シミュレーション用観測間隔候補設定部4は、追尾開始処理で開始される誤航跡の数ができるだけ少なくなるように、観測間隔を探索する。
【0099】
また、追尾開始性能集計部7は、シミュレーション結果集計処理(ステップS8)において、擬似航跡生成部6により生成された擬似航跡のうちの誤航跡のみを選別し、或る特定の時刻t(i)における誤航跡の開始確率PFを計算する。
【0100】
ここで、シミュレーションの試行回数をNとし、観測時刻t(i)までに誤航跡が全試行で合計mF個確立されているものとすると、誤航跡の開始確率PF(i)は、以下の式(11)のように表される。
【0101】
PF=mF/(N・ncell) ・・・(11)
【0102】
以上のように、この発明の実施の形態2によれば、追尾開始性能計算部3により算出される追尾開始性能予想値と、追尾開始性能集計部7により算出される追尾開始性能とを、或る特定の時刻t(i)における誤航跡の開始確率PF(i)とし、追尾開始の性能指標として、誤航跡の開始確率PF(i)を適用したので、誤航跡の開始確率PFが最も低くなる観測間隔を効率的に設定することが可能となる。
【0103】
実施の形態3.
なお、上記実施の形態2では、追尾開始性能計算部3により算出される追尾開始性能予想値と、追尾開始性能集計部7により算出される追尾開始性能とを、或る特定の時刻t(i)における誤航跡の開始確率PF(i)としたが、誤航跡の開始確率PF(i)に代えて、レーダ10が必要とする仮想的な信号対雑音比VSNRp、VSNRとしてもよい。
【0104】
以下、多目標追尾装置において仮想的な信号対雑音比を適用したこの発明の実施の形態3に係るレーダ装置について説明する。
なお、この発明の実施の形態3による装置構成は、前述(図1参照)と同様であり、処理手順も図2に示した通りである。
【0105】
ただし、この場合、図2内の追尾開始性能計算処理(ステップS3)およびシミュレーション結果集計処理(ステップS8)の内容が一部異なるので、以下では、ステップS3、S8のみに限定して説明する。
【0106】
まず、追尾開始性能計算部3は、ステップS3において、ステップS2で入力された観測間隔候補を観測間隔とした場合の追尾開始性能予想値を計算する。
このとき、追尾開始性能計算部3は、或る特定の時刻t(i)における目標航跡および誤航跡の各開始確率Ptgt(i)、Pfls(i)が、レーダ10の探知確率と誤警報確率とに相当するものと見なし、その探知確率と誤警報確率とを実現する仮想的な信号対雑音比VSNRpを、追尾開始性能予想値とする。
レーダ10が必要とする仮想的な信号対雑音比VSNRpは、以下の式(12)のように算出される。
【0107】
VSNRp=10・log10[log{Ptgt(i)}/log{Pfls(i)}−1] ・・・(12)
【0108】
式(12)において、目標航跡の開始確率Ptgt(i)、誤航跡の開始確率Pfls(i)の計算方法は、それぞれ、前述の式(5)、式(10)に示した通りである。
【0109】
また、追尾開始性能集計部7は、シミュレーション結果集計処理(ステップS8)において、擬似航跡生成部6により生成された擬似航跡を目標航跡と誤航跡とに分類し、各々の開始確率をレーダ10の探知確率と誤警報確率とに相当するものと見なし、その探知確率と誤警報確率とを実現する仮想的な信号対雑音比VSNRを計算する。
【0110】
ここで、シミュレーションの試行回数をNとし、観測時刻t(i)までに目標航跡がmT試行で確立され、誤航跡が全試行で合計mF個確立されているものとすると、仮想的な信号対雑音比VSNRは、以下の式(13)のように算出される。
【0111】
VSNR=10・log10{log(PT)/log(PF)−1}・・・(13)
【0112】
式(13)において、PTは、目標航跡の開始確率PT(i)であり、前述の式(6)のように表される。
また、PFは、誤航跡の開始確率PF(i)であり、前述の式(11)のように表される。
【0113】
この発明の実施の形態3においては、追尾開始性能計算部3により算出される追尾開始性能予想値と、追尾開始性能集計部7により算出される追尾開始性能とを、或る特定の時刻t(i)における目標航跡および誤航跡の各開始確率PT(i)、PF(i)が、レーダ10の探知確率および誤警報確率にそれぞれ相当するものと見なしたときに、探知確率および誤警報確率を実現するためにレーダ10が必要とする仮想的な信号対雑音比VSNRp、VSNRとしている。
【0114】
このように、追尾開始の性能指標として、レーダ10による仮想的な信号対雑音比VSNRp、VSNRを適用することにより、目標航跡が高くかつ誤航跡の開始確率が低くなる観測間隔を設定することが可能となる。
【0115】
実施の形態4.
なお、上記実施の形態1〜3では、特に言及しなかったが、シミュレーション用観測間隔候補設定部4は、解析用観測間隔設定部2により設定された最適観測間隔予想値Tpreにおいて追尾開始性能計算部3により計算された追尾開始性能予想値と、最適観測間隔予想値Tpreを適用して擬似観測値生成部5により生成された擬似観測値に基づき、擬似航跡生成部6により生成された擬似航跡を用いて、追尾開始性能集計部7が計算した追尾開始性能と、の2つの性能差が所定値よりも小さいと判定された場合に、観測間隔候補を再設定することなく、最適観測間隔予想値Tpreを最終的な最適観測間隔としてレーダパラメータ指示部8に出力してもよい。
【0116】
以下、上記機能のシミュレーション用観測間隔候補設定部4を用いたこの発明の実施の形態4に係るレーダ装置について説明する。
なお、この発明の実施の形態4による装置構成は、前述(図1参照)と同様であり、処理手順も図2に示した通りである。
【0117】
ただし、この場合、図2内のシミュレーション用観測間隔候補設定処理(ステップS5)およびシミュレーション結果集計処理(ステップS8)の内容が一部異なるので、以下では、ステップS5、S8のみに限定して説明する。
【0118】
まず、シミュレーション用観測間隔候補設定部4は、ステップS5において、シミュレーションを行うための観測間隔候補を設定する。
なお、解析用観測間隔設定部2から最適観測間隔予想値(観測間隔)Tpreが入力された直後であって、最初にステップS5が実行された時点では、1つの観測間隔Tpreがシミュレーション用観測間隔候補となる。
【0119】
ここで、シミュレーション用観測間隔候補が観測間隔Tpreである場合、前回実行時のシミュレーション結果集計処理(ステップS8)で得られた追尾開始性能値PT(i)と、追尾開始性能計算処理(ステップS3)で計算された観測間隔Tpreにおける追尾開始性能Ptgt(i)との性能差が所定の閾値ΔP(事前に設定されるパラメータ)を超える場合に、シミュレーション間隔候補設定処理(ステップS5)において、観測間隔Tpreから刻み幅ΔTだけ増やした値と減らした値との、2通りの観測間隔についてシミュレーションを行う。
【0120】
一方、前回のステップS8で得られた追尾開始性能値PT(i)と、ステップS3で計算された観測間隔Tpreにおける追尾開始性能Ptgt(i)との性能差が、所定の閾値ΔPを超えない場合には、この段階でシミュレーションによる観測間隔の探索を打ち切り、シミュレーション用観測間隔候補設定部4は、最適観測間隔予想値Tpreを最適観測間隔としてレーダパラメータ指示部8に出力する。
【0121】
以上のように、この発明の実施の形態4によるシミュレーション用観測間隔候補設定部4は、解析によって求めた最適観測間隔予想値Tpreの精度をシミュレーションと比較し、その精度が高ければシミュレーションの実行を打ち切るように構成されているので、最適観測間隔を早期に決定することができる。
【符号の説明】
【0122】
1 観測条件入力部、2 解析用観測間隔設定部、3 追尾開始性能計算部、4 シミュレーション用観測間隔候補設定部、5 擬似観測値生成部、6 擬似航跡生成部、7 追尾開始性能計算部、8 レーダパラメータ指示部、9 レーダ制御部、10 レーダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の観測領域を捜索するレーダと、
前記レーダを制御するレーダ制御部と、
前記レーダによる観測値の時系列データを追尾処理して目標航跡を生成することにより、未知の目標を検出する追尾開始手段とを備え、
前記レーダから前記追尾開始手段に対して定期的に前記観測値を提供するレーダ装置において、
前記観測値のパラメータの1つである観測間隔を、前記追尾開始手段における実際の追尾開始性能が最適となる値に設定するためのシミュレーション処理手段をさらに備え、
前記シミュレーション処理手段は、
性能解析における観測間隔を探索して観測間隔候補を設定するとともに、最適観測間隔予想値を生成する解析用観測間隔設定部と、
前記解析用観測間隔設定部により設定された前記観測間隔候補を前提とした場合の追尾開始性能予想値を、前記レーダの観測性能値から航跡生成に関する特定の仮定に基づいて解析的に予想計算する追尾開始性能計算部と、
シミュレーションにおける観測間隔を探索し、候補となる観測間隔を設定するシミュレーション用観測間隔候補設定部と、
レーダの観測性能値に基づいて追尾開始シミュレーションに用いる擬似観測値を生成する擬似観測値生成部と、
擬似観測値生成部により生成された擬似観測値を入力情報として、レーダが観測値を提供する追尾開始手段と同等の追尾処理機能により擬似航跡を生成する擬似航跡生成部と、
擬似航跡生成部により生成された擬似航跡を用いて追尾開始性能を集計計算する追尾開始性能集計部と、
シミュレーションによって決定された観測間隔の設定値を前記レーダ制御部に指示するレーダパラメータ指示部と
を含むことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記追尾開始性能計算部により算出される追尾開始性能予想値と、前記追尾開始性能集計部により算出される前記追尾開始性能とは、
或る特定の時刻における目標航跡の開始確率であることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記追尾開始性能計算部により算出される追尾開始性能予想値と、前記追尾開始性能集計部により算出される前記追尾開始性能とは、
或る特定の時刻における誤航跡の開始確率であることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記追尾開始性能計算部により算出される追尾開始性能予想値と、前記追尾開始性能集計部により算出される前記追尾開始性能とは、
或る特定の時刻における目標航跡および誤航跡の開始確率が、前記レーダの探知確率および誤警報確率にそれぞれ相当するものと見なしたときに、前記探知確率および前記誤警報確率を実現するために前記レーダが必要とする仮想的な信号対雑音比であることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記シミュレーション用観測間隔候補設定部は、
前記解析用観測間隔設定部により設定された前記最適観測間隔予想値において前記追尾開始性能計算部により計算された追尾開始性能予想値と、
前記最適観測間隔予想値を適用して前記擬似観測値生成部により生成された擬似観測値に基づき、前記擬似航跡生成部により生成された擬似航跡を用いて、前記追尾開始性能集計部が計算した追尾開始性能と、
の2つの性能差が所定値よりも小さいと判定された場合には、前記観測間隔候補を再設定することなく、前記最適観測間隔予想値を最終的な最適観測間隔として前記レーダパラメータ指示部に出力することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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