説明

レーダ装置

【課題】高い追尾性能を有する小型かつ安価なレーダ装置を提供する。
【解決手段】目標の予測ゲート内で目標からの反射波を、予測ゲート外で目標からの送信波をそれぞれ受信して電気信号に変換し、受信信号として出力する受信部7と、受信部から出力される予測ゲート内または予測ゲート外の1つ以上の受信信号を用いて目標の角度を測定する測角処理部2と、受信部から出力される予測ゲート内で得られた受信信号を用いて目標までの距離および角度を測定する測距・測角処理部3と、測角処理部で測定された目標の角度を表す測角データと測距・測角処理部で測定された目標までの距離および角度を表す測距・測角データとに基づき目標を追尾する追尾処理を実行するとともに、目標の予測ゲートを生成して受信部に送る追尾処理・制御部10を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標からの送信波および反射波に基づき目標の追尾を行なうレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、従来のレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、受信部1、測角処理部2、測距・測角処理部3、角度追尾処理部4、距離・角度追尾処理部5およびデータ融合・制御部6から構成されている。
【0003】
受信部1は、データ融合・制御部6から送られてくる制御信号によって、目標から送信される送信波または自己が送信した電波の反射波のいずれかを受信できるように設定される。この受信部1は、アンテナ(図示しない)を含み、目標からの送信波を受信できるように設定された場合は、アンテナで受信された送信波を電気信号に変換し、受信信号として測角処理部2に送る。一方、目標からの反射波を受信できるように設定された場合は、アンテナで受信された反射波を電気信号に変換し、受信信号として距離・測角処理部3に送る。
【0004】
測角処理部2は、受信部1から送られてくる受信信号(目標からの送信波)に基づき目標の角度を計算する。この測角処理部2で計算された目標の角度は、測角データとして角度追尾処理部4に送られる。
【0005】
測距・測角処理部3は、受信部1から送られてくる受信信号(目標からの反射波)に基づき目標までの距離および目標の角度を計算する。この測距・測角処理部3で計算された目標までの距離および目標の角度は、測距・測角データとして距離・角度追尾処理部5に送られる。
【0006】
角度追尾処理部4は、測角処理部2から送られてくる測角データを用いて目標の角度追尾処理を実行する。この角度追尾処理によって得られた目標の平滑値や予測値等は、角度追尾データとしてデータ融合・制御部6に送られる。
【0007】
距離・角度追尾処理部5は、測距・測角処理部3から送られてくる測距・測角データを用いて目標の距離・角度追尾処理を実行する。この距離・角度追尾処理によって得られた目標の平滑値や予測値等は、距離・角度追尾データとしてデータ融合・制御部6に送られる。
【0008】
データ融合・制御部6は、角度追尾処理部4から送られてくる角度追尾データと距離・角度追尾処理部5から送られてくる距離・角度追尾データとをデータ融合して、目標を表す目標データを作成する。また、データ融合・制御部6は、作成した目標データを用いて、次回の目標観測のための制御信号を生成し、受信部1等に送る。
【0009】
次に、上記のように構成される従来のレーダ装置の動作を、目標追尾処理を中心に、図7に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0010】
目標追尾処理においては、まず、角度追尾モードであるかどうかが調べられる(ステップST101)。すなわち、データ融合・制御部6は、現在の追尾モードが角度追尾モードであるか距離・角度追尾モードであるかを調べる。
【0011】
ステップST101において、角度追尾モードであると判断された場合は、送信波の観測が行われる(ステップST102)。すなわち、データ融合・制御部6は、現在の追尾モードが角度追尾モードである旨を示す制御信号を受信部1に送る。受信部1は、データ融合・制御部6から送られてくる角度追尾モードを示す制御信号によって目標からの送信波を受信できる状態に設定される。その後、受信部1は、目標からの送信波を受信して電気信号に変換し、受信信号として測角処理部2に送る。
【0012】
次いで、送信波の測角が行われる(ステップST103)。すなわち、測角処理部2は、受信部1から送られてくる受信信号(目標からの送信波)に基づき目標の角度を計算する。測角処理部2で計算された目標の角度は、測角データとして角度追尾処理部4に送られる。
【0013】
次いで、角度追尾処理が実行される(ステップST104)。すなわち、角度追尾処理部4は、測角処理部2から送られてくる測角データを用いて目標の角度追尾処理を実行し、この角度追尾処理によって得られた目標の平滑値や予測値等を、角度追尾データとしてデータ融合・制御部6に送る。その後、ステップST108に進む。
【0014】
ステップST101において、角度追尾モードでない、つまり距離・角度追尾モードであると判断された場合は、反射波の観測が行われる(ステップST105)。すなわち、データ融合・制御部6は、現在の追尾モードが距離・角度追尾モードである旨を示す制御信号を受信部1に送る。受信部1は、データ融合・制御部6から送られてくる距離・角度追尾モードを示す制御信号によって目標からの反射波を受信できる状態に設定される。その後、受信部1は、目標からの反射波を受信して電気信号に変換し、受信信号として距離・測角処理部3に送る。
【0015】
次いで、反射波の測距・測角が行われる(ステップST106)。すなわち、測距・測角処理部3は、受信部1から送られてくる受信信号(目標からの反射波)に基づき目標までの距離および目標の角度を計算する。この測距・測角処理部3で計算された目標までの距離および目標の角度は、測距・測角データとして距離・角度追尾処理部5に送られる。
【0016】
次いで、距離・角度追尾処理が実行される(ステップST107)。すなわち、距離・角度追尾処理部5は、測距・測角処理部3から送られてくる測距・測角データを用いて目標の距離・角度追尾処理を実行し、この距離・角度追尾処理によって得られた目標の平滑値や予測値等を、距離・角度追尾データとしてデータ融合・制御部6に送る。その後、ステップST108へ進む。
【0017】
ステップST108においては、データ融合処理が実行される。すなわち、データ融合・制御部6は、角度追尾処理部4から送られてくる角度追尾データと距離・角度追尾処理部5から送られてくる距離・角度追尾データとをデータ融合して、目標を表す目標データを作成する。また、データ融合・制御部6は、作成した目標データを用いて、次回の目標観測のための制御信号を生成し、受信部1等に送る。
【0018】
次いで、終了であるかどうかが調べられる(ステップST109)。ステップST109において、終了でないことが判断されると、ステップST101に戻り、上述した処理が繰り返される。一方、ステップST109において、終了であることが判断されると、目標追尾処理は終了する。
【0019】
このようなレーダ装置に関連する技術として、特許文献1は、隠密性を損なわず、かつ目標が電波放射を中止しても支障なく追尾ができる複合シーカを開示している。この複合シーカは、パッシブ電波シーカとアクティブ電波シーカと光波シーカと判断回路とを備え、まず電波シーカで目標に接近し、光波シーカで終末誘導を行う。電波シーカでの誘導では、目標が電波放射をしているときはパッシブ電波シーカに受信出力が得られるので、判断回路はパッシブ電波シーカの受信出力がある間はアクティブ電波シーカを非動作モードに設定して隠密性を保持し、目標が電波放射を中止するとパッシブ電波シーカの受信出力がなくなるので、判断回路はアクティブ電波シーカを動作モードに設定して目標を見失わないようにする。
【0020】
また、特許文献2は、高PRFパルスドップラ方式のレーダ装置において、干渉波(送信波)が存在する場合においても、干渉波の影響を除去し、目標検出能力を向上させることができるレーダ装置を開示している。このレーダ装置は、アクティブ/パッシブマネージメント部によりレーダモードとしてアクティブが選択された場合の目標検出器の出力をメモリに格納し、レーダモードとしてパッシブが選択された場合の目標検出器の出力をメモリに格納されているデータと相関度を計算することにより、干渉波の判定・除去を行う。
【特許文献1】特開平7−113861号公報
【特許文献2】特開2002−196069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上述した従来のレーダ装置では、追尾モードとして角度追尾モードと距離・角度追尾モードが選択された後、それぞれの追尾モードに特化して、受信処理から追尾処理までが実施される。特許文献1に開示された技術のように、追尾モード毎に独立した受信部を用いて目標を追尾する構成では、レーダ装置が大型化するとともに高価格になるという問題がある。
【0022】
また、特許文献2に開示された技術のように、両追尾モードの処理を同一の受信部を用いて目標を追尾する構成の場合、どちらの追尾モードの処理を実行するか観測前に判定する必要があるが、電波環境が変化するなかで、実行すべき追尾モードを正しく判定することは難しく、受信処理から追尾処理までをそれぞれの追尾モードに特化して実行していることと相俟って、角度追尾モードにおいて、目標からの送信波を観測できない場合や、距離・角度追尾モードにおいて、目標からの送信波によって目標からの反射波を観測できない場合は、それぞれの追尾モードに対する追尾処理に観測データを入力できなくなって追尾データレートが低くなり、追尾性能が低下するという問題がある。
【0023】
本発明の課題は、高い追尾性能を有する小型かつ安価なレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決するために、第1の発明は、目標の予測ゲート内で目標からの反射波を、予測ゲート外で目標からの送信波をそれぞれ受信して電気信号に変換し、受信信号として出力する受信部と、受信部から出力される予測ゲート内または予測ゲート外の1つ以上の受信信号を用いて目標の角度を測定する測角処理部と、受信部から出力される予測ゲート内で得られた受信信号を用いて目標までの距離および角度を測定する測距・測角処理部と、測角処理部で測定された目標の角度を表す測角データと測距・測角処理部で測定された目標までの距離および角度を表す測距・測角データとに基づき目標を追尾する追尾処理を実行するとともに、目標の予測ゲートを生成して受信部に送る追尾処理・制御部とを備えたことを特徴とする。
【0025】
また、第2の発明は、第1の発明において、受信部から出力される受信信号を分析する受信信号分析部と、受信信号分析部における分析の結果に基づいて、測角処理部で得られた測角データまたは測距・測角処理部で得られた測距・測角データのいずれを追尾処理・制御部に送るかを選択するデータ選択部とを備え、追尾処理・制御部は、データ選択部で選択された測角データまたは測距・測角データに基づいて追尾処理を実行することを特徴とする。
【0026】
また、第3の発明は、第1の発明において、受信部から出力される受信信号を分析する受信信号分析部を備え、追尾処理・制御部は、受信信号分析部における分析の結果に基づいて、測角処理部で得られた測角データおよび測距・測角処理部で得られた測距・測角データの重み付けを行なって追尾処理を実行することを特徴とする。
【0027】
また、第4の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、追尾処理・制御部は、測角処理部で得られた測角データと測距・測角処理部で得られた測距・測角データとをデータ融合した後に追尾処理を実行することを特徴とする。
【0028】
また、第5の発明は、第1〜第4のいずれか1つの発明において、追尾処理・制御部は、測角処理部で得られた測角データと、測距・測角処理部で得られた測距・測角データとをデータ融合し、目標の状態推定を直交座標系において実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、追尾処理・制御部によって生成された目標の予測ゲート内で目標からの反射波を受信できるように設定し、予測ゲート外で目標からの送信波を受信できるように設定した受信部を用いるので、追尾モード毎に独立した受信部を用意する必要がない。その結果、レーダ装置の小型化および低価格化が可能となる。
【0030】
また、目標からの送信波によって目標からの反射波を観測できない場合、受信部の予測ゲート内または予測ゲート外の1つ以上の受信信号(目標からの送信波)を用いて測角を行い、この測角により得られた測角データを用いて追尾処理を行なうことが可能となる。この結果、追尾データレートが向上し、追尾性能を向上させることができる。
【0031】
さらに、予測ゲート内または予測ゲート外の1つ以上の受信信号から得られる測角データと予測ゲート内の受信信号から得られる測距・測角データのうち、いずれか良好な方のデータ、または、全てのデータに重み付けを行って追尾処理を行なうことにより、追尾性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0033】
図1は、本発明の実施例1に係るレーダ装置の概略の構成を示すブロック図である。なお、以下においては、背景技術で説明した従来のレーダ装置の構成要素に相当する部分には、背景技術の説明で使用した符号と同じ符号を用いて説明する。
【0034】
このレーダ装置は、受信部7、測角処理部2、測距・測角処理部3、受信信号分析部8、データ選択部9および追尾処理・制御部10から構成されている。
【0035】
受信部7は、追尾処理・制御部10から送られてくる制御信号によって、目標からの送信波および反射波を受信できるように設定される。この受信部7は、アンテナ(図示しない)を含み、アンテナで受信された目標からの送信波および反射波を電気信号に変換し、受信信号として測角処理部2、測距・測角処理部3および受信信号分析部8に送る。
【0036】
測角処理部2は、受信部7から送られてくる受信信号に基づき目標の角度を計算する。この測角処理部2で計算された目標の角度は、測角データとしてデータ選択部9に送られる。
【0037】
測距・測角処理部3は、受信部7から送られてくる受信信号に基づき目標までの距離および目標の角度を計算する。この測距・測角処理部3で計算された目標までの距離および目標の角度は、測距・測角データとしてデータ選択部9に送られる。
【0038】
受信信号分析部8は、受信部7から送られてくる受信信号に含まれる、目標からの送信波および反射波について分析する。この受信信号分析部8による分析結果は、追尾処理・制御部10に送られるとともに、選択信号としてデータ選択部9に送られる。
【0039】
データ選択部9は、受信信号分析部8から送られてくる選択信号に応じて、測角処理部2から送られてくる測角データまたは測距・測角処理部3から送られてくる測距・測角データのいずれかを選択し、追尾処理・制御部10に送る。
【0040】
追尾処理・制御部10は、データ選択部9から送られてくる測角データまたは測距・測角データに基づき追尾処理を実行し、平滑値や予測値等といった目標データを作成する。また、追尾処理・制御部10は、作成した目標データを用いて、次回の目標観測のための制御信号を生成し、受信部1等に送る。この追尾処理・制御部10で行われる追尾処理の詳細は後述する。
【0041】
次に、上記のように構成される本発明の実施例1に係るレーダ装置の動作を、目標追尾処理を中心に、図2に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0042】
目標追尾処理では、まず、送信波/受信波の観測が行われる(ステップST201)。すなわち、受信部7は、追尾処理・制御部10からの制御信号によって、目標からの送信波および反射波を受信できるように設定(詳細後述)され、その後、アンテナで受信された目標からの送信波および反射波を電気信号に変換し、受信信号として測角処理部2、測距・測角処理部3および受信信号分析部8に送る。
【0043】
具体的には、受信部7は、目標の予測ゲート内で目標からの反射波を受信できるように設定され、予測ゲート外で目標からの送信波を受信できるように設定される。すなわち、受信部7は、図3(a)のタイミングチャートに示すように、目標からの送信波のレベルが大きい場合、受信機(レーダ装置の受信機能を司る部分)の飽和を防止して正確な測角を実施するために、目標の予測ゲート外では受信機利得が小さくなるように設定される。
【0044】
また、図3(b)のタイミングチャートに示すように、目標からの反射波に適合した周波数がf2、前回観測された目標からの送信波の周波数がf1である場合、受信周波数として、目標の予測ゲート内では周波数がf2に設定され、目標の予測ゲート外では周波数がf1に設定される。
【0045】
なお、受信部7における目標の予測ゲート外の受信周波数、受信アンテナ利得、受信機利得、受信帯域等といった受信部7のパラメータは、受信信号分析部8における送信波の推定アルゴリズムによって推定され、これに基づいて、追尾処理・制御部10から設定することができ、上述した例に限定されない。
【0046】
次いで、送信波の測角が行われる(ステップST103)。すなわち、測角処理部2は、受信部7から送られてくる受信信号に基づき目標の角度を計算する。この測角処理部2で計算された目標の角度は、測角データとしてデータ選択部9に送られる。
【0047】
ステップST103における送信波の測角と並行して、反射波の測距・測角が行われる(ステップST106)。すなわち、測距・測角処理部3は、受信部7から送られてくる受信信号に基づき目標までの距離および目標の角度を計算する。この測距・測角処理部3で計算された目標までの距離および目標の角度は、測距・測角データとしてデータ選択部9に送られる。
【0048】
次いで、受信信号の分析が行われる(ステップST202)。すなわち、受信信号分析部8は、受信部7から送られてくる受信信号を用いて目標からの送信波および反射波について分析を行い、分析結果を、追尾処理・制御部10に送るとともに、選択信号としてデータ選択部9に送る。
【0049】
次いで、データ選択が行われる(ステップST203)。すなわち、データ選択部9は、受信信号分析部8から送られてくる選択信号に応じて、測角処理部2から送られてくる測角データまたは測距・測角処理部3から送られている測距・測角データのいずれか一方を選択して、追尾処理・制御部10に送る。
【0050】
なお、この図2のフローチャートに示す目標追尾処理では、送信波の測角(ステップST103)および反射波の測距・測角(ステップST106)を実行した後に受信信号分析(ステップST202)を実行するように構成したが、送信波の測角(ステップST103)および反射波の測距・測角(ステップST106)を実行する前に受信信号分析(ステップST202)を実行するように構成できる。この場合、受信信号分析(ステップST202)の結果に応じて、送信波の測角(ステップST103)または反射波の測距・測角(ステップST106)のいずれか一方のみを実行するように構成することができる。
【0051】
次いで、追尾処理が実行される(ステップST204)。すなわち、追尾処理・制御部10は、測角処理部2からデータ選択部9を介して送られてくる測角データまたは測距・測角処理部3からデータ選択部9を介して送られてくる測距・測角データ、すなわち観測データを用いたデータ融合を含む目標の追尾処理(詳細は後述)を実行し、平滑値や予測値等といった目標データを作成する。また、作成した目標データを用いて、次回の目標観測のための制御信号を生成し、受信部7などに送る。
【0052】
次いで、終了であるかどうかが調べられる(ステップST109)。ステップST109において、終了でないことが判断されると、ステップST201に戻り、上述した処理が繰り返される。一方、ステップST109において、終了であることが判断されると、目標追尾処理は終了する。
【0053】
追尾処理・制御部10における追尾処理は、(1)式の運動モデル、(2)式の送信波に対する観測モデルおよび(3)式の反射波に対する観測モデルに対し、カルマンフィルタ等によって算出できる。
【数1】

【0054】
ここで、xは、目標の状態ベクトル、Fは、遷移行列、Gは、駆動行列、wは、平均0、共分散行列Qの正規分布に従うシステム雑音ベクトル、yは、送信波に対する観測ベクトル、Hは、送信波に対する観測行列、vは、送信波に対する平均0、共分散行列Rの正規分布に従う観測雑音ベクトル、yは、反射波に対する観測ベクトル、Hは、反射波に対する観測行列、vは、反射波に対する平均0、共分散行列Rの正規分布に従う観測雑音ベクトルであり、全て、観測時刻tにおける値である。
【0055】
カルマンフィルタでは、送信波に対しては、(4)式〜(6)式に示す平滑処理、反射波に対しては、(7)式〜(9)式に示す平滑処理、(10)式〜(11)式に示す予測処理を実施する。
【数2】

【0056】
ここで、Kは、観測時刻tにおける送信波に対するカルマンゲイン行列、Kは、観測時刻tにおける反射波に対するカルマンゲイン行列、x^k|kは、観測時刻tにおける平滑ベクトル、Pk|kは、観測時刻tにおける平滑誤差共分散行列、x^k+1|kは、観測時刻tk+1における予測ベクトル、Pk+1|kは、観測時刻tk+1における予測誤差共分散行列である。ATは、ベクトルまたは行列Aの転置、A−1は、行列Aの逆行列、Iは、単位行列を示す。
【0057】
追尾処理・制御部10の予測処理の式(10)で算出される予測ベクトルの距離成分が、受信部7の目標の予測ゲートの中心となり、式(11)で算出される予測誤差共分散行列の距離成分をk倍した値が、受信部7の目標の予測ゲートの幅として用いられる。
【0058】
送信波に対しては方位角を出力し、反射波に対しては距離と方位角を出力する場合、上記ベクトルおよび行列は、以下のようになる。
【数3】

【0059】
ここで、
は、距離、θは、方位角、r・は、距離の速度成分、θ・は、方位角の速度成分、σは、システム雑音の標準偏差、θは、送信波に対する方位角の観測値、σp,θは、送信波に対する方位角の観測雑音の標準偏差、rは、反射波に対する距離の観測値、θは、反射波に対する方位角の観測値、σa,rは、反射波に対する距離の観測雑音の標準偏差、σa,θは、反射波に対する方位角の観測雑音の標準偏差、Iは、n行n列の単位行列、Oは、n行n列の零行列であり、全て、観測時刻tにおける値である。
【0060】
また、目標の運動および観測モデルを以下のように変形させ、非線形モデルに対応した拡張カルマンフィルタ等の追尾処理、つまり目標の状態推定を直交座標系において実施するように構成することもできる。
【数4】

【0061】
目標の運動モデルを式(12)のように、極座標系で定義する場合に対して、式(25)のように、直交座標系で定義する場合、等速直線運動する目標に対して、追尾性能を向上させることができる。
【実施例2】
【0062】
図4は、本発明の実施例2に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。なお、以下においては、実施例1に係るレーダ装置の構成要素に相当する部分には、実施例1で使用した符号と同じ符号を用いて説明する。このレーダ装置は、受信部7、測角処理部2、測距・測角処理部3、受信信号分析部8aおよび追尾処理・制御部10aから構成されている。
【0063】
受信部7は、追尾処理・制御部10aから送られてくる制御信号によって、目標からの送信波および反射波を受信できるように設定される。この受信部7は、アンテナ(図示しない)を含み、アンテナで受信された目標からの送信波および反射波を電気信号に変換し、受信信号として測角処理部2、測距・測角処理部3および受信信号分析部8aに送る。
【0064】
測角処理部2は、受信部7から送られてくる受信信号に基づき目標の角度を計算する。この測角処理部2で計算された目標の角度は、測角データとして追尾処理・制御部10aに送られる。
【0065】
測距・測角処理部3は、受信部7から送られてくる受信信号に基づき目標までの距離および目標の角度を計算する。この測距・測角処理部3で計算された目標までの距離および目標の角度は、測距・測角データとして追尾処理・制御部10aに送られる。
【0066】
受信信号分析部8aは、受信部7から送られてくる受信信号を用いて、目標からの送信波および反射波について分析を行い、観測誤差の共分散行列を推定する。この受信信号分析部8aで推定された観測誤差の共分散行列は、追尾処理・制御部10aに送られる。
【0067】
追尾処理・制御部10aは、測角処理部2から送られてくる測角データ、測距・測角処理部3から送られてくる測距・測角データおよび受信信号分析部8aから送られてくる観測誤差の共分散行列を用いて、より詳しくは、受信信号分析部8aにおける分析の結果に基づいて、測角処理部2で得られた測角データおよび測距・測角処理部3で得られた測距・測角データの重み付けを行なって目標の追尾処理を実行し、平滑値や予測値等といった目標データを作成する。また、追尾処理・制御部10aは、作成した目標データを用いて、次回の目標観測のための制御信号を生成し、受信部7などに送る。この追尾処理・制御部10で行われる追尾処理の詳細は後述する。
【0068】
次に、上記のように構成される本発明の実施例2に係るレーダ装置の動作を、目標追尾処理を中心に、図5に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0069】
目標追尾処理では、まず、送信波/受信波の観測が行われる(ステップST201)。すなわち、受信部7は、追尾処理・制御部10aからの制御信号によって、目標からの送信波および反射波を受信できるように設定され、その後、目標からの送信波および反射波をアンテナで受信して電気信号に変換し、受信信号として測角処理部2、測距・測角処理部3および受信信号分析部8aに送る。
【0070】
次いで、送信波の測角が行われる(ステップST103)。すなわち、測角処理部2は、受信部7から送られてくる受信信号に基づき目標の角度を計算する。この測角処理部2で計算された目標の角度は、測角データとして追尾処理・制御部10aに送られる。
【0071】
上記ステップST103における送信波の測角と並行して、反射波の測距・測角が行われる(ステップST106)。すなわち、測距・測角処理部3は、受信部7から送られてくる受信信号に基づき目標までの距離および目標の角度を計算する。この測距・測角処理部3で計算された目標までの距離および目標の角度は、測距・測角データとして追尾処理・制御部10aに送られる。
【0072】
次いで、受信信号の分析が行われる(ステップST205)。すなわち、受信信号分析部8aは、受信部7から送られてくる受信信号を用いて目標からの送信波および反射波について分析を行い、観測誤差の共分散行列を推定する。この受信信号分析部8aで推定された観測誤差の共分散行列は、追尾処理・制御部10aに送られる。
【0073】
次いで、追尾処理が実行される(ステップST206)。すなわち、追尾処理・制御部10aは、測角処理部2から送られてくる測角データ、測距・測角処理部3から送られてくる測距・測角データおよび受信信号分析部8aから送られてくる観測誤差の共分散行列を用いて、より詳しくは、受信信号分析部8aにおける分析の結果に基づいて、測角処理部2で得られた測角データおよび測距・測角処理部3で得られた測距・測角データの重み付けを行なって目標の追尾処理を実行し、平滑値や予測値等といった目標データを作成する。また、追尾処理・制御部10は、作成した目標データを用いて、次回の目標観測のための制御信号を生成し、受信部7などに送る。
【0074】
追尾処理・制御部10aにおける追尾処理は、(28)式の運動モデル、(29)式〜(33)式に示す観測モデルに対し、カルマンフィルタ等によって算出できる。
【数5】

【0075】
ここで、xは、目標の状態ベクトル、Fは、遷移行列、Gは、駆動行列、wは、平均0、共分散行列Qの正規分布に従うシステム雑音ベクトル、yは、送信波と反射波に対する観測ベクトル、Hは、送信波と反射波に対する観測行列、vは、送信波と反射波に対する平均0、共分散行列Rの正規分布に従う観測雑音ベクトル、yは、送信波に対する観測ベクトル、yは、反射波に対する観測ベクトル、Hは、送信波に対する観測行列、Hは、反射波に対する観測行列、vは、送信波に対する平均0、共分散行列Rの正規分布に従う観測雑音ベクトル、vは、反射波に対する平均0、共分散行列Rの正規分布に従う観測雑音ベクトル、blockdiag{・}は、引数を用いてBlock Diagonal Matrixを生成する関数であり、全て、観測時刻tにおける値である。
【0076】
上記運動及び観測モデルに対するカルマンフィルタでは、受信信号分析部8aで推定された観測誤差の共分散行列R等に基づいて、(34)式に示すカルマンゲインが算出され、(35)式に示すように、測角処理部2から送られてくる測角データ、測距・測角処理部3から送られてくる測距・測角データに対して、上記カルマンゲインにより、自動的に重み付けが実施される。
【数6】

【0077】
また、単純化して、受信信号分析部8aで推定された観測誤差の共分散行列Rに反比例するように、重み付けを実施するように構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、レーダセンサ、ソナーセンサ、赤外線センサなどのセンサ装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の実施例1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係るレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施例1に係るレーダ装置の受信部の動作を説明するための図である。
【図4】本発明の実施例2に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施例2に係るレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【図6】従来のレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図7】従来のレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0080】
2 測角処理部
3 測距・測角処理部
7 受信部
8、8a 受信信号分析部
9 データ選択部
10、10a 追尾処理・制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標の予測ゲート内で目標からの反射波を、予測ゲート外で目標からの送信波をそれぞれ受信して電気信号に変換し、受信信号として出力する受信部と、
前記受信部から出力される予測ゲート内または予測ゲート外の1つ以上の受信信号を用いて目標の角度を測定する測角処理部と、
前記受信部から出力される予測ゲート内で得られた受信信号を用いて目標までの距離および角度を測定する測距・測角処理部と、
前記測角処理部で測定された目標の角度を表す測角データと前記測距・測角処理部で測定された目標までの距離および角度を表す測距・測角データとに基づき目標を追尾する追尾処理を実行するとともに、目標の予測ゲートを生成して前記受信部に送る追尾処理・制御部とを備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記受信部から出力される受信信号を分析する受信信号分析部と、
前記受信信号分析部における分析の結果に基づいて、前記測角処理部で得られた測角データまたは前記測距・測角処理部で得られた測距・測角データのいずれを前記追尾処理・制御部に送るかを選択するデータ選択部とを備え、
前記追尾処理・制御部は、前記データ選択部で選択された測角データまたは測距・測角データに基づいて追尾処理を実行することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記受信部から出力される受信信号を分析する受信信号分析部を備え、
前記追尾処理・制御部は、前記受信信号分析部における分析の結果に基づいて、前記測角処理部で得られた測角データおよび前記測距・測角処理部で得られた測距・測角データの重み付けを行なって追尾処理を実行することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記追尾処理・制御部は、前記測角処理部で得られた測角データと前記測距・測角処理部で得られた測距・測角データとをデータ融合した後に追尾処理を実行することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記追尾処理・制御部は、前記測角処理部で得られた測角データと、前記測距・測角処理部で得られた測距・測角データとをデータ融合し、目標の状態推定を直交座標系において実施することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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