説明

レーダ装置

【課題】目標検出性能を低下させずに2次エコーを抑圧したレーダ装置を得る。
【解決手段】受信信号を生成する受信部6と、受信信号の位相補正を行う第1の2次エコー位相補正部7と、位相補正後の受信信号から第1のドップラ周波数成分を除去する第1の2次エコー除去部8と、除去電力を算出する2次エコー電力推定部16と、第1の2次エコー除去部8の出力信号の位相補正を行う第1の1次エコー位相補正部9と、位相補正後の受信信号から第2のドップラ周波数成分を除去する第1の地形エコー除去部10と、受信信号の位相補正を行う第2の1次エコー位相補正部11と、第3のドップラ周波数成分を除去する第2の地形エコー除去部12と、除去電力を算出する1次地形エコー電力推定部17と、不要波除去後の受信信号の位相補正を行う第2の2次エコー位相補正部13と、第4のドップラ周波数成分を除去する第2の2次エコー除去部14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遠隔に存在する目標の距離および速度を計測するためのレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、遠隔に存在する目標の距離および速度を計測する手法として、パルスドップラレーダ技術が知られている。この計測手法においては、送信波にパルス変調を施し、パルスの送受信間の時間差から距離を算出する。また、パルス繰り返し周期でサンプルされた受信信号に周波数解析を施すことにより、目標のドップラ周波数を算出する。
【0003】
このとき、目標の距離を曖昧さなく計測するためには、パルス繰り返し周期を送受信パルスの時間差よりも長く設定する必要がある。
一方、高速に運動する目標の速度を曖昧さなく計測するためには、受信信号を高速にサンプルする(パルス繰り返し周期を十分短くする)必要がある。
【0004】
したがって、距離の曖昧さの解消と、ドップラ周波数の曖昧さの解消とを、パルス繰り返し周期の調整のみよって同時に実現することはできない。
そこで、各パルスに擬似ランダム符号位相変調を施し、2次エコーに合わせた位相補償により2次エコー成分を抽出し、2次エコー成分を除去する方法が提案されている(たとえば、非特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上記方式による2次エコー除去処理には、以下のような問題がある。
2次エコー除去処理において、除去される信号の大半は2次エコー成分であるが、拡散された1次エコーの一部成分も合わせて除去される。
【0006】
このように、1次エコーの一部が除去されると、1次エコーの位相が乱されることになり、1次エコーのうちの地形エコー成分の位相が乱されると、ドップラ周波数が本来0である地形エコー成分が、他のドップラ周波数へと漏れ出す。
【0007】
この結果、2次エコー除去後に、1次エコーに合わせた位相補償を行い、ドップラスペクトルを算出すると、地形エコーの漏れにより、ドップラスペクトルの雑音レベルが上昇した場合と同様の状況となる。
【0008】
地形エコーは、大きな受信電力を持ち得るので、少しの漏れであっても、最終的に検出する必要のある気象エコーの検出性能が低下することになる。すなわち、気象エコーの検出確率が低下するか、または、以外のドップラ周波数に漏れ出した地形エコーを誤検出する確率が増加する、という問題が生じる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】R.J.Doviak and D.S.Zrnic,Doppler Radar and Weather Observations,Second Ed.,p.167−170,Academic Press,Inc.,1993.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のレーダ装置は、2次エコー除去処理において、1次エコーに含まれる地形エコーの除去性能が低下するので、目標検出性能が低下するという課題があった。
【0011】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、目標検出性能を低下させずに2次エコー抑圧処理を実現可能なレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係るレーダ装置は、空間にパルス状の波動を放射するとともに、空間に存在する物体で散乱された反射波動を受信し、受信信号に信号処理を施すことにより物体の計測を行うレーダ装置において、送信ごとに初期位相が変化するようなパルス波動を生成する位相変調波生成部と、パルス波動を送信波として空間に放射するとともに、空間から到来した反射波動を受信波として取得する空中線と、受信波を検波することにより受信信号を生成する受信部と、受信部から生成された受信信号に対して、2回以上の所定回数前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第1の2次エコー位相補正部と、第1の2次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、卓越した電力を有する第1のドップラ周波数成分を推定して、第1のドップラ周波数成分の電力を除去する第1の多次エコー除去部と、第1の多次エコー除去部で除去された電力を算出する多次エコー電力推定部と、第1の多次エコー除去部から出力された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第1の1次エコー位相補正部と、第1の1次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、不要波の存在が想定される第2のドップラ周波数成分を除去する第1の1次不要波成分除去部と、受信部から生成された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第2の1次エコー位相補正部と、第2の1次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、不要波の存在が想定される第3のドップラ周波数成分の電力を除去する第2の1次不要波成分除去部と、第2の1次不要波成分除去部で除去した電力を算出する1次不要波電力推定部と、第2の1次不要波成分除去部で不要波除去された受信信号に対して、2回以上の所定回数前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第2の多次エコー位相補正部と、第2の多次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、卓越した電力を有する第4のドップラ周波数成分を推定し、第4のドップラ周波数成分を除去する第2の多次エコー除去部と、第2の多次エコー除去部から出力された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第3の1次エコー位相補正部と、1次不要波電力推定部で推定された1次不要波電力および多次エコー電力推定部で推定された多次エコー電力に基づき、第3の1次エコー位相補正部で位相補正された受信信号または第1の1次不要波成分除去部で不要波除去された受信信号のいずれか一方を選択して出力する受信信号切替部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、目標検出性能を低下させずに、2次エコー抑圧処理を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1内の2次エコー除去部の内部構成を示すブロック図である。
【図3】図1内の地形エコー除去部の内部構成を示すブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1の構成を示すブロック図である。
図1において、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置は、空間にパルス状の波動を放射するとともに、空間に存在する物体で散乱された反射波動を受信し、受信信号に信号処理を施すことにより物体の計測を行うために、基準信号発生部1と、位相変調部2と、パルス変調部3と、送受切替部4と、空中線5と、受信部6とを備えている。
【0016】
基準信号発生部1は、送信波の元となる基準信号を発生し、位相変調部2は、基準信号発生部1で得られた基準信号に位相変調を施し、パルス変調部3は、位相変調後の送信信号をパルス化する。
送受切替部4は、パルス変調部3でパルス化された送信波を空中線へと出力するとともに、空中線から受信波を取り込む。
【0017】
基準信号発生部1、位相変調部2およびパルス変調部3は、送信ごとに初期位相が変化するようなパルス波動を生成する位相変調波生成部を構成している。
空中線5は、パルス波動を送信波として空間に放射するとともに、空間中に存在する物体で反射されて到来した電波(反射波動)を受信波として取得する。
受信部6は、空中線5で受信して送受切替部4を経由した受信波を取り込み、受信波を検波することにより受信信号を生成する。
【0018】
また、図1のレーダ装置は、第1の2次エコー位相補正部7と、第1の2次エコー除去部8(第1の多次エコー除去部)と、2次エコー電力推定部16(多次エコー電力推定部)と、第1の1次エコー位相補正部9と、第1の地形エコー除去部10(第1の1次不要波成分除去部)とを備えている。
【0019】
第1の2次エコー位相補正部7は、受信部6から生成された受信信号に対して、2回以上の所定回数前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すように、2次エコーに合わせて位相補正を行うことにより、2次エコー領域受信信号を生成する。
第1の2次エコー除去部8は、第1の2次エコー位相補正部7で位相補正された2次エコー受信信号から、2次エコー成分(卓越した電力を有する第1のドップラ周波数成分)を推定により検出して、これを除去するとともに、検出した2次エコー成分の中心ドップラ周波数を算出する。
【0020】
2次エコー電力推定部16は、第1の2次エコー除去部8の前後での受信信号電力の差異から、2次エコー強度(第1の2次エコー除去部8で除去された電力)を推定により算出する。
【0021】
第1の1次エコー位相補正部9は、第1の2次エコー除去部8から出力された2次エコー除去後の2次エコー領域受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すように、1次エコーに合わせて位相補正を行うことにより、1次エコー領域受信信号を得る。
第1の地形エコー除去部10は、第1の1次エコー位相補正部9で位相補正された受信信号から、地形エコーと見なせる周波数範囲の低周波成分(不要波の存在が想定される第2のドップラ周波数成分)を除去する。
【0022】
さらに、図1のレーダ装置は、第2の1次エコー位相補正部11と、第2の地形エコー除去部12(第2の1次不要波成分除去部)と、1次地形エコー電力推定部17(1次不要波電力推定部)と、第2の2次エコー位相補正部13(第2の多次エコー位相補正部)と、第2の2次エコー除去部14(第2の多次エコー除去部)と、第3の1次エコー位相補正部15と、受信信号切替部19と、目標検出部20とを備えている。
【0023】
第2の1次エコー位相補正部11は、受信部6から生成された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すように、1次エコーに合わせて位相補正を行うことにより、1次エコー領域受信信号を得る。
第2の地形エコー除去部12は、第2の1次エコー位相補正部11で位相補正された受信信号に対して、地形エコー(不要波の存在が想定される第3のドップラ周波数成分の電力)の除去処理を行う。
【0024】
1次地形エコー電力推定部17は、第2の地形エコー除去部12の前後での受信信号電力の差異から、地形エコー強度(第2の1次不要波成分除去部で除去した電力)を推定により算出する。
【0025】
第2の2次エコー位相補正部13は、第2の地形エコー除去部12で不要波除去された1次エコー領域の受信信号に対して、2回以上の所定回数前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すように、2次エコーに合わせた位相補正を行うことにより、2次エコー領域受信信号を得る。
【0026】
第2の2次エコー除去部14は、第2の2次エコー位相補正部13で位相補正された受信信号から、2次エコー(卓越した電力を有する第4のドップラ周波数成分)を推定し、2次エコーの除去処理を行う。
第3の1次エコー位相補正部15は、第2の2次エコー除去部14から出力された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すように、1次エコーに合わせて位相補正を行うことにより、1次エコー領域受信信号を得る。
【0027】
受信信号切替部19は、処理選択判定部として機能する強度比較部18を有し、1次地形エコー電力推定部17(1次不要波電力推定部)で推定された1次不要波電力、または2次エコー電力推定部16(多次エコー電力推定部)で推定された2次エコー電力に基づき、第3の1次エコー位相補正部15で位相補正された受信信号、または第1の地形エコー除去部10(第1の1次不要波成分除去部)で不要波除去された受信信号のいずれか一方を選択して出力する。
【0028】
強度比較部18は、2次エコー電力推定部16で推定された2次エコー強度と、1次地形エコー電力推定部17で推定された地形エコー強度とを比較し、両者の大小関係を示す情報を出力する。
受信信号切替部19は、強度比較部18からの出力情報に基づいて、第1の地形エコー除去部10または第3の1次エコー位相補正部15のいずれか一方からの受信信号を選択して出力する。
目標検出部20は、受信信号切替部19から出力された受信信号に基づき、空間中に存在する物体に対応した目標信号を検出する。
【0029】
なお、ここでは、1次エコー領域の不要波が「地形エコー」である場合を示しているので、第1および第2の地形エコー除去部10、12は、第1および第2の1次不要波成分除去部となり、1次地形エコー電力推定部17は、1次不要波電力推定部となっている。
また、多次エコーとして「2次エコー」を例にとっているので、第1および第2の2次エコー除去部8、14は、第1および第2の多次エコー除去部となり、第1および第2の2次エコー位相補正部7、13は、第1および第2の多次エコー位相補正部となり、2次エコー電力推定部16は、多次エコー電力推定部となっている。
【0030】
次に、図1に示したこの発明の実施の形態1による具体的な動作について説明する。
まず、基準信号発生部1は、送信信号の元となる基準信号を発生し、位相変調部2は、基準信号に対して位相変調を施す。このとき、位相変調においては、擬似ランダム符号が用いられるが、擬似ランダム符号は公知の符号選択部で選択される。
【0031】
パルス変調部3は、位相変調部2で位相変調された信号に対して、パルス変調を施すとともに、増幅処理も行う。ここでは、パルス変調後および増幅後の送信信号を「送信波」と呼ぶことにする。
なお、位相変調部2における位相変調は、パルス変調部3から出力されるパルス波動ごとに、初期位相が変化するように行われる。
【0032】
基準信号発生部1から発生される基準信号は、パルス変調部3から複数のパルス波動が出力される時間にわたって、安定した周波数の信号となっている。
これにより、複数のパルス波動が送信される時間区間で得られる受信信号に対して、位相を考慮した信号処理、すなわちコヒーレントな信号処理を施すことが可能となる。
【0033】
また、送信波のパルス幅は、レーダ装置に要求される距離分解能に応じて設定され、たとえば、1マイクロ秒のパルス幅とした場合には、150mの距離分解能が得られることになる。
【0034】
一方、送信パルスが生成される時間間隔は、距離の曖昧さを決めるパラメータとなり、たとえば、パルス繰り返し周波数が1kHzの送信パルスを空中線5から放射する場合、150kmの距離区間で曖昧さなく距離計測を行うことが可能になる。
【0035】
すなわち、150kmを超える距離に反射物体が存在し、物体からの反射波が受信される場合に、距離に曖昧さが生じる。たとえば、200kmの距離に反射物体が存在する場合、物体からの受信波の遅延時間から計測される距離は、50km、200km、350km、・・・の可能性がある。したがって、このような曖昧さを低減することを目的として、位相変調部2における位相変調が行われる。
【0036】
パルス変調部3でパルス化された送信波は、送受切替部4および空中線5を経由して、空間中に放射される。空間に放射される際には、空中線5の指向特性にしたがって、或る特定の方向(ビーム方向)のみに電力が集中した状態で送信波の放射が行われる。
このとき、送信波の放射が行われるビーム方向を時間とともに変化させることにより、観測方向を変化させることができる。
【0037】
たとえば、空中線5として開口面アンテナを用いる場合には、空中線5を機械的に回転させることにより、ビーム走査を行うことができる。
また、空中線5としてフェーズドアレーアンテナを用いる場合には、空中線5を構成する素子の位相を制御することにより、電子的なビーム走査が行われる。
【0038】
空間に放射された電波(波動)は、ビーム方向に存在する物体により反射され、反射波の一部電力は、レーダ装置の存在する方向へと戻ってくる。
空中線5は、レーダ装置まで到達した反射波を受信波として取り込み、送受切替部4を経由して受信部6に入力する。
【0039】
受信部6は、受信波に検波処理を施すことにより受信信号を生成する。
図1のレーダ装置では、受信信号の位相情報を抽出する必要があることから、受信部6において位相検波処理が行われる。この位相検波処理では、送受切替部4を経由して入力される受信波と、基準信号発生部1から発生された基準信号の一部とを混合することにより、受信波を低周波へと周波数変換した受信信号を生成する。
【0040】
この際、受信部6は、受信部6に入力された基準信号を2つに分割し、一方はそのまま受信波と混合し、他方は位相を90度回転させた後で受信波と混合する。こうして生成された2つの受信信号の一方を実部、他方を虚部と見なすことにより、複素数で表される受信信号が得られることになる。
【0041】
受信信号の位相は、反射物体のドップラ周波数と、位相変調部2による位相変調とによって決まるような、パルスごとの位相変化を有する。
第1の2次エコー位相補正部7は、2次エコーの受信を想定して、位相変調部2で行われた位相変調にともなう位相変化を元に戻すような位相補正処理を行う。
【0042】
いま、i番目のパルス送信の後であって、かつi+1番目のパルス送信が行われる前の一定時刻後に受信された受信信号をsとする。また、位相変調部2におけるi番目の送信パルスの位相変調量をφとする。
このとき、受信信号sに対して、2回前のパルス送信(最も直前のパルス送信を1回前と定義する)における位相変調量φi−1を用いて位相補正を行うことにより、以下の式(1)で表される信号s2nd,iを得る。
【0043】
【数1】

【0044】
式(1)で得られる信号s2nd,iを「2次エコー領域受信信号」と呼ぶことにする。2次エコー領域受信信号s2nd,iは、第1の2次エコー除去部8に入力される。
第1の2次エコー除去部8は、ドップラ周波数解析により2次エコーを検出し、これを除去する処理を行う。
【0045】
ここで、図2を参照しながら、第1の2次エコー除去部8について、さらに具体的に説明する。図2は第1の2次エコー除去部8の内部構成を示すブロック図である。
図2において、第1の2次エコー除去部8は、フーリエ変換部101と、ピーク検出部102と、ピーク除去部103と、逆フーリエ変換部104とを備えている。
【0046】
第1の2次エコー除去部8において、まず、フーリエ変換部101は、2次エコー領域受信信号(第1の2次エコー位相補正部7で位相補正された受信信号)にフーリエ変換を施す。
このとき、2次エコーが存在する場合には、2次エコー源となる反射物体の相対速度に対応したドップラ周波数において振幅が卓越する。
【0047】
続いて、ピーク検出部102は、上記のような振幅の卓越した電力を有するドップラ周波数成分を、ピークとして検出してピーク除去部103に入力する。
ピーク除去部103は、フーリエ変換部101から入力されるフーリエ変換後の2次エコー領域受信信号から、ピーク検出部102でピーク検出されたドップラ周波数を含む近傍の周波数領域の信号を除去する処理を行い、ピーク検出された周波数領域の振幅を0にする。
【0048】
こうして2次エコーが除去されたフーリエ変換後の受信信号は、逆フーリエ変換104に入力され、逆フーリエ変換104において逆フーリエ変換が施される。
これにより、第1の2次エコー位相補正部7からの2次エコー領域受信信号は、時間領域の受信信号に復帰されて、第1の1次エコー位相補正部9および2次エコー電力推定部16に入力される。
【0049】
第1の2次エコー除去部8から第1の1次エコー位相補正部9に入力された2次エコー除去後の時間領域受信信号s’2nd,iは、第1の1次エコー位相補正部9において、以下のような処理が施される。
まず、以下の式(2)のように、2次エコー位相補正部7での2次エコーに合わせた位相補正を元に戻す処理が行われる。
【0050】
【数2】

【0051】
式(2)の処理により、位相変調部2で付加された位相変化が再現される。
次に、1次エコーに合わせた位相補正処理が行われる。すなわち、以下の式(3)の処理により、受信信号s1st,iを得る。
【0052】
【数3】

【0053】
式(3)の処理により、1次エコーについては、反射物体の運動に起因する位相変化のみが受信信号に残ることになる。この受信信号s1st,iを「1次エコー領域受信信号」と呼ぶことにする。
【0054】
続いて、第1の地形エコー除去部10は、周波数が0近傍のドップラ周波数成分を除去することにより、地形エコー成分を取り除く。
ここで、図3を参照しながら、第1の地形エコー除去部10について、さらに具体的に説明する。図3は第1の地形エコー除去部10の内部構成を示すブロック図である。
図3において、第1の地形エコー除去部10は、フーリエ変換部201と、低周波除去部202と、逆フーリエ変換部203とを備えている。
【0055】
ここでは、周波数領域で地形エコーを除去する例を示している。
第1の地形エコー除去部10において、第1の1次エコー位相補正部9から入力された1次エコー領域の受信信号は、まず、フーリエ変換部201で周波数領域の信号に変換される。
【0056】
続いて、低周波除去部202は、地形エコーが存在するドップラ周波数成分として、周波数0の近傍の成分を除去する。
この理由は、レーダ装置が地上に固定されている場合に、地形エコー成分は、周波数0の近傍に存在するからである。
【0057】
最後に、逆フーリエ変換部203で逆フーリエ変換を行うことにより、時間領域の受信信号に復帰させ、受信信号切替部19内の強度比較部18に入力する。
なお、図3においては、周波数領域での地形エコー除去処理の例を示したが、時間領域で低周波成分を除去する処理を実行してもよい。
【0058】
以上のように、第1の2次エコー位相補正部7〜第1の地形エコー除去部10の機能ブロックを用いた処理においては、まず、2次エコーを除去した後に、1次地形エコーを除去する。
【0059】
一方、上記処理と並行して、第2の1次エコー位相補正部11〜第3の1次エコー位相補正部15の機能ブロックを用いた処理においては、まず、1次地形エコーを除去した後に、2次エコーを除去する。
以下、第2の1次エコー位相補正部11〜第3の1次エコー位相補正部15による処理内容について説明する。
【0060】
まず、第2の1次エコー位相補正部11は、受信部6から生成された受信信号に対して、1次エコーに合わせた位相補正を行う。
具体的には、受信信号sに対して、位相変調量φを用いて位相補正を行い、1次エコー領域受信信号s1st,jを得る。すなわち、以下の式(4)の処理を行う。
【0061】
【数4】

【0062】
続いて、第2の地形エコー除去部12は、1次エコー領域受信信号s1st,jに対して、地形エコー除去処理を行う。この動作は、入力信号が異なる点を除けば、前述の第1の地形エコー除去部10の動作と同じである。
次に、第2の2次エコー位相補正部13は、第2の地形エコー除去部12からの入力信号s'1st,jに対して、2次エコーに合わせた位相補正を行い、以下の式(5)のように、位相補正後の受信信号s"2nd,jを生成する。
【0063】
【数5】

【0064】
また、第2の2次エコー除去部14は、式(5)で得られた受信信号s"2nd,jに対して、2次エコー除去処理を行う。この動作は、入力信号が異なる点を除けば、前述の第1の2次エコー除去部8の動作と同じである。
【0065】
さらに、第3の1次エコー位相補正部15は、第2の2次エコー除去部14の出力信号に対して、1次エコーに合わせた再度の位相補正を行う。
第3の1次エコー位相補正部15による再度の位相補正後の受信信号s"1st,jは、第2の2次エコー除去部14の出力信号s'"2nd,jを用いて、以下の式(6)のように表される。
【0066】
【数6】

【0067】
以上のように、2次エコーの除去および1次地形エコーの除去の順に不要波を除去した受信信号(第1の地形エコー除去部10の出力信号)と、1次地形エコーの除去および2次エコーの除去の順に不要波を除去した受信信号(第3の1次エコー位相補正部15の出力信号)と、の2つの処理結果が得られる。
【0068】
上記2つの処理結果のいずれを採用するかは、2次エコー電力推定部16で算出された2次エコー電力と、1次地形エコー電力推定部17で算出された1次地形エコー電力との大小関係によって決定される。
このため、2次エコー電力推定部16は2次エコーの電力を推定し、1次地形エコー電力推定部17は1次地形エコーの電力を推定する。
【0069】
具体的には、第1の2次エコー除去部8で除去された2次エコー電力、すなわち入力電力と出力電力との差分から2次エコー電力を推定する。
また、1次地形エコー電力推定部17は、第2の地形エコー除去部12の入力電力と出力電力との差分から1次地形エコーの電力を推定する。
【0070】
受信信号切替部19内において、強度比較部18は、推定された2次エコー電力と1次地形エコー電力との大小関係を比較する。
受信信号切替部19は、強度比較部18の比較結果にしたがって、1次地形エコー電力の方が大きい場合には、1次地形エコー除去処理の特性劣化がない処理結果を選択し、2次地形エコー電力の方が大きい場合には、2次エコー除去処理の特性劣化がない処理結果を選択する。
【0071】
すなわち、受信信号切替部19は、1次地形エコー電力が2次エコー電力よりも大きければ、第3の1次エコー位相補正部15で得られた受信信号を選択して出力する。
これにより、2次エコー除去処理の影響を受けることなく、1次地形エコー除去処理を行うことが可能になり、1次地形エコー除去の性能劣化を防ぐことができる。
【0072】
一方、受信信号切替部19は、2次エコー電力が1次地形エコー電力よりも大きければ、第1の地形エコー除去部10で得られた受信信号を選択して出力する。
これにより、1次地形エコー除去処理の影響を受けることなく、2次エコー除去処理を行うことが可能になり、2次エコー除去の性能の劣化を防ぐことができる。
【0073】
なお、ここでは、2次エコー電力と1次地形エコー電力との比較結果に応じて受信信号を選択したが、これに限らず、たとえば1次地形エコー電力のみに注目して、推定された1次地形エコー電力があらかじめ設定した閾値よりも高い場合には、第3の1次エコー位相補正部15の出力信号を選択し、閾値以下の場合には第1の地形エコー除去部10の出力信号を選択するようにしてもよい。
【0074】
上記のように、1次地形エコー電力のみに注目して受信信号を選択する手法は、近距離に存在する1次地形エコーの電力が特に高くなることが多い、と想定される場合に有効である。この場合、2次エコー電力推定部16を省略することができる。
【0075】
また、第3の1次エコー位相補正部15は、目標検出部20への入力信号を、1次エコーに合わせた位相補正を施した受信信号とするために挿入されているが、その目的は、目標検出部20において、1次エコーに対するドップラ周波数解析が行われることを前提条件としている。
【0076】
したがって、たとえば、目標検出部20において、ドップラ周波数解析が行われず、電力算出のみが行われる場合には、第3の1次エコー位相補正部15は不要となり、これを省略することができる。
この場合、第3の1次エコー位相補正部15の出力信号に代えて、第2の2次エコー除去部14の出力信号を、受信信号切替部19への入力信号として利用すればよい。
【0077】
また、強度比較部18による比較処理は、第1の2次エコー位相補正部7から第1の2次エコー除去部8までの処理、および第2の1次エコー位相補正部11から第2の地形エコー除去部12までの処理が完了していれば、実行可能である。
したがって、第1の1次エコー位相補正部9から第1の地形エコー除去部10までの処理、および第2の2次エコー位相補正部13から第3の1次エコー位相補正部15までの処理は、同時に並列的に実行する必要はなく、強度比較部18の比較結果により処理実行の必要性の有無が確定した時点で、いずれか一方の必要な処理のみを実行するようにしてもよい。
【0078】
また、以上の説明では、多次エコーとして「2次エコー」を想定した処理の例を説明したが、2次エコーに限定されることはなく、3次以上の任意の多次(k次)エコーを除去するようにしてもよい。
この場合、k次エコーへの位相補正を行うために、前述の位相変調量φi−1に代えて、位相変調量φi−1+kを用いるようにすればよい。
【0079】
また、1次エコー領域の不要波として「地形エコー」を想定した例を示したが、不要波が「気象エコー」である場合を想定してもよい。
この場合、気象エコー(気象クラッタ)のドップラ周波数を推定する手段が必要となるが、格別に新規な手段は必要ではなく、従来の気象クラッタ抑圧と同様の手法を用いればよい。
【0080】
最後に、目標検出部20においては、受信信号切替部19から出力された受信信号に基づき目標信号を検出するが、目標検出部20への入力信号は、1次地形エコーおよび2次エコーが除去されており、かつ元の受信信号に含まれる不要波の状況に応じて、不要波の消え残りが少なくなる不要波除去処理が選択されているので、誤検出の少ない正確な検出が可能になる。
【0081】
以上のように、この発明の実施の形態1(図1〜図3)に係るレーダ装置は、空間にパルス状の波動を放射するとともに、空間に存在する物体で散乱された反射波動を受信し、受信信号に信号処理を施すことにより物体の計測を行うために、送信ごとに初期位相が変化するようなパルス波動を生成する位相変調波生成部(基準信号発生部1〜パルス変調部3)と、パルス波動を送信波として空間に放射するとともに、空間から到来した反射波動を受信波として取得する空中線5と、受信波を検波することにより受信信号を生成する受信部6とを備えている。
【0082】
また、受信部6から生成された受信信号に対して、2回以上の所定回数前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第1の2次エコー位相補正部7と、第1の2次エコー位相補正部7で位相補正された受信信号から、卓越した電力を有する第1のドップラ周波数成分を推定して、第1のドップラ周波数成分の電力を除去する第1の多次エコー除去部(第1の2次エコー除去部8)と、第1の多次エコー除去部で除去された電力を算出する多次エコー電力推定部(2次エコー電力推定部16)と、第1の多次エコー除去部から出力された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第1の1次エコー位相補正部9と、第1の1次エコー位相補正部9で位相補正された受信信号から、不要波の存在が想定される第2のドップラ周波数成分を除去する第1の1次不要波成分除去部(第1の地形エコー除去部10)とを備えている。
【0083】
また、受信部6から生成された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第2の1次エコー位相補正部11と、第2の1次エコー位相補正部11で位相補正された受信信号から、不要波の存在が想定される第3のドップラ周波数成分の電力を除去する第2の1次不要波成分除去部(第2の地形エコー除去部12)と、第2の1次不要波成分除去部で除去した電力を算出する1次不要波電力推定部(1次地形エコー電力推定部17)と、第2の1次不要波成分除去部で不要波除去された受信信号に対して、2回以上の所定回数前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第2の多次エコー位相補正部(第2の2次エコー位相補正部13)と、第2の多次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、卓越した電力を有する第4のドップラ周波数成分を推定し、第4のドップラ周波数成分を除去する第2の多次エコー除去部(第2の2次エコー除去部14)と、第2の多次エコー除去部から出力された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第3の1次エコー位相補正部15とを備えている。
【0084】
さらに、1次不要波電力推定部で推定された1次不要波電力および多次エコー電力推定部で推定された多次エコー電力に基づき、第3の1次エコー位相補正部15で位相補正された受信信号または第1の1次不要波成分除去部(第1の地形エコー除去部10)で不要波除去された受信信号のいずれか一方を選択して出力する受信信号切替部19とを備えている。
これにより、目標検出性能を低下させずに、2次エコー抑圧処理を実現することができる。
【0085】
受信信号切替部19は、1次不要波電力が多次エコー電力よりも大きい場合には、第3の1次エコー位相補正部15で位相補正された受信信号を選択し、多次エコー電力が1次不要波電力よりも大きい場合には、第1の1次不要波成分除去部(第1の地形エコー除去部10)で不要波除去された受信信号を選択する。
【0086】
また、1次地形エコー電力のみに注目すれば、多次エコー電力推定部(2次エコー電力推定部16)は省略することが可能であり、この場合、受信信号切替部19は、1次不要波電力があらかじめ設定した閾値よりも高い場合には、第3の1次エコー位相補正部15で位相補正された受信信号を選択し、1次不要波電力が閾値以下の場合には、第1の1次不要波成分除去部(第1の地形エコー除去部10)で不要波除去された受信信号を選択する。
【0087】
また、第3の1次エコー位相補正部15は、目標検出部20の処理内容に応じて省略することが可能であり、この場合、受信信号切替部19は、1次不要波電力が多次エコー電力よりも大きい場合には、第2の多次エコー除去部(第2の2次エコー除去部14)から出力された受信信号を選択し、多次エコー電力が1次不要波電力よりも大きい場合には、第1の1次不要波成分除去部(第1の地形エコー除去部10)で不要波除去された受信信号を選択する。
【0088】
さらに、第3の1次エコー位相補正部15および多次エコー電力推定部(2次エコー電力推定部16)の両方を省略した場合、受信信号切替部19は、1次不要波電力があらかじめ設定した閾値よりも高い場合には、第2の多次エコー除去部(第2の2次エコー除去部14)から出力された受信信号を選択し、1次不要波電力が閾値以下の場合には、第1の1次不要波成分除去部(第1の地形エコー除去部10)で不要波除去された受信信号を選択することになる。
【0089】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1(図1〜図3)では、不要波である2次エコーおよび1次地形エコーの電力の大小に応じて、不要波除去性能の劣化が少ない処理を選択するように構成したが、実際には、2次エコーの電力よりも1次地形エコーの電力の方が大きい場合が多いと考えられるので、図4のように、図1内の第1の2次エコー位相補正部7〜第1の地形エコー除去部10、および2次エコー電力推定部16〜受信信号切替部19を省略することができる。
【0090】
図4はこの発明の実施の形態2に係るレーダ装置の構成を示すブロック図であり、前述(図1参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して、または符号の後に「A」を付して詳述を省略する。
この発明の実施の形態2においては、1次地形エコー電力の除去性能を優先するように、処理が固定されている。
【0091】
図4において、受信部6には、前述(図1)の第2の1次エコー位相補正部11〜第3の1次エコー位相補正部15に対応する構成として、第1の1次エコー位相補正部11Aと、地形エコー除去部12Aと、2次エコー位相補正部13Aと、2次エコー除去部14Aと、第2の1次エコー位相補正部15Aとが接続されている。
この場合、第2の1次エコー位相補正部15Aの出力信号は、目標検出部20に直接入力されている。
【0092】
ここで、2次エコーの電力よりも1次地形エコーの電力の方が大きいことの頻度が高い理由について説明する。
一般に、地形エコーは、ビルなどの人工構造物や山地などの電波の反射率の高い対象物で発生し、かつ1次エコー領域で発生した反射波であり、比較的近距離からの反射波であることから、電波の減衰が少ない。
【0093】
一方、2次エコーは、遠距離からの反射波であり、距離減衰が大きいうえ、反射源が降雨などであることから、電力が小さくなる。また、遠距離からは、地球の曲率などの影響によって、人工構造物や山地などの地表面近傍からの反射波が含まれることがあまりないので、大きい電力になることはない。
【0094】
次に、図4に示したこの発明の実施の形態2による具体的な動作について説明する。
まず、送信波を空間に放射し、受信した反射波から受信部6にて受信信号を得る処理までは、前述と同様である。
その後、前述(図1)では2通りの不要波除去の信号処理を実行したが、図4においては、第1の1次エコー位相補正部11A〜第2の1次エコー位相補正部15Aからなる1通りの不要波除去処理のみを実行する。
【0095】
図4の処理機能構成は、2次エコーの電力よりも1次地形エコーの電力の方が大きい場合が多いことを想定して、1次地形エコーの除去(性能劣化が低い不要波除去)を固定的に実行することを意味する。
第1の1次エコー位相補正部11A〜第2の1次エコー位相補正部15Aの動作は、前述(図1)の第2の1次エコー位相補正部11〜第3の1次エコー位相補正部15の動作と同様である。
【0096】
また、前述と同様に、第2の1次エコー位相補正部15Aは、目標検出部20がドップラ周波数解析を行わない場合には、不要となるので省略することができる。
この場合、第2の1次エコー位相補正部15Aの出力信号に代えて、2次エコー除去部14Aの出力信号を目標検出部20に直接入力すればよい。
【0097】
ここで、この発明の実施の形態2(図4)の構成と、前述の非特許文献1に記載の従来の信号処理構成とを比較すると、従来の信号処理構成においては、2次エコーへの位相補正を施して2次エコー除去し、続いて、1次エコーへの位相補正を施して1次地形エコーを除去し、1次エコー領域の目標検出を行うので、位相補正回数は、2次エコーへの位相補正と1次エコーへの位相補正との2回となる。
【0098】
一方、この発明の実施の形態2(図4)による信号処理においては、1次エコーへの位相補正および2次エコーへの位相補正に加えて、さらに再度の1次エコーへの位相補正を施しており、3回の位相補正が必要となる。
よって、この発明の実施の形態2(図4)によれば、従来の処理よりも位相補正の回数が多い分だけ演算処理量が多くなるが、大きな電力である1次地形エコーの消え残りが従来処理の場合よりも低減するという効果を得ることができる。
【0099】
また、前述の実施の形態1(図1)と比較した場合には、前述(図1)よりも信号処理の演算量が低下するので、信号処理のハードウェアコストを低減することができるうえ、多くの場合に従来手法よりも不要波の消え残りが少なく、良好な目標検出性能を得ることが可能となる。
【0100】
以上のように、この発明の実施の形態2(図4)に係るレーダ装置は、受信部6から生成された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第1の1次エコー位相補正部11Aと、第1の1次エコー位相補正部11Aで位相補正された受信信号から、不要波の存在が想定される第1のドップラ周波数成分の電力を除去する1次不要波成分除去部(地形エコー除去部12A)と、1次不要波成分除去部で不要波除去された受信信号に対して、2回以上の所定回数前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う多次エコー位相補正部(2次エコー位相補正部13A)と、多次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、卓越した電力を有する第2のドップラ周波数成分を推定し、第2のドップラ周波数成分の電力を除去する多次エコー除去部(2次エコー除去部14A)とを備えている。
【0101】
また、目標検出部20の処理内容に応じて、多次エコー除去部から出力された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第2の1次エコー位相補正部15Aを備えたている。
これにより、前述と同様の作用効果を奏するとともに、前述の実施の形態1(図1)よりも信号処理の演算量が低下するので、信号処理のハードウェアコストを低減することができる。
【符号の説明】
【0102】
1 基準信号発生部(位相変調波生成部)、2 位相変調部(位相変調波生成部)、3 パルス変調部(位相変調波生成部)、4 送受切替部、5 空中線、6 受信部、7 第1の2次エコー位相補正部(第1の多次エコー除去部)、8 第1の2次エコー除去部、9 第1の1次エコー位相補正部、10 第1の地形エコー除去部(第1の1次不要波成分除去部)、11 第2の1次エコー位相補正部、11A 1次エコー位相補正部、12 第2の地形エコー除去部(第2の1次不要波成分除去部)、12A 地形エコー除去部(1次不要波成分除去部)、13 第2の2次エコー位相補正部(第2の多次エコー位相補正部)、13A 2次エコー位相補正部(多次エコー位相補正部)、14 第2の2次エコー除去部(第2の多次エコー除去部)、14A 2次エコー除去部(多次エコー除去部)、15 第3の1次エコー位相補正部、15A 第2の1次エコー位相補正部、16 2次エコー電力推定部(多次エコー電力推定部)、17 1次地形エコー電力推定部(1次不要波電力推定部)、18 強度比較部、19 受信信号切替部、20 目標検出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間にパルス状の波動を放射するとともに、前記空間に存在する物体で散乱された反射波動を受信し、受信信号に信号処理を施すことにより前記物体の計測を行うレーダ装置において、
送信ごとに初期位相が変化するようなパルス波動を生成する位相変調波生成部と、
前記パルス波動を送信波として前記空間に放射するとともに、前記空間から到来した反射波動を受信波として取得する空中線と、
前記受信波を検波することにより受信信号を生成する受信部と、
前記受信部から生成された受信信号に対して、2回以上の所定回数前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第1の2次エコー位相補正部と、
前記第1の2次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、卓越した電力を有する第1のドップラ周波数成分を推定して、前記第1のドップラ周波数成分の電力を除去する第1の多次エコー除去部と、
前記第1の多次エコー除去部で除去された電力を算出する多次エコー電力推定部と、
前記第1の多次エコー除去部から出力された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第1の1次エコー位相補正部と、
前記第1の1次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、不要波の存在が想定される第2のドップラ周波数成分を除去する第1の1次不要波成分除去部と、
前記受信部から生成された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第2の1次エコー位相補正部と、
前記第2の1次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、不要波の存在が想定される第3のドップラ周波数成分の電力を除去する第2の1次不要波成分除去部と、
前記第2の1次不要波成分除去部で除去した電力を算出する1次不要波電力推定部と、
前記第2の1次不要波成分除去部で不要波除去された受信信号に対して、2回以上の所定回数前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第2の多次エコー位相補正部と、
前記第2の多次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、卓越した電力を有する第4のドップラ周波数成分を推定し、前記第4のドップラ周波数成分を除去する第2の多次エコー除去部と、
前記第2の多次エコー除去部から出力された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第3の1次エコー位相補正部と、
前記1次不要波電力推定部で推定された1次不要波電力および前記多次エコー電力推定部で推定された多次エコー電力に基づき、前記第3の1次エコー位相補正部で位相補正された受信信号または前記第1の1次不要波成分除去部で不要波除去された受信信号のいずれか一方を選択して出力する受信信号切替部と
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
空間にパルス状の波動を放射するとともに、前記空間に存在する物体で散乱された反射波動を受信し、受信信号に信号処理を施すことにより前記物体の計測を行うレーダ装置において、
送信ごとに初期位相が変化するようなパルス波動を生成する位相変調波生成部と、
前記パルス波動を送信波として前記空間に放射するとともに、前記空間から到来した反射波動を受信波として取得する空中線と、
前記受信波を検波することにより受信信号を生成する受信部と、
前記受信部から生成された受信信号に対して、2回以上の所定回数前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第1の2次エコー位相補正部と、
前記第1の2次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、卓越した電力を有する第1のドップラ周波数成分を推定して、前記第1のドップラ周波数成分の電力を除去する第1の多次エコー除去部と、
前記第1の多次エコー除去部で除去された電力を算出する多次エコー電力推定部と、
前記第1の多次エコー除去部から出力された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第1の1次エコー位相補正部と、
前記第1の1次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、不要波の存在が想定される第2のドップラ周波数成分を除去する第1の1次不要波成分除去部と、
前記受信部から生成された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第2の1次エコー位相補正部と、
前記第2の1次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、不要波の存在が想定される第3のドップラ周波数成分の電力を除去する第2の1次不要波成分除去部と、
前記第2の1次不要波成分除去部で除去した電力を算出する1次不要波電力推定部と、
前記第2の1次不要波成分除去部で不要波除去された受信信号に対して、2回以上の所定回数前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第2の多次エコー位相補正部と、
前記第2の多次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、卓越した電力を有する第4のドップラ周波数成分を推定し、前記第4のドップラ周波数成分を除去する第2の多次エコー除去部と、
前記1次不要波電力推定部で推定された1次不要波電力および前記多次エコー電力推定部で推定された多次エコー電力に基づき、前記第2の多次エコー除去部から出力された受信信号または前記第1の1次不要波成分除去部で不要波除去された受信信号のいずれか一方を選択して出力する受信信号切替部と
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
前記受信信号切替部は、
前記1次不要波電力が前記多次エコー電力よりも大きい場合には、前記第3の1次エコー位相補正部で位相補正された受信信号を選択し、
前記多次エコー電力が前記1次不要波電力よりも大きい場合には、前記第1の1次不要波成分除去部で不要波除去された受信信号を選択することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記受信信号切替部は、
前記1次不要波電力が前記多次エコー電力よりも大きい場合には、前記第2の多次エコー除去部から出力された受信信号を選択し、
前記多次エコー電力が前記1次不要波電力よりも大きい場合には、前記第1の1次不要波成分除去部で不要波除去された受信信号を選択することを特徴とする請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項5】
空間にパルス状の波動を放射するとともに、前記空間に存在する物体で散乱された反射波動を受信し、受信信号に信号処理を施すことにより前記物体の計測を行うレーダ装置において、
送信ごとに初期位相が変化するようなパルス波動を生成する位相変調波生成部と、
前記パルス波動を送信波として前記空間に放射するとともに、前記空間から到来した反射波動を受信波として取得する空中線と、
前記受信波を検波することにより受信信号を生成する受信部と、
前記受信部から生成された受信信号に対して、2回以上の所定回数前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第1の2次エコー位相補正部と、
前記第1の2次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、卓越した電力を有する第1のドップラ周波数成分を推定して、前記第1のドップラ周波数成分の電力を除去する第1の多次エコー除去部と、
前記第1の多次エコー除去部から出力された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第1の1次エコー位相補正部と、
前記第1の1次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、不要波の存在が想定される第2のドップラ周波数成分を除去する第1の1次不要波成分除去部と、
前記受信部から生成された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第2の1次エコー位相補正部と、
前記第2の1次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、不要波の存在が想定される第3のドップラ周波数成分の電力を除去する第2の1次不要波成分除去部と、
前記第2の1次不要波成分除去部で除去した電力を算出する1次不要波電力推定部と、
前記第2の1次不要波成分除去部で不要波除去された受信信号に対して、2回以上の所定回数前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第2の多次エコー位相補正部と、
前記第2の多次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、卓越した電力を有する第4のドップラ周波数成分を推定し、前記第4のドップラ周波数成分を除去する第2の多次エコー除去部と、
前記第2の多次エコー除去部から出力された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第3の1次エコー位相補正部と、
前記1次不要波電力推定部で推定された1次不要波電力に基づき、前記第3の1次エコー位相補正部で位相補正された受信信号または前記第1の1次不要波成分除去部で不要波除去された受信信号のいずれか一方を選択して出力する受信信号切替部と
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
空間にパルス状の波動を放射するとともに、前記空間に存在する物体で散乱された反射波動を受信し、受信信号に信号処理を施すことにより前記物体の計測を行うレーダ装置において、
送信ごとに初期位相が変化するようなパルス波動を生成する位相変調波生成部と、
前記パルス波動を送信波として前記空間に放射するとともに、前記空間から到来した反射波動を受信波として取得する空中線と、
前記受信波を検波することにより受信信号を生成する受信部と、
前記受信部から生成された受信信号に対して、2回以上の所定回数前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第1の2次エコー位相補正部と、
前記第1の2次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、卓越した電力を有する第1のドップラ周波数成分を推定して、前記第1のドップラ周波数成分の電力を除去する第1の多次エコー除去部と、
前記第1の多次エコー除去部から出力された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第1の1次エコー位相補正部と、
前記第1の1次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、不要波の存在が想定される第2のドップラ周波数成分を除去する第1の1次不要波成分除去部と、
前記受信部から生成された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第2の1次エコー位相補正部と、
前記第2の1次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、不要波の存在が想定される第3のドップラ周波数成分の電力を除去する第2の1次不要波成分除去部と、
前記第2の1次不要波成分除去部で除去した電力を算出する1次不要波電力推定部と、
前記第2の1次不要波成分除去部で不要波除去された受信信号に対して、2回以上の所定回数前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第2の多次エコー位相補正部と、
前記第2の多次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、卓越した電力を有する第4のドップラ周波数成分を推定し、前記第4のドップラ周波数成分を除去する第2の多次エコー除去部と、
前記1次不要波電力推定部で推定された1次不要波電力に基づき、前記第2の多次エコー除去部から出力された受信信号または前記第1の1次不要波成分除去部で不要波除去された受信信号のいずれか一方を選択して出力する受信信号切替部と
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項7】
前記受信信号切替部は、
前記1次不要波電力があらかじめ設定した閾値よりも高い場合には、前記第3の1次エコー位相補正部で位相補正された受信信号を選択し、
前記1次不要波電力が前記閾値以下の場合には、前記第1の1次不要波成分除去部で不要波除去された受信信号を選択することを特徴とする請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記受信信号切替部は、
前記1次不要波電力があらかじめ設定した閾値よりも高い場合には、前記第2の多次エコー除去部から出力された受信信号を選択し、
前記1次不要波電力が前記閾値以下の場合には、前記第1の1次不要波成分除去部で不要波除去された受信信号を選択することを特徴とする請求項6に記載のレーダ装置。
【請求項9】
空間にパルス状の波動を放射するとともに、前記空間に存在する物体で散乱された反射波動を受信し、受信信号に信号処理を施すことにより前記物体の計測を行うレーダ装置において、
送信ごとに初期位相が変化するようなパルス波動を生成する位相変調波生成部と、
前記パルス波動を送信波として前記空間に放射するとともに、前記空間から到来した反射波動を受信波として取得する空中線と、
前記受信波を検波することにより受信信号を生成する受信部と、
前記受信部から生成された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第1の1次エコー位相補正部と、
前記第1の1次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、不要波の存在が想定される第1のドップラ周波数成分の電力を除去する1次不要波成分除去部と、
前記1次不要波成分除去部で不要波除去された受信信号に対して、2回以上の所定回数前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う多次エコー位相補正部と、
前記多次エコー位相補正部で位相補正された受信信号から、卓越した電力を有する第2のドップラ周波数成分を推定し、前記第2のドップラ周波数成分の電力を除去する多次エコー除去部と、
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項10】
前記多次エコー除去部から出力された受信信号に対して、最も直前に送信したパルス波動の初期位相を打ち消すような位相補正を行う第2の1次エコー位相補正部を備えたことを特徴とする請求項9に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−83235(P2012−83235A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230176(P2010−230176)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】